ホラーゲームバトルロワイアル 第惨幕
- 1 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:16:46.13 ID:/vVn43jl0
- ここは、様々なホラーゲームのキャラクター達がそれぞれに不思議な経緯により
"ある場所"へと招き寄せられ、異常な状況下で生き残り生還することが出来るかという物語を綴る、
パロロワ派生の参加型リレー式二次創作スレッドです。
企画への参加はどなたでもOKです。
興味を持たれた方は、まずはまとめWikiからご覧下さい。
・まとめWiki
http://www23.atwiki.jp/deruze/
・したらば掲示板
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13999/
・過去スレ
ホラーゲームバトルロワイアル企画スレ(本スレ代理)
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/event/1201873545/
http://game13.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/1209650564(第一幕)
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/1285236575/ (第二幕)
- 2 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:20:14.56 ID:/vVn43jl0
- 【基本ルール】
・様々な時代、世界から様々な形で「サイレントヒル "らしき" 場所」へと招かれた「呼ばれし者」達は、
「何らかの手段」を講じなければそこから出ることは出来ない「らしい」。
この「場所」には「クリーチャー」が徘徊しており、「呼ばれし者」に襲いかかってくる。
「町にいる他の呼ばれし者達を滅ぼす」事で、解放される「らしい」という話もあるが、詳細は不明。
何故呼ばれたか、呼ばれたことに意味があるのかなどは現段階では不明。
【「呼ばれし者」と「クリーチャー」】
・新しい参加者(呼ばれし者)、クリーチャーを登場させる際には、出典と詳細情報を書く。
(参加者枠は既に定員に達している為、新たな「呼ばれし者」を登場させる事は不可)
出来る限り、該当ゲームをプレイしていなくとも書ける様にし、
また曖昧にしか分からない部分なども含め、ここやSS内で示された以上の事は無理に書かなくても良い。
他の書き手が必ずしも出典元を参照できるとは限らないことを前提に、
SS内や補足情報で巧く補完することを心がけ、ルートによるゲーム内での変化なども含めて、
ある程度「いいとこどり」でも調整する方向で。
・ゲームならではのお遊びやシステム上の都合としての不自然さなどは、無理に持ち込まない様にする。
(『サイレントヒル』のUFOエンドや犬エンド、『バイオハザード』の豆腐モードからキャラを出す等)
・「呼ばれし者」は、呼ばれたときのアイテム、能力をそのまま持っている。ただし、必ずしも元通りに使えるとは限らない。
・アイテムはこの「場所」の中で様々なものを得ることもあるが、持ちうる範囲を超えて持ち運ぶことはない。
あまりに展開上不自然なもの、展開を妨げうるものなどは考慮が必要。
(逆に展開に不自然さがなければ、ちょwwこんな所にロケランあったんだけどww、というのもあり)
・この場所にいる際には、「呼ばれし者」同士、多言語での会話が可能。知らない言葉でも何故か意味が伝わる。
・アイテムは現実に存在するもの、又は既存のホラーゲームに登場するものを出典として持たせる、登場させる事が出来る。
登場させたSSの最後に、出典と共にその内容に関しての解説を記しておく。
・「クリーチャー」は、この「場所」に置いて、各々の元の性質に近い行動をとる。
場合によっては「呼ばれし者」が「クリーチャー」に転ずることもある。
・クリーチャーの初期情報を書く際のおおまかな能力基準は以下を元に。
[能力の★について]
★ … 一般人以下。虚弱、病弱。愚鈍。
★★ … 一般人並み。特殊な訓練や能力のない人間キャラと同等。
★★★ … 一般人の中でも頑強。特殊な訓練をしている、軍属、アスリートレベルの身体能力など。
★★★★ … 人外の能力。野生の猛獣並みの身体能力など。
★★★★★ … 人外にして超越。不死、半不死等。
- 3 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:20:43.59 ID:/vVn43jl0
- 【エリアと地図】
・エリアは、特別な施設名以外は、大まかな位置を地名で表記する。
進入や移動に制限のある場所、施設などはその旨も表記する。
後のSSでは、それら既出の位置関係を元に展開させる。
地図は、SSに描かれて内容から随時設定される。また、進行によって変化することもある。
【サイレンと裏世界】
・物語内時間では一日目の18時から6時間毎に「サイレン」が鳴り「特別なイベント」が起きる。
「特別なイベント」には、「世界/地形が変容する」、「新たなもの/施設などが呼ばれる」、
「クリーチャーが現れる」、「屍人が起きあがる」 等、様々なものがあり、
実際にどういうイベントが起きるかはその時の展開などにより決められる。
・サイレンが何なのかは現段階では不明。
【作中での時間表記】
深夜:0〜2時
黎明:2〜4時
早朝:4〜6時
朝:6〜8時
午前:8〜10時
昼:10〜12時
日中:12〜14時
午後:14〜16時
夕刻:16〜18時
夜:18〜20時
夜中:20〜22時
真夜中:22〜24時
(OPの時刻は夕刻:16〜18時)
- 4 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:21:37.49 ID:/vVn43jl0
- 【書き手の注意点】
作品(SS)を書き込む際などにはトリップを推奨。SSの最後には状態表を記載し、投下終了したことを明示する。
障害、書き込み制限などで書き込みが出来ない場合は、したらば掲示板を活用し、
出来ればその旨を代行書き込みなどを利用して本スレに書くか、代理投下をして貰う。
以前書かれたSSや、元となった作品設定などとの明らかな矛盾、事実誤認、企画進行に支障をきたす不自然な展開などがある場合、
話し合いなどにより修正、破棄を行うこともある。ホラーなのはSSの中のみで。進行はノーホラーに行きましょう。
【予約制度】
一定期間特定のキャラを優先して書く権利が与えられるシステム。
このロワでは任意制となっているが、複数の書き手が同一キャラを扱った場合、
先に予約した者が優越し、一定の正当性を持つ性質は変わらない。
予約をする場合は、トリップを付けて本スレか、したらばの投下スレで該当キャラクター、クリーチャー名を書き込むこと。
予約期間の最中に他の書き手は、該当キャラクター及びクリーチャーのSSは投下できない。
期限が過ぎた場合は予約は破棄されたものと扱い、予約した書き手以外の方でも予約したりSSを投下したり出来る。
期限を過ぎても、他の人の予約やSSが入らない場合はそのまま投下できる。
・基本予約期限5日間。
・延長期限3日間。
・予約期限が切れた後は予約破棄。
・予約破棄から5日間は同じパートを再度予約出来ない。(ただしSSが完成すれば投下は可能)
・予約出来るのは基本的に1つの話にまとめられるパートのみ。
1つの話にまとめられない全く別のパートを同時に予約を出来ない。
おまけ
トリップ作成テストツール
ttp://www.dawgsdk.org/tripmona/tools
【読み手の心得】
・このスレは投下・雑談を兼用しています。きたんなく雑談しましょう。
・この企画ではどのキャラもバイオ2のガンショップの親父の様にあっさり死ぬ可能性があります。
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
- 5 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:27:23.63 ID:/vVn43jl0
- 3/3【トワイライトシンドローム】
岸井ミカ /● 逸島チサト / 長谷川ユカリ
6/6【SIREN】
須田恭也 / 宮田司郎 / ●美浜奈保子 / 八尾比沙子 /● 神代美耶子 / 牧野慶
4/4【SIREN2】
阿部倉司 /● 藤田茂 / 三沢岳明 / 太田ともえ
5/5【学校であった怖い話】
●日野貞夫 / 新堂誠 / ●岩下明美 / 風間望 / 福沢玲子
6/6【ひぐらしのなく頃に】
前原圭一 /● 竜宮レナ /● 園崎魅音 / ●園崎詩音 / 古手梨花 / 鷹野三四
4/4【流行り神】
風海純也 / 霧崎水明 / 式部人見 / 小暮宗一郎
3/3【サイレントヒル】
ハリー・メイソン / シビル・ベネット / ●マイケル・カウフマン
2/2【サイレントヒル2】
●ジェイムス・サンダーランド / エディー・ドンブラウスキー
3/3【サイレントヒル3】
ヘザー・モリス / ダグラス・カートランド / クローディア・ウルフ
4/4【バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
ジル・バレンタイン / ●カルロス・オリヴェイラ / ハンク /● ブラッド・ヴィッカーズ
2/2【バイオハザード2】
レオン・S・ケネディ /● シェリー・バーキン
3/3【バイオハザード アウトブレイク】
ケビン・ライマン / ●ヨーコ・スズキ / ジム・チャップマン
3/3【零〜zero〜】
雛咲深紅 / 雛咲真冬 / 霧絵
2/2【クロックタワー2】
ジェニファー・シンプソン / エドワード(シザーマン)
50/35
- 6 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:46:59.09 ID:/vVn43jl0
- クリーチャー
複数存在
【SIRENシリーズ】
屍人 / 闇人
【サイレントヒルシリーズ】
レッドピラミッドシング(三角頭) / バブルヘッドナース / ロビー / ライイングフィギュア/ナイト・フラッター
【バイオハザードシリーズ】
ゾンビ / ケルベロス / タイラント / ヨーン /ハンターγ /デルラゴ/リッカー
唯一存在
【バイオハザードシリーズ】
女王ヒル(北条沙都子@ひぐらしのなく頃に)/プラーガ(北条悟史@ひぐらしのなく頃に)
【学校であった怖い話】
人形(荒井昭二)
【SIRENシリーズ】
屍人(永井頼人)/屍人(園崎魅音)/ケルブ/屍人(美浜奈保子)
【トワイライトシンドローム】
花子さん
漏れがあれば指摘お願いします
- 7 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 14:48:26.45 ID:/vVn43jl0
- >>5を訂正します
3/3【トワイライトシンドローム】
岸井ミカ /● 逸島チサト / 長谷川ユカリ
6/6【SIREN】
須田恭也 / 宮田司郎 / ●美浜奈保子 / 八尾比沙子 /● 神代美耶子 / 牧野慶
4/4【SIREN2】
阿部倉司 /● 藤田茂 / 三沢岳明 / 太田ともえ
5/5【学校であった怖い話】
●日野貞夫 / 新堂誠 / ●岩下明美 / 風間望 / 福沢玲子
6/6【ひぐらしのなく頃に】
前原圭一 /● 竜宮レナ /● 園崎魅音 / ●園崎詩音 / 古手梨花 / 鷹野三四
4/4【流行り神】
風海純也 / 霧崎水明 / 式部人見 / 小暮宗一郎
3/3【サイレントヒル】
ハリー・メイソン / シビル・ベネット / ●マイケル・カウフマン
2/2【サイレントヒル2】
●ジェイムス・サンダーランド / エディー・ドンブラウスキー
3/3【サイレントヒル3】
ヘザー・モリス / ダグラス・カートランド / クローディア・ウルフ
4/4【バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
ジル・バレンタイン / ●カルロス・オリヴェイラ / ハンク /● ブラッド・ヴィッカーズ
2/2【バイオハザード2】
レオン・S・ケネディ /● シェリー・バーキン
3/3【バイオハザード アウトブレイク】
ケビン・ライマン / ●ヨーコ・スズキ / ジム・チャップマン
3/3【零〜zero〜】
雛咲深紅 / 雛咲真冬 / 霧絵
2/2【クロックタワー2】
ジェニファー・シンプソン / エドワード(シザーマン)
35/50
- 8 :罰物語‐バツモノガタリ‐ ◇WYGPiuknm2 代理:2011/03/06(日) 14:51:15.14 ID:/vVn43jl0
- ――――私は、悟史君と一緒に帰るんだ!
ケルブは人懐っこく詩音にすり寄ってくる。
今は、休憩代わりにこの子と遊んでいてもいいだろう。
再び詩音に、優しく抱擁されたケルブは、そのまま詩音の首に近づき――。
「…………――――!?」
【12】
『詩音だったもの』の首から、おびただしい量の血が垂れ流されている。
ケルブは牙を血で濡らしながら、薄汚れたしっぽを揺らしていた。
愛情などない。どうして人間に愛などを感じようか。
負傷している時点で、彼女はもう用済みだ。
恨むのなら、注意力の散漫のせいで利用価値を失った自分自身を恨んでほしいものだ。
だが、欲しかった殻を仕留めたという点は一応評価できる。
あの殻は今どうしているだろうか。できるだけ綺麗なまま横たわっていればいいが。
できるだけ早く確認し、確保しなければならないだろう。
だが、今はそれよりも――食事の方が優先だ。
【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に 死亡】
前スレの代理投下の残りです。これで代理投下終わりです
- 9 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/06(日) 23:52:25.18 ID:/vVn43jl0
- 代理投下します
- 10 :菊花の約 ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/06(日) 23:53:07.08 ID:/vVn43jl0
- 周囲は赤白く浮かび上がる火袋の仄明かりでは見通せない程の闇に覆われていた。草履が地を掻く音は、まるで他人事のように足元から転がっていく。
氷室霧絵は提灯を左右に翳した。敷き詰められた石畳が微かに朱に染まり、道沿いに並び立つ家屋の影が僅かに剥がれる。
幅が七間ほどもある広い路だ。訳も分からずに歩いてきたが、どうやら目抜き通りの辺りまでやってきてしまったらしい。
汗ばんだ髪を払い、ひとつ深呼吸する。これほど長い時間を動き続けたのは初めてだ。気ばかりが焦るだけで、身体はついていかない。歩き慣れていないために爪でも割れたか、足を踏みしめる度に刺すような痛みが走った。
石畳の冷たくざらついた感触が草履越しに伝わり、霧絵は首を傾げた。こうした大路は土埃が酷いものだと聞いていたが、あれは"あの人"が自分を楽しませるための空言だったのだろうか。
とうに木戸が閉まる刻限なのか、人通りはなく、道々に夜闇だけが溜まっている。寝静まった町に命の名残は感じられず、自ずと氷室家の惨状が重なってしまう。
兇気が去り、己の仕出かした罪の大きさが身体を縛っていく心地がした。もう、自分の五体に縄は括りつけられていないというのに。
吹いてくる風が涼やかな濤声を運んできた。まどろみを誘うような旋律は耳を通り抜けていく。
"海"という言葉が浮かぶ。言葉でしか知りえなかった外の世界――そこに己の身があることが少しおかしかった。
しばし、霧絵はその音色に聴き惚れた。と、そこに足音が混じっていることに気づいた。
身体が強張っていくのを感じた。それは来訪者へのものと、場合によっては自分が侵してしまうかもしれない所業への惧れによるものだ。縄を握る手に力が籠る。
息を潜め、霧絵は提灯を音の方へと向けた。曲がり角を照らす薄明の輪の中に、ぬぅっと大きな影が入り込んだ。
「きゃ――」
「うわああぁぁぁあああっ!」
地鳴りのような悲鳴が、霧絵のか細い悲鳴を押しつぶした。重苦しい音を立てて、影がひっくり返る。思わず、己の手を見た。霧絵は――何もしていない。
痛いほどに激しく脈打つ胸を抑え込み、霧絵は影の方へと提灯を向けた。
身の丈六尺を優に超える偉丈夫が尻餅をついている。傍には鉄砲が転がっていた。
大いに吃驚したらしく、男は目を剥いて霧絵を見上げた。まるで鬼か何かに遭遇したような形相だ。顔の造りが厳めしいため、当の本人が鬼のように見える。
鬼の正体が年端もいかぬ小娘と分かり、男はばつが悪そうに視線を逸らした。男は立ち上がり、鉄砲を持っていない方の手で衣についた埃を払った。
暗いせいだろうか。立ち上がると、天を衝くような巨体に見える。
男はきゅうと巨躯を小さくすると、まるで叱られた子犬のような顔をした。
「取り乱してしまい、申し訳ないであります」
「い、いえ、お気になさらないでください」
あっさりと詫びた男を、霧絵は観察する。
男はおそらく武家の者だろう。身頃と袖を絞った風変わりな羽織、それと同色の軽衫といった出で立ちで、刀は佩いていない。
月代が伸びているから、城下に増えていると聞く浪人というものだろうか。しかし、言動には実直さが滲み出ており、巌のような体躯を包む衣も清潔に見える。
尻餅の際に下敷きにしてしまったらしい白い巾着を悲しそうに見つめている様も含めて、この浪人に危険はないように思えた。しかし、日野のことが頭をよぎり、その己の判断を信じきることは出来ない。
浪人は不可解そうに霧絵を見た。思えば、今身につけているのは神事に纏う白衣だ。このような時分に町をうろつけば、不審に見られてもおかしくない。
浪人は一つ咳払いして、姿勢を正した。
「自分は小暮宗一郎という者です。こう見えて、警視庁警察史編纂室に勤務している巡査部長であります! 失礼でありますが、あなたは?」
山鳴りのような声だ。耳慣れない言葉が続けられたが、要は役付きの藩士ということだろう。
失礼な印象を持ってしまった己が恥ずかしかった。小暮は、伸びた月代や鬢を手入れする時間が惜しいほどに忙しい職務に追われているのだ。
「私は氷室家が娘、霧絵と申します。私の方こそ、小暮さまを驚かさせてしまい申し訳ありません」
「とんでもないであります。それに、"さま"なんて付けないで欲しいであります。自分は、そのような敬称を付けられるような者ではありません。ただの小暮で構わないであります」
「はあ……。されどそう申されましても、殿方をそのようにお呼びするのはどうにも……」
- 11 :菊花の約 ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/06(日) 23:53:51.84 ID:/vVn43jl0
- 見ず知らずの、それも武士を下男か婢のように呼ぶなど出来はしない。余程困った顔をしていたのか、小暮がたじろぐ様に身動きした。
「いやいや、呼び方なんぞに拘った自分が悪かったであります。お好きになさってください」
道端ではなんだからと、小暮が近くの軒先を指差した。それに従い、揃って軒下に入る。
「ところで、氷室さんは怪しい男を見なかったでしょうか?」
「怪しい男、ですか……?」
脳裏に浮かんだのは日野と名乗った青年だ。殺生を童子の遊びのように愉しむ下種の顔が浮かび、胸中に苦いものが広がる。
小暮は少し考えるように沈黙した後で、捜し人の特徴を述べた。
「胡麻頭の老人です。歳は七十ほど。背格好は中肉中背……と、まあそんな具合なのでありますが」
「いいえ、そのような方は存じ上げません。そのご老人は小暮さまとはどんな?」
「危険人物であります。突然、これを自分に向けて発砲してきました」
小暮は霧絵に鉄砲を掲げて見せた。
「まあ……小暮さまに不備はないのに?」
「実に危ない所でありました。それで捕縛の必要ありと判断し、目下追跡中なのであります。とはいえ、遭遇していないのであれば、それに越したことはありません。御無事で何よりであります」
そう言って、小暮は表情を緩めた。霧絵がその老人に行き逢わなかったことに、心底安堵したように見えた。
霧絵に向けられる、大型の獣を思わせる瞳には心からの善意が宿っているのが見て取れる。
小暮は日野とは違う。見てくれは大きく違うが、"あの方"と同じ、信用するに足る人間だ。
日野のことを話さなくてはと霧絵は思った。日野は狐狸の如く人を欺く男だ。実直を人の形にしたような小暮を誑かすのは、あの卑劣漢にとっては赤子の手を捻るよりも容易いことだろう。もし日野と小暮が出会えば、命を落とすのは小暮の方だ。
そして、日野のことを伝えるのならば、己が行った呪いのことにも触れねばなるまい。誠意に対し、誠意で報いるのが道理だ。隠し事は許されない。
小暮さまと、霧絵は切り出した。
「そのご老人ではありませんが、日野なる人でなしにお遭いいたしました」
小暮が興味深そうに目を向けた。
まずは、日野が殺傷を好む兇徒であること。そして日野の持つ不可思議な箱から流れた言葉のこと。
己でも理解していないため、所々で途切れ、要領を得にくい話しぶりであったのだが小暮は我慢強く、真剣に聞いてくれた。
「殺し合い……とは穏やかではありませんな。以前、そんな小説が問題になったことがありましたが。それにサイレントヒルとは、自分が敬愛する刑事が向かった先であります。どういうことでありましょう?」
「私には見当もつきませぬ……真に訳の分からないことばかりでして」
「……ううむ。額面通り受け取れば、ここがサイレントヒルということになりますが……散歩がてらに迷い着いてしまう場所ではないはずですからな。俄かには信じがたい話であります」
小暮は顎に手を当てて唸った。さいれんとひるとは、それほどまでに遠い土地らしい。当然、氷室の屋敷がある土地はそんな名ではないはずだ。
いつの間にか、さいれんとひるなる里へ屋敷が移築されてしまったというのだろうか。
「それに、日野でありますか。その外道に遭われたのは、しばらく前とのことでしたな。既にこの近辺にはいないと考えるのが自然でしょう。そういう手合いは一度の失敗でそうそう諦めるものではありません。にも関わらず、再度襲われることがなかったということは、
氷室さんを見失ったと判断してよいと思うであります」
「……その日野のことなのですが、ひとつ付け加えねばならないことがございます」
- 12 :菊花の約 ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/06(日) 23:55:20.51 ID:/vVn43jl0
- 霧絵はひとつ呼吸を置いた。
告げるには勇気が要った。これまでの話ぶりから、小暮は奉行所の人間だと想像できる。その彼に、己が人殺しであることを告げるのだ。
死罪は免れまい。
一度死した身だ。死を厭える身の上ではないが、己には使命がある。まだ、縛につくわけにはいかない。
小暮は理解して、時間をくれるだろうか。小暮は好漢だが、職務に忠実のように見える。
霧絵は握っていた縄を小暮に見せた。提灯の明かりがちらと揺れる。
「日野の起こすであろう所業を赦すことができず、私は……彼にこの縄で死に至る呪いをかけてしまいました」
「の、呪いでありますか?」
「はい。私もまた、日野と同じ外道――人殺しでございます」
「……冗談を言っている、というわけではないようでありますな。しかし、人がそんな呪いをかけられるものでしょうか」
「それは……私が死人であったからに相違ありません」
「はあ…………え?」
「長い話になるかと思いますが、小暮さまに伝えておきとうございます」
訥々と、霧絵は語った。
氷室家に課された因業のこと。縄の巫女である己が担う使命のこと。怨霊となって犯した数々の罪のこと。甦った己と封じたはずの黄泉の門のこと。そして――これから己が為そうとしていること。
知らぬ者には、読本に記されるような荒唐無稽な出来事と受け取られるであろう数々の事実。
最初、小暮は難しい顔をしていたが、話が進むにつれて見る見る蒼褪めていった。ひょっとしたら、小暮は幽霊といった類が苦手なのかもしれない。いや、事実そうなのだろう。
失礼な話だが、小暮の思わぬ愛嬌に可愛らしくと思った。
語り終え、霧絵はふうと息を吐いた。思えば、こんな風に己のことを語ったのは初めてだ。“あの方”は己の想いを汲んでくれたが、彼女の話を聞いてくれたわけではない。
吐息と共に、ずっと溜まっていた澱みが吐き出されていくのを感じた。ずっと、誰かに聞いてほしかったのだ。今になって、霧絵は自分の心情に気づいた。
小暮はぶるりと身体を震わせ、霧絵よりも長く息を吐いた。幾分、立派な体躯が縮んだように感じる。
「……申し訳ありませんが、自分は幽霊といったものは信じない性質であります。呪いもまた同様です」
「……左様でございますか」
「ですが、氷室さんが嘘を吐いているとも思えないであります。少なくとも、それが氷室さんにとっての事実であることは疑いません」
肩を落とした霧絵に、小暮の穏やかな声がかかる。
「自分は頭が悪いでありますから、小難しいことは分かりません。重要なのは、氷室さんがまだ日野を殺していないということであります。その呪いは効果が出るのに時間がかかるのでしたな。ならば、まだ罪を犯してはいないということであります。これから日野を捕え、
呪いとやらを解けば済むことでありましょう」
「いいえ、私は既に咎人でございます。死して我を失い、数多くの命を奪いました。無間地獄が相応しい亡者にございます」
「氷室さんは亡者などではないでありますよ。呼吸する幽霊など、聞いたことがありません。生きた人間です。加えて、幽霊の時分に起きたことなど知ったことではありません。自分は幽霊など信じませんから。これが、自分にとっての事実であります。
何より自分は、百の証言よりも自分の目で見たものを信じたいであります」
霧絵は小暮の顔を見上げた。まだ頬は蒼褪めていたが、瞳には力が宿っている。
- 13 :菊花の約 ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/06(日) 23:56:48.41 ID:/vVn43jl0
- 「氷室さんは、人を殺せるようには見えないでありますよ」
温かい言葉に、涙が毀れそうになる。霧絵は俯いて、それを隠した。
それに、と小暮は続けた。
「及ばずながら、自分は氷室さんに同行したいと思います。凶悪犯が少なくとも二人も潜んでいる街中に女性を放って置くなど、自分には出来かねますから。第一、日野の齎した情報が事実ならば、
自分は、氷室さんは元より、善良な市民を守らねばなりません。
その過程で、件の捜し人も見つかりましょう」
「されど、私ではただの足手纏いとなってしまいます。小暮さまのお仕事に障りが……」
「そんなことはないであります! 自分はとても心強いであります!」
ぶんぶんと首を振り、小暮が否定する。
「そういうことですから、仮に呪いが本当だとしても、氷室さんには今後そんなことは自分がさせません。そう約束します。自分たちの本分は市民を守ることでありますから。
危険からは勿論、そうした汚れ役からも」
小暮は腰を屈め、霧絵を見つめた。
「だから、氷室さんもそんなものは決して使わないと約束してください。人を呪うなど、若い女性がなさってはいけないであります」
「……承知いたしました」
自然と笑みが毀れた。笑うのも、本当に久方ぶりだ。約束の証として、縄は懐に仕舞った。
真剣な面持ちだった小暮は慌てたように腰を上げた。
「……そうと決まれば善は急げでありますな。誰か犠牲者が出てからでは遅いですから」
「はい」
霧絵は頷いた。小暮に倣って足を踏み出すと、忘れていた痛みが鋭く牙を剥いた。
「……怪我でもされているのでありますか?」
声には出さなかったが、挙動には表れていたらしい。
「……はい。面目ないことですが、実は足を少々痛めておりまして」
見せてくれとの言葉に従い、霧絵は腰を折って、提灯を足に近付けた。白い足袋の先が朱に染まっている。
足袋を脱ごうとしたが、衣が傷に触って思わず苦鳴が漏れた。
目にしてしまったせいか、何もせずとも指先は響くような痛みを訴え始めていた。
歩くことが出来ないほどのものではないが、歩みは一層遅くなるだろう。
小暮の申し出と言葉は嬉しかったが、やはり固辞するべきだろう。
- 14 :菊花の約 ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/06(日) 23:57:34.28 ID:/vVn43jl0
- 「小暮さま。やはり、私は御一緒できません。どうか、他の民草のために先へ行ってくださいませ」
提灯を差し出した霧絵に、小暮は首を振って断った。
そしてちらちらと霧絵と前方の闇を交互に見やりながら唸った。何かを言いだそうかどうか、迷ってるように見える。
やがて決心がついたのか、遠慮がちに小暮は口を開いた。
「……氷室さんがご不快でなければでありますが、自分が背負っていくのはどうでしょうか?」
「そんな、そこまでお世話にはなれません」
「そう言われてもですなあ……。提灯とこれの両方持つのは難しいのであります。だから、
氷室さんが背後から自分の行く先を照らしてくれると実に助かるのでありますが」
鉄砲を掲げ、小暮は困った顔をして見せた。そんなはずはないだろうが、これが小暮なりの気遣いなのだろう。
思わず微笑んで、霧絵はその優しさに甘んじることにした。
「それでは……お願い致します」
ではと、小暮はしゃがんで背を霧絵に向けた。
霧絵は脱いだ草履の鼻緒を指で引っかけ、失礼しますと詫びてから小暮の背に身を委ねた。
小暮の丸太のような首に両腕を回し、腰を彼の左腕の上に乗せて安定させる。
小暮の広い背中は、ごつごつとしていたが大木のような安心感があった。
「重くありませんか?」
「いえ! そんなことは決してないであります!」
右手に持った提灯を、小暮が熱くないように位置を調整する。
「お足許まで届いておりますか?」
「はっ。見えているであります。では、参りましょうか」
「はい」
闇の中で、提灯の明かりがぼうと揺れた。
- 15 :菊花の約 ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/06(日) 23:58:20.29 ID:/vVn43jl0
- 【C-3/一日目夜中】
【小暮宗一郎@流行り神】
[状態]:満腹、霧絵を背負っている
[装備]:二十二年式村田連発銃(志村晃の猟銃)[6/8]@SIREN、氷室霧絵@零〜zero〜
[道具]:潰れた唐揚げ弁当大盛り(@流行り神シリーズ)、ビニール紐@現実世界(全て同じコンビニの袋に入ってます)
[思考・状況]
基本行動方針:目下、凶悪犯の逮捕と一般市民の保護。
1:一般市民の捜索と保護。
2:日野と老人を逮捕する。
3:警視庁へ戻って、報告と犬童警部への言い訳。
4:何かが起こっている気がしなくもないが……あまり考えたくはない。
※霧絵から「零〜zero〜」で起こったあらましを聞きましたが、信じたくありません。
※ここでのルールを知りましたが、信じたくありません。
【氷室霧絵@零〜zero〜】
[状態]使命感、足の爪に損傷(歩行に支障あり)、疲労(中)、小暮に背負われている
[装備]白衣、提灯@現実
[道具]童話の切れ端@オリジナル、裂き縄@零〜zero〜
[思考・状況]
基本行動方針:雛咲真冬を捜しつつ、縄の巫女の使命を全うする。裂き縄の呪いは使わない。
1:小暮と共に人を捜し、霊及び日野の危険性を伝える
2:真冬の情報を集める
3:黄泉の門の封印を完ぺきにする方法を捜す
代理投下終わりです
- 16 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/07(月) 19:13:24.96 ID:uPMIIc5tO
- 代理投下、ありがとうございます。
- 17 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/07(月) 23:38:28.65 ID:UBNuVrJFO
- いつも素早い代理投下乙です!
- 18 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/10(木) 12:21:04.87 ID:HDGnMtYq0
- 詩音死んだーっと思ったら、またしても用語集が更新されたかw
いっつも読んでて笑えるからここの好きだw
- 19 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/11(金) 08:31:49.86 ID:pa72HeYO0
- ロワと全然関係ないのもあったりするけどねw
- 20 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/13(日) 14:46:32.65 ID:+DmwpXjz0
- 代理投下するよ
- 21 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:47:19.77 ID:+DmwpXjz0
- 正面のガラスに映る自分の姿は、随分と頼りなく見えた。
何となく後ろを振り返れば、やはり頼りない顔をした自分が映って見える。
それが『見える』だけならば良いのだが、生憎そうではない。
自分は、頼りないのだ。その事は充分良く理解している。
再び、前を向き、落ち込んでいく気分のままに俯いた。
太田ともえの口からは、思わず溜息が漏れていた。
「はぁ……」
駅に居た時から、ずっとともえの脳裏について回る思いがあった。
歯痒い。情けない。彼女の脳裏に、そんな思いがずっと付き纏っている。
自分は、何をしているのだろうか。
現時点で怪異の大本が実際に何であるのかは不明だとは言え、
あの加奈江によるまやかしのせいで起きている現象という可能性は充分にあり得る事。
その場合は事態を解決するのは他でもない、大田の家の者である自分の役目のはずだ。
ならば怪異の正体が明らかになるまではそれを想定して立ち回るべきではないのか。
それなのに、自分は何をしているのだろうか。
この怪異に放りこまれてから、一体何をしてきたのだろうか。
答えは――――明白だ。自分は、何もしていない。
ただ、怯え、逃げ惑い、助けられてきただけで、何もしていないし、何も出来ていない。
いや、何にも出来ないのだ。同行するジルやケビンの様には、自分は戦えない。
出来そうな事と言えば、化物を発見した時に大声を出して仲間に知らせる事くらいだろうか。
自分には化物を退治するような力も技も無ければ、
こうした荒仕事で状況に応じた適切な判断を下す能力もないのだから。
それは、駅の時だけでなく、今現在でもそう。
左右を確認すれば、車両の奥で隣接車両の見張りをしているジル、ケビンの姿が目に映った。
隣接する2つの車両には先程ジルが倒した看護婦のような化物が徘徊している為、
ジルとケビンが今、それぞれ車両の両端に分かれて見張りの任についているのだが、
そんな単純な役目ですら自分は二人よりも上手くこなす事は出来ない。
申し出はしたが「その靴じゃ逆に気付かれちまうから任せとけ」と車両中央に追いやられてしまった。
責任を持たねばならぬ立場である自分が、ただの足手まといでしかない。
それ故の焦燥や無力感が、ともえを落ち込ませていた。
ついでに言えば、ともえを落ち込ませる原因はもう1つだけある。
それは、彼女が今乗っているこの電車そのものだ。話に聞いていたものとは随分と印象が違うのだ。
電車とは、窓から見える壮大な景色が流れるように移り変わるもの。
船よりも速いという速度を体感出来るもの。
乗るだけでも気分は高揚し、感動すら覚える素晴らしい乗り物。
そのように聞いていたのだが、実際に乗ってみたこれはどうだろう。
電車の外はただ暗いだけで、壮大な景色どころか1m先にも見える物は何もない。
電車の中は駅よりも幾分かはマシとは言え、汚く、狭く、仄かに嫌な臭いも漂い、不快極まりない。
おまけに揺れが酷く、ともえの履いている底が厚めの草履では手すりを掴んでいないと立っている事もままならないのだが、
その手すりのどれもが、得体の知れない何かがこびりついて、汚れきっている。
流石にそれに直接触れたくはなかった為、ともえは已む無く手すりに手拭いを巻き、
その上を掴んでみてはいるが、ざらつき、或いは滑つきの生理的不快感は布越しとは言え
しっかりと手に伝わってくる。だがそれでも手すりを放すわけにもいかない。
気色が悪い。電車とは、こんなものだったのか。
そんな不快さと落胆がともえの落ち込みに拍車をかけ、益々彼女を俯かせていた。
- 22 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:47:55.85 ID:+DmwpXjz0
- だがしばらくすると、ともえはくだらない考えを追いやるかの様に頭を振った。
電車など――こんな不愉快な乗り物の事など今は気にしている場合ではない。
それよりも、これから自分が何を成すべきか、それを考えねば。重要なのはそちらだ。
(私に出来る事……)
顔を上げ、ガラスに映る自分と視線を合わせ、ともえは改めて考えを巡らせる。
荒仕事は、出来ない。
何かしらの作戦を立てる事も出来ない。
自分にジルやケビンを凌ぐ技能があるとすれば、
思いつくのは花嫁修業で培った炊事、洗濯、掃除、その他家事全般と三味線くらいのものだ。
(そんなもの、ここでどうするのよ……)
自分自身の思い付きに、ともえは余計に落ち込みかけた。
まあ、この町を長いこと出られなくなるようであれば、
いずれそれらの技能も必要になる時が来るのかもしれない。
食事が必要となれば、夜見島名産の郷土料理『夜見鍋』を二人に振舞う事も出来るし、
仮宿に埃が積もっていれば、雑巾一つで新築同様にピカピカに磨き上げる事も出来る。
だが、少なくともそれが事態の解決には何の役にも立たないものである事は確かだ。
「はぁ……」
溜め息を漏らして、ともえは思考を切り替える。
どうやら、やはり自分は技術的にはジル達の役には立てそうにない。
例え本当に怪異の正体が『穢れ』だとしても、口惜しいがこれは自分の手に負えるものではない。
ならば、やはり知識を伝えるべきなのか。
先程は話す事が躊躇われた、夜見島の伝承と、加奈江の事。
それを伝えれば、ジル達なら事態を解決に導いてくれるのではないか。
太田家総領の娘としての使命として、例え自身の立場を危ういものにするとしても、
それが『穢れ』を治める事に繋がるのならば甘んじて受け入れなければならないのではないか。
しかし――――ともえはジルの横顔に視線を向ける。
彼女やケビンは、アメリカの警察官だ。
直接手を下した訳ではないものの、人を二人も殺したという事実を伝えた時、
果たして彼等はどのような反応を見せるのか――――到底受け入れられるとは思えない。
化物女を退治しただけの事であって殺人ではない。そんな理屈は通用しないだろう。
アメリカでは犯罪者は拳銃で撃たれるそうだが、いきなり射殺されたりはしないだろうか。
そう考えてしまえば、やはり話す事は躊躇われてしまう。
せめて彼等が同じ日本人であるならば、まだ話す事に抵抗は少ないのだが――――。
- 23 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:48:29.29 ID:+DmwpXjz0
- (はぁ……こんな時、お父様ならどうなさるのかしら?)
ともえはガラスの向こうに、父、太田常雄の姿を思い浮かべた。
この様な事態に陥っても、未熟者の自分とは違い父ならば。
太田家総領であり聡明な父ならば、もっと上手く立ち回れるはずなのに。
(お父様なら…………お父、様? ……そうよ、お父様よ!)
ふと、脳裏に訪れた1つの案。ともえは僅かながら顔に明るさを取り戻す。
そうだ。これが加奈江による『穢れ』なら、
あの場に居た父や島民達もともえと同じくこの街に移動させられているはずだ。
ならば、何処かにいる父、或いは夜見島の皆を見つけ出して
昨夜のように『穢れ』に立ち向かえば良いではないか。
もしも『穢れ』とは関係の無い理由でともえ一人がこの街に流されてきたというのなら、
その場合にはともえには怪異に立ち向かう責任はない。
少々情けないのは変わらないが、これまで通りジル達について行けば良いだけの事だ。
どちらにしても、わざわざジル達に伝承や加奈江討伐の一部始終を伝えずとも済む。
無駄にジル達との関係に溝を作り出す恐れのある選択をする必要はないのだ。
そうと決まれば、ジル達に協力を仰ごう。
警察署に行った後でも良い。
行動に一段落がついたら夜見島の皆を探し出す事に協力してもらおう。
思い立ったが吉日。
早速ともえは相談する為、手すりを放してジルに近づこうとした。
丁度その時。
金切り声のような、甲高く、耳障りな音がともえの耳を襲った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
- 24 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:49:13.32 ID:+DmwpXjz0
- 急ブレーキがかかった。
バンッ、と大きな音が車両内に響き渡る。
貫通扉のガラス窓から隣接車両を覗き見るように見張りについていたケビンが、
唐突な速度変化に対応出来ずに思い切り貫通扉に顔を打ち付けた音だ。
「ヤベッ」
痛みよりも先に焦りを感じ、ケビンは直ぐ様体勢を整えた。
ナース共に気付かれたか――――素早く視線を走らせ対象を視界に収めると、
瞬間、ケビンの眉間に嫌悪感という名の深い皺が刻まれる。
数体のナース達は、全員が全員転倒しており、短いスカートの中身をさらけ出していた。
「チッ……汚ねえモン見せてんじゃねえよ」
モゾモゾと起き上がったナース達は結局徘徊を再開する。
とりあえず、この怪物はこちらを探知は出来ないらしい。
ケビンは軽く息を吐き、振り返った。
こちらの車両では、転倒していたらしいともえをジルが助け起こしていた。
(こっち見ときゃよかった)
そんな本音は胸中に留め、続けてケビンは開かれた車両ドアから外に目を向けた。
乱暴に停車した電車の外は、先程までの漆黒のトンネルとは違い、僅かながらに明かりがついているようだ。
上体だけ身を乗り出して、目を凝らす。薄ぼんやりと見えるのは――――。
「駅?」
そこは、無人のプラットホームだった。
違和感を覚え、ケビンは咄嗟に左腕の腕時計を確認した。
乗車した時間から、およそではあるが2分程度。
それはアメリカ都会の地下鉄ならば、隣駅までかかる時間としては平均的と言えるのだが、
先程のこの街の地図で駅から駅までの距離を測る限りでは、少し早過ぎる到着時間に思えた。
あの距離なら5分やそこらはかかってもおかしくはないはずだ。
それとも地図には表記されていない駅が間に在ったのだろうか。
そう考えるなら一応の納得はいくのだが。
「まあ降りるしかねえよな」
実際にはどうであろうとも、現状ではこの駅が目的地でないと断言出来る材料はない。
ケビンはホームに降り立とうとして――――ふと、足を止めた。
ホームの上で、音が聞こえる。パシン、と軽く何かを叩くような音が聞こえるのだ。
- 25 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:49:47.12 ID:+DmwpXjz0
- (何かいるのか?)
パシン、パシンと、音は鳴り続けている。
その音は徐々に近づいて来て、大きくなってくる。
目をやるが、しかし、音が鳴っているはずの場所には何も見えない。
光量が少ないとは言え、明かりは点いている。何かがいれば見える程度の明かりではある。
それなのに、何者の姿もない。そこでは音だけが鳴り続け、近付いてくる。
ケビンは振り返り、ジルを呼んだ。
側に来たジルもその音を聞き、何もいない事を確認し、戸惑いの表情を浮かべた。
「聞こえるよな? あれ、どう思う?」
「何とも言えない。生存者やゾンビじゃないのは確かみたいだけど……」
パシン――
「同感だ。だけど、だったら……あれか? ラップ音ってやつか?」
「幽霊? あんまり考えたくないけど、ありのままを受け入れるならそうなりそうね」
パシン――
「勘弁してくれ。ゴーストバスターズじゃねえんだぞ!
おいジル。幽霊ってのは銃弾でくたばるのか!?」
「知らないわよ! 試してみたら良いじゃない、良い機会でしょ!」
パシン――
「どこ撃ちゃ良いんだよ!」
「自分で考えなさいよ!」
パシン――
音が近付くにつれ、二人の声に焦りが混じり、荒くなる。
ゾンビ共と対峙する時とはまた違うプレッシャーが、二人を包んでいた。
音は、すぐそこまで近付いて来ている。
思わず二人は舌を打ち、後退りをした。
肉体のある怪物なら、銃弾を撃ち込んでやれば殺せる。それは経験済みだ。
だが、幽霊の対処法など、彼等は知らない。
もしも『音』を鳴らしている幽霊が怪物達のように襲いかかってきたならば、一体どうすればいいのか――――。
ジルがともえに駆け寄っていく気配を感じた。
同時にケビンはホルスターから愛用の銃を引き抜いた。
- 26 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:50:21.86 ID:+DmwpXjz0
- パシン――
音は、ついに車両ドアのすぐ手前で、鳴った。
何もない空間に、ケビンは忌まわし気に銃を向けた。
「ゴーストバスターズ、テレホンナンバー何だったっけ? 昔は覚えてたんだが……」
軽口とは裏腹に、顔に浮かぶのは強張った笑み。
手が、じわりと汗ばむ感触があった。
次、音が鳴ったら、瞬間でブチこんでやる――――ケビンは体勢を微動だにさせず、空間に狙いをつけていた。
だが、それから音はしなかった。
5秒が過ぎ、10秒が経過して、それでも音は鳴り出さない。
やがて、沈黙と緊張に耐えかねたかの様に動いたのは、車両ドアだった。
ドアは、次の音を待たずに閉じ、電車はゆっくりと動き始める。
(とっくに入り込んでたりしねえよな……?)
耳を澄ませ、車両内に視線を巡らせた。
更に10秒、20秒と経過するが、異常はとりあえず確認出来ない。
ジルやともえも問題無さそうだ。
問題があるとすれば降り損ねた事だが、この際それは仕方ないだろう。
いつの間にか止めていた息を、ケビンは大きく吐き出した。
「どうやら電話をかける必要はねえようだな」
おどけた様に口元をつり上げ、ケビンはジルに視線を投げかけた。
ジルも釣られたのか、ホッとしたように笑った。
そして答えようとしたのだろう。口を開いて――――その表情が驚愕に染まった。
ジルの瞳は、ケビンを映していない。その視線はケビンの後ろに向けられている。
「またそのパターンかよ!」
背後に先程の蛇の様な気配は全く感じられないが、ジルの顔付きは只事ではない。
ケビンは薄汚い床に倒れるように転がり込み、振り返った。
何も、いない。
前方の上下左右を素早く視認するが、車両内には何もいない。
「何だよ、何にもいね――――ンン?!」
ジルに対し愚痴をこぼそうとした時、後ろから手が伸び、ケビンの口が塞がれた。
ジルの手だ。その手は一呼吸の間を置いて、ケビンの口から離れた。
そして人差し指を立て、話すな。ジェスチャーでそう言うと、ゆっくりと前方を指した。
ケビンはその指先から、前へと、視線を移す。
しかし、やはり何もいない。ジルの指はただ宙を指しているだけ――――。
- 27 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:51:37.69 ID:+DmwpXjz0
- (っ?!)
と、ケビンの目は異常なものを捉えた。
確かに車両内には何もいなかった。『車両内』には。
しかし車両の外――――貫通扉の窓の向こうに。
つまりケビンが見張りをしていた隣接車両の中に、人の顔が見えるのだ。
そう、顔だ。顔がある。横顔しか見えないが、ナース共ではない。
アジア人の様だが、虚ろな目でただ前を向いている。
(何だあいつ?!)
ケビンの体勢では角度的にそのアジア人の顔しか見えない。
ジルの手を退かすと、ケビンは静かに立ち上がった。
そして、隣接車両内を確認し――――ジルの驚愕の理由を理解した。
きっと今のケビンはジルと同じ表情を浮かべている事だろう。
貫通扉の窓から見えた隣接車両内に、アジア人は一人ではなかった。
二人でもなかった。
三人でもなかった。
何人居るのか、はっきり言ってケビンには分からない。
その車両内は、まるでラッシュアワー時の様にアジア人達によって埋め尽くされていたのだから。
(何だ、こいつら?! いつの間に入って来やがった?!)
そのアジア人達は、何かの患者だろうか。全員が同じ白の手術着を着用している。
全員が同じような虚ろな目で立っていて、全員が同じように死人のような顔色をしている。
それは、あまりにも異常すぎる光景だった。
ゾンビではないにしても、こいつらが真っ当な人間である可能性は低い。
先程の駅の幽霊。
タイミングからして、あれが何かしら関係しているのは間違いないだろう。
ケビンはジルを振り返る。
彼女の銃を合わせても、弾丸は60発程度。とてもこの人数を相手には出来ない。
幸いまだ気付かれてはない様子だが、電車の中ではあれに襲われたら逃げ道は無い。
とにかく、次の駅に到着するまで気付かれないようにするしかないが、しかし、もし気付かれたら――――。
(さて……どうすっかね)
- 28 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:53:11.45 ID:+DmwpXjz0
- 【???/地下鉄内/一日目夜中】
【ケビン・ライマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:身体的疲労(小) 、T-ウィルス感染中、手を洗ってない
[装備]:ケビン専用45オート(装弾数3/7)@バイオハザードシリーズ、日本刀、ハンドライト
[道具]:法執行官証票
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。T-ウィルスに感染したままなら、最後ぐらい恰好つける。
0:ナースの次はクランケかよ?!
1:警察署で街の情報を集める。
※T-ウィルス感染者です。時間経過、もしくは死亡後にゾンビ化する可能性があります。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:健康、謎の「患者達」に対する驚き
[装備]:M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数15/15)@バイオハザードシリーズ
[道具]:キーピック、M92(装弾数15/15)、ナイフ、地図、ハンドガンの弾(24/30)、携帯用救急キット、栄養ドリンク、ハンドライト
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。
0:ゾンビ? とにかく気付かれないようにしないと……
1:警察署で街の情報を集める。
※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
【太田ともえ@SIREN2】
[状態]:身体的・精神的疲労(小)
[装備]:髪飾り@SIRENシリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
0:お父様、もしくは夜見島の人間を探し、事態解決に動く。
1:ケビンたちに同行し、状況を調べる。
2:事態が穢れによるものであるならば、総領の娘としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません。
※A-1兼A-2の駅と、次にケビン達の到着する駅との間に「名前の無い駅」が存在します。
この話以降の電車が名前の無い駅に停車するかどうかは後続の書き手さんに一任します。
- 29 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:54:21.30 ID:+DmwpXjz0
- 名前の無い駅@流行り神
駅そのものは、建設を中断されただけの単なる地下鉄の廃駅。
建設途中で「悪魔の実験」で使用された地下墓地、地下施設が発見されてしまった為、
已む無く工事を中断、放置したものと思われる。駅構内から地下墓地へと進む事が出来る。
地下施設内には「悪魔の実験」での犠牲者達の霊魂が大量にさまよっていて、
霊魂はポルターガイスト現象を起こしたり、人に危害を加えようとしたりする。
悪魔の実験@流行り神
東京の地下施設で昭和20年代から30年代前半まで行われていた実験の事。
死者の霊魂を機械で人為的に操作する研究が行われていたらしいが、具体的な目的や正式な名称は不明。
千人単位の人間がこの実験の犠牲となり亡くなっている。
死者の霊魂@流行り神
「悪魔の実験」の犠牲者達の霊魂。
ゲーム内では実体化しているものと、していないものの2種類が存在する。
実体化しているものは、現代では使用されていない白い手術着を身につけていて、
身体には胸部から下腹部にかけてぽっかりと巨大な穴が開けられ、内臓がきれいに抜き取られている。
おそらく死んだ時そのままの姿で実体化しているのだろう。
知能は無いわけではないが凶暴性が強く、人を殺そうと襲いかかってくる。
人間の姿をしているが普通の人間よりも圧倒的に怪力であり、素手で人の身体を引き千切る事が可能。
実体化していないものは基本的に肉眼では見えない。
実体化している霊魂よりも理性的らしく、ポルターガイスト現象(原因不明の物音、囁き声、物体の移動など)は起こせるが無闇に人に襲いかかったりはしない様子。
地下施設にある霊魂を操作する機械が破壊されれば、どちらの霊魂も消滅するらしい。
【クリーチャ基本設定】
死者の霊魂(実体化)
出典:流行り神
形態:複数存在
外見:パッと見では外傷のない人間の死体。現代では使用されていない白い手術着を着用。
武器:無し
能力:普通の人間よりも怪力であり、素手で人の身体を引き千切る事が可能。
攻撃力:★★★★☆
生命力:不明。
敏捷性:★☆☆☆☆
行動パターン:霊魂と言っても宙に浮くわけではなく、ゾンビのように歩いて来る。
備考:原作内で話す描写は無いが、意思は持っていて言葉は理解できる。
ただ知能が低いらしく、人を騙すような事は出来ないようだ。同じ理由から、説得などは不可能。
生命力に関しては原作内で描写はないので適当に決めてしまっていいだろう。
4日間寝込んでいた風海や疲労困憊だったゆうかの全力疾走に追いつけない程度の移動速度。
- 30 :メトロ・サヴァイブ ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/13(日) 14:54:51.88 ID:+DmwpXjz0
- 1本目投下終了
2本目行きます
- 31 :罪と罰 ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 14:56:34.44 ID:+DmwpXjz0
- <Watch out!>
「君は運がいいよ、学校に詳しい僕がガイドにつくなんて、こんな幸運そうそうない!」
自信満々に、かつ恩着せがましい風間に頓着することなく、宮田は学校へと足を踏み入れる。
こういう雑音は、反応すること自体が無駄で面倒だ。早急に謎を解明するには、あらゆる不必要を排除しなければならない。
それは人間とて例外ではない。
「うわっ」
二人の数センチ横の土が跳ね、遅れて風間が悲鳴を上げる。
「狙撃か」
宮田は恐怖も驚愕もなく、ただ面倒だ、という調子で姿勢を低くし、遮蔽物に身を隠しながら移動する。
今の弾道でおおよその位置・距離は予想ができた。そばにいた男も慌ててそれに倣う。
医者は平然と、学生は慄然と。
何とか校舎内に無事に侵入できた二人を迎えたのは、脳漿を垂れ流した女学生の遺体だった。
「ヒッ」
甲高い声を漏らす風間の横で、医師は懐中電灯の光をそこに向ける。
「後頭部から額への弾創……火傷や髪の燃焼から考えて、密着して発砲している。
他の外傷は……左大腿部にも弾創か。これに火傷は見られない。つまり順番は大腿部から頭部……。
とすると、何者かが殺意を持ってやったと考えるのが妥当だな」
「僕を見ないでくれよ、僕じゃない!」
「では聞こう。こういうことをする人間に心当たりはないか? 君は学校に詳しいようだからな」
該当する人間を複数知っているのか、風間は何度か「あいつか? いやあいつかもしれない」と呟いて、
「少なくとも僕じゃない」
「…………そうか」
聞くだけ無駄だったな。しかし予想の範囲内の答えだったので、宮田は失望すらせず、ただ受け入れるだけに止めた。
「本来ならすぐに探索を始めたいところだが、先に狙撃手を片付けなければならない。
一応聞いておくが、どこにいるか――――」
ガリガリッ――――ガリガリッ
宮田は言葉を不自然に切り、銃を構える。風間はその後ろに素早く回り、「怖いわけではない」とかなんとか、
誰も聞いていない弁明を述べる。
暗闇から現れたそれ、最初に認識したのは、三角の頭部。
- 32 :罪と罰 ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 14:57:11.46 ID:+DmwpXjz0
- <So what? It makes no difference to me.>
三角頭の男が引き摺る巨大な包丁――これが異音の正体。
「あれは知っているか?」
「あんなの知らないよ!」
風間の絶叫に宮田はそうか、と頷き、医師は両手を挙げてその男に歩み寄る。
「こちらに敵意はありません。私たちはこの異変に巻き込まれた、遭難者です。
もしこの件に関しての知識があるのならば、教えていただけると――」
警告なく振るわれた刃。宮田は持っていた燭台を犠牲にすることで、なんとか攻撃を凌いだ。
与えられた衝撃に逆らわず、大きく下がる。
「やれやれ。どうやら話が通じんらしい」
宮田はため息一つして、恐怖に膝を振るわせている風間を見遣る。
「相手が面倒だ、お前に任せる。時間稼ぎをしていろ」
「え……冗談じゃない! そんなのゴメンだ!」
男はさらにため息をする。だが、これも予想の範囲内だった。
彼は風間のそばに近寄り、肩に片手を置く。
「そうか。それは残念だ」
破裂音、わずかに舞う白煙。
風間の体が、崩れた。
「膝を正確に撃った。自力ではもう立てんよ」
自主的に役に立つ気がないのなら、強制的に役に立ってもらう。
元々爆弾のような存在だったのだ。こちらの都合で破裂してもらう。
宮田は罪悪感の欠片さえ抱かずに、階段へ続く道を急ぐ。
背後から殺到する怨嗟の咆哮など、まるで頓着しなかった。
【真夜中/A-3/雛城高校】
【宮田司郎@SIREN】
[状態]:健康
[装備]:拳銃(5/6発)
[道具]:懐中電灯
[思考・状況]
基本:生き延びて、この変異の正体を確かめる。
0:学校を調べる。
1:変異について詳しい者から話を聞きたい。
- 33 :罪と罰 ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 14:57:52.58 ID:+DmwpXjz0
- <Desperation>
「待て! 待ちやがれ! クソがッ! くそったれがっぁぁあああ!」
同行者は闇に消え、後に残るは痛みと熱と――。
三角頭のみ。
「ヒィッ!? やめろ、やめてくれ!」
早くはない歩み、けれど着実に近づいてくる。
風間は激痛に呻きながら、残りの四肢で逃走を試みる。
開いている窓から身を放り出し、錆びた地面に腹を強か打つ。
「ぐっ……」
無様だった、不格好だった。しかしそれでもよかった。
生きている、死んでいない。今はそれだけでよかった。
と、そこに人の気配。
「だ、誰だ……。いや、誰でもいい、頼むから助けてくれ……!」
俯いていた顔を何とか上げ、懇願する。
そこにいたのは、
『…………ウフフ』
死んだはずの美浜奈保子だった。
「そんな……死んだはず――ギャッ」
驚愕に凍りつく風間を無視し、奈保子は血の涙を流して包丁を突き刺す。
刃は男の頬を貫通し、舌と交わった。
「やめろ! やめてくれ……!」
『フフフ……アハハハ!!』
すぐに両腕で顔を守ろうとするが、彼女の足がそれを許さない。
度重なる腕への蹴り、踏み……その永遠にも感じられた苦痛に、無意識がとうとう防御をやめさせた。
痛みに対する体の防衛本能。しかしそれは護身の放棄でもあった。
- 34 :罪と罰 ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 14:58:30.41 ID:+DmwpXjz0
- 止まらない銀色、止められない狂気。
額が裂け、骨が露出する。
眼球から透明と深紅の液体が飛びだし、頬を彩る。
耳は根元の部分をわずかに残すのみで、あとは地に舞った。
「ウゲッ……ごぼっ……ウガガガ……!」
口中を埋め尽くす体液の中で、男は必死に悲鳴と懇願を述べる。
痛い、やめろ、助けてくれ、許してくれ、お願いだから。
しかし言葉として成立していない以上、常人には通じない。
ましてや人でなくなった存在には――――。
だというのに、その願いは実現する。
救世主が現れたのだ。
『グゲーーーーッ!』
奈保子の体に、突然の出来事。
腹に金属が生え、一気に引き抜かれる。
遅れて噴き出す血流。彼女は痛々しい叫びを上げて、どこかへ消える。
(た、助かった)
風間はその救いに感謝した。
一瞬だけ。
現れた三角頭を認識するまで。
巨大な包丁が男の首を裂く。それは一つの断罪。
【風間望@学校であった怖い話 死亡】
- 35 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 14:59:25.91 ID:+DmwpXjz0
- <Frailty>
「まだ……儀式が失敗したわけでは……ないっ……!」
重苦しい空気の中、牧野は口を開く。
「体さえ、花嫁の体さえ残っていれば、きっと……!」
男は少女の遺体を背負う。止血をしていないので血液が流れ、修道服に赤みが差す。
「お、おい……」
止めさせようとしてジムの肩を、ハリーの手が掴む。
「やらせてやろう」
「でもよぉ」
「ああやって、自分なりの解決策を見つけようとしているんだ。
他人がそれを否定すれば、本当に立ち直れなくなる」
儀式がどれだけ重要なのか、余所者の自分たちにはわからない。
それでも、それがあの男の支えなのだとは、それとなくわかっていた。
「…………」
ジムは首を傾げ、頭を掻いて……やがて深いため息。
「わかったよ、水はささねえ」
「といっても、本当なら埋めてやりたいんだがな」
「だよな……」
女が落とした銃を拾いながら、ジムは頷いた。
牧野は何もせずに佇んでいたが、やがて何かを思いだしたように歩き出し、二人に近づく。
「ここにいても仕方がありません。早く移動しましょう」
「あ、ああ……」
「そうだな、そうしよう」
動ける内に動く。いつ絶望に沈むかわからない男を前に、ハリーは教会、その後に研究所へ行くことを提案・確認する。
手掛かりが何もない牧野に反対する理由はなく、それに賛同した。
- 36 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:00:27.53 ID:+DmwpXjz0
- <Extinction>
「妙じゃねえか?」
「それは今に始まったことではない」
「そうだけどよ……」
「だが、たしかにおかしい」
先頭を歩く牧野の後ろで、ハリーはジムの疑念に同意した。
道中、クリ―チャ―に襲われなかった。それだけなら、幸運だったということで片づく話。
問題なのは、クリ―チャ―が軒並み倒され、その骸を晒しているという状況。
「誰かが殲滅していると考えるべきだろうが、それにしては人の痕跡がなさすぎる。単独でやっているのかもしれない」
「銃が落ちてたってことは、そいつはもう死んだのかねぇ」
暗視スコープのついたウィンチェスターでジムは自身の肩を叩く。
「わからない。だが、死体が見つからない以上、生きてると考えた方がいいんじゃないか?」
「どうだかな。死んでても動く奴はいるからな」
ラクーンシティではそうだった、と話すジムの言葉に、ハリーはさらに悩みを深める。
それに比例して娘への心配が高まり、結局焦燥の材料を増やすだけであった。
「娘さん、教会にいなくて残念だったな」
「別に死んだと決まったわけではないさ」
教会には娘どころか手掛かりさえなかったが、メモは残した。
それにあの子か、あの子の関係者が気付いてくれればいい。
「君は自分の心配をするといい。薬が見つかるといいな」
「そう願いたいね」
ジムはポケットから一枚のコインを取り出し、親指で弾く。
空中で勢いよく回転して下りてきたそれをバシッと手で挟み、開く。
「『表』だ。うまくいくさ」
「そうだな」
橋を渡りきると、三人の眼に警察署が、耳に銃声が飛んできた。
そして、そこには迷彩服を着た人がいた。顔は暗くてよく見えないが、その格好はたしかに軍人である。
「軍か、ありがてぇ」
ジムの表情が明るくなる。
助けが来た、誰も口には出さなかったが、そう思ったことだろう。
「いや、待て。様子がおかしい」
最初に異変に気付いたのは、ハリーだった。
極端な重武装、この場でたった一人しかいない軍人。
そして、無言で銃口をこちらに向ける姿は、どうにも――――。
「伏せろ!」
『ウオオオオオオオオ!』
ハリーと軍人、そして機関銃の叫びが重なる。
- 37 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:01:00.82 ID:+DmwpXjz0
- 反射的に地面を転がる三人の上を弾丸の群れが通り過ぎ、やがて止まる。
どうやら弾切れらしい。
「どこでもいい! 早く建物の蔭へ!」
軍人がリロードする中、ハリーが牧野を引き摺り、ジムがそれに続く。
「あ、美耶子様!」
牧野の視線の先には、置いてきた少女の死体があった。そこは道路の真ん中であり、遮蔽物がまったくない。
「今は諦めるんだ!」
「そんな、花嫁の体が……あれがないと儀式が……!」
ハリーの制止を振り切り、修道服が舞う。
男の手を離れた牧野が遺体のそばに屈むのと、軍人が銃を構えるのはほぼ同時だった。
「よせぇええええええ!」
ハリーの絶叫、ジムの驚愕。
飛び散る血と肉。無慈悲な弾丸に引き裂かれた求導師と修道服。
けれど、
神の意思か男の無意識はわからぬが、
花嫁の御身に傷はなく――――
- 38 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:01:32.94 ID:+DmwpXjz0
- <Dignity>
「ジム、悪いが研究所に行くのは」
「わかってる。どっちにしろ、こいつはここで倒した方がいい」
ショットガンを受け取ったハリーは、敵がこちらに狙いを定めるより速く、車道へ躍り出た。
『ウオオオォォォオオオオ!』
銃身がハリーを追う。しかしそれを別の方向からの銃撃が阻んだ。
「援護には期待しないでくれ! 弾もそんなにねえ!」
ジムの忠告に頷きつつ、ハリーは走る。
長距離戦ではこちらの分が悪い。接近してすぐに決着をつけるしかないだろう。
軍人は赤い涙を流しながら、狙撃をしたジムへと弾をばら撒く。しかし正確な照準ではないそれが、長距離の目標に当たるはずもない。
そこへハリーの射撃。反撃をしようとすればジムの狙撃。あとはその繰り返しだ。
撹乱させる二者の攻撃に、怪物はとうとう痺れをきらしたのか、機関銃を放り出し、
持っていた爆弾を取り出す。それはライフルに取り付け発射するタイプで、
殺傷能力の高さは言うまでもない。
(マズイ)
ハリーは心中で舌打ちし、ウェストポーチを開けてそれを全力で上へ放り投げた。
中のものが宙に舞い、怪物の視界を覆う。それが脅威に思えたのだろう、
迎撃するために、五つのグレネードが高速で発射された。
当たったものは空で爆ぜ、当たらなかったものはハリーの後ろで爆発する。
荷物がどうなろうが問題はなかった。
近づければ、それでよかったのだ。
持っていたショットガンを相手の腹部に密着させ、発砲。
しかし倒れない。踏ん張ることで、衝撃を何とかしているようだ。
弾丸がまるで届いていない。服のあたりでストップしている。
迷彩服が防弾チョッキの役割でもしているのか、それとも中に防弾させる何かがあるのか。
すべて撃っても、自分の手が痺れるだけだった。
『ウォオオオオオ!』
ライフルで殴りかかろうとする敵の手を、役目を終えたショットガンで払う。
しかし小銃は以前握られており、放す気配はない。だが、それでも構わなかった。
相手の意識が手元に集中し、頭部がガラ空きになれば、それでいい。
「こんのぉおおおおお!」
ハリーのハイキックが軍人のこめかみを捉え、頭部を揺さぶる。
ミシミシと頭蓋骨が悲鳴を上げ、首が不自然な方向に曲がった。
膝から力が抜けるようにストンと怪物は下半身を落とし、遅れて上半身が地に伏した。
- 39 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:01:55.89 ID:+DmwpXjz0
- 「…………終わったのか?」
爆発の残した煙に咳き込みながら、ジムが警察署の前までやってきた。
「そうだと思いたい」
ハンドガンに弾を込めるハリー。銃声が止み、再び訪れた静寂。
「…………なぁ、何か聞こえないか」
その静けさの中で、ジムが首を傾げる。
ハリーは自身の耳を覆い、聴覚を研ぎ澄ます。
「何かの足音……?」
- 40 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:02:41.21 ID:+DmwpXjz0
- <Brutality>
「うぅ……」
牧野は生きていた。体を穴だらけにされていても、命は手放さなかったのだ。
「美耶子様は……」
よろよろと伏せていた身を起こし、覆っていた少女を確認する。
そこにあるのは、生命の灯火を失ってはいるものの、生前のままの美しき肢体だった。
「よかっ……った……!」
ごほごほと背中を揺らし、口から血を吐く。
あまり時間は残されていない。早く、早く儀式を成功させなければ……。
儀式が成功すれば、何もかもうまくいく。
臆病な自分とも決別し、村中の尊敬と信頼を得て、
そしてあの人に……八尾さんに……。
ガブリ。
そこまでだった。
視界を埋める赤と、意識を閉ざす黒。
以降、求導師に光はない。
永遠に、ない。
- 41 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:03:34.17 ID:+DmwpXjz0
- <Hindrance>
ついに手に入れた。この殻を手に入れるために、どれだけの苦労を重ねたか。
邪魔な男の亡骸を放り捨て、望みのそれに鼻を近づけようとした時、
無数の光と音がこちらにやってきた。足を折り、弾丸の群れをかわす。
また奴か。あの男には借りがあったな。今ここで清算しておくのも悪くはない。
さきほどより力は強まっている。前回のような失態は……。
覆い被さる影に気付き、咄嗟に跳ぶ。
巨大な刃物が大地を噛み砕き、破片がこちらにまで飛んできた。
三角頭をかぶった人間は、なおもこちらを狙っている。
何の真似だ。あいつらの援軍、あるいは別の勢力……。
どちらにしろ、ここで戦うのは気が進まない。
敵を退けても、殻が壊れてしてまっては何の意味もないのだ。
しかたない、ここは誘導も含めて一旦退こう。
挑発に三角頭へ吼えて、駆けだす。
振り返り、追ってくる敵の向こうにいる殻を一見し、
再開を誓う意味を込め、再度の咆哮。
願わくば、次こそは――――
- 42 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:04:28.55 ID:+DmwpXjz0
- <Blast>
まずい……このままでは。
首が、体がほとんど動かない。再生するにはまだまだ時間が必要なようだ。
しかし、それを待っていられる時間はない。すでに機関銃を奪われてしまっている。
残りの武器もすぐにそうなるだろう。奴らを倒すことは無理でも、どうにかして逃げたり、時間を稼いだりしなければ。
この悪夢を終わらせるためにも……。
持っていた爆薬に信管を付け、放り投げる。
残念ながら奴らのところには届かなかったが、自分が爆発に巻き込まれなければいいので、及第点だ。
信管から伸びるスイッチを押し、爆破。錆びた金属の地面から現れた穴の中に、なんとか自分の体を滑り込ませる。
どうやら地面の下には空間――もしかしたら施設――があったらしい。暗闇は長く深い。それに身を委ねるように眼を瞑る。
着地するまでの間だけでも、休んでいよう。
【永井頼人(屍人)】
[状態]:頭蓋骨陥没、脊髄損傷、肋骨骨折、内蔵破裂、弾創多数(再生中)
[装備]:迷彩服2型、、ライト
[道具]:89式小銃(30/30)、89式小銃(30/30)、89式小銃用弾倉×12
9mm機関拳銃(25/25)、89式小銃用銃剣×2、9mm機関拳銃用弾倉×6
[思考・状況]
基本行動指針:眼に入るもの全てを殲滅
1:目標(呼ばれし者及びクリーチャー)を探し殲滅する
- 43 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:05:02.05 ID:+DmwpXjz0
- <Procedure>
「それで、この後はどうするよ」
犬は三角頭に追われ、軍人は爆発して、どちらもいなくなった。
残されたのは、仲間の死体だけだ。
「せめて、この子を連れていく。ここでは、“今”のここでは埋めてやることもできないからな。
その物騒なものは頼む」
携帯用救急セットで止血をした少女を背負い、ハリーは歩き出す。
「ま、そうなるわな」
ジムは頷き、機関銃を拾い上げる。弾切れの銃を持ち歩く余裕はないので、それらはここに置いていく。
そう、自分たちには余裕がないから、すべては持っていけない。
手の届かないものは、諦めるしかないのだ。
歩き始めた二人の背中を追うものは――――追えるものは、誰もいない。
【牧野慶@SIREN 死亡】
- 44 :Collapse ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/13(日) 15:05:44.96 ID:+DmwpXjz0
- 【深夜/D-2/路上】
【ハリー・メイソン@サイレントヒル】
[状態]:健康、強い焦り
[装備]:ハンドガン(装弾数15/15)、神代美耶子@SIREN
[道具]:ハンドガンの弾:20、栄養剤:3、携帯用救急セット:1、
ポケットラジオ、ライト、調理用ナイフ、犬の鍵、
[思考・状況]
基本行動方針:シェリルを探しだす
1:研究所へ行く
2:機会があれば文章の作成・美耶子の埋葬
3:緑髪の女には警戒する
【ジム・チャップマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:疲労(小)
[装備]:26年式拳銃(装弾数6/6 予備弾4)、懐中電灯、コイン、MINIMI軽機関銃(146/200)
[道具]:グリーンハーブ:1、地図(ルールの記述無し)、
旅行者用鞄(鉈、薪割り斧、食料、ビーフジャーキー:2、
栄養剤:5、レッドハーブ:2、アンプル:1、その他日用品等)
[思考・状況]
基本:デイライトを手に入れ今度こそ脱出
1:ハリーと一緒に研究所へ行く
2:死にたくねえ
3:緑髪の女には警戒する
※T-ウィルス感染者です。時間経過、死亡でゾンビ化する可能性があります。
代理投下終わりです
- 45 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/14(月) 08:40:11.30 ID:K0/Rap1KO
- 代理投下乙でした!
