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ポケモン小説V

1 :三月兎 ◆BOOST1aovo :2008/03/05(水) 12:26:03 ID:mj/ja+Yg0
ノーマルスレも立てておきますね。
◇注意事項◇
 ・内容は自由ですが、エロ表現は禁止です。
  エロ表現が含まれる場合はエロ小説スレのほうへお願いします。
  ※キス程度の恋愛表現はOKです。

 ・過度の流血表現、暴行表現などのグロテスクな描写が含まれている場合は、
  小説の冒頭もしくはそういった描写が含まれるシーンのはじめに注意書きを入れてください。

 ・固定ハンドルネームを持つ方、特に執筆者はトリップをつけることをオススメします。
  ※トリップは名前の後に#(半角)と好きな文字列を入力することで付ける事が可能な偽者防止の暗号のようなものです。

 ・荒らしは完全無視でお願いします。反応するとかえって事態を悪化させてしまいます。

 ・その他、ネチケットを守って正しくご利用下さい。

前スレ(ふたば☆ちゃんねる)
 ポケモン小説  http://www.2chan.net/test/read.cgi?bbs=anige&key=1183825243
 ポケモン小説U http://www.2chan.net/test/read.cgi?bbs=anige&key=1195635878

2 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/05(水) 15:27:50 ID:PRl6kngQ0
では記念に剣奴をうpします。
 暴力・流血・死・意味不・が含まれています



 薄暗い部屋の中は静寂とは程遠く、側で祭りか何かが開かれているのかと勘違いするほどの騒がしい声で包まれていた。
 そして、ぐったりとうなだれている数人の人の気配。
 その空間はまだ昼間なのにもかかわらず、真っ暗に浸っており、申し訳なさそうに付けられた蝋燭くらいでは辺りを照らしきれない。
 彼らがいる場所はどうやら縦長の細長い密室のようだ。両側の壁はレンガを積み上げて出来ているようで、そこに男たちはもたれ掛かって座っていた。

 そんななかで立ち上がった一人の青年は、どこから取り出したのか、大きな金属の塊を持ち上げて、何かを始める。
「お前今日で60連勝だろ?」
 座っていた一人の男が、立ち上がった青年に話しかけた。
 薄暗い部屋で金属の擦れる音を放ち続ける青年は、おしゃべりな仲間の質問にうんざりしながらも手の動きを止めることはない。
「黙れ」
 小さくそういった青年は忌々しく濁った右目をギッと見開き、血に染まったもう片方の目とで、床にすわる“剣奴”をにらみつけた。
 その瞳は暗い部屋では見ることが出来なかったが、さまざまな感情や思いを秘めていた。
 途切れることのなかった金属音は突然ピタリと止まり、同時に声援がブーイングに変わる。
「あいつ、やっぱり降参したみたいだな」
 床に座った“剣奴”は悲しみと哀悼をこめてそういうが、青年にはそんなことどうでもよかった。
 そもそも、青年には“あいつ”と呼ばれた男とも、黙ることの出来ない“こいつ”とも面識はない。
 もちろんここにいるほとんどの者とは面識がなく、彼自体も特徴のない青年だった。

 激しいブーイングはいつの間にか止み、大きな笑い声と、断末魔が響く。
 似合わない両者は綺麗に混ざり合い、狂気とも思えるほどの歓声が沸きあがった。
 おぞましいその光景を思い浮かべるだけで頭が痛い思いに駆り立てられるが、青年はどこかでそれを楽しみ、生きがいにしていた。そして、もうすぐ青年の順番が回ってくる。

 隠し切れない悲しみと、不気味な笑みとを両方の手に持って、青年は一番奥の壁を……押した。同時に洪水のように光が流れ込んでくる。闇に差し込んだ光は、部屋の中をすべて溶かし、世界を真っ白に変えた。
 暗くて見えなかったがそれは、壁ではなく扉だったようだ。そして今は、光と闇のギャップに目が使い物にならず、ただその光になれるのを待つことしか出来なかった。
 真っ白な世界から流れてきたのは、得体の知れない異臭。しかし彼らにとってそれは、得体の知れない臭いではない。ただの血の臭いだ。
 溶けた世界はゆっくりと結晶になっていく。
 そこに出来た無数の塊は、殺戮を見ることで血を煮えたぎらせたソルディアの市民たちだった。
 目の前に広がった光景は、形容できないほど酷い姿に変わった剣奴の身体。ぴったりと当てはまるとするならば挽肉だろうか。
 それはすでに原型を留めておらず、数人の職員の手によってまさに“掃除”させられている最中だった。
 “剣奴”の名残なのか、引きちぎれた腕の側には、青年が名前すら知らない“あいつ”と呼ばれた者のグラディウスが血に染まり横たわっていた。

3 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/05(水) 15:32:55 ID:PRl6kngQ0
暴力・流血・死・意味不・が含まれています



 扉から出てきた青年……ルカリオに掛けられる黄色い声は、ただ騒がしいだけの耳障りなものだが彼はそれを無視し、リングの中央に向かう。
 シャラシャラと彼が歩くたびなる金属は、暗闇の中で身に付けていたクサリカタビラ。
 それに擦れて不快な音を出すのは両方の腰に付けられた長剣、“グラディウス”と短剣、“ダガー”の鞘。それは決して美しい装飾とはかけ離れた物だが、彼にとっては大切な宝物であった。
 重たいはずの鉄塊を身に付けている彼だが、その足取りは軽やかそのもの……。しかし“剣奴”である彼らにとって、ここまでは当たり前なのだ。
 彼は白く濁った右目を隠すように、真っ黒の眼帯をつけ、クサリカタビラの下から見え隠れする身体には無数の傷の後が残されている。

 ばら撒かれていた“あいつ”の肉塊は、すでに“掃除”されて無くなっていたが、土に染み込んだ血までは綺麗に出来なかったらしく、赤い斑点がリングの端まで飛び散っている。
 それは、“あいつ”が敵から逃げ惑っていたというこを、ルカリオに耳打ちしていた。

 夏の陽ざしが彼の身体に照りつけ、いたいほどに暑い。
 その“暑さ”は全身にまとっているクサリカタビラが、さらに熱さへと変えて、彼の身体を焼け焦がす。
 だが彼はそれにも慣れていた。子供の頃から剣奴として育てられ、軍団よりも厳しい訓練を受けてきた彼にとって、日照りの暑さなんか何ともないものだった。
 その暑さの中、四人もの仲間を殺したのが、いま目に現れたこの、ニドキングのようだ。“あいつ”を含め四人が連続で闘っているのにもかかわらず、彼の身体には傷のひとつすらついていない。
 武器も何もつけていないニドキングだが、彼の固い身体なら剣すらへし折ってしまいそうだ。
 圧巻するほどに大きい巨体は、殺し合いを見る側からすれば面白いものだろう。だが、殺し合いをする当事者、特にルカリオにとって辛いことこの上ない。

 だがニドキングはその巨体には似合わず、どこか顔を青ざめ焦点が定まらない。どうやら、ビビッているようだ。
 それもそのはず、この眼帯をしたルカリオは、並みの人間には不可能といわれた連続100勝まであと一歩のところまで上り詰めた剣奴で、彼らの間では恐れられている者の一人だからだ。
 連続100勝が全くの不可能というわけではない。過去に数十人がこの記録をたたき出し、市民権を得て剣奴から抜け出したものもいた。100年近くの間に数十人。
 この限りなく不可能な条件に後一歩のところ間で駆け上がったルカリオは、まさに剣奴の鏡であり、希望でもあった。
 しかし、これまでルカリオに怖気づくものは、不思議といなかった。むしろ踏ん切りが聞くのか、みんな本気で闘いを挑んできた。
 だが、このニドキングは違う。完全に逃げ腰になっている。
 ルカリオの中に少しの怒りが沸く。自分より弱いものは決着が決まったあとも、原型を留めないほどに殴りつけていて、自分より強いものには手も足も出さないなど、虫が良すぎる。
 もう、ルカリオにこんな雑魚と真剣に闘う気がしなかった。彼は地面に転がっていた石ころを手にとり、ニドキングに投げつける。
「ひぃぃっ」
 気色の悪い、無様な声を上げたニドキングは、両手で目を塞ぎ、小さな石ころにおびえていた。
 スタジアムには湧き上がる笑いと、罵声が充満した。
「かかって来い! このうすのろ!!」
 こだまするルカリオの声はニドキングに届いていないようで、ただひたすらに身体を丸め、ルカリオを見ないようにしていた。
 ルカリオは腰のグラディウスを抜き、ニドキングを斬ろうとするが、硬い彼の皮膚はグラディウスの刃を一切受け付けず、身体には小さな傷すら付けられない。

4 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/05(水) 15:35:10 ID:PRl6kngQ0
暴力・流血・死・意味不・が含まれています

 向かってこようとしない敵。苛立ちを隠し切らないルカリオ。それを呆れた顔で眺める観客。
 闘いは全く先に進むことなく、無駄で見ごたえのない時間が過ぎていく。
「闘え!! この腑ぬ……」
 ルカリオが言葉を放っている途中、透き通っていた空気は突如として黒く染まり、リングの上を大きな影で覆った。それは、どう見ても自然に出来た雲には見えない。
観客席のほうは晴れていて、リングだけ曇る。そんな馬鹿な天気なんて自然には生まれない…。
 どす黒い雲からは小さい涙の雫がたれ落ちる。激しい雨とは言いがたいが、それは焼けた地面や“剣奴”の身体を濡らし、ゆっくりを温度を奪っていった。
 ルカリオの中に響く“あまごい”という単語。ニドキングは今までと違い、勝ち誇ったかのように、ルカリオを見下ろしている。
 しかし、それは違った。彼の中で燃え盛り始めた炎は、水のような“ちゃち”なもので消えることはなく、逆にその勢いを増すばかりだった。
 剣をもって闘っているものに対して、剣を交えず、“わざ”を使う。しかも“わざ”は剣などとは比べ物にならないほどに強く、使えるものも多くはない。噂にはあの“ショウリョウ”たちとも互角に戦えるほどに強いらしい。
 確かに“わざ”を使ってはいけないという決まりはない。だが剣奴の中ではすでに暗黙の了解になっている。
 いくら新人でも、いくら腰抜けでも、それぐらいは知っているだろう。いや、この卑怯者は、これを狙っていたのかもしれない。
 剣奴に“わざ”を使える者は少ない。その圧倒的な力を持っていれば、剣奴の一人や二人は朝飯前だ。
 なぜかルカリオはにっこりと笑みを浮かべる。冷酷な顔から繰り出されその笑顔は子供のそれと等しいが、この圧倒的に不利な状態で気をを狂わせたのか、声を上げて腹を抱えて笑う。まるで、なにか面白いことが起こったかのように…。

5 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/05(水) 15:39:54 ID:PRl6kngQ0
暴力・流血・死・意味不・が含まれています



 天から轟いてくる雷声は、一気にいかずちとなり、ルカリオに襲い掛かる。その速さは俊足ではなく“瞬足”にふさわしい。真っ青で不気味な光は轟音を轟かせ彼に激しく打ち付けた。
 爆発音を上げた青白い光はルカリオの姿をかき消し、同時に閃光が彼の目を襲う。
 観客は大きな音に耳を塞ぎ、目が眩むほどにまぶしい光に顔を伏せた。
 一帯に漂う焼け焦げた臭いと、ニドキングの笑い声。そして……、ルカリオの笑い声。
 彼は死んではいなかった。いや、“かみなり”に当たった痕跡すら見当たらない。
 驚きの表情を隠さないニドキングは、さらに“かみなり”を連発する。ルカリオを目掛けて放たれた数本の光の帯は、空中で大きな束となり彼に向かっていく。
 それはさっきの数十倍の音を放ち、意識が飛びそうなほどの不協和音を奏でる。巻き上がった粉塵は雨に落とされ、濁った視界は透明になっていった。しかし、“かみなり”に焼き殺されるはずのルカリオは何事もなかったか様に、その場所に平然と立っていた。
「もう終わりなのか?」
 嘲笑いをこめてそう言い放つルカリオが、今だに余裕を保っているのに対し、ニドキングはすでに息が上がり、疲れ果てたその目は今にも自棄を起こしそうな勢いだった。
 怒りに駆り立てられたニドキングは、その大きな巨体で地面を揺らし、ルカリオに向かって突進してくる。
 ニドキングは身体を横に回転させ、ルカリオ目掛けて“アイアンテール”を放った。その巨体に見合わない身体の動きは、鮮やかと言わざるを得ないほどだった。
 だが、ニドキングの身体は空中で停止し、彼の身体は淡く、それでいてどす黒い赤色に包まれた。
 彼はその光の中で動くことも出来ず必死にもがくが、それも無意味に終る。勝負はもう決まったのだ。
 ニドキングは引きつった目で、標的のルカリオを眺める。淡い光越しに見るルカリオは、真っ青な身体を紫に染め、綺麗な臙脂の瞳はさらに赤みを増していた。

「サイコキネシス……。剣奴のくせに……“わざつかい”なのか…」
 苦しそうな声を上げながらそう小さく言い放ったニドキングの身体は、赤い光によってゆっくりと不自然は方向へ折り曲げられる。
 場内に頑丈なニドキングの骨が折れる音が響く。同時に大きな悲鳴を上げたニドキングの腕からはおびただしい血が流れ出し、患部からは白い塊が見え隠れする。
 赤い光を放つルカリオの目は不気味なほどに冷静で、ニドキングの身体を文字どおり“壊していく”
「降参する!!! 降参させてくれぇぇぇぇ!!!!」
 大声で泣き喚いたニドキングを無視し、ルカリオは首の骨を一気へし折った。
 同時にぐったりとしたニドキングから赤い光は消え、支えを失った彼の身体は地面に叩きつけられた。
 ぐったりとしたそれは、すでに事切れていて全く動かない。
 大きな歓声が湧き上がる。しかしそれはルカリオにとって無意味なものだった。

 白目を向き、汚く口をあけて絶命したニドキングの死体は闘技場の職員の手によって片付けられていく。
 彼は無残とも思えるその光景を彼は目にすることなく、下を向き手に握っていたグラディウスを腰に収めた。

初っ端から萎えるもの投下してゴメンナサイ。

6 :Gimnima ◆N42CHo8qoU :2008/03/05(水) 16:26:29 ID:2yCYik1A0
>>1
乙です。
>>2-5
GJです。
残虐物は苦手ですが、読まない訳には
いきません。
流石ルカリオは強いですね。
スマブラでも使いやすいし。
続きに期待します。
意味不は含まれていませんでしたよ。
まあ、誤字脱字主語重複などは
ありましたが。

遅くなりましたが、
こちらでもよろしくお願いします。



7 :パウス ◆a1GalaxyZk :2008/03/05(水) 17:05:00 ID:zIQs7wxg0
>>2-5
残酷なルカリオが逆にかっこええ!
“わざつかい”何て言葉は意外性がありました。とにかく凄いです。

8 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/05(水) 17:47:43 ID:PRl6kngQ0
>>6
フヒヒwwサーセンww
かなり、文が荒いですね。
五回以上は、チェックしたんですけどね。なんせ、作者が病気なもんで。すみません。
たぶん主語重複は私の文章力が終わってるからですね。
少しずつ改善の努力をしていきます。改善できるかどうかは、別として。

こちらこそ、よろしくお願いしますよ。

>>7
残虐ですか……。そうですね、私がキテる証拠ですね。
わざつかいが意外性ですか。じつはその反応が意外だったり……。
えぇ。平凡なものだと思っていたんで。
なんせ、魔法使いとか、魔術師という言葉が転がってるもので。

9 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/05(水) 21:53:50 ID:M0T4/nns0
こちらでは初めまして…ですね。
分離スレを覗いてた方はご存知かと思いますが、獅子猿より改名した者です。
相変わらずPSPからの書き込みですがこちらでも宜しくお願いします。
あと酉変えました。
>>1
スレ立て乙です。
>>2-5
確かに冒頭から残酷な表現が…
まぁ、こういうグロシーンは嫌いではありません。むしろ好k(ry
強いルカリオは個人的にかなり大好きですね。
「Restless Heart」が中止された分も含め、今後の展開に期待しています!

10 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/06(木) 13:57:44 ID:vQj87Vpo0
えっとですね、これ一様短編なんですね。
ただ、グロいだけの短編なんですね。ね?意味不でしょw
私も、個人的にルカリオは好きなんですよ。
あと、正確には中止ではなく、名前を変えて後々に作成する予定です。
今は、昔話を書いてるんだ……。

11 :パウス ◆a1GalaxyZk :2008/03/08(土) 22:26:09 ID:o6bCZ3H+0
>>8
残虐ではなくて残酷……ってたいして変わらない?
いや、ゲーム上のポケモンで考えるとわざつかいって意外だな、っと思った訳です。
ゲーム上なんて皆わざつかいじゃん。てことです。

12 :柘榴石 ◆CLOWNX1/xA :2008/03/09(日) 00:15:25 ID:7qDmpKOs0
>>11
残虐と、残酷って似てるから良いじゃないですか?
だめですね。スミマセン。

まぁ、世界観は古代ローマとかを参考にして、作ってるもので……。
ゲームとは関係ないのですよw
だって、みんな普通に技を使えたら、剣なんか使う必要がないじゃないですかw

13 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/03/09(日) 12:43:16 ID:z1UfASbs0
      亡き友へ

 岩山の側にひっそりと佇む街、シオンタウン。
都会の喧騒とは縁の薄そうなこの街にはいささか不釣り合いな大きな建物がありました。
天に向かって伸びていくような猛々しさはないものの、そこにあるだけで十分な存在感があります。
そう、それは死んだポケモン達のお墓になっている塔。町の人々からはポケモンタワーと呼ばれている建物でした。



 塔の内部。そこにはたくさんのお墓がずらりと立ち並んでいます。
お墓参りが目的でない限り、できれば足を踏み入れたくない場所でもあります。
昼夜を問わず薄暗く、宙を漂うゴーストポケモンの姿を見ることも珍しくありません。
ムウマも塔にすむそんなポケモンの中の一匹でした。
何かを探しているのか、ムウマは天井付近からきょろきょろと視線を動かしています。
「あ……また来てる」
 ムウマはお墓参りに来ている人間の一人に気がつきました。
歳は十歳を少し過ぎたぐらいの少年が、あるお墓の前に立ち尽くしていました。
もう何日も前から、ムウマは彼の顔を目にしています。少年は決まってあのお墓の前に現れるのでした。

 ムウマは少年の傍までふわりと下降します。どこか悲しげな表情を抱いたまま。
気配を感じたのか、少年が振り返ります。生気のない瞳がムウマに向けられます。彼の目は真っ赤に腫れていました。
「ムウマ……僕に何か用?」
 彼くらいの年齢ならばまだこの塔に一人で入ることや、ゴーストポケモンと出会うことを恐れてもおかしくないのですが。
少年は全くそんなそぶりを見せません。あるいは、今の彼には何かを怖がるという心の余裕がなかったのかもしれませんが。
「ねえ君、昨日も一昨日もその前の日も、ここに来てたでしょ?」
「祈りに来てただけだよ。僕のポッポにね」
 少年はしゃがんで墓石に触れます。その表面には真新しく彫られた文字が刻まれていました。
そんな彼の姿を見るのはこれで何度目だったでしょうか。ムウマは少年の顔を覗き込むようにして聞きます。
「なんだか、君の悲しみ方が尋常じゃなかったから気になってさ。言いたくなかったら無理しなくていいけど……君のポッポに何があったの?」

14 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/03/09(日) 12:44:24 ID:z1UfASbs0
 ムウマが問いかけると、少年は黙ったままうつむいてしまいました。
今、この階には少年とムウマ以外に誰もいませんでした。立ち並ぶお墓がさらに静寂を際立させていきます。
やっぱり悪いことを聞いてしまったかな、とムウマが思い始めた時、少年が口を開きました。
「ポッポが死んだのは僕のせいなんだ。ポッポは病気だったんだけど、発見するのが遅れて……助からなかった。
僕がもっと早くあいつの異常に気がついていれば、死ななくてすんだはずなんだ……。いつも傍にいたのに、気づけなかった。僕は自分の手でポッポを殺したも同然なんだよ!」
 顔を歪め、辛そうに話す少年の目からまた涙がこぼれ落ちます。
ムウマは彼が抱える事情を理解しました。こんな時はそっとしておいてあげるのも一つの優しさなのかもしれません。
ですが、ムウマには彼を見過ごすことはどうしてもできませんでした。少年が必要以上に自分自身を責め立てているようで、きっとこのままではずっと悲しみから抜け出すことができないような気がしたからです。
「……あのさ、自分を責めるよりもポッポの冥福を祈ってあげたほうがいい。君がいつまでもそうやって泣いてたら、ポッポは安らかに眠ることができないよ?」
 少し躊躇いながらも、ムウマは少年に言いました。少年は下を向いたまま何も答えません。
自分が彼にこんなことを言うのはきっと差し出がましいことでしょう。それでも、ムウマは続けます。
「君が悲しむのは分かるけど、ここは……」
「分かったようなこと言わないでよ!」
 突然少年が立ち上がり、叫びます。
思いがけない大きな声にムウマは驚いて言葉を止めました。
「大切な友達を失った僕の気持ちが君に分かるの? 死んでしまったのは自分が原因だって知ったときの悲しみが分かるって言うの!?」
 少年の声は塔の中に、そしてムウマの心の中にも響きます。
ムウマは何も答えることができませんでした。自分は友達を失ったこともないし、誰かの死を目の当たりにしたこともなかったからです。
「分かりもしないのに、半端な慰めなんていらないよ!」
 そう言い残すと少年は駆け出しました。踵を返したとき彼の涙がふわりと宙を舞い、床に落ちます。
だんだんと聞こえなくなる足音。小さくなっていく少年の後ろ姿をムウマは黙ったまま見つめていました。
「半端、だったのかな……」
 そして、少年の言葉を自分に言い聞かせるかのように呟きました。
消え入りそうな小さな声でしたが、ムウマの大きな瞳には何かを決意したことを思わせる真剣さが感じられます。

15 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/03/09(日) 12:46:43 ID:z1UfASbs0
 その日の夜。ムウマは塔の中を飛び回っていました。
何度も階層を上下し、きょろきょろと視線を動かしながら。
「……見つからないなあ。どこにいるんだろ」
 元々広いこの塔の中。探すのは大変なのは分かっていたことです。
それでもムウマは探し出し、自分の話を聞いてもらわなければならなかったのです。
今いる階の中をあちこち見まわしましたが、探している姿は見当たりません。
ため息とともに、次の階に移ろうとするムウマ。そのときふと、あの少年の姿を思い出したのです。
「もしかしたら……」
 何か思い当たる節があったらしく、ムウマはある階へと向かいました。
そう、それはあの少年が毎日訪れていたお墓のある階です。彼のポッポのお墓の前にムウマの探していた姿はありました。
「あ、いたいた。よかった、見つかって」
 ちょっとした安堵感とともに、ムウマはその影に声を掛けます。
影は自分に話しかけてきたムウマに気がつき、不思議そうに見つめました。
ゴーストポケモンではないけれど、確実にそれに近い存在。少年の目には映ることはありません。
ムウマが影を目にすることができるのは、きっとゴーストポケモンだからなのでしょう。
「ちょっと私に協力してくれない? あなたの大切な友達を助けたいの」
 少しの間何かを考えているかのように影はゆらゆらと揺れていましたが、やがてムウマを見つめて頷きました。
「じゃあ明日、ここの場所で待っていて。彼が来たら私が合図するから、その時に……」
 何か作戦でもあるのか、ムウマは影に向かってそっと囁きました。
影は微動だにせずじっとムウマの話を聞いていましたが、すべて聞き終えた後再び小さく頷いたのでした。
===========================
こちらでは初ですね。こちらでもよろしくお願いします。

16 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/11(火) 14:12:42 ID:DpYuNv/20
>>12
僕の今書いてる小説にも剣と技の両方を扱うことの出来るブイズが出て来たりなんだり。
僕の場合、作者が単なるRPG好きでそんな感じの小説になってしまっただけなんですけどね。
>>13-15
「秘めたる刃」、「禁忌の扉」が完結してまだ間もないのに早くも新たな小説が。
大切な友を失う哀しみ……それが自分の責任となると、一層強く心に残って自分を苦しめ続けるもの。
そんな少年の為にムウマが仕掛けたものとは…? 続編に期待です!

さて、前スレの続きでかなり中途半端な部分から始まってしまいますが、僕も小説を投下させていただきます。
act1〜act14は前スレ「ポケモン小説II」の方にあるのでそちらへどうぞ。

『Elopements』 act15 境遇
注)PSPによる投下の為、一話一話が短かったり半端な所で切れたりします。

「私はとある町のトレーナーに飼われていたポケモンでしたが、ある日突然両親とトレーナーに見放されてこの砂漠に捨てられてしまって……」
「…………」
彼女は親に見捨てられた……この台詞に二匹は言葉を失う。
過去に両親を失ったことのある二匹は彼女の気持ちを痛い程に理解していた。

17 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/11(火) 14:20:23 ID:FrnaNjvs0
「その後私は“龍の血を引く者”としてヴァン族の儀式の生け贄にされそうになって…」
そう呟く彼女の表情は暗く、今にも泣き出しそうな感じだった。
そうだ。独りぼっちの彼女を助けてあげられるのはオレ達しかいないんだ……
「…ユメルさん、大丈夫だ。オレ達がヴァン族から守ってやる」
「オイラも出来るだけのことはするでやんすよ」
ロキは突然立ち上がると真剣な眼差しでユメルを見つめる。ルシオもそれに続いた。
二匹のその真っ直ぐな想いにユメルの目に涙が浮かぶ。
「ありがとう、二人共……」
彼女は涙を拭い、少し間を置いて心を落ち着けてから口を開いた。
「それと…あの…私の事を“ユメル”って呼んで貰ってもいいですか? 私も二人の事をそう呼びたいので…」
呼び捨てか…別に“ロキ”と呼ばれるのは嫌ではないし、彼女の頼みを断る理由も無い。
「…オレは別に構わないが、ルシオはどうだ?」
「オイラも大丈夫でやんすよ。よろしくでやんす、ユメルの姉貴!」
姉貴って……まぁ、大丈夫だろ。彼女も嫌がってないみたいだし。
「ロキ…ルシオ…改めてよろしくお願いします」
そう言ってユメルはペコリと頭を下げ、二匹に握手を求める。

18 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/11(火) 14:28:04 ID:ignpba1E0
「オレ達三匹はこれから仲良くやっていけそうだな」
二匹も笑顔でそれに応じ、握手を交わす。
彼らの間にはほんの僅かではあったが、種族を越えた新たな絆が芽生え始めていた。
「…じゃ、オレは食器を片付けてくるわ」
しばらくしてロキは食べ終わった器をまとめると自身の長剣を腰に携え、鞄を背負い、身支度を整えると器を抱えて立ち上がる。
「それからついでに寄ってくとこがあるから、留守の間ユメルを頼むぞ」
「オイラに任せるでやんすよ。いってらっしゃ〜いでやんす」
自信に満ちたルシオの声を背に受け、ロキはルシオとユメルを残して部屋を後にした。


「おばさん、ご馳走様でした」
「あいよ!使った器はそこに置いときな!」
ロキはおばさんの指さす場所に使用済みの器を返すと、その場で軽く背伸びをする。
(部屋にいる二人の為に外で何か採ってきてやるかな…)
背伸びで肩からずり落ちかけた鞄を背負い直すと、彼は単身で集落出口へと向かっていった。

19 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/03/11(火) 20:14:58 ID:q0zjZ1Eg0
 亡き友へ、後編です。




 次の日。あの場所にまた少年はやってきました。
昨日と同じようにお墓の前に立ち、ぼんやりとした瞳で見つめています。
「……ポッポ」
 今にも消え入りそうな弱々しい声で少年は呟きます。その目にはまた、涙が浮かんでいました。
背後に気配を感じて少年ははっと振り返ります。そこには、昨日のムウマが静かに佇んでいました。
もの言いたげな瞳でこちらを見ているムウマ。少年は彼女を睨みつけます。
「また君か……。悲しもうが涙を流そうが僕の勝手だろ、もうほっといてよ!」
 昨日のことをまだ怒っているのか、少年は強い口調でムウマに言いました。
もしもムウマがあれから何もせずに彼のところにきていたならば、ここで引き下がっていたかもしれません。
ですが、ムウマにはどうしても少年に伝えておかなければならないことがあったのです。
「あなたに聞いてもらいたい話があるの」
 ひるむことなくムウマは少年に話しかけます。
真っすぐな瞳で少年を捉えて語りかけるその姿には、昨日とは比べ物にならない真摯な態度を感じさせます。
「……話って?」
 少年は少しの間考えていましたが、ムウマの静かな迫力に呑まれいつの間にか聞き返していました。
彼がちゃんと答えてくれたことに、ムウマは安堵の笑みを浮かべます。
「きっと大事な話だと思うわ。……いいわよ、入ってきて」
 ムウマは目を閉じます。少年には彼女が何をしているのか分かりません。
どうしたんだろうと見ていると、ムウマの体が宙で少しだけ揺れたような気がしました。
「ムウマ……?」
 少年の声に気が付いたのか、ムウマは目を開きます。
しかし、その口から聞こえてきた声はもうさっきまでの彼女のものではありませんでした。
「ケイ、聞こえる?」
「……!」
 発せられた声は紛れもなく少年が一番よく知っているであろう声、ポッポのものだったのです。
ムウマには教えていない自分の名前を言っているのが何よりの証拠でした。
「ポッポ……なのか?」
 思いがけない出来事に、ケイは戸惑いながら尋ねました。
ムウマの姿をしたポッポはゆっくりと頷きます。
「そうだよ。僕、どうしてもケイに話しておきたいことがあってさ」
「話しておきたいこと?」
「うん。ケイ、僕が死んでからずっと泣いてばかりだったから心配だったんだ。ずっと自分を責めてばかりで……」
 いつもこのお墓の前で泣いてばかりだった自分をポッポに見られていただなんて。
死んだ後にまでポッポに心配をかけていたことが、ケイにはとても情けなく思えてきました。
「僕は一番近くにいながら病気に気が付けなかったんだ、ポッポが助からなかったのは僕のせいで……」

20 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/03/11(火) 20:15:46 ID:q0zjZ1Eg0
「それは違うよ!」
 ポッポの声に、ケイは言葉を止めます。
「僕はケイのことをこれっぽっちも恨んだりなんかしていない!
たしかに、自分が病気だって分かったときは辛かったけど、僕が病気になってしまったのは君の責任じゃないよ。
それに僕は……君と一緒にいられて楽しかった。君の友達でいられて本当によかったから」
「ポッポ……」
 こぼれ落ちそうになる涙をケイは慌てて手の甲で拭います。
ポッポの前では涙を流す自分を見せたくありませんでした。
「そろそろいかなきゃいけない。もうあまり時間がないんだ」
「え……?」
「体を借りて話すのは本人に負担が掛かるんだ。これ以上ムウマに無理させられないから……」
 こうして話すきっかけを作ってくれたムウマへ恩を仇で返すようなことはしたくありません。
それはケイもポッポも同じ気持ちでした。まだまだ話していたいところですが、ここはぐっと堪えます。
「そっか。もう、お別れだね……」
「でも僕は忘れないよ。君と過ごした時間、一緒に遊んだり笑いあったりしたこと……ずっとずっと忘れない」
「僕もだよポッポ。絶対に忘れない。約束だ」
 ケイはそっと自分の手を差し出します。ポッポもムウマの体で手を差し出し、彼の手に触れました。
ムウマの手でさすがに指きりはできませんでしたが、それでも堅い約束を誓うのには十分です。
「約束だね。たくさんの思い出をありがとう、ケイ……」
 最後にそう言い残すと、ムウマの体から小さな光が抜け出しやがてスウッと消えていきました。
ケイの目にはその光は確かにポッポの姿をしているように映ったのです。
その直後、宙に浮いていたムウマの体が支えを失ったかのように、地面に向かって落ち始めます。
「ムウマ!」
 ケイは慌てて彼女の体を抱きとめます。
腕の中でぐったりとしていたムウマでしたが、程無くゆっくりと目を開きました。
「ムウマ、大丈夫?」
「ええ。……よかったじゃない、ポッポと話せて。本当に素敵な友達だったみたいね」
「それも君のおかげだよ、でもどうしてそこまでして?」
 昨日会ったばかりの、しかも自分が邪険にしていたムウマ。
どうしてこんな危険を冒してまで助けになってくれたのでしょうか。ケイには分かりませんでした。
ムウマは腕の中から力なく浮き上がると、彼の方を向きます。
「君みたいにポケモンを心から大切に思ってくれてる人を久しぶりに見て、何だか嬉しかったの。
初日は墓参りに来ていても、それっきり音沙汰なしって人も結構いるのよ。そんな中君を見つけて、何か助けになってあげたいなって思ってね」

21 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/03/11(火) 20:21:10 ID:q0zjZ1Eg0
 多くのお墓が並ぶこのポケモンタワー。そのすべてが手入れの行きとどいたお墓というわけではありません。
もう何年も放置されていることが見て取れる、寂しげなお墓も少なからずあるのです。
「そうだったのか。ごめん……昨日はひどいこと言って」
「いいのよ、気にしないで。私も、君の気持ちをちゃんと分かろうとしていなかったのかも知れないから。
だからポッポの霊を探して、君にメッセージを聞いてもらったの。あのまま何もしなかったら君の言うとおり、半端だったから」
 昨日ケイに言われてから、ムウマは考えていたのです。
半端な慰めはかえって彼を傷つけてしまう。ならば自分に出来る本気をやろうと。
「それでも君がそこまでしてくれて嬉しいよ。ありがとう、ムウマ」
「どういたしまして……って、さすがに疲れたわね」
 宙に浮くムウマの動きにはまだ頼りなさが残っています。
きっとこんな状態で移動しているのを見つけたら、思わず手を差し伸べてしまうでしょう。
「本当に……大丈夫?」
「心配しないで。しばらく休めば元気になるわ」
 ムウマは屈託のない笑顔を浮かべます。
表情に曇りがなかったのできっと本当なのでしょう。もともと頼りなげな外見とは裏腹に、案外たくましいのかもしれません。
「それならいいんだ。それじゃあ、僕は仕上げをするよ」
「仕上げ?」
 ケイは頷くと、ポッポのお墓の前にしゃがみ、目を閉じて静かに手を合わせました。
今は亡き大切な友達へ。悲しみに捕われてばかりで、ポッポの冥福を祈ることを忘れていたのです。
しばらくの間、ケイは手を合わせたままじっとしていました。それだけ深く祈りを捧げていたのでしょう。
祈り終えたケイはお墓から離れると小さく息をつきました。
「……ふう。それじゃ、僕はもう帰るね。今日は本当にありがとう、またね、ムウマ」
 またね、という言葉。それは彼が再びここを訪れるであろうことを示しています。
ムウマがケイとまた顔を合わせる日もそう遠くないのかもしれません。
「うん、元気でね」
 ケイは笑顔で頷きムウマに背を向けると、そのまま塔の出口へと駆けていきます。
彼の目にもう涙は見えません。その足取りは昨日とは似ても似つかないくらい、生き生きとした生命力に満ち溢れていました。


       END  
=======================
>>16 麒麟児さん
何というかいつも何かを書いていたいというか。そんな性分でして。更新が速いのもそのせいです。
大切な友を失った原因が自分にあると分かれば、それは生涯あとを引きかねませんよね。
この少年はきっとムウマに救われたんだと思います。
レスありがとうございました。

22 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/18(火) 00:53:47 ID:PbWXmq/20
んー?何でJaneがログ破壊判定下すんだ?

23 :◆HAKOcCnj4U :2008/03/18(火) 09:56:07 ID:b69X1yCs0
はじめまして。
暇な時間を見て書いたものがあるのですが、ここに投下してよろしいでしょうか?
ちなみに3000字程度、えっちな内容無しです。

24 :三月兎 ◆BOOST1aovo :2008/03/18(火) 13:52:23 ID:FOPlUGXY0
>>23
大歓迎です。

25 :◆HAKOcCnj4U :2008/03/18(火) 19:47:12 ID:b69X1yCs0
かなった日

「く……そっ、くそぉっ!」
薄闇の中で僕は毒づいた。出口までもう少しだというのに、その夕闇の光が果てしなく遠い。
 木の実を採って、帰る途中だった。美味しそうな木の実をじっくり選別している間に日が傾いていきて、日暮れの前にねぐらに帰ろうと、
近道になりそうな洞窟に入ってしまったのが失敗だった。
「ぐぅ……、このっ……!」
 暗がりの洞窟を駆けていたら、丁度目の前を横切っていたズバットと衝突してしまった。相手はそれが随分気に入らなかったらしく、因縁を付けられて、そしてこの有様だ。
視界の悪い中で僕は反撃もままならず、随分長い間、一方的に相手の攻撃を受け続けている。
 相手が滑空してきた瞬間に体当たりを狙うものの、ズバットはそれを見透かしたようにひらりと身をかわし、そのつばさで切り裂くような一撃を与えてくるのだ。
「はあ……っ、はあ……!」
 拾った木の実など、とうの昔にどこかに落としてしまっていた。一体どこに落としたのか、そんなことを考える余裕さえ今の僕には無い。
本当は僕くらいの体の大きさなら、みんな自力で獲物を捕って腹を満たすことが出来るのだけれど、出来損ないで未熟な僕にはそれが未だに出来なかった。
……今にも太陽は山の後ろへと隠れようとしているのに。そうすればこの洞窟は真の暗闇に包まれて、そして僕はこのズバットのエサになってしまうのだろう。
 そんなのは真っ平ご免だ。だけど――
「うわぁっ!?」
 ズバットのつばさが僕の横腹に直撃した。視界が反転すると同時に一瞬呼吸が苦しくなり、全身に痛みが走る。
立たなくちゃ。そう自分の脚を叱咤するのだけれど、もう体力の限界で、全く体に力が入らない。
自分の荒い呼吸の音と、僕を嘲笑うかのようなズバットの鳴き声と。聞こえるのはそれだけで、見えるのは暗い暗い洞窟の天井だけだった。
 ああ、もう駄目なのかな。自分の心のどこかで溜息を吐いた。
いつまで経っても半人前で、自力で獲物を捕ることも出来なくて、みんなに馬鹿にされっ放しで――。
そうして、こんな誰も知らないような小さな洞窟でひっそりと死ぬんだ。
「く……そう……」
少しだけ悔しいなと思ったら、目に涙が溢れてきた。天井近いどこかでズバットが向きを変え、その鋭い牙を僕に向けて滑空し始めるのが分かる。
次に衝撃を受けた瞬間、今度こそ僕の視界は本当に真っ暗になるんだろう。
 ほんの少しだけ。どうせ死ぬと分かっているのなら、最後の最後に少しだけ抵抗してやろうと、本当にそんな気持ちで体に力を込めた。

26 :◆HAKOcCnj4U :2008/03/18(火) 19:50:01 ID:b69X1yCs0
「ギッ……!?」
 何かが何かに衝突する音と、ズバットの苦しげな鳴き声が聞こえた。
てっきり僕の体にズバットの牙が食い込んだと思ったのに、不思議なことに痛みは全く無い。
 パタパタと相手が羽ばたく音が聞こえる。キーキー高い鳴き声が耳障りだ……と、そんなことを考える余裕がある自分に気がついた。
そういえば、尻餅をついて仰向けに倒れていたはずなのに、今はきちんと四本の脚で地面を踏んでいる。
上がっていた呼吸も落ち着いて、体の痛みも殆ど引いてしまっていた。
「…………?」
 一体何が起こっているのだろうと、そんなことを考えている暇は無いようだ。日は沈みきろうとしている。洞窟の暗闇は更に濃く、出口の光もとても弱々しい。
暗がりの中に目を凝らしてみるものの、先ほど目頭に溜まった涙のせいもあって、相手の姿は全く捉えられない。
「うわっ……と、とと……」
 刹那、風を切る音が聞こえて、僕は咄嗟に横に飛び退いてズバットの一撃を避けた。避けることが出来た。
そのまま相手がどこに向かったか、風の音と空気の流れで感じることも出来る。
そうだ、と僕は思いついた。どうせ視界が役に立たないのなら、それ以外の感覚で相手の動きを捉えれば良いんだ――。
僕は一度だけ頭を振ると、体勢低く構えて、しっかりと目を閉じた。
「…………」
 意識を集中する。血液はとうに沸騰しているはずなのに全く泡立っていない、そんな感じだ。
洞窟の中は静かなもので、だからこそ相手の滑空する音はよく聞こえる。
僕の頭上で旋回をして、狙いを定めて、そして勢い良く急降下してくる。
 僕はその瞬間に合わせて後ろへ飛んで、その地面からの反作用を利用して、
「――食らえっ!」
 力強く、ズバットへ向けて体当たりを繰り出した。
「ギィィッ……ギッ!?」
 瞬間、小気味良い衝撃を全身が駆け抜けて、一拍遅れてまた何かが衝突する音が聞こえた。
当たった、という喜びも束の間、僕は着地のバランスを取るのをすっかり忘れて、綺麗に横倒しになってしまった。
誰も見ていなくて良かった、とそんなことを思いつつ、その場にゆっくり立ち上がる。
高揚した気持ちを抑えて、警戒を解かぬまま体当たりをした方へ向かってみると、ズバットが地面に横たわって小さく痙攣していた。
きっと体当たりで吹っ飛ばされて、壁に激突したのだろう。
「よ、よかった……」
 勝ったというより、助かったという思いの方が強かった。何度かその場で深呼吸をして、酷く興奮してしまっている頭を落ち着ける。
獲物にしよう、という気は不思議と起こらなかった。別に好き嫌いがあるわけではないけれど――

27 :◆HAKOcCnj4U :2008/03/18(火) 19:53:21 ID:b69X1yCs0
――――。
 普段の僕なら気づかなかっただろう。しかし、暗闇の中で緊張しきっていた僕の感覚は、その微かな気配を逃さなかった。
慌ててその方向に振り返ると、洞窟の出口に誰かの影が薄っすらと見えて、そしてすぐに消えた。
「だれだっ!」
 その影を追うようにして僕は駆ける。別に、体当たりの着地に失敗したのを見られたのが恥ずかしいとかそういうわけじゃないけれど。
……あんなに遠く感じていた出口までの距離は、走ってしまえばあっという間で、僕は内心驚いた。
洞窟の外に広がる空は殆ど暗く、もう日は沈み切ってしまったらしい。出口の先に続く一本道にはしかし、もう何の影も見当たらない。
 あれは一体誰だったんだろう。そう考えながら辺りを見渡してみた。
「あっ……?」
 洞窟の出口のすぐ脇に、僕が採った木の実と―― 一匹の小さなエネコが倒れていた。
慌てて駆け寄って声を掛けるが、眠っているのかすっかり気絶しているのか、
何れにせよ全く目覚める様子は無い。
 僕は先ほど出口に見た影と、目の前のエネコを重ねてみる。この子だったのだろうか。
違う、とは言い切れないけれど……あの影は、もう少し大きかった気がする。
「うー……ん」
 ともかくここに放っては置けないだろう。こんなところで夜を過ごしたら、まず間違いなく凶暴な野生ポケモン達のエサになってしまう。
毎晩毎晩半分骨になった姿で夢に出てもらっては困るので、僕はそのエネコを自分の寝床に連れて帰ることにした。
「勝手に逃げてもらえば良いだけだし……ね。うん」
 エネコの体を背負いながら、そう自分に言い聞かせる。今初めて意識したことだけど、この子、女の子だ。
背中から伝わるその感覚から、先ほどの暗闇の中とは種類の違う高揚感を感じてしまい、
僕はそれをごまかすように自分が採った木の実を口に咥える。
力を込めすぎて、甘い果汁が口の中に広がってしまった。
 そういえば……と、僕は頭の中に沸いた変な感覚を打ち払うように考える。
あの時、ズバットの一撃を避けられたのは一体どうしてだったんだろう。
その前も、僕の体力から考えれば、随分長く動けていたような気がするし。
「…………」
 この子が助けてくれたのかな、という考えがよぎって、きっとそうだと自分の中で結論付けた。
助けてくれた子にはきちんと恩返しをしなくちゃいけないんだから、寝床に連れて帰っても、別に全然問題無いよね――。

28 :◆HAKOcCnj4U :2008/03/18(火) 19:58:15 ID:b69X1yCs0
  ・
  ・
  ・

 ……笑ってしまうような考えだが、今から思えば、結局自分を納得させたかっただけなのだろう。
あの時、洞窟の中で一体何が起こったのか、未だに自分の中で結論付けることは出来ないけれど。
それでも、あの時エネコに出会えたことは間違いなく幸運だったのだと思う。
「ねえ、早く寝ようよ。……もう、何考えてたの?」
「ああ、ゴメンゴメン」
 僕は苦笑いを返しながら、彼女の催促に応えるように寝床へと向かう。
その苦笑いはどうしても、ちょっぴり締まりの無い笑みになってしまって。そして彼女を不思議そうな表情にさせてしまうのだ。
「うん、ちょっと。昔のこと思い出してただけだよ」
 そう濁すように言ってエネコロロの体を抱き寄せてやる。昔のことには違いないのだから、嘘ではあるまい。
柔らかい毛皮の中から温かい体温を感じていると、彼女が頬をすり寄せてきた。
 そう、間違いなく幸運だったのだ。僕に守るべきものを与えてくれて、身も心も強くしてくれて、そして最愛の相手となってくれた存在。
それは、今自分の目の前で安らかな表情を浮かべている。いくら分からないことがあっても良い。
目の前の、この存在だけは確かなのだから。

 眠る前に、その幸運との思い出を辿って――そして僕は今夜も良い夢を見るのだろう。




以上です。
こういう場所に投稿するのは初めてで、最初に一行が長すぎるって怒られました。
慌てて修正しつつだったので読みづらい箇所があるかもしれません。
また、携帯の方でどう見えるのかはさっぱり分からないです。ごめんなさい。

では。

29 :Gimnima ◆N42CHo8qoU :2008/03/18(火) 21:07:28 ID:KooY7ZMg0
>>25-28
初めまして。Gimnimaと申します。
早速ですが、小説GJです!
新しい小説師の登場は
本当に有難いことです。
これからも是非……
って、執筆の催促は良くないですね。

小説の方ですが、
・読みづらい箇所があるかも
・携帯電話での映り様が分からない
という点を心配されていたようですが、
少なくとも私の携帯電話では
全く問題ありませんでした。
自信を持って良いと思います。
次はもう少し長い小説にも
挑戦してみては……
ってまた催促…orz
とにかく……小説、GJです!

私もそろそろ続きを仕上げなければ……



30 :ゴスゲン ◆HAUNTj4UBg :2008/03/19(水) 02:32:49 ID:SAV7e5+I0
See You Again
第二話「謎のトレーナー」(前編)

「ここだね、あのケッキングがいるのは」

トウカシティのトウカジム。ここに、普段なら見かけないポケモントレーナーが、また一人やってきた。

ポケモンジムでジムリーダーとポケモンバトルしてジムバッジをゲットするのが、トレーナーの主な使命である。
だから、月に数百人、規模によっては数千人もの挑戦を受けなければならないので、どのジムでも当たり前の光景であろう。

しかし、トウカジムは少し違う。なぜなら、前回ポセイドンが説明したように、クラッシュが挑戦相手になってくれているからだ。

「一撃必殺ポケモン」。一撃必殺の技を使わずして、相手のポケモンをすぐに戦闘不能にさせることから、
世間ではこの名で呼ばれている。
なかでも、はかいこうせんをまともに受けて勝てたトレーナーは、いまだかつていない。

勝てないからこそ、世間でさらに盛り上げられるもの。
彼を倒すことがトレーナーの一つの目標みたいなものに、いつのまにかなってしまった。

だから、他のジム以上に、強いポケモントレーナーたちが集う、といっても過言ではなかった。

今日もまた、挑戦者がやってきた。ジムバッジをゲットする、という本来の目的そっちのけで。

「ごめんください」
「お、私と勝負しにきたのかい」

ジムリーダーのセンリがじきじきにお出迎えをする。

「いいえ、違います。あのケッキングと戦いに来たのです」
「ハッハッハ…やめておけ、まず負けるぞ。いまだかつて、あいつに勝利したトレーナーは一人としていない」

センリが脅すも、挑戦者にこんなことは通用しないと思っていた。
どんなトレーナーも、無鉄砲で、事前の忠告を無視し、そして負けはするものの、戦えたことは光栄だと思うようになる。
試合終了後には、クラッシュと、へとへとになった挑戦者のポケモンが握手する。
そんな光景が、日常茶飯事だったのである。

「ぼくは本気です。戦わせてください」
「男に二言は無いな?」

なるべく念を押しておくセンリ。
ここでブルッと震えて帰ってしまうトレーナーがいては、勝負にならない。

「もちろんです」
「よし。みんな! バトルの準備をしてくれ!」

31 :テSテXテQテモ ◆HAUNTj4UBg :2008/03/19(水) 02:34:31 ID:SAV7e5+I0
もう、ドッペルったら、どこに行ったのかしら…?
あ、私はティアマト。種族はフライゴン。今は、ドッペルっていうゴーストの保護者をやってるわ。

ユウキがいなくなる前に頼まれたの、私。面倒見がいいからって。
でも、いっつもドッペルがあっちいったりこっちいったりで、正直自信なくしちゃうの。
ドッペル、明るいのがせめてもの救いなんだけどね。

とりあえず、トウカシティの方にでも行ってみようかな。
…って、あれ? あ! 空に浮かぶあの黒い影!

「ゲッ、見つかった!」
「もう、こんなところにいたのね」
「イヤハハハハ、かなわんわー、やっぱり姉さんからは逃げられんなー」
「…なんで逃げようとするのよ」

脱走なんてよくあること。そのたびに、私は運よく見つけることができたんだけど、
ときどき本当にいなくなったかと思ったら、いつの間にかりゅうせいのたきに戻っちゃう。
本当に、少しは私の苦労も考えてよね。やんなっちゃう。

「あ、そうだ。せっかくだし、クラッシュの様子でも見に行こうや」
「へ? クラッシュ? ああ、最近会ってなかったわね。相変わらず挑戦者をバッタバッタとなぎ倒してるんだろうね」

せっかくだし、トウカシティにそのまま二匹で行くことにしたの。行き先は、もちろんトウカジム。

「とうちゃ〜く♪」
「ふぅ、やっぱり客集まってるわ」

ジムの前には、大勢の人だかりができていた。
おそらく、これからクラッシュの試合が始まろうとしてる。だって、試合始まったら、中に入れなくなっちゃうもんね。

「さて、おいらはこれからダフ屋行為でも…」
「しなくて結構! 犯罪でしょ、第一。とりあえず、ジムの中に入りましょ」
「はーい」

32 :ゴスゲン ◆HAUNTj4UBg :2008/03/19(水) 02:36:29 ID:SAV7e5+I0
(すみません、>>31化けました…)

そうしてトウカジムに入ると、いつものようにセンリさんが優しく迎えてくれるの。

「ああ、ずっと前息子がお世話になったね」
「こちらこそ、ケッキングに叩かれたときの痛みは忘れてませんわ」
「ハハハ、そんなときもあったかなぁ」
「??」

センリさんとユウキは親子同士。しかし、それでもジムバッジをゲットするために、ユウキは実の父親と戦った。
そのとき、私はナックラーだったけど、センリさんのケッキングにはなす術もなかったわ。
その代わり、クラッシュとポセイドンのおかげで何とか辛勝したけどね。
今じゃいい思い出。あ、これって、ドッペルにはまだ言ってなかったっけ。

「ところでさぁ、試合はいつ始まるんだ?」
「ああ、もうそろそろ時間だな。グラウンドの席まで回ってくれないか、といってもちっぽけだけどね」
「はい」

そしてしばらくした後、あの試合は始まった。
そう、クラッシュが、うまく弱点を突かれて、負けてしまったあの試合が…

「先手必勝! ケッキング、はかいこうせんだ!」
「あいあいさー」

どのポケモンよりも太い光線なのよ。クラッシュが出すのは。
これで今までは倒してこれたんだけど…
今回の相手、なんだか様子が違うの。

「カビゴン、なんとか持ちこたえてくれ!」
「グゥ……ッ!!」
「フッフッフ、これを受けて倒れなかったポケモンは…なにぃっ!?」
「ハァッ!! ふぅ、危うく倒れるところだったゴン」

えええええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?
正直、私も驚いた。
小さな客席にいる観衆からも、とても想像もつかないざわめきがあがっていたわ。
そして、当然ドッペルも…

「ま、まさか、クラッシュ兄さんのはかいこうせんを耐えるポケモンが…」

彼にしては珍しく、目がマジになってたわね。それほど衝撃的だったのよ。

33 :ゴスゲン ◆HAUNTj4UBg :2008/03/19(水) 02:37:32 ID:SAV7e5+I0
「耐えてくれればこっちの勝ち! カビゴン、カウンター!」
「こ、こんなことが…」
「行くゴン! かなりのダメージを与えた代償、受けてみるゴン!」
「ふにゃ〜…」

そう。相手のはかいこうせんに耐えられれば、カウンターでそれこそあっという間に勝負が決まってしまう。
一か八か、本当に危ない賭けなんだけど、これは確かに一つの対策法なの。
クラッシュはいかにもやる気なさげだったけど、ケッキングになってからいつもあんな感じだから、
特に心配はしていないわ。
しかし、心配なのはセンリさんのほう。

「ケッキング、戦闘不能! よって、この勝負、挑戦者の勝利とする!」

レフェリーの声を聴くと、試合場のムードが一気に最高潮にまで達したの。
まさかのカウンターパンチで敗北。これを驚かずにいられますか!

「よ、よくやったな。名前はなんと言うんだ」
「名乗るほどのものではございませんよ」
「せめてイニシャルだけでも」
「すみませんが、お断りしておきます」
「そ、そうか…青年よ、よく健闘した!これをたたえようではないか!」

表面上はかなり平静を装っているけど、本心はやっぱり、勝負に負けて辛いのと、
クラッシュを超えるトレーナーが現れたことでうれしいので、複雑なんだと思うな。
そして、そのクラッシュもなんとか起き上がって、

「よく耐えたね〜、すごいね〜、君は」
「ゴンゴン、我輩は仲間と一緒に今までいろんなことに耐えてきたゴンね〜」
「今度、オラに弟子入りさせてくれないかな〜」
「OKといいたいゴンが、それはお断りさせていただくゴン」
「ちぇ〜」

うーん、なんだか百戦錬磨って言葉がぴったり合いそうなカビゴンね。
でも、なんだか似たもの同士、クラッシュとすごく息が合っているようにも見えたわ。

34 :ゴスゲン ◆HAUNTj4UBg :2008/03/19(水) 02:38:23 ID:SAV7e5+I0
そして試合後…

「ああ、ふがいない、ふがいない!君たちにこんな試合を見せてしまうとは…」

やっぱり落ち込んでるわ。相当ショックだったんだろう。

「いえいえ、私は別に気にしてないですよ」
「おいらも、今回は相手に拍手を送りたいな」
「慰めてくれるのか、赤の他人の私を…」
「赤の他人じゃあ〜ないよ〜」

何故かここで、負けたクラッシュもセンリさんを慰めようとする。

そう。私たちは、センリさんとは赤の他人じゃない。
息子、ユウキと一緒に、たくさんの経験をしたんだ!決して、ユウキはただのトレーナーではない。
だからこそ、センリさんに赤の他人とは呼ばせたくない。

「クラッシュまで…うん、そうだな」
「それに、ジムリーダーとしての仕事があるじゃないですか。トレーナーの壁にならなきゃいけないんでしょ?」
「ハッハッハッハ、最近クラッシュとの勝負ばっかりだったから、ついつい社交辞令になってしまったよ。
そう。私はトウカジムリーダーのセンリだ!…とはいっても、今日は盛り上がる気にはなれん」

なんだか、そっとしておいた方がよさそうね。

ともかく、一大ニュースだわ。クラッシュが負けるなんて。
興奮冷めやらぬジムを後にした私たちは、すぐにポセイドンにこのことを伝えることにしたの。

「急ぎましょ、ミシロタウンまで」

ドッペルには悪いけど、無我夢中だったわ。早くこのことを伝えなきゃ、って思って。

「え? え!? ちょっと、姉さん、置いてかないでよぉー!」

35 :ゴスゲン ◆HAUNTj4UBg :2008/03/19(水) 02:44:49 ID:SAV7e5+I0
こちらでははじめまして。ゴスゲンと申します。
昨日は勝手に私の書いた駄文をアップし、そして今日は挨拶代わりに第二話を作って即アップしてみました。
度重なるご無礼、失礼しました。

今日始めてこれを見ましたって方は、まとめwikiにアップしておいたので、まずはそちらを最初にみていただきたいなぁ、と。
http://www34.atwiki.jp/pokemon-erostory/pages/773.html
http://www34.atwiki.jp/pokemon-erostory/pages/774.html
http://www34.atwiki.jp/pokemon-erostory/pages/775.html

後編は既に完成しているので、要望があればまたアップしにきます。

それと、>>25-28もGJな出来ですよ。作者さん乙です!
(同一人物ではありません、念のため)

36 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/19(水) 13:56:47 ID:4aQxmT++0
>>25-28
最近は殆ど長編小説を読んでいたせいか、こういうさらっと読めるような短編ものがやけに新鮮に思えます。
氏の次回作にも期待ですね(お前も催促かよ!
PSPの方でも問題なく読むことができましたよ。

act16 収穫

「う…やっぱ外はキツいな…」
昨夜の幻想的な風景とはうってかわって熱帯地域特有の暑さがロキを襲う。
今日はいつにも増して日差しが強い。この眩しさなら草ポケモンが溜め無しでソーラービームが撃てるだろう。
そして今日もこの暑さの中にも関わらず柵の内側では子供達が元気そうに駆け回っている。
柵の内側は小学校の校庭程の広さがあり、子供向けの遊具や水場などの設備が充実していた。
「あ、ロキじゃん。おっはよ〜!」
その中からロキに向かって手を振るのはジグザグマのロウファ。
側にいたエイミとトールもロキに気付いて手を振ったかと思うと三匹一緒にロキの元に走り寄ってきた。
「おはよーロキ君っ♪」
「朝から元気だな、お前らは……」
子供達は朝食を食べ終えるや否や、すぐにこうして外に出て遊び始めるのだ。
外に出るのはいつもこの三匹が一番乗りだった。

37 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/19(水) 14:04:49 ID:uxwwmQq+0
「そうだロキ君〜、今日は久しぶりに稽古をつけてくれるか〜い?」
そう言ってトールが期待の眼差しでロキを見つめる。エイミとロウファもだ。
「……悪い、今日も外に出るんだ。稽古はまたいずれつけてやるからさ」
「いいなぁ〜ロキ君は。一人で砂漠に出られる位に強いんだからなぁ〜…」
ロキの返事に落ち込むもなお一層尊敬の眼差しでロキを見つめる三匹。
「よし、オレ達が強くなるためにはまず体力作りだ!行くぞ、次は鬼ごっこだ!トール、お前が鬼な!」
ロウファはそう言うと走り出して行ってしまった。
「待ってよ〜ロウファ〜…」
「じゃあね、ロキ君!」
「ハハハ…さて、オレも行くか」
ロキはただ暴れているようにしか見えない三匹を見て苦笑いすると柵出口へ向かい、ジェイクに挨拶をして砂漠に出る。

外に出た彼はとある場所を目指して歩いていた。
「そろそろかな……お、見えてきた」
彼の目に入ってきたのは昨日オドシシを仕留めたあのオアシスだった。
オアシス周囲の草木には色とりどりの“きのみ”が実をつけていた。
「どれから持っていこうかな……よし、まずはこれ…と」
ロキは側にあったモモンの木に近付き、実を数個もいで背負っていた鞄に入れる。

38 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/19(水) 14:17:49 ID:CiMsW6dY0
それからロキは数十分かけてマトマ、パイル、オレン、ヒメリなどのきのみを次々と鞄に詰め込んでいった。
「これだけあれば十分だな……帰るか」
ロキはきのみでいっぱいになった鞄を背負って集落へ帰ろうとした。
が、振り返った彼の目に緑の下地に黄緑の縦縞模様が入った見慣れない球形のきのみが。
「ん? これは……カイスじゃねぇか!」
驚愕の表情でそれに近付き手に取るロキ。少々小振りではあったがそれは正しく“カイスのみ”だった。
ロキは図鑑でしかカイスを見た事が無い。それもそうだ。砂漠地帯の厳しい環境ではカイスは全くと言っていい程育たなかった。
ロキはカイスの一つを取って味を見る。
「うまっ! こいつも持って帰ろ。二人が喜びそうだな…」
期待通りの味だったのでまた別のカイスを両腕で抱え、上機嫌でロキはオアシスを後にした。

39 :◆HAKOcCnj4U :2008/03/20(木) 22:09:56 ID:4YRlTCX+0
感想などありがとうございます。

>>29
報告とても助かりました。
中編程度ならその内書くかもしれません。
Gimnimaさんも頑張ってください。




>>36
ああ、PSPっていう手もありましたね。
当方ハードがPCだけなので、見易さの情報はとてもありがたいです。


では、また。

40 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/24(月) 10:47:50 ID:yE9cmOgU0
―3―

 仲間がああいった態度を取るようになったのは間違いなくこの森が小さくなってからだ。
何ヶ月か前、新しい家を建てるための開発とやらで人間がこの森の一部を切り開く工事を始めた。
その結果、切り倒された森の周辺に住んでいたポケモンは住処を追われてしまうことに。
人間に抵抗しようとしたポケモンもいたけれど、彼らが育て上げたポケモンには敵わずに手痛い反撃を受けることになった。
その土地は今はすっかり平地になって、新たな家の土台が作られようとしている。
強制的に縮小を強いられた森は、僕らグラエナの群れが住むには小さすぎる。
食料となっていたポケモンはあっという間に少なくなってしまった。
 まだ森が豊かだった頃は仲間達と協力して獲物を追いつめたりした。
まあ僕は追いかけたり退路をふさいだりする専門で、直接とどめを刺すのは他の仲間や群れのリーダーだったけど。
僕が他のポケモンを傷つけるのが苦手なことも皆理解してくれていて、特にリーダーなんかはよく僕におこぼれを分けてくれたりしていたのだが。
森が小さくなってからは皆自分のことで精一杯。どうやって食事にありつき、明日を生き延びるか。誰かを気に掛けている余裕なんてありはしない。
本来グラエナは仲間とのチームワークで狩りをするものなのだが、今そんなことをすれば仕留めた獲物の奪い合いが起こるだろう。
僕らが置かれた状況が非常に厳しいものであると知りながら、この期に及んでまだ餌となるポケモンに対して非情になりきれない僕のことを仲間達は次第に疎んじるようになった。
頭じゃ分かってるんだ。この森で生き延びていくためには、時には冷酷にならなければいけないことぐらい。
それでも僕は同じ命を持った他のポケモン達を単なる餌だなんて思えなかったし、思いたくもなかった。
だけどどんなに狩りが嫌だと言っても、必ず空腹はやってくる。どこかでエネルギーを取らなければ死んでしまう。
生きるか死ぬか、なら、僕は生きる方を選びたい。
悩んでみたところで結局は躊躇いを抱きながらも、他のポケモンを犠牲にし続けるしかないのだ。
「……ふう」
 僕は小さくため息をついた。これ以上考えても自分の納得行く答えは出ない。そんなことよりも明日からのことを。
さっき食べたばかりだから、今日と明日はどうにかなるだろう。明後日まで持たせるのはさすがに厳しいかも知れないな。
僕はいつも空腹が限界になるまで食事は取らないことにしている。
殺すのが嫌だというのももちろんあったが、それぐらい追いつめられないと自分で狩りに踏み切れないのだ。
 小川を後にして次の食事をどうしようかなと思案していると、なにやら唸り声のようなものが聞こえてきた。
意外と近い。一瞬、どこかで仲間が苦しんでいるのかとも思ったが周囲にグラエナの匂いはしない。
耳を澄ませてみるとその声は小川の向こう側の茂みから聞こえてくることが分かった。
そう言えば川を挟んで反対側の森はあまり僕もよく知らない。
あまり深入りしてしまうと迷子になる恐れがある。だけど、途切れ途切れの声はなんだかとても苦しそうだ。
グラエナが他のポケモンに襲われたという話は聞かないから、身の危険は心配しなくてもいいだろう。少し様子を見てみるか。
この声の主が何のポケモンなのかは分からなかったけど、気になった僕は小川を飛び越えて茂みの中に足を踏み入れた。

41 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/24(月) 10:48:31 ID:yE9cmOgU0
―4―

 茂みを越え、落ち葉を踏み締めながら進んでいく。地面や木々の雰囲気はそう対して変わらない。
あの川は何らかの境界線のようなイメージがあったのだが、森の様子から見るとそういうわけでもないようだ。
さっきの声が徐々に大きくなっていく。声質は少し幼い感じだ。まだ進化前のポケモンなのかも知れない。
もう姿が見えてもおかしくないくらい近いはずなんだけど。どこから聞こえてくるんだろう。
僕は辺りをきょろきょろと見回す。すると、視線の先に何か茶色をしたものが動いていることに気がついた。
木の幹と地面の色で保護色になっていてよく分からない。僕はゆっくりと歩み寄っていく。
「……っ、だめか」
 その声の主はどうやらジグザグマだったらしい。倒れた古木と地面の間から頭と前足だけ出して唸っている。
ジグザグマに被さっている古木はずいぶんと朽ち果てておりかなりの月日が経っていることを思わせる。
おそらく、倒れてきた木の下敷きになったのではなく、倒れていた木と地面の隙間をくぐろうとして挟まってしまったのだろう。
どうにかして抜け出そうと悪戦苦闘していたのだろう。ジグザグマの前の地面には前足で引っ掻いたようなあとが無数に残っていた。
「まいったなあ……」
 大きなため息をついてふと顔を上げるジグザグマ。かなり近くまで来ていた僕と目が合う。
本来ならば気づかれてもおかしくない距離だったけど、抜け出そうと必死でそこまで気が回らなかったらしい。
そしてグラエナというポケモンがどういった存在なのかは、この森に住むポケモンならば皆が知っている。当然、彼も。
「……う、うわぁっ!」
 ジグザグマの表情が恐怖の色に染まる。目を大きく見開き、何かに取りつかれたように必死で体を動かし脱出しようと試みる。
古木を押しのけようと何度も前足で蹴ってみたものの、びくともせずに乾いた木の音がこだまするばかり。
僕は黙ったまま徐々に彼との距離を縮めていく。あと少し踏み出せば、僕の牙が彼に届く範囲だった。
「あ……あぁ……」
 口をパクパクと動かし、言葉にならない声をあげるジグザグマ。ガタガタと震え、目には涙が浮かんでいた。
無理もないだろう。天敵が迫ってきているのに逃げることができないという状況。それはすなわち、死を意味する。
ジグザグマが僕に気がついてから数秒しか経っていなかったが、その間に彼が感じた精神的な苦痛は計り知れない。
自分が今にも殺されるかもしれないという恐怖。あまり長くこの状況を継続させてしまうと、間違いなく彼の心は粉々に砕けてしまう。早いところ済ませなくては。
「ひぃっ……!」
 さらに一歩踏み出した僕を見て、もうだめだと思ったのだろう。ジグザグマは前足で頭を抱え目を閉じる。彼の目から涙が零れ落ち、地面を濡らした。
そんな彼を尻目に僕は倒れた古木に鼻先を押し当ててみる。なるほど、これはたしかにジグザグマの力で動かすのは難しいかもしれない。
前足に力をこめて体全体で頭を前に押し出そうと踏ん張った。森の湿った地面に僕の爪跡が刻まれていく。
やがて、ゴトリと鈍い音を立てて古木は反転した。僕の力では完璧に押しのけることはできなかったけど、ジグザグマが動けるスペースは作れたはずだ。
突然体が軽くなったことに気が付いたジグザグマは顔を上げる。そして、さっき僕が何をしたのかも察したようだ。
ジグザグマは緩慢な動きでのそりと起き上がる。呆気に取られて声も出ないらしく、まだ涙の残った瞳でぼんやりと僕を見つめていた。

42 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/24(月) 10:49:47 ID:yE9cmOgU0
今度は間違えずにこちらに投稿。
一話と二話はエロ小説[の方のスレにあります。
これからはこちらに投稿していくので、よろしくお願いします。

43 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/24(月) 11:54:48 ID:OmMKbOSo0
>>40-42
 執筆&投下、お疲れ様です。

 やはりカゲフミさんの作品にはところどころに呼び掛けのようなものが含まれてますね。
人の森林伐採が今回入っていましたし。

 で、ちょっと気になるところが……。

強制的に縮小を強いられた

とありますが、二重表現になってしまいますので、

縮小を強いられた
か、
強制的に縮小された
の方が、文体としてはしっくりくるかなと思います。

 尊敬しているだけにちょっと気になりました。
決してあら探しではないので、そこのところは誤解しないで下さい(^^;



44 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/25(火) 14:00:57 ID:/rMEedKw0
>>40-42
小説GJです!
次々と小説のストーリーが浮かび、文章力も高く、筆も早い………カゲフミ氏にはやはり憧れますね。
グラエナ…何を考えて……続きにwktkです。


act17 異変

現在午後二時過ぎ…日中最高気温を記録する時間帯である。
砂漠を一人で歩くのはカイスを抱えた身長70cm程のイーブイだった。

ーーしかし、オレのいない間にユメルが見つかってないだろうか…ルシオだけで本当に大丈夫だろうか……

ロキはユメルをかくまう事に不安感を抱き始めていた。
アース族集落はノーマルタイプのポケモンの集まり。よって特例を除いてそれ以外のポケモンは集落に住む事が族長によって禁じられていた。
特例というのは進化前にノーマルタイプを有しているポケモンが進化によりノーマルタイプを失っても集落に住むことが出来る、というものだ。
現にイーブイの頃から集落に住んでいたロキの両親……父、エーフィのテュールと母、グレイシアのシヴは進化後も集落に住み続けたという。

……なのに何故進化前からタイプの違うポケモンは受け入れられないのだろうか。
それは過去にタイプの異なるポケモン同士の争いが起きたからだ。

45 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/25(火) 14:08:44 ID:zI8MBc1g0
数百年前、この砂漠ではあらゆるタイプのポケモンが一つになって暮らしていたが、ある時にタイプの違いのちょっとした事が揉め事を生んだ。
これを大規模な争いに発展する事を恐れたファーブニルという名のカイリューが砂漠全てのポケモンをタイプごとに分けて別々の場所に住まわせ、数百年の間それを監視していた…という話だ。
ファーブニルが姿を消した今でも各集落の族長がその風習を守り続けている。
その族長を説得してユメルを集落に住めるようにして貰えれば…と彼は考えていた。
「明日にでも族長に相談してみるか…」

それからの帰路は特に何も無く、カイスを抱えた彼は柵の前に辿り着いた。
「ジェイクさ〜ん、扉を開け……ん?」
門番のジェイクに声を掛けようとしたが、いない。
扉の鍵は壊されたような跡がある。柵を出る前にあれだけ騒いでいた子供達の姿も無く、中はガランとしていた。
「皆どこかに行ったのか…?」
仕方なく肩で扉を押し開けて柵の中へと入る。
足元の砂には見たことのないポケモンの足跡が複数あり、それは柵の扉から集落入り口の洞穴へと真っ直ぐに続いていた。

46 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/25(火) 14:22:22 ID:/Dm1YPAk0
ロキの背中に戦慄が走った。嫌な予感がする。
例えようのない不安に襲われた彼の足は自然と早まっていく。


「う…ロキ…君…」

ふと、自分を呼ぶ微かな声が聞こえる。
ロキは反射的に辺りを見回し、遠くに倒れていたエイミを見つけると血相を変えてカイスを放り出し、彼女の元に駆け寄る。
「お…おい、大丈夫かエイミ!一体誰がこんな事を…」
彼女は虚ろな目でロキを見上げ、力無く口を開く。
「ロキ…君…エ…スパー…タイ…プの…ポケ…モ…ンが……」
エイミはそこまで言うと気を失って倒れてしまった。
「…エスパータイプのポケモンって事は……まさかヴァン族か!?」
ユメルの身の危険を感じた彼は砂上を滑る疾風と化して洞穴へと駆け込んでいった。

47 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/26(水) 18:43:47 ID:LtDQOym60
―1―

 樹々が整地され、自然とはいえないその並木道を歩く少年が一人。
かすかに入り込む木漏れ日に時折迷惑そうに目を細めるその少年は、黒い髪を掻き分けると、深いため息をつく。
彼がこの森に来た理由。それは店のポロックを作るための木の実の調達が主だった。
たったそれだけなのに、何故か今日は足取りが重い。
その理由に大体の見当はついてはいるが。
(白いグラエナに注意しろって言うくらいなら、護衛役のポケモンくらい渡してくれたっていいじゃないか……)
彼は家にいるキュウコンの姿を思い浮かべながら、頭の中でそう悪態ついた。

 最近町で噂になっている『白いグラエナ』。そのグラエナはどういう訳か人を襲うらしい。
幸い、そのグラエナに襲われて亡くなった人はいないものの、腕を噛まれて数針を縫う怪我を負った人も少なくは無い。
そのため、町では常に警戒されている。だがどういうことか、彼の母親はその事について無関心で、平気で森に木の実を取って来てくれと頼んできたのだ。
仕方なく彼は引き受けたものの、やはり町中で噂になっているだけあって、恐れを感じられずにはいられなかった。常に辺りを見回し、警戒する。
……いつでも、すぐにでも逃げられるように。

 「あ……」
ふと実の連なる樹々が目に入ると、彼は小走りでそこに近付いていく。
ある程度近付くと、木を見上げて目を輝かせる。彼はこの光景が昔から好きだった。
……様々な色の様々な形の色んな木の実。それが真横に並ぶイルミネーションのような光景。
木は人工的に植えられたものではあるものの、そんなことなど彼には関係なかった。
ただ、この目の前に広がる光景が好きだったから。

 先ほどの噂の事などすっかり忘れ、背中から一本の棒を取り出す。
その棒の中は空洞になっていて、そこに輪になった縄を通し、先端の輪を木の実に引っ掛け、下の輪を引っ張ると先端の輪が実の上の枝にしっかりと巻き付く。
後は自分の体重を使えば、刃物がなくても木の実を落とすことが出来た。

 そうして集まっていった木の実を籠に次々にいれ、勢いをつけて背負う。若干フラついたものの、なんとかバランスを取ることが出来た。
木にはまだ沢山の木の実が枝を垂らしてはいたものの、残りはこの森のポケモン達の分ということを、母親から教えられている。
だが、籠一杯の木の実を見て、彼は少し困ったように黙り込む。
「取り過ぎたかな……」


48 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/26(水) 18:44:33 ID:wzG1QLxk0
そう呟きながらも、帰るために振り向き歩き始める。太陽は真上に昇り、燦々と輝いていた。
そろそろ昼食時。木の実を取ることに疲れたため、腹が空いた彼は足取りが速くなる。その様子を、樹々の間から白い影が見つめていることにも気付かずに。

 少年は家に向かって長い並木道を歩いていく。早く帰らなければ、彼の母親はきっと痺れを切らすだろう。
無駄と言えるほど時間に厳しい母は、恐らく家で昼食を用意し始めている頃。
(今日のお昼は何だろ)
と、心を弾ませながら足取りは軽くなっていった。もうその頃には朝に忠告されていた『白いグラエナ』の事なんて頭の隅。
背中に目一杯摘んだ木の実を見て驚く母の顔を思い浮かべ、心なしか顔をほころばせる。
(午後はポロック作りでも手伝おうかな……)
そんなことを考え、再び笑顔が顔中に溢れる。だが、すぐに怪訝そうな表情をすると、辺りを見回す。
(ポッポ達の声がしない……)
いつもならこの時間帯。ポッポの鳴き声がこだまするのだが、今日は何故か聞こえない事を不信に思い立ち止まる。
もう一度辺りを見回すがやはりポッポ達の声がしない。姿すら見えない事を不気味に感じ、やや早歩きで家路を急ぐ。
ふと、頭に朝忠告された事が思い浮かぶ。
(まさか、グラエナがいるから……じゃないよね……)
そんなことを考えて、思わず身震いする。早く帰らないと、何か嫌なことが起きるような……。心臓の鼓動が早くなる。
(落ち着け……落ち着け……)
どんなに平常心を保とうとしても鼓動は逆に早くなっていくばかり。そんな自分に腹を立てつつも言いようの無い不安を感じ、更に足を速くする。
そんな時、目の前に何かが飛び出してきた。
「……!」
白く太陽光を反射させる毛並み。ところどころに銀色に近い色が生え揃い、鬣のように背に筋を入れている。
その姿を見た途端、頭にはこの単語だけが過ぎった。
(白い……グラエナ……)




49 :若葉マーク:2008/03/26(水) 22:21:50 ID:+WHj+EPQ0
凄いです皆さん!
・・・なんか皆さんに影響されちゃって、僕も小説書きたいのですがいいですか?

50 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/27(木) 10:01:28 ID:q6HuXnWE0
>>43 山本さん
人間の活動はどこかで野生の生き物に影響を与えているものですよ。
指摘どうもです。ああ、確かにそれでは二重表現に……。
日本語って難しいですね。
レスありがとうございました。

>>44 麒麟児さん
執筆の速度は私のアイデンティティだとか言ってみたり。
まあ、書くことは楽しいですからね。
グラエナが何を思って行動したのかは是非続きで。
レスありがとうございました。

51 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/27(木) 10:33:36 ID:q6HuXnWE0
―5―

 ぽかんと僕を見つめたまま動かないジグザグマ。僕も何も言わずに彼の視線を受け止めていた。
殺されると思っていた相手に助けられたという予想外の展開は彼の判断能力を鈍らせたようだ。
多少の間はあったものの我に返ったらしく、ジグザグマはサッと踵をかえして逃げ去ろうとする。
追いかけるつもりはなかった。ついさっき食べたばかりだし、そのつもりならわざわざ古木をどかしたりはしない。
もし僕が空腹だったなら、これはチャンスとばかりに迷うことなくジグザグマに襲いかかっていたことだろう。
目の前の困っているジグザグマを放っておけずに助けたくなった。それは腹が満たされていた僕の、ちょっとした気まぐれのようなもの。
「……っ」
 しかし何を思ったのかジグザグマは逃げる途中で突然立ち止まり、僕の方を振り向いた。
そして足を前に踏み出し、僕に近づいてくるではないか。恐る恐るといった感じで、かなり緊張しているようだけど。
それでも僕を当惑させるには十分な効果があった。この森ではグラエナはジグザグマを餌にして生きている。
そんな相手にどうして自ら近づこうとするんだろう。今度は僕が呆気に取られる番だった。
もうすぐそこまで迫ってきたジグザグマにどう反応していいのか分からず、無言のまま瞳を向けることしかできない。
「……あ、ありがとう。助けてくれて」
 まだ少し震えていたけど、ジグザグマは確かに僕に言ったんだ。ありがとうという感謝の言葉を。
なんだかとても懐かしい響きだった。昔は僕のことを助けてくれていたリーダーによく使っていたような気がする。
森が殺伐としてしまった今では、誰もが感謝する気持ちなど忘れてしまっているのかもしれない。
「どう、いたしまして」
 とりあえず僕はジグザグマに返答する。これ以外に言葉が見つからない。
彼は僕の答えを聞くと、屈託なく笑った。無邪気な笑顔だ。見ているこっちも幸せになるような。
「君は、僕が怖くないの?」
「……怖くないって言えば嘘になるけど、君は他のグラエナと違うような気がする。とても穏やかな目をしてるから」
 たしかに僕は他の仲間のように常に食料を求めて目をギラギラと光らせているわけではない。
仲間からは生気がない死んだような目だ、と言われたこともある。前向きな表現をすれば穏やかということになるのかな。
もちろんそれは普段の僕であって、お腹を空かせているときの僕はとてもじゃないけど穏やかだなんて言えないだろう。
「でも、どうして僕を助けてくれたの?」
「今は空腹じゃないからね。僕は出来る限り他のポケモンの命は奪わないようにしてるんだ」
 このグラエナは何を言ってるんだろうと思われるかもしれない。最低限とは言っても僕が他のポケモンを殺していることは事実。
言葉にしてみたことは自分に対する自己満足のようなもの。食べられる側であるジグザグマからすれば僕の発言に納得いかないものがあるだろう、きっと。 
「……優しいんだね、君は」
「優しい? そうじゃないよ。僕はただ臆病なだけだ。他のポケモンを食べなければ生きていけないのに、未だに殺すことが怖いんだから……」
「それは君が優しい心を持ってるからだよ。もし僕があのまま挟まれて動けなかったら、他のグラエナに見つかって食べられていたかもしれない。僕は君の優しさに助けられたんだ」
 森が変わるとともに僕の心も荒んでしまっていたのかもしれない。知らず知らずのうちに自分を卑下し、負の感情を漂わせている。
ジグザグマの言葉を聞いていると不思議と穏やかな気持ちになれた。変に飾り立てをしない彼の純粋な想いが僕に心地よさを与えてくれていたのだろうか。
「そんな風に言ってくれたのはジグザグマが初めてだよ。……ありがとう」
 ついさっき彼に言われた言葉。感謝の気持ちの表現。忘れかけていたけど、ジグザグマが僕に思い出させてくれた。
僕らを取り巻く環境がどんなに変わっても、何かをしてもらって嬉しかったときに感謝する心だけはずっと覚えていたかったんだ。

52 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/27(木) 11:07:57 ID:jal9juwQ0
>>49
それは、無問題かと。
来るもの拒まず、去るもの追わずでしたっけ…。
だから大丈夫なはず。

53 :若葉マーク:2008/03/27(木) 19:37:42 ID:Y1f3zBAw0
ありがとうございます!
早速書かせていただきます!
注 僕が書く話の中ではポケモンが武器を使ったりしますが、そこはいまより後の時代という設定なのでよろしくおねがいします。

プロローグ

暗い。この暗さは、ただ単に光がない暗さではなく、黒い絵の具をぶちまけたような暗さだった。
ぼくはただひたすらに前を向いて走っていた。すでに時間の感覚はなかったがかなりの時間走っているのだろう、足が棒のようだ。
しかし、走るのをやめることはできなかった。本能が、走るのをやめたら殺されると感じていた。
その時、背後の闇から金色に輝く、美しく、しかし邪悪な光がエーフィ独特の紫色のけが生えたわき腹をかすめ、一瞬で赤く染めあげた。
「破壊光線・・・!」
その威力はすさまじく、僕はその場に倒れ込んでしまった。
「ばかめ。俺から逃げられると思うなよ。」
低く、恐ろしい声が語りかける。僕はすくみあがって何もできなかった。
「今すぐ親の所におくってやる。」
少しの間静寂があたりを支配した。奴は口を開いてこう続けた。
「死ね、流星の子よ。」
そして奴は剣をふり降ろした。

54 :若葉マーク:2008/03/27(木) 22:41:42 ID:Y1f3zBAw0
それでは、「流れ星の夜」第一章いきます!

第一章 新たな出会い

サワサワと木の葉がこすれ、この森に朝がきたことを知らせた。やわらかな朝日が小さな小屋をてらしだし、中で寝ているグレイシアの顔をそっと撫でた。
しかし、グレイシアはまぶしいのかベットの中に潜ってしまった。だが、ずっと潜っていられるはずもなく、少したつといやそうな顔をしながらもぞもぞと起き出した。
「・・・。」
頭は起きていないようだった。
グレイシアは何を思ったのか、玄関のほうにふらふらと歩いていき前足を取っ手に引っかけ、ドアをあけた。
「いい天気・・・。」
真っ青な空には雲一つなかった。しかし、ドアを閉めようとして下を向いたとたん事態は一変した。
そこには、血だらけでぐったりしているエーフィが倒れていた。
眠気なんてどこへやら。
グレイシアはすぐに手当をはじめた。
「ひどい傷・・・。」
エーフィのからだはかなりひどい状態だった。特にひどかったのは剣か何かでやられたのだろう、肩から腰にかけて斜めに切り裂かれていた傷だった。
ちょうど手当が終わったときだった。
「うぁっ・・・!」
エーフィが苦痛の声とともに目を覚ました。

55 :若葉マーク:2008/03/28(金) 09:45:17 ID:MqX5r7s+0
気がついたときには、僕は暖かい光の中をふわふわとあてもなくただよっていた。
見れば、僕の体の傷はなく、体は半透明の気体のようなものになっていた。
もしかして・・・。
試しに、そこに咲いている花にさわってみた。が、さわることはできなかった。
「僕は・・・死んだのか?」
幽霊になっているのがその証拠だ。しかし、それを否定する声もあった。
「いいえ、あなたはまだ死んではいけません。」
「あなたは・・・だれ?」
すると、さっきさわろうとした花がパッと光ったかと思うと、そこには一匹のポケモンが、こっちを向いて立っていた。
「シェイミ・・・!」
確かにシェイミだった。そしてもう一度繰り返した。
「ここで死んではいけないのです。」
シェイミは一呼吸おくと続けた。
「今から二週間後におこる百年ぶりの惑星直列の晩に・・・。」
「なに?何が起こるの?」
シェイミは、言うか言うまいか迷っていたようだったが、やがて決心がついたのか、ゆっくりと話し始めた。
「・・・今から二週間後、神の革命が実行されます。」    

56 :ルペン一世:2008/03/28(金) 23:44:40 ID:NpPfvdKM0
ちょっと質問です
ポケ×人

人×ポケ
の違いはなんですか?

57 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/03/28(金) 23:58:02 ID:W/yMFyIk0
左が攻めで右が受けだったはず

58 :ルペン一世:2008/03/29(土) 00:08:50 ID:wjp5jNmk0
ありがとうございます

59 :y:2008/03/29(土) 00:10:55 ID:wjp5jNmk0
此処は誰でも気軽に書き込んでいいんですか?

60 :ルペン一世:2008/03/29(土) 00:11:55 ID:wjp5jNmk0
>>59 私です
    すみません

61 :狸吉 ◆2yFRLFKg8k :2008/03/29(土) 00:35:27 ID:FHk3Balk0
>>59
どうぞといってあげたいところですが、
ここは小説スレですので挨拶や質問はなるべく雑談ロビーの方でお願いします。
小説の感想でしたらぜひ気軽に書き込んでください。

62 :ルペン一世:2008/03/29(土) 00:42:39 ID:TG8dSXtQ0
>>61 確かにそうですね
    以後、気を付けます

63 :若葉マーク:2008/03/29(土) 15:31:37 ID:fQjMvT6g0
前回は連続投稿すいませんでした。それでは、「流れ星の夜」いきます!

