理由書 1.請求の要旨  請求人らは、平成19年3月1日付けで宇治市(宇治市水道部)が締結した 業務委託契約は、法令等に違反する違法な契約の締結であり、同月30日には 当該契約に基づく違法な公金の支出が行われたと主張する。そして、本件請 求においては、監査委員に対しどのような内容の「必要な措置を講ずべきこ と」を求めているのか必ずしも明確ではないが、本件請求理由に鑑みると、 当該行為を行った職員に損害を補填させるよう、当監査委員に請求している ものと解される。  そして、本件請求は請求期間の1年を経過しているが、請求人らは、当該 契約の内容を知り得たのは情報公開によってであるから、請求期間の1年を 経過したことには正当な理由があると主張する。 2 当監査委員の判断 地方自治法第242条第2項本文は、住民監査請求は、地方公共団体におけ る違法又は不当な財務会計上の行為のあった日又は終わった日から1年を経 過したときは、これをすることができないと規定しており、本件請求に係る 財務会計上の行為が平成19年3月1日及ぴ同月30日であることから、本件 請求が器求翔問の1年を経過していることは請求人らも認めるとこるである。  しかし、同項ただし書では、1年を経過したことに「正当な理由」があると きは、1年を経過していても請求することができる旨を規定するので、以下こ の点につき検討する。  この正当な理由の有無については、財務会計上の行為が秘密裡にされたか どうかにかかわらず、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽 くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内 容を知ることができたかどうか、できなかった場合には、特段の事情のない 限り、地方公共団体の住民が担当の注意力をもって調査すれば客観的にみて 上記の程度に当該行為の存在及ぴ内容を知ることができたと解される時から 相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである、と 解するのが相当である(最高裁判所平成14年9月12日第一小法廷判決)。  そして、住民であれば、誰でもいつでも閲覧できる情報等については、そ れが閲覧をすることができる状態に置かれれば、そのころには住民が相当 の注意力をもって調査すれば客観的にみて知ることができるものというべき であると解される(高等裁判所平成19年2月14日判決参照)。 これを本件についてみると、本件請求に係る業務委託契約に関する公文書 は、宇治市水道部の内部決裁終了後には公開請求が可能となっていたのであ るから、遅くとも請求人らは、既に平成19年4月末までには、宇治市情報公 開条例(平成17年宇治市条例第4号)に基づく公文書公開請求をすれば、客 観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在及び内容 を知ることができたものである。  そのうえ、平成19年10月24日には宇治市議会の決算特別委員会におけ る市職員の答弁によって、同年3月に神明浄水場の取水ポンプの取替えが行 われたことが明らかにされ、翌10月25日には洛南タイムス及び城南新報の 地方紙2紙が1面でこれを報道した。当該決算特別委員会の会議録を掲載し た宇治市のホームページは、遅くとも平成20年2月末以前には閲覧が可能と なっていたのであるから、請求人らは、平成19年10月下旬頃には地方紙に よる情報を得ることができたうえ、遅くとも平成20年2月末頃までには、公 文書公開請求によって客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計 上の行為及ぴ内容を知ることができたものである。  請求・・・本件請求を提出したのは平成21年3月27日であり、財務会計 上の行為・・からは2年以上経過し、かつ上述のとおり公文書公開請求をす ることができた時点から少なくとも1年以上経過した後であり、相当な期間 内に監査請求がなされたものとは認められないから、これを適法な監査請求 ということはできない。  したがって、本件請求には地方自治法第242条第2項ただし書に規定す る正当な理由がないから、同項本文の規定により、これを受理することがで きない。