- 46 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/15(火) 12:36:25.34 ID:+SOMgl290
- 月報用データです。
期間 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
2011.01.16〜2011.03.15 80話(+20) 33/50 (- 5) 66.0 (- 10.0)
- 47 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/16(水) 19:47:54.44 ID:O75cZUyu0
- 代理投下します
- 48 :運命の出逢い ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/16(水) 19:48:32.67 ID:O75cZUyu0
- 何故、ここだけが日本の学校なのか。
ハリー達との情報交換で、宮田司郎が疑問に抱いた事はそれだった。
牧野慶。
神代美耶子。
風間望。
ジム・チャップマン。
ハリー・メイソン。
そして自分。
『サイレントヒル』の街でさ迷っていた6人の人間が提供し、共有した情報の中で、
この雛城高校だけが明らかにこの街とはそぐわない、異質な存在だった。
何故、ここだけが日本の学校なのか。
答えは分からない。だが、推測する事は出来る。
もしかしたら、ここは変異と何かしらの関わりがあるのではないだろうか、と。
その疑問を解く為に、宮田はこの場所を調査する事に決めたのだ。
娘を捜すハリーも、ウィルスから逃れる術を求めるジムも、儀式に固執する兄も、
誰も彼もが変異の解明よりも優先する目的がある。宮田にとってそれは都合が良かった。
足手纏いも有効活用出来て、こうして単身で気楽に動けるようになったのだから。
雛城高校の調査で変異に関する何かが見つかるのか。
或いは何も見つからないのか。今はまだ何も分からないが。
何にせよ、全ては、あの狙撃手を始末してからの話だ。
- 49 :運命の出逢い ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/16(水) 19:48:59.80 ID:O75cZUyu0
- 雛城高校・新校舎2F
階段を駆け昇り、2階に到達する。
廊下の左右を見回した宮田の目を引いたのは、突き当たりの教室の上方。
『美術室』と書かれたプレートだった。
「丁度良い」
そう呟くと宮田は迷わずその教室へと歩を進めた。
狙撃手は3階。
安全に校舎を探索するなら早めに始末せねばならないが、彼の武器は拳銃が一挺のみだ。
弾薬にも余裕はない。節約する為にも、代用の武器を見つけたいところだった。
幻視を使い、安全を確認した上で、宮田は教室へと足を踏み入れる。
美術室と美術準備室。2つの部屋で、数十分程の探索。
見付け出した戦利品を、宮田は教卓や机の上に並べた。
「こんなところか」
柄が30cm程の大きめの金槌。鋸。ネイルハンマーなどの工具類。
そして何故かロッカーに入っていた、「際田」と名前の書かれた妙に大きな植木鋏。
まともに武器になりそうな物はそのくらいだった。
他にも画鋲やらボンドやらバケツやらブロンズ像型貯金箱やら――――。
何かに使えそうな物もついでとして置いてある。
だが、これら全てを持ち運ぶ事は出来ない。
持つ事自体は不可能ではないが、流石にかさばり過ぎる。
武器として、道具として持っていく物を、今この中から選ばなければならない。
「ふむ……」
宮田は顎に手を当てた。
さあ、どれを持っていこうか――――。
- 50 :運命の出逢い ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/16(水) 19:49:56.97 ID:O75cZUyu0
- 【A-3/雛城高校新校舎2階・美術室/一日目真夜中】
【宮田司郎@SIREN】
[状態]:健康
[装備]:拳銃(5/6発)
[道具]:懐中電灯
[思考・状況]
基本:生き延びて、この変異の正体を確かめる。
0:さて、何を選ぶか。
1:狙撃手を始末後、学校を調べる。
2:変異について詳しい者から話を聞きたい。
※教卓や机の上には美術室で手に入ってもおかしくない物が並べられています。
表記されてるもの以外にも何か並べられているかもしれません。
834 : ◆cAkzNuGcZQ:2011/03/14(月) 23:30:18
以上で投下終了です。
トワイライトの攻略本見てたら美術室が宮田を呼んでるようにしか見えなかったので書かせて頂きましたw
ご指摘、ご感想頂ければ幸いです。……まあ、今回は感想なくてもいいかw
代理投下終わりです。二本目行きます
- 51 ::Concise ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/16(水) 19:50:53.82 ID:O75cZUyu0
- <Audible>
いつからこうしていたか分からない。
ただ、いつの間にかこうなっていて、ほかにすることがなかった。
だったら、それでもいいのではないか。
そんな考えだ。
二人の仲間と、ここで見張りをし、敵がくれば撃つ。
その繰り返しに、飽きていないと言えば嘘になるが、けれどほかにやることはない。
「!」
二階と三階の間にある踊り場で音がした。
さきほど校内に侵入してきた奴らの仕業だろうか。
仲間の一人に合図をして、現場へ急ぐ。
そこにあったのは、壊れたブロンズ像だった。
貯金箱になっていたらしく、硬貨をぶちまけている。
――金。
少しくらい、もらっていっても構わないだろう。
そんな囁きが胸に響く。仲間がついてきていないのを確認し、
そこにしゃがんで銭貨へと手を伸ばす。
――――強い衝撃を頭部に受けたのは、その時だ。
- 52 ::Concise ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/16(水) 19:51:44.59 ID:O75cZUyu0
- <Ruthless>
昏倒(普通なら即死なのだが)させた狙撃手から銃を奪い、
宮田は三階へ上がる。あの奇妙な能力のおかげで、残りの敵のだいたいの位置、視野、装備は確認済みだ。
そのため、索敵も照準も容易かった。
一発目――――最初にこちらに気付いた者の腹を撃つ。
二発目――――腹を抑え、後ずさるところへ追撃。今度は心臓部に着弾。目標はそのまま仰向けに倒れた。
三発目――――ようやく窓からこちらを向いた間抜けな顔に命中。弾丸は鼻の穴を一つにまとめ、後頭部から出ていった。
殲滅し、狙撃を止めた宮田は、死骸と血液が織り成す惨状を見回し一言。
「こんなところか」
839 :Concise ◆qh.kxdFkfM:2011/03/15(火) 00:44:57
【A-3/雛城高校新校舎3階/一日目真夜中】
【宮田司郎@SIREN】
[状態]:健康
[装備]:拳銃(5/6発)、ネイルハンマー、二十二年式村田連発銃(5/8発)
[道具]:懐中電灯
[思考・状況]
基本:生き延びて、この変異の正体を確かめる。
1:学校を調べる。
2:変異について詳しい者から話を聞きたい。
代理投下終了。三本目行きます
- 53 :ネクタール ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/16(水) 19:52:56.35 ID:O75cZUyu0
- 自信は、ある。
文字通り脳に叩き込まれた敗北の記憶。あの時のような失態は、今なら犯さない。
ここに到達するまでの速度、すなわち脚力も今までとは比べ物にならない。
あの男に借りを返すだけの能力は、今の自分は充分に持っているはずだ。
男が次、またも邪魔しようとも、殻は必ず手に入れられる。
それだけの自信はある。自惚れや驕りなどではない自信が、確実にある。
だが、それでも。
「彼女」はあの男を侮る事はしない。強敵を侮る事はしない。
拳銃や猟銃よりも圧倒的な量の弾丸を放つ銃を、あの男は手に入れていた。仲間もいた。
ならばこちらも、それ相応の力を身につけなくてはならない。
確実に奴を仕留めるのならば、己に出来る事をせねばならない。万全を期さねばならない。
故に「彼女」は、この場所に来た。
三角頭。
あの鈍重な敵を、適当に誘導した後、ものの数秒であっさりと振り切って。
力を求めてこの場所まで駆けて来た。
あの同族に似た死なない男が殲滅していた、クリーチャー達の大量の死骸。
「彼女」にとっては貴重な成長の源が溢れている、この場所まで。
【 ケルブ 】 サイレントヒル 路上 0時59分57秒
【 ケルブ 】 サイレントヒル 路上 0時59分58秒
【 ケルブ 】 サイレントヒル 路上 0時59分59秒
【 ケルブ 】 サイレントヒル 路上 1時00分00秒
- 54 :ネクタール ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/16(水) 19:53:53.87 ID:O75cZUyu0
-
ウウゥゥゥゥウウウウウウウウウウーーーーーー……………………
耳慣れているようで、それでいて何処か違うような気もする。
そんなサイレンが、鳴り響いた。
食事はとうに終えていた。
限界まで成長し、それ以上の進化を遂げる事が無くなった新しい身体。
ケルブは空を見上げ、喉を張り、遠吠えを上げた。
どうしてそんな事をするのか。自分でも良く分からない。
ただ、殻の遠い遠い記憶に従っただけの、生理現象に近い。
それでも、止めようとは微塵も思わなかった。
二度目の変貌で蠢いている街の中に、猛獣の遠吠えが反響していた。
【B-3/北部/二日目深夜】
【ケルブ(闇人)】
[状態]:ケルブ乙式
[装備]:黒い布切れ
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動指針:美耶子の殻の確保
1:殻を確保
2:邪魔者は殺す
3:邪魔にならない者はどうでもいい
※乙式に変化しました。具体的は外見や大きさは後続の書き手さんに一任します。
※成長は止まりました。これ以上の身体の巨大化はしません。
※乙式に変化したことでTウィルスがどうなったのかは後続の書き手さんに一任します。
※B-3北部にあったクリーチャーの死骸は全てケルブが食べました。
※二度目のサイレンは二日目深夜1時00分になりました。
どの様な現象が起こるかは後続の書き手さんに一任します。
代理投下終わりです。これで全部です
- 55 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/16(水) 22:24:55.49 ID:NI1fq6ra0
- 代理投下お疲れ様でした! 収録も完了です。
- 56 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/20(日) 19:51:19.76 ID:RcBlO5Pm0
- 代理投下します
- 57 :犬とふたりとときどき、警察署 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/03/20(日) 19:52:22.38 ID:RcBlO5Pm0
- 警察署地下にて……
「……暗いですね」
「仕方ないだろう。地下でその上最低限の電飾しかない」
須田恭也と三沢岳明の二人は地下室まで来ていた。
通信設備を入手するためにだ。
二人は検死室の前に来ていた。
ガチャガチャ……
「開きませんね」
「扉を銃で破壊するのも手だが、得策ではない。探索する過程で開く鍵があるかもしれない」
「そうですね」
検死室の奥に扉があり、これに鍵はなかったため入ることにした。
ゆっくりと扉を開け、敵がいないか警戒する。
銃を構えながら曲がり角まで歩き、角から敵がいないか観察する。
しかし、敵どころか道も途切れていた。
床に円状の何かがあるが、マンホールだと二人は判断し、廊下に引き返した。
次に訪れたのは変電室だ。
恭也は鍵が開いてることを確かめる。
「……鍵が開いてます」
「そうか、調べるぞ」
「分かりました」
中は古い事を除けば普通の部屋だった。
部屋を探して収穫は二つあった。
一つはこの警察署地下の地図。
二つ目は不自然な機械、電力操作パネルだ。
「あれ?これ……なんですか?」
「予備電力操作パネルか……君はここの部屋の探索をしてくれ、これは私がどうにかする」
「分かりました、変な物には触らないようにした方がいいですよね?」
「ああ、何が起きるか分からない。何か使えそうな道具がないか調べてくれ」
三沢が調べている間に恭也は道具を探したが。
「何にもないな……」
銃の弾も、ロープなどの便利な物もなかった。
「終わりましたか?」
恭也が三沢の所に向かいながら問う。
「ああ、……よし」
どうやら成功したようだ。
- 58 :犬とふたりとときどき、警察署 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/03/20(日) 19:52:56.54 ID:RcBlO5Pm0
- 「これでどこかが空いているかもな」
「さっきの部屋、検死室ですかね」
「あれは電子ロックじゃなかった。普通の鍵ではないと開かないだろう」
「とりあえず次はどこを調べますか?」
「武器庫、だな。弾の補充がしたい」
「何かあるといいですね」
「……その前に開いてるかも分からないけどな」
武器庫はすんなりと開いた。
「さっきの機械で開いたんですかね?」
「………かもしれないな」
武器庫には弾薬、武器があった。
ハンドガンの弾60発、マグナムの弾8発、そして
「マシンガン……ですね」
マシンガン、イングラムM10だ。
「それは君が持っていてくれ」
「いいんですか?」
「いらないのか?武器は多いほうがいいはずだ」
「………ありがたく使わせてもらいます」
しかし
「く、お、重いんですけど……」
「………」
結局イングラムM10は三沢が持ち、マシンガンの弾もしまう。
マグナムの弾は三沢が、ハンドガンの弾は恭也が持つことになった。
他に武器がないか探したが。
三沢が見つけたのはサイドバックだけだった。
「……これも念のために持っていくか」
バックにしまい、三沢が恭也に声をかけ武器庫を後にした。
次に向かったのは駐車場。
「車、すごい量ですね」
「ああ、でも今は調べる必要もないだろう」
二人はそこを調べずに通り過ぎた。
- 59 :犬とふたりとときどき、警察署 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/03/20(日) 19:53:58.26 ID:RcBlO5Pm0
- 二人はさらに奥に向かった。
奥は分かれ道で、近くの扉の方に二人は入った。
「…………なんだここ」
「犬舎らしいですね」
「犬か……まあ、居ても大概腐ってるだろうな」
恭也が鉄格子の中を覗き込んだ。
「っ!しゃがめ!」
「え?」
鉄格子の中から勢いよく犬が二匹抜け出した。
片方は三沢が命中させて殺したが、
「うわぁ!!」
残りの一体に恭也は倒されてしまい、犬に食われそうになってしまった。
「や、やめろ!離せよ!このっ!」
犬が恭也を食い殺そうとするその瞬間、犬の頭が吹っ飛んだ。
「………」
「大丈夫か………ん?」
「………」
「気絶でもしたのか?」
「あ、ありがとう、ございます、助かり、ました」
「いや、気にする事はない、どこかやられてないか?」
「大丈夫、です」
「そうか、ここには何もありそうにないな……行くぞ」
三沢が歩き出した。
二人は、その後留置所に行ったが、通信施設はなかった。
「……どうしますか?」
「とりあえず、駐車場で使えそうな車を探すぞ」
「わかりました」
その後再び駐車場へ。
「パトカーは全滅ですね」
「よし、他の一般用の車両で動くものが無いか調べてきてくれ」
「あ、はい」
そして、恭也と三沢はそれぞれで動く車がないか調べ始めた。
- 60 :犬とふたりとときどき、警察署 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/03/20(日) 19:54:36.34 ID:RcBlO5Pm0
- 【D-2/警察署/一日目夜中】
【須田恭也@SIREN】
[状態]軽い疲労
[装備]H&KVP70
[道具]懐中電灯、グレネードランチャー(1/1)、ハンドガンの弾(140/150)、硫酸弾(6/6)
[思考・状況]
基本行動指針:危険、戦闘回避、武器になる物をを持てば大胆な行動もする。
1.この状況を何とかする
2.自衛官(三沢岳明)の指示に従う
3. 使えそうな車を駐車場で探す
【三沢岳明@SIREN2】
[状態]健康(ただし慢性的な幻覚症状あり)
[装備]マグナム(7/8)、防弾チョッキ2型
[道具]照準眼鏡装着・64式小銃(20/8)、ライト、弾倉(3/3)、精神高揚剤、グロック17(17/17)、ハンドガンの弾(22/30)、マグナムの弾(8/8)、マシンガン(15/30) 、マシンガンの弾(30/30)、サイドパック
[思考・状況]
基本行動指針:現状の把握。その後、然るべき対処。
1.民間人を保護しつつ安全を確保
2.永井頼人の探索
3.どこかで通信設備を確保する
4. 駐車場で使えそうな車を探す
※サイドパックを持った事でより多くの物を持てるようになりました。
【アイテム情報】
マシンガン@バイオハザード
イングラムM10(MAC11)。大型の放熱カバーを装着し、.380ACP弾を使用する。
1発当たりの攻撃力はハンドガンよりも弱く、特にゾンビやG生物に対しては効果がやや低い。
連射性能と射撃範囲に優れるので制止力が高い。
リッカーや大クモなども離れた位置から水平連射するだけで、無抵抗のまま倒すことができる。
隙も小さく、素早い立ち回りができるため万能の武器だが、弾薬の消費は速い。
投下終了です。続けて二本目
- 61 ::神が待ってる ◇hr2E79FCuo 代理:2011/03/20(日) 19:55:22.75 ID:RcBlO5Pm0
-
殺す!
何としても、誰であろうと、どんな手段を使っても!
神のために!
殺す!皆殺しだ!
そうと決まればいつまでもこんな部屋にはいられない!
殺すの!参加者を見つけて!一人残らず!
神が待ってる!!
◆ ◇
八尾は部屋を飛び出す。
他の参加者を殺すために。
殺し尽くして、神を降臨させるために。
飛び出した。
飛び出した先は通路。
一面に大量のストレッチャーが放置されており全てのストレッチャーに布が張り付けられていて、どれも人型に膨らんでいる。
実際に見てみないとわからないが布の下には人間だったモノがあると推測される。
だが死体だとすれば赤い水や屍人の気配を感じないことや、いくらなんでも多すぎるストレッチャーが気になったがそれはそういうものなのだろうと割り切ることにした。
必要なのは行動であり、推理ではないのだ。
- 62 ::神が待ってる ◇hr2E79FCuo 代理:2011/03/20(日) 19:55:53.78 ID:RcBlO5Pm0
- 通路の片側は金網になっているがこれもただの行き止まり。興味の対象にはならない。
そして金網の反対側。
奇妙な程規則正しく並べられたストレッチャーの中には、一体のゾンビがいた。
囲われているゾンビなど倒す必要も逃げる必要もない。
外側から見れば囲いは容易に崩す事ができそうだが内側からでは難しいのか、それともゾンビにそれほどの知恵は無いのかその場から進むことができずに足踏みを続ける形になっていた。
足踏みのスピードを見るに全体的に動きは早くはない。
この程度の早さならば苦もなく倒すことができると踏んだが。
「時間の無駄ね…。」
時間などは腐る程あるが、神の降臨を目前にしてこの試練の…神への生け贄以外に構う必要など無い。
足踏みを続けるゾンビを無視して八尾は研究所からの脱出を試みた。
◆ ◇
結果から言えば八尾は元の通路に戻ってきた。
研究所からの脱出に失敗したのだ。
神降臨を望む強い意志。
それを叶えるチャンス。
その二つを胸に研究所の探索を開始した。
しかし八尾は文字通り壁に突き当たってしまった。
どの通路を進んでも最終的には行き止まりに辿り着いてしまう。
- 63 ::神が待ってる ◇hr2E79FCuo 代理:2011/03/20(日) 19:56:33.16 ID:RcBlO5Pm0
- 々行き止まりになっている通路、瓦礫や器具などの障害物が積み重なって行き止まりを構成している通路。
通路は全てこのどちらに属していた。
後者は障害物をどかす事ができれば先に進むこともできたのだろうが、八尾にそのような腕力は無くおとなしくUターンするしかない。
一ヶ所壁ヒビが入っている箇所があったため骨を拾いそれで叩いてみたものの、少し崩れ中からいやに短い鉄の筒一本出てきただけであった。
どちらも一応回収したものの収穫があったとは言えない。
意気消沈した八尾が通路に戻ってきてもゾンビは足踏みを続けている。
研究所から出ることができなければ誰も殺せない。
殺すことができなければ神の降臨も叶わない。
念願が手の届くところにぶら下がっているのに、足踏みをするしかない現状。
目の前の間抜けなゾンビと同じ。
八尾の心に怒りが満ちる。
満ちて、溜まって。
八尾はゾンビを囲うストレッチャーを一つ掴み乱暴にはね除ける。
ストレッチャーの檻に穴ができるとゾンビは目標に向かって前進する。
八尾は身構え、ゾンビが近付くのを待つ。
溜めて、溜めて、溜めて。
射程圏内に入った瞬間。
爆発する。
- 64 ::神が待ってる ◇hr2E79FCuo 代理:2011/03/20(日) 19:57:02.70 ID:RcBlO5Pm0
- 先程拾った骨がゾンビの顔面にめり込む。
顔面を殴られたゾンビは仰向けに倒れ、そこに八尾が馬乗りになる。
そして。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
上から、横から、斜めから。
何度も何度も。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
止まることなく振り続けられる骨は、ゾンビの崩れかけた肉、その下に残る骨、全てを砕いていく。
ゾンビも反撃を試みるものの、その緩慢な動きは全て潰されてしまう。
すぐにゾンビの動きは止まった。全身が潰された今動くことなど叶わない。
それでも八尾の攻撃は止まらない。
人の形を砕いていく白髪の老婆。
その姿は、誰かが見ていれば怪談として語り継がれたことだろう。
- 65 ::神が待ってる ◇hr2E79FCuo 代理:2011/03/20(日) 20:00:21.68 ID:RcBlO5Pm0
- ◆ ◇
ゾンビの上半身が飛び散り、跡形も無くなるとビン底でわずかに残った肉片を潰して腕を止める。
骨は殴っている途中に砕けてしまったため、研究室で拾った薄い黄色の液体の入ったビンに持ちかえていた。
よろよろと立ち上がり、目を閉じる。
再び目を開いたとき、その目は別人のそれであった。
閉じる前には神の降臨という希望に目を輝かせていたが、今の目にその輝きは無い。
上半身の砕け散ったゾンビの残骸。
そのゾンビの肉片を浴びている自分。
全てはが自分で行ったことだが人格が交代してしまっために事態が理解できなかった。
神の降臨という目的の無い人格が出ることにより非現実的な惨状に取り残される白髪の老婆。
肉片を全身に纏い目を丸くするその様は、また一つの怪談となれる姿であった。
【八尾比沙子@SIREN】
[状態]半不死身、健康、人格が変わったことによる混乱、???
[装備]白ワイン(?)の入った瓶(サイレントヒル4)
[道具]ルールのチラシ、サイレンサー
[思考・状況]
基本行動方針:神が提示した『殺し合い』という『試練』を乗り越える。
1:???
2:???
3:???
※須田恭也が呼ばれている事を知りません
代理投下終わりです
- 66 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/22(火) 09:44:12.78 ID:88ZinlwX0
- 代理投下します
- 67 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 09:45:23.97 ID:88ZinlwX0
- ----------------------------------------------------------------------
◆◆
七◆
◆
◆
◆
◆
ぼくは――――――
⇒ 小暮さんの後を追うことにした
梨花ちゃんを連れて素早く避難した
◆ 何もかも諦めて梨花ちゃんとこの街で暮らすことにした
----------------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------------
◆◆
六◆
◆
◆
◆
◇ パリーン
ぼくは――――――
小暮さんの後を追うことにした
梨花ちゃんを連れて素早く避難した
ピッ⇒ ◆ 何もかも諦めて梨花ちゃんとこの街で暮らすことにした
----------------------------------------------------------------------
- 68 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 09:45:45.07 ID:88ZinlwX0
- 何もかも諦めて梨花ちゃんとこの街で暮らすことにした。
そうだ。それがいい。難しい事に頭を悩ませるのはもう止めよう。
逆に考えるんだ。
この街から出られないというなら、出なければいいんじゃないか。
ここがどんなに酷い環境の街でも、住めば都という言葉もある。
梨花ちゃんもいるんだ。さみしくはならないだろう。
ここで梨花ちゃんと二人、幸せに暮らす。
ああ、きっと楽しい生活になるだろう。
うん、そうと決めたら気が楽になってきた。
これから待っている新しい環境に胸の高鳴りを覚えつつ、
ぼくは梨花ちゃんの手を取って、この暗闇へと溶け込んで…………
【風海純也@流行り神 現実逃避】
総合評価 Dクラス
――――――――――――
特別編 サイレントヒル 完
- 69 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 09:46:20.13 ID:88ZinlwX0
-
……………………………………いや、待て。
- 70 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 09:47:28.61 ID:88ZinlwX0
- そんな事、出来るわけがないじゃないか。
こんなおかしな街で一生暮らすなんてまっぴらだ。何を考えているんだぼくは。
さっきみたいな怪奇現象を体験して気が滅入ってしまっているのだろうか?
いけない、いけない。妙な思考に捕われちゃだめだ。自分をしっかりと保たなければ。
そう……自分を保つんだ。客観的に考えろ。
この状況でぼくがやらなくてはならない事は――――捜索と救出だ。
人見さんや兄さんや梨花ちゃんの友達だけじゃない。
名簿を信用するならもっと多くの人々が国籍を問わず殺し合いに巻き込まれているんだ。
警察官として、出来る限り大勢を救出してこの街から脱出させる義務がぼくにはある。
一体どんな理由があればこれ程の現象が起きるのか。気になるところだけどこの際それは無視だ。
ここの住人、名簿に掲載されていない人の安否も規模も不明だが、今はこれ以上の情報がない。
当面はこの名簿の名前に該当する人物の救出を目標にして、自分に出来る範囲の事をやろう。
捜索と救出。
となれば――――――――やはり、ぼくは小暮さんの後を追うことに決めた。
今はどうしても人手が必要だ。それも誰でもいいというわけじゃない。
さっきの警察署での様な事態が起きている事も考慮すれば、
協力を仰ぐ相手は信用のおける人物でないとならない。
だから、小暮さんがいいんだ。
小暮さんなら殺し合いに乗ったり暴動を起こしたりという事は絶対に無い。
そんなに長い付き合いじゃないけど、それだけは断言できる。彼なら無条件で信用できる。
ただ、そこで問題となるのは小暮さんに怯えてしまっている梨花ちゃんだ。
普段から小暮さんが子供に懐かれない体質なのはよく知っている。
ゆうかさんによれば、以前小暮さんの勤務していた乾署管内でよく子供たちに目撃された不審者「怪人・デカおじさん」の正体は小暮さんなのだそうだ。
そんな噂が立つ程までに、小暮さんの外見や迫力は子供との相性が悪い。
今みたいな緊急事態でまでその体質を遺憾無く発揮しなくてもいいと思うのだが、まあそれは仕方ないとして、とにかく警戒しなくてはいけないのはそれの怯えによる梨花ちゃんの『鬼化』だ。
もしも今無理矢理に小暮さんと合流しようとすれば、
梨花ちゃんの不安な気持ちを強く刺激して、『鬼化』という最悪の暴走に発展しかねないんだ。
『鬼』の危険性はこの身に刻み込まれている。あんな暴走だけは絶対に起こしてはならない。
だからここは梨花ちゃんに「小暮さんがどれだけ信用に足る人物なのか」をきちんと伝え、
不安を取り除いてあげないといけないだろう。小暮さんとの合流はその後だ。
ということで、建物の陰からガソリンスタンドの入口を伺いつつ、ぼくは小暮さんの良いところを思いつく限り梨花ちゃんにアピールした。
あんな見た目をしているけど中身は実直そのもので正義感溢れる好青年だということを。
あんな見た目をしているけどアイドルが大好きでファンクラブに入ったりもする意外な一面を持つということを。
あんな見た目をしているけど怪談やお化け、流血沙汰が大の苦手だということを。
あんな見た目をしているけどまだ27歳独身で毎日のコンビニ弁当に侘しさを覚えていてお嫁さん募集中だということを。
………………まあ最後のは果てしなくどうでも良かった気がしないでもないが。
- 71 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 09:49:53.70 ID:88ZinlwX0
- ともあれ、ぼくの訴えはどうにか梨花ちゃんの心に届いてくれたらしい。
梨花ちゃんの強ばっていた表情は、段々と綻び始めていた。
「……小暮さんが信用できるって、分かってくれたかな?」
「……まだなのです」
あれ? まだ届いていなかったか……。
それなら……喫茶店ではストロベリーパフェを好んで食べたりする話なんかどうかな?
「でも、風海が小暮を大好きなことは、うーーーーんっと伝わってきたのですよ」
……しなくて済んだようだ。
梨花ちゃんは笑顔でそう言った。そんな風に言われると少しむず痒いけど。
だけど……それならそれで疑問は残る。
「ありがとう。でも、だったらどうしてまだ信用できないなんて言うんだい?」
「信用できないのでは……ないのです」
ぼくの言葉に、梨花ちゃんは途端に顔を曇らせた。
その表情から見て取れるのは怯えというよりも迷いの色だ。
何かを言おうと口を開いては思いとどまり目を伏せて、を繰り返している。
やがて心を決めたのかぼくの目を真っ直ぐに見据えると梨花ちゃんは言った。
とても真剣な顔で。どこか悲痛な面持ちで。
「信用できないんじゃない。でも……信用してもらえないんじゃないかって。
これから私が話すことは、全て本当のこと。私達の命に関わること。
……風海は私を信用してくれる?」
これはさっきも聞いた彼女の素の口調だ。
無邪気な仮面に隠していた、見た目には似付かわしくない大人びた本性をさらけ出し、梨花ちゃんはぼくに質問する。
その仮面にどんな事情があるのかは分からないけど、それだけ彼女は本気で伝えたいことがあるのだろう。
ここはぼくも相応の態度で応対しなくてはいけない。
ぼくは頷き、真意を確かめるようにぼくの目を覗き込む梨花ちゃんの視線を受け止めた。
ほんの少しの逡巡を見せ、梨花ちゃんはゆっくりと切り出した。
その内容は実に驚くべきものだった。
ワゴン車の側で死んでいた男性。
赤坂さんというらしいが、あの人は梨花ちゃんの知り合いなのだという。
梨花ちゃんにとって赤坂さんは、ぼくに対する小暮さんのように信頼のおける人だったらしい。
そんな人が命を落としてしまったのか――――と驚き、悲しんだのは早計だった。
驚くべきことは次だ。
なんと彼はこの街で怪物へと変貌を遂げてしまっていたと言うのだ。
そして襲いかかられ、已む無く抵抗し、殺害してしまったところでぼくが来た、というわけだ。
- 72 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 09:55:16.36 ID:88ZinlwX0
- 「そういうことだったんだ……」
「こんな突拍子も無い話……信じて、くれるの?」
「人が怪物のように変貌する事態には免疫があってね。……尤も、慣れたくなんてなかったけど」
正直簡単に信じられることじゃないけど、ぼくは知っている。
コックリさん事件の神山由佳。
鬼事件の安西聡子。
チェーンメール事件の川原ミユキ。
いずれも人の能力を超えた怪力を見せつけた犯人達。
赤坂さんの身に何が起こったのかは分からないけれど、彼等のような『何か』が起きてしまったのだろう。
そして梨花ちゃんは小暮さんにも同様の『何か』が起きているように見えたらしい。
なるほど、ただ小暮さんの外見に怯えてただけじゃないってわけだ。
あの小暮さんに限ってそんなことは……と言いたいところだけど、
残念ながらこればかりはぼくにも否定できる要素が無い。
こうなれば確かめる方法は実際に接触するしかないかもしれないけど、
万が一小暮さんが怪物へと変貌していたら梨花ちゃんを危険に晒してしまうし、梨花ちゃんも暴走してしまう危険性も依然存在する。
だけどもしもいつも通りの小暮さんだったら合流しないのは……。
「風海!」
考えを巡らせていると梨花ちゃんが小声でぼくを呼んで腕を引っ張った。
いつの間にかガソリンスタンドから小暮さんが外に出てきていたのだ。
建物の陰から顔だけしか出していなかったぼくには気付かなかったようで、
小暮さんはそのまま南の方角へとゆっくりと歩き始めた。
駄目だ、考えている時間がない。
「梨花ちゃん、ちょっとバッグを貸してくれるかい?」
「……?」
ぼくは梨花ちゃんのバッグを拝借し、中を覗いた。
さっきの家で梨花ちゃんはバッグの中身をテーブルの上に広げていたけど、
その時に「暗視スコープ」が置かれていたのをぼくは記憶している。
バッグの主がどうしてこんなものを持っていたのかは知らないが、あるものは有効に使わせて頂くとしよう。
ぼくは梨花ちゃんの怪訝そうな視線をよそに暗視スコープを取り出すと、
どうにか装着して建物の陰からそっと顔を出した。
遠ざかって行く小暮さんの姿がはっきりと見える。よし、これならばっちりだ。
「何をする気?」
質問と共に後ろからスーツが引っ張られる。
振り返れば梨花ちゃんが困惑したようにぼくを見上げていた。
- 73 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 10:00:19.16 ID:88ZinlwX0
- 「これから小暮さんを尾行するんだ」
驚く梨花ちゃんに、ぼくは説明を続けた。
現状ではぼく達には小暮さんの状態にはっきりとした答えは出せそうにない。
だから小暮さんが安全か危険かはっきりするまで彼を尾行することにするんだ。
ただ、考えたくはないがもしも小暮さんが怪物化しているのならば
尾行がばれた時には梨花ちゃんの危惧するように命に関わる事態になる。
そこでこの暗視スコープが役に立つ。
これを使えば遠距離から気付かれずに尾行ができるし、
距離を保っていれば例え気付かれても逃げ切ることはできるだろう。
問題は小暮さんの状態がいつどんな時にはっきりするのか全然分からないことなんだけど……そこまで考えている時間は無い。今は追いかけよう。
ぼくは一応の納得を見せてくれた梨花ちゃんと小暮さんを尾行することにした。
そして――――――――
「これでどうかな?」
暗視スコープを梨花ちゃんに渡して小暮さんの様子を見せる。
経緯はよく分からないけど、暗視スコープの中の小暮さんは1人の女性と遭遇し、
しばらくするとその女性をおぶって歩き始めた。
女性と遭遇した時点で分かっていたことだったけど、これで少なくとも小暮さんが怪物になってしまったなんて心配はもういらないだろう。
あの小暮さんはやっぱりいつもの小暮さんだ。
梨花ちゃんが頷いてくれたことを確認すると、ぼく達は急ぎ足で小暮さん達に近付いた。
気配に気付いたらしく、小暮さんは足を止めて振り返った。
恫喝する様なその視線は、ぼく達の距離が縮まるにつれて驚きのものに変わっていく。
「小暮さん」
ぼくは呼びかけ、いつもの挨拶みたいに手を振った。
小暮さんは真赤な顔をポカンとさせていた。
- 74 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 10:01:00.09 ID:88ZinlwX0
- 【C-3/路上/一日目夜中】
【風海 純也@流行り神】
[状態]:健康、梨花に対する警戒心
[装備]:拳銃@現実世界
[道具]:御札@現実、防弾ジャケット@ひぐらしのなく頃に、防刃ジャケット@ひぐらしのなく頃に
射影器@零〜zero〜、自分のバッグ(小)(中に何が入っているかはわかりません)
[思考・状況]
基本行動方針:サイレントヒルの謎を解き明かし、人見さんたちと脱出する。
0:小暮さんに話を聞く。
1:人見さん、兄さん、梨花ちゃんの友人を探す。
2:出来る限り多くの人を救出して街を脱出する。
【古手 梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康、L3-、鷹野への殺意、自分をこの世界に連れてきた「誰か」に対する強烈な怒り
[装備]:山狗のナイフ@ひぐらしのなく頃に、山狗の暗視スコープ@ひぐらしのなく頃に
[道具]:懐中電灯、山狗死体処理班のバッグ(中身確認済み)、名簿
[思考・状況]
基本行動方針:この異界から脱出し、記憶を『次の世界』へ引き継ぐ。
0:大丈夫みたいだけど、やっぱり少しだけ不安。
1:自分をこの世界に連れてきた「誰か」は絶対に許さない。
2:風海は信用してみる。
※皆殺し編直後より参戦。
※名簿に赤坂の名前が無い事はそれほど気にしていません。
- 75 :Courage point ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/22(火) 10:01:48.24 ID:88ZinlwX0
- 【小暮宗一郎@流行り神】
[状態]:満腹、霧絵を背負っている、ポカン
[装備]:二十二年式村田連発銃(志村晃の猟銃)[6/8]@SIREN、氷室霧絵@零〜zero〜
[道具]:潰れた唐揚げ弁当大盛り(@流行り神シリーズ)、ビニール紐@現実世界(全て同じコンビニの袋に入ってます)
[思考・状況]
基本行動方針:目下、凶悪犯の逮捕と一般市民の保護。
0:やや!? やややや!?
1:一般市民の捜索と保護。
2:日野と老人を逮捕する。
3:警視庁へ戻って、報告と犬童警部への言い訳。
4:何かが起こっている気がしなくもないが……あまり考えたくはない。
※霧絵から「零〜zero〜」で起こったあらましを聞きましたが、信じたくありません。
※ここでのルールを知りましたが、信じたくありません。
【氷室霧絵@零〜zero〜】
[状態]使命感、足の爪に損傷(歩行に支障あり)、疲労(中)、小暮に背負われている
[装備]白衣、提灯@現実
[道具]童話の切れ端@オリジナル、裂き縄@零〜zero〜
[思考・状況]
基本行動方針:雛咲真冬を捜しつつ、縄の巫女の使命を全うする。裂き縄の呪いは使わない。
0:この方々は?
1:小暮と共に人を捜し、霊及び日野の危険性を伝える。
2:真冬の情報を集める。
3:黄泉の門の封印を完ぺきにする方法を捜す。
代理投下終わりです 続けて二本目
- 76 :屍とふたりとときどき、駐車場 ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/22(火) 10:13:55.33 ID:88ZinlwX0
- <隊長! 空から自衛官が!>
しかし、いくら調べてもまともに動きそうな車はない。
それも当然である。動くのであれば、とっくに避難なり応援なりに活用しているだろうから。
「修理すればどうにかなるかもしれないが……」
工具や材料がない。つまり、修理するとしても、それを調達しなければならないのだ。
そんな余裕が自分たちにあるわけがない。
「他の場所を探しますか?」
「そうだな」
恭也の提案に三沢は頷き、移動を始める。
そこへ、爆発音と微弱な振動。
上の階――地上で何かが爆発したのか?
そんなことを考えていると、少し離れた天井が崩れ、建材が廃車や死体に降り注ぐ。
「ガス爆発か何かでしょうか」
「いや、それならあれだけ分厚い層は砕けん。おそらくは、高性能爆薬による発破だ」
ガスの漏洩なら、下りる前に気付けたはずだ。
気付けない程度の量の燃焼ならば、床を焼くくらいで、ここまで届きはしない。
遅れて、何かが落ちてくる。それはボンネットを跳ね、地面を転がった。
土と埃にまみれてはいるが、ここからでも何とか人と判別できる。
(まさか……)
三沢は内心で驚愕しつつ、あくまで冷静にそちらへ向かう。
見慣れた迷彩服、装備、姿…………。
そこにいたのは、行方知れずの部下だった。
- 77 :屍とふたりとときどき、駐車場 ◇qh.kxdFkfM 代理:2011/03/22(火) 10:16:47.18 ID:88ZinlwX0
- 【D-2/警察署/一日目深夜】
【須田恭也@SIREN】
[状態]健康
[装備]H&K VP70(18/18)
[道具]懐中電灯、グレネードランチャー(1/1)、ハンドガンの弾(140/150)、硫酸弾(6/6)
[思考・状況]
基本行動指針:危険、戦闘回避、武器になる物を持てば大胆な行動もする。
1.この状況を何とかする
2.自衛官(三沢岳明)の指示に従う
【三沢岳明@SIREN2】
[状態]健康(ただし慢性的な幻覚症状あり)
[装備]マグナム(7/8)、防弾チョッキ2型
[道具]照準眼鏡装着・64式小銃(8/20)、ライト、弾倉(3/3)、精神高揚剤、
グロック17(17/17)、ハンドガンの弾(22/30)、マグナムの弾(8/8)、
マシンガン(15/30) 、マシンガンの弾(30/30)、サイドパック
[思考・状況]
基本行動指針:現状の把握。その後、然るべき対処。
1.永井頼人なのか……?
2.民間人を保護しつつ安全を確保
3.どこかで通信設備を確保する
代理投下終わりです
- 78 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/27(日) 12:52:33.02 ID:KLJtvSK40
- 代理投下します
- 79 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 12:53:14.97 ID:KLJtvSK40
- (一)
絶え間ない振動に、つり革がゆらゆらと揺れる。
赤錆で汚れた車内というものは、留まっていて気持ちのいいものではない。調子に乗った若者の落書きが、高尚な芸術に見えてくるほどだ。
ケビンは壁を背に、大きく吐息を吐いた。貫通扉の窓から見えない座席にともえを座らせるジルをちらりと見て、隣の車両に意識を集中する。
声や衣擦れの音すらしない。無論、そういったものは走行の際の騒音で紛れてしまうものだが、気配というものは消せない。
そこに人が在るという存在感は、得てして壁すらも通り抜けて伝わってしまうものだ。ましてや、鮨詰めになるほど乗っている車両ならば尚のことだ。
ラクーンシティで嫌というほど目にしたゾンビの類とはそこが違う。
これが、本当の幽霊というものなのだろうか。
気配は感じないが、悪寒だけは嫌でも身体を這いあがってくる。無意識に、ケビンはベルトに挟んだ日本刀に手を触れた。
ゾンビや怪物の相手だけでも嫌気が差したというのに、幽霊相手に銃や剣で立ち向かわねばならないとは冗談としても最低だ。
幸い、隣の車両の乗客たちはケビンたちに気付いていない。もっとも、彼らに"気付く"という行為が出来るのかすら甚だ疑問ではあるが。
戻ってきたジルが声を落として言った。
「今のところは息を潜めていましょう。気付かれずに済むのに越したことはないから」
「気付かれたら?」
「そのときは銃で撃つ。銀の銃弾でもあれば良かったんだけど。どこかに落ちていたりしないかしらね」
ジルはもう片方の車両に視線を向けた。
幽霊騒ぎで目を離してしまったが、後部車輛の確認をしていない。あちらにも東洋人の群れがいるのか、看護婦の化け物のままなのか。
どっちにしろ、身動きが取れないことには変わりがない。
ジルの表情も心なしか強張ってきている。
訓練も想定もしていないことの連続だ。さすがの女傑も堪えるらしい。
そもそも現実というものは、いくら準備したところでそれを楽々と踏み越えてくるとはいえ、限度がある。
幽霊もその一つだ。残念なことに、現実のFBIにX-ファイル課は存在しない。
ケビンは首筋をぼりぼりと掻きながら、ジルに向けて指を立てた。
「ひとつ提案があるんだが、いいか?」
「この状況を打開できるならなんでもいいわ。言ってみて」
「あいつらが幽霊なら、銃弾よりも掃除機を調達するべきではないかと――」
「黙りなさい。いいから」
ジルはにべもなく切り捨てると、後部車輛の監視へと戻っていった。
焦燥感こそあるものの、傍目には穏やかな時間が過ぎていく。
車内を騒がすのは車体の軋みのみだ。車窓からの景色は面白みのない暗闇だが、明かりがあったところで気持ちのいいものは見られそうにない。
このまま無事に駅に到着出来れば、なんら問題ないのだ。
突然、線路が甲高い悲鳴を上げた。車体が大きく揺れ、ケビンは思わず目の前のポールに掴まった。ともえが小さく悲鳴を上げる。
急ブレーキをかけた列車は、ため息を吐くような音を立ててそのまま停止した。窓の外には何も見えず、扉が開くようなこともない。
想像でしかないが、列車は線路の真ん中で停車したのだろう。
配電部分に故障でも起きたのか、車内の蛍光灯が点滅し始めた。
- 80 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 12:53:49.07 ID:KLJtvSK40
- 「……そういうもんだわな」
ラクーンシティでも、トラブルで電車に乗りそびれたのだった。
諦観の呟きを漏らし、ケビンはジルとともえを見た。
ジルは困惑げにケビンに視線を送っている。ともえは座席から転げ落ちていた。足を畳む日本式の座り方でいたのだから、当然の結果といえばそうなのだが。
ケビンは隣の車両を見た。顔色の悪い乗客たちは急停車したことにも気づいていないのか、最初と変わらない泰然とした姿のままで車内に佇んでいる。慣性の法則も彼らには触れられないらしい。
「そっちの車両はどうなってる?」
「白衣の天使たちがアル・セント・ジョンみたいにすっ転んでいるわ。これ、駅に着いたわけじゃないわよね?」
「らしいね」
ジルは速足でこちらに来て、立ち上がろうとするともえに手を貸した。
何か人知れず決心でもしたのか、つい先ほどまでは覇気に満ちていた顔が一気に沈んでいる。
ケビンは背後の扉を親指で指した。
「運転台に行って文句言ってこようと思うんだが。なんとなく、運転士なんていねえ気がするけど」
「……同感。無駄足よ」
「だからって、じっとしていて動くとも思えねえがな。運転士がいなけりゃ、動かすしかねえだろ」
「動かすって……私、やったことないわよ」
「俺もねえよ。ま、状況が状況だし、始末書ぐらいで済むさ。今はひとまず、いちかばちか命を掛けてみるとしようや」
「やめなさいよ、そういう格好よさは。分が悪すぎるわ。オッズを見るまでもない」
ジルのもっともな言葉に、ケビンは大仰に肩を竦めた。
「その分、当たれば大儲け。だろ? ま、最初は俺がやってみるわ」
「簡単に言うけど、車動かすのと訳が違うのよ?」
「大丈夫だって。先週フレッドに返したビデオで予習済みよ。キアヌが爆弾処理班のやつ」
「あなたねえ……。そもそも、あれって結局脱線した記憶があるんだけど」
半眼になったジルから顔を逸らし、ケビンは鼻を鳴らした。
「だからってなあ。このまま、ここで大人しく後続列車にケツ掘られるのを待つのか?」
「運行管理システムが正常に動いてるはずはないでしょうね。だけど、あなたのしようとしていることはリスクの上乗せのようにしか思えないのよ」
「じっとしてても、どのみち俺たちは死ぬんだぜ。なら早いか遅いかの違いだ」
「たとえ残り一分の命でも、それを懸命に生かすべきだって言ってるのよ。あなたのは死に急いでるだけ――」
「あの……もう少し待って、状況を見てからじゃ駄目なの?」
ともえが気遣うような視線をケビンに送る。座るのに懲りたのか、彼女は手すりに縋るように立っていた。
ケビンは顎を撫でた。無精ひげが指の腹の上で音を立てる。
- 81 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 12:54:49.26 ID:KLJtvSK40
- 「駄目なの。運行の間隔が分からねえから、そうのんびりもしてられねえのさ。最悪ドアこじ開けて外に出る手もあることにはあるが。物音で幽霊に気付かれるってんなら、この行動自体に陽動の意味合いも出来てくるしな」
「……果たして意味があるかしらね。だけど、どうしてもっていうのなら私が行く。あなた、自分の銃に弾がほとんどないの分かってる?」
ジルが苛立たしげに言った。
ケビンは思わず苦笑した。彼女は自分よりも頭がいいはずなのに、簡単なことを分かろうとしない。
「逆だ逆。あの小汚い白衣の天使どもにゃ鉛玉が効くんだ。状況によっては、最後尾車両まで下がることになるかもしれねえ。そんとき、俺じゃどうしようもなくなっちまう。さすがの俺でもな、サムライブレードでミフネみたくやれるなんざ思っちゃいねえよ。
だからこそ、確実に効果がある方に弾を多く残すべきだろうが」
「武器を交換するって手もあるんだけど?」
「……あのな、冷静に考えてくれよ。おまえが行くってことは、三十路超えた鰥夫とうら若き乙女を二人きりにするってことだ。危険だぞ、もの凄ーく」
「………………」
ジルが苦しげに頬を歪めた。彼が実際に云わんとしていることを察してくれたようだ。
ケビンと彼女ら二人で決定的に違うことが――よく考えるといくつもあるが、その中でも一番注視しなければならないものが一つだけある。
T-ウィルスの感染者であるか否かということだ。
現時点でウィルスの影響は然程表面化していないが、今後どうなるか分からない。
ラクーンシティの崩壊からすでに一週間ほど経っている。
ジルの知識と合わせて鑑みても、いつ"人喰い病"が発症してもおかしくない状態であることには変わりない。
諦めたように、ジルは大きく嘆息した。
きっと、彼女には"S.T.A.R.S."であるという自負があるのだろう。"S.T.A.R.S."が解体された今でも、常に第一の盾であれと。
己が選ばれず、彼女が選ばれた理由が何となくだが分かった気がした。仮にラクーン市警が続いていたとしても、己が"S.T.A.R.S."に選ばれることはなかっただろう。
ケビンはぽんとジルの肩を叩いた。
「ジル、偶にゃ男の後ろで守られてろよ。恰好つかねえだろ」
「……守られてるっていうより、単なる役割分担よね。これ」
「細かいねえ。"S.T.A.R.S."の姐さんは」
ジルの疲れたような微笑みが一瞬だけ見えた。
決死隊とはこういう気分かと、ケビンは思った。相手が幽霊と決まったわけではないが、まともな相手ではないことは確かだ。
連中がハロウィンの仮装行列という真相も嫌いではないし、現実的でもあるが、非常識な状況の中でそれを期待するのも酷な話だろう。
あの夜から、己の"日常"の箍は外れてしまっているのだから。
とにかくも、今は迅速な行動が第一だ。物理的な脅威はほぼ確実に迫っているのだから。
ケビンは二人に向けてにやりと笑った。
「すぐ戻る……なんてな」
- 82 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 12:55:44.17 ID:KLJtvSK40
- そう言い残して、ケビンは貫通扉を少し開けて身体を滑り込ませた。空調が狂っているのか、酷く寒い。
残されている時間は多く見積もって五分と見ておいた方がいい。
明滅する明かりの中、大勢の東洋人が浮かび上がる。どれもが虚ろな表情で、声もなく佇んでいる。まるで人の形をした墓石が並んでいるようだ。
まだ、彼らはケビンに気づいていない。即座に、この車内を駆け抜けられる隙間を確認する。
とはいえ、ちかちかと光と闇が入れ替わる車内では視覚はほとんど頼りにならない。要は思い切りと切っ掛けだ。後は己の勘と運を信じる他ない。
短く息を吸い込むと、ケビンは水に飛びこむ様な気持ちで床を蹴った。
体勢を低くし、人と人の僅かな隙間に潜りこんだ。両腕で泳ぐ様に人の波を掻く。剥き出しの腕に伝わるのは大きさの割に空虚さを伴う抵抗と冷気だ。
一歩一歩が酷く緩慢に感じられる。
前方の東洋人が、冬の湖を思わせる瞳をケビンに向けた。いや、それだけではない。粟立つ肌が、数多の視線が己へと注がれていることを報せてくれている。
突き出された腕を払いのけ、前方の空間に身を投げ出す。受け身を取って、すぐさま転がるように走る。
ブーツが何か柔らかいものを踏み潰した。目の端に映ったのは、根元から千切られた女の腕だ。あの看護婦たちのものか。
相手はゾンビではなさそうだが、中身は然程変わらないらしい。
捕まればどうなるのか。ほんの目と鼻の先に在る未来が、明確な像となって瞼に焼きついた。
ケビンの逃走を妨げるように立つ東洋人の膝頭を蹴りつけ、動きの起点を潰す。蹴りだした足をそのまま踏み込みに変えて、勢いを殺さずに体を捌いた。
幾つもの手が空を切ったのを、風音で悟る。
床を軽く蹴り、ステンレス製の座席に跳び乗る。かんかんとけたたましい音が闇に踊った。食らいつこうとした東洋人の顎を膝頭で弾き飛ばし、座席から飛び降りる。
己の予感を信じ、踏み出す呼吸を一つ外した。目の前で、覆い被さろうとした東洋人の影が踏鞴を踏んだのが分かる。間髪置かず、ケビンは鋭く息を吐いた。腰に重心を落とし、肩からの当て身で東洋人の身体を押し退けた。
手術着がめくれ、東洋人の身体に大きな穴が空いているのが見えた。
貫通扉を引き千切る様に開ける。その軋む音は、己の焦りを増幅させた。
次の車両にも東洋人たちが乗り合わせていた。彼らの頭の向こうに、先頭車両の小さな窓が見えた。あと二十歩といったところか。
小さく踏み変えて、その足を軸にして身体を入れ替える。すれ違うようにして東洋人の脇を抜けた。
足を滑らせるに任せて大きく踏み出す。その分だけ身体が沈んだ。腕が頭髪を掠めていく。股関節に痛みが走るのを無視して、後に残した足を一気に引き寄せる。
あと十歩――。
と、駆け抜けようとしたケビンの身体が、強い力によって縫い止められた。
原因を探る間もなく、腰から一気に身体を後方に引き摺られる。日本刀を掴まれたのだと理解するのと同時に、複数の東洋人が上から抑え込んでくる。ケビンの膝が床を叩いた。
跳ね除けようと足に力を込める。と、抑え込まれた左肩が鈍い音を立てた。激痛にケビンの身体が跳ねる。愛銃が手から毀れ落ちた。銃はからからと床を滑って行く。
丈夫な生地を突き破り、氷のような指が肩や背中の肉に潜り込んだ。
苦鳴を噛み潰し、ケビンは右手で日本刀の柄を掴んだ。それを一気に引き抜く。
流れるような鞘滑りの音が暗がりの車内に響く――。
途端、拘束の手が微かに緩んだ。雄叫びを上げながら、上体を押し上げる。爪先で床を蹴りあげ、前方へと身体を投げ出した。
背中が引き攣って別の痛みを生み出したが、それに構ってはいられない。
ケビンは足を動かすことだけに集中した。肩から先の感覚が鈍いが、それも意識の外に押し出す。
視界に右側の半個室を捉えた。運転台はあの中だ。
ケビンは戸を背に振り向いた。爪先が拳銃らしき塊に触れたが、それを拾う時間はない。光が戻るたびに、東洋人たちとの距離は縮まっていく。
ケビンは金属の取っ手に手を掛けた。が、びくとも動かない。目だけを動かして確認すると、運転台の戸は溶接されたように融合し、赤黒い壁と成っていた。
これでは専用の機材でも持ってこない限り入れはしない。
ジルの意見は正しかったというわけだ。本当に無駄足だった。
電灯が狂ったように瞬き、そして周囲は黒に沈んだ。
刃先を東洋人たちに向けながら、ケビンは大きくため息をついた。
- 83 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 12:56:20.38 ID:KLJtvSK40
- (二)
貫通扉の窓の向こう、ケビンの背中が東洋人たちの中へと消えた。東洋人たちの群れはケビンを追って、貫通扉から離れて行った。
ジルは大きく息を吸って、それから目を背けた。心がそぞろだっているのが分かる。明滅する車内は、己の不安そのもののようだ。
洋館事件から、己は臆病になったのだろうか。目の届かないところで見知った誰かが死ぬ。それがとても怖ろしい。
陽気な毒舌家のジョセフ。寡黙で勇敢なエドワード。同じ歳とは思えないほどの傑物だったリチャード。全幅の信頼を置いていたケネスとエンリコ。そして――誰よりも世話になったフォレスト。
皆死んでしまった。個人のくだらない欲のために、彼らは永遠に失われてしまった。
フォレストを撃ったクリスの顔は、今でも鮮明に覚えている。哀しみという言葉では到底言い表せない深い苦悶に苛まれた、あまりにも痛々しい表情――。
いや、彼ら"S.T.A.R.S."だけではない。ラクーン市警に勤務する警官の殆どが殉職したとケビンは言っていた。また、中央政府によって空爆による滅菌作戦が行われるとも聞いた。
彼女が単独で行動している間に、事態はそこまで進行してしまっていたのだ。
そして、ケビンは悪魔のウィルスに身を犯されている。何も出来なければ、彼の末路はフォレストやエドワードと同じだ。それを悟っているケビンは、ジルに手を汚させまいと不器用にも心を配ってくれている。
こんな無謀な賭けに率先して動いたこともそうだ。だからこそ、反対したのだ。認めたら、頼りない自分を再確認してしまう。否定したところで変わりはしないのに。
あちこちで火の手の上がっていたラクーンシティの光景が蘇る。あの劫火は、ジルが今まで歩んできた証までをも燃やし尽くしてしまうようだ。
それらを思うと、己の弱虫な部分が大声で騒ぎだしそうになる。今更ながら、傍にクリスがいないことが心底堪えた。頼るべき背中がないという事実がとても心細い。
とはいえ、この状況を恨んだところで意味はないのだ。予想外の出来事こそあれ、ひと月前から一人で戦わねばならないことは覚悟していたのだ。
今は弱さをひっくるめて"S.T.A.R.S."という殻で覆い包み、己の奥底に押し込めていくことより他ない。
「……ねえ、ジル。ケビンって、なんていうか……その、色狂いの気があるの?」
ともえの言葉の突拍子のなさに、物思いに沈んでいたジルは眉根を寄せた。しばし黙考し、ケビンの口にした戯言を真に受けたのだということに思い当たった。
「――ああ。あれは彼なりの冗談よ。かといって、紳士かって訊かれたら否定するけど。それはもうきっぱりと」
諧謔を含んだジルの言葉に、ともえが安堵したように息を吐く。あ。と、ともえが小さく呟いた。
「――彼に鯉口切れって言ってあげれば良かった……」
「……コイクチキレ?」
何ともなしに問うと、ともえは自答するように呟いた。
「刀をちょっとだけ抜くってこと。鬼や化生は金気――特に刃物を嫌うから、そうしておくと寄り付かないらしいの」
「一種の御呪いね。帰ってきたときに言ってあげたら?」
「……早く言えって大騒ぎしそう」
「やりそうね、彼なら。ま、そういう見世物だと思って楽しみましょうよ」
二人で笑った時、ふいにケビンが入った方とは反対の貫通扉ががんと音を立てた。目を走らせると、貫通扉の向こうで看護婦たちが激しく叩いているのが分かった。
「……あれは楽しむって範疇をもう超えているけど」
拳銃を構え、侵入してきても押し留められるよう息を整える。おそらく弾込めをしている猶予はない。
よって、使える弾は三十発。空間が限定されているから外れはしないだろうが、それでも二十体を無力化できれば御の字だ。
「トモエは自分が生き残ることだけを考えて。いい?」
「……わかったわ」
- 84 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 12:58:50.11 ID:KLJtvSK40
- ともえがジルの邪魔にならない位置に身を寄せた。扉の軋み上げる音が車内を支配する。力づくで押し開けようと言うのか、一番扉に近い看護婦が押し潰され、窓がどす黒い赤に染まった。
ばきと音を立てて戸が敷居から外れ、半ばからひしゃげた。
隙間から溢れるようにして看護婦たちが車内に傾れ込む。
電灯と呼応するように、ジルの銃口から閃光が迸る。ハンドライトの明かりの中で看護婦たちが血と共に踊った。
「ジルっ!」
ともえの悲鳴が聞こえた。逼迫した声に思わず振り向くと、背後の貫通扉の窓から何人もの東洋人がこちらを覗き込んでいた。
銃声を聞いて戻ってきたらしい。貫通扉が冗談か何かのように弾け飛び、壁に跳ね返った。
土気色をした東洋人たちの姿は、ゾンビというよりも幽鬼そのものに見えた。
怨み。哀しみ。苦しみ。憎しみ――。
恥辱。恐怖。憤怒。無念――。
彼らの虚ろな表情は、そういった負の感情を全て湛えているが故のもののように思えた。噎せ返るような瘴気は、毒のようにジルの意識を揺さぶる。
ジルは舌打ちしながら、ライトを拳銃に持ち替えた。ともえを背中に庇うように姿勢を変える。二つの咆哮はいくつも重なり、あたかも雷鳴のように車内を暴れ狂う。
看護婦は崩れ落ちたが、撃たれた幽鬼は足を僅かに止めただけですぐに歩みを再開する。
ケビンの言葉通り、看護婦の群れの方に活路を見出すのが賢明か。
冷や汗に身体を濡らしながら、ジルは思考を巡らせる。それとは別に、頭の冷えた部分が銃声の数を刻んでいく。
貫通口の隙間から出てこようとした看護婦が、ジルが引き金を引く前に後ろへと引き摺り倒されるのが見えた。隙間から投げ出された生白い足が苦しそうにもがき動く。
ひしゃげていた扉が開き戸のように内側へと折れ曲がった。そこから現れたのは同じような白い手術着をまとった幽鬼の群れだ。
あの看護婦たちはジルに気付いたのではなく、あれから逃げてきていたのだ。
右手の拳銃の遊底が引かれたままの位置で止まる。弾切れだ。
車内の電灯が断末魔のように激しく点滅し、やがて消えた。あたりに暗闇が落ちる。素早く用無しになった拳銃とライトを交換する。
無駄と分かりつつ、引き金を引く。陰火のような閃光が数度闇を裂いた。
溜息を吐くような音を立てて乗車口が開いた。とどろとどろとした風声が車内に入り込む。すぐに扉は閉まり、ゆっくりと軋みを上げながら列車は動き始めた。ケビンは上手くやったようだ。
だが、彼の偉業を讃えることはできそうにない。
残った拳銃も弾を撃ち尽くした。虚しい空撃ちの音が手元から毀れていく――。
ふと、ジルは眉根を寄せた。幽鬼たちの歩みが止まっている。周囲五ヤードよりも内側に入ってこようとしない――いや、入ってこようとはしている。それは彼らの動きで分かる。
だが――入ってこられない。
ジルは己の周りに人の気配が充満していることに気付いた。ただ、ライトを翳しても何も見えない。
ただ、息が詰まるほどの懐かしさが胸の内に湧き上がった。
ひとつひとつの区別は難しいが、この感覚は肌が覚えている。ほんの数ヶ月前まであった安心感が胸を満たしていくのを感じた。
電車の速度が上がるのに呼応するように、周囲の空気が激しく震えていくのが分かった。それは目の前が真っ赤に染まるような、烈しい感情の奔流だ。
混ざり気のない、身悶えするほどの激情の波が車内を包みこんでいく。幽鬼たちは慙愧とも狼狽ともとれぬ表情を、虚ろの中に宿していた。
それは幽鬼だけでなく、ジルたちにも向けられているように思えた。
憂慮も不安も全て吹き飛ばし、昇華させるが如く身体の芯が火照っていく。
「お父様……なの?」
- 85 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 13:00:22.75 ID:KLJtvSK40
- ともえが戸惑いの声を上げた。
と、車窓から淡い光が差し込んだ。駅に――着いたのだ。
車体に先ほどと同じような急ブレーキがかかり、ジルはよろめいた。そのとき、誰かに肩を支えられた心地がした。しょうがねえなあ。という苦笑すら聞こえた気がした。
扉が開くと、幽鬼たちは潮が引くように薄れて消えていった。何事もなかったかのように、車内に光が戻る。
その刹那、ジルは陽炎のような長髪の男の影を見た。その横顔には、いつもの不敵な笑みが刻まれていたように思えた。
ぶるりとジルは身体を震わせた。心に残る温もりを零さないように、両手を胸で抱く。
まだだ。まだ終われない。
ジルは深く長く息を吐いて、ともえに向き直った。彼女は泣きそうな顔で一点を見つめていた。ジルの眼には何もない虚空にしか映らないが、彼女には何か見えたのだろう。
彼女の肩を叩き、開け放たれた扉を指差す。
「……降りるわよ」
「でも、ケビンがまだ――」
「生きているのなら、彼も降りる。そうでないのなら、ここで待っていても意味はないわ」
うむを言わさずにともえの手を掴み、ジルはプラットホームに降りた。その背後で扉が閉まり、列車は走り去って行った。
プラットホームは相変わらず赤黒く汚れ、照明も満足ではないが、その光がとても眩しいように感じられた。
しかし、ゆっくりとしている時間はない。ここでは何かに囲まれるかもしれないし、大蛇が追ってくる可能性も否定できない。
ジルはともえの手を離し、行きましょうと言った。
見える範囲でケビンの姿はない。その事実を噛み締めながら、無人のプラットホームを歩く。ともえの足取りも重い。
「……よお。遅かったなあ、お嬢さん方」
柱の影から、多少くたびれた声が聞こえた。ずりずりと這うようにケビンが現れた。背中を柱に預け、ケビンはジルたちににやりと笑いかける。
相変わらずの表情だが、その顔が白いのは照明のせいだけではないだろう。左腕は力なく垂れ、少なくない血が滴っていた。
ケビンがこちらに向かおうと足を踏み出すが、小さくよろけた。
ともえが慌てて駆けて行き、ケビンに肩を貸す。身長差が大きいため、どちらかというとケビンに潰されているような見た目になったが。
「ありがたいが、綺麗な服が汚れっちまうぞ」
「……私の染み抜きの腕、嘗めないでよ」
ケビンの左肩の形が変わっていた。服を脱がせないと最終的な判断は下せないが、軽傷では決してないだろう。
制服の肩当てには人間の五指による深い傷が刻まれ、その奥の肉にまで達しているようだ。
銃を受け取りながら、ジルはケビンに笑いかけた。
「やってみるもんね。あの映画、生きて帰れたら私も借りて見直すわ」
「……俺じゃねえよ。運転台にゃ入れなかった。勝手に動き出したんだ」
骨折り損だと、不貞腐れたようにケビンが溜息をついた。首筋をぼりぼりと掻く。
「なんつーかよ、真っ暗になってからフレッドやジャンがいたような気がするんだよな。俺も焼きが回ったかね」
「いたんじゃないの? 私も死んだ仲間に会えた気がする」
- 86 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 13:01:32.14 ID:KLJtvSK40
- 階段に足をかける。ともえとケビンの足元をライトで照らしてやりながら、神経を背後に配る。
安全を確認したら、すぐにでも銃に弾丸を装填しなくてはなるまい。そして、どこか安全と言えそうな場所でケビンの手当てもしなければ――。
「生きろってことよね……?」
ともえが言った。
生きろ――。
確かに、ジルたちは生かされた。だが、それだけだろうか。
あの激情は、そんな穏やかな言葉では言い表せないように思えた。
もっと強い言葉だ。強く、雄々しく、聴く者を奮い立たせようとする言葉――。
エンリコの、野太い叱咤の声が甦った。
「……"戦え"――じゃないかしらね」
「戦うって、誰と……?」
ともえの言葉を反芻する。
誰と――。
何と――。
即座に排除すべき敵の姿はあっても、この事態の全貌は、この街と同じように霧に包まれたように見えてこない。
ただし、それは生き残った"S.T.A.R.S."が身を置く戦場と変わらない。
捉えられない敵。終わりの見えない戦い。
そんな自分たちが戦わねばならないのは何か――。
「そうね……きっと――」
階段を上がり切ると、改札口からの冷たい風が頬を撫でた。
【C-3/C-3駅の改札付近/一日目夜中】
【ケビン・ライマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:身体的疲労(中) 、左肩と背中に負傷(左腕の使用はほぼ不可)、T-ウィルス感染中、手を洗ってない、ともえに肩を借りている
[装備]:ハンドライト
[道具]:法執行官証票、日本刀
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。T-ウィルスに感染したままなら、最後ぐらい恰好つける。
1:駅から出る。
2:警察署で街の情報を集める。
※T-ウィルス感染者です。時間経過、もしくは死亡後にゾンビ化する可能性があります。
※傷を負ったためにウィルス進行度が上がっています。
※左腕が使用できないため『狙い撃ち』が出来なくなりました。加えて精度と連射速度も低下しています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
- 87 :FIGHT THE FUTURE ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/03/27(日) 13:02:11.89 ID:KLJtvSK40
- 【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ケビン専用45オート(装弾数3/7)@バイオハザードシリーズ、ハンドライト
[道具]:キーピック、M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数0/15)@バイオハザードシリーズ、M92(装弾数0/15)、ナイフ、地図、ハンドガンの弾(24/30)、携帯用救急キット、栄養ドリンク
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。
1:駅から出る。
2:どこかでケビンの傷の処置をする。
3:警察署で街の情報を集める。
※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
【太田ともえ@SIREN2】
[状態]:身体的・精神的疲労(中)、ケビンに肩を貸している
[装備]:髪飾り@SIRENシリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
0:お父様、もしくは夜見島の人間を探し、事態解決に動く。
1:ケビンたちに同行し、状況を調べる。
2:事態が穢れによるものであるならば、総領の娘としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません
※「名前の無い駅」周辺には「悪魔の実験」の犠牲者以外の魂も囚われているようです。
※銃撃や打撃で実体化した霊魂を無力化することはできませんが、ほんのわずかだけ動きを止めることが出来るようです。これは怨霊にも当てはまるのか、またその効果が裏世界特有の事象であるか否かは後の書き手さんにお任せします。
- 88 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/27(日) 13:03:22.07 ID:KLJtvSK40
- 次を代理投下します
- 89 :傀儡とキリングフィールド ◇SXAKX1PEHc 代理:2011/03/27(日) 13:04:18.40 ID:KLJtvSK40
- ショッピングモール内をうめき声を上げながらうろつく十体程の活性死者(ゾンビ)…白濁した目で彼らは探し続ける。新鮮な
肉を、と
タァーン…タァーン…タァーン
瞬時に数体のゾンビの頭が撃ち抜かれる、発砲した方向からは卑しい笑い声が響き渡る
黒い布切れを所々に被り、もはや人間とは思えないような外見と気配を醸し出しながら…
「ヒヒヒヒッ…ヒヒッ…110体目だ…死ねぇ…死ねぇ…」
人ならざる狙撃手は再び狙撃用自動小銃を構え、照準器を覗き込む、その眼下では同じく黒い
布切れを巻いた生物らしき物が多数、まだ動いているゾンビの群れに襲い掛かり始めていた。
彼らの目的は…十分な(殻)の確保だった。
地上奪還という叶わざる大儀を達成すべく…もはや現世とは考えられないこの世界に於いても、彼らの
基本的な動きは変わらない。
独特のうなり声を上げながら死んでからすら動き続ける死体の群れに襲い掛かっていく。
一方で何処からか別の(何か)の唸り声も響いてくる。
呪われた街の一角に佇む…かつては観光客や旅行者で賑っていたであろう、ショッピングモール
今ではその栄華さえも想像すら出来ないほどに内部の彼方此方が破壊され、血潮と硝煙の匂いが漂い人ならざる者達の戦場と化していた。
- 90 :傀儡とキリングフィールド ◇SXAKX1PEHc 代理:2011/03/27(日) 13:04:41.59 ID:KLJtvSK40
- そんな地獄の様な状況下で、群れから逸れた一体の(闇霊)…黒いの切れを巻いた
得体の知れない化け物は…必死で今すぐ使える(殻)を探していた。
彼らは活動用の(殻)が無ければ恐ろしく脆い…それを知っていたが為の行動だった。
なるべく敵対する存在との遭遇を避ける為、霧の中を奇妙な唸り声を上げながら進んでいく
この(闇霊)は、なるべく新鮮な(殻)が欲しかった。腐り切っている死体等では十分な動きが
取れるかどうかが怪しまれたからだ。
暫く進むと…濃厚な…(血)の匂いが漂ってきた
あの腐った死人たちの酷い腐乱臭とは大違いな香り…死んでから其処まで
時間の経っていない(殻)の匂いだ。
まるで誘われるようにこの(闇霊)はその方向に向かって行った。
- 91 :傀儡とキリングフィールド ◇SXAKX1PEHc 代理:2011/03/27(日) 13:05:20.90 ID:KLJtvSK40
- 一方のショッピングモール内では…
「ヒッヒヒヒヒヒヒ…止めろ…止めろオオォ…」
ドガン…タタタタン…タタタン
「状…況…把…握…不要…応戦、応…戦」
闇人とは異なる不死の存在…赤い水により出現した屍人が戦場に出現していた。
彼らは何故この場所に居るのかは知らない、だが彼らにとってはどうでも良い事
だった。猟銃を持った者や、自動小銃を装備した者さえ居る。
彼らは広いショッピングモールの通りにいた闇霊の群れに銃弾を次々と撃ち込んでいく
大多数の闇霊は弾丸を受けて次々と倒されていくが数体の闇人はすぐさま反撃を開始する。
「死ねェェェ…死ね…」
「ヒッヒヒヒヒ…ヒ」
バタタタタン…トトトトン…タンタンタン…タタタン
銃声のみならず、接近して激しく刃物や鈍器などで殴る、斬りつけ合う様な
戦闘も展開されていく。
すると最初に倒された際、…完全に頭を潰されていなかった活性死者(ゾンビ)
が…蘇り始める、体を真紅に染めて。
- 92 :傀儡とキリングフィールド ◇SXAKX1PEHc 代理:2011/03/27(日) 13:06:23.30 ID:KLJtvSK40
- (クリムゾン・ヘッド)と研究者からは呼称される活性死者(ゾンビ)の変異体
は体内のT-ウイルスが(V-ATC)と呼ばれる変異種によって致命傷を受けた身体
の構成細胞を再構築し、再び行動を再開した状態、体細胞がウイルスによって
再構築された際の特徴として赤く変色する…また爪や身体的な攻撃性も強化され
その俊敏性はもはやゾンビの物とは思えない程になっている。
そんな物が起き上がった事も知らず、一体の闇人が(それ)に背を向けて、短機関銃
を乱射している。一通り撃ち終えて、弾倉を交換してる最中に(それ)は迫る。
「ヒヒッヒヒヒ…」
{ヴァアアァアアァアアアアアア}
そこら中に黒っぽい血飛沫が飛び散っていく。
血と肉片が砕け、裂かれる音が銃声や悲鳴と共に辺りに響き渡る
そんな最中で、先程の(闇霊)は…多少損傷していたが、それなりに新鮮な(殻)
に在り付けていた。どうやら死んだ際に頭を踏み潰されていたらしく、少々視界が
悪い。まあ損傷している箇所はそのまま補う事ぐらいは出来る。
その(殻)は元は白かったであろうワンピースを紅く血で染め
原形をとどめてなかった顔は多少は修復されて、真っ青だが誰だったかは分かる位に
修復されている。
それらに黒い布切れを被ったそれは…一種の傀儡の様だった。
確かに(竜宮レナ)は完全に死んで、その魂もまたこの霧の街の何処かに
漂っているに違いないが、その死体は死してなお人とは違う何かに操られる
(傀儡)と化していた。
(彼女)は足元に転がっていた一本の鉄パイプを拾うと、そのまま急ぐわけでも無く
移動し始める。
(彼女)の死体が転がっていた辺りには、相変わらず血で紅く濡れた帽子がポツンと一つ
寂しげに残されていた。
- 93 :傀儡とキリングフィールド ◇SXAKX1PEHc 代理:2011/03/27(日) 13:07:37.72 ID:KLJtvSK40
- 【E-2/二日目深夜】
【クリーチャー】
【闇人(竜宮レナ)】
[状態]死亡時の重度の損傷・相当な火傷(回復中)
[装備]鉄パイプ
[道具]無し
[思考・状況]
基本行動指針:????