「・・・それで?」
事態の深刻さが分かっていない様子だ。シェイミか怒鳴る。
「神の革命が意味すること、それは、死よ!」
「それで、僕にどうしろって?・・・まさか、革命を止めろって?」
さっきまでとは違い、少し、たくましさを感じる声だった。「死」という言葉に反応したのだろう。
「分かってるじゃない。」
「いっそこのまま天国にでも送ってください」
「むりよー」
そういって僕のからだをつるのむちでとらえた。さらに、僕の頬をペチペチとたたく。
「あら?」
「あら?じゃないですよ!そろそろ、体が勝手に動いたのー。とか言うんでしよう!」
「・・・。あなた、シュート君?」
「そうですよ?」
僕の名前はシュート。というか、だからどうした!
「それで?」
「きいただけ」
にくたらしい。
「いいかげん、生き返らせるなら早くして下さい。」
「わかったわ。」
そして、僕をとらえているつるを大きく振りかぶった。
「気をつけてねー。」
「うえおあ!?」
「い、が抜けてるわよー」
そして僕は、ロケットよろしく、空の彼方に飛んでいった。
「がんばってねー!」

64 :若葉マーク:2008/03/29(土) 22:07:42 ID:fQjMvT6g0
グレイシアは傍らで成り行きを見守っていた。しかし、起きる気配は全く無かった。
時間は確実に過ぎていき、太陽はすでに天高くのぼりつめていた。
グレイシアは、首に投げかけられる熱気を感じ、自分がまだ外にいることに気付いた。暑いのは苦手だった。いい加減中に入ろうと、半ばあきらめながらもとにかく家に入れようと思い、腕をつかんだその時だった。
「う・・・あ・・・」
エーフィが目を覚ました。そして自分の体に巻かれている包帯に目を落とし、それからグレイシアを見上げた。
「・・・きみがやってくれたの?」
しっかりとした声だったが、同時に幼さを感じさせる声でもあった。
グレイシアは静かにうなずくと、頬をピンクに染めて下を向いてしまった。極度の人見知りだった。
「そうなんだ。ありがと。今は何もお礼ができないけど、そのうち何かさせてもらうよ。それじゃ」
そう言うと、後ろを向いて歩いていってしまった。
「ま、まってください!」
頭で考えるよりも先にことばがでていた。

65 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/29(土) 22:29:52 ID:Ijmb3uNI0
前回の続き、投下。

―2―
 白いグラエナは、腰を抜かして転んだ彼をその赤い瞳で見据えると、口を少し開ける。その中には鋭利な牙が見てとれた。
彼は悲鳴を上げることすらままならず、口を魚のように動かすだけしか出来ない。やがてそのグラエナは足を進めて、彼に近付いて行く。
彼は恐怖のあまり立ち上がることが出来ず、手で這うようにして後退りをしていた。
だが、明らかに相手のグラエナの方が歩幅が大きい。たとえ立って走ったとしても、逃げることは出来ないだろう。
(……誰か……助けて……)
そう叫ぼうとするも、思うように声が出せなかった。目の前にさたそのグラエナの姿にただ恐怖し、逃げ出すことすら出来ない。
その間にも彼とグラエナの距離は縮まっていく。そして、グラエナは口を勢いよく彼に向かって突き出した。
(……!)
とっさに強く目を瞑り、腕で顔を庇うように包んだ。とてつもない痛みと共に腕が生暖かくなる……ことはなかった。
来ると思って覚悟していた痛みは全く来なかったのだ。恐る恐る瞼を開けると、そこにはきょとんとした表情で彼を見据えるグラエナ。
その表情に、先程の恐怖を感じさせるものは何一つ無かった。
 「え……?」
あまりにも想像とかけ離れていたその様子に、思わず彼は声を漏らす。
それを聞き取ってか、グラエナも訳が分からないといったように首を傾げる。
湧き出てくる安心感に、全身から力がすっと抜けていく感じがした。
そんな彼をまるで心配するかのようにグラエナは軽く歩み寄り、彼の頬を軽く舐めた。
「キャハハ……くすぐったい」
笑う彼を見て安堵したのか、グラエナは舐めるのを止めて再び彼の顔を見据えた。
彼はその表情を見て、何だか申し訳ないような気持ちになる。
今まで想像していた『白いグラエナ』は、とてつもなく恐いものをイメージしていた自分が情けなかった。
なにより、町中がこのグラエナのことについて何か勘違いをしている。そのことがただただ申し訳なかった。
 考え事は顔に出てしまうのか、グラエナは暗くなった彼の表情を見て寂しそうに『……クゥン』と心配するような声を出した後、彼にぴたりと寄り添った。
ふさふさした白い毛並みが、彼の腕に触れる。心地よいその毛並みに硬くなっていた表情を緩めて、グラエナの背を撫でた。
気持ちよさそうに目を細めるグラエナを見て、心に突っ掛かっていた何かが取れたような気がした。


66 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/29(土) 22:30:34 ID:rY5H5AZA0
 ふと、背中に重みを感じて後ろを見る。中には沢山の木の実。
それを見て何かを思い出したかのように少年は立ち上がる。
「もう帰らなきゃ……」
そう呟いてグラエナを見る。ここで別れてしまうと次いつ会えるか分からないのが惜しかったが、母親の怒号が飛んでくるのも嫌だった。
複雑な気持ちの中、グラエナは彼を赤い瞳で見据えるだけだった。出会った時は恐く感じた赤い瞳も、今は何故だか安らぐ。
「あ、そうだ」
彼はいきなり何かを思い付いてような表情をすると、すぐさま座り込んで籠の中から赤い木の実を取り出す。
名前は分からなかったが、口に含んだ瞬間甘酸っぱい液が広がる。少年はこの木の実が好きだった。
母がポロックを作っている間に隙を見てつまみ食いする程に。
「これ、あげる」
グラエナはそれを口に咥えると首を傾げる。彼は微笑むと『じゃあね』と言って立ち上がった。
グラエナは名残惜しそうに彼を見つめる。彼は後ろを振り向かずにそのまま歩き出す。
きっとここで後ろに振り向いたら、多分帰りが遅くなってしまう。
それに、またここには木の実を取りに来るだろうから、きっとまた会えるだろうという気持ちもあり、足は難なく進んでくれた。
だが、やはり後ろが気になって仕方がなかった。今グラエナがどんな表情をしているのか。それを思うと何だか後ろを振り返りたくなる。

 堪えきれずに後ろに振り向くと、そこにはグラエナの姿は無かった。彼が去っていくのを見て帰るということを分かってくれたのかもしれない。
いなくなっていたのは少し寂しかったが、これで家に真っ直ぐ帰ることが出来る。そう、これで良かった。
そんなことを考えながら、真っ直ぐに続く並木道をその小さな足で、家へと帰るために動かしていた……。

― End ―

67 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/29(土) 22:32:09 ID:Ijmb3uNI0
何か中途半端な終わり方ですみません。
読んで感想くれたら幸いです。

68 :若葉マーク:2008/03/29(土) 22:39:23 ID:fQjMvT6g0
エーフィがびっくりして振り返った。
「どうかした?」
グレイシアは、何故こんな事をしたのか、激しく後悔した。本来ならあのまま終わっていたはずだったが何故か引き留めてしまった。
「その、怪我ひどいから今日は無理しない方がいいですよ!」
もちろん嘘だった。怪我は完治していて、いまからレスリングをしても大丈夫だった。
「え、そんなにひどい怪我だったの。そっか。それじゃあ今夜、一晩だけ泊めてくれますか?」
「あ、も、もちろん」
なぜかとてもうれしかった。引き留めたのは、絶対に怪我のせいではなく、もっとほかの大切な理由があるはずだった。
その青白い繊細な顔が自然と彼に笑いかけていた。

69 :若葉マーク:2008/03/29(土) 22:45:50 ID:fQjMvT6g0
↑何の前置きもなく書き初めてすいません。
相変わらず下手な文章ですが、感想をいただけるとうれしいです。

70 :ぴか ◆I0gS.Wghlw :2008/03/29(土) 23:04:37 ID:ffNZ4Z7o0
お久しぶりです!!
>>66  こんなにやさしいグラエナなのに、どうしてきらわれたんでしょう??
   文章力もすばらしいです!!
   できれば続きを投稿してほしぃ・・・!!
>>69  神の革命をとめるには・・??
   グレイシアが個人的にすきです!!これからも応援してます!!
 感想しか書けませんが・・・

71 :口R口{ ◆rkAWlQPFjI :2008/03/30(日) 23:36:07 ID:hQsh7r0k0
>>70
感想、どうも。
続きは考えていたんですが、別の作品(ポケモンではないやつ)も書かなければいけないので、やる気失せて終わりにしました。
すみません(苦笑)
 続き書いたら投下します。

72 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/03/30(日) 23:39:53 ID:1DxMePMY0
ヤバ……www

やってしまったww

>>71は私ですwwww

73 :ぴか ◆I0gS.Wghlw :2008/03/30(日) 23:58:18 ID:WocbBhZs0
>>72 まあ、ドンマイです播(≧▽≦*)
   別の作品も期待してます!!!

74 :ルペン一世 ◆i/ei.o2TGU :2008/03/31(月) 00:08:08 ID:LVRleQGc0
みなさん、上手いですね!
私もやってるんですが
下手で・・・


75 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/31(月) 17:10:07 ID:9+UAtQkk0
―6―

 それから僕はジグザグマとしばらく話し込んだ。彼は僕に対する警戒心を完全に解いてくれたらしい。
ジグザグマはまるで自分の仲間に話すかのように接してくれる。彼が違う種族ということを忘れそうになったほど。
誰かと気兼ねなく話せるということが、こんなにも楽しいことだったなんて。最近は他の仲間とろくに会話もしなくなったため、とても新鮮な感覚だ。 
「最近は仲間も減っちゃったしね。こうやって話せる相手も少ないんだ」
 ジグザグマは何気なく言ったけど、それは彼の仲間が僕らグラエナに食べられてしまったということを示している。
もちろん彼はそんなつもりで言ったわけではないだろうけど、僕はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あ、別に君を責めるつもりはないよ。ただ、話し相手が減ったからさ、こうやって君と話せるのが嬉しいなって」
 僕の表情が陰ったのを見たのか、ジグザグマはフォローを入れてくれる。話し相手が減った。話せて嬉しい。それは僕も同じだった。
もちろん僕のように仲間はいるが気楽に話せないのと、彼のように相手自体がいないのとは全然違うだろうけど。
主に喋っていたのはジグザグマで僕は専ら聞く側だったけど、何度かはこちらから話を切りだしたりもした。
僕の声に、彼が答えてくれる。それだけのこと。それだけのことなのに、常にどこか沈んでいた僕の心がふっと軽くなっていくのを感じていた。
「……ねえ、聞いてもいいかな?」
「ん?」
「変なこと言うグラエナだなって思ったら、聞き流してくれて構わないよ。さっきも言ったけど僕は他のポケモンを殺すのが嫌なんだ。でも、生きるためには食べなければならない。今までも多くのポケモンの命を奪ってきた」
 ほんの一瞬だったけど、ジグザグマの瞳が揺れた。いくら穏やかだと言われても、僕はグラエナで彼はジグザグマ。
食べる、食べられるの関係は覆せない。ジグザグマはそれを再認識したと言ったところだろう。
「他のポケモンを散々殺しておきながら、それでも命を奪うのが嫌だって……矛盾してるよね。仲間に言われるんだ、お前は腰ぬけだって。やっぱり僕はおかしいのかな? グラエナはこんなこと思っちゃいけないのかな?」
 こんなことを話せる気が置けない仲間なんていなかったし、仮に話してみたところで嘲笑されるか罵られるかのどちらかだろう。
森での立場が違うジグザグマが僕の苦悩を共感してくれるなんて思わなかったけど、普段から貯め込んでいた僕の迷いをすべてぶちまけてみた。
「……はっきりとは言えないけど、君が命を奪うのが嫌なら僕はそのままでいてほしい。僕が今こうして話せるのも君がそうあってくれたおかげだし。もし君が他のグラエナと同じようになってしまったら、僕は……辛いよ」
 僕は今の僕のままでいてほしいと、それが彼の答えなんだろう。
まだ釈然としないものは残ったけれど、抱いていた思いを誰かに打ち明けることで随分と気が楽になった。
少なくとも今の僕を望んでくれる誰かがいる。それが分かっただけでもこの上ない収穫だ。

76 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/31(月) 17:10:32 ID:9+UAtQkk0
「そっか。答えてくれてありがとう。君がそう言ってくれたなら、僕は僕でいられる気がする」
「うん……よかった」
 ジグザグマは嬉しそうに頷いた。ちょっと眩しすぎるぐらいの笑顔を、僕は大切にしたい。
一度は自分を変えようと努力したけど失敗に終わったことは、彼には黙っておこう。
極度の空腹に襲われない限り、ジグザグマの前でもきっと大丈夫だ。

 彼と話しているうちに、いつの間にか時間が流れていたようだ。夕闇の薄暗さが森の中に漂い始めていた。
「そろそろ暗くなってきたね。戻らなくちゃ」
「そうしたほうがいい。夜の森は危険だから」
 僕らグラエナは視覚よりも嗅覚で獲物を見つける。辺りが暗いくてもそこまで狩りに支障は出ない。
むしろ、暗いから相手からも見つかりにくいだろうと油断していると恰好の餌食になってしまう。
ジグザグマのようなポケモンは極力夜は出歩かないほうが無難なのだ。
「……ねえ。また明日、会えないかな?」
「え……」
「無理なお願いかもしれないけどさ、今日君と話せて楽しかったから。また話せたらなって」
 どうしようか。彼と一緒にいるところを仲間に見られたらまずいことは承知してる。
だけど僕としても再びジグザグマと会えることを望んでいた。出来るならば近いうちにもう一度会いたい。
彼がいつ他の仲間に襲われてもおかしくない状況なのだ。このまま別れてそれっきりというのはあまりにも寂しすぎる。
「……分かった。じゃあ、明日の朝、この場所で会おう」
「うん、約束だよ」
「ああ、約束だね」
 それほど躊躇せずに、僕はジグザグマと笑顔で約束を交わした。これはグラエナとしてはあるまじき行為なのかもしれない。
でも僕は彼が言ったように、いつまでも僕であり続けたい。このジグザグマとの約束には僕が変わらないでいる、という決意も含まれているような気がしていたから。

77 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/03/31(月) 17:17:46 ID:9+UAtQkk0
>>65-66
少年に甘えるグラエナの仕草が可愛かったです。
見た目はちょっと怖いポケモンが人間に懐くというのは個人的に好きなので……。
ただ、ここで終わるのはちょっと残念かなあと。

78 :若葉マーク:2008/03/31(月) 21:12:44 ID:YC+wPook0
〉〉70
感想有り難うございます。
〈流れ星の夜〉書かせていただきます。

第二章 「旅立ち」

彼女はそう叫ぶと顔を赤く染めて下を向いてしまった。
普段からよくクラッシュを起こす僕の頭は、いきなり声をかけられて数秒間ほどフリーズしていたが、苦心の末に何とか今の言葉の意味を理解することに成功し、再びクラッシュを起こした。
「いや・・・でも・・・そこまでしてもらうのはちょっと悪いし・・・でも今日は泊まるあてもなくて・・・」
初めて自分をにくいと思った。
相変わらずクラッシュを起こしているシュートの頭に「穴があったら入りたい」という言葉がよこぎった。まさにこの事だ、シュートはこの言葉の意味が確実に分かったと思った。
グレイシアは、そんなシュートをみてクスッとわらうと、
「ならどうぞ。私はいつも一人だから、話し相手がいなくて」
その笑顔が一瞬、かげったのような気がした。しかし、次の瞬間には、元の笑顔に戻っていた。気のせいかな。
グレイシアは家の扉を開けると中に招き入れた。
しかし、シュートは、素直に中にはいることができなかった。
あのとき、あの暗闇で起こった時に感じた波と同じ波を感じたような気がしたからだ。

79 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/31(月) 22:25:46 ID:GHz56hNg0
>>63-64
新たな小説師が増えることはやはり良い事です。
遂に公式発表された伝説ポケモン、シェイミの登場…そして惑星直列……壮大な物語を期待。
執筆頑張って下さいな。
>>65-66
キュウコンが登場するということはこれはもしや『Believe』か? と思ったが違ったようで。
グラエナが可愛い…人懐っこいところがまた……
本編『Believe』にも期待です。
赤い瞳に白い体…これを読んで某狩猟ゲームの「祖龍」が真っ先に頭に浮かんだ僕は異端。


act18 刺客

その頃、アース族集落の広間ではーーー

「探せ! 此処に奴がいるかもしれん!」
広間の中央で長めの前髪を掻き上げているのは血塗られたような鮮赤色の瞳のエーフィ、カシェルだった。
彼の命令で同じく赤い目をした配下のユンゲラー達がそこから散るように別々の通路へと入っていく。

広間には既に戦闘馴れしたアース族の大人達と逃げ遅れた子供が数匹、それぞれ倒れていた。恐らくカシェル達の手にかけられたのだろう。
すると一匹のユンゲラーがハピナスを連れて広間に戻ってきた。ハピナスはカシェルの前に押し出されて地面に倒れ込む。

80 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/31(月) 22:32:07 ID:K/BWYTvU0
「エスパータイプのポケモン…やはりヴァン族でしたか……」
「これはこれはアース族長のエイル殿。貴女に一つ聞きたいことがあるのだが…」
族長のエイルにカシェルは少々皮肉を込めた態度で接する。
「そんな事の為に私達を傷つけるというのですか!」
エイルは立ち上がって“気合いパンチ”をカシェルに放とうとするも、彼の“サイコキネシス”に体の動きを封じられてしまう。
「くっ……」
「……正直に答えて貰おう。此処にユメルという名のキルリアが来なかったか?」

キルリア? そもそも此処はノーマルタイプの集落。エスパータイプのポケモンがいる筈が無い。それにキルリアが集落に来たという報告も耳にしていない。

「…知りません。キルリアは見てはいませんし、そんな報告も入ってません」
「本当か? まさか誰かがかくまっているのではないだろうな…」
険悪な様子のカシェルはエイルから目を逸らさず数歩、詰め寄る。
「本当に知りません! ユメルという名のポケモン自体聞いた事がありません!」

この顔、声、脈拍…偽りを述べているようでは無いみたいだなーーー
「ふん…まぁ、何れにせよそのうち分かる事だ……」


81 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/03/31(月) 22:39:54 ID:9NSDaLrg0
その瞬間、広間に現れる土色の疾風。
「おい、これは一体どうなって………なっ!?」
彼の目に映ったものは息絶えた大人達、地に伏す族長、そしてそれを見下す赤い瞳のエーフィーーー

「何だ…これは……」
広間は今までにない位に荒れ果て、日々戦いの腕を共に競い合った大人達は皆倒れ、子供達まで傷つけられている。
今まで見たことの無い悲惨な状況に愕然とし、我が目を疑うロキ。

「ほう…まだ戦える者がいたか…」
「お前がこんな事を……!」
ロキは全身の体毛をザワザワと逆立て、憤怒の眼差しでエーフィを睨む。
「そうだ。我々ヴァン族の世界征服という野望を成し遂げる為に先ずは砂漠の異種族に消えてもらう必要がある」
再び前髪を掻き上げてロキを見つめるカシェル。ロキは既に戦闘体制に入っていた。
「許せない……そんな事で他人の命を奪っていいとでも思ってるのか!」

向かい合い、カシェルも額の紅玉を鈍く光らせる。
二匹の間に緊迫した空気が張り詰める。

82 :若葉マーク:2008/03/31(月) 22:54:49 ID:YC+wPook0
「?」
グレイシアは僕がまだそこに立っている事に気づいたらしく、はたと足をとめると振り向いた。
「・・・どうかしました?」
その顔に戸惑いの色が浮かんでいる。
「ううん。何でもないよ」
そうだ。気のせいに決まっている。あんなやさしい子が僕を襲うはずがない。
そう自分に言い聞かせると、僕は質素な彼女の家の扉をくぐった。
そこには、必要最低限の家具しか置かれていなく、彼女の性格がでていた。
「あの・・・何にもないけど、ちょっと待ってて下さい。私、朝から何にも食べてないんです」
それに同意するようにキュルルという音がした。
「あ・・・ご、ごめん」
時計をみると、すでに針は六時を回っていた。これだけの時間なにも食べずにいるのは難しいだろう。
「大丈夫ですよ」
そう言いのこすと、彼女は隣のキッチンらしき部屋へ行ってしまった。
僕はとりあえず腰に巻いているウエストバックを外すと自分の持っている荷物を確認した。といっても、最初からふたつしか持っていなかったが。一つは装飾のあまり施されていない剣。こいつにはかなり命を助けれた。

83 :若葉マーク:2008/03/31(月) 22:56:54 ID:YC+wPook0
↑いきなり投稿すいません。

84 :若葉マーク:2008/03/31(月) 23:49:36 ID:YC+wPook0
流れ星の夜投稿させていただきます。

その剣を眺めていると、不意に目の前に落ちているCDのようなものに目が止まった。気になってよく見てみると、それはすでに使いおわった破壊光線の技マシンだった。
さっき感じた波と破壊光線の技マシン、この二つが導き出す答え。それは・・・。
しばらくして、グレイシアがよたよたと危なっかしい足取りでトレイに乗せた料理を運んできた。カラフルでおいしそうなその料理からは、ユラユラと銀色の湯気がたち上っていた。
その料理は見た目だけでなく味もかなりよかったが、二人は言葉を交わすことはなく、無言でそれを食べ続けた。
食器と食器がたてるカチャカチャという音が響くなか、シュートは料理を完食すると、
「ちょっと外にでてくるね」
と声をかけた。
グレイシアは無言でうなずくと、皿を片づけ始めた。
シュートはドアを開けて外にでると、草むらに仰向けに倒れ込んだ。
そして頭上で瞬く星を眺めているうちに、いつの間にか深い眠りに付いていた。
どのくらい眠っただろう、シュートは生物の気配を感じて目をさました。そして開けた目に一番最初に飛び込んできたのは、短剣を僕の喉元に降りおろす寸前のグレイシアだった。

85 :若葉マーク:2008/03/31(月) 23:53:16 ID:YC+wPook0
》79
有り難うございます。頑張らせていただきます。

86 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/04/01(火) 09:52:34 ID:YTtOmc820
>>77
 感想有難うございます。仕草とか、動きについてはこの作品の雰囲気を出すためにも必要だと思ったので、深めに描写しました。
 が、しかしながらまだ不自然さが残りますけどね(苦笑)
 この後の続きをただいま執筆していますので、少々お待ちを。

 グラエナとジグザグマの関係、何だかあらよるに……いえ、何でもありません(苦笑)
 カゲフミさんは心情描写(情景)が上手いですね。
 だから戦闘系よりも、のんびりとした作品の方が得意なのでは?
続き、楽しみに待っています。

87 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/04/01(火) 09:58:25 ID:FzN0fL/w0
>>79

ちょwww
あなたは千里眼の持ち主ですか(笑)

答えはYesです。
『Believe』のずっと前の、レンがまだ幼かった頃の(苦笑)

 ああ、祖龍の。名前忘れましたが、兄貴がただいまハマっております(爆)
って、龍と狼じゃ天地の差なんですが(笑)

 何はともあれ、感想どうもです。『白いグラエナ』の続きはしばしお待ちを。



88 :若葉マーク:2008/04/01(火) 22:00:03 ID:uPHvLHEg0
流れ星の夜投稿します。

しかし、彼女は短剣を降りおろさなかった。いや、出来なかったのだ。
この星のポケモンは皆、努力次第で特殊能力と呼ばれる力を手にすることが出来た。その能力の高さは、自らの努力に応じて絶えず変化した。
そして、長い年月の間さらなる高みを目指し続けた者は、心術と呼ばれる能力を手に入れる事が出来た。そして、その能力者は「術者」といわれ、通常の何倍もの戦闘力を手に入れることが出来た。
シュートもその一人だった。
物体支持能力。またの名を無限千本腕。
シュートは物体に触れずに移動、支持する事が出来た。
今もそれを目の前の短剣に働かせていた。空中で完全に停止している。
「まさか、本当に君だったとはね」
しかし、話しかけてもなにも答えなかった。そのかわり僕の手の甲にポトンと小さい滴が落ちてきた。よく見ると彼女は泣いていた。
「ご・・・めんな・・・さい・・・。私には・・・こうするしか道はないの・・・」
涙は絶え間なく流れていた。彼女は短剣を捨てるとふるえる声で続けた。「私には・・・出来ない・・・」
そしてその場にがっくりと膝をついた。
だが次の瞬間、怪しく光る鋭い刃がその胸に深々と突き刺さっていた。

89 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

90 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/04/03(木) 20:04:23 ID:2LbWmuvk0
>>86 山本さん
やはりあらしのよるに、を連想させますかね。
私としても戦闘シーンよりもこういった心情がメインになるような話の方が好きだったりします。
どこかでほのぼのした雰囲気を出したいというのもありますが。
レスありがとうございました。

91 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/04/03(木) 20:05:52 ID:2LbWmuvk0
―7―

 次の日の朝。僕はいつも寝床にしている大きな古木の隙間から起き出すと、大きくのびをした。
木々の間から見上げた空は所々雲が見え隠れしているものの、ここからでも太陽の輝きを感じられるいい天気だ。
木漏れ日で地面の湿った苔がキラキラと光を反射してとても綺麗だった。
まだどことなく眠い。一度大きくあくびをして、頭を左右に振り眠気を吹き飛ばす。
昨日なかなか寝付けなかったのは、今日のことを心待ちにしていて気が高ぶっていたせいだろう。
ジグザグマともう一度会うのが楽しみでたまらない。僕は軽い足取りで茂みを飛び越えると、彼との約束の場所に向かった。

 倒れた古木がちょうどいい目印になっている。小川の向こう側の茂みを越えてすぐの場所。
僕の住処からもそう遠くない。他の仲間もこの辺りはあまり寄りつかないみたいだし、待ち合わせには最適だ。
念のため周囲の物音や匂いに気を配ってみる。目を閉じて聴覚と嗅覚を研ぎ澄ましてみたけど、入ってくるのは風の音と森の草木や土の匂いだった。
周辺にどうやら僕の仲間はいないようだ。ここでジグザグマと会っているのを見られる心配はないだろう。
足早に古木のところまで歩いていく。彼の姿は見えなかったが、ほんのりと漂う匂いがあった。
きっと、他の仲間に見つかることを警戒して近くに隠れているのだろう。
「……ジグザグマ?」
「へへ、ここだよ。グラエナ」
 古木の傍の茂みからひょっこりと顔を出したジグザグマ。そこから這いだすと、僕の隣まで歩いてくる。
再会を果たせたことを確認し、ジグザグマはにっこりと微笑んだ。僕もそれに答えるように笑い返す。
彼の笑顔はいつ見ても余計な感情が交じっていない、澄んだ表情だ。僕もあんなふうに笑えていただろうか。
最近心から笑ったことがなかったから、不自然な笑顔になってなかったかちょっと心配だ。
「よかった。また会えたね」
「……うん」
 約束はしたけれど、この場所で会えなかったときのことをジグザグマも懸念していたのだろう。
もし僕だけがここにいて、彼が姿を現さなかったら。心配と不安で胸が押しつぶされていたかもしれない。
でもジグザグマはちゃんと来てくれた。いまこうしてちゃんと僕の目の前にいる。
何の心配もいらない。思う存分彼との会話を楽しんでおかなくては。

 これと言って大事な話をしていたわけじゃない。他愛のない、時々お互いに笑顔が混じるような談笑。
同じ場所でずっと話しているだけなのに、時間はあっという間に流れていく。
朝起きてすぐにここに来たのに、もう太陽は高く上っている。時刻は昼を少し回ったところか。
「どうしたの、グラエナ。ぼんやりして」
 時間の流れをしみじみと感じていて、ぼんやりとしていた。ジグザグマの声で呼び戻される。
何でもないよと言おうとしたとき、僕の代わりに返事をしたのは僕のお腹の鳴る音だった。
そう言えば今日は朝から何も食べてなかったっけ。一日くらいは何も食べなくても平気だけど、体は空腹を訴えてくる。
結構大きな音だったし、ジグザグマにも聞こえているだろう。彼の前ではこんな姿を見せたくなかったんだけど。

92 :カゲフミ ◆tLVuNBhIJA :2008/04/03(木) 20:06:31 ID:2LbWmuvk0
「……お腹、減ってるの?」
「ちょっと、ね」
 ジグザグマの手前そう言ってみたものの、こうして実感してみると結構な減り具合かもしれない。
今日はなんとか乗り切ったとしても明日は何か口にしなくてはいけないだろう。
「明日は会わない方がいいよ。もしかすると、本能に負けて君を……食べてしまうかもしれないから」
 ジグザグマの顔がわずかに引きつった、ような気がした。自分の発言に彼への後ろめたさがあったから、そう見えてしまったのかも知れない。
今は彼を食べたいだなんて微塵も思ってないけど、明日もそういられるかどうか自信がなかった。
もし理性を抑えきれずにジグザグマに襲いかかってしまったことを考えると、例えようのない恐怖感が僕の中に湧き上がる。
「そっか……君も何かを食べなきゃ生きていけないよね」
 まるで今になって思い出したかのようにジグザグマは呟いた。
ひょっとすると彼も、僕がグラエナだということを忘れかけていたのだろうか。
ジグザグマとはいつまでもお互いの種族なんて気にしないで接することが出来る友達でありたい。
そのためにはやっぱり、僕がお腹を空かせているときは彼と会わない方が賢明に思えた。
「じゃあ、お腹が空いてないときはいつでも会いに来てよ。僕から見て左側の茂みの向こうにある倒れた古木の近くに、僕の住処があるから。近くまで来れば、匂いで分かると思う。いないときもあるかも知れないけどね」
 僕から見て右側の茂み、か。まだ行ったことのない場所だけど、そこに彼の住処があるのだろう。
たしかにどこに住んでいるのか分かれば、こうやって待ち合わせなくても会いに行くことができる。
納得しかけて僕は気がついた。僕が他の仲間とは違うと言っても、根本的な部分はやっぱりグラエナだ。
ジグザグマの天敵であるはずの僕に自分の住処を教えるだなんて。いくら何でも無防備過ぎるんじゃないか。
「君のこと、信じてるから」
 戸惑っている僕を見て、ジグザグマの一言。澄んだ大きな瞳からは猜疑心はまるで感じられない。
そんな目で見られてできないなんて言いたくなかったし、言えるはずもなかった。
「……分かった。そのうちきっと、会いに行くよ」
「うん、待ってるよ。……それじゃ、今日はそろそろ帰るね。これ以上君に気を遣わせちゃ悪いし」
 一瞬何のことかと思ったけど、そういうことか。僕が本当はかなり空腹だってばれてたらしい。
何かとすぐに顔に出てしまう僕には隠し事は向いてないみたいだな。
もっと話していたかったけど、ああ言われちゃ引き留めるわけにもいかないか。
「バイバイ、またね」
「ああ、じゃあまた」
 僕は茂みの中に消えていくジグザグマを見送った。また会えることを願って。

93 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

94 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

95 :三月兎 ◆BOOST1aovo :2008/04/04(金) 01:17:20 ID:L+HOX9bc0
>>91-92
捕食者と被食者の関係を完全に超えることが出来るのか……
この後どうなるのか、期待と不安の入り交じった気持ちで待ってます。

>>94
>ドグチァ!
思わずジョジョを連想してしまいましたww
そういえば空条って承太郎の空条ですか?
他にも随所に散りばめられたユーモアに笑わせていただきました。
この後の展開にも期待してます。

96 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

97 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

98 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

99 :◆X0li4ODh3w :2008/04/04(金) 02:03:55 ID:no23xjfo0
95 よくわかりましたね!そうです!ジョジョです!ドグチァは好きな擬音なので、空条も承太郎から取りました!細かい所もみていただけて嬉しいです!
ロードローラーもDIOの攻撃で「ロードローラーだっ!もはや脱出不可能!」って所から取りました。

100 :ぴか ◆I0gS.Wghlw :2008/04/04(金) 21:56:26 ID:0ogyU2220
>>98 無い知恵は絞っても謎なんか作れませんよ!!すごいです!
  氷が水になってたということは、時間が作れる=アリバイが作れる
  ・・・てきな??

101 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/05(土) 09:55:45 ID:o1DpZBmg0
>>87
『Believe』、やはりそうでしたか。
以前本スレにうpされていたキュウコンがレンの手持ちポケだったので、キュウコン持ちのこの少年はもしや……と思った訳です。
白いグラエナもバシャーモ同様に暴走しているポケモンなのではないか…という妄想もしていましたが、これは全く逆でしたwww
氏の兄に同じく僕も今、狩猟生活にハマり込んでいます。おかげで小説が……orz

>>91-92
こういうほのぼのとした雰囲気の小説は大好きです。
種族を越えた二匹のこんな関係がずっと続けばいいのにな……と今後の展開にハラハラしながら続きに期待してます。

>>96-97
「ドグチァ」といえばジョジョ一部でツェペリが蛙を殴る時の……
ジョジョ好きな僕は思わずニヤニヤしてしまいました。
OVAだとロードローラーがタンクローリーに変わってるから困る。
か弱い容姿と矛盾して怪力のキルリア♀という設定は意外性があって面白いです。
この事件の犯人はパウワ(ry
同じPSP小説師という事でお互い頑張っていきましょう。

102 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/04/05(土) 10:51:57 ID:mQ1UVD4E0
>>101
 その他にも察することができる描写を入れてあります。黒髪であることもそうですし。
 『Believe』で、人を襲うポケモンの噂について、
(もしかしたらあの白いグラエナのように何か訳があるのかもしれない)
と思い、調査に乗り出した。という裏設定を考えていたので、SSとして出そうかなと。

 ただいま兄貴が隣でナナ・テスカトリと奮闘中(苦笑)


103 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/05(土) 14:09:03 ID:5z+KN4Vs0
>>95 三月兎さん
やはり不安を感じていましたか。
彼らがいつまでも穏やかでいられれば、本当によかったのですが……。
レスありがとうございました。

>>101 麒麟児さん
私自身、こういったシーンを書くとなんだかホッとします。
次のシーンはほのぼのとは無縁だと思うので。
レスありがとうございました。

104 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/05(土) 14:09:50 ID:5z+KN4Vs0
―8―

 住処でうずくまったまま僕は目を開けた。あれから結局何も食べないまま、次の日になってしまった。
できるだけ体力を消費しないようにじっとしていたけど、限界はある。そろそろ何か食べなければ。
のそりと起きあがると同時に、僕の方へ近づいてくる気配を感じ取った。これは仲間のグラエナのものだろうか。
すぐ傍の茂みが揺れ、黒い影が僕の前に躍り出る。仲間の一匹だ。わざわざ僕の所にやってくるなんて、どうしたんだろう。
「……一応お前も来い。リーダーが仲間を集めてる。全員に話があるんだとさ」
「分かった。でも、話って?」
「さあ、俺は知らんよ」
 素っ気なく言うと彼はくるりと背を向け、さっさと来いよと言わんばかりに僕の方を見た。
まだ僕はリーダーに仲間として認識されていたらしい。一応と言われたのが、素直に喜べないところなんだけれど。
でも話って何だろう。昔ならともかく、今みんなを集めるなんてよっぽど大事な話なんだろうか。
考えていても仕方ない。行けば分かるだろう。僕は足早に彼の後を追いかけた。



 森の中では珍しい木々も茂みもない開けた広場。程よく日光も当たるせいか短い草が生えており、小さな草原のようだった。僕らがいつも集まっていた場所だ。
一番奥のリーダーから順に、円を描くように仲間たちは集まっている。数は十数匹といったところか。
例の工事があってから、少しずつだが仲間は減りつつある。人間に抵抗した時に受けた傷が原因だったり、食糧にありつけなかったりで何匹かは命を落としてしまっていた。
それでもリーダーや他の仲間が悲しむ様子を見せないのは、やっぱり自分のことで精一杯だからだと思う。
僕もそれを知らされたとき、不思議と涙が流れなかったのをよく覚えていた。
「……連れてきたぞ」
 ちょうど広場の真ん中辺りまで来たところで、僕を呼びにきたグラエナはリーダーに言った。
奥にいたグラエナがこちらを振り返る。他の仲間より少し大きくてしっかりした体つきをしている、僕らをまとめるボスだ。

105 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/05(土) 14:10:31 ID:5z+KN4Vs0
「ご苦労さん。これで全員だな」
 リーダーが仲間たちの方に向き直る。それと同時にそれまで寝転んだりして楽な格好をしていた他の仲間たちも、規律正しい姿勢になった。
何も言わなくとも皆を整列させてしまう。集まることは少なくなったけれど、リーダーの権威はしっかりと残ってるみたいだ。
「さて、話の前にお前たちに見せておきたいものがある。持ってこい」
「はい」
 リーダーの傍にいたグラエナが奥にある茂みへ向かっていき、すぐに戻ってくる。何かを口に咥えてきたみたいだ。
そして、頭の反動をつけてそれを器用に投げてよこした。ドサリ、と音がしてそれは集まった僕らの真ん中に転がる。 
 一瞬、目を疑った。僕の見間違いならどんなによかったことか。
ぐったりとしていて覇気がないけど、あれは紛れもなく――――あのジグザグマだった。
「お前たちの中に、こいつを知っている奴がいるだろう。なあ?」
 問いかけるリーダーの視線は間違いなく、狼狽している僕を射抜いていた。同時に、仲間の視線も一斉に僕に向けられる。
彼らの視線に信じられないくらいの冷たさを感じ、僕は思わず背筋を震わせていた。
「お前がこのジグザグマと話しているのを見たと聞いた。俺としては半信半疑だったんだが……その驚きようからすると、どうやら本当らしいな」
 ああ……そういうことか。僕がジグザグマと話していたのを、誰か他の仲間に見られてしまったんだ。
仲間が近くに来れば気配で分かるつもりだったけど、話に夢中でそこまで気が回らなかったのかもしれない。
頼りにしていた匂いでの判断も、一番近くにいるジグザグマのものと紛れてきっと分からなかったんだ。
彼と会話する楽しみや嬉しさばかりを優先して、見つかった場合どうなってしまうかということを僕は真剣に考慮していなかった。
 他の仲間たちが突然放り出されたジグザグマを見ても全く動こうとしないということは、あらかじめリーダーからこうなることを知らされていたんだろう。
つまりこれはリーダーが全員に話があるという名目で、僕を糾弾するための場を用意したというわけか。
昨日、またねと言って別れたジグザグマ。そして、僕は彼とこうして再び会うことができた。僕が、一番避けたかった形で。

106 :◆X0li4ODh3w :2008/04/05(土) 19:27:10 ID:RdESOuK20
>101 はい、お互い頑張りましょう!
    やっぱ犯人ばれましたね。
    カソタソでしたか。
    それじゃ用事があるので終わったら書き込みます。

107 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 21:25:51 ID:YYb+28os0
こちらではお久しぶりです。
今まで長い間ROMっていたのですが、今回こちらのみで小説を書きたいと思いまして、参加させていただくことにしました。

最初に断っておく事が。
第1話の段階で、ポケモンは全く出てきません・・・。
しかも、内容が時代小説なので、雰囲気を壊さぬよう、ポケモンは「魔物」という表現をさせていただきました。
今まで人間を書かなかった上に、時代小説とかなり困難な挑戦ですが、無事に完結できるように頑張ります。


108 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 21:26:33 ID:YYb+28os0
剣の舞 第1話

相模村の外れにある森には、いつ頃からか妙な噂が流れ始めた。
「――――あの森には、化け物みたいに遣える二刀流の剣士がいる。その容姿は、人外そのものだそうだ」

坂上町にある柴道場に通う藤吉は、若干12歳にして道場の誰よりも優れた剣術の持ち主であった。
彼は物心ついた時から腰に刀を差していた。理由は知れない。
じっちゃの話によると、道場のうらに捨てられていた幼い藤吉の傍に、この刀も置かれていたらしい。
じっちゃが言うには、藤吉の父親の物であろう、という事だった。
藤吉にとってその刀には何の思い入れは無いが、彼はその刀を大事にしていた。父親との唯一のつながりであるからだ。
別にその刀を使って父親を探そうなどということは、彼は考えていない。
彼にとっての父親は、じっちゃしかいないと思っているからである。
じっちゃは身寄りの無い藤吉を、ここまで育て上げてくれたのだ。
じっちゃは百姓だったので、武術も学問もほとんど分からなかったが、長年町で生きてきた知恵と経験を藤吉に全て叩き込んでくれた。
藤吉の父親の望みを少しでもかなえてやろうと、道場への入門を勧めてくれたのもじっちゃだった。

「藤吉、きょうは柴のところへは行かんのか?」
「・・・・行かない」
藤吉はもう10日以上も道場を休んでいた。
じっちゃはその理由を根掘り葉掘り聞いてきたりはしなかったが、明らかに藤吉を心配している様子だった。
彼が道場へ行くのを止めた理由は、稽古中に起こった出来事が原因だった。

「はぁ!!」
道場に威勢の良い掛け声がこだました。
今日も柴道場には門下生で溢れかえっていた。
藤吉はいつものように道場の隅に腰を下ろし、じっと考え事をしていた。
「どうした、藤吉?今日は稽古せんのか?」
藤吉が後ろを振り返ると、猫のような鋭い目をした牧という男が立っていた。
牧は藤吉より3つ年上の男で、春には道場をやめるらしいという噂を藤吉は聞いていた。
「また・・・例の考え事か」
「・・・うむ、そうだ」
牧は少しだけ考えるような表情を浮かべたあと、困惑したような顔になった。
「お前が剣術に長けているのは十二分に知っているが・・・あの技は諦めた方が良い」
「なぜだ?完全無欠の剣だという話じゃないか」
二人が話しているのは、この道場に伝わる『蟷螂』という秘剣についてだった。
この技は、森十兵衛が道場の師範代になるよりも前の師範代が使用していたという技だ。
一説によると、師範代が認めた者にだけ伝授される秘剣で、口外することも使役する事も禁じられていた技らしい。
藤吉はその技を何としても習得しようと過去の書物を読み漁り、師範代から話を聞き、試行錯誤してみたのだが、未だに完成には至っていなかった。
「聞くところによると、あの技は魔物を殺すために編み出された術らしいじゃないか。今のご時勢、魔物を殺すのはご法度だぞ」
「別に俺も魔物を狩るためにその技を覚えたいのではない。なぜかと言われたら・・・興味本位だとしか答えられんが」
藤吉はもごもごと口ごもった。
牧の話は本当だった。
藤吉はある書物で、かつての師範代が秘剣『蟷螂』をつかって野生の魔物を20匹以上も殺害したという文章を読んでいる。
それが原因でその師範代が僅か2ヶ月で破門になったのだ。
だが、謎に包まれている技だからこそ知りたくなるのが男というものだ。
「大体の想像はできているのだ。だがそれを試すにも・・・」
――この道場には、適した相手が居ない。
それが、藤吉の思い描く『蟷螂』の完成を遅らせている一番の原因だった。
「じゃあ、試したら気持ちは晴れるのだな?」
「は?」
そう言うと牧は道場の中央に立った。
周りの者も野次馬の用に群がってきた。
「・・・おい、牧!誰もお主で試そうなどと・・・」
「実のところ、私も見てみたいのだ。その『蟷螂』とやらを」

109 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 21:27:22 ID:YYb+28os0
困った事になった。
藤吉は仕方なく竹刀を掴み、牧に向き合った。
牧は竹刀を八双に構え、藤吉の出方を待っている。
藤吉は目を瞑り、今まで何度も頭の中で描いた『蟷螂』の型を作った。
竹刀を右肩の上まで上げ、竹刀の先は真直ぐに牧の鼻先を指している。
(こうなったら・・・試したい)
藤吉は竹刀を強く握った。
先に踏み込んできたのは牧の方だった。
牧は左足を大きく前に出し、真直ぐに藤吉に向かって竹刀を振り下ろしてきた。
藤吉は竹刀の先でそれをいなし、すばやく牧の背後へ回った。
藤吉は躊躇うことなく竹刀をすくい上げ、牧の左の脇腹を強かに打った。
牧は小さくうっ、といううめき声を上げた。
藤吉は構わずそのまま回転し、床すれすれを這うようにもう一度竹刀を振り上げた。
今度は牧の頭に竹刀は直撃し、牧は吹っ飛んだ。

道場は一瞬のうちに静まり返った。
聞こえるのは、極度の疲労に息を荒げる藤吉の呼吸の音だけだった。
牧からは、何の音も聞こえなくなっていた。
「・・・・化け物め」
道場の入り口に立っていた師範代、牧十兵衛が青ざめた顔を藤吉に向けていた。
「・・・・剣が、舞っていたな。剣の舞だ、ありゃあ」
門下生の誰かがそう呟いたのをきっかけに、藤吉は自分のしでかした事に気が付いた。
牧が亡くなったという知らせを聞いたのは、翌日の朝だった。

110 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 21:32:13 ID:YYb+28os0
すみません、上の「牧十兵衛」は「森十兵衛」です。
書いてるうちにごっちゃになっちゃいました・・・。

111 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 23:06:32 ID:YYb+28os0
第2話

坂上町の中心には、坂上川という小川が流れている。
坂上という名前の由来は、その名の通り、町が小高い山の上にあることに由来する。
山の頂上にたたえられた雨水が山を下り、やがて小さな川となり下の村まで止まることなく流れている。
藤吉は小川にそってゆっくりと町を降りていった。
と、いうより小川を気持ちよさそうに泳ぐ魔物を追っていたら、いつの間にか町を降りていたのだ。
藤吉は魔物の名を知らない。
寺子屋に通う子供たちは魔物について教わるそうだが、藤吉はじっちゃから文字を読み書きする程度しか教わっていない。
川の中の魔物は、赤い色をした約三尺(0.9m)ほどの大きさで、群れをなして泳いでいる。
「お前は仲間がいていいの」
ふと、藤吉は目線を上げた。
その視線の先には、深い緑を携えた森があった。
森は、不気味に手招きをしているかのように、ざわざわと葉を鳴らした。
(いかんな・・・こんなところまで降りてきてしまった)
おそらく、この森は相摸村の付近の森だろう。
相摸村といえば、こんな話を聞いたことがあった。

「相摸村の外れの森には、化け物みたいに強い剣士がいる―――」
藤吉はそれを思い出し、腰に差した刀をぎゅっと握った。
(剣士・・・か)
藤吉は森へと踏み入った。

112 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 23:06:58 ID:YYb+28os0
森の中には、藤吉が今まで見たことも無い魔物がたくさん住んでいた。
背中に大きな花を咲かせた者、尻尾に燃え盛る炎を携えた者・・・。
どれも藤吉には無関心なようで、草を食んだり、昼寝をしたりしている。
藤吉は野生の魔物たちを見て、嫌な気持ちを少しの間忘れる事が出来た。
暫くして、森の中に小さな広場を見つけた藤吉は、手ごろな岩に腰をかけると、じっちゃが作ってくれた握り飯を取り出し、食んだ。
塩味が聞いており、これまでの疲れがすっと抜けていくようだった。
(化け物剣士なぞ本当におるのだろうか)
藤吉はそんな事を考えた。
第一に、こんな森で生活をしている人間などいるはずが無いと思った。
この森はただでさえ魔物が多く住み、夜になると凶暴な魔物も現れるだろう。
(ひょっとすると、魔物をみて臆した者が流したはったりかもしれんな・・・)
藤吉は漬物をぽりぽりと平らげ、岩から腰を上げた。

その時、藤吉は背後にただならぬ殺気を感じた。
すばやく刀に手をかけ、背後に目を凝らした。
辺りには魔物は居ない。
ただ森のざわめきが聞こえるだけだった。
しかし、先ほどの殺気は消えることなく藤吉に突き刺さっている。
姿の見えない相手の殺気に、藤吉は次第に神経を削がれていった。
「何者だ・・・姿を見せよ。某は柴道場、木角藤吉と申す者だ・・・」
木角、とはじっちゃの名字である。
すると、森の奥から搾り出すような声が聞こえた。
「・・・木角・・・」
「え?」

113 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 23:07:48 ID:YYb+28os0
藤吉が刀にかけた手を緩めた一瞬、何者かが森から飛び出してきた。
藤吉はすかさず背後に飛び、そいつの一太刀をかわした。
しかしそれも束の間、相手は早くも第二撃を打ち込んできた。
今度は藤吉は刀を抜き、それを受け止めた後、牧に放った時と同じ構え・・・すなわち『蟷螂』の型を取った。
その時相手の姿を一瞬捉えることができた。
相手は笠を冠り、床に着くほど長いぼろきれの様な着物を着ていた。
そして、藤吉は目を疑った。
そいつはまるで人間とはかけ離れた容姿をしていたのだ。
なぜそいつが人間ではないと悟ったのかというと、そいつの両の腕はまるで鎌のようにすらりと伸び、藤吉の方を真直ぐに向いていたのだ。
「・・・・・」
相手も藤吉の異変に気付いたのか、お互いに全く動かない状態になった。
(父上・・・俺に力を・・・!!)
藤吉は一歩で相手に詰め寄り、回転した。
遠心力を利用して叩き込んだ一撃は、そいつの刀(いや、ここでは鎌と呼ぶべきか)に激しくぶつかり、金属がぶつかり合う音が聞こえた。
すかさずもう一回転し、藤吉は今度はそいつの頭を目掛けて刀を打ち込んだ。
藤吉は手ごたえを感じ、そいつの傍から後ろへ飛び退いた。
相手の笠はばっさりと切れ、地面に落ちた。
しかし、相手は全くの無傷であった。
顔の前にはもう一方の鎌があり、相手はその向こうから鋭い視線を送ってきた。

114 :novi ◆OPzew728jQ :2008/04/05(土) 23:08:11 ID:YYb+28os0
「馬鹿な・・・秘剣『蟷螂』が効かぬとは・・・」
相手はくっくっと低い笑い声をもらした。
その男の顔は真直ぐにとがった緑色をしており、まさに蟷螂のようであった。
「これが『蟷螂』か・・・笑わせよるな、童よ」
「なに・・・」
藤吉は刀を再び右上高くに構えた。
よく見ると、奴の鎌には、なにやら包帯のようなものが巻いてあり、肝心の刃は隠されていた。
「お主・・・魔物、か」
藤吉がそう尋ねると、魔物はにやりと口の端をあげた。
気が付くと魔物は藤吉の目の前に詰め寄り、鎌を振り上げていた。
「・・・これが『蟷螂』じゃ。後学のためによぅく見とけい」
藤吉は後頭部を強かに打ち付けられ、地面に崩れ落ちた。

115 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/04/06(日) 13:28:02 ID:Kikby9+o0
では、続きを読みたいという方が三名ほどいたので、続きを書いてきましたので投下。

『白銀の狼』

―3―

 「ただいま!」
とある家の中に、無垢な少年の声が木霊した。
それを聞きつけて真っ先に出てきたのは母親ではなく、金色の流れるような毛並みを持つキュウコンであった。
少年は黒い髪を軽く直しながらキュウコンの首元を撫でる。気持ち良さそうに目を細めたのを確認すると、呟くような声で少年は言った。
「ただいま、コリン」
それを聞いて、呼応するように『コン』と軽く鳴いた。
少年は屈んだ状態から立ち上がると、母親がいるであろうキッチンの方へと足を運ぶ。
背中に木の実の入った篭を背負って。

 キッチンに入ると、そこには鍋の中をゆっくりとかき混ぜる母の姿があった。
彼女は目の横に小さな姿を確認すると、火を弱火にして少年の方に向いた。
「おかえり、レン。木の実取れた?」
「ただいま。母さん。取れたよ、沢山ね」
少年は篭を下ろすと満足げに笑みを浮かべて母親の方に籠を差し出す。
その重そうな籠を母親は軽く片手で持ち上げると、中身を確認した。そして、『うん』と言ったように頷くと、少年の頭を撫でる。
「お疲れさん。さ、そろそろお昼にするから、手、きっちり洗ってきて」
「はーい」
少年は笑みを浮かべたまま洗面台のある風呂場の方へと駆けて行った。
母親は笑みを浮かべてそれを見送ると、木の実の入った籠を通路の邪魔にならないように少し隅に置き、鍋の方に振り返り再びかき混ぜ始める。
「あのさあ……」
「ん……?」
母親が振り返ると、そこには先程手を洗いに行ったはずのレンの姿があった。母親はそれに疑問を抱き、口を開ける。
「どうしたの?」
そう訊ねると、レンは一瞬困ったような表情を浮かばせながらもゆっくりと話し出す。
「あのね。母さん。……実は、森で……」

 少年は木の実を取りに行った時の事を母親に話した。
――帰り際に白いグラエナに会ったこと。そのグラエナは決して襲ってはこなかった事……。
それを話している最中、母親は表情一つ変えずにただレンの話を首を頷かせつつ黙って聞いていた。丁度話し終えると共に、鍋がシチューを吹きこぼした。
母親は黙って火を止めると、レンの肩に手を置いて言った。
「あのグラエナはね。あなたが感じたように、決して悪いポケモンじゃないの」
「じゃあ、何で街であんな噂が流れているの?」


116 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/04/06(日) 13:28:49 ID:DKtj47Wg0
レンの言葉に一瞬言葉が詰まったように口を閉じた母親だったが、その疑問に間違いがあるために、訂正をかけるかのように言った。
「あれは噂じゃないの。事実なのよ。白いグラエナが人を襲ったっていう話は」
「なら何で僕には襲ってこなかったの? だっておかしいでしょ?」
レンは必死にそれが嘘であることを願うかのように首を横に振る。
ただの噂であるようにと。だが、母親から帰ってきたのはこの一言だった。
「悲しいけど、ホントなのよ」
「……」
レンは次の言葉が出なかった。自分が接した白いグラエナは、決してそんな事をするようなポケモンではなかった。
それなのに、街では襲われたという事実がある。それがただただ信じられなくて、声が喉で詰まっていた。
母親は一旦息を吸うと、再び話し出した。
「レンがこの木の実を取ってきた樹々、あったでしょ? もしかしたらあの白いグラエナは、それを守ろうとしているんじゃないかしら」
レンはそれを聞くと、頭の中にある一つの疑問が生まれた。
「何であの樹々を守っていると思うの?」
母親は立ち上がると、キッチンの窓から森を見据えながらそれに答える。
「あの樹々はね。あの森で最後になった、木の実が実る木なの。
あれが切り倒されれば、森のポケモン達は食べるものが無くなる……。それを防ごうとしてるんじゃないかな……」
レンはそれを聞いて再び疑問を口にした。
「何であの樹は切り倒されちゃうの?」
「……あそこにね、サイクリングロードが出来るの。そのためには、あの樹を切らなければ道の邪魔になるのよ」
レンはそれを聞いて俯く。母親はそれを見て、表情を険しくした。勿論、こんな話をすれば、レンが悲しむのは当然分かっていた。
しかし、話さなければ後に事実を知った時、今以上に悲しむことになる。

 「ねえ……」
「ん? 何?」
突然俯いたまま言葉を発したレンに半ば驚きながらも、次に来る言葉を待つ。
「それって、絶対にしなきゃいけないこと……?」
「……」
母親は答えられなかった。あの場所にサイクリングロードを造れば、この街は活性化する。
しかし、サイクリングロードを造らなくともこの街はやっていける。この街の人の裕福のためだけに、森は壊されるべきではないはず……。
答えるのに戸惑っていると、レンはすぐに次の言葉を発する。
「それを止める方法は無いの?」
「あるにはあるけど……」
方法は無いわけでもない。


117 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/04/06(日) 13:29:31 ID:DKtj47Wg0
だが、本来この街の住民ではない流れ者の自分達が、果たしてそれを言っていい立場なのだろうか。
母親は戸惑った。もし言ってそれが町役場の役員の癪に障ったら、最悪この街を出ていくことになるかもしれないのだ。
だからと言って、自分の息子の願いを無視するわけにもいかなかった。母親はやがてゆっくりと口を開いた。
「それはここの町役場の人達に、なんとかあの森を壊さないように頼むしか方法はないわ」
それを聞いて、レンは黙り込む。頼んでも聞く耳すら持たないであろうことを、彼も感じていたのだろう。
しかし、彼は諦めていなかったのか、再び口を開く。
「じゃあ役場の人に言おうよ。森を壊さないように。白いグラエナは、あの森を守るために襲ってくるんだって」
レンの目には迷いなど一つも無かった。いつの間にかキッチンに来ていたキュウコンも、それに賛同するような目で母親を見つめていた。
もうこれは、完全に彼らの勝ちだった。
「分かったわ。お昼食べて少し落ち着いてから、役場に行きましょ」
その言葉に、彼らは大きく頷いた。



118 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/07(月) 21:19:09 ID:FkyaaYzk0
act19 対峙

しかしその空気は突然の叫び声に破られた。
「ユメルの姉貴を離すでやんす!」
「……ルシオか?」
その声はロキの部屋に続く通路からであった。
直後、そこから姿を現したのはユンゲラー達と捕らえられたユメル、そしてユメルを掴んでいるユンゲラーの足に噛みつくルシオ。
ユメルは縄で手足の動きを拘束され、口には猿轡がされていた。
彼女はロキを見つけると体を捩らせ、目で助けを訴える。
〈ロキ…助けて……〉
「くっ、ユメル!」
探し求めていた標的を目にしたカシェルは思わず口元を綻ばせる。
「やはり此処にいたか……こいつさえいればこの集落にもう用は無い。帰るぞ」
「はっ、カシェル様。こいつ…離れろ!」
ユンゲラーが足を振り上げると噛みついていたルシオが離れ、宙を舞う。
そのまま彼は地面に落ちて転がり、ロキの前足に当たって止まる。
間近で見て気付いたが、彼の全身の体毛は念力のダメージの影響で異様なまでに逆立っていた。
普通の念力程度の威力ならば体毛が逆立つことはまず有り得ない。だとすれば彼はユンゲラーの強い念力を何度も受けた事になる。
「兄貴…オイラじゃ姉貴を守りきれなかったでやんす……」

119 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/07(月) 21:23:56 ID:kIJbmPQM0
「ルシオ、よく頑張ったな……後はオレに任せろ…」
息も絶え絶えなルシオの頭を一撫でするとロキは静かな怒りをその身に携え、今まさに広間を出ようとしていたヴァン族達を呼び止めた。
「おい、そこのエーフィ! 今すぐそこのキルリアを返して貰おうか!」
「ふっ、こいつは災厄の導き手。そう易々と返す訳にはいかーーー」

カシェルが振り返りかけたその時、ロキの姿が消え、少し遅れてユンゲラーの腕の中にいたユメルも瞬時にして姿を消す。
その際、一瞬ではあったがカシェルは体毛が僅かに風に靡くのを感じ取った。
「!? カ…カシェル様! キルリアが…」
「な……」
カシェルは慌てて周囲を見渡し、少し離れた場所にユメルを横向きに抱き抱えていた彼の姿を見つける。
ロキはすぐさま猿轡とロープを解き、彼女を助け出した。
「ユメル、大丈夫か…?」
「あ、ありがとう…」

「“高速移動”を織り交ぜた“電光石火”か……速い…!」
ユメルを掴んでいた筈のユンゲラーは一瞬の出来事に目を見張っていた。
「小僧、少しはやるようだな。さあ、そのキルリアを大人しくこちらに渡して貰おう。さもなくば痛い目を見る事になるが……」

120 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/07(月) 21:37:04 ID:ztoxCHjw0
カシェルの問いに答えるようにロキはユメルを数メートル後ろに避難させると彼女の前に立ち塞がり、再度身構える。

「NOだ、と言ったら?」
「ふ…融通の利かない奴だ………やれ」
カシェルがロキに向かって右腕を上げるとユンゲラー達が両腕を前に突き出して一斉に“サイケ光線”を放つ。
それらはロキのいる場所の地面に当たり、派手な地響きと土煙を上げた。
「兄貴ぃーー!!」
ルシオとユメルは絶望の表情で立ち上る土煙の中心を見つめていた。
あれだけの攻撃を受けて生きていられるポケモンがいる筈はない。
「ふふふふ……あーっはっはっは! 口ほどにも無い貧弱なイーブイだ! この程度の力で我らの邪魔立てをするなどとはよく言ったものだ!」
カシェルはロキのあまりの弱さに高笑いすると土煙の反対側のユメルを捕らえるようユンゲラーに命令を下す。
その時ーーー

「……弱いのはどっちだ?」
土煙の方向から聞こえた声……彼らの耳に入ったものは紛れもない、倒した筈のロキの声だった。

121 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

122 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/08(火) 09:30:07 ID:yZAbCmIU0
※流血表現があります。

―9―

「君とジグザグマの会話はしっかりと聞かせてもらったよ。ずいぶんと仲が良さそうだったじゃないか」
 リーダーの隣にいたグラエナが僕に言う。彼はリーダーの側近のような存在だ。
あの場を目撃していきなり飛び出して来ないで、終始見届けて報告するあたり、冷静な彼らしかった。
群れがバラバラに行動するようになってからは、あまりリーダーと一緒にいるのを見かけなくなったけど。
こんな時にはちゃんと役目を果たしていようだ。僕としては一番見られたくない相手だったかもしれない。
「ジグザグマは君のことを信じてるとか言ってたけど、さすがに自分の住処を君に教えたのには驚いたよ。そのおかげで捕まえるのは簡単だった。彼も君に負けず劣らず、相当な甘ちゃんみたいだね。似た者同士、惹かれあうものでもあったのかい?」
 側近のグラエナの口調は他の仲間やリーダーに比べると多少は丁寧だった。
もちろんその中には僕に対する冷やかな侮蔑が含まれていたけれど。
似た者同士。もしかするとそうなのかも知れない。助けてもらったとはいえ、天敵であるはずのグラエナに歩み寄ってきたジグザグマ。もし彼に仲間がいたのならば異端として扱われても仕方のないことに思えた。
そして本来ならば餌であるはずのジグザグマと友情を結んでいた僕も、グラエナの中では異端なんだ。
「餌とお友達か。どういうつもりだ? 俺たちが今どんな状況に置かれているか、お前だって知らないわけじゃないだろう?」
 リーダーが僕を睨む。離れているのにかなりの迫力だ。無条件で身を竦ませてしまうような。
「分かってる。分かってるよ、リーダー。だけど僕は……」
「獲物に対して非情になれない、か? 俺もそれには今まで目を瞑ってきたが……いくらなんでも今回のは度が過ぎる。
この森で俺達が生き延びるためには餌を餌だと割り切る冷酷さも求められる。それができずに獲物であるはずのジグザグマと仲良くするようなお前は群れに必要ない……邪魔だ」
 つまり僕は、もう群れの一員でも何でもないということなのか。
皆が餌を探して必死になっている中、ジグザグマと仲良く会話なんかしていた僕の行いが許せなかったんだろう。
リーダーの判断も納得がいかないこともない。生きる上では弱い者を切り捨てる非情さも必要なのだ。
僕らグラエナが、他のポケモンを餌にして生きているのと同じように。
「とはいえ、お前も群れの仲間だったグラエナだ。最後のチャンスをやろう。そのジグザグマを……喰え」
「……!」
 何を。何を言ってるんだ、リーダーは。聞き間違いだ。そう信じてしまいたい。
しかし僕の耳にしっかりと飛び込んできたのは、食えという言葉。
ジグザグマはぐったりと横たわっている。おそらく仲間に死なない程度に痛めつけられたのだろう。
誰かが食べようとしても何の抵抗もしないかもしれない。だけど、そんなこと……出来るわけがない。

123 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/08(火) 09:30:43 ID:yZAbCmIU0
「俺達の前でお前がそいつを食べられたのなら、このまま群れに残っても構わない。今回のことは水に流してやるよ。ジグザグマとの友情なんてものはまやかしで、所詮は餌でしかなかったと俺達の前で証明して見せてもらおうじゃないか」
 これは、変わることをあきらめてしまった僕への罰なのだろうか。
餌とされているポケモンと仲良くなるのは、やはり許されないことなのだろうか。
その場から動こうとしない僕に、リーダーが問いかけてくる。
「そいつを食ったって誰もお前を咎めたりはしないさ。腹が減ってるんだろう?」
 そういえば昨日から何も食べていなかった。この空腹具合なら、勢いに任せてしまえば、もしかしたら。
リーダーの言葉に突き動かされるように、僕は一歩、また一歩とジグザグマに近づいていく。
動き始めた僕を見て、初めは野次を飛ばしていた他の仲間たちも押し黙る。まるで、この場には僕とジグザグマしかいないかのような静けさだった。
彼の体からはほんのりと血の匂いが漂っている。普段は嫌悪感を抱くはずのこの匂いだけど、今はそれが僕の食欲を掻き立てていた。無意識のうちに、湧き出した唾をゴクリと飲み込む。
すぐそばまで来た僕の足音を聞いて、ジグザグマは目を開いた。力なく見上げる彼の目にはどんなふうに僕が映っていただろう。
もしかすると、獲物を前にして血を滾らせているグラエナとして映っていたかもしれない。これ以上彼に怖い思いをさせたくなかった。やるならば、一思いに。
 さらに彼との距離を縮めた僕を見て、ジグザグマは目を閉じる。穏やかな表情だった。心地よい夢でも見ているかのような。
彼に牙を近づけようとしていた僕の動きが止まる。どうしたんだ、ジグザグマは死ぬのが怖くないのか。あるいは、僕に殺されるのなら本望だとでも言うのだろうか。

『君のこと、信じてるから』

 ジグザグマは何も言わなかったけど、僕に無言のメッセージを送っていたのだろうか。
恐怖や怯えなどは一切含まれいない彼の表情から、僕は確かにその言葉を受け取った。
そうだ。そうだよ。彼は僕を信じていると言ってくれたんだ。だったら、僕もそれに答えるべきじゃないか。
リーダーに挑発されたとは言え、一瞬でも彼を食べてしまおうと考えていた自分が恥ずかしい。

124 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/08(火) 09:31:11 ID:yZAbCmIU0
 ジグザグマか、仲間たちか。どちらを選んだとしても僕には暗い未来しか想像できなかった。
それなら、僕は自分が後悔しない方を選びたい。僕は大きく口を開き、彼の首筋に牙を近づけていく。
そして、ジグザグマの体を傷つけないように軽く咥えこむと、サッと踵を返して一目散に駈け出していた。
広場が一気にどよめきだす。裏切り者、という声も聞こえてきた。何とでも言えばいい。これは僕が出した答えなんだから。

 ジグザグマは辛うじて息をしているけど、この先いつまで持つか分からない。せめて、せめて安全な場所へ。
後ろを振り返る余裕なんてなかったけれど、仲間たちが一斉に僕を追いかけてきているのが分かる。森の中に逃げ込んでしまえばなんとかなるかもしれない。
茂みが、森の木が、だんだんと大きくなってくる。もう少し、もう少しで――――。
「……がはっ!」
 あと一歩で森にさしかかるという所で、僕は横腹に強烈な一撃を食らって草の上に倒れこむ。その拍子にジグザグマを離してしまった。
さすがはリーダー。ジグザグマを咥えて走る僕に追いつくなんて造作もないことだったか。
草の上に放り出されたジグザグマを前足で押さえつけて、リーダーは僕に言う。
「お前の行動は予測していた。もしかしたらとも思ったが、これが答えってわけか。あばよ」
「や、やめろ!」
 僕の叫びも虚しく、リーダーはジグザグマに牙を立てていた。僕のよりもずっと鋭く尖ったリーダーの牙が、深々と彼の体に食い込んでいく。
リーダーの顔の影になっていて、彼の表情が良く見えなかったのがせめてもの救いか。
ジグザグマの体がひくひくと小刻みに震える。リーダーの牙が、口元が真っ赤に染まっていく。見たくないのに、目を逸らすことができない。
やがて、ぴくりとも動かなくなった彼の体からリーダーは牙を離す。ズタズタになったジグザグマ、そして流れ出た大量の血を目の当たりにして、僕は彼を助けることができなかったという現実を突きつけられた。
 分かってたさ。あの状況で逃げ切れる可能性は、ゼロに近いってことくらい。
でも。それでも僕は彼を裏切ることなんてできなかったんだ。だけど結局彼を助けられなかったから、裏切ってしまったことになるのかな。
ごめんね……ジグザグマ。あのとき僕が君を見つけたりしなければ、会う約束なんてしなければ、こんなことには。

125 :狸吉@ジグザグマ ◆2yFRLFKg8k :2008/04/10(木) 02:33:48 ID:d2a1ZOj20
>>121
氷技だけならワニーさんも使えそうなものですが、さて。
まぁ実際パウーさんはこぼれた水の事をすぐに説明したり挙動不審でしたけど。

>>122-124
ジグザグマやマッスグマって何だか「か弱い民衆」のイメージがありますよね。
nobodyさんの『引き裂かれた運命』でも酷い目にあってますし。
僕がもうすぐ書く予定の小説でも冒頭でいきなりマッスグマ母子が悲惨な運命をたどることになります。
…いや、チラシの裏で袋叩きにされているのとは関係なくてw

126 :◆X0li4ODh3w :2008/04/13(日) 00:27:11 ID:w8aANTyg0
125 ははは…まぁ…二日で考えたものだから色々と変な所がありまして…気にせんといてください

127 :パウス ◆EvJGalaxy2 :2008/04/13(日) 20:42:06 ID:xorEPCVw0
ジグザグマやマッスグマって『熊』何ですかね?草食ってイメージがありますけど……

>>122-124
目が離せない展開になってきましたね。
とか言っておいて今更感想なんて……ごめんなさい。
弱肉強食。本当に現実の世界のような気にさせる、素晴らしい小説だと思います。


128 :狸吉@ジグザグマ ◆2yFRLFKg8k :2008/04/13(日) 22:56:28 ID:c71uzcC+0
>>127

>>ジグザグマやマッスグマって『熊』何ですかね?

ジグザグマは『アライグマ』※
マッスグマは『アナグマ』でしょう。
共に雑食性で虫やネズミの他果実やキノコなども食べますし、
カゲフミさんの『無垢な牙』で書かれているようにより大型の食肉目にとっては獲物です。

※しかしジグザグマの分類は『まめだぬきポケモン』ですがwww

129 :◆ykxGjvarYE :2008/04/14(月) 00:24:47 ID:b+b6WUjk0
いいのかな・・・
投稿してみますよっと。

130 :6.到着と戦闘、月光と日陰。 ◆9rQnm3emik :2008/04/14(月) 00:27:20 ID:b+b6WUjk0
鳥失敗したかな?二重かきこできないの?

ゆっくりと目を開ける。
まだ慣れない『テレポート』のせいか少しよろめく。
改めて辺りを見回すと、自分の体長よりかなり長い草が生い茂っている。
時たま中から炎がちらと見えるので少し驚いた。
が、すぐにここには『炎タイプ』のポケモン達がいるのを思い出す。
そうだ、上手くたどり着けたんだ。
人間もちらほらと見受けられるが皆不思議な帽子をかぶっている。
俺はここで生まれた筈なのだがいまだ彼らの思考が分からない。
その気になれば相手に『シンクロ』して思考程度読めるわけだがその気にもなれない。
それに何より、今はそれどころではない。
夕間暮れの時刻まであと少しばかりしかない。急ごう。
丘を走る。途中、何人かトレーナーらしき人物が不思議そうにこちらを見るが
それを気にしている間もない。
とはいえ、人間で思い出したがこのまま町へ入るわけにも行かない。
今は主人がそばにいない。仮にも『人間の』町だ。危ないのは目に見えている。
まして二人、いや二匹のいるらしい『育てや』なんてその比ではないだろう。
言葉が通じないのにいきなり入って行って「グレイシア引取りに来ました。」
なんていっても無駄、むしろ逆効果だ。
・・・さて、どうするか―――

そうだ。今まで『人間の』道を通ったから変な目で見られたんだ。
だったら、『ポケモンらしい』道を通ればいい。
何、少しくらい縄張りとやらに入っても平気だろう。
もし、刃向かってくる様な輩がいたとしてもねじ伏せる。
邪魔する奴は片っ端から、ね。野生ごとき、負けるはずがない。
―――そうと決まれば即決行である。
林へ駆け足で突っ込む。そのまま梢を走り抜ける。
やはり途中で何匹か殴りかかってきたけど『シャドーボール』でふっ飛ばしておいた。
『育てや』の裏側まで回り込む。日が地平線に沈み、入れ替わりに月が
空に上がっていく。そして、その他人からの光で俺の体の模様を光らせる。
月は、他人の光が無いと輝けない。それは何も月だけじゃない。
俺もだ。まるで月のように他人が居ないと輝けない。
―――だからこそ。
だからこそ俺は彼女を、俺にとっての一番大切な『太陽』を。
たとえ嫌われようとも行ってやらないと・・・壊されないように。
もう太陽は完全に沈み月が地を照らす。
すでに光は月と人間の建物のみになっており、辺りは静まり返っている。
今頃、主人達はどうしているだろう?もう夕飯は食べたのかな、
などと採って来た木の実を頬張りながら考える。
苦味が緊張を少しずつ和らげていってくれる。苦味がとても強いので
皆これは苦手だったのだがよく分からない。なぜ皆嫌がるのだろう?
食事も済ませたことだし、そろそろ行くとしよう。
柵を音を立てないようそっとくぐり・・・
・・・無理だろ、これ。
どうしても音でるよ。くぐるだけの隙間もないし、かといって飛び越えられる高さでもない。
どうする?・・・こうするしかないか。できればしたくなかったけど。
「『サイコキネシス』・・・」
分解するしかないだろう。上手く力を加えていく。最初に釘が一本、二本と外れた。
板をそっと地面まで移動させていく。もうここまできたら
テレキネシスと変わりないだろ、とか思ったがそこは措いておく。
これで通れるだけの隙間ができた。さて、いこうか。

131 :6.到着と戦闘、月光と日陰。 ◆9rQnm3emik :2008/04/14(月) 00:28:50 ID:b+b6WUjk0
やべえ鳥検索失敗したかな?このままいきますよ。

そっと忍び込む。
こんなにどきどきしているのは久しぶりな気がする。
―――いた。グレイシアだ。
なんというか・・・正直言ってしまうと自分好みである。
すっきりした顔立ちに身体のラインにコバルトブルーと薄い青のコントラストの
淡い体色、美しい毛並みに包まれた彼女はいつメタモンに狙われるか分からないというのに
何も知らないかのように安らかな寝息を立てている。
それも、とても無防備なそして穏やかな表情で。
そのメタモンがさっきから見当たらないのが不気味ではある。


・・・「がっ!!?」
―――いきなり後ろからの衝撃に吹っ飛ばされる。
何とか体制を整える。うわさをすれば何とやら、である。
急いで『メタモン』を探す。夜目は種族柄利くほうだし、ボックスほどは暗くない。
しかし、見つからないのだ。いくら探しても、自分の知っているメタモンの姿は
見当たりはしない。そうこうしているうちに空を断つ音がした。
そちらをむいてみると暗い弾がこちらに向かって・・・
ちがう。グレイシアに向かって飛んできている。
とっさに『サイコキネシス』で弾に衝撃を与え四散させる。
なんとか怪我はしていないらしい。とりあえず、今はグレイシアから離れないほうが良い。
もし離れたら彼女に危険が及ぶかもしれない。
というか何故見当たらない?何か種があるはず。
もしや、変身能力か?『メタモン』と『ミュウ』のみが持つ能力。
外見を見たポケモンに変化させられるというもの。
なら、きっと彼は変身しているはずだ。
二回目の『シャドーボール』が飛んでくる。これくらいもう一度・・・
「それっ・・・」跳ね返す。これで大丈夫・・・

―――「ぐっ・・・!」
じゃなかった。二発目だけじゃない。続く弾がつづいて命中する。
もろに喰らってしまった。あたり場所が悪かったか、立てなくなってきた・・・
一匹、おそらくはメタモンだろう――が近づいてくる。
彼の姿を見るにやはり変身していた。『スリーパー』といわれる種だ。
その顔にいやらしい、反吐のでるような笑みを浮かべて。
「君、かい?そこの娘が話していたブラッキーというのは?」
聞いてきた。そこの娘、というのはおそらくグレイシアだろう。
いつ聞いたのかは知らないが、主人の手持ちに『ブラッキー』は俺一匹だけだ。
「いけませんね・・・少し、教養がなっていないようで。」
どっちがだ。黙れ・・・
「別に私は『イーブイの卵』さえ作って帰ればいいんですよ?」
いやらしい笑みをいっそう深いものにしてこちらに喋り掛けてくる。
まさか・・・
「悪い仔にはお仕置きが必要ですよね・・・。こんなのなんてどうでしょう?」
いやにもったいぶる。最近、いやな予感は100%当たっているような。
「『彼女の目の前で犯される』・・・いいでしょう?素敵だと思いません?」
背筋が凍りつく。『ぜったいれいど』のそれ以上に。
・・・俺、今から犯されるのだろうか?
そう思った。もし、彼女に言ったら?きっと嫌われてしまうだろうな。
恥ずかしくて、ショックで、なにもかもいやになるのかな。
「では・・・」
覚悟なんて決められないが何せこの状況だ。奴には悔しいが逆らうだけの元気も無い。
「『でんげきは』っ!」

132 :6.到着と戦闘、月光と日陰。 ◆9rQnm3emik :2008/04/14(月) 00:29:17 ID:b+b6WUjk0
吹っ飛んだ。
それも、俺じゃない。今まで目の前に居た『スリーパー』、メタモンがだ。
「何くたばってるんだお前は!努力して『彼女』を助けるなんてほざいたのは
 何処のどいつだ!?」
この声・・・月光を浴びて現れたのは紛れも無いエーフィ、彼その人だ。
まさか、今彼は主人のところに居るはず。
でも、目の前に居るのは決して幻影なんかではない。
「どうして・・・・ここに・・・・・?」
声がかすれる。
「そんな事はどうでもいい!それより時間が無いんだ。これを食え。」
差し出されたのは『オボンの実』。食べると疲労回復、怪我の治癒を早める木の実。
一口、二口と急いで食べる。三口目にはもうすっかり食べ終えて体が軽くなっていく。
「いいか、一度だけ言う。今からお前に『バトンタッチ』する。『めいそう』
 してきたんだ。そうしたら、林に奴を思い切り吹っ飛ばせ。いいな?」
言い終わらないうちに彼は『バトンタッチ』する。自分の精神が静まり、
第六感が高まっていくことを感じる。
「そしたらお前が・・・」
「いいから!じゃあ、頼んだ!」
そういうなり、彼は林に先回りして行った。
「君達・・・」
メタモンの声だろうか。怒りに声が震えているのを感じる。
こちらはオボンで体力が多少回復したとはいえ、まだ危ない。
「よくも・・・『邪魔』を!!」
怒り狂ったまま目の前に蒼色の光を収束して打ち出してくる。
『れいとうビーム』だろうか。光線となったそれを『あくのはどう』で打ち消す。
「畜生!当たれよっ!」
メチャクチャだ。適当に打っているのだろう。そのまま波動を出しつつ接近していく。
「・・・!?」
PPが切れた様だ。今だとばかりに奴の上空に飛び、そして後ろに回りこむ。
「っ!!?」
混乱しているのだろうか?一気に黒い影の塊を作り出す。
「『シャドーボール』ッ!!!」
影の弾が奴の背中へ激突する。勢い良く吹っ飛んだ。二回目だ。
空中で体制を整えようとしている所へ続けざまに打ち込んでいく。
「おおおおおおっ!!」
何発も、何発も打ち込んでいく。もっと打ち込んでやりたいがPPが切れたらしい。
『死力を尽くした』というのはこういうことかと、林の中へ消えていく
メタモンを眺めながら思った。

133 :◆01nmPOmqow :2008/04/14(月) 00:36:11 ID:b+b6WUjk0
六話、おしまいです〜。
何かすみません。とりあえず、こっちでは初めてですよ。

>>122-124
だーく。だがそれが(ry
こんな奴ですけどひそかに応援してますよ。どうなってしまうのだろう・・・

最後にもう一度鳥。なんかテストスレが使えないので・・・
wikiにはあとでまとめます。おやすみなさい。

134 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/14(月) 12:38:56 ID:FC7FwpGk0
>>125 狸吉さん
そうですねえ。野生として出てくるポケモンの中では草食のイメージがあったので、狙われる側かなあと。
コラッタのときもそうでしたが、小説の中で死者を出すのはなんだか切ないものが残ります。
レスありがとうございました。

>>127 パウスさん
いえいえ。今更だなんてとんでもない。
感想をいただけるだけで励みになりますよ。
レスありがとうございました。

>>133 Åさん
私の小説の中ではかなり重い展開です。
あんまり根をつめて書いていると私の気も滅入ってしまうので適度に休憩をとりつつやってます。
レスありがとうございました。

135 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/14(月) 12:39:44 ID:FC7FwpGk0
―10―

「あ……ああ、ジグザ、グマ……」
 僕の中の何かが、ガラガラと音を立てて崩れ去っていった。彼を失ったという喪失感が僕の心をじわじわと侵食していく。
仲間に追われているという状況も忘れ、動かなくなった彼を前にしてただただ呟くことしかできなかった。
僕のことを信じてくれていたのに、守れなかった。謝罪の言葉をいくら並べてみても、それを償うことなんてできはしない。
「さて、お前たち。獲物はもう一匹いる。少々痩せて筋は張ってるだろうが……食えないこともないだろう。なあ?」
「……っ!」
 リーダーから、そして仲間たちからおぞましいほどの殺気を感じ、僕は現実に引き戻された。
大切な友が目の前で殺されたというのに。生存本能だけは悲しいくらいにしっかりと機能しているようだ。
もう悪い冗談だなんて思わない。彼らは本気だ。裏切り者の僕をどう扱おうが良心は痛まないのだろう。
もはや僕は彼らにとってはコラッタやジグザグマと同じ、狩りの対象でしかない。
「心配するな、お前もすぐにジグザグマのところに送ってやるよ……!」
 リーダーが地面を蹴って僕に向かってくると同時に、他のグラエナ達も一斉に動き出す。
逃げなくては。僕はリーダーの一撃を受けた横腹の痛みも忘れ、一目散に森の中へと駈け出していた。

 鬱蒼と茂る森の中。苔と落ち葉で覆われた地面を駆け抜けるいくつもの足音。一つは僕の走る音。そして後の足音は、かつての仲間たちもの。
木々と茂みの間の細かい隙間を這うように、僕は全速力で駆け抜けていく。今まで生きてきて、こんなに速く走ったのは初めてかも知れない。
とはいえ追手は僕と同じグラエナ達。周囲の茂みから感じる仲間の気配は薄れているように思えない。
 群れで行っていた狩りで追われていたポケモンも、きっとこんな風に逃げていたんだなと僕は痛感していた。
自分が狩られる側になって初めて、今まで追いかけてきたポケモンの気持ちが分かったような気がする。
みんな死にもの狂いだったんだ。こんなにも怖いことだったんだ。
僕もある程度理解しているつもりだったけど、そんな生ぬるいものじゃない。
すぐ傍まで迫った死の影から必死で逃げて、生にしがみつこうともがいている。今の僕がまさにそうだった。
ジグザグマのことなんてどこかに追いやられてしまっている。死にたくないという想いで頭の中は一杯だったんだ。

 どこをどう走ったのかも分からない。どのくらい走り続けていたんだろうか。
少しだけど、僕を追うグラエナの数が減ったような気がする。ずっと走り続けて息が苦しいけど、おそらく彼らも疲れてきているはずだ。
このまま完全に振り切ってしまえば逃げおおせるかもしれない。追手の減少は少なからず僕に希望を与えた。
群れでの狩りは久々で、彼らの連携も鈍っていたのか。僕も敏捷性には多少なりとも自信がある。追い詰め専門を舐めるな。

136 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/14(月) 12:40:12 ID:FC7FwpGk0
こうやって虚勢の一つでも張らねば、そのまま地面に崩れ落ちてしまいそうだった。極度の空腹状態で走り続けるのはそろそろ限界が近づいてきている。
「……?」
 ふいに、僕を追うグラエナ達の気配が消えた。どうしたんだろうと振り返ったのと、目の前が明るくなっていたことに気が付いたのがほぼ同時だった。
森はここで終わっていて僕の足元にあったのは緑の大地ではなく、切り立った斜面だった。
しまったと思った時にはもう間に合わない。前足が虚しく宙を引っ掻き、そのまま体ごと下の斜面へ吸い込まれ、叩きつけられる。
「がはっ!」
 背中からの激しい痛み。満身創痍の体に追い打ちをかけるような一撃。
僕は何度も突出した石に体をぶつけながら、斜面をずるずると滑り落ちていく。
斜面の終わりには段差があったらしい。滑ってきた勢いのまま僕は放り出され、地面に全身を打ちつけた。
よかった。ここは平坦な地面らしい。これ以上どこかへ落ちていく心配はない。痛みよりも先に、その安堵を感じた。
他のグラエナ達も、さすがに森の外の斜面を駆け降りてまで僕を追いかけてはこなかった。
もし人間に見つかった場合を考えると、リスクが大きすぎるからだろう。そうだ……人間。
僕は今になって思い出した。ここは森の外。身を隠す茂みも、木々もありはしない。
目を開けて辺りを見回す気力すら残ってないけど、辛うじて周囲の匂いは感じ取れる。
これは土の匂いじゃない。たしか、人間が通りやすいように手を加えた道がこんな匂いだったはず。
ということは、この近くに人間がいるのか。まずい。こんなところにいると人間に見つかってしまう。ここから離れなくては。
体を起こそうとするが、まるで石になったかのように全く動かない。体も、心ももうぼろぼろだった。

 もしかすると、僕はこのまま死ぬんだろうか。
他のグラエナに食べられるよりは、こっちのほうが穏やかに眠れそうだ。
死んだら、ジグザグマに会えるのかな。……無理だよね。
僕の牙は血に染まってしまっている。彼のいる天国には行けそうにない。
だけどもし、もしも天国で彼に会えたのなら、守れなかったことを謝りたい。
彼は僕を許してくれるだろうか、ジグザグマ――――。

137 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/04/14(月) 17:17:18 ID:oEVfYa6M0
*「おおグラエナよ、しんでしまうとはなさけない」

138 :◆l53eGZU1tg :2008/04/18(金) 00:13:09 ID:1godz1bE0
はじめまして。
ポケモンエロ小説を見た人は知っているかもしれませんが発です。
ポケモンの小説も書きたいと思うので、こちらに乗せます。
出来上がり次第乗せたいと思います。


139 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/18(金) 18:08:27 ID:V+ZoLxIw0
act20 実力 (サブタイが本スレの蒼空氏と被ってしまったorz)

「まさか…あれを受けて生きているだと?」
カシェルは自分の耳を疑った。だが先程の声は間違いなくあのイーブイのものだ。
僕は辺りを見渡してイーブイの姿を探す。
奴はーーーいた。土煙の上だ。
恐らく“サイケ光線”をギリギリでジャンプして避けたのだろう。
「上か……!」
僕はとっさに“サイコキネシス”で空中のイーブイを攻撃しようとしたが、奴はそれよりも早く手から無数の目映い光線のようなものを放つ。
空を裂く光の矢にも似たそれは全てユンゲラー達に命中し、皆が倒れた。
ユンゲラーの体に刺さっていたのは黄金色に輝く星。それも全て急所を的確に射抜いている。
「な……イーブイが“スピードスター”を扱うだと?」
「戦いの最中によそ見なんかしてていいのか?」

僕が気付いた時、既に空中に奴の姿は無かった。
それにこの声は僕の後方、それも近距離から。
僕が目を離した一瞬の隙に奴は背後に回り込んだというのか?

