THE RED THIRTEEN 変態冒険者“ビリー”が、星屑の欠片亭に降り立つ数ヶ月前。 レーゼルドーン大陸、エイギア地方、某所。赤の13傭兵団が防衛 していたのは、大きな城門を持つ、最前線の谷底の砦だった。月の 隠れる晩、ここに数千の蛮族が押し寄せてきていた。 ゴォオォォオオ・・・・ 「――開けて!ここを開けてーーっ!!」ドンドン!ドンドン! 「い、いいか、絶対開けるなよ?!  リリーはどうせ、もう助からない!  運が悪かったんだ! だってしょうがないじゃないか!  あ、あんなのが来たら――増援が来るまで保たせないと、  俺たちだってひとたまりもないぞ!」 「開けて!開けてよっ・・・・どうして・・・あ、ああああやめて!  ぎゃーああああああああ」 「ビル、俺が出たらすぐ閉めろ!はっは、あとは任せた!」ガシャ 「!!馬鹿っやめろおおあけるなあああああ」        ガシャ・・・ン・・・ッ ズドドドドッドドドドッドドオドドドドドドドドドドドドドドオー ズガバキドシャンッッグワラララアアズズドドドドドーーー・・・ 「なんで、なんで早く開けてくれなかったのっ・・・  見殺しに!見捨てる気だったんだあたしを!  ちきしょお殺してやる・・・」グサッ グサッ  「ははは、いたいリリーそれいたいから。 ほれ、しっかり  捕まってろよ・・・うーんぬるぬる滑るな・・・ここから尾根へ  抜ければきっと助かる・・・はず」 「助けて・・・見捨てないであたしを・・・見捨テナイデ・・・  痛い、いたいよお・・・こんな目に合わせやがって、ころして  やるうううう」ザシュッ「助けて・・・たす、助ケテ・・・」 「うんうん、助かろうな」ずるずる 迂回した後方第3線。ダーレスブルグ正規軍、救護棟。 「――へえ、それであんた、ここまで逃げてきたのかい?  よくもまあ生きて来れたもんだね」 「いや、この娘を置いたらすぐに戻る。手当してやってくれ」 「え・・・何を言ってるんだい。その背中の娘――  もうとっくに死んでるじゃないか。ここなんかちぎれそうに」  ・・・・ぼと・・・っ 死体を担いだままの男が戻ると、既に戦線は移動しており、門には 壊滅した傭兵団の絡まった死体の山があった。敵は面白半分に魔法を かけて行ったらしい。手足を裂かれ、クチャクチャになった体に乗っ た捻じ曲がった首が、燐光を放ち、見えない穴の目で呪いの言葉を吐 いていた。 「ごめんビル」 「げぼ・・・ぶぁ、だぁがら言ったのに・・・この、蛮族の犬め・・  ひ、ひひ、逃げた仲間にも散々言いふらしておいたからな!  全部お前のせいだって・・・ひゃ、ひゃははははあh」 「ごめんビル」 「・・・くそ、呪われろナッシュ!――貴様は永遠に裏切り者だ・・  お前が門を開けなければ俺はまだ生きていたかも知れないのに  お前が開けなければオマエが門を開けなけれ・・・ヴぁ」・・・ ・・・ボキュッ・・・ぶしゃ 「う、わ、うわあぁあぁぁぁぁあぁぁああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああ あ!!!!!!」 破裂した後も、首は暫くゴボゴボとしゃべり続けた。その傍らで、狂 い死にしたかのように動かなかった男は1昼夜の後、目玉をついばみ に来た禿鷹の首を突如噛み千切り、そのまま喰ってしまった。獣の如 き咆哮を上げて立ち上がり、血だらけの姿で歩き始める。 ぶっちゃけ、いい加減腹が減ったのと、小便がしたかったからだった。 そして、2度と谷に戻ることはなかった。  それから俺は、ビリーと名乗っている。  あの門のことはタマに夢に出てくるけど、もう大分慣れた。  本当に怖い時、痛い時に普通にしてられるのは、お話の中だけなので、  リアルに泣き叫んでいたビルやリリーの事が俺は今でも好きだ。    果たしてアレさえなければ、増援まで保ったのか? 分からないが、  ビルは全部俺のせいだと言っていた。    まあ、しごくごもっともだと思う。    俺には、百人余りの仲間の死に、かなりの責任があるし、その奥さん  や子供を、不幸のズンドコに突き落として路頭に迷わせたんじゃない  かと思う。その挙句に、たったひとりの女の子さえ助けられなかった。  直面したくないが、結局のところ、俺はリリーという口実を見つけて、  あの場を逃げ出したかったのだ。どう格好付けても、チャッカリ生き  残ってるのがその証拠だ。    正体を見破った関係者に刺されるのが先か、ビルの呪いが届くのが先  かは分からない。けれど、まあその時はその時。やることやっちゃっ  たワケだから、なるよーにしかならないってのは気が楽なことだった。      うん、こんどはしっぱいしないようにしよう・・・ 「――ぶえっくしょい!! うー、ちょっち風が出てきたな」ずずー ルキスラの空に星が流れる。 夜明けはまだ、遠かった。                           (おわり)