1:????
2:????
*E-2ショッピングモール内部には多数のクリーチャー(ゾンビ・屍人・闇人)
が戦闘を繰り広げています。
【クリーチャー説明】
【闇霊】
出典:『SIREN2』
形態:多数存在
外見:人型の肉塊で日光や光から身を防護する為黒い布切れを巻き付けている
武器:体当たりや口で噛み付いてくる。
能力:殻(人や動物の死体)と融合し(闇人)に変化(かなり損傷していても一応可能)
攻撃力:★☆☆☆☆
生命力:★☆☆☆☆
俊敏性:★☆☆☆☆
行動パターン:集団で物陰や暗闇で行動し集団で獲物を狩る
備考:『母体』から切り離された肉塊で光から身を守る為に黒い布を巻いた状態で
行動する。光がかなりの弱点で、ライトを当て続けるだけで消滅するほど脆弱。
代理投下終わりです
- 94 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/27(日) 22:06:59.02 ID:Yd5j7+WXO
- 代理投下、毎度ありがとうございます
- 95 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/28(月) 20:15:50.23 ID:TBkzchzw0
- 代理投下します
- 96 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/28(月) 20:16:54.08 ID:TBkzchzw0
- あの腐った肉体に入り込んだ『同族』は、赤い涙を流す『眷族』に次々と駆逐されていった。
理由は明白だ。予想通りあの腐った肉体は、身体のどの部位もが動きが鈍い。修復も遅いようだ。
混戦のど真ん中でもあるモールのロビー付近では、あの肉体に入り込んだところで修復も退避も間に合わずにやられてしまうのだ。
『殻』が無ければ脆い闇霊達。とはいえ、あの『殻』では満足に戦うことも出来ない。
少なくとも今、この状況では。
その闇霊は、今の『殻』を得る前からその事を懸念はしていた。
故に極力混戦地帯から多少なりとも離れた位置にあり、そしてまだ新鮮な状態の肉体を求めたのだ。
とりあえず今の『殻』――記憶を辿れば名を「竜宮レナ(礼奈)」と言う――の損傷は酷いものだったが、
新鮮であることが幸いして修復速度は腐った『同族』に比べれば速いものだ。
ごく最低限、何とか動ける程度までの修復は、『眷族』にも腐った死体にも気付かれること無く完了した。
しかし、まだまだ完全というには程遠い。まだまだ時間が必要だ。
(戦況も芳しくないし…………撤退するであります伍長殿! ……かな? かな?)
『殻』の思考は、こんなところだろうか。
その闇霊/レナは武器を拾うと、治りつつある足を引きずりながらショッピングモールから出て行った。
背後で絶え間なく続いている悲鳴や銃声は次第に遠ざかり、その内、風の中に掻き消えていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レナがその気配に気付いたのは、この肉体に入り込んですぐの事だった。
カラカラと何かを引きずる何者かの音が、レナの方向に近付いてくる。
新たな『殻』だ。そう判断すると、レナは少しの間も置かずに開け放たれていた扉から外に出た。
着地すると同時に、暗闇でも昼間のように見通せるようになった視力で辺りを見回す。
視界の中には誰の姿もない。だが音は聞こえてくる。後ろだ。
自分が今居た車が遮蔽物となっている為に姿はまだ見えないが、『殻』は後ろに居る。
「助けて!」
相手を油断させる為の、至極単純な騙し討ち。
拾ったバッグに入っていたナイフを服の中に隠し、レナは車の陰から飛び出した。
「……えっ!?」
そこに居たのは、あまりにも意外な人物だった。
思わずレナは、今自分が出てきた『ワゴン車』に手をついていた。
「わ、わたし?!」
目の前には、自分と全く同じ『殻』が居る。こんな出来事は一度として経験は無かった。
二人のレナはまるで鏡写しのように、唖然とした顔を見合わせていた。
- 97 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/03/28(月) 20:18:36.04 ID:TBkzchzw0
- 【E-2/ワゴン車付近/二日目深夜】
【クリーチャー】
【闇人(竜宮レナ1)】
[状態]:死亡時の損傷・火傷(回復中)
[装備]:鉄パイプ
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動指針:地上奪還の為、『殻』を増やす
0:双子……じゃないよね?
1:自分の『殻』の修復
【闇人(竜宮レナ2)】
[状態]:死時の銃撃による(回復中)
[装備]:山狗のナイフ
[道具]:山狗のバッグ
[思考・状況]
基本行動指針:地上奪還の為、『殻』を増やす
0:双子……じゃないよね?
1:詩ぃちゃんと魅ぃちゃんも早くこっちにこないかな? かな?
代理投下終わりです。タイトルは『生まれ変わった時は双子がいいね』です
- 98 :ゲーム好き名無しさん:2011/03/28(月) 20:19:54.08 ID:pR6MQF7eP
-
- 99 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/02(土) 00:29:12.49 ID:G+/6kj500
- topおまw
コメントはっちゃけ過ぎでわろたw
- 100 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/02(土) 01:04:53.93 ID:TN4a1WB80
- ちょw
まさかホラゲロワで四月馬鹿が見れるとは思ってなかったわww
- 101 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/03(日) 09:17:01.23 ID:X0Wapi5o0
- 意外性NO1のロワだからなw
- 102 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/04(月) 21:22:55.95 ID:CepiBOwE0
- 代理投下します
- 103 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:24:07.67 ID:CepiBOwE0
- 見るだけで顔を顰めたくなる、鮮やかな赤で染め上げられた巨大な湖。
そこに伸びる、水面が少し波立つだけでも崩れ落ちてしまいそうな程に壊れかかった桟橋。
そして桟橋が導く先の、赤錆で腐食している事がこの暗闇でもはっきりと分かる、オンボロ旅客船。
研究所への道程で通りかかった桟橋の手前。
またベタな幽霊船だな。新堂は誰に気を使う事もなく、率直な感想を漏らした。
「新堂さん。まさかあの船に乗り込もうってんじゃないよな?」
後ろからかけられた圭一の声。
肩越しにそちらを見れば、深紅と並ぶ圭一と、
座り込んでツカサを撫でているジェニファーの姿があった。
「当たり前だろ。あんなもん人が乗ったらそれだけで沈むとしか思えねえ」
「だったら早く行こうぜ。ジェニファーからも話聞かないとならないんだしさ」
決して時間がある訳ではないらしいから。
深紅がやや控えめに口にしたそんな言葉により歩きながら行われようとしていた情報交換は、
結局の所は新堂の判断で、安全な場所に到着してから、という話で纏まった。
原因は、名簿だ。
新堂も初めは、とりあえずジェニファーの知り合いがいるかを確認しようと考えたのだが、
取り出した名簿には気付かぬ合間に赤い線が引かれた名前が増えていたのだ。
まずいと感じたのは『竜宮レナ』と『園崎魅音』の2つの名前。
この2人は圭一の友人だったはずだ。
下手に彼女達の死亡を伝えれば、圭一が冷静でいられなくなり使い物にならなくなる危険がある。
現状自分を除けば圭一は唯一の戦力。
研究所まではそれなりの距離があるというのに、その間圭一の注意力が散漫になるのは正直痛い。
その為、新堂は適当な理由をつけて情報交換を後回しにする事にしたのだ。
「分かってるよ。ちょっと見てただけじゃねえか。急かすなよ。
てかお前ジェニファー口説きたいだけじゃねえのか?」
「そ、そんなワケないだろ! 何を言ってるんだ新堂さん!
ただジェニファーは本場の外人だしメイド服を着せたら如何程の破壊力があるかという
男なら誰でも抱いて当然の疑問が沸々と沸き上がってきてるだけで決して下心があるというワケじゃ――」
「分かった分かった。雛咲、出番だ。こいつをどうにかしろ」
「えっ……あの……」
再び始まった痴話喧嘩に、新堂は苦笑する。
先程はただ鬱陶しかっただけのじゃれ合いだが、
自分で振ってみれば、これはこれでからかい甲斐のある反応だ。
やれやれと呟いて、新堂は視線を桟橋に戻した――――その時。
僅かな一瞬だけ視界の端に青白く光る何かが入り込んだ気がした。
- 104 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:24:38.02 ID:CepiBOwE0
- 「あん?!」
慌てて首を巡らせ、青白い何かが見えた船の上を凝視する。
しかし、ボロボロの船以外には既に何も見える物は無い。
錯覚か。いや、違う。この暗闇で発光していたのだ。錯覚などという事は無いはず――――。
「いる…………!」
いつの間にか痴話喧嘩をやめていた深紅が静かに呟いた。
振り返れば、深紅がこれまでのオドオドした雰囲気の一切を消し、
ある種の精悍さすら感じられる表情で湖、いや、桟橋に注意を向けている。
「こっちに来る……。新堂さん、下がって……!」
「雛咲? お前何か分かる――――」
「早くっ! 下がって!」
「なっ! 危ない新堂さんッ!」
新堂の言葉に被せられた、深紅と圭一の必死な叫び。
しかしそれに身体が反応を示すよりも早く、足先から脳天まで悪寒が駆け抜ける。
直後――――新堂の視界が一変し、モノクロに染まった。
すぐ側に居た圭一達の姿が消えていた。
変わりに見えているのは、いつの間にか前方に突き出していた自身の右腕。
その手に握り、構えている拳銃。
そしてその銃口を突きつけられている外国人風の顔立ちの男だ。
それは、テレビのチャンネルでも切り替えたような、あまりにも脈絡の無い場面転換だった。
(な、何だよ、こりゃあ!?)
怒鳴ったつもりが、声は出せなかった。口すら動かせていない。
身体の自由がまるで効かなかった。
声を出そうとしても、首を巡らそうとしても、いつの間にか座り込んでいた身体を立たせようとしても、指先1つ、いや、眼球や瞼すら1ミリたりとも動かせない。
まるで自分の身体が何者かに支配されてしまっているかのようだ。
外国人風の男は拳銃から逃れるように自分とすれ違い、暗闇の中に走り去っていった。
待てよ、と声をかけようとしても、やはり声は出ない。そして――――
ぺちゃり
決して歓迎出来そうにない不気味な足音が耳に届いた。
視線を走らせたい衝動に駆られるが、反して視界はゆっくりと動く。
そこで漸く新堂は、今自分が居る場所が何処なのか認識する事が出来た。
ここは、デッキだ。狭さからして、右舷か左舷か――――とにかく船の上に自分は居る。
おそらくはあのオンボロ船か。しかし分かったところで身体が動かないのならば意味はない。
- 105 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:25:11.34 ID:CepiBOwE0
- 足音の主達が、視界に入った。
一目で連想したのはカエルだ。
巨大化し、二足歩行を覚えたカエルが数匹、だらしなく大口を開けて鈍い歩みで迫ってくる。
(新手のバケモンだと?! 冗談じゃねえぞこんな時に!)
思いが通じたのだろうか。
『自分の』両手が銃を構え、カエルに向けられる。
3発の銃声が、耳を劈いた。カエルの胴体から血飛沫が上がる。
が、『自分が』出来た事はそこまでだ。カエルは痛みに呻いたが、それだけだ。
刻まれた銃痕などお構い無しに、化物は歩みを再開する。
続けれ引かれた銃のトリガーは、空撃ちの音を虚しく立てるばかりだった。
(お、おい。ふざけんな! これで終わりかよっ!)
だったらいつまでも座り込んでる場合ではない。立たねば。逃げ出さねば。
『自分の』身体が壁を支えに立ち上がった。片足が床に着くと同時に激痛が走った。
『くっそう!』
『自分の』口から、『誰かの』声がした。
『自分は』最後の抵抗とばかりに手に持つ拳銃を化物に投げつける。
拳銃は化物にぶつかるも跳ね返り、海の中へと虚しく落ちていった。効いた様子は全くない。
『自分は』化物に背を向け、足を浮かせた状態で壁伝いに逃走を試みる。
それも悪あがきに過ぎなかった。どうあがいてもそれは化物共の鈍い歩みよりも、遥かに遅い。
追いつかれるのは時間の問題だ。
(け、圭一! 雛咲! ジェニファー! 何処だ!?)
声は――――出せない。
(ちくしょう、もっと速く動けねえのかよ! 追いつかれちまうだろうが!)
身体は――――動かせない。
絶望の足音と鳴き声が、すぐ背後に迫っていた。
『自分の』首に何かが触れた。
そう思った次の瞬間――――強力な力で身体が宙吊りにされた。
『かっ……』
『誰かの』声が、掠れた声を上げた。
『自分の』身体にも何かが――おそらくは化物の腕が巻きつき、固定される。
そのまま後ろに引っ張られ、見えたのは、あの大口の上顎だ。
巨大な舌が、後頭部を舐めた。
- 106 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:26:23.17 ID:CepiBOwE0
- (や、やめろ、おい! 圭一ぃ! どこにいるんだよ! た、助けてくれ!)
形にならない叫びを上げ、『自分は』化物に呑み込まれていく。
モノクロの世界が、真っ暗に閉ざされていく。
粘ついた液体が全身を包んだ。着衣に染み込み、不快な温かさが直接肌にへばり付く。
化物が喉を鳴らす度に、強靭な圧力が身体を絞めつけた。呼吸は、既に出来ていない。
『すまん、なぁ。朝、子……』
『誰かの』掠れた声が、口から漏れた。
圧力が強められる。骨という骨が軋みを上げている。
首が、強く、強く、捻じ曲げられ――――
ごきり
――――気味の悪い音を、鳴らした。
(うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!)
絶叫が、どこか遠くから聞こえてくる。
遠く――――いや、遠くではないような気もしていた。
では近くなのか。それも良く分からない。はっきりとしない。
確かな事は、誰かが何処かで絶叫を上げている事。
そして、その絶叫に混じって別の誰かの呼びかけが聞こえてくる事。
自分の名を、誰かが呼んでいるような――――――――。
- 107 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:26:50.03 ID:CepiBOwE0
- 「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――……………………はッ!?」
視界は、また唐突に切り替わった。
目の前には新堂の顔を心配そうに覗き込んでいるジェニファーが居る。
新堂は慌てて上体を起こした。起こす事が出来た。身体が今は自由に動くのだ。
「マコト! マコト、大丈夫!?」
「どう、なって――――」
声を出し、自身の息が切れている事に漸く気付いた。
全力疾走でもした直後のように、肺が悲鳴を上げていた。
上手く酸素を取り込めず、喋ることすら覚束無い。
しばらくの間、新堂は荒い呼吸を繰り返すのがやっとだった。
「ミク! ケーイチ! マコトは大丈夫みたい!」
「そうか! いきなり悲鳴なんか上げだすから心配したぜ新堂さん!」
少し離れた場所から圭一の声がした。
気怠さを堪えて目を向ければ、バットを構えた圭一と、その後ろにいる深紅の姿が映る。
しかし、何よりも目を惹いたのは圭一の前に居るものだ。
青白く光っている人のような何かが、今、呻き声を上げて圭一に襲いかかろうとしていた。
「なん、だ。ありゃ……?」
圭一は後退りをしながらバットをがむしゃらに振り回し、そいつの接近をどうにか阻んでいた。
服装だけで判断するならば警察官のようだが、そいつは決して人ではない。
不規則に揺らめかせる身体は、実体が無いのか、後ろ側が透き通って見えていた。
幽霊というやつだろうか。それでも不思議とバットで殴る事は出来ているらしい。
しかし幾度も幾度も殴られ、怯みながらも、そいつは圭一を掴まえようと一つ覚えに両腕を前に伸ばしてくる。
「マコト。あなたさっきアレに襲われたのよ。
ケーイチが何とか引き剥がしてくれなかったら今頃……」
ジェニファーは言葉を濁すが、その先は何となく想像はつく。
あれが幽霊だとしたら『取り殺されていた』、或いはこの赤い湖に転落して溺死していた、といったところか。
先程の妙な体験は、あの幽霊の仕業だったらしい。
舌打ちを1つ鳴らし、新堂は立ち上がろうと地面に手をついた。
身体のあちこちが若干の痛みを訴えた。
無視してどうにか立ち上がるも、大きな疲労感で足が笑っていた。
危うくバランスを崩しかける。ジェニファーが横から支えてくれなければ転倒していたところだ。
- 108 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:27:26.81 ID:CepiBOwE0
- (あのバケモンが……ふざけやがって……!)
苛立ちが膨れ上がり、こんな目に合わせた張本人に睨みつけるような視線を投げかけた。
が、そこに居たのは圭一と深紅だけだ。幽霊の姿は無い。
少し目を離した間に倒したのか。いや、それにしては圭一達の緊張は解けていない。
姿を消したのだ。
そんな芸当も可能なのかよ、と一瞬考えたが、相手が幽霊ならばそれも当然だ。
そもそも自分が先制を許してしまった理由は、敵が見えなかったからに他ならない。
(やばい、どうする!?)
自分も参戦するべきか、新堂は迷った。
呼吸は整ってきた。とりあえず動く事は出来るはず。戦えなくはないだろう。
だがいつの間にか――おそらく最初に攻撃された時――バットをどこかに落としていた。
幽霊の攻撃を食らえばあの幻覚を見せられるのだと思えば、とても素手では戦う気にはなれない。
「ジェニファー、俺のバット知らねえか?!」
「あそこよ! 圭一達の向こう!」
ジェニファーが指を指す。見ると確かにバットが落ちている。
だが、あそこに向かうということは、幽霊のいるかもしれない場所を突っ切らねばならないという事。
その時に襲われでもしたら本末転倒だ。
どうするか、新堂は判断に迷う。と、そこで深紅の存在が気になった。
深紅は何をしている。圭一の後ろにくっついて、一体何をしている。
あんな所に居ては圭一の邪魔になるだけだ。それなのに。
その疑問を解決したのは、他ならぬ深紅だった。
深紅はハッと何かに気付いたように顔を強ばらせると、圭一に指示を出す。
圭一が深紅の指示通りに振り向き、身体を深紅の前に滑り込ませる。
同じ方向に警察官の幽霊の姿が浮かび上がったのは、その直後だった。
予めその出現を知らされていた圭一の一振りが、カウンターで幽霊の顔面を殴り飛ばした。
首が不自然すぎる角度に折れ曲がる。幽霊は苦痛に身悶えるように奇声を上げた。
それは、まさに断末魔の叫び。
暫時辺りに響き、やがて声が消えると同時に幽霊は身体を散り散りにして、消滅した。
後には、残るようなものは何も無かった。
「やった、のか?」
新堂は問いかけた。圭一も戸惑うように深紅を見る。
視線を向けられた深紅は躊躇いがちに頷き、でも、と付け加えた。
- 109 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:27:51.67 ID:CepiBOwE0
- 「封印出来たわけじゃない……。多分、また現れます……」
「封印? どういうことだよ雛咲さん」
「それは――――」
「ちょっと待て雛咲。お前が何か知ってるのは分かったけど話は後にしろ。
アレがまた出て来るなんて面倒臭え。とっとと離れるぞ」
圭一達の戦闘を見る限り、深紅は幽霊の居場所をある程度探知出来るようだ。
そうと知っていれば、あの幽霊にはもう不意を突かれる事は無い。負けはしないだろう。
しかし、万が一にも攻撃されればあの幻覚を再び見せられる事になる。それはもう願い下げだ。
ここは逃げの一手が正解だろう。
小さく舌を打ち、新堂はバットを拾いに向かった。
その時視界に入った、今にも朽ち果てて沈没しそうな、しかし、不気味な存在感のある幽霊船。
先程見た幻覚の中の自分が居た場所だ。
(……幻覚ねえ)
幻覚――――いや、あの映像を単なる幻覚と片付けるのはやや抵抗があった。
あの映像の生々しさは脳裏に刻み込まれていた。臭いや痛みまで思い出せそうだ。
あれは、記憶なのではないか。あの幽霊船で化物に殺された人間の記憶。
攻撃がきっかけで見えた映像なのだから、あの幽霊の記憶ではないだろうか。
そう思えた。
ふと、新堂はポケットから名簿を取り出した。
あの幽霊は、この街で化物に襲われ殺された警察官。
そう仮定するなら、つまりあの警察官も「呼ばれし者」の内の1人だったという事になる。
ならば、名簿を見れば名前くらいは分かるかもしれない。そう思い当たったのだ。
赤い線の引かれている名前に上から順に目を通す。果たして、該当する名前は見つかった。
現時点で日本人の男の名前で死亡者は「日野貞夫」「藤田茂」の2名。
日野ではないのは確実なのだから、残るは「藤田茂」。この男だろう。
(「藤田」、ね。もう1人いやがったな。あいつは……)
記憶の中で見た、外国人風の男。
一応名前をチェックしようと考えたが、新堂は自嘲気味に鼻を鳴らし、すぐに名簿をしまった。
そもそもこちらは死んでいるかどうかも分からない人間だった。チェックするだけ無駄だ。
だが、男の顔は覚えておく必要がある。
あの記憶の中では、男は藤田に銃を突きつけられていた。
そして、男は藤田を置き去りにして逃走した。
経緯はまるで分からないが、男は間接的にとは言え藤田を殺害した。
あの記憶だけで判断するならそういう事になるのだ。警戒は、必要だ。
- 110 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:28:18.17 ID:CepiBOwE0
- 「新堂さん。どうかしたか?」
「ああ? いや、何でもねえよ」
バットも拾わずに立ち止まっていた新堂を不審に思ったのか、圭一が声をかけてきた。
藤田や男の事は、今はまだ話せない。話すには流れとして名簿を見せる必要がある。
圭一の仲間の事もあるし、それは研究所に着いてからでいい。
新堂は名簿をポケットに戻し適当に誤魔化す事にした。
「ちょっとまだ身体が痛くってな」
「あ……さっき圭一さんが叩いてたから……」
深紅が聞き捨てならない言葉を口にした。
瞬間、慌てふためいた圭一が素早く深紅に近付き、口を抑えた。
その態度は、どう見ても後ろめたさの証明。新堂の顔が、険しさを増した。
「……そういやさっきジェニファーが『圭一が引き剥がした』とか言ってたな。
お前まさかそのバットで俺ごとぶん殴ったんじゃねえだろうな?」
「い、いやー、だってしょうがないだろ? そうでもしないと新堂さん殺されてたかもしれないし」
引きつった愛想笑いを浮かべる圭一を、新堂はしばし睨みつけていた。
圭一の言う事は尤もだ。ここは新堂も感謝をしなくてはいけないところかもしれない。
しかし、全身の痛み。倦怠感。そして借りを返すべき相手からは逃げねばならない苛立ち。
八つ当たりをするには充分の理由が揃っていた。
新堂は意地の悪い笑みを圭一に返した。
「覚えとけよ圭一。世の中にはほんの些細な恨みで人殺す奴もいるんだぜ。
例えば、部活の勧誘を無視されたってだけで、とかな」
「お、おいおい。だから物騒なこと言うなって」
困惑し、まあまあの反応を見せる圭一。
ささやかな憂さ晴らしくらいにはなった。今はその程度で良しとしておこう。
「ふん、まあいいや。とにかく急ごうぜ。モタモタしてるとまたアレが出てきちまう」
新堂はバットを拾い、全員を見返した。
ジェニファー。深紅。圭一。幸い1人として負傷者はいないようだ。
自分だけが攻撃された事には少々の不満を覚えるが、これ以上の愚痴は止めておく。
倦怠感の抜けそうにない身体で、新堂は先頭を行く。
休める場所――――研究所までは、後、もう少しだ。
- 111 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 21:28:44.79 ID:CepiBOwE0
- 【D-3/リトル・バロネス号付近/一日目夜中】
【新堂誠@学校であった恐い話】
[状態]:銃撃による軽症、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:ボロボロの木製バット
[道具]:学生証、ギャンブル・トランプ(男)、地図(ルールと名簿付き)、その他
[思考・状況]
基本行動方針:殺人クラブメンバーとして化物を殺す
1:研究所へ向かう
2:研究所に着いて安全を確保するまでは名簿の死亡者については話さない
3:安全な場所で雛咲、ジェニファーから情報を得る
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:銃撃による軽症、赤い炎のような強い意思、疲労(小)、L1
[装備]:悟史の金属バット
[道具]:特に無し
[思考・状況]
基本行動方針:部活メンバーを探しだし安全を確保する
1:研究所へ向かう
2:安全な場所でジェニファーから情報を得る
3:部活メンバーがいれば連携して事態を解決する
【雛咲深紅@零〜zero〜】
[状態]:T-ウィルス感染、右腕に軽い裂傷
[装備]:アリッサのスタンガン@バイオハザードアウトブレイク(使用可能回数7/8)
[道具]:携帯ライト、ヨーコのリュックサック(P-ベース、V-ポイズン、ハンドガンの弾×20発、試薬生成メモ)@バイオハザードアウトブレイク
[思考・状況]
基本行動方針:ヨーコの意思を引き継ぐ
1:研究所へ向かう
2:安全な場所でジェニファーから情報を得る
3:幽霊……触れるなんて……
※怨霊が完全に姿を消している時でも、気配を感じることは出来るようです。
- 112 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 22:00:11.87 ID:CepiBOwE0
- 「……ん? ツカサ?」
4人の最後尾を行くジェニファーは、ツカサの姿が見えない事に気付いた。
先程までは、自分がエスコートでもするのだ、と言わんばかりに優雅に先頭を歩いていたツカサが見当たらない。
キョロキョロと辺りを見回す。振り返った時、漸くその姿を見つける事が出来た。
ツカサは顔を上げてはいるものの、腹ばいの体勢で地面に座り込んでいた。
「ツカサ。行くわよ」
呼び掛けに対し、ツカサは、クゥン、と小さな返事を返して立ち上がった。
カツカツと爪音を立ててジェニファーの横を通り過ぎていく。
「疲れたの? もうちょっとだから我慢してね。
……何か餌になるようなものがあるといいけど」
マコト達の目指す先は「研究所」。
とても食べ物とは縁の無さそうな場所だが、まあ着いたら探すだけ探してみるとしよう。
ツカサがマコト達に追いつき、彼等の前を歩いていく。
思考に沈みかけていたジェニファーはそれに気付き、慌てて早足で後を追った。
【ジェニファー・シンプソン@クロックタワー2】
[状態]:健康
[装備]:私服
[道具]:丈夫な手提げ鞄(分厚い参考書と辞書、筆記用具入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ここが何処なのか知りたい
1:餌……探さないと
2:安全な場所で三人から情報を得る
3:ここは普通の街ではないみたい……
4:ヘレン、心配してるかしら
<オマケ>
【ツカサ・オブ・ジルドール@SIREN2】
[状態]:T-ウィルス感染
[装備]:首輪
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主人を探す
1:人間は守る
2:西の方から主人の匂いを感じる
3:ちょっと空腹
※ゾンビを噛んだため、T-ウイルスに感染したようです
※オマケなので、参加者として扱う必要はありません
- 113 :エレル――ELEL―― ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/04(月) 22:00:58.04 ID:CepiBOwE0
- 『敵』はもう、いなくなった。
この船に入ってこないのならば、追いかける必要は無い。
自分の役目は、『敵』を捕まえる事ではない。
自分の役目は、『敵』を殺す事ではない。
自分の役目は、今度こそ――――。
霧散していた身体を、時間をかけて1つ1つ繋ぎ止め、
誰もいなくなった桟橋付近で藤田茂は再生を果たした。
ゆらり。ゆらりと。身体を宙に漂わせ、ゆっくりと桟橋を渡り、
リトルバロネス号へのテロップを滑るように昇る。
デッキを通過し、客室の一室の扉を「開けもせずに」中に入った。
その部屋で蹲っているのは、1人の少女の幽霊だった。
生前、助けたくても助けられなかった外人の少女。その幽霊だ。
死の直前、余程怖い思いをしたのだろう。
こうして肉体を失った後でも少女は身体を小刻みに震わせてすすり泣いていた。
不憫に感じ、藤田は目を細める。少女の頭に実体の無くなった自分の右手を置いて、言った。
もう大丈夫だ。
ちょっと苦労したけど、怖い奴らはおまわりさんがみーんな追っ払ってやったから。
だから安心して、休むんだ。…………なっ!
【D-3/リトル・バロネス号客室/一日目夜中】
※怨霊に攻撃をされると呪いにより体力を奪われる事があるようです。
また、怨霊の死亡時の記憶を見せられる事があるようです。
どちらの現象も、怨霊の攻撃の際に必ず起こる事とは限りません。
※怨霊には物理攻撃もそれなりに通用するようです。
倒せば一旦消滅しますが封印される訳ではないので時間経過で復活します。
※怨霊は基本的に実体化してますが、攻撃してこない間は姿を消す事も出来るようです。
代理投下終わりです
- 114 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/10(日) 18:43:57.02 ID:YJwqY2j20
- 代理投下します
- 115 :せめて一度くらい、幸せな夢を見させて :2011/04/10(日) 18:45:04.79 ID:YJwqY2j20
- 【1】
人形=荒井昭二が目を覚ました頃には、もう福沢も槍を持った怪人の姿も見えなくなっていた。
彼が目覚めてから最初に考えたのは、わずかな時間ではあったものの、自分と行動を共にした「福沢玲子」の事である。
――彼女は無事に逃げ切れただろうか?
――また別の怪物に襲われてはいないだろうか?
後を追いたいところだが、今の傷の状態からしてそれは不可能だろう。
何しろ、自分はあの怪人の持った槍によって、全身を貫かれてしまったのだ。
いくら自分が人間と違う体の構造をしているからといっても、これ程のダメージを負ってしまえば、行動にかなり支障が出てしまう。
かといって、休んでいれば傷が「治/直」るのか言われると、そうではないのだ。
前に述べた通り、自分は人間ではない。精密に造られた『人形』である。
『木材』と『虫』。それだけが自分を構成する物質。
木材が細胞分裂するわけがないし、かといって、蟲が傷を塞いでくれる訳でもない。
故に、どれだけ時間が経っても、決して傷は「治/直」らないのだ。
傷口から出てくるのは、人間の証である真っ赤な血ではなく、薄汚い色をした小虫達。
荒井の中に押し込められていた生命は、自由を求め外の世界へと旅立っていく。
そして、旅立つ生命が増えるのに反比例して、荒井の生命は弱っていった。
不快感の塊の様な集団でも、彼にとっては生命を持続させるのに必要不可欠な存在なのだ。
しかし、彼はそれを見ている事しかできない。
自分につけられたこの穴は、「治/直」しようがないのだから。
体内に残る虫達が残り半分を切った頃には、荒井の意識は朦朧になっていた。
目は虚ろになり、頭は俯いたまま微動だにしていない。
意識もはっきりとしなくなってきた。何故だか、とても眠いのだ。
今眠ったら、きっと、いや間違いなく、瞼を開ける事は出来ないだろう。
自分に『死』が近づきつつある事は、嫌でも理解できた。
目前に迫っている『死』に対して、荒井は恐怖を感じない。
むしろ、眠るように一生を終えるというのも、悪くはないと思っていた。
少なくとも、人間二人と一緒に焼死するよりかは、遥かにマシだろう。
そして何よりも、自分は『人間』として死ねるのだ。それ以上に嬉しい事はなかった
- 116 :せめて一度くらい、幸せな夢を見させて :2011/04/10(日) 18:45:29.29 ID:YJwqY2j20
- 【2】
それから、数分ほど経った頃だろうか。
荒井の耳が、カツン、カツンという杖を突くような音を捉えた。
どうやら、何者かがこちらに向かって来ているらしい。
残された僅かな体力で、物音の方向にゆっくりと目を向ける。
「また、あなたですか…………」
そこに居たのは――もう此処には居ないと思っていた存在。
三角形の鉄の箱を被り、槍をぎらつかせる、あの男。
自分の身体を穴だらけにした、あの三角頭の怪人であった。
どうしてわざわざ戻ってきたのかを理解するのは――朦朧としていても――容易である。
この怪人は、再び自分を襲うつもりなのだ。
今度は、絶命するまで自分の体に槍を突き立て続けるだろう。
だが、それを回避する術は既に全て失ってしまった。
(罰、なんでしょうかね)
荒井の目からは、槍を構える三角頭が、まるで神の使いのように見えていた。
人間の真似をしようとした愚かな人形を罰する為に、神が差し向けた処刑人。
――やはり自分には、安らかに死ぬ資格などなかったようだ。
視界に入るのは、三角頭の血に塗れた肉体と、数秒後に自分の額を貫くであろう巨大な槍。
最期の景色がこれというのは、少々もの悲しいものだ。
脳裏に浮かぶのは、自分を人間として見てくれた福沢の後ろ姿。
最後に会ったのが彼女で、本当に良かったと、改めて思う。
――生きてほしい。
生きて、生きて、生き続けて。
そして、この呪われた土地から脱出してほしい。
それだけが、自分の望みだった。それ以外には、何も望まなかった。
- 117 :せめて一度くらい、幸せな夢を見させて :2011/04/10(日) 18:45:52.92 ID:YJwqY2j20
- 【3】
『断罪』を終えたにも関わらず、三角頭はアパートから立ち去ろうとはしなかった。
額に大きな穴を開けた人形に背を向けて、何も無いはずの通路をじっと見つめている。
誰も居ない筈の通路で、何故か『視線』を感じたからだ。
視線を出す者がいなければ、視線がある訳がない。
にも関わらず、三角頭は『誰かに見られている』という感覚を覚えてしまったのだ。
視線の正体を探ろうと、三角頭は通路を隈なく観察する。
だが、どれだけ眺めていても、それの持ち主は現れない。
諦めた三角頭は、元来た道を折り返していった。
三角頭は気付かなかった。
視線の主は、確かにそこには存在している事に。
気付けなかったのは、それが三角頭には認識できなかったから。
三角頭を、穴だらけの人形を、そこから出て行く虫達を。
『オヤシロさま』は、ずっと見ていたのだ。
【C-5/西側アパート非常階段/夜中】
- 118 :せめて一度くらい、幸せな夢を見させて :2011/04/10(日) 18:46:22.45 ID:YJwqY2j20
- 【4】
福沢さんは、僕を『人形』ではなく『人間』と呼んでくれました。
それで、僕がどれほど幸福になれたことか。
彼女には、こんな魔境で命を落としてほしくありません。
ですが、もう私には彼女を助ける事はできないでしょう。
心残りがあるとすれば、やはりそれでしょうね。
僕には、もう願う事しかできません。
『彼女が笑っていますように』と、暗闇の中で独りで願うことしか――――。
【荒井昭二@学校であった怖い話 死亡】
代理投下終わりです
- 119 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/10(日) 23:20:10.46 ID:DnyBL0Q1O
- 荒井さん…
学怖勢がまた落ちたか。
無理のある設定と出演だったけど、この締めくくりは、好きだ。
- 120 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/11(月) 18:24:31.31 ID:GNVb3yoM0
- 荒井はもう何も出来ない状態だったからしょうがなかっただろうなあ
クリーチャー登場だけど他の学怖勢よりも綺麗に死ねているからこのロワは分からんw
- 121 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/11(月) 19:08:21.19 ID:qJZZEs4h0
- 首チョンパに定評のある学怖勢
- 122 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/12(火) 20:43:06.22 ID:233Qyg9NO
- 殺人クラブは首ちょんぱされる法則かw
- 123 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/21(木) 07:45:13.43 ID:I+oCu8euO
- あげ
- 124 :その誇り高き血統 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/22(金) 17:15:04.78 ID:sPaeHxPt0
- 夜見島の漁師達と比べても見劣りのしない程に立派な体躯の警察官。
そんなケビンに肩を貸すともえの姿は、傍から見れば酷く滑稽に映るのかもしれない。
今のともえは、預けられる体重を何とか支えているとは言え、まともに歩けているとは言い難く、
気を抜いてしまえばのしかかる重さにすぐにでも潰されてしまいそうだった。
歯を食い縛りながらゆっくりと一歩ずつを踏み出して進む。
その度に、決して大きくはない身体には負担がかかった。
草履の鼻緒に食い込む指又が徐々に痛みを訴え始め、進む程に辛さは増していく。
改札口に先行して安全の確認をしているジルの背中が、距離以上に遠くに見えた。
後何歩であそこまで到達するのか。後どれ程このまま歩かなくてはならないのか。
そんな弱気な考えが頭をもたげてくる。
ケビンの体重を支えながら歩く事は、肉体的にも精神的にも想像以上に過酷な重労働だった。
それでもともえは、今はこの役目を投げ出したくはなかった。
身体の悲鳴は極力聞こえない振りをして、しっかりと前を見据えて歩を進めた。
今は、何かをしていなくては、後ろを振り返ってしまいそうだったから。
後ろを振り返ってしまえば、折角堪えてきた涙が流れ落ちてしまうから。
(お父様……)
昇ってきた階段を振り返れば、まだそこに父、常雄が居るような気がしていた。
そう。先程のあれは、常雄だった。
姿が見えたわけではない。だが、気のせいや勘違いとは不思議と思えなかった。
奇妙な確信と実感がある。電車内で自分の危機を救ってくれたのは確かに常雄だった。
自分を包んでくれた父親の優しい温もりを、ともえは確かに感じ取ったのだ。
それは同時に、常雄の死を受け入れてしまったという事でもある。
島の皆を探そうと決めた矢先の、残酷な再会。
決してそんな再会は望んではいなかった。出来る事なら力を合わせ、この怪異に立ち向かいたかった。
しかし常雄は既にこの街で、或いはあの津波で、命を落としてしまっていた。
そして、列車と共に闇の中に消えて行ってしまった。
力を合わせて共に戦う――――その望みはもう叶う事のない御伽話なのだ。
それでも、そうは理解していても、振り返ればまだそこに常雄が居るような気がしていた。
その気持ちは、甘えに過ぎない。
常雄に居て欲しいと願うともえの心から来るただの甘えに過ぎないのだ。
だからこそ、ともえは今は振り返る事は出来ない。
後ろ髪を強く引かれているが、未練はすぐにでも断ち切らなければならない。
常雄が居なくなってしまった今、太田家の総領は自分だ。
太田家の誇りと使命を受け継ぎ、夜見島の皆を率いて『穢れ』に対峙しなくてはならないのは自分なのだ。
悲しみに沈んではいられない。未練に心を縛られて挫けている暇などあろうはずがない。
心を強く持たねば、加奈江には。穢れには。そしてこの事態に立ち向かう事など出来るわけがないのだから。
- 125 :その誇り高き血統 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/22(金) 17:15:55.10 ID:sPaeHxPt0
- 父への想いはこの場に置き去りにするつもりで、ともえは一歩、一歩、階段から離れ、改札口に近付いた。
背後に浮かび上がっている気がしている父の幻影を頭から振り払い、ともえはケビンを先に改札口を通した。
――――「 」――――
聞こえるはずのない言葉を背中に受けて、ともえは改札を抜けた。
涙が一筋だけ頬を伝い、アスファルトに落ちた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
眼前に広がるのは、赤一色の湖だった。
常識とはあまりにもかけ離れた狂気じみた光景は精神にストレスを与えるものだが、
ケビンも、ジルも、ともえも、然程驚きは感じなかった。
良い事なのか、それともそうではないのかは分からないが、この事態に3人共慣れてきてしまっているようだ。
「地図の真ん中の湖はこれなんでしょうね。
それならやっぱりここはC-3の駅って事で良いみたいね」
「いくらなんでも濁りすぎじゃねえか。こんなんじゃバリーだって敬遠するぜ。
ヴィクトリー湖と違って観光客は呼べそうにもねえなこりゃ」
「案外その辺で竿投げてるかもしれないわよ? ケンドと一緒に」
「へっ、あの釣りバカ達ならそれもあるかもな。
まあ、あいつらも迷い込んでるなら合流したいところだが、そうじゃねえ事を祈るか」
「それはもう切実にね。……それよりどうするの? とりあえず現在地の見当はついたけど」
この湖は改札を抜けた正面に見えていた。
つまり現在地はC-3の駅の東側。目的の警察署はこの道を北に進み、右手の跳ね橋を渡った先だ。そこまでは間違いないのだが――――。
3人は道の南側を振り返った。そちらの方向には、小さな明かりが朧気ながら見えていた。
その明かりはともえ曰く、提灯という照明具の明かりに似ているらしい。
ともえの見立てが正しければその場所には生存者が居るという事になる。
もしそうならば、ジルやケビンの心情としては救出に向かいたいのだが、
正直今の彼等の状態で満足な救出活動が行えるとは思えない。
生存者がジル達のように戦闘を行える人物ならばありがたいが、
ともえのように保護の対象であるならばとても手が回らないだろう。
更に言えば明かりは先程のラクーン駅でのように建物の照明に過ぎないという可能性もある。
その場合はただの無駄足にしかならず、ケビンの事を考えれば文字通り致命的なタイムロスになりかねないのだ。
明かりに向かうか。警察署に向かうか。
どちらの選択肢を選ぶにしても、メリットもデメリットも同じくらいには存在するだろう。
(やれやれ、さしずめライブセレクションって言ったところかしらね……)
ジルは一つ、小さく溜息を吐いた。
- 126 :その誇り高き血統 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/04/22(金) 17:17:00.66 ID:sPaeHxPt0
- 【C-3/C-3駅の改札付近/一日目夜中】
【太田ともえ@SIREN2】
[状態]:身体的・精神的疲労(中)、ケビンに肩を貸している、この事態に対する怒り
[装備]:髪飾り@SIRENシリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
1:夜見島の人間を探し、事態解決に動く。
2:ケビンたちに同行し、状況を調べる。
3:事態が穢れによるものであるならば、総領としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません
【ケビン・ライマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:身体的疲労(中) 、左肩と背中に負傷(左腕の使用はほぼ不可)、T-ウィルス感染中、手を洗ってない、ともえに肩を借りている
[装備]:ハンドライト
[道具]:法執行官証票、日本刀
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。T-ウィルスに感染したままなら、最後ぐらい恰好つける。
1:また選択かよ。
2:警察署で街の情報を集める。
※T-ウィルス感染者です。時間経過、もしくは死亡後にゾンビ化する可能性があります。
※傷を負ったためにウィルス進行度が上がっています。
※左腕が使用できないため『狙い撃ち』が出来なくなりました。加えて精度と連射速度も低下しています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ケビン専用45オート(装弾数3/7)@バイオハザードシリーズ、ハンドライト
[道具]:キーピック、M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数0/15)@バイオハザードシリーズ
M92(装弾数0/15)、ナイフ、地図、ハンドガンの弾(24/30)、携帯用救急キット、栄養ドリンク
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。
1:明かりに近付く? それとも警察署に向かう?
2:どこかでケビンの傷の処置をする。
3:警察署で街の情報を集める。
※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
代理投下終了です。
- 127 :ゲーム好き名無しさん:2011/04/30(土) 12:29:45.54 ID:wzYTW91z0
- 代理投下します
- 128 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:31:22.78 ID:wzYTW91z0
- 懐中電灯の作り出す二つの光輪が、古めいた室内を目まぐるしく躍る。
そうして浮かび上がる店内は酷く不気味で、赤黒い汚泥のこびり付いた様相は何かの生き物の体内を連想させた。
すぐ隣では水明は騒がしい音を立てながら物を漁っている。咥えた煙草の火が、蛍のように闇の中を移動していく。己も探さなくてはと思うのだが、ユカリの手は懐中電灯を回すだけに終始していた。
今の所、古いカメラのフィルムしか見つかっていない。それもユカリにとってはガラクタにしか思えないのだが、水明は何か思うところがあったらしい。
シビルは戻ってこない。無音でなくとも、静寂は肌で感じられるものらしい。不安が真綿のように緩慢と心を締め付けていく。
耳を欹てて何かしらの変化を期待するも、同時にそれを畏れている。相反する己の感情が、酷く疎ましい。
「この棚、動きそうだな」
水明が独りごちた。ユカリが聞き返す間もなく、彼は棚らしき影を押し始めた。軋みを立てながら棚はコンクリートの上を動いていく。
「隠し通路か……本当にあるんだな」
一息ついてから、水明が好奇心を含んだ声を上げた。彼の懐中電灯は、壁に開いた穴を照らし出していた。穴は人一人が優に通れる大きさで、生暖かさを含んだ風がユカリの髪を揺らしていく。
穴を覗き込んでいた水明は、ちらりとユカリの方を見やると間髪いれずに穴にひょろ長い体を滑り込ませた。慌ててユカリが穴に顔を突っ込むと、水明が悪戯めいた表情で紫煙を燻らせていた。憤怒で眉が跳ね上がるが、
懐中電灯を向けていないにも関わらず水明の表情が読み取れたという不可解さに気づいた。
その謎はすぐに判明した。何のことは無い。通路の先に光源があるのだ。ちらちらとした火影が見える。通路には、水明の影が水面のように揺れ動いていた。
ユカリが穴を潜り抜けるのを待ってから、水明は炎へと近づいていく。通路の壁には先ほどと似たような穴が穿たれており、炎はその奥にあるようだ。
水明の後に続いて潜ると、穴の先は小部屋になっていた。
熱気が頬をなでる。壁には真紅の布が張り巡らされ、小部屋の最奥には四本の燭台に囲まれた重厚な石壇が鎮座し、その上には聖杯が据えられている。炎はそこから吹き上がっていた。
この暗闇の中、炎の明かりに安心感を憶えていいはずなのだが、ユカリは部屋に満ちる空気とは裏腹に身体の芯が冷えていくのを感じていた。煌々と燃える炎は、どこか禍々しさを湛えていた。
炎の裏には聖像らしきものが掲げられているのが見える。聖像が炎に嘗められている光景は、残酷な火炙りの刑罰を思わせた。
一度そのように思うと、四本の燭台は執行人に、真紅の布は広がる血潮に見えてくる。
「隠し通路の奥には隠し祭壇……新鮮さはないが、実際に目にすると感動的だな」
水明が煙を吐き出した。背中しか見えないが、見えなくとも彼の瞳が輝いている様は容易に想像できる。
「見たことのない様式の祭壇だ。造型はインディアンたちのシャーマニズムの影響が見られるが、モチーフはキリスト教の影響が大きいな」
「……アメリカにこんな宗教臭いものがあるって、なんか変な感じ」
なんともなしに呟くと、水明が振り返ってにやりと笑った。
「アメリカ程の宗教国家はないんだぞ。ここ一万年の間に世界と全ての生態系が作られたと本気で信じている人間が大勢いるんだ。モンキー裁判といってな、公立学校で進化論を教えた教師が訴えられ有罪になったことすらある。ケンタッキー州には、
聖書が如何に正しいかを啓蒙する創造博物館なんてものがあったりな」
水明は煙草を床に捨て、それを靴で踏み消した。
「しかし、シビルの言ったとおりだな。まさしく、ここは"サイレントヒル"なんだ。サイレントヒルが実在の街となると、他の可能性も考えて見たくなるな」
「他の可能性?」
「サイレントヒルは、まるでサイレントヒルという町が存在することを前提として話が生まれている。とは前に話したな? "サイレントヒル"という町が先にあり、それをモチーフにした創作物が後から出現している。
有名どころだと、スティーブン・キングの『霧』なんかがそうだな。
だがな、こうした話は何もサイレントヒルに限ったものじゃないんだ」
また始まったと、ユカリは苛立たしくなったが、それを咎めても無駄なことなのも分かっている。そう諦めてしまう己自身も腹立たしかった。
新たな煙草を取り出し、水明はそれを咥えた。
- 129 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:34:56.39 ID:wzYTW91z0
- 「都市伝説には、地図から消えた村というジャンルがある。福岡県の犬鳴村や茨城県のジェイソン村などだ。大体共通するのは、過去に惨たらしい事件やらおぞましい風習やらで地図から存在が抹消されるも、村そのものは人知れず存続し、
時たま迷い込んだ外部の人間を恐怖に陥れるということだ。
その中のひとつに、"××村"というものがある。所在どころか名称すら不確かで、勿論、そんな名前の村があったという記録は無い。だが、そこで起きた出来事は実しやかに語られている。何年か前に、あるテレビ番組で××村を特集してな。
そのときは結局村は見つからず、番組は『××村は時空の歪みの中に存在する』という言葉で締めた。この手の企画でありがちなオチだが、俺たちがサイレントヒルにたどり着いた経緯を考えると笑えないな。つい最近加わった噂は、
とある地方テレビ局のクルーが取材中に行方不明になったというものだ。
今でも××村には新たな噂が生まれ続けている。
これが他の"村"とは違う点だな。加えて、サイレントヒルと類似する点でもある」
説明しながらも、水明は探索を続けていた。彼は壁に掛けられた斧を手に取ったが、それをすぐに壁に掛けなおした。重くて使えないと判断したようだ。
「内容はこうだ。戦前、発狂した若者によって村人三十三人が殺される事件が起こった。その後、度重なる土砂災害に見舞われた村は消滅し、地図からも消えた。その廃村跡には血まみれの着物が散らばり、殺された村人の幽霊が今でも生活している」
「……なんか、そんな事件のドラマがあったような気がするんだけど」
「ああ、有名な探偵ものだろう? だが、あちらのモチーフは津山事件だ。同じく戦前、岡山県の西加茂村で起こったものだ。犠牲者は三十人。こっちは実際にあった事件だな――得る物はないな。戻るぞ」
水明はさっさと入り口の穴へと歩いていく。
「意地の悪い言い方をすれば、××村は"地図から消えた村"の都市伝説に津山事件を組みこんだチープな作り話だ。だがな、××村の話はそこまで新しい話でもないようなのが、そう結論づけるのを妨げる。とはいえ、実際に探しに行ったが何も見つからなくてな。近辺の、
実際に廃村となった村々も調べたが、収穫はなかった。そうなると、
××村が実在したという仮定でアプローチするのは研究方針として不適格だった」
背後で、炎が乾いた音を立てて弾けた。
「だが、サイレントヒルは実在した。となれば、××村も実在するかもしれない。××村が、もし本当にあった村だとしたら――過去にあったとされる事件が、全て実際に起こった出来事に由来するとしたら、違う姿が見えてくる。例えば、
こうだ。同じ時期に似た事件が実際にあった。
やがて片方の村は消滅し、太平洋戦争が間に入ったこともあって、
人々の間で事件は残った方の村のものに統一されてしまった……とかな」
狭い通路に足音が反響する。
「気分よく口上たれてるとこ悪いんだけどさ。オジサン、おかしいよ。そりゃ人の噂の上じゃそうなるかもしれないけど、記録は残るでしょ。その××村が実際にあった記録はないって言ったじゃない」
そう口を挟むと、水明は嬉しそうに小さく笑った。
「その通り。だが、××村での大量殺人が都市伝説となってしまった理由を考えて見よう。噂によれば、村は幾度も土砂災害を受け、結果消滅している。これが事実だとすれば、そこから導かれるのは事件を語り継ぐ語り部を失ってしまったということだ。加えて、
事件を記した文献も記事も、なんらかの理由で滅失してしまった。
さて、どうなるか。××村は実在の村ではなくなる。証拠が消えてしまえば、真実は"真実"としての立場を失ってしまう」
「それは苦しいよ。偶然にしちゃ出来すぎもいいとこ。誰かがわざわざ隠そうとでもしなきゃ無理じゃない? 大体、真実だったらそんな簡単に消えやしないよ」
「……若いな。真実なんて物は、その言葉の醸し出す重みとは裏腹に、酷く曖昧で脆いものなんだよ。真実とは、つまりはそれを"真実"として記憶している者がいて、それが継承されてきてこそのものなんだ。逆に言えば、その記憶が失われてしまえば、
真実は容易に変質し、闇の中に消えてしまう」
水明の口調には苦笑が刻まれていた。
- 130 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:38:48.25 ID:wzYTW91z0
- 「だがな、長谷川の言うように、俺もな、そんなことで真実が綺麗さっぱり消え去ってしまうとも思えないんだ。真実とは存在の記憶だ。その残滓が"都市伝説"という形となって現れているんじゃないか? 火のないところに煙は立たない。流布する以上、
何らかの真実が含まれているはずだと俺は考えている。
そう信じたいだけかもしれないがな」
戻ってきた骨董屋は相変わらず暗闇で、シビルが戻ってきた形跡はなかった。
「そもそも、こうした都市伝説にはリアリティというものが必要なんだ。"あり得るかもしれない"と思わせなければ、根強く残ったりはしない。より身近に感じられるものでなければならないんだ。
たとえば、日本の都市伝説は幽霊や妖怪を扱ったものが大部分だが、
アメリカでは殺人鬼や精神異常者が登場するものが多い。
非現実的な恐怖と現実的な恐怖。何を恐怖の対象と置くか。国民性や治安の違いが大いに現れている部分だな。日本人が平和ボケしている証拠とも見えるが、文化的側面も大きいだろうな。日本人の文化は、目に見えないものを重視する傾向にある。
鹿威しもその表れだ。あれは水を見せず、
水を感じさせるという趣旨を持っている。要は想像心逞しいんだな」
水明は壁を無造作に軽く叩いた。
「その例として、アメリカ版の"地図から消えた村"に、核で消滅した町"ラクーンシティ"ってものがある。日本のものが凄惨な事件やら因習やらじめじめとした理由なのに対し、こっちはあっさりとしているだろう。何しろ、
爆弾で一気に焼却だ。アメリカらしいと言えるかもしれないな。
焼却の理由は、パンデミックが起こったとかだったかな。扱いとしては、エリア51と似たようなもんだ。噂の出所を調べると、大体二〇〇〇年前後から広まり始めているな。君にとっては未来の話だ。勿論、そんな事実は無い。少なくとも、
俺はニュースで見た記憶は無いな。嘘とすぐばれる噂だが、
その割にはしつこく語られ続けているのが"ラクーンシティ"の特徴だ」
そこで一通り語り終えたのか、水明は長く息をついた。腕時計を見て、小さく笑みを刻んだ。
「さて、もうかれこれ十五分経ったな。無駄話でも、じっと待つよりは精神的に楽だったはずだ。あとはシビルの腕前を俺たちが信じるしかないな」
「……何よ、それ。あたしのためにずぅぅぅっとくっちゃべってたわけ?」
「いや、単に思いついたことを形にしてみたくてな」
「………………」
「そろそろ病院に向かうとしよう。下手したら、彼女の方が先につくかもしれないぜ」
押し黙ったユカリを無視して、水明は骨董屋の扉を開けた。辛気臭い階段を上がり、外に出る。絡みつくような夜気が呼吸のたびに身体に浸透していくのが分かる。
遠くで断続した複数の音が響いていた。映画やドラマで聞いた物と違って控えめだが、それらは銃声に似ていた。
ユカリは水明の顔を見た。正確には、彼が咥える煙草の火をだが。
「銃声……だろうな。シビルの向かった方向とは逆だ。人がいるってことだな」
水明の言葉に、ユカリは前方の闇に光明が灯ったような気がした。
人がいる。
その言葉ほど心強いものはなかった。
「ま、どうも向こうは向こうで平和な状況と言うわけでもなさそうだ。流れ弾だけには気をつけようぜ」
通りにはまばらに明かりが灯っている。オレンジ色の街灯の下に、佇む人影を見つけた。背中を丸め、動こうとしない。
- 131 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:39:39.39 ID:wzYTW91z0
- 「オジサン、あれ。逃げてきたのかな?」
「……こっちに背を向けているな。微動だにしないのが気にかかる。疲れきっているのか……?」
「そんな観察していないでさ、助けに行こうよ。銃貰ったんだし」
「いいのか? 背格好が人間だからといって人間とは限らないぞ。小泉八雲の『むじな』は知っているだろう?」
「知らないっての」
「なんとまあ。ちゃんと現代文の授業受けているのか? ある若い商人の行く先に若い女がしゃがみ込んでいてな、声をかけると女は振り返った。その顔は――」
「聞きたくないって言ってるの!」
そう遮る。水明は意地の悪い笑みを浮かべているに違いない。
ユカリは思い切って人影に近づいていった。水明の足音が面白がるような歩調でついてくる。黒々とした闇の中に浮かぶオレンジ色の光は太陽のような温かみがある。
近づくにつれ、人影の姿が明確になってくる。若い女だ。少女といってもいいかもしれない。着ている服は赤黒い物で汚れていた。
否応にも、水明の台詞が蘇る。むじなだったか。題名はどうでも、話自体は小学生の頃に聞いた覚えがある。
"それはこんな顔だったかい?"
この台詞に、幼心は如何程の恐怖を覚えたものだろうか。
女はぶつぶつと何かを呟いていた。
「――う……とけい、とう……とけいとう……ふふふ。あはは……は」
ユカリは足を止めた。この女はクスリか何かをキメている。そうに違いない。髪が正気を疑う色なのもその表れだ。
戻ろう。別の道から病院を目指そう。水明も、この結論に異議は唱えまい。
一刻も早くこの場から離れたい。その衝動は吐き気を及ぼすまでの切迫感となって体中を駆け巡った。
女が笑い声を止めた。
女が肩越しに振り返る。ただそれだけの動作が、ユカリには酷く長い時間に思えた。
女は弛緩した笑顔を浮かべていた。双眸から、滂沱のように真っ赤な血を流しながら――。
悲鳴は出なかった。肺が麻痺したように縮まり、喉の奥が引き攣った。
「伍長、レナぁ……みぃーつけたー」
女はユカリに鉄の塊を向けた。無骨で虚ろな深い穴――そこから延びる見えない糸が己の額に繋がったような感覚が奔った。
ユカリは背中から大きく突き飛ばされた。破裂音と共に、虚空を何かが突き抜けた。転びそうになるのをなんとか耐える。
地面につきそうになる腕を、力強い掌が引き止めた。
「――走れ!」
- 132 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:40:47.84 ID:wzYTW91z0
- その鋭い声に突き動かされるように、ユカリの足は地面を蹴った。
続く破裂音。すぐ横の外壁が弾け、破片が飛んだ。
水明はユカリの腕を引きながら、手近な建物に駆け込んだ。
そのまま、ユカリは床に座り込んだ。
"銃"を向けられた。それだけじゃない。撃たれた。それも二発――。
それに、あの顔――。
シビルを追っていった怪物の姿は一瞬目にしただけだった。だが、今度は違う。
あの空っぽな嗤い顔と、血涙――はっきりと見た。
全身を震えが包み込んでいた。歯の根が合わず、かちかちと音を立てる。
水明がテーブルやらイスやらで扉を塞いでいる。それを手伝わなくてはならないのに、一歩も動けそうになかった。
縦に細長い窓から入り込む街灯の光が屋内の風景を朧気に浮かび上がらせる。幾つかの小さなテーブルとイスの向こうにはカウンターが見えた。
レストランか何かだろうか。
入り口には、すでに組み合わせられすぎてイスかテーブルか見分けの付かない影の塊が出来上がっていた。
女が体当たりでもしているのか。扉が軋みを上げている。
「これで、多少は時間稼ぎ、できるな。裏口を探すか」
水明がほっと息をつく。
「長谷川、落ち着いたか? ……悪かったな。銃を渡されたっていうのに、撃つという考えがまったく浮かばなかった。俺には、人の形をしたもんを撃つってのは無理そうだ」
水明の声音から諧謔の響きは消えうせていた。しかし、水明の言葉で波立っていた心が落ち着いていくのを感じた。
人間は撃てない。その当たり前の言葉が、ユカリに現実感を取り戻させてくれる。
ユカリは自分が懐中電灯を握り締めていたことに気づいた。足は動かなくとも、それで照らしてやるだけで水明は随分と助かっただろうに。
それに思い至り、今更のように水明に明かりを向けた。その行動が余計に己への憤りを強くする。
水明の仏頂面が浮かび上がった。煙草はもう咥えてはいない。肩が大きく上下していた。ワイシャツの右袖の一部が――赤く染まっている。
「オジサン、それ――!」
「騒ぐなよ。当たっちゃいない。掠っただけだ――まったく、こんな言葉を口にするとは想像すらしなかったがな」
- 133 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:41:22.24 ID:wzYTW91z0
- 不敵に微笑んで見せるが、どこか力ない。水明は水明でショックを受けているらしい。
外で発砲音が響いた。銃で扉を壊しにきたのか。しかし、扉に着弾音はない。
外を確認しに行こうとしたユカリを水明が引き止めた。
窓ガラスが砕け散った。そこから腕が突っ込まれる。
あの女か。ユカリは懐中電灯を向けた。窓ガラスを突き破ったのは毛深い男の腕だった。中に入り込もうというのか、腕が激しく動かされる。
窓枠に残ったガラスが深々と突き刺さるが、それを気にした様子もない。右肩と首まで入り込み、そこで動きが止まる。
上げられた男の顔は血だらけで、両目共に白濁していた。鼻梁は削げ落ち、頬肉の一部には深い裂傷が刻まれていて歯茎が見えている。女とは違い、
その顔には何の感情も知性も込められてはいなかった。
男がうなり声を上げた。
ゾンビという言葉が頭に浮かぶ。外では断続的な発砲音と共に女の笑い声が聞こえていた。
「裏口も駄目だな。連中、集まってきている」
いつの間にか、裏口を探しに行っていたらしい。水明の声は普段の落ち着きを取り戻していた。
「鍵は閉めてきたが、近いうちに破られる。上に行くぞ」
「このレストランに立てこもるってこと!?」
「ここは小さなホテルだよ。これまで見てきた限り、ここの区画の建築物の高さは殆ど一緒だ。屋上伝いに移動できないことはないだろ」
「駄目だったら!?」
「それは今考えても仕方ないことだ。駄目だったら、まあ、死に場所は天国により近い所の方が都合いいんじゃないか?」
「こんなときに嫌な冗談やめてよ!」
「冗談で終わりにしたいならな、足を動かすことだ」
水明の懐中電灯がカウンター横の階段を照らした。ユカリは頷いた。
水明が先行し、階段を駆け上がる。狭い階段の床は古いのか、きぃきぃと不平の声が漏れた。
階下から大きな音が聞こえた。そして複数の呻き声が駆け上がってくる。扉は破られたらしい。
三階分の階段に、焦りもあってか息が大きく上がる。
屋上に続く扉の鍵は――開いていた。
壊すような勢いで、扉を水明が押し開けた。
耳に入ってきたのは、犬の吼え声と突き抜けるような哄笑だ。
ユカリは思わず屋上の縁にまで駆け寄って、下を覗き込んだ。
街灯の下、複数の人間と犬が何かに覆い被さっていた。哄笑はその中から響いてきているようだ。あの女の声だ。
一匹の犬が何かを咥えて飛び出した。咥えているのは、人間の腕のようだ。それを数匹の犬が追っていき、闇の中に消えた。
何が起きているのか想像が付いた。あの女が喰われているのだ。喰われているのに、女は笑い続けている。
銃声が響いた。黒い衣装を纏った数人が、食事を楽しむ者達に向かって発砲している。気でも違ったかのような、実に楽しげな哄笑を上げながら――。
- 134 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:42:05.46 ID:wzYTW91z0
- ユカリは後ずさりしながらよろめいた。目にした光景は、受け止めるにはあまりにも常軌を逸していた。
音が段々遠くなっていき、何も聞こえなくなった。銃声も、風の音も――。
だが、頭の中では笑い声がまだ響いていた。視界が歪み、紗を掛けたように意識が沈んでいく。
――チサト。
――ミカ。
人知れず、ユカリは親友二人の名前を叫んでいた。いや、叫んでいたのだろうか。それすらも定かではなくなる。ただ、意味もなく声を上げたのかもしれない。
頬に痛みが走った。視界には水明の顔が入り込んでいる。ユカリの身体を水明が支えていた。
口の中に血の味が広がる。片頬が熱を持っている。頬を強く張られたのだと気づいた。
水明は肩を竦めた。
「よく眠るやつだな。成長期か? 睡眠は大事な生理現象だが、時と場所を弁えないと、お互い逃げられるものも逃げられなくなるぞ」
気を失いかけたユカリを、水明が頬を打って起こしてくれたらしい。感謝を告げるのも気恥ずかしく、それを誤魔化す様にもっと穏やかな起こし方はなかったのかと文句をつけた。
水明は苦笑を刻んだ。
「そう怒るなよ。嫁に行けなくなるってんなら、そんときは面倒見てやるから」
「お、オジサン何言ってんの!? 犯罪!?」
想像していない返しに、ユカリは素っ頓狂な声を上げた。水明はきょとんとした顔をして問い返した。
「うちの学生から将来性のあるやつ見繕ってやるのは犯罪か……そうか」
「………………」
「ああ、弟は勘弁してくれよ。警視庁の刑事だが、どうも先約がありそうでな」
我慢出来なくなったのか、水明の口元ににやにやとした笑みが浮かぶ。わざと紛らわしい言い方をしたらしい。
屋上の扉ががんがんと音を立てた。奴らは、もうすぐそこまで追ってきた。
大丈夫かと言う問いに、ユカリは頷いた。
水明の後を追って走る。縁までいくと、隣の建物との間は一メートルもない。まず水明が飛び移り、それにユカリが続いた。
息をつくまもなく、南北に細長い屋上を走りぬける。
「参ったな。こいつは……」
水明が呻いた。彼の懐中電灯は視線は、通りの反対側に向けられている。付近からは絶え間なく発砲音と嬌声が聞こえてきていた。
ユカリは息を呑んだ。建物と建物の隙間。淡く発行するような水面が見えた。
赤い海――それが、ユカリたちが入ってきたはずの外の世界を完全に沈めていた。
- 135 :Night of the Living Dead 代理:2011/04/30(土) 12:43:05.04 ID:wzYTW91z0
- 【E-2 建築物の屋上/一日目夜】
【長谷川ユカリ@トワイライトシンドローム】
[状態]精神疲労(中)、頭部と両腕を負傷、全身に軽い打撲(いずれも処置済み)
[装備]懐中電灯
[道具]名簿とルールが書かれた用紙、ショルダーバッグ(パスポート、オカルト雑誌@トワイライトシンドローム、食料等、他不明)
[思考・状況]
基本行動方針:チサトとミカを連れて雛城へ帰る
1:とりあえずオジサン(霧崎)の指示に従う
2:シビルさん……
3:チサトとミカを探したい
※名簿に載っている霧崎、シビルの知人の名前を把握しました
※チサトからの手紙は消滅しました
【霧崎水明@流行り神】
[状態]精神疲労(中)、睡眠不足。頭部を負傷、全身に軽い打撲(いずれも処置済み)。右肩に銃撃による裂傷(小。未処置)
[装備]10連装変則式マグナム(10/10)、懐中電灯
[道具]ハンドガンの弾(15発入り)×2、謎の土偶、紙に書かれたメトラトンの印章、サイレントヒルの観光パンフレット(地図付き)、自動車修理の工具、食料等、七四式フィルム@零〜zero〜×10、他不明
[思考・状況]
基本行動方針:純也と人見を探し出し、サイレントヒルの謎を解明する
1:屋上伝いに行ける所まで移動する。
2:病院に向かう
3:人見と純也を見つけたら、共に『都市伝説:サイレントヒル』を解明する
4:そろそろ煙草を補充したい
※名簿に載っているシビル、ユカリの知人の名前を把握しました
※ユカリには骨董品屋で見つけた本物の名簿は隠してます
※水明、シビル、ユカリが把握している『病院』があるはずの場所には、『研究所』があります。
※魅音屍人を食べたゾンビとケルベロスに何か変化があるのか否かは、次の書き手さんにお任せします。
※魅音屍人は著しく喰い散らかされています。回復には通常よりも大分時間がかかるかもしれません。
代理投下終了です
- 136 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/06(金) 13:59:57.29 ID:HOalVKrOO
- あげ
- 137 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/11(水) 20:56:35.60 ID:9ywPEObS0
- 代理投下します
- 138 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 20:57:25.39 ID:9ywPEObS0
- 俺は自分が選ばれた人類だと信じている。
選ばれた自分は殺す側の人間、他の奴らは殺される側の人間。この世界でもそれは変わらないはずだ。
生まれてこの方、自分が殺されるなど考えたこともなかったが…。
あの化け物に吊し上げられた時はこれは夢か幻なのだと思いたかった。思い出しただけで冷や汗が出る。
我ながら情けない。屈辱だ。
だが俺は生き返った。やはり俺は選ばれた人類なのだ。
いや…生き返ったのか…?