「……ッ!」
直後、奴の足払いに四肢が掬われて僕は無様な格好で仰向けに倒れ込む。
そこに奴は鞘から抜いた長剣を僕の喉元にめがけて突き立ててきた。

140 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/18(金) 18:11:56 ID:KLSbX6mA0
ガッーーー


「雑魚ばっか…弱いのはお前らの方だったな」

奴の剣は僕の首のすぐ横に突き立てられていた。僕は怪我一つ負っていない。

奴は……強い。
無駄なく素早い動きと熟練した剣技、本来なら覚えない筈の技の使用、そして多人数を相手にしても臆することのない勇気と度胸。
剣を突き立てる時に見せた奴の殺気を帯びた鋭い眼光に威圧され、僕は一瞬だが死を覚悟した。
このイーブイは先程倒した大人のアース族とかけ離れた圧倒的戦闘能力を有している。
今の僕では奴には絶対に勝てない。ここは大人しく逃げた方が賢明といえよう。

「負けたよ……イーブイ、お前の名は?」
「……ロキ、だ」
「僕はカシェル。覚えておこう…君の名を」
ロキ…か。僕はいつか強くなってこいつを倒してみせる。そう心の中で呟くと僕は立ち上がって前髪を掻き上げ、“サイコキネシス”で気絶しているユンゲラー達を浮上させてロキに背を向ける。

141 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/18(金) 18:20:03 ID:uC3A0AcU0
「今は退く。だが災厄の導き手…そのキルリアはいずれ取り戻してみせる…」
そう捨て台詞を残すとカシェル達ヴァン族はアース族集落から引き上げていった。

彼らの姿が見えなくなるとロキは戦闘体勢を解く。
「あいつら口ほどにも無かったな…」
彼は何か物足りなそうな顔をして地面に突き立てた剣を引き抜き、鞘に収める。
「やったでやんす兄貴!」
「ロキ…ありがとう…」
そんな彼のもとに駆け寄るルシオとユメル。彼女の笑顔に自然と心が緩む。
「あ、相手が弱かっただけだ…うん」
顔を少し赤くして照れ笑いをするロキ。どうもユメルの笑顔には弱いな…
ロキが一人でヴァン族の刺客を撃退し集落を守り抜いた事にこの上ない喜びを噛みしめていた。
共に喜びあう三匹。これで一件落着かと思われたが…


「ロキ、これは一体どういう事ですか?」
三匹の背後から放たれた厳格さのある聞き慣れた声。
ロキはハッとして振り返るとそこには族長のハピナス…エイルの姿があった。

142 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/19(土) 12:08:19 ID:WDLCy3ss0
―11―

 エレベーターの到着音とともに一階です、と無機質なアナウンスが響く。私は足早に降りると、ビルの出口に向かった。
朝のラッシュ時よりは多少落ち着いているとはいえ、ロビーにはまだまだ多くの人影がある。
私と同じように外へと向かう人もいれば、逆にエレベーターに乗り込もうとしている人、入ったところにある受付で何かの手続きをしている人、椅子に座ってくつろぐ人など様々だった。
この時間帯は帰宅する人で入口が込み合うときもあるのだが、今日は少し早く仕事が片付いたためそれほどでもない。
出入り口の自動ドアをくぐると、高いビルの立ち並ぶ街並みが目に飛び込んでくる。人工物に囲まれているという点では、外も中も対して変わらないのかもしれない。
若干淀んでいるような気もするが、時折吹く風を肌身に感じるのが一番の違いか。
「ええと、駐車場は……」
 極度の方向音痴というわけではないけれど、時々どこに車を停めたのか分らなくなることがある。
そうだ、ビルを出て右の曲がり角の奥にある駐車場に今日は停めたんだった。決まった車の置き場がないからややこしい。
ここに勤め始めてそれなりの日数になるが、こういった面では未だに都会の空気に馴染み切れていない感があった。
 やはり私には発達した都会よりも、多少不便さは残っていても閑静な住宅街の方が性に合っている。
ポケモン専門の薬品会社ともなれば大きな企業だから、都心勤めになるのも無理のないことなのかもしれないけど。

143 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/19(土) 12:08:44 ID:WDLCy3ss0
出来るだけ人とぶつからないように注意しながら、私はビルの角を曲がり駐車場に向かう。
常に人通りが尽きないこの都心部ではポケモンを出して歩いている人は少ない。
あまり大きなポケモンだと通行の邪魔になるし、一緒に隣を歩けるくらいの大きさだったとしてもこの雑踏に慣れていなければすぐに迷子になってしまうからだろう。
見かけるのは、頭や肩に乗せられるくらいの小さなポケモンぐらいか。ポケモンを自由に出せる場としても、この街のポケモンセンターは貴重な存在だ。
 そんなことを考えながら、どうにか私は自分の車の前まで辿りついた。
ここなら人通りもほとんどないし、はぐれてしまう心配もない。私は鞄からモンスターボールを取り出して開く。
赤い光がシルエットとして浮かび上がり、やがてそれは実体と化す。細長い体に茶色とクリーム色の縞模様をした
ポケモン、オオタチが私の前に現れる。
原理はよく分からないが、便利なものを開発した人がいるものだ。こうしてモンスターボールを使うたびにそう思わずにはいられない。
「ユナ、仕事終わったんだね」
 ボールから出てきたオオタチ、ミオは嬉しそうに尻尾を振る。社内では手持ちポケモンはモンスターボールに入れておかなければならない。
昼休みには外に出られるとはいえ、時間制限があるためあまりのんびりしていられないのだ。
私の仕事が終わり、心おきなくボールの外にいられるというのが嬉しいのだろう。
「ええ。それじゃ、帰ろっか」
 そう言って私は後部座席のドアを開ける。ミオはひらりと身軽な動きで車に乗り込んだ。
それを確認すると私はドアを閉め、運転席に座る。周囲に人がいないことを確かめた後、エンジンを入れて車を発進させた。

144 :◆l53eGZU1tg :2008/04/20(日) 00:04:45 ID:V14OEBCo0
0話書きました。
これから投下します。
注 この小説は、多分暗くなると思います。
暗いのが苦手な人はスルーしてください。

145 :◆l53eGZU1tg :2008/04/20(日) 00:05:24 ID:V14OEBCo0
コドクノカタチ

ゼロワ

コドクナヨル


寒い冬の夜
そのポケモンは一匹で歩いていた。
信じていたものには裏切られ、
優しくしてくれたものにも見捨てられ、
友達は離れて行き、
新しい友達もできない。
そのポケモンのココロは今にも折れそうで、
今にも泣き崩れそうで、
でも、そのポケモンは泣かずに前を見て歩いている。
約束を守るため、そのポケモンはある山へ向かっていた。


月は輝いていた。
そのポケモンを見守るように・・・

146 :◆l53eGZU1tg :2008/04/20(日) 00:09:31 ID:V14OEBCo0
皆さんの反応を見て、1話を投下したいと思います。(書いてないけど・・・)
感想を書いてくれるとうれしいです。

147 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

148 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

149 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

150 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

151 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

152 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

153 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

154 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/23(水) 15:11:07 ID:wFhwF6M+0
―12―

 私の家まで車でおよそ三十分強と言ったところか。毎日通うには少し距離がある。
都心近くのアパートを借りて住むという方法もあったが、今の住居に比べるとずいぶんと狭い。
私の家では常にミオはボールの外だ。アパートによってはポケモンを出すことを制限される場所もある。
ミオに窮屈な思いをさせたくないのはもちろんだが、一人暮らしでいつも傍にミオがいたため彼女がいないと私が寂しくなる。
というわけで、私は近いけどミオを自由に出せないアパートよりも、遠くてもミオと一緒にいられる一軒家を選んだのだ。
ミオも最初のうちは車での往復に戸惑うこともあった。だが今では車の中で寝息を立てるくらいの余裕が伺える
仕事にせよ何にせよ、初めのうちは落ち着かないことも多いが、だんだんと慣れていくものなのだ。

 渋滞や信号待ちにぶつかるとかなり時間を取られることもあるが、今日は早めに仕事が終わったため普段よりもスムーズに進んでいる気がする。
出発して二十分程。あんなにも景色を独占していた高層ビルやアパートの姿はもう見当たらなくなっていた。
都心部は非常に発達しているものの、少し離れた郊外には静かな住宅街が広がっており、車や人通りもまばらになってくる。
さらに進むと家すらも見かけなくなり、整備された空き地が区画ごとに分けられている。新しい家の建設予定地なのだろう。売地とでかでかと書かれた立札が目に留まる。
 そういえば、この一帯も数か月前まではまだ森だったんだっけ。もう以前の光景を想像することができなくなっている。
すっかり変わってしまったな。切り立った崖の近くに停められている作業車を見て、私はふと思った。
いつもならばここに差し掛かった時点で大分薄暗くなっており、気に留めることなく通り過ぎていたのだが。
一部では工事に対する近辺住民の反対運動もあったらしいが、結局決行されて今のような状態になっている。
緑のない殺風景な景色はどこか物悲しい。せっかく切り開いたんだから、さっさと家を建ててしまえばいいのに。

 そんなことを考えながら運転していると、いつの間にか細道に差し掛かっていた。
小高い森に挟まれた、車二台が通れるか通れないかぐらいの幅の道。ここを抜けた先に、私の住んでいる住宅がある。
ここも昔は徒歩でしか通れない砂利道だったらしいが、もう何年も前に道を通す工事がなされて今の状態になっている。
ただ、本当にただ貫通させただけと言った感じで、歩道や街灯などの整備は全くされていない。
そのため、夜この道を通る時は真っ暗でちょっと怖い。ミオがいてくれるから多少は安心できるけど。
さらに、トンネルを通さずに小高い森を刳りぬいたため、左右は切り立った崖のようになっていて、雨の日は土砂崩れでも起きないかと心配になる。
数々の不安要素を抱えたこの道だが、会社まで大幅に時間短縮ができるので私は毎日利用しているのだ。

155 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/23(水) 15:11:39 ID:wFhwF6M+0
「待って、ユナ。誰か倒れてる!」
「えっ?」
 突然の叫びに、私は慌ててブレーキを踏む。前につんのめったミオが小さく悲鳴を上げた。
さっきまで走っていてそれらしき姿は見当たらなかった。少し薄暗いのでライトを点灯させてみるが、それでも分からない。
「どこ?」
「この先の道端、もう少し進んで!」
 たぶんミオは私よりは視力がいいはず。彼女の焦りようから見間違いではなさそうだ。
前後から車が来ないことを祈りながら、私はゆっくりと車を進めていく。
「あそこよ!」
「本当だ……」
 ライトに照らされて浮かび上がった黒い影。ぐったりと横たわっている。人間ではない。ポケモンだ。
もしかすると、森から飛び出してきたところを車に撥ねられでもしたのだろうか。
車を脇に寄せて停車させると、私とミオはその影に近づいていく。
「酷い怪我……!」
 倒れていたのはグラエナだった。森に住んでいたポケモンだろうか。あちこちに擦り剥いたような跡があり、体中が砂ぼこりに塗れている。
近くの崖に点々と血が残っていることから、どうやら誤って崖から落ちてしまったようだ。
外傷だけでも目を背けてしまいたくなるほどの怪我だ。もう死んでしまっているのだろうか。
私はしゃがんでそっとグラエナの口元に手を当ててみる。わずかだがまだ息はある。だがこの状態ではいつまで持つか分からない。このままでは命が危ない。
「まだ生きてるわ。ポケモンセンターに連れて行きましょう!」
「うん!」
 このまま放っておくなんて出来なかったし、仮にそうしようとしたとしてもミオは承知しないだろう。
私はグラエナを抱き上げる。ずいぶんと軽かった気がする。そして何よりも、車に乗せて運べる大きさのポケモンで良かった。 
後部座席にグラエナ、そして助手席にミオを乗せる。ここから一番近いポケモンセンター。どこだろう。
私の住む街にはポケモンセンターはないから、一度引き返さなくてはならない。間に合ってくれ。
舗装されていない路肩を利用してどうにか車を転回させ、私は来た道を引き返しポケモンセンターへと急いだ。

156 :sJ\ ◆X0li4ODh3w :2008/04/26(土) 00:08:37 ID:840jCKvo0
>152ゴツガツガッガッ

これジョジョのピシガシグッグッ、って奴をリアルな世界でやったら出た音です、やってみたらいかがでしょうか?  

157 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 00:39:32 ID:xdMpDtKc0
初めて描かせていただきます。文章力…?気にした負k(ry

満月が照る夜。星々は街の明るすぎる光によって一つの点も視ることができない。
その、街を臨む崖から街を眺める黒い影。それは、人を嫌悪していた、一匹の、ポケモン。
 ー支えあって生きていく…?弱い者のすることだー

 漆黒の満月 一,

【人】…人と人とが支えあう様を表す象形文字。
「支えあう」とは無縁の種、悪タイプ。彼は、人々の行き交う街を眺めていた。

158 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 01:09:05 ID:xdMpDtKc0
アブソル、災いポケモン。
彼は、明らかに他とは違う特徴をもっている。
普通は、白毛を持つ種族。だが、彼がもつのは、漆黒の毛。
それは、人間…彼の元主人、ロンが一つの願の為に行ったことだった。
ー人工的変色交配ー
人の手を加えることで同じ種族の他とは違う特徴を持たせること。彼は珍しいポケモン、色違いを求めていた。
アブソルが母として選ばれ、父には黒毛を持つグラエナが選ばれた。
ー成功だった。黒毛をもつアブソルが生まれた。
だが、ロンは彼を捨てた。今回行ったのはあくまでも「実験」であった。そのうえ、黒毛をもつアブソルなど、どんな災いを呼ぶか分からない。
ー捨てられたことが、ただ、悲しく、悔しかった。人の都合で、自分は「作られ」、捨てられたのだから。
街を一度睨みつけ、その場を後にする。黒い影は、なお暗い深緑の森へと入っていった。

159 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 01:29:32 ID:xdMpDtKc0
深緑と闇が混じる森は、静寂に包まれ、夜行性のポケモン達の鳴く声が聞こえ、薄れてゆく。
アブソルは、その中をただ歩く。行くあてはない。散歩、といったところか。三日月の刃は、触れる葉を揺らし、落としていた。
ーkrrr...
静寂の中聞こえる鳴き声。ふと足を止める。
「何だ…?」
ーkrrr...
そら耳では無い。静けさと同化して、可愛らしく、鳴いている。
声のする方へ走る。その声は、あまりにも寂しくて、誰かを待っているかのようだ。少なくとも、その声は、この森では聞いたことがない。
ー何かが、迷い込んだのか。この気味の悪く、ただ暗い森に…

160 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 02:00:57 ID:xdMpDtKc0
低い、木の陰。この森の静けさには合わない鳴き声の正体。
ーkrrr...
イーブイだった。まだ幼い。
「どうした?」
イーブイはこちらを見た。ただオロオロとして、何も話そうとはしない。アブソルの威圧が、イーブイにプレッシャーを与えているのだ。
「何処から…来たんだ?」
余計な不安は与えないよう、言葉を選んで話す。
「…分からない。気がついたら…ここにいたから」
それだけ言うと、目に溜めていた涙が一気に流れ出た。
「御…主人…」
ふと、声を漏らした。
「?主人…いるのか?」
彼は小さく頷く。
「何処にいる?」
「…この近く…」
この近く…崖の下の街か…?街に行く途中ではぐれたのかもしれない。
「分かった。明日、一緒に捜そうか」
「…う…ん」
それだけ言い、安心したか、あるいは泣き疲れたか。寝息をたて、心地よく、眠り始めた。
月の光は、黒い雲に身を潜め始めていた。

161 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 19:36:07 ID:xdMpDtKc0
あー描いてて恥ずかしい。もし見ておられる方いらっしゃいましたら、よろしければ指摘お願いします。誰もいないみたいッスけど。過疎ってやだなあ。

漆黒の満月 二,

明け方降り出した豪雨は、二匹を激しく打ちつけていた。太陽は地を照らすこともできず、黒雲だけが空を覆っていた。木や花は、カサカサと擦るような音を重ねる。
この雨のせいなのか、街を歩く人はほとんど見られない。もっとも、アブソルにとってはそのほうが都合がいいのだが。
彼はイーブイを雨から守ろうと、風上、イーブイの右を歩く。足音はかき消され、降り続く雨のみが響く。
「…ここにいるの?」
そんなことは分からない。何処に行けば見つかるという宛てもない。ただ、
「きっといる」
彼にこれ以上の不安は与えたくなかった。雲はその黒を更に濃く、重くする。

162 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 23:15:20 ID:xdMpDtKc0
「ここなら見つかるかもしれない」
人々の声が聞こえた。ポケモンセンター、雨宿りをするには丁度いい場所。
「ホント!?」
イーブイは、嬉しそうな顔でこちらを見る。見つけてあげたい。そのために、ここに来たのだから。しかし、
「…行かないの?」
「ああ…俺はいい。見てこいよ」
災いを呼ぶと言い伝えられるアブソル。言い伝えというよりただの迷信だが、人々はその迷信を信じている。群れている、人間だからー
ふと、彼は何かを感じた。
「隠れろ!」
冷徹で、残酷な気。

イーブイを連れ、建物の陰に入る。
「…どうしたの?」
気の正体は、自分達の前を通り過ぎる。
「あいつは…」
「御主人!」
そう言って、飛び出して行った。
「あ、おい!」
イーブイは、「主人」へと駆けていく。「主人」は、彼に気付くと口を開いた。その言葉は、
「…。なんだ、この前のー」
降り続く雨より強く、イーブイを打ちひしいだ。
「ー『出来損ない』か」

163 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/26(土) 23:49:30 ID:xdMpDtKc0
ソフトな表現に努めますが、バトルっぽいのがありますよ。

「…え…?」
戸惑うイーブイ。「主人」は、彼に冷酷な判断を下す。
「シャワーズ。水鉄砲」
そのシャワーズは、イーブイとどことなく顔が似ている気がする。シャワーズは一瞬躊躇うが、命令に背くわけにはいかない。雨の力を得、攻撃を始める。
威力の上がった水鉄砲は、イーブイを吹き飛ばし、激しく打ち付けた。彼が心に負った、傷のように。イーブイは静かに鳴き、気を失った。
「貴様ッ!!」
「主人」への怒りがこみ上げる。アブソルはシャワーズへ騙し打ちを叩き込み、ダウンを奪う。
「…久しぶりだな、『実験台』」
「主人」、ロンは相変わらずの低く、強い声で話しかける。
「捨てたのか、こいつを…!!」
テレパシーを使い、怒りを伝える。
「選んだだけだ」
ロンは淡々と話す。
「3匹のイーブイが生まれた。見込みがあったのはこいつだけだった」
そう言い、シャワーズを見る。すると、そのシャワーズとイーブイは兄弟ということになる。顔が似ているのも、そのためだった。
ロンはイーブイを見、話を続ける。
「そのイーブイは、最も弱そうだったから捨てたわけだがー」
視線をこちらへ戻す。

164 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 00:21:28 ID:0iFGOef20
「ー予想通り。全く使えそうにないな」
そう言い、彼は笑う。
「何故だ。何故、仲間を信じない…!?」
「育てるだけ、無駄だからだ」
「違う!お前は仲間を『道具』としか見ていないからだ…!!」
道具のように作られ、
道具のように扱われ、
道具のように捨てられた。その怒りは、いつまでも消えることはない。
「…もう行く。時間の無駄だ。」
ロンはそう言って、去ろうとする。止めようとしたが、騒ぎに気付いた人の群が、次々と外へ出てくる。ロンは群の中へと、消えていった。
ーアブソルだ!アブソルが出たぞ!
ー追い払え!災いが起こるぞ!
群衆は、そう言って騒ぎ立てる。気が付けば、黒い影は小さい影を背負い、街の外へと走り出していた。
雨は勢いを増したのか、一段と激しく、音は鳴り響く。
ーお前は、俺が育てる。人間のところへなんて、戻る必要もないー
その決意は、しっかりと胸へ焼き付いた。石を削る、雨のように。

PSPで投稿してるのは、俺だけですかそうですか。指が痛くなるから止めようかな。使える記号も限られてくるし

165 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/04/27(日) 00:29:29 ID:KYEBgKzo0
>>cotton
見てますよ〜。
文章は読みやすいし面白いので大丈夫
だと思いますよ。
ただ、sage推奨です。
PSPの方は他にもいらっしゃったはず
です(真面目に答えてる俺って…?

あ、皆さんはじめまして。
coopieと言います。
ここがイースタに来る以前から
ずっとROMってました。
これからはちょくちょく顔を出すと
思います。よろしくお願いします。


166 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 00:40:20 ID:0iFGOef20
>>coopieさん
アドバイス、ありがとうございます。これからも頑張って描いていこうと思います。PSPで。(殴
よろしくお願いします。

あと、sageってE-mailのところに「sage」って書くのでいいんでしたっけ?こういう所に書き込むの初めてですから

167 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 10:04:50 ID:0iFGOef20
ホント酷いんすよ。PSP。「あざ笑う」で出ないッスもん。調べてみたら、「嘲る」(あざける)で出たというorz

漆黒の満月 三,

雨は今日も降り続いている。雨粒は木々を掠め、鳥たちの歌声は全く聞こえない。近くを流れる小川は氾濫し、鈍い音を立てる。

アブソルは住処とする大木へ帰ると、気を失ったイーブイの治療に努めた。大木は、根が二股に分かれ、洞となっている。特にモモンがよく効いたようで、その甘い味は彼の疲労をとってくれたみたいだ。

二匹を沈黙が包む。アブソルはただ雨の降る外を眺め、イーブイは悲しさからか淋しさからか、起きようとはしない。
「…どうだ、寝心地は」
話そうとしてもその位しか話題が見つからない。イーブイのそっけない返事は宙に消え、虚しさを残す。

昨日の出来事は、彼に過去を思い出させた。思い出したくもない、あの悪夢のような過去をー

168 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 10:42:14 ID:0iFGOef20
ー急に、目の前が眩しく、開ける。
外の心地よい空気は、殻に閉じこめられていた彼に解放感を与える。彼は、自分を閉じこめていた殻を抜け出す。
目の前には、こちらを覗きこむ少年がいた。この少年が、自分の「主人」なんだろうか。そう思いこみ、名前を呼ばれるのを待つー

ー「実験」は、うまくいったみたいだな。
ー…「実験」…?
彼は、自分の前足を見、その言葉の意味を知った。
ー黒い毛で覆われている…足も、体も…
全ては、「主人」の思い通りとなった。
ーじゃあな、『実験台』。
自分は、その「実験」の実験台として生まれたのだった。その一言が、彼に重くのしかかった。呼び止めることさえ、できなかった。

行く宛もなく、彼は歩き続けた。主人に捨てられ、自分の力で生きてゆくしかなかった。
街で、自分の姿を見た人は叫ぶ。
ーアブソルだ、アブソルが出たぞ!
そう呼ばれ、自分がアブソルであることを初めて知る。
…あっという間に、自分の周りに人々が円ができ、こちらを見ている。自分はどうすることもできない。
辺りを見回す度に、悲鳴が、非難が、自分に浴びせられる。

169 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 11:09:22 ID:0iFGOef20
暴力あります。いきなり。

ー黒い毛のアブソルだ…
ーどんな災いを呼ぶか分からない!この街から追い出せ!
人々は自分に攻撃を始めた。
石を投げる者。ポケモンに指示をする者。水をかける者。…それは何分続いただろうか。戦うことを知らない自分は、何もできない。

やっとのことで「電光石火」を使い、逃げ出した彼は、街の外へ走る。傷を負って、時々倒れそうになりながら。

彼は自分の境遇を憎んだ。
アブソルとして生まれたことを、
黒い毛をもって生まれたことを、
「実験台」として生まれたことを、
そして、あの「主人」のポケモンとして生まれたことを。

「…ちゃん、兄ちゃん」
イーブイにそう呼ばれ、アブソルは我に返った。イーブイは彼を「兄ちゃん」と慕うようになっていた。同じ主人のポケモンとして生まれたのだから、ある意味兄弟なのかもしれない。
「…どうした?」
「だって、さっきから怖い目して、外見てたから…」
「ああ…すまない。ちょっと考え事してただけだ」
雨は、いつの間にか弱くなっていた。

170 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 11:29:51 ID:0iFGOef20
「…なあ」
ふと、イーブイに質問をした。
「お前は、ロン…主人の元へ帰る気はあるのか…?」
「うん」
言い終わらないうちに、答えは返ってきた。
「もしも、御主人がボクを求めるのなら、ボクはいつでも、帰るつもりだよ」
彼は、笑顔で言葉を返す。その笑顔はあまりにも健気で、優しくて。「主人」の冷たい笑みとは、あまりにかけ離れている。
「ボクは、御主人のポケモンとして、生まれたんだもん。絶対、もう一度会いにゆくから」
悔しかった。こんなに、信頼してくれている仲間を、「使えない」と捨てる主人をもったことを。
住処の前には、少し高い丘がある。太陽は雲の切れ間から、頂上の木を照らしていたー

誤字発見。「人々が円ができ」ってなんだよorzそこは「人々が円を作り」にしてください。

171 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 14:46:11 ID:0iFGOef20
4レスでまとめるのも難しいッスね。切るタイミングとか。

漆黒の満月 四,

昨日までの雨天とはうってかわって、空は鮮やかな蒼を映す。小川は清らかに、鳥たちは軽やかに、ハーモニーを重ねる。水溜まりは、木々の碧に染まる。

ー助け合わずに生きてゆくと、そう決めたはずなのにー
少し、早く目覚めたアブソルは、寝息を立てて眠るイーブイを見て、呟く。
悪は、世間には決して、認められる事はない。このままでは、イーブイにも同じ思いをさせてしまう。
ー見捨ててはおけないだろ…ー
結局、「仕方なく」という口実を作り出した。しかし、それでも彼の気持ちとは噛み合わない。その口実と、「育てる」と決意した心が矛盾する。
素直になれない自分の気持ちに、また一つ、苛立ちを覚える。

「木の実でも、拾いに行かないか?」
丁度、木の実を切らしていたことを思い出した。
「うん!」
目を覚ましたばかりだが、イーブイは嬉しそうに答える。それを見て、アブソルは「フフッ」と、笑みをもらす。

172 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 15:17:57 ID:0iFGOef20
小川の近くの道を抜けたところに、その場所はある。
「ここだ」
それは、一つのオアシスだった。
「わぁ…」
色とりどりの木の実は、日の光を受けて七色に輝く。
森に住む数多くのポケモンがここに木の実や種を落としていくため、次々と新しい命は生まれてゆく。更に、日当たりも良く、土も水を多く含むことから、植物は豊かに育つ。
イーブイは見たこともない光景に、心を踊らせる。
「採りすぎるなよ。持って帰れなくなるから」
そんな注意も聞こうとはせず、遊園地にでも遊びに来たかのように、はしゃいでいる。
そんなイーブイを見て、また笑みをこぼす。だが、それと同時に、先程の考えが蘇る。
見捨てられないだけなのかもしれない。捨てられる思いは、もう二度とさせたくないだけなのかもしれない。そう考えてみても、自分の心はその考えに疑問を抱く。

173 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 15:48:05 ID:0iFGOef20
いつまで経っても、その疑問は消えない。そのうちに、深刻な顔をしているのに気づき、考えるのをやめる。また余計な心配をさせてしまうのを恐れて。
「ねえ」
イーブイは駆け寄ってきて、呼び掛ける。
「どうした?」
また、心配させてしまったか…?
「あれ、とって欲しいの。取ろうとしても、届かないから」
良かった。悟られてはいないみたいだ。
「モモンの実か」
確かに、高いところに実るそれは、小さいイーブイには届きそうもない。
「お前の治療にも使った木の実だ。…気に入ったみたいだな」
背を低くし、台になってやる。イーブイは、うまくその実をもぎ取ることができた。
「ありがとう」
そう言って、もぎ取った実を袋に入れに行く。
また、蘇ろうとする疑問。首を振って、その疑問をかき消す。

174 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/27(日) 16:25:37 ID:0iFGOef20
その答えは、そう簡単には見つからない。だから、こいつの前では、もう考えないようにした。
蒼く染まっていた空は、いつの間にか朱に変わろうとしていた。二つの影は木々の中を、帰っていった。

イーブイと出会った夜の満月は日を重ねるごとに、少しずつ痩せてゆく。
月の光は、木の中の二匹を優しく照らしている。二匹の寝息は、重なり合うことと、離れることを繰り返す。丘には、いつまでもそれだけが聞こえていた。

鬼門ですね、このへん。何も思い浮かびませんもん。序・中・結で難しさに定評のある中(俺だけ?

175 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/27(日) 17:14:44 ID:joNUaB8Y0
>>145
自分は暗いのはおk。
こういう謎めいた雰囲気の文は続きに期待させられます。
>>161
新参者歓迎です。
あえて指摘するとすれば一話の方に読点(、)が多いので文に少々違和感が。
その辺りは書いてくうちに慣れる筈です。


act21 壁

「族長…」
「私はキルリアが此処にいるという話は聞いていませんが…詳しく説明して貰えますか?」
威厳のある彼女の突き刺さるような視線が二匹を射抜く。
「か、彼女は昨日の夜に柵の中で倒れていたのをオレが助けたんです。真夜中に族長の部屋を訪れる訳にもいかなかったので報告は後回しし、近いうちにするつもりでした」
いつになく刺々しい表情の族長に怯みつつも、ロキは震える声で言葉を紡ぎ出す。
「すぐに報告しなかったのは謝ります。でもどうかユメルが此処に住む事を許してあげて下さい!」
「オイラからもお願いするでやんす!」
ロキはエイルの前に行き必死に頭を下げる。ルシオもそれに続いた。
「なりません。そのキルリアのせいでこの有り様…それにヴァン族が再び攻め入ってくればアース族は次こそ確実に滅ぶでしょう。それに此処はノーマルタイプの集落。あなたは砂漠の風習をお忘れですか?」

176 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/27(日) 17:19:16 ID:joNUaB8Y0
砂漠の風習……タイプごとに集落を作らせて隔離する事により、異種間の争いを避けるというものだ。
古の時代より受け継がれてきたこの風習は砂漠に住む者なら誰だって知っている筈。
「忘れた訳じゃありません。でも目の前で助けを求めるそんな彼女を見捨てる程オレも愚かじゃない。族長はそんな下らない風習な掟に縛られたたまま危険に晒されている彼女の命を見過ごすというんですか!?」
ロキは次第に顔が熱くなっていくのを感じた。しかしエイルの態度は依然として変わらない。
「勿論です。さあロキ、彼女を砂漠へと帰してきなさい」
エイルは冷淡にそう言い放つと集落出口を指さす。
さすが一族を束ねるだけあって族長の判断は迅速で的確だ。常に一歩先を見据えたこの指揮判断力のお陰でアース族は砂漠でも生き残れているのだ。
恐らく彼女はユメル一人の命よりも集落に住む民全ての命を優先したのだろう。ユメルをかくまえばヴァン族に襲撃され、此処の民が命を落とすという事はオレだって危惧している。
しかし今回ばかりは族長の意見に納得がいかない。ならば例え一人になろうとユメルを守り続けていくしかない。

「族長…見損ないました…何と言われようとオレは反対です…」

177 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/27(日) 17:24:54 ID:joNUaB8Y0
「…仕方ありませんね。バルドル、この三匹を連れて行きなさい」
その時、不意に三匹の体が宙に浮かび上がる。カビゴンのバルドルが背後から三匹を持ち上げたのだ。
「あなた達には今日一日柵の外で頭を冷やして貰いましょう。明日の朝になってそのキルリアと別れていればあなた達は集落に戻れます。しかし別れずにまだ共にいるようであればそのまま集落追放とします」
「な…追放だと?」
ユメルを手放さなければ追放…その言葉はロキの心に深く突き刺さり、ただ愕然とした。

「兄貴、追放ってどういう意味でやんすか?」
「集落を追い出されるって事だ…」
「それってかなりヤバいでやんす! どういう事でやんすか?」
ルシオは今自分が置かれている状況を察し、慌ててバルドルの腕から抜け出そうとするが、さすが集落の力仕事を担うポケモン。その腕の力は思いのほか強く、動くことすらままならない。

「んじゃぁ、さっさと行くぞぉ〜!」
バルドルは振り返ると出口の洞穴に向かって歩き始めた。

彼らが広間から姿を消すとエイルは悲しげにうつむいて呟く。
「ロキ、ルシオ…ごめんなさい…アース族が生き残るためにもこうするしかないのです…」
彼女の頬を一筋の雫が伝う。

178 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/27(日) 18:22:58 ID:joNUaB8Y0
>>165
初めまして。こちらこそよろしくです。
>>167
僕もPSP小説師です。
PSPだと漢字変換機能の低さや1レスの入力限界文字数の短さに悩まされるorz
PSP小説師…以前は僕とレキ氏しかいなかったようでしたが、今は本スレの方も含めて大体5人程いると思います。
小説、続きに期待していますよ。

179 :パウス ◆EvJGalaxy2 :2008/04/27(日) 21:48:33 ID:d+PbO1tY0
>>165
僕はポケモン「エロ」小説の方を中心に活動しているパウスです。
初めまして!これからよろしくお願いしますね!

>>175-177
追放……ですか。
ロキたちはこれからどうするのでしょうか。これは気になる…

180 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 06:22:08 ID:+SoxPhHA0
>>麒麟児さん
アドバイスありがとうございます。読点は…なんか変に文章作ろうとしてしまい、つい付けすぎてしまいました。自重しろ、俺orz
できるだけ、ミスとか無くしていこうと思います。

>漢字変換機能の低さ
>入力限界文字数の短さ
↑ですよねー

181 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 19:11:25 ID:+SoxPhHA0
そろそろ携帯のメモ欄埋まるorz急げorz

漆黒の満月 五,

ー駄目だ。
どうしても、自分の心がわからない。自分の力で生きてゆくと決めたはずなのに。誰とも助け合わずに、孤独に生きると決めたはずなのに。
イーブイと出会ったことで、何かが心に住み着いた。それは、無視できず、自分の首を絞めつける。
どんな口実を作ろうと、自分を納得させることができない。
ー…ん。
護りたいのに、躊躇いは消すことができない。
ー…ちゃん。
答えは見つからないのに、考えることをやめることができない。
ー…兄ちゃん!

182 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 19:30:12 ID:+SoxPhHA0
気がつくと、心配する彼の顔がそこにあった。
ー夢、だったのか。
うなされていたらしく、かなり汗をかいていた。

既に朝日は高く昇っている。家に吹き込む風は、汗まみれの体を冷やす。
「…大丈夫?」
「…ああ」
心配はかけないと言っておきながら、また心配させてしまった。
「…何か要る?」
「…ああ、その黄色い実、取ってくれないか」
ナナシの実。汗で冷えた体を温めてくれる。
「どう?」
「…だいぶ良くなった。ありがとな」
その答えに安心したのか、彼は微笑んだ。
ーその笑顔を見る度、あの感覚が蘇る。
「ど…どこか行かないか?」
その言葉に逃げてしまった。
「また…行きたいな。昨日のとこ」
「そうか…。…ッ?」
「どうかした?」
「いや…別に」
何か嫌な予感を感じたが…よく分からない。「未来予知」は、まだ上手く使えなかった。とにかくどこかに行きたかったため、特に気にしてもいなかった。
丘の木の影は、二匹を覆っていった。

183 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 19:55:50 ID:+SoxPhHA0
あ、暴力ありでそ。

二匹は「オアシス」に向かった。何か嫌な予感はするがー
さすがに昨日も来ただけあり、昨日のような美しい七色は見られない。更に、日は雲に隠れたらしく、僅かな輝きも無くなった。
日陰の中に、イーブイは何かを見つけた。籠に盛られた木の実だった。誰かが拾ったままらしい。
イーブイはその中に好物のモモンを見つけ、走り出した。
「…?」
籠に手をかけようとしたそのとき、彼の前に大きな影が現れた。木の実を集めに来ていた、ハリテヤマだ。
「おい」
「!」
イーブイに、彼の「クロスチョップ」が迫る。
「危ない!」
アブソルは、間一髪イーブイの盾となる。だが、防御が劣る彼は、その一撃をもらい、倒れこんだ。
「があッ…!」
「ふん」
「兄ちゃん!…何で…兄ちゃんを…!」
イーブイは怒りをあらわにする。 
「やめろ…イーブイ…」

184 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/04/29(火) 20:07:23 ID:YeJjfcFA0
>>cotton
更新が速いですね。
携帯では書き込めないのでしょうか。
携帯のメモ欄に書いているのなら、
そこからコピペすれば速いのでは?
>>麒麟児
こちらこそよろしくお願いします。
この物語大好きです。毎回楽しんで
読ませていただいています。
ロキはどんな結論を出すのでしょうか。
続きが気になります。
>>パウス
こちらこそよろしくお願いします。
(…しか書けないのか俺orz
パウスさんの小説は
以前から拝見しておりました。
僕の人生にとても良い影響を与えて
います。これからも頑張って下さい。

しばらくはROMることしかできませんが、いつかは小説を書こうと思います。
その時は是非読んで頂ければ幸いです。

長くなりました。失礼致します。


185 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 20:21:19 ID:+SoxPhHA0
暴力続きます。スマソ

二匹とも、格闘タイプの彼とは相性が悪い。正直言って、勝ち目はない。
「それは俺の籠だ。手を出すな」
「よくも…よくも兄ちゃんを!」
「やめろ…!」
アブソルは何とか立ち上がって、イーブイの前に出る。
「頼む…そいつには、手を出さないでくれ…」
じっと、彼の目を見つめる。
「じゃあ、お前が代わりになるか?」
彼はアブソルを見下し言う。
「ああ…。こいつに…手を出さないなら…」
ハリテヤマは、彼の胸ぐらを掴み…気合いを溜め始めた。
「気合いパンチ」…後手となる大技だが、抵抗できない彼には関係なかった。
「やめて!」

イーブイは「砂かけ」を放つ。間一髪、ハリテヤマの集中力を切ることができた。
「…小僧」
彼はアブソルを投げ捨て、イーブイの方へ向かう。
「…イーブイ…逃…げろッ…!…お前なら…逃げ…られる…!」
イーブイの特性「逃げ足」。相手から確実に逃げることができる。
ーだが、
「…いやだ…いやだ…」
そう言い、逃げようとしない。恐怖ではない。「兄ちゃん」が痛い目にあうーそれが嫌で逃げられないのだ。
ハリテヤマは、イーブイの前に立つ。…もう、最後の手段を使うしかなかった。
「…おい…」

186 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 20:40:42 ID:+SoxPhHA0
アブソルは、ハリテヤマに話しかける。
「…子供…相手にして…楽しいか…?俺と…戦えよ…!」
「…なんだと?」
彼を「挑発」して、イーブイへの怒りをこちらに向けさせた。…成功、したみたいだ。
ーこれで、いい。逃げて…くれ…
「兄ちゃんに手を出すなッ!!」
「ーッ!?」
イーブイの「突進」は、油断していた彼の背中をとらえ、ダウンさせた。
「…イーブイ…何故…?」
「…兄ちゃんはボクを護ってくれる。ボクだってー」
イーブイの言葉に、アブソルは息を呑んだ。
「ー兄ちゃんを助けたい」

ーその後、彼は二匹を許してくれた。イーブイに手が出せなくなったのか、ただ単に「突進」が効いただけなのか。理由は定かではないがー

なんとか歩けるようになったのは夜になってだった。二つの影は並んで歩いた。
「…ごめん」
イーブイはこちらを向き、謝った。
「ボクが、籠に手を出さなければ…あの場所に行きたいなんて言わなければ…」
その目からは、ただ涙が流れた。
「もうやめろ」
「…え?」
「謝らなくていい。どこかへ行こうと言い出したのは俺だしな」
そう言って、彼をかばった。

187 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 20:57:00 ID:+SoxPhHA0
彼は何かを掴みかけていた。
共に慰め合い、励まし合い、支えあって生きてゆく。
アブソルにとってイーブイは、イーブイにとってアブソルは、そういう存在なのだ。
答えは見つかった。
もう自分に嘘はつかない。
もう分かりきった口実は作らない。
今まで以上の強い決意は、全身の傷より深く、彼の心に刻まれた。
彼の三日月は、月の光を浴び一際強い輝きを放っていた。

起承転結意識してたのに長くなってしまったwww6レスとかwww
>>coopieさん
確かに、そうしたいのですが、描いているうちに文がくっちゃくちゃになってる時があるので、そういう部分を直しながら描いているのです。
はい。病気ですね、俺orz

あと小説って、なんか黄金パターンみたいなのありません?
出会う→気まずい→ある事件→関係が発展→更に事件→めでたしめでたし
みたいな。
はい。病気でs(ry

188 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/29(火) 23:54:59 ID:+SoxPhHA0
どうしようまだ6話なのにクライマックスに入るんスけど。…はあ。

漆黒の満月 六,

丘は、若草色を鮮やかに反射する。青空には白雲が漂い、二色は混ざることなく、そのままの形を保つ。木の洞から見える風景は、世界の平和さを表しているようだ。

ー支えあって生きてゆく、か。
アブソルはまた、イーブイの寝顔を見、呟いた。彼は昨日の事件で疲れてしまったようで、なかなか深い眠りから覚めようとはしない。
もう疑問は消えてしまっていた。その決意を自分の三日月に、しっかりと刻んだのだから。額の右から伸びるそれは、いつもより鋭く光って見えた。寝息をたてるイーブイを見て、もう一度微笑んだ。

「一つ、聞いてもいいか?」
「ん?何?」
「お前は、何に進化したい?」
イーブイの寝顔を見ていると、ふと、ロンのシャワーズを思いだし、質問した。
7種類のポケモンに進化できることから、イーブイは進化ポケモンと呼ばれる。彼の明るい性格なら、ブースターとか、リーフィアとかを選ぶと思っていた。

189 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 00:09:56 ID:aqMmBYEk0
「ボク…ブラッキーになりたい」
予想外の答えが返ってきた。
「ブ、ブラッキー?」
「だって…兄ちゃんみたいに黒くて、格好いいから」
「…やめておけ」
「…何で?」
イーブイは問う。
「悪タイプになっても、ろくな事ないぞ」
それは、彼が一番よく知っていた。誰も手を差し伸べてはくれない。一生孤独に暮らしていかなければならないのだ。
「そんなこと、ないもん」
イーブイは呟いた。
「…え?」
「だって、兄ちゃんは優しいじゃない。ボク、兄ちゃんみたいになりたい」
「…駄目だ。お前に、俺と同じ思いはさせたくない」
「なるもん。絶対」
いつも素直なイーブイが、今回は言うことを聞こうとしない。
「…兄ちゃん?」
イーブイに呼ばれ、また深刻な顔をしていたのに気づいた。

190 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 00:31:37 ID:aqMmBYEk0
「…知ってるか?進化したら、その姿を一生持たなければならない。…後悔しても遅いんだぞ」
深刻な顔のまま話す。
「…何でさ」
イーブイは問うことをやめない。
「…いつもは、ボクの言うこと聞いてくれるじゃない。…昨日だって、あの場所に行きたいって言ったら、連れていってくれたじゃない…」
「…」
「…ボクのこと、嫌いになった…?」
まただ。また、首を絞められるような感覚がする。前までとは、違う痛みが…。
何も言い返せない。選択肢は二つしかなく、どちらも選ぶことができない。二匹とも黙り込んでしまった。

「…イーブイ?」
妙に静かになり、話しかけた。…返事をしない。不思議に思って見てみると、…いない、どこにもいない!
「イーブイ!」
足跡は、外へと続いていた。

「…何処に行った…?」
アブソルは息を切らし、イーブイを捜していた。…もう日が沈む。異様に濃い朱が森を包んでいる。
ー早く見つけなければ。支えあうと誓った自分にまた嘘をついてしまう。イーブイにまた、孤独な思いをさせてしまう。
「…何処だ。…何処にいる…!」
焦りが顔に表れた。

191 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 00:56:32 ID:aqMmBYEk0
既に陽は沈んでしまっていた。空にはまだ星も、月も見られない。何にも照らされぬ夜の中、イーブイはただ走る。哀しさを紛らわすために。
もう、ここはどこだか分からない。帰り道も分からない。無事帰れたとしても、いつもの優しい「兄ちゃん」はそこにはいない。
ブラッキーになりたい。あの優しい「兄ちゃん」のようになりたい。しかし、どうすることもできない。進化するには、「月の祝福」が必要だった。
帰りたい。泣きたい。でも、立ち止まれない。ただ、走るしかない。

ーお前、名前は?
ー…無いよ。気がついたら御主人、いなかったから。
ー…そうか。俺も無い。
ー…一緒だね。「兄ちゃん」って、呼んでいい?
ー…ああ、いいよ。
ー…兄ちゃん。

「…兄ちゃん…」
止めたはずの涙が溢れ出た。
一緒に御主人を捜してくれた。傷を手当てしてくれた。七色の空間を見せてくれた。ボクをかばってくれた。いつだって、傍にいてくれた。
ーそんな兄ちゃんは、もういないー

「シャワーズ。一体何処へ…うん?」
「あ…御主人…」
「シャワーズが急に走り出したから何処に行くかと思えば…」
森には、沈黙が続いていた。

192 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 20:58:34 ID:aqMmBYEk0
睡眠時間を削っております。早く楽になりたいッス。

漆黒の満月 七,

少し平地となった場所に、イーブイは辿り着いた。彼の前には彼の「御主人」、ロンが立っている。
「…御主人…」
「…ああ、フーディン。通訳頼む」
そう言って、フーディンを出した。
「…アブソルは?」
彼の通訳は、普通の人間の通訳とは少し違う。彼らの会話を変換し、それぞれの感覚に伝える。
「…お願いがあるの」
「…何だ」
「ボクを…」
イーブイはゆっくりと話し出した。
「…ボクを…連れていって…くれない…?」
「…嫌だな。一度捨てた奴なんて…」
「ロン」
シャワーズが静かに話す。「…シャワーズ?」
「聞いてあげて。私、『彼』に言われたの。…あいつを、独りにするなって」
「…」
「私からも、お願い」
ロンは考え込む。
「…分かった。チャンスをやる」
「ロン…!」
「御主人…」
「1対1でこいつと戦え。勝ったら、…認めてやる」
ロンはシャワーズを見、イーブイに話す。
「…姉ちゃんと…?そんなの…」
「いいよ。始めましょう」
「…え…?」
イーブイは戸惑いを隠せない。

193 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 21:27:04 ID:aqMmBYEk0
うわああああ改行忘れたorz@バトルあります

「何処にいる…イーブイ…!」
彼を捜すため、アブソルは走っていた。もう日が暮れてから、だいぶ時間が経っていた。

ー思えば、彼と出会ってから今まで、彼の傍を離れたことは一度も無かった。…何故だ。何故、胸を締め付ける。何故、忘れたはずの痛みを再び思い出す。
「はぁッ…!はぁッ…!」
息は切れ、もう何も言えない。
ー何処にいるんだ…!答えてくれ…!
ーkrrr…
ー…ッ!?
どこかで聞き覚えのある鳴き声。彼はそっと、耳を澄ます。
ーkrrr…
今度ははっきりと聞こえた。
「…イー…ブイ…!」
それは、彼と出会った晩に聞いた寂しい鳴き声。誰かを待っている、孤独な鳴き声。
ー急がねば。「弟」のもとへ行かなければ。
「イーブイ…!」
ただ、叫び続ける。たとえそれが、彼に届かなくても。たとえそれが、声とならなくても。
体力は限界のはずだった。でも、止まることはできない。弱々しい鳴き声は、だんだんと、近づいている。確実に、すぐそこに。

194 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/30(水) 22:01:57 ID:Bq7pXshc0
パウス氏、coopie氏、感想ありがとうございます。
そういやコメントもらうのは久しぶりだな…


act22 始まり

現在午後二時半過ぎ。砂漠は相変わらず35℃以上の熱波が続く。
外に出たバルドルは柵の前に着くと扉を開けて三匹を外に放り出す。
「うぉあ!」「きゃっ!」「ぎにゃっ!」
ロキとユメルは砂の上に倒れ込む。ルシオは勢い余って顔が砂に埋まり、逆立ちの体勢になる。

「外で頭を冷やすだよぉ〜」
そう言ってバルドルは扉に鍵を掛けると洞穴に向かってのしのしと歩き始める。
「おい、オレは間違った事は言ってない!」
ロキはすぐさま立ち上がると扉の木の格子を掴んでバルドルを呼ぶが、彼はそれを無視して洞穴の中へと姿を消す。

「おい…おいっ! 人の話を聞ーーー畜生っ!」
そのまま両手の拳で扉を強く叩くと扉に寄りかかるようにその場に崩れ落ち、座り込む。
「風習がなんだ……種族がなんだ……最初から種族の壁なんて作らず皆が共に暮らしていればこんな事にはならなかったのに……」
悲しみに暮れる彼の目からは涙がこぼれ落ちる。
過去の風習は捨てるべき…ロキのその考えは理解して貰えず、逆に異物扱いされる始末。

195 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/30(水) 22:03:22 ID:Bq7pXshc0
何故頑なに拒まれるのか、ロキには全く訳がわからなかった。
「ロキ……」
背後ではユメルが心配そうに彼を見つめていた。

それから少し間を置くとロキは何か思い立ったかのように突然立ち上がって涙を拭う。
振り返る彼の顔からは悲しみが欠片も残さず消えていた。
「…行こう。こんな女の子一人も助けられないような連中からは抜け出して砂漠の外の世界に行ってやる…」
アース族から抜け出す…つまりここ、二匹の生まれ故郷を捨てるということになる。
彼の家も、友達も、仲間も、思い出も全て。
「え…いいの? 此処はロキ達の大切な居場所じゃ……」
「居場所なんかどうだっていい。此処にいたってどうせオレの考えは分かっちゃ貰えないだろう。それにヴァン族から逃げる意味でも丁度いいだろうし、明日になって追放されるのを待つよりは今此処を出ていった方がいい」
「え…でも……」
まだ心残りがありそうなユメル。ロキはそんな彼女の手を取ると目を合わせて話し続ける。

196 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/30(水) 22:04:32 ID:Bq7pXshc0
「心配するな。オレはもうこの集落のポケモンじゃない。オレは下らない風習なんかに捕らわれてユメルを見殺しになんて出来ない。ユメルを救うためならオレは全てを捨てる覚悟だ。
だから…ユメル…オレは周りに非難されて例え一人になろうとも、これからずっと君を守っていく……」
ユメルの目を見つめるロキ。彼の瞳には決意の焔が宿っていた。
彼女はロキの真剣な思いを受け止め、ゆっくりと頷く。
「うん、ありがとう…ロキ」

「…じゃ、そろそろ行こうか。いつまでも此処にいたってしょうがない」
彼はユメルの手を離すとルシオの方を向く。
「ほら、ルシオ…行くぞ」
ジタバタしていたルシオの足を片手で掴んで彼の顔を引き抜く。
「ぶはぁっ! 窒息するかと思ったでやんす〜」
「お前…何で顔だけが綺麗に砂に埋まるんだか…」
ロキはそのままルシオを前方に放り投げる。彼は見事に砂に着地した。

197 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 22:15:10 ID:aqMmBYEk0
バトルまで辿りつけんかった。今回です。スマソorz

「…あッ…はあッ…」
「終わりか?」
「まだ…!」
イーブイは傷だらけだった。それでも、立ち上がることをやめなかった。
「…粘り強さはあるみたいだな。…シャワーズ。オーロラビーム」
「…うあッ…!」
もう、彼には避ける体力もない。それでも、立ち上がる。自分には、もう帰る場所がないから。自分は、もう進むしかないから。
「イーブイッ!!」
「…兄…ちゃん…?」
「ロン…貴様…!」
「…やっと来たか」
息を切らし、彼は辿り着いた。傷だらけのイーブイを見て、ロンへの怒りが生まれる。
「…お前、こいつに何言った?」
「…ああ…?」
「なんて言ったかって聞いている。答えろ」
ロンはアブソルに問う。冷たい目ではなく、真剣で、厳しい目で。
「…泣いてたぞ。独りだったぞ。何を言った。こいつに…」
「…ブラッキーにはなるなって、俺と同じ思いはさせられないって…」
「…なるほど」
イーブイに目をやる。
「…仲間にしてくれって頼まれた。だから、こいつの力を試している」
「…?イーブイが…?」
「…そうだ」

198 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/30(水) 22:16:10 ID:Bq7pXshc0
「で、兄貴…これからどうするでやんすか?」
「ああ、オレは此処を出る。例え一人になってもユメルを守っていくことにした」
「ならオイラも兄貴についていくでやんす! 二人よりも三人の方が姉貴も安心でやんすよ!」
そう言う彼の目はキラキラと輝いていた。
やはり長年共に暮らしていただけあって考える事も一緒か…
「さあ、早く今晩の寝床を探すでやんす!」
一人張り切った様子のルシオは柵を背にして歩き始めた。

「行こう…ユメル」
「ええ、ロキ」
ロキは腕を伸ばして彼女の手を握り、連れていくようにしてルシオの後を追う。

こうしてロキ、ルシオ、ユメルの三匹は種族の檻に閉じこめられることのない、「本当の自由」を求めて集落を後にし、広大な砂漠へと歩き出す。
三匹の間には種族を越えた強い絆が生まれかけていた。

199 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/04/30(水) 22:30:44 ID:pRd8+kk20
PSP2台を使った初の4連投は無事成功…したみたいですね。
cotton氏の小説をぶった斬ってしまいましたがorz

さて、22話になってようやく流れがそれらしくなってきましたwww
重要なシーンなだけに3レスに収まりきりませんでした。
ロキの結論は砂漠を出て外の世界で自由を手にする…といった感じで。
現在act43まで書き溜め中。早く続きを投下せねば……

200 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 22:34:23 ID:aqMmBYEk0
「…兄ちゃん」
イーブイは傷だらけで、立ち上がる。
「…ボク、勝つよ。負けないよ、絶対…」
「…イー…ブイ?」
イーブイを光が包む。そしてー

「…驚いたな。こんな力、秘めていたのか」
イーブイの一撃を受け、倒れているシャワーズを見て、ロンは言った。
「…イーブイ?……!イーブイ!!」
彼は、その場に横たわっていた。

201 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/04/30(水) 22:42:32 ID:aqMmBYEk0
>>麒麟児さん
二台ですか。乙です。小説はまだ読ませていただいてないので、一通り描き終えたら読みたいと思います。wktk

さあ…て。どうしよう、俺。ネタ無くなっちゃったorz

202 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/30(水) 23:16:21 ID:ruNApIYA0
―13―

 渋滞や信号待ちの時間がこんなにももどかしく感じたことが今まであっただろうか。
思いがけない赤信号の連続で会社に遅刻しそうになったときでさえ、こんな焦燥感は抱かなかった。
これは、一つの命が私の手に委ねられているという重圧か。ミオが何度かグラエナに声を掛けてはいたものの、反応はなかった。
生きている証である呼吸音もだんだんと弱くなっているような気がしてならない。急がなくては。
 夕方の帰宅ラッシュをどうにか乗り越え、やっとの思いでポケモンセンターまで辿りつく。
手前の道路に車を停め、すぐさまグラエナを抱えてミオと共にセンターへと駆け込んだ。
本来ならばちゃんとした駐車場があるのだが、今はそんなことは言っていられない。
「すみません、この子をお願いします!」
 普通、センターに診せるのならばポケモンはモンスターボールに入れておくものだ。
予備のボールがあれば私も一時的な保護という形でグラエナに使っていただろうが、あいにくミオのボールしか持ち合わせていなかった。
軽い疲労や怪我ならば、ボールのまま回復が施される。ボールから出して治療するのはほとんどの場合、状態が深刻なときだ。
ポケモンを抱きかかえたまま訪れた私に、受付の女性は少し驚いた表情を見せた。だがグラエナの傷は一刻を争う事態だと判断したのか、すぐに応援を呼んでくれたようだ。
「分かりました。……急患です、至急治療室へ!」
「了解」
 内線か何かで連絡を取っているのだろう。急な治療でセンターを利用したことがないため、よくは分からないが対応の早さはさすがだ。
「さ、こちらへ」
 足早に歩き出した彼女の後を、私とミオは慌てて追いかける。センターの奥はこんなにも広かったのかと実感せずにはいられない。
いくつ角を曲がったんだろう。これは帰りも案内がないと迷子になってしまうかもしれないな。
受付の女性に案内されるままついた先には大きな扉があり、数人の医師と思しき人物が待っていた。
その中の一人が、キャスターの付いたベッドを私の傍まで押してくる。
「そのグラエナをこっちに」
「は、はい」
 私はベッドの上にグラエナを横たえる。明るいセンターの中だと数々の傷がくっきりと見えて痛々しい。
まだ息はしているが、それでも不安を拭い去れない。
「このグラエナはあなたのポケモン……でしょうか?」
 小さなポケモンならばモンスターボールに入れずに外に出している人も少なくない。
だが、グラエナはこうして抱きかかえなければならないほどの大きさだ。わざわざボールから出して運ぶには効率が悪い。
そのことも含めて、彼は私に訊ねたのだろう。

203 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/04/30(水) 23:16:49 ID:ruNApIYA0
「いえ、私がいつも帰りに通る山道で倒れているのを見つけて……たぶん崖から落ちたんだと思います。ずっと意識がなくて……」
 グラエナを見つけてからの経緯を、私は大まかに伝える。
それを聞いて医師たちはああなるほど、とでも言うかのように小さく頷いた。
ずいぶん焦っていたような気がするけれど、私の説明は彼らが納得するようなものだったのだろうか。
あるいは、ベテランならば傷を見ただけである程度の判断はできるものなのか。
「……分かりました。あとは我々に任せてください」
「よろしくお願いします……!」
 私は彼らに頭を下げる。足もとにいたミオも私の真似をして同じような仕草をしていた。
彼女にこの行動の深い意味は分かっていなかったのかもしれない。私のひたむきさがミオを自然とそうさせていたらしい。
そんなミオを見て、一瞬、医師たちの緊張が解け和やかな表情になる。
「最善を尽くします」
 そう言って医師たちとグラエナは手術室の奥に消えていった。同時に、手術中のランプが点灯する。
ミオのお辞儀の効果がどんなものかは分からないけれど、彼らにとってプラスになったことは間違いないだろう。
「……ねえユナ、助かるよね?」
「大丈夫よ。きっと……きっと助けてくれるわ」
 医師たちも余裕がある感じだったし、きっと大丈夫。助かるよね。
いや待てよ、患者を前にいちいち動揺していたんじゃ仕事にならない。落ちついてるなんてのは大前提か。
もうあれこれ考えるのはやめておこう。やれるだけのことはやった。あとは、グラエナが助かることを祈るのみだ。

204 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/01(木) 23:11:04 ID:4wK3Gsh60
>>麒麟児さん
読ませていただきました。すごいです。場面、場面が生き生きと伝わってきて…。続きが楽しみです。

漆黒の満月 八,

…pー、pー、pー…
治療室には、森とは違う厳かな空気が流れていた。イーブイはベッドの上で、ずっと眠っている。治療の後で、疲れたようだ。
彼は、まるで死んだように動かない。ただ、規則的に鳴る電子音だけが、彼が生きていることを証明する。ポケモンセンターには、その音だけが響いている。
アブソルは、ベッドの上の彼を見つめていた。一昨日から一睡もしていないが、彼はそこを離れようとしなかった。何も言わず、ずっとー

イーブイが最後に放った技「切り札」。使用者が衰弱しているほど、威力の上がる大技。しかし、まだ未完成のその技の衝撃に、小さいイーブイは耐えられる筈もなかった。
「イーブイッ!イーブイッ…!」
「そいつを背負え。行くぞ」
「…え…?」
「街に戻る。テレポートは使えそうにないな」
イーブイの一撃は、通訳をしていたフーディンをも吹き飛ばしていた。
「…走るぞ」
ロンはシャワーズを抱え、街の方向へ走り出した。
「…イーブイ…」
イーブイを背負い、アブソルもその後を追った。

205 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/01(木) 23:22:44 ID:4wK3Gsh60
イーブイを背負い、木々の中を走る。よく見ると、彼の体は傷だらけだ。
「…イーブイ…」
掠れた声で、彼の名を呼ぶ。
「…頼む…目を…覚ましてくれ…」
返事は無い。
「…お前が進化したいって言うなら、どんな石だって探してくる…。雪山だって、遠い森にだって、連れていく…。…お前が望むなら、エーフィにだって、ブラッキーにだってなればいい…。だからー」
涙が、頬を伝う。
「ーお前の笑顔を…もう一度…見せてくれよ…!」
イーブイの笑顔を見ると、自然と俺も笑顔になれた。時には心を締め付けられた。

206 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/01(木) 23:32:14 ID:4wK3Gsh60
そして、気付いた。イーブイの笑顔に、ずっと支えられてきたことを。
「…お前がいなくなったら…誰が…俺を励ましてくれる…?誰が…俺を支えてくれる…?」
涙は止まらない。止めようとしても、ただ溢れ出てくる。
誰とも支え合わずに生きてゆくと決めた彼はもういない。ただ孤独に生きると決めた彼はもういない。
「…。」
「…?」
「…ちゃ…ん。」
「…イー…ブイ…?」
いつの間にか、月は高く昇っていたー

207 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/01(木) 23:46:02 ID:4wK3Gsh60
「…よう。…どうだ?イーブイは」
「ロン…」
シャワーズとフーディンの治療を終えたロンが、こちらの治療室に入ってきた。
「…まだ目を覚まさねえ。…苦しそうにしてる」
「…そうか」
相変わらずロンは、鋭い目でこちらを見る。だが、その目にいつもの冷たさはない。
「ロン」
「…なんだ?」
その鋭い目を見て話す。
「イーブイを…連れていってやってくれないか…?」
「…俺はいいが、イーブイが許してくれるか…」
イーブイを見る。
「こいつは…ずっとお前のことを想い続けてきた。許してくれるさ」
「…分かった。…俺からも頼みたいことがあるんだが…いいか?」
治療室を、更に静かな空気が包んだー

208 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/02(金) 19:41:57 ID:zWZQvXY+0
漆黒の満月 九,

「わぁ…綺麗…」
「…フフッ。良かった。喜んでもらえたみたいで」
二匹は丘の木の元へ向かう。
空には、満天の星。漆黒の夜空に映える満月。その月は、イーブイに出会った夜のように、木々を、二匹を照らす。
あの「戦い」からは十日以上が経っていた。
「兄ちゃん」
「なんだ?」
「ボク…勝ったよ。やっと、御主人に認めてもらえたよ」
やっと見れた。その笑顔ー

ー兄…ちゃん。
ー…!イーブイ…!
ー…ボク…勝った…よ。見てて…くれた…?
ーああ…!…凄かった。…。
ー…兄…ちゃん。…泣い…てる…?
ー…ああ。…嬉しいんだ。お前の声が聞けて…!

209 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/02(金) 19:48:07 ID:zWZQvXY+0
「兄ちゃん?」
「…嬉しい。…嬉しい…!その声を聞けて。お前の笑顔をもう一度見れて…!」
「…?んわッ!?」
イーブイを抱きしめる。涙が、彼の肩に落ちる。イーブイは戸惑っていたが、笑って、抱きしめてきた。
「…兄ちゃん。」
ーその時。

210 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/02(金) 19:59:23 ID:zWZQvXY+0
「…イーブイ?」
彼の体が眩しく光る。月の光がイーブイを照らしている。これが「月の祝福」なのか…。
「兄ちゃん。」
「…イーブイ。…いや、ー」
彼の体は、夜空をそのまま写したように黒い。彼の耳には、光の帯が環を作っている。そしてー
「ーブラッキー。」
額は輝いている。夜空に輝く、満月の如く。

ーこいつの願い、ブラッキーになりたいって願いを叶えろ。1日だけ、時間をやるからー
それが、ロンの頼みだった。

211 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/02(金) 20:32:39 ID:zWZQvXY+0
「…行くのか」
「…ああ」
まだ朝早く、街の入り口のゲートは霧に包まれている。森からは鳥ポケモンたちの歌声が聞こえてくる。
「…お前はどうだ?来る気はないか?」
「…俺は、人間は嫌いって言っただろ。行かねえよ、お前となんか」
「え…!?兄…ちゃん…」
ブラッキーは、嫌そうな顔をする。
「そんな…!行こうよ!一緒に…」
「ブラッキー」
厳しい目で彼を見る。
「確かに、お前と一緒にいたい。でもー」
ゆっくり微笑んで、彼に言った。
「ーお前には、主人がいる。お前が選んだ、最高の主人。…なあ、ロン?」
「…うるせーよ」
ブラッキーが微笑む。…進化しても、その笑顔の温かさは変わらない。

辺りを包む霧は、だんだんと晴れてきた。ロンは街を後にした。黒い影は、ずっとそれを見ていた。

ーありがとう。兄ちゃん。

212 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/03(土) 13:59:52 ID:25FKWkIA0
後書 三日月の詩,

三日月は満月を忘れない。日を経るごとに、光が満ちてゆくように。
満月は三日月を忘れない。その光も、日を経ると欠けてゆくように。
それは、何億年もの間、絶えることなく続いてきた。

自分は、白い毛をもって生まれてくる筈だった。時には運命を憎んだ。
でも、この漆黒の毛も、この夜空と同じ色だと思うと、何故だか誇りに思えてくる。

君と過ごした日々。君を見守った日々。
君と出会った満月の晩。君と語り合った満月の晩。
君の声。君の瞳。君の笑顔。

ー忘れない。支え合ったあの日々をー

The full moon of the jet black, fin.

213 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/03(土) 14:29:49 ID:OQRtHMtk0
>>cotton

ついに完結ですね。
全部読ませて頂きました。

確かに黄金パターン(?)みたいなのは
あるかもしれません。
『感動は病気や死がつきもの』とか言う
学者もいますし。
でもそれで感動できるのなら
私は別に構わないのですが。

小説はうまくまとまっていて(少し場面の切り替わりが急かも)、とても楽しんで
読むことができました。
また新しい小説を書くのであれば、
それもとても楽しみです。
これからも頑張って下さい。


214 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/03(土) 14:56:44 ID:25FKWkIA0
>>coopieさん
読んでいただき、ありがとうございます。これから、描く機会があれば(アイデアが浮かべば)、頑張りたいと思います。PSPで(爆
>少し場面の切り替わりが急
俺の発想力の限k…いいえ、仕様です(黙

さて、反省も兼ねて今回の矛盾点を。
1 タイトル
ええ、そうです。そこから違いますorz
「〜三日月」にして、アブソルのことを表したかったのですが、

満月になってらorz

ということで1話から路線変更orz

3話に「そう呼ばれ、自分がアブソルであることを初めて〜」とありますが、その前で「黒い毛をもった」ことを既に不思議に思っています。
そこも後書で「前から知っていた」という風に路線変更orz

215 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/03(土) 22:31:20 ID:f5CNw0I20
―14―

 どれぐらい時間が経ったんだろう。未だ手術室の扉は重く閉じられたままで、ランプも消える気配がない。
とりあえず道路に停めっぱなしだった車をちゃんと駐車場に移動させてはおいた。駐車違反にされていなかったのは幸いだ。
それから戻ってきて、ミオと一緒に部屋の前の椅子に座り治療が終わるのを待っていた。
だが、時間が経てばたつほど、何もできない自分がなんだかもどかしくなってくる。
私がじっとしていられず立ち上がろうとするたびにミオが笑顔で大丈夫だよ、と声を掛けてくれたおかげで何とか落ち着いていられたのかもしれない。彼女の方が私よりも、こういう状況ではしっかりしているようだ。
普段は少しのほほんとしていてちょっと頼りない雰囲気があったけど、意外な一面だ。とにかく、ミオがいてくれてよかった。
 ふいに、ガタリと部屋の中から音が聞こえた。それとほぼ同時に私がずっとにらめっこを続けていたランプの点灯が消える。
直後、手術室の扉が開き、白衣と手袋を少しだけ赤く染めた医師たちが出てきた。私は慌てて彼らの元に駆け寄る。
「あ、あの、グラエナは……!」
 結果を聞くのが怖い気持ちもあった。もし、手は尽くしましたが……などと暗い切り出しをされたらと思うと。
「ええ、ご安心ください。もう大丈夫ですよ」
 治療の主担当をしたと思われる初老の医師はにこやかな表情で私に言った。
大丈夫、という言葉に私の胸の使えがすうっと取れていく。緊張がほぐれて、今まで気を張り詰めていた疲れがどっと押し寄せてきた。
「そう……ですか、よかった……」
「よかったぁ……」
 私もミオも胸に手を当てて、ほっと安堵の息を洩らす。
こういう無意識のうちの仕草は、トレーナーとポケモンに通じるものがあるのかもしれない。
「全身に擦り傷と打撲が多数見られましたが、骨折しているような部分は見当たりませんでした。傷の見た目に反して、出血も少ないようです。
ただ、かなりの疲労と衰弱が見受けられたので点滴を打っておきました。今晩しっかり休息すれば、明日の朝にでも意識が戻ると思いますよ」

216 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/03(土) 22:31:41 ID:f5CNw0I20
「ありがとうございました……」
 仰々しく礼を言う私に、医師たちは笑顔で応えてくれる。
グラエナを助けてくれた彼らの知識や技術が今はただただありがたかった。
「グラエナは個室に移しておきます。部屋が決まったら、後であなたにもお伝えしますね」
「……お願いします」
 私が答えたのとほぼ同時に、手術室の奥からグラエナの乗ったベッドが押されてくる。
前脚に後ろ脚、そして胴体といたるところに包帯を巻かれ、右の前脚には点滴のチューブが通っていた。
施された治療だけを見たのなら、どんな大きな怪我をしたのだろうかと心配せずにはいられないだろう。
だが、目を閉じて静かに息をするグラエナの表情はここへ運んで来た時よりもだいぶ穏やかになったような気がする。
意識はなくても、具合が良くなったことを自身の表情が物語っているのだろう、きっと。
そのまま医師たちにはベッドを押して廊下を歩いて行き、手術室の前には私とミオだけが残された。
「……ふう」
 完全に緊張が解け、私はぺたりと椅子にへたり込む。何はともあれあの子は助かったんだ。
よかった。そのことばかりが頭の中を埋め尽くしていて、しばらくの間ぼんやりとしていたような気がする。
そんな私の様子を見て、ミオも声をかけるのを躊躇っていたのかもしれない。
「今夜はセンターに泊まろうか、ミオ」
 もう外は真っ暗だ。いつの間にか時計は午後八時を回っていた。
そこまで設備は良くないと聞くが、ポケモンセンターの宿泊施設は格安で利用できるようになっている。
明日も仕事はあるし、ここからだとすぐに出勤できる。そして何よりもグラエナのことが気がかりだった。
それに今のような精神的に疲労した状態で車の運転をするのはあまり好ましくない。
「うん……そうだね」
 グラエナか、あるいは私のことを気遣ってか。ミオは私の提案にあっさりと乗ってくれたのだ。

217 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 11:13:54 ID:jNttPBc+0
調子に乗ってこんなもの作ってしまった。この話は6,7話間の話だと思ってください。

漆黒の満月 
~the another evolution~

ロンが得たイーブイは3匹。
1匹はブラッキーに、1匹はシャワーズに。
では、もう一匹の行方はー

「止めだ。シャワーズ、バブル光線」
その技は相手のラッタを捉え、気絶させた。
「強いね、君」
ラッタの主人が話しかけてきた。

「…駄目だ、話になんねえ」
戦いの場を後にし、彼はそう呟く。
ー気のせいだろうか、私の「弟」、あのイーブイに出会ってから、彼の様子がおかしい。戦いの回数は前より増え、いつもより早足で歩くことが多くなった。
単に強さを求めるだけなのか、何か他に理由があるのかー

その理由は、意外と早く見つかった。

218 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 11:33:17 ID:jNttPBc+0
「…あ」
「久しぶりね、ロン」
見知らぬ少女が話しかける。
「…何の用だ」
「相変わらず、冷たいね」
どうやら、自分が生まれる前に二人は知り合っているらしい。
「戦わない?折角だし」
「…」
「どうしたの?また負けるのが怖いの?」
"また”その言葉に、彼はその少女を睨んで言う。
「今回は勝たせてもらう」
「それじゃあ、始めましょうか」
「シャワーズ、行け」
「変わってないね、その癖」
ロンは、今重点を置いて育てているポケモンをボールに戻さない癖がある。
「前はケーシィだったっけ…じゃあこっちはッ…!」
そういって繰り出したのはー

219 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 12:22:08 ID:jNttPBc+0
『サン…ダース…?』
『久しぶりだな、姉貴』
彼は、ロンが捨てたもう一匹のイーブイ。
『許さねえよ。あんたも、そのクソ主人も…!』
彼の逆立った毛から迸る雷は、道を、草花を打ち付ける。
「このサンダース、道で独りでいた。あんたに捨てられたみたいね」
「確かに、俺が捨てた」
『サンダース…』
『許さねえ…!』
ロンのように鋭い目。その目からは、ただ怒りだけが感じられる。
「サンダース、電光石火」
ー速い…!
『ああッ…!』
『まだだ…まだだッ!!』
二撃目、三撃目、四撃目…彼の攻撃は八撃目で止まった。
ー体が、動かない…
「これで決める。サンダース、雨ごい」
「雨ごい…?ッ!まさか…!」
黒雲が空を覆う。それは、白い光を帯びてー
『終わりだ』
「サンダース、神鳴」

220 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 12:44:46 ID:jNttPBc+0
激しい雷が打ち付ける。逃げることはできない。怒りと憎悪がこもったそれは、近くの岩すら、粉々に砕く。
ーだが、

『残念ね』

そう。
『…ッ!?…無事…だと…?』
「嘘、でしょ…」
自分はその、怒りと憎悪の痕に立っていた。驚くのも無理はない。
「溶ける、だ」
ロンが言い放つ。
「避けた…の…?」

『畜生…!畜生ッ!!』
彼は、最後の指示を下す。
「…シャワーズ、ハイドロポンプ」

ーゴメン、ね…

221 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 13:36:51 ID:jNttPBc+0
ー姉…貴…。俺たち…に、もう一匹、弟が…いたよ…な?
ー…ええ。
ー俺の、頼み…聞いて…くれないか…?
ー…何?

ーあいつを、独りに…しないで、くれ…!

「あなたが一番分かってるでしょ?捨てられた悲しみ」
「…やめろ、プラム」
「なのに…何故?」
「…」
その少女…プラムは、ロンを見つめ、問いかける。
「こうしなければ、親に捨てられた悲しみは消せなかった…それだけだ」
ー親に、捨てられた…?ロンが…?
「でも、」
ロンは顔をあげて言う。
「悪かったって、思ってる」
彼の罪悪感にあふれた顔、初めて見た。そして、思い出した。弟に、ひどいことをしたこと。

ー行かなければ。
「…!おい!シャワーズ!」
ー弟のもとへ、行かなければ。孤独に苦しむ、弟のもとへ。

ーありがとな、姉貴。
もう一匹の"イーブイ”が微笑んだー

やっぱ会話中心のストーリーは俺には無理orz

222 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/04(日) 20:40:27 ID:9XvpvaC60
>>カゲフミ

やはり文章力は神の域に達…(ry
いつも楽しんで、そして慎重に
読ませて頂いております。
一語一句に込められたカゲフミさんと
登場人物(ポケモン)の気持ちを
掴みそこねまいと。
……少し大袈裟でしたね。すいません。
これからも執筆頑張って下さい。

>>cotton

おお、間にこんな話があったんですか。
実はやけにロンの心情が不安定だな、と
思っていたんですよ。
アドバイスとしては、もう少し
どれが誰の台詞なのかを分かりやすく
する工夫をした方が良いと思います。
一つ提案です。
この物語なら、続編、番外編、あるいは
スピンオフなどが作りやすいように
思います。小説としては短編の部類に
入りますし。
……勝手なこと言ってすいませんorz
次回作にも期待しています。
頑張って下さい。


223 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 23:04:58 ID:jNttPBc+0
>>cottonさん
アドバイスありがとうございます。
>どれが誰の台詞なのかを分かりやすく
なるほど、他の方の小説を読んでみるとかなり分かりやすいですね。色々考えてみます。
>続編、番外編、あるいはスピンオフ
恐らく無 理だと思いますorz自分の中では、主人公中心のストーリーしか浮かばないorz
ましてやスピンオフの意味を初めて知った俺は負け組orz

さて、次の構成はなんとなくあるんスがヒロインが決まらない。ヤバい。ストーリー進まないorz

224 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/04(日) 23:08:44 ID:jNttPBc+0
>>223
自分にいってるしm9(^o^)
失礼しました。coopieさんですorz

…ちょっと首吊ってくr(ry

225 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/05(月) 22:01:51 ID:2NKTRzgI0
>>224
紛らわしい名前ですいませんorz

登場人物(ポケモン)の性別や性格などで口調を変えると良いと思います。
(例えば、高飛車な性格なら高圧的な
話し方をするとか、出身地によって
ちょっとした訛りを入れるのも良いかも
しれません)
自分的には、『〜は言った。』みたいな
文が多いのも見づらいので。
あとは、抑登場人物(ポケモン)の数を
減らすとか、台詞自体を少なくするとか
色々な手があると思います。
次回作がより読みやすく、楽しい作品に
なることを願っています。
夜分遅くに失礼いたしました。

226 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/05(月) 23:10:34 ID:OK42uV620
>>coopieさん
参考になります。…よく見ると俺の文章「言った」ばっかりッスねぇ…今作ってる小説も…

orz

ちょっと出演者減らします。
ザング…orz

227 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/06(火) 20:43:54 ID:zzQoe+Vs0
>>222 coopieさん
そこまで丁寧に物語を読んでいただければ、登場人物も私も報われますよ。
きっとこれからも執筆頑張れます。レスありがとうございました。

228 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/06(火) 20:45:27 ID:zzQoe+Vs0
―15―

 まぶしい日差しを感じた。もう朝なのか。それにしては光が強すぎるような。
うっすらと目を開けると、もう起き出していたらしいミオがカーテンの開いた窓の前に佇んでいた。
あまり見慣れない街の風景が新鮮なのかもしれない。そういえば昨日カーテンを閉めた覚えがない。
借りた部屋に入って備え付けの寝具に着替えたまでは覚えているのだが、そのあとの記憶がおぼろげだ。
精神的にかなり疲れていたらしく、ベッドに入るなり眠りこけてしまっていたらしい。
家のより少し硬めのポケモンセンターのベッドもそこまで寝心地は悪くなかったような気がする。
いつもと比べると相当早い時間に就寝したため、頭がすっきりしていて寝覚めが良い。今何時だろう。
私は体を起こすと部屋の時計を確認する。まだ六時過ぎか。九時までに会社に顔を出していれば問題ないから、余裕で間に合うだろう。
「……あ、ユナ。起こしちゃった?」
 私が起きあがったことに気がついたミオが駆け寄ってくる。
彼女の丸い瞳がぱっちりと開いていることから、ミオも昨日はぐっすりと眠れていたらしい。
「よく寝たし、そろそろ起きないとね」
 昨日寝たのが午後九時前だとすると、九時間以上寝ていた計算になる。あんまり寝すぎるのも健康にはよろしくない。
朝の涼しい空気もあるし、さわやかに目覚めるのなら今の時間帯がちょうどいい。
顔を洗って着替えたら、グラエナの様子を聞きに行ってみよう。私はベッドを降りると洗面所へと向かった。

 寝具を畳み軽くベッドを整えてから、私は部屋の外に出る。昨日と同じ服だけど、まあこれは仕方ないか。
グラエナを見つけたのは予想外の出来事だったわけで、もともとここに泊まる予定なんてなかったんだから。
こんな朝早くからセンターを利用している人はほとんどいないらしく、しんと静まり返っている。明るいとはいえ、静かな病院というのは少し不気味かもしれない。
「あの」
 いきなり背後から声をかけられ、小さな悲鳴を上げそうになったのは秘密。喉元で留まってくれてよかった。
振り向くと、昨日グラエナの治療をしてくれた初老の男性が立っていた。

229 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/06(火) 20:45:59 ID:zzQoe+Vs0
「えっと、ユナさん……でしたか?」
「あ、はい……」
 一瞬、どうして彼が私の名前を知っているんだろうと思ったが、担当してくれた医師が依頼者のことを全く知らないというのもおかしな話だ。
宿泊施設を利用する際の手続きで、私の簡単な情報はポケモンセンター側に伝わっているというわけか。
「あのグラエナですが、意識を取り戻しましたよ」
「本当ですか!」
「ほんと?!」
 ぐいっと一歩前に出た私とミオに、彼は少したじろぐ。
そんなに迫力があっただろうか。あったかもしれない。人のいないセンター内だと声が響くから余計に。
「え、ええ。本当です。ですが……ちょっと困ったことになってましてね」
「何か……あったんですか?」
 どうしたんだろう。意識は戻ったけど、何か後遺症のようなものが見つかったんだろうか。
曇った彼の表情を見ていると、私のほうまで不安にさせられる。
「ああ、体の方は大丈夫です、ちゃんと動いてましたから。……本当はしばらく安静にしていなければいけないんですが、言うことを聞いてくれなくてね。私が近付こうとすると、威嚇の牙を向けられてしまって」
 ふうと大きくため息をついた医師の顔には、苦労の色が見て取れた。
そうか。グラエナは野生のポケモンだったんだ。それならば人間に警戒心を抱くのも仕方がないか。
「普通野生のポケモンは少なからず人間を警戒するものです。ですが、彼……あのグラエナのそれは異常です。私を睨みつけてはいましたが、よく見ると震えていました。警戒というよりは恐れていると言ってもいい。もしかすると過去に人間と何かあったのかもしれません」
 医師が彼と言ったことから、あのグラエナは雄だったらしい。抱き上げた感覚では軽くて細身だったから雌のような印象があったけれど、そこが少し意外だった。
それよりも、これは意識が戻ったからといって手放しでは喜べない状況だ。医師が頭を悩ませるのも分かるような気がした。
警戒されたままで今後の治療ができなければ、怪我も快方に向かわないはずだ。

230 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/06(火) 20:46:19 ID:zzQoe+Vs0
「トレーナーのポケモンだったらもう何度も治療してきましたが、野生ポケモン相手だと今までのようにはいかなくて……はは、すいませんね。頼りない医師で」
 そう言って彼は自嘲気味に笑った。意識が戻るまでに治療してくれただけでも、私としては十分ありがたかったのだが。
やはり一人の医師として、怪我をしたポケモンをちゃんと治せないということが彼には辛いようだ。
「そのグラエナの部屋に案内してくれませんか? 私たちも彼の様子を見ておきたいんです」
「うーむ、あまりお勧めできませんが……ポケモンを連れたあなたならば彼の警戒も少しは薄れるかもしれませんね。わかりました。ですが念のためにこれを渡しておきます」
 彼は懐からモンスターボールを取り出して、私の手の上に置いた。
意図がつかめずに目を丸くしている私に、医師は説明を続ける。
「もしグラエナが襲いかかってくるようなことがあれば、迷わずそれを使ってください。今の彼の体力ならば捕獲することは容易なはずです。
もちろんそれは最後の手段です。あなたやあなたのポケモンにもしものことがあったら、悲しむ者がすぐそばにいますから、ね」
 そう言って医師は私とミオの顔を交互に見やる。
彼の目には、私達は心が通じ合ったトレーナーとポケモンという風に見えていたのだろう。
あまり意識したことはなかったけど、そう言われるとちょっと嬉しい。
 グラエナは助かったが、私やミオが怪我をしてしまっては本末転倒というもの。
このモンスターボールは彼が私たちに掛けてくれた保険、と言ったところか。
彼と面会して、これを使う機会が来ないことが一番望ましいのだが、持っておいて損はないだろう。
「それでは、行きましょうか。彼の部屋まで案内します」
 医師の心遣いを確かに懐にしまうと、私とミオは彼の後をついていった。

231 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/07(水) 08:02:51 ID:lRR/LnxA0
さて、狩猟生活のおかげで小説投下が滞ってます。
>>204
これでも小説を書くのにはまだ慣れてないんですよ。
心情表現とか情景描写とか他の神小説師の方々に比べればまだまだ甘いですし。
氏の次回作にも期待してます。


act23 放浪

数時間後……此処は何処かも分からぬ砂漠のど真ん中。
周りを見ても目に入るものは地平の果てまで続く砂ばかり。
普段は生物がいるような環境ではないこの場所を三匹のポケモンが歩いていた。

「暑い…」
地を歩く三匹の足取りは重い。砂漠の暑さに体力を奪われ、滴る汗が体毛を湿らす。
「これだけ歩いても何も無いでやんすか…せめて岩場とかがあればいいでやんすが…」
ロキの鞄一杯に入っていた木の実は殆ど食べ尽くしてしまった。このままでは明日には食料が底をついてしまう。

「残りの木の実も少なーーーッ!」
その時、ロキは周囲からただならぬ気配を感じ、腰の剣を抜いた。
「止まれ、ルシオ」
「兄貴、どうしたでやんすか?」
「いつの間にか大勢のポケモンに囲まれてる。恐らく野盗だろうな…」

232 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/07(水) 08:03:03 ID:lRR/LnxA0
「二人共、来ます!」
ロキが剣を構え、ユメルがそう叫んだ直後、周囲の砂中から数十匹のサボネアが飛び出してきた。
砂埃を上げるそれらは三匹を囲うように迫ってくる。
三匹は既に野盗に包囲されていた。逃げ場は無い。
ロキは飛びかかってきた最初の一匹を斬り捨てると野生のサボネア達を睨み付ける。

「皆、行くぞ!」
一斉に攻撃を開始したサボネア達にロキ達も必死に立ち向かう。
ロキは剣で、ユメルは念力で、ルシオは頭突きなどの打撃攻撃でサボネアに抵抗する。
奮戦する彼らは着実にサボネアの数を減らしてはいたが、襲い来る野盗は一向に減る気配が無い。
それに攻撃にまとまった統一性がある。どこかにサボネア達を指揮しているノクタスがいるに違いない。
ボスさえ倒せば野盗は烏合の衆。だが…敵の数が多すぎる。視界の殆どがサボネアに埋め尽くされてボスの姿を確認出来ないこの状態では三匹が力尽きるのも時間の問題だ。

突然五匹程のサボネアがロキに向かって腕を向け、“ミサイル針”を飛ばしてきた。
ロキはその幾つかを剣で弾き返すが、弾きそびれた一本の針がユメルの脇腹に当たり、彼女はその場に倒れ込む。
「ユメル、大丈夫か!」
「はい…何とか……」

233 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/07(水) 17:05:14 ID:bg1SciTc0
念力が止まった隙に彼女に飛びかかってきたサボネア数匹を一薙ぎに斬り倒すと、ロキは彼女の前に立ち塞がる。
「数が多いな…だが何とかしないと……」
しかし無情にも三匹を取り囲むサボネア達が両腕を構え、こちらに狙いを定めた。
「! ロキ……」
「おいおい、マジかよ…」
幾ら戦闘に手慣れたロキとはいえ、数十匹のサボネアが放つ“ミサイル針”を弾き返すのは不可能に近い。
ユメルが倒れ、ルシオは疲労困憊したこの状況で唯一ロキだけが戦闘体勢を保っている。
その三匹を囲んで一斉に攻撃しようとする野盗達。絶体絶命とはまさにこの事を指すのだろう。

「これまでか……」
ロキは死を覚悟した瞬間、何処からともなく吹いてきた一陣の突風がサボネア達を吹き飛ばした。
砂に落ちるサボネアの体には鋭利な刃物で切られたかのような傷がある。
普通ならばサボネアを吹き飛ばす程の強風はこの砂漠では吹かないし、ポケモンを傷つける風なんて聞いたことがない。
「これは…技でやんすか?」
サボネア達は構えていた腕を下ろし、上空に現れた影を見上げる。

ロキの目に映ったものーーそれは肩から鞄をさげた雌のピジョットであった。

「メ、メルティーナさん!?」

234 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/07(水) 20:00:53 ID:MYxhvVYw0
>>231
モンハン(・∀・)人(・∀・)ナカーマ
楽しみにしてました。ロキ達・・・これから大丈夫でしょうか。

さて、先は全く見えてないが小説投下。

―知ってる?知ってる?
―この森の言い伝え。古い古い言い伝え。
―誰もいない孤独な夜。音もしない静かな夜。
―そっと、後ろを見てごらん。
―気がつけば、あなたの後ろに。
―気がつけば、あなたの傍に。

235 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/07(水) 20:21:23 ID:MYxhvVYw0
今宵私の手の中で 一,

「ーふう」
引っ越しの終わった部屋で、彼女は一息つく。部屋には新鮮で、柔らかい風が入り、屋根の隙間からは暖かい白の光がこぼれる。彼女の周りには、種独特の甘い香りが漂う。
彼女はチコリータ。名はハーブ。
両親を失い、故郷を離れてこの村に住むことになった。

ー良かった。みんな親切そうで。
部屋の片づけが済む前、彼女は挨拶をするために広場に向かった。もしかしたら歓迎なんてしてもらえないかも、とか思ってたのが馬鹿馬鹿しくなるほど、皆の笑顔が温かかった。

でも一つ、どうしても気になったことがあった。

236 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/07(水) 21:04:18 ID:MYxhvVYw0
「ハーブちゃんかぁ…あたしはモココのココ。分からないことあったら何でも聞いて」
「僕はジグザグマ、ジグって呼んで。よろしく」
「…俺はリード。リザードだ。…よろしく」
「私はチルットのルッチ。よろしくね」

広場にはハーブと、その周りにはこの村に住むポケモン達が集まっていた。いつも広場にはおしゃべりと、笑い声が絶えることはない。
「あれ…ザンは…?」
「ザン」がいないことに気づき、ココは辺りを見回した。
「ザン…?」
「ザングース。私達の仲間なんだけど…何処行ったんだろう…?リード、知らない?」
「…ああ、あいつなら、木の実採りに昨日の夕方、森に行ったぞ」
「あの森に!?危ないって!」
「大丈夫かな…」
ルッチの嫌な予感は的中した。

「はあッ…!はあッ…!」
広場横の森から飛び出してきたのは、
「ザン!」
「はあッ…!酷い目にあった…!」
彼の体は傷と血だらけで、喋ることすら困難に近い。
「酷い怪我…!誰か助けを呼んできて!」
「やっぱり…!『あの話』はホントだったんだ…」
「…だからあれほど危ないって…」
「えーと…」
自分だけが取り残されてしまったので、質問した。
「…『あの話』って…?」

237 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/07(水) 21:22:51 ID:MYxhvVYw0
この状況なら無視されると思ったが、意外にもジグが答えてくれた。さっきまでとは違う、真剣な顔で。
「森に住むルカリオのこと。最近、見たとか襲われたとかいう話は聞いてたけど」
「へえ…」
事の重大さは、皆の焦りと、彼の苦しそうな表情からはっきり分かった。

どうしても気になる。その「ルカリオ」が何故皆を襲うのか。彼は一体どんな奴なんだろうか。
ーこのままじゃ、独りで森に入ることもできないな…。
寝床で寝ながら、そんなことばかり考えていた。いつの間にか、白の線は消えてしまっていた。

238 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/08(木) 22:41:54 ID:9CZVcvME0
注意事項 この小説には
・全体的にグロ
・絶望的なネーミングセンスorz
が含まれます

今宵私の手の中で 二,

ふと、目が覚めた。
外は既に闇に包まれている。風は身体を冷やし、流れてゆく。街の光が無いせいだろうか、前に住んでいた所とは比べものにならないほどの星々が瞬く。
ー…ああ、眠っちゃったんだ、私…。
引っ越しで疲れてしまったらしく、かなりの時間、寝てしまっていた。さすがに眠気が覚めてしまったので、夜の広場を散歩する事にした。

ー…?
何故だか、広場のほうが騒々しい。悲鳴が、轟音が、静かな筈の夜に響いている。
こちらに向かって、誰か走ってくる。
「ココ!ルッチ!」
「ハーブちゃん!逃げたほうがいい!走って!」
状況が掴めないまま彼女らに連れられて、村の外れへ逃げた。

239 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/08(木) 23:25:58 ID:9CZVcvME0
「何があったの…!?」
急に走ったため、息を切らしながら問う。
「ルカリオよ…!ザンを襲った…」
「今、他のポケモン達が戦ってる…!リードも、ジグも…」
二匹とも震えている。その目に涙を溜めて。
どうしたらいいか分からない。彼女たちを慰める方法も、リードたちを助ける方法も。
「きっと…大丈夫」
ただそれだけしか言えなかった。悔しかった。あまりにも自分は無力で、頼りない。

ーやがて、広場からの声は聞こえなくなった。
「あたし…様子見てこようかな」
きっと、リードやジグたちが追い払ったのだろう。もう広場は安全だろう。そんな思いから、広場に戻りたかった。
なにより、彼らが心配だから。
「行ってくるね」
二匹とも、もう眠ってしまっていた。

240 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/09(金) 00:13:01 ID:d74oGRck0
何も聞こえない夜の中、逃げてきた道をただ歩く。
ー大丈夫、だよね…。
そう自分に言い聞かせても、不安は消えなかった。

静かになった広場。そこには、
ー…嘘…。
傷だらけのみんなが、血塗れのみんなが、そこに横たわっていた。ジグも、リードも。
ー酷い…!皆を…こんな、目に…!
助けを呼びに行こうとしたが、…行けなかった。後ろから、殺気を感じたから。
ーまさか…!
恐る恐る振り返ってみると、
「ルカ…リオ…!」
鋭い目で、こちらを睨んで立っていた彼。その目からは、…気のせいか寂しさが感じられる。
「許さない…!こんな…酷いこと…!」
「…悪ィな。」
こちらを見下して笑う。
「俺は女と殺り合う気はねえから。…じゃあなッ」
「待って!」
去る彼の背に、「はっぱカッター」を放つ。だが、
「…フン」
右手で、容易くたたき落とされた。その腕には、何か…邪気が感じられた。
彼が去った広場に、ただ独り、立ち尽くしていた。

241 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/09(金) 00:36:44 ID:d74oGRck0
「イだッ!痛い痛い痛い!」
「じっとしててよ。包帯巻けないから」

幸か不幸か、リードとジグの傷は浅くて済んだ。それでもルッチが巻く包帯には毒々しい血の紅が染みてしまうのだが。
「あのルカリオ…許せない…!ザンを…ジグを…リードを…!」
「ココ…」
彼女の体毛を迸る電撃からは、ただ怒りを感じられた。

広場には、いつもの笑い声は聞こえない。まるでそこだけ、時が止まったかのように。


242 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/09(金) 22:50:21 ID:d74oGRck0
眠い…よく見れば悪点ばっかり…だって寝たいんだもんorz

今宵私の手の中で 三,

結局その日は家には帰らず、ココの家に泊まることにした。他の負傷者で村の治療の施設は埋め尽くされた。比較的傷を負っていなかったリード達は追い出されてしまった。
「ーまったく。酷いよねぇ。」
そう愚痴るのはルッチ。
「まだ子供なのに戦いに出して、しかも手当もしてくれないなんて…」
「酷いのは、あのルカリオの方だよ」
昨日の晩。彼の見下すような笑み、邪気に包まれた右手、何故だか寂しさを感じた目…。それらが次々と思い出される。
広場には昨日の激闘の痕が残る。血で染まった地面、粉々になってしまった花壇の煉瓦、等々。
初めて見たときー昨日の広場とは、全く違っている。当然、怪我したポケモン達のほうが不幸なのだが、引っ越した初日にこのような騒動に巻き込まれた自分も不幸なのかもしれない。森は雲によってその緑を更に黒く、重くしていった。

243 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 00:19:16 ID:pd2Wxl4M0
その緑が漆黒へと変わり、ー夜となった。
部屋には看病で疲れたココとルッチ、闘いで傷を負ったリードとジグ、ザン。皆、既に眠ってしまっている。
自分も眠ろうとしたが、また「彼」が来るかもしれない、と不安になったので起きていることにした。
部屋には、皆の寝息が重なりあう。ーそれしか、耳に入ってはこない。

そこへ、
…ザッ…ザッ…ザッ…。
ー足音…?…!まさか!
予感的中。一つの影が広場に立っていた。
「ルカリオ…!」
「…なんだ、またお前か…」
「もう好きにはさせない。あなたを止めるから!」
「…独りでか?」
あの時と同じように、また彼が笑った。

244 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 01:11:07 ID:pd2Wxl4M0
ー独り…!そうだった。自分が置かれている状況がやっと理解できた。
今助けを呼んでも誰も来ないこと。今目の前にいる敵は村の皆と一匹で闘い、全滅させたこと。
そして、今自分はそんな相手と戦おうとしていること。
「止めるから、か。面白ェ…!」
彼は、右手に力を込める。その手は、更に鋭さを増す。
「メタルクロー」が、こちらに迫ってくる。
ー…私、何もできなかった。ゴメンね、みんな。
「ハーブちゃん!」
その声が聞こえたかと思うと、彼女は、彼の右手をその体で受け止めた。
「ココ!大丈夫!?」
「うん、平気平気。鋼タイプ、効かないから」
確かに、彼女には傷一つついていない。
「…あー二匹か、面倒くせェ。帰るわ、俺」
「…!ちょっと!待ちなさい!」
その声が聞こえなかったかのように、彼は早々と帰っていった。

245 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 07:16:12 ID:pd2Wxl4M0
「ココ、…ありがとう」
「ううん、ハーブが無事でなにより」
笑顔ではあったが、真剣な目をしていた。

ーやっぱり、何もできないのかな、私…。
ココの家へ戻る間、ずっとそんなことを考えていた。
自分の行いは勇気ある行動だったのか、あるいはただ無謀なだけだったのか。
ー無謀だった、のかな…。
傷だらけになるまで闘ったリードとジグ。彼らのは、村を守りたいという勇気。しかし自分のは、自分すら守れない無謀。

ー今度こそ、守ってみせる。
その言葉を、強く胸に刻み込んだ。

246 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/10(土) 13:56:17 ID:WNMSAIpE0
>>245
ポケモンを襲うルカリオ…彼の目的が気になりますね。
続きに期待です。


act24 再会

「誰かと思えばロキじゃない! 久し振りね〜!」
このピジョット…メルティーナはアース族集落の展望台に住むポケモンで、過去に身寄りのない二匹の親代わりになって世話をしてくれたことがあった。
彼女は四年程前から単身の世界旅行に旅立っていたのだが、こうして今此処にいるということは旅を終えて家路に就く所なのだろう。
「メルさんお久し振りでやんす!」
「ルシオも大きくなったみたいね。でも二人はどうしてこんな砂漠の真ん中にいるの?」

不意に背後から空中のメルティーナに向けてサボネア達が“ミサイル針”を放つが、彼女の振り返り様の“風起こし”に易々と跳ね返されてしまう。
「でも今はそれどころじゃないわね……皆まとめて片付けてあげる!」
彼女は大きく羽ばたいてサボネア達に向かって突風を繰り出す。
幾度と放たれたその風は殆どのサボネア達を吹き飛ばしてロキ達三匹の包囲を解く。

247 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/10(土) 14:00:43 ID:WNMSAIpE0
弱点を突かれて仲間の大半を失った野盗達は彼女を恐れ、火の粉を散らすように逃げていった。

「逃げた…か」
辺りからサボネア達の姿が消え、胸を撫で下ろすロキ。
握っていた鉄剣を腰の鞘に収めるとすぐさまユメルを介抱する。
「これだけ痛めつければしばらく野盗達は再起不能ね…」
メルティーナは折り重なったサボネア達に紛れて倒れていた頭領らしきノクタスを見て呟く。
ユメルの傷は浅く、メルさんから貰ったオレンの実一個で簡単に治療する事が出来た。

「それで、あなた達は何故こんな砂漠の真ん中を放浪しているの?」
ユメルの傷も塞がって少し落ち着いてきた頃、砂に降りて座り込んだメルティーナが口を開く。

「…実はオレ達ーー」

ロキとルシオは何故放浪の身になったのか、その経緯をメルティーナに説明した。
昨夜柵の内側に倒れていた彼女を助け出して自らの部屋にかくまったこと、それを狙うヴァン族が集落に攻め入ってアース族が数匹命を落としたこと、ユメルの存在が受け入れられず集落を追い出されたことを洗い浚い彼女に伝えた。

248 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 19:16:36 ID:pd2Wxl4M0
>>246-247
4分とは…俺なんか1時間使ってるのにorz
俺も書き貯めてみたい…orz
今後も楽しみにしています。

今宵私の手の中で 四,

昨日の雲は、空一面を覆っていて、今にも雨が降りそうだ。闘いの痕はドス黒い赤に染まっている。霧が立ちこめ、窓からは森は表面しか見ることができない。
夜が明けた頃には、もうジグ達の傷はほぼ回復していた。まだ、少し歩ける程度だがーとにかく、ココの家に十分な薬と木の実があったのは幸い。

昨日の事件のことを、ココは黙っててくれた。ココ自身もあまり気にしていないようだ。
「外に出れそうにないね、今日は」
外を見て、ルッチが呟く。
「昨日から雲出てたからね。まあどっちみち、広場じゃ遊べないし」
そう言い、机を片づけるココ。
「雨で少しは綺麗になるでしょ、この広場」
雨雲は、黒く濃く空を覆ってゆく。

249 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 20:31:39 ID:pd2Wxl4M0
その日は自分の家へ帰ることにした。小雨は昼過ぎに降り始め、今は夕方である筈だが、日が沈んだかどうかすら知ることもできない。
ー昨日は何もせずに帰っていったから、今夜も来るはず。
正直怖い。でも、このまま何もできないことの方がもっと嫌だ。
でも、分からない。何かを「護る」とは、どういうことなのか…?自分のやり方は間違っているのか…?
その問がどうしても解けない。

ー…ブ。
…?誰…?
ー…ーブ、逃げて…。
聞き覚えのある、優しくて、温かい声。…そうだ、この声は…。
ーハーブ、逃げて!
思い出した。私を、いつも見守ってくれた。私を、いつも助けてくれた。そして、
「お母さんッ!」
あのとき、私を護ってくれた、お母さん。

250 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 21:17:20 ID:pd2Wxl4M0
何年前になるだろうか。
お父さんは、自分が生まれる前に死んだ。私を育ててくれたただひとつの、大きな存在。
いつだって、傍にいてくれた。それが当たり前になっていた。

それは、私の大切なモノを奪った、一つの事件ー

「おはよう、ハーブ。よく眠れた?」
「…うん。おはよう」
いつもそこにある、優しい笑顔。その笑顔を見ることで得られる、安心感。そう、いつもと変わらない日。ーそうなる筈だった。

母、メガニウムの彼女からは、いつも甘い香りが漂う。穏やかで、優しい香り。
「いい天気ね。どこか出かけない?」
「うん。公園のお花畑、行きたい!」
「フフッ、いいよ。…準備して」

あの場所、何回行っただろう。花の香り、心地良い風、暖かな日差し。
そして、いつもそこにあった、優しい笑顔。
忘れられない。何もかも。お母さんとの、思い出の場所。

ーあの時が、ずっと続いて欲しかった。帰ってはいけなかった。
そう思えたのは、すべてを失った後だった。

251 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 21:35:16 ID:pd2Wxl4M0
帰り道。日は西に傾き始めている。寄り添って歩く、二つの影。

「…焦げ臭い…?」
風が運ぶ匂い。いつも嗅ぐ風とは違う。
「…ッ!まさか!」
その風は、公園の方へと吹く。
ーそう、その匂いは、自分達の家から流れてきたものだった。

「嘘…でしょ…?」
ただ燃え続く自分達の家。それはまるで、地獄。
「ッ!?危ない!」
そう叫んだかと思うと、急に自分を突き飛ばした。何が起こったか分からないまま振り向いた。
「お母…さん…!?」
全身で炎を受け止める母の姿が、そこにあった。

252 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/10(土) 21:59:27 ID:pd2Wxl4M0
「へぇ…娘をかばって、盾になったか」
声のする先にいたのは、猛火ポケモン、バシャーモ。
「こんなことして…!何の、つもり…!?」
「悪ィな。命令だ。」
そう言い、右手をこちらに構え、炎を纏った。それは、右手を包む邪悪な気と混ざり、紅と黒のグラデーションを作る。
「ハーブ…」
こちらに向けた目は、優しくて、どこか、寂しい。
「ハーブ、逃げて…!」
「お母さん…」
「逃げて!ハーブ!」
「嫌ッ!嫌だッ!お母さんッ!」
紅黒い炎は、こちらに迫ってきた。
「逃げてッ!!」

その言葉を残し、炎の中へ消えていったー

「お母さんッ!!」

253 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/10(土) 22:30:43 ID:pd2Wxl4M0
護られた。自分の身を捨ててまで、娘を護った母。
これが、護るということなのだろうか。自分を捨ててでも、大切なモノを護り抜くこと。
ーそうだ。ココだって、リードとジグだって、村の皆だって、
そして、お母さんも。
ー私にも、できるのかな…。
今までの自分は、ただ自分を守ることだけを考えていた。
でも今は、
ーみんなを、護りたい。
そう思えるようになった。

小雨は止んでしまっていた。雲の隙間からは、月がわずかに、顔を覗かせている。

ザッ…ザッ…ザッ…
そして、やってきた。彼との、そして自分との、決戦の時。

途中名前消えてたみたいです。すみませんでした。
あと、バシャーモは俺の嫁。
バシャーモかっこいいよバシャーモ

254 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/11(日) 09:50:22 ID:t83t/n2o0
つーかそろそろ狩りに行かないと。ヴォルから進んでねぇorz

今宵私の手の中で 五,

ー行ってきます。

誰もいない自分の家に挨拶をした。覚悟は決まった。
これは、村を守る戦いでもある。皆を護る戦いでもある。
そして、過去の自分に別れを告げるための戦いでもある。
怪我無しで帰れるなんて思っていない。あるいはもう此処には戻っては来れないかもしれない。
でも、それが「護る」ということ。もう、自分は何もできないと思いたくない。
雲はその切れ目をより広げた。月の光はヒトリの戦士に降り注がれている。

255 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/11(日) 10:32:44 ID:t83t/n2o0
「また来たか」
広場には、既に一つの影が立つ。
「教えてくれない?何故村を襲うのか」
「話は決着つけてからだ」
黒に包まれた右手から放たれた波動。「マジカルリーフ」で落とそうとするが、…駄目だ、威力が足りない。
二撃目。「はっぱカッター」は…駄目。
三、四、五、…いずれも止めることができない。すべての弾は、確実にこちらに命中させる。
「くッ…」
まただ。また自分を守ろうとしてる。
また右手を構えた、その時。
「ハーブちゃんッ!逃げて!」
「みんな…?」
皆、騒ぎに気づいたらしく、こちらへ走って来る。
だが、
「外野は手出すな」
彼はその右手をココ達にむけた。
「やめてッ!!」

256 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/11(日) 10:57:00 ID:t83t/n2o0
「ハーブ…ちゃん…?」
「かばった…だと?」
直撃。でも、できた。護れた。皆みたいに、お母さんみたいに。
「これで…決めるッ!」
「ッ!?」
「のしかかり」。対応できなかった彼をダウンさせた。
「くそッ…!」
もう恐れない。自分を捨てること。
もう怖くない。自分が傷つくこと。
もう迷わない。自分を変えること。

全てを、その一撃に捧げたー

257 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/11(日) 11:16:18 ID:t83t/n2o0
葉の旋風が、彼を斬り裂いてゆく。お母さんに教えてもらった技「リーフストーム」。自分の力を捧げて攻撃する大技。
今までは、自分を犠牲にすることなんてできなかった。それを今、使えた。
母の強い信念。私の強い誓い。
「じゃあね」
過去の私に静かに別れを告げたー

短いなぁ今回。やっぱ序・中・終の中は何も浮かばない。

258 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/11(日) 20:32:31 ID:5K4QNUc60
―16―

 目が覚めると僕は白い部屋の中にいて、台の上に寝かされていた。
体中に白い布を巻かれて、右の前足には変な管が刺さっている。
外そうともう片方の前足でひっかいてみたけど、なんだか痛かったのでやめておいた。
ここはどこなんだろう。あのとき僕は死んだんじゃなかったのか。
さっき人間の男が来て僕に何かを言っていたけど、はっきりと覚えていない。
たしか、心配しなくていいとか君の怪我を治したいとか言っていたような気がする。
信じられるはずがない。人間に油断してはいけないと森の仲間からはずっとそう教わってきたし、そのことに何の疑問も抱かなかった。
森を破壊した人間、それに抵抗しようとした仲間を傷つけた人間。僕の中では負のイメージしかない。
 近づこうとした男に僕は姿勢を低くして低いうなり声を上げた。それ以上来るな、というサイン。
慣れない威嚇と人間に対する恐怖で前足がガクガクと震えていたけど、男は少し怯んだらしく渋い顔をしながらも部屋を出ていってくれた。
 そうだ、ここはもう森じゃないんだ。あの森でグラエナに危害を加えようとするポケモンなんていなかった。
だけどここは森の外、しかも人間が建てた建物の中。僕がグラエナだということは何の保身にもならない。
こんなところからはさっさと逃げ出してしまいたかったが、前足に通された管はしっかりと台に固定されていて動かない。台から飛び下りればもしかしたら外れるかもしれないけど、痛いだろうなあ。

 ふいに、部屋の外で足音が聞こえた。また誰かがここに入ってくるのだろうか。
続いて話し声も聞こえてきた。男の声と、女の声。男の声には聞き覚えがある。おそらくさっきの人間だ。
「……何かあったら、すぐに呼んでください。私はここで待っています、くれぐれも気をつけて」
「分かりました」
 話し声の後、ガチャリと部屋の入口で音がする。
入って来たのはさっきの男ではなく、オオタチを連れた女だった。
女に寄り添うようにしている所を見ると、あのオオタチは彼女のポケモンなんだろうか。
「よかった……目が覚めたのね。怪我の方は、大丈夫?」
「…………」

259 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/11(日) 20:32:51 ID:5K4QNUc60
 僕は答えずに彼女の顔をじっと見る。睨んでいたと言ったほうが正しいかも知れない。
オオタチは僕の視線に少し怯えているような雰囲気があったけど、女のほうにはそれが見られなかった。
やっぱりポケモンと違って人間には、グラエナの怖さもあまり通用しないのだろうか。
「ここはポケモンセンターと言って、怪我をしたり病気になったりしたポケモンを連れてくる所よ。道端に倒れていた君を私がここまで連れてきたんだけど、どうしてあんな場所に倒れてたの?」
 と言うことは、彼女が僕を見つけてここまで連れてきてくれたのか?
それじゃあ僕が今こうして生きているのは彼女のおかげ――――いや、信じちゃだめだ。
僕を信用させるための口実かもしれない。安易に心を許してしまったら、後で何が待っているか分からない。
「……ねえ、何か話してくれないと、何も分からないよ?」
 黙ったままの僕に、彼女の足元にいたオオタチが言う。まだ少し声が震えていたような気がする。
思い切って僕に話しかけてくれたオオタチの勇気は認めるけど、人間と一緒にいるポケモンも信用できるはずがない。何も話すことなんてなかった。
「……来ないで!」
 近づこうと足を踏み出した女に向かって、僕は叫ぶ。彼女は一瞬足を止めたが、またすぐに歩き出す。
怯んだのはオオタチだけ。やっぱり人間にとってグラエナは恐怖の対象でもなんでもないのか。
「心配しないで、私は君に何もしないから」
「そんなこと、信用できない……」
 さっきの男と同じことを言っている。繰り返された言葉はむしろ逆効果だ。これ以上近づいて来ないでよ、お願いだから。
僕は姿勢を低くして、唸り声を上げる。人間に対する最後の手段。男はこれで引き下がってくれたけど、はたして彼女に通用するかどうか。
「……ゆ、ユナ」
「大丈夫だから、ね」
 オオタチは彼女の後ろに隠れるように身を引いたが、女は表情を変えることなく近づいてくる。
やっぱり、効果はないのか。台の縁まで後ずさりした僕に彼女が手を伸ばしてきた。だめだ、逃げられない。
「……っ!」
 威嚇にも関わらず、近づいてきた彼女の手に僕は咄嗟に牙を立てていた。
優しく差しのべられた彼女の手を、僕はまだつかむことが出来なかったんだ。

260 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/11(日) 23:35:01 ID:t83t/n2o0
>>カゲフミさん
読ませていただきました。
二つの視点から書くって結構難しい筈なのに、とても読みやすいです。見習いたいと思います。
グラエナはユナに心を開けるんでしょうか。続きが楽しみです。

さて、恐らく今回がグロ全開。

今宵私の手の中で 六,

「ううん…?」
此処は…?…そうだ、あの闘いが終わってからのことを覚えていない。
自分はどうなったのだろう。彼はどうなったのだろう。
誰かが呼ぶ声がする。
「…ブちゃん、ハーブちゃん!」

「ココ…?」
目の前にあったのは、彼女の心配そうな顔。起きあがろうとするが、全身が痺れて動くことができない。
「…くッ…!」
「ダメよ、動いちゃ」
ココの家。見回してみると、みんなが心配そうに私を見ている。
「…どうなったの、私…?」
「僕たちをかばった後、そのままルカリオの方に走っていって、…気づいたら、二匹とも倒れてた」
「…ッたく、無茶しやがって」
「でも良かった。ハーブちゃんが無事で」
みんなの温かい笑顔。自然と、涙がこぼれ落ちた。
「…で、さ。どうしよっか?こいつ…」
「え…?」
彼女の指さした先にいたのは、

「ルカリオ…!?」

261 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/11(日) 23:58:52 ID:t83t/n2o0
「何で…!?何であいつが此処に!?」
「ま、何つーか…色々聞きたいことがあって、さ」
聞きたいこと…そうだ。聞かなくちゃ。彼がこの村を襲った理由。
彼の体には包帯が巻かれ、時折苦しそうな表情を見せながら、眠っている。

彼がその眠りから覚めたのは、午後になってからだった。
「…ッ!?何処だ、此処は…!?」
「あ、やっと起きたみたいね」
全員が彼に注目する。
「…お前達、いいのか?俺を助けて…」
「助けたって訳でもないんだけど…」
「…教えて。」
彼の目を真っ直ぐ見て、彼に問う。寂しさが感じられる、穏やかな目。
「どうして村を、みんなを襲うの…?」
「…命令だ。命令には逆らえねぇ」
「命令…だと?」
「俺の境遇を話す。聞いてくれ…」
静かな口調で、彼は話し始めたー

262 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 01:03:43 ID:K1HNIjy60
ー生まれたときには、既に独りだった。
名も無い。親もいない。自分のいる場所も分からない。
辛うじて分かったのは、自分がリオルであるということのみ。自分の波動が、そう伝えていたから。
何処に行くべきかも分からなかった。手を差し伸べてくれる者などいなかった。
道も分からずただ歩く。感じるのは、空腹と、寂しさと、絶望のみ。

ーもう、歩けない。
森の中で、ついに歩くこともできなくなってしまった。
ー死にたく、ないよ…。
こぼれた涙が地面を濡らす。このまま、死んでしまうのだろうか。
そんな自分に手を差し伸べた者がいた。

「起きてー!おーい」
ー誰…?
「お腹減ってるの?助けてあげよっか?」
ー助けて…。死にたくない…。
「そう。じゃあ、私と『契約』しましょ?」
ー契約…?
「右腕、貸ーしーて?」
ー何をするつもり…?
「それはね…フフフッ♪」

そうして俺は、「悪魔」と契約をした。
命令に従うこと。それが契約の内容だった。
右腕には契約印として、呪いをかけられた。契約に従わなければ、殺される。
「これで、フタリ目っ…と」
その、上機嫌な「悪魔」の手によってー

263 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 01:35:04 ID:K1HNIjy60
翌日の夜。
彼は、話があるから、と私を広場へ誘った。広場には、未だ固まった血の痕が残る。
「で、何?話って」
「ああ…。話は3つある。聞いてくれ」
真剣な表情。あの日の見下したような笑みとは違う。
「まず1つ。この村と、ポケモン達を襲ったこと。反省している。すまなかった」
彼は深々と頭を下げる。
「次に二つ目。…少し後ろ向いててくれ」
そう言われ、後ろを向いた。
「ぐッ…!」
「…?…ルカリオ?」
彼の悲痛な声に驚き、振り向いてしまった。その目に写ったのは、
「ルカリオ…!」
右腕を切り裂いた、彼の姿。
邪悪な気を帯びたその腕は、ドサリ、と地面に落ちた。肩からは、大量の血が吹き出す。
「ああ…見られちまったかか。だが、これで契約破棄だ…」
「どうして…!?自分の…腕を…?」
あらかじめ用意しておいたマントで、彼は右肩を覆った。それからは、僅かに血が滴り落ちる。
血が治まってから、彼はまた話し始めた。
「3つ目。これが最後だ。こうしなければ、また此処を襲っちまう」
「でも、何でそこまで…?」
「護りたいからだ」
彼は、こちらへゆっくりと歩きだした。

264 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 01:58:00 ID:K1HNIjy60
「お前が最後に使った技のように、何かを捨てる覚悟をしなければ、誰かを護ることなんかできない。ハーブ、」
その一言に耳を疑った。
「お前を護りたいんだ」
目の前まで、彼は近づいていた。
「え…!?護りたい…?私を…?」
彼は残った左腕で抱きしめた。

「お前が好きだ。」

「…!!」
突然の一言に、声も出なかった。
好きだ。
彼の声が、心の中で響き続けた。
月の光も、星の瞬きも、私たちを祝福しているように見えた。それらはすぐにかすんで、ぼやけてしまった。
「俺はもう、独りじゃない。お前がいるから」
肩で、彼の涙が弾けた。温かい、彼の想いが。

さて、予定変更。告らせちゃった♪
何にも浮かばない。展開が読めなくなってきた。いいぞ、もっとやれ。

265 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/12(月) 07:47:22 ID:Jfpqh1Eo0
>>248
僕は赤、青、黄の三つのタグ全てにこのスレを表示し、小説を入力し終えてから三連投する…という方法をとっているのでやたらと時間が早いのです。
僕でも3レス分の文章入力には一時間少々かかりますが。


act25 希望

「ーーーそう、そんな事が…」
話を聞き終えた彼女の表情は暗い。
「…でも少なくとも私はロキ達の味方だよ。共に暮らすのに種族なんてのは関係ない。大切なのは種族の壁を乗り越えられる強い心を持つ事だよ」
「メルさんはオイラ達の事を分かってくれるでやんすね?」
メルティーナはロキ達の考えを理解してくれた…ルシオは目を輝かせて彼女の片翼を両手で握りしめた。
彼女も大きく頷いて話し続ける。

「うん。私も世界中を巡ってあらゆるタイプのポケモンが手を取り合って共存して生きていた光景を沢山見てきたの。彼らは皆、目が生き生きとしていたわ。それを見て思ったの。私達も過去の風習なんか捨てて種族を越えた共存の道を選ぶべきだってね」
外の世界のポケモン達はお互いに協力しあって生きている……ロキはその世界が羨ましく思えた。

266 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/12(月) 07:49:59 ID:Jfpqh1Eo0
この砂漠では種族間の共存はおろか、他種族を滅ぼさんとする独裁民族まで現れる始末。
こんな状況で「共存しろ」と言っても無理な話だろう。
でも…もし砂漠のポケモン達が一つの場所で共に助け合って暮らしていたとすれば、今よりもっと充実したよりよい暮らしになっていたかもしれない。

「共存…か。確かにこのままだと砂漠のポケモン全員がヴァン族に滅ぼされてしまうかもしれないな…」
更には“強大な力”の復活を企て、その力で砂漠を統一せんとするヴァン族。
その過程で砂漠のポケモン達が皆殺しにあうのは目に見えている。
「確かにメルさんの言う通りでやんす。なんとかしてヴァン族を止めないと砂漠はいずれヴァン族のものにされてしまうでやんす…」
ヴァン族を止める…しかし奴らはアース族の大人を倒す程に強い。前髪の長いカシェルとかいうナルシスト野郎は何とか追い返せたから良かったものの、ヴァン族は奴だけではない。他にも戦闘能力を持ったポケモンが大勢いる筈だ。
「ヴァン族を止めるっていってもな…今のオレらじゃ戦力不足だ。三匹で正面からぶつかっても返り討ちにあうのがオチだろう」
「はぁ…どうすればいいでやんすかね……」

267 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/12(月) 07:51:40 ID:Jfpqh1Eo0
このまま黙って砂漠が統一されるのを見過ごす訳にはいかないが、たった三匹では戦力不足なのも事実。
二匹は大きくため息をついてうつむく。

「あの…この砂漠にある全ての種族を一つにまとめて皆でヴァン族に立ち向かう…というのはどうでしょうか……」
おもむろに立ち上がってそう言うのはユメルであった。
「砂漠の種族を一つに………それだ!」
彼女の言葉を聞いたロキは勢いよく立ち上がる。
「そうだ、ユメルの言う通りだ。砂漠のポケモンが力を合わせればヴァン族を打ち破れるかも…」
団結。この砂漠の十種程の種族が一つになれば確かにヴァン族に立ち向かうのも容易い。
「それに事が上手く運べばみんな一緒に暮らせるかもでやんす!」
「そうだな。砂漠の未来のためにもオレ達は手を取り合わなくちゃならない。メルさんの話を聞いてオレも考えが変わった。オレは…これから他種族の集落を巡って皆を説得しようと思う」
そうだ。この際オレが砂漠を巡って共存するよう皆を説き伏せればいいんだ。
時間はかかるかもしれない。でもヴァン族の野望を阻止するためにはやり遂げなければならない。
現実から逃げていては何も変わりはしない。オレが砂漠を変える事が出来ればーーー

268 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 17:27:24 ID:K1HNIjy60
>>麒麟児さん
なるほど、やってみます。…と言いたいところなんですが、自分の場合、
技ワカンネ→某サイト開く→メモリ不足ですorz
という状況なのです。答えてくださりありがとうございました。
砂漠の種族をまとめるとは…。責任重大ですね。

今宵私の手の中で 七,

昨日のことを思い出す度、胸の鼓動は止まらなくなる。
憎むべき相手の筈なのに…。もう一つの感情がその思考を止めてしまう。

朝の広場にはまた一つ、新たな血の痕が残った。でもそれは、彼が自分自身に誓ったという証明。

あの後のことはよく覚えていない。ずっと抱き合ってたのかもしれないし、語り合ってたのかもしれない。
思い出せるのは、彼が私を家まで送ったところから。別れ際に彼は笑顔を見せ、森へと帰っていった。

「悪魔」の元へと帰ったのだろうか。…?そういえば、その正体を聞いていない。彼が契約をした相手とは一体誰なんだろうか。

269 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 18:05:28 ID:K1HNIjy60
「森へは…行かない方がいいと思うよ」
あっさりとジグに止められてしまった。
「どうして?」
「昔からの言い伝えで、夜中に独りであの森を歩いていると…」
「やめて!…怖いから…」
ルッチが震えだした。
「でも…どうしても気になるから…」
「あいつ…ルカリオを見ただろ。村を襲わされて、皆に嫌われて…」
「木の実採りにいった時にも、ずっと何か後ろにいた感じがしたし…」
「…。分かった…」
諦めかけたその時、不意にココが話し出した。
「待って。一つ、方法がある」
「…ココ!お前!」
リードが彼女に訴えかける。
「ハーブがどうなってもいいのか!?もしかしたら戦うことになるかもしれないんだぞ!」
「あたしは大丈夫だって思うもん。ハーブちゃんも、知りたいって言ってるし」
「…で、その方法って?」
「これよ」
「…お香?」

270 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 18:29:21 ID:K1HNIjy60
「『清めのお香』。呪いの効果をかき消せるって、聞いたことがあるの」
「…大丈夫なのか?」
「もちろん、100%って保証はないけど…。でも、」
こちらに近づき、耳元で囁いた。
「知りたいんでしょ?彼…ルカリオのこと」
「え…?何で分かったの…?」
「顔を見れば分かるよ。あいつと同じ表情してるから」
フフフッ、と、彼女は笑みをこぼす。
「逢いに行きなよ。応援してるから」
微笑んで、彼女はエールを送った。
「うん。ありがとう。」
陽が当たった彼女の笑顔は眩しくて、優しかった。

ーそして、夜がやってきた。

271 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/12(月) 19:18:10 ID:K1HNIjy60
今夜は月も、星も見られない。照らすものは何も無く、辺りは静寂に包まれている。

結局、みんなが見送りにきてくれた。ココが、上手く説得してくれたようだ。当然、ルッチは怯えた表情をしているが。
「無事…帰ってきてよ?」
「…お前が行きたいって言うなら、俺はお前を信じる。…行ってこい」
「絶対よ…!?帰ってきてね…!」
「気をつけて。怖くなったら、いつでも戻ってきて」
ジグ、リード、ルッチ、ザン、そしてー
「いってらっしゃい。」
ココ。温かい、みんなの言葉。嬉しくて、涙が溢れた。
「みんな…ありがとう…!…行ってきます。」
涙を拭い、村を後にした。絶対、みんなの元へ帰るから。
止めたはずの涙が、地面を濡らしていった。

272 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/13(火) 23:26:30 ID:VO/Dymg+0
今まで手紙ベースの小説って何かありましたっけ。一応次の候補にはあるんですが。

今宵私の手の中で 八,

彼女を闇へ見送った。
彼女の足音はやがて微風に消え、香りも消してしまった。
「やっぱり、怖い…!」
「ココ…?」
独り涙をこぼし、喘ぐ彼女。
「…怖い。ハーブちゃんがいなくなるかもしれない…!もう、遊ぶこともできなくなるかもしれない…!」
誰よりも不安を感じていたのは彼女だったのだ。その様子と先程の振る舞いとではかなりギャップがあることに全員が戸惑う。
「じゃあ、何であいつが此処へ行くことに賛成した…?」
「…ェぐッ…だって…ルカリオのこと、知りたがってたから…!少しでも、手助けしたかったから…!」
「悪くねェよ」
突然、リードが口を開いた。
「リード…?」
「誰も悪くねェ。ハーブも、当然お前も」
「え…」
いつもと雰囲気が違う。今まで、こんな優しい口調の彼を見たことがない。
「あいつは、必ず帰ってくると誓った。お前はそれを信じた。それでいい」
彼はココを見つめる。
「お前が信じるのなら、俺たちもそれを信じるだけだ」
その一言が、胸に響いた。ドクン、と、高鳴るのが分かった。

273 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/13(火) 23:53:49 ID:VO/Dymg+0
「ありがとう…!リード…!!」
「わッ!?」
彼が驚いたのは、突然抱きついたから。
その一言で、気持ちが楽になった。その一言で、自分は独りじゃないと改めて思った。
彼の胸を、涙で焦がした。

少なくとも森の爽やかな匂いは好きだが、この森からはただ不気味さしか感じられない。
どのくらい歩いただろう。足跡は、闇へと続き、消えてしまっている。ココに貰った香の香りだけが、周りを包んでいた。
危険なのは、分かっている。でもどうしても行きたい。彼のところに。その為に、此処へ来たのだから。
"行きたいよ、君のそばに。小さくても、小さくても"

「お客さん?」
「ッ!?」
その言葉で、背筋が凍ってしまった。

※歌詞引用
大塚愛「プラネタリウム」より

274 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/14(水) 00:05:31 ID:r1MP7mmc0
そう呼ばれ、振り向いた。…が、誰もいない…?
「フフッ、こっちこっち…」
再び前を向く。…やはり、誰もいない。
「…誰?」
「あなたね、ハーブっていうのは」
「!!」
「悪魔」の正体。ムウマだった。
「あなたね…?ルカリオと、契約したのは」
「うん。そうよ」
「だったら、彼を支配するのは、もうやめて…!お願い…」
「じゃあ…♪」
彼女は、不気味に笑いだし、そしてー

275 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/14(水) 00:37:25 ID:r1MP7mmc0
「ぐゥ…!?」
何かが、自分の首を絞める。
ー何、コレ…?
離れることはもちろん、喋ることもほぼ無理である。
「彼の代わりに、私と『契約』しましょ?」
ー嫌だ、嫌だ!
そう叫ぼうとしても、まったく声にならない。
「ん、これ…『清めのお香』?」
ー気づかれた。
「なるほど…クスクス…」
笑いながら彼女は、ー「怪しい風」で香の火を消した。残り香すら残さず。
「あァ…!」
ーゴメンね、みんな。約束、守れなかった。
涙がこぼれた。ただ冷たいだけの滴が。
「イクヨ…」
「悪魔」は、静かに地獄の時の開始を告げたー

276 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/14(水) 22:05:01 ID:r1MP7mmc0
今宵私の手の中で 九,

ー意識が、薄れてゆく…。
開始の合図と共に見えるようになった、首に掛かる大きな手。冥王は私を少しずつ、地獄へと引き込んでゆく。
怖い?
夜が明けるまでに決めて。すぐに終わるから。
ー「悪魔」の唱う声…。契約の始まり…。
嫌とは言わせないから。
私と毎晩、
楽しく遊びましょう?
ーもっと遊びたかった。もっと一緒にいたかった。
死にたくないでしょ?
逃れることはできないよ。
ーこのまま、死ぬのかな…。
手に入れたいの、貴方のこと。
望んでいるの、楽しい生活。
ーあっちで、お母さんに逢えるかな…。
泣いても無駄。
帰らせはしない。
ーみんな…さよなら。
出会ったことを、
「ハーブッ!!」

277 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/14(水) 22:59:45 ID:r1MP7mmc0
「誰!?」
「貴様…!ハーブを、よくもッ!」
「わッ…!と、危ない危ない…『悪の波動』、か…」
波動は避けられた。だが、呪いへの集中力は切ることができた。その場に静かに倒れる彼女。
「…はあッ…!はあッ…」
「ハーブ…」
ー間にあった。
彼女の苦しそうな表情が、胸を締め付ける。…でも良かった。どんな表情でも、君の顔をもう一度見ることができて。
"薄れていく笑顔と、君を護りたいから"

「…邪魔しないで。契約違反よ?」
「…これを見ても、そんなことが言えるか?」
マントを広げてみせる。漆黒のその向こうを見て、彼女は動揺し出した。
「へぇ…大した覚悟ね。痛くなかった??」
「どうせ蝕まれた腕だ、失っても痛くねぇよ」
「そう。それなら…」

※歌詞引用(変更有
UVERworld「D-tecnoLife」より

278 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/14(水) 23:38:23 ID:r1MP7mmc0
また「悪魔」は、不敵に笑い出す。
「左胸に呪いをかけたら…どうなるかな?…アハハッ☆」
「はァ…?」
ーなんて奴だ。発想がもう気違いじゃねーか。
「右手抜きのハンデ"だけ"で俺に勝てると思ってんのか?」
「あら?誰があんたに呪いかけるって言った?」
「は…?ってお前、まさか…!」
「一度契約を結んだ相手とはもう契約はできないからね。だからアタシが契約したいのは、」
ーそうだった。
「その娘☆」
全てを一瞬で理解した。
彼女はもう逃げる体力さえ残ってないこと。つまり、彼女を抱きかかえて戦わないといけないこと。
ーそう。そうすれば、自分にはもう自由に使える腕は無くなるということ。
「早ク見タイナァ☆呪イニ苦シムソノ娘ヲ。大切ナモノヲ失ッタ悲シミニ打チヒシガレル貴方ヲ…」
「クソッ…!」
此処から、逃げねぇと…!
「逃ガサナイ…!アハハハハハハ☆」
駄目か…!「黒い眼差し」。もう、此処から逃げることはできない。
ー終わった、か…。
三匹の残された空間だけが、ただ闇だけに囲まれていた。

279 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/15(木) 00:10:22 ID:OxOSiTgE0
「フフフッ…☆」
その不気味な笑い声だけが響く。
左手は彼女を抱きかかえ、使えない。更に安定もしないため、本来の素早さを発揮できない。
「『シャドーボール』☆」
無数の弾が迫る。正面では受けられない。背中で受けるしかなかった。
「くッ…そ…!」
ー星空が、綺麗だね。
ーああ、そうだな。
「マダ行クヨ…!!アッハハハハ☆」
ー右手、ホントに大丈夫?
ー心配いらねぇよ。
「ぐァッ…」
ーたとえ左腕だけでも、お前を護ってみせるから。

最悪だな、俺。
した約束さえ、守れないのか。
愛したヒトさえ、護れないのか。
笑ってくれ。こんな頼りねェ俺を。
許してくれ。こんな「悪魔」と契約した俺を。

雲よ、森よ、木々よ。このヒトリの罪人を、影で消してくれないか。

280 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/15(木) 16:19:55 ID:8qHa4imo0
>>279
『悪魔』ムウマ……彼女は謎ですね。ルカリオの前の一人目の契約者も気になる所。


act26 目標

「例え何年掛かろうともオレはいつか砂漠を一つにして皆が共存出来る理想郷を作りたい…」
そう言い終えるロキの目は光を宿したかのように輝いていた。
打倒ヴァン族、そして理想郷ーーこの目標はロキ達三匹を大きく動かす事になる。

「それでこそロキよ。例え不可能に近い事も成し遂げようとするその性格は昔と変わらないわね…」
ロキの抱く強い志の前にメルティーナは彼に対する畏敬の念さえ覚え、それと同時に二匹が心身共に成長した事にも感動していた。
「ロキ…ルシオ…本当に成長したね……うん。二匹じゃ無理なら私から直接エイル族長の方に掛け合ってみる。ロキは大望を抱けり…ってね。それに族長は私のような大人の意見を少しは聞き入れてくれるかもしれないじゃない♪」
そうしてメルティーナはウィンクをしてみせた。
確かに彼女のような成人した大人の意見…ましてや集落の情報屋のメルティーナからならエイル族長も耳を傾けてくれるかもしれない。
この時、ロキにとって唯一の理解者の彼女が希望の光に見えた。

281 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/15(木) 16:24:06 ID:8qHa4imo0
「メルさんなら安心でやんす。オイラ達の考えもきっと受け入れてくれるでやんすよ」
「…確かにオレ達はまだ子供だ。集落はメルさんに任せてオレ達は他種族の集落を巡ろう。ヴァン族に立ち向かう力を蓄えなきゃな…」
「なら決定ね。それじゃあ私はすぐにでも集落にーーあ、そうそう。あなた達にこれをあげるわ。私からの餞別よ」
彼女がバッグから取り出したものはリンゴ六個だった。
ロキはお礼を言ってそれを受け取ると背中の鞄にしまう。
「ここから一番近い位置にある集落はアメンティ山のドヴェルグ族ね。東…つまり向こうを向いて歩いていけばいいわ」
メルティーナは片翼を広げて東の方角を指す。
ドヴェルグ族とはアメンティ山の中腹に住処を構えている地面・岩タイプの種族である。
「さて、私はエイル族長に真意を問いただすためにすぐに集落へ向かうわ。あなた達も気を付けてね!」
「メルさんありがとうでやんす。オイラ達も頑張るでやんす!」
彼女は立ち上がって三匹に別れを告げると両翼を大きく広げて羽ばたき、アース族集落を目指して飛び去っていった。

282 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/15(木) 16:27:26 ID:8qHa4imo0
彼女の姿が見えなくなるまで三匹はそれを見送る。

「さて、これから大冒険の始まりだな…」
「兄貴と一緒なら怖いものなしでやんす!」
「きっと砂漠が一つになる日もそう遠くない筈です…!」

三匹は新たな決意を胸に秘め、再び砂漠を歩み始めた。
その目標は遙か彼方。だがこの三匹ならいつかはその夢もきっと叶えられる……そんな気がした。

283 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/15(木) 17:53:02 ID:OxOSiTgE0
後から読んだら歌詞使う場所間違ってるよーな。
>>麒麟児さん
許してもらえるといいですね、ロキ達。砂漠の統一の方も楽しみです。

今宵私の手の中で 十,

「…?あれ…?」
重い瞼をゆっくりと開く。…私、生きてる?
目の先にいたのは、
「ルカリオ…?」
「…?ハーブ?」
傷だらけで、呼吸の荒い彼。
「助けに…来てくれたの…?」
「ああ、…ただ、」
衝撃と共に、彼の顔が歪む。背中でそれを受け止めた彼の向こうに見えたのは、
「イイ加減、諦メタラ?」
ムウマ…!彼をこんなに傷つけているのは彼女…?
「…大丈夫だ」
そう言い、彼は立ち上がる。右肩のマントがヒラリと揺れる。
「護ってみせるから。」

284 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/15(木) 18:32:19 ID:OxOSiTgE0
とは言ったものの、これといった手段はない。
両足はなんとか使えるが、直接打撃が通じるわけがない。足技は使用不可。
両手が使えないため波動は使用不可。彼女を置いて使えたとしても、この距離なら両手ならまだしも、左手オンリーとなると威力は高々知れている。ゼロ距離で放てればいいのだが、そうなるとリスクはかなり大きい。
ークソッ…!どうすれば…!
敵の攻撃は未だ止まない。やや動きが掴めてきたため、避けられるようにはなったが…。
ふと、避けた先の足元の感触が違うことに気づいた。
ーん…?これは…清めのお香か…?
束となったそれらを拾ってみる。少し減ってはいるが、火をつければまだ使えそうだ。
「これしか…方法は無ェか…」
「ン…?何ヲ…?」
その拾った束を口にくわえる。
攻撃を避ける間に、先端を木の幹で擦る。ーそう、火をつけるにはそれしかない。
香の効果は知っている。火さえつけば、呪いの効果をかなり薄められる。
口の中はかなり苦い。でも、耐えるしかない。このまま何もせずに負けを認めるのは嫌だから。


285 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/15(木) 19:40:55 ID:OxOSiTgE0
「ルカリオ…」
「ちょっと揺れる。しっかり捕まっててくれ」
もう一度彼女を抱える。ここにくるための道標となった甘い香りが口の中の苦さと混ざる。
「タダデサエ息ガ荒イノニ。ソンナ物クワエテテイイノ?」
「シャドーボール」。避けると同時に、首を振って木に擦ろうとする。が、当たらない。
「チィッ…!」
もう一度。…駄目。
「無駄無駄ッ☆」
クソッ…!何故だ…!?何故当たらねェ…!?
距離もタイミングも丁度の筈。何が狂ってる…!?
「捨てて…。」
小さく、彼女は囁く。
「ハーブ…?どういうことだ?」
「自分を捨てて、覚悟を決めて…。当たる刹那、避けようとしてるから…」
ーそうか。まだ恐れてるのか。自分を捨てることを。
「次は当てるッ!!」
その大木へ突っ込む。覚悟を決めた。目を瞑って、自分を信じた。

「ルカリオ…」
「痛ってェ…おもいっきり顔擦った…」
彼の左目の横から、血が滴り落ちる。でも、
「灯いたぜ…!」
彼がくわえた香は、目映い紅に照らされた。

286 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/15(木) 21:34:58 ID:OxOSiTgE0
「やったね…」
「後は任せろ、ゆっくり休んでてくれ」
そう言うと、彼は束のうちの何本かを抜き取り、休む私の近くへ置いた。
「さあ、仕切直しだ」
「…へえ。やるじゃない」
…?「悪魔」の目から、怒りが消えた…?
「でも、その体で戦うつもり?」
「俺の波動はピンチの時に強くなる。止めさせはしない」
「…」
何故?一気に劣勢になった筈なのに、なんでこんなに落ち着いていられるの…?
「終宴よ」
「…え?」
「もう、終わりにしましょう…」
こちらを見るその目は、悲しくて、寂しい。
「このまま戦っても、勝ち目ないし」
「は?何言って…」
表情すら浮かべず、淡々と話を続ける。
「私は命を絶つ。あなた達を道連れにね」
そう言い終えると、彼女を闇が包み始めた。
「命を絶つ…!?私たちを道連れに…!?」
「どういうことだ!?説明しろ!」
彼女は聞こえていないのか、返事をしない。目の前に重ねた両手を凝視していた。悲しそうな表情を浮かべてー
"救いのない魂は 流されて消えゆくー"

※歌詞引用
ポルノグラフィティ「メリッサ」より

287 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/15(木) 22:57:15 ID:kfgk/RiY0
―17―

 ぷつり、と肉を突き破る感覚。ポケモンの皮膚だろうが人間だろうが、嫌な感触に変わりはなかった。
口の中に血の味がうっすらと広がる。牙を離した僕が見たのは、苦痛に歪んだ彼女の顔。
手の甲には僕の歯形が点々と残っており、細い糸のように血が流れ出ている。
「ゆ、ユナ、大丈夫?!」
「え……ええ、平気よ」
 そんなに強く噛んだつもりはなかったけど、僕らグラエナの牙は鋭い。刺さったら、きっと痛い。
心配するオオタチを気遣ってか、無理にでも気丈に振舞おうとしている彼女が余計に痛々しくて。
僕はなんだかとんでもなく悪いことをしてしまった気にさせられる。
いや、威嚇していたのに近づいてくるほうがいけないんだ。彼女のほうが悪い。
浮かび上がってくる罪悪感を振り払いながら、僕は必死に自分を正当化しようとしていた。
「あ、あなた……ユナになんてことを!」
 一歩前に出て、震えながらもオオタチは僕を責める。
そうだよね。自分のトレーナーを傷つけられたら怒るのも当然だよ。
ごめんなさいと素直に謝るべきなのか、それとも悪いのはそっちだと言い返すべきなのか。
僕としては前者を選びたかったけれど、傷つけておきながら今更謝っても余計に怒らせるだけじゃないだろうか。
どうしていいか分からずに、僕は黙って俯くことしかできなかった。
「ミオ、私は大丈夫だから……」
「で、でも!」
 まだ僕に文句がありそうなオオタチを制すると、彼女は再び僕に手を伸ばしてきた。
一度手痛い拒絶をされたのに、どうしてまた歩み寄ろうとするんだろう。
それに彼女はオオタチと違って、僕を責めたりしなかった。ただ、悲しそうな表情をしただけで。
当惑していた僕は、近づいてきた彼女の手に反応することができなかった。
もうすぐそばまで迫ってきている。今度こそだめだ。逃げられない。僕は思わず目を閉じる。

288 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/15(木) 22:57:33 ID:kfgk/RiY0
「……!」
 暖かいものが僕の頭に触れた。痛みや衝撃は微塵も感じない。
何が起きたんだろう。人間に噛み付いてしまったから、どんな仕打ちを受けるのかとびくびくしていたのに。
恐る恐る目を開くと、女が僕の頭を撫でていたことに気づく。温もりが伝わってくる、優しい手だった。
「怖がらなくても大丈夫だよ……」
 最初は僕を安心させるための建前だと思っていた。人間は信用しちゃいけないと。
だけど、一度は牙を立てた僕にうわべの優しさでここまで穏やかに接することができるだろうか。
彼女が言っていたことは本当なんじゃないだろうか。手の暖かさを感じるうちに、僕の中の警戒心や恐怖が薄れていく。
「話したくないのなら、無理にとは言わないけど……君に何があったのか、聞かせてくれると嬉しいな」
 僕をここまで連れてきてくれたらしき人間としては、やっぱり気になるところなんだろう。
まだ完全に信用したわけじゃない。でも、僕を見つめる彼女の優しい眼差しは残った猜疑心も消し去ってゆく。
ずっと黙っていても、オオタチが言ったように何も分からないままだろう。この人達になら、話してもいいかも知れない。
 それにもし再び拒んだとしても、彼女は何度でも僕に接しようと試みるだろう。
痛い思いをしたところでその心は揺るがない、そんな気がしていた。
ならば変な意地を張らないで、話してしまったほうが僕としてもすっきりするかもしれない。
「……分かった」
 僕の中では大きな決断であるはずなのに、そこまで迷うことなく僕は答えた。
どうして人間と人間のポケモンなんかに、という気持ちがなかったと言えば嘘になる。
だけど、やっぱり僕は心のどこかで話し相手を求めていたんだと思う。あのジグザグマのときと同じように。

289 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/15(木) 23:00:56 ID:kfgk/RiY0
>>260 cottonさん
一人称の場合、必ず視点になるキャラクターは意識を保ってないといけないんですが。
今回それができなくなったので二つの視点を使うという結果に。
あんまり視点が変わりすぎるとややこしくなるので、私としては視点切り替えは二人までがベストに思えます。
レスありがとうございました。

290 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/16(金) 00:41:41 ID:NBpFrwt20
>>麒麟児
ついに物語が大きく動き出しましたね。
これからどんな展開が待っているのかと
思うと、この板からなかなか目が
離せません。
続きが早く読みたいものです。

>>カゲフミ
確かに視点を切り替えまくっていると
読みにくくなるかもしれません。
ただ僕の場合は、
たまたま好きな作家が、
視点の切り替えが激しい小説を
よく書くのと、僕が大昔に書いた小説も
そうだったためか、視点の切り替えには
慣れてしまったというか……特に
読みにくいと感じないことが多いです。
複数の視点から書くことで、物語を
多角的・立体的に見ることができる
…と考える作家も結構いるそうです。

>>cotton
僕の頭の中では、ムウマは決して
悪役には見えないのですが……。
またイメージが少し変わりました。
相変わらず執筆が早いですね。
次の小説ももう考えているとか。
いつか長編にも挑戦してみては…?
>歌詞引用
をした目的は何なのでしょうか。
いまいちピンときません。


291 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/16(金) 18:36:08 ID:3CN278h60
>>カゲフミさん
>>coopieさん
返答ありがとうございます。参考になります。
>歌詞引用について
その場の雰囲気を表したいなと思いテストしたものです。
どう見ても失敗ですね本当にありがとうございました。

今宵私の手の中で 十一,

冥王は私の幸せを奪った。
次に生まれし者は魂を与えられ、この世に送られる。業を終えた魂は再び冥界へと帰ってくる。そのサイクルはこの世界が作られる前から続いてきた。

私もそのヒトリとなる筈だった。
しかし、私に与えられたのは死の体、霊の種族。
誰も私と関わろうとしない。誰も仲良くしてくれない。ー寂しかった。
その気持ちを紛らわすため、心の支配を行った。
それが間違いであることは分かっていた。でも、他に方法はなかったから。
ーでも、それも今日で終える。二つの魂と共に…。

292 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/16(金) 19:07:01 ID:3CN278h60
そう呟く彼女の目には涙があった。それは一粒、二粒、と頬を濡らしてゆく。この世界に送られる、魂の如く。
二匹とも近づけなかった。いや、動けなかった、という方が正しいかもしれない。
閉鎖された空間には霧が立ちこめている。それは彼女を包む邪なる気と混ざり、飲み込まれてゆく。
「…寂しいから、冥王のもとへ帰る。あなた達と。そうすれば、寂しくなんかないから…」
一つ息を吸い、目を瞑った。空を仰ぐその姿は、不幸な身に生まれた悲しさに包まれて。

「…どっち!?」
「…こっちだったと思うけどなぁ…前に会ったのは」
「ザン…先導するならちゃんとやってくれ…」
彼を先頭に森を走る5匹。なかなか帰ってこないため心配になり、彼女らを捜していた。
「ハーブちゃん…お願い、無事でいて…!」
「…待って。何か聞こえない…?」
ルッチが聞いた音。誰かの唱う声のようだ。
「…何?この歌…?」
「この歌は…!まさか!?」
そう言い終わる前に彼女はピッチを上げて飛んでゆく。その悲しい歌の聞こえる方へ。

293 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/16(金) 20:01:01 ID:3CN278h60
聴いているだけで、憂鬱になる。
なんて寂しい曲なんだろう。なんて暗い曲なんだろう。
唱っている彼女も苦しそうだが、聴いている私たちも正直辛い。
お母さんの子守歌は、優しくて、穏やかだった。それに比べ、この歌は悲しさしか感じられない。
「ルカリオ…どうなるのかな…私たち」
「…分からねえ。『悪魔』の考えることなんか…」

「ハーブちゃんッ!」
「…ルッチ…?」
「これは…『滅びの歌』…!」
「『滅びの歌』…?」
「ルッチ!ハーブちゃん!」
「みんな…?来てくれたんだ…」
「ムウマ…!?ハーブちゃん達を殺す気…!?」
「どういうことだ…?ルッチ」
ムウマはその悲しい音色を奏で続ける。ルッチは息を吸い、その音色に重ねるように歌い始めた。

294 :cotton ◆2KGiTFFubg :2008/05/16(金) 20:32:08 ID:3CN278h60
それは奇跡の歌声としか言いようがなかった。
悲しいアルトは、美しく純粋なソプラノに中和され、ハーモニーを奏でる。悲しかった筈の曲は幻想的に、緊張に包まれていた筈の空気は滑らかに流れる。
ー綺麗…。
溜め息が出るほど美しい。呪いは完全に薄れてしまっていた。

二匹の歌声が止まった。
私たちは勿論、ムウマもまだ"この世に"いた。
「…ごめんなさい。」
静かに頭を下げる。皆が彼女を見つめる。ただ、誰の目にも彼女を責める厳しさはない。
「独りでは寂しいけど、…旅立ちます」
その顔からは落ち着きさえ感じられる。
「ルカリオ…一つ、頼みがあるの…」
「…頼み?」

「彼女を一生かけて、護ってあげて。独りぼっちじゃ、寂しいからー」

そう言うと、ゆっくりと消えていった。ただ一つ、天頂の星が瞬いたー

295 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 12:53:28 ID:YIy/eG620
予定とは大幅に違ったけどこれでいいのだレレレのレ。

今宵私の手の中で 零,
~Entrust flame with hatred~

ー生きてる…?
何故だ?落石に巻き込まれて俺は死んだ筈。なのに、何故痛みを感じる…?
瞼が重い。息が苦しい。
ー苦しそう。助けてあげよっか?
誰だ…?神の使いか…?
ー助けてほしい?
ああ…、この痛みから解放されるなら、何でもしてくれ…
ー右腕、出せる?
…右腕?
ー…っと。終わり〜。これで貴方は、

後悔した。

ー私のもの☆

神の使いでは決してない、「悪魔」と契約したことを。

296 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 13:28:07 ID:YIy/eG620
「貴方がヒトリ目。ワカシャモさ〜ん、おめでと〜☆」
「ヒトリ目…?それと契約ってどういうことだ…?」
「私の言うこと聞いて、嫌って言うなら、」
耳元で彼女は囁く。
「貴方を殺すから」
殺す…!?
驚きと恐怖で声も出ない。
「死にたくないなら、仲良くしましょ?」
契約じゃない。ただの支配じゃねーか…。
契約の証となった右腕からは、禍々しい邪気が流れ出ていた。

「…で、命令は何だ?」
従うのは嫌だったが、これでも一応命の恩人だ。とりあえず、聞いてやるか。
「えーっとね…って、名前聞いてなかったね」
「ああ、俺はフレイムだ」
「じゃあフレイム…」
最初の命令。
「南の町のポケモン達、皆殺し☆」

297 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 13:47:37 ID:YIy/eG620
「何だ…と?」
「だーかーら、町を襲ってくればいいの」
「襲ってこい、ったって…」
「…死にたいの?」
…クソッ…!従うしかねぇのか…!
「…分かった」
そう言って、町へ向かった。反論もできない自分に、怒りを感じた。

「…これでいいのか?」
「うん、十分十分☆」
当然、気持ちの良いものではなかった。手加減はしたものの、かなりの犠牲を出してしまった。
ここまで回復した自分は幸なのか不幸なのか。簡単に従うべきではないとは分かっていても、生死が関わってくると嫌とは言えなかった。

契約から1年が経った。

298 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 14:06:33 ID:YIy/eG620
気のせいか、最近溜め息をついていることが多くなった気がする。何か気になってることがあるのだろうか。
そんな疑問と共に、次は何をさせられるか、という恐怖が生まれる。

その時には既にバシャーモになっていた。当然だが、被害も大きくなっていった。
「今日は…まだ此処にいて。明日の昼まで…」
「え…?」
やっぱり、何かおかしい。今までは夜中限定だったのに。
「昼…?何故だ?」
「風向、湿度、気温…すべてが最高だから。…あいつの幸せを奪うのに」
溜め息の原因はそれだったのか。
「あいつって?」
「西へ真っ直ぐ進んだところの家。まず燃やして、帰ってきたところを襲って」
今までにそんなに細かい指令を聞いたことがない。それほど憎んでいる相手なのだろうか。
「…そこに二匹住んでいる。両方を殺して」
憎しみだけが感じられた。

299 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/17(土) 14:20:16 ID:gdVUGm+20
>>287-288
グラエナ、遂に心を開き始めましたね。
何故かナウシカのあのシーンを思い出してしまいました。
毎回続きを楽しみにしています。
>>290
感想ありがとうございます。
僕の小説では結構視点が変化しているのですが、やはりそうなると読みにくくなるのでしょうか。
物語を多角的に書こうとすると自然と視点切り替えが多くなってしまうorz


act27 蟻地獄

メルティーナと別れてから一時間後……三匹は未だ砂漠を放浪していた。
砂漠を照りつける太陽は西に傾きかけ、空は橙色に染まりつつある。
「もうじき陽が沈むでやんす。急ぐでやんすよ」
「ユメル、平気か…?」
「はい…なんとか……」
彼女は微笑んでロキに答えるも、その笑みはぎこちなく体力的にも辛そうだ。

「あ、兄貴…あれを見るでやんす!」
ふと、何かを見つけて前を指さすルシオ。
三匹の前方にはうっすらとではあったが、標高1,000m程の連なった岩山が見えた。その距離約1,5km。

300 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/17(土) 14:23:05 ID:gdVUGm+20
「あれがアメンティ山か…」
アメンティ山というのはこの砂漠で一番標高の高い山で、数世紀前にあの山ではあらゆる種族のポケモンが共存していたという。
「何処かに集落の入り口があるかもしれないでやんす!」
ルシオは胸を躍らせて山に向かって走り始めた。
「おい待て、ルシ…」
「! ルシオ、止まって!」
二匹が逸るルシオを止めようとした瞬間、彼が忽然と姿を消した。

「!? 消えた?」
「消えてはいません、こっちです!」
ロキとユメルは慌ててルシオの消えた場所へ向かう。
二匹の眼前に広がっていたのはーー

「これがその正体です…」
「これは…蟻地獄か!」
足元の砂に大穴をあけ、周囲の砂を絶え間なく飲み込んでいたのは蟻地獄であった。
穴の中心に向かってゆっくりと沈む砂の途中にルシオの姿が。
「兄貴〜助けてくれでやんす〜!」
上半身をバタつかせて必死に助けを求めるルシオ。しかし彼は既に手の届かない距離にいる。
「待ってろルシオ!」
反射的にロキはルシオを救おうと蟻地獄の中に飛び込み、彼のすぐ側に飛び降りた。

301 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/17(土) 14:27:22 ID:gdVUGm+20
そのままロキはルシオを背負うと砂を蹴って脱出を試みる。がーー

「と、跳べねぇ…」
沈んでいく砂は思いのほか柔らかく、後ろ足は無意味に砂を掻くばかり。
地上に向かって泳ごうとするも二匹の体は着実に引き寄せられていく。
流砂の中心ではナックラーが顔を出してカチカチと口を鳴らしていた。
「兄貴、食べられちゃうでやんす!」
「くそ…このままじゃ…」

と、突然二匹の体が青白い光に包まれて宙に浮かび上がる。
「一体何でやんすか…?」
地上を見上げるとユメルが瞳を青く光らせ、両手を二匹に向けていた。彼女が“念力”を使ったのだ。
「上手くいきましたね、良かった…」
ユメルは二匹を地上に引き上げて砂の上に下ろし、“念力”を解く。

「はぁ、助かったでやんす…」
「はは…ルシオを助けるつもりがユメルに助けられちゃったな…」

302 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 15:08:28 ID:YIy/eG620
木で造られたその家は火の粉でも容易く燃えた。
その炎は次々とその家を囲んでゆく。熱風が空を焦がす。

ーお母さんッ!!
いくら命令とはいえ、これ以上の罪悪感には耐えられなかった。
少女の家を奪った。少女の大切な母を奪った。彼女の平穏な日常を奪った。

「…背いたわね、命令に」
彼女はこちらに背を向けて話す。
「死ぬ覚悟は…できてるでしょう?答えは聞かないけど」
そう言い、こちらに歩いてきた。
「ただ一つ、聞かせてくれ。あの少女をそこまで憎む理由は何だ」

「私には"死の体"を冥王から与えられた…。彼女と一つ違いで…」
涙が地面を濡らす。
「あの娘がいなければ、私にも"生の体"が与えられた筈なのにッ…!!」
右腕に両手を重ねて向ける。小刻みに震えた手で。

「…さようなら…。」

303 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 16:49:37 ID:YIy/eG620
今宵私の手の中で 終話,
~胸の中の君へ~

村には平和な日々が戻った。
ハーブ達の一生懸命に謝る様に、村のポケモン達は俺が此処に住むことを許した。
皆の優しさが嬉しくて、思わず涙も流した。

月は高く昇っている。それに寄り添うように、一つ、星が静かに瞬いている。
悲しげに、寂しげに。

ーおやすみ。

その言葉が今も、この部屋に響いている。君はこの左腕の中に。月の光が、壁にフタリの影を映し出している。

君を護る。残された左腕に誓ってー

The evening in my hand, fin.

304 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 17:05:36 ID:YIy/eG620
さて、これで二つ目の小説を完結させることができました。
至らない点も多々あったかと思いますが、ここまで頑張ってこれたのも皆さんのご感想、ご指摘等があったからだと思います。
これからも描いていこうと思うので、読んでいただければ幸いです。

305 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/17(土) 21:07:25 ID:+JaTu/aU0
>>cotton
完結お疲れ様でした。

今回の小説は、前回と比べると
格段に良くなっていると思います。
まず、印象に残るストーリー。
そして、多様な性格の登場ポケモン達。
さらに、心情・情景描写が増えたこと。
最後に、訴えかけるものがあったこと。
ただ、如何せん地の文が少ないのと、
性格描写をセリフや記号(☆など)に
頼っている様子が見受けられます。
短くまとめようとするのは、もちろん
悪いことではありませんが、小説には
それに見合った長さというものがあると
思います。特に今回の小説には、回想や
視点切り替えの場面が多かった(しかも
それぞれが短いので読みづらい)ので、
もう少し長く深く書いた方が、より
物語の全容が見えやすかったのかな、と
思いました。
…批判ばかりになってしまいましたが。
次回作にも期待しています。これからも
頑張って下さい。


306 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/17(土) 21:52:18 ID:YIy/eG620
>>coopieさん
いえいえ。自分でも分かってない点とかあるので、ご批判とか、逆にありがたいです。某焼肉屋みたいですけど(違
>もう少し長く深く
短編×PSP×少ない引き出しorz
ッスからねぇ…。もう少しゆっくり進めたいと思います。今までのは年表みたいorz

とりあえず次は長編(短編の繰り返し?)の予定です。

307 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/19(月) 14:44:20 ID:tGXruUaE0
とりあえず長編に挑戦。とにかくつながりとか考えるのメンドイダロナー。
内容もほぼ未定なので世界観だけ。

世界は世民、そして三勢によって構成されていた。
破壊者、守護者、創造者。それぞれが役割を担い、世界のサイクルを生み出した。
その中で新たに生まれたのは、龍族と呼ばれる存在。
世界は、崩壊の危機に晒されていた。

Four powered for world 0,

破滅の予言者 ジラーチ、
聖戦の保護者 クレセリア、
開拓の巡礼者 セレビィ。
それぞれが勢力を創り、やがて世界を形成していった。
形成してゆく中で、"龍"が生み出され、世界に4つの力が存在することとなった。

308 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/19(月) 15:09:26 ID:tGXruUaE0
守護者、guardian
月の守護神クレセリアによって創られた、世界の現状維持の役割を担う勢力。
破壊者、breaker
流星の使徒ジラーチによって創られた、主に龍族の抑制などの戦闘専門の勢力。
創造者、creator
地の創設者セレビィによって創られた、環境、町村の復興や開発を行う勢力。
一つの力が行き過ぎたり、衰えたりしないように勢力同士が共存、存続してきた。
それを脅かしたのは龍の存在。
一匹で町一つを壊滅させるほどの圧倒的な戦闘力をもつ。したがって、集団で襲われると世界の崩壊につながる恐れがある。
3匹の精霊達は、世界の存続を自らの指揮に賭けたのであるー

309 :テスカ:2008/05/19(月) 18:22:41 ID:Jp8CZObo0
お疲れ様と頑張ってください
長編楽しみにしています。

310 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/19(月) 22:17:55 ID:QIrc3A6U0
>>304
小説完結乙です!
個々のキャラに個性が出ていてなおかつ印象に残るストーリーが良かったと思います。
次回作にも期待…と言おうとした矢先に既に新たな小説の世界設定が。
世界を担う三勢力と龍族……壮大なストーリーを予想。続きにwktkです!

311 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/20(火) 19:30:36 ID:qLx4s8Wk0
―18―

 一呼吸置いた後、僕は今までのことを順番に話していく。
あの森で起こったこと。僕が狩りを苦手としていること。仲間たちとのこと。そして……ジグザグマのこと。
話すのが辛い記憶であるはずなのに、意外にも僕は淡々と言葉を紡いでいた。
まるで、自分とは全く関係のない他のポケモンの身に起こった出来事を語るかのように。
野生の世界。人間から、そして人間と暮らしているポケモンからは想像もつかないような世界なんだろう。
僕らグラエナが他のポケモンを食べていたと聞いたとき、オオタチの顔がひどく引き攣っていたような気がする。
無理もないか。鋭い爪も牙も持たないポケモンは狩られる側だ。
僕はオオタチもその進化前のオタチもあの森では見たことがなかったが、もしいたならば確実に餌食になっていただろう。
「僕が話せるのはこれくらいかな……」
 一通り話し終え、僕は大きく息をつく。こんなにもぺらぺらと一方的に話をしたのは初めてかも知れない。
僕はもともと誰かと会話をするときも聞く側にまわることのほうが多かったから尚更だ。
それにしても不思議な感じだ。途中何度も話すのを躊躇ってしまうだろうと思っていた事柄でさえ、滞りなくすべて彼女たちに伝えることができてしまった。
「……えっと」
 先に口を開いたのは女の方だった。だけど、そこから言葉を続けることができずに言い淀んでしまっている。
何か言わなければと思っているけど、何を言っていいか分からない。そんな表情だ。
「ごめんね。そんな過去だなんて知らなかったから……」
「別に謝らなくてもいいよ。知らなかったから聞いたんでしょ?」
「それはそうだけど……話すのも辛かったでしょう?」
 辛い過去。本当にそうだったのだろうか。
確かに僕は、群れの仲間を失った。友達のジグザグマを目の前で殺された。群れを追放された。
意味合いとしては、これは辛いことなんだって分かる。でも、辛いってどんな感覚だったのかあやふやではっきりとしなかった。

312 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/20(火) 19:31:23 ID:qLx4s8Wk0
「分からない……」
「え?」
「話す前は、途中で取り乱してしまうかもしれないって思ってた。だけど、いざ話してみると僕は自分でも怖いくらいに落ち着いてたんだ。
仲間が死んだって聞かされた時も、ジグザグマが目の前で殺されたときでさえ……涙すら流れなかった。何も浮かんでこない。からっぽだった」
 もしかするとジグザグマが殺されたときに、僕の心は砕けてしまったのだろうか。
彼と一緒に会話して、笑い合っていた自分を上手く思い描けない。つい最近の記憶であるはずなのに。
「どうやら僕はいつの間にか冷酷なグラエナになってしまったみたいだ。森にいた時は絶対にそうはなりたくないって思ってたのにな……」
 そんな自分が余計に哀れに思えてきて、僕は肩を小刻みに震わせて笑ってみた。
乾いた笑い声だ。薄っぺらくて中身がつまってない。部屋に響いた声は、僕の虚しさとなって跳ね返ってくる。
「そんな……そんなことない!」
 僕の笑いを遮断するかのような声。隣にいたオオタチも少しびっくりしたみたいだ。
女の叫びで、僕は声を止める。見ると、彼女は今にも泣き出しそうな表情だった。
涙を誘うほど、僕の話は悲壮感溢れるものだったのだろうか。過去を話して誰かに泣かれても、いい気分はしないけど。
「あなたに僕の何が分かるの? 慰めなんていらないよ」
 僕が今までどんな環境で、どんな思いで生きて来たのか。
伝聞だけで、全部分かったみたいに言わないでよ。それに、そんな半端なかばい立てなんて僕は求めてない。
「確かに人間である私も、私と一緒に暮らしてきたミオも、君が言うような野生の世界を知らなかった。でも、君は……君は冷酷なグラエナじゃない」

313 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/20(火) 19:31:47 ID:qLx4s8Wk0
 首を横に振りながら、ゆっくりと諭すように彼女は僕に言う。
口調は穏やかだったけれど、目に見えない気迫のようなものを感じる。
彼女の瞳には迷いがない。いったいどこからそんな自信が来るのだろう。
「君が本当に心がからっぽで、冷酷なグラエナだって言うなら……今、君の目から流れているものは……何?」
「え……?」
 僕は思わず前足で頬に触れる。濡れた。冷たい。これは僕の……涙?
それじゃあ、僕は今、泣いていたのか――――?
自分が涙を流していたんだ、と分かったのとほぼ同時に僕は彼女に抱きしめられていた。
最初は少し驚いたけど、全身を包む優しい温もりが僕の抵抗しようという気持ちを鎮めてくれる。
「誰かのために涙を流せる君は、きっと優しい心を持ってる。悲しいときは無理しないで……泣いてもいいんだよ?」
 僕の耳元で、彼女がそっと語りかける。その瞬間、僕の胸の奥から熱いものがこみ上げてきて。
頬を伝って再び涙がこぼれ落ちた。流れても流れてもどんどん湧き出してきて、止まらない。
「あ……ああ、うわあああぁぁっ!」
 僕は彼女の胸に抱かれたまま声を震わせて泣いた。後から後から滂沱と流れ落ちる涙。
時折咳きこむ僕の背中を、彼女はそっと撫でてくれる。その心遣いがさらに僕の涙を促進させた。
 あの森でのこと。仲間とのこと。ジグザグマのこと。どんなに辛くても悲しんでいる余裕なんてなかった。
凝り固まっていた僕の心を、彼女の優しさが溶かしてくれたんだ。

314 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/20(火) 19:33:56 ID:qLx4s8Wk0
>>299 麒麟児さん
ああ、言われてみれば確かにナウシカのシーンと似てるかもしれません。
でもやっぱり心を開いてくれない野生の生き物には思い切って近づいてみなければと思うのです。
レスありがとうございました。

315 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/20(火) 23:33:06 ID:8Rsn+1dI0
とりあえずイメージとしては10話程度の話×3匹主人公。
あえて聞こう、これって長編?

一章 The story of guardian

【守護者】世界の現状維持の役割をもつ。平和と世界の秩序を守る。行動区によって、"聖天""聖地""聖女"に分けられる。

一, 白銀の守護者

「…ではこれで、朝礼を終了する!」
集会場である高原に、ピジョット:ハヤテ士官の声が響く。規律の正しい隊ではあるが、流石に朝礼の緊張から解放されると、何処からか欠伸も聞こえてくる。そうして今日の任務の始まりを告げるのだ。
今日の俺の任務は開発のための物資の輸送。
風は今日も心地よく、太陽は今日も暖かく。澄みきった蒼空は今日も変わらず頭上に在り続ける。それを守るのが俺達"聖天"の役目だから。

316 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/21(水) 00:06:21 ID:WXQEg3Os0
「…ディフ、種族名エアームド。任務の完了を認める」
手渡した書類を読み上げ、士官は『完了』の印を捺す。
「相変わらずの早仕事だな。5時間かかるところを2時間でやってのけるとは…」
「俺じゃなくても他にいたでしょう?この程度の仕事なら…」
「まぁ、そう言うな」
鞄へ書類を入れ、新たな書類の束を取り出す。パラパラと爪で捲りながら、話を続ける。
「最近じゃ大きな事件もないし…それにお前は、どんな指令でも引き受けてくれるから、な?」
「どんな指令でもって…断りたい時だってあるんですから…」
彼の言葉に思わず苦笑する。書類の向こうからも、高い笑い声が聞こえる。
「あー、これだこれだ」
彼は『緊急』の欄で手を止め、その中から一枚を抜き取った。
「『破壊者の保護』…?送信元には"聖地"とありますけど…」
「簡単なヒト捜しだ」
『簡単に』その言葉に、またか、と思わざるをえなかった。
「地上のクチートを保護して、連れてくればいい」
「地上…?地上は"聖地"の行動範囲じゃ…?」

317 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/21(水) 00:20:18 ID:WXQEg3Os0
厳しい表情で話を続ける。
「どうも苦戦しているらしくて、そこで、我々"聖天"にも協力を求めてきた、という訳だが、…引き受けてくれるか?」
既に受諾の印を持ち、返答を待っている。
「もう…面白がってるでしょ?俺の答え…」

そうは言ったが、断る気はない。
今まで任務を断ったことは無いし、失敗したこともない。
それが自分の、守護者しての誇りだから。白銀の翼は、守護者としての指名を帯びていたから。

318 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/21(水) 23:37:41 ID:WXQEg3Os0
改めて見たらエアムドさんの羽根って全部銀じゃないのねメンドクセ

二, 月下の誓い

指令の受諾を終え、寝床とする巣に帰った。
高原の真下に位置するこの森には、住処とするポケモン達の鳴き声が重なって聴こえてくる。
木々の間からは、月の光が零れ、巣を照らす。翼の羽根一枚一枚を輝かせ、葉に反射した光を灯す。

守護者の誓いをしたのも、月が鮮やかに照る夜だった。
ウチの長が月の守護神ということで、此処に入る者は月の儀式を行う。
月の光を、主要武器とする部分に刻む。そうすることで、護る者としての使命を刻み込む。

319 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/21(水) 23:51:51 ID:WXQEg3Os0
「…あら?ディフー?」
巣の下からする聞き慣れた声。
「ん…?レーシャ?」
ヒトリの少女がこちらを見上げる。彼女はグレイシア:レーシャ。守護者"聖女"に所属する。住処が近くなこともあり、幼馴染みである。
「任務の帰り。相変わらず、帰るの早いわね?」
「簡単な任務ばっかだからな、最近。明日も…」
「いいじゃない。平和が保ててるってことでしょ?」
「まあ、そうなんだけど…」

俺が武器としたのは、"翼"の力。
理由は、"あの事件"で彼女を護ったから。守護者になったのは、こいつの前で誓ったから。
ー俺の翼は、誰かを護るためにある、と。

320 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/22(木) 00:22:37 ID:+TItXqq+0
彼女の額の"氷石"もまた、月の光を受け、煌めいている。煌めきの中に、"事件"の時の傷が今も残る。思い出すと、まだ胸が苦しくなる。

「それじゃ、報告に行くから。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
彼女は巣を後にする。歩く度、月光に照らされる冷気が彼女を包んでいた。

姿が暗闇に消え、もう一度月を見上げた。降り注がれた光を浴び、眠りについた。

月は少しずつ移動を続け、木の陰になる。白銀の翼は影に染まったー

321 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/22(木) 23:05:31 ID:lCmwsR8E0
act28 絆

「お二人のお役に立てれば私も幸いです」
彼女はそう言って嬉しそうに微笑む。
蟻地獄のナックラーはガチガチと悔しそうに口を鳴らしながら砂の中に消えていった。
「さあ、早く集落の入り口を見つけ…うわ、危ないでやんす」
陽は沈み辺りは暗くなりかけていたが、彼らの周りに沢山の蟻地獄があるのが見えた。
「何だこれ…蟻地獄だらけじゃないか。気を付けて進もう」
三匹は足元に注意を払いつつアメンティ山へと向かっていく。

十数分後、何とか岩山の麓に辿り着いた彼らはドヴェルグ族集落の入り口を探すが、それらしいものは見当たらない。
唯一目に付いたものといえば袋小路になっている小さな洞穴だけだ。

「仕方ないな…入り口を探すのは明日にして今日は此処で休むか…」
三匹は洞穴の中に入り、ロキの持っていたランプに火を付ける。
洞穴の中はある程度広さがあって寝泊まりするにはうってつけの場所であった。
ロキは鞄からモモンの実を三個取り出すと二匹に一個ずつ渡して座り込む。
「明日は集落の入り口を探し出してドヴェルグ族を説得する。まずは第一歩…だな」
決意に溢れるロキの手の中にはキラリと輝く蒼い首飾りのようなものがあった。

322 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/22(木) 23:07:47 ID:lCmwsR8E0
「ロキ…それは?」
一見するとそれは表面に氷を纏った小さな石をあしらった銀の鎖の綺麗なネックレス。それは僅かながらも冷気を発していた。
「ああ、これは“凍結した岩”の欠片で出来た首飾りで、オレの母さんの形見なんだ…」
ロキはその首飾りを握りしめて目を瞑り、思い出に浸るように穏やかな表情をする。
彼の放つこの感情……きっとロキは両親の寵愛を受け続けて育ってきたのだろう。
ロキが羨ましいな…私には親と呼べるような人は誰一人としていないのだから。
もう二度とあんな過去には戻りたくないーーー

ユメルは湧き上がる感情を誤魔化すように受け取ったモモンをかじる。
かじられた部分から甘い香りの果汁がにじみ出て滴り落ち、辺りはモモンの濃厚な香りに包み込まれた。
「ユメルの姉貴、なんか調子が悪そうだけど…大丈夫でやんすか?」
ふと、ルシオが心配そうにユメルの顔を覗き込んできた。きっと彼女の感情を多少なりとも汲み取ってくれたのだろう。
「う、うん…大丈夫よ」
ユメルは感情を振り払うといつものように明るく振る舞う。
「そっか、ならいいでやんす。明日からは頑張らないといけないでやんすからね」

323 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/22(木) 23:14:20 ID:lCmwsR8E0
「そうですね…それに三人一緒ならロキの夢もいつか叶えられると思います…」
二匹は真剣な表情でロキを見つめていた。
最初はヴァン族に狙われるユメルを助けるためであったが、真の旅の目的を見い出した三匹の志は強く、そして固い。
ロキは形見の首飾りをかけ、首周りのふさふさした毛でそれを覆い隠す。

「…オレはこの砂漠を一つにまとめ上げ、種族の壁を越え皆が共に暮らせる理想の世界を作り出す。時間は掛かるかもしれない…でも砂漠の未来のためにも皆が手を取り合って一つになる必要がある。そのためには二匹の力が必要なんだ……」
「勿論オイラは兄貴に一生ついていくでやんす!」
「私も…ご一緒させて下さい…」
そう言って手の平を重ねる三匹の間には『仲間』という断ち切る事の出来ない絆が出来ていた。
ロキは滲み出る涙を拭うと呟く。
「すまない…オレの勝手で二人に迷惑をかけて…」
「そんなことはいいでやんす。それよりも明日のために今日は早く寝るでやんすよ」
そろそろ夜も更ける時間帯。ロキは二匹におやすみを言うと体を丸めて眠りにつく。ユメルとルシオも横たわって寝息を立て始める。

闇の帳の中、満月は今日も砂漠を朧気に照らし続けていた。

324 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/22(木) 23:36:55 ID:+TItXqq+0
今更ながら思った。俺の小説、夜多過ぎwww

三, 牙の少女

青空の一つの影に、太陽が照りつける。白銀は光を受け、目映く輝く。月光のような柔らかさではなく、その光には、鋭いという印象を受ける。

取りあえず、上空から捜すことにした。当然、特性"鋭い眼"でも地上、それも森の中の一匹を見つけるのは容易ではない。
"聖地"ですら見つけるのが困難だというのに、"聖天"の助けを得るのはどうかと思うのだが…。
それでも、ヒントが無い訳ではない。捜す相手は負傷したクチート。それならば…。

…あったあった、岩場の真下のところに。牙を引き摺ったような跡。

325 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/22(木) 23:51:36 ID:+TItXqq+0
着地したのは洞窟の前。"手がかり"は、洞窟の中へと続いている。洞窟といっても、そこまで大きいわけではなく、少し跳ぶだけで天井に頭がぶつかる高さである。
「…!?誰…?」
洞窟内に響く声。
「…いた。お前を捜してたんだ」
声の正体:クチートは恐れるように、石壁を背にしてこちらを見ている。
「…敵じゃない。助けに来ただけだ」
どんな言葉をかけようと、恐怖感が薄れる様子はない。まだ幼い彼女は、今にも泣き出しそうな雰囲気である。
「嫌…嫌…!」
「…ったく。どうすりゃ…」
『いたー!この中だよ、ドラ!』
「ッ…?誰だ…?」
入り口から声がする。二匹の影が、中へ伸びてくる。

326 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/23(金) 00:15:08 ID:oosrM7Zw0
『ドラじゃねぇッ!ドランだっ!!』
『いいじゃん、別にどっちでも』
『…まあ良い。で、居たのか、ナノ?』
声の主はこちらを指差す。クチートの、恐怖に満ちた声が響いた。
「ッと、…あれ〜?誰かもう一匹いる〜?」
近寄ってきた声の主。"ナノ"と呼ばれたニューラである。その後ろについてきたのは"ドラ"…もとい、"ドラン"と呼ばれたコドラ。
「…お前、"聖天"か?何故此処にいる?」
「任務だ、破壊者を捜せって」
「…ねぇ」
ニューラが辺りを見回して言う。
「ん…?どうした、ナノ」
「つまり、あたし達は任務を先に越されたってことよね」
「ああ、そうなるな」
「でもさ、今状況的に有利なのはこっちよね?」
「…!お前ら、まさか…!!」

「そう。あたし達と戦うの☆」

その漆黒の体は、近づく度に更に重くなってくる。

327 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/23(金) 01:07:48 ID:JHeP98/E0
>>麒麟児
一方のメルさんの方はどうなっているの
でしょうね。続きが気になります。
>>cotton
今回はまたガラッと作風を変えて……
なかなか良い雰囲気出てますよ。


328 :若葉マーク:2008/05/23(金) 23:22:40 ID:RqAk+uMU0
お久しぶりです皆さん。若葉マークです。
長い間空けていましたがもうちょっと文章の勉強をしてから出直してきます。
もっとも、誰も覚えていないと思いますが。

329 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/23(金) 23:24:31 ID:oosrM7Zw0
>>326の最後の文、寝たいからって適当になった〜/(^o^)\
その体の漆黒は、影で更に黒く、重くなっていった。
と変換してくださいなorz

四, 絶体絶命

追い詰められたとしか言いようがない。
後ろは壁、こちらを恐れる少女がヒトリ。相手は二匹。洞窟の中、翼の力をフルに使えない。
こちらに味方する条件など、一つも無い。

考えている間に、だんだんと影は近づいてくる。
「そいつは良い考えだな。たまにはマシなこと言うじゃねーか」
「たまには〜?ひっど〜い」
二匹とも戦闘の体勢に入る。
「…"リーダー"ッ…!怖いよ…えぐっ…」
無論クチートに戦う様子は無い。
「貴様ら…!」
「行くよ?騙爪:騙し討ちッ☆」
消えた…と同時に、胸に刺さるような感触。

330 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/23(金) 23:46:28 ID:oosrM7Zw0
「ぐッ…!」
完全に油断していた。急所への一撃を受け、隙を作ってしまった。
「チャンスッ!乱爪:乱れ引っ掻き!」
隙のできた体に、一、二、三…と、舞うように鋭爪を当ててくる。鋼の体へも、確実にダメージを重ねてゆく。避けようとしても、体が言うことを聞かない。逃げることもできず、ただ受け続けるしか無かった。
乱爪が終わる頃には、体には重なった傷が残った。
「さあ、決めてあげて、ドラ?」
「だから…ドランだっつってんだろ…!」
一歩退いて、首を引っ込める。
「堅頭:頭突き!」
「くそッ…!」
翼で受け止める。堅頭の威力に、思わず後ずさりする。
「堅尾:アイアンテール!」
彼は更に攻撃を重ねてくる。後ろには、壁が迫ってきていた。

「…あの時の"リーダー"と、同じ眼してる…」

331 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/24(土) 00:24:24 ID:i2vj+Kl20
「…え?」
ふと少女が口を開いた。
「私に声掛けてくれた時の、"リーダー"の眼…」
"リーダー"の存在のお陰なのか、彼女の恐怖感はもう無かった。
「あの…エアームド…?」
「…何だ?」
「あたしにも、何か手伝える…?」
彼女の涙は頬を伝い、土を濡らした。

332 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/24(土) 12:50:46 ID:QWXNBRSY0
取り込み中失礼します。リクエストいいでしょうか
結構「やんちゃ」なオス、メス2匹の小説を
時間が空いている方がいればお願いします。

333 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/24(土) 12:52:28 ID:i2vj+Kl20
五, 窮牙猫を噛む

クチートが前へ出る。先程までただ恐怖に震えていた筈なのに。負傷して、傷だらけの筈なのに。それほど自分に"リーダー"の面影があるのだろうか。そこまで尊敬するリーダーとは誰なのだろうか。
「…何するつもりだ?」
「さあ?大人しく負けを認めたんじゃない?」
彼女はゆっくりと二匹の方へ歩く。二匹は戦闘の体勢を解いた。
「悪く思わないでね〜。こっちも任務だから」
「行くぞ、破壊者」
「…鉄牙:アイアンヘッドッ!」
振り向く、と同時に背の牙がニューラにヒットする。
「わッ!?」
「な、何だ!?」
勢いよく振られた牙は彼女を吹き飛ばした。もう一度牙を振り、怯んだコドラに、鉄牙を叩き込んだ。
「クッ…!」
「作戦通りやったけど、これでいいの?」
「ああ、上出来だ…!」

334 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/24(土) 13:36:54 ID:i2vj+Kl20
時間稼ぎ、うまくいった。全身に力を込め、体勢を低くする。
「クチート、右に避けろ。…決める」
外の光に向かって突進する。少女の姿が近づき、瞬間に消えた。
「勇翼:ブレイブバード…ッ!!」

ー洞窟を後にし、近くの大樹へ向かった。向かった、と言うよりは避難した、と言った方が正しいか。
翔ぼうとすると、翼に激痛が走る。高原の集会所へ帰還することも、巣へ帰ることもできなかった。とりあえず、今日は此処で羽を休めるしかなかった。
月に照らされ、寄り添った影が作られる。いつも背景にしか見えなかった星々が、今日は一段と明るく見えた。
「そうだ、」
口を開いたのはクチート。
「名前、教えてくれる?」
緊張しているのか恐れがあるのか、少しぎこちないが、少女は笑顔で問う。

335 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/24(土) 14:03:03 ID:i2vj+Kl20
「名前?…ああ、俺はディフ。お前は?」
「あたしはロヴィン。破壊者の"覇女"」
破壊者…。
「…そうだった。何故、破壊者が此処に?」
そう聞くと、少女の顔から笑みが消えた。
「あ、いや…答えたくないなら別にいいんだが…」
「…あ、ううん。…任務で怪我したの。逃げたとこに洞窟があったから、隠れてただけ」
「…そうか。」
さっき言ってた"リーダー"とは、その任務の時のリーダーだろうか。憧れているのだろうか、尊敬しているのだろうか。此処に来るまで、ずっと誰かのことを想ってたような気がする。
…考えても分からない。どうせ、明日になれば任務を終える。いつもより遅れる結果となったが、今回も無事…ではないが、守護の役目を果たせた。
フタリの影は、森の深い闇へと伸びていったー

336 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/24(土) 17:58:18 ID:k0CI8Slo0
―19―

「もう、落ちついた?」
 僕の背中を優しくさすりながら、彼女は僕に訊ねる。
瞳の奥はまだ熱を持ったままだった。でも、もう涙は流れていない。
彼女の服が肩から胸にかけてじっとりと湿っている。どのくらい泣いていたんだろう。
時々嗚咽が喉の奥からせり上がってくるけど、とりあえずちゃんと喋れるくらいには落ち着いてきた。
「う、うん……」
「そっか。よかった」
 彼女は僕から手を離し、安心したように微笑む。
溜まっていた涙をすべて流しきったせいか、なんとなく晴れやかな気分だった。
目の前が開けて、視界が明るくなったような気さえしてくる。
 ふと、彼女の隣にいたオオタチと目が合う。そういえば、オオタチはずっとここにいたんだっけ。
ということは彼女に抱かれて泣いていた僕の姿をずっと見られていたことに。
なんだか気恥しくなって、僕は慌ててオオタチから目を逸らした。
「えっと、私が言えたことじゃないかもしれないけど……ジグザグマは君に出会えて幸せだったと思うよ。
だから自分を責めないで、冥福を祈ってあげたほうが……きっとジグザグマも喜ぶと思う」
 オオタチなりに僕を励まそうとしてくれているんだろう。僕もそうやってすぐに気持ちを切り替えられたらいいんだけど、なかなかそうもいかない。
今となっては彼の本心は分からないままだ。僕はジグザグマと会えてよかった。でも彼はどう思っていたんだろう。
彼が捕まったときのことを思うとやっぱり僕のせいだったんじゃないか、とどうしても考えてしまう。
あのとき僕がもっと周囲に気を配っていれば。会う約束なんてしなければ。彼は死なずに済んだんじゃないか、と。
「少しずつ、ゆっくりと気持ちを整理していけばいいわ。君のペースで、ね」
 まだ腑に落ちない僕の様子を悟ったのか、彼女が僕に言う。
いくら悔やんだところで、起きてしまった過去の出来事は変えられない。
それならば彼との思い出を大切に心の中に留めておいて、オオタチの言うように冥福を祈ってあげたい。
今はまだ無理でも、いつか心からそう願える日が来るといいなと思う。
「……うん、ありがとう、二人とも。それと……さっきはごめんなさい。痛かったでしょ?」
 もう血は止まっていたが、彼女の右手の甲にはしっかりと歯形が残っている。
いくら人間を警戒していたとはいえ、僕を助けてくれた恩を仇で返すような真似をしてしまったのだ。ここはちゃんと謝っておきたかった。
「いいのよ。気にしないで。……そういえば、君はここを出た後、どこか行くあてがあるの?」
 彼女が言ったようにここは怪我や病気のポケモンが来るところならば、それが治れば出ていくのだろう。
その後のことなんて全然考えてなかった。裏切り者として仲間を追われた僕は、もう森には戻れない。
だからと言って、森の外を全然知らない僕ではどこか他の住処を探すのも難しい。

337 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/24(土) 17:58:50 ID:k0CI8Slo0
「……分からない」
「そっか……。ねえ、ミオ」
 彼女はオオタチの方に視線を向ける。オオタチは少しの間彼女の目を見ていたが、やがて納得したように頷いた。
何も言わなくても気持ちが通じ合っている、ということなのだろうか。
「私は歓迎するよ、ユナ」
「ありがと」
 二人で何を伝えあっていたのか、脇で見ていた僕には皆目分からない。
トレーナーとポケモンの強い絆のようなものを目の当たりにしたような気がした。
「もしよかったらさ、私達のところに来ない?」
「えっ?」
 僕は思わず声を上げていた。それはつまり彼女のポケモンに、トレーナーのポケモンにならないかという提案だ。
さっきオオタチと交わしていたのは、僕にこの言葉を伝えるためのやりとりだったのだろうか。
「こうやって出会ったのも何かの縁だし、話を聞いた後じゃなんだか放っておけなくてね。どうかしら?」
「でも……僕はグラエナだよ。オオタチと一緒にいてもいいの?」
 あの森ではそうでなかったが、もしかするとオオタチとは食物連鎖の関係にあったかもしれないのだ。
ジグザグマのときのこともあってか、なんとなくオオタチと近づくのを躊躇ってしまう。
「野生で生活するのと、トレーナーと一緒に暮らすのとは違うわ。種族なんて気にしなくてもいいのよ」
 隣のオオタチもうんうんと頷いている。この部屋に入ってきたときは僕のことを怖がっていたように見えたのに、今はそんな気配は微塵も感じられない。
あれはただ単に僕の威嚇的な態度に恐れを抱いていたのであって、グラエナそのものが怖かったわけではないということなのか。
ずっとトレーナーと暮らしてきたのなら、種族の違いなんて気にしないのかもしれないけど。
僕は今まで野生で生きてきたんだ。根付いた考えや価値観はそう簡単には変わらない。
 けれど。人間の温かさを知ってしまったせいだろうか。彼女と一緒に行くのも悪くないという考えも浮かびつつあった。
行くべきか、行かざるべきか。信じるべきか、疑うべきか。正反対の気持ちが僕の中で交差している。

338 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/24(土) 17:59:19 ID:k0CI8Slo0
「……あなたのこと、信じてもいいの?」
「ええ。人間もそんなに悪い人ばかりじゃないって、私が君に教えてあげるわ」
 自信たっぷりの彼女の言葉。裏を返せば自分は良い人間だと言っているようなもの。
でも僕はついさっき彼女がくれた優しさは本物だと思ったし、信じていたかったんだ。
だからそのとき彼女の目をまっすぐ見つめながら、頷くことが出来たんだと思う。
「分かった……信じてみるよ」
 僕の答えを聞いた途端、彼女とオオタチはほとんど同じタイミングで笑顔になる。
なんだか僕の方まで思わず笑ってしまいそうになる、眩しい笑顔だ。
こういう所を見ていると、やっぱり二人は心が通じ合っているんだなあと思う。
「ありがとう」
 微笑みながら彼女は僕の頭を撫でた。最初は拒んでいたその手が、今はただただ温かい。
この温もりをいつまでも傍に感じていたいと、僕は心から思ったんだ。
「そう言えばまだちゃんと自己紹介してなかったわね。私はユナ、こっちのオオタチはミオよ。よろしくね、グラ……いえ、ラルフ」
「ラルフ……?」
「そう、君の名前。呼ぶ時にグラエナじゃよそよそしいでしょ。私達トレーナーはポケモンに種族名以外のニックネームをつけることがあるの。私から君への贈り物、受け取ってくれる?」
 彼女がオオタチのことをミオと呼んでいたのも、そのニックネームというやつなんだろう。
トレーナーのポケモンだからこそ得られるもの。このラルフという名前は僕が彼女のポケモンである証のようなものか。
そう考えるとニックネームも悪くないような気がしてきた。僕はラルフ。うん、自分で言うのもなんだけどなかなかいい響きかもしれない。
「ありがとう。大事にするよ。……えっと、僕の方こそよろしくね。ユナ、ミオ」
 名前を呼ぶのは初めてで、何だか照れくさかったけど、僕はちゃんと二人の名前を呼んで挨拶を交わしたんだ。


    END

339 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/05/25(日) 14:28:58 ID:M2fnG6TU0
カゲフミさんへ
 執筆&投稿。お疲れさまでした。
 そして良質な短編小説をごちそうさまでした(笑)
 前半はジグザグマとの交流。
 後半はユナとの交流。
 どちらも両者の感情が深く描写してあって、かなりスラスラと読み進める事が出来ました。


 執筆者を降りた私が言うのもおこがましいかもしれませんが、新作期待しております。

340 :パウス ◆EvJGalaxy2 :2008/05/25(日) 14:55:37 ID:tR3cCajc0
>>336-338
執筆お疲れさまでした。コメントはしてませんでしたが、じっくりと読ませていただいてましたよ。
やはり物語を考えるのが上手で、羨ましい限りです。

ただボールで無理矢理捕まえるんじゃなくて、こういう風に信頼し合えてから仲間になれば、それはいつまでも続きそうですよね。

341 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/25(日) 19:41:00 ID:XfZUD1Yo0
>>カゲフミ
執筆お疲れ様でした。
やはり文章力は高く、描写も深いので、
いつかROM専でなくなるであろう僕に
とってもとても(シャレじゃないですよ
(笑))参考になります。

ただ、毎度のごとく
少々苦言を言わせてもらいますと…
まず、山本さんの言葉を引用しますが、
前半のジグザグマとの交流の場面に
比べて、後半のユナとの交流の場面の
描写が浅く、バランスが悪い気が
します。『END』の文字を見たとき、
正直「えっ、もう終わり?」と思って
しまいました。
次に、これも同じようなことですが、
やや畳みかけるように終わった感じが
あります。元々別々だった二つの
ストーリーを、無理矢理くっつけた
ような……不自然な構成に
なってしまったせいでしょうか。
最後に、結局何が言いたいのか、
よく分からなかったということ。
これは僕の読解力が無いせいかも
しれませんが……改めて読み返して
みると、最初の方は『野生の厳しさ』
『弱肉強食』などの言葉がレスにも
目立っていたのですが、結局話が
完結する時には、主人公はトレーナーと
共に暮らしていくことになり、
『野生』の欠片も無くなっています。
『野生のポケモン』と『トレーナーの
ポケモン』……どちらに焦点を置いて
読めば良いのでしょうか。

342 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/05/25(日) 19:42:17 ID:XfZUD1Yo0
言い方がきつかったかもしれません。
すいませんでした。
ただ個人の意見として、参考にして
頂ければ幸いです。

343 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/05/25(日) 21:45:59 ID:OCTQxuHw0
>>342
 執筆者で普段から物書いてる人から言わせてもらいますが……。正直、先ほどのコメントは執筆する方の書く気を削ぐことになりかねません。
 カゲフミさんがどう思っているのか分からないので深くは言いませんが、ここで本格的な作品を求めるのは間違いでは?