化物に捕まり、意識が途切れるまでの瞬間、あの数秒に感じた痛みは紛れもない現実だったはず。
首が裂けるような感覚だってあった。あれ程のことになっておきながら死なないはずが無い。
だが俺は今こうして立っている。首を触ってみても、間違いなく繋がっている。
しかし間違いなく。霊体やゾンビなどというくだらない存在ではない。確かな実体で、日野貞夫として立っている。
- 139 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 20:57:58.07 ID:9ywPEObS0
-
これは一体どういうことか。
化物は痛覚を伴う幻だった、もしくは化物は現実で、殺された後に蘇ったかのどちらかのはずだが…どちらにしても非現実的だ。
考えるだけ無駄かもしれない。
幸いなことに体に変調は無い。
特に不調も感じない、あの怪物に出会う前との体と変わらない。
言ってしまえばもっと前だ。屋敷で女に会う前と変わらない。
屋敷で放り投げられたおかげで体の節々にあった痛みも治っている。
ただ、女と会った後に手首にできた妙な痣はまだある。ケガが全て治っているわけではないのか、それともこの痣はまた違う何かなのか。
ふざけた話だが、そんなことはどうでもいい。ここからどうするかを考えるほうが重要だ。
あの化物が現実ならば迂闊に近づかないようにする必要がある。不愉快極まりないが、あの化物はそう簡単に殺せる相手じゃない。
これからは奴を警戒する必要があるだろう。
人を殺すつもりでまたあいつに近づいてしまうのでは困る。
クソッ…あの化物…俺の狩りの邪魔をしやがって…腹立たしい…。
- 140 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 20:58:26.37 ID:9ywPEObS0
-
いずれはあの化物も殺すつもりだが、化物には化物用の殺り方がいる。
それを練るためには武器と情報が必要だ。
人間を獲物とするならアイスピックがあれば十分だが、あの化物相手となるとさすがに役不足。
目の前にある雑貨屋に何か無いか、一応目を通しておいて損はないだろう。
所詮雑貨屋、強力な武器は期待はできないが。
情報は雑貨屋を出てから集めればいい。
雑貨屋の中は薄暗く埃っぽい。
あまり長居したい場所では無いがここは我慢をするしかない。
雑貨屋というだけあって棚から床までごちゃごちゃと物が置いてある。
これは散らかっていると言うよりも荒らされたと言った感じか。
並んでいるのはガラクタばかり。
薄暗くてよく見えないのではっきりとはわからないがあれは人影ではないだろうか。
と、思ったがよく見れば何のことはない。ただのマネキンだ。
このマネキンには日本刀が刺さっている。切り口から赤黒い液体が流れているが…これは血か?
この暗さじゃどうとも判断できないが、そもそもマネキンから血が出るわけがない。
馬鹿馬鹿しいな。せっかく日本刀があるんだ、ありがたくいただいていこうじゃないか。マネキンに興味はねぇ。
- 141 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 20:58:57.94 ID:9ywPEObS0
- 日本刀も見つけたし早いところ探索に見切りをつけて打ち切ろうかとも思ったが一つ見慣れないが、見覚えのある物を見つけた。
この世界に来て最初に見つけたラジオにはめる石。
最初に見つけた石は面白いことを教えてくれた。この石にも期待はできる。
ラジオを取り出そうと鞄を開けてみれば中がガチャついている。
投げるのにちょうどよさそうだと屋敷で拾ったガラス玉が割れていた。
投げれば陽動に使えそうだと一つ鞄に入れておいたのだが、割れてしまっては投げるのに適しているとは言い難い。これはここに置いてしまってかまわないだろう。
邪魔なガラス玉を棚に置きラジオを取り出す。
バーでやったのと同じようにラジオに石を嵌め、音が流れるのを待つ。
このラジオの待ち時間はなんともいいものだ。思わず表情が緩んでしまう。
この顔を獲物に見られたら騙すのは難しくなっちまうだろうなあ。
だがラジオから流れてきた言葉を聞いた俺の表情は緩むなんてもんじゃない。笑いが止まらなかった。
「クッ…クククッ…。素晴らしい!どうやらこの世界の神は俺の味方のようだ!」
ラジオは教えてくれた。やはり俺はあの化物に殺されちまったらしい。殺され、蘇った。
- 142 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 20:59:34.02 ID:9ywPEObS0
- 殺された俺がなぜこうして生き返れたのか。
俺がただのガラス玉と思って鞄に入れておいたブツは鏡石。
こいつのおかげで俺は今笑っている。こいつが俺を蘇らせた。
こんな素晴らしい物を無意識のうちに手に入れちまうのだから面白い。
効果は一つにつき一度きり。
『一つ』につき一度きり。
『一人』につき一度きりじゃあないんだぜ!?なぁんて素晴らしいんだ!
あの屋敷を探索しているとき、似たようなガラス玉がいくつも転がっていた。
つまり…つまり!!
この世界は素晴らしい。感謝するぜ、イカした神様!!
◆ ◇
俺は屋敷に戻ってきた。
雑貨屋で得た情報に心踊らせながら。
この興奮を隠しきれなければ獲物を油断させるのも難しくなるだろうと密かに困っていたのだがどこまで追い風が吹いているのか、隠す必要のある獲物には遭遇せずに屋敷に到着してしまった。
日本刀の切れ味も上々だ。ヌトヌトと糸を引く犬の血液を不気味なウサギのハンカチで拭き取りながら階段を登り門を開く。
- 143 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 21:00:25.95 ID:9ywPEObS0
- どうも元居た住人は化け物含め全て出払っているように見える、居るにしては気配も無ければ音もない。
実際、屋敷中を回ったが何にも出くわさなかった。
記憶を頼りに屋敷の中を見てみると鏡石が出てくる出てくる。その数や13個。
純粋に大量の鏡石が見つかるだけで興奮するというのに、その数は13。
死刑台への階段、タロットにおける死神のカード、忌み数。13…。どこまで俺は興奮すればいいのだろう。
だがこのイカした世界は、俺にさらなる感動と興奮をくれるらしい。
屋敷の一室。着物が垣根のように群れをなす部屋。
鏡石は無いかと着物を探っていると外から凄まじい爆発音が聞こえてきた。殺人クラブでは機密保持の為にまず聞こえては来ない愉快な音につられて学生鞄の中にあった双眼鏡を取りだしその方角に目を向けてみると
無数の化物が殺し合いをしてやがる。
炎上する車。その炎に包まれる人型の化物。
刃物を持った化物が単身突っ込めば数体の看護婦がそいつを囲みマシンガンをぶちこむ。
化物を蜂の巣にした化物共がその場を離れようとすればまた別の化物がグレネードランチャーを発射する。
それが着弾すると先程のように愉快な爆発音を轟かせマシンガンを持つ化物含め近くにいた化物を皆吹き飛ばす。
しかしそのグレネードランチャーを持つ化物もすぐさま後ろから迫っていたゾンビに食い散らかされる。
奴等はここに投げ入れられた時に見た幽霊の群れの青白い光と紅蓮の炎に照らされながら。
どの化物も次から次へと増援が来ては肉片に化けていく。
これは…こいつは…。
「ヒッ…ヒヒヒヒッ!!素晴らしい…素晴らしいぜ!こいつはまるで戦場じゃないか!!この世界は、どこまで俺を楽しませてくれるんだ!?」
- 144 :R Death13 ◇hr2E79FCuo:2011/05/11(水) 21:00:59.59 ID:9ywPEObS0
- 【日野貞夫@学校であった怖い話】
[状態]健康、興奮状態、殺人クラブ部長、縄の呪い
[装備]:学生服
[道具]:学生鞄(中身は不明)、アイスピック数本@現実、日本刀@現実、霊石ラジオ@零〜赤い蝶〜 鏡石×13@零〜赤い蝶〜、双眼鏡@現実
薄赤茶色に光る鉱石×2@オリジナル、チラシ
[思考・状況]
基本方針:殺人クラブ部長として、殺人を思う存分楽しむ。
1:皆殺し
2:危険を避けて細心の注意をはらい行動する
3:霧絵と化物に復讐
「……縄がh…って………彼等のよう………死んd…………」
「…!?」
今確かに何か聞こえた。部屋をしかし見回しても誰もいない。
「気のせいか…?」
興奮し過ぎて、幻聴でも聞こえてきちまったかな…。
代理投下終了です
- 145 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/12(木) 09:45:41.79 ID:/FGMPv6W0
- 代理投下乙でした!
- 146 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/13(金) 00:28:54.89 ID:3c+IBt6e0
- 投下乙!!
参加者へらねええええww
でもこれがホラゲロワの醍醐味!!
投下速度もかなり速いし楽しいロワだな
- 147 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/13(金) 18:57:56.99 ID:qBMEd6edO
- むしろ増えたしなw
- 148 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/15(日) 12:50:11.83 ID:MqxqfCtT0
- 月報用データです。
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
92話(+12) 34/50 (+ 1) 68.0 (+ 2.0)
生存者前期比はプラスで間違いはありません。
- 149 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/22(日) 21:55:53.16 ID:b99g/8UW0
- 代理投下します
- 150 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 21:57:10.47 ID:b99g/8UW0
- 飛び出した鉛弾が標的に喰らい付く。ズタズタになったポンチョコートに抱きすくめられるように、感染者が床に崩れ落ちる。
その亡骸を飛び越え、五匹の犬が飛び掛る。閃光の中、甲高い悲鳴が銃声の中に消えた。
硝煙の向こうに、複数の物言わぬ肉塊が重なり合っている。耳障りな呻き声はもう聞こえない。
マシンピストルを降ろし、ハンクは踵を返した。これで、この区画に居た感染者は全て排除したはずだ。空になった弾倉を手早く交換する。
遭遇した二人の男女から情報を聞き出すため、手近なオフィスビルに入ったのだが、この建物にも複数の感染者が当然のように侵入していた。
己一人であるなら無視しても構わない存在だが、今は彼女らの安全を確保せねばならなかった。少なくとも、彼が必要とする情報を持っているかどうかの確認が取れるまでは。
この消費は後々響いてくるかもしれないが、必要経費だとも言える。
サイレントヒル――別行動を取る前に男から聞きだした町の名前だが、心当たりは全くなかった。分かるのはナイト・ホークが待機している可能性が殆どないということだけだ。
ただし、この町に、アンブレラ社に関連する何らかの施設があることは確かだろう。ラクーンシティよりも規模は小さいようだが、ウィルスの漏洩事故が発生しているのだから。
もっとも、己がアンブレラ社の持つ研究施設の所在を全て把握しているわけではない。それどころか、ほんの一握りだ。
雇い主にとって、己は利用価値のある猟犬に過ぎない。猟犬は己の分を弁えているものだ。過信せず、目にみえる事象のみを追いかけていればいい。
知る必要のないものを知ろうとしないことだ。それだけで多少は長生きできる。
問題は、己自身に何の情報も与えられていないことだ。最初に思い至ったのは任務の変更だが、その報せもない。必要最低限の情報すら与えられないことは珍しくもないが、
何もないという状況は初めてだ。
何より、新種のウィルスのサンプルはまだハンクの手にある。その回収よりも優先される任務で、且つ何の情報も与えられないものとなると想像することも難しい。
扉を前にしてノックを二つし、かつては事務所だったらしい部屋に入る。
乱れたデスクの列は、町を覆った混乱の爪痕を如実に表していた。観葉植物を備えた室内は色調も落ち着いたものであり、職員への細かい心配りが見て取れる。
しかし、今は、フロアタイルには赤黒い汚泥がこびり付き、デスクの上には血糊のような物が広がっている。
男は一番手前の席に腰掛け、女はその横に立っていた。女は机上に広がる物体を調べていたようだ。ハンカチで指先を拭っていた。
両者とも戻ってきたハンクへと顔を向けている。
「一通り片付けてきた。質問に答えてもらえますかな? ミスター……」
「カートランドだ。ダグラス・カートランド。彼女は式部人見。あんたは?」
「ハンクと呼ばれています。ミスター・カートランド。サイレントヒルと言われましたが、残念ながら私の記憶にはない町のようだ。どの辺りにある町ですか?」
問いに、カートランドは所属する州や近隣の町の名前を答えた。サイレントヒルは合衆国の北東部にある町のようだ。
ラクーンシティが中西部の都市だから、相当の距離を移動していることになる。
観光地とのことだが、こうまで汚染された後では余程の物好きしか集まらないだろう。汚染の程度はどうあれ、町の命は既にカウントダウンに入っている。
通りを闊歩する腐った感染者たちは、その状況に何の痛痒も感じないだろうが。
そのことを哀れと思わないでもないが、いつか終わりと言うものは来るのだ。この町が他の町よりも僅かばかり運が足りなかっただけだ。
気づかれないよう、ハンクはため息をついた。
まず為すべきは、アンブレラ社と連絡を取ることだ。しかし、既存の通信機器がまともに使えることを期待するのも無駄だろう。
アンブレラ社の弄した策によって外部との通信手段は遮断されていると考えていい。無線が故障している以上、町からの脱出が当面の目標になる。
説明を終えて、カートランドが探るように下からハンクを仰ぎ見た。
「あんた、そんな格好をしているが、軍人か何かか? バードウォッチングが趣味ってわけじゃないだろう?」
「傭兵ですよ。この装備は雇い主持ちです」
「……成る程」
当たり障りのない嘘を告げる。カートランドは嘘に勘付いたかもしれないが、その追求をさせる間もなく問いを重ねる。
- 151 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:00:46.89 ID:b99g/8UW0
-
「ご説明、感謝します。情けない話ですが、迷子状態でね。一番近い町の出口を教えて貰えると助かるのですが」
「……一番近いのは、このビルが面している通りを東か西へ抜けることだろうな」
カートランドは歯切れ悪く告げた。己の言葉を疑っている。そのような雰囲気だ。
式部が肩を竦めたのが、衣擦れの音で分かった。
「彼の情報も当てにならない。そういうことよ」
「というと?」
「これ、外の掲示板で見つけた地図なんだけど、どうも彼の記憶や所持していた地図とは違うようね」
「……見せてもらってもよろしいかな? ミセス・シキブ」
「まだ独身よ。どうぞ」
「それは失礼」
彼女に近寄り、地図を受け取る。ハンクはマスクを外し、直に地図を見た。直に吸う空気は生臭さが漂っており、気分がいいものとはいえない。
そこには湖を中心に置いた町の概要が描かれていた。今懐の中に入っている地図と同一のもののようだ。風変わりなテーブルクロスだと踏んでいたのだが違ったらしい。
遊園地や病院、警察署といった公共的なものから、個人の宅地まで記載されている。ただし、後者で載っているものは極一部だ。
観光地であることを鑑みると、地元の名士の生家か何かなのだろう。
現在位置をカートランドが告げる。確かに湖沿いに東西へと抜ける道が描かれている。しかし、南へ抜けるルートの方が若干距離が短いように見えた。
「具体的にはどう違っているんです?」
「殆どさ。今居るビルの正面にあるローズウォーターパーク――その地図では単に公園と書かれているが、
そこの対岸にはリバーサイドホテルとレイクサイドアミューズメントパークがあったはずだった。しかし、
この地図には描かれていない。代わりに北岸には町が広がっている。
ホテルと遊園地は湖の東岸と西岸にそれぞれ移動しているようだ。
それに加えて、トルーカ湖が随分と小さくなっているように思う。
これは縮尺が分からないから、なんとも言えないがね」
序でに二人の容貌を確認する。
カートランドは頭に白い物が混じり始めた初老の男だ。好々爺然とした風貌だが、どこか厭世的な空気を纏っている。
着崩れたステンカラーコートが、その印象に拍車を掛けていた。
年齢の割りに体格もよく、軍か警察に籍を置いているのかもしれない。
式部は東洋人の女だった。最低限の化粧しか施されていない面は、そのせいでより元の整った容貌を際立たせているように思える。
切れ長の瞳は知性と、そして我の強さを如実に表していた。
再び地図に視線を戻す。
描かれている施設で目に留まったのは研究所だ。おそらくはアンブレラ社のものだろう。専用の通信機器がまだ生きている可能性はある。ただし、
ラクーンシティに倣うならば、ウィルス漏洩事故の中心地でもあるのだ。
装備が充実しているならまだしも、今の状態で向かうのは得策ではない。縦しんば繋ぎが取れたとしても、そこから脱出するのは至難の業だ。
自信がないわけではないが、わざわざリスクを冒す必要はない。
ハンクは地図から視線を上げた。
「そこまでとなると、そのサイレントヒルですらないかもしれませんね。しかし……奇妙な地図だ。具体的名称が一つも無い」
「まるで子供が書いたみたいに曖昧な代物よ。最悪、どれもこれもが間違っているかもしれない」
「そうかもな。南へのルートは?」
「道が無くなっているのよ」
- 152 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:02:49.71 ID:b99g/8UW0
- 式部が苛立たしげに答えた。
「無くなっている?」
「そう。私たちがこの町に入った道は崩落していたわ。道だけじゃなく、大地そのものが絶壁に変わっていた。
ほんの少し、目を放した隙にね。頭がおかしくなったと思うでしょうけど」
そう式部は自嘲した。彼女もまた、己の言葉を信じられないでいるようだ。
小さい嘘か、とんでもない大法螺を吹くかが人を騙すためのコツと言うが、少なくとも彼女の様子から嘘を見抜くことは出来なかった。
「あまりに突拍子もないせいで、むしろ信じる気になりましたよ。要は、逃走経路は二通りしかないというわけだ。
太陽が昇る場所か、もしくは沈む場所か――」
「こんな事態なのに落ち着いているんだな」
ぼそりとカートランドが呟いた。
「こういったものには多少慣れていますから」
「迷子にか? それとも化け物や死体が動き回る事態にかね?」
射抜くような眼光が向けられる。身体は衰えてきているのだろうが、瞳には年齢を感じさせない強さがあった。
「そんなに私の経歴が気になりますか? どのような返答をお望みで?」
「……すまない。職業病だ。どうにも、嗅ぎ回ることから離れられない性質でね」
カートランドは苦笑を浮かべた。しかし、それでも彼は探りを入れようとしたようだが、その機先を式部の言葉が制する。
「それは的を射た表現じゃないわね。死体は歩いたりしない。死後に筋肉が緩んで痙攣したり、腐敗の進行によって動いたりすることはあってもね。歩き回っている以上、あれは生きた人間のはずよ。
ハンセン病のような、悪性の感染症かもしれない」
「……言葉のあやだ。見たままを言ったまでだよ」
「それが間違いになるのよ。言葉にすることで、より一層誤った認識が自分の中で固まってしまう。知らず知らずのうちにね。そんな曇った眼で真実を見通すことなど不可能よ」
カートランドにぶつけられる式部の言葉には怒りすら感じられた。死体が歩いたところで別に構わないだろうが、彼女にとっては大きな問題らしい。何が何でも認めるわけにいかない。癇癪めいた雰囲気が、彼女の言葉の端端に窺えた。
人間は常に、自分に理解できない事柄はなんでも否定したがるものであるというパスカルの言葉は正しかったわけだ。
彼女は科学者なのかもしれないが、その姿は自らの教義を押し通そうとする宗教家の姿と似通っていた。
科学は進歩するが、人間は変わらない。
そんな言葉も頭をよぎる。カートランドのうんざりとした表情が見えた。
式部は一拍置くと、くるりとハンクに向き直った。
「あなたは知っているの? 彼らの正体を」
カートランドとは違う、鋭利な刃物を思わせる眼差しだ。鋭く、脆い――そんな印象を覚える。
ハンクはマスクの裏で苦笑した。言葉に気をつけて答えなければならない。彼女を支持するにしろしないにしろ、余計な時間をとられかねない。彼女との無意味な討論も楽しそうだが、今はそのときではない。
式部に地図を返しながら、ハンクは大仰に肩をすくめて見せた。
- 153 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:04:03.06 ID:b99g/8UW0
- 「撃てば、死ぬ。知っているのはそれぐらいですよ」
「随分とシンプルなのね」
「だが、一番重要なことだと思いますね。それさえ分かれば、人間か否か、わざわざ区別する必要はない」
「素敵な平等主義だことで。人も"化け物"も、あなたにとっては同じ?」
皮肉げな式部の言葉を、ハンクは身振りではぐらかした。どうやら、彼女のお気に召す答えではなかったようだ。
だが、事実は事実だ。懸命に意識し続けなければ、今このときも目の前に居る彼女たちと化け物の区別はつかなくなってしまうだろう。
正直なところ、必要な情報を持っていないことを知った今、カートランドたちを撃たない理由は何処にもないのだ。ただ、銃弾二発分の価値が彼女らに勝っているだけに過ぎない。
そもそもが武器を持った素人と玄人とを比べるようなものだ。どちらも危険には変わりない。引いては、同じく排除の対象ということだ。
リスクを無くすために得物の選り好みをしないのと同じだ。使える物でありさえすれば、望む結果を導くことが出来る。
ふと思いついて、式部に付け加える。
「……ひょっとするとなんだが――もしかしたら、叩いたり潰したり燃やしたり磨り潰したり削ったりすることにも弱いかもしれない。そうすると弱点ばかりだな」
「………………。そうかもね」
今度は彼女の期待する答えを提供できたようだ。その結果に満足し、ハンクはマスクを被り直した。もう彼らと会話の必要はない。
式部は疲れたように吐息をついて、カートランドに視線を向ける。
- 154 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:05:36.98 ID:b99g/8UW0
- カートランドが立ち上がり、部屋を出て行く。ハンクも彼らに続いた。
薄暗い通路の途中で彼らを追い越し、白い格式ばった扉を開ける。
瞬間、骨の髄まで痺れるような感触が奔る。無意識にハンクは膝の力を抜いて、ポーチ床の上に身を伏せた。刹那、連続した銃声が闇を貫いた。ハンクに続いて出ようとしたカートランドの身体が小刻みに跳ねる。式部がカートランドの名を叫んだのが聞こえた。
前のめりに倒れこむ彼とすれ違う形で、ハンクは転がるようにオフィスビルの中に戻る。
ほんの一呼吸間を置いて、雨の様な掃射が玄関口を襲った。その躍るように軽やかな咆哮に、外壁と扉が耳障りな悲鳴を上げる。
式部はハンクから一ヤードほど離れた壁に背を預けて座り込んでいる。存外に落ち着いているが、それはパニック寸前の静けさのように見えた。
「……ここからじゃ無理そうね。扉ももう保たないんじゃない?」
「そうだな。一瞬でも気をそらすことが出来れば仕留められるが。奇抜であればあるほど効果がある」
「私に素っ裸になって踊れとでも言う気?」
僅かに見える閃光に向かって、マシンピストルの引き金を引く。相手の銃撃は些か自己主張が激しすぎる。最初の銃撃は、正確にハンクの身体があった空間を射抜いていた。間違いなく、敵はこの暗闇の中でハンクを捕捉している。その一方で、
ハンクは相手の姿を捉えられていなかった。あの時であれば、
仕切り直しは可能だったはずだ。アドバンテージは相手にあったのだから。
にも関わらず、敵はこれでもかと己の所在を示してくる。
つまりは――囮だ。
マシンピストルの弾倉を入れ替え、ハンクは左手で拳銃を引き抜いた。
「……もう少し若くないと」
冷たい夜気の流れ込む屋内の空気が質量を持ったかのように一気に張り詰める。カシンと音を立ててマシンピストルの動きが止まった。
「後ろよ!」
裏の倉庫から侵入したのだろう。足音もなく接近してきた白い人影に向けてハンクは拳銃を発砲した。
先頭の影が翻筋斗打って倒れる。その背後から覗くサブマシンガンの銃口――それに向かって用無しとなったマシンピストルを投げつける。同時にハンクは地面を蹴った。放られたマシンピストルに射線を遮られ、相手の行動が遅れる。
その一呼吸の間にハンクは襲撃者の正面へと踏み込んだ。
再び構え直された銃身を右手で跳ね上げ、その首に拳銃を引っ掛ける。相手の腕に触れながら足を払い、襲撃者と身体を入れ替える。
銃声が響き、襲撃者の体越しに振動が伝わる。案の定、囮役がこの間に距離を詰めて来ていたのだ。身体を低くし、襲撃者を盾に取る。力なく揺れる腕の隙間から、玄関口に現れた二つの人影に向けて引き金を引いた。
- 155 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:07:16.55 ID:b99g/8UW0
- 銃弾が肉を食い破った音を耳が拾う。甲高い悲鳴を上げて二人は絶息したようだ。
更なる襲撃がないことを確認してから、まだ息のあった襲撃者の元にまで戻り、その喉を踏み砕いて止めを刺した。
襲撃者たちはハンクと瓜二つの恰好をしていた。"U.S.S."の隊員だ。生存者の抹殺指令でも受けているのだろう。問題は、同胞にまで銃口を向けてきたことだが――。
ふと、彼らがこちらの正体に気づく時間も与えられなかったことに気付く。
――結局、彼らもまた運がなかったということだな。
ブーツが床を叩く硬音。その足音に振り返ると、一度出て行った式部が戻ってきていた。彼女は沈んだ声でカートランドの死を告げた。
式部の息は上がっていた。どうやらカートランドの死体を、せめて中に入れてやろうとしたようだ。結果は無駄な努力に終わったようだが。
死体はもう肉の塊でしかないというのに、感傷的な女だ。
式部はハンクの足元の死体に目を向けた。
「……お知り合い?」
「なんだろうが、知らないな」
ふと興味が湧き、足元の死体からマスクを剥ぎ取る。黒髪の壮年が、精気のない目を見開いていた。フェイスペイントでも施したのか、
塗料か何かの汚れが目元や口元にこびり付いているのが分かる。
やはり見覚えはない。そのはずだ。誰一人とて憶えてすらいなかったのだから。
すぐに興味を無くし、ハンクは襲撃者のサブマンシンガンに目を向けた。装着された弾倉に弾はまだ十分に残っていた。無線機を調べると、
弾丸が貫いていて使い物にならない。物の管理が出来ていない男だったようだ。
がらくたになった無線機を放り、他の死体に足を向ける。
「……この死体、おかしいわ。死んで大分経ったみたいに冷たい」
式部はマスクを剥ぎ取った死体を調べていた。
「ならば、死体が動いていたんだろう」
死体から当面必要な分の弾倉を抜いておく。無線機には無事なものもあったが、今所持しているものと同じように故障しているようだ。それまで続いていた衣擦れの音が音が途絶えた。
式部を見やると、彼女は手を止めている。どこか、その姿には深い慙愧が感じられた。
「……それは認められない。監察医としてね。これまでの真実が何の意味もなさなくなってしまう。私の友人は喜びそうだけど」
「なるほど……上手くできた関係だ」
「何が……?」
「死体で喜ぶんだ。その友人は死体愛好家だと分かる。監察医ならば、身元不明の死体を横流すのも容易だろうからな。見事な泥沼の絆だ」
「……もう、それでいいわ」
- 156 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:08:07.74 ID:b99g/8UW0
- なぜか急に疲れた様子の式部から目を外し、ハンクは拳銃の弾倉を入れ替えた。
これまでの銃声で離れていた感染者たちも寄ってくるだろう。襲撃者の死体の一つを担いで、半開きの扉に手をかける。
「では、お元気で。ミス・シキブ」
「モーテルまで護衛してくれるつもりはないわけね」
「私はもう二回も、護衛対象ですらない君の命を救っている。これまでしたことがないくらいのサービス精神だ。
今の私なら街に出て無闇矢鱈と犬に吼えられることもないに違いない」
「私もあなたの命を救ったわ。彼らの接近を報せた」
「言われなくとも気づいていた」
どうかしらと、式部は微笑した。
「君と一緒に行くつもりはない。その方が良い結果になる」
「……嫌われた物ね」
式部が小さく唇をゆがめて髪を掻き揚げた。彼女はハンクの言葉を嫌味と受け取ったようだが、それは本心だった。
己と彼女の住まう世界は似て非なる。いわば、人と獣のようなものだ。同じ土地に居るからといって、同じ世界で生きては居ない。
そして、人と獣が無理に交われば、そこには不幸な結末しか訪れない。獣には獣の生き方がある。
扉を押し――まず死体を放り出してから、ハンクは外に出た。銃声は響くことなく、感染者たちのうめき声も今は聞こえない。
路上に出て、周囲を見渡す。対面にある公園の柵が見え、波音が心地よく耳を通り抜けていく。
式部が出てきたのを音で確認する。
このまま立ち去ろうとしたが、ハンクはふとそれを思いとどまった。どうせ最後だ。多少、色をつけてやってもいい。
「最後のサービスだ。再会したとき、私は君を撃たない。すぐにはだが」
「そういうのはサービスというのかしらね……。まあ、いいわ。さようなら、傭兵さん」
苦笑の刻まれた別れの言葉を背中で聞き、ハンクは道を歩き出した。式部の足音は躊躇うように響きの後で、小さくさようならと呟いたのが聞こえた。
本当に感傷的な女だ。足音は遠ざかり、やがて波音以外は何も聞こえなくなった。
【ダグラス・カートランド@サイレントヒル3 死亡】
- 157 :Dog Soldiers ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/05/22(日) 22:09:16.26 ID:b99g/8UW0
- 【C-5/公園前の通り/一日目夜中】
【式部人見@流行り神】
[状態]:上半身に打ち身。
[装備]:??????
[道具]:旅行用ショルダーバッグ、小物入れと財布 (パスポート、カード等) 筆記用具とノート、応急治療セット(消毒薬、ガーゼ、包帯、頭痛薬など)、地図
[思考・状況]
基本行動方針:事態を解明し、この場所から出る。
1:モーテルと病院に行って、ヘザーを探す。
2:怪奇現象……認めてなんて……
※オフィスビルから何か持ち出しているかもしれません。
【ハンク@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:健康
[装備]:USS制式特殊戦用ガスマスク、H&K MP5(30/30)、 H&K VP70(残弾18/18)、コンバットナイフ
[道具]:MP5の弾倉(30/30)×4、無線機、G-ウィルスのサンプル、懐中電灯、地図
[思考・状況]
基本行動方針:この街を脱出し、サンプルを持ち帰る。
1:道の東から脱出する。
2:現状では出来るだけ戦闘は回避する。
3:出来るなら、"ナイトホーク"と連絡を取る。
※足跡の人物(ヘザー)を危険人物と認識しました。
※C-5のオフィスビルに、ステアー TMP(0/30)、ダグラス(ベレッタM92(残弾 2/10)、ベレッタの予備弾倉 (×1)、手帳と万年筆、ペンライト、財布(免許証など)、携帯ラジオ)の所持品、及び"U.S.S."闇人4人の装備品(H&KVP70×4(残弾不明)、H&KMP5×3(残弾不明)、
弾倉×2、無線機等)が残っています。しかし、実際に何が残っているかは、
状態表にある人見の持ち物の結果に準拠します。
代理投下終わりです
- 158 :ゲーム好き名無しさん:2011/05/24(火) 08:57:51.58 ID:eNddZfoe0
- いつもながら早いw 代理投下乙でした!
- 159 : ◆cAkzNuGcZQ :2011/06/05(日) 00:51:59.64 ID:LUDulMX8O
- 保守がてらこっちにも書いておこう。
雛咲真冬@零
福沢玲子@学校であった怖い話
新クリーチャー
予約します!
- 160 :代理:2011/06/13(月) 15:45:38.42 ID:JhZ78ufm0
- 代理投下します
- 161 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:46:40.44 ID:JhZ78ufm0
- 本当に大丈夫だから。
そんな、何度目かとなる囁かなる抵抗は結局虚しく終わる事となり、真冬のシャツは半ば強引に少女に捲り上げられた。
怪我人の意思を無視して行われる手当てだが、それも厚意によるものなのだから無下にするのも躊躇われる。已む無く、真冬は少女におとなしく従う事にした。
簡単な応急処置を施しただけだが、しっかりと患部を押さえてくれていた脇腹のガーゼがベリベリと音を立てて無遠慮に引き剥がされ、傷口が空気に触れた。
「うわ、いったそ〜」
銃弾の走った痕を見て、少女は率直に顔を顰めた。
心配そうに、と言うよりは、まるで自身が脇腹に痛みを覚えたかの様な表情だ。
「そうだ、傷口洗わなきゃ! お水お水」
少女は立ち上がり、パタパタと慌ただしくキッチンに駆け込んでいく。
その後ろ姿に真冬は、本当に深紅とは随分と違うな、と仄かな苦笑を漏らしていた。
二人が今居るのは、出会った路上からすぐ近くにある民家のダイニング・ルームだ。
ここに来るまでの短い道程の中で済ませた簡潔な自己紹介によれば、少女は名前を福沢玲子といった。
幼さ、あどけなさの残るその外見と仕草から漠然と中学生位だろうと思っていたのだが、彼女は鳴神学園という高校の一年生らしい。
これでいて妹である深紅と一つ違いというのだから驚きだ。見た目も、落ち着きのなさそうな性格も、とても深紅と近い年頃のものとは思えなかった。
無論、人の性格など十人十色。年齢だけで一括りに出来るはずもない。
そんな事は真冬も重々承知だが、同じ年頃の妹を持つ身としては無意識に比べてしまうものだ。
(深紅……)
不安気な表情を浮かべて自分を見送った引っ込み思案な妹の事を、真冬はついつい思い返す。
深紅は、幼い頃に両親を亡くしてからは自分以外に心を開こうとはしなかった。
同性であれ異性であれ、友人と呼べる存在も真冬の知る限りでは一人もいない。
兄として頼られるのは悪い気はしていないが、自分もいつまでも側にいてやれる訳ではないのだ。
もう少し明るく成長してくれて、他人と打ち解けられる様になってくれるといいのだが。
そう、例えば玲子のように明るくなってくれれば――――。
「きゃあーーーっ!」
そんな思いに耽ていた真冬の耳に届いたのは、甲高い悲鳴。玲子の入ったキッチンからだ。
まさか、怪物がいたのか。そう言えば家内の安全を確かめてはいなかった。何かが潜んでいたとしてもおかしくはない。
電車を徘徊していたナースの姿が脳裏をよぎり、足元から鉄パイプを持ち上げた手に力が篭もった。
- 162 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:47:20.98 ID:JhZ78ufm0
- 「福沢さん!」
呼びかけに、反応がない。
まだ出血が止まった訳ではない傷口にシャツが直接かかる事も厭わず、真冬は玲子の後を追ってキッチンに飛び込んだ。
果たして、怪物は――――何も、いない。そこには玲子がいるだけだ。玲子は、顔を恐怖に引きつらせて背後の茶箪笥にもたれかかっていた。
どうしましたか。そう口にする前に巡らせた視線が、玲子の表情と悲鳴の理由を解き明かす。
玲子が捻ったのだろう。蛇口から水が静かにシンクに流れ落ちている。その水が、ここに来る途中で見た湖と同じような赤色で染まっていたのだ。
赤錆にしては鮮やか過ぎ、どこか幻想的にも見える色合いの水。じっと見つめていると、意識がぼんやりと霞んでくるようだった。
胸の奥が不意にざわめき立った。背筋を走る悪寒に突き動かされる様に真冬は蛇口を締めた。
「ししし、死体……」
「死体?」
「き、きっと死体が入ってるんです! ここの貯水タンクに! だから血の混じった水が出てくるんだわ!」
後ろで玲子が少々興奮気味に、冷静さを欠いた様子で言った。
確かにそれはそれで気味の悪い話だが、違う。今の水はそんな現実的な説明がつけられる代物ではない。
間近で見て理解した。あれは、真冬がいつからか見えるようになっていた『ありえないもの』に近しい存在だ。
人の理解を超えた、人が触れてはならない世界にある存在。
もしも触れればどうなるか――――悪霊に取り憑かれる事と同様であれば、精神を病んでしまうか、身体に異常を来すか。
どうであれ、ただで済むとは到底考えられない。
「落ち着いて。ここは一軒家だから貯水タンクは取り付けられていません。
死体なんかじゃなくて、今のは多分大量の赤錆か何かでしょうから、心配ありませんよ」
「…………え? あ。そうか……そうですよね」
ただ、そうと感じていても、それをわざわざ玲子に伝える必要はない。
それでなくても今はいつ恐怖に囚われても不思議の無い状況だ。
無意味に怖がらせては、パニックや錯乱を引き起こす事に繋がりかねない。
ここは、玲子をあの水から遠ざける。それだけで良い。
「それはともかくとして……とりあえず手当ては止めにしましょう。
こんなに濁った水で傷口を洗ったら余計に傷を悪化させてしまいますからね」
「あっ! そうだ!」
「……どうしました?」
「もしかしたらきれいなお水あるかも!」
言いながら、玲子はまたパタパタとダイニングに戻って行く。
切り替えが早いというか何というか。真冬は顔に2度目の苦笑を浮かばせて玲子の後について行こうとし、ふと足を止めてシンクを振り向く。
蛇口からは締め方が甘かったのか、赤い水滴が1滴、また1滴と垂れていた。
人が触れてはならないもの。近寄る事は可能な限り避けたいが、落ち続ける雫をそのままにしておいてもいいものだろうか。
蛇口を締め直すべきか、少しだけ迷う。その間に水滴の落ちる間隔は段々と長くなり、やがてシンクは静かになった。
水滴の止まった蛇口をしばらく眺めて、真冬はキッチンを後にした。
- 163 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:47:58.45 ID:JhZ78ufm0
- ダイニングに戻ると、玲子は自身のバッグを抱えて一枚の用紙を眺めているところだった。
水があるかも、と言っていたのだから、バッグの中に水筒でも入れていたのだろうか。
玲子の持つバッグは運動部の学生が部活動で使用する類のバッグのようだ。水筒を持ち歩いていたとしても不思議はない。
しかし、もしも玲子がその水筒の水を使って手当てをするつもりならば、それは絶対に断らなくてはならない。
水道から得体の知れない液体が出て来るこの世界では、飲料水はいつ手に入れられるかも分からない貴重品だ。自分の手当てなぞに使用する訳にはいかない。
真冬はその旨を伝えるべく声をかけようとして、玲子の様子がおかしい事に気付いた。キッチンの時よりも彼女の顔色は悪く見える。
「どうかしましたか?」
「こ、これ……」
玲子は蒼白の顔面を真冬に向けて、その用紙を差し出した。
それは、駅で流れた陽気なDJによる放送の内容を裏付ける、この街を支配しているルールの説明書きだった。
何気無しに裏面を見れば、そこには『呼ばれし者』と表題のつけられた名簿も記載されている。
これが、この街に迷い込み、殺し合いを強要されている人間の名前なのだろうか。
福沢玲子、ジェイムス・サンダーランドの名前もその中には確かにある。
そのまま視線を下げていけば、用紙の下部には自分の名前も見つかった。更には――――。
「深紅……!?」
その隣にある『雛咲深紅』の文字。心臓を鷲掴みにされたかのような驚愕と共に眼に飛び込んできたのは、妹の名前だった。
真冬は言葉を失った。深紅までもがこの世界に囚われてしまったというのか。一体、何故。
自分はともかくとしても、あの大人しい妹がこんな場所で裁かれるような罪を犯しているとはどうしても思えない。
「ミクって……誰なんですか?」
「……僕の、妹です。どうやら僕達と同じ様に、この街に迷い込んでしまったようですね。
ところで福沢さん。この用紙は、どこに?」
「んーと……バッグの中なんです。ペットボトルでも無いかと思って探してたんですけど……」
「バッグの中? 貴女のそのバッグの中ですか?」
「あ、これ私のじゃないんです。説明すると長くなっちゃうんだけど――――」
そう前置きして、玲子はこの世界に入り込んだきっかけと、これまでの経緯を簡潔に語り始めた。
彼女は放課後の水泳部部室でロッカーに引きずり込まれ、気付けばこの街のあるアパートにいたらしい。
バッグはその時に側に落ちていたものだという。つまりは、この街で用意された物。名簿が何かの間違いという可能性は少ないようだ。
となれば、深紅もまたこの世界に迷い込んでいる。それは事実として受け入れなければならないという事か。
無意識に、悲痛そうに顔を歪めていた真冬を気遣ったのか、気付けば玲子は話を止めて気まずそうに真冬を見ていた。
「ああ、すみません。……ついでに続きもお願いします」
深紅の事はとりあえず置いておくしかない。真冬は無理に笑顔を作り、話の先を促す。
迷いながらも再開された玲子の回想は、そのアパートで荒井という学校の先輩に再会し、少しの間だが一緒に行動していた事、
そして、その荒井も怪物に殺され、街をさ迷っている時に真冬と出会ったのだという事までを話して終わった。
- 164 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:48:23.35 ID:JhZ78ufm0
- 「アライ……アライ?」
話を聞きながら名簿を見返していた真冬には、一つだけ違和感を覚えた。
玲子がしばらくの間一緒に行動していたという『荒井昭二』。彼の話についてだ。何度名簿を見返してみても、その中に荒井の名は見当たらなかったのだ。
「すみません、荒井君というのは――――」
しかし、その問いかけは――――家内の何処からか聞こえてきた金属音によって遮られた。
ガン、と何かを叩くような重く、鈍い金属音。それが、ダイニングまで響いてきたのだ。
思わず口を閉ざし、二人は耳を済ませた。
音は、一度では終わらない。ガン、ガン、と。重い金属同士が忙しなくぶつかり合うような鈍い音が、止む事なく響き始めていた。
「何なんですか、あの音……」
抑えた声だが、堪えきれない不安を玲子が吐き出した。
そう問われても真冬にも音の正体の見当は付かない。
答えて安心させてやりたいのは山々なのだが――――。
「話は後にしましょう。ちょっと、見てきます。
……福沢さんは念の為にいつでも逃げられる準備をしておいて下さい」
「逃げるって……そ、外に!?」
玲子が窓の外に怯えの色を浮かべた目を向ける。
確かに外には異形の怪物が徘徊している。真冬が玲子に出会う前には、付近からは激しい銃声も聞こえてきていた。
出来る事なら家の中に篭っていたいと、そう願う気持ちは理解出来るが、それも状況が許してくれればの話だ。
「もしもの場合は、です。何でもなければそれで良いんですから。
……とにかく確認してきます。ここを動かないで」
血に濡れた鉄パイプと、氷室邸を探索する際に使うつもりだった懐中電灯を躊躇いがちに握ると、真冬はダイニングのドアを開いた。
金属音が若干大きくなる。それ以外の音は、今は何も聞こえない。
殆ど視界の利かない暗闇の廊下に懐中電灯の明かりを差し込むと、汚れと錆で飾り立てられた世界が浮かび上がった。
左右に光を巡らす。とりあえず見える範囲に異常はない。
身体を廊下に出し、落ち着かない様子で見送る玲子に頷きかけると、真冬は静かにドアを閉めた。
耳を澄ませ、金属音の確認をする。音の鳴る方向は玄関側ではなく、家内の奥のようだ。
明かりを廊下に向け、慎重に1歩を踏み出した。極力気配を殺そうとする真冬を嘲笑うかのように、足元の床板がギィッと軋んだ。
予想外の物音にハッと視線を落とし足を止めるが、鳴り続けている金属音は別段に変化を見せなかった。
音は一定間隔で鳴っている訳ではないが、数秒以上の間を開ける事もなく。ただ不規則に、ひたすらに、鳴り続けている。
前を向き直し、歩みを再開する。床板を軋ませながら一歩ずつ近づいていく。近付くに連れ、音は大きくなる。
鉄パイプを握り締める手に、高まる緊張で強張る顔に、冷たい汗が滲んでいた。
- 165 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:55:50.96 ID:JhZ78ufm0
- と、真冬の動かした円形の明かりが、数m先の左手のドアを照らし出した。
手前と、奥。ドアは2つある。その幅は、約3〜4mと言ったところか。
真冬は手前のドア付近まで進み、耳に意識を集中させた。
金属音はドア側の壁の向こう――――ドアとドアの中間程の位置から響いて来る様だ。
つまりは、恐らくこのどちらかのドアの向こう側という事なのだろうが、どちらが正解なのか。そこまでの判別はつけられそうにない。
暫し、逡巡。薄汚れた2つのドアを、迷いの混じった明かりと視線が行き来する。
数秒の後、真冬は手前のドアを開く事に決めた。判別出来ないなら、近い方からだ。
鉄パイプと懐中電灯を一纏めにして右手で逆手に持ち、錆び付いたドアノブを左手で掴んだ。
ノブを捻り、ドアを押す。やはり錆び付いていた蝶番が音を立てた。ドアに若干の重さを感じるが、それも錆のせいか。
半分程ドアを開くと、中から独特の悪臭が漂ってきた。ここはどうやらトイレだった様だ。
怪物の類が飛び出してくる事にも注意を払っていたが、その様子もない。そのまま慎重にドアを開いていく。すると――。
「はっ……!」
真冬は目を見開いた。個室内に居たのは、男子学生の死体だった。
壊れているのか、水が溜まってもいない便器。それに顔を突っ込むかの様に男子学生の死体が伏している。
いや、正確には『男子学生らしき者の死体』だ。その死体が本当に男性であるのか、まだ真冬には分からない。
死体は、白骨化していたのだから。男子学生だと推測出来るのは、骸骨が纏っている男性用の制服のおかげだ。
そのズボンとシャツは骸骨の骨格と比べてやや大きめに映った。
それがこの人物の物だと素直に受け取るのなら、彼は少々肥満体だったのかもしれない。
(彼も犠牲者なのだろうか……?)
金属音はやはり変わらず鳴り続けていた。
懐中電灯を左手に戻し、トイレの隅々に光を入れる。死体以外には特に異常はない。音が鳴る様な物も無い。要するにこちらは外れだ。
ただ、一つだけ気になる物があった。骸骨の側の床に黒っぽい小さな手帳が落ちているのだ。
死体には若干の恐怖は感じているが、それでも、真っ二つに捌かれていたジェイムスの死体を見た時程の衝撃はない。
異を決して、真冬は手帳に近寄った。手帳には所々血液が付着していた。
ゆっくりと手を伸ばし、そして、それに触れる。
――――――――頭の中に、残留思念が流れこんできた。
- 166 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:56:28.71 ID:JhZ78ufm0
-
白と黒。単色で描き出された誰かの思念。
そこは、どこかのトイレの様だ。個室しかないところを見ると女子トイレか。
三人の学生が居る。一人はやや肥満体の少年。一人は幼さの残る少年。
そしてもう一人は、奇妙な白い仮面を被っている女生徒だ。
肥満体の少年は、驚くべき事にトイレの天井に張り付くように浮かんでいた。
『嫌だ! 嫌だよ! 助けてくれよっ!』
肥満体の少年が天井に吸い込まれていく。まるで水の中に沈む様に。
『うわあーーーーーーっ!』
絶叫を残し、肥満体の少年の姿は天井に飲み込まれた。
幼さの残る少年は、唖然として天井を見上げていた。
彼は怯える小動物の様に、震えながら、ゆっくりと、視線を天井から外して仮面の少女へと動かしていく。
少年と少女の視線が混じり合い、そして――――。
そこで、残留思念は途切れた。
左手の中に何かの感触がある。視線を落とせば、そこにはいつの間にか手帳が握られていた。
「鳴神学園……。細田、友晴……?」
それは、高校の生徒手帳だった。
鳴神学園。そこは玲子の通っているという高校のはずだ。そう言えば仮面を被っていた少女は玲子と同じ制服を着ていた。
しかし、細田友晴。その名前には心当たりがない。思い返しても名簿には無かったように思う。
最初のページを捲ると、手帳の所持者の顔写真が貼り付けられていた。
その顔は、見間違えようもない。残留思念の中で天井に飲み込まれて消えたあの肥満体の少年だ。
真冬は骸骨に目を向ける。やはりこの死体が彼なのだろう。
ならば、この細田友晴もジェイムスと同様だという事だろうか。
天井に飲み込まれた後、何らかの罪を償わせられる為にこの街に呼ばれ、裁かれたという事なのだろうか。
しかしそれならそれで疑問が生じる。何故彼はジェイムスや自分と違い、名簿に名前が載っていない。何故彼がここで死んだ時の残留思念が残っていない。
或いは死体だけがこの世界にやってきたのか。それは何の為に。どんな理由で。いや、意味などは無いのかもしれないが。
この細田友晴に話を聞ければ何かしらの答えが出るのかもしれないが、残念ながらその魂の気配も付近には感じられなかった。
仕方がない、と真冬は小さく頭を振り、纏まらない思索を打ち切った。
考えていても答えは出ないし、今はそれよりもする事がある。
壁の向こうからは今も金属音が続いている。現時点ではその確認をして安全を確保する事が最優先だ。
細田友晴の事は気になるが、名簿に載っていない人物でこの世界に来ていたのは彼だけではない。先程玲子が話していた荒井も同じだ。
機会を見つけ、荒井という少年の所に行ってみよう。いつ死んだのか分からない細田と違い、荒井ならば死んで間もないのは確かだ。まだ霊魂が近くにいる可能性は高い。
もし話せれば、細田友晴の事も含めて何かが分かるかもしれない。
- 167 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:57:34.37 ID:JhZ78ufm0
- トイレから出ようと、真冬が骸骨に背を向けて廊下に戻ろうとした時だった。背後で、カサリ、と気配がした。
ハッと身体を返し、懐中電灯を向ける。便器の中を覗き込んでいた頭蓋が、黒く大きな目でこちらを見つめていた。
いや、見つめていただけではない。頭蓋は小刻みに動き、僅かながら便座から持ち上がったではないか。
まさか。
冷静になろうと努めるが、動揺は隠しきれない。
息を呑み、後退りをした。まさか、こんなものまで襲ってくるというのか。
真冬が恐れが胸中で膨らみかけた次の瞬間――――頭蓋と便座の間から黒い物体が姿を覗かせた。
「これ、は……!?」
その物体は、虫だった。それも、相当に大きい。15、いや20cmはありそうだ。
信じられない大きさだが、形状から判断すればその虫は、ゴキブリだ。それ以外の何物でもない。
そいつは一旦動きを止め、何かを探る様に二本の触覚を円を描くように動かしている。
頭蓋が動いていたのは、便器の中からこの虫に押されていたせいか。
ゴキブリが動き出した。便器を伝い降り、真っ直ぐに真冬へと向かってくる。持ち上げられた頭蓋はゴキブリが通り過ぎた後は、軽い音を立てて便器にぶつかり動かなくなった。
特別に虫が苦手という意識は無いのだが、流石にこの悍しさには真冬も身を震わせた。
慌ててドアノブを掴み、勢い良くドアを閉める。内側から、ドアに激突する音が響いた。
2度。3度。ドアに衝撃が走る。巨大ゴキブリが体当たりを繰り返している。
有り得ない。あれ程に巨大化している事もそうだが、ゴキブリが人に向かってくるなど有り得るはずがない。
――――いや、この世界はそもそもが異常。ここにいる生物を常識で測ろうとしても無意味なのかもしれないが。
衝撃が、止んだ。諦めたのだろうか。真冬はホッと息を吐き、肩の力を抜く。
直後、一際大きな金属音と、続けて何かが落下して床を叩く鈍い音が響いた。隣の部屋だ。
それを堺に鳴り続けていた金属音は一切しなくなる。部屋で何か変化が起きたらしい。
真冬は奥側のドアを見据えた。音の正体は、もう間もなく判明する。
奥のドアの前に立ち、先程と同じ要領で鉄パイプと懐中電灯を握り直し、赤錆まみれのドアノブをそっと捻った。
唾を飲み込み、ドアを押す。何かが蠢く気配が部屋から漏れ出した。確実に、何かがいる。
開け放したドアから、真冬は数歩離れた。鉄パイプを構えてしばらく待つが何も出てこない。気配は今もしているというのに。
廊下から室内を照らす。浮かび上がった部屋の様相は、脱衣場のそれ。
半身だけ身体を室内に入れ、隅からゆっくりと光を動かしていく。果たして、蠢く音の正体は――――見えた。
脱衣場の更に奥。曇りガラスに仕切られたそこは、浴室だろう。
その曇りガラスに浴室側から張り付き蠢いている黒い影は、見間違えようもない。トイレにいたのと同じ種類の巨大ゴキブリだ。張り付いているのだけでも4、5匹はいる。
1つの黒い影が浴室内を走り、バンッと曇りガラスに突進してきた。ガラスに張り付いていた連中が衝撃で落下していく。
反射的に床に光を向け、そして真冬は気付いた。黒い影が浴室内の1点から続々と出てきている事に。
あの1点――――あれは、排水口だ。
金属音は、ゴキブリ達が排水口から這い出て来る為に排水筒と排水目皿を破る際の音だったのだ。
- 168 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 15:58:22.03 ID:JhZ78ufm0
- (虫が金属を破壊する……馬鹿な)
否定はしてみるものの、それしか考えられなかった。信じ難い事ではあるのだが、他に音の正体らしきものはない。
ガラスに激突した1匹を皮切りに、他の個体も突進を始めていた。走ってくる個体。飛びかかってくる個体。次々と加えられる衝撃が脱衣場内の空気が震わせる。
加減をする気は全くないのか、ガラスに激突してそのまま潰れる個体もあった。白い体液と黒い残骸が曇りガラスに飛び散り、こびりついていく。
そんな姿になる仲間に構おうともせず、そんな姿になる事を躊躇おうともせず、ゴキブリ達は激突を止めようとはしない。何匹も、何匹も、曇りガラスにぶつかり潰れていく。
何故そうまでして向かって来るのか――――真冬がそう疑問に思うと同時にフラッシュバックしたのは、トイレの少年の白骨化していた姿だった。
(白骨……まさか、このゴキブリは人を食べる……のか?)
何故少年がこの世界にいるのか今はまだ分からないが、虫に食われたと考えればあの無残な姿の説明だけはつけられる。
この虫達は今、テリトリー内に餌が入ってきた事に喜び、餌にありつこうとする一心でガラスをも破ろうとしているのだ。
浴室内の様子は最早伺う事が出来ない程に、曇りガラス一面が白と黒で染まっていた。だが、今も虫達が排水口から這い出し続けているであろう事は想像出来る。
曇りガラスに何度目かも分からない衝撃が走った。真冬の耳が、ピシリと、亀裂の入る音を捉えた。
ガラス――――ではない。ガラスよりも先に悲鳴を上げたのは下方の蝶番だった。
一瞬の戸惑いの後、真冬は理解する。
原因は、赤錆だ。赤錆で蝶番が腐り、強度が脆くなっているのだ。排水口が破られたのも恐らくはそのせいか。
次の衝撃で、亀裂の入った蝶番が弾け飛んだ。同様にドアの下部が弾かれ、一瞬だけ開いた隙間から1匹が姿を覗かせた。
隙間から這い出ようとしたその個体は、反動で戻ったドアに潰されて体液を撒き散らす。
そこまでを見知って、急いで真冬は脱衣場のドアを閉め、廊下を戻った。
あの曇りガラスが破壊されるのは時間の問題だ。脱衣場やダイニングのドアの蝶番もあの大群の総攻撃を受ければやはり破壊は免れないだろう。
このままこの家にいては、いずれあいつらに押し包まれる。一刻も早く別の場所へ逃げなくては。
「福沢さん!」
ダイニングに飛び込むと、玲子が真冬の剣幕に驚いたように目を丸くした。
荷物は握り締めている。真冬に言われた通り、逃げる準備はしていてくれたようだ。
「ど、どうなっちゃったんですか真冬さん? 何か音が大きくなってません?」
「話は後です。とにかくこの家を出ましょう!」
「え? え? え? な、何があったの?」
「いいから、早く!」
真冬は福沢の手を取り、ダイニングを出て玄関に向かう。
ガラスドアが倒れて砕ける耳障りな音と振動を背中に受け、真冬達は家から飛び出した。
- 169 :レギオン ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/13(月) 16:03:44.81 ID:JhZ78ufm0
- 【C-5/路上/一日目夜中】
【雛咲真冬@零〜ZERO〜】
[状態]:脇腹に軽度の銃創(処置済み→無し)、未知の世界への恐れと脱出への強い決意
[装備]:鉄パイプ@サイレントヒルシリーズ
[道具]:メモ帳、射影機@零〜ZERO〜、クリーチャー詳細付き雑誌@オリジナル、
細田友晴の生徒手帳、ショルダーバッグ(中身不明)、懐中電灯
[思考・状況]
基本行動方針:サイレントヒルから脱出する
0:とにかく場所を変えなくては
1:名簿には名前の無かった荒井の霊魂に話を聞いてみたい
2:福沢からもう少し詳しく話を聞く
3:この世界は一体?
4:深紅を含め、他にも街で生きている人がいないか探す
【福沢玲子@学校であった怖い話】
[状態]:深い悲しみ、固い決意
[装備]:ハンドガン(10/10発)
[道具]:ハンドガンの弾(9発)、女子水泳部のバッグ(中身不明)、名簿とルールの書かれた紙
[思考・状況]
基本行動方針:荒井の敵を撃ち出来るだけ多くの人と脱出する
0:真冬さんについていく
1:真冬と情報交換をする
2:人を見つけたら脱出に協力する。危ない人だったら逃げる
※荒井からパラレルワールド説を聞きました
※荒井は死んだと思っています
代理投下終わりです
- 170 :ゲーム好き名無しさん:2011/06/16(木) 19:42:36.05 ID:+ENW/Bs70
- 代理投下します
- 171 ::風見純也の考察物語 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/06/16(木) 19:43:34.01 ID:+ENW/Bs70
- ◆◆
七◆
◆
◆
◆
◆
ぼくは――――――
ピッ⇒ 小暮さんに声をかけることにした
そのまま小暮さんを隠れながら見ることにした
◆ すべてに絶望して自分から命を絶つことにした
--------------------------------------------------------------------------------
僕は小暮さんに声をかけた。
「小暮さん」
「……」
「……」
「やや!? やややや!?」
小暮さんは少し静止した後、やっと反応を見せた。
ああ、やはり小暮さんだ。
何回も思うが、ぼくはつい安心する。
「いやいや、まさか…先輩…?」
「うん…久しぶり、小暮さん」
「よ、よかったあああああああああああ!!」
「うわっ…驚かせないでくださいよ…」
「ももも、申し訳ないであります」
小暮さんが顔を少し赤くする。
- 172 ::風見純也の考察物語 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/06/16(木) 19:44:45.34 ID:+ENW/Bs70
- 「まあ、こんな所で立ち話というのもなんですので、どこか近くの建物で話しませんか?」
僕は、女の人とその人を背負ってる小暮さんを気にして提案した。
「押忍!氷室さん、申し訳ありませんが…もう少しだけご辛抱を」
「いえ、私がご迷惑をかけているのに…」
二人のこんな会話を聞きながら、僕は足を急いだ。
--------------------------------------------------------------------------------
「……荒れてるのです」
「荒れてるね」
「荒れてるっすね」
「荒れておりますね…」
僕たちが雑貨屋の中に入った時の第一声だ。
全員が声をそろえて言うくらいの状態だった。
「……とりあえず、椅子とかあるから…座ろう」
「氷室さん、椅子に降ろしますが…良いでありますか?」
「はい、お願いします」
小暮さんが椅子に氷室さんを座らせて、その後全員が座る。
まず自分たちがするのは、情報交換と自己紹介だ。
「えっと、まずは自己紹介から行こうか。僕は風見純也、警視庁警察史編纂室の警部補です。で、この子は古手梨花ちゃん」
「よろしくなのですよ、にぱー」
梨花ちゃんが僕に向けた時と同じ笑顔を見せている。
その笑顔に小暮さんがつられて微笑んでいる。
「自分は、先輩と同じ部署の、警視庁警察史編纂室に勤務している巡査部長であります!」
「私は氷室家が娘、霧絵と申します。以後宜しくお願いします」
簡単な自己紹介を僕らは済ませて、情報交換に入った。
小暮さんからの情報を簡単に纏める。
霧絵さんが日野という男に襲われたという事。
小暮さんも、七十歳前後の老人に襲われた事。
- 173 ::風見純也の考察物語 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/06/16(木) 19:45:50.55 ID:+ENW/Bs70
- そして、霧絵さんが犯したという罪の事を。
正直、信じるか信じないかは今判断すべきではないとは思う。
全部信じるかどうかといえば、信じられない。
しかし、この人が嘘を言っているようには見えない。
かといって、確実に判断できる材料もない。
という事で、これについては保留しておこう。
その後、僕が持っている情報を小暮さんたちに知らせた。
この場に人見さんと兄さんがいるという事。
『サイレント・ヒル』は架空の街の可能性がある事。
『サイレント・ヒル』が架空の街の可能性がある事について話すと、小暮さんは首をかしげた。
「架空の街…?ここがでありますか…?」
「兄さんに聞いた話だと、そういう事になっている…けど」
自分はしっかりと見たのだ。
架空の街のはずの『サイレント・ヒル』の道路マップを。
郵便物や葉書の住所に書かれていた『サイレント・ヒル』の文字を。
以上の点だけで考えても、いろいろな可能性が浮き出てくる。
・『サイレント・ヒル』は、実在するものではなく造られたものである。
・本当に『サイレント・ヒル』実在していた。
・街は『サイレント・ヒル』ではなく廃村を利用して、道路マップや手紙を偽造して『サイレント・ヒル』に見せようとしている。
実在する街なのか、架空の街なのか…これも判断はできていない。
今あげた予測の中に正解が入っている可能性は低い。
だが、捜査を進めればきっとつかめるはずだ。
と、考えた所に小暮さんが話をし始めた。
「次は、どこに行けばいいのでありましょうか…」
今目の前に迫っている問題だった。
このままこの場にいても、この場所についての情報に進展はない。
- 174 ::風見純也の考察物語 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/06/16(木) 19:46:30.62 ID:+ENW/Bs70
-
--------------------------------------------------------------------------------
◆◆
七◆
◆
◆
◆
◆
僕が取るべき行動は―――――――――
⇒ 近くの施設を探索することだ
この場で何か使えそうなもの探すことだ
【C-3/雑貨屋/一日目夜中】
【風海 純也@流行り神】
[状態]:健康、梨花に対する警戒心、椅子に座っている
[装備]:拳銃@現実世界
[道具]:御札@現実、防弾ジャケット@ひぐらしのなく頃に、防刃ジャケット@ひぐらしのなく頃に
射影器@零〜zero〜、自分のバッグ(小)(中に何が入っているかはわかりません)
[思考・状況]
基本行動方針:サイレントヒルの謎を解き明かし、人見さんたちと脱出する。
0:どこに行くか決める。
1:人見さん、兄さん、梨花ちゃんの友人を探す。
2:出来る限り多くの人を救出して街を脱出する。
3:日野という男と老人を警戒。
※小暮たちが知った情報を聞きました。本編に描かれている事以外に何を聞いたかは後続の書き手さんにお任せします。
- 175 ::風見純也の考察物語 ◇VxAX.uhVsM 代理:2011/06/16(木) 19:47:40.06 ID:+ENW/Bs70
- 【古手 梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康、L3-、鷹野への殺意、自分をこの世界に連れてきた「誰か」に対する強烈な怒り、椅子に座っている
[装備]:山狗のナイフ@ひぐらしのなく頃に、山狗の暗視スコープ@ひぐらしのなく頃に
[道具]:懐中電灯、山狗死体処理班のバッグ(中身確認済み)、名簿
[思考・状況]
基本行動方針:この異界から脱出し、記憶を『次の世界』へ引き継ぐ。
0:どこに行くか決める。
1:自分をこの世界に連れてきた「誰か」は絶対に許さない。
2:風海は信用してみる。
3:日野という男と老人を警戒。
※皆殺し編直後より参戦。
※名簿に赤坂の名前が無い事はそれほど気にしていません。
※小暮たちが知った情報を聞きました。本編に描かれている事以外に何を聞いたかは後続の書き手さんにお任せします。
【小暮宗一郎@流行り神】
[状態]:満腹、椅子に座っている
[装備]:二十二年式村田連発銃(志村晃の猟銃)[6/8]@SIREN、氷室霧絵@零〜zero〜
[道具]:潰れた唐揚げ弁当大盛り(@流行り神シリーズ)、ビニール紐@現実世界(全て同じコンビニの袋に入ってます)
[思考・状況]
基本行動方針:目下、凶悪犯の逮捕と一般市民の保護。
0:どこに行くか決める。
1:一般市民の捜索と保護。
2:日野と老人を逮捕する。
3:警視庁へ戻って、報告と犬童警部への言い訳。
4:何かが起こっている気がしなくもないが……あまり考えたくはない。
※霧絵から「零〜zero〜」で起こったあらましを聞きましたが、信じたくありません。
※ここでのルールを知りましたが、信じたくありません。
※風見たちが知った情報を聞きました。本編に描かれている事以外に何を聞いたかは後続の書き手さんにお任せします。
【氷室霧絵@零〜zero〜】
[状態]:使命感、足の爪に損傷(歩行に支障あり)、疲労(中)、椅子に座っている
[装備]:白衣、提灯@現実
[道具]:童話の切れ端@オリジナル、裂き縄@零〜zero〜
[思考・状況]
基本行動方針:雛咲真冬を捜しつつ、縄の巫女の使命を全うする。裂き縄の呪いは使わない。
0:どこに行くか決める。
1:小暮と共に人を捜し、霊及び日野の危険性を伝える。
2:真冬の情報を集める。
3:黄泉の門の封印を完ぺきにする方法を捜す。
※風見たちが知った情報を聞きました。本編に描かれている事以外に何を聞いたかは後続の書き手さんにお任せします。
代理投下終わりです
- 176 :ゲーム好き名無しさん:2011/06/18(土) 07:47:59.61 ID:sOP2xjb9O
- 代理投下乙でした!
- 177 :ゲーム好き名無しさん:2011/06/23(木) 20:57:09.54 ID:jTaPfdvh0
- 代理投下します
- 178 :MachRider HighWaaaaay!! ◇vlqn5sJnm 代理:2011/06/23(木) 20:57:52.74 ID:jTaPfdvh0
- あの巨人から付かず離れず移動し、置き去りにする。
アレがハーレーをぶつけても然程効かない硬くて強い存在だとしても、ガソリン残量や相手の速さから見て油断しなければ簡単な作業に思えた。
しかし、この時点ではシビルは考慮出来ていない。以前サイレントヒルに跋扈していた知恵の働かないモノ達と
若干といえど知性のある、本物の化け物の所業の違いを……
―――――――――――
「だけど、全く……とんだツーリングね!」
毒づきながらフィニー通りに入り、バイクの位置を追って来ていることを確認できるように調節しながらこれからの方針について考える。
(希望的観測だけど。後ろの奴より早い化け物が他にいなくて、克つこの先に大穴が無ければ…多分レビン通り経由でUターンすればもう追っては来れない、そこで一気に…!)
『GUUOOOOO!!』
しかし、思考は突然の破壊音に中断される。
バックミラーを確認するとどうやら巨人は道端に停めてあった車に飛び乗ったようだ、ボンネットはひしゃげフロントガラスは粉々である。
- 179 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 20:58:57.52 ID:jTaPfdvh0
-
(……どういう事?)
思わずスピードを緩めてそれを見つめる。サイレントヒルの怪物達は姿形は違えど皆一様に獲物に対して一直線に向かって行く習性だったはず。シビルにはそこが疑問に思えた、だがその疑問は氷解する事となる。
『GHAAAAAAA!!』
グシャアッ!!と、音を発てながらボンネットを投げ捨て、運転席に両腕を突っ込み体を固定。背中から伸びる触手で地面の金網を引き寄せようと(つまり車を引きずり前へ進もうと)していた。
(まさかそんな………っ!動いた!!)