344 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/25(日) 21:59:03 ID:VdEE/zwY0
一度言ったことは取り消せないんで書き込むときは気をつけた方が良いですよ

345 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/25(日) 23:35:51 ID:LlNHh37w0
六, 帰還

生憎の曇り空。冷たい風が、昨日受けた傷に染みる。深緑の木々の中からは、誰の鳴き声も聞こえない。

集会所まで戻れば、専属の創造者を雇っているため治療もしてくれる。傷は完治したとはいえず、ちゃんと戻れるか心配ではあった。しかし、疲れきったこいつのためには、その方が良いと思い、帰還することにした。

「しっかり掴まってろ…!」
ロヴィンを背中に乗せ、上昇を始める。そういえば、今まで背中に乗せて翔んだのは、レーシャだけだったと思う。イーブイだった頃、グレイシアに進化するために出かけたあの日、そして"事件"の日。
レーシャの時もそうだったが、誰かを乗せて翔ぶのはいつも以上に疲れてしょうがない。ある程度の高さまで上がればだいぶ楽にはなるが。

346 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/25(日) 23:53:19 ID:LlNHh37w0
「うわぁ…高ぁい…」
ついさっきまで寄り添って寝ていた大樹は、上空からでは森の中のただ一つの点でしかなかった。
「風が気持ち良いね」
高原へ向けて空を滑る。ロヴィンが、好奇心に満ち溢れた顔で呟く。
レーシャも度々、そんなことを言ってた気がする。空を翔ぶ機会など無いのだから、風の快さに感動するのも当然なのかもしれない。
ただ、透き通った蒼空なら、もっと清々しかっただろうに。
「…見えてきた。あれが俺達"聖天"の集会所だ」
目印の空色の旗。流れる風に棚引いている。
「ん…?何、あれ?」
「あいつら…何してんだ?」
崖には淡い茶色の羽根、ピジョン達が立っている。士官と同じ種族ということで、精兵として鍛えられている彼ら。普段なら、既に任務に向かっている時間だが…?

347 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/26(月) 00:08:40 ID:JSB2OBdo0
一匹が合図を出す、と同時に全体が地を発った。彼らは羽撃き、こちらへ向かってくる。後には土煙が舞い上がった。
「ねぇ…なんだか、おかしくない?」
そう思うのも無理はない。全員の眼は、獲物を捉えたように、鋭い。
「…ッ!?」
空を切り、先頭の一匹が突っ込んでくる。擦れ違う、刹那…

「ぐあぁぁぁぁッ!!」

気付けば、点の集まりだった筈の森はすぐそこまで迫っていた。擦れ違い様に電光石火を受けた右肩から放たれた鮮血は、垂り尾の如く宙に伸び広がった。
激痛が走った。が、次第に薄れ、感じなくなってしまった。ロヴィンの叫ぶ声が聞こえ、風の音の中に消えた。
一筋の白光は、音もなく堕ちゆくー

348 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/26(月) 17:10:32 ID:1q8vRH1w0
>>338
やはりカゲフミ氏の描く小説は心情表現が細かくて素晴らしいです。
ユナに心を開き、ジグザグマの死を乗り越えたラルフ…彼の心の変化が文章にとても良く現れていてその感情がこちらに伝わってくる程でした。
次回作にも非常に期待しています!
>>347
ディフー墜落の危機!
続きの展開が気になります。

349 :カゲフミ ◆U2shadow16 :2008/05/26(月) 18:28:01 ID:ByKvhRE20
>>339 山本さん
短編、というにはかなり長くなってしまいました。言うならば中編ですかね。
登場人物の感情を率直に表現できるというのはやはり一人称の魅力だと思うのです。
新作ですか。考えている作品があるにはあるのですが、執筆するのはもう少し土台をしっかりさせてからですね。
レスありがとうございました。

>>340 パウスさん
ゲームでもこういった仲間のしかたがあってもいいんじゃないかなと思うのです。
ボールで捕まえるにしても、正々堂々勝負を挑むならば別に悪いことではないでしょうがね。
レスありがとうございました。

>>341 coopieさん
なるほど、後半が薄く感じられましたか。
この話はwikiの方にある遅行性悦楽という作品の過去の話なので、
絶対に未来につなげなければならない、という焦りがあったのかもしれません。
ユナとの交流の場面ですが、心に深い傷を受けた時に、優しくしてくれる誰かの言葉や存在は大きく感じるものです。
だからこそグラエナはユナに心を開いた、と解釈していただけませんか。
何が言いたいのかについてですが、私はもともと物語のテーマなるものを考えておりません。
ただ私が書きたかったことを書いているだけなので、何が言いたいのか私自身分からないのです。
誰かが私の物語を読んで、何かメッセージを感じとってくれたのならばそれがテーマでいいのです。
ですが強いて言うならば、野生の世界からトレーナーのもとで暮らすことになるまでの主人公の心の動き、を感じていただければと思います。
欠点はなかなか自分では気づきにくいものです。指摘&レスありがとうございました。

>>348 麒麟児さん
一人称で進めたのだから心理表現に気合いを入れねば、と意気込んでおりました。
ユナに心を開いたのは確かですが、まだジグザグマのことは心に残っているんじゃないかと思います。事が起こってから、まだ日が浅いですからね。
レスありがとうございました。

350 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/26(月) 23:40:35 ID:JSB2OBdo0
七, 創造の少女

ー死んだのか…?
感じる世界は、辺りを見回しても真っ暗で、自分の存在すら確かではない。音もない。風もない。ただ、空虚を感じるだけ。
これが冥界なのだろうか。思っていたより寂しいところなんだな。誰もいない、物静かな場所。此処をずっと、彷徨うのだろうか…。
ー天癒:日本晴れ…!
何も無い筈の空間に、何処からか声が聞こえた。そして、世界は光に包まれー

「…眩しい…?」
微かに開いた眼でも判る。これは、太陽のヒカリ。
ぼやけて見える世界。…死んでない、生きてる。
「気がつきました?」
陽の光は、こちらを覗き込む顔に遮られた。心配そうな、安心したような笑顔。

351 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/26(月) 23:59:12 ID:JSB2OBdo0
「…此処は、何処だ…?」
起きあがろうとするが、
「…ヴッ!?」
全身が痺れたように動かない。覗き込む少女は慌てて制す。
「動いちゃ駄目ですよぅ…。まだ治療終わってないんですから…」
この声…闇の中で聞こえた声は、この少女のだったのか…
少女:リーフィアは、ポーチを開け、何やらごそごそやっている。
「少し、じっとしてて下さいね…」
彼女は小振りの木の実を取り出す。それを一口かじって口に含み、
「果癒:自然の恵み…」
「…!?」
ーそっと、右肩の傷口に口づけをする。
…不思議だ。さっきまでの痺れが消え、だいぶ楽になった。彼女が口にした木の実、
「ラムの実…?」
小さく、鮮やかな緑のそれは、ラムに間違いなかった。
「いいのか…?ラムって高級なんだろ…?」
「そんなこと言ってる場合じゃないですから。それに、私達の森なら、すぐ手に入ります。」

352 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/27(火) 00:29:07 ID:HrFvMTZ20
彼女の治療はその後も続いた。流石は創造者。手際よく進めてゆく。

今頃気づいたのだが、ロヴィンは隣に眠っていた。既に治療は終わったらしく、あれほど傷ついていた体は、ほとんど癒えていた。
「そうだ…創造者が何故此処に?」
「"聖天"さんからの依頼です。今の方と交代で、3日間。…それはそうと、驚きましたよ」
あれこれ木の実を取り出し、前に並べる。日の光に照らされ、それらは輝いて見えた。
「…何を?」
「向かっている途中に、いきなりあなた方が降ってきたんです。それはもう、酷い怪我で…」
…降ってきた…?…そうだった。
「襲われたんだ。ピジョン達に…」
「ピジョン…?ああ、彼らなら、さっき会いましたよ。」
「…!何か言ってたか?教えてくれッ!」
彼らが俺を襲った理由。何か知っている筈…!
「まあまあ…。少し落ち着きましょう…。傷も完全に治ってはいないんですから」
彼女は木の実を選びながら、苦笑いを浮かべた。

353 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/27(火) 15:33:04 ID:cZsTyxaE0
ここは新参も小説を書いてもいいんですか?

354 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/27(火) 23:16:10 ID:HrFvMTZ20
>>353
大丈夫だと思いますよ。現に俺がそうでしたし。

八, 真相

だいぶ意識がはっきりしてきた。
治療を行っていたのは、崖近くの岩陰。近くに葉や枝が散らばっていることから、途中で木に当たったと考えられる。
「…さて、これでだいぶ良くなったと思いますけど…」
リーフィアは木の実や道具類を片付ける。胸の傷も翼の怪我も、ほぼ無くなっていた。
「…ありがとな。感謝する」
「フフッ。どういたしまして」
優しく微笑み、ポーチを閉じた。
「…では、話しましょうか。さっきのこと」
「…時間は大丈夫なのか?」
「構いませんよ。交代は明日からで、今日は準備だけですから」
一つ息を吸い、話を始めた。

355 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/27(火) 23:38:25 ID:HrFvMTZ20
ー薄暗い森の中、依頼先の集会所目指して歩く。
「…えーっと…。あ、あったあった」
木々の隙間から、目印の空色の旗が靡くのが見える。
今までに行ったことのない今回の依頼先。どんな所なんだろう。空は、どれだけ近く見えるのだろう。期待で心が弾む。
ふと、
「ん…!?」
誰かの叫ぶ声がした。その声が上空から聞こえたものだと判った瞬間…。
「うわッ…!!」
ズザッ、ズザッと、葉が音をたてて、折れた枝と共に誰かが放り落とされた。
「フタリとも、酷い怪我…!」
右肩から血を流すエアームドと、全身に傷を負ったクチート。二匹とも、意識を失っている。
「大丈夫ですか!?」
右肩の傷口は、戦いでできたものらしい。一本の紅い筋が鋭く引かれている。
戦い…、…急がないと。早くしないと、追っ手が来る。また、清らかな血が汚れに染まってしまう…。

356 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/28(水) 00:03:56 ID:c3uCve5Q0
「…?この辺りに落ちたよな?」
「…あ。そこのリーフィア、聞きたいことがあるんだが…」
話しかけてきたのは二匹のピジョン。
「なんでしょうか?」
「この辺りに、エアームドとクチートが落ちてきた筈なんだが…何か知らないか?」
気付かれないように、二匹をその陰に隠した岩をチラリと見た。良かった、間にあって。
そのピジョンが丁度今立っているところ、そこはフタリがさっき落ちてきた場所。その場所と彼らを連れていった道の血の跡は、地癒:ギガドレインで吸収して無くした。彼らの姿を見つかりにくい場所にも隠した。
…そう。これで戦いが起こることはない。彼らがこれ以上汚れに染まることはない。
自分の貫く正義。守ることができた。視線を戻し、誇らしく答えた。
「いいえ、知りません」と。

357 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/28(水) 00:39:28 ID:c3uCve5Q0
「ーそれで、書類をもらったんです。何か分かったら連絡してくれ、って」
ポーチから、二枚折りにされた紙を取り出し、こちらに渡した。
「その書類、読んだんですけど、目を覆いたくなるような内容ですね」
「そうか?こんな依頼は結構多いが…」

「戦いって、何がおもしろいんでしょうか…?」
彼女は、真摯な表情で問う。
「え…?」
「血って、生き物が生きてるって証ですよね。その"生きる証"を奪って、何が楽しいんでしょうか」
時々俯きながら、訴えを続ける。
「血の味って苦くて、血の色って暗くて。だから戦いは嫌いなんです。だから、」
顔を上げ、じっとこちらを見つめる。鋭さはない、でも、どこか力強い眼。
「清い血を奪い合う戦いは、もうやめてください…!」
彼女の唱えた天癒は、森の木々を強く照らしつけた。

依頼:聖地。
内容:同勢力への攻撃を行った守護者、ディフ及び破壊者の

"捕縛若しくは撃破"。

358 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/29(木) 21:58:13 ID:HBoY2CEo0
>>327を見てメルが集落に戻る場面を書いていない事に気付き、急遽この一話を書き足してみた。
下書き等をしていないから文章がおかしいかもしれないorz

act29 帰還

陽が沈み、夜空に星が瞬き始めた頃ーー
空を舞う一対の翼はアース族集落の最上階…二階に位置する大窓から突き出たテラスに上手く降り立つ。
「族長!」
そしてメルティーナは部屋の中にいたハピナス…エイル族長を呼んだ。
椅子に腰掛けて考え事をしていたエイルはテラスの方を向いた。
「メルティーナ、久しぶりですね。無事に帰ってこれて何よりです。…しかし私達はヴァン族の襲撃にあってーー」
「それに関してはロキ達から話を伺いました。何故彼らはあんな砂漠の中心部を放浪していたのですか?」
前置きも無い単刀直入なメルティーナの質問にエイルは表情を曇らせ、彼女から目を背ける。
「…彼らに対し私は集落を襲われる原因となったキルリアを見捨てて集落に残るか、またはキルリアと共に集落を追放されるかの選択を迫りました。
 メルティーナ…あなたが砂漠を放浪していたロキ達を見つけたのならば彼らはこの集落を出てまでもあのキルリアを守る道を選んだという事になります…」

359 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/29(木) 22:01:11 ID:HBoY2CEo0
「族長…何故アース族でないポケモンを受け入れる事が出来ないのですか?
 私はこの四年間、世界中を巡って様々な地域でタイプに関係なく共存しているポケモン達を目にしてきました。ファーブニルが姿を消した今、私達も風習に捕らわれずに手を取り合う道をとるべきではないですか?」
メルティーナは間発入れずに族長に向かって彼女自身の…ロキ達の抱く真剣な思いをぶつける。
「…ですが、数世紀も前から守られてきたこの風習を簡単に変える訳にもいきませんし、今回に至ってはあのキルリアが原因でヴァン族に襲われて死者まで出てしまいました。
 ですから私はアース族の全滅を避けるためにキルリアを追い出すという結論に至ったのです…」
族長は更に憂鬱そうな表情をしてうつむく。ロキ達を追い出す事は彼女にとって苦渋の決断だったのだろう。
確かにキルリアを此処に残し続けていればそれを狙うヴァン族の度重なる襲撃に遭い、全滅は免れない。
しかしそれはアース族が一つだから。ロキの唱える通りに他の種族と協力すればヴァン族にも対抗する事が出来るだろう。

360 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/05/29(木) 22:06:49 ID:HBoY2CEo0
「…ロキ達はたった三匹でヴァン族に立ち向かう覚悟を決め、この砂漠を風習の束縛から解放するべく他の集落を渡り歩いて皆を一つにしようとしています。
 今頃彼らはきっとドヴェルグ族の集落に向かっている筈でしょう」
その言葉を聞いた族長は突然座っていた椅子を後ろに倒して立ち上がり、驚愕した様子で目を見開く。
「ドヴェルグ族といえば一週間程前にヴァン族に集落を制圧され、集落は現在ヴァン族の住処に…」
「え……そうだったのですか!? 私、その事を知らずに…」
ドヴェルグ族集落は今はヴァン族のものーーもし彼らに何かあったらそれを知らなかった私の責任。
しばらく考え込んだメルティーナの頭にある答えが浮かんだ。
「…ならば私がロキ達を助けに行ってきます!」
「メルティーナ、待ちなさい!」
族長の制止を無視して彼女は翼を広げて羽ばたき、闇を切り裂くような速さでアメンティ山へ向けて飛ぶ。

ロキ達…お願い、無事でいてーーー

窓辺に佇むエイルは東に向けて飛翔する影を見つめて呟く。
「ロキ…そこまでして砂漠を変える決意を………確かに彼の言う通り種族間の共存を考えてみるのもいいかもしれませんね…」

361 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/29(木) 23:32:53 ID:wm6WWJVg0
>>360
ナ、ナンダッt(自重
すでに制圧とは…簡単にはいきませんか…。続きにwktkです。

さて、だいぶカオスな展開になってきた俺の長編orz関係ないけど世界平和万歳

九, 守護の役目とは

地には、三匹の影と柔らかな朱い光が写っていた。風が吹き抜ける度、葉は囁き、チラチラと影は揺れる。
「…そろそろ行きますね」
「ああ、じゃあな」
「ありがと〜!」
ロヴィンは手を振って少女を見送る。彼女の姿が、森に消えていってもなお。
彼女の去ったこの場所は、天癒:日本晴れの力が薄れたか、少しずつ闇が包んでゆく。

結局、ピジョン達はあれ以来此処には来なかった。もしかしたら、逃げた、とでも思われているのかもしれない。
当然だろう。手がかりすら消してしまったのだから。
汚れ血を嫌う、少女によって。

362 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/29(木) 23:51:10 ID:wm6WWJVg0
手渡された書類には"緊急"と判が押されていた。
同勢力への攻撃…?あれはただ、向こうから始めた戦いではないのか。書類を読んでただ呆れる。
とにかく、聖天に依頼したということは、それだけ捜索の範囲が広がったということ。見つかるのも時間の問題。「なあ、ロヴィン…?」
「ン?何?」
「これから…どうする?帰還はできそうにないが…」
少し考えた様子だったが、微笑んですぐに答えを返した。
「じゃあ、"覇女"のみんなのところ、戻りたい!いい?」
「ああ。…少し時間はかかるかもしれないが、な」
破壊者の所へ向かうには、視界の問題から地上を歩いて行ったほうが良いのだろう。空さえ翔べれば1日あれば着くのだが。

363 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/30(金) 00:07:27 ID:P7W8n2zs0
…しょうがない。歩いて行くか。上空だと戦いを避けることはできなさそうだ。リスクは大きいし、単騎で挑むというわけにもいかない。それに、
少女の正義に背くことになるから。

自分は既に堕ちた守護天使、堕天使。たとえ堕ちたとしても、守護者としての貫く正義がある。
俺が受けた任務、"破壊者の保護"。ロヴィンが望むなら何日かけたって、どこへでも連れていこう。

捨ててしまおう、間違った使命を。ただ任務をこなす、それは、決して守護の役目ではない筈だから。
あの日の誓い。今こそ強く胸に刻むべきなんだろう。

"俺の翼は、誰かを護るためにある。"

364 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/30(金) 23:46:00 ID:P7W8n2zs0
十, 堕天使、天に見捨てられ

夜の静寂。今夜の月は雲に閉ざされている。君とのこの空間だけが、世界に取り残された場所であるかのように。
白銀は堕ちた。もう自分は月に見守られる存在ではないのだ。守護の誓いは、堕ちた自分にはもう関係ないのだから。

置き去りの空間には、君の寝息だけが聞こえる。その寝顔は、どこか寂しい。
こいつを送ったら、もう隊には戻れないだろう。この任務で守護者を降りることになるだろう。
だったら、自分の満足できる形でケリを着けたい。
護るべきものを護ること。
堕ちた守護者にそんなことを言う資格は無いのかもしれない。レーシャが聞いたら笑うだろうな。

365 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/31(土) 00:15:18 ID:sEa8XZ0g0
堕天使は太陽にも見守られなかった。小雨は木々の間から、二匹へと降り注ぐ。土は泥濘み、所々水溜まりも見られる。
ロヴィンはそれらを避けながら歩く。勿論俺にはそんなものを気にする余裕は無く、上空と風の音ばかりに注意して、彼女の後ろを歩く。

…サッ…。
「ん…!?」
聞こえた。葉々を切り裂く翼の音。だが、
「何か聞こえたの?」
「ああ、…何処から聞こえたかは分からねぇ」
小雨とはいえ、聴覚の妨げになってしまった。
「とにかく、周りに注意しろ。どこから来るか解んねえぞ」
辺りを注意深く見渡し、敵の襲撃を待つ。
それでも、天は堕天使を許さないのか雨の音は更に強くなった。

366 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/05/31(土) 01:24:45 ID:sEa8XZ0g0
音が重なって、騒々しくなった森。いつ襲って来てもおかしくない筈。…だが、待っても来ない。自分の思い違いだったか…?
「ディフッ!上ッ!」
突然ロヴィンの叫ぶ声。
「上…?…!!」
見上げた上空には、既に一つの影が急降下を始めていた。

…ガッ…ッ…ッ…。

「ディフ…?」
「…大丈夫だったか、ロヴィン?」
伸ばした右翼は、その襲撃を易々と止めた。鋼翼:鋼の翼。ピジョンのブレイブバードは、翼を貫通することなく、宙に弾き返されたー

「ありがとな。奴の来る所知らせてくれて」
再びフタリきりになった森。食事として、ロヴィンは木の実をかじっている。
「ううん。ディフだって、あいつの攻撃止めてくれたじゃない」
彼女を護ること。やっぱり、これが自分が守れるたった一つの誓い。
雨は止み、空には少し雲が残っていた。陽は二匹を照らした。
「ありがとう。」

367 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/03(火) 00:45:20 ID:QlcX9VvY0
書き貯めてみたらメモ欄埋まったwww

十一, 翼と氷

昨日止んだ筈の雨はまた降り始めた。より大きな雨粒は、二匹と地面を叩きつける。
俺達飛行タイプの羽根はデリケートだ。これほど大きな雨だと上空から捜すのは不可能となる。無論俺も例外ではないのだが。
だとすれば、地上での捜索が主になる。足音は雨音にかき消されるため、気配を感じることも困難となる。

「遠いなぁ…」
今来た道を振り返るロヴィン。だが、その足跡は闇の中へと続いているだけだ。
未だ目的地は見えない。これだけ歩いたのは初めてだろう。最後になるかもしれない任務は、今までで最も過酷なものとなった。今まで護っていた空がこんなに遠い存在だったなんて、思ってもみなかった。

368 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/03(火) 20:12:03 ID:QlcX9VvY0
『目標を発見、捕縛に当たります!』
念力による連絡が彼女の元に届く。
「…了解、直ちにそちらに向かいます」
ため息を一つ吐き、彼女は走り出した。
ー翼の元へ。

「覚悟してください、ディフさん?」
「チッ…!見つかったか…!」
後ろから呼ぶのは紫毛をもつ守護者、エーフィだ。躊躇うことなく戦闘の体勢をとる。
「"聖女"か…」
「強いって噂だけど、どうなのかしら?」
力を額の紅玉に込める。
「日の念:念力…」
「空翼:エアスラッシュ!」

369 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/03(火) 20:31:17 ID:QlcX9VvY0
少女は、雨が降り続く森の中をヒトリで駆ける。
ーディフ…どうして…?
理解できなかった。彼が使命に背くなど。任務から帰って来ないなど。
遠くで音が聞こえた。戦いが始まったらしい。目指す彼は、近い。
彼女の額の"氷石"が鋭く光る。あの日の傷は、今も深く刻まれている。
雨粒は体を掠めて、後方へ次々と消えゆく。走る度に足元の水溜まりが跳ねる。
そんなものを気にもせず、少女はただ走る。
ー見つけた。漆黒の中、白銀の光。

「ディフ…!」
「…!?レーシャ…?」
横たわるエーフィと、彼の姿がそこにあった。
「申し訳、ありません…隊長…。私ではとても…」
「…後は任せて」
頷き、彼女はゆっくりと場を離れた。

370 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/03(火) 20:48:43 ID:QlcX9VvY0
「ディフ…どうして…!?」
厳しい目でレーシャは問う。
「…俺は誓った。こいつを護り通す、と」
ロヴィンは、今まで見たことがない状況に困惑の表情を浮かべる。
「…理由になってない。守護の使命を破って、何が"誓い"なの?」
呆れたようにため息をつき、問いを続けた。
「もう隊には戻れない。だったら、最後だけは自分の誓いを守りたい。それだけだ」
「…で、その"誓い"とやらを守った、その後はどうするつもり?」
「さぁな…。この任務を終えてから決めることにする。…つーことで、通してくれねえか?」

「冗談じゃない…!」
右手を勢いよく降り下ろした。怒りを、悲しみを振り払おうとするように。彼女がここまで感情を露わにするのも珍しい。
「…誓っただろ?お前の前でも」
一度深呼吸をし、さっきまでの厳しい目に戻った。
「…そこまで言うのなら試してあげる」
辺りが眩しく光った。少し遅れて、轟音が鳴り響いた。
「その"誓い"が、どれほど強いものなのか、を」

371 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/03(火) 21:56:52 ID:PoIvBeno0
今更ながらふと思った。
メル→鳥ポケ→鳥目→夜は飛べないorz
ピジョットって……鳥目?

act30 花畑  注)微エロ入るかも

「ふわぁ…」
大きな欠伸をして目覚めたのはロキ。体を起こして伸びをするが…
「ん、ここは…」
ロキの目に入ったのは見た事もない色彩豊かな花、花、花。
彼は一面に広がる花畑の中に佇んでいた。辺りは見渡す限り暖かい陽に照らされた美しい花で埋め尽くされ、今までに無い爽やかな風が彼の体を撫でていく。
そして彼のすぐ隣にいたのはーー

「ユ、ユメル!?」
ロキの右隣に座り込んで髪を弄んでいたのは雌のキルリア…ユメルがそこにいた。
彼女はロキに気付くと髪から手を離してロキの方を向く。
彼女のエメラルド色の髪には黄色いタンポポの髪止めが付けられていた。
「あ、ロキ……」
気のせいか? いや、気のせいではない。今日のユメルはいつもより一段と可憐に見えた。
「隣…座る?」
ユメルは微笑んで自分の左側に手をかざす。
ロキは少し戸惑いつつも彼女のすぐ左に腰を降ろした。

そこから沈黙の空気ーー
ユメルが隣にいるせいか、ロキの心臓は自然と高鳴っていく。
彼女を前にして何を話せばいいのか分からない。

372 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/03(火) 22:01:03 ID:PoIvBeno0
「あ、あの……」
風に吹かれる花の騒めきを破って口を開いたのはユメル。
「な…何だい、ユメル?」
ロキは彼女の顔を直視する事が出来ず、正面を向いたまま返事を返した。
ユメルは俯いて頬を薄紅色に染める。
「あの…ロキはこんな私のために自分の家まで失ってしまって…でもあんなに楽しく過ごせたのは初めてです。本当にありがとうございました」
「そうか…なら良かった」
ユメルはオレ達の暮らしに満足していた…ロキはそれだけで嬉しかった。

「それで…その…私は……」
彼女は更に下を向き、頬の紅色を一層強くする。
(? 何であんなに赤くなってるんだろ…)

「え…と…ロキの事が…その……好き……になってしまって…」
(オレの事が好き……ってええええ!?)
ロキは頭に血が上ってくるのを感じた。多分顔もかなり真っ赤になっているだろう。
何せこんな風に告白されるのは初めてだったし、ロキもユメルの事を「こんな娘と親密になれたらいいな」と気に掛けていたからだ。
それがまさか向こうから気持ちを打ち明けてくるなんてーー

不意に吹き抜けた一陣の風が二匹の周りに花びらを舞い上げる。
「オレも…その…ユメルの事が好きだ…」

373 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/03(火) 22:03:33 ID:PoIvBeno0
気恥ずかしさに心臓が飛び上がりそうだったが、ロキは緊張に震える手で彼女の両手を握って自分の想いを口にした。
「ロキ…嬉しい…」
「うわぁ!?」
突然ユメルは身を乗り出してロキに抱きついてきた。その勢いで彼は仰向けに押し倒されてしまう。

折り重なって花畑に倒れ込む二匹。ロキの目の前にはユメルの白い顔があった。
互いに体が密着していて彼女の温もり、鼓動、息遣いが直に伝わってくる。
ロキの緊張は頂点に達していた。

「ロキ…」
「ユメル…」

二匹は目を閉じてお互いの顔をゆっくりと近付けていく。
これでユメルと結ばれるのかーー


〈ロキ……助けて!〉
突如頭の中に響いた彼女の声。周囲の景色が渦巻き、ロキの意識が引き戻されていく。
そして彼は現実世界に戻り、目を覚ました。

374 :◆01nmPOmqow :2008/06/03(火) 23:23:11 ID:AihvcaQk0
深夜こっそりとようやく書き終えた7話うp 勉強しろ

7.記憶が混乱状態。
 彼女はまだ寝ているのだろうか。つかれきった身体に鞭打ち急ぐ。結構派手に戦っていたので眠りを邪魔したかもしれない。
空では三日月が星達を従えて地上に光を注いでいる。エーフィはどうなったんだろう?メタモンは?
戦いも終わり、かなりの疲れとともにさまざまなことが頭に浮かんでは消えを繰り返していく。
ふと、それにまぎれてまだひよっ子だったときの記憶が蘇る。

 タマゴを破り外界に出たときにもこんなようなやわらかい草の香りをまとった風が頬をなでていっていた。
その頃の主人は俺を早速抱えてなにやら手の中の機械を弄繰り回した後、達成感が混じったような表情をしていた。
なんなんだ、と思う暇すらなく目の前に自分より一回りほど大きい、同種族らしき影が現れる。
主人のボールから突然出てきた番のイーブイ。とはいえ、進化こそしていないものの立派な大人の体格を有している。
主人は彼らに見張りを命じた後『ポケモンセンター』に入っていった。やがて、傍にいた彼らが話しかけてきた。
「あなたが、私達の子?」
その顔は期待と、温かい眼差しと、やさしい笑みで満ちていた。

 ……よかった、彼女はまだ寝ていたか。見たところ外傷も無いし・・・
 あー、いけない。激しく眠い。安心したからかな?此処で寝て後で驚かしてしまってはいけないし、
もっと離れた床で寝ようかな。そうしよう。もうきつくなってきた。
瞼が落ちてくるのを気力で支えて寝床によさそうな所を探して身体を横たえる。今日は激しく疲れた。
夢の世界に落ちていくのも気づか無いほどに、だった。


375 :◆01nmPOmqow :2008/06/03(火) 23:24:34 ID:AihvcaQk0

・・・

 なんだろうか。やけに身体が不安定でふわふわしている。しかし不思議と身体の疲れはもう抜けていた。
耳に声が入ってきた。誰の声かはすぐに分かったが、状況はますます分からなくなった。これ、俺の声だ。
声のする方向を向いてみれば三つの影が明るい地面に伸びている。
…なるほど、さっきの記憶の続きだな、これは。自分が忘れかけていた記憶なのだろう。道理で、不安定なわけだ。
“あなたが、私達の子?”
この言葉が、さっきまでの予想を確実なものにした。
“あなたたちは……”
“分からなくて当然よね。………あなた。”
呼びかけていた。それに反応する父親。
“・・・なんだい?いったい。俺だって息子と雄同士の話をだな・・・”
“そんなこといってないで、見張り頼んでもいいわね?”
“必要ないだろう、そんなに心配しなくとも”
“頼んでもいいわね…?”
“はい。喜んでやらせていただきます。”
・・・尻に敷かれてる。これは酷い。
 途中で遮られた言葉を飲み込み、完璧に棒読みで話していた。このとき父親が小声で不満漏らしていたのは内緒。
しぶしぶ引き下がっていく。いたたまれない・・・たしかに母親も正論だけどもね。喋らせる暇も無いのはどうかと思うよ?
見張りについたのを確認して話し出す。
“まあ、なんというか・・・いきなり言われても分からないとは思うのだけれど”
煮え切らないなと思う。だってさっきあんなやり取りしといてこれは無いでしょう。
“・・・?”
記憶の俺は理解できていなかった。怪訝そうな顔つきをして母親の顔を覗き込んでいるのがちらりと見えた。
つくづく『ノーマルタイプ』やら『とくせい』の影響を感じさせる。
“あなたはね、私達の子なのよ。すっぱり言っちゃうとね。”

“いや!いやいやいや!ちょっと待ってよ!”
…いや、いやいやいや、本当に待ってくれといわざるを得ない。すっぱりしすぎである。もう少し言い方は変えよう、切実に。
“じゃ、少しずつ説明してあげるわ。それで少しは納得してくれると思うから。”
……今考えたらそうは思わないな。無理に飲み込んでたような気がするよ。
 それから彼女が身の上話を始める。
話を聞いた時は両親についてはいわゆる野生出身である、ということぐらいしか分からなかった。
考えたら主人がくっつけた二人かもしれない。ほかに兄弟がたくさん居ること、俺がこれからは主人に仕えることなど教えてもらった。

376 :◆01nmPOmqow :2008/06/03(火) 23:25:33 ID:AihvcaQk0
なぜ、こんな場面が今夢に出ているのか?単純、今の俺にとってこの一連の話がとても衝撃的だったからだ。
・・・次の言葉が、そうなった原因。主人を信じ込んでた、原因。
“あなたが才能を持っていたから、あの人についていけるのよ。自信を持って。あの人なら、きっと大丈夫だから。”

―昔は考えてなかった。一度も会っていない兄弟など現実味が無くて。
――気にも留めなかった。この言葉がどのような意味なのかは。
―――思ってもみなかった。この先に何が待つのかなど。

 自分の状況は、把握などできてはいなかった。あとすこし、頭が足りていなかった。それらの過去を悔やんでも、今は変わらない。
こちらは寂しい気持ちでいっぱいだった。だって、はじめて見た両親だ。向こうの主人が来るまでに別れなければいけないというのはつらい。
ああ…最後の別れ際にはああやって抱きしめてくれたっけ。何も知らなくて、それでも精神はそれなりになっていて、白い殻を破った自分を
初めて包んでくれた手。

 そう、こんな暖かい手・・・


「って!?な、な、何っ!!?」
「うわ!?起きちゃった?」
 いきなりだから目を丸くして叫んでしまった。全身の毛が逆立っているのも無理はないだろう。ていうか、起きないわけ無いでしょう。
「あ・・・ごめんね?起こしたみたいで・・・。」
 そこに居たのは、月の光で照らされていた―――グレイシアだった。
 ・・・なんで!?
 さっきまで俺彼女から離れて寝てたはず。何故今横に居るんですか、俺ってそんなに寝癖酷かったっけ、
などと考えているところ、彼女が声を掛けてくる。
「どうしたの・・・怪我していたのを見かけたから心配したんだよ?」
「あ、ああ・・・それがね・・・」
 流石に心配掛けていたみたいだし、何も話さないわけにもいかない。うん、身体も楽になっているし・・・。今日あったことを彼女に説明していく。
話しながら、今日はいろいろあったと今頃になって考える。すべてを話し終えるのにはかなり時間が掛かった気がした。実際、そうだろうけど。
信じてもらえるとは思って無い。自分でさえ今だ信じられないこともあるからだ。
 反して、返ってきた答えは意外なものだった。
「じゃあ、メタモンは今ここに居ないんだね?」
「信じてくれるの・・・?」
あまりにもあっけないその一言。正直、驚いてしまった。でも、信じてくれることが嬉しくて。
大袈裟だよね。
「勿論じゃん!もっと自分に自信持ちなよ?あなた、あいつ追い払ってくれたんでしょ?」
とても嬉しい。
「まあ、それより………」
―――一歩、彼女が距離を詰めてくる。
「な、何?」
 たじろいだ様な声を出して聞くも不敵な笑みを浮かべているのみで答えてくれない。
顔が間近になる。また心臓がバクバクとなり始めて、顔が赤くなってきた。眼前の彼女の顔は依然として不敵な笑みを浮かべたままだ。

不意に彼女に額をぺろり、となめられる。

ぽかんとした表情を浮かべる俺に対して彼女が照れくさそうにいった。
「お礼といっちゃ何だけど……毛づくろいでもしてあげるから、じっとしててね………?」
待ってくれといわんばかりに顔を後ろへ引くと、あわせて顔を近づけて言う。
「まって・・・もしかして、私じゃ嫌?」
「そんなこと・・無いけど・・・・。」
「じゃあ逃げなくてもいいじゃないの………」
 前回とは違う覚悟を決める。顔を引くのをやめると、彼女の体毛がすぐ近くまで来る。それを認識することぐらいしかできないような時間が挿まれたが
今回は何事も無いかのように彼女の舌が再び額をなでていく。くすぐったい感じがして、思わずぴくりと動いてしまった。
そうこうしているうちに、彼女は後頭部を繕う為に横へと回り込む。・・・少しかがむ。恥ずかしいやら照れくさいやら、わけの分からない状態だ。
「・・・ねえ?」
そう聞こえた直後に後頭部を終え、背中へと移っていた感覚が消えた。同時に、彼女の腕が肩から胸の辺りまで伸びてくる。遅れて、彼女の体重が掛かる。
「私ね、あなたに言いたいことがあるの・・・。」

377 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/06(金) 21:13:03 ID:yGvRmLNQ0
十二, 翼と氷 〜over〜

「氷花:霰」
天を仰ぎ、そっと息を吐く。弾けて消える雨粒は白い欠片と化し、地面に叩きつけられる。彼女の姿はその中に溶け込んだ。
霰の中、眼を凝らして彼女を探す。
「…そこだッ!!」
僅かに欠片が揺れた。その方向へ空翼を放つ。
"雪隠れ"とはいえ、その技は何度も見ている。彼女の場所など簡単に把握できる。
「…甘い」
「…!?」
声が聞こえた、と同時に、放った筈の風の刃は自身を切り裂く。
霰の中には、ヴェールに包まれた彼女。
「何…!」
「氷鏡:ミラーコート。あなたの戦法なんて、お見通しよ」
ヴェールを解き、彼女の姿はまた風景に溶けた。
「さすがに、簡単には行かせてはくれねぇか…」
降り続く霰が体力を奪う。できるだけ早く決着をつけたいが。
「…どこ向いてるの?」
「…ッ!?」
後ろ…!?振り向くと、彼女はすぐ近くまで迫ってきている。爪を構え、ただ一点を狙いすまして。
「鋼翼…ッ!」
翼に爪が触れた瞬間ー
「氷舞:アイシクル」

「ディフ…!」
翼は、右肩は、氷に覆われていた。

378 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/06(金) 22:07:50 ID:yGvRmLNQ0
「何…!?動けねぇ…?」
「決着ね。氷舞は触れた者を氷づけにする技。…待ってたよ。あなたを越える日を。…さて、と…」
背を向け、ロヴィンの方へ歩いてゆく。
「これはそのために開発した技。いつまでも昔の私だと思わないで」
あまりに呆気ない敗北。氷花の効果が切れたか、欠片はまた雫へと姿を変えた。
「待て…!」
「安心して。あなたには止めはささないで"あげる"から」
そう言い、ロヴィンの目の前で立ち止まった。
「何するつもり…?」
さっき使った時と同じように、彼女は爪に冷気を纏い始めた。
「こっちも任務だから、ね。あなた達を捕縛する、それが目的…」
「させないよッ!!」
突然声を張り上げ、同時に構えた大牙を紅蓮の炎が包み込んだ。
「虹牙・紅ッ!!」

379 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/06(金) 22:57:38 ID:yGvRmLNQ0
「くッ…!?」
苦手とする炎:炎の牙を叩き込まれ、苦痛で彼女の表情が歪む。
牙は炎を防ぐことはできなかった。だが、熱を帯びていたのだろう、張り付いたそれらは薄く、フィルムのように剥がれ落ちた。

やっと彼を越えられる。
それは、ただの思い込みだった。やっぱり私は、いつまでも護られる存在でしかないのだろうか。詰めが甘いのはいつものこと。特に今回は彼に勝つことで頭がいっぱいだったんだろう。
少女は彼の元へ駆ける。翼を覆う氷は、噛み砕かれて散った。
自分の無力さが情けなかった。彼を神々しい光が包んでゆく。その様子を無力な自分はただ見ているしかなかった。
ー神翼:ゴッドバード。

380 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/09(月) 20:43:08 ID:znsrTZCA0
十三, 翼と氷 〜past〜

ー忘れもしない。守護者になる前のあの日を。新たな自分の姿を手に入れたあの日を。そして、"氷石"に傷が刻まれたあの日を。

「ディフ〜!」
駆けてゆく先には彼がいる。明け方の淡い光の中の銀は、仕草毎に強い輝きを放つ。
「お、来た来た。準備はできたか?」
「もちろん、万端よ」
心から待ち望んでいた今日の時。今のイーブイの体に別れを告ぐ日。
「で、行き先は決めたのか?」
「ええ、一応。まだ教えないけどね」
「…ああ、楽しみにしておくよ」
朝の心地よい風が流れる。彼の羽根をそっと撫で、森の奥に吹き込んでゆく。チラチラと、鮮やかな光が眩しかった。

381 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/09(月) 21:00:08 ID:znsrTZCA0
彼の背中からは、銀の冷たさと、生きているという温かさを感じた。
「しっかり掴まってろよッ…!」
上空へ向けて羽撃く。地面から土と砂が舞い上がった。
いつも見ているだけの雲が少しずつ拡大されて見えてきた。彼は羽撃くのをやめ、滑空を始めた。
「涼しい風…。やっぱり気持ちいいね、空の空気って」
「今日のは随分といい気流だ…。最高の気分だ」
適度にバランスをとりながら風の中を滑ってゆく。
「…で、どこに行けばいいんだ?」
「ん?…ああ、そうだった」
何日も前から決めていた。何日も前からなりたかった。
指さす先にあるその場所。創造の森の向こう。
「リース山脈?ってことは、…グレイシアか?」
「正解。ここからじゃだいぶ遠い?」
「いや、それほどでもないが…」

382 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/09(月) 21:54:17 ID:znsrTZCA0
その中にある巨大な岩。それには氷の力、つまり、グレイシアになるための力が込められているという。
このような岩は世界のあちこちにある。イーブイ達はそれらの岩を訪れることで、望む姿になることができるのだ。
「いいんじゃねえか?お前にピッタリだと思う」
振り向き、彼が了解の合図のつもりなのか、ゆっくりと頷いた。そっと微笑み、また前を向く。
グレイシアを選んだのは、どこか彼に憧れている点もあったからだと思う。エレガントな身のこなし、光の中で美しく輝く彼の体、…挙げてゆくとキリが無い。
楽しみで胸が弾む。気付けば、胸の鼓動ははっきりと伝わってくる。
目の前に広がるパノラマ。見下ろせば深緑の森。見上げれば小さな雲が漂う蒼空。
そして、その先に見える純白の霧。
ー見えてきた。太陽の黄金色に煌めく頂。

383 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/10(火) 22:37:19 ID:uMe3yr120
>>367
僕も携帯でこの小説を執筆しているのですが、僕はメモ欄ではなくメール(新規メール作成→文章入力→保存)として保存BOXの方に書き溜めています。
これなら赤外線などで友人に送る事も可能ですしmicroSDにも保存が出来るのでメールとして書き溜めた方が何かと便利だと思います。
メモ欄…試しに使ってみたけどすぐに容量埋まる……


act31 再来

そうだ、此処はアメンティ山の洞穴の中…あれは夢かーー
ロキは跳ね起きるとすぐさま辺りを見回す。
すぐ隣ではルシオがいびきをかいて寝ていたが、ユメルの姿が見当たらない。

「また会ったね、アース族のロキ」
彼の背後から少々ナルシスト気味でトーンの高い、聞き覚えのある声が。
「ッ! テメェは…」
洞穴の奥にいたのはユンゲラー達を従えた二十歳前後のエーフィ、カシェルだった。
配下のユンゲラーの一匹が猿轡をされてロープで体を縛られたユメルをしっかりと抱えている。
とするとさっきの声は恐らく助けを求める彼女のテレパシーだろう。
「全く懲りない奴らだな。またオレに倒されたいのか?」
「…お前達は先に行け」

384 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/10(火) 22:39:43 ID:uMe3yr120
カシェルはロキの言葉を無視してユンゲラー達を洞穴の奥に行くよう指示する。
「はぁ? そっちは行き止まりだーー」 ガコンーー

先頭のユンゲラーが洞穴の行き止まり部分の岩壁に念力を送ると壁が扉のように開き、別の場所へ続くと思われる通路の入り口が現れた。
「な…と、扉だとぉ!?」
壁が開くなりユンゲラー達は扉に駆け込んでいく。
ユメルを抱えていたユンゲラーも扉を抜けて姿を消した。
「ちょ…おい、待てっ!」
ロキはユンゲラーを追って扉に向かって走り出すも、彼の行く手を不敵な笑みを浮かべたカシェルが遮る。
「そこをどけ…カシェル」
「ふっ、僕が足止めをしよう…」
再び向かい合って対立する二匹。やはり簡単には通してくれないか。
カシェルは前髪を掻き上げると額の紅玉を輝かせ、ロキを睨み付ける。
直後、紫色の鈍い光がロキを包み込んで彼の体は宙に浮かび上がった。
「ぐ…“サイコキネシス”か……」
宙で必死に抵抗を試みるも、手足が押さえつけられたかのように全く動かない。どうやら全身が拘束されてしまったようだ。
「くくく…はーっはっはっは! これで君は終わりだ!」

385 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/10(火) 22:43:10 ID:uMe3yr120
カシェルはそのままロキの体を硬い岩壁に叩き付けようとする。がーー

「終わるのはテメェの方だ!」
「なっ……ぐあぁ…!」
突如カシェルの背後からロキが現れ、彼の横顔に鋼と化した自らの尻尾を叩き込む。
死角から“アイアンテール”を喰らったカシェルはその勢いで洞穴奥の扉の前まで吹き飛ばされた。
“サイコキネシス”で拘束されていたロキの姿は徐々に薄くなって消える。
「お前が捕まえてたのはオレの“影分身”だ。そんな事も気付かないのか?」
「く…やはり今の僕では敵わないか…一旦退く……」
カシェルは起き上がると逃げるように洞穴奥の入り口へ入っていく。
直後に岩の扉が音を立てて閉じ、扉は周囲の岩壁と同化してしまった。
「おい…待て、カシェル!」
ロキは岩壁に駆け寄って扉のあった部分を押したり引いたり叩いたりしてみたが、扉はびくともしない。
やはり先程のユンゲラーのように念力を使わないと扉は開かないようだ。
しかし何とかして力ずくでも扉を開けなければユメルの身が危うい。
「…ならばアレを使うしかないかーー」

386 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/11(水) 21:17:53 ID:yw/XZcDQ0
>>麒麟児さん
そ の 手 が あ っ た かッ!!
一話完結の執筆の時に参考にさせていただきます。短編長編?話が混じりそうだからまだ未定
これはピンチ…。"アレ"がどんな役目を果たしてくれるのか…続き待ってます!

十四, 翼と氷 〜diamond〜

「…あー…、寒いね、やっぱり…」
大陸の北に位置するリース山脈。一年中雪が残るほど、その寒さは並みではない。グレーの雲が空を覆い、辺りは薄暗く、目の前を粉雪が渦巻いている。
「聞いたことはあったがここまでとは…。とにかく早く終わらせようぜ?」
「うん。…さて、どこにあるんだろ…?」
知っていたのは、その岩がリース山脈にあるということだけ。さすがに場所までは把握してなかった。
「取りあえず山頂の方を目指せばいいのかな?」

どれほど歩いたのだろう。振り向き、歩いてきた道を見下ろすと、足跡は降り頻る雪の中に消えてしまっていた。

387 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/11(水) 21:42:25 ID:yw/XZcDQ0
「ん?あれじゃない!?」
吹雪の中、一つ光が見えた。
「…本当だ。相変わらず当たるな、お前の直感は…」
「…まあ、ね…」
返事の声が震えている。寒さによるものではない。
「どうした?…緊張してんのか?」
「そりゃあ…今までとは違う姿になるんだから…。それを今までずっと楽しみにしていたわけだから…」
いつの間にか身体が震えてしまっていた。止めようとしても、それはただ増すばかりだ。
「…さっさと終わらせてくるね」
白い風が強く吹き付ける。その中に佇む巨大な岩…というより、それは氷のようだった。天辺は灰色の海に伸び、敷き詰められた平面が鏡のように、周りの景色を映し出す。
ここまで来て、望む結果でなかったらどうしよう…。そんな不安を打ち消してくれるのは、見守ってくれている彼の存在だった。
厳かに安置されたその岩。真っ白な冷気が止めどなく、岩を這うように地に落ちる。その美しさに見とれていたその時ー

388 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/06/11(水) 21:49:08 ID:ZHgIx7Dc0
お久しぶりです。
Wikiが一周年だそうですね。
ここもより賑やかになってほしいです。

>>麒麟児
ロキ強し…(汗)
ユメルは大丈夫なのでしょうか…
三匹で力を合わせて助けてほしいです。
続きにwktkです!

>>cotton
また随分作風が変わりましたね…。
技名を漢字にするのは、技のイメージが
伝わってきて良いと思います。
エアームドは、個人的に大好きな
ポケモンで、小説の中での性格も
僕の描いているものとぴったりです。
素晴らしいです、個人的には。
ちなみに、僕が昔携帯で小説を
書いていた時は、メモ帳に小説設定と
下書き→メールに清書…みたいに
してました。

389 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/11(水) 23:30:00 ID:yw/XZcDQ0
冷気が包み込む。かと思うと、あっという間に散り散りになり、視界が開けた。
「…レーシャ、…だよな?」
彼が問いかける。…なぜだか慎重そうに。その理由は瞬時に分かった。

氷に映っていた少女は、既に先程までの自分では無かった。
「夢じゃ…ないよね…?」
茶色の体毛はライトブルーに。髪のように垂る耳飾り。そして、額を飾る藍色の宝石、"氷石"。…自分が思い描いていた姿だった。
「…おめでとう。」
振り返って歩きだした。ここまで連れてきてくれて、ずっと見守ってくれた彼の方へ。
視界がぼやけ、頬を一筋雫が伝う。雪の上に落ちると、一つ、二つと点を作っていった。
それらを拭う。温かな笑顔がそこにあった。
「ありがとう。」
その日は幸せな日だった。

ーそう思える筈だったのに。幸せのまま終わる日の筈だったのに。その傷は、深く刻まれることとなった。

>>coopieさん
レスありがとうございます。
技名を漢字にするのは前から憧れてたんです。ただかっこいいから、って理由ですけどw
そして相変わらず名前つけるのが苦手w

390 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/13(金) 21:01:40 ID:UITet3qw0
時々ものすごく時間かかってるなあ…
何故かって?眠いからさッ!ごめ、マジでサーセン

十五, 翼と氷 〜case〜

朱に染まった夕空。白の山々も夕日に照らされ、橙に輝いていた。その暖かい光の中を二匹は帰る。
やっぱり、進化すると風の感じ方とか、細かいところまで変わっているようだ。涼しかった風は一層ひんやりとしていた。
行き来で相当疲れている筈だが、彼にそんな様子は見られない。弱音を口にしたくないだけなのか、長距離の飛行には慣れているのか。
「大丈夫?疲れてない?」
「ん?この位の距離なら余裕余裕。心配しなくてもいいぞ」
彼が答えた、…その時だった。
「空は俺達の縄張り(モン)だッ!!邪魔すんなッ!!」
何処からか声が聞こえた、
その瞬間…

391 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/13(金) 21:39:08 ID:UITet3qw0
「ぐああッ!?」
何か強い衝撃に吹き飛ばされた。その衝撃に耐えることができず、背中から振り落とされた。
「ディフッ!!」
彼の背中から、鮮血が吹き飛ぶ。その向こう、巨大な翼を持つものが見えた。
「あれは…龍族…!!」
こちらを襲ったのは龍族、ボーマンダだった。一体でも町一つ壊滅させるのが容易な一族、普通に戦っても先は見えている。間違いなく最悪の状況。
彼は再び体勢を整え、こちらに突進してくる。当然自分には抵抗する術はない。
「レーシャッ!!」
ディフも何とか持ち直し、こちらを助けようとする。が、とても間に合う距離ではなかった。
「覚悟しな、雑魚どもがッ!!」
陽の逆光となった影はすぐそこまで迫っていたー

ー神翼の力を溜める彼の眼も、その影によく似ている。彼を包む神々しい光は、自分には何故だか、黒く感じられた。
「…そこまでですッ!!陽ノ念:サイコキネシス!」

392 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/13(金) 21:51:18 ID:UITet3qw0
赤紫の気を纏った何者かが飛び出してきた。同時に、ディフ達の身体が宙に浮く。
「うわッ…!?」
「な、何だ!?」
「メイサ…?」
その"何者か"は、撤退した筈のエーフィ:メイサだった。
「さあ隊長、これで…」
「降ろしなさい、メイサ」
「た、隊長ッ!?どういうことです!?」
「いいから、降ろして」
「わ、分かりました…」
動揺を隠せないまま、彼女は陽ノ念を解く。
さっきまでの大雨は、いつしか小さくなっていた。

新たなる弱点発見。
叫び声がド下手なことに気づいた。色々パターン考えるべきッスね…。

393 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/14(土) 19:33:56 ID:z+M2cvC60
十六, 翼と氷 〜oath〜

「レーシャ…?」
「…私の負けね、ディフ」
「負け?明らかにお前の方が優勢だっただろ?」
「あなたみたいに強くなりたかった。あなたを越えてみたかった。…でも無理ね。私の手の届くところにあなたはいない」
彼の眼を見つめた。さっきとは違う、穏やかな眼だった。
「強く誓った、今のあなたは…」

ーん…?
「ここは…?」
辺りは既に真っ暗だ。見慣れた景色、嗅ぎ慣れた空気。
ー帰ってこれたのかな…?
「…気がついたか?」
彼が覗き込む。右の肩には赤黒い傷口が残っていた。
「ディフ…。…ボーマンダは…?」
「大丈夫だ。あいつらは最近飛べるようになった種族。俺の方が百倍速えーよ。…」
リース山脈の方を睨みつける。しばらく、森は静寂に包まれた。

394 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/14(土) 19:55:42 ID:z+M2cvC60
「…そんなことより、」
彼が恐れ多く口を開く。
「…すまない。お前を護ってやれなくて…」
何故か悲しそうに、額の方を見つめる。眼を逸らすことなく、じっと。
恐る恐る自分の頭を撫でてみる。ズキッ、と鋭い痛みが走る。
だが、そんなものは気にならなかった。…もっと重大な事実を突き付けられたからだ。
「…"氷石"が…割れてる…!?」
信じられなかった。何度も確かめた。その度に痛みが走った。
ー何度やっても、深い傷があるのが分かった。同時に、どうしようもない悲しみが込み上げてきた。
「どうして…どうしてッ…!?」
ただ泣くしかなかった。撫でて確かめることも、もうできなくなっていた。
「…レーシャ」
彼は、泣きじゃくる私に話しかける。返事をしようとしても、声にできなかった。
「…"守護者"って、知ってるよな…?」
頷くだけで精一杯だった。もしかしたら、身体が震えるのと混ざって伝わっていなかったのかもしれないが。
「…なろうと思う。守護者に」

395 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/14(土) 20:24:44 ID:z+M2cvC60
「…あの時のあなたの誓い、あの時のあなたの眼、私は一度も忘れたことはない。」
今の彼もあの時の彼も、その眼は、ただ真っ直ぐ私を見つめていた。二つの姿が重なって見えた。

ー俺はこの翼に、あの満月に誓う。

「…これからどうするつもりなの?」
レーシャはこちらを見つめ、問いかける。
「隊までこいつを送る。…それからのことは考えてねえ」
「大丈夫だよ」
ロヴィンが言う。確信をもって、力強く。
「大丈夫、ディフなら」
「私もそう思う。これだけ強い信頼で結ばれているんだから、ね」
ロヴィンの方を見る。彼女も、こちらの笑顔に応え、微笑んだ。
「…安心した。あなたもあの誓い、忘れてないみたいで」

ー俺がどうなろうと、この誓いは護ってみせる。
彼の姿は、満月の下に映えた。それは、何よりも勇ましく、大きく見えた。
ー俺の翼は、誰かを護るためにある。

396 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/06/15(日) 12:01:07 ID:91C+KJYQ0
初めましてな方初めまして、お久しぶりの方お久しぶりです。レキです。
兄にPSPでネットに繋げられなくなり、暫く来れませんでした。
何とかPC入手したので、前スレの>>72-73からの続きです。といってもあの時点では殆ど書けていませんが…orz

2.探検隊というお仕事
サーナイトは2匹に近寄り微笑んだ。自然と2匹も顔が緩む。
「貴女が…このギルドの…」
「はい。私はこのギルド全体を仕切っている…いわばリーダーの『フレイヤ』です。こちらは…」
フレイヤの肩からヤミカラスが飛び降り、翼を広げ礼をした。
「ワタクシはギルドの副リーダー、ヤミカラスの『アウズ』。ま、せいぜい頑張るコトダナ」
「貴方達は探検隊になりたいのでしょう?私の部屋に行きましょう。手続きをしますから」
歩き始めたサーナイトの後を、2匹は追いかける。

「フレイヤさん、なんで私達が探検隊希望者だとわかったんだろー?」
イーブイが唐突にヒノアラシへ疑問を投げかけた。
「え?う〜ん……エスパータイプだから?」
「ハァ……んな訳無いダロウ!」
ヒノアラシの答えに、間髪入れずアウズが口を挟む。溜息のオマケつきで。
「オヤカタ様は…ほかのサーナイト種より劣るとはいえ…予知能力をお持ちでイラッシャル。少し先の…未来のことナド予知できて当然ダ」
「そうなんだ…」
「さあ、お喋りはそのくらいにして。着きましたよ」
巨大なドアの前に立ってそう告げたフレイヤによって、一旦この話は打ち切られた。

「そこの席に座って」
ドアを抜けた先はイワークが3匹寝そべっても余るほど広く、ハガネールが尾の先で立ち上がれる程の高さだ。
2匹はその広さに圧倒されつつ、大人しく指された椅子に座る。椅子の前にはこれまた大きなテーブルと朱色の椅子が。
フレイヤは部屋の隅に溜まった紙の山と戦っていたが、やがて3枚の紙を持って、先ほどの朱色のテーブルに座った。そしてそれを2匹に見えるように広げた。
「さあ、登録するわよ。探検隊になると様々なサービスが受けられるわ。
 ショップでの販売価格が安くなったり、専用倉庫が使えたり…」
「す、すごいですねー。あのあの、それって便利すぎないですか?もし、入ってきたポケモンが…その……役立たずだったら?」
「ぶ……!」
(あ、吹きかけた)

397 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/06/15(日) 12:01:35 ID:91C+KJYQ0
ヒノアラシはイーブイの幼馴染なので、たまに少々黒い発言をするのを知っていたが、フレイヤはイーブイから飛び出た『役立たず』という不釣合いな言葉に思わず噴出しかけた。慌てて咳払いをして誤魔化している。
(いきなり飛び出すから侮れないんだよな……。意外に黒いんだもんな…)
「けほけほっ……うん、それは大丈夫よ。正式に探検隊になってもらうには、実際に依頼を受けてもらわなきゃいけないし、その後もノルマを達成しないと探検隊の資格を剥奪されるわ。
 探検隊としてのランクが上がれば、仕事は難しくなる代わりにノルマが減り、報酬の質が上がります。サービスも良くなるわ。
 ランクが低いと、仕事自体は楽だけどノルマが多いし、たまに雑用とかもする事になるわね」
「そうなんですか…」
「マアそれを切り抜けてこそ探検隊ダ。有名な探検隊になればそれだけ収入も増える。ファンがいれば差し入れとかもあったはずダ」
「良いことも悪いこともあるんですねー。あ、えと、話の腰を折ってすいません」
ぺこりとイーブイが頭を下げ、それを見たフレイヤは首を振った。
「いいのいいの。じゃ、登録作業に戻るわよ。えっと、まず名前ね……って…あなた達、ニックネームはあるの?さっきから聞いてると種族名で呼び合ってるみたいだけど…」
「僕達、田舎の小さな村から来たんです。同じ種族はいなかったから、自然と種族名で呼び合うようになりました」
「なるほどね…。ここは様々なポケモン達が集まるから、どうしてもニックネームが必要になるの」
「そうですかー。どうしよっか、ヒノアラシ…」
「即興で名前決めようにも、浮かばないなあ…」
2匹は頭を悩ませるが、フレイヤはにこりと笑った。
「ああ、なんなら私が決めましょうか?」
「「本当ですか!?」」
「ええ。たまにあなた達のような子が来るのよ。えっと……」
フレイヤは視線を宙に彷徨わせ、ヒノアラシとイーブイは
「…ヒノアラシ君は『シグルド』、イーブイちゃんは『スルーズ』なんてどうかしら?」
「シグルド…」
「スルーズ…」
「も、もちろんキャンセル可能よ」
シグルド、スルーズ、と何度も新しい名前を繰り返す2匹を見て、フレイヤはまずったか、と慌てて付け加える。
「…フレイヤさん、ありがとうございます!」
「こんなに良い名前をつけてもらって、あの……!」
しまいにおいおい嬉し泣きを始めた2匹に、フレイヤは苦笑いするのだった。

398 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/06/15(日) 12:02:22 ID:91C+KJYQ0

「えっと、確認するわね。
 チーム名は『紅の風』、リーダーはシグルド。
 今のところメンバーは2匹。シグルド15歳、スルーズ14歳。この先は個人情報があるから言わないでおきます。
 部屋番号は354。…でいいわね?」
「はい」
「ん。じゃ、これあなた達の部屋の鍵よ。無くさないでね」
銀色に鈍く輝く鍵を預かり、シグルドは頷いた。
「それじゃ、今日はギルド内を見るなり買い物するなりして明日に備えなさい」
「はい!」
「フレイヤさんさよならー」
席を立ち部屋から出た小さな探検隊を、フレイヤは満足げに見送った。

まず荷物を降ろそう、とスルーズが提案したので、2匹は部屋に向かうことにした。
「ええっと…354号室だよね、ヒノ…シグルド。…ごめん」
「いいよいいよ。なんか不思議な感覚だよね。暫くは間違えてもお互い様だよ」
「うん、ごめん…」
「だからいいって。あ、そういえばさ」
スルーズはそのままだとほぼ確実に謝罪を繰り返すので、シグルドは話をかえる。このあたりは幼馴染ならでは、だ。
「なんでチーム名が『紅の風』なの?」
先ほどの登録時にチーム名を決めたのだが、フレイヤが『チーム名は?』と言い終わる前に、まってましたとばかりにスルーズが『紅の風です!』と答えたからだ。
チーム名は事前にスルーズに任せていたので、シグルドはチーム名の由来を知らない。別に不満は無いが、好奇心が首をもたげるのも当然と言える。
「あ、うん。あのね、シグルドは隙は大きいけど威力の高い、炎タイプの技が得意でしょ?で、『紅』なの。で、私は威力は少ないけど手数の多い、素早い動きが得意じゃない?風みたいな。
 自意識過剰というか、大げさだけど良いかなー、って思って」
「へー…なるほど」
「……嫌だった?」
(わわわっ!)
コメントの内容が薄いのを、スルーズは『気に入らなかった』と取った様子で落ち込む。目にはうっすらと涙が溜まっており、今にも溢れ出しそうだ。
「う、ううんっ!そうじゃなくて、あの、凝ってるようで凝っていないというか、あ、ちが!」
「……くすっ」
「…………は?」
スルーズは慌てて口を押さえるが、徐々に堪えきれなくなった様子で笑い出す。
「はは…あははははっ!」
「……あの…スルーズ…さん……?」
「ううん、せっかく私が考えたチーム名を『へー…なるほど』で終わらせるのはあんまりじゃないかな、って思ったからつい。…ははっ」
いつの間にやら、あれほど溜まっていた『傷ついた時の』涙は消えうせ、代わりに『可笑しくてたまらない時の』涙がこんもりと溜まっていた。
(村にいたときはあんなに大人しい子だったのに…)

女の子って、恐ろしい。

シグルドはひとつ賢くなったのだった。


399 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/06/15(日) 19:53:33 ID:Hn8cNn620
>>レキ
初めまして!coopieと言います。
こちらではROM専です。
このスレでは独自の世界設定の小説が
多いので、レキさんの小説は新鮮で
楽しいです。続きに期待しています。

改めてよろしくお願いします。


400 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/16(月) 23:11:35 ID:OaHZEYMM0
>>396-398
レキ氏、お久し振りです。続編待っていましたよ。
以前ポケリレ小説板にうpされていたものよりも文章力が上達しているみたいですね。
いやww何というか色々な意味でありがとうございますwww
続きの展開に期待!


act32 追跡

ロキは急いで自分の鞄を開けてごそごそと中を探り、木の実とリンゴに紛れて一つだけあった赤くて小さい種のようなものを取り出す。
彼はそれを躊躇う事なく口に放り込んで一思いに噛み砕き、飲み込んだ。
ロキが口にしたもの……これは“猛撃の種”と呼ばれるもので、食べた者の攻撃力を最大まで高める効果がある。
これはアース族の集落で採れたものだがこれもオボン同様砂漠の乾燥した気候ではとても育ちにくく、集落ではオボン以上に貴重なアイテムとされている。
それ故ロキはこれを口にするのは初めてだった。

口の中に広がる飾り気のない淡泊な味に一瞬不安を感じたが、効果はすぐに現れた。
「凄ぇ…力が漲ってくる……これなら…!」
ロキは沸き上がる力を後脚に集め、岩壁に“二度蹴り”を決める。
「ハアッ!」
高めに振り上げた右脚の初撃で眼前の岩壁は今にも崩壊しそうな状態まで大きく凹む。

401 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/16(月) 23:14:45 ID:OaHZEYMM0
「ラストォ!!」
回し蹴りの要領で続けざまに放った左脚の二撃目で岩を奥に吹き飛ばし、扉を完全に崩し去る。
直後に上昇していたロキの力が段々と抜け、遂には通常時同様に戻った。
「ふぅ、こいつの効果は一瞬か…まぁ、結果オーライだ。早くヴァン族を追いかけよう」
そうして岩壁に立て掛けてあった鉄剣とランプを詰め込んだ鞄を背負い、扉をくぐろうとする。
「兄貴〜…何の音でやんすか?」
彼のすぐ後ろではルシオが眠い目を擦っていた。恐らく先程の壁が崩れる音で目を覚ましたのだろう。
「おっと、危うくルシオを置いてく所だった…」

ロキはルシオにこれまでの経緯を説明し、ヴァン族を追わなければならない事を伝える。
「それにしても何でこんな隠し通路が…」
「寝込みを襲うなんてひどい奴らでやんす! 兄貴、急いで姉貴を助け出すでやんすよ!」
「扉を開けるのに手間取ったからな…急ぐぞ!」
二匹は目の前の細くて暗い上り坂の直線通路に駆け込み、洞穴を後にする。

402 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/16(月) 23:18:10 ID:OaHZEYMM0
「はぁ…随分長い通路でやんすね…」
扉を抜けて数分は経っただろうか、二匹は同じ通路をひたすら走り続けている。
と、彼らの前方10m程に複数のポケモンの影が見えてきた。あのシルエットはカシェル達に間違いない。
「! 見えてきたぞ、ルシオ」
「ようやく追いついたでやんす〜…」
追っ手に気づいたカシェル達は立ち止まって赤い目をロキ達に向ける。
「ほう…ヴァン族にしか開けられないあの扉をこじ開けてくるとはね…」
「さあ…カシェル、今度こそ大人しくユメルを返しーー

ロキがそう言い掛けた瞬間、丁度二匹のいる場所の地面が突如として崩れ落ちた。

 ってうおおああぁぁ〜……」
「ぎにゃ〜でやんす〜……」
突然の出来事に二匹は為す術もなく落下し、地底の闇に誘われて消えた。
カシェルはその様子を見て二匹を侮蔑するように高笑いする。
「はははは! 詰めが甘いなロキ! 最後はやはり我らの勝利で終わるのだ!」
「カシェル様、早くガノッサ様の元へ!」
ユンゲラーに急かされたカシェルは地面に空いた大穴に一瞥をくれると前髪を掻き上げ、ユンゲラー達と共に早足で通路を進んでいった。

403 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/17(火) 19:48:03 ID:L9ntmhyw0
十七, See you again、再会の約束

「…フタリに吉報。此処からなら…破壊者の直轄地はもうすぐよ。大体一日二日あれば着くくらいかな?」
「ホント!?」
その知らせを聞いて、飛び跳ねて喜ぶロヴィン。
「…そうか。もうそんな所まで来てたんだな…」
「…ディフ」
レーシャが照れくさそうに言う。
「大丈夫とか言っといてこんなこと言うのも可笑いけど…、帰ってきてね」
その目には、溢れんばかりの涙を溜めていた。
「レーシャ…」
氷石の輝きが、胸に苦しい痛みを生じさせた。
「…大丈夫だ。絶対に帰ってくる」
俺にできることなんて、ただ言葉で安心させることしかない。でも、彼女にまた辛い思いをさせるのは嫌だから。もう、あんな辛い顔は見たくないから。

404 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/17(火) 20:07:02 ID:L9ntmhyw0
「…約束よ。あの時の場所で、待ってるから…、」
雨と涙で濡れた顔。その顔に浮かべた笑みは、どんな星空より、どんな月より眩しかった。
「また会いましょう。」

「隊長…。今回のことがバレたら左遷は免れませんよ…?」
「…そんなものが怖くて、任務に逆らえると思う?」
ディフ達を見送った後にはフタリの少女が残った。戦いの痕を消そうとするかの如く、小雨が降り続いていた。
「私が本当に怖いのは、彼が貫いた道が閉ざされてしまうこと。あのコを護り通すっていう、強い意志」
「彼は…帰ってくると思いますか…?」
「正直…分からないな」
空は闇に染まろうとしている。夜はそこまで迫っている。
「でも私は、彼が望む結果を迎えられれば、それでいい」
速く通り過ぎる雲。前方の空には、雲の隙間から星々が光を覗かせていた。
「…待ちますか?彼が帰ってくるのを」
「…勿論、待つよ。」
その星々の中の、白い輝きを見つめた。
「約束したから。待つよ、いつまでも…」

405 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/17(火) 20:39:50 ID:L9ntmhyw0
ー月光に照らされた"月の祭壇"には、二つの姿があった。
「…ハヤテ。これはどういうことだ?」
「…正直、俺もあんまり把握してないんスよね…。その時は破壊者の定期支援に行ってましたから…」
月を見上げて話す、月の守護神:クレセリアと、聖天士官:ハヤテだ。
「えぇっと…任務内容には"同勢力への攻撃を行った"、とありますが…」
「…月は見ておられる。あやつは濡れ衣を着せられただけではないか」
「…あいつは守護の役割に誇りを持っています。俺にも、あいつがそんなことをするとは思えません。では、指令の撤回を…」
「いや」
急に、ハヤテの方を振り向いた。あまりに突然だったため、身体に緊張が走る。
「その破壊者を送ったら、あやつは隊を降りると言っておる。私には、あやつのような精鋭を失うのは痛手でな」
「…同感です。ではどうすれば…」
「撃破はせずともよい。捕縛さえすればいいのだ。話はその後で着ける」
そう言うと、再び月の方を向いた。
「…あやつも馬鹿な奴だ…。自分を犠牲にしてでも誰かを護りたいとは…。私はそういうのは好きだがな」
クレセリアの含み笑いが、彼にはどこか恐ろしく感じられた。
「何を…企んでおられるのです…?」

406 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/17(火) 20:45:51 ID:L9ntmhyw0
「さあ…な。私にもよく分からぬ。全てはあやつの心次第だな…」
彼女は天を仰ぎ、傾き始めた月を眺めていた。


ザ、PSPの限界/(^o^)\
中途半端すぎwwwいいとこだったのにwww
さて…と、ストック切れちゃったw最近は一話完結に夢中だったからこの後全く考えてねえwww

407 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/19(木) 19:50:39 ID:RswNF1iY0
十八, 護る力は全てを超えて

晴れていてもこの森は涼しく、薄暗い。はしゃいで駆ける彼女の姿も、気を抜くと見失いそうだ。…当然か。久しぶりに帰れるんだから。
森は静かだ。音がしないという意味ではなく、いつも通り、自然な静けさ。風の音も、生き物達の鳴き声も。
時々零れる陽の光。その光は暖かく、眩しい。当たり前の筈なのにそう感じるのは、最近あの蒼空を翔んでいないからだろうか。
あの蒼空を守るのが聖天の使命。でも、今の俺はただヒトリの少女を護るだけの守護者だ。
当然この行為が許されるとは思っていない。また前のように蒼空を守れるとも思っていない。
でも、この少女だけは護らなければならない。ヘマしたのは俺の責任だし、なにより、
ー俺が護り通すと言った、護るべき者だから。

408 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/19(木) 20:17:04 ID:RswNF1iY0
あっという間に夜になった。結局今日中には着けなかったか…。…仕方ないか。フタリとも疲れは溜まっているし。特に俺はこの距離を歩くのに慣れていないからな。その事に関してはこいつは文句も言わないし。
薄らと笑みを浮かべて眠るのを見てると、出会ったあの日のことが思い出された。
あの時はただ俺のことを恐れてて。"リーダー"に似てる、ってことで協力してくれたけど。
…もうすぐ別れる時がくる。その時も笑顔でいられれば…

ー…ッ!?
何だ…?
頭を貫くような感覚がする。その感覚に支配され、一気に眠気が襲ってきた。
ーこれは…催眠術…?
なんとかさっき残しておいたカゴを食べた。だが、かじっただけではただ効果を薄めただけ。術はまだ続いているのか、その感覚は未だ残る。
ーここまで来て…、
右翼に力を込め、術の本体を探る。波長の流れが…いた。この方向だ。
ー負けられっかよッ!!
「空翼ッ!!」

409 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/19(木) 21:00:49 ID:RswNF1iY0
「おっと…見つかってしもうた…」
「何の…つもりだ…?」
木々の間から現れたのはヨルノズク。
「流石はディフはん、といったとこか。一発でわいの位置見抜くとは…。まぁ…催眠術は効いてるみたいやな」
「邪魔は…させねぇ…!」
「そんな眠そな眼で言うても、全然怖ないで?」
「…聞く気はない、か。それなら…、」
身体に力を込める。その姿を彼はただ嘲笑う。
「ゴッドバードでっか?ブレイブバードでっか?そんなリスクの高い技、その身体でよう使いますなぁ…」
「どっちも…外れだ!」

力を一気に開放する。辺りに旋風が巻き起こった。その風に、翼を乗せる。

ー鋼の強さを両翼に、
羽根は、追い風をも切り裂いてゆく。
ー鋼の勇気を魂に。
速度は増してゆく。恐れはない。護るべき者を護るのだから。
ー打ち砕かん。目の前を遮る者全て。
「剛翼:メタルグライドッ!!」

410 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/06/20(金) 21:47:49 ID:kWgfDFxk0
>>399
よろしくお願いします!(二回目
自分は原型が好きなので、こういう話になっています。
まあ皆様のような発想力が無いだけとも言えますがw
>>400
いえいえ、こちらも色々と本当にありがとうございますww
氏の小説の続きに期待ww

3.高名な探検隊と出会って
その後、チーム名の話に花を咲かせすぎたため354号室を探すのを忘れたことに気付いた2匹は、慌てて通ってきた道を戻り、部屋を見つけて荷物を置いた。
部屋はこざっぱりとしており、簡素なベッドや物置、テーブル等が配置されている。
2匹はテーブルにあった、<〜仮〜探検隊証明バッヂ>と記入されたバッヂ2個と、多くのアイテムを入れられる長方形の赤い『トレジャーバッグ』を持ち まったりとギルドの見物をすませ、町へ買出しに行く。
この付近は基本的に穏やかな気候、緩やかな地形。様々なポケモン達が生息する。
それゆえ類は友を呼ぶといった風に、派手なものが好きな種族、落ち着いた雰囲気を好む種族、湿った所を好む種族、という風にそれぞれ好みの合う者が一箇所に集まる。
この町はよく日が差し込み、日光を遮らない程度に緑もある為、温和な性格の者や、日光を好む者が多く生息している。
「ふぇ……さっきはギルド登録のことで頭がいっぱいだったけど、こうして見ると明るい町だね」
「うん、ほんと。…あ、あそこ何だろう?」
シグルドが指差した先には、多くのポケモンが集まっていた。内容は聞き取れないが、その中心から威勢の良い声と、それと正反対の淡々とした低い声が聞こえてくる。
気になった2匹は、ポケモンとポケモンの間を何とかすり抜け、最前列へ進んだ。
「さあいらっしゃい!新製品『むらさきグミ』が入荷したよ!おっと兄ぃちゃん、そいつは105ポケだ!」
「……『ヘドロばくだん』、7500ポケ。まいどあり」
そこでは頭に鉢巻を巻いた『忍びポケモン』テッカニンと、紫色の球を抱えた『抜け殻ポケモン』ヌケニンが忙しそうに働いていた。
「ヘイ、そこのお二人さん!お二人さんは探検隊の資格は持っているかい?」
「……ここは探検隊のための店。一般人には扱いにくいものや、旅の助けになるアイテムを売っている……と、上客だ」
ヌケニンがそう言うと、店を囲んでいたポケモン達が道を空けた。それにつられるように2匹も道を空ける。
「あ、皆さんありがとうございます。…今回は遠くの地だから少し多めがいいかな」
冷静に購入アイテムを吟味し、肩から提げた青いトレジャーバッグを開くニャース、
「珍しいアイテムがあるといいなっ!もう今から楽しみだよ!」
未知のアイテムへの期待に目を輝かせ、辺りを跳ね回るゴンベ、
「今回の依頼は今の俺達にはラクショーだろうし、とっとと終わらせようぜ!」
大きく伸びをしながら、ピリピリと頬袋の電気の量を調整するピカチュウ。
その3匹の首に巻かれた、青いバンダナに施された金の刺繍を見たグラエナが目を見開く。

「『セイバーズ』だ……!」

彼がそう言うと、他の皆もいっせいに騒ぎ始める。
「まさか、あの最高ランクの…!」
「すげえ…この目で拝める日がくるなんて…!」
そしてシグルド達も例外ではなかった。
「あれが…『セイバーズ』……!?」
「噂には聞いていたけど、まさか…!」


411 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/06/20(金) 21:50:17 ID:kWgfDFxk0
『セイバーズは、サーナイトギルドトップクラスのチームだという。
 ギルドリーダーのフレイヤからの信頼も厚い、ギルドの中心的存在のチームである。
 ニャース、ゴンベ、ピカチュウの3匹で行動しており、全員まだ若いにもかかわらず、数々の依頼を難なくこなしてきた…』

(あの噂は、本当だったんだ…!)
「あ、あの人たち行っちゃうよ!追いかけよう!最高ランクの人たちの話を聞けるかもしれないなんて、滅多にないチャンスだよ!」
買い物を終えた『セイバーズ』の3匹は町の外へ行こうとしている。スルーズは制止の言葉を掛ける隙を与えず走り出した。
「ま、待ってよスルーズー!」
シグルドもその後を全速力で追いかける。
セイバーズはすでに町の入り口に着いており、今まさに移動用のオオスバメに飛び乗るところだった。
「待ってください!」
すんでのところでスルーズが声を掛け、一足遅れてシグルドも追いつく。
ニャースはそれに気付き、残りの二匹にも伝えると、首を傾げた。
「……どうしたんだい?」
「俺達は急ぎの用があるんだ。すまねぇが早くしてくれ」
「……あ、あの…えと…」
スルーズはつい飛び出したものの、まず最初に何を言えば良いかわからなくなった様子でどもる。
その様子に半ば呆れつつも、シグルドは助け舟を出した。
「僕達、ついさっきギルドの登録を済まして、買い物にきたんです。そしたら、あなた達が来たので彼女…スルーズがつい飛び出してきたんです」
「ああ、さっきフレイヤさんが言っていた『紅の風』だね。今回は期待できる、って喜んでいたよ。期待できる新人と話せて、嬉しいよ」
急いでる様子だったのに引き止めてしまった2匹を咎める事もなく、ニャースは明るく笑う。
「僕らもあの『セイバーズ』の皆さんと話せて光栄です、えっと…」
「僕はニャースのリン。一応セイバーズのリーダーだよ。よろしく」
リンは手を差し出して、2匹と握手した。そしてピカチュウとゴンベにも自己紹介をするよう促す。
「俺はピカチュウのヴェイグだ。よろしく!」
「私はゴンベのシグルーン。よろしくね」
ヴェイグとシグルーンはその場で軽く礼をした。
「僕はヒノアラシのシグルド。こっちはイーブイのスルーズです」
「よろしくお願いします!…ところで、そんなに急ぐ必要のある用って何ですか?」
「ああ、さっきフレイヤさんから依頼を受けたんだよ。未開の砂漠調査に行ってくれ、って。
 何分最近見つかったものでね。そこに住むポケモンの種類もわからないし、先に上空から視察をした者によると、ここら一帯とはずいぶん違った生息の仕方らしいんだ。
 だから僕達が行くよう頼まれたんだ」
「砂漠は相当遠いらしいからな。なるべく早く出発したかった、てわけだ」
「まあ私達の足ではたどり着くのはまず無理だから、燕の血を引き継いでるオオスバメに乗っていくの。
 だから多少はマシになるわね」
「そうだったんですか…すいません、引き止めてしまって」
「いやいや、君達と話せて良かったよ」
「リン、そろそろ行かねぇと時間が無くなるぜ!」
「先に乗っとくから!」
ヴェイグとシグルーンが叫び、走り出す。
「……ちょうど良い頃合だね。じゃあ、行って来るよ!」
リンは微笑み、そう言い終えると同じように走り出した。
「さよなら!」
「さようなら!頑張ってください!」
3匹はオオスバメに乗ると、高く高く舞い上がって、見えなくなってしまった。
それでも、2匹は手を振り続けていたのだった。

412 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/21(土) 14:43:55 ID:J8nZszeI0
最終話らしい雰囲気は全く出ていないが最終話だ、とほざいてみる。

最終話, 守護の誓い

「…おい、大丈夫か!?」
「いやぁ〜…逃げられてしもうたわ…。ディフはん、聞いてたんより強いですなぁ…」
先程の場所に倒れていたヨルノズクの元へ飛び寄るピジョン。逃げられた、その知らせに舌打ちをする。
「まぁ…催眠術は当てといたんで、捕まえるんは簡単やと思うで?」
「…そうか」
「そうや、一つ頼んでもかまへん…?」
「…何だ?」
「破壊者の娘(コ)は逃がしたってや…?せやないとディフはん、悲しんでまうから…」

風の中を滑る。森の中だろうと構わない。背中には、牙の少女。
「ディフ!?いきなり翔ぶぞって…どうしたの?」
「このまま…帰るぞ!」
ー急がないと。
「このまま…!?」
眠気はまだ残る。だが、躊躇している暇はない。
「このままだとお前を送れそうにないから…。誓いは果たせそうにないから…。」
羽根が時々幹に叩きつけられる。怯みはしない。いつか見える光を目指して、ただ前へ。

413 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/21(土) 15:05:37 ID:J8nZszeI0
「…ロヴィン」
ーそうだ。
「ん?」
「もうすぐ着く。今までありがとな。」
ーこれで、別れなんだ。
「こちらこそ、ありがと。」
ー涙よ乾け。この別れには、涙など要らないのだから。
光は…、見えた。

闇を抜けた俺達の前には砂漠が広がる。破壊と守護の境を示す関。
「着いた…んだね…」
月はそれを、幻想的に映し出していた。
「守護者、名は?」
エレキブルが近づいてくる。恐らくこの辺りを守る破壊者だろう。
「聖天、種族名エアームド、ディフです」
「隣は…破壊者か?」
「えっと…覇女、クチートのロヴィンです」
緊張しているのか、その声は震えているようだった。

414 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/21(土) 15:22:49 ID:J8nZszeI0
「ロヴィン…?行方の知れなかった班か…。これで、全員揃ったことになるな…」
「全員…!?みんな無事なの!?」
「フフッ。良かったな、ロヴィン」
「うん!」
少女は笑顔で応えてみせる。…良かった。最後までその笑顔を見れて…

ー…ッ…!!