車にはサイドブレーキがかかっていないのか凄まじい力によって車輪は動いた。
更に悪いことに体を固定した時に機械が壊れたらしくエンジンは動きアクセルも押し潰され車本体も動き出している。
「ははっ……なるほど、動かしたければ乱暴に扱えばよかったワケね…」
呟きながら内心舌打ちをする。
- 180 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 20:59:31.55 ID:jTaPfdvh0
- もはや撒いて放置等とは言ってられない。周囲に順応する知能を持ち、数本の伸縮する触手は車を動かす程の力を発揮し、途方もないタフネスも持っている。きっと見過ごせば犠牲者はどんどんと増えていくだろう。
しかし今の武器でやれるのかは不安が残る。
アレはきっと此処の怪物じゃない。直感…刑事の勘でしかないけど、でもアレには『らしさ』が無い気がする、ダリアの言う『楽園』とやらの力を感じないような…。
じゃあ何処から来たのかと聞かれたら、答える事はできないけど。
だからコレ以外の弾も使わなければ倒しきる事は無理だろう、かなり勿体無いし効くかどうか微妙だけど…最後の手段を使うしかない−−−
「アグラオフォテス入り弾薬装備グレネードランチャーHPカスタム……、力押ししかない坊やにはワインはまだ早すぎるかしら?」
まず一発目を叩き込むため背後の旅行者用バッグからランチャーを取りだし構え、器用にバランスを取りながら慎重に狙いを定める。が、その作業は目の前にいたゾンビ犬を轢いた衝撃によって失敗に終わった。
それだけならシビルの思考は人でなくてよかったとかチャンスを逃したとかだっただろう。
『DIEEEEEEEEEE!!』
体制を建て直しバックミラー越しに見たものは、車のライトによって映し出される弾き飛んだモノがエンジンがかかったことで使う必要の無くなった触手でズタズタに引き裂かれる光景だった。
そんなものを見ては幾ら覚悟してきた百戦錬磨の警官でも冷や汗が出る。動揺する。警戒を強め同時に犬を轢いたおかげで弱まった速度を元に戻すともう一度しっかりと思考を巡らす。
(………ここから町の端まで約3分強…いや、3分ちょうどぐらいかしら?この奴を狙えるギリギリの距離を維持しながらなら、多分2回連続で事故したら追い付かれるわね……ッ)
- 181 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 21:00:06.28 ID:jTaPfdvh0
-
前にいた巨大な顔の化け物と血色の悪い老女をギリギリの所で避け、それが肉片と化す瞬間を狙って爆破する。赤い液体が掛かり、より不気味な様相になるも案の定暴君は健在であった。
(やっぱりこれで一撃って訳にはいかないか……)
『カァ゙ァーーー』
掠れた鳴き声と共に眼前に迫る怪鳥の爪の一撃に対し身を翻しサイドボックスに手を突っ込み炸裂弾を込め、一拍置いた後もう一発。それに対し上げられた蠢く触手を弾けさせる。
(それならそれでこの数年間何もしてこなかった訳じゃないことを見せてあげるわ!)
エンジンが唸りをあげ一人と一個体はサーキットを駆け抜ける―――
◇ ▲ ◇ ▲ ◇ ▲
(流石に…マズイかもしれない……
これまで放った17発、全弾命中した訳じゃないけど何発かは入った。その証拠にスーツも所々破けてきているのに。なのにまだ倒せてない……なんなのアレは、なんなのあの化け物は…)
撤退戦開始3分が経とうという頃シビルの心にだんだんと焦りが生まれ始めていた(対爆スーツに炸裂弾を撃っている訳だから当然といえば当然なのだが)。しかしその一方で彼女には一つの希望が見えていた。
- 182 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 21:01:29.56 ID:jTaPfdvh0
- (もうそろそろ道の終わりが見える。あの乗り方なら良くて一度しか曲がれないはず、私は二度曲がって不意を突き通りに入った所を後ろにまわって倒せばいい。
そこさえ越えれば後ろから一方的に攻撃出来る…少し気が引けるけど、アレを相手に卑怯とか騎士道精神どうこうは言ってられないもの、仕方ないわね。)
「見えたっ…!」
(曲がり角が…!アレの力が及ばなければそのまま崖に衝突して終わり。そうでなくても二度も曲がりきれるわけはないわ……きっと!)
期待と不安に苛まれながらシビルは一つ目の角を曲がった。対して暴君は電柱に掴まり回転、支柱がボキリとネジ切れる音と共に追跡を続行、ここまではシビルの計算通りの展開。
後は歩道ギリギリで左に曲がれば作戦は完了する――――
「やったわ!これで………ッ!!そんな、曲がっ…」
『INNNNNVAITEEEEEED!!』
と、思われたが。
待っていたのはまたも電柱を利用され壁に激突する衝撃は反射的に出された触手によって半減、嘲笑うように咆哮する巨人に追われ続ける現実である。彼女は混乱と共に頭の内に様々な情報の波が
渦を巻く中意識を手放さないようにするのが精一杯、
ここで打開策を出せねば死ぬというのに。
(どうする、どうすれば?冷静に、クールになるのよシビル・ベネット。奴の機動力は尋常じゃない、そもそもあの曲がり方でよくパンクしないで……パンク?)
- 183 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 21:02:41.01 ID:jTaPfdvh0
- 背後に迫る驚異を今一度よく見て、ようやく答えを導きだし銃を正しい方向へ向ける。暴君を直接狙うのではない、走る脚へと狙いを定めた―――
「これで地獄行きね、あの男のように」
射出された弾丸が車の内部に突き刺さる。これまでの攻防で焼けて墜ちた欠片と共に怪物は紅蓮の炎の中へと溶けて逝った。
◆ ▽ ▲ ◆ ▽ ▲
結果から言えばシビルは勝った。しかし彼女は暫らく動けなかった、動悸が高まって顔も青褪めている。それほどまでにさっき見た光景は衝撃だったのだ。
車を爆発させてまず目についたのは、炎上する車体から飛び出た既にかなりのダメージを与えていたのと爆破地点から遠くなかった為か頭と腕が消し飛んだ暴君の姿だった。足と胴が残っていようと最早再起不能は確実に思え、
シビルは歓喜に震えていた。
その震えは次の瞬間戦慄の意味へ転じたのだが…。
「……襲いかかられてたら、確実にヤバかったわね」
許容範囲を遥かに越えるダメージを与えられたからなのか、それともこの異様な街の魔力の賜物なのかは定かではないが。タイラントの姿は通常の過程を超越した異形の形態変貌を遂げて君臨した。
しかし何故ソレを前にしてシビルは生きていられたのか。
それは幸いにも動き出す前にその重みと爆発のダメージで金網が外れ、前述の宣言通り過去のカウフマン同様タイラントは下へと墜ち、事なきを得たからであった。
- 184 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 21:04:22.87 ID:jTaPfdvh0
- 先のカーチェイスを経て精神的疲労感はあったが。どれ程疲れていてもこの非常時、警察官に休みは無いとばかりに移動しようとすると、あるものが目に入った。
「人形と、これは手紙?」
タイラントの墜ちていった穴の前にさっきまでなかった筈の異物が置いてあった。前回の経験上こういった物には何かある、置かれていた手紙を広げ読み進めてみる。
“まさか君のような野蛮な人間に頼ることになるなんて、災難だな。まあいい、愛する彼女の為なら仕方のない事だ。ああヘザー、私の女神。私の恋人。それが今はとても不味い状況にある、あの忌々しいレナードの娘に人の皮を被った厄介な糞餓鬼、
極めつけはやたら馴れ馴れしい東洋人の男。
奴等のせいでせっかく自由になったっていうのに愛しい彼女を抱き締めてやることも出来ない。いや、
それよりも彼女が奴等に殺されてしまわないかの方が重要だ。君は警官だろ、
今当に死ぬかもしれない善良な市民は助けるべきだ。そうだろう?”
ここまで読んで妙な違和感を覚えた。『君のような』『警官だろ』から推測するにこの手紙はさっきまでここにはいなかった自分宛、『ヘザー』という名前は名簿に記載されていたあのヘザーだろうか?しかし『レナード』という名前に見覚えはない。
『人の皮を被った糞餓鬼』?『自由になった』?『殺されそう』?
疑問は尽きないがともかく更に読み進める。
- 185 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 21:07:09.85 ID:jTaPfdvh0
- “頼みというのは他でもなくヘザーの保護だ、彼女は今南側から教会に向かってるから迎えに行ってやってくれ。その後に気を効かせて二人きりにしてくれれば尚いいんだけどね。その人形はその時彼女に届けてくれ、
間違っても君の物じゃない。
やってくれるならこの狂った街について少し喋ってあげよう、何なら先払いしてもいい。
請け負わないなら人形を置いてさっさと行け、良心が咎めないならな。
どちらがより良い意味を持つか考えてごらんよ、全ては意味を持たなくては存在する理由がないんだから。君はどうかな?
スタンレー・コールマン”
シビルは大いに困惑した。
【2-B/『元』T字路/一日目夜中】
【シビル・ベネット@サイレントヒル】
[状態]精神疲労(中〜大)、肉体疲労(小)
[装備]グレネードランチャーHP LV4(炸裂弾5/6)@バイオハザードアンブレラクロニクルズ、白バイ
[道具]旅行者用バッグ(武器、食料他不明)
SIG P226(3/15)
白バイのサイドボックス(炸裂弾:14、アグラオフォテス弾@オリジナル:23、他不明)
[思考・状況]
基本行動方針:要救助者及び行方不明者の捜索
1:スタンレーの手紙を―――
2:キリサキ、ユカリと合流する
3:前回の原因である病院に行く
※名簿に記載されている霧崎、ユカリの知人の情報を把握しました。
※白バイのサイドボックスに道具が入っているようです。サイドボックスの容量が普通だとは限りません
【タイラントNEMESISーT型(追跡者)第?形態@バイオハザード3】
[状態]腕部及び頭部完全破壊、体前面に火傷と裂傷
[装備]耐弾耐爆スーツ(損傷率87%)
[道具]無し
[思考・状況]
基本行動方針:『呼ばれし者』の皆殺し
1:???
- 186 :MachRider HighWaaaaay!! ◇BoVaEdQZq 代理:2011/06/23(木) 21:08:15.08 ID:jTaPfdvh0
- ※タイラントは下に落ちていきました。どうなったかは後の書き手さんにお任せします。
※タイラントの形態が変化しました、第3形態なのか、もしくは全く別の変化を遂げたのかは後の書き手さんにお任せします。
※2ーB右上のT字路は崩落したため犬小屋からは侵入出来なくなりました
※1ーE〜1ーAにかけてのクリーチャーは一掃されました。肉片が飛び散っているだけで何もいません。
【グレネードランチャーHP@バイオハザードアンブレラクロニクルズ】
グレネードランチャー(以下GL)系武器の中でも最高の威力を持ち改造によってロケットランチャー並みになるが代わりに爆発範囲が通常より狭く、リロードは普通のGLと同様遅め。素人にはオススメ出来ない。
シビルが持っているのは改造LV4※のもの、弾数は6、マガジンは2個、威力はSである
※アンブレラクロニクルズの武器は改造によって弾数、マガジン、威力を強化することができLV5まで改造する事ができる。
ただしLV5までいくと弾数無限になりパワーバランスが崩壊するため本ロワでは使えないものとする。
【アグラオフォテス入りGL弾@オリジナル】
[[アグラオフォテス]]の入ったグレネードランチャーの弾。ゾンビ等にはほとんどダメージを与えられないが霊的なもの、魔力等には絶大な威力を発揮する
【スタンレー・コールマン@サイレントヒル3】
サイレントヒルの精神病院『ブルックヘブン病院』(ロワ内ではアルケミラ病院になっている場所)の患者。
[[ヘザー・モリス]]に対して『自分の事を助けに来た愛すべき人』として異常な愛情を抱いておりヘザーが病院にいる間幾度となく日記と自分の好きな人形を渡そうとした。
最後には[[クローディア・ウルフ]]の父、レナードの宗教を貶した事によって恨みを買い殺される。新しい名前は7番。
- 187 :Unknown Kingdom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/23(木) 21:10:07.32 ID:jTaPfdvh0
- 目前に広がるのは、赤外線バイザー越しにもまるで全貌の見えない巨大な湖だった。
足元は、絶壁。たった今首をへし折って始末した、感染者の様な挙動で襲ってきた東洋人の死体の一つを蹴落とし、加速度的に小さくなる身体を見送った。
波立ちの無かった静かな水面に、微かな水音を立てて大きな波紋が広がるまでの時間は3秒強。
目測でも大まかな見当はつけられていたが、ハンクの立つ崖縁から水面までの高さは約50mという事になる。
専用の装備も無しに降りる事の出来る高さではない。仮に降りられたとしても、湖を渡る術がない。
(ほんの少し目を離した隙に大地そのものが絶壁に変わっていた、か……)
式部人見が不服そうに紡いだ言葉が思い返される。彼女のその言葉に、嘘偽りは無かったのだ。
数時間前に不可解すぎる変貌を遂げた街並みと同じく、街の外へ通じるはずの大地は絶壁へと変貌し、湖に沈んだ。
マップの端につけられていた×印は、単純に通行止めを表していたという訳だ。
全ての×印の先がこうだとしたら、今やこの街は絶海の孤島と同じ。陸路からの脱出は、諦めざるを得ない状況となる。
(さて………………)
アスファルトを金属で擦るような物音が鼓膜を刺激した。咄嗟に湖から目を離し、街への道へとサブマシンガンを向ける。
ガスマスクの狭い視界の中に、顔の膨れ上がった3体のナースの姿が映り込んだ。1体が鉄パイプを引きずったナース。もう2体は拳銃を握っている。どれも覚束無い足取りで、しかし、倒れる事なく確実に近付いてくる。
その背後から腐ったドーベルマンが2頭、ナース達とは逆に軽快な爪音を鳴らして駆けて来た。ナース達を追い抜き、我先に餌に齧り付こうと競い合う様にハンクを目掛けてくる。
サブマシンガンが2回だけ閃光を発した。2つの銃弾が、まだ拳銃を構えてもいなかったナース達それぞれの頭蓋に侵入し、後頭部を破裂させて突き抜ける。
仰け反るがままに背中から倒れ行く2体を、既にハンクの目は映してはいない。その間にもドーベルマンは距離を詰めており、1頭が跳び掛ってきていたからだ。
その1頭の足が地面から離れる直前、ハンクは1歩だけ身体を左に動かしていた。たったそれだけの動作でドーベルマンは跳びかかる対象を失い、絶壁に躯体を投げ出して為す術も無く落下していく。
時間差でハンクを食い千切らんとしていたもう1頭の顎が大きく開かれる。ハンクの喉笛を確実に狙っているその口吻に、真横からサブマシンガンの銃床を叩き付けた。衝撃でハンクへの軌道を逸らしたその1頭は、突進の勢いそのままに小さな悲鳴を残して湖へとダイブした。
残されたナースは、動揺する事を知らないのか、それとも殺意が恐怖に勝っているのか、相も変わらず鉄パイプを引き摺って迫り来る。
このクリーチャーとの戦闘は経験済み。1体ならば銃弾を使うまでもない相手であるとの確信がある。
先程殺した感染者の様な、しかし肉を腐らせてはいない東洋人。ハンクはその死体に目を向けた。この東洋人がナイフの様な物を持っていた事は記憶している。死体の陰に、今もそれは僅かに見えている。ナース相手にはそれで充分だ。
ハンクはその武器を拾い上げると同時に投擲の動作に入ろうとし――――バイザーの奥の瞳に、ほんの僅かだが戸惑いの色を浮かばせた。握りしめた武器の感触に違和感がある。敵が目前に迫る戦場の中だというのに、思わずハンクは自らの手を振り返った。
それは、草だった。どこにでも生えているようなただの草。何の変哲もないただの草だ。
東洋人はこれを持って襲いかかってきたというのか。いや、『氣』や『忍術』等の東洋の神秘とやらを使えば或いは武器に出来るのかもしれないが、生憎とハンクはそんな知識も技術も持ち合わせていない。
視線を戻した時、ナースは鉄パイプを掲げ上げていた。空気を裂く擦過音。ハンクは右脚を瞬発させ地面を強く蹴った。半身にした身体と上方から振り降ろされる鉄パイプをすれ違わせ、ナースの薄汚れた制服を強引に引っ張り立ち位置を入れ替える。
身体をよろめかせて地面を殴ったナースの背中を、一瞬の躊躇もなく突き飛ばした。ナースがバランスを取ろうと藻掻きを見せたその場所は既に中空。2頭の犬の後を追いハンクの視界から消えて行った。
これで全滅――――そう思う間もなく、届けられたのは何者かのくぐもった声。
- 188 :Unknown Kingdom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/23(木) 21:11:11.39 ID:jTaPfdvh0
- 「……はる、み……ちゃーん……?」
それもまた、東洋人だった。
滑らかな傾斜になっている道をハンクに向かって登ってくる姿。挙動だけを見れば、先の数人とは異なり、そう不自然なものではない。
「どこーー……?」
しかし、浮かべている表情は明らかに先と同類のもの。
そして、その東洋人が発する声は奇妙としか言い様がない。
聞こえて来るのは恐らく日本の言葉。違うとしても、少なくともハンクが嗜んでいない言語である事は間違いない。
「こうちょう、せん、せぇぇ…………」
それなのに、東洋人の呟きの意味が理解が出来る。
ハンクの知る言語として、ではなく、言語の意味だけが直接伝わってくる様な原始的な感覚として、理解が出来る。これまでの経験にはない奇妙な感覚だった。
「さみしぃぃぃぃいいい……。…………っ!」
その東洋人――『スキンヘッドの男』がハンクの姿を視認した。直ぐ様、右手に持つ金属バットを小刻みに揺らしながら走り寄ってくる。
迷わずハンクは東洋人にサブマシンガンを構えた。気がふれた人間なのか新手の怪物なのかはどうでも良い。危害を加えようとしてくるならば先刻の東洋人達やナース達と同じだ。いや、奴らよりも足取りが確かな分、危険の度合いは上。容赦をする気はない。
勝負は一瞬で着いた。向かってくる男に対してハンクがした事は、ただ僅かに銃口を調整し引き金を引いただけ。閃光が走り、男の右目が爆ぜる。悲鳴を上げ、男は地面に崩れ落ちた。
だが――――次の瞬間、即死したと思われた男は奇妙な声を漏らし、素早く頭を抱え込んで地面に蹲った。
(…………何?)
少なからず戸惑いを見せつつも、ハンクは男の脳天に向けてもう一度だけ引き金を引く。
頭蓋は弾丸の進入を素直に受け入れて弾け飛ぶが、それでも男は絶叫を上げただけで蹲る体勢を変える事もなく、生きている。更には損傷した体組織が驚くべき速さで再生を始めていた。
「ほう」
ハンクは感心する様に息を吐いた。
BOWの様に特異な変異を遂げた生命体ならまだしも、ただの人間とそう変わらない外見のままでこれ程の生命力を持つクリーチャーが存在しているとは。
これもアンブレラの生み出したBOWの一つだろうか。にしては生命力以外の点では生物兵器としてはあまり役立ちそうにはないが――――。
- 189 :Unknown Kingdom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/06/23(木) 21:12:25.74 ID:jTaPfdvh0
- 目の前の男の能力の分析をしていると、更なる気配を感じた。近付いてくるのは、最低でも十数体分はある呻き声。振り切ったはずの感染者達が追いついてきたか。式部人見が囮になってくれれば、と多少の期待はあったが、そう上手く事は運ばないようだ。
顔を上げ感染者達の正確な数を確認しようとするハンクの耳に、翼のはためく音が届けられた。それは、絶壁の方からだ。目をやれば、翼竜の様な翼を生やした人型クリーチャーが飛来してくる姿が視認出来た。
前方には感染者の群れ。後方には正体不明のクリーチャー。このまま挟み撃ちにされれば、マガジンを替えている余裕は無い――――。
咄嗟にハンクは走り出していた。飛翔の音を背に受け、向かう先に見据えるは感染者達。いや、拳銃を持っていたナースの死体だ。
鋭利な刃物と変わらぬ爪をハンクに向け、風を貫き滑空する翼竜。気配が変化した事を敏感に察知し、ハンクは振り向き様にその躯体に向けてフルオート射撃を惜しみなく撃ち込んだ。
連続する閃光が翼竜の肉を削ぎ落とす。いくつかは翼を撃ち抜き、風穴を開けていく。獲物を切り裂こうとしていた爪はそれに届く事はなく。翼竜は銃弾の雨に押し負け、ハンクの手前の地面に激突した。
その生死を確かめる暇も無く、感染者達の気配が数mの後ろまで来ていた。いや、元より生死などはどちらでも良い。翼竜はこの場で動けなくなってくれれば、それで良いのだ。
一番近くまで迫っている感染者の位置を確認すると、ハンクはナースの死体の腕から拳銃を崖方面へと蹴飛ばした。
伸びてくる腐りきった腕。背中に触れるよりも早く、翼竜を飛び越えた。拳銃の元まで走り、2丁を拾い集める。
まだ息があったらしく、翼竜の奇声が響いた。身体を翻せば、十数体を超える感染者達がナース達の死体と翼竜を貪り喰らっていた。ハンクの計算通りだ。
それでもまだ、食いっぱぐれてハンクに向かってくる数体もいる。ハンクはまだ蹲っていたスキンヘッドの男を一瞥し、男の後ろに回った。数体の感染者はその撒き餌にまんまと喰らいつく。ハンクを獲物と認識する敵は、これで居なくなった。
ナースを喰らう感染者を踏み台に、ハンクはこの窮地を飛び越え市街地へと向かう。前方にはとりあえずクリーチャーの姿はない。
(…………研究所に向かってみるか)
そして、まるで何事も無かったかの様に、この街をどう脱出するか、思案を再開した。
マップが正しいものと仮定するならば、この街から脱出するには陸路よりも海路よりも空路が確実だろう。
街が本当に絶海の孤島と化しているのか。南も北も西も絶壁に囲まれているのか。それは自身の目で確かめる必要はあるが、調査は通信機器が役に立たない事を確認した後でも遅くはない。
研究所へと走りながら、ふとハンクは未だ手の中にへばり付いていた草の存在を思い出した。
しばし、それを眺めて、思い立った様に手を振り降ろす。草は、ひらひらと舞い、地面に落ちた。とても凶器にはなりそうにはない。
(『氣』や『忍術』。機会があれば是非ともご教授願いたいものだが……)
【E-5/東部崖縁付近/一日目夜中】
【ハンク@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:健康
[装備]:USS制式特殊戦用ガスマスク、H&K MP5(0/30)、 H&K VP70(残弾18/18)、コンバットナイフ
[道具]:MP5の弾倉(30/30)×4、コルトSAA(6/6)×2、無線機、G-ウィルスのサンプル、懐中電灯、地図
[思考・状況]
基本行動方針:この街を脱出し、サンプルを持ち帰る。
1:地図にある研究所に向かい、通信機器を探す。
2:現状では出来るだけ戦闘は回避する。
3:アンブレラ社と連絡を取る。
※足跡の人物(ヘザー)を危険人物と認識しました。
代理投下終わりです
- 190 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/09(土) 21:22:40.01 ID:gYbLdQ7n0
- ターキッシュ「おい。これからの書き込みは何だ?」
トミー「保守のためさ」
ターキッシュ「保守? 何から守るんだ? ドイツ兵か? 突き指してもいいのかよ、トミー」
突き指の危険のある保守
- 191 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/10(日) 12:02:04.49 ID:xzYhAQbw0
- 普通の保守じゃ面白くないのは分かるんだが、分かりにくいネタをw
- 192 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/11(月) 23:20:16.90 ID:D31wYM+lO
- 12日の午後ローでスナッチやるね
- 193 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/12(火) 15:53:11.45 ID:ubxWYjOA0
- 代理投下します
- 194 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:54:09.29 ID:ubxWYjOA0
- (一)
纏った黒衣を翻し、坂上に似た男が迫る。彼は間合いを図り、小刻みに足を送った。すれ違いざま、男の腹を薙ぐ。耳障りな奇声を上げながら、男が床に倒れ伏す。背後には既に幾人もの"坂上"が血溜まりに沈んでいた。
彼は哄笑を上げた。物音を聞き、床を蹴って後退する。寸前まで身体があった位置を銃声が貫いた。
見やれば、玄関から入ってきた男がショットガンに銃弾を込め直している。それが終わる前に、彼は間合いを詰めるべく駆けた。右足の踏み込みと同時に、上段に構えた刀を一気に振り下ろした。踵が地面の砂利を弾き、刃唸りを纏った霜刃は弧を描く。
袈裟懸けに切り込んだ刃は、しかし空を斬った。刃が土間の上で虚しい音を奏でた。余裕をもって体を捌き、刃をかわした男が笑った。彼は嗤い返した。標的は保持していたショットガンを彼に押し付けた。
愚かな相手だ。見た目こそ絶体絶命の構図だが、それは愚民であればこそだ。神に愛された人間には、そんなものは意味を成さない。
腐った肉を奪い合う蛆虫たちと彼との間には決定的な隔たりがある。それを彼は理解している。
蛆虫たちにとって死は全ての終わりだ。
故に、彼以外の塵芥は死を恐がる。死への畏れは、精神を縛り、身体を鈍らせる。それがために、結局は死に追いつかれる。醜く恐怖に歪んだ瞳の数々を、彼は憶えている。
だが、彼にとって死は終わりではない。死を、彼だけは乗り越えられる。彼は死を恐れない。死すら、彼を縛ることはできない。
だからこそ、如何なる状況でも冷静に対処できる。
己が死した瞬間――あの痛み、あの苦痛。
それらはより己を高みに導いてくれると彼は信じている。屈辱的な死の記憶を充足した心地で思い出しながら、彼の身体は――動かなかった。
引き金は引かれ、大量の鉛弾が彼の臓腑を八つ裂きにした。
銃把を握りなおす。持ち主の好みに合うようにカスタマイズされたそれは、己の手には合わない。慣れ親しんだ愛銃とは異なる重みが腕にかかる。
その変化を何処か新鮮に思いながらも、ジルは目の前に突きつけられた選択に頬を歪ませた。
正面に見える光――柔らかく温かみを帯びた光明は、旧時代的なものに見えた。
無理を押して接触する価値があるか、否か――その見極めは、非常に難しかった。
トモエのような一般市民であるならば、まだいい。何らかの理由をつけて置き去りにする手段とて取れる。
単なる見間違いだったとしても、好転となる可能性もある。もしくは、諦める理由ぐらいには。
最悪の状況は、こちらに敵意を持つ存在の場合だ。
ジルは同行者二人に振り向いた。
大男に肩を貸し、足がふらついているトモエ。その彼女に出来るだけ負担をかけないようにと、足を突っ張って身体を支えているケビン。
逃げられない。二人を見捨てれば、あるいは自分だけは助かるかもしれないが、その選択は結局自分自身を殺すことになるだろう。
手元の大型拳銃には三発。ホルスターに仕舞ってある拳銃に再装填したとしても三十発はない。
対処に慣れてきたゾンビにしても、遥かに心許ない残弾だ。弾が切れれば、後は己の身ひとつだ。ゾンビ相手に格闘戦とは、笑えない冗談だ。何の間違いで感染するとも限らない。
だが、ここはラクーンシティではない。ラクーンシティとは別種の異形のものたちが蠢く土地だが。
それにゾンビは道具を使わない。故に、まともな人間である可能性は充分に残されている。
ただ、頭をよぎるのは駅で遭遇した職員だ。ジル本人は見ていないが、ケビン曰く、あの男は死んでいた。死体が動き出すことは、既に珍しいことではない。
しかし、あの男は言葉を発した。呻き声ではなく、確かに喋っていた。一定の知性と意思を感じられた。それに敵意も。
知性があるならば、道具も使えるかもしれない。
そう考えると、あの明かりは愚かな獲物を誘き寄せるための疑似餌か何か見えてきた。
もし、あの駅職員と同類のものが他にいるのだとすれば――知性を持つゾンビというものが他にもいるのだとすれば、人間だと確信が持てない限り徒に接触はできない。または対抗できるだけの準備を整えるか。
ジルは二人に小さく嘆息して見せた。
「接触せず、警察署に行きましょう。武器を揃えないと、迂闊に行動できないから」
「引率の先生に任せる」
「トモエは?」
「ジルを信じる」
「ありがと。だけど、まず、ケビンの怪我の具合を診てからにしましょうね。その恰好で警察署には行けないでしょう、ケビン?」
「……そうだなあ」
- 195 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:54:35.48 ID:ubxWYjOA0
- ケビンが苦笑を返す。トモエは曖昧な笑みを浮かべていた。
先程上ってきたばかりの階段を折り返し、改札口へと続く通路の中ほどでトモエにケビンを下ろすよう支持した。赤く汚れた床の上に、トモエへ礼を告げたケビンが大きく息を吐いて座り込む。
大型拳銃を元の持ち主に返し、手早く愛銃に弾丸を詰め直す。それらをホルスターに収め、ケビンに目を向ける。
表情に余裕はあるが、呼吸は荒く、血の気の失せた肌は脂汗が浮かんでいた。出血と痛みで大分参っている。トモエが風変わりなハンカチでケビンの汗を拭ってやっていた。
傷の具合を診ると言ったものの、碌な道具を持ち合わせていない。レベッカ・チェンバースなら同じ状況でも最良の判断と処置を実行できるのだろうが、彼女はヨーロッパだ。当然、自分に彼女のような医学知識もない。
「服を脱がせたほうがいい?」
「そうね……いいえ、今はいいわ。動かしていいものか分からないから」
トモエと場所を交代し、ケビンの腕に手を置く。露出している太い腕を彩る血の筋は乾いてきていた。
「……敢えて聞くけど、痛い?」
「多分、おまえさんが想像しているよりもな。引っ張られでもしたら、ちょっと泣くかもしれねえ。ただ――」
「ただ?」
「腕の感覚が鈍って来ているような気がする。それに連れて、痛みも薄れているような……慣れただけかもしれねえが」
「今、あなたの腕に手を置いているんだけど、分かる?」
「………………。参ったね、こりゃ」
ケビンは自嘲した。感覚がないということは、神経に傷を負ったのかもしれない。また、腕への血流に何らかの支障があるのか。
トモエに手伝ってもらいながら、ケビンに制服の留め具を外させる。
ジルは身頃の左半分を広げ、ライトで照らす。それでアンダーシャツの上からでも見て取れるほど、肩は大きく腫れ上がっていた。骨折か脱臼か――いずれにしろ、まともな治療なしで治るような代物ではない。
次いで、背後から傷口を見る。
分厚い布地が上手い具合に傷口を覆ってくれていたからだろう、出血は止まっているようだ。そのことに少し安堵する。
傷口の消毒をと思ったが、無理に引き剥がす必要はないだろう。患部周辺の血を拭い取る程度に留めて置いた方がよさそうだ。再度止血するには、救急キットに入っていたガーゼでは絶対的に量が足りない。
ジルは救急キットから清浄綿を数枚取り出した。
一言断って、服の裂け目から肌を清浄綿で拭う。取り出すと、妙に粘り気のある血液が付着していた。
生乾きの血といえばそれまでだが、どうしても思考は悪い方向へと転がっていく。
直接見たわけではないが、傷は浅くないはずだ。そんな傷の出血が、あの短時間で止まるだろうか。
確実に、ケビンは他のラクーン市民たちと同じ末路に近づいていっている。
強張ったジルの表情を見たのだろう、ケビンが皮肉気に唇を曲げて見せた。
「そんなに具合悪そうに見えるか?」
「……頭は悪そうに見えるわね」
「よっし。いつもの俺だな」
「否定しなさいよ。振りでもいいから」
半眼になりながら、思考を隅に追いやる。遠くない未来のことであっても、それは今ではない。
しかし、今打てる手は何もない。
- 196 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:55:01.53 ID:ubxWYjOA0
- 「名称がよく分からないから見当違いかもしれないんだけど、ケビンの治療に役立つものがないんじゃない?……肩はこれで固定する?」
「そのようね。まあ、これでどうにかできるなら唾つけても同じだから。……これは使えるわ。鎮痛剤よ」
救急キットの中身を丁寧に広げていたトモエから三角巾を受け取りながら、鎮痛剤の小箱を取り上げる。
どこまで効果を期待していいか分からないが、炎症を多少なりとも抑えてはくれるだろう。それがプラシーボ効果であったとしても、今はどんなものでも必要だ。
水の代わりに、拾った栄養ドリンクを、蓋を開けてからケビンに渡した。
赤黒い汚れの浮いたビンの表面を見て、ケビンは嫌そうに顔をしかめた。
「これで飲めってか? 衛生局が乗り込んでくるぞ」
言葉とは裏腹に、ケビンは大人しく錠剤をドリンクと共に飲み込んだ。
トモエと協力して、三角巾でケビンの左肩を包んだ。気休めかもしれないが、無造作に揺れるがままにしておくよりはいいだろう。
「これじゃ現場は無理そうね。事務の勉強でも始める?」
「そいつはぞっとしねえな。想像するだけで退屈だ」
「じゃ、いっそ警官辞めて漁師になるとか。海老とかの」
「……トム・ハンクスが俺の前に現れたら本気で考える」
肩を動かす際にケビンが小さく呻いた。
手を止めたトモエに催促し、しっかりと固定する。ケビンが深く息をついた。彼から視線を外し、ジルは立ち上がる。
「私が見張るわ。しばし、休憩を取りましょう。ケビン、あなたも。ろくに寝ていないでしょう?」
「……そりゃそうだが、今は眠る方が怖えよ」
ケビンが諧謔を含んだ声音で笑った。言葉が見つからず、ジルは彼から目を逸らした。逸らした先で、不安げなトモエと目が合った。
彼女は改札口の方へ顔を向けた後、ジルを見上げた。
「休むぐらいなら、病院に行くべきじゃない? もっと道具があるだろうし……電車なら、速いし」
「見た目によらず、鋼の心臓ね。また出るかもしれないわよ、幽霊。今度こそ逃げられないかもしれない」
「それは、そうだけど……」
敵との遭遇だけは避けねばならない。敵に遭えば、ケビンは戦おうとするだろう。死に急ごうとするだろう。
ケビンは死ぬ。"ケビン"として死ぬ。それは確実に近い未来だが、まだ諦めたくはなかった。諦めるには早すぎる。思い出になるにはまだ早すぎる。
だが、本当にそれだけかと投げかける己もいた。
あらゆる"未来"と戦う。その決意は、まだ水面のような揺らぎがあった。だからこそ、純粋にケビンを気遣っているトモエを見るのは辛かった。結局彼女からも視線を逸らし、汚れた天井を見上げた。
口ごもったトモエに向け、ケビンが右手を軽く振ったのが目の端に映る。
「どのみち、武器がなきゃどうにもならねえよ。俺のこたぁ気にしねえで、少しでも休みな。せっかく怖ぁい先生が目ぇ光らせてくれてんだから」
「………………」
- 197 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:55:46.07 ID:ubxWYjOA0
- トモエが不満げに吐息をついた。ちらと見やれば、彼女は目を瞑っている。ケビンの言葉に素直に従うつもりのようだ。と、その直後、びくりとトモエの身体が跳ねた。
目を見開いた彼女の顔は、それこそ悪夢でも見たかのように強張っていた。呼吸も大きく乱れている。
「どうかした?」
「……な、なんでも、ない」
鼓動を整えるように、トモエが胸に両手を当てた。そうしてから髪飾りにも触れる。やがて、静かな寝息が聞こえてきた。
それを確認してから、低い声でケビンに呼びかける。
「なんだ?」
「あなたには恰好つけさせやしないからね」
「……あいよ」
ケビンの苦笑がやたらと耳に残った。
(二)
彼は目覚めた。荒れ果てた屋敷の中を吹き抜ける風音だけが鼓膜を振るわせる。あれほど聞こえていた銃声や爆音は何処へ消えたのだろうか。斬り捨ててきた男たちのその残骸は何処にも見当たらなかった。
現れたときと同じように、陽炎のように消え失せてしまったらしい。
鈍痛の残る頭を振りつつ、彼は腹部に手を当てた。触り心地のいい、清潔なワイシャツの手触りが返ってくる。撃たれたというのに、その痕跡は跡形もない。
眼下に奔った閃光と、無数の異物が体内に潜り込む感触。ふいに湧き上がった記憶を払うように、彼は頭を振った。
身体が動かなかった。死が眼前に置かれたとき、四肢は強張り、彼の命令を拒否した。あたかも、数多の愚かな獲物たちが見せてきた反応と同じように。
違う――。
彼は胸の奥で叫んだ。あれは油断だ。驕りが生んだ、僅かな失敗だ。それを正せばいいだけだ。難しいことではない。彼は、己が容易に失敗を血肉に出来ることを知っている。
同じ轍は踏まない。
ストレスだ。不快なる澱みが腹の内に溜まったのを感じる。それを吐き出さなくてはならない。
魯鈍なる黒ずくめの男は、彼を仕留めたと誤解し、ここを去ったのだろう。追って仕留めるか。それは容易いことだが、わざわざ己が出向くという行為は相応しくない。
獲物の方から来るべきなのだ。愚者の後を追うなど、神に選ばれた人間が為してよいものではない。
転がっていた刀を拾うと、彼は屋敷を早足で出た。あれほど斬ったというのに、蝋燭に照らされた刀身には血脂ひとつ付いていない。刀までが特別性なのだ。
訝しく思いながら古びた棟門を抜けると、吼え声を耳がった。あの汚らわしい畜生どもだ。剥き出しになった筋肉と、腐った内臓を引きずりながら駆け寄る不浄な獣たち。
連中を一刀の元に両断する。それで多少は気が晴れる。万能な、いつもの自分自身に戻ることが出来る。
腰を落とし、彼は脇に刀を構えた。鋭い牙に彩られた顎が迫る。今度はしくじらない。油断もしない。己は死を乗り越えしものなのだから――。
先頭のポメラニアンを、きらめく半月が迎えうった。甲高い悲鳴をあげて、力を失った肉が架け橋の上で跳ねる。翻弄されぬよう上手く勢いを逃がしながら、手首を返す。返す刀が、続いて飛び掛ってきたチワワの首を刎ね飛ばした。
刀はまるで抵抗が存在しないかのように、肉を、骨を切り裂いた。その感触に、興奮で肌が総毛だっていく。
愉悦を刻んだ彼は三匹目のドーベルマンを見定めた。鋭い呼気を共に、腕を絞り込む。突き出した切っ先の目前で、犬が欄干を蹴って軌道を変えた。
門に掲げられた仄明かりに、両あごの間で糸引く唾液が見えた。
死が迫る。それに踏み込み、活路を得る。彼の喉は気勢の声を上げようと震えた――しかし、前へと進んだのは彼の意識だけだった。
強張った身体はやはり動かなかった。喉から漏れたのはか細い悲鳴だった。彼の喉笛に鋭い牙が喰らいついた。
吹き上がる己の真っ黒い血潮に彼の視界は覆われた。
- 198 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:56:16.94 ID:ubxWYjOA0
- 彼女は自由を求めて身体を大きく撓らせた。頭を振り、所構わず叩きつける。周囲の構造物は容易に砕け、瓦礫が彼女の身体に降り注いだ。
もう幾度同じことを繰り返してきたのか。そんなことは彼女の頭の中には無かった。
ただ、己を不快にするものを取り除く。その一点だけに全身は取り憑かれていた。
漸く、彼女を煩わせていた根源が消えた。
自由を取り戻した彼女に中に生まれたのは歓喜ではなく、憤怒だった。
彼女は女王だった。その行く手を遮るものなどあってはならない。
憎むべき糧たちの臭い。その僅かな名残を彼女の舌が絡め取った。
赦せるものか。
赦してなるものか――。
彼女は頭をもたげると、臭いの方向に向かって前進を始めた。
(三)
頭が酷く重く、歩くたびに鈍痛が響く。身体に力は漲っているのにも関わらず、指先を動かすことにさえ集中力を要した。呼吸も荒い。まるで幾日も寝ていないかのような倦怠感が身体を包んでいた。
彼は手近な民家の中で体を休めていた。刀は犬が咥えていったのか、何処にも見当たらなかった。
どこかで犬の遠吠えが聞こえた。無意識に身体が跳ねる。
食い破られた腹腔から引きずり出される腸の感触も、牙が肉を切り裂いていく痛みも、全て彼は記憶している。それだけではない。首を脊椎ごと引き抜かれたことも、長い時間をかけて窒息したことも――それらは追体験できるほど鮮明に、頭と身体の中に残っていた。
犬の爪が敷板を掻く音は聞こえてこない。安堵のため息が漏れた。
直後、彼は怒りに身を震わせた。これでは、まるで己が狩られる側ではないか。エリートたる人間は常に狩り、奪う側に立つ。それがこの世の論理であり、真理だ。
そのエリートの頂点に立つのが彼のはずだ。
おかしい。
何かがおかしい。
どこかで普遍の理が乱れた。その大罪を犯したのは誰だ。
彼は弾かれた様に顔を上げると、憎悪に鼻面を歪ませた。
あの女か――。
記憶の中に浮かび上がったのは、和服を纏った細身の女だ。あの女と出会い、汚らしい縄を振るわれ――全てが狂った。霧絵と名乗ったあの雌豚が、己の輝かしい道程を穢したのだ。
あの女は何処だ。
彼は立ち上がり、外へと出た。
通りは静寂そのものだった。爆発炎上する車も、飛び交う砲弾も何もない。その痕跡すら残っていなかった。まるで夢か何かのように、全て消えてしまっている。あるのは、滞留する闇だけだ。
踏み出そうとした足が何かに引っかかった。それが何か確認する暇もなく、彼は地面に引きずり倒された。強かに顔面を打つ。衝撃で眼鏡が外れた。
低い呻き声と饐えた臭いが鼻をついた。見えずとも分かる。あのゾンビたちだ。ゾンビに足を掴まれ、あまつさえ地面に倒された。
憤怒に任せて振り払おうとするが、駆け巡る激情とは裏腹に足は力なくアスファルトを叩くだけだ。
ゾンビが彼の腹部を鷲掴みする。先ほど喰い散らかされたばかりの肉を指が突き破り、中の臓腑が引き抜かれる。悲鳴を激痛が押し潰した。殺人クラブの面々が彼を見下ろしていた。侮蔑に満ちた表情だが、それに怒りを覚える余裕は彼に残されていなかった。
何かが眼窩に潜り込んだ。ゾンビの指だ。抵抗するも、腕はびくともしない。ついに眼球がつぶれ、生暖かい液体が溢れ出して頬やこめかみを濡らした。
絶叫が口腔から飛び出そうとしたが、その前に喉は噛み千切られた。己の耳に届いたのは、水が泡立つような喘鳴だけだった。
- 199 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:57:47.47 ID:ubxWYjOA0
- 薄皮を剥ぐように夜闇を脱ぎ捨てた警察署を視界に納め――ジムは口をあんぐりと開けて佇んだ。
背の高い古風な格子門の向こうに、荘厳な雰囲気を漂わせる大ぶりの建築物が泰然と構えている。建物の入り口を照らす電燈は迷い人を招き入れる慈悲の導に見える一方で、半開きの扉は獲物を誘い込む甘い罠にも見えた。
魂なき亡者の呻き声が耳元で聞こえたような気がした。四人で逃げ込んだときの記憶が――大量のゾンビたちとの攻防が鮮明に蘇る。
この建物を、ジムは知っていた。いや、彼と同郷の人間であれば見覚えのないものなどいないだろう。
見間違えるはずはない。しかし、有り得ない。
この町は、彼の故郷ではない。見も知らぬ――名前すら知らなかった町だ。
だから、今目の前にある建物は"ラクーンシティ警察署"であるはずがない。
そのはずなのに、重苦しいアーチの上にはでかでかと"ラクーン警察署"と掲げられていた。まるで悪趣味な冗談を目の前で披露されているような心地だ。只でさえ混乱しそうな頭が、これでは一気にオーバーヒートしてしまう。
「趣味の悪い警察署だな。何かを履き違えているようにしか思えない」
少女の亡骸を背負ったハリーが朴訥とした調子で呟いた。
彼に背負われた美耶子の死に顔は眠っているかのように美しいままだった。ふとすると、本当に眠り姫か何かのように思えた。
彼女をこのしみったれた最低の糞町に置き去りには出来ないが、かといって彼女を背負ったまま彷徨い歩くのも現実的とはいえない。
あの狂った軍人の同類や正体不明の怪物に襲われることは大いに有りうる。その際、咄嗟の行動に支障が起こるかもしれないし、何より彼女の亡骸を徒に辱めることにも繋がりかねない。
この点については、ハリーも同意してくれてはいた。現に、今の彼は銃を構えることすらできないのだから。
「……本当にな。見た目通り、ローマ法王の金玉みたいなもんだよ。あるにはあるけど、まったくもって役に立たねえ」
自分の混乱を隠すように、ジムは悪態をついた。ハリーが小さく眉をあげる。
「辛辣だな。警察に嫌な思い出でも?」
「俺は生まれてこの方ずっと善良な一市民さ。たださ、警察ってのは、個人はともかく、いざってときに組織として役に立ったことがあるかい?」
「何事も起こらないことが、つまりは警察が役に立っている証拠だと思うよ。そうでなくなってしまったら、期待するほうが酷だ」
ハリーの面白くもない答えにジムは鼻を鳴らした。
ラクーン市警の個々の奮闘は目にしている。だが結局、彼らは事態を収拾することができなかった。結果的に見れば、やはり警察は役に立たなかったと見るより他にない。
と、こちらに近づく物音が聞こえた気がした。ハリーもそうだったらしく、二人は一斉に音へと体を向けた。銃も同時に向けるも、機関銃のずっしりとした重みに銃口はすぐ下に垂れてしまった。
闇をくり抜いたように、懐中電灯のものらしき光が近づいてくるのが見えた。
歩調に合わせて上下に揺れる光は鬼火のように見えた。
「動かないで。話が通じるのなら、動かないで」
- 200 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:58:20.29 ID:ubxWYjOA0
- よく通る声が夜気を震わせた。静かだが、鋭さを含んだ女の声だ。相手が人間であることに安堵しそうになるが、それをとっさに堪えた。
化け物は言葉も喋るのだ。そして何より、相手が人間だからと言って安全とは限らないのだ。
ラクーンシティは新興都市だ。それ故に、治安は実に不安定だ。あの夜がくるまで、一番危険な存在は人間だった。そして、双方の導く最悪の結果が死であるならば、人間も化け物も、危険性は大して違いはしない。
ジムは下がっていた銃口を再び持ち上げた。
「あんたこそ止まりな。こっちはランボーみてえな銃持ってんだ。クライマックスを飾りたくなかったら、それ以上近づんじゃねえ」
内心を気取られないよう気をつけながら、できる限り声にドスを利かせて告げる。引き金にかかる指に力が籠った。
と、ふいに聞き慣れた失笑を耳が拾う。
「――エディ・マーフィーに凄まれてもな。チャーリー・シーンよりハクがありゃしねえ」
「ケビンっ!?」
雑な足音と共に、闇の中から見慣れた優男の顔が現れた。
「よぉ。トモエの言った通りとはな。しばらく見ない間に、ちったぁ男の顔になったじゃねえか」
「ほんの何時間か前まで一緒だっただろ? よりによって、またあんたとかよ」
「ご挨拶だな。聞屋の姉ちゃんのがよかったか?」
「せっかく逃げ延びたってのに、次の取材先がここじゃ可哀相だろ」
ケビンは銃を握った右手を軽く挙げた。顔に血の気はなく、左腕は血で汚れた布で吊っている。人を食ったような表情は相変わらずだが、それもどこか無理をしているように見えた。
彼のあとから二人の女が現れた。一人は見覚えのある若い白人だ。彼女は警察署を見上げ、呆けたように口を開けた。ラクーン市民の一人なのかもしれない。ケビンもいるのだから、それはありえないことではない。
そして、もう一人を――ジムはヨーコが来たと思った。
だが、すぐに違うと分かった。顔はヨーコに比べればきつめで、服装もニッポンの伝統衣装だ。似ているのは背格好と、東洋人であることぐらいだ。
ラクーン大学で忽然と消えてしまった彼女のことを、まだ諦めきれていないようだ。彼女の失踪が意味するものは一つしかないことは分かっているのに。ラクーン大学で再会したジョージの変わり果てた姿が、そのままヨーコに入れ替わる。
ケビンの連れは、ジル・バレンタインと太田ともえといった。彼らは武器を調達しに、ここまで来たらしい。
ジルはあの"S.T.A.R.S."だという。道理で見覚えのあるはずだ。ラクーンシティの住民で"S.T.A.R.S."を知らないものはいない。アンブレラ社と同じく、彼らは市の象徴となっていた。
発展と安全。市が向かうべき未来を約束する証――。
所詮、それは泡沫の夢であった。
一番必要な時に必要なことができなかった"S.T.A.R.S."。滅びを運んできたアンブレラ社。夢を、ただの"夢"だと悟るのが遅すぎた自分たち。
これが現実の姿だった。夢は覚めた。炎の弾ける音と亡者の呻き声によって――。
華奢なジルの立ち姿は、ラクーンシティの見る無残な夢の欠片そのもののように見えた。
彼女は銃を持ち帰ると、自嘲的な笑みを浮かべた。
「最悪の挨拶の仕方をして、ごめんなさい。チャップマンさん、メイソンさん」
差し出されたジルの右手を握る。
その力強さに、ジムは離された後で自分の掌をまじまじと見つめた。なんとなく、内心を読まれたようでばつが悪い心地がした。
彼女はまだ敗けていない。そういう意思が伝わってきた。
「君は撃たなかったんだ。それでいいじゃないか」
握手をしながらハリーが微笑む。
ジルの質問を受け、ハリーが簡単にことの顛末を説明した。
サイレントヒルのこと。大量の化け物たちの死体。轟いた銃声と爆音。路面に空いた大穴。そして、牧野と美耶子の亡骸――。
- 201 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:58:47.56 ID:ubxWYjOA0
- 「それで、あの爆音だったわけね。……色々ありすぎて、もう勘弁してほしいわ、全く」
「ところで、君たちは私の娘を見なかったか? 歳は七つ。髪の色は黒なんだが」
「いいえ。三人で行動を始めてから、まともな人間に会ったのはあなたたちが初めてです。何か手がかりは?」
深刻な顔で話し始めたジルとハリーから目を逸らし、ジムは塀に寄り掛かるケビンとともえに目を向けた。大きく肩を上下させるケビンの額を、ともえが変わったハンカチで拭ってやっている。
その仕草も、どこかヨーコに似通って見えた。いつからだったか、ヨーコが一枚のハンカチを大切そうに扱うようになった様子もありありと思い出された。
語りかけるともえにケビンが自嘲じみた返事を返すが、それも半ば以上、上の空の様子だ。
あれはマークの知り合いだったか。名前は思い出せないが、屋上でゾンビになってしまった禿頭の男の姿が今のケビンに重なる。
デビッドと並んで死にそうにない男が今、亡者の列に加わろうとしている。それが、とてつもなく寂しく思えた。
ジムは無理やり笑みを浮かべた。親指で門扉を指す。
「ケビン、一体いつあんたの職場は引越ししたんだ?」
「……おまえの職場もだよ。おめでとう。今なら巨大なヘビのペットもついてんぞ。ジェニファー・ロペスはいないがな」
「なんだ、そりゃ」
ケビンの言っている意味が分からず呻く。彼はにやりと笑っただけだった。
「ラクーンシティの地下鉄駅があるのよ、この町に」
ハリーから事情聴取していたジルが口を挟んだ。
「私たち三人の職場とそっくりなものが、この町にある。これって偶然かしらね? まるで縁の深い場所がわざわざ選ばれているみたい」
最後は独りごちるように呟いたジルに、ハリーが首を傾げた。
「つまり、この警察署は君たちの町のものなのか?」
「そっくりですね。観光地と言いましたが、他所の町をコピーして観光の目玉にでもしているとか?」
「旅行の前に調べたが、そういう話は聞かなかったな」
ハリーは顎に指を当てて眉間に皺を寄せた。ケビンが大仰に右肩を竦めた。
「まあ、うちの署長と同レベルのアホがいるのかもしれねえよ。アホの中じゃアイアンズの糞署長はプレスリーみたく崇拝されてたりしてな」
「丸々建物が移動してきているって考えるよりは筋が通るかもね。駅の説明にはならないけど」
知らない町並みの中に、唐突に現れる見知った場所。繋がらない理屈。既視感とは違う理不尽さは、悪夢のそれと似ていた。ラクーンシティの見せられていた夢の続きに入り込まされているような違和感があった。
加えて、これはラクーン市民に限ったことではない。ミヤタやマキノたちのことは分からないが、あのチサトという少女の見知る場所は此処にある。
「言いたくはないんだけど、まだ夢のように思えるんだ。ラクーンシティは悪夢みたいな現実だったけど、こっちは現実みたいな悪夢っていうか」
「これが夢なら人は死なない。そもそも誰の夢になるんだ?」
ハリーが幾分厳しい声音で言った。彼の肩から美耶子の白い顔が半分見える。それから目を逸らして、ジムは口をとがらせた。
- 202 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 15:59:33.64 ID:ubxWYjOA0
- 「分かってるよ。だけど、正直な感想なんだよ。全部ちぐはぐだ。ニッポンの高校があって、ラクーンシティの駅と警察署までありやがる。夢に出てくる風景と同じ脈絡のなさだ。どこにも成りきれていないってかさ」
「ニッポンの高校まであるの?」
「なるほど。つまり、俺たちゃ全員ベトナムに居て、これから息子が迎えに来てくれるってわけか。めでたしめでたしだ」
「君は……ベトナム帰還兵なのか?」
「…………。マジな顔してそういうことを言うのは犯罪だ」
ハリーの憐憫を帯びた言葉に、ケビンが悔しそうに呻く。その仕草に、ジムは甲高い声で噴出した。
「良かったじゃない。テイラー二等兵ならハクつくわよ」
「俺は兄貴の方が好きなんだよ。ビリー・ザ・キッドだし」
にやと笑ったジルが付け加え、ケビンは更に口をへの字に曲げた。彼らの反応に、ハリーはただ目を瞬かせていた。おだやかな空気が通りを漂った。
その俄かな笑声を、短い悲鳴が貫いた。
(死)
見つけた。見つけた。漸く――見つけた。
頭痛は、頭蓋の罅一つ一つを押し広げるかのように酷くなり、まともに思考することすら不可能なまでになっていた。
また、彼は死んだ。エリートであるはずの彼が死んだ。頭痛に苛まれ転がり落ちた側溝で、数多の虫にじわじわと食い殺されたのだ。その感覚が――肌の下に潜り込まれて、肉を掘り進められる感覚がいまだに全身を包んでいる。
周囲の些細な物音、その一つ一つに身体は弾ける様に反応していた。違うと胸中で絶叫するも、震えは止まらない。
"死"が身体と精神の奥底に、澱のように溜まり巣食っていた。"死"の怯怖に身も心も縛り付けられていた。
突如、爆音が響いたかと思えば、突如嬌声が耳元で弾ける。空を光が駈ければ、次の瞬間には飛行船の浮かぶ超高層ビルの群れが遠くに見えた。しかし、それはやがては静寂と闇に戻る。
何が本当で、何が偽りなのか――それすらも彼は分からなくなっていた。
しかし、それはもう、過去のことだ。
彼は見つけたのだから。怨敵を捕まえたのだから。
今、左腕が締め付ける女の細首が現実のものかどうか、本当のところ分かりはしないことに彼の思考は及ばなかった。捕えた女が怨敵かどうかすら、彼の眼中にはなかった。
あとは殺そう。じっくり殺そう。
それで全てが元に戻る。勝者に、己は戻る――。
心にあるのは、ただ歓喜だけであった。
- 203 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 16:00:57.40 ID:ubxWYjOA0
- 首元に回された腕が顎を押し上げ、気道を圧迫する。首筋に痛みがある。鋭く尖った何かが押し付けられているのだろう。
「霧絵ェェェエエ! お仲間ができて油断したか!? 安心したか!? 慢心したか!? この俺を虚仮にして、安穏とできると思っていたか!? それは間違いだ! 途方もない誤りだ! 万死に値する驕慢だ!」
荒く、腐った魚のような臭いの漂う呼気が頬に吹き付けられる。己を背後から拘束したものからは、むっとするような死臭が放たれていた。
こちらに向けられる懐中電灯の光に、ともえは目を細めた。
ともえは他の四人から七、八メートルほど離れてた所にいた。込み入った話をし始めた彼らを邪魔しまいと、自分から離れたのだ。
ジルとケビンの間に、己には言えない何かしらの秘密があることは感じ取っていた。そのことを話し難そうにしていることも。
"穢れ"に立ち向かうと心に決めたものの、具体的な方針は未だ見いだせない。だからせめて、邪魔にはなりたくなかったのに。
それなのに、結局足を引っ張っている。
ぽたぽたと首筋に滴り落ちる生臭いものの感触に肌を粟立たせながら、ともえは自分の不甲斐なさに吐き気がした。
役に立たないなら――己の決意の介入する余地すらないなら、せめて彼らの足枷にならぬよう振舞えればいいものを。
「撃つのか!? 撃ったら、こいつに当たるぞ!? 殺すのか? 殺しちまうのか? 無能な肥溜めどもが!」
ジルか、ケビンだろうか。舌打ちが聞こえた。
ケビン、ジル、そして先程合流したケビンの友人とその連れ。光によって余計に深くなった陰のため、彼らの表情はともえからは見えない。
それがせめてもの救いだった。
ジル、ケビン――初めて好きになれた外の人間。
ジム、ハリー――好きになれるかもしれない、外の人間。
彼らの迷惑になるのはとても嫌だった。
ならば一思いに命を絶つか。舌を噛み切るか。そんなことをせずとも、首に突き付けられたものに己から貫かれに行くか。
ともえは目を閉じた。
瞼の裏に、己の姿が浮かんだ。眼鏡を掛けた男に拘束され、千枚通しのようなものを首筋に突き付けられた情けない女の姿――。
ともえは目を開けた。どうして、男が眼鏡を掛けていると分かるのだ。
己のものではない、誰かの視界を視る。
父の視界が視えた。駅では、暗い穴を進む、色のない視界が眼蓋に映った。そして、轟くような銃声が響いたとき、ジムとハリーらしき姿を瞼は捉えた。
八百万の神々か仏が施した情けだと思った。偶然の見せる夢幻だと思っていた。
見たいと――感じたいと思ったものを"視た"と錯覚しただけだと思い込んでいた。
ともえは、目を閉じた。そして、強く念じた。
今度ははっきりと視えた。照門と剥き出しの砲身。その先の照星越しに映る、懐中電灯に照らされた自分と男の姿。
男は若いようだが、その印象に自信は持てなかった。ともえの背後にぴったりと身を隠していることもあるが、こけた頬、ぼさぼさの頭髪が男の年齢を判断しがたくしていた。
ともえの後頭部から覗く男の顔。その眼鏡の奥に見える、落ち窪んだ眼窩に収まる瞳が禍々しく光っていた。男は口角から盛大に涎を零しながら、罵倒を吐き出していた。落ちた涎が、ともえの襟元に染みを作っていく。
ケビンの声が聞こえた。視界の主が僅かに首を振り、言葉少なに答える。それはジルの声だった。
ジルの銃口が微かに動いていく。どこを狙えばいいのか。どうすればともえを傷つけず、男を撃てるのか――それを探っているのが分かる。だが、答えは否だ。拳銃の精度がどれほどのものなのか知らなかったが、それでも狙える隙間など何処にもないのが見て取れる。
その中で一番狙えるとすれば男の右肩だ。予想通り、照準は男の右肩で止まった。しかし、突き付けられる千枚通しがジルを躊躇させているようだ。それに加えて、ともえの頭が傍にある。
その二つさえなければ、ジルは撃てるのだ。それで事は解決する。警察署で武器を集め、ケビンの傷を治療するための行動に移ることができる。
もっと男の肩を露出させなくてはならない。
戦え――。
ジルの言葉が蘇る。それは、父の声となって繰り返された。
自分の――太田ともえの戦いを、太田ともえとして戦い抜け――。
ジルの呼吸が聞こえた。それに合わせて、ともえも息を吸って吐いた。瞼を開く。ジルの方を確と見つめた。
「撃てないのか!? 撃たないのか!? いいんだぞ、撃って! 殺せ! 殺せよ! 殺してみろ! 遠慮などするな!」
- 204 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 16:07:34.40 ID:ubxWYjOA0
- ともえは膝の力を一気に抜いた。頬に烈火のような熱が奔る。ともえの全体重が腕にかかり、男が戸惑いの声を上げてよろめいたのが分かる。
雷鳴のような銃声が轟き、男が絶叫した。首に回されていた腕が解かれ、ともえは路面に膝をついた。からんと音を立てて、千枚通しが道に転がる。
頬がとんでもなく熱かった。それはすぐに激痛に変換された。思わず、声が漏れる。それは涙声だった。
「頑張ったな。偉いぞ」
ケビンの太い腕がともえを助け起こした。見上げると、ケビンは厳しい眼差しで彼方を睨んでいる。
見やれば、男が右肩を抑えながら狂ったように吼えていた。
ケビンが優しくともえの背中を押した。ともえは蹈鞴を踏む間もなく、優しくジルに抱きとめられた。ジルは力強く微笑んでみせると、すぐに布でともえの頬を抑えてくれた。痛みにまた声が漏れるが、心は大分落ち着いてきていた。
役に立てる。その確信が、痛みよりも心を満たしていた。
ハリーがジルに傷の様子を聞き、ジムは大きな機関銃を持ってケビンの横に並んだ。ともえは目を閉じた。
おぼつかない足取りで後退しながら、唾罵を撒き散らす男の姿が瞼に映った。
「撃ったな!? 俺を撃った! ヒャハハハハハハハ! これで勝ったとでも思ってるのか!? 俺が屈するとでも!? おまえらの敗けは決まっているのに、馬鹿だから分からないのか!? おまえらにとって死は全ての終わりだが、俺にとって死は全ての始まりだ!
おまえら負け犬の物差しで測るな! 俺はエリートなんだからな! 俺は勝者だ!
虫けらとは違う。おまえらごみは、ずっとごみのままだァ!」
男の甲高い鳴き声を、銃声がかき消した。
「……うるせんだよ、生ごみ」
右手で拳銃を支えながら、ケビンがぞっとするような声音で独りごちたのが聞こえた。だが、男は倒れなかった。ケビンが小さく、外れたと呟いた。
男は小躍りするようにステップを踏んだ。そのまま闇の中に消え行こうとしていた。ジムが機関銃を構え直す音が聞こえる。
「蛆虫ッ! 蛆虫ィィィイイ! さっさと土に還れ、下等生ぶ――」
男の姿が一瞬で掻き消えた。ジムが頓狂な声を上げた。それはすぐに悲鳴に変わった。ケビンの視界は、闇の中で光る巨大な影を捉えていた。影は一度巨体を嚥下するように大きくくねらせると、ゆっくりとその鎌首をもたげた。
僅かな光の中で鱗が波打ち、無機質な瞳が冷たく浮かび上がる。
駅で襲ってきた、あの大蛇だ――。
「――トモエ! 走って!」
ジルの声にともえは目を見開いた。頬には布が当てられている。立ち上がるのと同時に、ハリーの腕がともえの脇に差し込まれる。半ば抱えられるようにして、ともえは足を送った。一歩踏み出す度に、殴られるような痛みが響く。
ジルが開けた警察署の門をくぐった。石畳の上で五つの足音が転がっていく。背後で塀の砕ける音が聞こえた。
二つの旗に囲まれた大扉に、ジルに続いてともえとハリーは飛び込んだ。
ともえたちを出迎えたのは白亜の女神像だ。無感情な笑みを浮かべた顔がこちらを見下ろしていた。
ケビンとジムの足音が続いてこないことに気付いた。ともえが慌てて振り返る前に、大きな音を立てて扉が閉まる。
- 205 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 16:08:11.20 ID:ubxWYjOA0
- 「先に恰好つけられちまったからな、こっちも、な。――そうだよな、おい?」
「俺は付き合うだけだからな!?」
扉の向こうからケビンとジムの声が聞こえた。とっさに扉を開けようとしたジルが、しかし、大きく息を吐いてその衝動を抑えたのが見えた。
囁くように、ジルが扉に語りかける。
「ケビン……すぐ戻るわ」
「……応。待ってるぜ」
立て続けに起こる銃声を背中で聞きながら、先導するジルの後をついていく。恐ろしく高い天井に覆われた広間に、三つの足音と息遣いがやたらと大きく響いて聞こえた。
踏み入れたのは事務室らしき部屋だ。そこで、ジルは椅子に掛けられていた黒いジャケットを手に取っていた。
"R.P.D."とプリントされたそれを羽織った彼女に、ハリーが何処で武器を探すのか尋ねた。
「私たちのオフィスよ。ついてきて」
今までになく厳しい顔で、ジルが奥の扉を示した。
【日野貞夫@学校であった怖い話 死亡】×5
【D-2/警察署・東側オフィス/一日目深夜】
【ハリー・メイソン@サイレントヒル】
[状態]:健康、強い焦り
[装備]:ハンドガン(装弾数15/15)、神代美耶子@SIREN
[道具]:ハンドガンの弾:20、栄養剤:3、携帯用救急セット:1、
ポケットラジオ、ライト、調理用ナイフ、犬の鍵、
[思考・状況]
基本行動方針:シェリルを探しだす
1:武器を集めてジムたちの救援に向かう
2:研究所へ行く
3:機会があれば文章の作成・美耶子の埋葬
4:緑髪の女には警戒する
【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数14/15)@バイオハザードシリーズ、ハンドライト、R.P.D.のウィンドブレーカー
[道具]:キーピック、M92(装弾数9/15)、ナイフ、地図、携帯用救急キット(多少器具の残り有)
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。
1:S.T.A.R.S.オフィスで武器を集めてケビンたちの救援に向かう
2:警察署で街の情報を集める。
※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
- 206 :今日も僕は殺される ◇TPKO6O3QOM 代理:2011/07/12(火) 16:09:18.50 ID:ubxWYjOA0
- 【太田ともえ@SIREN2】
[状態]:右頬に裂傷(処置済み)、精神的疲労(中)
[装備]:髪飾り@SIRENシリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
0:ケビンたちを助ける
1:夜見島の人間を探し、事態解決に動く。
2:ケビンたちに同行し、状況を調べる。
3:事態が穢れによるものであるならば、総領としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません
※幻視のコツをある程度掴みました。
【D-2/警察署・玄関先/一日目深夜】
【ジム・チャップマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:疲労(小)
[装備]:26年式拳銃(装弾数6/6 予備弾4)、懐中電灯、コイン、MINIMI軽機関銃(???/200)
[道具]:グリーンハーブ:1、地図(ルールの記述無し)、
旅行者用鞄(鉈、薪割り斧、食料、ビーフジャーキー:2、
栄養剤:5、レッドハーブ:2、アンプル:1、その他日用品等)
[思考・状況]
基本:デイライトを手に入れ今度こそ脱出
1:ケビンと一緒にある程度時間稼ぎする
2:ハリーと一緒に研究所へ行く
3:死にたくねえ
4:緑髪の女には警戒する
※T-ウィルス感染者です。時間経過、死亡でゾンビ化する可能性があります。
※MINIMIの弾がどれだけ消費しているかは次の方にお任せします。
【ケビン・ライマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:身体的疲労(中) 、左肩と背中に負傷(左腕の使用はほぼ不可)、T-ウィルス感染中、手を洗ってない
[装備]:ケビン専用45オート(装弾数2/7)@バイオハザードシリーズ、ハンドライト
[道具]:法執行官証票、日本刀
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。T-ウィルスに感染したままなら、最後ぐらい恰好つける。
1:ヨーン相手に恰好つける。
2:警察署で街の情報を集める。
※T-ウィルス感染者です。時間経過、もしくは死亡後にゾンビ化する可能性があります。
※傷を負ったためにウィルス進行度が上がっています。
※左腕が使用できないため『狙い撃ち』が出来なくなりました。加えて精度と連射速度も低下しています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
※ヨーンは鏡石ごと日野を呑み込みました。よって、鏡石は日野とヨーンの双方に適用されます。日野が死ねば一つ消費、ヨーンが死ねば一つ消費という具合に。現在八個鏡石は残っています。
代理投下終わりです
- 207 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/13(水) 22:19:21.74 ID:SvuvZ70J0
- 代理投下乙でした!
>>192
タイムリーなネタだったんだw
- 208 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/15(金) 12:24:14.77 ID:3x5O7Nk1O
- 今期の月報データです。
話数 生存者(前期比) 生存率(前期比)
98話(+6) 32/50(-2) 64.0(- 4.0)
- 209 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/19(火) 01:15:49.36 ID:DyGu6I230
- 代理投下します
- 210 :殺意と善意が交差する時物語は終わる ◇VxAX.uhVsM:2011/07/19(火) 01:16:50.66 ID:DyGu6I230
- 「沙都子…どこにいるんだ……沙都子……」
雑貨屋付近を歩いている彼、北条悟史…。
妹を探すためうろついていたのだ。
「くそ…僕が見つけてあげないと………」
この異常な状況で見つからないという焦りが生まれる。
もし、沙都子が誰かの手により殺されたら…?
僕は、どうなってしまうのか…怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
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怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
恐怖…失望…絶望…考えるだけでぞっとする。
だから彼は足を動かす。
妹に何もない事を願いながら…。
◇ ◆
「……う、あれ?」
雑貨屋を若干北に進んだ場所で何かが見えた。
暗い中、「何か」を見つけた。
それを出来る限りじっと見つめる。
巨大な何か…そしてその傍にも二つ何かがある。
そこで北条悟史はある事に気付き、目を背けた。
- 211 :殺意と善意が交差する時物語は終わる ◇VxAX.uhVsM:2011/07/19(火) 01:17:48.25 ID:DyGu6I230
- (駄目だ、駄目だ、駄目だ!)
そこにいたのは、3人の人間。
実際は4人なのだが、暗くてよく見えなかったのだろう。
背負われている一人が見えなかったのだ。
自分の友人である古手梨香も判別できなかったのである。
そして、人間を見つけた彼に降りかかるのは。
殺意
殺意
圧倒的な、逆らえないような殺意だった。
(く……そ!駄目だ…殺したくなんか無い!)
我慢が出来ないようなストレスが彼に降りかかる。
しかし、彼は決して声は出さない。
もし、気付かれてこっちに来られたらどうなる?
『バケモノめ……!』
『すみません』
思いだされる記憶…それは彼を苦しめる。
『すみません』 『すみません』
『すみません』
『すみません』 『すみません』
『すみません』
謝る事しかできなかった。
それはさっきの事だ。
向こうはこっちに気が付いていないんだ。
だから、彼が取った行動はすぐさまそこから走り去る事だった。
彼が向かう先には、駅がある。
そして、物語は彼の足取りのように加速する。
【C-3/雑貨屋付近/一日目夜中】
代理投下終了です
- 212 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/20(水) 22:40:11.89 ID:bPQXWy4U0
- 代理投下乙でした!