俺達に突きつけられた現実は、あまりに残酷で。
俺達の別れの時は、あまりに辛くて。

「ディフ?…!!ディフッ!!」
君の涙は、どんなものより俺の胸を締め付けた。
ーハアッ…!ハアッ…!
「目標を捕縛。麻酔投与開始」
『了解!』

415 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/06/21(土) 15:40:30 ID:J8nZszeI0
数匹のピジョン達が周りを囲む。背中にブレイブバードを受け、痛みでどうすることもできない。無茶が祟ったか…?
「ディフッ!返事してッ!ディフッ!!」
君の声は、どんなものより俺の心に響いた。
ー…アッ…!…アッ…。
倒れた俺に触れる砂はただ冷たくて。流れる風はただ肌寒くて。
「イヤッ…!イヤだッ!!このままお別れなんてッ…!!」
そんな君に、俺は何も言えなくて。
ー…ッ…。…ッ…
「麻酔投与完了。帰還する!」
『了解!』
苦しさはやがて、眠気に変わっていった。
「ディフッ!!」
瞼がただ重くて。体は言うことを聞かなくて。

ー…ごめんな。

最後に見た君は、今までに見た君の中で一番悲しい顔をしていた。君との別れは、今までで一番辛いものだった。
ーでも、いいんだ。
俺にできるただ一つのこと。君を護り通せたんだから。

白銀は闇に堕ちた。その闇の中でも、強い輝きを放っていた。

416 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/23(月) 22:58:34 ID:4c6dyIeo0
>>412-415
これは予想外の結末……
ハッピーエンド的な最終話を予想していたので完全に意表を突かれました。
それにしても氏は筆が早くて羨ましいです。


act33 地下洞

「ん、此処は…」
「あ、気が付いたでやんすね」
目を覚ますロキの目の前にはルシオの顔があった。
ロキは立ち上がって周囲を見回すが、辺りは漆黒の闇に包まれ視界はゼロに等しい。
唯一の光源はルシオが持っているロキのランプのみ。
「此処は一体何処なんだ…?」
「多分あの落とし穴から地下深くに落とされたみたいでやんす…」
上を見上げても暗黒が広がるばかり。きっと相当深い所まで落とされたのだろう。
ロキはルシオからランプを受け取ると辺りの様子を手探りで確認し始める。

「地面は砂で壁は岩…何処かの地下洞か?」
その後数分掛けてロキは今いる場所の構造を大体理解した。
此処は地下洞の一室のようで、別の場所に続くと思われる入り口が二つある。
それらの入り口は正反対の方向に位置していた。
「迷ってる暇はない。行くぞルシオ」
「兄貴…そっちで大丈夫でやんすか?」

417 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/23(月) 23:03:30 ID:4c6dyIeo0
「さっさと此処を抜け出してユメルを追う。しっかりついて来いよ」
そうしてロキは何の躊躇いもなく一方の通路に入っていった。ルシオもそれに続く。

緩い上り坂を真っ直ぐ進んでT字路を左折し、十字路を右折、次の十字路は直進してしばらく歩き、三叉路を左に……行き止まりか。
来た道を引き返して三叉路の真ん中の道をとり、次のY字路を右折してしばらく歩くと少し開けた部屋のような場所へ辿り着いた。
「はぁ…道順がややこしいな、この地下洞は。迷路みたいだ…」
「兄貴〜…少し休もうでやんす…」
周囲に警戒し続けて精神的に疲れてきた二匹はその場に座り込んで鞄から水筒を取り出す。その時ーー

「あんた達、何者だい?」
二匹のいる部屋のようなフロアの隅から突如声が聞こえ、ロキはとっさに剣を抜いて構える。
声のした方向から現れたのは両腕に鋭い鈎爪を持ち、背中に幾つもの刃のようなトゲを有したポケモン…雌のサンドパンだった。
見たところ年齢は25、6歳あたりだろうか。
「誰だお前は!」
剣先を向けたままロキは相手を威嚇するが、サンドパンは眉一つ動かさずに両腕を上げて二匹の下に歩み寄る。

418 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/06/23(月) 23:06:32 ID:4c6dyIeo0
ロキには彼女がかなり戦闘術に長けているように思えたが、彼女には戦闘の意志が全く見られない。
「普通あんた達から名乗るのが道理なんじゃないのか? それにあたしの部屋に入ってきていきなり剣を抜くのもどうかと思うが……」
剣を持つロキの気迫に負ける事なく彼女は少々呆れたような顔で更に近寄ってくる。
よく見ると確かにこの部屋には生活用品のようなものが幾つか配置されていた。
彼女の領域を犯した事を認識するとロキは戦闘体制を解き、剣を鞘に収める。
「ああ…すまない。オレ達はアース族のポケモンなんだが、ふとあることで此処に迷い込んでな…」
「部屋って事は此処はあなたの家でやんすか?」
ルシオの問いかけにサンドパンは両腕を下ろして答える。
「正確に言えば家…じゃない。此処はドヴェルグ族集落さ。
 地面と岩タイプのポケモンで構成されているのは恐らく知っているだろう。
 あたしの名はフラール。ドヴェルグ族の族長を務めている」

419 :cotton@短編進まねえorz ◆OEz9S/PbFY :2008/06/24(火) 00:01:14 ID:ct9IE2NY0
>>麒麟児さん
コメントありがとうございます。
毎度の如く書く度に展開がコロコロ変わるので、最初に考えていた展開は跡形もありませんorz
>筆が早い
自分に自信が持てるのはそれだけだったりw
昔から妄s…もとい、頭の中で物語考えるのが癖になってました。だから話が結構出てくるのかも。
しかし、どれも展開が強引というwww

族長北ーーーッ!(殴
これは…交渉チャンスでしょうか?結果にwktkです。

420 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/06/25(水) 18:29:01 ID:jd9BT1NE0
>>cotton
完結お疲れ様です。
実を言うと…こういう展開に
なるんじゃないかなー…と予想は
していたのですが。
やっぱりエアームドは大好きです。
長編(中編?)を書くときは、やっぱり
計画性と下書きが大事だと思います。
書いていくうちに、あれもこれも
ってなっちゃうと、どんどん長くなって
収拾がつかなくなりますし。
逆に途中でネタが尽きて、中途半端に
終わってしまうこともありますし。
でも、世界観はよく表れてますし、
何と言っても好きなポケモンが
登場してきたので、個人的には
楽しく読めました。
これからも頑張って下さい。
応援してます。

421 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/06/27(金) 23:57:09 ID:dN5qhWD20
やっぱりどうしても
過疎ぎみなんですよね……。

人が増えてほしいです。

422 :cotton@すごく…テスト期間です… ◆OEz9S/PbFY :2008/06/28(土) 07:01:36 ID:Uj3lT7K60
>>coopieさん
コメありがとうございます。
>計画性と下書き
やっぱりそうですよね、書いてて分かりましたw
メール保存とか利用していきたいと思います

今書いてる一話完結、先に考えた非エロより後に考えたエロが早く完成w

423 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/02(水) 23:20:45 ID:gTkWMVxQ0
スレの過疎にもめげずに駄文の続きを投下。

act34 ドヴェルグ族

まだ若い彼女が一族の長……そうは思いもしなかった二匹の表情は完全に意表を突かれ、驚きを隠せないといった様子だ。
しかしロキには附に落ちない点が一つあった。
「ドヴェルグ族は…確かアメンティ山の中腹に集落を構えてるって聞いたけれど……」
「確かに少し前まではそうだった…ヴァン族に集落を奪われるまではね。
 一週間程前、あたし達はヴァン族の襲撃を受けたのさ。
 勿論あたし達も必死に抵抗したけれど奴等の強力な超能力の前に多くの仲間が倒された。
 生き残ったあたし達は命からがらこの地下洞に逃げ延び、なんとか全滅は避ける事が出来た。
 そして今、地上の集落ではヴァン族が我が物顔であたし達の住処を乗っ取っているのさ……」
彼女の声には除々に怒りが込められているように聞こえた。
「奴等の目的は……集落奥地にある封印されし“古の災厄”の復活だ。
 それを防ごうにもヴァン族は少数民族とはいえ個々の戦闘能力が高く、あたし達も手が出せない状況なんだ…」
「オイラ達の集落もつい昨日襲われたやんす。でも兄貴が一人でヴァン族を追い払ったでやんすよ!」

424 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/02(水) 23:24:29 ID:gTkWMVxQ0
「だけどそいつらにオレ達の大切な仲間が連れ去られたんだ。儀式の生け贄にするとか言ってな…
 それでカシェルという名のエーフィを追っていたら落とし穴の罠にかかって此処に辿り着いたんだ」
フラールはロキの言葉を聞いて目を見開き、体を震わせて動揺する。
「その生け贄というのは…ロキと同じ位の年齢をした雌のポケモンか?」
「そうだけど…何故その事を?」
ロキはユメルのことをずはり言い当てられて更に驚愕したが、フラールは腕を組んで何やら深刻そうな表情で考え込む。
「まずいな…儀式によって“あいつ”が目覚めてしまう…!」
「ど、どうしたでやんすか?」
「…行こう。地上への道はあたしが案内する。詳しい話は歩きながらでもいいだろう」
彼女はすぐに冷静さを取り戻すと早々とした足取りで部屋を後にする。
二匹も慌ててフラールの後に続いた。

ロキとルシオは迷宮のような地下洞をフラールの先導でひたすら歩いていく。
暗所で目が利かないロキ達のために地下洞の松明が付けられ、通路は明るく照らされていた。
松明の明かりで見えた彼女の体の土色は濃く、背中のトゲは赤褐色をしていた。いわゆる『色違い』というやつだろう。

425 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/02(水) 23:28:19 ID:gTkWMVxQ0
その後フラールから聞いた話によると、ドヴェルグ族はヴァン族が復活させようとしている力…通称“古の災厄”の監視者であること、
その災厄の復活には龍の血を継ぐ若い雌のポケモンが必要であること、
カシェルはヴァン族で二番目の位を持つ『副長』であること、
そして現在ヴァン族に制圧されている集落にはヴァン族全てのポケモンと族長のフーディンがいるということだ。
そんな話を聞きながらロキ達も自分達に起きた出来事や旅の目的を話していく。

「たった三匹で砂漠の未来を変えようとするのか……確かに種族を越えた共存ってのも面白そうだね。
 あたし達も協力するよ。あたしも以前からこの風習は変えるべきだと思っていたし、それにヴァン族は倒すべき存在だからね」
フラールは期待と感心の入り交じったような眼差しで嬉しそうに二匹を見つめる。
「本当ですか? フラールさん、有り難う御座います!」
「いや、礼には及ばないよ。
 話は変わるが、そのユメルというキルリアが龍の血を引く者なのだな?」
「そうでやんす。おじいちゃんがガブリアスと聞いているから間違いないでやんす」
「ならば急ごう…奴等の儀式がもう始まっている可能性が高い」

426 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/09(水) 17:15:09 ID:WqEjoZ2s0
act35 潜入

彼女は二匹が到底覚えられないような道順でどんどん進んでいく。
途中に数回上り坂があった所を見ると地上への道のりはこれで合っているのだろう。
「着いたぞ、此処だ」
それから十数分程歩いただろうか、三匹の目の前に現れたのは大きく重厚な石の扉だ。
彼女はそれを開けると二匹を部屋の中へと誘う。
この部屋は比較的狭く、天井がやたらと高い。唯一目につく物といえば天井に届く程まで伸びた急斜面の上り階段位だ。
「この階段を上って正面の岩壁を壊し、目の前の梯子を登れば占拠されたあたし達の集落に着く。
 儀式中なら殆どの実力者が集落奥の祭壇に集まっているから外の警備も手薄だろう」
「なら今が忍び込むのに絶好のチャンスという事でやんすね?」
「ああ…その通りさ。出来ればあたしも一緒に行きたい所だが、あたしはドヴェルグの仲間を連れて後からあんた達を追うよ。
 標的はヴァン族長…フーディンのガノッサだ」
フラールはルシオの問いかけに頷き、そして作戦を再確認するように二匹の顔を交互に見つめる。
「了解でやんす! 兄貴、早く儀式を止めて姉貴を救い出すでやんすよ!」
「ああ…急ぐぞ!」

427 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/09(水) 17:20:50 ID:WqEjoZ2s0
二匹はフラールにお礼を言うと目の前の長めの階段を駆け上がっていった。
「あたしよりも若いというのにたった二匹でヴァン族に立ち向かうのか…あたし達も負けてられないな……」
残されたフラールはそう呟くと足元の砂に飛び込むようにして潜り、姿を消した。

「よし、上りきった……」
「ハァ…ハァ…疲れたでやんす…」
全速力で階段を踏破した二匹の目の前は岩壁があり、行き止まりのように見える。がーーー
「うぉぉらあぁぁ!!」
躊躇う事なくロキは眼前の岩壁に後ろ蹴りを叩き込み、すぐにそこから飛び退く。
直後に壁は音を立てて崩れ落ち、新たな道を開いた。
「さて、何処に出るでやんすかね…」
「水の匂いがする…この先は井戸の中か?」
蹴り壊した瓦礫を踏み越えて目の前に垂れ下がっていた縄梯子を登り、二匹は筒状に組まれた井戸の石垣の中から外へと出る。
外は無為な状態の岩が幾つもあってやたらと狭苦しい岩場でとても歩きづらかったが、二匹はそれでもユメルを救うべく足を進めていく。
しばらくすると岩場が開け、奥に集落のような建造物が見えてきた。
見た限り集落らしき建物は小高い丘に囲まれ、集落入り口付近の様子を伺う事が出来ない。

428 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/09(水) 17:24:55 ID:WqEjoZ2s0
ただ一つある入り口の門は門番らしきスリープが門のアーチを塞ぐように見張ってーーもとい立ったまま寝息を立てていた。
「スリープなだけによく寝てるでやんす」
「……門からは入れそうにないな。あの丘を登るぞ」
二匹は音を立てないように集落を囲う丘をなんとかよじ登って頂の崖の上から顔を覗かせ、集落の様子を観察する。
大岩をくり抜いたような建物の外観はアース族集落と何ら変わりはないようだ。
しかし集落自体が大きく、入り口が三ヶ所もあるので何処から入り込めばいいのかが全く分からない。
「構造は随分と複雑そうだな…フラールさんに祭壇の場所を聞いとけば良かったか…」
「あ、兄貴…あれを見るでやんす!」
ルシオが指さしたのは一番左側の入り口でそこから出て来たのはカシェルの配下のユンゲラー。
彼の手には頑丈そうな鉄製のワイヤーの端が握られていて、それは後から続くニャース、ピカチュウ、ゴンベの体を縛り付けている。
彼ら…といってもゴンベだけが雌であったが、見慣れない三匹のポケモンは首に青いバンダナを巻いていて、ニャースは肩から青いバッグを下げていた。


PSPはレスの容量が少なすぎて毎度のように中途半端な所で切れるorz

429 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

430 :あぼーん:あぼーん
あぼーん

431 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/11(金) 17:21:26 ID:joFziTs20
>>absl
はじめまして。coopieと申します。
これからよろしくお願いします。

まず、小説を書くのであれば
sage&トリップを推奨します。

小説の方は、主語と述語の主体を一致
させると、もっと読みやすくなると
思います。これからも頑張って下さい。


432 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/11(金) 23:38:24 ID:K5We4yZo0
coopieさん
初めまして小説のアドバイスありがとうございます
読みやすいようこれからゆっくり勉強していこうとおもいます

433 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/12(土) 11:39:13 ID:+FmZ5C360
>>absl

何も削除することは無かったのに……
まあ、本人の意向ですから、仕方がない
ですね。
最近このスレは過疎化が進みがちなので
ROM専でも構いませんから、是非ここを
時々は覗いて頂けると嬉しいです。

小説は『慣れ』が一番ですから、
勉強するのであれば、まずはたくさん
書いてみることが得策だと思います。
頑張って下さい。

434 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/12(土) 13:18:23 ID:+J8AAkzA0
coopieさん
すみません;
どうもあとあと文章読み直してたら意味わからないなと思いまして・・・
これからもここはのぞかせていただきます

慣れ・・・ですか
やはり絵と同じで慣れは必要なのですね
これから色々と書いてみることにします
ありがとうございます

435 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/12(土) 17:11:29 ID:FO/ZfgT60
かつて、世界の全てのポケモン達を死に追いやった
「魔導第二次大戦」
道を踏み外したポケモン達が集まり
禁断の力に触れた事により
世界を滅ぼす力を手に入れた・・・
その名を、「魔導戦士」という。
魔導戦士達は世界を破壊し尽くし、自らの力に自惚れ、生きていた・・・
世界は終わったように見えた・・・

だが、そんな絶望の中にも、希望の光が残っていた。
希望に満ちた彼らは、魔導戦士を倒し
世界を生き返らせると誓い
旅立った。
彼らは過酷な旅を終え、世界に無事平和をもたらしたのである・・・
緑は覆い茂り、小鳥はさえずり、海は青い輝きでみちあふれていた。
元気に走り回る子供達・・・
そんな平和な世界が続くと誰もが思っていた。
いや、疑わなかった・・・

20XX年 

「つ、ついに見つけたぞ!
この力があれば、私は神になれる!!」

一匹のポケモンが掘り起こしてしまった魔導の力から、この町にすむ、一匹の少年の長い旅が始まる・・・
   

436 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/16(水) 01:12:19 ID:acu/lrxc0
友情とは
友情は、共感や信頼の情を抱き合う人間の間での互いを肯定しあう関係、
もしくは感情をいう。友情で結ばれた者達は互いを互いの価値を認め合い、また相手のために
出来ることをしようとする。友情は、互いの好感、信頼、価値評価に基づいて成り立っているものである。
(ウィキペディアより)

僕は友情なんて信じていない
いつも一人ぼっちで、やってもないことを疑われて・・・
だからこれからも友情なんて信じていくことはないだろうと思っていた
そう思っていたのだけど・・・


ここはポケモン達のみが住む世界
人間という種族やほかの種族は全く住んでいない
そんな世界のとある町にいつも音楽を聴いて過ごしてるポケモンがいた

「うーん・・・、やっぱりいい曲だよこれ・・・」
あさきの雫・・・僕的にかなりいい曲だと思う
あのリズムがなんとも好きであの曲の入り方とかもう僕好みで・・・
っと自己紹介してなかったね
僕はブラッキーのライト
趣味は音楽聴くことでヘッドフォン付けて大体の時間を過ごしている
学校にいても一人で音楽聴いてる
寂しくないかって?全然寂しくないよ
だって一人のほうが気楽だし、人との関わりなんて持ってなければ疑われることだって・・・
っと今何時だろ?
夜中の1時か・・・
明日学校だし寝なきゃ
そう思った僕は布団に入り眠りについた


色々書いては消して描いては消してをしているうちに文章そのものが変わってしまった・・・
これから序所にですが読みやすい文章を学んでいこうと思いますのでよろしくお願いします

437 :435:2008/07/16(水) 14:31:58 ID:WfNlWVLA0
「う〜ん・・・」

ケントシティ・北通り・カイルの家

「ハッ!もうこんな時間!」
ガバッ!
ドスン!
「痛たたた・・・あ!急がなきゃ!」
ガチャガチャゴソゴソ
「これでよしと・・・」
ガチャ!バタン!ガチャガチャ・・・
「急がなきゃ!」
少年は走り出した。
彼の名はカイル。ピカチュウである。
歳は13。
ハァハァ・・・
カインは町の中を走っていた。
「う〜ん、まだかなぁ・・・急ごう。」
タタタタタ・・・
「よう!カインじゃねぇか!遅刻かぁ?」
「あ、キース!」
彼の名はキース。
ヒトカゲだ。
「ハァ・・・今日が初めてのしごとだろ〜遅刻はねーだろ。」
「ごめんごめん。さて、行こうか。」
「オィオィ待てよ・・・」
そう。彼らは探検隊のチーム、「アルマーズ」
そして今日が初仕事。
「今日の仕事は洞窟の下調べだとよ。」
「うん!早速行ってみよう!」
「オイ!武器はどうした!俺は爪があるが・・・」
「ん?此処にあるよ?」
そういってカインは背中のリュックから白銀に輝く剣を取り出した。
「いこう。」
「あぁ。」
二匹は洞窟に進み出した。





438 :pandora ◆kvYxWFRquQ :2008/07/16(水) 14:45:02 ID:WfNlWVLA0
スイマセン、自己紹介してませんでした。
435、437は僕が書いてます。
ずっと皆さんの小説を読んでたのですが、自分で書いてみたくなったので書いてみました。
文章力ないダメ文ですので、ダメだと思ったらスルーして下さい(殴


439 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/16(水) 17:13:38 ID:H18YhZv+0
>>pandora

はじめまして。coopieと申します。
これからよろしくお願いします。
『パンドラの箱』のpandoraでしょうか?

>>absl

文章は、ちゃんと書けていますよ。
大丈夫だと思います。
とりあえず、句点を付けてみたら
どうでしょうか?

440 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/16(水) 18:56:19 ID:acu/lrxc0
>coopieさん
句点ですね。
次からつけていきます
アドバイスありがとうございます

441 :pandora ◆kvYxWFRquQ :2008/07/17(木) 07:55:05 ID:X8lv7D/k0
>>coopieさん

はい。パンドラの箱のパンドラです。
どうしようもない文章力の無さですが(殴
よろしくお願いします。

442 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/17(木) 18:45:25 ID:Aq6dKdqg0
「どうせお前がやったんだろ。」
「違う!僕じゃない!」
「お前以外誰がするっていうんだよ。いい加減薄情したらどうなのさ。」
「そうそう、言えば楽になるぜ?」
「取ったものさっさと出せよ!」
「違う・・・僕は取ってなんかない・・・何もやってない!信じてよ!」
「どうやら言葉で言っても分からないみたいだね?」
「少々痛い目に合わないと駄目みたいだねぇ・・・」
「ち、違う・・・僕は何もやってない・・・!!誰か・・・誰か助けて!!」



ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!
・・・またあの夢か・・・
目覚ましのスイッチを切り布団から起き上がる。
僕は朝がキライだ。
別に、種族がブラッキーだからというわけじゃない。まあ多少はそういうのもあるんだろうけど・・・
朝になれば学校に行かないといけないというのが一番の原因だ。
学校に行ったらさまざまなポケモンと会わないと悪い・・・考えただけで嫌になる。
休もうかな・・・学校・・・
と思っても結局ずる休みするようなことは出来なわけで。
とりあえず顔を洗って朝食を取り、身なりを整えたあとは育てている観葉植物に水をあげる。
そのあとは今日学校に持っていくMDを決める。
え、古い?でもMDにだって色々利点あるし結構いいんだよ?
まずディスク事態そこまで高くないし色々カラーあるし絵だって入ってるのあるから。
まあかさばるのが欠点なんだけど・・・
そういえば今何時だろ?
えっと2時・・・あ、時計反対だ。
えっと・・・え?8時10分?
やばい!あと20分しかない!!
慌てて家を飛び出してダッシュで学校に向かう。
そこまで遠いわけじゃないから急げば15分ほどで着く。
学校嫌ならそんなにあわてなくてもいいじゃないと思うかもしれないけど、僕のクラスでは遅刻したら放課後罰当番が待ってる。
まあ掃除するだけなんだけどめんどくさいからなるべくやりたくないんだ。
学校まであと少し。
流石にこの時間だとほかのポケモンはほとんどいない。
あと二つほど交差点を曲がれば学校だ!
勢いよく曲がった・・・が
「うわっ!」
「きゃっ!」
ドンッ、という衝撃があった。どうやら誰かとぶつかってしまったらしい。
僕はなんともなかったが相手は派手に転んでしまった。
相手はなんでこけたのかわからずかあたりをキョロキョロしていた。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかける。
声に気づいたのかこっちを向く。
その瞬間僕は胸がどきっとした。
僕がこかせてしまった相手はエーフィだった。


この間のつづき
とりあえず句点を付けてみました
やはりなれないからかつけずにそのまま描いていってしまうことが多かった・・・
アドバイスありましたらお願いします

443 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/17(木) 19:35:46 ID:NztBqpbk0
>>absl

誤字脱字等を無くすために、
書き上げた後もう一度読み直してみる
ことをお勧めします。

薄情→白状
出来なわけで→出来ないわけで
事態→自体
こかせて→こけさせて

ですね。

444 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/18(金) 13:28:28 ID:zuGLOCXY0
>coopieさん
結構誤字あっちゃいましたね・・・
一応見直したりしてるんですけどそれでも見落とししてるとは・・・

ずっとこかせてという言葉だとおもってたけどこけさせてが正しいんですね
初めて知りました(

445 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/18(金) 19:11:27 ID:zuGLOCXY0
「うん、大丈夫だよ!こっちこそごめんね?」
エーフィがなぜか謝ってきた。
でもその言葉は僕にはとどいてなかった。
なぜなら僕は目の前の可愛いエーフィに見入ってしまってて・・・。
エーフィは反応がないからか心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「あのー・・・もしもし?大丈夫?」
「え?あ・・・うん!大丈夫大丈夫!!」
はっと気づいて慌てて返事を返したため、変だったのか目の前のエーフィは笑っていた。
その笑顔が反則なまでに可愛すぎる・・・
「きみ、ライト君だよね?」
「へ?」
なんで彼女は僕の名前知ってるんだ?
「な、なんで知ってるの?」
「なんでって・・・私と同じクラスじゃない」
あ・・・そういうことでしたか。
確かに同じクラスなら僕のこと知っていても不思議じゃない。
というか4ヶ月はたってるのに知らない僕のほうがおかしいか。
「ご、ごめん、知らなかった・・・」
「まあ毎日一人でヘッドフォンつけて寝てればわかんないよねw」
・・・正解です。
「私、エーフィのナギっていうの。よろしくね!」
そういって前足を差し出してきた。
反射的に僕も前足が出た。
が、昔のことが頭の中で引っ掛かり出しかけた前足を引っ込めてしまう。
ナギはきょとんとしていた。
「どうしたの?」
「え、いや・・・その・・・」
なんだか気まずい雰囲気に・・・
とりあえずごまかそうと何かないか頭の中で考えた。
「あ、そうだ、学校!!」
そうだ、遅刻しかけてたの忘れてた・・・!!
「大丈夫だよ。まだあと10分はあるし。」
そう言ってナギは歩き出す。
あれ?後ろ脚引きずってない?
ひょっとして、ケガさせちゃったかな・・・
「足、どうしたの?」
「え?ああ〜、さっきぶつかったときにちょっと、ね?」
やっぱり僕のせいでした。
「大丈夫だよ!歩けるから。」
そういって学校に向かっている。
結構痛むのかな・・・かなり遅い。
このままだと彼女は遅刻してしまう・・・
それにこのまま放置するなんて僕の性格では無理。
・・・することは一つしか、ない。
「ねえ、僕の背中に乗りなよ。」
「え?い、いや、大丈夫だから!」
「でもこのままだと君遅刻しちゃうし・・・もともとけがさせたのは僕だからさ、ね?」
「う、うん・・・」
ナギの顔がちょっと赤くなる。
まあそりゃ恥ずかしいよね、うん。
正直僕も恥ずかしいもの。
でもそんなこといってられない。
ナギが僕の背中に乗る。
ナギの体の体温が僕の背中に伝わって・・・って何考えてるんだ僕は!!
変な考えを振り払う。そんなの感じたいから背中に乗せたんじゃないんだから!!
「じゃあ急ぐからしっかりつかまっってて!」
「うん!」
そう言って僕は学校へと走って行った。



今度こそ誤字はない・・・はず・・・
ありましたら報告してくれるとありがたいです;

446 :三月兎 ◆Kisna3E1Vs :2008/07/19(土) 08:24:09 ID:7q6LaTqo0
普段こちらはROMってますが、少し気になったので……

>こけさせて
「こけさせる」よりは「こかす」が自然だと思いますけど。
この文の場合「こかして」ですね。
ただ、たぶん日常の会話では使いますけど、地の文章では「こける」の他動詞「こかす」を使うのはあまり相応しくないのではないかと思われます。
台詞や心情文ならその限りではありませんが。

・僕がこかせてしまった〜
  ↓
・僕が転ばせてしまった
・僕が転倒させてしまった
などの表現に変えるといいと思います。

それでは、執筆頑張ってくださいね。

447 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/19(土) 11:55:49 ID:xhcDAICo0
>>三月兎

「こかす」が自然ですか。
初めて知りました。
私は日常会話では「こけさせる」の方を
使うので。


448 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/19(土) 12:43:44 ID:BIyv+FvA0
テスト期間故、暫く来れませんでした。
新参の方初めまして。麒麟児(きりんじ)という者です。
この調子でどんどんスレが賑わっていって欲しいですね。
>>pandora氏
僕としては少々会話と会話の間の文が少ないように感じられるので、そこをもう少し改善出来ればもっといい出来になると思います。
続きに期待していますよ。
>>absl氏
coopie氏の仰る通り文章の見直しは意外と重要です。僕も入力した文章は書き込む前に4〜5回程再確認しています。
小説の方はいい線いってると思うのでこれからも頑張って下さい。
>>445の誤字脱字に関しては僕が見る限りは大丈夫かと。

449 :pandora ◆kvYxWFRquQ :2008/07/19(土) 19:57:15 ID:epTnUHxc0
>>448
アドバイス有り難うございます。
駄目文ですがよろしくお願いします。

450 :pandora ◆kvYxWFRquQ :2008/07/19(土) 20:19:30 ID:epTnUHxc0
魔導#3

「う〜ん、暗いねぇ・・・」
カイン達は洞窟の中をさまよっていた。
この洞窟は、よく有名なトレジャーハンターがくるが
誰一人帰ってきていない・・・
「それに寒いし・・・」
「ああもう!文句ばっか言ってないで早く行くぞ!」
さっきからキースはピリピリしている。
カインの弱音に対して。
「ったく、早くいく・・・」
ドガーン!!
「な、なんだ!?」
「い、いってみよう。」
洞窟の奥から起こった爆発音は一匹の魔物が起こしたものだった。
ギャオーン!!
「くっ!魔物か!」
グルルルル・・・
「来るよ!」
カインは背中の剣を抜き、構えた。
「おう!」
キースも自慢の爪を尖らせる。
「やあぁ!」
ズサァ!
鈍い音がして、魔物の皮が切り裂かれる。
「オラァ!」
ズサァ!
こちらも切り裂かれる。
ギャオーン!
ドカッ!
「うわぁ!」
カインは吹っ飛ばされた。
壁を貫通して。
そのまま飛んでいき、何か堅いものに当たり、止まった。
「カインー!」


451 :pandora ◆kvYxWFRquQ :2008/07/19(土) 20:39:19 ID:epTnUHxc0
魔導#4 カイン、覚醒

うん?
此処は何処だ?
僕は魔物と戦って・・・!
キース!!キースは一体!

その時、目の前に妙な光景が広がった。
「ファイア!」
え?ぼ、僕の手から炎が・・・
「サンダー!」
雷・・・
「ウィンド!」
風・・・
うう!あ、頭が!頭が!あぁーーー!!

ん・・・?
此処は・・・そうか、殴られて、って
「キース!!」
・・・・・あ!あれは!
キ、キース・・・
ゆ、許さない・・・
「ファイア!」
気が付いたら僕はそう叫んでた。
剣が炎をまとっている・・・
「やあぁ!」
ズバァ!ゴォォォォ!
魔物が凄い勢いで燃えていく・・・
「サンダー!」
雷が落ちた。
ギャオ・・・
シュウゥゥ・・・
魔物は灰と化した。
「や、やった・・・」
バタッ!
カインは倒れた。
キースの隣に。

452 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/20(日) 12:40:50 ID:9IIn27d60
act36 潜入II

「僕達はこの砂漠のポケモンじゃない! 偶然この集落に迷い込んだだけなんだ!」
そう必死に弁明するのは18歳前後と思われるニャース。他の二匹…ゴンベとピカチュウは13、4歳といったところだろうか。
ロキには彼らがとても悪事を働くようなポケモンには見えなかった。ヴァン族にとって危険因子に該当するのかどうかは別として。
「お前達はどうせ他の集落の回し者だろう。さあ、さっさと歩け!」
「ち……わかったからせめてもう少し丁重に扱ってくれよ…」
「いいから早く来い!」
ピカチュウの願いも空しく、三匹はユンゲラーに半ば引きずられるようにして右側の入り口へと連れて行かれる。
その間、崖の上の二匹は黙ってその様子を見ていた。
四匹が姿を消すとルシオが何か考え込むような口調でロキに尋ねる。
「兄貴、あのポケモン達も儀式に関係してるでやんすかね?」
「どうかな……でも儀式が行われてるこのタイミングに捕縛されるって事はもしかしたら彼らは祭壇の場所や儀式について何か知ってるかもな」
「兄貴もそう思うでやんすか……ならさっきの三匹を追うでやんす!」
「決まりだな。見張りがいなくなった隙を狙ってあいつらを追うぞ」

453 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/20(日) 12:45:32 ID:9IIn27d60
数分後、二匹は見張りのブーピッグが真ん中の入り口に入っていったタイミングを突いて目の前の崖を滑り降り、ユンゲラー達を追って右側の入り口へ駆け込んでいった。

集落に入って数分は経っただろうか。松明の付けられた通路を二匹は歩いていた。
幸い真夜中という時間帯のせいか通路を彷徨くヴァン族の姿は無い。
それでも二匹は物音を立てないよう気配を殺し、体勢を低くして慎重に歩いていく。
ドヴェルグ族の集落はアース族のそれより複雑な構造をしていて方向感覚のないポケモンならすぐに迷ってしまう位だ。
しかし通路の床に敷かれた砂に先程の四匹の足跡が残されていたのでこれを辿っていれば迷う事はまず無いだろう。
足跡を辿る二匹はやがて一つの部屋の前に行き着いた。
『牢獄』と書かれたこの扉の前で足跡が消えている。この部屋に彼らが幽閉されているのは明白だ。

「牢獄…此処か?」
少々重い鉄の扉を開けて中へと入る二匹。
入ってすぐさま部屋最奥の大きな鉄檻に捕らわれていた三匹の姿が目に入る。
その檻は中に入れられたポケモンのあらゆる力を完全に封じ込めてしまう特殊なもので、こういったタイプのものは外側から鍵または鉄格子を破壊するしかない。

454 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/20(日) 12:47:32 ID:9IIn27d60
檻の中のニャースは突然の訪問者に対して恐る恐る口を開く。
「…君達は誰だい? 見たところヴァン族ではないようだけれど……」
今の彼らには先程まであった活力が見られず、逆に倦怠感と疲労感に支配されていた。差し詰めこの檻の影響といったところか。
「オレ達はアース族のポケモンなんだが…ある仲間を助けるために此処の祭壇を探してる。
 もし儀式について何か知っているなら教えてくれないか?」
「儀式についてはよく知らないけど祭壇の場所なら知ってるよ。でも私達がこんな状態じゃ…」
そう呟いて俯くのはニャースの隣にいたゴンベ。
確かにその状態では二匹を案内するどころか檻を壊す事も不可能だろう。
「それに俺達は現地のポケモンには極力手を出さないようにしてる。お前達に危害を加えるつもりは更々無ぇよ。
 俺達を此処から出してくれるならなおさらだ」
そう言うのは二匹の背後で腕を組んでいた、少々ガサツな口調のピカチュウ。
「わかった、オレ達を祭壇まで案内する事を条件にあんた達を助けよう」
「ふぅ…君達がヴァン族のように悪いポケモンでなくて良かったよ。
 檻の鍵は君達にお願いする。道案内は僕達に任せて貰おうか」

455 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/20(日) 22:54:20 ID:xNQOlAoQ0
それから7分ほどで学校に到着。
一人なら3〜4分で着くくらいの距離だったけどやっぱり背中にポケモンのせてるだけあって時間が掛ったなあ・・・
「あ、ここでいいよ!」
教室前でナギがそういう。
まあ確かにこのまま入ると変な噂できる可能性だってあるよね。
「ありがとう!」
「いやいや、元々は僕が悪いんだから・・・。」
「気にしない気にしない♪」
そういってナギは教室に入っていった。
気にしないって言われてもなぁ・・・。
そう思いながら僕も教室へ入った。




それから何事もなく放課後となり、一斉に帰宅していく。
僕も荷物をさっさと荷物をまとめて帰ろうとした。
席から立ち上がろうとしたときふと思った
ナギどうなったんだろ。
足にケガさせちゃったけど・・・
そう思いナギの席を見るとナギは荷物整理をしていた。
・・・ちょっと位声かけても大丈夫だよね?
でもなんて声かけよう。
普段ずっと一人だから言葉が浮かんでこない。
「やっほー!」とか?いや、それだとかなり親しい人と勘違いされそう。
「ちょっといいかな?」・・・いやいや、なんか違う気がする。なんか呼び出してる感じがするから却下。
うーんうーんと一人で唸りながら言葉を考えてた。
でも言葉は全然思い浮かばない。
こうなったら肩叩いて「足大丈夫?」って聞いて終わらせよう。うんそれがいい!
そう思ってナギの席を見た・・・が、ナギがいない。
帰っちゃったか・・・
きっと足治ったんだろうと思って席を立ちあがって教室の出口を見た。
すると目の前にナギの顔があった。
「やっほー!」
「うわあああああ!?」
ガシャーン!
・・・派手に転んでしまった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。大丈夫?」
ナギは笑っていた
「ご、ごめん・・・」
そう言って立ち上がる
「ところでどうしたの?僕に声かけるなんて・・・」
「いやさ、一緒に帰ろうと思ってさ!」
一緒に帰る?僕と?でもなんで?
というかなんでかな。
さっきから胸がドキドキする・・・
「別にいいけど・・・」
「じゃあ帰ろっ!」
そういって僕の腕を引っ張っていく。
「痛い痛い!わかったからそんなに引っ張らないで!」
「あ、ごめーんw」
ナギが舌を出して謝る
か・・・可愛すぎる・・・。
そうして僕たちは教室を出て行った。


>三月兎さん
初めまして
なるほど転ばせてですね
とりあえずワードにて修正しました
ありがとうございます

>麒麟児さん
あれ以来よく見直してから投稿することにしました
ありがとうございます
これからもがんばります

456 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/21(月) 19:39:39 ID:MDFG4hco0
帰り道、ナギは色々話してきた。
先生の事とか授業のこととか好きな番組のこととかその他にも沢山。
僕はそれをずっと聞いていた。
こっちも何か話したいけどどうもしゃべれなくて。
なんでここまで緊張しているのかもわからず、あっという間に家についてしまった。
「あ、僕の家此処だから・・・」
「あ、ここなんだ〜。」
ナギはあちこち見まわしていた。
そんなに変かな、この家。
まあたしかにボロいけど。
「いい家だね!」
「そ、そうでもないよ・・・ナギの家はどこなの?」
「私の家はもうちょっと先行ったところにあるの。ここから大体歩いて5分かな?」
ってことはナギいつもこの道通ってたんだ・・・
気付かなかったな・・・
「じゃあそろそろ帰るね!」
「あ、うん・・・ありがと。」
「いえいえこちらこそ・・・っとそうだ!」
「?」
「明日から一緒に学校通わない?近いしいいじゃんw」
え?明日から一緒に学校に?
「え?ああ・・・いいよ。」
即答してしまった。
正直嬉しかったんだ。
でも・・・嘘ついてるんじゃないかと思ってしまう自分がいて・・・
「じゃあ明日7時45分位に来るね!」
「う、うん。わかった・・・」
「じゃまた明日!」
そういうとナギは手を振ってそのまま走って家に帰っていった。
それを見送り僕は家の中に入った。
荷物を置きコンポの電源を入れていつも通りに音楽を聴く。
ただ、なぜかナギのことが頭から離れなかった。
「なんでだろ・・・」
そのあとはコンポの電源を落とし電気を消して眠りについた。
ナギのことを考えながら・・・


もっと短くなるだろうと思ってたんだけど結構話が長くなってきてしまった・・・
この先描いていくとどんどん変になって行きそうで正直怖いです
でも小説を書くのって楽しいんですね

457 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/21(月) 20:59:40 ID:ZakENOJs0
>>456

>小説を書くのって楽しいんですね
ですよね!
そう思えるのなら楽ですよ。
頑張ってください!

458 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/22(火) 16:36:40 ID:Cx5DnDSc0
友達

今日も目覚ましが鳴って目が覚める。
不思議と気分がいい。
いつもはあの夢見て気分悪いのに・・・
時計を見ると7時だ。
なんで今日はこんなに早く目覚ましを設定したんだっけ・・・
あぁ、そうだ。今日はナギと一緒に学校に行く約束したんだっけな・・・。
とりあえず洗って朝食を取り、身なりを整えたあとは育てている観葉植物に水をあげる。
いつもの日課をして音楽を聴きながらナギを待つ。
楽しみな反転やっぱり不安になる・・・
本当にナギは来るんだろうか・・・
時計を見ると7時40分。
あと5分か・・・
来ないかもしれないな、なんて思っていた。
その時

ピンポーン!

インターホンが鳴る。玄関に行きドアを開ける。
「おっはよ!」
目の前にナギの姿があった。
「お、おはよう・・・。早かったね。」
「待ち合わせ時間5分前に来るのが礼儀ってもんでしょ!w」
まさか本当に来るとは思わなかった・・・
しかも5分前に来るあたり結構真面目なんだな。ナギって。
「あ、ひょっとして準備まだだった?」
「いや、出来てるよ。」
「じゃあいこ!」
僕は荷物を持って家を出た。
行く途中、ナギは昨日の帰りみたいに色々話してきてくれる。
「ところでライト君って成績どのくらい?」
「よくもなく悪くもないって感じかな・・・ナギさんは?」
「私もそんな感じかな〜。っていうかその”ナギさん”っての止めない?」
「え、どうして?」
「だって”さん”つけてたらなんだか年上な感じしちゃうしさ〜。それに友達なのに”さん”付けっておかしくない?」
友達・・・
はたしてそうなんだろうか・・・
昨日たまたま会っただけなのに友達といっていいんだろうか。
でもナギは僕のこと友達と思ってくれている。
彼女のことは・・・信用してもいいような気がしてくる・・・
「じゃあ・・・きみのことはなんて呼んだらいいの?」
「“ナギ”でいいよw」
「わかったよ、ナギ」

生まれて初めて友達が出来た瞬間だった。


なんだか話が急展開なことになったような気がする・・・
やっぱり難しい

>coopieさん
頑張ります

459 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/07/22(火) 21:29:13 ID:u5LrQp0Q0
>>absl
楽しみな反転→楽しみな反面

細かいこと気にすんな
って言われそうですが、一応。


460 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/23(水) 14:41:53 ID:YZ1xe3yA0
あら・・・また間違えてしまいましたか・・・
ありがとうございます 修正しておきます

461 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/23(水) 20:51:11 ID:YZ1xe3yA0
「あ、そうだ!今日学校ついたら私の友達紹介するね!」
「え?」
「昨日ね、友達に“ライト君に助けてもらった”って話したらぜひ話してみたいっていっててさ〜。いいでしょ?」
「え、あぁ・・・いいけど・・・」
ナギの友達・・・か。
どんなポケモンなんだろ・・・
「どうしたの?」
ナギが僕の顔を覗き込んでくる。
「あ、いや・・・どんなポケモンなのかなって思ってさ・・・」
「みんないい人だよ!きっとライト君も気に入ると思うよw」
ナギが言うなら大丈夫かな・・・っていうかみんな?
一体何人位紹介してくれるんだろ。
色々考えてたらあっという間に学校に着いた。
そのあと教室に入ると同時にすごく僕のことを見てるポケモンが一匹・・・
正直ちょっと怖い・・・
席に着いたらそのポケモンがやってきた。
種族はサンダースで、表情は・・・なんかにらんでるような気が・・・
「あんた、ライト?」


今度こそ誤字脱字ないはず・・・
ありましたら報告してくれるとありがたいです。

462 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/24(木) 14:43:33 ID:uJDtFNAI0
「え・・・あ、はい・・・」
一体何だろう・・・
「ちょっと聞きたいことあるんだけど。」
「な、何でしょうか・・・」
なんだか逃げたくなってきた・・・
僕はこのポケモンに何かやったかな・・・
いや、やってないはず・・・なんだけど・・・
なんだか怖くて下を向いてしまう。
「ナギとどこまでいってるの?」
「・・・へ?」
何言ってるんだろこの人は・・・
そう思って顔をあげたら目の前のサンダースはニヤニヤしていた。
さっきまでの表情は一体どこに・・・
「キスしたの?それともそれ以上だったり・・・」

スッパーン!

なんかいい音したなーと思ったらナギがハリセンでサンダースの頭を叩いていた。
っていうかどっからもってきたの?そんなもの。
サンダースは痛そうに頭をさすっている。
「いったー!」
「あんたライト君に何言ってんの!!」
「いやあ、あんなにライトのこと話してたからてっきり体のお付き合いをしてるのかと・・・」
「んなわけないでしょ!!」
「冗談だって!冗談!ちょっと考えればそのくらいわかるだr・・・」

パーン!

またもやいい音が響く。
ナギ・・・わりと力強いんだな・・・
「わ、悪かった!俺が悪かったから!!」
「いーや!許さない!」
えーっと、なんか僕のこと忘れてない?
「ちょ、ちょっとナギ・・・」
「なあに?」
「あ、あのさ・・・彼、誰?」
「ああ、彼は私の友達でキヅナっていうの。」
なるほど。じゃあ彼がさっき言っていた紹介する友達ってことか。
「ちょっとからかうのが好きな奴でねぇ・・・あ、でも根はいいやつなんだよ!」
「全く・・・ナギはわかってないなぁ・・・ああやってからかってスキンシップを取ってだなー・・・」
「またハリセンされたい?」
「ごめんなさい。」
ナギ・・・笑顔でそういうと逆に怖いよ・・・


やっとほかのポケモン登場
僕の大好きサンダース

誤字脱字ありましたら報告お願いします

463 :SMAP一の貴公子 破壊王子稲垣 吾郎様 ◆nt/U21t1Hs :2008/07/25(金) 13:04:24 ID:S0PHWEH60
皆さん頑張って下さいね

464 :レキ@シグルド視点 ◆Hbrzy6fbcs :2008/07/26(土) 00:10:52 ID:I7ljXlUM0
新しく来た書き手の皆様、始めまして。レキです。
自分なんぞが言うのもなんですが、アドバイスらしき物を。
>>pandoraさん
>「ウィンド!」
>風・・・
>うう!あ、頭が!頭が!あぁーーー!!
の部分ですが、それまでの流れ(「ファイヤー!」等技名と叫び、その後手から出た物を表す)から、急に頭の異変を述べだすので、何が起こったか把握しにくいかな、と思います(その後何が起こったか述べているので、その時にわかりますが)。
ファンタジーらしさを全面的に押し出した作品のようですので、どんな展開になるのか期待してます!
>>abslさん
自分もやったことがあるのですが、会話文の中に「w」は入れないほうがいいかと思います。個人的にですが、違和感を感じる…気がします。
あとは、三点リーダが多いことですかね。これも個人t(ry
キャラ(特にナギ)が本当に生き生きしていて、今後どうなるのか楽しみです!


4.初めての依頼、前日
セイバーズを見送った2匹は、買い物をすっかり忘れていたことに気付き、慌てて店に戻った。
店の周りにはまだまだたくさんのポケモンがいて、『生でセイバーズを見たのは初めてだ』『間に合わなかったなー』等と雑談をしている。
「おう、さっきの兄ぃちゃん!」
「……」
テッカニンは愛想よく手を振ったが、ヌケニンはちらりと2匹を認識すると、商品であろう青い球を磨き始めた。
「で、兄ぃちゃん達、探検隊なのかい?探検隊なら『証明バッヂ』を持ってるはずなんだがなぁ」
「……モンスターボールに白い翼を生やしたようなバッヂだ。…持ってないなら帰りな」
それを聞いたシグルドは、あ、と声を漏らしバッグを漁る。
「もしかしてこれのことですか?」
その手にのった『〜仮〜探検隊証明バッヂ』を見て、テッカニンは頷いた。
「ああ、新米なのか。なら軽く説明でも聴くか?」
「……べつに嫌ならいいぞ。聴きたくなったら、でも良い」
「僕はいいけど……スルーズは?」
「私もべつにいいかな」
「うい。じゃ、自由に買い物していきな」
その後、シグルドとスルーズはああでもないこうでもないと品物を選び、買い物を終える頃には、日はとっぷりと沈んでいたのだった。


2匹はギルドに着くと、真っ先に自室に向かって、荷物を降ろした。
今後のことも考えて多めに購入した為、かなりの重量だ。
買い物を終えた当初は『女の子に持たせるわけにはいかない』と、手伝うかというスルーズの申し出を断っていた。だが、しばらく歩くと疲労の色が濃くなってきた。
仕方なくスルーズにも持ってもらい、負担は軽くなったものの、長いこと持っていると疲れるものである。
「ぅぅ…つ、疲れた……」
全身を襲う疲労感に若干心地よさを感じ、へたりこむ。
面白いくらいひざが笑っていて、ためしにと背中の火を出したものの、ずいぶん弱弱しい。
こんなことじゃこれから先が持たないぞ、と呆れながら火を消した。
「ごめんね、重かったでしょ。明日の準備は私がするから、シグルドは先に休んでて」
「…ごめん、ありがとう、スルーズ」
「いいよいいよー」
彼女の厚意に甘え、寝床に向かう。ふかふかのクッションが凄く心地良い。
体は思うように動かないが、意識だけははっきりしていた。
(まあ、当然か…)
これから毎日続くギルドでの生活、予測不能な依頼への期待、憧れの探検隊との出会い。
なにもかにもが初めてで、不安以上に期待や好奇心が跳ね回る。ワクワクが止まらない、といったところか。
ぼんやりとスルーズを見やると、道具を部屋に片付けたりバッグにしまったり、種類ごとに分けて保存したり。
今は緊急時のきのみの種類わけをしているのだろう、体力や疲労を回復するきのみと、麻痺や火傷等の状態異常を治すきのみの山をつくっていた。
そういえば、夕食がまだだった。どこのギルドでも食事の提供はしているが、24時間食堂が開いているのはここだけだ。
これは深夜に仕事を終えてギルドに帰るものもいるから、というフレイヤの計らいだ。だが、わざわざ遅くに食事をすることもあるまい。
室内の壁掛け時計の針は7時半を示している。スルーズが一息つくのを見計らって、声を掛けた。
「スルーズ、後は僕がやるよ。まず食事に行こう。僕、もうお腹ペコペコだよ」
「そだね。私もお腹すいたし。いこっか」
くぅ、と狙ったように腹が鳴る……こともなく、二匹は散らばった荷物を片付け、食堂へ向かった。

465 :レキ@スルーズ視点 ◆Hbrzy6fbcs :2008/07/26(土) 00:17:15 ID:I7ljXlUM0



長い廊下を抜け、シグルドと共に螺旋階段を降りていく。その間にも多くのポケモンとすれ違った。
ギルド内には様々な探検隊がいて、2匹の知っている探検隊は殆どいなかった上、中には2匹の知らないポケモン達もいた。
特に驚いたのは、新しいイーブイ種の進化系だ。
耳の先や尻尾など体の一部分が葉となったポケモンと、額に氷のような結晶があり、体毛は寒色で統一されたポケモン。
後にフレイヤに聞いたところ、前者は新緑ポケモン、草タイプのリーフィア。後者は新雪ポケモン、氷タイプのグレイシアと言うらしい。
スルーズ達イーブイ種は、厳しい環境に対応するために様々なポケモンに進化できる。炎タイプのブースターや、電気タイプのサンダース、水タイプのシャワーズ。
エスパータイプのエーフィに悪タイプのブラッキー。そして先ほどのリーフィアとグレイシア。
これほど多くのポケモンに進化できるのはイーブイ種以外にいないだろう。故、進化条件も特殊である。
炎、電気、水の3匹は『進化の石』と呼ばれる石を使わねばならない。エーフィとブラッキーは『信頼できる仲間』と出会えた時に、
朝や昼に経験を積めばエーフィに進化、夜間であればブラッキーに進化と、少々特殊な進化条件が設けられている。
さらにリーフィアとグレイシアは『リーフィア(グレイシア)に深く関係する場所』で経験を積まないと進化できないという、一風変わった進化条件だ。
これほどの種類がある上、進化条件も特別とだけあって、スルーズは一体どのポケモンになればいいのか、はたまたこの姿のまま過ごすのか、心の底から悩んでいた。
そのタイプだからできる事がある。けれど、できない事もある。タイプによって覚える技も、得意技も変わってくる。
一生後悔するかもしれないし、逆に後悔など無く生きられるかもしれない。
こういう時には、トレーナーが居てほしくなる。そうすれば、悩むことも無いから。
でも、もしトレーナーがいたら、望まないタイプに進化させられたり、またこの不思議な体を解明すべく実験所に連れて行かれて悲惨な最後を遂げた……かもしれない。
わからなかった。
いつまでもおなじところをぐるぐる回り、出口が見当たらない。
(……答え、というものは出ない。『回答』は無いんだから)
なら、今悩んでも仕方がない。
そう自分に言い聞かせる。ピシャリと軽く頬を叩き、気持ちを切り替える。ちょっと頬が痛むが、気にしなかった。
「あ、ここか。スルーズ、ついたよ!」
「あ、うん!」
10メートルほど先に進んでいたシグルドが、扉の前で声を掛けてくれた。
慌てて駆け寄ると、扉には『食堂』と綺麗に書かれたプレートが下がっていた。多分フレイヤの字だろう。
扉を開け、中に入る。いくつものテーブルが並んでいて、皆まばらに座って酒をあおったり優雅に食事したり寝たりと、実に好き勝手にやっていた。
とりあえず出入り口に一番近いテーブルに向かい合って座る。シグルドは出入り口側を、スルーズはその逆に。
ぼんやりしていると、大きなトレイを持ったオオタチがやってきた。そのトレイを2枚とも置いて一礼する。
そして「食べ終わった食器類は厨房に置いてください!」と元気良く言い残し、忙しそうに厨房へと去ってしまった。
「さすがにこの時間は忙しいみたいだね。もうちょっと遅く来ればよかったかな?」
「それはそれで私がもたないかも……」
そんな事を言いつつ、トレイを見る。
なるほど、客が来るとウェイター、もしくはウェイトレスが料理の乗せられた皿をトレイごと置きに来るシステムらしい。
皿にはふかふかのパンやオレンの実、野菜と肉がバランス良く入った具沢山シチュー等々、
見るだけで涎が垂れそうな料理が並んでいた。質素に見えるが栄養自体は十分摂れる、健康に良いメニューとなっている。

466 :レキ@スルーズ視点 ◆Hbrzy6fbcs :2008/07/26(土) 00:21:25 ID:I7ljXlUM0
「ん、おいしい!意外だな」
「うん、僕も予想外だったな。たくさんのポケモンの分を作るから、一々味を気にしていられないと思ったんだけど……」
その後会話を続けるのももどかしくなり、黙々と食べ進めていく。
……気がつくと、いつの間にか皿のものは綺麗に無くなってしまっていた。
「あはは!夢中になりすぎて、一瞬で食べ終わったみたい」
「美味しかったね。さあ、明日の為にも早く寝よっか」
そう交わして、食器を片付けた。椅子を整えて、周りを見渡す。
自分達のテーブル付近を通らない限り、誰も食堂に入れない。
実際、最初に見渡したときとほとんど一緒だった。
──そう、ほとんど。
(……)

「スルーズ?」

「あ、ごめん。あんまり美味しかったから名残惜しかっただけー。ごめんね」
「ははは、いいよいいよ。部屋に帰ろ」
「うん!」
ドアを押さえるシグルドに「ありがと」と言って、食堂から出る。
2匹で部屋に着くと、寝床で丸くなった。シグルドは先に寝息を立て始めたようだ。
頭の中はさっきの事でいっぱいだった。
なかなか寝付けなかったが、無理矢理自分を納得させて、そのまま寝た。
─────
自分は三人称+キャラ視点、という本当に訳わからない書き方をするので、視点が分かれるときは名前欄に書いておきます。

467 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/07/26(土) 09:13:30 ID:VEaEGNHQ0
>レキさん
確かにwは違和感あるかもしれませんね
なんとか笑ってる表現として使ったのですけど
とりあえず修正しておきます
・・・が多いのはもはや仕様というしか(

468 :SMAP一の貴公子 破壊王子稲垣 吾郎様 ◆nt/U21t1Hs :2008/07/27(日) 13:32:51 ID:1JzBM3jA0
>>1
有難う〜♪

469 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/27(日) 17:18:19 ID:3HdFbBH20
act37 セイバーズ

「じゃあ、危ないからちょっと下がってな」
ロキは三匹を檻の奥に行くようにそう促すと、目を閉じて剣の柄に手を当てて居合いの構えをとる。
直後、彼の放った一閃は檻の南京錠を綺麗に真っ二つに切り落とした。
ニャース、ゴンベ、ピカチュウの三匹は檻の扉を開け、外に出ると二匹に礼を述べる。
「ありがとう…君達。本当に助かったよ。
 おっと、自己紹介が遅れてしまった。僕はニャース種のリンだ。よろしく」
「私はシグルーン、種族は見ての通りゴンベよ」
「俺はピカチュウのヴェイグだ。よろしくなっ!」
「ああ…オレはイーブイのロキ。こっちこそよろしく」
「オイラはピッパのルシオでやんす!」
そして五匹は互いに向かい合って握手を交わす。
檻から出て活力が見られるようになった三匹はそれぞれが皆、半端ではない戦闘経験を感じさせてくれた。
だが彼らはそんな強さの他にも何か人を引きつけるような魅力も合わせ持っている。恐らく彼らを慕う人も少なからずいる筈だろう。
リンは部屋の隅に放置されていた青い鞄を大事そうに肩に掛けると部屋の鉄扉を開ける。
「さあ、行こうか。見回りのヴァン族に見つからないように…ね」

470 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/27(日) 17:20:26 ID:3HdFbBH20
五匹は牢獄部屋を後にすると祭壇を目指して音も立てずに走り始めた。

「次の階段を降りて右だ!」
先頭を走るリンの指示で彼らは迷宮のような集落を無音の風の如く駆け抜けている。
床に敷き詰められていた砂はいつの間にか消え、平らに均された岩肌が露わになっていた。これで足跡を残さずに済みそうだ。
ロキは速度を上げて彼らの横に並び、ふと気になった事を尋ねる。
「そういやあんた達は何故ヴァン族に捕まっていたんだ?」
「…僕達はこの三人でチームを組んで探検隊をやっているんだ。これがその証さ」
リンはそう言って首に巻いている青いバンダナを見せてくれた。
そこには金色の糸で「サーナイトギルド『セイバーズ』」と美しい刺繍が施されていた。
「俺達はチーム『セイバーズ』。俺達の所属するギルドのサーナイト…フレイヤ大隊長からの依頼でこの砂漠の調査に赴いたんだ。
 それでこの集落に辿り着いて偶然にもヴァン族の野望を暴いたのは良かったんだが、それをギルドに報告すべく帰還しようとした所を奴等に捕まってな…
 さすがの俺達でも集団で襲ってくる奴等を傷付ける事なく逃げ切るのは無理だった…って訳だ」

471 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/07/27(日) 17:22:20 ID:3HdFbBH20
「私達は現地のポケモンにはなるべく手を出さないって言ったじゃない?
 でも野生のポケモンと私達に危害を加えたポケモンは別なの。
 これまで私達はヴァン族を傷付けないようにしていたけれど彼らは私達を牢獄に幽閉して命の危険に晒した…」
「つまり僕達は今の時点でヴァン族に対しての攻撃が可能になったことになる。
 まぁ、これはフレイヤさんが決めた事なんだけどね」
三匹がロキ達に分かりやすいように説明してくれたお陰で二匹は彼らの素性を理解することが出来た。
直後、五匹は立ち止まって通路の角に隠れて見回りのヴァン族をやり過ごし、角の向こうの扉を抜ける。
しばらく走ると通路の左側に昇り階段が現れた。
「そうだな…ここから二組に分かれて別行動を取ろう。
 シグルーンとヴェイグは先に集落を脱出して出口を確保。僕はロキ達を案内し終え次第二人を追う」
リンは慣れた様子でシグルーンとヴェイグに今後の行動を指示する。リンはセイバーズのリーダー的存在なのだろうか。
「わかった。三人も気を付けてね!」
「リン、またヴァン族に捕まったりするなよ〜?」
二匹はロキ達に別れを告げると階段を駆け上がって姿を消した。

472 :SMAP一の貴公子 破壊王子稲垣 吾郎様 ◆nt/U21t1Hs :2008/07/29(火) 13:19:55 ID:F1t+BUOM0
皆、どうやって上手い小説が書けますか?

473 :山本 ◆rkAWlQPFjI :2008/07/31(木) 01:07:27 ID:wLPLN46Y0
>>472
(・ω・ )……。
 
とりあえず雑談用のスレッドに書くコツを書き留めておいたから、気が向いたら見て(・ω・ )

474 :SMAP一の貴公子 破壊王子稲垣 吾郎様 ◆nt/U21t1Hs :2008/08/01(金) 15:17:02 ID:oRuQ4txg0
>>1
有難うね



475 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/08/02(土) 22:56:51 ID:oXFDg9Kk0
「ま、まあ気を取り直して・・・俺の名前はさっきナギが言ったけどキヅナっていうんだ。よろしくな!」
そういって手を出してきた。
ナギの友達だから信用していいのかな。
でもさっきの目のせいかあの時のことが・・・

「・・・くん、・・イトくん、ライトくん!」
はっと気づくと二人が心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでいた。
「ああ、うん・・・何?」
「何って・・・お前顔色悪いぞ?どうした?」
「気分悪いの?」
「いや、大丈夫・・・ごめん。」
「なんか気にさわることいったみたいでごめん・・・」
そういってキヅナは頭を下げてきた。
大丈夫・・・
この人はあいつらとは違う・・・
「大丈夫だから・・・顔上げて、ね?」
そういうとキヅナは顔を上げた。
「僕はライト。これからよろしくね。」
そういって今度は僕から手を差し出した。


実家にワードのデータもってかえったのはいいものの見事に文字化けしてしまいました
どうしよう
あいかわらず・・・多いですね(

476 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/08/03(日) 19:03:26 ID:fO8s+NRU0
>>absl

ライトの過去が気になりますね…。
続きに期待です。

『…』の数ですが、僕的にはその程度で
良いと思います。多分、展開が速い分
『…』が多く見えるのでしょう。
もう少し一つ一つの場面を深く書けると
良いと思いますよ。


477 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/08/05(火) 09:23:52 ID:hlZRKJ7c0
>coopさん
ライトの過去はまあそのうちわかる・・・はず(
場面をもっと深くですか・・・
やってみますね
ありがとうございます

478 :SMAP一の貴公子 破壊王子稲垣 吾郎様 ◆nt/U21t1Hs :2008/08/05(火) 13:36:52 ID:fQp9q8Gs0
皆、頑張れ

479 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/08/05(火) 22:15:01 ID:hlZRKJ7c0
「あ、ああ!よろしくな!」
そういってキヅナも手を握ってきた。
「いいな〜キヅナ。私まだ握手してないのにー。」
・・・そういえばそうでした。
あの時拒んじゃったからしてないんだった。
「まあいいじゃんか!ナギはお姫様だっこしてもらってがっこうn・・・」

パーン!

「こりないねぇ、キヅナ君♪」
だからナギ・・・ハリセンちらつかせながら笑うと怖いよ・・・
それとキヅナ、僕らみたいな4足歩行のポケモンはお姫様だっこなんてできないでしょ。
まあ多少立つ程度ならできるけど
「あいたた・・・全くナギには冗談通じないなぁ。」
「キヅナ君・・・あまりナギ怒らせないほうがいいんじゃ・・・」
「ああ、これはいつものことだから気にすんな!」
ってことはいつもナギにハリセンでたたかれてるってことか
キヅナとナギってどういう関係なんだろうかちょっと気になる
「気にすんなって!恋人とかそんなんじゃないから!!」
あれ、僕関係とか聞いてないよね?
心読んだのかな、ひょっとしてエスパー?
「だからさ〜ライトー・・・ナギ自分のものにしろよな、な!」
キヅナは僕の耳元でそういってきた。
「え、あ、ええええええ!!!???」
こ、この人なんてこと言うんですか。
そんな、会ったばっかりなのにすごいなこの人は。
・・・はっ、この殺気は・・・
「キーヅーナー・・・」
「は!ライト!悪い、ちょっと逃げてくる!」
「え、あ・・・ちょ、ちょっと!」
「あんたいい加減にしなさい!!」
あ、ナギ以外に足速い。
もうキヅナ捕まえてる。
「ちょ、ナギ話せばわかる!だからハリセンは・・・」
「もう手遅れ!成敗♪」
「ギャー!」
キヅナの叫び声と同時にハリセンで叩いた音が廊下中に響き渡った。


ワードで書こうとおもったけどまた文字化けするのが怖いのでメモ帳で書くことにしました。
この先どう進めればいいのかわからなくなってきてしまった
どうしよう

480 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/08/07(木) 08:54:56 ID:XOfNyaYw0
レキ氏、先日は小説コラボを承諾していただき本当にありがとうございました。
シグルーンのキャラが氏のイメージと合っているかどうか少々不安だったりしますが…orz

act38 守護者

二匹と別れた後、ロキ達は通路を再び走り始めていた。
二匹の先を行くリンは突然ハッとした表情をして二匹に顔を向ける。
「おっと、ギルドや探検隊についての説明がまだだったね。二人共、『探検隊』という言葉は聞いた事があるかい?」
「探検隊とはギルドという機関に所属していて捜し物や他のポケモンの救助、更には未開の地の探検などをこなすと聞いた事があるでやんす」
探検隊…これについては過去にメルティーナから聞いた事があった。彼女は長旅から帰ってくると沢山の土産話を聞かせてくれるのだ。
ギルドについての話もその一つであった。
三匹は階段を駆け下りながらなおも会話を続ける。
「お、知っているみたいだね。ならば詳しい説明は略そう。
 僕達『セイバーズ』はヴァン族の野望…“古の災厄”の復活を企てている事を早急にフレイヤ大隊長に報告しなければいけないんだ。
 事が上手く運べばギルドの総力を以て此処を叩く事になるだろう」

481 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/08/07(木) 08:58:56 ID:XOfNyaYw0
「そうか…で、その『だいたいちょう』ってのは一体どういう人なんだ?」
「ああ、大隊長というのはギルドの頂点に就いている人の事だ。
 任務の指示や書類の処理、道具屋の仕入れルートやギルドで消費する食料の確保、ギルドと周囲の環境の向上など、ギルドの運営管理をするのが主な仕事なんだ。
 ギルドの他のポケモン達はみんな彼女の事を『オヤカタ様』と呼ぶのだけど、僕には才色兼備な女性であるあの方をそう呼ぶのに少し抵抗がーーーッ!」

階段を下りた先の左に折れた通路の角を曲がって少し開けた場所に出たその時、三匹の目の前に一つの影が現れる。
それは鋼の身体をしていて四方から丸太のような太い腕を生やし、奥の扉を塞ぐように鎮座するポケモン……メタグロスであった。
三匹に気付いたメタグロスは赤い目をこちらに向け、ロキ達はとっさに身構える。
「オ前達ハ…侵入者カ! ソレニソコノニャース…オ前ハ牢獄ニ捕ラエタハズ…」
「困ったな…祭壇へ行くにはあの扉を通らないといけない。ここは戦うしかないのか…?
 それに相手は鋼タイプ……僕達じゃ少々不利か…」
「ルシオは下がってな。オレが行く」
ロキはルシオの前に回り込んで腰の鞘から剣を抜く。

482 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/08/07(木) 09:01:22 ID:XOfNyaYw0
リンは自らの爪を出して構え、ロキの隣に並んだ。
「ロキ、僕が行こう。それにこのまま黙って君達を見ているというのは僕の考えに反するからね」
リンはそう言うと左手の爪を鋼へと硬質化させ、メタグロスの方へ一直線に駆け出してゆく。
恐らく相手の素早さの低さを突いて一撃で勝負をつける気だろう。

飛び込み様に放った彼の“メタルクロー”は確実に標的を捕らえていた。
が、彼の左手はむなしく空を掻く。そこには既にメタグロスの姿は無い。奴は瞬時にして10m程右に平行移動したのだ。
「愚カ者ガ。我ハガノッサ様ノ魔術二ヨリ“高速移動”ノ技ガ数倍二モ強化サレテイル。オ前達ノ攻撃ヲ避ケル事位容易ナノダ」
着地したリンは思考を巡らせ、今ある状況を確認する。
祭壇へ続く扉は超能力で封印が成され、扉に触れる事すら叶わない。
その扉を守護せしメタグロスは尋常ではない素早さを有していて、僕達の直接攻撃はまず当たらないだろう。
出来れば道具を使いたい所だが、このバッグに入っている物は殆どが食料品で戦闘に使うアイテムは数少ない。
その上ギルドへの帰路もあるため、今アイテムを浪費する訳にもいかない。
僕が相手に必ず命中するような技を覚えていればーー

483 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/08/18(月) 13:28:57 ID:hc4UG+8Q0
act39 共闘

「だが、もしオレが必中攻撃を使えるとしたらどうする?」
ロキは相手の敏捷性に全く怯むこと無く、自信に満ちた表情でメタグロスを睨んでいる。
直後、彼が右腕を水平に振り払うとそこから幾多の光り輝く矢が放たれた。
ガギィンーーー  「グッ……」
技の相性上、“スピードスター”は鋼の体に弾かれてしまうもののそれらは全て標的の前足に当たり、その衝撃にメタグロスは少し体勢を崩す。
そこに生まれた一瞬の隙…リンはそれを見逃さなかった。
松明の炎を映した額の小判の反射光が一筋の光となり、尾を引いてメタグロスへと向かう。
しかし、標的の懐に飛び込んだのはリンだけではなかった。

ザンッーーー
鋼を弾いたとも切ったとも言えないような斬撃音が周囲に木霊する。
メタグロスの背後にいたのは爪を硬質化させたリンと剣を構えたロキ。ロキは剣撃の反動による手の痺れに少し苦しんでいる。
標的の顔には大きなバツ印の決して浅いとは言えない程の深い切り込みの跡があった。
「ナ…ナンダト……?」
メタグロスはその場に崩れ落ちるようにして力尽きた。
これを見たルシオは嬉しそうに二匹に駆け寄る。
「兄貴、リンさん、やったでやんす!」

484 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/08/18(月) 13:31:58 ID:hc4UG+8Q0
「くっ、なんて硬さだよ…刃こぼれとかしてないだろうな…」
「ふぅ…ありがとう、ロキ。君のおかげで奴を倒す事が出来た。
 しかし驚いたな…まだエーフィに進化していないイーブイの君が“スピードスター”を使えるとはね…」
リンは左腕の爪を元に戻し、何やら興味深そうな目付きでロキを見つめる。
ロキは手の痺れに苦しみながらも剣を鞘に納めた。
「ああ、これはオレがまだガキだった頃…エーフィ種の父さんが教えてくれた技なんだ。元々イーブイが使える技じゃないから習得するのに三年も掛かったんだけどな」
「兄貴と同じ位リンさんも強いでやんすよ! “メタルクロー”で鋼鉄を切り裂くのも凄すぎるでやんす!」
「もしかすると他の二人もリンのように強かったりするのか?」
ロキは手の痺れと格闘しながら、ルシオは期待の眼差しでリンを見つめていた。
「鋼タイプのポケモンに“メタルクロー”を使うのは反動で手を痛めてしまうからあまり好きじゃないんだ。
 それと僕達『セイバーズ』はそれぞれメンバーの専門分野が違うから一概に強いとは言えないけれど、二人共それ相応の実力はちゃんと持っているよ」
そう答えるとリンは躊躇う事無く封印の解けた扉を開ける。

485 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/08/18(月) 13:34:50 ID:hc4UG+8Q0
「さ、君達は急いでいるんだろう? 祭壇はもうすぐだ」
「よし、じゃ行くか」
手の痺れが治まってきたロキはルシオと一緒に扉をくぐり抜け、暗く細い通路をリンに付いて進んでいく。
しばらくすると三匹の前に長い下り階段が現れた。
「…此処を下りればヴァン族の祭壇に辿り着ける。君達とは此処でお別れのようだね」
「ああ、案内ありがとう。助かったよ」
「そうだ、君達にこれを渡しておこう」
リンは名残惜しそうに振り返ろうとしたが、突然何かを思い付くとトレジャーバッグを漁って青い小さな水晶のような物を取り出し、ロキに手渡す。
「これは…?」
「それは“敵封じダマ”といって、ある程度の時間だが複数の敵の行動を封じる事が出来るアイテムだ。
 恐らく祭壇には族長配下のポケモン達が集まっているからそこで使うといい」
「この小さな玉にそんな力があるでやんすか…」
「君達…幸運を祈る。じゃ、僕はこれで!」
リンはそう言って微笑むと踵を返し、暗い通路を戻っていった。
「リンさんありがと〜でやんす!」
「さあ、オレ達も行くぞ。族長のガノッサを倒して儀式を止めてみせる!」
二匹も意を決し、ユメルを救うために階段を駆け下りていった。

486 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/06(土) 13:24:58 ID:RWFFo3xA0
act40 心境

此処はドヴェルグ族集落奥地の祭壇。時は丁度ロキ達が牢獄部屋を出て走り始めた頃であった。
「ホーミ、ナスア、リーマ、リカユ……」
崖の先を向いて呪文のような言葉を繰り返しながら土下座を繰り返すヴァン族達。
一昨日とは違い、崖先の十字架にはユメルが拘束されていた。
「…再びこの時が来たれり。かの災厄を現世に蘇らせ、世界を我らヴァン族のものとす!」
十字架の前に立つガノッサはカシェルより短剣を受け取ると、それを天に翳して叫ぶ。
儀式に参列していたヴァン族達も歓喜に騒いでいた。

(私、ここで終わりなのかな…)
顔以外を木製の十字架に縄できつく縛り付けられ、更に猿轡をされたユメルは自らの終末を覚悟していた。
そして彼女の脳裏にロキ達と過ごした日々が浮かび上がってくる。

ーー私は元々トレーナーのポケモンだった。しかし、戦闘能力が低いという理由でこの砂漠に捨てられてしまった。
生まれつき体が貧弱な私は信頼すべき存在のトレーナーに裏切られて、それがきっかけとなって両親にも見放され、砂漠に置き去りにされてしまった。
私には当然行く宛もなく、放浪していた所を「災厄の導き手」としてヴァン族に捕らえられた。

487 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/06(土) 13:28:37 ID:RWFFo3xA0
その後僅かな隙を突いて集落から逃げ、力尽きかけた時にロキ達に助けられたのが始まりだった。
二匹と会う前までは自分の存在を否定し、命を絶つ事さえ考えていた。
物心ついた時から毎日のように両親やトレーナーに虐げられて来る日も来る日も周囲に怯えていた私に「生きる楽しみ」なんて何一つなかった。
でもそんな時に私はロキとルシオに出会った。彼らは両親がいないというのに荒れ果てた砂漠で仲間達と共に明るく楽しそうな生活を送っていて、私とは大違いだ。
孤独で暗い人生を送っていた私にとってロキ達の暮らしはとても過ごしやすく、満足感と暖かい温もりを覚えた。
一日だけだったけれど、彼らと過ごしたあの日は生まれて初めて心から安らぐ事の出来た日となった。仲間がいるのはこんなにも素晴らしい事だったなんて今まで知らなかった。
そして私は夜の砂漠で水とオボンの実を貰ったあの時、私を助けてくれたあの暖かい眼差しのロキに……一目惚れをしてしまった。
彼はとても純粋で真っ直ぐな心を持っている。その影響で側にいた私の暗い心も彼の強い思いに動かされたのは確かだ。

でも、そんなロキは私なんかのために全てを捨てた。家も、仲間も、居場所も全て。

488 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/06(土) 13:32:43 ID:RWFFo3xA0
こんな私を助けてくれた二人には何度お礼を言っても足りない程に感謝している。ありがとう……ロキ、ルシオ。

私は二人と過ごしていくうちに二人の中に自分の居場所を見つけた。
これからも二人と一緒に充実した生活を送りたい。
ロキにまだ私の想いを打ち明けていない。
今まで私は死にたいと思っていたけれど今は違う。私は生きたい。そしてロキにもう一度会いたい。

でも私の命もここまで。ガノッサが短剣を手にゆっくりと歩み寄ってくる。
ヴァン族達が騒いでいるようだけど私には聞こえない。体も震えるばかりで動く事が出来ない。これが死の恐怖というものなのだろう。
ガノッサが天高く短剣を振り上げ、ヴァン族達が固唾を飲んでそれを見守る。

〈ロキ…助けてーーー〉

「おい、その下らない儀式もそこまでだ!」
ガノッサが短剣を振り下ろそうとしたその時、ヴァン族達の後方から放たれた騒めきを切り裂く猛々しい声。
「誰じゃ、貴様は!」
ユメルは恐怖に閉じていた目を開き、声の主の姿を見つめる。
その視線の先には彼女を助けんとする物…イーブイがそこにいた。

「…助けに来たぜ、ユメル」

489 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/06(土) 16:06:41 ID:fDIBPLNY0
変わるもの、変わらないもの‐1‐


 開け放った窓から涼しい風が流れ込む。未だに強い日差しは差し込むものの、この風の心地よさが夏の終わりを告げていた。
「ん……?」
 部屋の扉から何やらカリカリと音がした。何かを断続的にひっかくような、そんな音。
「またか……」
 その人物はため息をついて扉へと近づいていく。茶色で木製のよくある扉のノブに手を掛けて、前に押して開け放つ。
「ブラッ!」
 ポケモンの鳴き声と共に、黒い何かがこちらへ飛びかかってきた。いつものことだけに、それを軽く受け止めた。
 今、腕の中で微妙に丸まっている黒いポケモンは紅い瞳をこちらへと向けた。黄色い輪っか模様が微かに光り、目を潤ませ始めた。
「ぶらぁ〜……」
「またあいつに部屋から追い出されたのか」
 やれやれというようにそう腕の中で泣きじゃくるブラッキーに向かって語りかける。尻尾と耳を力なく垂らして泣き続けた後、疲れたのかそのまま眠ってしまった。
 こんなことがほぼ毎日続いている。朝起きて、朝食を食べて部屋に戻り、窓を開けて涼んでいる時に泣きじゃくる訪問者をなぐさめる……。もう日課と言っても過言じゃない。

 ――事の発端は弟のわがままに起因していた。
 まだ弟はポケモンを持てる年齢には達していないが、家でよくイーブイの面倒を見ているのは弟だった。もうすぐ進化する頃合いだったこともあり、進化するタイプは弟に委ねることに家族で決めていた。
 弟はエーフィに進化させるんだと口癖のように呟いて、進化するのを心待ちにしていたのだが、現実はそうも上手くはいかなかった。
 エーフィに進化するのは昼間なのだが、実際に進化してしまったのは夜。つまりはブラッキーに進化してしまったのだ。
 そのことにすっかりふてくされてしまった弟はブラッキーを見て「こんな奴知らない」と言う始末。イーブイは過去に別のトレーナーに虐待されていたこともあり、相手の感情の変化や言動に非常に傷つきやすい。
 だから毎日ブラッキーを見てすねる弟にショックを受け、こちらに泣き寝入りする状況。いままで一番親しくしていただけに、余計に傷つくのだろう。

490 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/06(土) 16:07:26 ID:jddoSeNg0


 しかし、最近は“毎度のことだ”では済ませなくなってきている。ブラッキーの食欲がこのところがた落ちし、体重も基準値を下回ってしまった。
 ベッドの上に寝かせたブラッキーに目をやっても、体がか細く見える。以前はもっとふっくらとした肉付きをしていたのに。
 このまま今の状態を引きずっていけば、虐待を受けて家に保護された時より酷い状態になる。……とはいえ、弟は異常なまでに一つのことを根に持つ。そう簡単にブラッキーをとてもじゃないが受け入れそうには見えない。
 ……さて、弟をどう説得したらいいのだろうか。まず一筋縄ではいかないのは想像がつく。
「……とりあえずは」
 そう誰に言うでもなく呟くと、扉を開けて自分の部屋を出る。そして廊下に出てすぐに右の方へと視線を向ける。廊下の一番奥が弟の部屋だった。
 扉に近づいて行き、ノックをして言った。
「ちょっといいか? 入るぞ」
 ノブを回して扉を引き、中へと入る。中には案の定顔を膨らませて机の椅子に座る弟がいた。その様子を見てため息をつく。
「トウヤ、またブラッキー泣かせたのか。俺の部屋に駆け込んできたぞ」
「泣かせてない。怒鳴ったら勝手に泣いた」
「それを泣かせたって言うんだよ……」
 近づいて弟、トウヤと同じ目線にする。トウヤはさらに俯いてこちらの視線を避けた。どうやら何かやらかしてしまった“自覚”はあるようだ。
 ……それでもブラッキーの問題は解決しない。自覚があるにしても、そこからどうすればいいかを考えなければ意味がないのだ。
「なあ、何でブラッキーと仲良くできないんだ? イーブイの時は仲良く遊んでたじゃないか」
「あいつは前のイーブイじゃない」
「いいや、あいつは歴としたうちのイーブイだ。ただ進化して姿が変わっただけだろう?」
 そう言うとトウヤはこちらを睨みつけて怒鳴った。
「それならエーフィの方が良かったよ!!」
「ブラッ!?」
 不意に鳴き声が背後から聞こえる。後ろを振り向くと、紅い目を潤ませたブラッキーが驚いたような表情をしていた。そしてすぐに踵を返した。
「ブラァ〜〜!!」
 そう泣き声を上げながら階段をドタドタと降りて行った。多分今度は母さんの部屋に行ったか……。

491 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/06(土) 16:07:51 ID:jddoSeNg0


 ため息をつくと、トウヤの方を責めるかのように見つめた。
「本日二回目。通算は数え切れないほど。……一体ブラッキーをいくら泣かせれば気が済むんだよ」
「……知らないっ」
 相変わらずしらばっくれるトウヤ。ため息をついて頭をぺちっと軽く叩いた。
「なんでブラッキーと仲良く出来ないんだ? エーフィが良かったにしても、あの拒絶の仕方はおかしいと思うんだけど」
「恐いんだ……」
「……?」
 その言葉の意味が分からずに首を傾げると、トウヤは言った。
「あの赤い目が恐い……」
「……」
 今までの日々は何だったんだろうか。こんな理由なら、早めにトウヤに聞いておくべきだった。
「そうか? そんなに恐いか?」
「恐いよ……」
 そう軽く声を震わせながらトウヤは言う。どうやら本当に恐いらしい。トウヤとブラッキーの目の高さが同じなのが起因してるのだろうか。
「恐いにしても、だ。ブラッキーは昔みたいに普通にお前に懐いてるだろ?」
「だから余計に恐いの……!」
 自分自身よりも遙かに面倒を見てきたトウヤだからこそ、イーブイからブラッキーに進化したというのが大きなショックなのだろうか。
「でも、これ以上ブラッキーを落ち込ませると、うちに保護された時みたいに元気なくなるぞ」
「分かってるよ。でもどうしたら……」
(どうしたらって……)
 正直俺も分からない。そもそも赤い目が恐いとはいえ、どんなふうに恐いのかが分からないし、どう対処すればいいのかも分からない。こうすればいい的な提案ならあるが……。
「とりあえず、ブラッキー連れてくる」
「え? なんで?」
「なんでって、慣れないと一向に現状変わらないだろ……」
 連れてくるという言葉を聞いて、あからさまに嫌そうな顔をしたトウヤに向かってそう言う。そして踵を返して部屋を出ようとしたところで、服を引っ張られる。
「何すんだよ……」
「待って、心の準備が……」
「連れてくる間に済ませておけばいいだろ」
 そう言って服を掴んだ手を振り払って部屋を出た。後ろで「兄ちゃんのバカ!」と叫ぶ声を聞いたが気にしなかった。

492 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/06(土) 16:15:44 ID:OJq7+NpA0
┏━━━━━━━━━━━━あとがき━━━━━━━━━━━━━
 何だか官能書いたら次にほのぼのとしたのが書きたくなる……。
 それに最近書く気が出てきた(`・ω・´)

 それとなんかリクエストがあったら気軽に言ってくださいね。
 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

493 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 16:40:06 ID:r8/2YDHI0
>>489-491
トウヤとブラッキーの仲がどうなるのかwkwkしてます。感動物な予感がする。

494 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 23:13:57 ID:vEUCPyMs0
なんだか面白そうな作家さんが。

面白そうな性格付けをしてますねー。ブラッキーでこっち路線は思い浮かばなかった。
続きに期待期待。


495 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/08(月) 23:59:12 ID:Q77AcaVA0
>>493
感想ありがとうございます。
感動物か否かはwktkしながらお待ち下さい(・ω・)ノ

>>494
くだらない作家とお呼びくださいw
性格とか容姿とか身の上話は、短編でも長編でもしっかりと決めています。例外もありますが……。


続きをwktkしながらお待ち下さいませw

496 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/09(火) 17:43:20 ID:4GpMPaRI0
なんかこうも他の投稿者が少ないと寂しいな…(・ω・`)
さて、続きを投下。

変わるもの、変わらないもの‐2‐


 リビングの方に降りていくと、そこには深皿に入れた水を飲んでいるブラッキーがいた。階段を降りる音を聞いたのか、台所から母が顔を出した。
「また?」
 質問の意味が分かってる俺は軽く頷く。母は深くため息をつくと、ブラッキーの近くまで歩み寄り、背をなで始めた。
「ホントにトウヤは何でああまでブラちゃんを嫌がるのかね」
 ……ブラちゃんって、また。イーブイの時はブイちゃんだったのに……。あーいや、気にするのはそこじゃなくて。
「赤い目が恐いんだとさ。本人が言うには」
「それだけ……?」
「みたい」
 また母は深くため息をつき、ブラッキーを抱き上げる。
「ブラ?」
 ブラッキーは小首を傾げて母の顔を見る。母はそのまま言った。
「酷いわよねぇ、トウヤは。今まであんなにブラちゃんに優しく接してくれてたのに」
「ブラァ〜……」
 その言葉に同意したのかしていないのか、ブラッキーは悲しそうに鳴いて俯いた。……って、本題本題……。
「今一度、トウヤとブラッキーを対面させてみる」
「またブラちゃん傷つけることになるよ?」
 母は心配そうにブラッキーの方を見る。ブラッキーは小さく鳴くとこちらへと近付いてきた。俺はブラッキーの頭を軽く撫でる。
「こいつはトウヤの所に行きたいみたいだけどな」
「分かった。ただ、トウヤを説得しても無理だったら、一度リビングにくるように伝えて」
「はいはい」
 そう軽く返事をするとブラッキーと共に階段を上がって行った。



 ――廊下を歩いて行き、トウヤの部屋の前にくる。そこで一旦ブラッキーと顔を見合わせた後、ノブを捻って扉を開けた。ベッドの上で膝を抱え込んで俯いているトウヤの姿を見つけ、ブラッキーと共に歩み寄る。
「トウヤ、ブラッキー連れてきた」
 連れてきたという言葉にトウヤはビクッと体を一瞬だけ振るわせると、やがてゆっくりと顔を上げた。
「ブラ……」
 リビングでの話を理解していたのか、トウヤを恐がらせないようにブラッキーは小さく鳴く。一歩一歩足を進める度に、トウヤは小刻みに震えていた。そして……。
「やっぱり無理ぃっ……!」
 ブラッキーがベッドの縁に片方の前足を掛けた途端に、トウヤは声を裏返えして部屋を飛び出して行った……。……本日三回目。

497 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/09(火) 17:43:51 ID:4GpMPaRI0

「……」
 今回ばかりは泣き出す気力もないらしく、ブラッキーは黙って俯いた。隣に座り込み軽くその頭の上に手を乗せると、ゆっくり撫でた。正直、自分にはこの程度しか出来ない。解決出来るのは、トウヤとブラッキーだけ。そう思うと本当に自分が情けなくなってくる。
 不意にわき腹にこつんと何かが当たる。そこに視線を向けると、ブラッキーが頭をこちらにすりつけていた。顔を上げたブラッキーの赤い瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。……しばらくそのままにさせておこうか。

 ……それにしても、なぜトウキはこの赤い目が苦手なのだろうか。弟ほどには多く接していないとはいえ、共に暮らしてきた身。
 今こうやってブラッキーの瞳を見ているが、特に恐怖は感じない。むしろ愛くるしくも思える。……トウヤの言い訳か。いや、さっきの怯えたような表情は演技の下手なトウヤには出来っこない。
 とすると本当に恐がる原因は何なのだろうか。目の高さが同じだからか?
「ブラぁ?」
 試しに視線を合わせて見る。ブラッキーは頭の上に疑問符を浮かばせていたが、特に気にはしなかったようでそのままにしていた。
(……やっぱり恐くない)
 姿勢を元に戻してそう思う。さて困った、ホントに困った。恐い理由がさっぱり分からない。それとも深層心理での恐怖か。トラウマとかそういう類の……。そしたらもっと困る。そういった恐怖は治しようがない。
「……ブラ?」
 頭の中で必死に答弁を続けていると、ブラッキーが心配したようにこちらを見る。……自分のことを一番に心配しなければならないのに、こいつは本当に優しい。虐待を乗り越えたからこそなのか、それともこいつの元々の性格なのか……。
「大丈夫。ちょっと考え事してただけだ」
 考えるのを途中でやめ、ブラッキーの頭を撫でる。なんかトウヤがああいう態度をとるようになってからは、俺がこいつをよく撫でてるような気がする。
 でも、こいつはトウヤでなければ駄目だ。撫でても気持ち良さそうに目を細めるのは、トウヤがこいつを撫でた時だけ……。悔しいが事実だった。

498 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/09(火) 17:44:33 ID:+PZQFKcQ0


 さてと、説得に失敗したから、リビングの方に行かないとな……。多分弟も一階に降りているだろうし。
「ブラッキー、リビングに行こう」
 そう声をかけるとブラッキーはベッドの上から飛び降りる。俺の横について部屋を出るものの、なんか足下がおぼつかない様子だ。このまま階段を降りさせるのは危なそうだった。
「ブラっ?」
 持ち上げるとブラッキーはこちらの方に向いて疑問を込めて鳴く。頭をぽんぽんと叩くと、階段を降り始める。
(なんかこいつ、また軽くなった気が……)
 そう思いながら階段を降りていく。もうそろそろで一階、というところで目の前に母が立っていた。
「あれ、トウヤは? 降りてきたんじゃないのか」
「一応降りてきたよ。けどすぐにトイレにこもっちゃった」
 母はそう言って階段下にあるトイレに視線を向ける。その後、ため息。前からトウヤは困ったらトイレに隠れるという癖のようなものがついている。まさかこんな時にそんな手段を使われるとは。
「おーい。トウヤ。隠れてても目の前の問題は解決しないぞ」
「うるさい! もう放っておいて!」
 自分からどうしようと聞いておいてすぐに放っておいて、か……。相変わらず身勝手な奴。まぁ、対処法は知れてるからいいんだけど、こうも自分勝手だとさすがに頭にくる。
 さて、縦長のキーホルダーでも取ってこよう。家のトイレの鍵の構造は単純なプッシュロックなので、外の鍵穴に堅くて平べったいものを軽く差し込んで捻れば開く。トウヤのせいで覚えた軽いピッキング方法。家のトイレ限定だ。

 ――部屋から取ってきたプレートみたいなキーホルダーを鍵穴に差し込んで回す。案の定、カチンと鍵の外れる音がした。だがまたカチンと音がする。鍵をまたかけられたようだ。
 そのことに少々イラッとしながらも、またキーホルダーを鍵穴に差し込み、今度はノブも一緒に掴んでおく。キーホルダーを捻ったと同時にドアを開くと、あちらもノブを掴んでいたのかその勢いでトウヤが出てきた。
「ったく……どうすればいいって聞いてきたから手伝ってるのに、放っておいてはないだろ……」
 俺は腰に手を当てて大きくため息をつく。トウヤは負けじと言わんばかりに怒鳴った。

499 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/09(火) 17:45:03 ID:+PZQFKcQ0

「だからっていきなりブラッキーを連れてくることないでしょ!」
「トウヤ! いい加減にしなさい!」
 その怒鳴り声を越える声量で、母はトウヤを一喝した。トウヤはびくっと体を振るわせて母の顔を見る。
「あんたのわがままの所為で、家のみんながどれだけ迷惑なのか分かってるの?」
 トウヤは俯く。母に言い返す言葉がないのだろう。母の一言は的確にトウヤの心を揺さぶっていた。俺は軽くため息をついて二人から視線をはずし、ブラッキーの方を見る。目はうつろになり、体がフラフラしてきている……。
「……! ブラッキー!」
 とっさにブラッキーの体を支える。そのまま力なく倒れこんでしまった。母は息を大きく吸い込み、目を見開く。トウヤは何が起きたのか全く飲み込めてないらしく、ただ気を失っているブラッキーを見ているだけだった。
「母さん! ポケモンセンターに連絡を!」
 驚いている母に向かってそう叫ぶ。うなずいて受話器を取りに行く母を後目に、俺はブラッキーを抱えて走り出した。
「俺はポケモンセンターに行ってくる! 近いから待つより早い!」
 そう叫んで、玄関から外に飛び出した。不意に振り返った時のトウヤは、ただ唖然としていた。

500 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 22:39:29 ID:8GCNVhNg0
>>496-499
トウヤの赤い目が嫌いな訳は何故なのか今後に期待です。頑張って下さい。

501 :江戸 ◆SQ2Wyjdi7M :2008/09/11(木) 01:05:28 ID:SZNH/Fh+0
こちらでは初めまして、実はここで小説を書こうかなと思っているですが・・いいですか?
(PSPからなんですけど・)

502 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/11(木) 14:10:27 ID:cjqR7V+s0
電車の中で完結。達成感でニヤニヤしてた私は変態(・ω・)ノ

さて、最後です。

変わるもの、変わらないもの‐3‐

 深緑色の長椅子に座り込みながら、クリーム色の床を見る。その状態が何分続いただろうか。そんなことを考え始めた頃、隣のトウヤが不意に動く音がする。
「ねぇ」
「何だ」
 トウヤの声に、俺は冷たくそう反応を返す。トウヤはそれについて特に何も言わず、代わりに話を続ける。
「ブラッキーが倒れたのは、僕のせいなの……?」
 その問いに、俺は答えなかった。答えを求めるかのようにトウヤはまた問いを投げかける。
「僕はどうすればいいの……?」
 その言葉にため息をつくと席を立ち、目の前にある窓の向こうに焦点を合わせる。点滴のチューブを体に複数さされているブラッキーの姿が目に入る。そんな姿が痛々しくてすぐに視線をトウヤの方に向けた。
「あの時放っておいてって言ったのはお前だ。それくらい、自分で考えろ……」
 そう言い放ち、扉を開けて廊下へと出た。

 トウヤが出てくるのを待たずに、俺は後ろ手で扉を閉めた。おそらくトウヤもあのまましばらくブラッキーの側にいるだろう。何だかんだ言ってあいつは……。
「あら、トウヤは?」
「……まだ中に」
「そう……」
 ずっと外で待っていた母に問われ、そう答えると軽い相槌をうって話は終わった。廊下には他の待合室から聞こえてくる微かな声と、上の電灯がたまに消えたり点いたりする時の音が響いていた。
 不意に扉がガラガラと音をたてて開く。そちらの方に視線を向けると、ブラッキーのいる方に指を差して言った。
「ブラッキーが起きた……!」
 叫ぶような声こそ出さなかったものの、トウヤは喜びをその声を含ませていた。すぐに病棟に入ると、目を開けて辺りをキョロキョロと見渡すブラッキーがいた。
「あ……知らせないと」
 目の端で母がナースコールを押す。トウヤは窓越しにブラッキーを呼んだ。ブラッキーは自分の状況が分かっているのか、立ち上がって駆け寄ってはこなかったが、トウヤの方に首を伸ばして一声鳴いた。

「目を覚ましたんですか?」
 すぐに看護師の人が入ってきてそう問いかけてきたものの、返答を待たずしてすぐにブラッキーのいる部屋に入る。ライトを目の前に走らせて、追っているかを確認したり、心拍数を確認したりしてしばらく簡易的な検査を終えると、またこちらに戻ってきた。

503 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/11(木) 14:12:31 ID:M07FtNiw0

「問題は特にありません。ただの栄養失調なので、二週間もすれば退院も出来るでしょう。……ただ」
 看護師……もとい医師はそう言って言葉を切る。息をまた吸いなおしてから続けた。
「きちんと食べてくれれば、ですけどね」
 その言葉に母はうつむく。トウヤは先ほどからうつむいているが、落胆したようすはない。まあ、理由は何となく感づいてはいるが。
「とりあえず、しばらく点滴で様子見です。あと、中に入っても構いませんからね。保護者のかたはちょっと手続きがあるのでこちらで……」
 その医師の言葉に母は頷くと、共に部屋から出て行った。残されたのは俺とトウヤとブラッキーだけ。トウヤはふと顔を上げると、ブラッキーのいる部屋へと入って行った。俺もそれに無言でついて行く。
「ブラ……」
 ブラッキーは近付いてくるトウヤを見てそう鳴いた。俺は部屋に入ってすぐの扉の近くの壁に寄りかかった。俺が踏み入らなくても多分大丈夫だろうけど、何となく心配だからこの位の近さで待機しておく。でも、その心配はどうやら蛇足だったみたいだ。
「ゴメンね……ブラッキー」
 トウヤはブラッキーを撫でながらそう呟くような声でそう言った。ブラッキーは返答をすることはなく、ただトウヤの顔を見つめていた。
 ……もうトウヤはブラッキーを意味なく恐がったりはしない。そんな確信が持てた。俺は音を立てないように扉をゆっくり開くと、そのまま廊下の方へと出た……。
 
 
 
 ――窓を開け放ち、外から入ってくる涼しい風を浴びる。やはり暦の上では秋らしい。
 あれから、ブラッキーの体調は医者が驚くくらいの早々な回復を見せ、一週間くらいで退院できた。勿論、我が家のいざござになっていたトウヤの訳の分からない“ブラッキー恐怖症”も治った。
 たまに喧嘩をする声が隣の部屋から聞こえてくることもあるが、イーブイの頃と何ら変わりない喧嘩なので特に気にすることもない。何より、部屋にブラッキーが乱入してこないからだいぶ落ち着く。
「え……」
 そう安心していると、扉の方からなにやらカリカリと擦るような音が聞こえる。
(いや、まさか……)
 そう思いながら扉を開けると、そこに居たのは案の定、ブラッキーだった。しかし、泣き顔ではなく落ち着いた表情をしているのを見て、嫌な方の予感は外れたみたいだった。

504 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/11(木) 14:13:24 ID:L+Q8dwV60

「どうしたんだ? ブラッキー」
「ブラッ」
 そう一声鳴くと部屋の中に入って来る。疑問を持ちながら俺は扉を閉めてブラッキーの前に座る。
「またくだらない喧嘩で追い出されたか?」
「ブーラッ」
 ブラッキーは首を横に大きく振って否定する。……いったいなんなんだ。と考えていると、ブラッキーは俺のあぐらの上に乗っかって来て、すり寄った。
「……なんなのさ。ホントに」
「ブラっ!」
 ブラッキーは一旦すり寄るのをやめ、こちらの方を見る。以前の体調に戻ったからか、赤い目はあの時より輝いていた。ふと、風が頬を撫でた。
(……!)
 今のは一体何なのだろうか。風が吹いた時、耳元で小さく声が聞こえた。ほんのわずかな声だったが、聞こえなかったわけじゃない。はっきりと、でも小さく聞こえた。
 
 
 ありがとう、と……。
 
 
 何が起きたのか全く分からない俺の耳に、再び声が聞こえてきた。今度は甲高く怒鳴るような声が……。
「ブラッキー! 僕のおやつ食べたな!」
 え……。

 ブラッキーの方をよくよく見ると、口元にチョコクッキーのカスがついている。それをブラッキーはなめとり、口元をつり上げる。
 さすが悪タイプ。やることがあくどい……じゃなくて、俺の部屋に来たのはこのためだったのか。要するに……かくまってくれ、と。
「コラァアア! ブラッキーどこ行ったぁ!」

 ……俺の役目はまだ終わってないみたいだ……。
 
 
 
 ......END

505 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 18:00:07 ID:dm+YeFtU0
>>501
PSPだと行数制限がきついと思いますけど頑張って下さい。

>>502-504
完結乙です。ブラッキーが元気になって良かったです。

506 :sJ\ ◆X0li4ODh3w :2008/09/11(木) 18:56:05 ID:Qh0UKggk0
>>501 
ナカーマ( ^ω^)人(^ω^)ナカーマ
>>502-504 もつ、激しくもつ。
ってか今気づいたらイノシアさんてあのイノシアさんでしたかー
○命酒ではいつもお世話に…

507 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/09/11(木) 20:43:42 ID:YCrfrmdQ0
>>イノシア
いきなり何だと思われるかもしれませんが……
小説、こっそり読んでました。
完結お疲れ様です。軽く感動しました。
やはりこういうドメスティックな話は
落ち着いて読めるし、癒されるものが
ありますよね。
ポケモンの可愛さ・素直さ・優しさに
改めて気付かされるというか……。
楽しい作品をありがとうございました。
これからも頑張ってください。


508 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/11(木) 20:51:15 ID:cjqR7V+s0
>>505
ありがとう(・ω・) やっぱりハッピーエンドが一番です。

>>506
あなたが向こうのどなたかは知りませんが、向こうのイノシアもこちらのイノシアも同一人物です。こちらでも小説を支援してますw


―――――
てかこの作品を書き終わったとちょうどにAAAの『MUSIC!!!』が流れて頭の中で勝手にスタッフロールがw

509 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/11(木) 23:03:09 ID:ZIb0Hon20
>>501
初めまして! 僕は大歓迎です。
>>504
金銀プレイ当初、トウヤ同様にブラッキーのあの赤い目が好きになれなかった人がここに。
小説GJです! 進化によって姿は変われどその者の心は変わらず……人(ポケモン)は外見よりも内面性が大切だという事が感じ取れました。
そして「白銀の狼」のグラエナや、今回のブラッキー……氏の書くポケモンの仕草がやたらと可愛すぎるwww

510 :江戸 ◆SQ2Wyjdi7M :2008/09/12(金) 00:05:18 ID:zknNYINk0
皆さんありがとうございます!がんばって書いてみますね。

511 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 00:51:37 ID:6ytmnQ2U0
初めましてカメキといいます
俺も書いてみようかなー
と思ったのでよろしく。
…文章作る能力ないけどがんばります

512 :sJ\ ◆X0li4ODh3w :2008/09/12(金) 01:55:09 ID:qb2vZRSE0
>>511 マリオストーリーですね、わかりま(ry
よろしくお願いしますね
それと名前の横のメール欄にsageと半角で入力すると
良いことがあるかも知れませんよ^^

513 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/12(金) 07:01:04 ID:cKbrgO1Y0
>>507
感想ありがとうございます。
そこまでテーマを重視してはいないんですけどね。ただこんなのを書きたかった……っていう動機だけでほとんど書いています。
はい、これからも頑張ります(・ω・)ノ
でも次の作品が思いつきませんw

>>509
そうですか。私は好きなんですけどね、あの赤い目。(・ω・)
ポケモンの仕草についてはこういうポケモンが話さない場合によく描写します。いわゆるジェスチャーですから。
ああ、そういえば『白銀の狼』は執筆停止してたなぁ……。どうしよか(・ω・`)
感想ありがとうございますた。

514 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 07:01:12 ID:NUJnBAk20
>>511
期待してます。頑張って下さい。(^ω^)
>>512
別にsageなくて良いのでは?今はもう必要がないかと…

515 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/09/12(金) 13:40:57 ID:bN188duI0
まあそんな感じで新しい学校生活が始まった。
別に転校したわけじゃないけど・・・。
キヅナはよくからかったりするけど彼なりのスキンシップのようだから全く気にしてない。
むしろこんな僕にかまってくれるから嬉しかった。

友達と一緒に学校行って、友達と話して、友達と笑って・・・。
夢のような生活。
一般のポケモンからするとそれはあたりまえなのかもしれない。
でも僕にはすごく幸せと思える。
今までずっと一人ぼっちだったから。
だから学校なんてつまらないと思ってた。
でも今はもう一人ぼっちなんかじゃない。
大切な友達がいるから。

友達って いいね

心からそう思った。



お久しぶりです
久しぶりにかいたのですが一気に終わらせちゃいました
本当はもっと書こうと思ったのですが、
はじめての小説でただでさえごちゃごちゃになってきたのに
これ以上続けるとさらに悪化すると思いこういう形になりました
やはり時間あけて書こうとするとなかなかうまくいかないものですね;
でも楽しかったです
また続編書くかもしれませんがその時はよろしくお願いします
ありがとうございました

516 :JL ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 16:30:00 ID:6ytmnQ2U0
いくぜー!!…PSPから

…10匹のポケモンが塔の中を登っていた。
ここは、シンオウ地方のどこかにあるポケモンだけが住んでいる村である。
その村のはずれにある高い塔ではその村に住んでいる子供のポケモンが10歳になると、
塔にあがり
最上階にある剣に全員でタッチすると、初めて一人前のポケモンになれるのだ。
さて、最初に書いたポケモン達もとうとう最上階にたどり着いたみたいです。
しかし、そのポケモン達はタッチする前に今まで見たことないポケモンが立っていた。
「誰ですかー?」
ガルーラの子供が興味半分で訪ねて見た…
すると、一匹がその場にいた全員にキスをした…
ポケモン達はキスされた所を気にしているといきなり全員が倒れてしまった…
その夜犯人二人の笑い声がこだました…

プロローグどうですか!?
自分では結構な力作だと思うけど…

517 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 16:31:45 ID:6ytmnQ2U0
あっ↑は僕です

518 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/12(金) 18:21:33 ID:XPSH25g+0
>>516
まず地の文の書き方を統一したほうが良いかと(・ω・)
語りの仕方がたまにおかしくなっていて、読むリズムが崩れます。
あと、余計なお世話かもしれないけど自画自賛は良くないよ。

519 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 18:54:40 ID:6ytmnQ2U0
>516
…やっぱり…参考にさてもらいます
文章能力ゼロでもがんばりますよ!
めげずに!

520 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 18:55:46 ID:6ytmnQ2U0
間違い>>518

521 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 20:34:25 ID:6ytmnQ2U0
では参考を生かして…

「…という事件が起こったのは三日前ですね?」
「はい、そうです。」
「やっぱり…犯人はあの二匹か…」
「あの二匹って誰ですか?」
「指名手配犯のプクリンとマニューラです。この二匹の誘拐テクニックはとてもすごいです。」
「わかりました、村のポケモンにも注意させておきます。」
「ところで最近あの事件が起こる前に誰かあの塔に近づきましたか?」
「そういえば、塔を調べると言ったきり帰ってこないポケモンならいましたよ。」
「それ、何時の話ですか!」
「たしか、五日前だと…」
「そうですか、では塔の中に行ってもよろしいでしょうか?」
「えっ…?やっ…やめておいた方がいいですよ!」
「ポケモンが行ったきりかえってこないからですか?」
「それもありますが、実はあの塔、別名『不思議のダンション』って言うんです。」
「不思議の…ダンション?」
「はい、入るたびにマップが変わるんです。」
「大丈夫ですよ、迷路みたいなのは得意ですから。では、失礼。」
「あっ、ちょっと…」
誘拐されたガルーラの親に話を聞いてみた。
間違いなくあいつらの犯行だ。

522 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 21:16:36 ID:6ytmnQ2U0
ルルルルルルル…
携帯が鳴った…長官からだ。
「はい、こちらカメール。」
「おう、カメール何か分かったか?」
「当たりです、この事件やっぱりあの二匹によるものでした。」
「そうか、分かったがんばってくれ。あっ、後おまえの助手が今、そっちに向かっているから捜査の前に合流してくれ。」
「分かりました、では。」
助手って誰だろ?とにかく待ってみよう。
10分後ピカチュウがこっちに来た。
「カメールさーん!」
…どうやら助手みたいだ。
「はじめまして、シンオウ署刑事兼研究員のピカチュウです。」
「俺は指名手配犯捜査隊副隊長のカメールだよろしく。」
「よろしくお願いします。」
…ちょっと待てこいつ今、刑事兼【研究員】って言ったな…まあいいか
「そろそろいくぞ」
「あっ、ちょっと待ってください。」
「何だよ。」
「実はあなたにもう一つの依頼があるんです。」
「長官からか…あの人いつもついでが多いな…で?その依頼って?」
「今からいく塔の秘密の『入るたびにマップが変わる』と言う秘密を解いてくれと言うことです。」
やっぱり…予想した道理だ。
「よし、じゃ行くぞ。」
「はい!」
しかしこの先大変な事態になるとは予想しなかった

523 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/12(金) 21:21:20 ID:6ytmnQ2U0
大変だったー…
どうですか?感想よろしくお願いします。

524 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 23:58:59 ID:NUJnBAk20
>>521-523
続きに期待します。頑張って下さい。

525 :sJ\ ◆X0li4ODh3w :2008/09/13(土) 00:24:07 ID:utqmTRgk0
>>514 まじすか(^ω^;ノ)ノ
>>516>>521-523 期待してます^^
とりあえず失敗を恐れずにどんどん新作を書いてくださいね^^
優しいお兄さん達に厳しく指導してもらうと上達も驚くほど早いですしね^^
それに決して失敗をしたからと言ってその自信を無くさないで頑張ってね^^

…あれ?俺長くね?迷惑ですか、そうですか


526 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/13(土) 00:28:57 ID:ltsioB6o0
誰もいないのかなー続き行っちゃえ!

以外と目的地までは近かった。犯人逮捕が優先だがここは…
「おい、ピカチュウ先にこの塔の周りを見るぞ…ってあれ?ピカチュウ?」
さっきまでいたピカチュウの姿がどこにも見あたらない。
すると「カメールさーん!!」
ピカチュウの声だ、けど姿が見えない…
「おーいどこだー!」
「塔の中です!」
なんだ、心配して損したと思ったその時!
塔の最上階にマニューラの姿が!
「おや?久しぶりだねカメ君。」
「おまえこそ元気そうだな、子供たちは無事か!!」
「ああ、無事だとも…けど今から勝負しないか?」
「どんなんだよ。」
「今からおまえに30分の猶予を与えよう30分立つまでにここまで来れたらここにいる子供を全員解放してやろう。ただし!」
「30分以内にたどり着けなかったらこの塔は爆破するようなっている。」
「何だって!?」
「さらに同じフロアに三分以上いると一匹ずつ殺していくからな!」
「くっ…」
なんて邪道な奴なんだ!!しかし、下手に言うと刺激を与えて殺してしまうかもしれないから…
ここは従おう。
「分かった受けてたとう」
「成立だな。カウントダウンはおまえが入り口に入った直後からだ」

527 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/13(土) 00:37:10 ID:ltsioB6o0
「分かったそこにいとけよ!」
「さあーて来れるかなー」
…こうして人質にとられた子供たち10匹を助け出すために今勝負が始まった!

…PSPだと二分割になるなー
けどここからが本番だー!!
余談…プラチナ買う?

528 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 07:09:49 ID:mnrODm7Q0
>>526-527
面白くなってきました。ひき続き頑張って下さい。
PSPでもやり方次第で三連続投稿ができるので試してみてはどうですか?
あと投稿するとき小説以外の文にはある程度、丁寧語を使ったほうがいいかもしれませんよ。
ちなみにプラチナは店が開店したらすぐに(ry

529 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/13(土) 10:19:36 ID:ltsioB6o0
>>528
大変そうですね、俺は予約済みなのでゆっくりと…続き行きます。

はやいとこ乗り込んで子供達を助け出さないと…
けど入り口がどこにも見あたらない…どこにあるんだろう?
「おーいピカチュウー」
「なんですかー」
「おまえどうやって入ったんだ。」
「塔の裏側に来てください!」
ピカチュウの指示どうり裏側に来た。
途中にも一つ入り口らしきものがあったが、開いていなかった。…もっとも最初のもそうだったが。
「おい!開いてないぞ!どうやって入ったんだ!」
「え?」
ピカチュウが後ろを振り向いた。
「えーーーーー!?」
「なにをそんなに驚いているんだよ。」
「だって、入ったときに開いてあった入り口がしまってるんですから!」
頭がおかしいのかこいつ…と、思っていたらまだ入り口があった。
この塔には入り口が四つもあるのか…おかしいなーと思っている暇がなかった。
早く行かないと!
「ピカチュウ!いいかよく聞け!今この塔の中にあの二匹がいる30分以内に最上階までいくぞ!」
「分かりました!」
入り口が四つもあるのが気になるが…まあそれおいておこう…
俺達は塔の中へと乗り込んだ。

530 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/09/13(土) 10:44:35 ID:Xki98Uzs0
プラチナ買ってきました(・ω・)ノ
そして妹に渡しましたよ(・ω・)貸しがあったし。

531 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/13(土) 21:17:44 ID:ltsioB6o0
プラチナ楽しいー(^o^)/
ストーリーの以外せいにびっくり…
この三連休で殿堂入り目指します。

532 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:11:59 ID:Ge15TFrE0
始まりは、かつて世界を暗黒へと変え、自らが最も快適に過ごせる世界を作ろうとする者が無様に敗れたころのお話である。


「空間の歪みを広げた罪は重いぞ、『黒いの』! 正義の鉄槌だ、喰らえっ!」
白い巨体・パルキアがうなりをあげて襲い掛かる。

「『黒いの』って……名前覚えていないの?!」
黙って見守るべき場面でありながら、ヒコザルの男性はそこに冷静に突っ込みを入れた。

「グオオオオオオオォォォォォォォォッ!」
白い巨体の両肩に輝く珠から烈光が走り、そこから湧き出た真珠色の液体が『黒いの』を襲う。
液体は白い巨体と意思を疎通するように襲いかかり、黒い体に纏わり付き、その身に残る活力を根こそぎ奪っていく。

「うわ……うわあああああっ! くっ……こんなところで……冗談ではない」
『黒いの』は逃げ道として用意していた『時空の穴』に這うようにして向かっていく。

「逃すかぁっ! 俺を女の振りして騙しやがって……」
白い巨体は距離を一気に詰め、両手にためた闘気をほぼ零距離で撃ち出した。

「ガァッ!! クァ……ァ……」
弱点であるそれを為すすべなく直撃させられた『黒いの』は、闘気に吹き飛ばされながら『時空の穴』へと堕ちていった。


こうして世界は二人の勇敢な探検隊とそれを補佐する仲間たち。そして突然現れていいところを持っていった空間の神により救われた……だが、無論のこと物語はそれで終わりではなかった。


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草花が生い茂り、レンガ造りの家並みが立ち並ぶ美しい街。太陽が顔を出してからまだ数十分しか時間を刻んでいない早朝の事。
高くもなく低くもない煙突と、カーテンが閉められた窓。家と同じくらいの広さの庭に少しばかりの野菜が植えられている。

少しばかり他の家より広いことを除いて、ごく一般的と呼べるその家から、二人の男女の元気な声が聞こえていた。

「姉さ〜〜ん。ちぃたぁ待ってくれよ〜〜」
男が叫ぶ。男の外見は、青と白を基調とした体色で、下半身と手の甲と顔の三角模様が青色をしている。
 足は立って休む程度のものでしかなく、歩いたり走ったりするのには明らかに向いていない。手は胸の部分に収納できるようになっていて、体はサイコパワーによりふわふわと宙に浮いている。種族はラティオスと呼ばれるものだ。

「はよぉしんさいやアズレウス。相変わらずアンタは準備がとろいんじゃけぇ」
そしてこちらの種族はもちろんラティアス。外見はラティオスよりも二回りほど小さく、色は青い部分と赤い部分が逆になったくらいであり、体型には大きな違いは見受けられない。

「姉さんも化粧くらいすりゃぁいいんで。女の子なんじゃけぇさ。それに男だってわや&ruby(わや){大変}なんじゃけぇ……ニキビの手入れとか」
ラティアスはアズレウスと呼ばれたラティオスに対し馬鹿馬鹿しいといった風に手を振る。

「化粧じゃのぉんて、あがぁな金も時間も無駄に使うもんを誰が好き好んでやるかっていうん?」

「村中の女性がやっとるよ……やっとらんのはワシの姉くらいじゃ」
アズレウスはふうっと大きくため息を吐き出して囁く様にそう漏らした。バッグへ荷物を入れる手は止めていない。

「そがぁなこと知らんわのぉ。そがぁなもんはあんたの妄想の中のカノジョにでもやらせときゃええんよ」

「妄想って……どうせわしにカノジョなんとらんよ。でも、ワシは結構もてるんじゃぞ?」
アズレウスは、ようやく荷物を詰め終えたバッグを抱えて、ラティアスのとなりに並んだ。

「女が苦手でまともに話しもでけん童貞がうるさいな」

「くっ……」
姉の言うことは図星である。アズレウスは反論したいが、出てくる言葉は『うるさい』や『黙れ』といった幼稚なものでしかなく、口げんかにも普通の喧嘩にも弱い自分に絶望しながら歯ぎしりするのが最も賢明な選択となる。
それが、ただただ悔しかった。

533 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:15:49 ID:Ge15TFrE0
この二人が暮らす村はラティスガーデンと呼ばれている。
 空間の神、ソリッド=パルキアが居を構える『空の裂け目』の一角に生じた並行空間内に存在する街である。ここは現行世界との交流が無く、そのためここの存在も現行世界には知られておらず、またこちらの住人も現行世界の事情には疎かった。

それでもそこに社会があれば、ところどころで似たような構造が発達することもある。例えばこのラティスガーデンにも探検隊やギルド(協同組合)に似た概念はあった。

この二人、まさしくその探検隊に当たる通称『ハンター』と呼ばれる職業についており、
 ダンジョン内での採取や狩猟を主としている。ラティスガーデンと呼ばれるだけあって、ラティアス・ラティオスの人口は多いのだが、この二人は一族の中でも特に強い力を持っていることで村では有名であり頼りになる戦士である。
 二人は、このラティスガーデンからもっとも近郊にあり、難易度の高さも随一なダンジョン『空の裂け目』に行って無事でいられるハンターとしてはこの街唯一である。


そんな二人が、『空の裂け目』を歩くある日のこと、その奇妙な現象は起こった。

「なんじゃろ……これ?」
そうアズレウスがつぶやいた。
空の裂け目の14階層を歩いていると、闇に捕らわれた『ヤセイ』のポケモンたちが眠りながら苦しんでいる。ある者は自分の腕に噛みつき、またある者は胸のあたりを掻きむしり、どちらもその部位を鮮血で染めている。
 いままでみたことの無い異様かつ凄惨な光景に二人は戸惑った。

「なんだか分からんけど、こりゃぁ異常事態……ってゆぅんじゃないかしら?」

「違いないのぉ。何が起こったんか調べよう。悪いことが起こってからじゃいかんけぇのお」
二人は外に露出していた手を収納して、保護色をまとって擬態しながら高速で飛び出し原因を探す……必要もなく、その異常事態の原因はすぐに見つかった。寝ているポケモンが点々と続いているのだ。まるでアリの行列のように。

その行列の先頭に異変の原因と思われる者がいた。そいつは白濁した液体にまみれた状態で苦しみながら、荒い呼吸をしている。見た目としては全体が黒いドレスのような外見で、スカートのように見える部分と肩の部分には布のようなものが風もないのにたなびいている。
 真っ白な髪の毛も同様で、空気より軽いかのように上へ向かってたなびいている。首にある牙の様な輪っかは鮮血を浴びたように真っ赤であり、顔の印象から察するに恐らく男性である。

「カッコエエ……」
ラティアスは消えそうなほど小さい声でそうつぶやいた。アズレウスには聞こえなかったようだ。

『誰も近寄るな』とでも言いたげな表情でその男は二人を睨んだ。こいつは眠りと混乱を合わせた技を使うようなので、二人はとりあえず『神秘の守り』で安全対策を行った。これを使えば、余程強力なものでなければ状態異常から身を守ってくれる便利な技だ。


534 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:20:09 ID:Ge15TFrE0
「なあ、あの白い液体……ソリッド様のパールブラストを喰ろぉたじゃなかろうか……」
アズレウスがその男の白濁液にまみれた見た目からそう推測する。

「みたいなぁ……あがぁな見た目になるなぁそれしかありゃぁせんし。だとしたら、力ぁ奪われて……もう技らしい技は使えんはずよの」
と、言うよりは、その男は最早意識があることさえ不思議な見た目をしている。
無数の引っかき傷や火傷(これを付けたポケモンは不明リザードンかゴウカザルあたりだろうか?)。ギザギザ模様の何か(形状からピカチュウの尻尾で間違いないだろう)で殴打され、酷い痣(アザ)になっている。
 他にも、鋭利な刃物で切り裂かれた痕(エルレイドあたりだろうか?)。髪も布の様な部分もところどころ焼け焦げている。

ただでさえ酷い状況なのに、これ以上あの活力を奪う水をかぶっていたら命に関わりかねない。早く洗い流してあげるべきだろう。と言っても、二人は保護色を纏っているにもかかわらず、男は正確にこちらを睨んで警戒している。
 これでは迂闊に近づけば攻撃されかねない。そのためラティアスはゆっくりと正体を現し、次いで出来るだけゆっくりとその男に近づいて警戒を解くことを試みる。
 それでも、男はやはり警戒を続けているようで、腕には悪タイプの技を放つ準備がなされている。ダンジョン内という性質上、今まで近づいて来た者は男を見るなり襲ってきたはずだ。二人を警戒するのも当然だろう。

ようやく肉薄したラティアスは、男に付いた液体を水遊びをするように優しく洗い流して、衰弱したその体を労わるように抱きしめて、火傷からリフレッシュさせる。
 反応に困っていた男は、さらに反応に困ってしまったようで、救世主にでも見えたのか涙を流しながらラティアスを抱き返した。

すでに体力も気力も限界であったようで、抱き返したその腕の力は無に等しく、男はラティアスの肩に顔をうずめるとそのまま眠ってしまった。
 一人あんな状況では、いつ死んでもおかしくない状況だったが、思いもかけない助けが現れて安心して気絶したという事だろう。

「あらぁ……寝ちゃーたよ。一体なんなんよ……?」

「くぅ、なんてぇ羨ましい」
消えそうなほどに小さな声でアズレウスがそういったが……聞こえていたのか、ラティアスが白い眼差しでジロリと睨む。アズレウスはうつむいて目をそらした。

「さて、なんだか知らんのんじゃが、このまんま死なれちゃ困るわよのぉ。何か食べさせにゃぁいけんわの♪」

「ん? まあ……」
アズレウスが生返事で返すと、ラティアスは嬉々として男を地面に寝かせる。
バッグの中からオレンの実を取り出し、実を口に含み、口の中でよく噛みほぐす。アズレウスはようやくラティアスが何をしたいのかを察した。
要するに、姉がしたい事とは口移しで食料を与えようと言う事だ。

「ああ、姉さん……そうゆうなぁはわしがやるよ」
その瞬間。『空気を読んで黙っていろ』と言わんばかりに、ラティアスの鉄拳がアズレウスのわき腹に飛ぶ。

「おおおぉぉぉぉぅぅぅぅ……」
アズレウスは不意打ちによる激痛に耐えかね、浮遊していた体を地面に沈めるように横たわる。
 ラティアスはアズレウスのうめき声も苦しそうな様子も無視して、口移しで男の口にオレンの実を含ませようとするが、首周りの牙飾りが邪魔で正面から口を合わせることが出来ない。
 仕方がないので口を斜めに逸らして中に噛み砕いた食料を入れる。そうした後は、あごを上げて、気道を確保する要領で食道を確保する。最後に男の体を起こし、口をふさいで首から背中にかけてを軽くたたいて嚥下(えんか)させた。

それが済んだら、今度は脈拍と呼吸を確かめる。弱々しいものの、リズムはしっかりしている。

「体力はこれでおおかた元に戻るはずじゃし、栄養も十分あるけぇ、これなら帰る(いぬる)まで大丈夫よの」
わき腹をさすっているアズレウスに確認するように問いかける。

「うぅぅ、うん……ああぁ、きっと大丈夫じゃあや」

「大丈夫じゃなかったらあんたの昼食抜きじゃけんね♪」
アズレウスは頭に手を当てながら大きくため息をつく。ラティアスはさっさと男を背負って、再度歩く速さで移動し始めた。

535 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:22:50 ID:Ge15TFrE0
黒い男は目が覚める。
――此処は何処だろう? 確か……見覚えのあるダンジョンでラティアスに出会ってから記憶が無い。今の自分は毛布とベッドに包まれている。
 隣を覗いて見ればかわいらしいラティアスの女の子が毛布にくるまれながら小さな寝息を立てている……いや、こいつが件(くだん)のラティアスか? こいつが私を助けてくれた者なのか? 
 いや、どちらでもよいこと……体がまともに動きそうにない今、誰かに頼るしか道はない……

「あの……」
眠っているラティアスに手を伸ばしながら問いかける。指先が顔に触れるとラティアスはハッとしたように目を開ける。
 そして目をパチクリとすると、まずは上機嫌で一言。

「おはよう。気分はどうじゃぁ?」

「あ、ああ……悪くは無いと思う」
そこまで言って、男は今の自分の腹に走り続ける耐え難い違和感にことに気が付く。

「だが、少し……いや、かなり腹が減っている」

「そぅかぁ……二日間すりおろした果実やお粥くらいしか口にしていなかったけぇのぉ……じゃぁ」
ラティアスは部屋のドアの方を向いて大声で叫ぶ。

「アズレウス〜〜! 今から大急ぎで食事を用意せー。三人分じゃけんね。足りなかったらあんたの分は無しや〜!」

「わかりたんじゃ。わかりたんじゃ! ちゃんと三人分くらい余裕であるんよ」
寝ぼけた声であることから、寝起きだということが分かる。二度返事で返している辺り、こういう態度にうんざりしているようだ。

「アズレウスというのは……ラティオスの名前か? お前の名前は……?」

「ふふ、人に名前を尋ねるときにゃーまず自分から名乗るもんよ」
素直に教えてくれれば良いのに、と思いながらも男はしぶしぶ答える。

「私の名は……確かエレオスだ。種族はダークライだったはずだが……よく覚えていない。記憶が……ずいぶん曖昧だ」
ラティアスは首をかしげる。

「自分の事思い出せんか?」
ラティアスの問いにエレオスは記憶を手繰り寄せようとして、出来ないことを再確認してうなずく。

「ああ、残念ながら……」

「ふ〜ん、そう……貴方のことよう知りたかったのに残念のぉ。まあ、ええわ。わしの名前はクリスタル。種族はご存知んようにラティアスよ。クリスって呼んでぇな」

「はあ、クリス……とりあえず助けてくれてありがとう」
エレオスはベッドに座ったままお辞儀をした。

「ええんよ、お礼なんて。それよりアンタ、記憶が無いってこたぁ何処かにいくアテも無いんじゃろ?」

「ん……まぁ」

「なら、しばらくウチに住みな。歓迎するけんな」
エレオスは驚いたように目を瞬く。

「私なんかで良いのか?」

「質問に質問でか・え・さ・ん・で」
ひとさし指を眉間にくっつけるように近づけながらクリスは言った。

「アンタでいいから歓迎するんじゃろうが。くだらんこゆわせんの」
鼻に触れそうなほど近づけた指を丸めてクリスはデコピンをくわえた。エレオスは顔をしかめながら額を押さえている。

「……確かによく考えればそうだな。いつまでかは分からないが……お言葉に甘えさせていただく」

「ふふ……若いスバメを囲っちゃった」
誰にも気がつかれないような声でそういったクリスの顔には怪しい笑みが浮かんでいた。それに気がつくものは……誰もいない。


536 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:25:48 ID:Ge15TFrE0
――はぁ……姉さんは同年代の男のたいがいに魅力を感じんって言っとったけど、その理由がひどい。
ラティオスは『青白くって活力を感じないから』。同族なんに……
エルレイドやサーナイトも同様に『体が細くって弱々しい上に、白くってダメ』
ヨノワールなどは『一つ目は嫌い』
そがぁなわけで、ドンカラスに一番魅力を感じるとかいっとったけど、弱いやっこに興味がないんだとか。

アズレウスは三人分の料理炒める大きなフライパンを軽々と振るいつつ、思案にふける。技術の未熟さゆえにフライパンからこぼれた具材は、地面との出会いを果たす前に念力がかっさらっていく。
 味付けに使う調味料も炎の下から離れることなく手元に引き寄せる。こういった作業は慣れたものだ。

――確かにあの男は赤黒い理想的な色。あんだけの攻撃を喰ろぉても雑魚を蹴散らして生き残るわけじゃけぇ、恐らく相当強い。姉さんの理想形じゃが……ほんに一目ぼれってあるもんじゃのぉぁ。
 姉さんがわしの姉さんじゃなくなくなる思うとちぃと悲しぃんじゃが、わしもそろそろ姉の事は卒業するべきなんかもしれんから、それについちゃぁちょうどええんかもしれなぁで。

今度は先ほどまで温めていた別のフライパンを使い、卵料理を作るためだ。千切ったバターをフライパンに落とし、割った卵を一滴たりと無駄にしないよう空中でとき卵にしてあらかじめ調合しておいた調味料と混ぜ合わせる。
 バターが解け、よい香りが漂い始めた頃には両者が完全に混ざり合ったとき卵をフライパンに投入し卵が焼ける食欲を誘う音が家に響き渡る。

――問題なんは……あの男のせいでわしゃあ二日前からソファーで寝させられるし、今日も今日とていきなり起こされて朝食を三人分作らんにゃぁいけんし。
 もしもこの料理があなぁ人の口に合わなけりゃぁ、わしが姉さんに殴られるんじゃろうな……そう思うと、とっても気が重いけぇ。
 全くあの男んせいで……じゃのぉて姉さんの性格どうにかならんかな……

炉の中から燃え盛る薪をいくつか念力で取り出し、空気を遮断して炎を消し弱火にする。念力を利用し、焼けたところを中へ、焼けていない卵液を外へを繰り返して半熟状にし。 あらかた固まり、形を帯びてきた時点で余熱のみでの調理に切り替える。

――姉さんは、あの男関係で一昨日5回、昨日は3回もわしを殴ってきたけぇのぉ。姉さんにとっちゃぁあの男は理想の相手だとして、わしにとってこれ以上の厄病神はなかろう。今日は殴られる回数をゼロにしたいもんじゃ……

アズレウスは思案の果ての情けない、かつ暗い結論にため息をつきつつ、完成したオムレツを皿に盛った


そういうわけで、エレオスが『口に合わない』などということは許されない。

「うまい……」
エレオスの言葉を聞いて、アズレウスはほっと胸をなでおろす。エレオスは相当お腹が減っていたようで、ふたまわり体の大きいアズレウスが食べる分と、ほぼ同じくらい盛って置いた食事もペロリと平らげてしまう。
食事の間にお互いの自己紹介も済ませて、エレオスは弟の名前がアズレウスであることを。アズレウスは男の名前がエレオスであることを互いに認識しあった。

537 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:29:56 ID:Ge15TFrE0
「ああ、わしらの食いぶちの名前じゃけぇ。わしら姉弟は、このハンターじゃぁ町一番の実力を誇っとるんじゃ。まぁ、わしらぁ喧嘩の腕でも一番じゃがね、つまりは弱いもんが出来る職業じゃぁないわけよ。
 あんたはわしらしか足を踏み入れらりゃぁせんような最高難易度のダンジョンに、遭難しょぉったわけ。わしらが仕事で来とってげによかったわのぉ。
 あのまま同じ階層におったらわしらの正気を失わせる力のある『ナニか』が徐々に徐々にあんたの心を侵し、ほいであんたが必死で退けてきた『敵』たちへ『仲間』入りしょぉったところよ。わしら姉弟に感謝してよの」
クリスが得意げに身の上と、これまでの経緯を語る。クリスが告げたことはエレオスにとっては背筋の凍るような事実であった。詳しく聞いてみれば同じ階層に居続ければ半日もたたずに正気を失う場所というのだから。
しかも、難易度が高くあの姉弟しか踏み入れられないような場所に来てくれたのであれば、もはや偶然にも感謝せねばなるまい。

「それはもちろん……感謝している。こうして温かい食事まで世話してもらい、何もできないのが本当に心苦しい。
 して、その偶然の出会いをくれた仕事というのは?」

「ああ、そりゃぁとあるお人にこの街の近況を届けに……きょうびやたらゆぅて聞くようになったし、今日も何やら留守にしよってたけど、なにをやってきたんじゃろうね?」

「さぁ? 直前まで『女装した男にだまされた』とか、わけぇわからんこと口走っておっとったし、あがぁなぁはわしらじゃぁ測りきれんところがあるからなぁ」
よくわからない人物像ではあるが、エレオスは『女装した男にだまされた』というフレーズを聞いて思わず笑ってしまう。

「ふふっ……とんでもないバカ者だなそれは」

「「違いないけぇ」」
クリスとアズレウス。二人の声が重なり、ひとしきり笑い合ったのち、クリスが今後の話を切り出した。

「そんでなぁ……あんたはわしら二人しか踏み入れらりゃぁせん場所に一人で、しかも傷を負ぉた状態で生き残っとったんじゃ。その実力を生かして恩返ししてみんか?」
エレオスの目が丸くなる。

「願ってもない事だ……寝どこも、食事も、仕事も……至れり尽くせりで。本当になんといってよいのやら……」

「そりゃぁ今考える必要はないけぇ。これからの行動で感謝を示せばいいことよの」
――どうやら……私は運が良いようだ。

「そうさせてもらう……誠心誠意返させてもらおう」

「歓迎するけぇ」
二人は、エレオスの手を取って固く握手をする。


538 :リング ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/14(日) 00:31:20 ID:Ge15TFrE0
これで今回の分は終わりです。ポケダン時・闇のプレイ経験がある方にはいろいろ笑いを誘う部分もあったのではないでしょうか?
さて、私もプラチナをプレイしますかね。

539 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 08:17:34 ID:FaKWcySM0
>>532-538
投稿乙です。

540 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/14(日) 21:21:19 ID:XvXR0geY0
>>538
続きが気になりますねー。
がんばってください!
プラチナはもう最後のジムリーダー…www
バトルフロンティアが楽しみで足早にストーリーを進める…悲しいのか、これでいいのか分からない…。
明日続き書きますね。

541 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/14(日) 22:38:20 ID:xWQtMUvs0
お久ですー。の割にこれ、後書きです(爆
一話が >>315-317
十七(最終)話が >>412-415
のようです。この話三ヶ月振りとかorz

守護の力 

 月はいつからこの世界を見ているのだろう。この世界に住む者全てがその光の祝福を受ける。私も、此処に来る筈の彼−−この満月に誓った、翼も。
 彼はきっと来る。……そう信じて以来、毎日此処に足を運ぶ。約束したから。彼は約束を破りはしないから。
 彼を待つ間、周りの音は何も聞こえない気がした。時間の流れを伝えるのは、天を走る月だけだ。
 この空はいつまでも変わることはないのだろう。

542 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/14(日) 22:55:18 ID:xWQtMUvs0
 月の祭壇。……一度見てみたいとは思っていたが、こんな形で登ることになるとは思ってもみなかった。周りには聖天の隊長や、士官、戦士達に囲まれていた。
 右足には鎖が繋がれている。足に擦れる度、高い音が鳴る。自分に課される罰はどれだけ厳しいものなんだろう。覚悟はできている筈なのに、何か後悔があった。
 最後の別れ、笑顔でいられたら……っていうささやかな願い、叶わなかった。また会おうっていう約束も、果たせそうにないかもな。

「……来たな」
「……クレセリア様」
 彼女が此処の守護神。笑ってはいるが、恐怖しか感じなかった。
「お主でもあの捜索網からは抜けられなかったか……。捕らえられなかったら、とか考えてもいたが……余計な思案だったようだな」
 やはり、あの行為を許しはしないようだ。だだヒトリの為に、あれだけの戦力を費やしていたわけだし。

 祭壇周りの炎が朧気に燃える。風が吹く度、影はゆらゆらと揺れる。
「さて、これから質問に入るが……簡単に、正直に答えてくれ。なに、そんなに難しい問いではない」

543 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/14(日) 23:19:43 ID:xWQtMUvs0
 いよいよか。これで終わる。これが最後だ。思い出すな、あいつの事。
 ふと夜空を見上げる。満月だ。俺の翼も、今は同じように輝けるのだろうか。
「さて、主は何を考えてあのような行動をとった?」
「……あの時は、ただあいつを護りたい一心でした」
−−……元気か?
「帰還を諦めたのは?」
「できるだけ戦いは避けたかった、それだけです」
−−ちゃんと、会いたいヒトには会えたか?
「守護者はやめるつもりだったか?」
「……どうせ、この行為が許されるとは思ってませんでしたし」
−−命より、その誓いを守ることの方が大切な気がして。
 その後も質問は続く。一つ答える度、あの日々のことが次々と浮かび上がってくる。守護者らしからぬ答え……の筈だが、怒るどころか感心さえしているようだった。
−−……ロヴィン、元気か?
 届くことのない問いは心の中で消える。大丈夫だ、と言い聞かせてみる。あいつは、俺がいなくても大丈夫だ、と。
 考えることなんて、もう何もない。今更考えたって、もう何も変わりはしないから。

544 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/14(日) 23:37:56 ID:xWQtMUvs0
「……では、判決を下す!」
−−いよいよ、か……。
 祭壇は一層厳かな空気に。ヒトリの罪人はその中心で佇み、その結果を受け入れるしかない。
「ディフ、種族名エアームド。任務の放棄、及び同勢力への件について……」

−−彼は来る。絶対に。こんな時こそ、自分の直感の運を信じたい。
 私も待つ。ずっと。彼はいつか来る筈だから。
 月よ、教えてはくれませんか? あなたに誓った彼は、−−翼は、また光を受けて輝くことはできますか?
 空を見上げても答えなんか返ってくる筈もなく、月は冷たく光を放っている。

−−……ん?
 何か、その光に照らされた銀が煌めいた。−−決して見間違う筈がない。月は答えてくれた。ぼやけた光を放って。

545 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/15(月) 00:03:09 ID:dMszd/kg0
「……え? 今何と……?」
「む? 聞こえなかったか? お主は釈放だと」
 暫くは実感できなかった。処罰されて死ぬことしか考えていなかったからだ。シャクホウ……頭の中をいくら辿っても、そんな処罰の法は無かった。
「どうした? あまり嬉しそうには見えないが」
「ええと……。まだ整理ができないんですが……。釈放って……何故なんです?」
「事実はみんな知っておる。主には罪は無いことをな。それに、誰かヒトリの者を護り通したい、その考え、嫌いじゃないぞ」
 鎖が解かれてゆく。それと共に、今すぐ飛び立ちたい気持ちがこみ上げてくる。今すぐに行きたい。今もきっと待ってくれている彼女の元へ。
 胸に詰まっていた何かが、溜め息と共に消え失せた。
「それでは……これにて閉式! 解散!」
 夜の祭壇に、長の声が響きわたった。


更新もかなり遅くなりそ。週一ペースかな

546 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 08:38:50 ID:Lv1i7RmQ0
>>541-545 ディフが釈放になってよかった。

547 :カメキ ◆MNImJ/dEX. :2008/09/15(月) 12:43:46 ID:Nq/HYDB20
続き行きます

カメールは塔の中に飛び込んだ。すると上からマニューラの声がしてきた。
「ゲームスタート。あと30分。」
急がないと…どんどん迷路を進んで行くと階段が見えた。
ここを左に曲がるといいんだな…
左に曲がった瞬間ピカチュウとぶつかった。
「イタタ…どうしたんだ!階段は目と鼻の先じゃないか!」
「それが行き止まりなんです。」
ピカチュウが言い終わる前に階段の方を見た。
確かに行き止まりだ…しかし、何か他の壁と感じが違う…
カメールは壁に向かってハイドロポンプを発射した。
すると動かないはずの壁が動いて階段への道ができた。
「まさかあの壁がニセモノだったとは…」
「おい、置いていくぞ。」
「待ってください!」
ピカチュウはカメールを追いかけた。
ニセモノの壁をちらっと見た。
「何だろう?この数字…」
壁には11922911と書いてあった。
ピカチュウはメモ用紙があったのでその数字をメモした。
「早く行くぞ!」
「はい!」
…一階クリア残り時間27分40秒。

548 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 22:49:03 ID:G0aivKc20
前回までのあらすじ
【※前回まではwikiのみの投稿となっております。申し訳ございませんが、見たい方はこちら↓へ。
ttp://evstudio.sakura.ne.jp/wiki/index.php?%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0】

男性トップレンジャーの悪の波導使い『アサ』とそのベストパートナーポケモンの『フィリア』というフーディン♀は、セレビィの違法取引の現場を取り押さえることに成功した。しかしその時の行動が問題となり一週間の謹慎処分を喰らってしまった。(プロローグ)

その際トップレンジャー権限で10匹まで持ち歩き出来るポケモンが、通常通りの6匹までに制限されてしまった。
 アサの手持ちは8匹であるため、手持ちのポケモンを休暇中の女性トップレンジャーの雷の波導使い『ウール』に預けることになった。
 その時預けた2匹のポケモンの内、『スタン』というレントラー♂はウールの顔をなめるのが大好きで、ウールはその癖をしつけで直すために引き取ったのだが、結局無駄だった……(第1話)

二日後、このレンジャーユニオンの最後の男性トップレンジャー、通称鋼マニアの『ダイチ』が、最近自分のハッサム♀の『トウロウ』の動きが悪いことを悩んでいることをアサに打ち明ける。
 だが、トウロウは人間の言葉を話せないために通訳として天才的な才覚を持つフィリアにトウロウの通訳を依頼する。彼女は進化したことで自分が与えてもらう仕事が少なくなったことで、自分が愛されていないのでは感じていた。
 そんなことはないという意思表示としてダイチが優しく抱きしめてあげたところ、トウロウは何か勘違いしてしまったようでダイチはトウロウに逆強姦されかける。
 なんとかその場はしのいだものの、トウロウは普段の生活中ずっと腕に抱きついて離れなくなってしまった……(第2話)

――――
謹慎最終日、7日目の夜……

フィリアとアサは、レンジャーユニオンから少し離れた河口の砂浜に座り夜空を眺めている……

「はぁ、謹慎期間も終わっちゃいますね……」
そんなフィリアは8月31日の学生のようなセリフをしみじみとつぶやく

「しょうがないだろ。だいたい、楽しい時間は早く過ぎ去っていくものさ。そもそも謹慎だっていうのに俺ら自由に行動し過ぎなくらいだし……謹慎を休暇代わりにする俺たちってどうなんだろうな?」
謹慎の意味が分かっていないことを薄々気が付いているアサがフィリアにたずねると……

「不謹慎っていうのですよ」
と、フィリアが100点満点の答えを出す

「だめじゃん……」
そう言ったアサは浜辺に大の字になって寝転がり、夜空を見上げる。

「なぁ……あの星座はハブネーク使い座だったな」
Yと、Vをさかさまにした形を合わせたような星座を指さして言う。

「ハブネーク使いのゴーリキーは死者をも蘇らせる優秀すぎる医者でしたいよね? アサさん……それがどうかしましたか?」
フィリアもアサに倣って大の字になり夜空を見上げた。

「いや、ハブネークの毒を薬に使ったとも、ハブネークが咥えていた葉を医療に使ったとも言われているが……どちらにせよそんなもんを使おうとするなんて発想をよくまぁ考えるよなって……俺たちは謹慎を休暇にすることぐらいしか出来なかったのに……」

「天と地ほどの差ですね……ふふふ。大体アサさん……貴方は謹慎になるの分かっていてセレビィに『時渡り』を使わせたでしょう?」

「その通りだよ。好奇心が耐え切れなくってな」
アサはさらりとそう言ったつもりだがフィリアは……

「本当にそれだけですか?」
フィリアは指先でスプーンを回している。彼女の機嫌がいいときの仕草を見てアサは妙な嬉しさを感じる。

「さぁな。スプーン好きの誰かさんが喜んでくれるからじゃないのか? 仕事以外の関係で誰かさんと一緒にいられるってな」
フィリアは照れくさそうに黙ってしまった。アサは困ったように頭を掻いて、数秒の思考の後話題を変えることにする。

「明日からまた仕事だ……フィリア、しっかり付いて来てくれるな?」

「はい! 誠心誠意頑張らせていただきます」
アサは元気よく答えたフィリアの方へ、這いずりながら近寄る。手を握り、顔を横に向けて微笑みあった。

549 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 22:53:40 ID:G0aivKc20
そんなことがあった日はもう……1ヵ月半前のこと。その間……火山の噴火とか大雨による落雷とかはあったけど……被害は軽微。
レンジャーが頑張る必要のない世の中……これこそ順風満帆だ。少し暇な気がするけど、それでも町の人には慕われているから悪い気はしない。

そんなある日のこと……大事件が起きた。

まだ、朝日に輝く太陽が水平線に顔をのぞかせるだけの時間帯……こんな朝日が見れるなんて海が近くでよかったなどと言っている暇はない。
なんせ、グレイシティのレンジャーユニオンのほとんど全隊員が緊急出動だ。

その概要を伝えるのに何処か広場へ集まる必要があるとかそういう必要は無く、部屋にいながらにしてスピーカーと……テレビの入力を合わせることで画像付きで説明してもらえる。
無論の事、詳しい説明はちゃんとした指示を口頭で伝えるが、着替えなどの身支度をしながら出来ると言うのは有り難い。
 さて、テレビとスピーカーから同時に、今回の緊急出動の概要が音声で聞こえる。その内容の要点をまとめるとこうだ。

・化学薬品工場にてタンクの破損により原料が流出
・そのような事故に対処するための前もって用意された中和剤タンクも破損して流失し、使い物にならない状態である。
・このことが二つ重なるなどあり得ないということから、単なる事故や管理不足ではなくテロとである。
・どんな組織が、どんな用件でかは分からない。とりあえずテロ理由を調べるのは警察の役目……
 とにかく、我らポケモンレンジャーがなすべきことは、一刻も早く流れ出した毒を処理することである。
・まず、毒に侵されない鋼タイプのポケモンや、手を触れずに作業が可能なエスパータイプのエスパータイプのポケモンによる汚染された水や土壌の回収作業。
・そして、汚れを餌とするポケモンにも回収作業は協力してもらう。つまり、ベトベターやベトベトンだ。これら二種のタイプと、一系統のキャプチャ&ジョブが具体的なレンジャーの任務だ。

と、言うことらしい。その仕事はレンジャーだけでなく、近所のポケモントレーナーの有志を集い行うことになっている。それらの指揮は、もちろん工場の責任者とレンジャーのトップで協力して行われる。
 そしてこのレンジャーとして指揮の任につくのが……レンジャーユニオン・グレイシティ支部の、ローズ支部長だ


そして……トップレンジャーとして、それらしいと言う他ないミッションを与えられるのが……
「唐突に俺たち二人を呼び出して……一体なんだっていうんだよ?」

「トップレンジャー3人のうちダイチだけ別行動……何をさせるつもりかしら?」
アサとウールの二人である。ダイチは手持ちがすべて鋼タイプなので、現場で働いてもらうことになっている。
ダイチだけ別行動にさせ、二人を直々に呼びつけたのは、このレンジャーユニオンのボス……ミス話の分かる上司こと、ローズ支部長が開いた口から発せられる言葉は……

「さて、言うまでもなく大変なことになったってわけね。こんなテロを起こす人がいるというのはとても悲しいことだけど……悲しむのは後にして本題です。
このグレイシティの河口は干潟となっており、貝類の温床となっている町の大切な財産です。こういった場所が汚染されれば、もとの輝きを取り戻すのを待っていたら何年かかるかわからない。そういうわけで、我らは待ちません。こちらから、汚染に対し攻めていきます」

550 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 22:59:18 ID:G0aivKc20
「つまり……どうしろと? 回りくど言い方よりも唐突でいいからまず結論を言ってくれ」

「そうよ、話す時間も与えないくらいがちょうど良いんじゃないの?」
眠いところをたたき起こされておきながら、今回の危機の意味をちゃんと理解している二人には、前置きなどわずらわしい話である。答えをせかされたアリサ支部長とて話を長引かせる気は無い。

「わかっております。そんなわけで二人に与えるミッションは……スイクン及びシェイミを、心を通わせて連れてくること。もちろん、心を通わせてさえいればキャプチャする必要は無いわ。
今回の事態を最もうまく終結させられるのは、この2種のみ。そんなわけで、この任務……受けてもらえますね?」

「できたらカッコいいよなぁ……だが、そんなことよりも……今回の件で苦しむものが増えるか減るかの方がよっぽど問題だ。俺たちが適任というのならば、やりますよ」

「同意よ。できれば断りたくも、受けたくもある非常に難解なミッションだけれど……誰かがやんなきゃね。それが私たちというのなら……」

「ふふ、いい答えですよ二人とも。では、そういうわけで、どちらがどちらをキャプチャしに行きますか?」
伝説のポケモンのキャプチャ……困難の一言に尽きるが、この職業に憧れる代表的な理由の一つである。
 憧れる理由は簡単であり、スイクンは国際ポケモン管理機構(IPMO)の許可を受けたライセンス付きの特定鳥獣専用収容器具(レジェンドボール)を入手しなければ占有は不可能。
 シェイミに至ってはをつれて歩くには心を通わせる以外の方法は認められていない。
 つまり、よほど信を築いた人間か、もしくはシェイミ自身が無警戒のとき。もしくは伝ポケのキャプチャを許可されるトップレンジャー以外は、連れて歩くことが実質不可能ということである。
 かと言って、こだわりだが無ければタイプや戦闘能力の差でしかなく、今回の2種にはダイチにとってのディアルガのようなこだわりは二人とも特に無い。それゆえに……

「当然、タイプから考えて、水タイプに優位に立てる電気タイプの波導使い様は……」
アサがそう言うと

「私がスイクンで決まりね!」
ウールがそう言って、一瞬で話し合いは済むのだった。

「と、言うことです支部長。俺はシェイミを行かせてもらいます」

「わかりました。そんなわけで、御武運を乗ります!」
ローズ支部長が深く頭を下げる。


551 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 23:01:20 ID:Lv1i7RmQ0
>>547
一階で三分近くとられてまにあうのだろうか続きにwkwk。
>>548-549
乙です。続きの投稿にwktk(^ω^)。

552 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:03:39 ID:G0aivKc20
――戦闘になった際はスカイフォルムでもランドフォルムでも氷タイプが重要だ・・・・・特にスカイフォルムの時は、その体が氷に対して紙装甲となる。
その技を使いこなせるのは……マニューラのシモだ。そして……ウールから借りた受けたユキメノコのアラレも役に立ってくれるはず。
 移動要因としてトロ。こいつもトロピウスということで氷に対しては紙装甲だから巻き添えにならぬよう注意が必要だ。攻撃は直接攻撃を避けて吹雪などを風でサポートするなどがよいだろう。
 あとは炎タイプ。手持ちのヴォルクはゴウカザル……格闘タイプ持ちであるため一見相手がスカイフォルムできた場合は危険だが、シェイミはフォルムチェンジをしても空の技は使わないから問題がないだろう……

アサはこの作戦を行うにあたり、ウールのユキメノコ、アラレを借り受けている。そして、もう一匹支部長があらかじめ手を回したことで借り受けたポケモンがいる。

「キーッ♪」
「フィーッ♪」

「お前ら……オス同士でいちゃつくなよ……」
この非常時にいちゃつく黒と紫……黒いエボルと仲良くしているのがとてもよく似合うポケモンは、エーフィのエスペシャリーだ。
 シェイミ=ランドフォルムの擬態は熟練した観察眼を持つものでも見破るのは相当に難しい。
 シェイミを探すのならば、空気の流れを敏感に感じ取るエーフィがうって付けということらしく、ブイズマニアのイズミから借り受けた子である。
 本当なら波導で周囲の様子を探れるダイチの手持ち、アルカナムがよかったとアサは言ったが、あの子は鋼タイプ持ちであるため工場とその川下での作業に回されるため今回はパスだと言われたのだ。

「アサさん。買ってきましたよ」

「御苦労さん!」
相手と話し合いで済ませられるならばそれにこしたことはない。アサは考えた。『まずはお菓子で相手を釣ろう』と……これはフィリアにユニオンの売店までお使いを頼んでおいたのだ。
そして、フィリアが買ってきたのは何と……レンジャーユニオンカフェテリア名物の『紅茶ショートブレッド』だ。
 リンタイシティなどでもこの手のものは売っているが、レンジャーユニオンの物は絶品に数えられる店の一つであり、本来ならば並ぶことなく買える日はない。

今回、シェイミにプレゼントするといって例外的に許してもらったらしい。
――唐突に頼んだ事だが……本当にそんなんでいいのだろうか?

お使いを頼まれたフィリアの両手には、いつもの銅製のスプーンではなく退魔力や念力伝導性が高く、さびにくい銀のスプーンが輝いている。

――とにかく、お菓子の用意は済んだ。あとは……シードフレア対策の癒しの鈴を使える子……おれの手持ちにはエネコロロのラミアセアエしかいないから、ラミアセアエを連れて……。
「さぁ、みんな。唐突で悪いが準備はいいな? 俺は、こいつで準備完了だ」

「完了しています!」
フィリアの元気な声だ。

「とっくにおわっているぜ」
ヴォルクの威勢の良い声だ。

「ニュッ」
シモの声くぐもった声だ

「グワッ!」
トロの低くよく通る声だ

「ミャオ」
ラミアセアエのかわいらしい声だ

「フィーッ!」
エスペシャリーも答えてくれた。

「問題ないです……」
消え入りそうなアラレの声だ。

皆の反応に満足したようにうなずいたアサは、ただの鉄パイプとも吹き矢ともとれる武器を手して外へ出る。ひきつれているポケモンをボールに収納すると、トロに乗り空を翔ける。



553 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:20:38 ID:G0aivKc20
――相手はスイクン……こちらの電気タイプは私を入れて3人……デンリュウのミルキーと、しっぽ掴んで壁にブン投げても戻ってくるブーメランもびっくりな呪いのレントラーのスタンだから……攻撃性能には問題ないはず。
 一匹くらいは草タイプを入れたいところだが、いないものはいない……しょうがないと諦めよう。
 あとは、スイクンと口頭で話せない時のためにアルバを連れて……

あとはスイクン自体がどこにいるのかということが問題だけど、ここのオペレーターとコンピューターは優秀だ。衛星画面を凝視しながら姿をとらえたスイクンをコンピューターがトレースシステムで追い続けてくれる。
 無論のこと、深い森に入られてしまえばそのシステムも効力を失うが、森から出た時には再び追ってくれるという代物だ。まあ、森の広さや木々の隙間の大きさにもよるが……これがなければ、さすがに仕事を断りたくもなっただろう。

「さて、行きますか……」
今回の相手は一匹になるだろう。それも素早く強力な力を盛った敵……ならば、武器はこれで行きますか。
彼女がスイクンを相手にすることを想定して選んだ武器は……櫂(かい)である。
ウールはサイユウ空手でウェークと呼ばれる武器を担ぎ、ウールは自分の手持ちであるムクホークの空鵬(クウ・ホウ)を駆り、空を翔ける。


第二節 †


空を翔けるウールは、無線でオペレーターとやり取りをしている。

『スイクンはその場所から東北東へ数百mの場所で補足不可能になりました』
その東北東へ数百mの場所から先は鬱蒼と生い茂る森が地面を覆い隠している。当然、衛星でスイクンを追うことは不可能になる。そこから先は徒歩で追うことになるだろう。

「了解! クウ・ホウ。あと少しの頑張りよ」
そう言ってウールは目的地まで飛び、降り立つ。

「ありがとうクウ・ホウ。ボールに入って休んでいて」
飛行要因であるクウ・ホウを腰に下げたボールへと収納し、しばらくその場所を少し探索する。やがて発見したのは巨大な足跡……。

――間違いない……スイクンだ。
「よし、スタン! 出てきてもらえるかしら?」
ボールから赤い光が放たれ、そこにレントラーのシルエットが浮かぶ

「ガウゥ♪」
飛びつこうとする癖は相変わらず。首を押さえつけるだけのトレーナとはわけが違うウール相手では、普段なら顔あたりを蹴られるところだが……

「大切な仕事の前くらいは……自重してよね。悠久発情期レントラー。今回は、この足跡についたにおいを追ってもらうわ」
今日のウールはそう言って仰向けにひっくり返して首に櫂を突き付けるだけであった。
束の間、虐待をされずにキョトンとした表情を浮かべていたスタンだが(まさかこいつ本当にMなのか?)気を取り直して地面の匂いを嗅ぎ始める


554 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:25:20 ID:G0aivKc20
森の周囲は冬に備えて太ろうとするポケモンたちがやかましかった。パチリスやジグザグマが忙しくドングリを集め……食べている。
 ウールは道中、そんな風に動き回るポケモンたちの中で、いくつか役に立ちそうなポケモンをキャプチャしておいて、スタンとともに追跡を急いでいた。

10月も始め……半袖では寒くなる時季だが、厚着をすれば逆に暑い。スイクンとの戦いに備え、それなりの重装備にしたウールは汗をかいている……出来れば平和に……しかし、戦うことを見越しての装備だ。
 スイクンは人間を嫌っているものもいるとウールは聞いたからだ。

――最近はパトロールばかりだった……刺激がほしいとは思っていたけど、今回ばかりは刺激じゃ済まないかもね。

ピクリとスタンが反応する。においの発生源と思しき方向を見て、鬱蒼と茂る森に向けて、鋭い眼光をともらせて、しばらくあたりを透視しながら見まわした後、姿をとらえたスタンは一つの方向を定めて走り出す。

――普段は変態だけど……やる時はやる。スタン……アサはいい子(戦士的な意味で)を育てたわね……

そこにいたポケモンは全身を水色の体毛が覆い、四肢の付け根に四角形の白い体毛とがアクセントをつける。首から背中にかけて生える鬣を(タテガミ)風のない場所でなびかせ、胴周りには美しいヴェールを纏い額には水晶を象徴する六角形の角が生えている。

紛れもなくスイクンだ。そのスイクンは、『伏せ』の体勢で木のたもとで睡眠に興じていたようで、こちらに気がつくとその首をウールの方へ向ける。

「貴方が……スイクンね。折り入って頼みたいことがあるのだけど……話だけでもいいかしら?」
こちらの言葉を聞き終わると、スイクンはゆっくりと起き上がり、口を開く。

「ふむ……私の(ワタクシ)ところにも客人ですか……」

「喋られるのね? それなら話が早くていいわ……」
スイクンが会話できる。実際は口の構造ゆえに、テレパシーによる会話ではあるものの、その事実に対し、ウールの顔には少々期待の色が浮かんだ。

 だが……
「『お盆には 先祖の霊と ドククラゲ』」
いきなりのわけのわからない俳句を聞かされたあと。

「お嬢さん……悪いが引いてはくれませんかね?」
このようなことを言われる。

「すみません、間違えました……」
いきなりわけのわからないことを言われたウールは、わけもわからず、このスイクン見なかったことにして帰ろうとする。

――……ペラップ専用技の『おしゃべり』が混乱させる効果があるというのは、ポケモンの間でこういう会話がおこなわれているのだろうか?

「ああ、なぜですか? お待ちください、確か私は(ワタクシ)『引いてくれ』とは申しましたが、『間違い』というのは聞き捨てなりませんぞ!
 私は(ワタクシ)紛れもなくスイクンでございます。ただ前世がドククラゲであっただけです。まったく、私を(ワタクシ)スイクンかどうかを疑うとは……最近の若い者はよくわかりませんね!」

「いや、あの……俳句の意味が、もとい……意図がわかりません。というか、前世は畜生道として今は何道? 
 人間道ではなさそうだけど……畜生道っていうのも違う気がするし……もしや天道? あんた六道輪廻のどこに当たる存在なのよ」

「なんと私の(ワタクシ)俳句がわからないと!? ではもう一句。『毒々を 極めて強し ブラッキー』。
 ああ、ちなみに俳句はただのあいさつ代わりでございまして、大した意図はございませぬ。
 それと私、(ワタクシ)仏教には詳しくないので、六道輪廻についてはお答えできませぬ。申し訳ない」
――完全に意図がわからない……これは何かの作戦?

555 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:29:18 ID:G0aivKc20
相手に混乱させられて自分までわけのわからないことを口走るようになっってしまったウールは、一度冷静に質問を考え直す。

「……それじゃあもう一つ質問してもいいかしら? あなたは馬鹿?」
冷静になっても無駄だったようだ……

「いえいえ、馬鹿ではなく『毒好き紳士スイクン』のトキシンでございます。
 ああ、このトキシンという名前は『ボツリヌス"トキシン"』や『テトロド"トキシン"』の様に生物由来の毒に対しての語でして、私が(ワタクシ)勝手に名乗らせてもらっている名前でございます」

――なによこれ……こいつは何なのよ? まさか本当にドククラゲの生まれ変わり?

「とにかく、あなたはスイクンなの? それとも違うの?」

「先ほどもも申したように、私は前世がドククラゲの毒好き紳士スイクンでございます。ええ、このヴェールに誓って嘘はつきませんとも」
そう言ってトキシンと名乗るスイクンはヴェールを空中に泳がせた。

「ファインスタイラー……ブラウザ・オープン!」
信用できなかったウールはスタイラーに向かってそう宣言してポケモン図鑑ブラウザを開き、目の前のポケモンをスキャンする。

『フォルム照合……身体的特徴から、スイクンと推定されます』

「おや、そのカラクリも私をスイクンだと認めてくれているようですね。これでわかったでしょう? 私は紛れもなくスイクンなのです。」

――いまいち信用できない……いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「わかったわ……とにかく、私たちは今、貴方の力を借りたいの。化学薬品が漏洩して、川とその先にある海が汚染されて……ああ、とにかく一刻も早く水を清めなきゃならないの」

「毒ですか? それは素晴らしい!」

――私は頭痛がするわよ
「毒の魅力は語るに尽きない至高の魅力……この体に生まれかわったせいで、毒々の牙やダストシュートを使えないことに歯噛みをする毎日。
 毒々だけが使用可能でございますことが唯一の心の支えでしたが、工場の汚染とは何たる大規模な毒!
 ああ、ぜひ行って確かめたいところですが……私を誘い込む甘い罠ということも考えられなくもない。謹んでお断り申し上げます」
トキシンと名乗ったスイクン(?)は礼儀正しく礼をする。

「罠だなんて、そんなつもりはないわよ! と・に・か・く。一刻も早く浄化をしないと、川や干潟に住む生き物たちが死んでしまうのよ。あんたはそれでいいの!?」
少し、感情的になりながらウールはトキシンに訴えかける。

「『鋼など 認めはしない 毒タイプ』。私と(ワタクシ)て、浄化は行いたいものです……
 しかしながら、もう私(ワタクシ)以外はいないのです。何の事だかわからないというのならば、それでもかまいません。エンテイとライコウが攫(さら)われたから、私だけはつかまるわけにはいかない。
 それだけわかっていただければよろしいこと。後のことは、『スイクンは何かに巻き込まれているようです』と上司に報告をしてください。それでは、失礼つかまつります!」
鬣を(タテガミ)翻し(ひるがえ)て立ち去ろうとするスイクン。

「BOX・2(ツー)。ジョブ・スタート!」
ウールはスタイラーに向けて宣言をする。その宣言とともに、スタイラーに光が灯っていた2番目のランプが消え、スタイラーに収納していたキャプチャ済みの野生のポケモン、ムウマを繰り出される。

「ムウマ、『黒い眼差し』!」

「マーー!」
ムウマの目が黒く光り、スイクンをとらえる。

「この技は……使用者の視界から外れることで身体に破滅的な負担がかかる呪術。その意味はわかるわね?」

「もう私は(ワタクシ)逃げられない……と? 毒のようにえげつないことをいたしますねぇ……これが緊急時でなければ、貴方と毒の魅力についてでも語り合いたいところなのですが……
 どうやら、あのムウマを、あなた方共々倒さねばならぬようですね」

「大正解。ムウマちゃん……あなたは安全なところでずっと見続けていて! 私がこいつをキャプチャするまで、お願い!」
ウールはムウマが後ろまで下がったことを確認すると、スイクンの方を睨みつける。

「私とて戦うのは気が進まない……けれど、ポケモンレンジャーとして、川と干潟と海に生きる生き物を守るため……是が非でも、あなたを連れて帰るわ。
 私の思いをスタイラーに乗せて……いざ、キャプチャ・オン」
ウールはスタイラーのディスクを音声認証で起動させ、腰に下げたボールからネイティオのアルバ、デンリュウのミルキーを繰り出した。

556 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:32:20 ID:G0aivKc20
そのころアサは、グラシデアの花咲く野山を散策していた。強い力をもったポケモンの存在をスタイラーは認識しているが、警戒を促すだけで、どこにいるかまでは分からないらしい。

こういう場面でこそ、借りてきたエーフィが役に立つ。

「エスペシャリー、頼む」

「フィーーーー……」
目をつむり額の赤い珠をぼんやりと光らせながらエスペシャリーは全身の体毛に神経を集中させる。アサたちにはそよぐ風が花を揺らす音しか聞こえないのだが、エーフィは違う。
 湿気・におい・音・気流の流れ・動物が歩くときに発せられる固有の電磁波・波導……そういったものを感じて、総合的に正確に周囲の状況を判断し、天候や相手の行動までも当てることが出来るという。

「フィィィィ……」
エスペシャリーは耳を垂れ下げて気の抜けた様子になる

「だめか……」
だが、それも範囲が広くなれば正確なものではなくなる。この任務中、アサ達はこうした失敗を何度も繰り返しては場所を変えて探すことを繰り返している。

――ふぅ……根気が大事だな……


そんな時……

「フィ? フィー!!」
エスペシャリーが今までと違う反応を見せた。

「唐突にどうした?」

「『見つけた』……と言っています」
アサは今までの地味な作業の連続を思うと胸が躍った。エスペシャリーが走り出したその方向についていくと、そこには動く物体が姿を見せ始めた。

茶色くてふさふさな体毛
尻尾の先は白い
そしてつぶらな瞳……

「フィ〜〜♪」
「ブイ〜〜♪」
そう、イーブイだ!

――ってダメじゃん……
アサは頭を押さえてうつむき、そのがっかりとして心情をアピールする。

「『あら、かわいい子ね♪』とエスペシャリー。イーブイは『遊ぼうよ〜〜♪』だそうです。
 においからするとあの野生のイーブイ……ほぼ100%雄ですね」
フィリアが通訳したエスペシャリーの会話の内容は、仕事中にある者の台詞としていかがなものか。

「エスペシャリー……」
アサは野生のイーブイといちゃつくエスペシャリーに、呆れたように話しかける、同時にエスペシャリーの耳を掴んでひっぱる。

「はいはい、エボルの時とイイ、同性愛は程々にしてよね……」
エスペシャリーがサイコキネシスを使って地面に貼り付けようとしてくるが、悪タイプの波導使いであるアサは、つつがなく彼と野生のイーブイ引き剥がした。

557 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:37:32 ID:G0aivKc20
「いやぁ、思ったより集まったね……ボランティアの人。日曜日だってのもあるだろうけど、これも日頃から築かれていた僕たちレンジャー信頼のおかげかな?」
リンタイシティよりはるか東に源流をたたえる帝水(テミズ)川。その流域近くに鎮座する化学薬品工場。この工場は、もとより排水を流すためにこの川流域に作られているわけではなく、
 薬品を精製する過程で発生する熱を冷却するために帝水(テミズ)川の水を利用させてもらっているにすぎない。
 この川は世界有数の清い川だ。汚してはいけないという信念が工場長を始めとするこの川と共に暮らしてきた者たちには根付いている。
 そのため、今回のように市民たちもこの美しく生物の豊富な川がもとの輝きを失わないようにと作業への参加を決めたのだ。無論のこと工場長も、
 『日ごろ世話になっている川に害毒を垂れ流しにしては川に申し訳が立たない』と、ボランティアを呼び掛けたりレンジャーに協力を要請したりするだけでなく、
 私財をなげうって専門の業者に作業を依頼している。

観光名所として多くの人が集まるこの帝水(テミズ)川も、この日ばかりは観光資源の遊覧船はお休みだ……そこに住むポケモンを始めとする生き物たちを、汚染に巻き込まれないようにレンジャーがキャプチャして外へと退避。
 もしくはこの期に水タイプのポケモンを大量にゲットするトレーナーもいる。
 だが、この川は流域面積が極めて広い……業者やらボランティアやらが協力したところで、オニスズメの涙のようなもの。
 流れが緩やかで、潮の満ち引きに影響を受けて逆流するような川であるために一日のうちに海まで到達することはないだろうが、それでも流れ出した範囲は広い。
 これほどの規模ともなれば、やはり支部長が下したスイクンやシェイミに頼るしかないというのは賢明な判断であるのだ。

その川では、ダイチの手持ちのトライデントや卓袱台(ちゃぶだい)が特に頑張ってくれていた。
さすがの伝説のポケモンも炎タイプを併せ持っているヒードラン故に炬燵(コタツ)はお休みであった。

「ふう、水はもう恐ろしく冷たいって言うのに……また作業しなきゃならないのは辛いものだね」
そんな作業も今は一時休止中……遊覧船はお休みといえど、貨物船までは休むわけにはいかず、休憩を挟む時間は貨物船に合わせているといってもいい。

 休憩中……ダイチは、あれから一ヵ月半たった今でも勘違いを続けていて梃子(てこ)を使ってもひっついて離れないトウロウという名のハッサムに抱きつかれている。
 自由に動く片腕では工場長の計らいで参加者にまかなわれた遅めの朝食を食んでいる最中のことである。彼の携帯電話が高らかに鳴り響いた。

『ガァァァァ! メェタァァァァ! ブルル! シィィィィィ! ……』
彼の携帯電話は手持ちの鳴き声がヒードラン、メタグロス、ルカリオ、ハッサム、エアームド、エンペルト、クチート、ドータクンの順番になく声が着信音になっている。そんなとても個性的な(悪い意味で)呼び出しに応じて、ダイチは携帯をとる。
 その画面に映っていた発信者の名前を見たとき、彼の表情が変わった……

「こいつは……何が起こったんだい? いや、とにかく……もしもし。こちらダイチです……はい、はい、……まさか、そんなに早く? ウソでしょう? わかりました。早急(さっきゅう)にお願いします」

「ダイチ様……どうしました?」
ただならぬ様子に、アルカナムがチョコ食べることを中断して話しかけてくる。

「ああ、育て屋に預けたコイルが……もうすぐレアコイルに進化するって……だから、『記念にビデオ撮影しますか?』と聞いてきたから、『早急にお願いします』と……まさか、こんなに早く進化するとは思わなんだね。
 でも、あらかじめ取り寄せておいた天眼山石を使ってジバコイルに進化させれば……特に対策で来ていなかった水タイプや飛行タイプへの対応も可能だ。う〜ん……これは嬉しい誤算だね。僕の日頃の行いがよいおかげかな?」

「ブルル……そうですか」
ルカリオ独特の唇を震わせる音を出しつつ、心配して損したなという顔をしながらアルカナムは再びデザート代わりのチョコレートを食べ始めた。

558 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:40:23 ID:G0aivKc20
つまりはアサもダイチもほのぼのとしていて、険悪な雰囲気となっているのはウールの集団だけである。
 黒い眼差しで束縛されたトキシンことスイクンは、臨戦態勢になったウールを冷めた目で見つめている。

「なるほど……どうあっても私に(ワタクシ)付いてきてほしいというわけですね? ですが、私は(ワタクシ)こう見えて以外とせっぱつまっておりまして……ですが、やるしかないのならば、甘んじて受けましょう。
『私(ワタクシ)は 毒の魅力を 語るため 命の尽きぬ 此の体 ホウオウ様より 譲り受け 語り伝える 賛美歌は 毒にまみれた 断末魔 毒は伴奏 歌手は貴女だ』」
ウールには意味(意図)がよくわからない長歌を歌い終えたトキシンは、その目に殺気をたぎらせる。

「いざ!」
牙に氷の波導を帯びて駈け出したその体はとにかく速い。水の上を風のように走るだけの身軽さに裏付けされたその素早さは驚きの一言で、

――こんなんじゃキャプチャなんてまともに出来るわけがない。
とウールに思わせるのには十分であった。だが、どれだけ速かろうとも当然のこと空手の突きに比べれば届くまでの時間はこちらの方がずっと長い。
 本来は小舟で水をかくための道具である櫂を地面に突き立て、それを盾として氷の波導を帯びて牙による噛みつきを防ぐ。だが、トキシンは空中で身をひるがえして櫂をかわし、
 すれ違いざまにヴェールを鞭と為し、ウールの脇腹を甲高い音を響かせながらはじく。

――痛ッ……フィオレ地方でゴーゴー団がエンテイを最後の砦として繰り出したと聞いたけど……

 当の攻撃を加えたトキシンは重心が空中に浮いた状態から右足を地面に突き刺し、それを軸にして体の前後を反転させる。地面に敷かれた草の絨毯を盛大にまき上げつつ地面を滑る。
 角に力を集中させ首を右上から左下へ振りながら、息つく間もなくハイドロポンプ繰り出す。
 ウールは櫂を漕ぐようにして横に跳んで水流をよけ、受け身を取って転がった。

――そんなエンテイと同列のスイクンは、動く気力もなくなるくらい叩きのめして、心を折ってからじゃないとキャプチャは無茶だ……。

トキシンは首を振る勢いそのままに体ごと回転・跳躍をして、体中の電気をスパークさせ火花を散らしながら突進をするスタンの攻撃をかわす。
 ミルキーの放った放電攻撃には反射護封壁(ミラーコート)で威力を十二分にして返す。
 デンリュウであるミルキーといえど、発電器官以外に電気を受けてはその体がマヒすることだってある。
 ましてや、スイクンの強靭な反射護封壁(ミラーコート)で強化されたものを反射されたとあれば結果の想像は難くない。
 麻痺してまともに体を動かせないミルキーをかばうように、アルバがサイコキネシスを用いてトキシンを地面に縫い付ける。
 だが、すぐさまそれを気合いで振り払うと、スタンの噛みつき攻撃が届くより早く、ミルキーにうなりをあげて襲いかかる。
 速さは北風のごとく、威力は濁流の如き一撃がミルキーの心臓周辺にたたきつけられ、ミルキーは瞬く間に昏倒させられた。

――同じ四足でもスタンとはケタが違うこの強さ……くそ、思っていた以上ね。

559 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:44:05 ID:G0aivKc20
ミルキーが倒された時、攻撃のショックで放たれた静電気がトキシンに一矢報いていた。それを好機と見たウールは、自身すら焼き尽くす高圧電流を全身に纏い、捨て身の特攻(ボルテッカー)を仕掛ける。
 同時に角の間に櫂の腹を縦にして差し込み、体当たりがヒットしてノックバックする間に、櫂の腹を横向きにして抜けないようにする。

――ボルテッカーでマヒする時間が長引けば儲け物。そうでなくとも、ノックバックしている間にスタンとアルバが攻撃できるはず……

その期待に応えるようにアルバが後左足を草で引っ張り転がして攻撃。ウールが手に固く握っていた櫂が角に引っ掛かり、トキシンの首が大きく捻られる。
 トキシンはひっくり返った天地に身を任せることすらできず、頭を強く捻られ眼前の景色をゆがませながらもがいていたところ、後右足をスタンに噛まれる。

――これで両後足と首を傷めつけられたはず……二人とも、やるじゃない。
ウールは地面から足を離し、櫂を手掛かりにして、電気の波導きを纏った足で踏みつける。そんな技を使えるポケモンは今のところ聞いたことがないが、サンダーキックとでもいうべき技で、スイクンの顎を"殺す"つもりで攻撃する。
 だが、これで死ぬのはあくまで普通のポケモン。スイクンはそれほどヤワではないはず。

ウールの考えは正しく、丈夫で電気の波導に強いスタンにすら、躊躇する攻撃を喰らっておいてもトキシンは参ったようすもなく、カッと目を見開いた瞬間には神通力のようなもので吹き飛ばされる。
 トキシンが首を振って振り払った櫂は左前方に飛ぶ。それを確認する間もなく、このメンバーの中で旗艦ともいうべきウールを狙いに定めてトキシンは走り出す。
 トキシンの血の滴る口内に覗かせるのは、人間の目ですらうっすらと桃色に色づいて見えるほど強力な毒の波導だ。

「さあ、毒は伴奏。歌手は貴女です!!」
まともに食らえば死の覚悟すら必要に思える毒が放たれた時、エスパータイプであったおかげで先ほどの神通力による攻撃の被害が薄かったアルバが、テレポートでトキシンよりも素早くウールの前に立ち、吐き出したその毒気を一手に引き受ける。

「断末魔を歌う歌手は一人よりも……二人のがよいだろう?」
アルバがいう二人とは一人目が自分であり、もう一人目はトキシンのことだ。アルバはネイティオの特性『シンクロ』の効果により、ウールをかばうと同時に相手の力を削ぐ。

「主人をかばいつつしっかりからめ手を行う……その見上げた根性、やりますね」
アルバが毒にまみれた翼でトキシンの角を掴む。トキシンがアルバを振り払うために水の波導を零距離で放つ間に、スタンが左後脚に噛みつく。
 アルバは水の波導に何とか耐え抜いて、その目から怪しい光を放つがトキシンは痛む首を振って目をそらす事でそれを避け、後ろ脚でスタンを蹴って振り払う。
 角を掴んでいたアルバは、トキシンが首を振ると同時に地面に転がされ、その翼を角から離す。その際睡眠による回復を図るため、意識を手放そうとしていたアルバと首を正面に戻したトキシンが見たものは、櫂を大きく振りかぶるウールだった。

「御免!」
 容赦のかけらもなく振り下ろされた櫂は、草の波導を纏っていてウッドハンマーと呼ばれる捨て身の技だ。反動を受けることさえ気にしなければ、スイクンに対して効果が抜群となる。
 鈍い音を立てる櫂の衝撃は分厚い鬣が(タテガミ)その大方を防いだものの、それでも有り余る一撃であったのか、トキシンは痛みに堪え切れずに地面に転がる。
 好機と見たウールは、ウッドハンマーによる反動で痛む体をおして構えをとり、スタイラーに向かって再度宣言する。

560 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:45:37 ID:G0aivKc20
「キャプチャ・オン!」
 ウールは、左を向いた体勢で寝転がるトキシンの右前足を、自身の右足で踏んで動けないようにして、足から電撃を放つ。
 そうして動きを制限した状態で、スタイラーから独楽のような装置『ディスク』を放ち、手袋に内蔵されたアンテナで操ってスイクンを囲む。
 それを見たスタンは自分の体とディスクが衝突しないように、攻撃することなく後ろに下がってその様子を見守っていた。

――どうやらアサは、顔を舐めることをやめさせる教育以外は立派に行っているようね……

「風前の灯……ですが、活路はまだあります」
トキシンは電撃に痺れたその体でヴェールを手繰り寄せ、ウールの右足を
いとって転ばせる。トキシンが起き上がりつつ放った毒々に対し、ウールはディスクを操る手を止めて防御をした。
 だが、皮膚の上からでもその体にしみわたる毒は、容赦なくウールをの体を侵していく。ウールは水を浴びた状態からの吹雪を警戒して厚着をしていたが、とっさの判断で毒がしみこむ前に服を引きちぎるように上着を脱いで対処する。
 脱いだ上着はスタンの体当たり攻撃を避けているトキシンへと投げつけ、視界をふさぐる。服の先の見えないところで何が待ち構えているのか気味が悪く思ったトキシンは、反撃に転じることなく、闇雲でも、よける選択肢を選んだ。
 ウールは服の上から踵落としを仕掛けようとしていたため、トキシンの行動は結果的には賢明な判断であった
――くそ、キャプチャのやり直しね……

 足で地面に叩きつけたのがスイクンではなく、服だけだとウールが知ったときには、トキシンは攻撃に転じている。氷の波導を帯びた牙で噛み付きにかかるトキシンに、ウールは肘と膝で口を挟みこんで防御と攻撃を同時に行う。
 噛み付かれるという最悪な結果はなんとか避けることが出来たものの、ウールのトキシンと比べ軽い体は押し負け、倒され、地面を転がる。
 その時、スタンが攻撃を加えなければ、勝負はウールの負けで決していただろう。顎へ走る強烈な痛みで周囲への気配りがおろそかになっていたトキシンは、スタンの左からの体当たりで大きく横に吹っ飛ばされ、ウールへのトドメを中断させられた。

その頃にはウールの体に異変が生じていた。先ほど毒がしみ込んだ場所にわずかに痺れを感じる。
――技を警戒する必要がある以上、これ以上脱ぐこともできない……味方はもう二人が倒れてスタンしかいないし……仕方がない、短期決戦で一気に決めるしかない。

「BOX・All ジョブ・スタート!」
先ほどまでにキャプチャしたポケモン。チェリム、パチリス、ヨルノズクなど。森に住むポケモンたちを戦闘員として臨時に呼び出す。今日は天気がよく、チェリムはフラワーギフトが使える状態だというのは幸いなことだ。

トキシンは新たに現れた6匹のポケモンを目にして、『逃げるが勝ち』と決め込み黒い眼差しでにらみ続けているムウマを倒すべく体を翻す。

561 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:52:21 ID:G0aivKc20
――まずい……ムウマがやられる。この状態から攻撃できるとすれば……これしかない。
ウールはスタイラーを構え、ディスクを最大出力で射出する。ウール達トップレンジャーに支給されるファインスタイラーは、最大出力で放ったディスクならば近距離のコンクリートや氷を軽く砕くだけの威力がある。
 そのために奇襲攻撃として使うことも可能といえば可能だ。
 特に、ディスクにはポケモンの力を借りることで波導を込めることができる。それはポケアシストと呼ばれ、スタイラーによるキャプチャと同時に攻撃が行える機能である。
 もちろん、この機能をそのまま攻撃に転じさせることも可能である。

 波導使いのウールは、それをポケモンの力無しで扱うことが出来るため、その有用性は計り知れない。

――離れているとはいえ、気をそらすくらいの攻撃力はあるはず……
雷の波導を纏って射出されたディスクは後ろ脚にあたり、その痛みに驚いて激しくよろめいた隙にスタンが追い付き噛みついく。

――キャプチャしたポケモンを出したはいいが、野生のポケモンを無暗に戦わせて重傷を負わせるわけにはいかない……ともすれば、ここで使うべき技は後方支援技。
 特防はチェリムのおかげで高まっているから直接攻撃だけ警戒すればいい。
「チェリムはパチリスに手助け! パチリスはスピードスター! ヨルノズクはエアスラッシュ!」

桁違いなスピードと発射数故に、避けることが不可能に近い技を継続的に放ちながらスイクンをけん制する。
 本当はタイプ一致の上にスイクンの弱点となる電撃波を使いたいところだが、パチリスが使えるかどうかわからないものに望みをかけるのは危険だという判断からだ。
 パチリスのスピードスターが当たりトキシンは一瞬目を細めてしまう。その甲斐あって、トキシンはヨルノズクのエアスラッシュに注意を回すことが出来ず、もろに喰らってしまう。
 ウールは3匹の働きによってできた隙に、間合いを詰め、櫂で右下からゴルフスイングして地面に無限に存在する木葉を巻きあげて眼つぶし。ゴルフスイングの勢いそのままに一回転させ、トキシンの顎に左下から強力な一撃を加えた。

トキシンが美しい姿には似つかわしくない汚らしい声をあげて、血の混じった唾液を飛ばしながら左を向いて倒れる。
 倒れたトキシンの脇腹へ、スタンがすかさずギガインパクトを喰らわせ、反動でまともに動かない体は間合いを詰める勢いを利用して前方に転がり、ウールの邪魔にならない場所へ退避する。
 スタンが頑張っている間に今回のキャプチャの堀出し物であるグラエナの群れ3匹に指示を出す。パチリスのキャプチャの際に付いた血の匂いを隠さずにいたら、グラエナの群れに襲われたため、体が大きく仮の主役である雌を選んでキャプチャしたのだ。

「グラエナ達、協力して噛み殺せ!」
ウールはトキシンに電気ショックを与えながらそう叫ぶ。本当に殺したらどえらい事だが、先ほどと同様に、そのつもりでないとこっちがやられると配慮してのこの言葉だ。
――あなたたちがカギ……頼んだわよ……

グラエナの3匹全員が思い思いの場所に噛みつく。ウールも毒や反動を受ける技も手伝って軋む様に痛む体を引きずりながら間合いを詰め、グラエナ達の感電を恐れて
の波導を纏った蹴りを叩き込み、これで最後になるであろう宣言をする。
「キャプチャ・オン」

562 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/15(月) 23:55:39 ID:G0aivKc20
スタイラーディスクが、3匹のグラエナとウールが抑えつけているトキシンの周りをまわりだす。精も根も尽き果てたトキシンは避けることも、ディスクを弾くことも出来なかった。ディスクの回転音があたりに響き、間もなくキャプチャは成功した。

「ハァ…ハァ…ハァ……BOX All・リリース……」
その宣言で、それまでキャプチャ状態であったポケモンたちは、先ほどのムウマも含めそれぞれのすみかへ戻ろうとする者、それを餌として狙う者に分かれていった。
――ごめん、パチリス……グラエナの前でリリースするんじゃなかった……

「スイクン・ジャム……」
『ジャム』の宣言で、トキシンは紫の光に包まれながらスタイラーのポケモン収納ボックス内にJamされ(詰め込まれ)、ようやくキャプチャの工程をすべて終えられる。
 ジャムされたポケモンが抵抗しないことで、初めてキャプチャの完了を意味し、トキシンが抵抗しないことが分かるとウールは胸をなでおろす。

「BOX・1、ジョブスタート」
その宣言とともに、トキシンが放たれた。もはやその表情に敵意や殺意はこもっていない。

「ふむ、あなたの想い……しかと伝わりましたよ。攫ってしまうつもりがないことも、敵意がないことも、この仕事にかける思いも……私、(ワタクシ)あなたのことを誤解していたようで……面目ありません。では、ここでお詫びに短歌を一つ……」

――正直短歌なんて迷惑よ……

「『誤解して 申し訳ない この気持ち 解消すべく 毒で切腹』」

「くだらないこと言っていないで……あんたは治療が終わったらできるだけ早く帝水(テミズ)川流域に向かいなさい。いや……その前にポケモンセンターね。スイクンが毒使うなんて思っていなかったから、それ系の道具をまったくもっていないのよ……」
&ruby(いくばく){幾許}かの手当てをしているうちにも、先ほどの毒がまわり顔色が悪くなるウール。浴びた量が服のおかげで少量だったのがせめてもの救いだ。

「心配はご無用。シンクロによる毒や火傷は暗示によるもの。私は(ワタクシ)自己暗示が使えますゆえ、毒はすでに治りました。ですから、応急処置が終わればすぐさま貴方を町に運ぼうと思います」
ふと、物音がしたので後ろを振り返ってみれば、先ほどまで眠っていたアルバの大きく見開かれている。

「クワーーーーーッ!」
アルバが目覚めると同時に、大きな声を上げた。すべての傷と猛毒を癒すための睡眠だというのに、ネイティオという種族柄か相変わらず早いお目覚めだ。

「スイクンにネイティオ……どちらも便利な体ね。だめ、頭が痛くなってきた……トキシン、応急処置の途中だけどもう行ってもらえるかしら?」
トキシンは立ち上がり、ウールの方を振り返る。

「しかし……その様子では陸上でも空中でもポケモンに乗って移動するのは危険では? 私はヴェールを使って背中に固定出来ますゆえ、よろしければ&ruby(ワタクシ){私が}治療できる場所まで運んで行きますが……」

「是非……頼むわ」
トキシンは、ウールに背中を向けヴェールを踏み台として背中に乗るように促すが、ウールは立とうとせずに目覚めたばかりのアルバの方を見る。

「了解した……ウール……」
アルバはその目配せの意味を理解し、ウールをサイコキネシスで優しくトキシンの体に乗せる。背中に乗ったウールは、スタン、アルバ、ミルキーの三匹をボールに入れてトキシンに話しかけた。

「もういいわトキシン……行って」

「それでは一刻も早く……と。では、あなたの御命運を祈りつつ行きましょう」
そう言ってトキシンは背中に乗っているウールを自身のヴェールで固定すると風のように走りだす。
 ウールは手放したくなる意識に苦しみながらスイクン特有の清流のような匂いのする美しい鬣を(タテガミ)左手で掴み、右手でスタイラーの無線のスイッチをオンにする。

「オペレーター聞こえていますか?」

『はい、聞こえております。ウールさんでよろしいですね?』
無線から聞こえる声を聞いてウールは続ける。

「ただいまトキシン……いや、スイクンとそちらへ向かっています。ただ、キャプチャの際に毒に侵されたので、私はそのまま治療できる場所へ向かおうと思います」

『分かりましたウールさん。ミッションクリア、ご苦労様です』
通信を終えたウールはぐったりとしながらその鬣へ(タテガミ)顔を埋め、高級なベッドにも勝る良い感触を健全な状態で味わいたいなどと思いながら、ウールはトキシンの背中で揺られていった。

563 :リング@あこがれの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/16(火) 00:10:36 ID:G5nhnABY0
トキシンが満身創痍のウールを運ぶ間のアサ達はというと……

「フィ? フィー!!」
エスペシャリーが再び、今までと違う反応を見せた。

「今度こそか?」

「今度も『見つけた』……と言っています」
アサは今までの地味な作業の連続と、さっきの事を思うと胸が躍った。エスペシャリーが走り出した方向へついていくと、そこには動く物体が姿を見せ始めた。

クリーム色の体毛
四肢や額、しっぽに生えたやわらかで美味しそうな瑞々(みずみず)しい葉
そして、つぶらな瞳……

「フィ〜〜♪」
「リ〜〜♪」

そう、リーフィアだ!!