- 213 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/23(土) 11:24:21.40 ID:KB6YC94T0
- 代理投下します
- 214 :噛み合わない「世界」 ◇WYGPiuknm2 代理:2011/07/23(土) 11:25:49.81 ID:KB6YC94T0
- 【1】
重い足取りで、レオンは歩みを進める。
その背中は頼りなく、表情も重苦しいものになっており、街に漂流した頃とはまるで別人の様であった。
恐らく、今の様子でパーティーに来たのなら、
瞬く間にそれは告別式の雰囲気に早変わりしてしまうだろう。
それ程に、彼は絶望しきっていた。
自分自身に、深く失望していたのだ。
もっと早く行動を起こしていたのなら、フジタも、あの少女も、死なずに済んだかもしれないのだ。
あの二人を殺したのは、あの半漁人でも、巨大な魚類でもない。
自分自身――レオン・S・ケネディなのだ。
人の命を護るのが使命の警察官が、何と言う体たらくだろうか。
二人はあの世で嘆いているに違いない――「アイツがもっと有能ならば」と!
もっと早く動ければ!
もっと早く状況を把握できれば!
誰も死ぬ事もなく、一人も欠けずに船から脱出できたというのに!
(クソッ……!)
此処で後悔し続けていても彼らが戻って来ない事は、レオン自身にも分かっていた。
それでも、自虐せずにはいられない。
自分が背負っている「弱い」という罪の重さを、少しでも和らげる為に。
そうしなければ、重圧で潰れてしまいそうだから。
何処に向かっているのかすら分からぬまま、進み続ける。
歩みを止めて立ち尽くしても意味がない事を、身体は知っていたから。
そうして歩いていると、懐中電灯の光が文字列を捉えた。
鉄錆の臭いのする「赤」で書かれた、「研究所」の文字を。
- 215 :噛み合わない「世界」 ◇WYGPiuknm2 代理:2011/07/23(土) 11:26:14.39 ID:KB6YC94T0
- 【2】
結論から言うと、この大学だけではサイレント・ヒルで何が起こったのかを知るのは不可能だった。
何しろ、至る所で障害物が鷹野の進行の邪魔をするのである。
それらは彼女の腕力だけでは、到底どける事の出来ないものばかり。
せめてもう一人居れば、そこから先に進めたものの。
無意識の内に、右手の親指の爪を噛んでいた。
自身が苛立っている証拠である。
これ以上探索できないのなら、何時までも大学に居座る必要はない。
鷹野は血まみれの通路を通って、大学から脱出する。
結局この施設で何が起こったのかは分からずじまいだったが、
今の鷹野にはそれを調査する術を有していないのだ。
それに、この地はまだ施設が存在している可能性がある。
此処に固執しているよりも、各地を渡り歩いて情報を得るべきだと考えたのだ。
大学の出入り口に到着した頃、鷹野は前方で揺らめく光を発見した。
恐らくは懐中電灯から発せられるものだろう。
周りが黒一色だから、いつも以上に分かりやすい。
どうやらこんなゴーストタウン同然の地にも、人間はまだ居たようだ。
現地の者から話を聞けるかもしれない絶好のチャンスである。
鷹野は懐中電灯の持ち主との接触を試みた。
- 216 :噛み合わない「世界」 ◇WYGPiuknm2 代理:2011/07/23(土) 11:26:46.67 ID:KB6YC94T0
- 【3】
レオンは妙な格好をした女と遭遇した。
黒いベレー帽に黒いマント、それに黒のニーソックス。
身体を「黒」で武装した彼女の姿は、怪しげな宗教の教祖を思わせた。
女の名乗った「鷹野三四」という名前からして、藤田と同じく日系の者だろう。
名前と不釣合いな金髪のロングヘアーが、周囲の黒色のせいで余計に目立つ。
(どうしてそんな格好をしているんだ……?)
謎めいた服装の訳を知りたかったが、
今は個人の格好などを気にしている場合ではない。
この疑問は脳の片隅に置いておく事にした。
「研究所」周辺の民家にて、情報交換を行う。
同じ東洋人だから藤田と関係があるのではないかと考えたが、
鷹野は「そのような名前の警察官など知らない」ときっぱりと否定する。
それどころか、「夜見島での集団失踪など聞いた事がない」と言ってみせた。
集団失踪事件なんてものが起きたのなら、国中大騒ぎになる筈だ。
しかし彼女の記憶の中には、「夜見島」も「神隠し」も存在しない。
さらに彼女は、この地を「ラクーンシティ」ではなく「サイレントヒル」と呼んでいた。
「ラクーン大学」なら研究所で見たらしいのだが、
「ラクーンシティ」という名前を聞いてのは、これが最初らしい。
(どうなっている……何故こうも食い違うんだ……!?)
一度ならまだしも、こうも連続して常識の食い違いが発生するとは。
「異常」としか考えられないケースだ。
「本当に、十年前の失踪事件を知らないのか……?」
「十年前……?『1973年』にそんな事件があったの?」
「1973年」。
それはつまり、今年は「1983年」だと言っているようなものである。
レオンの記憶が確かなら、今年は『1998年』の筈だ。
馬鹿な――これは一体全体どういう事だ。
目の前の女性が嘘をついているようには思えない。
だとするのなら、この女は狂っているのだろうか?
- 217 :噛み合わない「世界」 ◇WYGPiuknm2 代理:2011/07/23(土) 11:27:24.24 ID:KB6YC94T0
-
――――本当に、本当に狂っている?
『ヤミジマ? いや、すまない、聞いたことが無いな』――『そうか……本当にアメリカに来ちまったのか』
『公開は80年だったかな』――『なんだ、言うほど古くないじゃないの』
『全島民が消えたなんて話、聞いたことないぞ』――『夜見島住民消失事件って、日本じゃ結構騒がれたけどさ』
本当にそう言い切ってしまっていいものだろうか?
鷹野が正常で、本当は藤田が、最悪自分自身が狂っていたという可能性も考えられるのでは?
誰が正しい?誰が嘘を吐いている?誰の時間が正確なのだ?
本当にここは『ラクーンシティ』?
本当に今年は『1998年』?
本当に神隠しは『存在しない』?
本当に狂っているのは――『誰』?
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
【状態】健康、自分を呼んだ者に対する強い怒りと憎悪、雛見沢症候群発症?
【装備】拳銃、懐中電灯
【道具】手提げバッグ(中身不明)、プラーガに関する資料、サイレントヒルから来た手紙
【思考】
基本:野望の成就の為に、一刻も早くサイレントヒルから脱出する。手段は選ばない。
0:……この男は何者なの?
1:プラーガの被験体(北条悟史)も探しておく。
2:『あるもの』の効力とは……?
※手提げバッグにはまだ何か入っているようです。
【レオン・S・ケネディ@バイオハザード2】
【状態】打ち身、頭部に擦過傷、混乱
【装備】ブローニングHP(装弾数5/13)、懐中電灯
【道具】コンバットナイフ、ライター、ポリスバッジ、シェリーのペンダント@バイオハザードシリーズ
【思考】
基本:????
0:どういう事だ……?
1:人のいる場所を探して情報を集める。
2:弱者は保護する。
3:ラクーン市警に連絡をとって応援を要請する?
代理投下終了です
- 218 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/28(木) 15:48:28.84 ID:JnhYqv+gO
- ううん、どんどん狂気が蔓延していく
かまいたちの終盤思い出す
- 219 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/29(金) 09:17:42.44 ID:2kj7ShqhO
- それは全滅エンドじゃないかw ここならまあ普通にありそうだが……
- 220 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/29(金) 22:14:24.93 ID:KX6EAM3z0
- 全滅して、町により一層深い霧が立ち込めて幕と!
- 221 :ゲーム好き名無しさん:2011/07/30(土) 19:15:11.97 ID:zGKnxId30
- 本当になりそうで困るw
- 222 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/03(水) 12:22:00.42 ID:8lY69hl2O
- そしてマヨナカテレビに
- 223 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/04(木) 23:31:48.10 ID:fDJ0yeoT0
- ならないんだな
- 224 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/05(金) 19:15:30.13 ID:1zMg3dB9O
- ペ、ペルクマー!?
- 225 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/07(日) 11:25:28.00 ID:eHigk7ny0
- わからんクマ
- 226 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/07(日) 21:03:34.68 ID:V3tnlgFqO
- わからんクマ?
さみしんボーイに拍車がかかってしまうクマ
- 227 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/08(月) 16:36:00.27 ID:yiqxQxQV0
- こういうときこそレッツ・ポジティブ・シンキング〜
目をつぶって、ナイト・オブ・ザ・リビンデッドとかミストのラストを思い出してみるのよ。
- 228 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/08(月) 22:11:01.21 ID:SHHfrdmF0
- >>227
>ナイト・オブ・ザ・リビンデッドとかミストのラスト
ポジ……ティ……ブ……?
- 229 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/09(火) 12:10:34.12 ID:KCK34TznO
- ミストは世界的に見ればまあポジティブと言えるがw
- 230 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/09(火) 12:53:42.64 ID:CJa+yPLHO
- どん底だから、あとははい上がるしかない!=ポジティブ!
つまりジェヴォーダンの獣!
蛇腹剣!
- 231 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/09(火) 21:07:35.82 ID:ZGwo46mv0
- 無いって事?w
- 232 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/09(火) 21:21:54.30 ID:o9bAiq7t0
- 何が?>無い
- 233 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/09(火) 21:26:03.19 ID:ZGwo46mv0
- いや、ジェヴォーダンの獣や蛇腹剣が現実には存在しない事にかけて、希望が無いって言ってるのかと深読みしたw
- 234 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/09(火) 21:40:14.93 ID:o9bAiq7t0
- Hope is a good thing,
maybe the best of things,
and no good thing ever dies.
ですよ。
何かある。何かあるって信じられることが希望なんです。
- 235 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/10(水) 12:17:33.73 ID:2G01rIBQO
- なるほど。しかしミストで、異世界があるよ! 夢広がるね! とはなるまいw
- 236 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/10(水) 19:57:54.85 ID:+g5YQXwUO
- 触手=おおきなタコ焼き作れるね!
蜘蛛=から揚げ!
鳥=フライドチキン!
教祖=ひどいかおなのでころしてやったおいしいです
ケビンならこうポジティブに考えてくれるはず
- 237 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/10(水) 21:48:05.18 ID:Oweu/TY60
- 教祖は異世界じゃねえw
- 238 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/11(木) 06:51:50.41 ID:lWBB64uw0
- 頭の中が異世界だよ!
リアルな鷹野さんってあんな風になりそうだけど!
- 239 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/11(木) 19:40:48.37 ID:4HOuPZ7sO
- そこはクローディアで良いじゃんw
- 240 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/11(木) 22:07:36.43 ID:ppv/ks4JO
- まあ、ジルとか同じシチュだったら速攻で撃ちそうだよね>クロやら鷹野
- 241 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/12(金) 23:13:58.61 ID:vO0GlLDRO
- ジルは……撃つかな? 三沢なら撃ちそうだがw
- 242 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/13(土) 17:31:04.24 ID:MtPYGw6q0
- 三沢はまずファブリーズだろう。目つぶし
- 243 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/13(土) 23:44:06.71 ID:vpqthuJy0
- わりと知ってるキャラいたので読んでみたら徹夜で一気に読み終えた、続き楽しみやでえ。
最近のロワは運営側がわりとでてくるけどそういうのがわからず そこもまたホラーぽいね。
…でもこれ全滅しかみえないww 善側はまとまってなく分解のフラグ見えたり(永井とかケルブとか)
- 244 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/13(土) 23:47:20.67 ID:vpqthuJy0
- age失礼。
- 245 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/14(日) 09:16:39.06 ID:Sr5bvv2fO
- ageなんざ、お気になさらず
全滅しか見えなくても、ヒロイン補正とかそういうので逆転してしまうのもまたホラーの鉄則です
いやまあ、全滅しか見えないけど
善側
ヘザー組(シザー&クロ)
警察署組(永井&ケルブ&ヨーン&Tウィルス)
予定を含む研究所組(Tウィルス&鷹野&八尾)
小暮組(鬼化)
火種しかないですな
安定してんの、水明さんだけ
- 246 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/14(日) 20:37:11.86 ID:zFY50WyYO
- ここは何かしょっちゅうageられてるから大丈夫!w
大体1チームにつき1体のボス格が絡んできてるからなあ。
デイライトがタイラントフラグとか、女王ヒルまで後数時間とか、まだまだボス登場の余地がありまくるw
ただシステム的に最後の一人は優勝になるかもしれんから全滅は無いのかも……
- 247 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/15(月) 20:48:04.11 ID:hCYy0zVg0
- 女王ヒルや闇人は日光で瞬殺できるからなあ
最後の一人を一層深い霧が覆い包み……銃声だけが響いてfinとかになりそうで困る
そもそも、ここのロワのルールって本当に「ルール」なのかね
- 248 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/17(水) 19:57:45.16 ID:ZpucEKfH0
- 日光なんて黒衣+毛皮で完全シャットアウト! ヒルは知らんw
ルールがルールじゃない……深いな。
- 249 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/30(火) 18:44:18.15 ID:jsC3EJqg0
- 代理投下します
- 250 :リセット ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/08/30(火) 18:45:37.67 ID:jsC3EJqg0
- 右手から何かがすり抜ける様な感覚と、立てられた音。八尾比沙子が最初に認識した物はそれだった。
続いて生じたものは、暗闇に閉ざされた視界と止まっている足取りに対する疑問だ。
状態として考えれば何という事はない。単に目を閉じて立ち止まっているというだけの話。
だが、八尾には目を閉じた記憶も無ければ立ち止まった記憶も無い。彼女は今、不入谷教会を出て、屍人達の目を掻い潜りながら刈割方面へと向かっていたはずなのだ。
閉じていた目を、ゆっくりと開いてみる。その瞳にまず映り込んだ物は、通路奥の扉。
――――通路。自然と空に目が向いた。あるのは点滅し、消えかかっている蛍光灯。そう、ここは通路だ。屋外に出ていたはずの自分が、気付けば今は赤黒く染まった通路に居る。
また、例の症状だ。
これまでにも時折あった記憶の途切れ。それがまた起こったらしい。刈割方面へと向かってからの行動。今の自分がしようとしていた事。一切が思い出せない。
記憶障害――――そう言ってしまえば、そうなるのだろう。
この記憶の途切れは、時には何日分にも、何週間分にも及ぶ事もある。その間の彼女自身は、ただ寝ていたり呆けていたりする訳ではなく、普段と変わらぬ行動を取っている様なのだ。記憶には残らずともそれは、
他人の言葉であったり、記録であったり、様々な形で痕跡として残されていた。
自分を制御出来ず、自分の行動に責任を持てない障害。そんな障害を彼女は抱えている。常識的に考えればそれは、重病だ。
だが、彼女がそれ自体に悩まされた事は、一度として無かった。そのせいで不安を感じた事も、困惑した事も、たったの一度だって無い。
記憶が無い間でも彼女は求導女としての役割はこなしていたのだし、自分を取り戻した時に居る場所は必ず羽生蛇村の何処か。それから成すべき事も不思議と理解出来ていて、
迷いなど感じる事も無く次の行動に移れた。
安寧。彼女の心は、いかなる時にも常に安寧に包まれていた。まるで絶対的な存在がいかなる時でも己を支え、導いてくれているかの様に。
だから、記憶が途切れようともどうという事はない。いつもと変わらぬ慈愛に満ちた笑みを浮かべ、己の心に従い成すべき事を成せば良かった。しかし――――。
「ここは……何処……?」
それも、此処に到るまでの話だ。
当たり前のものとして心に在った安寧は今、何故かすっかりと鳴りを潜めてしまっていた。
代わりに胸中を支配している言い知れぬ心地悪さは、例えるならば、母親から手を放され、姿を見失ってしまった幼子が抱くそれに近いだろうか。
つまりは、かたちのない不安と、怯えと。そして、それらの感情が織りなす鮮烈な焦燥だ。聖女の笑みとは程遠い、固く強張った表情が、彼女の心情を雄弁に物語っていた。
八尾は蛍光灯から視線を外し、ぎこちなく、ゆっくりと、辺りを見渡した。
目に入るのは赤黒く汚れた壁と、金網。それらによって仕切られている通路。通路はちょっとしたT字路になっており、八尾はその分岐点に居る。
彼女の左側の壁には扉があり、その横には『EAST AREA』と壁に直接書かれた青い文字。床一面に乱雑に配置されているのは大量のストレッチャーだ。
蛍光灯。壁。金網。扉。文字。ストレッチャー。視線を移す度に記憶を掘り返す。何処を見ても、八尾には見覚えや心当たりは全く無かった。
ストレッチャーから連想出来る施設は病院だが、羽生蛇村にある病院は宮田医院ただ一つ。しかし、宮田医院にはこの様な場所は無い。ここは、
宮田医院ではないのだ。ならば――――ここは何処なのだ。
自分の居場所が把握出来ない。その上、この様な場合、それでも理解していたはずの次に移るべき行動も何も浮かばない。では、自分はどうしたら良い。
額から嫌な汗が滲み出ていた。髪がそれを吸い、強い不快感を伴ってへばりつく。
無意識に八尾は髪を掻き上げようと、髪の隙間に指を絡ませ――――ふと2つの違和感を覚え、手を止めた。
指に触れる物体がある。髪に何かが付着している。何かの塊の様なものと、白い毛の様なものだ。
髪に絡めた指を、ゆっくりと頭から離し、目の高さで止めた。掌に付着しているのは何かの肉片の様な物体。そして、肉片の血脂で汚れた、大量の『白い髪の様なもの』だった。
- 251 :リセット ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/08/30(火) 18:46:19.71 ID:jsC3EJqg0
- 「これは、何なの……!?」
八尾はその『白い髪の様なもの』を取ろうと引っ張った。が、直ぐ様頭皮に痛みが走る。取れるのは肉片だけだ。
何度か繰り返し、漸く理解した。これは、紛れもなく八尾自身の頭髪なのだと。何故か、自分は白髪になってしまっているのだ。
その事実に気付き愕然とする八尾の掌から、肉片がコロリと転がり、落ちた。やや遅れて肉片を目で追った八尾は、
その時初めて己の足元に視線をやり、思わず小さな悲鳴を上げた。
そこにあるのは人間の下半身だった。上半身があったと思われる場所には、大量の肉片と骨片が撒き散らされている。
死体の側に、やはり肉片が多数付着しているワインの瓶が落ちていた。それを見た時――――右手に、1つの感覚が蘇った。
「…………私……これを、持っていた……?」
持っていた、という記憶は無い。だが、右手から何かがすり落ちた感覚と、手を酷使したかの様な疲労は確かに残っている。
そして、瓶の肉片が自身の髪に付着しているものと酷似している事に気付くまで、そう長い時間は要さなかった。
ハッとして、八尾は自身の全身を見回した。肉片は、髪だけではなかった。身体中に付着している。改めて見れば右腕にも。
何故今まで気付かなかったのかが理解出来ぬ程満遍なく、だ。否が応でも、連想出来る事はただ1つ。
「私が、この人を殺した……?」
体温が急激に上昇し、全身が熱くなった。
自分は、一体何をしていた。人を殺した。そんな事をするはずがない。するとは思えない。
だが死体は存在する。瓶も持っていたのも自分の様だ。身体中に肉片も浴びている。
自分が殺したとしか思えない。誰を――誰を殺した。あれは誰だ。何故、どうして殺した。
そもそも自分に一体何が起きた。何故白髪になっている。何故ここに居る。自分は、何処に来てしまったのだ。
自分は、一体何をしていた――――。
疑問が次々と、頭の中に押し寄せる。答えは決して出せはしないのに、ぐるぐると脳裏を駆け巡り続けている。
安寧とはかけ離れたところにある感情――――とても堪え切れない恐怖心が膨れ上がっていた。
たまらず八尾は、踵を返して走り出した。慣れぬ恐怖に耐え切れなかった。
とにかく逃げ出したくて、短い通路を懸命に走る。すぐに袋小路に突き当たるが、そこにも1つの扉があった。
八尾は一瞬足りとも考える事無く、その扉に手をかけた――――。
- 252 :リセット ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/08/30(火) 18:46:53.65 ID:jsC3EJqg0
-
八尾が逃げ込んだその扉の先は、何かのトラブルか辺り一面が凍り付いている低温の部屋だった。
先に進もうと部屋の奥まで入り込んでみたが、そこにはいくつかのコンピューターや機械が並べられているだけで、他の扉や窓は見当たらない。
どこかに逃げるにしても、先の通路を戻らねばならないのだ。あの、おぞましい死体のある通路を。
熱を帯びていた身体と、パニックを起こしかけていた頭が急速に冷やされていく。荒く吐き出される息は白く変わり、寒さを強調しているかの様だった。
「……いつまでもは、居られないわね」
とても長くは留まっていられない部屋と、そして、選択肢が1つしかない状況。
幸運にも、と言えるのだろうか。2つの悪条件は逆に、八尾に幾ばくかの落ち着きを取り戻させる事となった。
体温が徐々に奪われていく。身震いを起こす身体を思わず抱き竦めたくなるが、求道服が死体の肉片だらけだという事を思い出せば、それも躊躇われる。
八尾は適当に氷を掬い上げ、それで身体の肉片を拭い落とし始めた。掌の上の体温で程良く溶け出す氷は、こびりついた肉片を適度に落としてくれる。
白く変わり果てた髪――――何故こんな事になっているのか皆目見当もつかないが――――の汚れも丹念に落とす。
その作業の中、八尾は記憶の確認を試みた。何か覚えている事で役に立つ事があるかもしれないからだ。
最初に思い出せるのは、儀式が失敗し羽生蛇村が赤い海に沈んで異世界化してしまった事。
村の外から来た少年、須田恭也と出会い、屍人達の目を盗んで不入谷教会まで避難した事。
教会まで響いてきた悲鳴を聞き、恭也がその誰かを助けに向かった事。
恭也と入れ違いで教会にやって来た前田夫妻から娘の知子が行方不明という話を聞き、1人で探しに出た事。
そして――――――――いや、そこまでだ。思い出せたのは、前田知子を探しに向かったところまで。それから先の記憶は完全に失われていた。
「あの子達はどうしたのかしら……? 」
恭也は悲鳴の主を助け、教会に避難出来たのだろうか。
知子は屍人達に襲われてはいないだろうか。
2人の子供達の安否を考えると、先とはまた違った種類の焦燥で胸が締め付けられる。
そもそもあの時点で無事であったにしても、あれからどれ程の時間が経過しているのかも分からない今もそうだという保障は何処にもない。
可能性としては、自分と同様にこの建物内、或いは建物付近にいるという推測も成り立つが――――。
「……そうね。探してみましょう。もしも何処かに隠れているなら、助けてあげないと」
目に見える範囲で、手の届く範囲で、肉片は全て拭い落とした。求道服に染み込んだ血や脂までは流石に取れないが、それは諦めるしかない。
当面の目的を決めた八尾の顔付きには、不安は残っているものの、普段の落ち着きもどうにか取り戻されている。
とにかく、恭也達を探す為に建物内を調べてみなくては。
八尾は扉の前に立ち、手を伸ばす。1つ、身震いが出た。それが寒気のせいか、
通路の先にある悍しさのせいかは八尾にも分からないが、怯えがあるのは事実だ。
目を閉じ、大きく呼吸をする。子供達の為に。そう己を奮い立たせて、八尾は扉を開いて通路に出た。
- 253 :リセット ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/08/30(火) 18:47:28.82 ID:jsC3EJqg0
-
自分が立っていた『EAST AREA』と、赤いランプで照らされた扉の先の『WEST AREA』。それを繋ぐ連絡通路。
建物内を歩き回り、幾つかの部屋を調べて分かったのは、この場所はどうやら巨大な研究施設だという事だ。
各部屋の設備、部屋に置かれていたファイルや設備の説明書きを見れば、機械に強くない八尾にもそれは推測出来る。
奇妙なのは、ファイル等に書かれていたのは全てが英語だったにも関わらず、日本語として理解が出来た事。
至極単純な英文くらいならば彼女にも何とか分かるが、それ以上となれば読み解ける教養は無い。ましてやこういった施設で使うような専門用語では尚更だ。
では何故理解が出来たのか。この新たな疑問も、答えは見つかりそうにはない。今は脳裏の片隅に置いておく事としよう。
『WEST AREA』の通路の1つは瓦礫に阻まれて通る事が出来ず、八尾は連絡通路に戻った。
3方向に分岐する3つの通路。通路脇の手すりの向こうは、奈落の底にでも通じていそうな程に深い穴だった。
上を見れば、数十m程先に別のフロアらしきものが見えるが、あそこにはどうやって行けば良いのだろう。3つ目の――――最後の扉から行けるのだろうか。不安と期待の入り混じった感情を胸に、八尾は最後の扉を開いた。
扉の先は今まで同様の細い通路だったが、その少し奥で通路は大きくひらけている様子。それはこれまでのエリアとは僅かとは言え、確かな違いだ。
通路に足を踏み入れ、慎重に進む。奥に行くに連れて見えてくる物があった。それは黄色い色をした、車よりも大きな乗り物の様な物体だ。
「これは……電車?」
これまでに羽生蛇村から出た事の無い八尾はテレビの映像以外では電車というものを見た事は無い。そんな乏しい知識だが、この巨大な物体が何であるかといえば電車である様に思えた。
恐る恐る近付いて行き、『電車』を見上げる。電車というものは線路の上を移動する乗り物のはずだが、周りにはそんなものはない。ならば何故こんな所に電車が置かれているのだろうか。
――――と、何かが視界の端で動いた。見上げる視界の、更に上だ。
八尾は誘われる様に顔を真上に向けた。そこには天井も無く、連絡通路同様に吹き抜けになっている。
その吹き抜けの遥か上方に、微かな光が揺れていた。まるで人が持つ懐中電灯の明かりのような光だった。
だが、それに気付いた八尾が何かしらの反応を示すよりも早く、光は消えてしまった。慌てて八尾は空に向かい、声を上げた。
「誰か、いるんですかーー?」
光までは、少なく見積もっても50〜60mはあっただろう。
声が届くかどうかは難しいところだろうが、それでも人が居るのかもしれないのであれば一縷の望みに賭けるしかなかった。
しかし、声をかけてから数秒が過ぎ、数十秒が過ぎ、数分が過ぎても、光が再び現れる事は無かった。あの光が本当に人が発したものだったのか。八尾に、確かめる術は無い。
暫くの間、八尾は吹き抜けを見上げていた。
この吹き抜けの先に、人は居たのだろうか。
この吹き抜けは、何処に通じているのだろうか――――――――。
- 254 :リセット ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/08/30(火) 18:50:14.99 ID:jsC3EJqg0
- 【Dー3/研究所地下4階・ターンテーブル付近/一日目夜】
【八尾比沙子@SIREN】
[状態]:半不死身、健康、人格が変わったことによる混乱
[装備]:無し
[道具]:ルールのチラシ、サイレンサー
[思考・状況]
基本行動方針:須田恭也と前田知子の捜索。
0:誰もいなかったの?
1:須田恭也と前田知子がいるならば、探して保護する。
2:建物(研究所地下)の調査、及び脱出。
※主人格での基本行動方針は「神が提示した『殺し合い』という『試練』を乗り越える」です
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ラクーン大学正門をくぐった先の広場に並べられている、巨大な八角を形作る鉄柵。中には、同じく巨大な八角形の穴がぽっかりと開いていた。
落ちぬ様に細心の注意を払いながら上半身を乗り出し、レオンは穴の中心に向けて懐中電灯の光を差し込んだ。照らし出せたものは、何もない。
穴の側面に光を移せばいくつかのランプの玉がそれを反射して煌めきはしたが、他には特に気になるものはない。とりあえず分かったのは、穴は面積だけでなく深さも相当なものだという事だけだ。
「どうしたの? 校舎はこっちよ?」
「ああ、ちょっと気になっただけだ。ミヨ。地下に行くリフトみたいだが、こっちは調べないのか?」
「勿論必要とあらば調べるわ。でもまずはこっちから、ね」
「……了解」
レオンが身体を引き戻した時、マスク・オブ・ゾロやバットマンに憧れでもしているのか全身に黒を纏う女――――鷹野三四は、くすくすと笑いながら既に校舎へと歩を進めていた。
ただでさえ暗く、視界が効きにくい中の黒ずくめ。暗闇に溶け込んで見失ってしまいそうな錯覚を覚え、慌ててレオンは三四の背を照らし、足を速めた。
先の情報交換では混乱しながらもこれまでの経緯を話し合ってみたが、それで得られたものは何もなかったに等しい。
三四の持つ情報も、自分の情報も、互いにとっては疑わしさしか感じられぬ荒唐無稽な話だった。
三四の話がレオンのものと同様に現実離れしていた事は、レオンの心に多少なりともゆとりを持たせてくれたが、だからと言って何かの参考になるわけではない。
だったら、街を調べてみましょう。そう三四は言った。三四とレオン。食い違いしか見せない2人の話で唯一共通する事が、どちらも見知らぬ場所に迷い込んだという点だ。
結局の所この場所がラクーンシティなのか違うのか、それすら未だにはっきりとしないのだ。とりあえず現在位置を解き明かせるのならレオンにも異論はない。
ラクーン大学。
ヴィクトリー湖の南に位置していたと記憶にはあるが、冷静に思い返せば少なくともそれは湖畔にはなかったはず。であるにも関わらず、先程の大学は湖の目と鼻の先に存在している。
辻褄の合わない地形にあるこの大学を調べる事で、分かるだろうか。
狂っているのは、何なのか。
自分なのか。
三四なのか。
それとも――――――――この街なのか。
- 255 :リセット ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/08/30(火) 18:51:01.20 ID:jsC3EJqg0
- 【Dー3/ラクーン大学・正門広場/一日目夜】
【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康、自分を呼んだ者に対する強い怒りと憎悪、雛見沢症候群発症?
[装備]:拳銃、懐中電灯
[道具]:手提げバッグ(中身不明)、プラーガに関する資料、サイレントヒルから来た手紙
[思考・状況]
基本行動方針:野望の成就の為に、一刻も早くサイレントヒルから脱出する。手段は選ばない。
0:これで調査も出来るわね。
1:プラーガの被験体(北条悟史)も探しておく。
2:『あるもの』の効力とは……?
※手提げバッグにはまだ何か入っているようです。
※鷹野がレオンに伝えた情報がどの程度のものなのかは後続の書き手さんに一任します。
【レオン・S・ケネディ@バイオハザード2】
[状態]:打ち身、頭部に擦過傷、混乱
[装備]:ブローニングHP(装弾数5/13)、懐中電灯
[道具]:コンバットナイフ、ライター、ポリスバッジ、シェリーのペンダント@バイオハザードシリーズ
[思考・状況]
基本行動方針:????
1:とりあえずラクーン大学を調査する。
2:人のいる場所を探して情報を集める。
3:弱者は保護する。
4:ラクーン市警に連絡をとって応援を要請する?
※ラクーン大学の地下にバイオ2後半に登場したアンブレラの研究所が存在します。
ただし、ラクーン大学の本来の地下施設が存在しないとは限らず、
アンブレラ研究所と大学地下施設が隣接するような形で存在している可能性も有り得ます。
具体的にどうなっているのかは後続の書き手さんに一任します。
※アンブレラの研究所にはターンテーブルから行く事が出来ます。
原作ではターンテーブルの操作はターンテーブルのみから可能ですが、
このロワ本編内でどうであるか(地上から操作出来るかどうか)は後続の書き手さんに一任します。
「ところで、ミヨはマスク・オブ・ゾロは知ってるか?」
「マスク・オブ・ゾロ? アラン・ドロンのゾロの事?」
「アラン…………いや、じゃあバットマンは?」
「……昔やってた怪鳥人間バットマン? 見たことはないけど。それがどうかしたのかしら?」
「……いいや……何でもない」
- 256 :ゲーム好き名無しさん:2011/08/30(火) 18:51:27.22 ID:jsC3EJqg0
- 代理投下終わりです
- 257 :ゲーム好き名無しさん:2011/09/15(木) 08:22:45.41 ID:COZqQRvh0
- 今期の月報データです。
話数 生存者(前期比) 生存率(前期比)
101話(+3) 32/50(-0) 64.0(- 0.0)
- 258 :ゲーム好き名無しさん:2011/09/27(火) 22:56:59.07 ID:HfzUwKDh0
- 代理投下します
- 259 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 22:57:58.61 ID:HfzUwKDh0
- 【理】
--------------------------------------------------------------------------------
◆◆
六◆
◆
◆
◆
◇
ぼくが取るべき行動は―――――――――
ピッ ⇒ 近くの施設を探索することだ
この場で何か使えそうなもの探すことだ
--------------------------------------------------------------------------------
「とりあえず、この近辺の施設を探索してみましょう」
「施設の探索……日野達の捜索、という事でありますか?」
「それも目的の1つではありますが……そうですね、その説明の前にまずは現状をまとめます」
棚は崩れ、商品は乱雑に散らばり、荒れ放題に荒れている雑貨屋内のカウンター周り。
ぼくは顎に当てていた手を下ろし、ぼくの言葉を待つ3人の顔を見回した。
「えーと……まとめるだなんて言いましたが、正直な所ぼくには今何が起こっているのかは分かりません。
ただ、日本に居たはずの小暮さん、霧絵さん、梨花ちゃんとアメリカに来ていたぼくがこうしてここで出会っている。
常識で考えれば有り得ない事ですが、これは紛れもなく現実です。
何が起こっているのかは分かりませんが、確実に何かが起きてしまっている。それは認めなくてはいけません」
「何かが……ですか……」
「ええ。想像も出来ない程の大掛かりな仕掛けを用いた人為的なものなのか。或いは人知の及ばない怪現象なのか。
それも今はまだ何とも言えませんが、その何かはこの街にぼく達を集めて殺し合いを扇動、強要しています。
同じ街中とは言え、別々の場所にいたはずの全員が――ぼくを除きますが――
それぞれが誰かに襲われ危険な目に合っている事から、これも確かでしょう」
「むむむ……どちらにしてもやはり俄かには信じられませんが……」
小暮さんは青ざめた顔でそう言った。『怪現象』の方を具体的に想像してしまったようだ。
ぼくが思うに小暮さんの怖がりの原因の1つにはその豊富な想像力があるのだが、だからと言って想像するなと言うのも無理な注文だろう。
- 260 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 22:58:32.79 ID:HfzUwKDh0
- 「梨花ちゃん。あのルールと名簿の用紙を貸してくれるかい?」
「はいなのです」
「ありがとう。――――これが、この街のルールだそうです」
梨花ちゃんから2枚の用紙を受け取り、カウンターに置いた。
霧絵さんにも見易いようにと用紙の角度に気を使う小暮さんだったが、やがてあんぐりと口を開けて固まった。
「こんな、ものが……」
「霧絵さんの……いえ、日野という男が話した内容と一致はします。
そこから推測するに、おそらく街中に似たようなものがばらまかれているはず。
……だとしたら街に人の気配がない事も頷けます。
おそらく真っ当な住民は皆、街のどこか安全な場所に避難しているか、こんな事態になる前に逃げ出したかしたのでしょう」
「あの……私も先程それと同じ物を……」
霧絵さんは袖口に手を差し込むと、2枚の用紙を取り出して置かれていた名簿の横に並べる。
紙質は違うが、一枚は梨花ちゃんの持っていた名簿と同じ内容の物。
もう一枚は、どうやらこの街の地図のようだ。
さっきの住宅でぼくが見たものとは随分地形が違っている様に見えるが、
警察署までの道程以外はあまり良く確認していないしはっきりと覚えてはいないから、それは気のせいかもしれない。
「やはり、街中にばらまかれているようですね……。
ちなみに、この中には霧絵さんの知り合いの方の名前はありますか?」
霧絵さんはほんの少し眉を潜めると、おそらく、と前置きしてから2つの名前を口にした。
その2人が本当に知り合いのものなのかは霧絵さんにも分からないらしいが、
『深紅』という名の女性と、その名前の妹を持つ男性には心当たりがあると言うのだ。
『雛咲真冬』と『雛咲深紅』。ぼくもこの名前は覚えておこう。
「しかし……先輩。本当に殺し合いなどが行われているのでしょうか?
これが何かのいたずらという事も考えられるのでは?」
「いたずらにしてはいくら何でも大掛かりすぎますよ。
まあ確かにこの名簿やルールを作った人物の意図は読めないんですからその可能性が0だと断定は出来ません。
ですが、現時点ではこれがいたずらかどうか。作った人物の意図はあまり問題じゃない。
問題なのは、ルールを信じて行動している者達が多数存在するという事です」
それは日野や老人だけの話ではない。警察署でも大規模な戦闘が行われていたのだ。
その事実を伝えると、小暮さんはもはや言葉もなくしたようだった。
「警察署まで……!?」
「ええ。それだけじゃありません。梨花ちゃんによると、その……人が怪物のように変貌する事もあるそうです」
「か……怪物!?」
小暮さんは、梨花ちゃんに大きく見開いた目を向ける。まるで梨花ちゃんを怪物だと思っているかのような目を。
梨花ちゃんはたじろぎながらも頷くが、そんな顔付きで見られてはたまったものではないだろう。
- 261 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 22:58:58.15 ID:HfzUwKDh0
- 「小暮さんはコックリさん事件を覚えていますか?」
「は……。私立花峯高校で起きた連続殺人事件ですな。勿論であります!
先輩と出会うきっかけとなった事件を自分が忘れるはずありません!」
「では、あの事件の犯人の事も覚えていますね?」
「や……はぁ……」
小暮さんの誇らしげにピンと張られた胸は、力ない相槌と共に急速に萎んでいった。
流石に忘れてはいないようだ。いや、あの時の犯人を忘れられるはずがない。
華奢な細腕で、しかも片手で男性を吊り上げていたあの女子高生の異様な姿と光景は、未だに目に焼き付いていて離れない。
「梨花ちゃんはここで、あの時の神山由香のように変貌した人物に襲われたらしいんです。それも…………」
「……仲良しの刑事さんになのです。赤坂は怪物になってボクを殺そうとしたのですよ」
ぼくが少し言い淀むと、梨花ちゃんは淡々とした様子で言葉を引き継いだ。
感情のこもらないその声は、むしろ心の痛みを堪えているようで逆に痛々しい。
失敗した。梨花ちゃんの負の感情に触れるような事は避けなくてはならないというのに。
鬼化の事もあるが、こんな小さな子の傷口を抉るような真似は、ぼくはしたくない。
「ですが……こんな小さな子が、あんな怪……い、いやいや、あのような凶暴な者からよく無事に逃げてこれましたな」
「いえ、神山由香の話はあくまでも例えです。
ぼくが言いたいのは……この街にいる人間は、それが誰だとしても正気を失って襲いかかってくる危険性があるという事です。
……考えたくはありませんが、兄さんや人見さんだって例外じゃないと覚悟しておいた方が良いでしょうね」
「先輩! いくらなんでもそれは――――」
驚きを隠そうともせずに声を上げる小暮さんの言葉を遮り、ぼくは言った。
「いえ、小暮さん。その心構えは必要なんです。
梨花ちゃんを襲ったのは、梨花ちゃんが信頼していた警察官です。
誘拐された子供を救い出す為に命をかけた事もある強い人間で、とても子供を殺そうとするような人じゃない。
そんな人なのに……そんな人がここでは変貌して梨花ちゃんに襲いかかってきた。
なら、兄さん達がおかしくならないという保障はどこにもありません。
兄さん達だけじゃない。ぼく達にだっていつ赤坂さんと同じような事が起きるか……」
無論、この意見には『梨花ちゃんの言葉を全て信用すれば』という前提がある。
赤坂さんが本当に信頼できた人なのか。そもそもあれは赤坂さんなのか。
ぼくには証明は出来ないし、突っ込まれたら反論しようがない。
だけどぼくは本当の姿を見せてくれた梨花ちゃんを信用すると約束したんだ。
だから梨花ちゃんの言葉は疑わずに、それを考慮した上で方針を組み立てなくてはならない。
それが、どんなに辛い推論に基づいた方針でも。
「うーむ……正直信じたくはありませんが……。
ですが先輩がそう仰るのでしたら、自分もそれに従うであります」
顔を顰めて唸りながらも、小暮さんはそう言ってくれた。
こんな時、無条件でぼくを信じてくれる小暮さんの存在はとてもありがたい。
そんな小暮さんに、ぼくはどれ程助けられてきただろう。
- 262 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 22:59:19.05 ID:HfzUwKDh0
- 「……ありがとうございます、小暮さん」
「い、いやいや! とんでもないであります! 上司に従うのは部下の当然の勤めであります故」
素直にお礼を言うと、小暮さんは赤面して恐縮する。
その様子を大層気に入ったようで、梨花ちゃんが小暮さんをからかい始めた。
「小暮がまっかっかのタコさんなのです。ホントに風海のことが好きなのですね。
これがBLというやつなのです。にぱー」
BL? と小暮さんもぼくもついでに霧絵さんも、聞き慣れない言葉をオウム返しに呟いた。
梨花ちゃんはなんでもないのです、とにこにこ笑っているだけで意味を教えてはくれない。
決していい意味ではなさそうな予感はするが、まあ置いといて話を先に進める事にしよう。
「少し逸れましたね……話を戻します。
この街は、日野の様に殺し合いのルールに乗る者。赤坂さんの様に凶暴化してしまう者。
……それから、霧絵さんの言う悪霊……ですよね?」
目を向けると、霧絵さんは控えめながらもしっかりと頷いた。
彼女の話は半信半疑ではあるが、話の流れとしてまるっきり無視するわけにはいかない。
「そういった、人に危害を加える者が徘徊する無法地帯と化しています。
それも治安機関が全く機能しなくなる程の規模で、です。
小暮さん。そんな中でぼく達だけで全ての危険人物に対処出来るでしょうか?」
「それは……現実的には不可能でしょうな」
「ぼくもそう思います。出来れば日野達を拘束したいとは思いますが、
たった数人を拘束しただけでは焼け石に水でしょう。ですから――――」
一旦言葉を切る。
この方針で正しいのか、最後の確認だ。
……うん、問題はないはずだ。というよりも、今ぼくに出来る事は他にはない。
「ここには危険人物以外にも霧絵さんや梨花ちゃんのようにまともな人だっていました。
きっと他にも多くいるはずです。ぼく達はそういった人達を保護する事を第一に考えましょう」
「なるほど。つまり施設の探索というのは、一般の方を捜索する為でありますな?」
「それもですし、当面立て篭れそうな場所の確保の為でもあります。
保護した人達全員を連れて歩くわけにはいきませんからね。まずは拠点を構えないと」
この殺し合いに巻き込まれた人を救助する為にぼくに出来るのは、それくらいしかないだろう。
無論、今思いつくだけでも問題点を上げればキリはないし、現段階でその問題の全てに有効な対策があるわけじゃない。
だけど、街の治安機関に頼れない以上は自分達で何とかするしかないんだ。
「人を集めたら、その後はどうにか外部に連――――」
そして、ぼくが次の説明を始めようとした丁度その時だった。
何の前触れもなく、ぼくの後方から大きな音が鳴り響いたのは。
- 263 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 22:59:43.59 ID:HfzUwKDh0
-
【緊】
ボーン
「うわっ!?」
不意に響いた音に、ぼくは思わず悲鳴を上げて立ち上がった。
ボーン。ボーン。と、続けて立てられる音に、この場の全員の視線が惹き付けられる。
音の正体は――――。
「……なんだ。ただの振り子時計か」
崩れて倒れている棚の列の向こうに、骨董品と言っても差し支えない様な古びた振り子時計があった。
小さな子供くらいなら中に隠れられそうな大きさだ。鳴ったのはその振り子時計だったのだ。
みっともなく驚いてしまった事を思い返し、恥ずかしさで顔が熱を帯びていく。
……それにしても、あんなところにあんなに大きな振り子時計なんてあったかな?
どうして今まで気付かなかったんだろう……?
「先輩……。あんなところに時計なんて……ありましたでしょうか……?」
全く同じ疑問に行き当たっていたらしい。小暮さんのその声は、震えていた。
ぼくは慌てて振り返った。
小暮さんもまた立ち上がっていた。その顔は、この暗がりでもはっきり分かる程に青ざめている。
「もしかして……嫌な予感してますか?」
「………………押忍」
小暮さんが嫌な予感を感じる時。それは決まってろくな事がない。
振り子時計が9回目の音を鳴らして沈黙した。
直後、小暮さんの表情が恐怖で歪み、ひきつった声を上げた。振り子時計の方で気配が生じる。
何だ!? 何かがいるのか!?
振り子時計に向き直したぼくの目が捉えたのは、青白く光る何かが壁に消えていく瞬間だった。
今のは、一体?
「……あの子……」
光の正体が何なのか。ぼくがそれについて熟考するよりも早く、霧絵さんが呟いた。
あの子? あの子って……何の事だ。今の光の事なのか?
- 264 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:00:23.45 ID:HfzUwKDh0
- 「霧絵さん、今のが何か分かるんですか!?」
「あれが怨霊にございます! 風海さま、小暮さま、お下がり下さいませ!」
カウンター周りの狭い空間で、霧絵さんはぼく達の前に出た。
袖口から1本の縄を取り出すと、それはまるで生物の様な、縄にしては不自然な動きを見せる。
今のが怨霊……。霧絵さんはあの縄の呪いというやつで戦うつもりなのだろうか。
「いいいいい、いけません氷室さん。その縄は…………」
「いいえ小暮さま、ご安心を。これは呪いではございませぬ。これは、私の――――」
霧絵さんの言葉が中途半端に途切れ、強ばっているその顔がせわしなくあちこちに向けられる。
突然、青白い光が壁を突き抜けて来た。それは青白く発光しているが、確かに男の子の形姿をしている。
そいつは無邪気に笑いながら、乱雑に散らかっている障害物をまるで意に介さずにすり抜けてくる。
狙いは――――カウンター内にいる梨花ちゃんだ。
霧絵さんの縄が振るわれる。棚やカウンターが縄に打たれて弾け飛び、残骸混じりの埃がぼく達に降りかかった。
しかし、その縄は青白い光自体には命中していない。
当然と言えば当然だ。相手は障害物をすり抜けてくるが、
霧絵さんの縄は歴とした物質で、何かをすり抜けられるわけじゃない。
数ある障害物に阻まれれば、軌道が変わってしまうのもやむを得ない。
「危ない!」
そいつは真っ直ぐに梨花ちゃんに走り込んでくる。
梨花ちゃんは咄嗟にカウンターに飛び上がり、怨霊を回避した。意外と高い身体能力に、ぼくは小さく驚いた。
梨花ちゃんに躱されたそいつは、そのまま壁に向かって消えていった。
これが、この街に解き放たれたという怨霊か。
さっきは材料不足で判断し切れなかった霧絵さんの話だが、目の当たりにした今となっては認めざるを得ない。
はやくぅ みつけてよぉ
どこからか、奇妙な声が響いてきた。今の怨霊がしゃべっているのだろうか。
その声からは、いわゆる怨霊のイメージとして一般的にある恨みつらみと言った感情は感じられない。
どちらかと言えばそれは、ただただ無邪気なものだった。
「見つけて……? 遊んでいる、つもりなのか?」
「あれは鬼遊びの最中に命を落とした童の霊。
風海さまの仰る通り、まだ友達と遊んでいるつもりなのでしょう」
「霧絵さん、あれに触れられるとどうなるんです?」
「怨霊にも様々な物があります故、一括りには申せませんが、
どうあれ命に関わる事になるのは相違ないかと……」
「……そうですか」
「……ボクはそんな遊び、部活でもごめんこうむるのですよ」
遊んでいるつもりならばそう警戒しなくても済むかもしれないと思ったが、甘かったか。
こうなれば選択肢は2つ。霧絵さんに退治してもらうか、逃げるかだ。
- 265 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:00:47.75 ID:HfzUwKDh0
- 「とにかく、みんな壁から離れて! あいつは壁を突き抜けてくる。
壁越しに不意をつかれれば避けようがありません。出来るだけ中央に移動しましょう!
小暮さん……小暮さんっ!」
「は、はははははいぃ!」
声を裏返らせ、固まっていた小暮さんが再起動する。
「商品棚を少しどかしましょう! 手伝って下さい!」
「お、押忍!」
ぼく達は2人がかりで部屋の中心付近に崩れている棚を動かしにかかった。
出来るだけ中央にスペースを作れば、怨霊を躱すにしても霧絵さんが攻撃するにしても都合がいい。そう思ったからだ。
だが、それも少し甘かった。商品が殆ど床に散らばっているとは言え、棚自体それだけでもそれなりの重量があるのだ。
どうにかそれを起こし上げた時、棚の向こうの壁から、再び青白い光が現れた。
今度は今ぼく達が起こし上げて支えている棚の中を全速力で走ってくる。
怨霊、とは言え子供の足だ。実際にはそれ程早くはないはずなのだが、こいつは何かにぶつかる事を一切気にしないで走り回る。
それ故にか、異常に素早く感じられるのだ。
ぼく達は思わず棚から手を離し、左右に倒れこんだ。
ほぼ同時に怨霊は棚から飛び出し、ぼく達の横を走り抜けた。狙いはまたも梨花ちゃんだった。
支えを失った棚が重力に引きずられてゆっくりと倒れ、耳障りな音を上げて地面を揺らす中、
梨花ちゃんがカウンターの上から出入り口の扉に向かって飛び降りる姿が見えた。
またも突進を躱された怨霊が、やはり壁に消えるのを見て、ぼくは梨花ちゃんに向かって叫んだ。
「梨花ちゃん、外に逃げて!」
怨霊がカウンター側の壁に消えた直後の今なら、少なくとも出入り口の扉方向から襲われる事はないはずだ。
逃げ出すなら今がチャンスのはず。
梨花ちゃんは頷き、木製の扉を開いて外に飛び出した。
続いて霧絵さんが外に出ようとするが、一歩目を踏み出した瞬間霧絵さんの身体がバランスを崩す。
そうだ。霧絵さんは足の指に怪我をしていたんだった。
「だ、大丈夫でありますか!?」
すぐに小暮さんが駆け寄った。
さっきと同じ様にその広い背中に霧絵さんを乗せ、扉から出ようとする。
小暮さんがドアノブに手をかけた刹那――――外から声が響いた。
「何で……私ばっかり追いかけてくるのよ!」
口調こそ素に戻っているが、あれは梨花ちゃんの声だ。襲われているのか!?
どうしてあの怨霊はああも梨花ちゃんに固執するんだ!?
……もしかして友達と間違えている? 友達と遊んでいるつもりで梨花ちゃんを追い掛け回しているのか?
- 266 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:07:04.49 ID:HfzUwKDh0
- 慌てて小暮さんはノブを回し、ぶち破るかの様な勢いで扉を開いた。
その後ろから外の様子を窺おうとするが、駄目だ。小暮さんの身体でよく見えない。
ぼくは外に出て、小暮さんの前に回り込んだ。梨花ちゃんの姿は、そこにはいない。
どこだ? どこに行った?
「先輩! あ、あそこ!」
小暮さんが指さした方向に目を向けると、青白い光が遠ざかっていくのが見えた。
暗くて梨花ちゃんの姿は見えないが、あれが梨花ちゃんを追いかけている事は容易に想像がつく。
こうしてはいられない。梨花ちゃんを助けに行かないと!
「小暮さん、行きましょう!」
「い、いや、しかし……」
先行して走り出すぼくだったが、後に続いてこない小暮さんの気配に疑問を抱き振り返る。
小暮さんは困ったような顔をぼくに向けていた。
……そうか、小暮さんは霧絵さんを背負っているんだ。
いくら小暮さんでも人1人を背負っていては、あれに追いつく事は出来ないだろう。
「いえ、小暮さんは霧絵さんを連れて後から来て下さい。ぼくは先に行って梨花ちゃんを保護します」
「……了解であります! 先輩、お気をつけて!」
こう言えば霧絵さんも変に気を使う事はないだろう。
ぼくは青白い光を見据え、走り出した。
異常に暗い街並みの中で光っているのは、あの怨霊だけ。
一体どの位距離に開きがあるのか。どうにも距離感が掴めず、分かりにくい。
しかし、所詮は子供並みの足だ。
狭い雑貨屋の中では素早く感じたが、外に出てしまえばぼくの方が速いとの自負がある。
光は徐々に大きくなってくる。無邪気な笑い声も再び聞こえ始めた。
梨花ちゃんの姿はまだ見えないが、確実に追いつきつつある。
よし、もう少しで、追いつける。そう思った時――――前方で一筋の閃光が、あの怨霊に向かって走った。
続け様に発生した爆音がぼくの耳を襲う。そして、怨霊の青白い光が爆散するように散り散りになって消滅した。
こ、今度は何が起きたんだ?
一瞬だけ暗闇を切り裂いた閃光の中には、2人の人間のシルエットが見えた気がした。
1つは梨花ちゃんのものだったように思うが、ではもう1人は誰なんだ?
男性の様に見えたが…………梨花ちゃんを助けてくれたのだろうか?
とにかく、向かわなくてはならない。
ぼくは気付かない内に止めてしまっていた足を、再び動かした。
梨花ちゃんと、誰かの元へと。
- 267 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:07:35.04 ID:HfzUwKDh0
- 【潜】
ある程度まで近づけば、その人物は警察官の制服を着ている事が確認出来た。
警察官……そうだ。あの暴動のせいで組織としての警察機構の助けは期待出来ないとは言え、
この街にだって警察官はいるはずなんだ。多少なりとも力にはなってくれるだろう。
ほっとして、そのまま駆け寄ろうとしていたぼくの足は――――
「動かないで!」
その警察官が無慈悲に向けたごつい銃口により制された。
シルエットから何となく男性だと思っていたが、発せられたのは女の声だ。
止まろうとする意思に反して前のめりになる身体。バランスを崩して足がもつれた。
悪寒混じりの緊張が背筋を支配する。
こっちの警察官は制止の声に従わない場合射殺も躊躇わないと聞いた事がある。
いくら何でも今程度の事で撃たないとは思いたいが、もしもあんなもので撃たれたら一溜まりもない。
「ま、待って下さい。ぼくは怪しい者では――――」
「風海を撃っちゃだめなのです!」
梨花ちゃんが銃口の前に出てぼくを庇うように両手を広げると、
その警察官は慌てた様子で銃口を外し、空に向けた。
梨花ちゃんとぼくに、彼女の視線が交互に向けられる。
しばしの逡巡の後、警察官はようやく銃らしきものを持つ右手を下ろした。
ぼくの口から、緊張を含んだ息が抜けていった。
「カザミ……って言った? あなた、カザミ・ジュンヤ?」
「えっ……? はい。そうですが……」
警察官の声に、ぼくは違和感を覚えた。
彼女がぼくの名前を知っている事は、彼女も名簿を見たのだと考えられる。それはいい。
それよりも彼女の言葉。彼女が話しているのは英語のはずだ。そうだ。今の制止もそうだった。
それなのにぼくは彼女の言っている事が理解出来る。英会話は得意ではないのに。
思い返せばさっきの住宅で郵便物の確認をした時もそうだ。ぼくは何故かスムーズに英語を読めていた。
前にいる警察官も同様に、ぼくの日本語をちゃんと理解しているようだ。これは一体……。
しかし彼女の次の一言で、ぼくのそんな違和感は吹っ飛ぶ事となった。
「こんなに早く会えるなんてね。キリサキが心配していたわよ」
- 268 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:08:01.83 ID:HfzUwKDh0
-
「それにしても、今日はジャパニーズに縁のある日ね」
一通りの話が終わると、彼女はぼく達4人の顔を見回しながら、化粧っ気はないが綺麗に整っている口端の左側を吊り上げた。
シビル・ベネット。ぼく達が新たに出会ったこの人物は、このサイレントヒルの隣町で勤務する警察官だと名乗った。
シビルさんは過去に幾度かこの街に足を踏み入れた事があるらしいのだが、
とある用件で南に向かおうとしたところ、この付近の地形が異様に変化している事に気付き、白バイを降りて少し調査をしていたらしい。
その際に梨花ちゃんの声を聞き、駆けつけたというわけだ。
シビルさんが兄さんの名前を知っていた事や地元の人間だという事。
ぼくは期待を込めていくつかの質問をしてみたが、答えはその期待以上のものだった。
現在のこの街に関しては、結局彼女もまた街に取り込まれ殺し合いを強要されているだけの人間の1人に過ぎず、やはり確かな事は何1つ分からないのであるが、
それでも、過去にこの街で何が起きたのかについて。
今この街で起きている現象を引き起こした可能性のある人物について。
そしてぼく達と同じく街に取り込まれていた兄さんの居場所と行き先について。
それらの話を聞けたのはとても大きな収穫だ。
「これからシビルさんはどうするんですか?」
「私はこのまま南に行くわ。まだ用件は済ませてないから」
シビルさんはそう言って白バイに腰を預けると、腕を組んだ。
その動作はとても様になっていて格好良く、何となく人見さんを連想させた。
別に2人が似ているわけではないんだけど。
「あなた達はどうするの?」
「もちろん霧崎先生を保護しに向かうであります! ですよね、先輩?」
シビルさんの問いに間髪入れずに小暮さんが答え、ぼくに同意を求めた。
確かに兄さんの行方が判明した事はぼくも素直に喜べる。
小暮さんもまるで自分の事の様に嬉しそうに話すけど――――でも、ぼくの答えはその反対だ。
「いえ、小暮さん。兄さんのところには……行きません」
「せ、先輩!?」
予想通り、小暮さんは信じられないといった顔をぼくに向けた。
気持ちはよく分かる。ぼくだって兄さんは心配だし、出来る事なら助けに向かいたい。
こんな得体の知れない街に身内が取り込まれているだなんて、不安でたまらない。
でも、だからこそ、ぼくが兄さんを助けに行くわけにはいかないんだ。
- 269 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:08:47.94 ID:HfzUwKDh0
- 「……小暮さん。今は大勢の人が命の危険に晒されていて救助を待っている緊迫した状況です。
そんな状況で、ぼく達警察官が身内の救出を優先しても良いものでしょうか?」
うっ、と小暮さんは言葉を詰まらせた。
そう、危険なのは兄さんだけじゃない。不安なのはぼくだけじゃないんだ。
梨花ちゃんも、霧絵さんも、シビルさんも、身近な人間や知り合いが街に取り込まれている。
ぼくには警察官として、あくまでも身内じゃない一般人から救助する義務がある。
この街の状況をある程度とはいえ把握した今となっては、例え兄さんや人見さんの居場所が特定出来たとしても、
他の人の救助を放り出して2人の元に駆けつけるわけには…………いかないんだ。
「ですが……それで良いのでありますか?」
「仕方ありません。兄さんだってぼくに会ったらきっと同じ事を言うと思います。
……いえ、兄さんなら逆にぼくを助けに来ようとするかもしれませんが」
ちょっとした冗談も交えるが効果はあまり無いようで、小暮さんの顔は曇りっぱなしだった。
小暮さんは、身内として2人の身を案じるぼくの心中を察しつつ、警察官としてのぼくの立場も理解してくれている。
それ故に、ぼくの意見に対する反論も出来なければ、下手に賛同も出来ないようだ。
どうにも暗い雰囲気が漂い始める。
何かを言わなくてはとは思うのだが、今のぼくが何を言っても痛々しいだけなのかもしれない。
さっき赤坂さんの話をした梨花ちゃんの気持ちが、少しだけ分かった気がした。
「どっちにしても私には関係ないわね」
「……え?」
「キリサキは私の身内じゃない。だから私がキリサキを保護する分には何の問題もない。
キリサキ達のところには私が戻るわ。それなら文句ないでしょう?」
その暗い雰囲気を、シビルさんが真っ向から打ち破る発言をしてくれた。
確かにそれならば文句はない。いや、こちらから頼み込みたいくらいだ。これ程ありがたい事はない。
- 270 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:09:23.87 ID:HfzUwKDh0
- 「シビルさん……もしよろしければ、是非お願いします」
「まあ用を済ませてからにはなるけど、出来るだけ早く戻るつもりよ。
……大丈夫、キリサキならそう簡単には死んだりしないわ」
シビルさんは白バイにまたがり、エンジンを起動させた。
彼女にも向かわねばならない場所があるというのに、随分時間を取らせてしまった。
これ以上は引き止められないが、これだけは言っておかねば。
「兄の事……どうかよろしくお願いします」
ぼくはシビルさんに深く頭を下げた。「であります」と小暮さんが敬礼する気配を後ろに感じる。
顔を上げた時、シビルさんは唖然としたような顔を見せていた。そしてぼくと目が合うと、その表情は苦笑に変わった。
あれ、おかしいな。変な事はしてないつもりなんだけど。アメリカの人にはお辞儀は奇妙に映るんだったかな?
「そんなセリフは、もっと違うシチュエーションで聞いてみたいものね」
……そっちか。よくよく考えてみれば確かにそういう言葉にも聞こえる。
勿論そんなつもりで言ったんじゃないけど。
「あなた達もキシイ・ミカと……イツシマ・チサトに会ったらよろしくね」
そう言い残し、シビルさんは白バイを発進させた。
こちらを振り返らずに、一度だけ片手を上げてぼく達に挨拶をくれる。
その姿は間もなく闇に消えていく。エンジン音も徐々に小さくなっていく。
ほんの少しの名残惜しさを胸に抱きつつも、ぼくはみんなを振り返った。
その時――――ぼくの視界の中に入ったのは、みんなの後方に見えたのは、青白い光。
胸中の名残惜しさは途端、焦燥にすり替わり、思わず息を呑んだ。
青白い光は、みんなの後ろで子供の形を取ろうと蠢いている。シビルさんが退治したはずの、さっきの怨霊だ。
何故だ!? 消滅したんじゃなかったのか!?
まずい――――ぼくはみんなに知らせる為に、声を上げようとした。
しかし、それよりも早く――――
- 271 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:10:03.86 ID:HfzUwKDh0
-
ヒュンっと風を切り裂き、怨霊を一瞬で縛り付けたのは霧絵さんの縄だった。
そして響く断末魔の叫び声。少年の怨霊は、まるで絞めつける縄と一体化するかのように消えていく。
捕らえてしまえばこんなにあっさりと……。これが……これが霧絵さんの裂き縄の力なのか。
「あ、あの……ありがとうございます。助かりました」
「め、面目ないであります……」
「……小暮さん?」
「氷室さんに汚れ仕事をさせないなどと偉そうに語っておきながら結局お手を汚させてしまいました……。
小暮宗一郎、一生の不覚であります……」
「いいえ、小暮さま。風海さま。謝罪も礼も不要にございます。
先程は言いそびれましたが、彼等の封印は私の使命。これは私がやり遂げねばならぬ事なのです……」
霧絵さんは震える小暮さんの背中の上で、縄を自分の袖の中に戻していく。
「これで今の怨霊はその縄に封印された……そういう事なんですね?」
「風海さまが仰る通りです。もうあの子がさ迷いでる事もないでしょう」
「……その縄以外では退治出来ないという事なんでしょうか?」
「厳密に申し上げるならば、他の手段もございます。
されど、何にせよ刀や鉄砲が通用しない相手である事には相違ないはずなのですが……」
そうなのか。だけど、それでもシビルさんの武器でも効果があったのは確かだ。
専用の道具でなくとも、封印までは出来ないにしても一時凌ぎ程度には使えるという事だろうか。
そして、専用の道具……。ふと、ぼくは兄さんからもらったカメラの事を思い出した。
兄さんはあのカメラで霊を封じ込める事が出来ると言っていたけど、もしかして他の手段の1つではあるのかもしれない。
霧絵さんはあのカメラについて何か知っているだろうか。
そう思い霧絵さんにカメラを見せてみたのだが、彼女もカメラについては詳しい事は知らないようだった。
ただ、このカメラにはやはり怨霊を封印する力があるらしく、霧絵さんも封印されかけた事があるとの話だ。
……ん? ……封印されかけた事がある? ……ま、まあその辺りの話はあまり深く聞かない方が良いのかもしれない。
とにかく、このカメラがあればさっきの子供の怨霊みたいなものがこの先出てきても対抗出来るんだ。
「せ、先輩! そのカメラは自分に使わせて頂けないでしょうか?」
何て事を言い出すんだ小暮さんは。
小暮さんが霧絵さんを守ると約束した話は聞いている。
多分小暮さんには、霧絵さんがいくら使命と言ったからといって怨霊と戦わせたくないという気持ちがあるのだろう。
だけど、だからといって小暮さんが幽霊に対抗するのは天地がひっくり返っても無理な話だ。
小暮さんでは怨霊が見えた瞬間に身体を硬直させてしまうに決まっているのだから。
- 272 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/27(火) 23:10:37.74 ID:HfzUwKDh0
- 「いや、小暮さんは霧絵さんを背負っているんですから、いざという時にこのカメラを使えないでしょう?
これはぼくが使います。それならもし怨霊と遭遇しても霧絵さんとぼくとで対処出来ますし。
小暮さんは霧絵さんのサポートに尽力して下さい」
極力傷つけないように申し出を断ると、小暮さんは複雑そうな表情で引き下がる。
すると今度は梨花ちゃんがびっくりするような事を言い出した。
「霧絵。その縄はもう一本ありませんですか? ボクもその縄を使ってみたいのです」
「ごめんなさい。この縄は縄の巫女しか扱えない特別な物なの」
「みぃ……。がっかりなのです。
ボクもそれで悪い猫さんを懲らしめたかったのですよ。グルグル縛ってニャーニャーなのです」
悪い猫さんが何を指しているのか分からないが、この子の場合はどこまで本気なのかも分からない。
……さて、そろそろぼく達も動かなければ。時間はいくらあっても足りないのだから。
「それじゃあ、良いですか? ぼく達も行動に移りましょう。とりあえずは――――」
シビルさんから兄さんの考察を聞いて、ぼく達の選択肢は広がった。
ぼくがさっき考えたように、街に取り込まれた人々を救出する選択。
兄さんの推察に従い、街の謎を解き明かし事態を終息させる為に行動するという選択。
もし後者を選ぶなら、やはりシビルさんから聞いた「アレッサ・ギレスピーと関わりがある施設」の探索に向かう事が事態解明の近道になるだろうか。
となると――――ぼくは霧絵さんから地図を借りる。
それらの施設でここから近いのは……「灯台」か「学校」となる。さて――――。
--------------------------------------------------------------------------------
◆◆
六◆
◆
◆
◆
◇
どうするべきだろうか?―――――――――
⇒ 街の調査だ
救助活動だ
◆ 誰かの意見を聞いてみようか
--------------------------------------------------------------------------------
- 273 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/28(水) 00:01:56.65 ID:eMHpnmA20
- 【C-3/バー西側のT字路/一日目夜中】
【風海 純也@流行り神】
[状態]:健康、梨花の鬼化に対する警戒心
[装備]:拳銃@現実世界
[道具]:御札@現実、防弾ジャケット@ひぐらしのなく頃に、防刃ジャケット@ひぐらしのなく頃に
射影器@零〜zero〜、自分のバッグ(小)(中に何が入っているかはわかりません)
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り多くの人を救出して街を脱出する。
0:どうするべきだろうか?
1:出来る限り多くの人を救出して街を脱出する。
2:水明、人見の救出よりも一般人の救出を優先する。
2:日野という男と老人を警戒。
※シビルから過去にサイレントヒルで起きた出来事と霧崎水明の考察等を聞きました。
【古手 梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(小)、L3-、鷹野への殺意、自分をこの世界に連れてきた「誰か」に対する強烈な怒り
[装備]:山狗のナイフ@ひぐらしのなく頃に、山狗の暗視スコープ@ひぐらしのなく頃に
[道具]:懐中電灯、山狗死体処理班のバッグ(中身確認済み)、名簿
[思考・状況]
基本行動方針:この異界から脱出し、記憶を『次の世界』へ引き継ぐ。
0:あの縄があれば鷹野をグルグルニャーなのに……
1:自分をこの世界に連れてきた「誰か」は絶対に許さない。
2:風海は信用してみる。
3:日野という男と老人を警戒。
※皆殺し編直後より参戦。
※シビルから過去にサイレントヒルで起きた出来事と霧崎水明の考察等を聞きました。
【小暮宗一郎@流行り神】
[状態]:やや腹がこなれてきた
[装備]:二十二年式村田連発銃(志村晃の猟銃)[6/8]@SIREN、氷室霧絵@零〜zero〜
[道具]:潰れた唐揚げ弁当大盛り(@流行り神シリーズ)、ビニール紐@現実世界(全て同じコンビニの袋に入ってます)
[思考・状況]
基本行動方針:一般市民の保護。凶悪犯がいれば可能な限り逮捕する。
0:出来る事ならあのカメラを使いたいけど使いたくない
1:一般市民の捜索と保護。
2:日野と老人を逮捕する。
3:犬童警部への言い訳。
※シビルから過去にサイレントヒルで起きた出来事と霧崎水明の考察等を聞きました。
- 274 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/28(水) 00:02:26.45 ID:eMHpnmA20
- 【氷室霧絵@零〜zero〜】
[状態]:使命感、足の爪に損傷(歩行に支障あり)、疲労(中)、小暮に背負われている
[装備]:白衣、提灯@現実
[道具]:童話の切れ端@オリジナル、裂き縄@零〜zero〜、名簿、地図
[思考・状況]
基本行動方針:雛咲真冬を捜しつつ、縄の巫女の使命を全うする。裂き縄の呪いは使わない。
0:基本的には風海と小暮に従う。
1:小暮達と共に人を捜し、霊及び日野の危険性を伝える。
2:真冬の情報を集める。
3:黄泉の門の封印を完ぺきにする方法を捜す。
※真冬の名前を知りました
※シビルから過去にサイレントヒルで起きた出来事と霧崎水明の考察等を聞きました。
【C-3/南西部/一日目夜中】
【シビル・ベネット@サイレントヒル】
[状態]:精神疲労(中〜大)、肉体疲労(小)
[装備]:グレネードランチャーHP LV4(炸裂弾5/6)@バイオハザードアンブレラクロニクルズ、白バイ
[道具]:旅行者用バッグ(武器、食料他不明)、SIG P226(3/15)、スタンレー・コールマンの手紙と人形
白バイのサイドボックス(炸裂弾:13、アグラオフォテス弾@オリジナル:23、他不明)
[思考・状況]
基本行動方針:要救助者及び行方不明者の捜索
0:スタンレーの手紙に書かれている「ヘザー」に会いに行く
1:その後キリサキ、ユカリと合流する
2:前回の原因である病院に行く
※風海達と情報を共有しました。
※白バイのサイドボックスに道具が入っているようです。
サイドボックスの容量が普通だとは限りません。
- 275 :Phantom ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/09/28(水) 00:02:48.11 ID:eMHpnmA20
- 代理投下終了です
- 276 :ゲーム好き名無しさん:2011/09/28(水) 23:01:59.98 ID:7PoJt6jl0
- 代理投下乙でした!
- 277 :ゲーム好き名無しさん:2011/09/30(金) 02:08:14.31 ID:2sPZ646R0
- 島田習次巡査部長もキャラに入れて欲しかったなぁ
もちろん人間としてね
- 278 :ゲーム好き名無しさん:2011/09/30(金) 18:48:49.60 ID:YdeeHkxa0
- そこは石田じゃいかんのか?w
NTは推そうとする人いなかったみたいだなあ。
まあサイレンのリメイクだし推しにくかったのだろうが。
- 279 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/01(土) 20:04:51.76 ID:gMe2VD4x0
- 石田はなんか頼りなさそうだけど、嶋田は子供を助けるために自ら危険な場所へ飛び込んだってエピソードもあって、藤田と同じ匂いがする。
彼をプレイヤーとして操作できればなぁ・・・
- 280 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/02(日) 14:02:42.98 ID:dJtK/NWK0
- すると嶋田屍人ポジには石田を出せばいいなw
嶋田VS石田はちょっと見たいw
- 281 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/05(水) 23:20:06.57 ID:aNlUjjpd0
- 代理投下します。
- 282 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:22:38.06 ID:aNlUjjpd0
- 下世話な香りと騒々しい音楽。
それこそがこのモール内に漂っているべきものだった。
――――このモールが通常通り営業していれば。
朝日の差し込むモールはその広大な敷地を支配していた闇を徐々に取り払い、明かりに照らし出された専門店の数々は何処か無機質で、かつて存在していた人間の営みを思い出させる。
その闇を消し去る朝日を嫌悪するかのように、黒い布とビニールに覆われた場所がモール内に点在していた。
太陽は必要ない。
もう、「人間」は此処に存在しないのだ。
「光」を嫌う者達が此処を支配していれば尚更。
かつて流れていた騒々しい音楽は呻き声と銃声に、漂っていた下世話な香りは血と硝煙の匂いに。
その変貌こそ此処に"人間"が存在しない証拠であり、また"人間"でない者達が存在している証拠でもあった。
不規則な短機関銃の銃声が響き、周囲の動く屍、ゾンビを撃ち抜いていく。どこか嬉々とした様子で短機関銃を乱射する男の顔には生気が全く無く、市松人形のように真っ白だ。
かつて人間だった彼らは生前の記憶を僅かに留めているものの、暴れ狂う殺人者―――闇人と化していた。彼らは死体から産み出され、死体の有る限り無限に増殖する。
その点においては、彼らもゾンビと同じなのかもしれない。違うのは知能を持つか持たないかという点のみ。そうなれば「持たざる者」であるゾンビが「持つ者」である闇人に駆逐されるのは自然な流れだった。
そして、もう一人。
モール2階のバルコニーで戦闘を行う彼は「持つ者」か、「持たざる者」か。
- 283 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:23:18.33 ID:aNlUjjpd0
-
慣れた手付きで振り下ろされた鉄パイプが鎌を手にした男の顔面を砕く。
顔を押さえて苦しむ男の足を払い、バルコニーの手すりに寄りかかった所を突き飛ばしてバルコニーから階下へと投げ落とした。
後ろから集団で襲い掛かってきた闇霊を横殴りにして倒す。
その隙に肉を喰らおうと横から近づいてきたゾンビの腹部をパイプで貫く。ゾンビを床に叩きつけようとパイプを振り上げた瞬間、銃声と共にゾンビの頭部が吹き飛んだ。
「大丈夫か?」
迷彩服姿の男が構えていた銃を下ろしてゆっくりと近づき、串刺しになったゾンビを一瞥しながら冗談めいた口調で言った。
「ふむ....どうやら助けるまでも無かったようだな」
死体を踏みつけて鉄パイプから外し、配管工――――デビットは悪態をつきながら答える。
「....軍が今頃何の用だ。当局は"完全隔離"したんじゃないのか。」
ラクーンで発生した未曾有のバイオハザード。
その渦中にいたデビットはゾンビの発生という非常識な出来事に対し、持ち前の戦闘能力と鋭い感を発揮して生き延びてきたものの、合衆国政府はラクーンシティの隔離を決定、頼みの綱であったラクーン市警も壊滅。ほとんど生きる望みは残されていなかった。
隔離が決定された以上、市内の生存者は見殺しにするということだ。
軍隊が投入されたのであれば、目的は"救助"ではなく"殲滅"だろう。
目の前の男が自分を手助けした理由は分からないが、味方であるとは限らない。細心の注意を払いながら男の答えを待つ。
そんなデビットの鋭い目付きに睨まれた目の前の男は言いにくそうに口を開いた。
「あー...残念だけど俺達はあんたらを助けに派遣された訳じゃない。それに、俺達は軍隊じゃない。自衛隊だよ。あんた、この辺りの人?」
- 284 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:23:44.93 ID:aNlUjjpd0
-
ジエータイ....確か日本の軍隊だったような気がする。
なぜジエータイがラクーンに?いや、ここがラクーンでないことは確かだ。
ラクーンシティにこんな趣味の悪いショッピングモールは無い。
ここは何処なのか。
そもそもなぜ自分はここに居るのか。
今まで意識的に考えようとしなかった疑問の数々が頭に溢れる。
ジエータイの男が疑問の答えを提供してくれる事を願い、質問する。
「いや、こんな寂れたモールは知らん。それより、なぜジエータイがここに?ここは何処なんだ?」
男は暫く考え、一気に話し出した。
「そっちの状況も似たようなものか。いや、俺達も詳しい状況は分からなくてな。現地の人間なら何か知ってると思ったんだが....」
デビットが答えようとした時、数発の銃声と呻き声が響く。
「....移動した方がいいな」
どちらともなく言った。
とりあえず手近な店の一つであったパン屋に入り情報を交換する。
あの動く死体、ゾンビとラクーンでの地獄。
バーでゾンビと遭遇し、命からがら逃げ延びたこと。避難先の警察署が壊滅したこと。
半ばヤケクソで逃げ込んだ研究所。
その地下で化け物に襲われたこと。
――――――そして、そこで化け物に殴り殺されたこと。
その後、気が付いたらここにいたこと。
なぜ自分は生きているのか。あの地下水路で死んだのではなかったか。
多くの疑問を押し殺し、ただ襲ってくる化け物と闘っていた。
この目の前の男が何か知っているとは思わなかったが、何か知っているかもしれないという希望を持っていた事も事実だった。
たが男は本当に何も知らないらしく、ただ目を閉じて自分が語る地獄の様子を聞いていた。
- 285 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:24:11.27 ID:aNlUjjpd0
- 全てを聞き終わった男は口を開き、
「あんたもか」
とだけ言った。
それが何を意味しているのか、デビットにははっきりと分かった。
男は、自分はジエータイの一佐(軍隊でいう大佐の事らしい)で、物資の輸送中に乗っていたヘリが不慮の事故に遭い数人の部下と共に死亡....したはずだと告げた。
彼もまた、なぜここに居るのかは分からないようだった。
そもそもなぜ日本人の彼と言葉が通じるのかも疑問の一つだったが、これ以上余計な謎を増やすのはやめておこう。無駄なことだ。
「.....」
一通り情報交換が終わったところで、デビットはおもむろに腰掛けていたカウンターから立ち上がり、出口のドアに手を掛けた。
「何処へ行く気だ」
男か釘を刺すような口調で訪ねる。
「.....情報交換が終わった以上、一緒に行動する理由は無いはずだが?」
元より団体行動を苦手とする自分が他人と行動するのは無理がある。
あの地獄でもそれは変わらなかったのだから、今更行動方針を変えるつもりは無い。
「"また"死ぬぞ」
「......」
少しの間続いた沈黙を破り、男は銃を肩に担いで立ち上がった。
- 286 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:24:40.78 ID:aNlUjjpd0
- 「....何のつもりだ」
「なぁに、外国人といえど民間人を守るのが自衛隊の役目よ。それに、せっかく会った人間だしな。も少し仲良く行こうや。」
笑みを浮かべながら男は手を差し出す。
「悪いな、自己紹介を忘れてた。陸上自衛隊、一藤二孝一等陸佐だ。」
「....デビット。デビット・キング、配管工だ。」
「よし、宜しく頼むぞデビット。....ところで、これからどうするか、だが....出ていこうとしたんだ、策は有るよな?まさかここに残って探索を続ける、なんて言わねぇよな?」
「駄目なのか?」
「馬鹿、ここはもう安全じゃない。あの化け物達がうろついてるんだ、逃げた方が良い。.....それに、あんたは知らないだろうが俺の部下――――5、6人はいたか――――も全滅してる。」
聞けば、一藤は一人でここに来た訳では無く、彼と共に数人の部下――――もちろん死んだはずの――――も居たという。彼らは全員あの化け物達に襲われて"もう一度"殺されたと。
今更ながら、只の民間人である自分が生き残ったのは幸運だったと思い直した。重い空気を消し去ろうと、一藤がわざと明るい口調で言った。
「さて、脱出に関して異論は無いな?問題はどうやって脱出するか、だが....あんたの趣味の悪い武器じゃ頼りねぇな」
一藤がデビットの手元の鉄パイプを銃でつつきながら言う。そのパイプは本来の用途である配管や建材には凡そ似つかわしくない色―――――綺麗に光り輝く「金色」であった。....所々血で汚れてはいるが。
「.....フン、これも謎の一つといったところだ。」
自嘲気味にそう答えると、一藤が自分の腰から拳銃を抜いて差し出した。
「扱い方は解るな?装弾数は9発。無駄撃ちするなよ。」
頷きながらデビットは拳銃を受け取り、腰のベルトに差し込んだ。
「趣味の悪い武器」も一応持っていた方が良いだろう。
「準備出来たか?」
「ああ。」
「よし、行くぞ。周囲には気を配れ。俺だっていつも守ってやれるとは限らんからな。....っと、いかん。大事なことを言い忘れてた。デビット、あんたも死んだんだよな。」
「それがどうした。」
「あんたも超能力者になれるかもしれんぞ?」
「あんた"も"?」
「ああ、俺も死んだ後に使えるようになったからな。いわゆる千里眼、て奴さ。」
- 287 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:25:09.70 ID:aNlUjjpd0
- 「千里眼?あの別の所の出来事が解るって超能力か?」
「俺だって信じてなかったがな。ま、口で言うよりやってみた方が速いだろ。まず目を瞑ってだな....」
一藤の指示通り目を瞑って意識を集中させる。意識を一藤の方向に向けると、視界を覆っていたノイズが一気に晴れて自分の顔が浮かび上がった。
「なんだこれは....」
「それが千里眼だな。どうやら近くにいる奴の視界を奪いとれる仕組みらしい。なかなか使えるだろう?」
「まぁ、な.....」
「よし、それなら手始めにこの辺に化け物共がいないか探してくれ。やり方はさっきと同じだ。頼んだぞ。もし反応したら言ってくれ。俺がやる。突然襲いかかられたら弾丸をぶちこんでやれ。いいな?」
「...ああ。」
いつでも撃てるよう腰の拳銃を抜き、再び意識を集中させる。
しばらくノイズが続き、ふいに視界が明るくなる。
が、視界が曇っていて何も見えない。視界の持ち主が異様な声を上げているのが聞こえる。恐らくゾンビだろう。
何度か試してみるが、浮かんだ視界はどれも曇っているか、真っ黒で見えなかった。
「まともな視界の持ち主はいない様だな。」
「そうか、奴等日が昇ってきたから隠れたんだな.....今のうちにさっさと脱出するぞ」
一藤が慎重にドアを開け、パン屋から出る。
その背中を追ってしばらく歩き、バルコニーの手すりに身を隠す。
「デビット、あんたによると、敵に銃を使えそうな奴はいなかったんだよな。」
「ああ、目が見えなきゃ銃は使えんだろう。」
「なるべく銃は使わない方が良さそうだな。」
「何故だ?」
「奴等、視覚が使えないのに正確に俺達の居場所を嗅ぎ付けてる。つまり他の感覚....恐らく嗅覚か聴覚が発達してるものとみていい。銃声を聞きつけて別の所から奴等が集まってきたら目もあてられん。」
話しながら手元の小銃に銃剣を装着する一藤を横目で見て、そうかと頷く。
拳銃をしまい、鉄パイプを取り出す。
「見つからないように階段まで向かうぞ。」
無言で頷き、鉄パイプを手に階段へと向かう。その途中、自分が先程迄疑っていた相手に完全に頼りきっていることに気付き、ひとり呟いた。
「俺も甘くなったな.....」
ふと、ラクーンで出会った生存者を思い出す。
「あいつら....生き残ってるのか?」
自分の様に無様に死んでいない事を祈ったデビットには、その内の数人がここにいるとは到底予想できなかった。
- 288 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:25:34.60 ID:aNlUjjpd0
-
俺は嘘をついている。
否、正確には「伝えるべき情報を伝えていない」。
自衛官が民間人に情報を伝えない場合、最も多いケースが「軍事機密」。
それは敵にばれてしまうと大事になる作戦内容であったり、反対に民間人にばれてしまうと士気を下げかねない情報――――作戦の失敗や部隊の全滅等々。
俺がデビットに伝えていない2つの情報の内、1つがそれにあたる。
それはごく単純な内容ではあるものの、この状況では目の前の不敵な男を混乱させかねない情報。
――――簡潔に言うと、「自分達は一度死んだ。そして生き返ってなどいない」。
自分達が一度死んだ事については「民間人」デビットも重々承知している。問題はその後。
彼は自分が生き返ったと思っている。生き返ったなどという非現実的な事実をあっさりと受け入れるほど彼もおめでたくはないはずだが、状況が状況だけに信じ込んでしまっていても不思議では無い。
だが、それは大きな間違いで、生き返ってなどいない。むしろ、死んだ方がましであったとさえ思える状況に自分達は置かれている。いや、これもある種の"生き返り"か。
- 289 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:28:16.50 ID:aNlUjjpd0
- 自分が生き返ったのでは無いと気づいたのはかなり前。
ヘリの墜落から少し後の事だった。俺が生き残った数人の部下と共に墜落地点の周囲を警戒していた時、突然攻撃を受けた。
他の地点にいた部下も既に倒され、俺も銃撃された。意識を失う前、俺が見たのは二人の部下――――永井と三沢。俺の頭をぶち抜いたのは間違いなく永井頼人だった。
仮にも一佐である俺だ、部下の性格くらい把握している。あの二人は仲間に攻撃を仕掛ける様な男ではない。何故?
答えるまでも無い。俺がここにいること自体が答えなのだ。頭をぶち抜かれた俺がここにいること自体が。即ち、俺は人間でなくなったのだ。不死身の化け物。ここにいる動く死体や部下の成れの果てである殺戮者と変わらない。
恐らく永井や三沢には俺達があの化け物共と同じに見えたに違いない。
事実そうなのだ。
――――その事実を伝えるのは、あまりに衝撃が大き過ぎる。だからデビットには未だ伝えていない。
――――そしてもう1つ。こちらは特に隠す理由も無いが、公私混同の関係上、一応隠してある。つまり恥ずかしかったのだ。
俺の恋人、鍋島揉子の事。
頭をぶち抜かれた後、俺はもう一度"生き返り"、彼女と出会った。部下に人間として認められず、柄にも無く落ち込んでいた俺を慰めてくれたのだ。聞けば、彼女もいきなり何者かに襲われてこの様な姿になったのだと言う。
落ち込んでいる俺に彼女は「私だって望んでいなかったけど、こうなってしまった以上仕方が無いのよ。それより、この姿でも楽しむ努力をしましょうよ。」と言った。事実、彼女は俺に"この姿でも楽しむ努力"をさせてくれた。
......話が逸れたが、問題は彼女が行方不明になっているという事だ。ひょっとすると行方不明になっているのは俺の方かもしれない。
なら、すぐにこの場から脱出したい所だが、俺は自衛官である。この場にはデビットのような民間人がまだいるかも知れない。それを見捨てて自分だけ脱出等と出来るはずが無い。
例え化け物であり、死体であったとしてもこの襟章を付けている限りは自衛官としての責任を果たす義務がある。
彼女が気にならないと言えば嘘になるが、恋愛と職務が一致しないのは世の常。むしろ自衛官として責任を果たさなければ彼女に会わせる顔が無い。
自分自身をそう叱責し、俺は出口に向かって慎重に移動する。
自衛官の責任を果たす為に。
「この姿でも楽しむ努力」をする為に。
彼らは「屍人」。ゾンビの様な数も無ければ、闇人の様な高度な知能も無い。そんな彼らは、この場では最も「持たざる者」かも知れない。
「持たざる者」達は出口を探して歩き始めた。
彼らは駆逐される側か、する側か。
今はまだ分からない。
【E-2/ショッピングモール二階階段付近/二日目早朝】
※ショッピングモール内の闇人はどこかに隠れているようです。
※ショッピングモール内の屍人はほぼ全滅しました。時間経過で復活、闇人化します。
- 290 :Exodus ◇czaE8Nntlw氏代理:2011/10/05(水) 23:28:51.53 ID:aNlUjjpd0
- 【一藤二孝@SIREN2】
[状態]健康、屍人化、強い決意
[装備]89式小銃着剣仕様(27/30)、L型懐中電灯(電池切れ)
[道具]89式小銃用弾倉×2、陸上自衛官身分証明書
基本行動方針:自衛官として責任を果たす。
1:モールから脱出し、民間人を保護する。
2:部下の捜索。
3:「鍋島揉子」の捜索。
※懐中電灯の電池が切れています。
※「鍋島揉子」がサイレントヒルに来ているかどうかは不明です。
※会場が夜見島でないことに気付いているようです。
※自身が化け物となっている事に気づいています。が、デビットには伝えていません。
【デビット・キング@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]健康、屍人化
[装備]金のパイプ@サイレントヒル3
[道具]9ミリ拳銃(9/9)、ライター、バッテリー、工具入れ(折り畳みナイフ、スパナ×11、ビニールテープ×8、ジャンクパーツ×3、工具一式)
基本行動方針:サイレントヒルからの脱出
1:とりあえずは「一藤二孝」と行動。
2:モールから脱出する。
※「金のパイプ」と何かを組み合わせられるかもしれません。
※工具一式を所持している為、特定の物を修理出来るかもしれません。また、特定箇所の扉や通路を開ける事ができるかもしれません。
※「ジャンクパーツ」を所持している為、壊れた武器を修理できます。また、「バッテリー」と組み合わせる事で「時限爆弾」を作成できます。
※会場がラクーンシティでないことに気付いているようです。
- 291 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/06(木) 00:00:09.12 ID:Wm+LCj790
- 代理投下終了です。
- 292 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/10(月) 13:24:23.62 ID:RZ3Peudl0
- こう見るとデビットは人間として出ても面白かったかもな
- 293 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 00:43:19.47 ID:lfdhhmKt0
- 代理投下します
- 294 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:44:10.80 ID:lfdhhmKt0
- 舞い落ちる粉塵が、辺り一面でパラパラと細かな音を立てていた。
開いた天井から流れ込む空気は、粉塵を駐車場一帯に押し広げる。
埃混じりの風に包まれて反射的に顔を庇う須田恭也を尻目に、三沢岳明は埃に目を細めつつも、その粉塵の中心でアスファルトに手をつき、身体を起こそうとする男の姿を凝視していた。
見慣れた迷彩服の中から特徴的な赤いシャツを覗かせているその男は、遠目から見ても重傷――――いや、致命傷だ。それは一目で分かる。
何故ならば、男の首は起き上がろうとする身体とは対照的に、あらぬ方向にだらりと垂れ下がっているのだから。
完全にへし折れている首。人間ならば命を落としていて当然の外傷。男はそんな状態で立ち上がろうとしていた。
へし折れている首が徐々に持ち上がり、正常な位置に戻ろうとしている。傷だらけの肉体が有り得ない速度で再生を果たしている。
加えて、両目から流れる赤い涙。夜見島で嫌という程見てきた同胞達の成れの果てや、先程の不釣合いな2人組と同じ赤い涙。
三沢の捜索すべき部下――――永井頼人は、既に化物の仲間入りを果たしていた。
「永井」
ゆっくりと歩を進め、呼びかける。永井の身体が動きを止めた。
明後日の方向を向く首を、永井は震わせつつも三沢に向けようとする。
赤い涙を溢れさせている眼球が、三沢の無感情な眼光と交錯した。
『み……さわ……。み、さわ…………』
重度の頚椎骨折。神経が断裂し、声など出せるはずもない。それでも、永井は掠れた呟きを漏らした。
ただ反射のみで言葉を吐き出しているような、知性のなど微塵も感じられない呟き。これもやはり、夜見島で命を落とした同胞達と同じだ。
「お前もそっち側、行っちゃったか」
『……また……みさ、わ……。また…………ひひっ。みさわぁ…………!』
フェイスペイントの施された顔が、奇怪な笑い声と共に不気味に歪んだ。
不安定な足腰で、震える身体で、永井頼人は立ち上がる。
笑い顔が更に歪んだ。いや、最早永井は笑ってなどはいない。その表情はいつの間にか、明確な憤怒と殺意で歪んでいた。
『みぃさぁァァワぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァあぁァ………………!!!』
吹き込む風にすらかき消されそうな程に惨めな、それでいながら、気迫の十二分に乗せられた咆哮を上げ、永井は背中に襷掛けにしていた89自動小銃2丁に手をかけた。
しかし、永井に与えられた猶予はそこまで。自動小銃にかけた手は、それを引き抜く事は許されなかった。
治り切らぬ身体ではその動作はあまりにも遅すぎたし、何よりも三沢は、躊躇わなかった。
三沢の右手に持つマグナムが、1度だけ火を噴いた。血飛沫が舞い、部下だった男の顔面と、その背後の車のフロントガラスが弾け飛ぶ。
化物と言えども、復活を繰り返すと言えども、弱点は頭だ。夜見島でも、この警察署でもそうだった。
永井の身体は床に崩れ落ち――――そして小さく喉を鳴らして『蹲った』。
駆逐してきた同胞達とはまた別種の反応であり、三沢も少なからず驚嘆を覚えたが、どうあれしばらくの間は行動不能だ。
「頭に弾丸ぶち込んでも、お前はもう目覚めないし、終われないんだな」
そして、もう二度と眠りにもつけない。眠らせてやる事も出来ない。
化物で在り続けるしか残された道のない憐れな部下を前に、三沢はほんの僅かに眉根を寄せた。
しかし、それ以上は決して表情を崩さない。
これは実戦だ。実戦で感情を顕にしたところでメリットは何もない。ただ己の生存率が下がるだけだ。感傷に浸る余裕などは、無い。
- 295 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:44:48.52 ID:lfdhhmKt0
- 「……どう、なってるんですか……その人、頭なくなってるんですけど……」
背後にいた恭也が、おずおずと言葉をかけてきた。
三沢は永井から目を離す事なく、返答を返す。
「ああ。部下だった奴だが、こうなってしまえばやむを得ない。気にする必要はない」
「いや、気にするなって……生きてますよね、それ……?」
「……そうか。君はそこまでは知らなかったか。
私が見てきた奴らとは少し違うがな、こいつらはな、何度死んでも蘇るんだ。
さっきの警官達や脳みその奴ともまた違う化物だと覚えていてくれればそれで良い」
「違う化物……それは何となく分かりますけど」
「そんな事より、こいつの装備を解除する。手伝ってくれ。
こいつはどうせまた襲ってくる。その前に武器だけは奪っておかないとな」
「は、はい!」
幸い武装の解除は、それ程には手間取らなかった。
永井は生きているとは言え抵抗らしい抵抗は何もしなかったからだ。
恭也が永井の傷口をまともに見て狼狽えてしまった為に多少のもたつきはあったものの、だんご虫の様に蹲ろうとする永井の腕を2人で抑えつけ、背負っていた迷彩色のザックと2丁の89自動小銃をどうにか回収する。
ついでに三沢は永井の迷彩服の上だけを剥ぎ取った。
この迷彩服は防弾効果のあるプレート入りだ。確認したところ、三沢の物と同様にプレートは前面にしか入れられていないが、装着すれば銃弾から身を護れる率は高くなる。
「着てみるか?」
所々破れ、血液の付着している迷彩服を、三沢は恭也に手渡すが、恭也は重さに顔を顰め、少し迷った後にそれを返した。
前面だけのプレートとは言え重量は約6kg程。機動力が低下するのは避けられない。
ここには銃器を使用してくる化物だけでなく、先程の警察官の様な奴らも存在する。
慣れない物を装着させる事が裏目に出る可能性は充分にある為、恭也に無理に着せようとは三沢も考えていない。
結局その迷彩服と、永井のザックに入っていた弾薬は、三沢の持つサイドパックの中にしまい込んだ。
「……こいつの所持する武器はこれで全部か。
これは君が持て。背負う分には多少重くても問題ないだろ」
9mm機関拳銃とその弾倉を残したザックは恭也に背負わせる。
一通りの作業を終えると、三沢は立ち上がり、永井が落下してきた天井の穴に目を向けた。
今の作業の最中、天井の穴を通じて何者かの叫ぶような声が響いてきていた。
声は、これまで出会ってきた化物共の様な奇声ではない。はっきりとは聞き取れなかったが、真っ当な人間の言葉だった。おそらくは男女二人の声。永井に負傷を負わせた人間のものだろうか。
そうだとすれば、出来る事なら一刻も早く接触したいところではあったが、
この永井がいずれまた起き上がる事を考えれば装備だけは解除しなくてはならなかった為、作業を中断する訳にはいかなかったのだ。
- 296 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:45:20.84 ID:lfdhhmKt0
- 「……よし、一旦外に――――」
三沢の言葉を、地上からの音が遮った。今度は単なる叫び声ではない。銃声だ。
2人の顔に緊張が走る。外の人間は未だ化物と交戦しているらしい。或いは新たな化物に襲われたのか。
「行くぞ」
「あ、ちょっと待って下さい」
「……何だ?」
「外に出るならあっちからの方が早いんじゃないですか?
そっちからだとさっきのゾンビみたいな奴らもまだいるかもしれないし……」
三沢が向かおうとしていた廊下への扉と正反対の方向を、恭也は指さしていた。
その方向には、駐車場から直接外に出られるスロープが確かにあった。それは三沢も確認している。
そして、あの化物と化した警官達が他にもいるかもしれないという恭也の推測も否定は出来ない。だが――――。
「格子状のシャッターが降りていただろう? おそらく開閉は遠隔操作だ。ここからは開けられない」
「でも、さっき見つけたんですけど、これなら――――」
そう言って恭也が1台の車から引っ張り出した1つの工具。
それは、フロアジャッキだった。
「下の方の隙間に挿し込めば何とかなるんじゃ……と思うんですけど」
平均的なシャッターの圧力は200kg程。
それに引き換え、フロアジャッキはものにも寄るが1〜3トンの車を浮かせる事が出来る。
シャッターをジャッキでこじ開けるなど当然三沢も試した事は無いが、理屈で言えばそれは可能だ。
「……やっぱり永井よりも使えるじゃないか……」
「え?」
「……いや、何でもない。やってみよう。手伝ってくれ」
「あ、はい!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
- 297 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:45:51.61 ID:lfdhhmKt0
- オフィスの中に漂う噎せ返るような血と腐肉の臭い。根源となる、床に散らばる警察官達の無惨な死体に、ジル・バレンタインは思わず足を止めていた。
彼等の皮膚は、一様にゾンビのそれだった。例外なく頭を破壊されている為に判別は難しいが、中には損傷が比較的少なく、生前の面影が見て取れる者もいる。
――――面影。そう、ジルの脳裏に浮かぶのは彼等の生前の姿だ。ここに死んでいるのは確かに、ラクーン警察署の同僚達なのだ。
それも、ケビンの話では数日前にゾンビの襲撃に遭い、確かに死んだはずの――――。
ジルは、この強烈な悪臭の中にほのかに混じる、慣れ親しんだ空気を感じ取っていた。それは疑いようもなく、長年勤めたジルの職場の空気だった。
建物に染み込んでいる空気というものは、そこに立ち入る人間達の創り出す独特のもの。建物をコピーして建築しただけで再現出来るものでは決してない。
つまりこの建物は、単なるコピーなどではない。
木製の壁の一部が鉄製のフェンスにすげ変わっていたり、先の電車同様に壁や天井の至る所が赤黒く汚れていたりと様相こそ変化しているが、ここはジルのよく知るあのラクーン警察署なのだ。
他所の町をコピーして観光の目玉にでもしている。先程自分が唱えたその説は、己の感覚によってあっさりと覆されてしまった。
「参ったわね……」
唐突に、理不尽に、突き付けられた同僚達の死。
ラクーン市警がほぼ壊滅状態にあった事は、ケビンから一部始終を聞いていた。
だが、その彼等の末路をまさかこんな名前も知らなかった街で見せられる事になろうとは。
単なる伝聞や想像とは違う、実際に彼等の生々しい死を眼前にした衝撃の重さ。
急速に、頭の中に霞がかかっていくような感覚に襲われた。
ジルは混乱しかける感情を無理矢理に押し殺しつつ、言葉を吐き出した。何かを話していなくては、まともに思考が出来なくなるような気がした。
「現実のような悪夢……。当たってるのかもしれない」
「……ジムの言っていた事がか?」
「ええ。ここはやっぱりラクーン警察署そのものみたい。みんなの死体まであるんだもの。
本当、夢の中にいるみたいよ。……あるはずのないものが唐突に現れる。
あの蛇もそう。あの時確かに殺したはずなのに、何故かここにいる。
悪夢のような現実が夢に出て来て……また現実になってるって言うか……。ああ、上手く言えないけど」
ジルは独りごちる様に呟き、首を振った。
夢に出てくる風景と同じ脈絡のなさ。ジム・チャップマンが零していた気持ちが良く分かる。
ジムに対して先程ハリー・メイソンはこう言った。
「これが夢なら人は死なない。そもそも誰の夢になるんだ?」 と。
今ジルがそう訪ねられたなら、自分の悪夢だ、と言いたい気分だ。ラクーン署といい、大蛇といい、自分の悪夢が現実のものとなっているとしか思えない。
「あの大蛇を知っているのか?」
「……前にちょっとね。違うやつかもしれないけど、今ならあの時殺したやつとしか思えなくなってきたわ」
「いくら世界各地で蛇が執念深い生物だと語られているとは言え、それはないだろう。
……メラネシアには人間に復讐をする為に何度も蘇った蛇女の話があるが……あれは神話だ」
「そうね……。そうなんだけど――――」
「ねえ!」
ジルの言葉に被せられたのは、痺れを切らした様子のトモエの声。
見やれば、トモエは今にも泣き出しような表情を浮かべていた。
- 298 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:47:03.61 ID:lfdhhmKt0
- 「そんなの何だっていいでしょ! 早く戻らないとケビンが……」
ハッと、ジルは焦燥と共に思い出す。仲間の死に打ちのめされている場合ではなかった事を。
立ち尽くしてしまったのは、時間にすれば分にも満たない程度。だがトモエのもどかしさは良く分かる。
今のケビンは満足に動ける身体ではない。あんな身体で無謀にもあの様な大蛇と対峙しているのだ。外からは断続して銃声が聞こえてきている。焦燥に囚われない方がどうかしている。
――――不意に、リチャードの最期が、目に浮かんだ。
あの時の様な後悔はしたくない。ただでさえ今回は血清も存在しないのだ。手遅れになる前に、向かわねばならない。
理屈は分からないし今はどうでもいいが、ここがラクーン警察署そのものだというならば、それは好都合だ。
S.T.A.R.S.オフィスにはあの時の武器がある。リチャードとフォレストの、彼等の遺品が保管されているはずなのだから。
「ごめんなさい。行きましょう」
ジルはデスクの上に目を向けた。
何故かまとめて置かれていたケビン愛用の銃の弾。ショットガンの弾。グリーンハーブ。
それらの道具を無造作にウィンドブレーカーのポケットに詰め込むと、死体が作り出した血の泥濘を避けながらオフィス内を通過し、非常階段の扉へと移動する。
「一応用心して。ここから先に敵がいないとは限らない」
構えた拳銃の重さを意識して、ドアノブを握りながらジルは2人を振り返った。
見ているだけで息苦しさを覚えてしまいそうな強張りを浮かべる2人の表情。きっと自分も全く同じ表情をしているのだろう。
ふと、トモエ達の後ろに目が向いた。
本来その位置にあるはずの木製の壁とブラインドは、今はそこに存在しない。
代わりにあるのは今にも朽ち果てそうな赤く錆びたフェンス。その冷たいイメージと違和感が、いやに不快だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
- 299 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 00:49:53.39 ID:m3SaEyS8P
-
- 300 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:50:17.81 ID:lfdhhmKt0
- 「で!? どうすんだよケビン!?」
上部に大穴の開けられた塀と、ぐらついている正門。
ゾンビの群れの襲撃にもそれなりに耐えてきた堅固な城壁がただの一撃で崩壊しようとしている様を見て、ジムは悲鳴に近い声を上げた。
「格好つけるなんて言ったからには何かいい手あるんだろ? あるんだよな!?
どうすりゃいいんだ!? 早く教えてくれ!」
破壊された塀の穴から、上体を持ち上げた大蛇が再び姿を現した。
無機質な瞳と、獲物の品定めでもするかの様にチラつく長い舌に、ジムの軽機関銃が激しく音を打ち鳴らす。
強固な鱗の幾つかが緑色の血液と共に爆ぜ落ちていくが、効いているのかまでは今一判断がつかない。
「一番なのは! うちのランボーがド派手なクライマックスを飾ってくれる事なんだがな!」
「そ、それ以外で頼む!」
「そのバッグは!? アクセル刑事なら颯爽とショットガンくらい取り出してくれるんだろ!?」
「その役はビリー刑事に任せるよ! 鉈と斧しかねえし! つーか、似てねえって!」
「だったら――――」
銃弾を嫌がったのか、大蛇の姿が塀の陰に消えた。――――そう思ったのも束の間、響いたのは巨大な物が風を切り裂き塀にぶち当たる音。
片側の門扉が塀の一部と共に吹き飛び、石畳の上で耳障りな音を立てて滑ってくる。風圧で、2つの旗が強くはためいた。
しこたま降りかかる破片が、ケビン達の身体を容赦無く打ち抜いた。布で吊り下げられた左腕に激痛が走り、顔が歪む。
柄にも無く口にしたくなる泣き言をどうにか飲み込み、代わりに口の中に入った砂を吐き出しながら、ケビンは叫んだ。
「ぷぇっ。あの時みたいに『死守』は出来そうにねえな、こりゃ!」
「で!? 『だったら』どうすんだよ!?」
「だったら? ホッケーマスクがありゃ勝ち目が見えるなって言おうとしたんだが、聞きたかったか?」
「ああ、聞けて嬉しいや! でもジェイソンだってこんなやつ切り刻めねえよ! その前に食われちまう!」
「だったら――――格好つかなくてもいいか。逃げるぞ!」
「大賛成だ!」
残ったのは大蛇を倒す為ではない。あくまでもジルが戻って来るまでの時間稼ぎ。
格好をつけるという目的なら、囮という大役を引き受けただけで充分だ。ラクーン署のコピーにどれ程の武器があるのかは不明だが、それは祈る他ない。
ケビンとジムは身体を翻し、石畳を蹴った。直後に壊れた門扉から大蛇の首が侵入するが、無視する。とりあえず目指すのは署の東側だ。
一歩足を踏み出す度に背中と左腕が痺れる様な痛みを訴えた。激痛が全身に突き抜ける。
出来れば目を背けたかい己の身体の変貌と、蓄積された疲労も手伝い、全速で走る事など到底叶わない有様だ。
だが、それでも、全てを堪えてケビンは地面を蹴り続けた。短距離走ならまだこの大蛇には負けてはいない。自然の摂理に背いて急激に巨大化してしまった蛇には、移動速度までは備えつけられていないらしい。
捕食、或いは攻撃の際のスピードの凄まじさは先程の駅で思い知ったが、それは射程に入らぬ様逃げ回ればいいだけの事だ。
後は、ジルが戻るのが先か。ケビンの体力が限界を迎えるのが先かの大博打――――。
先を行くジムがプランターに足をかけ、鉄柵をよじ登る。
上から差し伸べられる手を掴み、左腕が使えない不便さにもどかしさを噛み締めながらも、ケビンはジムに続いた。
- 301 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 00:50:36.75 ID:m3SaEyS8P
-
- 302 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 00:52:08.25 ID:HnyiXX020
-
- 303 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:54:00.38 ID:lfdhhmKt0
- 「こいつもあの動物園から逃げ出したやつかぁ!? ブクブクブクブク太らせやがって!
餌やり過ぎるのがあそこの飼育方針かよ!? ちったあダイエットさせろよな!」
「食欲旺盛な野郎なのは確かだな。2人も食っといてまーだ食い足りねえってんだからよ」
肩越しに相手の姿を確認する。
人1人を丸呑みにしたばかりだというのに、大蛇の腹には既に膨らみは見られない。既に消化してしまったようだ。
ケビン達が散々見てきた、際限なく獲物を求めるゾンビ達と同じだ。あの蛇もまた、T-ウィルスの影響で消化器官が異常発達しているのだろう。
「2人って、あのくそったれ眼鏡以外にも誰かやられてんの!?」
「ああ、さっきの駅でな!」
お前のお友達なんだがな。そう心の中で付け加え、ケビンは反対側の庭に飛び降りた。
今ジムにその説明をすれば確実にややこしい事になる為、後回しだ。
着地の衝撃が激痛と変わり、全身を駆け巡った。思わず、ケビンは身体を硬直させた。額から脂汗が流れ落ちる。
「ケビン! 来るぞ! 早く立ってくれ!」
「……お優しいお言葉をありがとうよ!」
ジムは飛び降りると、振り返り様に軽機関銃を乱射する。
怒り狂った猫の様な威嚇音を背に受け、ケビンは再び足を動かした。射撃を止めたジムがすぐに追いつき、ケビンの先を行く。
ジムに追い抜かれるなんてな。改めて身体の重さを実感し、無意識に舌打ちが漏れた。
後方で鉄柵に重い物が激突する音が響いた。振り返れば、大蛇はフェンスを乗り越えようとしていた。当然と言えば当然だが、奴に諦める気はないらしい。
「それで、こっからどうすんだよ!?」
「このまま署の周りをグルグル回ってジルが来るまで逃げ回るか、あいつをぶっ殺すか、だな。どっちがいい?」
「ぶっ殺すって、やっぱり何か手があるなら――――」
「おいジム、前だ!」
前方から、3体のゾンビが向かってきていた。
ジムはみっともない悲鳴を上げつつも咄嗟に体勢を低く取り、ゾンビの隙間を潜り抜けた。
その様に苦笑を浮かべつつ、ケビンはジムを追おうとする1体の背に前蹴りを叩き込んだ。
他2体を巻き込み、もつれ合って倒れるゾンビ達に、2人は止めを刺す事はせずに置き去りにする。後片付けはあの大蛇がやってくれるだろう。
「ちくしょう、あっぶねえ。――――それでどうやってぶっ殺すんだ!?」
「簡単だ。ここがラクーン署のコピーだっつーんなら裏に駐車場もあるはずだろ?
あいつをそこまで誘導して、車の燃料タンクをそのマシンガンで撃ち抜いて爆発させる。それでヘビ野郎はボン、だ」
「お、意外にいけそう――――」
「名付けてアナコンダ大作戦! 本家のドラム缶一杯のガソリンには劣るがな」
「――――……だけどさ、やっぱりジルが来るの待つ方にするよ」
「なんだよ。そこは車爆発させて『バーベキューにして食っちまうぞ!』とか言ってほしかったぜ」
「今度はウィル・スミスかよ。あんた黒人ならみんな同じに見えるんじゃねえだろうな? 差別主義もいいところだぞ、それって!」
「じゃあ、ハリソン・フォードとリチャード・ギアとメル・ギブソンは?」
「……ありゃ三つ子だろ?」
「おめでとう。君も立派な差別主義者だ」
- 304 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 00:54:27.50 ID:lfdhhmKt0
- 無駄口を叩き合いながらも、2人は足を休ませない。
外塀の終点――――コンクリート塀に囲まれた敷地内の角に差し掛かった。警察署の非常階段が左手に見える。
曲がりながら後方を窺い見れば、ケビンの予想通りに大蛇がゾンビを片付けているところだ。起き上がる時間はなかったらしく、ゾンビ共は3体纏めて咥え上げられている。
視線を戻すと、ジムが既に前方のフェンスに到達し、手をかけていた。
ありがたい。ケビンは安堵の息を漏らした。本来のラクーン警察署ならばこの場所には、外壁と同等の塀がそびえ立っている。10フィートを超える高さの塀だ。
もしもここにあったのがその塀だったならば、正直今の身体で乗り越えるのは至難の業だった。
ジムの協力を仰げば登る事は出来るだろうが、降りる際には飛び降りるしかない。そうすれば先程以上の激痛に見舞われる事は想像に難くない。考えるだけで脂汗が滲み出してきそうだ。
だが今のそれは、この街の至る所でよく目にした金網のフェンス。登るにせよ降りるにせよ負担は軽減される。
フェンス越しには、幾つかの照明ポールと署の2階へ通じる階段も見える。署のコピーは正確に成されている様子。ならばここから先には少なくともこのフェンス以上に通行が困難な箇所はないだろう。
ジムがフェンスを登り切り、上で身体を反転させて合図を送る。それを受け、ケビンもフェンスに足を差し込んだ。
右腕を伸ばしフェンスを掴む。手袋をしていても金網が手に食い込み、若干の痛みが生じるが、それを無視して身体を持ち上げて行く。
こちら側に半身だけ乗り出す形で待っていたジムが、ケビンの後ろを気にしながら先程同様に手を伸ばした。
遠慮せず、甘えさせてもらう。ケビンがその助けを借りようと、金網から手を外そうとした――――その刹那。
どこからか、聞き覚えのある轟音が――――サイレンが、鳴り響いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
- 305 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 00:54:30.65 ID:m3SaEyS8P
-
- 306 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 00:54:46.06 ID:HnyiXX020
-
- 307 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:02:56.62 ID:lfdhhmKt0
- 再びあのサイレンが鳴り、建物全体が震え、変貌していったのは、ジルが耳を澄ませて非常扉の外の様子を窺っている時だった。
手の中で蠢き、変化していくドアノブの感触に、ジルは思わず手を放す。
生理的不快感を催す赤黒い汚れは、天井や壁に染み込む様に消えていった。赤く錆びたフェンスは見慣れた木製の壁に変わっていった。
数秒後にそこに現れたのは、いつも通りに近いラクーン警察署の風景だ。
だが、この現象は先程体験している。二番煎じのドッキリにそう驚いてやるつもりはない。気を取り直し、ジルは改めて表の様子を窺った。
ケビンとジムだろう。先程から表では、はっきりとは聞き取れないが声が聞こえてきていた。2人はこちら側に回り込んでいるらしい。
だとしたら、あの大蛇もケビン達を追ってこちらに来ているはず。下手に扉を開けてはトモエやハリーにも危険が及ぶ恐れもある。
時間は惜しいが、署の西側から回り込んでオフィスを目指す方が良いかもしれない。
それとも危険を承知で一気に階段を駆け抜けるか――――。
「ま、待って!」
ジルが扉を開くか決めあぐねていると、トモエの声が背中に投げかけられた。
左手の位置をそのままに、どうかしたのか、と視線でトモエに問いかける。
トモエはこめかみを抑えながら、宿直室や署の地下へと通じる廊下の扉に顔を向けていた。
「こっちに誰かいる。よく分からないけど猟銃……みたいな大きい銃を持ってる人が……」
「猟銃? 何故分かるんだ?」
「見えるの。自衛隊みたいな格好してて、走ってる……」
「……それはどういう――――」
2つ目の疑問をハリーが言い終えるより先に、廊下側から何かが聞こえてきた。
全員が口を閉じ、廊下に集中する。聞こえてきたのは、足音だった。
「2人共、そっちに入って」
一旦オフィス内に戻る様に指示を出し、ジルはオフィスの入口から廊下の扉へと拳銃を向けた。
トモエの遠くを見通す力は、どうやら本物らしい。足音は次第に大きくなり、扉の前に到達する。
「そこで止まって! こっちは銃を構えてるわ!」
ジルの叫びに、返答はなかった。代わりに、扉がゆっくりと開かれる。
物陰に隠れているのか、相手の姿は見えない。低い声が、ジルの耳に届いた。
- 308 :ワルタハンガ ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:03:33.67 ID:lfdhhmKt0
- 「あんたは?」
「警察よ。あなたが銃を持ってるのは分かってる。
私に撃たせたくないなら銃を下ろしてゆっくりと出て来て!」
暫しの沈黙の後、廊下から2人の男が姿を見せた。
1人は迷彩服を着たスキンヘッドの東洋人。もう1人は、まだ少年だ。
「あんたらは3人か? 化物じゃないみたいだな」
「結局あっち通れなくて、結果オーライだったかもしれませんね」
「あなた達は? いえ、待って。その銃器はここで見つけたもの?」
ジルの質問に、少年は素直に頷いた。
男達が何者か。どうしてこちらの人数を言い当てたのか。気になったが、今はそれよりも彼等の手にする物騒な重火器に目が行った。
スキンヘッドの男の武器も、少年の武器も、どちらも今ジルが喉から手が出る程に欲しかったものだ。
この男達に敵意はない様子。ジルは銃を下ろし、謝罪の言葉をかけた。
「ごめんなさい。事情の説明は後にさせて! 今は――――」
ジルの声を、表からの軽機関銃の銃声が掻き消した。
扉のすぐ向こうで、ケビン達が戦っている。理解した瞬間、ジルの身体は動いていた。
「貸して!」
半ば強奪するかのように、少年の持つグレネードランチャーと弾薬を拝借し、ジルは非常階段へと続く扉を乱暴に開いて外に飛び出した。
外にはいつの間にかまた、真っ白な濃霧が発生していた。その中に巨大な影が見える。
ジルは申し訳程度に備え付けられた非常階段の踊り場に飛び上がり、目を凝らした。そこに見えたのは――――。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
- 309 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:04:28.15 ID:lfdhhmKt0
- 「おいおい!? またかよ!?」
それはまるで、その轟音に応じるかの様に起こった。
何時間か前、この街に迷い込んですぐに起こった現象と同様の周囲の変化。世界がざわつき、蠢き、一変しようとしている。
それ自体は良かった。薄汚れた世界が元に戻るだけ。何ら不都合はなかったはずだ。
だが、ケビンとジムの置かれた状況で、それはあまりにも致命的な変化だった。
「な、なんだこりゃ!?」
ジムの身体の下にある金網フェンス。ケビンが今7フィート程登っている金網フェンス。
そのフェンスもまた、世界と共に変わろうとしていた。
フェンス越しに見えているはずのジムの身体が、徐々に、徐々に、灰色に遮られていく。
手に食い込んでいた金網の感触が、固く冷たいコンクリートの感触へと移行していく。
フェンスがコンクリート塀に変貌していき、金網にかけていた足が、手が、押し戻されていく。
このままでは落ちる。本能的にケビンはジムに手を伸ばした。だが、フェンス――――いや、塀の上ではジムもまたバランスを崩していた。
「ちっ!」
「うわあっ!」
これ以上は体勢を保てないと判断し、ケビンは自ら塀から飛び降りた。同時に塀の向こうでドサリ、と大きな音を立ててジムが落下した。
振り返り、フェンスだった塀に触れてみる。その感触は間違いなく、ただの塀だった。押してみても、叩いてみても、フェンスだった面影はどこにもない。ラクーン警察署の、あのコンクリ塀だ。
「いくらなんでもそりゃねえだろ……」
ケビンは眼前にそびえ立つ塀を、恨めしそうに見上げた。手を伸ばそうとも、上には届かない。
こうして向き合ってみて、改めて理解する。激痛に耐えながらこれをよじ登るのは、やはり不可能だ。
「ジム! 大丈夫か!?」
「大丈夫じゃねえよ! すげーいてえよ! 死ぬかもしれねえ!」
「よし、大丈夫だな! ちょっと――――」
後方で、巨体が引き摺られる様な音が聞こえてきた。
手を貸してくれ。そうジムにかけようとしていた言葉を飲み込み、ケビンはゆっくりと振り返る。
いつの間にか、周囲には夕方と同じ様に真っ白の濃霧が発生していた。その濃霧の奥。角を曲がり這い進んでくる巨大な影。
それを見たケビンの胸中に静かに、しかし急速に広がっていくのは――――ある種の覚悟だった。
「……やれやれ。どうやら進退窮まったな。ジム! ヘビ野郎が来たぞ! 早く逃げろ!」
「はぁ!? あんた何やってんだよ!? 早くこっち来なよ!」
ジムが塀をよじ登る音が耳に届く。手を貸してくれるつもりなのだろう。
その心遣いはありがたいが、今は同時に疎ましくも思えた。
- 310 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:05:09.36 ID:lfdhhmKt0
- 「無理だ、さっきの鉄柵ならまだしもこれじゃ間に合わねえよ。ここは俺に任せて先に行きな!」
「それ、何の、セリフ!?」
頭の上からジムの声が聞こえた。見上げれば、ジムが塀にしがみつき、顔を出していた。
蛇の影を見て慌てて手を伸ばすが、ケビンにそれを掴む気は、ない。
「何ってわけじゃねえけど、ちとありきたりすぎたか? オリジナルだよ。元ネタはねえ」
「分かったよ! 何でもいいから早くしろって!」
その手を掴めば、何のことはない。大蛇の餌が1つ増えるだけだ。
ケビンはベルトに挿していた日本刀を鞘ごと引き抜き、先端でジムの額を強く押した。再びジムの落下音が響いた。
「お前はジルが来るまで逃げ回るんだろ? その役は任せたからよ、役目果たせよ!」
「おい……ケビン! ……ちくしょうっ! ケビンッ!」
再度かけられるジムの声を無視して、ケビンは大蛇へと足を踏み出した。
最期くらいは、格好つける。それにはおあつらえ向きのシチュエーションだ。
「ジェニファー・ロペスにゃなれなかったか……」
吐き捨て、ケビンはニヤリと自虐的な笑みを浮かべた。
当然だ。所詮自分はただの警察官。S.T.A.R.S.達のような英雄には選ばれなかった男だ。
所詮自分はただのその他大勢。出演者の1人にはなれても主人公にはなれやしない。
所詮自分はどう足掻こうともラクーンシティからの脱出も叶わず、あの大学で死の運命を待つだけだった、ただの――――「あんちゃん」だ。
追跡してきた死の運命が、亡者の仲間入りでもなく、スキンヘッドの大男でもなく、核爆発でもなく、この蛇だった。それだけの事。
「まあ……あの映画でジェニファー・ロペス大した事してねえけど」
日本刀の鞘を投げ捨て、ケビンは呟いた。距離が縮まり、霧の中の大蛇の姿が鮮明になる。
大蛇はその巨大な上体を起こし、鎌首をもたげた。その体勢を保ったまま、迫り来る。
怒りが満ち満ちた瞳孔にケビンが映し出されていた。
ライオンや子像ですら一呑みに出来そうな程に開かれた開かれた大口は、どこか笑っている様にも見える。散々お預けを食らった獲物に漸くありつけるのが余程嬉しいのか。
そう、自分は、食われて死ぬ。それはおそらく曲げようのない未来だ。だが、T-ウィルスに侵されている自分には、それはマシな死に方なのかもしれない。
少なくとも、亡者の仲間入りを果たして誰かに襲いかかる様な真似はしなくて済む。最後の晩餐――――スペシャルミールが人肉だなんて、絶対に御免だ。
大蛇の上顎の中で、牙が持ち上がる。ケビンは日本刀の柄を逆手に握り、鋒を地面に向けた。
これが最後の仕事だ。自分には、この大蛇を駆除する事は出来ないが、命と引き替えならばこれ以上の被害を出さぬ様にする事は出来るかもしれない。
「てめえのスペシャルミールは、俺特性のダイエットフードってことだ……!」
駅でこの蛇に鉄パイプをはめ込んだ要領を思い出す。今度はあの時よりも極力深く、だ。身体は言う事を聞かないが、やるだけの事はやらねばならない。
大蛇が若干頭を後方に引いた。それは、捕食の予備動作。
ケビンは右腕を身体に引き寄せ、力を込めた。同時に、大蛇の大口が一瞬でケビンに覆い被さり、巨大な毒牙がケビンの背中を貫通した――――。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
- 311 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:05:40.66 ID:lfdhhmKt0
- ジルが目を向けた先。濃霧の中に見える大蛇の口には、人間らしきものが咥え上げられていた。
ケビンか、ジムか。そこまでは視認出来ない。しかし、大蛇よりも先――――署の給水塔へ続く階段辺りからだろうか。
闇と霧に包まれ見えはしないが、そこから聞こえて来るのはジムの悪態だ。
状況は分からないが、ジムはあの位置から大蛇に向かい軽機関銃を撃ち込んだらしい。
生存しているのがジム。となれば、咥え上げられているのは――――。
「ケビン……ッ!」
怒りに任せてジルは踊り場の手すりに足をかけ、庭に飛び降りた。グレネードランチャーを構え、確実な射程まで距離を詰める。
大蛇はケビンを咥えたまま、頭を大きく振り、コンクリート塀に打ち付けた。塀が破壊され、破片が辺りに飛散する。
近付くジルに気付いていないのか、それともケビンに気を取られているのか、大蛇はジルに対し、何の警戒も見せなかった。
迷わずジルはトリガーを引いた。硫酸弾が光と変わり、大蛇の背中で着弾する。
奇声を上げて、大蛇がジルを振り返った。そこでジルは初めて大蛇の異変に気が付いた。
威嚇する様に開かれた大口。その下顎に、日本刀が突き刺さり、貫通していたのだ。ケビンが見つけてはしゃいでいた、あの日本刀だ。
ケビンが、やったのだろう。捕食の際の大蛇が咥えこむ力を利用して、日本刀を突き立てたのだ。あんな、ポンコツの身体で。自分の命と引き換えに。
上顎の巨大な牙に貫かれているケビンの肉体が呑み込まれていない理由が何となく理解出来た。日本刀が邪魔をしてなのか、或いは下顎の筋肉が断裂したのかまでは分からないが、上手く呑み込めないのだ。
そして今、大蛇はその日本刀をどうにか取り除こうと躍起になっているというわけだ。
牙も使えず、獲物を呑み込む事も出来ず、獲物に対する執着も薄れているのであれば、大蛇の脅威は大幅に下がっている。倒すなら今しかない。
ジルは涙ぐみながらも、唇を噛み締めた。グレネード弾をリロードし、1発。また1発と確実に撃ち込んでいく。
硫酸弾が大蛇の表皮で爆発し、鱗を溶かしていく。肉が焼けただれていくのが確かに見て取れた。
ジルの背後から、2つの爆音が轟いた。思わず振り返れば、そこに居たのは2人の東洋人だ。
「な、何だよこれ……蛇なのか?」
「須田! 彼女が撃った場所を狙え! それ以上近付くなよ!」
「は、はい!」
強靭な強度の鎧が剥げ落ち、脆くなっている箇所に容赦無く2つの機関銃からの銃弾の嵐が突き刺さった。
緑色の血液が激しく吹き出したその傷口を抉るべく、ジルはランチャーを撃ち込んだ。
大蛇が怒りを顕にして頭を振るが、その抵抗も近くの塀を粉々にするだけだった。どれだけ近付こうとしても、一定距離を保つ3人には届かない。
大蛇の鎌首は、徐々に高度を下げていく。上げる奇声は、小さく、か細く変わっていく。
「借りるわよ!」
弾薬の尽きたランチャーを捨て、置かれたサイドバックから取り出すのは使い慣れたイングラム。
最早地面に伏している様な姿の大蛇の身体に向けて、ジルはトリガーを引き続けた。
大蛇が完全に動かなくなるまで。大蛇の全身から流れる血が、その絖ついた身体を緑色に染め上げるまで。ジルは、トリガーを引き続けた――――。
【ケビン・ライマン@バイオハザード・アウトブレイク 死亡】
【ヨーン@バイオハザードシリーズ 死亡×1】
- 312 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:06:02.58 ID:lfdhhmKt0
- 【D-2/警察署敷地内/二日目深夜】
【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:疲労(中)、悲しみ
[装備]:マシンガン(0/30)、ハンドライト、R.P.D.のウィンドブレーカー
[道具]:キーピック、M92(装弾数9/15)、グレネードランチャー(0/0)、M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数14/15)@バイオハザードシリーズ、
ナイフ、地図、携帯用救急キット(多少器具の残り有)、45オートの弾(14/14)、ショットガンの弾(7/7)、グリーンハーブ
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。
1:トモエ達に説明をする
2:警察署で街の情報を集める。
※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。
【須田 恭也@SIREN】
[状態]:健康、怪物を倒した高揚感
[装備]:9mm機関拳銃(0/25)
[道具]:懐中電灯、H&K VP70(18/18)、ハンドガンの弾(140/150)
迷彩色のザック(9mm機関拳銃用弾倉×3)
[思考・状況]
基本行動方針:危険、戦闘回避、武器になる物を持てば大胆な行動もする。
1:この状況を何とかする
2:自衛官(三沢岳明)の指示に従う
【三沢 岳明@SIREN2】
[状態]:健康(ただし慢性的な幻覚症状あり)
[装備]:89式小銃(0/30)、防弾チョッキ2型
[道具]:マグナム(6/8)、照準眼鏡装着・64式小銃(8/20)、ライト、64式小銃用弾倉×3、精神高揚剤
グロック17(17/17)、ハンドガンの弾(22/30)、マグナムの弾(8/8)
サイドパック(迷彩服2型、89式小銃(30/30)、89式小銃用弾倉×9、89式小銃用銃剣×2)
[思考・状況]
基本行動方針:現状の把握。その後、然るべき対処。
1:落ち着き次第彼女達(ジル)に話を聞く
2:民間人を保護しつつ安全を確保
3:どこかで通信設備を確保する
- 313 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/11(火) 01:06:23.98 ID:m3SaEyS8P
-
- 314 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:06:28.28 ID:lfdhhmKt0
- 【D-2/警察署2F屋上/二日目深夜】
【ジム・チャップマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:疲労(中)
[装備]:26年式拳銃(装弾数6/6 予備弾4)、懐中電灯、コイン、MINIMI軽機関銃(0/200)
[道具]:グリーンハーブ:1、地図(ルールの記述無し)、
旅行者用鞄(鉈、薪割り斧、食料、ビーフジャーキー:2、
栄養剤:5、レッドハーブ:2、アンプル:1、その他日用品等)
[思考・状況]
基本行動方針:デイライトを手に入れ今度こそ脱出
1:終わったのか……?
2:ハリーと一緒に研究所へ行く
3:死にたくねえ
4:緑髪の女には警戒する
※T-ウィルス感染者です。時間経過、死亡でゾンビ化する可能性があります。
【D-2/警察署内非常口手前/二日目深夜】
【ハリー・メイソン@サイレントヒル】
[状態]:健康、強い焦り
[装備]:ハンドガン(装弾数15/15)、神代美耶子@SIREN
[道具]:ハンドガンの弾:20、栄養剤:3、携帯用救急セット:1、
ポケットラジオ、ライト、調理用ナイフ、犬の鍵、
[思考・状況]
基本行動方針:シェリルを探しだす
1:どうなったんだ……?
2:研究所へ行く
3:機会があれば文章の作成・美耶子の埋葬
4:緑髪の女には警戒する
【太田 ともえ@SIREN2】
[状態]:右頬に裂傷(処置済み)、精神的疲労(中)、焦燥
[装備]:髪飾り@SIRENシリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
0:ケビン……
1:夜見島の人間を探し、事態解決に動く。
2:ケビンたちに同行し、状況を調べる。
3:事態が穢れによるものであるならば、総領としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません
※幻視のコツを掴みました。
- 315 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:08:20.42 ID:lfdhhmKt0
- ※裏世界の警察署地下駐車場スロープは崩落している為に通行は不可能です。
※ヨーンはゾンビを3体呑み込みました。もしも彼等にも鏡石の効力が発動するとしたらゾンビとして蘇ります。
サイレンが鳴っていた。
それに誘われる様に、身体が勝手に動き出した。
まだ治していないのに。まだ治していなくてはならないのに。身体は動き出した。
自分の意思では止められない。
あの声が自分を呼んでいる。
あの声の元に行かなくてはならない。
何故かは――――分からない。
分からないが、行かなくてはならない。
何を優先しても。例え憎い上官が目の前にいようとも。
行けばきっと、今よりも――――。
- 316 :Blaze Of Glory ◇cAkzNuGcZQ代理:2011/10/11(火) 01:08:48.05 ID:lfdhhmKt0
- D-2/警察署地下駐車場→???/二日目深夜】
【永井頼人(屍人)】
[状態]:海送り
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:赤い海へ……
1:海送り、海還りを終える
2:目標(呼ばれし者及びクリーチャー)を探し殲滅する
※第2回サイレンがなり、それまでにサイレントヒルに存在した半屍人が海送りの状態に入りました。
海送り状態では他のクリーチャーには攻撃されない事とさせて頂きます。
どの程度の時間で海送りが完了するかは後続の書き手さんに一任します。
※第2回サイレン後に登場した半屍人には今回の海送りは適用されません。
代理投下終わりです
- 317 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/15(土) 23:10:14.11 ID:wj3vZps50
- さーてとそろそろ飯でも食うか
ん?
なんだありゃ・・・人か?
見かけない顔だな・・・
というか、あれは外人か!
こんなちんけな村になんの用だ・・・?
ん?あれ?ここは・・・・どこだ?
く、くそっ、いつのまに!?
本署に連絡せねば・・・!!
【嶋田習次@SIREN:NT】
[状態]健康
[装備]38口径警察銃(装弾数5/5)
[道具]警棒、38SP弾10発
[思考・状況]
基本行動方針:弱き者は守る
1:見知らぬ人への接触
2:警察署へ連絡
3:状況確認
- 318 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/16(日) 09:12:26.04 ID:tbJui6kR0
- 出すな出すなw
- 319 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/16(日) 10:09:24.24 ID:tbJui6kR0
- せっかくだから番外編にいれておいたw
- 320 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/16(日) 17:53:30.63 ID:tEgC3E370
- 代理投下します
- 321 ::『澱み』 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/10/16(日) 17:54:13.42 ID:tEgC3E370
- その空間に充満していたのは、眩しい程に白い、ただ白い、濃霧だった。
朧気で、漠然としていて、まるで、存在そのものが霧であるかの様な、不安定で、流動的な空間。
そんな空間の中空に、数多の感情があった。
今や決して誰の心にも届かぬ感情が、誰にも干渉する事の出来ぬ感情が、そこにはあった。
それは、未練であり。それは、苦痛であり。それは、絶望であり。
そこでは様々な負の感情が、渦巻き、ひしめき合い、混ざり合い。
一つの巨大な『澱み』と成り果てていた。
呼ばれし者――――恐怖から逃れようと必死に逃げ惑った者の末路。
誰かを護り抜こうと命を賭して抗った者。
訳の解らぬ内に唐突で理不尽な暴力に晒された者。
このサイレントヒルで命を落とした彼等は、ただ一人の例外もなくこの濃霧の中に集められていた。
彼等はもう、何もする事は無い。
彼等はもう、何も考える事は無い。
彼等は、他の数多の感情と混ざり、ただ流れに身を任せるだけの存在だ。
その『澱み』の中には、日野貞夫の感情もあった。
ほんの幽かに残る「日野貞夫」としての意識。
幾度となく復活と死を繰り返す彼には、最早逸島チサトの様な猶予は与えられず。
気が付けば、彼はまたしてもその中にいた。
そこで彼は、自らの臓腑の中で成す術もなく転がり続ける岩下明美の惨めさを感じた。
確かに自らが殺した筈の女に切り刻まれ無惨な姿に変貌していく風間望の恐怖を感じた。
名も知らぬ筈の者達の死の際の絶望を、あたかも自身がその者であったかの様に感じていた。
- 322 ::『澱み』 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/10/16(日) 17:55:06.23 ID:tEgC3E370
- それは、日野だけではない。『澱み』に集められた全ての者が等しく苛まれていた事。
他の者の感情が流れ込む。絶望に感情が蝕まれていく。
『澱み』の中で、一人一人の負の感情が、相乗的に増加していき、『澱み』もまた広がっていく。
やがて、その『澱み』から緩やかに立ち上るのは、白い霧だった。
『澱み』の一部は霧となり、周囲に広がり、空間と一体化するように溶け込んでいく。
そして、この空間は、いずれ――――――――――――。
『澱み』の中から、鏡石の効果によって、霧散していた精神が引き摺り出された。
他の者同様に『澱み』の一部となりかけていた日野貞夫の感情。
それが、『今のサイレントヒル』の摂理に逆らい、無理矢理に引き摺り出された。
彼の精神は、死の度に『澱み』に侵され、病んでいく。蘇る度にどこかが崩壊していく。
日野自身には、それに抗う術はない。
今更鏡石を捨てようとも、幾度も『澱み』に侵され、崩壊しかけている精神は戻らない。
その精神は、肉体へと戻る。それにも彼は抗えない。
大蛇の中で消化された筈の肉体は、大蛇の中で再生を果たした。
何処で再生するかも選べないその肉体に、日野の精神は戻っていく。
戻ると同時に、日野が知覚したのは全身を押し潰す程に強大な圧力だった。
大蛇の、トンを超える躯体の中。圧力は容赦なく日野に襲いかかる。
数秒も持たず、日野の身体は圧力に屈した。骨が潰され、内臓が潰され、全身が潰された。
己に意識が戻った事を、果たして、彼は気付いていたのだろうか――――。
- 323 ::『澱み』 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/10/16(日) 17:55:44.96 ID:tEgC3E370
-
日野の精神は、また、『澱み』へと戻った。
次の再生まで、また、『澱み』に侵され続ける。
静寂の中で――――。
濃霧の中で――――。
【日野貞夫@学校であった怖い話 死亡×1】
※『呼ばれし者』が死亡すると、その者の魂は『澱み』に送られます。
『呼ばれし者』以外の存在は死亡しても『澱み』に送られる事はありません。
『澱み』が何の為に存在するのか。また、投下順102話で宮田の見た幻覚と何らかの関連性があるのかは現段階では不明。後続の方にお任せします。
※日野の肉体について
・日野の死体はヨーンの胃の中にあります。ヨーンが生き返り、肉体が活動を始めれば胃から腸へと送られます。
・ヨーンの死んでいる間は日野の肉体は圧迫され続けているだけで動きません。
・日野の頭痛や幻覚は精神が『澱み』に侵され続けた為のものです。復活を繰り返す度にそれは悪化していきます。
・生き返れば、『澱み』にいる間の記憶は一切なくなります。
※鏡石について
・鏡石の効果は、所持者の死亡直後、少なくとも数分は発動しません。発動までどのくらいの時間がかかるかは不明です。
・鏡石が発動すれば所持者の肉体は再生しますが、完全に再生して蘇るまでは肉体、及び衣類はどの様な手段を用いても破壊する事は不可能とします。
・鏡石を複数持つ事の副作用については不明です。澱みとは別に頭痛や幻覚があるかもしれませんし、全く副作用がないかもしれません。
・現在鏡石は日野の鞄の中に7つ残っています。その内1つはヨーン再生の為に発動中。ヨーンが呑み込んだゾンビ3体に発動しているかは後続の方にお任せします。
【???/???/二日目黎明】
代理投下終わりです
- 324 :ゲーム好き名無しさん:2011/10/20(木) 19:55:27.29 ID:ZAvEKpNw0
- 代理投下します
- 325 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 19:56:46.73 ID:ZAvEKpNw0
-
追っ手が迫る中、小さなビルの屋上。
水明はユカリに御札を渡して四隅に張るよう指示した。
事のあらましはこうだ。
「ともかくもう其処まで来てる、考えるのは後だ。跳ぶぞ、いいな?」
ユカリが答える間もなく助走をつけビルの間を飛び越す水明。
後ろから迫るプレッシャーに耐えかねユカリも後に続く。
「あっ…」
「おっと!」
危うく下に落ちかけるも手を掴んで事なきを得た。
「取り敢えずこれだけ距離があればあの腐った連中はもう追って来れんな、このままビル伝いに行けばこの辺りから抜け出せるだろう。しかしそれにしてもあの赤い水は実に興味深い。水に関しては給水塔の中に死体が入っている、ミミズや白い蟻が繁殖していた、など様々な…」
「オジサン後で考えるとかって言ってなかったっけ?」
状況が状況であるため渋々講義を取り止め周囲を見る。と、その時爆音が響き飛び移ろうとしていた隣のビル壁は無惨にも砕け散った。ビルの縁に駆け寄り覗いてみるとどうもドラム缶や木箱の破片が見える。
何か火薬庫の中で発砲したのかもしれない。だがそれでも着地点が一段下がっただけであり、飛べないことはない。むしろあの規模の爆発ならば周りの化け物も吹き飛び、やりやすくなったのではないだろうかと考えたのだが。
タァーーーン…
「狙撃…だと?」
響く銃声。炎の中から涌いて出たゾンビへ、容赦の無い銃弾が物陰から放たれた。
「ちっ…ドアから逃げるぞ、念のためにそこに落ちてる角材でも拾っとけ。」
しかし開ける前にそれは無駄だとわかった。ドアは内側から木の板で塞がれているうえ中からは不気味な男の声。
退路は絶たれた。下はさっきまで居た建物よりはマシなものの、呻き声は多数聞こえる。
- 326 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 19:59:08.98 ID:ZAvEKpNw0
- 「…気休めにしかならないが、札でも張っておくか?」
「ちょっとオジサン!そんなことより何かここから出る方法考えないと…」
「いや、下が騒がしくなってきてる。もしかするとさっきの奴等よりも強力なのが来たのかもしれん。それにだ、どうせ張るのに1分もかからんだろ。張るときは右周りで何でもいいから祈れ、いいな?」
そう言って札と塩をユカリに渡し建物の角に追いやった。代わりに水明は紫煙を吐き出しながら拳銃を構え入り口を見張る役目についた。ここにきて1つ、霧崎水明には解らないことがある。
何故自分の持ち込んだ紋様は効果を発揮しないのか?
サイレントヒルは実在した。恐らくネット上で流れていたサイレントヒルに纏わる数々の噂も何らかの形でここに帰属しているはずだ。特にその弱点・解決法に関しては信憑性は高い、口裂け女の『ポマード』、『ババサレ』など弱点を主軸に構成された都市伝説もある。
真相はコレが握っているのではとすら思っていたんだが、それに…
沈思黙孝しつつ耳を澄ますと、どうも新しく上がって来た奴はさっきまでのゾンビ達とは毛並みが違っているようだった。まるで巨大なハンマーか何かで人体を吹き飛ばしたかのような打撃音、窓から投げ出された腐肉が砕ける音、
そして何よりさっきの女より断然ハッキリとした人語が聞こえる。
「おじさん、もしかして助けが来たんじゃない?…ほら誰か呼んでるし。」
声に気が付いたのかユカリが声をかけに来た、駆け寄って来たあの位置は多分2枚目を張り終えた所だろう。
「いや、それは無いな。今聞こえたのは女の声だ、暴漢数十人を相手にしたうえに人を窓から放り出すだけの怪力を持っているとは思えん。それにな、アイヌ伝承のカヨーオヤシの例がある、
こいつはアイヌ語で人呼び幽霊といって山の中一度だけ人に声をかけ返事をしたものの命を奪う。
ま、つまりはもし本気で人を探そうと思ったら二度は声をかけてくるはずだってことだ。」
暗い顔をするユカリへ水明は言った。
「そう落ち込むな、人語が通じるなら或いはなんとかなるかもしれない。」
- 327 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 19:59:46.83 ID:ZAvEKpNw0
-
数分後、押し潰されたような悲鳴が階段から聞こえ何度か木板に突撃するような音がした。ドアの中が一瞬の静けさに包まれ、そして――――
「どぉーん!あぁ〜あ面倒くさ、痛くないけど化粧台無いしぃ乙女の顔なんだと思ってんのぉ?」
屋上に金太郎飴をぶつ切りにしたような化け物が現れた。血塗れの顔を見ればわかる、どうやら通路にいたゾンビ達を皆倒してきたらしい。
先程の爆発で舞った火付きの木片がその姿をより不気味に照らし出ししている。
冷や汗が出る、ここからは賭博の世界だ、銃も撃てない、切り札は不確定。それでも、化け物と互角にやり合おう等とは愚策を通り越し狂気の沙汰である。だがこれは乗り越えなければならない壁だ、
どちらにせよここを越えねば死ぬしか無い。
- 328 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 20:00:55.86 ID:ZAvEKpNw0
- ◇ ◆
屋上を見渡す彼女の目に、震えながら拳銃を構える男の姿が写る。
「もう大丈夫ですよ〜」
近寄ると男は恐怖のあまり後方へ拳銃を取り落としひうぁ〜等と悲鳴をあげている、ニヤニヤとした笑みを溢しながら突き殺そうと身を引くと男はなにやら提案してきた。
「し、死ぬ前にここが何なのか知りたい。せめてそれぐらい教えてくれても良いだろう。」
きっと同族にしてやられたのだろう。男は肩から血を流しているではないか。それでも命乞いではなく情報を求めるところは面白い。もしコレが時間稼ぎで、
拳銃を取りに後退りしても距離は一メートルちょっと、追い付く自信がある。
女はそう考え、先程までの意地悪い殺戮者の笑みから余裕綽々の優越感の笑みへと変わり男に応じる。
「こんなとこ初めて来たからよく知らないしぃ、時間の無駄だから早く死んでくんない?」
「せめて…ここのせっ、勢力図だけでもいいんだ。ここには色んな奴等がいるだろ?」
身振り手振りで質問してくる男の動作が更に笑いを誘う、なんなのだあの縺れた指は。
「あ、そこ気付いた?いい殻してるじゃん。じゃあいいよ、そこだけ教えてあげる。人形みたいな気持ち悪い奴等は意思を持ってる全員を攻撃するみたい、何かを守るみたいに。
あと赤い水を目から流してるのは私らには目障りで狩ってるんだよねぇ、ふひっ、出来損ないだからさ。」
男は言っていることが良く理解できていないような顔をしていたがまだ訊ねてくる。
「ゾンビのような奴等は?」
「腐ってるの?なんだかよく判らない、殻だけど動くし臭いし攻撃してくるし。私はあんまり入りたくな〜い。」
「入る?人の体に入れるのか?」
もうそろそろ飽きが来た。次で伝えるべき内容は終い、命を奪いにかかる。
「魂の抜けた殻にならね、ほらアンタ等が言うところの死体だよ。私達はねぇ、アンタ等が地上を牛耳る前の大昔から住んでいた人間より高尚で霊的な存在なの。わかった?じゃあそろそろ…」
「そうか、なら、札で倒せるな」
今までとは明らかに様子が変わった、目に光を感じる、忌まわしい光を。それを掻き消そうと走り出そうとするが何故か近づける気がしない、何故近付く事が出来ない?その眼光に怖じ気付く訳でもなし…
シャツの下に何か見える、青く丸い…紋様を書き込んでいるのか?アレはなんだ?なんなのだ!アレから感じる恐ろしい力は…
「何それ!何なのよ!ワケわかんない」
「成る程、お前には効くのか。信じられないが、つまりやはりあのゾンビはオカルト的な力では動いてなかったわけだ。」
- 329 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 20:02:09.20 ID:ZAvEKpNw0
- ◇ ◆
罵詈雑言を喚き散らす芋虫を前にその男、霧崎水明は平然と講義を再開する。
「サイレントヒルの噂にはその出だし、歴史的背景についての情報は皆無だった。だがな、興味深い事に『この話を聞いた一週間後に』の下りで始まる話にありがちな対処法はやたらと豊富に語られていた、メトラトン、
サマエルの印章やらアグラオフォテスとかいう赤い液体とかな、特に…」
ポケットから折り畳まれた紙を一枚取り出す、開くと中には円を基調とした『青い』印章が印刷されていた。
「…!!オエェ……かっ、ゲボァ……!」
「こいつは効き目があるようだな、名前は太陽の聖環というらしいぜ。」
居心地悪そうにしている黒い塊へ、その悪意のある視線に意地の悪い笑みで答える。
「魔女の家にはサイレントヒルの悪魔を呼び寄せるものとしてこれが書かれているが、青で書けば逆に悪魔への呪いになるらしい」
闇人は畏れおののいていた、効くかどうかも解らない印を頼りに応じるかも解らない相手によく考えれば怪しかった不慣れな演技で質問し、情報を得る。
その闇人にとって全くもって理解不能だった。死んだら情報など意味を成さないのに、死んでも生き返る訳でもないのに。
「ところでだ、この話の魔女について。何か知っているんじゃないか?俺の見立てでは知ってなければ辻褄が合わないんだが。」
「……そんなやつ、し、知らない。私、帰る。」
背を向け帰ろうとする化け物へ指を鳴らす、水明はユカリに合図を出すまで札を張らないように指示していたのだ。水明は銃口を向け静かに言い放った。
「そうか…まぁともかくは、覚悟が必要なんだ…元がなんだろうが、殺す覚悟がな。」
ユカリが札を貼り終えると屋上のサイレントヒルの魔力が四散し、そこに光が満ちた。
【E-2 建築物の屋上/一日目真夜中】
【霧崎水明@流行り神】
[状態]精神疲労(中)、睡眠不足。頭部を負傷、全身に軽い打撲(いずれも処置済み)。右肩に銃撃による裂傷(小。未処置)
[装備]10連装変則式マグナム(8/10)、懐中電灯
[道具]ハンドガンの弾(15発入り)×2、謎の土偶、紙に書かれたメトラトンの印章、サイレントヒルの観光パンフレット(地図付き)、自動車修理の工具、食料等、七四式フィルム@零〜zero〜×10、太陽の聖環の印刷された紙@サイレントヒル3、他不明
[思考・状況]
基本行動方針:純也と人見を探し出し、サイレントヒルの謎を解明する
1:下に降りて効果のほどを確認する
2:病院に向かう
3:人見と純也を見つけたら、共に『都市伝説:サイレントヒル』を解明する
4:そろそろ煙草を補充したい
※名簿に載っているシビル、ユカリの知人の名前を把握しました。
※ユカリには骨董品屋で見つけた本物の名簿は隠してます。
※胸元から腹にかけて太陽の聖環が書かれています、闇人に対しては吐き気と一メートル範囲内に近づけないという効果があるようです。
※お札の効果は屋上だけなのかそうでないのかはわかりません。
※水明、シビル、ユカリが把握している『病院』があるはずの場所には、『研究所』があります。
- 330 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 20:03:06.23 ID:ZAvEKpNw0
-
「行くぞ長谷川、これだけ暗い中で1つだけ光る場所があったら目立ちすぎる。すぐに連中は寄ってくるぜ。」
「うん……わかった。」
水明は闇人について考えていた、何故『サイレントヒルの神』に対しての印がそれとは関係のないものに効いたのか。
目から血を流し人語を話していたのは、もしそんな特徴があったのなら既に話しているだろう。不完全であれ普通の人間と間違えて近づく恐れがあるからだ、
敵対しているという黒服のも同義。
ゾンビ達は悪夢のようだという点で最もシビルの言っていたものに近い、だが見た限りでは異形の化け物という感じでもない。
となると『人形みたいなの』というのが元々この街に居たものだろう。
ならば何故?悪霊に対して万能の紋様という線もあるが、もしやアレも…
そんな水明をよそに、少女は内心少しばかりの不安を抱いてた、確かにあれだけの数の化け物に追いたてられて銃も撃てないようでは生きては行けないだろうが…
(でもおじさんすごい怖い顔してた…あれじゃまるであの海苔巻きみたいな奴と…)
【長谷川ユカリ@トワイライトシンドローム】
[状態]精神疲労(中)、頭部と両腕を負傷、全身に軽い打撲(いずれも処置済み)
[装備]角材、懐中電灯
[道具]名簿とルールが書かれた用紙、ショルダーバッグ(パスポート、オカルト雑誌@トワイライトシンドローム、食料等、他不明)
[思考・状況]
基本行動方針:チサトとミカを連れて雛城へ帰る
1:オジサン、ちょっと怖い…
2:とりあえずオジサン(霧崎)の指示に従う
3:チサトとミカを探したい
※名簿に載っている霧崎、シビルの知人の名前を把握しました
※チサトからの手紙は消滅しました
- 331 :オナジモノ ◇hr2E79FCuo 代理:2011/10/20(木) 20:03:39.91 ID:ZAvEKpNw0
- 代理投下終わりです
- 332 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/01(火) 23:46:00.14 ID:9mWV8BsR0
- 代理投下します
- 333 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:47:32.63 ID:9mWV8BsR0
-
1.始原
全ての始まりの時、人は何も持たなかった
体には苦痛、心には憎悪の他には何も
争い傷つけあいながら、
死ぬことすらかなわず
永遠の泥土の中に、人は絶望していた
2.誕生
ある男は太陽に蛇を捧げ、救いを祈り
ある女は太陽に葦を捧げ、喜びを願った
大地に蔓延する悲しみを憐れみ、
神はこの一組の男女から生まれた
3.救済
神は時間を作り、昼と夜を切り分けた
人に救いの道を示し、喜びを与え
そして人から無限の時間を預かった
- 334 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:47:52.64 ID:9mWV8BsR0
-
4.創造
神は自分に従い、人を導く存在を作った
赤の神スチェルバラ
黄の神ロブセル・ビス
そして大勢の神達と天使である
最後に神は楽園を作り出そうとした
ただ人が在るだけで幸せに足る世界
5.約束
しかし神はそこで力尽きて倒れた
世界の誰もがそれを嘆き悲しんだが
神はそのまま息を失い、土へと還った
今一度、生まれてくることを人に約束して
6.信仰
神は失われたわけではない
私たちは信仰を忘れず、祈りを捧げる
楽園への道が開かれる日を
待ち望みながら
- 335 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:48:18.46 ID:9mWV8BsR0
- 荒廃しきった旧校舎の廊下で、コツコツと反響する自らの足音と化物共の徘徊する気配を聞きながら、宮田は頭の中に微かな疼きを感じていた。
飛び散った血液の生臭さと、鉄錆の臭い。
長い年月完全に放置されていたかの様に、薄汚く変色している壁や天井。
この校舎内は――――いや、この世界は、自身の受け継いだ病院「宮田医院」の隠し地下施設を連想させるのだ。
宮田家は、羽生蛇村の有力者・神代家の為ならば合法、違法を問わず、どの様な汚れ仕事でも引き受けてきた一族。その地下施設は言わば、村の暗部の集積場。
生者に敵意を剥き出しにして牙を向いてくる異形の者の存在は、あの地下で隔離されている人の出来損ないの様な化物の事を思い出させた。
幻覚の中で見た鎖に雁字搦めにされていた人々は、村の為に、神代の為に、と地下に収監、排除してきた人間達の事を思い出させた。
決して陽の目を見る事のない、白日の下に晒してはならない掃き溜め。
そんな言葉こそが、あの地下施設に、そしてこの世界には相応しい言葉のはずだ。
それなのに。そのはずなのに。
「 このせかいは『らくえんへのとびら』なの 」
あの幻覚の中で、おかっぱ頭の少女は確かにそう言った。
『楽園への扉』。ここは、『楽園』とやらを創造する神が復活する為の世界だと言うのだ。
その言葉を思い返し、思わず宮田は嘲笑を零していた。
眞魚教での楽園と言えば、幻想的な赤い海が広がり、地面一面には深夜に一度しか咲かないはずの月下奇人が咲き乱れている、永遠の命が約束される神の世界。
求導師が――――その一身に村人達からの期待と敬慕の念を集める存在が導く、神の世界だ。
そのイメージとこの世界の様相は、余りにもかけ離れ過ぎていた。
「こんな世界が、楽園へ繋がると言うのか? これが……神の御業だと言うのか?」
頭の中の微かな疼きの正体は、苛立ちだった。
こんな、暗闇に閉ざされた世界が。あの宮田医院の地下と大差ない世界が楽園への道だとは、宮田に対しては強烈な皮肉だ。
いや、この世界が眞魚教の楽園ではない事は理解している。これは異教の楽園。求導師の導く楽園とは違う世界だ。それは、充分理解している。
だがそれでも、宮田医院と重なる世界を楽園と呼ぶのは、気に食わなかった。
あんなものは楽園ではない。
羨望。空虚。憎悪。様々な感情を殺し、影に徹してきた自分の裏の行動全てが押し込められている場所が、あそこだ。あんな場所が楽園であって、たまるものか――――。
「…………………………ふん」
冷静さを欠いていた事にふと気付き、宮田は浮かべていた嘲笑を自身に向けた。
そして、すぐに口元の歪みを消し、作るのは一欠片の感情も読み取れぬ仮面の様な表情。
そうだ。感情的になるには早過ぎる。
今はまだ、少女から聞いた――――いや、少女『が』聞いた情報の全てが正しいと決まった訳ではない。
少女が見た――――少女が『見せてもらった』物が正しいのかどうか。それをこの目で確認し、裏付ける為に、自分は今ここに来たのだ。
苛立ちは、押し殺す。いつもの様に、感情は抑え込む。
怒りに打ち震えるのは、後でいい。この世界で何が起きているのか、確信を得たその後で。
一つの部屋の前で、宮田は足を止めた。
見上げた視線の先にあるのは、『図書室』と表記された今にも朽ち果てそうな木製のプレート。
少女が見知った情報は、ここにあるはず。ここが、この世界の謎を解き明かす為の第一歩のはずだ。
- 336 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:48:46.13 ID:9mWV8BsR0
-
雛城高校旧校舎2F・図書室
血液の生臭さと鉄錆の臭いに混じり、充満しているのは古書の特有の臭い。
通常の高等学校と同じく、それなりの量の本がこの図書室内には置かれていた。
一通り室内を回り、本棚に並べられている本の背表紙を眺めてみるが、特別に目立つ本はない。
ここに来ればすぐに目当ての本が見つかると思っていたが、その見通しは甘かったのか。
机に腰をかけて棚を見返し、一冊一冊調べなければならない作業を想像する。宮田の口から、溜息が吐き出された。
夕方に鳴り響いたものと同様のサイレンが轟いたのは、その直後だった。
校舎全体が振動で震える中、世界はやはり夕方同様変わり行く。
血や鉄錆、その悪臭。生理的嫌悪感を醸し出すものが全て消え、残ったのは何処の高校にもある様な図書室と、古書の臭い。
既に真夜中である故に暗闇が晴れる事はないが――――『表の世界』に戻ったのだ。
「サイレンにより世界は裏返る…………か」
確かめる様に、宮田は周囲を見回す。世界が薄汚れていた痕跡は、綺麗に無くなっていた。
だからと言って、やる事が変わった訳ではない。宮田は諦めた様に机から立ち上がり、手前の本棚に手を伸ばした。
「 こっちだよ 」
背後から投げ掛けられた――――いや、脳内に響いたのか。
奇妙な、そして無邪気な声に振り向けば、いつの間にかそこには先程のおかっぱ頭の少女が立っていた。
「……こっち?」
少女は静かに手を持ち上げ、机の一つを指さした。
その上には、世界が変化する前には見当たらなかった幾つかの用紙や本が乱雑に積み重ねられている。
- 337 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:50:03.45 ID:9mWV8BsR0
- 「……そうか。あなたは『裏の世界』には来れなかったのでしたね」
これも少女から聞いた情報だ。
世界はサイレンと共に裏返る。
一度目のサイレンが鳴り、世界は変貌した。――――その様に、宮田達には見えた。
だが、実際には少し違う。
世界はサイレンと共に『裏返る』
『表の世界』から『裏の世界』へと『裏返る』
すなわちそれは、『表』に対する『裏』が存在するという事。
世界は変貌を遂げるのではない。2つの世界は同時に存在しており、そしてサイレンでもう1つの世界へと移行するのだ。
とは言え、変貌だろうと移行だろうと、それが分かったところで宮田としては大差はない。
サイレンで世界が裏返れば、それに抗う術も無く、宮田はもう1つの世界へと引きずり込まれるのだから。
しかし、少女は少々違う。少女は、最初のサイレンで何故か『裏の世界』には移行出来ず、『表の世界』に取り残された。
そこに意味や理由があるのか――――分からないが、その後少女は『表の世界』の図書室で情報を集めたと言う。それが机の上に積まれている書物類なのだろう。
積み重ねられている山を、上から順に確認していく。
『サイレントヒルのルール』
『街を徘徊する怪物の情報』
これらの用紙には、ハリー達と確認した時と同じ、或いは少女から聞かされた通りの情報が表記されていた為、目新しい情報は無い。
『呼ばれし者の名簿』
記載されている名前の中に『牧野慶』『神代美耶子』の文字を見つけた時、宮田は直ぐ様少女に問いかけた。
名前の上に引かれていた赤い線。これは何を意味するのか、と。
答えを聞く前から、宮田にはある程度の想像はついていた。果たして少女の返答は、簡潔でありながらも宮田の想像通りのもの。
「 死んじゃった人 」
あの牧野慶が、死んだ。
幼い頃から憎み続けた、しかし、自分の分身でもある兄が、この世界で生命を落とした。
宮田の胸中には何とも言えぬ息苦しさが広がっていた。
それは、やり場を無くした憎悪が渦巻いているのだろうか。それとも単純に兄を失った悲しみか。或いは、これで何の躊躇いもなく求導服を纏える事への歓喜なのだろうか。
宮田には、分からない。だが、何にしても。
「……これで求導師は、代替わりですね。………………牧野さん」
誰に語りかけるでもなく、宮田は言葉を漏らした。感情の読み取れない視線を『牧野慶』の名前に落としたまま。
- 338 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:51:01.91 ID:9mWV8BsR0
- 束の間の静寂。宮田は一つ息を吐き出し、視線を動かした。
名簿に記載されているその他の知人の名前は、この街で出会ったハリー、ジム、風間と彼等から聞いたシビル・ベネットや逸島チサトの名を除けば求導女『八尾比沙子』のみ。
とりあえずそれだけを記憶に留めて、宮田は次を手に取った。
それは、とあるページが最初から開かれている一冊の本だった。
タイトルには『礼賛文書』と書かれている。この街、サイレントヒルに根付いていた土着信仰から発展した独自宗教の聖典らしい。
開かれていたページに書かれているのは――――サイレントヒルに伝わる神話と、神を目覚めさせる方法。
それは、この街で起きている異変の正体として、おかっぱの少女が宮田に伝えた情報だった。
その神話は『全ての始まりの時、人は何も持たなかった』の一文から始まり――――。
「『――――祈りを捧げる。楽園への道が開かれる日を待ち望みながら』……か。
……なるほど。少なくともあなたがあの幻覚の中で言っていた事は全てが本当だった。
という事はあそこに囚われた人々も、実際の形はどうあれ存在するのでしょうね」
「 あの子も、いるよ 」
「……そうですね。ここであなたにこれらの情報を与えた『がいこくのお姉ちゃん』も実在するのでしょう。
そして……『メトラトンの印章』、でしたね?」
宮田は最後の本『異界の法則』と『少女が受け取った』という地図を見比べながら、幻覚の中で聞いた単語を反芻した。
おかっぱの少女は、単独でこれまでの情報を探り当てたわけではない。少女に情報を提供した者は別に存在する。
それが、少女曰く『がいこくのお姉ちゃん』だ。
『がいこくのお姉ちゃん』はここで花子さんに情報の他に手書きの地図とペンダントを託した。
その手書きの地図に記されているのは、このサイレントヒルでメトラトンの印章――――魔封じの力を持つ強力な魔方陣――――を描くべき幾つかの場所。
それを完成させれば、この怪異を終わらせる事が出来るというのだ。
だが、これはあくまでも花子さんが『がいこくのお姉ちゃん』から聞いた情報に過ぎない。
幻覚の中での花子さんとの会話は事実。それは証明出来たと言える。
それでも、肝心要の『神の復活による楽園の創造』、そして異変を終わらせる為の『メトラトンの印章』に関する話の裏付けは取れていない。
『がいこくのお姉ちゃん』の存在は確かなものなのだろうが、情報自体の信憑性は不明だ。
仮に『がいこくのお姉ちゃん』が彼女にとっての真実を話しているとしても、その情報そのものが間違っている可能性は無くはない。
そもそも彼女は何者なのか。何故花子さんに情報、地図、ペンダントを託したのか。託した後は何処に消えたのか。そして、メトラトンの印章とは、どう描けばいいのか。
新たに生まれたそれらの疑問を解き明かす為にも、まずは『がいこくのお姉ちゃん』と接触する必要がある。
「一応聞きますが、『がいこくのお姉ちゃん』が何処に居るのかは……」
宮田の問いに、少女は首を振った。どうやら、手がかりは無いらしい。
『異界の法則』でメトラトンの印章の情報を確認し終えると、宮田は本を机の上に戻した。
確認出来る情報はこれで全て確認した。この図書室には、もう用はない。
- 339 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:51:43.72 ID:9mWV8BsR0
-
「時間はいくらあっても足りない。俺は行きます」
礼を告げて身体を翻す宮田を、「 まって 」と少女は引き止めた。
振り向くと、少女は今度は宮田の身体を指さしている。
「……何です?」
「 お水、こっちには来れないよ 」
少女が指しているのは、白衣のポケットの容器だった。
蓋を開け、中を覗く。中は、空になっていた。
「……なるほど。それを先に教えて頂きたかった」
「 お薬は、悪いお水や悪いかみさまをこらしめるの 」
一度聞いた情報だ。
それを再び口にする少女の真意が分からず、宮田は怪訝な顔を向けるが、続いて紡がれた言葉にその表情は得心のものと変わった。
「 お水のあとに飲むと、死んじゃうよ 」
「……効果を打ち消す訳ではないのですか?」
「 死んじゃうよ 」
繰り返される否定。
容器を一瞥し、宮田はそれを机の上に置いた。使えぬ物ならば持っていても邪魔なだけだ。
宮田は再度少女に礼を告げ、図書室の引き戸を開けた。
何処に居るかも分からぬ『がいこくのお姉ちゃん』を見つけ出し、情報の真偽を証明する。
ここから先は、図書室内の調べ事とは比べ物にならない程の労力が必要とされるが、投げ出す訳にはいかない。
幼い頃からずっと、誰よりも強く憧れていたあの求導服を纏う資格は、真実を明らかにして初めて得られるはずなのだから。
人々を導く役目は、何よりも自身が成すべき事を理解せずして全う出来るはずがないのだから。
それが、求導女の操り人形と成り下がっている牧野慶をずっと見てきた――――否定してきた、宮田なりの解釈。
地下にある『過去の羽生蛇村』を目指すのは――――その後だ。
- 340 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/01(火) 23:52:33.43 ID:9mWV8BsR0
- 雛城高校旧校舎2F・廊下
廊下は、奇妙な程に静けさを増していた。
図書室に入る前までは確かに聞こえてきていたはずの化物共の蠢く気配。
何故かは分からないが、それが今はまるで聞こえて来なかった。
それ故に――――宮田の耳は、その音を正確に拾っていた。確かな意志を持って、長く暗い廊下の奥から宮田の元へと近付いて来る、その足音を。
「お前、さっきの…………いや、違う奴か?」
警戒する宮田の視界に、その姿が朧気に浮かび上がってきた。
巨大な三角錐の金属で完全に覆われた顔を宮田に向けて、そいつは廊下をゆっくりと歩いてきた。
手に持つのは先程の巨大な鉈とは異なり、長槍。
レッドピラミッドシング――――罪人を裁く、断罪者。
図書室の用紙には、確かそうあった。
「俺を裁く為に来たのか」
三角頭は、答えない。
宮田も、答えを求めようとは思っていない。
「『宮田司郎』を……裁きに来たんだな。……ふん、当然だな」
それが決して抗えない運命だったとしても、宮田が羽生蛇村で行ってきた事は、言ってしまえばただの犯罪だ。
本来ならば、裁かれない道理がない。裁きを受けて、当然の人間なのだ。それは宮田も嫌という程自覚している。言い逃れようもない。だが――――。
一発の銃声が、廊下に響き渡った。
宮田の手の中から硝煙が立ち昇る。
槍を持つ巨人の歩みが、止まった。
「だけどな、それはお前の仕事じゃないんだよ」
そう。宮田を裁く者は、既に決まってる。
花子さんの幻覚を見せられた時から――――求導師としての役目を意識した時から、既にそれは決まっていた。
それが、『医師・宮田司郎』としての最後の役目だ。その役目は、譲れない。
「お前など必要ない。『宮田司郎』は――――俺が殺す……!」
断罪者が、確かに一歩、退いた。
- 341 :◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/02(水) 00:08:31.51 ID:AXwAX8t00
- 【A-3/雛城高校旧校舎2F・廊下/二日目深夜】
【宮田司郎@SIREN】
[状態]:健康
[装備]:拳銃(4/6)、ネイルハンマー、二十二式村田連発銃(5/6)
[道具]:懐中電灯、ペンダント@サイレントヒル3、ハンドガンの弾(30/30)
花子さんから受け取った手書き地図、ルールと名簿の用紙、クリーチャー情報の記載された用紙
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びてこの変異の正体を確かめ、此処に捕われたものを救済する。
0:三角頭を撃退する
1:『がいこくのお姉ちゃん』を探し出して話を聞く
2:変異についての情報が真実だと確認出来たら地下に存在する『過去の羽生蛇村』へ向かう
※花子さんから様々な情報を得ました。
※花子さんから受け取った手書き地図には、『メトラトンの印章』を配置する場所が記されています。
※『がいこくのお姉ちゃん』の情報が正しい物なのかは現時点では不明。後続の書き手さんに一任します。
代理投下終了です。タイトルは「双子ならば、同じ夢を見るのか」です
- 342 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/03(木) 00:24:51.18 ID:srAQItpn0
- 代理投下乙でした!
- 343 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/14(月) 21:45:37.49 ID:Zj81razT0
- 今期月報であります。
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
108話(+7) 31/50 (- 1±1) 62.0 (- 2.0)
- 344 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/21(月) 21:32:52.76 ID:NydslymO0
- 代理投下します
- 345 :遠い出来事 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/21(月) 21:33:47.02 ID:NydslymO0
-
自分はもう“人間”ではない。
自分はもう“自分”ではない。
北条悟史がその事実を改めて確信してしまったのは、ワゴン車の死体を見つけた時だった。
感情は、どうしようともコントロールが出来なかった。
殺人を微塵も躊躇う事のない、心が凍りついてしまったかの様な酷薄過ぎる冷静さ。
自らの身体に起きている異変への、押し潰されてしまいそうな恐怖と焦燥。
相反する二つの感情は決して共存する事は無く、一方がより濃くなれば、一方がより薄くなり、まるで波の様に移り変わった。
だが、時間の経過と共に、その頻度は次第に減少していった。
さ迷い歩く街中が、徐々に赤みがかっていく。視界が赤で染め上げられていく。
その赤みが増せば増すほど、頭の中が決して望まない冷静さに侵食されていく。
それが、物語っているのは何なのか――――。
怪物化が、加速していく。本能がそう伝えていた。
人としての感情は、もう二度と取り戻せなくなる。身体の中の何かが、そう、伝えていた。
最早、葛藤やストレスを感じる時間は残されていなかった。
それでも、理性は抵抗を見せていた。
時折周囲に感じ取れる生き物の気配。その度に生じる殺意の衝動。
それを理性で押さえ込み、気配からはすぐに身を隠すか、或いは逃げ出すかした。
怖い。変わりたくない。殺したくない。関わりたくない。
もう心には僅かにも響かない呟きを、意識的に繰り返しもした。
恐怖は感じなくなっていた。それでも怖がる振りをした。
殺意に嫌悪感を覚えなくなっていた。それでも否定する振りをした。
人間らしさを保つ為に。人間で在り続ける為に。それが彼の理性に残された最後の抵抗だったのだ。
あまりにも無意味で、空々しさすら感じる抵抗をしながら、彼は赤い世界をさ迷い続けた。
居るのか居ないのかも分からない妹を探して、赤い街の中をさ迷い続けた。
そうして辿り着いたのが、ワゴン車のある街外れ。彼の妹が死んでいる、この場所だった。
そこで、何よりも先に視界の中に飛び込んできたのが、見間違えようもない、妹の死体だった。
あれだけ大切に思ってきた妹が、死んでいた。
叔母を殺害してまで守ってやろうとした妹が。
その身を人殺しに堕としてまで守ってやりたかった妹が。
あの時の叔母の様に。自分の足元で醜く崩れ落ちていた叔母の様に。物言わぬ塊となっていたのだ。
- 346 :遠い出来事 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/21(月) 21:34:30.18 ID:NydslymO0
- その沙都子を見つけた時、心の底から湧き上がったのは、どうする事も出来ない激情だった。
激情――――――――ただ、激情だけ。それだけだった。
沙都子を失ったというのに、生じたのは激情だけ。怒りだけ。自分から沙都子を奪った者に向かう殺意だけだったのだ。
そこには、沙都子を失った悲しみはなかった。こんなところで命を落とした沙都子に対する哀れみもなかった。沙都子に対しての想いは何も生まれなかった。
沙都子の存在は今や、空々しい呟きと同じ。どうでもいい事と成り下がっていたのだ。
そして、それに気付いた自分に対しても、動揺も、衝撃も、絶望も、何も感じられない――――。
化け物め――――あの学生の言葉が思い起こされる。
そうだ。
自分はもう“人間”ではない。
自分はもう“自分”ではない。
人として。北条悟史として。決定的な何かはもう、とっくに失われていた。
その時、それが漸く分かった。それを受け入れてしまった。
最後の抵抗を続けていた理性が、視界同様に赤く染まり行く。そんなが気した。抗おうとする意識はもう、働かなかった。
これで悟史は、守るべき者は失った。ならばやる事は一つだけだ。
自分をこんな風にした存在を排除する。
自分から沙都子を奪った者を排除する。
その二つの存在が同じ者かどうか。それは分からないが、生じる殺意を止める理由はなかった。
やがて彼は、妹の死体から静かに離れ、扉の開け放されていたワゴン車に近づいた。
死体の側に放置されたワゴン車。沙都子と関連付けて考えるのは当然の事。
沙都子を殺した者に関するものが何か残されていないか。そう考えて、扉の中に入り込んだ。
しかしそこにあったのは、見知った人間の幾つかの死体だけ。彼の求めるものは何もない。
諦めて外に出て周囲を見渡す彼の視線は、見慣れた建物の影で止まった。
「あれは……入江診療所?」
- 347 :遠い出来事 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/21(月) 21:35:33.42 ID:NydslymO0
- 赤い視界に――――既にそれにも違和感を覚える事はなくなったが――――確かに見えるのは、雛見沢村にあるはずの入江診療所。
悟史の脳裏に、フラッシュバックする記憶があった。
頭痛に襲われ、殺風景な部屋で目を覚ました記憶。
何故か着用させられていた拘束具に抵抗し、破壊する記憶。
そして部屋から飛び出し、廊下を走り、階段を駆け上がり、診療所を飛び出す記憶――――。
「そうだ……。僕は、あそこにいた……。どうしてなんだ……?」
この街が雛見沢村ではない事は確かだ。
それなのに、どうして入江診療所が存在するのだろうか。
どうして自分は入江診療所で拘束されていたのだろうか。
「拘束……この身体……もしかして………」
入江診療所で何かをされた。或いは何かをされた後に入江診療所に運ばれた。
思い付いたのは、映画や漫画の中ではありがちな、そんな馬鹿馬鹿しい展開だ。
だが、それ以外に思い付く事がないし、そもそも沙都子や友人達の死体が診療所の側にあるとなれば、診療所で何かが起きた事は疑いようがない。
少なくとも、自分がこの診療所に拘束されていた記憶は思い出されてしまったのだ。行ってみるしかないだろう。もしかしたら、何かの手がかりが残されているかもしれない。
「先生や鷹野さんは……いるのかな?」
沙都子の他に、ここにはレナ。魅音。詩音の死体があった。入江や鷹野もいる可能性は高い。
もしも二人が自分の身体と、或いは沙都子を殺した人間と関係があるのなら、その時は容赦する事はないだろう。
もしも何も関係がないとしたら――――その状況を想定した悟史の瞳は、不気味に赤く光った。
関係ないのであれば、必要ない。多種族は、いらない。
生じたのは、どちらにしても、殺意だった。
悟史は、ワゴン車にはもう二度と目をくれる事なく、診療所へと足を動かした。
妹や他人に、彼の優しさが向けられていた日々――――それはもう、遠い出来事。
【D-2/入江診療所/一日目深夜】
【北条悟史(支配種)】
[状態]:完全なガナード化、人間形態
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動指針:自分を化け物にした者への復讐
0:入江診療所内を探索してみる
1:入江か鷹野を探す
2:もう排他的本能に逆らう事はしない
- 348 :遠い出来事 ◇cAkzNuGcZQ 代理:2011/11/21(月) 21:35:52.88 ID:NydslymO0
- 代理投下終了です
- 349 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:53:24.96 ID:z+s6LWL00
- 代理投下します
- 350 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:53:54.22 ID:z+s6LWL00
- 「チッ、クソが。先に進めねぇだと?」
彼らは目的地までは目と鼻の先だというのに立ち往生をくらっている。というのも、ちょっとした水路が行く手を遮っているからだ。
「大体、地図に載ってねぇ水路ってのはどういう事なんだ。作者が誤表記したのか?」
地図に載らないのも当然だったその水路は余りにも狭くこの吸い込まれそうな暗闇の中でもライトを当てれば対岸が見える程度なのだから。
「まぁまぁ新堂さん別にそこの船着き場の上を通ればいいじゃないですか」
「それは御免だぜ。いいか圭一、こんな異様な色をした水だぞ?何が潜んでるか分かったもんじゃねぇ」
そう、その程度の水辺でも新堂が嫌がる理由は得体の知れない両生類と思われる生物の存在。直に見たわけではないがあの鮮明な映像からは容易に想像できたからだ。ジェニファーはツカサを撫でながら言った。
「でもマコト、戻るにしてもまたあの場所を通らなきゃいけないし…」
「分かってるさ、だから今考えてんだろうが」
ギラリとした視線を向けるとジェニファーは口を閉ざしたためツカサはそれを感じとり敵意の視線を向けた。
- 351 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:55:32.05 ID:z+s6LWL00
- ミス、修正された前半部分はこちら
人影が数人歩いて行く。湖畔の明かりに照らされながら歩いて行く。満身創痍では決してないが心身共々疲労の色は濃かった。しかし先頭を行くこの男、抜け目なくその事実に気づく。
「っと。んだよ………おい、お前等止まれ。ちょっと待て」
足に何かがつっかえたのか蹴躓きそうになった後、新堂誠は何やら柵のようなものに近付き考え込み始めた。
「どうしたのマコト、なにかあったの?」
ジェニファーがそう問うても、地面と柵の終わりに対して交互に睨み合いをするだけだ。次に圭一が気づく。
―――――そうか、この下にある出っ張りは門が外れて倒れたものなのだ、と
「……まぁまぁ、別に気にしなくてもいいんじゃないですか?危険なのは何処だって変わらないわけだし」
「それは御免だぜ。いいか圭一、こんなデカイ門を地面にめり込ますような奴だぞ?この先に何が潜んでるか分かったもんじゃねぇ。しかも門は内側じゃなくて外側に倒れてやがる。で、しかも俺達は幽霊以外出会ってない。
ということはだ、この先に陣取ってる可能性が高いということなんだぜ」
ジェニファーはツカサを撫でながら言った。
「でもマコト、戻るにしてもまたあの場所を通らなきゃいけないし…」
「分かってるさ、だから今考えてんだろうが」
ギラリとした視線を向けるとジェニファーは口を閉ざしたためツカサはそれを感じとり敵意の視線を向けた。
「なんだ、人間の言葉が解るのか?……な訳はねぇか」
ツカサを宥めるジェニファーの代わりに宙を見ているようだった深紅は何かをぼそぼそと言ったあと提案した。
「………あっちにあるホテルの窓を割って入れば、あっち側に行けます」
「え、でもそれ不法侵入じゃ……」
「………………………」
そう常ならばそれは犯罪行為である、やむを得ないならともかく『いるかどうかもわからない怪物が嫌だから』程度の理由で窓を割るなど常識人の考えることではない。ただ子供にその理屈は通らなかったようだ。
「それナイスアイディア!」
「なかなか大胆な事を言うじゃねぇか、才能があるぜ」
圭一だけならともかく一瞬深紅の提案に眉間に皺を寄せていた新堂まで乗り気である。ただ彼は何か含みありげな顔をしながらあることを確認する。
「ところで雛咲。建物までの間に、なにかいる様子はあるか?」
「いえ、いないと思いますけど」
「ほう……、なるほどな。なら、あっちは確認するまでもねぇか」
怪訝な顔をしながらも深紅は前を行く2人に付いて走り遂にそこまで到着した。不安げなジェニファーをよそに窓を叩き割ろうとする彼らを見ながら言い出しっぺは一人呟く。
「やっぱりこれ悪いことじゃ…」
- 352 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:56:23.17 ID:z+s6LWL00
- ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なんだここは?広間にしては、受付もなければ二階に行く階段もねぇ。ホテルとは名ばかりだな。しかもこりゃ…何処からか血の臭いがするぜ」
一番乗りした新堂は辺りを見回し不満たらたらに言った。確かに外と同じで錆だらけな上に何か異常な匂いもする極めつけは床に描いてある印だ、辺りを照らし出すほどの光を放つ不気味な三角の印章。それを見たとき新堂は直感で関わり合いになりたくないなと思った。
次に圭一が入りジェニファーが入り、最後に深紅が中に入る。深紅は2、3歩歩き部屋の内装を見た後身震いしながら進言する。
「ここ……横切るだけなら、長くいても仕方ないし、早く出ませんか?」
何か酷く陰鬱な、例えるならば被告人にとっての裁判所か処刑場のような印象を受けるこの場所に、何か以前霧絵と対峙したときのような圧倒的なプレッシャーを感じここには居たくないと感じたのだ。
「もちろんそのつもりさ、こんな場所に長居は無用だか………」
背後にはただただ壁があるだけだった。入り口以外には何も見えない、入って来た窓は元から存在しなかったかのように閉じられている。
「ちっ、閉じ込められたか」
言うが早いか新堂はその部屋を隅々まで調べ始める、考えにくいことだが人為的なものであれば閉じ込めたあと何もしない訳は無いからだ。あり得ないと思いながら待ち伏せを警戒しちまうのはクラブ活動のせいだな、等と考えつつ入り口の上を見るなり憎々しいような
親しいものを見たような複雑な表情になったがそれは幸い暗闇のお陰で圭一達には見えなかったようだ。
「お前ら、とりあえず次の部屋に進もう。後ろは見るなよ?」
「まぁ、確かにここで立ち止まってても仕方ないしな。行こうぜ雛咲さんジェニファーさん」
- 353 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:57:08.60 ID:z+s6LWL00
- ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なんだここは?広間にしては、受付もなければ二階に行く階段もねぇ。ホテルとは名ばかりだな。しかもこりゃ…何処からか血の臭いがするぜ」
一番乗りした新堂は辺りを見回し不満たらたらに言った。確かに外と同じで錆だらけな上に何か異常な匂いもする極めつけは床に描いてある印だ、辺りを照らし出すほどの光を放つ不気味な三角の印章。それを見たとき新堂は直感で関わり合いになりたくないなと思った。
次に圭一が入りジェニファーが入り、最後に深紅が中に入る。深紅は2、3歩歩き部屋の内装を見た後身震いしながら進言する。
「ここ……横切るだけなら、長くいても仕方ないし、早く出ませんか?」
何か酷く陰鬱な、例えるならば被告人にとっての裁判所か処刑場のような印象を受けるこの場所に、何か以前霧絵と対峙したときのような圧倒的なプレッシャーを感じここには居たくないと感じたのだ。
「もちろんそのつもりさ、こんな場所に長居は無用だか………」
背後にはただただ壁があるだけだった。入り口以外には何も見えない、入って来た窓は元から存在しなかったかのように閉じられている。
「ちっ、閉じ込められたか」
言うが早いか新堂はその部屋を隅々まで調べ始める、考えにくいことだが人為的なものであれば閉じ込めたあと何もしない訳は無いからだ。あり得ないと思いながら待ち伏せを警戒しちまうのはクラブ活動のせいだな、等と考えつつ入り口の上を見るなり
憎々しいような親しいものを見たような複雑な表情になったが
それは幸い暗闇のお陰で圭一達には見えなかったようだ。
「お前ら、とりあえず次の部屋に進もう。後ろは見るなよ?」
「まぁ、確かにここで立ち止まってても仕方ないしな。行こうぜ雛咲さんジェニファーさん」
- 354 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:58:13.18 ID:z+s6LWL00
- 目の前には二つの扉があった。もしかしたら片方が罠だったりしてなと戯れ言を言いながら扉を開けると…
「あっ。んだよ、同じ通路に繋がってやがったのか。誰だ、片方が罠だなんて言ったのは?全く無責任な奴だぜ、圭一はよ」
「はあぁ!?新堂さんだろ!!」
綺麗に突っ込みも入った所で新堂は立ち止まりポケットに入っていた口に銜え、通路の向こうを探りながら話を切り出した。ペンライトは両手が塞がると戦い辛いし、それに湖沿いだったためにある程度明かりはあったために今まで使ってこなかったのだ。
「なあ雛咲。お前が作りたがってる薬、実は効能がどんなものか知ってんじゃねぇのか?」
「えっ!?」
「実はな、俺もぼんやりとだが見えるのさ。霊ってやつがさ」
「…………」
新堂は後ろを振り向こうとする深紅を睨み付け、猫が鼠を見つけたような顔でニヤリと笑う。彼は本当は幽霊など見えない、ただ幽霊の気配を逸早く発見出来た事や自分達には見えなかった時にも目で追えていたこと、そしてそれに対する手慣れた指示と
度々見られた挙動不審な態度から大体の検討はついていたのだ。
「やはりそうか、ヨーコさんとやらはずっと其所にいたというわけだな?」
「どういう事だよ新堂さん。ヨーコって人は死んだって…」
「ああ、死んだんだろうな。だが、俺達には見えない状態で其所に居る。大方そんなところだろうさ」
「それは…………」
圭一もジェニファーも先の幽霊騒ぎの事もありその意味は一瞬で理解できた。これまで急に驚いたり青ざめたりしていたのも、今回の彼女にしては過激な発言もそれなら全て説明がつく。問い詰めようと迫る新堂。隠し事、それも『得体の知れない薬の製造方とその正体』
という街のルールのこともあり悪くすれば
全員を暗殺しようとしていた可能性すら考えられる。
それを問い詰めようというのだから通常誰も止めようとはしないだろう。しかしその前に圭一が立ちはだかった。
「止めてくれよ新堂さん!今は仲間同士で争ってる場合じゃないだろ!?」
「仲間?幽霊と組んで危険な薬物を作ろうとしていたかもしれない奴なんだぜ?」
- 355 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 18:59:27.82 ID:z+s6LWL00
- 圭一はその言葉に無性に腹がたった。いや、正確には昔の自分を見ているようで胸を痛めたという方が正しい。彼は遠い別の雛見沢で病に侵され仲間を信じることが出来ず、殺してしまったことがあった。その時もダム反対運動の事件を
掘り返し園崎の人間が裏で糸を引いていた等と言い友人を傷付けていたのだ。
秘密を黙っていたからといって被害妄想に取り憑かれ雛咲深紅を責め立てることと何が違うのか?
「本当の事全部言わなきゃ仲間じゃないなんて、そんなのおかしいぜ新堂さん。大切なのは、どんな時でも信じることだろ?」
新堂は選択を誤ったと思った。バーでの自己紹介を考えれば圭一の仲間への信頼は非常に堅いものである事は一目瞭然、この場においても信頼を優先するのは目に見えていたのに殺害目的ではないかと疑うのは不味い。
つい癖が出てしまった事に反省しつつ本題を切り出す。
「…だとしても、薬については喋る義務があるぜ。この場にいる全員に関係ある薬だと言ったんだからな。こんな状況だ、後々雛咲も殺されるかもしれないだろ?こっちは霊が見えるわけでもない、そんなに重要な薬なら皆が知っておいた方がいい。違うか、圭一?」
流石の圭一も言葉をつまらせる。まだ詳細は知らないがもし薬が人を死に至らしめる物ではなかったとしても脱出の為のキーアイテムにはなるかもしれない。何にせよ聞いてみなければ話が進まないのは事実であった。圭一の肩に深紅の手が置かれる。
「……解りました。冷静に、聞いてください」
深紅は話した。ウィルスの事、その治療に必要なデイライトという薬品、Tーブラッドが必要な事、何故黙っていたのかも………。
「マジかよ、じゃあ早くしないと…………」
「はい、彼らと同じ様に人を襲ってしまう存在になるでしょう」
圭一の脳裏には自らの腐敗した姿が映る。何しろ実際にその目で見たのだ、鮮明に映し出されて当然。もしも最初の犬との戦いで傷を負っていて、薬が間に合わなかったならアレが未来の姿となっていただろう。
「じゃあツカサは、ツカサはどうなの?」
「どういう事だよ?まさか噛み付いた訳じゃあるまいし気にしなくても…」
「そのまさかよ!ツカサ、ごめんね…私のために……」
- 356 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:01:18.81 ID:z+s6LWL00
- それに対し気が気でなかったのはジェニファーだ。勇敢に戦い武勲をたてたせいで死ぬ等悲劇と呼ばずしてなんと呼ぼうか。例によっていつも通り空気の読めない発言をした圭一はばつの悪そうな顔をしているしかなかった。
ツカサは、ただの犬だ。ただし頭のいい犬だ。朧気ながら今の状況は理解している。自分が何か取り返しのつかない悪いことをしたのだろうと、だからこの場に初めて来た時知り合った彼女は謝りながら泣いているのだろう。だから少年の肩越しに見える男の目が化物を撲殺する時の
阿部の瞳と同じ様に殺意に満ちているのだろう。
ツグナワナケレバトオモッタ。
今入ってきた扉が少しずつ開いていって中から赤い光が漏れ出している。部屋の中を今まで満たしていた光とは違う、悪意を感じる光だ。
次に巨人が入ってきた。掠りでもしたら病気にかかりそうな程に錆びた鉄の槍を持ってこちらへ近づいてくる。
「逃げるぞ、早くしろ!何やってるこっちだ」
「待って!ツカサが、ツカサが!」
ツカサは後退りしながらも巨人に吠え威嚇した、償いまた主人の笑顔を見るために。新堂は舌打ちの後これまでの鬱憤と倦怠感もありかなりキツメに鳩尾を強打しジェニファーをかつぐ、無論新堂誠という人間が親切で
そんなことをするはずはない。先に行った圭一や深紅が後戻りし始めた事に
危機感を感じ気絶させたのだ。故にツカサは置いて行く、
むしろいつ何時牙を剥くかわからない病気持ちが
自分達を守るために死にに行くなら万々歳もいい所。
「オラッ、行くぞ。あの犬の勇気を無駄にすんじゃねぇ!」
「クソッ!見捨てるしかないのかよ!」
悲鳴が聞こえチラリと後ろを見れば、モズの早贄のように串刺しにされながらも腕に噛みつき抵抗するツカサの姿があった。
しかしその姿もすぐに様変わりすることになる―――――
- 357 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:02:53.55 ID:z+s6LWL00
- 「……気絶させといて、正解だったな」
後から来た光に包まれた瞬間、全身が急速に衰弱しだしたツカサの体は錆びた鉄の表面が剥がれ落ちるようにポロポロと朽ち果て始めた。あれほどツカサを思っていたジェニファーが見たならきっと心身共に崩れ落ちていただろう。
怪人の歩みはともかく赤い光は容赦の無い早さで迫る、
まるで病原菌が体内を汚染して行くかのように…。ドアを抜け、角をいくつか曲がったが
1つ2つ進行方向を間違えればすぐ追い付かれそうだった。
内鍵の閉まったドアに苛立ちを覚えつつもともかく必死に入れる場所を探す。
「開いたぜ新堂さん!早く!」
「よし!早く閉めろ、時間稼ぎにはなるだろ」
扉を閉めバリケードを作ろうと辺りを見回す、そこはこれまでとは全く違う内装、否全く違う世界だった。
「なんだここは、ホテルの部屋にしちゃ生活感が有りすぎやしねぇか?それに何故夕日が……。まあいい、とりあえず窓を壊して外に出るぞ。圭一お前はバリケードを頼む」
あれに追い付かれたらおそらく成す術も無い、各々必死の思いで作業を始めた。窓は一般的な作りだったしそこにはバリケードに使えそうな物は豊富にあった。
本棚、ベッド、机、クローゼットの中にも何か入っているかもしれない。
ただ物を動かしたり壊したりする簡単な作業、しかし一向にそれが進む気配はない。
「割れねぇ、なんだこの窓は。防弾硝子でも使ってやがるってのか?そっちはどうだ!?」
「こっちもダメだ!根付いたみたいに全く動かない!」
- 358 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:04:29.11 ID:z+s6LWL00
- マズイ、マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!!!
どうする?どうすればこの状況を切り抜けられる?考えろ、クールになれ前原圭一、逃げる事も立て籠る事も出来ない。ならどうする?どうすれば、アレはどうだ?
いや、鉄パイプであの微動だにしない棚を動かせるわけ無い。引き出しの中は、
ベッドの下は!?そんな所を探してる時間は………………………………………………………………………………………………………………………………………………
…………あれ?
「……、新堂さん」
「あ゙ぁ!?なんだ圭一、役に立たねぇ情報だったらブッ殺すぞ」
「いやぁよく考えたらさ、遅くね?」
「何?……確かにもう入ってきてもいい頃だが。まさか、引き返したか?」
扉の向こうはまるで今までの慌て様を嘲笑うかのように静まり返っている。何があったのだろう、奴等は何者で何処から来て何処へ消えたと言うのか。まだバリケード作りは続けた方が良いのだろうか?
そんなものは細事だ。
今彼らの居る場所の重要さに比べれば鼠と象を比べる様なものだ。そこは三人の…いや厳密には一人ぼっちの少女の思い描いた理想郷、帰るべき場所、英雄の寝所、
父の懐。元々この場所に根付いていた意思を訪れた強力な意志が、
皮肉な事に同じ存在への感情を180度回転させた形で塗り替えたのだ。
この場所にはサイレントヒルの過去が眠っている。
- 359 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:05:41.10 ID:z+s6LWL00
- 【ツカサ・オブ・ジルドール@SIREN2 死亡】
【D-3/リバーサイドホテル???/一日目夜中】
【新堂誠@学校であった恐い話】
[状態]:銃撃による軽症、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:ボロボロの木製バット
[道具]:学生証、ギャンブル・トランプ(男)、地図(ルールと名簿付き)、その他
[思考・状況]
基本行動方針:殺人クラブメンバーとして化物を殺す
1:研究所へ向かう
2:安全を確保するまでは名簿の死亡者については話さない
3:安全な場所でジェニファー、特に雛咲から情報を得る
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:銃撃による軽症、赤い炎のような強い意思、疲労(中)、L1
[装備]:悟史の金属バット
[道具]:特に無し
[思考・状況]
基本行動方針:部活メンバーを探しだし安全を確保する
1:研究所へ向かう
2:安全な場所でジェニファーから情報を得る
3:部活メンバーがいれば連携して事態を解決する
- 360 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:06:45.31 ID:z+s6LWL00
- 【雛咲深紅@零〜zero〜】
[状態]:T-ウィルス感染、右腕に軽い裂傷、疲労(小)
[装備]:アリッサのスタンガン@バイオハザードアウトブレイク(使用可能回数7/8)
[道具]:携帯ライト、ヨーコのリュックサック(P-ベース、V-ポイズン、ハンドガンの弾×20発、試薬生成メモ)@バイオハザードアウトブレイク
[思考・状況]
基本行動方針:ヨーコの意思を引き継ぐ
1:研究所へ向かう
2:安全な場所でジェニファーから情報を得る
3:幽霊……触れるなんて……
※怨霊が完全に姿を消している時でも、気配を感じることは出来るようです。
【ジェニファー・シンプソン@クロックタワー2】
[状態]:健康、気絶中
[装備]:私服
[道具]:丈夫な手提げ鞄(分厚い参考書と辞書、筆記用具入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ここが何処なのか知りたい
1:…………。
2:安全な場所で三人から情報を得る
3:ここは普通の街ではないみたい……
4:ヘレン、心配してるかしら
※ホテルロビーにメトラトンの印章が描かれています
状態表後
街角、丁度地図上右上研究所ホテル間に位置する通りでは、
一匹のトカゲとも犬ともつかない猛獣が縦に裂けた巨大な口を動かし屍人もゾンビもその一切を噛み砕き下水と生ゴミを煮立てたような口臭のエッセンスの一つに加えていた。人々が鼻を摘まみ逃げ出すそれらを潰し呑み込んでゆく姿は、
どこかゴミ処理場のそれに似ている。
(彼にとっては)良い匂いを感じとり、巨大な体をくねらせてその通路を奥へ奥へと進んで行く。涎を垂らし、汚泥を求めて―――――
※Dー3通路にスプリッドヘッドがいます。
- 361 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:08:03.79 ID:z+s6LWL00
- 代理投下終わりです
タイトルはまだ未定みたいです
- 362 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:12:21.31 ID:MrCo5Hr80
- 代理投下乙でした! 後10KB! 次の投下で終了かな?
- 363 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:17:14.42 ID:z+s6LWL00
- 代理投下する時は今回みたいに大きく遅れなければまた俺がすると思うからその時に新スレ立てるよ
- 364 :ゲーム好き名無しさん:2011/11/30(水) 19:22:42.86 ID:MrCo5Hr80
- 了解です! いつもありがとうございます&よろしくお願いします!
- 365 :ゲーム好き名無しさん:2011/12/02(金) 17:00:21.95 ID:i7tmLTDR0
-
ワイが聞いた情報によると、もうじき中国はバブルがはじけて昔の貧乏な中国に戻るらしいで
もう経済は破綻してて、取り戻すのは無理なんだそうや
その世界ではごっつい有名な政府関係者筋から聞いた確かな情報やで
まあお前ら頭の良い連中には、今さらなくらいのネタやな、
お前らからすればもう常識的なくらいの知識やろ?
- 366 :ゲーム好き名無しさん:2011/12/03(土) 12:35:09.01 ID:75IGaSRl0
- そいつは確かにホラーだがゲームじゃないんだぜw
- 367 :ゲーム好き名無しさん:2011/12/07(水) 20:18:46.25 ID:VBd+XqSK0
- 板移転したのね
- 368 :ゲーム好き名無しさん:2011/12/13(火) 19:54:18.28 ID:8zQ1XYBC0
- 代理投下は出来るんだけどスレ立てが出来ないのよね……
どなたかスレ立てお願いします
- 369 :ゲーム好き名無しさん:2011/12/13(火) 21:03:07.97 ID:Bn/rWlpV0
- 建てられたよー
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/1323777709/l50
- 370 :ゲーム好き名無しさん:2011/12/13(火) 21:43:56.01 ID:8zQ1XYBC0
- >>369
素早い対応乙です!
じゃこっちは埋めるか
- 371 :今はそれどころではない ◇cAkzNuGcZQ氏代理:2011/12/13(火) 21:45:19.15 ID:8zQ1XYBC0
- 額から流れ落ちるのは冷や汗か、それとも単に全速で走った故の生理現象か。
どちらにしても、スポーツでかく「良い汗」というやつとは程遠いものだ。
心地悪さすら覚える液体をYシャツの袖で拭い、荒い呼吸を整えながら、新堂は圭一の背中を睨みつけていた。
「……どうだ、圭一?」
圭一は今、内開の扉に耳を当てて廊下側の様子を窺っている。時間にして、数十秒というところか。
それは、廊下からは何も聞こえてこない事を証明している事と同義ではあるが、確認を取らずにはいられなかった。
「……大丈夫……だと思う」
扉を細く開けて様子を覗い始める圭一。
一瞬だけ不安が脳裏を過ぎるが、扉の隙間からは巨人の足音も、先程の赤い光が立てていた奇妙な甲高い音も、どちらも一向に聞こえてはこない。とりあえずはだが、脅威は二つとも過ぎ去った様子。
圭一が扉を閉めて振り返る。それを合図にするかの様に三人は顔を見合わせ、大きく息を吐き出した。
「でもこれからどうする? 新堂さん」
「どうするって、決まってんだろ?」
新堂は一旦言葉を切ると、部屋の中を見渡した。
ベッドの上に放り投げたジェニファーは、まだ目覚める気配はなさそうだ。
「こんなわけの分からねえホテルからはとっとと出るぞ。
立て籠もるにしたってこの部屋はねえ。窓も物もこっちのドアも動かねえし。
出入り口が一つしかねえんじゃ、いざって時に逃げられもしねえんだからな」
付け加えれば、新堂はこの部屋自体も違和感を感じていた。
室内は、夕日のせいか、どこかノスタルジックで居心地はそう悪くない。
しかし、これほど立派なホテルにしては、シングルルームだと仮定してもこの一室は狭すぎるのだ。
現在四人の人間が部屋には入り込んでいるが、全員が動き回るには多少の窮屈さを覚える程度には狭い。
どちらかと言えば、感じ取れる生活感や間取りからしても、アパートやマンションの一室と考えた方がしっくりくる部屋だった。
何故そんな部屋が当たり前の様に存在するのか。そんな事は知らないが、何かがあっても不思議はない。
それが、もしも罠の類だったら。
巨人も赤い光も、この部屋に誘い込む為のギミックだったとしたら。
――――――――今度こそ、全滅しかねない。
- 372 :今はそれどころではない ◇cAkzNuGcZQ氏代理:2011/12/13(火) 21:46:40.18 ID:8zQ1XYBC0
- 「それに、下手に立て籠もってる時間なんざねえよ。なあ、雛咲?」
ネコ科の猛獣の様な鋭い視線を、新堂は深紅に投げつけた。
その深紅は、口篭り、顔面に怯えと蒼白を張り付かせてしまっている。
「お、おい、新堂さん! 雛咲さんだって悪気があって隠してたんじゃないんだ!
俺達に心配をかけまいとして――――」
「うるせえな、別に文句言ってんじゃねえよ。ただ事実を確認しただけ――――」
口を挟む圭一を疎ましげに遮るが、ふと新堂は深紅に視線を戻した。
一つ、聞きそびれた話がある事を思い出したのだ。
「……そうだ、雛咲。ウィルスの事でまだ確認しておく事があった。早い内にな」
「な、何ですか……?」
「『ヨーコさん』は、いるんだな?」
「……はい。ここに……」
「ふん。さっきの光に巻き込まれて消えちゃいなかったか」
深紅への視線を、新堂は深紅が見た方向へと向けた。
そこには、朧気にすら何も見えないが、確かに『ヨーコさん』がいるのだろう。
これでは本当に消滅していても新堂には分からない。そもそも赤い光が幽霊に通用するのかは疑問だが。
「このウィルスってのは感染したらどのくらいで発病する?
感染経路はどうだ? まさか空気感染はねえだろうな?」
しばし、深紅が何もない空間に向かって何やら相槌を打っていたが、
やがて新堂に顔を向け、チラチラと横を見ながら口を開いた。
「えと……発病には個人差があるので……具体的な事は分からないそうです。
ただ、感染者が……怪我や病気で弱れば弱るほど……発病が早まるそうです。
感染経路は…………今の場合だと……接触感染だけを注意してって言ってます。
ゾンビの攻撃……もですが、唾液や血液にも気を付けないと……」
それを聞き、新堂は忌々しげに舌を打った。
眼光に険しさを乗せ、空間を睨みつける。
「って事は……ここにいる全員感染してる可能性があるって事かよ!」
「ど、どういう事だよ!? 俺達怪我なんかしてないじゃないか!?」
- 373 :今はそれどころではない ◇cAkzNuGcZQ氏代理:2011/12/13(火) 21:49:13.87 ID:8zQ1XYBC0
- 圭一の言う通り、新堂達は確かにゾンビ共からは直接怪我を負っていない。
しかし、新堂が思い出したのはゾンビ化した犬達と対峙したの事。
あの時は新堂も圭一も、犬共からの攻撃をどうにか避け続けた。
しかし、奴らの唾液は別だ。襲い掛かられた際。バットで防いた際。確実に唾液まで避けたとは言い切れるだろうか。
また、奴らを殴り飛ばした際も同様だ。返り血を一滴足りとも浴びてないと言い切れるだろうか。
単純に身体にかかるだけならばまだ良いが、顔面のないナースから受けた掠り傷にかかったり、口の中に入ったりはしていないと言い切れるだろうか。
答えは――――全てに於いて、否だ。
その事を説明すると、圭一の顔色も深紅と同じものに変わった。
「……治す方法は? ウィルスだってんなら治療の方法くらいねえのか!?」
「………………発病してからでは…………手遅れだそうです……。
ワクチンを…………デイライトを打たない限り…………」
深紅の申し訳なさそうな表情が妙に苛立たしく映ったが、
ここで八つ当たりをしていても始まらない。そんな時間も無駄でしかない。
「……とにかく、だ。こうなっちまったらしょうがねえ。
『ヨーコさん』。あんた偵察とか出来んのか?」
「……壁をすり抜けたりは……出来るはずです。…………出来ました」
「今廊下や廊下の向こうには何かいるか?」
「………………………………いないって言ってます」
「すまないが、ちょっとそのまま見張り頼むぜ」
あの警官の幽霊に襲撃された新堂にとっては、はっきり言ってヨーコも大差ない、得体のしれない存在だ。
そんなものに頼らなければならないこの状況は、坂上に殺意を抱いたあの時よりも余程気分が悪い。
しかし、これなら比較的安全に移動出来るはず、との思いもある。少なくとも、出会い頭に攻撃される危険性が減るのは確かだ。
特に、赤い光やホテルの門を破壊した化け物に不意をつかれてしまえば、死ぬしかないのだ。
それだけは可能な限り避けたい。利用出来るものは、利用しなくては。
「よし……雛咲。他に隠してる事はねえな?」
圭一が何かを言いかける気配を感じるが、新堂はそれを無視した。
とりあえず今回だけは、圭一も甘い戯言を吐き出す気持ちを押し殺した様だ。
それ程に深紅の持っていた情報は重要で、あまりにも危険だ。
「隠してるわけじゃないんですが……この部屋、何か感じます……」
「あ!? 罠か!? それとも化けもんか!?」
「あ、あの……悪い気配じゃ、ないんです!
でも……何か大切なものが隠されてる……そんな気がします」
悪い気配ではない。深紅がそう言うのならば、危険性がない事は信用はしても良いのかもしれない。
調査すれば何かが見つかるかもしれないが――――それでも、今はそれどころではない。
まさかデイライトが都合よく落ちているわけもないだろう。
気にはなるが、自分達には調査に割いている時間は無いのだ。
- 374 :今はそれどころではない ◇cAkzNuGcZQ氏代理:2011/12/13(火) 21:50:47.85 ID:8zQ1XYBC0
- 「だったら、薬作った後でまた来ればいいだろ。……あんまり戻って来たくはねえがな」
新堂はジェニファーを担ぎ上げようと、身体を引き起こした。
と、ジェニファーの身体の下から、何かが滑り落ちた。
「……あ?」
それは、一冊の本だった。
ジェニファーの持ち物ではない。彼女の鞄はベッドの枕元に置かれているのだから。
つまりその本は、最初からこの部屋にあり、そして現状、部屋の中で唯一動かせた物質。
気になり、手にとって中身を確認してみるが、それはパッと見ではただの日記だ。
始まりの年は、10年以上も前の1982年。
シェリルやらアリッサやらと名前が出てくるが特に変わったところは無い様に新堂には思えた。
「ま、待って下さい……。その本、何か……」
「……何かあるのか?」
自分では分からなくても深紅ならば。
そう思い日記を手渡すと、深紅が数瞬、不自然に硬直した。
「……どうした?」
「大丈夫か!?」
「……大丈夫です。……初老の……男性の方が見えました」
残留思念というやつだろうか。
誰だか分かるのかと問えば、深紅は首を横に振った。分かるのは、この日記の主という事くらいらしい。
名前は、ハリー・メイソン。
ふと、新堂は名簿を思い出した。ハリーという名は、名簿に書かれていた記憶があったのだ。
それを確認したいが――――思わず視線が圭一に向いた。
まだ、それは出来ない。ヨーコの見張りがあろうとも、このホテル内では何が襲ってくるか分からない。
やはり、それは研究所についてから。出来ればデイライトを入手した後が良い。
それまでは、イレギュラーの可能性は極力低く保たねば。
日記を読み込むのも、その時で良い。
新堂は今度こそジェニファーを担ぎ上げ、深紅に目をやった。
巨人も赤い光も今はない。それを確認し、圭一、深紅、自分の順に真っ暗な廊下に出る。
まずは、このホテルを安全に脱出する。研究所まで安全に辿り着く。
全てはそれからだ。
前を行く深紅の、左腕を掻いている姿が、何となく目に止まった。
- 375 :今はそれどころではない ◇cAkzNuGcZQ氏代理:2011/12/13(火) 21:52:52.24 ID:8zQ1XYBC0
- 【D-3/リバーサイドホテル・廊下/一日目夜中】
【新堂誠@学校であった恐い話】
[状態]:銃撃による軽症、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)、感染に対する危惧
[装備]:ボロボロの木製バット、ジェニファー・シンプソン@クロックタワー2
[道具]:学生証、ギャンブル・トランプ(男)、地図(ルールと名簿付き)、その他
[思考・状況]
基本行動方針:殺人クラブメンバーとして化物を殺す
1:研究所へ向かう
2:安全を確保するまでは名簿の死亡者については話さない
3:安全な場所でジェニファーから情報を得る
4:デイライトを入手したらホテルを調査に戻る
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:銃撃による軽症、赤い炎のような強い意思、疲労(中)、感染に対する危惧、L1
[装備]:悟史の金属バット
[道具]:特に無し
[思考・状況]
基本行動方針:部活メンバーを探しだし安全を確保する
1:研究所へ向かう
2:安全な場所でジェニファーから情報を得る
3:部活メンバーがいれば連携して事態を解決する
4:デイライトを入手したらホテルを調査に戻る
- 376 :今はそれどころではない ◇cAkzNuGcZQ氏代理:2011/12/13(火) 21:55:16.07 ID:8zQ1XYBC0
- 【雛咲深紅@零〜zero〜】
[状態]:T-ウィルス感染、右腕に軽い裂傷、疲労(小)、腕に痒み(?)
[装備]:アリッサのスタンガン@バイオハザードアウトブレイク(使用可能回数7/8)
[道具]:携帯ライト、ハリー・メイソンの日記@サイレントヒル3
ヨーコのリュックサック(P-ベース、V-ポイズン、ハンドガンの弾×20発、試薬生成メモ)@バイオハザードアウトブレイク
[思考・状況]
基本行動方針:ヨーコの意思を引き継ぐ
1:研究所へ向かう
2:安全な場所でジェニファーから情報を得る&日記を確認する
3:デイライトを入手したらホテルを調査に戻る
4:幽霊……触れるなんて……
※時間経過でゾンビ化します。
※初老のハリー・メイソン(サイレントヒル3での時間軸)の顔を読み取りました。
※怨霊が完全に姿を消している時でも、気配を感じることは出来るようです。
【ジェニファー・シンプソン@クロックタワー2】
[状態]:健康、気絶中
[装備]:私服
[道具]:丈夫な手提げ鞄(分厚い参考書と辞書、筆記用具入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ここが何処なのか知りたい
1:…………
2:安全な場所で三人から情報を得る
3:ここは普通の街ではないみたい……
4:ヘレン、心配してるかしら
※ホテルロビーにメトラトンの印章が描かれています。
※ホテルの一室がサイレントヒル3に登場した「異世界の中のハリーの部屋」に変化しています。
この場所に日記の他に何が存在するかは不明。後続の方に一任します。
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