――ってダメダメじゃん……そういえばここってリーフィアに進化できる地域かぁ……
アサは頭に手を当てて呆れた動作をする。

「『あら、かわいい子ね♪』とエスペシャリー。リーフィアは『おや、お前こそ♪』だそうです。
 匂いからするとあの野生のリーフィア……ほぼ100%雄ですね」
フィリアが通訳した内容は、仕事中にある者の台詞として本当にいかがなものか。

「あのなぁ……エスペシャリー。まずはシェイミをさ・が・せ!」
アサは野生のリーフィア♂といちゃつくエスペシャリーに、悪の波導を纏った手で抜き手を喰らわす。アサはバッタリと倒れたエスペシャリーの背中の皮を掴み、ずるずると引きずって行った。

「辻斬り……いつの間に覚えたんですか?」

「唐突だが。初めてやってみた……一応、やり方や練習法はウールから教わっていたんだが……唐突にやって上手く成功するものだな。
 この技の型……波導を変えればリーフブレードにもシャドウクローにもなるんだが、ウールは修業の段階で挫折したらしいぜ。おれも辻斬り覚えるのは諦めよっかな……
 いや、ウールが櫂を媒介にしてウッドハンマー使うように……吹き矢を媒介にして使えるようになれば……」

「アサさんの指……鍛えが足りないせいか、痛そうですもんね私もスプーンを媒介にサイコカッターやってる口ですので、媒介にする方法でしたらよければ指南いたしましょうか?」

「うん……いつか頼むよ。それにしても……ブイズって雄が多いよな……なんでだ?」

「雌は致死遺伝子とX染色体上にある致死遺伝子の補足遺伝子がセットになる可能性があるので生まれる前に確率が雄に比べて極めて低いのですよ。
 ブイズやルカリオの個体数が少ないのはひとえにメスが少ないのが原因なのですよ」

「豆知識……ありがとう」
アサはすっかり赤くなった指をさすりながら、エスペシャリーとともに次の場所へと向かう。


--------------------------------------------------------------------------------

第3話はこれで終わりです。長すぎてすみません……
それにしても、スイクンの性格壊しすぎたかなぁ?

564 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 00:41:34 ID:YGxhFcbU0
>>548-563
ちょwwエスペシャリーww乙です。

565 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/09/20(土) 04:56:29 ID:UthGtx160
・・・ここはどこだろう。
僕はなんでここで寝ているんだろう・・・
体中が痛い、体が動かない。
まるで自分の体じゃないかのように・・・
僕はこれからどうなるんだろう。
色々考えるうちに意識が途切れていった・・・



ジリリリリリリリリリリ!!!!!
「んー・・・うるさいなぁ・・・」
僕は目覚ましを消して起き上がる。
そこはいつもの自分の部屋の風景。
さっきのは夢か・・・。やけにリアルな夢だったな・・・
彼女と会ってからああいう夢見なくなったのになぁ。
あ、申し遅れました。
僕はブラッキーのライトっていいます。
つい最近まではいつも一人でいる生活だったけど彼女と出会ってから・・・

バンッ!

「おっはよー!」
・・・噂をすれば影というのは本当なのかもしれないな、
彼女がナギ。
僕の大切な友達。
「ナギ・・・せめてノックしてから家に入ろうよ・・・」
「いいじゃない!ライトと私の仲なんだし!ね?」
そんな目で見つめないでくれ・・・
「でもマナーは守らなきゃダメだよ?」
「は〜い」
とまあ毎日こんな感じ。
「それにしても今日は一段と来るの早かったね。どうしたの?」
「いや、早くライトと話したかったから家早く飛び出してきちゃったw」
「そうなんだ。・・・ちゃんとご飯食べてきた?」
「おなかすいてなかったから抜いてきちゃったんだ〜」
「・・・ちゃんと食べないと体に悪いよ。パンでよければ食べていきなよ」
「え、本当?食べる食べる!」
・・・おなかすいてなかったときの反応じゃないなこれ・・・
「本当はなんで食べてこなかったの?」
「・・・ばれちゃった?実は早く来たかったからご飯前に飛び出してきちゃったんだ〜」
なるほど。そういうことでしたか。
「じゃあ今からご飯作るからちょっとくつろいでいて」
「は〜い!」
とりあえずトーストをやいてその間に目玉焼きを焼く。
やいたトーストの上に目玉焼を乗せてできあがり。
ちなみに毎朝これ食べてます。
「ナギ、出来たよ」
「わぁ!ありがと!」
「じゃあ食べようか」
「うん!」
「いただきます」
「いただきまーす!」
とりあえず一口。
うん、僕好みのやけ具合だ.
「これ美味しい!」
「・・・このくらい小さな子どもでも作れるよ?
全然難しくないし。」
「そんなことないよ〜。私が作るとどうしても焼きすぎちゃって・・・」
「そういえばナギは自分で料理してるの?」
「そうだよ。一人暮らしだもの。」
「両親は?」
「ほかの町に住んでるよ。」
そうなんだ。
まあそういうポケモン多いか。
「ライトの両親は?やっぱり別の町に?」
「いや、いないんだ。」
「え?」
「小さいころに事故にあってね。それからずっと一人なんだ」
「・・・ごめんなさい。私へんなこと聞いて・・・」
「気にしなくていいよ。悲しいとか全然思ってないから。
そんなことより準備しなくちゃ。ナギは食べてていいよ」
「うん」
とりあえず顔洗って歯を磨いて荷物の準備をする。
準備終わったけど学校に行くのにはちょっと早いかな・・・

こんばんは absl です
前の続編になります
そういえばこの小説のタイトル
一応月と陽ってタイトルなんですが結構似たタイトルの人多いみたいですね・・・
ちょっとまずいかな;

566 :coopie ◆rRERRKQZPA :2008/09/20(土) 21:20:17 ID:kt8owdl+0
>>absl
>タイトル
全く同じでなければ
問題ないと思いますよ。

567 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/22(月) 01:04:20 ID:+h1kL+ng0
>539・カメキ様・551
声援に感謝します。

>564
これはシェイミを探すのは野生のイーブイを見つけるよりもはるかに難しいと言いたいわけで……はないです。
おそらくアサ君がジムバッジを持っていないので(トップレンジャーなのに?)エスペシャリーが言うことをきかんのです。
エスペシャリーはあまり活躍しませんが、脇役を愛していただければ幸運です。


前回までのあらすじ。
前回までのあらすじ
【※こちらも前回まではwikiのみの投稿となっております。申し訳ございませんが、見たい方はこちら↓へ。
ttp://evstudio.sakura.ne.jp/wiki/index.php?TGS%E7%AC%AC2%E8%A9%B1%EF%BC%9A%E3%81%93%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%A7%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%99%E3%81%93%E3%81%A8】


いきなりわけのわからない世界に放り出された『俺』口調の女性ユンゲラーのアサは、不思議のダンジョンと総称される不思議な場所の『化石のジャングル』というダンジョンでキルリアの青年キールと出会う。

救助隊としての仕事でアサを助けに来たというキールはアサが見せた驚異的な強さを目にして、『どうせ行くあてもないのだろう』と探検隊へと引き入れる。
その後、買い物の帰りにちょっとしたトラブルがあったのだが、その際にキールの感情を感じる角の感度が異常に強いことが明かされる。
 そして、今夜キールはアサを自警団の集まりにも連れて行き、そこに引き入れようとしているようだ。

568 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/22(月) 01:06:25 ID:+h1kL+ng0
自警団の集会場は、ギルドの前方にある広場だ。
 そこには、夜食や酒を販売している店があり毎日繁盛しているらしい。ただ、広場の管理者はレイザー所長ではなく、ここに店を出すとなれば相応の金が必要である。
 勝手に店を出せばたとえ健全な商売をしていようと(勝手に出している時点で健全ではないが)、血を見ることになっても文句は言えない。
 広場は月齢に合わせて本数が上下するものの、ところどころにかがり火がたかれていて常に明るいのが特徴だ。
 ギルドの前方にあるということもあって、治安が比較的良いスイクンタウンの中でもスリ以外の犯罪が決して起こらないとさえいわれている。
 誰もお尋ね者を追うスペシャリストの集団が駐在しているギルドの前で犯罪など犯したところで割に合わないということだ。
 その安全性や、広場の和気藹々とした雰囲気。活力が集まるこの土地には笑顔があふれている。明るい感情をサイコパワーの&ruby(みなもと){源に};するキールにとっては天国のような場所なのかもしれない。


「で、具体的に俺たちはどういう活動をすればよいのかな?」
アサは出店で購入したトウモロコシをほおばりながら尋ねる。

「それはねぇ……シリアが説明してくれるのさ。ギルドの時計台が9時半を指したら集会が始まるから……その前に『庶民の味方』を買っておかなきゃ……」
夏というこの季節、地図上ではかなりの高緯度に属するこの町の日照時間はきわめて長い。今は九時二十分だが、それでも夕暮れ時といったところである。

「庶民の味方か……それって正式名称は?」
そう聞いたアサの顔を見て、キールはクスッと笑う。

「フフッ……それが正式名称だよ。トウモロコシを噛んで唾と混ぜて作るんだ。自然とアルコールの濃度が高まってきたら蒸留して濃度を高めるのさ。
 それが、今日の昼にフシギバナの顔面を燃やした『酒豪の味方』なのさ。まぁ……みんな使い分けたりしないでどちらも庶民の味方って言うけどね。
 あれは消毒に火攻めに……いろいろ役に立つでしょ? だから、一本持っていないと落ち着かないのさ」
キールの言葉に、今度はアサが逆に笑った。

「酒は飲まないのにか?」

「痛いところつくねぇ……僕がお酒を飲んでも半径1km以内に僕一人なら大丈夫だけど、複数の人間がいると……他人の感情の影響を受けて、さらに自制心も利かずに暴走することがあるから。
 ちょうど駄々をこねる子供が一人で十人相手にできるようになった感じかな?」

「そんな状態いくらなんでも恐ろし過ぎるだろ……絶対飲むなよ?」

「そのつもり。僕って暴走すると『恐怖なんて感じているんじゃないのさ!』の一点張りで、目についた奴から襲いかかっちゃうものなのさ。
 ほんと、所長があの場にいなければどうなっていたことか……」

「キール君はずいぶんな問題児だな……」

「いいのさ、それが僕。そのぶん他のところで役立てばいいでしょ?」

「違いないな。ダンジョン内で俺を助けてくれたりとか」そんなとりとめのない会話をしながら広場の草地に腰かけていた二人だが、やがて時計の針が九時二十七分をさすと、集会の目印である噴水の元へと向かっていった。

569 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/22(月) 01:10:14 ID:+h1kL+ng0
噴水の周りには首にスカーフを巻いた数人の団員らしき者と、噴水の淵に上ってお座りの体制でたたずむ美しいグラエナが見える。
 遠く離れているせいか、匂いでは雄か雌化の判別が出来ない。もっとも簡単に性別の判断が効く、頼りの生殖器も、
 グラエナはクリトリスが他のポケモンと比べて大きく、雄か雌かの判別がつきづらい。要は、中性的な見た目なのだ。

「シリアってば……相変わらず偉そうにしちゃって。」

「あのグラエナか?」
キールはアサの方をちらっと見てうなずく。その首にいつの間にか取り出したスカーフを捲いている。

「うん、僕の妹なんだ。もちろん血は繋がっていないけどね。自警団を設立したのは彼女だし、はじめは雌が指揮を取るのは気に食わない雄も多かったけど、
グラエナって雌の方が強いし狩りの主役でしょ? 圧倒的に強いから、だれも逆らえなくなっちゃったのさ。僕を除いて……今ではもうみんながいいなりなのさ」

――どっちが犯罪者なんだか……
かなり前からこちらを見ていたシリアとやらは、こちらがある程度近付いてきたのを確認すると噴水から降り立ち、上半身を振り上げながら走るような個性的な足取りでふわりふわりとアサたちの目の前へとやってくる。

「キール。今日も来てくれるとは助かるのさ。あなたがいれば1km先の助けも感じ取れるものね。相も変わらずこの広場がお好きなようでなによりさ。で、その子はなによ、新しい団員かしら?」

「いや、強引に連れてきただけ」

「そういうこと……」
キールの言葉に相槌を打ち、入るかどうかは決めていないことを強調する。もし、自分に合いそうにない集団でそれに強制的に入れられ得しまったらたまったものではないだろう。

「ふ〜ん……」
おもむろににおいをかぎ始めるシリア。足から始まり、股間、尻尾、手、後ろ脚で立ちあがって口のまわりの匂いも嗅がれる。口調から察するに女性とわかっていたが、その時アサは間近で嗅いだ匂いでようやくシリアが女性であることを確信した

「匂いは悪くないのさ……いい暮らしをしている証拠かしら? まだ団員になるかは決めかねているようだけどまぁいいわ。
みんな集まっているみたいだし、自己紹介して」

「名前は……アサ。種族はユンゲラーで性別は雌。っと……まだ入るかどうかは決めかねているが、よろしく」
その自己紹介の後の反応は様々なもので……

「ケーシィ系統の女……? 珍しいねぇ。俺はガモス。種族は見ての通りモルフォンよ。ま、平和を愛する者同士仲良くやりましょうや」
モルフォンの男性がにこやかに話しかける。

――ん、この人はいい感じ

「女はいるのは嬉しいけど……さすがにユンゲラーじゃぁなぁ……」
――これがオオスバメの男性の台詞。うるせぇよ……

「この団、当然ながら女は少ないんだ。シリア団長とジュリアン姉さんとリムル姉さんぐらいしかいないから、男のアタックに気をつけろよ」
にこやかどころか、もともとそういう顔の種族だというのも手伝ってニヤニヤしながらキマワリの男性がアドバイスをする。

最後尾、つまりアサ達の目の前にいたのはこんなところ。ここから先は離れたところから話しかけてくる者たちである。

570 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/22(月) 01:11:14 ID:+h1kL+ng0
「よう、アサ様って言うのかい。これからよろしくってやつだな」
ずいぶんと美形なミミロップの男性が変わった口調で語りかけてくる。隣にいるギャロップは……女、ということはあの方がリムル?

「あら。気が付いたようね? 何を隠そう、私がこの自警団の数少ない女性隊員の一人、リムルよ。
普段はこっちのフリックと一緒に探検隊やってるの。同じ女性としてよろしくね」
首をさげてお辞儀をするリムル。結構美しい方じゃないか。

「はいはい、皆さんいいかしら? 団長の私がまだ自己紹介してないのさ」
アサの目の前に座っていたシリアがアサの方へ振り返って微笑みかける。

「私の名前はシリア。見ての通りグラエナの雌よ。この自警団『クラン』の団長やってるわ。あなたみたいな女性が入ってくれるとね……私はそこいらの下心丸出しな男よりもよっぽど嬉しく感じるのさ。
 群れを統率できるような強〜い女っていうのは、グラエナでは常識だけど他はビークインとかアリアドスくらいでしょ? だから、女の強さってやつを見せつけてくれるあなたのような存在……期待しているからぜひ入って頂戴」
シリアは前足で立ちあがってアサの肩を叩くと、みんなの方へくるりと向きなおった。

「みんな、そういうわけよ。歓迎パーティはやらないけど、代わりに団員の勇敢さ、かっこよさ、優しさを存分に見せてやるわよみんな!」

「おぉ〜〜!!」
三十数人の団員全員が咆哮した。二足歩行で手が自由なものは右手を天にかざしている。
この集団、頼もしいように見えるが、この数で街を守るとなるととても頼りがいのない印象を受ける。

――まぁ、しょうがない。いないよりはましと割り切るよりないだろうね。

「で、唐突に連れてこられたわけで、いつも何やっているかも今日何やるかもわからないんだけど……」

「私たちの仕事は基本的に……犯罪に遭遇したら駆けつけて、撃退、緊縛、放置が仕事なのさ」

「放置って……」

「さらしものにするってこと。その状態で逆に物を盗まれようと、女性だったら強姦されようと知ったこっちゃないのさ。つまりは犯罪は割に合わないって、思い知らせてやるの。
ただし、それ以上のことしちゃダメよ。あくまで私たちは懲らしめるための集団さ。罰と称して暴力をふるう集団じゃないからね」

――言っていることは確かに筋が通っている……様に頭では感じるのだが、心が通っていないと訴えるのは気のせいだろうか?

「今日は……キールと、キールのパートナーのエリンギ君と行ってもらえるかしら?」

「よろしく、アサさん」
エリンギという名前らしいキノガッサが手を振ってアサの方へアピールする。

「二人のナイトに守られるなんて思っていないで、十分に活躍しなさいよ。いいわね?」

「は、はい……」

「返事は元気よく! 貴方も叫んでみなさい」

「……おぉ〜〜!!」
アサは一人で叫ぶことをなんとなく気恥ずかしく感じたが、大声を出してみるとなんだかすっきりした気分になる。
――ああ、なんだか仲間って感じに……なってどうするんだ俺……まだ、入るって決めたわけじゃ……

「恥ずかしがったり、満足したり、冷静に思い直したり……忙しいことさ。シリアも、そんなに露骨に誘っちゃったら、せっかく釣れた女性団員に逃げられちゃうよ?」
くるくると変わるアサの感情に、キールが面白がってからかう。

「キール……自警団団長の時の私には団長と必ずつけること……。これは決まりって前にも行ったのさ。あなたはどうして守れないのかしら?」

「シリア団長……兄妹水入らずの時は兄さんと必ずつけること……それを守ってくれるなら仰せのとおりに、シ・リ・ア♪」
――キールはからかうのがお好きなようで。

「もう、しょうのない奴なのさ。まぁ、いいのさ。全今日も気張っていくわよ。それでは、全員解散!」

「おぉ〜〜!!」
アサも一緒になって咆哮をあげる。もちろんのこと右手を天にかざすのも忘れずに。


571 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/22(月) 01:14:00 ID:+h1kL+ng0
「で、いつパトロールは終わりになるんだ?」

「ああ、そういえば言ってなかったね。基本的にいつでもいいよ。ボランティアでやっているわけだから。とはいえ、我々は誇り高き自警団クランの一員。
危険なところへ行って、一通りまわって一周するくらいの気概がなきゃね」

「まぁ、僕は1km先の感情だって感知することが出来るから、大抵一周することもなく中断されちゃうんだけど……」

「そう、こいつが厄病神なんだよ。こいつと一緒にいるとアブソルが大挙して押しかけてくるよりも恐ろしいんだよ。
 気づいた時には突然森の&ruby(やぶ){藪};を抜けて行ってよぉ。それくらいはおれも付いていけるんだがよ、しまいには水面を浮かびながら向かって行ったり。
 俺も水の上走れるのは8歩までだからちょっとした水路ならともかく幅が広い川は沈むのよ……それで泳いで追い付いた時には悪人さんがキールに縛られていると……俺の見せ場が全くない」

「ふふん、見せ場よりも平和が大事さ! そうでしょ?」
その光景を想像して、アサは思わず笑いをこぼす。

「その通りよ……。まぁなんにせよアサ……キールは意外と自分勝手なところがあるけど、うまく付き合おうな。もちろん、俺ともうまく付き合おうな?」
エリンギが握手を求める。アサはそれに間違えて答えてしまった。何の考えもなく握手を返したアサをみて、エリンギはニヤリと笑う。

「あれ、自警団に入ってくれるの? う〜れし〜いな〜♪」

「あ……しまった。 俺はまだ入るって決めていないのにまるで入るかのような……」
ようやく持ってだまされたことに気がつくアサ。

「足元と救われちゃあ駄目だよアサ。今回は相手が善人だからいいけど、油断しているとお金失っちゃうのさ」
そんなアサは、キールの有難いアドバイスを受けた。

「肝に銘じておきます」

「俺が善人でよかったなぁおい、アサちゃん? 気をつけろよ、悪人ってのは多いんだから」


「それでなぁ……俺のその子ってば尻尾にじゃれついてきちゃって、胞子の効果で麻痺しちゃったんだよ。いやぁ……毒だったら俺は殺されてたかもな。
で、母親と思われるエネコロロに発見された時は、迷子を助けてやったつもりなんにいろいろ質問攻めにされちまったなぁ。
 誘拐するんならもっと早々に立ち去るってのに」

「へぇ、そんなこともやったのかよ? エリンギって親切君だなぁ」

「別に……暇だからあてもなく公園ぶらついていただけだし、子どもは好きだから……かまいやしねぇって」

「でもさぁ、報われないって正直さびしい気分だよねぇ。エリンギってば不幸さ」
キールはそう言うが、エリンギは高らかに笑っている。

「はっはっは。そんなこたぁないさ、エネコにはお礼言われたし。最後には母親だってわかってくれた……俺はそういうふうに感謝されるのが好きなんだよ。
じゃなきゃ自警団なんて出来ないからな。キールにゃ劣るが救助隊だって俺の趣味の延長戦みたいなものでな」

「趣味で救助隊って……キールもだったよな? 救助隊ってな趣味じゃないと出来ないのか?」

「いや、客によるかな。高い報酬払ってくれるやつだけ助けたいと思うのは当然なわけで……あ、ごめん。
あっちに強烈な悦楽の感情と恐怖や嫌悪感の感情が感じられるのさ……ついてきて」
キールがあっち(どこだ?)でたった今起こったと思われる事件を察知する。急に真剣な面持ちとなり、高速で走りだした。

572 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/22(月) 01:19:14 ID:+h1kL+ng0
「あ、負の感情が消えた……気絶させられたか殺されたか……この感じはどちらかというと気絶優勢……急がないと弄ばれて玩具にされる……」

「おい、キール。どういうことだよ?」
アサたちは背の高い草むらの上を念力で低空飛行しながらキールについていく。エリンギはピョンピョンと飛び上がりながらの変わった走りで付いてくる。

「それは今感じている状態から推測するしかない。忍び寄って状況を確認したら……一気につぶすよ」
結構な速度のはずなのだが、エリンギはユンゲラーに比べ素早さの劣るキノガッサのはずだがちゃんとついてきている。
その前にキールが進む速度は速すぎである。風を切る音が会話の障害になるのは正直異常だろう。

「いつもどおりに手はずだな? アサちゃんはじっくり見ていろよ」
新入りがけがをすることのないように気遣っているのだろう。優しい発言だ。

「いいや、鳥が出たら俺も助けさせてもらうぜ。団長にも言われたからな。『二人のナイトに守られるなんて思っていないで、十分に活躍しなさいよ』って。
それにハイと答えた以上、責任は果たすぜ」

「おや、やる気十分だねぇ。やっぱり自警団に入団してくれるのかい?」
エリンギの戦いを前にしてのこの軽口。彼が戦いなれている証拠だろう。キールは……事件にかかわる者たちの感情が感じられるせいか、その端正で可愛らしい顔をどんどん歪めていく。

「明るい感情……どす黒い悦楽・愉楽そこから発生された恐怖……嫌だな。
 こんなにも明るい感情……好き勝手に女性を嬲る男の感情……どす黒くって、不毛でそれでいて汚い。
 何人もが寄ってたかってこんな……」

「どうやら、集団で強姦でもしてるってことみたいだな。アサ……お前女だろ? 大丈夫なのか」

「わからないな……俺はあんまり女って自覚がないし。ただ、キールが……キール見ているとわかる。決して良くない状況だってことが」
キールはどす黒くいとは言え、曲がりなりにも明るい感情であるモノに口元がニヤリとゆがんでしまうのを必死で押さえている。
今、他者の明るい感情を感知して角から流れ出る感覚を決して快感ではないと拒むように口元を隠している。

 キールは他者の不幸に幸福を感じたくないのだろう。気絶していると思われる女性のことを思えば、素直に笑っていられないと思うのも当然のことだ。

「僕は……だ、だいじ…じょうぶ……もうすぐだよ。息、整えて」

――目の焦点が合っていない……。生まれつきキルリアとして他人の感情を察知する角の感度が高いとは言っていたが、それがこうまでなるのだろうか?

キールについて連れてこられた先はいかにも人がいなそうな茂みであった。そこで、気絶したラグラージの女性が引きずられるように連れられている。
連れているのは眠らせた張本人と思われるキノガッサにシザリガーにニドキング

「かぁ〜〜……同じキノガッサとして恥ずかしいねぇ。奴らラグラージを目覚めさせて、わざわざ抵抗させてから嬲るつもりのようだぜ? 趣味の悪いことよのぉ。
だが、今回ばっかりは、まだ行為に入る前ってことでプラスに働いたな?」
エリンギはキールのいた方を見やるが、そこにキールの姿はない。

「もう、行っちゃってるね」
アサがため息混じりにそういった時には、キールはテレポートからのタイムラグをなくして攻撃するキルリア特有の技、『テレポートブレイク』で早速キノガッサを攻撃している。

「じゃあ、団長との約束を果たしますかね? 第一に……同じ女として許せんし」
銅のスプーンをペロリとなめて、アサは三人に囲まれたキールの元へと急いだ。

――――
今日はここで終わりです。
あ、アサにスカーフ渡すのを忘れていた……

573 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/22(月) 17:10:24 ID:yib2sgq60
>>542-545
以前の流れからBエンドかと思いきや、ここで新たな展開に。
続きにwktkです!
>>552-563
僕はポケモンレンジャー未プレイなのでディスク等の設定については分かりかねますが、ダイチの携帯着信音、エスペシャリーの行動などの描写に笑わせて頂きましたwww
連投お疲れさまです。
>>565
以前よりもライトとナギの仲が良くなっているような……
二匹の関係の発展に期待ですね。

574 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/09/23(火) 22:32:53 ID:L8VbJQ7Q0
まだ時間あるしコーヒーでも作って飲もうかな。
「ごちそうさま」
ちょうどナギも食べ終わったみたいだ。
「食後のコーヒーいる?」
「うん」
カップ確かもう一つあったはずだ・・・
前割ったときに二つ買ったはずだから・・・あ、あったあった
「・・・ねぇ、ライト」
「何?」
そういって振り向いたらなんだかナギが暗い表情をしていた。
「ど、どうしたの?さっきのことまだ気にしてるんだったらいいよ。気にしてないんだし。」
「そうじゃないの。今日早く来たの早く話したかったからじゃないの・・・いや、早く話したかったのは話したかったんだけど・・・」
「?よく分からないけど・・・」
「実は夢でね、ライトが倒れる夢見て・・・それで不安になって・・・」
「・・・!」
どういうことだろう。
僕とナギが同じ夢を見るなんて。
正夢になるとでもいうのか?まさか・・・
「・・・ねぇ、ライト。何か悪い病気とか持ってないよね…?」
そんなのあるはずがない。
今まで健康だったしこの間の検査でも何にも異常はなかったし。
「そんなのないよ。だから心配しないで、ね?」
「らいとぉ・・・」
そういってナギが抱きついてきて泣いた。
・・・同じ夢見たなんて言わない方がいいだろう。
あくまでもあれは夢だ。現実で起こるわけがない。
言ってもただナギに不安を与えるだけなんだし。
ただ僕のことをこんなにも心配してくれる人がいるなんて思っていなかった。
「さ、もう泣かないで。顔洗って学校にいこ?」
「う、うん」
そうやっているうちにちょうどいい時間になっていた。
学校に行く途中いろんな話をするのが僕らの日課だ。
テレビ番組とか音楽とか今日のキヅナの第一声は何かとか・・・
そんな話をしていると学校にあっという間についてしまう。
校門に入ろうと思ったその時、何かの視線を感じ後ろを振り向いた。
が、誰もいない。あるのは木と電柱だけ。
気のせい・・・かな?
「ライト、どうしたの?」
「ん・・・いや、何でもないよ」
そういって学校に入って行った。


前の続編です
最後の部分でかなり苦戦して色々試したのですがうまくいかずカットすることになりました・・・;
以前参考にさせてもらっていた小説が消えてしまっていてちょっと悲しいですね・・・
いつか復活することを願っています

麒麟児さん
以前の話から1ヶ月ほど進んでいる設定になっているので親しくなっています
そういう言葉をいれていたほうがよかったですかね;

575 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 00:55:02 ID:PAU30f0+0
>>574
コメントなんかでたまに見かけていた方ですね。
頑張ってくだされ、応援しています。

……えと、登場人物なんですが。
ブラッキーのライト君。それで、親しい間柄のナギは……種族、何でしょうか? ちょっと早計かな?

576 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/24(水) 09:15:52 ID:Ge+KDE5A0
>574
二人が同じ夢ですか……これは新たな展開にわくわくさせてもらいます

>572の続きです。
――――
「あ、まて……迂闊に近づくと」
アサに対するエリンギの制止は遅すぎた……

「セエェイィヤァァァ!」
「ぎゃわぁ! 唐突になんだ!?」
キールの気合いの入った掛け声とともに、粗末な民家ならば一発で吹き飛ぶようなサイコキネシスでアサまで御一緒に吹っ飛ばされる。
 アサは空中で地面や木々に念力をかけて静止出来たが、もしもアサがエスパータイプでなければ、結構なダメージだっただろう。
 それでもというか、やはりというか、悪タイプ持ちのシザリガーは無事だった。しかし、圧倒的なキールの力を前に、その顔は恐怖で歪んでいる。

――ということは……

「恐怖なんて感じているんじゃないのさ……不快だよ」
――先ほどまで周囲を覆っていた明るい感情が消え去って、普段のキールに戻って……くれれば楽なのだが。やはりこの台詞の一点張りかぁ……
   つくづく暗い感情がお嫌いのようで……

「うざったいのさ」
キールは地面を&ruby(えぐ){抉};って地面ごとシザリガーを引き寄せると、そのままエリンギの方へと放る。

「な、え?」
シザリガーが予想外の展開に戸惑っているうちに、エリンギが気合いをこめたパンチで一蹴し、シザリガーは倒れた。
 結局アサは巻き添えの喰らい損である。

――俺の存在価値って……なかったんじゃ?

 地面に伏せたシザリガーはうめき声すら上げることはない。キールは悲しげな表情でそれを見下ろすと、荷物に入れておいたロープで一人を縛り始める。
 エリンギとアサも続いて悪人たちを縛り上げる。
――おれの存在価値これだけかぁ……グスンッ。
  それにしてもこのように人通りの少ないところでは、助けがいつになるか分からないし、そもそも助けてもらえるかどうかすら不明だ。
  これが罪に対する罰だとしたら、結構なものではなかろうか? 

「さ、ラグラージのお姉さんをを起こしたら行こう……今日は疲れちゃったしぃ♪」
キールは手を頭上にかざしてハイタッチを求めてきた。

パシンッと甲高い音が耳に心地よく、少し痺れた手に喜びの余韻が込められる。キールはエリンギともハイタッチをしたので、今度はアサに対してハイタッチを求めてくる。
 アサはハイタッチをするふりをして……当たる直前にエリンギの手を避けた。

「唐突で悪いが……まだ自警団に入るって決めてないからハイタッチはやーめた」
ハイタッチを交わされたエリンギは不満そうに頬を膨らませる。

「おめ……わかったよ。『おや、自警団に入るのかい?』って言わないからハイタッチしてくれよ」
今までのお返しとばかりに不完全燃焼な気分にさせたアサは『してやったり』といった表情でエリンギを見る。

「しょうがない……ハイタッチしてやるか」
もう一度パシンッという音を響かせて、周囲はようやく静かになる。

577 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/24(水) 09:18:23 ID:Ge+KDE5A0
ハイタッチからしばらく間をおいて、アサは二人の方を見ると話を始める。

「なぁキール、エリンギ。唐突だけど俺……自警団『クラン』に入ることにするわ。これからよろしくな♪」

「おい、結局入るのかよ! だったらさっきハイタッチしてくれたってよかったじゃねぇのよ?」

「さて、何のことやら? もう忘れたね」

「クスッ……結局はアサもエリンギをイジりたいだけでじゃないの。『いじりたい』仲間だね。同盟組もうよ」
先ほどまでの暴走気味な彼の表情が嘘だったかのように、キールの表情はいつものかわいらしい表情に戻っていた。

「冗談じゃない、いじるのは一人ずつにしてくれ!」


悪人たちを縛り付けた後、女性が目覚めるまで待っていた3人の前で、嬲られそうになったラグラージの女性は目を開けてエリンギを見る。
「あ、起きた……」

「ひ……や、やめて」
ラグラージの女性が目を開けると、自分の縛めが解かれているのを確認するなりエリンギを攻撃し、お礼も言わずにとっとと逃げてしまう。
 悪人たちの一人と同じキノガッサであるエリンギだけを見て攻撃して逃げるあたり、彼は本当に報われない。

「イタタタタ……恩をあだで返して逃げちまったよ。はぁ〜あ、追うわけにもいかんし、つくづく俺って報われないなぁ……」
ため息混じりにエリンギが言う。


「ま、何よりも大事なのはそこじゃないさ……そうでしょ? それに君……口ではそう言っていても本当は……」
「いいじゃ……」
アサが励まそうとするより、キールの口が早かった

「うるせぇよ。感情の覗き魔が」
その言葉にエリンギが返答してしまうから、アサは完全に励ますタイミングを見失ってしまった。

「全く、今日はキールの言うとおりに疲れた。今日はこれで解散しようぜ?」

「そうねぇ……今日はいいこと一回しちゃったことだし」
キールはアサの方に目配せをした。

「じゃあ、俺はキールと帰るから……」
連鎖するようにアサはエリンギを見る

「ああ、じゃあな」
手を一度だけ振って、ピョンピョンと跳ねながら帰路につくエリンギを見送り、アサ達も同じく帰路を急ぐのであった。

578 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/09/24(水) 21:30:45 ID:bQp/yaGw0
教室につきドアを開ける。
「二人ともおはよう!今日も二人仲良く登校おつかれさん!今日もお姫さまだっこしてきたn・・・ふぐぅ!」
そんなものすごい勢いで挨拶してきたやつをナギが叩く。
それもまたいつもの日課。
この勢いで挨拶してくるのはサンダースのキヅナ。
毎日本当に元気なやつ。
「キヅナくん?いつもライトにそういって楽しいのかな?」
毎度同じみハリセンをちらつかせてニコニコ笑うナギ。
このときのナギは中々怖い。
というかこのハリセン一体どこから・・・?
「じょ、ジョーダンだって冗談・・・」
「あら、二人ともおはようございます。」
シャワーズがあいさつをしてきた。
そうそう、言い忘れてたけど最近また友達増えたんだ。
このシャワーズがその一人で名前はナイルっていってなんとキヅナの彼女。
初めて聞いた時ものすごく驚いたな・・・
「あ、ナイル。おはよう!」
「キヅナ、あまりライトくんにいやがらせしちゃだめだよ?」
「いやいやナイル、これはいやがらせじゃないんだよ。
スキンシップだって!わかるだろ?」
「わかりません」
「わかるわけないじゃない」
ナギとナイルが同時に言う。
「な、何だよ二人して〜。いじめか!いじめなのか!?
・・・ライトくんならわかってくれるよね〜。ね?」
「ぼ、僕に振らないでよ・・・」
いきなり僕に振られても・・・
まぁ別に嫌じゃないけど。
「ほら、ライトが困ってるでしょ!」
「わ、わかったよ!」
「あの、そろそろ朝礼の始まる時間ですよ。」
ナイルの言葉でみんな席にもどっていく。
僕も席に着かなきゃ・・・
席に行こうと思ったら何かにひっぱられた。
後ろを向くとそこにキヅナがいた。
「どうしたの?もうすぐ朝礼があるけど・・・」
「いやちょっとな・・・今日放課後暇か?」
「特に何もないけど?」
「じゃあ今日一緒に帰らないか?」
「いいよ、ナギも一緒でいいよね?」
「いや、お前と二人で帰りたいんだ。ナギ抜きで。」
ナギ抜きで?どういうことだろ・・・
いつもみたいにニコニコせずに真剣な顔付きで言っているところからすると
重要な話なのかな?
「あ、うん わかった。」
「ナギにはちょっと用事あるからといえば大丈夫だから。じゃあまたあとでな!」
そういってキヅナは席に着いた。
そのあとすぐに朝礼がはじまり授業が始まった。
僕は放課後のことばかり考えていて授業に集中できなかった。


ここで新キャラの登場
やっと4匹目です
一気に増えすぎているとおかしいと思ってとりあえず1匹だけ(
小説を書き始めて3ヶ月経ちますがまだまだ不慣れでうまく書けません;
ここまで難しいとは・・・


>>575
はい 時々コメント残しているものです
ありがとうございます 頑張ります
ナギはエーフィです
名前しか紹介してなかったようで・・・こちらのミスです すみません;


期待はずれにならないようにがんばっていきます。

579 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/27(土) 00:32:53 ID:SzNt1kRg0
執筆スピードが格段に落ちてるような…

二章 the story of breaker

【破壊者】龍族の抑制など、主に戦闘を専門とする勢力。戦闘力によって、「覇龍」「覇世」「覇女」に分けられる。

一,未熟な牙

 砂塵が舞い、視界を狭める。焼け付く程の熱風が飲み込んでゆく。昼の砂漠は過酷そのものだ。慣れない地での戦闘で、不利な状況に立たされていた。
 まいったな……こいつらを相手している場合じゃないのに。少しの時間も無駄にできないのに……、とか考えてみても、相手に退く様子は勿論無いわけで。
 ナックラーの群れ、十匹程が辺りを囲んでいる。逃げようにも……相手の包囲陣からはこの"逃げ足"でも抜けられそうにない。他の仲間の姿も見つからない。……まあその点は、いざとなれば鼻が利くんだけど。
 ナックラー、将来的に龍(ドラゴン)になる龍族。しかも、まだ未進化ではあるがその攻撃力は脅威……。
 手抜いて戦うことはできなさそうだ。四肢に力を込める。踏みしめた砂が脆く崩れめり込んだ。砂嵐が、灼熱が、徐々に体力を奪ってゆく。でも、そんなものに怯むわけにはいかない。

580 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/27(土) 01:01:35 ID:SzNt1kRg0
「一ノ牙:噛み付くッ!!」

 強く砂を蹴って、舞う砂塵の中へ飛び込んだ。目には敵の姿を映して。牙には破壊の使命を込めて−−


−−外を覗くと夜空が見える。星が散りばめられた藍色の空。それはちょうど、この砂漠によく似ている。数多の星が砂粒のように見えた。
 昼間とはうってかわって、砂漠の夜は予想以上に冷える。冷気が、被っている毛布を、隙間を通して入ってくる。しかも、救護用テントの中だから尚更寒い。呼吸の度に白い靄(もや)が現れ、すぐに消えた。
 ふと、入り口のカーテンが開いた。
「フェン、此処に来るの何回目?」
 彼はこちらを見て、あぁ、またかと溜め息をついた。ケール:チリーン、今回救護を担当することになった創造者。
「三回目です」
「三回? 遠征が始まって毎日じゃん……」
「それでも今日は本当にヤバかったんですって。十相手にヒトリッスよ?」
 念力で浮かせた紙に何かを記している。地面からじゃなにも見えないが。
「お前のことだ、どうせまた突撃し過ぎたんだろ?」
「そう言われましても……実技課題が終わりそうにないから急がないと……」
「実技課題? えーっと、群れのリーダーの撃破だっけ?」

581 :cotton ◆OEz9S/PbFY :2008/09/27(土) 01:23:14 ID:SzNt1kRg0
「はい。今回は主にビブラーバ辺りがターゲットッスね」
 最近は龍族の侵攻が盛んになってきた。それに対抗して、今回のような課題を設定したのだろう。受験者は六匹。全員受かる可能性もあれば、その逆も有り得る。
 群れのリーダーも当然龍族だ。苦戦する事は目にみえている。だから、体力の残っている序盤のうちに決着をつけたい。……のはやまやまなのだが、
「……なんで一匹も見つけれないんスかね?」
「探し方が悪いだけじゃねぇの? ま、何にしてもだ。ポチエナ種は元々戦いが苦手な種族なんだから。そんな無茶な戦い方じゃ、上に行けても通じねぇぞ?」
「分かってますよぅ……」
 期限はあと四日。それまでにはクリアしないと。此処に来た意味がない。破壊者になった意味がない。……焦っていても仕方無いのは分かっているのに。
 白い溜め息は、舞い広がりすぐに消えた。

582 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:24:37 ID:L28C3x0I0
>578
ハリセン常備……頭悪いだろナギwww
>580〜581
新しいお話期待しています。

前回↓
>>532

前回のあらすじ:記憶を失ったまま遭難していたエレオスという名のダークライはクリスタルという名のラティアスに拾われたのであった。

――――


不思議のダンジョン、『空の裂け目』の最上階の一室……巨大な白い体躯を持つ『神』と呼ばれるポケモン、パルキアが自分の住処に帰還する。
 暫しの休息のお共に、クリスから受け取った街の近況報告を手に取った。

『ソリッドさんお久しぶりじゃ。街の近況を報告しに来ましたんじゃ。きょうび留守にすることが多いけど何かあったのじゃろぉか?
 報告をくださると嬉しぃんじゃ。
 街の方じゃぁ、日増しに強くなる暑さのせいで日射病になる人がちらほら見かけられますが順風満帆じゃ。
 農作物の方も、今年は冷夏も日照りものぉて、虫がいっぺんだけ大量発生したのを除いて問題なぁよ。
 火をたいたり嫌いな臭いの植物と一緒に植えることであらかた食害を防ぐことができたけぇ、今年は飢餓の心配もなさそうじゃ。
 ソリッドさんも暑さに負けず、お体の方に気をつけるようお願いするんじゃ。 

 クリス=ラティアスより』

「ふん……俺は空間のゆがみを修復して回っているというのに、ラティスガーデンの者は暢気(のんき)なものだ。
 だが、何もなくて安心だな……奴らには空間を修復するだとか、そんな重荷など無い方がいい……」
ソリッドという名のパルキアは、穏やかな表情を浮かべて呟くと、手紙の下の方に書かれていた続きを読む。

『PS.わしゃぁ空の裂け目のダンジョン内で運命的な出会いをしちゃいましたんじゃ。その人すごくかっこいいんじゃ。
 それこそ街の男の誰を出しても比較にならんくらい。もしかすっとソリッドさんよりカッコいいかも♪
 その人の見た目は、ドレスみとぉな……』
 
「なんだ……のろけ話か。しかも長すぎる……。悪いが、今のおれはのろけ話に付き合っている暇はない。さて……」
ソリッドはのろけ話しか書いていない"下半分"を見て、その手紙を放る。
 自身は巨大な白い紙の下に黒い紙を合わせたものを用意して、上の方に張り付けられた白い紙を切り刻み、切り絵の要領で文字を形作る。

『今の用が片付くまでの時間は2ヶ月半は必要だろう。その間、俺はしばらく留守にすることが多くなるが心配はするな。
 あと、のろけ話はいらないから、今度は収穫祭の様子でも書いてくれ』」
ソリッドはクリス宛ての返信を書き終えると、その手紙に一粒の真珠を添える。

「しかし……あの黒いのはどこにいるのやら……」
一度だけ独り言をつぶやくと、ソリッドはひと時の眠りについた。
――――

最初こそ、その黒い見た目を気味悪がられていたエレオスだが、やがて街のものにも受け入れられる。
2カ月たったいまとなってはハンターにエレオスありと呼ばれるほどの信頼を勝ち得ている。

「『収穫祭の様子はきかせてもらった。俺にも野菜を送ってくれたようだが、もう少し保存のきく物を送ってほしかったものだな』だそうだ。
 そういえばずっと留守だな? お前らの主とやらは」

「でも、近況はちゃんと読んどるし、返信もされとるけぇ。心配はないじゃろ?」

「ま、確かに言う通りなんじゃけど、こうも顔見とらんと心配じゃぁ」
と、アズレウスが締める。

583 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:28:14 ID:L28C3x0I0
今日はエレオスたちのハンターとしての仕事がオフである日。クリス達の主だというものからの手紙の話題で語り合いながらたどり着いただ街の広い空き地では、アズレウスとエレオスの模擬戦が行われるのだ。

この街でのハンターとしてのエレオスの強さは言わずもがな。街の中でもダンジョンでも、その勝率は10割を誇っている。しかも、その勝利の内容はほとんどが無傷での勝利な上に、相手に無駄な傷を負わせないことでも知れわたっている。

「行くぞ……アズレウス」

「望むところじゃ」
アズレウスは戦いが始まると同時に砂嵐を引き起こして、体に保護色を纏い姿を消す。そうして神秘の守りも合わせて安全対策を行った後、攻撃や移動を行う大事な部分だけでも砂嵐から守るように、翼を鋼のように硬質化させ、一気に勝負をかける。

エレオスは天に手をかざす。そこにはプクリンが戦闘時に膨らむように、だが比べ物にならない速さで黒い球体が広がり、大量の黒い弾を飛ばす。

エレオス曰く、スリープホールという技らしいが、神秘の守りに守られている上に、保護色のせいで姿を捉える事もまともに出来ないため、多くの当たりを望めない。
そんな状況である以上、アズレウスにはスリープホールは通じないようだ。

エレオスの攻撃かいくぐりながらアズレウスの攻撃がエレオスに当たる。鈍い音はするが出血させない。返り血で保護色を見破られては意味が無いからだ。
 砂嵐のせいで命中率は予想以上に悪い。スリープホールが無駄と分かると、エレオスは腕の構えを変える。
 胸の前に手を置いて生卵を包み込むように手のひらを脱力して両手を合わせる。

エレオスは風を切る音でアズレウスが近づいていることを感じると、手の間の空間から虚無のような『黒』を広げる。
地形も遮蔽物も無視して広がるそのエレオスの領域に入り込んだアズレウスは、神秘の守りを突破されて、その精神を眠気で侵される。
神秘の守りのお陰で流眠らされることこそ無かったもののその一瞬、意識は朦朧とし不明瞭な視界も手伝い、勢いよく地面に激突する。

地面への激突で目もすっかり覚め、慌てて退避しようとした時にはもう遅かった。
エレオスに直接頭をつかまれる。エレオス最強の催眠技『永遠の闇』だ。この技の前には『不眠』や『やる気』の特性も、神秘の守りも何ら意味をなさなずに悪夢の世界に引きずり込まれる。

真っ暗な空間の中、何も見えないのに不思議と自分の体だけはくっきりと見える。
 不意に感じた気配に振り返ってみれば、そこには別段変った様子のないエレオスがいる。何をする気かと思ってエレオスをみていれば眉一つ動かさずに語りかける。

584 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:31:06 ID:L28C3x0I0
「まだ続けるか?」
その台詞をきっかけに、アズレウスはエレオスと初めて戦ったときのことを思い出す。
 地面に貼り付けられてゴキゴキ虫やらムカムカ虫やらカマウマ虫など、俗に言う不快害虫が満載された大きな瓶を頭上でひっくり返された……。
 その後どうなったかというと……言うまでもなく虫まみれである。あの時ほど素直に降参しておけばよかったと思ったことは無い。

「はい……」
どうするったって、答えは決まっている……夢とはいえ、あんなものを見せられて、その後を正気で過ごせる自身はアズレウスには無い。
 しかも、エレオス曰くあれで『控えめ』だというのだから、始末が悪い。あのまま降参せずに続けていたらどんな夢を見せられていたのか、アズレウスは想像したくも無い。

ただ分かるのは、初めて彼とあったとき見た『ヤセイ』の者と同様に、胸や首をかきむしって血まみれになる可能性もあるということだ。
 総合的に判断して『降参』の二文字しか浮かんでこないアズレウスの降参を認めたエレオスが両手を天に掲げる。すると、アズレウスがいた黒い世界が分厚いカーテンを取り除いたように一変する。
 目を開けばラティスガーデンの空が見える。どうやら悪夢から醒められたようだ。

「また負けた……」

「たまには実践で使う夢を見せないと、想像力が鈍りそうだな……」
エレオスは恐ろしいことをボソリとつぶやく。『実戦で使う夢』というあたり、エレオスは今回の夢をさらに悪化させたものを見せることも出来るのだろう。
 アズレウスはそんなものは一生勘弁して欲しいと切に願う。

「エレオス、流石じゃけんのぉ。アズレウスより強いやっこはわしとソリッド様以外で初めて見たけんのう。
 やっぱりあんたは最高にカッコエエわ……」
そういってクリスはベタベタとくっついてはエレオスを困らせている。抱きつかれたエレオスはクリスのほうをなるべく見ないようにしながらカリカリと頭を掻く。

「はあ……まだ月はほぼまん丸なんに、負けるじゃのぉんて……わしゃぁなんて情けなん」
自分の実力の無さに少々がっかりして息をつくアズレウスの肩をポンとたたき、エレオスは優しく語り掛ける。

「少しアドバイスをさせてもらおうか?」
エレオスの問いかけに対し、アズレウスは

「おねがいするわぁ」
と答える。エレオスは軽くうなずいて

「あまり神秘の守りを過信しすぎない方がいい。アレは強力な障壁だが、壁である以上崩れるから、一時しのぎに過ぎないし、私なら簡単に破ることが出来る。
そうなる前に重ねて張りなおすか、私の技を避けるかしなければ眠りに誘われるのは当然のこと。
一気に決めようと力みすぎたこともマイナスだ。そのせいで地面に激突したときダメージが大きかったろう?
 当たって砕けろではなく、砕けないように当たることを肝に銘じろ」

「はい……」

「だが、今回から使い出した砂嵐と保護色を合わせるのは見事だ。視力は良い方だと思っていたが、全くといっていいほど姿を捉えられないし、鋼の翼で自分が食らうダメージを最小限にして攻撃するのも良く出来た作戦だ。
 まだまだ荒削り……しかし磨けば光るだろう。きっと、お前はもっと強くなるはずだ」
『強くなる』、という言葉を聞いて少しばかり希望の光がさしたような気になり、アズレウスは笑顔に変わって「ありがとう」とお礼を言う。

幼いころから自分より強い者を見たことが無いようなクリスは二人の戦いを見てさらにエレオスを気に入ってしまう。
その数日後にクリスとエレオスの二人が戦い、エレオスが勝つ(クリスは虫をぶっ掛けようとされた時点で降参した)ことで、
彼女の恋心は収まりが付かないものになっていた。

585 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:34:30 ID:L28C3x0I0
その夜のこと……
「姉さん……わしゃぁいつになりゃぁベッドで眠れるんさ?」

「うふふ、アンタが自腹でベッドを買うまでよ」
――とても(ぶち)美しいといえる姉さんの笑顔も、こういった台詞に合わせて発揮されるとげんなりする。もう、姉さんは完全にエレオスさんのモノじゃ。ついでにゆぅとわしのベッドもエレオスさんのモノじゃ。
実のところ、わしゃぁベッドで眠るんをすでに(はぁ)諦めとったが……そろそろ一人暮らしもまじめに考えておくかぁ……


--------------------------------------------------------------------------------

ベッドが二つ並べられた寝室に白と赤と黒の色、アズレウスが部屋にいたころは隙間が開いていたベッドだが、今は……というよりはエレオスを初めてこの部屋に泊めた日から、
 寝返りをうつだけで隣のベッドへ移動できるように、ベッド同士がくっ付けられている。

日も沈んでしばらく時間が過ぎた。もうそろそろ起きるのか眠りの浅まってきたエレオスの元へ、ふわふわと浮き上がりながらクリスは向かっていく。持ってきた飲み物は床に置く。
ベッドがきしむ音などの雑音は一切立てずに彼の真上まで移動して、息使いで存在がばれないように自分の口にハンカチを当てる。

悪夢を操る力を持っていながら、穏やかにすやすやと眠る寝顔は普段の凛々しい顔とは印象が一味も二味も違う。彼の寝顔は凛々しさとは無縁の顔であっても、
 端正な顔立ちである彼の顔は魅力を失うことは無く、起きている時とは違った美しさがある。

ハンカチを当てたまま手を伸ばして深呼吸を始める。少しずつ彼の呼吸と合わせていく。彼の胸がしぼむことで、息を吐いたことが分かる。

――次に息を吸ったらわしの唇を……
そんなことを考えているうちに徐々にエレオスの胸が呼吸により膨らんできた。

(エイッ)
心の中でそうつぶやきながらハンカチを放り捨てて、彼の唇を首周りの牙飾りで隠されない方向にずらして自分の唇を合わせる。
突然口がふさがれたことで何事かと目をあけたエレオスは驚愕する。お風呂上りで体が火照っていて、白い部分まで少ほのかに赤く染まったクリスの顔が間近に在った。

エレオスは目を大きく見開き、口も大きく開いて顔を横に背けることで突然のキスを振りはらい、腕を使いスカートの中に収納していた足も使ってベッドの端の壁際まで這うようにしてあとずさった。

「ななな、なん、なん、何だ!? いきなり」
いきなりのことに目を白黒させるようにして反応する。その右手はさりげなくキスされた口を拭っていた。

「あら、何よぉ。わしの唇はきしゃないもんじゃないわよ?」

「そう言う問題か? "いきなり"寝ている私に"いきなり"キスを"いきなり"することが問題なのだろう」
あまりの慌てぶりに言葉もめちゃくちゃになり、『いきなり』を連呼しながらエレオスは反論する。この二人、仲は親密になったものの交わることまでは当然まだである。

「ふふ……動揺しちゃってかわいい」
クリスはゆっくりと近寄りスカート部分からたなびく尻尾の様な部分を掴む。

「待て、お前一体何を考えている?」

「ふふ……アンタが居候してからずっと狙っとったんだ……貞操奪っちゃおうかなぁて。いいじゃろ?」

「断る! 夜這いなど女のすることか!?」
エレオスは逃げようとするが、尻尾を捕まれていて逃げられない。

――さて、どうやって眠らそうか……?

586 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:36:36 ID:L28C3x0I0
早速以って眠らせる算段をしているエレオスをよそに、クリスはあやしい笑みを浮かべることを止めて、高らかに笑い始める。

「ふふ……冗談じゃぁよぉ。夜這いだなんて、そがぁなこと乙女にできるわけんじゃろ?」
クリスはエレオスの尻尾をつかんでいた手を離す。

――なんだ……冗談か。

「二人で話す時間がほしかっただけじゃけぇ……それに、わしの気持も伝えたかったんじゃ」
彼女は自在に色を変える羽毛を赤く染めて上気した頬をのぞかせながら照れくさそうにそう言って目をそらす。
 いつも強気な彼女にもこんな一面があるかと思うと少し微笑ましくも思い、先ほど夜這いまがいのキスをしてきた者とはどうしても同一人物に思えない。

「気持ち……とはさっきのキスのことか? 拭って悪かったな……口のまわりについた唾液が痒くて不快だったのだ。
 べつに、お前の唾液ならば汚いなんて思いはしない。ただ、びっくりさせるのは心臓に良くないから……よしてくれ」

「わかったわぁ。さっきはごめん。でもなぁ、わしはあんたが如何しょうもなく好きなんよ。でも、わしゃぁそれを起用に伝える方法を知らんかった。
 だから、あがぁな方法でその気持ちを伝えたんじゃ」
そう言ってクリスはエレオスの隣に座りベッドのふちに寄りかかる。

「全く……お前は人騒がせだな」
エレオスに言われると、クリスは少し顔を赤らめた。

「ちぃと……なごぉなるかもしれんから飲み物はいるけぇ?」
エレオスがこくりとうなずいたのを確認すると、クリスは「よかった……」とつぶやき、ベッドの下に置いてきた飲み物をトレーごとベッドの上に引き寄せる。その中身をコップに注いで一つをエレオスに差し出した。

「酒ではない……か? まあ、私も起きたばかりで酔うわけにはいかんからな。そちらの方が助かる」
受け取った飲み物の匂いを嗅ぐと、いろいろな果実を混ぜ合わせて味を調節したジュースだということがわかる。

「そういうこと。それにわし、酒は苦手じゃけぇ。」

「なるほど、納得だ」

「それじゃぁ、乾杯ってことで」

「あぁ」
二人同時に口に含んだ。甘い果実の中にわずかに隠された苦い果実や酸っぱい果実の香りが何の矛盾もすることなく調和のとれた形で鼻孔を満たし、後に残るさわやかな果実の後味がサッパリと心地よい。
 何より、二人が好きな渋い味が全面に押し出されており、ジュースの調合のセンスが感じられる。

「お前に拾われて……2か月が過ぎたな。いろいろ世話になった……」

「そりゃぁ気にせんでええんよ。わしが好きでやったことじゃけぇ。それに、お礼代わりってわけでもないんじゃが、実は……キスをしたなぁ今回が初めてじゃぁないんじゃ」
それを聞いたエレオスは驚くでもなく、何かに納得した風であった。

「やはりな……最初に出会ったとき薄れた意識の中で唇に温かい感触を覚えた……今思えば……あれはお前が口移しで食料を与えてくれたものだったのだな。
 フッ……ずいぶんと手が早い事だ」
エレオスは下唇に人差し指を当ててしみじみとつぶやいた。

587 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:42:03 ID:L28C3x0I0
「やっぱり、気が付いとったのなぁ。勘がいいたぁ思うとったけどまさかそこまでたぁ思わんかったわぁ。
 今わかったと思うけど、わしは初対面の時から唇奪うような最低の女じゃけぇ。それを聞いてもまだこの家にいてくれるかのぅ?」
と、クリスが言ってそれを聞いたエレオスは笑っていた。黒い顔をわずかばかりに赤に染めながら。

「嫌だったら、それが分かった時点で怒っている。まあ、初対面の時に起こる気力があったならば怒っていたかも知れんが、今となっては……な。
 私は一目惚れなどできる性格ではないが、この二カ月お前のすぐ近くで暮していればわかる。
 お前がたった一人の家族を守るために苦労していたことも、不器用ながら弟を愛していることも……お前は面倒見がよいからな。
 それをさらけ出すのが恥ずかしいのと、そろそろ弟には自立してほしい。だから弟にはあんな風に厳しい態度をとるのだろう?」
エレオスがクリスの心の内を指摘すると。

「ちょっと違うけど。大体正解じゃけぇ……わしも弟から自立できてなかったから、ってゆうんが正解じゃ」
そう言ってクリスは訂正する。

「なるほど、兄弟一緒に暮らしてきたら愛着もわく……ということか。私も、記憶を失う前はそうだったのだろうかな?
 お前ら二人を見ていると、何故か……無性に懐かしい気分になってくる」

「でも、今はさらにもう一つ理由があるんじゃ」

「それはなんだ?」

「あんたと二人きりになるために、弟を追い出そうってな」
エレオスは口に含んだジュースを噴き出しそうになりながら必死で抑え込む。

「アズレウスがお前のことを鬼姉と言いたくなるわけだ。追い出したいなら、少しは引っ越しの斡旋でもしてやれ」

「鬼姉てぇ……アズレウスってそがぁこと言っとんたんか。後でシメるかのぉ?」

「やめておけ」
エレオスがジュースを吹き出しそうになるのを抑えながら言うと、そのあと二人は話題を失って、しばし沈黙を挟む。
 話す話題を見つけようとして顔を見ようとした二人は、不意にお互いの目が合う。
 酒を飲んでいるわけでもないのにどこか心が別の場所にあるような、浮遊感にも似た幸福の光が、互いの目に宿っていた。お互いがお互いの心を温めあう。

「私は……記憶が戻ったらどうなるのだろうな?」

「わしはあんたの記憶が戻るなら、大歓迎じゃけぇ……」

「例えば私が変わってしまってもか? 悪人になっても……もしくは記憶を戻ったらお前を嫌いになってもよいのか? 
 そうなったら私は辛い。想像したくもない」
クリスはしばらく答えられなかった。それでも、なんとか答えを絞り出すことはできたようだ。

「賭ける価値は……あるけぇ。今より良くなるとしても、悪くなるとしても。きっと今までより素晴らしいアンタになると信じて」

「フッ……そうか。なら、私も記憶を取り戻したいな」

588 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:47:21 ID:L28C3x0I0
クリスはそれを聞いて微笑むと、ジュースを一口飲み、コップのすべてを飲み干した。
エレオスは、クリスの容器にそそがれたジュースが空になったのを確認すると、自分の容器にあるジュースの量を確認する。

「飲み干してしまったか?」

「のど乾いとったけぇねぇ」
もう一杯を注ごうと思ったクリスの手をエレオスは止める。

「まぁ、待て……寝ている間にも何回も私に初対面の時と同じ方法で食料を口に含ませてくれたのだろう? たまには私からも……な?」
そう言ってエレオスは自分のコップの中にある少なくなったジュースの残りを口に含んで顔を寄せる。

「ん……」
その予想外の行動に目を見開いて驚くクリアの顔を両手で優しく包み込み、赤い牙のような飾りが邪魔をせぬように首を精いっぱい曲げながらキスをする。
 相も変わらずこういうことに向いていないからだの構造を鬱陶しく思いながら唇同士を合わせて果実と唾液が混ざりあった液体をクリスの口へと送る。
 口の構造の関係ですこしそくめんから漏れた分もふわふわと空中で浮かんで再び口の中にとんぼ返りする。
 まだ、口の周りの羽毛に阻まれたままの水気は手の甲で拭って、手の甲をなめる……飲める分は飲めるだけ飲むつもり……のようだ。

「ふふ……ありがとう。以外と積極的で驚いたわぁ……」

「たまには……私の方が積極的でもよいだろう?」

「ああ、ずっとそうしてほしいと願っていたけんのぉ、わしの願いが一つかなったわぁ」
顔の周りの羽毛を赤く染めて上気したような印象を受ける顔に笑顔が輝いた。不覚にもエレオスはその&ruby(かお){表情};に心奪われる。

「そうか……」
再びの沈黙……だが、クリスは話したい話題がそろそろなくなった。エレオスは……ジュースをコップに注ぎ足しながら話題をまとめている。

「なぁ、私の記憶を……取り戻してみる価値があるとお前は言ったな? もし、それに付き合ってくれるというのならば……
 ここを、&ruby(並行世界){空の裂け目};を出て、外の世界を旅をしてみないか?
 最近お前とふれあって思い出してきたんだ。私には、大切な人がいたということを。それが……エスパータイプだということを……旅に出て、いろいろなものに触れればもっと思い出すかもしれない」
エレオスにとっては軽く言ったつもりの言葉に、クリスの顔は怪訝な表情をしている

「その大切な人ってゆぅなぁ女じゃないじゃろうね?」

「たぶん女だ……だが、母親かもしれないし姉妹かもしれない」

「う〜〜〜……本当じゃろうな?」

「フッ……本当じゃなかったら確かに酷な三角関係になるだろうな。だが、それを差し引いても外の世界にはいろいろな場所がある。
 『破れた世界』がすぐ近くにある影響で、常に夜の帳が下りる森……通称『暗夜の森』。美しい花畑が広がり、見る者を幸福な気分にさせる『幸せ岬』。
 貝類やそれに準ずるポケモンたちの生息が盛んで、渡りをおこなうポケモンたちの中継地点となる干潟……通称『水の都』。
 目が覚めるような発見がたくさんだ」

「外の……世界。ソリッドさんのお膝元を離れても大丈夫なんじゃろうか?」

「問題ないさ。他のポケモンは……パルキアなんぞいなくとも、つつがなく暮らして……ソリッドォ!?」
「ひゃわう!!」

「お膝元とはどういうことだ? なぜそんな恐ろしい所に私はいるのだ?」
『ソリッド』という名前を聞いてそれがパルキアであることを知っていて、さらにそれを"危険"な存在とみなすエレオスに、クリスは盛大に驚いてジュースをぶちまけらる。
 飛び散った液体がベッドのシーツも壁も、自分の体も汚している。

「それがわかりゃぁ記憶喪失に苦しむこたぁないと思うのじゃが。
 というかぁ、ソリッド様は乱暴なところもあるけど決して危険な方じゃぁないけぇ」

「いや、あいつは恐ろしい……私が夢の中で女に化けて騙したことに対する恨み節を最後の決め台詞にボソリと乗せて波導弾を放ってきた……」

「女装して騙した男ってあんただったんか? あんたぁ記憶失う前は何やっとったん?」
沈黙……今度ばかりはエレオスも気まずいことこの上ない。

589 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 20:52:33 ID:L28C3x0I0
「わからない……本当に。いや、出る。とにかく早急(さっきゅう)に旅に出よう」
と、要領を得ない返事が出るのみだった。

「あんたそればっかやなぁ……でも、あんたの過去んことますます興味がわいてきたけぇ、さっきの話、本気で考えてみるわ……」
興奮しているのか、感情に応じてクリスの羽毛は、全身が可愛らしい桃色に色づいている。

「うぐっ……なるべく早めに……頼むぞ」
先ほどのやり取りでやたらと興奮したエレオスの息使いはやたらと荒くなっていたが、ややもするうちにそれは収まる。
呼吸が収まったのを見て、訝しげにクリスは尋ねる。

「なぁ、エレオス……あんたは何にも感じんのか?」

「何をだ? 幸福か? それとも……愛だとでもいうつもりか? それなら、十分感じている気がするが……」

「いや、そういうんじゃなくって……体が熱いとか、疼くとか……果実ジュースの効果で……なぁ?」

「確かに体は温まっているな。これは果実の効果か?」
言われてみれば、胃の部分が熱くなっていると感じたエレオスはそう言ってみるのだが……

「どちらにせよ、体の疼きといわれてもピンとこないのだが……?」

「ああん、もう鈍いのぉ。ジュースにはあんたを積極的にさせる効果があるんよ」
何か聞いてはいけないものを聞いてしまった気がして……

「積極的にさせる効果……とは? 具体的に何を積極的にするというのだ?」
こう聞き返したのだ。

「酸味をつけるために使ったイアの実……性的な興奮を促す効果があってのぉ……今回はそれを使わせてもらったんじゃけぇ」
さっきよりも興奮しているのか、クリスの体の色は目まぐるしく変わっていて、その様子は脈打っているようにすら見える。

「でも……なんだかアンタはぁ何ともないように見えるけぇ……我慢しとるんか?」

「…………私は皆既月食の日以外はそういう気分にならないだけだ」
――こいつを信用した私が馬鹿だった。夜這いまがいの行為は冗談だと言ったから信じることにしたのだが、もし応じなかった場合はこういった手段に出るつもりだったということか。
 今回は私が特殊な生態でよかった

590 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/09/27(土) 21:20:00 ID:L28C3x0I0
「えぇ!? そがぁなんありえんって。わしはわざわざ新月に近い月齢を選んだってゆぅのに、わしをヘビ(ハブネーク)の生殺しにする気か?」

「そうは言われても……私が知ったことではないだろうに? どうしてもそうしたいなら、皆既月食の日でも待ってもらうしかないぞ?
 もしくは……近々皆既月食の起こる場所に旅するとか……」
徐々に効いてきた媚薬の効果で、クリスは動悸や息遣いが荒くなり、目が泳ぎ始めている。
 対面するエレオスは胃の部分がぼうっと熱い以外はいたって普通だ。
――そんなところまで冷静に見ていられるくらい、二人の生態に相違があるということか。相手は知ったことではないと思うが……

「そんなこと言ってもほら……体の方はこんな風に正直じゃないんか?

「いや、まったく以って……正直というのならば平常というのが正直だと思う……」

「あんたぁ雄として間違っとらんか? ほら、『据え膳食わぬは男の恥』ゆうじゃろう?」
クリスはエレオスの肩を掴んで説得を試みる。

「知ったことか! いや、だから……あのな……ハァ。最早何と説明すればいいのか」

「もうええわ! あんたがその気になるまで犯らせてもらうけんのぉ!」
クリスはエレオスにのしかかろうとするが、エレオスは『断る!』の一言とともにクリスの頭を掴んで直接眠りへと導いた。

――はぁ……一瞬でも気を許した私が馬鹿だった。
額に手を当てため息をつくエレオスの横、すやすや寝息を立ててと眠るクリスの顔は憎らしくもかわいらしくもあった。
 ふと、先ほどこぼしたジュースのシミが目についた。

――仕方がない。シーツは取り換えて汚れた体を拭いてやるか。
そう思って居間を抜けようとすると、そこで見かけたアズレウスは睡眠薬でも盛られていたのか、台所付近唾液を流しながら泥のようになりながら床にへたって眠っていた。

――クリスが秘め事を落ち着いて行うために、こういったことをされたのであればつくづく不憫な弟だな。
  ……本当は弟に優しいという前言を撤回しようか?
エレオスはアズレウスを彼が寝るべきソファーまで運び、毛布を掛けてやる。
きちんとアズレウスが眠っているのを確認すると、剥ぎ取ったシーツを脱衣かごに突っ込み、タオルを固く絞る。

ベッドルームへ行き、一通り体をクリスの体を拭き終わると、外で&ruby(たま){偶};の暗い夜を満喫するのも悪くないと散歩に出かける。
 エレオスは外へ出て、夜の闇に解けながら、どこへともなく消えていった。

――今日は27日月……もうすぐ新月か……
空を見上げれば月は三日月形(クレセント)にやせ細っている。もうすぐ夜道を歩くには星を頼りにする必要のある日がやってくる。
ふと、大切な人の顔が浮かんだような気がして、天を仰ぎ見る目を閉じて呟くのだ。

「私の記憶よ……今一度、目覚めてはくれないか?」
エレオスは顔を忘れたエスパータイプの女性に思いをはせた。

すれ違〜いや 回り道〜を あと何回 過ぎたら 二人(ソリッド&エレオス)は触れ合うの〜〜?
ソリッド様とエレオスを壮大なすれ違いをさせてみました。
ポケダンではあまり神様らしいところを見せられなかったパルキアには少しばかり神様らしくふるまわせてみましたが……こんなんでよかったのだろうか?

そして、キス程度の表現ならOKと書いてあるが……ギリギリですねこれ。

591 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 20:07:25 ID:wH8omQvc0
>>582-590
ちwwエレオスww怪奇月食にならないと媚薬が効かないだとww
遅くなりましたが乙です。

592 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/30(火) 16:11:37 ID:VkiVasaY0
>>575
詳細つ>>445

act41 抗う者

「間に合った…みたいでやんすね」
続けてロキの背後からルシオが姿を現す。
「さて、そこのキルリア…ユメルを返して貰おうかな」
「愚者が…この数を相手に抗う事が出来ると思うのか?」
ガノッサが二匹に向かって右手を上げるとその場にいた十数匹のヴァン族達全員がロキを狙って一斉に超能力を放とうとする。
「ふははは! 圧倒的な力の差に屈するがいーー」

この時、ロキは反射的に“敵封じダマ”を天高く掲げていた。
リンに詳しい使用法こそ教わらなかったが、直感でこうして使う道具だと判断したのだ。
するとヴァン族達の動きが突然石化したかのように固まり、全員がロキ達を狙った姿勢のままゴトリと地面に倒れた。
「外の世界にはこんな便利なアイテムがあるでやんすか…」
翼を広げて目を見開いたまま倒れて微動だにしないネイティオを見てルシオは呟く。
それと同時に役目を終えた“敵封じダマ”は蒸発するかのように消えていった。
「さ、残るはお前達二人だけだぜ」
不思議ダマの効果に少々ホッとしたような顔のロキは腰の鞘から鉄剣を抜くとガノッサに切っ先を向ける。

593 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/30(火) 16:14:12 ID:VkiVasaY0
「ガノッサ様、奴は僕を遙かに越える戦闘力を持っています。ここはガノッサ様の魔術で僕を…」
「…成程。ならばあのイーブイはお前に任せるとしようか」
ガノッサはそう呟くと右掌をカシェルの頭に置き、何やら呪文のような言葉を唱え始める。
それと同時にガノッサの右手とカシェルの全身が紫色に光り出した。
「何…をする気でやんすか…?」
「奴の…カシェルの力が増大していく……トランスファー(力の譲渡)か!」
ガノッサの右手からカシェルの全身へ邪悪な力が注ぎ込まれているかのように光が蠢き、流れる。
数秒後、ガノッサの手から離れたカシェルは前髪を掻き上げ、二匹の前に立ち塞がった。
彼の全身は暗紫とも漆黒とも言えぬ色の光を纏い、瞳は邪悪さを増したかのように更に真紅に輝いていた。

「行くよ、ロキ。僕はここで君を止める…!」
超能力で瞬時に生成した光の剣を手に、カシェルはロキの元へ歩み寄る。
ロキも剣を構え、近付いてくるエーフィを睨み付けた。

「ハアアァァッ!」
先手を打ったのはロキ。カシェルの胸元に突き込むように勢いよく突進するが、その剣先は盾のように構えられた刃腰で止められる。

594 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/30(火) 16:16:44 ID:VkiVasaY0
カシェルは止めた剣先を受け流すようにして反らし、ロキの体を引き寄せてから彼の胴体を狙って剣を薙ぎ払う。
受け流しによりロキは前方にバランスを崩しかけたが、即座に後方へと跳躍してカシェルの剣を避ける。
直後、カシェルは空中にいるロキを狙って剣を飛ばすが、宙返り様に放ったロキの“スピードスター”によって弾き返される。
そのまま上手く着地したロキは“電光石火”でカシェルに切りかかるが、容易に防がれてしまう。
その後もロキは怒濤の乱舞で攻撃するが、それらはカシェルに全て止められ、避けられた。
突如、二匹は大きな剣撃の音と共に鍔迫り合いの状態になり、刃が触れ合った部分からはギリギリと特有の金属音が。
「へぇ…少しはやるようになったじゃねぇか」
「どうかな? 僕はこれからが本番なんだけどね」

カシェルは額の紅玉を輝かせ、自らの背後に先程と同じ光の剣を三本作り出した。
「なっ!?」
ロキの顔を目がけて放たれた刃の一本を間一髪横転して回避する。
体勢を立て直すロキの左頬には浅い切り傷があり、そこから少量の鮮血が流れ出ていた。

595 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/09/30(火) 16:20:31 ID:VkiVasaY0
「作り出せる剣はそれ一本だけじゃないって事か…」
彼の正面には両手に一本ずつ、背後に二本の刃を浮かべたエーフィがいた。
紫の光を放つ剣は天使の翼とも見てとれ、邪々しくも神々しい雰囲気がある。
「ロキ、幾ら君でもこの剣を全て避けるのは厳しいんじゃないのか?」

「ちっ……流石にマズいか…」
ロキの右頬を一筋の汗が伝う。


さて、PSPじゃ行数制限が厳しくてまた4連投…orz
最近更新が遅くて申し訳ないですm(_ _)m

596 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/03(金) 12:27:37 ID:uPETiv2s0
>591
それぐらい機会が少ないくらいでないとダークライの人口が爆発しそうなので……
でも、皆既月食は世界中どこでも観測できますし、平均して1年に2回起こるものなんですよ。


――――――
山を見下ろす斜面。一面が牧草地となるこの場所は10月の前半ということもありまだ緑が生い茂っている。絨毯のごとき柔らかな草原は風になびき、斜面を美しく見せている。
 そこから眼下に広がる景色を見下ろすのは、トキシンこと人間の女性を背負った毒好き紳士なスイクンである。

「ほう、ミルタンク牧場ですか……この場所ならば、あなたの毒を癒やすこともできるというものでしょう」
背中の女性にそう問いかけたものの、答えは返ってこなかった。

「おや、毒で意識を失ってしまいましたか……無理もない、無茶を為されていましたからね。
 ですが、私の毒は死ぬような毒ではないはず。とにもかくにも、あなたを送り届けて私はさっさと汚染を食い止めようと思います。さあ、行きますよ」
トキシンは北風の化身と呼ばれるスイクンという種族の本領を発揮し、女性一人を背負っていることを感じさせない足取りで斜面を猛スピードで駆け降りる。
 それでも乗っているほうは、正常な状態で意識があるならば快適であっただろう。
 トキシンの走りは、乗っているものを気遣うために体をほとんど上下させずに走ることが出来る。
 それは例え……人間がまともに歩けば10分はかかる"距離"と、"角度"をもった地形をたった30秒で駆け抜けるときでもだ。

「失礼!」
牧場の柵を飛び越え、刈り取った牧草をサイロまで運ぼうとしている時にトキシンを発見し、面喰っている職員に話しかける。

「う、あわわ……スス…スッスイクン」
職員は腰を抜かして座り込み、怯えるうようにトキシンを見上げている。

「いかにも。ワタクシは毒好き紳士なスイクンこと、トキシンでございます。単刀直入に申し上げます。
 このお方が、毒に侵されていますゆえ、貴方のはらからたるミルタンクのご助力を願いたく、訪問させてもらった次第でございます」

「おあ……おぉ、ここのミルタンクに癒しの鈴を頼もうってのかい? 親方に聞かないとわからねぇけど……多分、別にかまいやしないだろうよ」
あわてた状態から、少しは落ち着きを取り戻した職員を尻目に、トキシンは落ち着いた様子で前足を曲げて深々と礼をする。

「じゃ、ちょっっくら聞いてくるよ」
そう言って職員は搾乳場の方へと向かい親方を訪ねた。


再び姿を見せた職員は、トキシンをてまねきする。
職員が案内したミルタンクの診察用ベッドにウールを寝かせたその時、ウールが腰に下げていたモンスターボールが赤く光り、アルバが勝手に現れる。

「こうまでよくしていただき……誠に感謝する」
無表情な顔と声で、形式的にそういったあと、深々と礼をした。
 ボールから勝手に抜け出すのは種類にもよるが体力を消耗するため、こうしてお礼を言うために抜け出してくる事は、ポケモンにとってはそれだけで誠意に値する。
 彼が入っているのが汎用性が高く、捕獲効率も良いハイパーボールであるからなお更だ。

「いや、この人見たところレンジャーさんみたいだし……いつも助けてもらっているんだ。困った時はお互いさまだって」
そういった事情を知っているものならば、アルバの無表情な顔の下にきちんとした誠意が根付いている事はわかる。
 誠意を汲み取った職員の男は照れながらアルバのお礼を謙遜した。

「もう安心ですね……では、わたくしは仕事がありますので。……ウール殿、アルバ殿、そして職員の皆様……失礼!」
風のように現れ風のように去っていくトキシンを見て、職員はつぶやいた……

「スイクンと話せるだなんて……夢じゃないよな……?」
そう言って少し強めに頬をつねったが無論のごとく痛かったことを感じてやっぱり夢じゃないと確信する。実際、彼にとってはそれこそが一番のお礼だったのかもしれない。
 ウールはベッドの上でミルタンクの癒しの鈴を聞かせながら、アルバの付き添いのもとベッドの上で眠っている。

597 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/03(金) 12:29:48 ID:uPETiv2s0
「フィ? フィー!!」

「こ、今度こそだろうな?」
アサはうんざりした様子で駆け出すエスペシャリーを追う。三度目の正直とはよく言ったものだ(二度あることは三度あるとも言うが)。エスペシャリーが前足で指し示すその場所にあったのは、もぞもぞと動く草むらだった。

――シェイミ……『花畑の中で暮していて、体を丸めると草花に同化するため非常に見つけづらい』……まさにだな。
 秋も深まるこの季節、シェイミの花運びはとうに終わっている。エスペシャリー無しでは何年かかる……とは言わないものの、これでは次の花運びの時期まで見つけられかと聞かれれば疑問である。
 警戒されないように一人で探せとは言われて、一日で探し当てるのは、少なくとも無茶な確率であるのは明白だ。こういう時、アサは人間の感覚の鈍さを感じずに入られず、エーフィやルカリオといった鋭い感覚を持つポケモンに畏敬の念を送らずには入られない。

――おっと、感心している場合では無い。擬態しているうちにシェイミをスタイラーで囲んだ方が楽そうではあるが、やっぱそれでは邪道だな。スタイラーやボールなしで友好を築けてこそ一流のポケモントレーナーだし、ここは最初の計画通り……。

「今度こそ……シェイミかな? こんにちは」
アサが草むらに語りかけると、草むらの一角はぴくりと動きだす。

「ナイストゥミーチューでしゅ♪ それにしてもミーをディスカバーするとは、ユーはタダものじゃないでしゅね。察しの通り、ミーはシェイミンの『ルルー』でしゅ。ミーに何かリクエストでしゅか?」

――このシェイミしゃべり方うぜぇ……俺が幼いころあこがれていたのはこんなんじゃない……
アサはダイチが占有しているヒードランのコタツ)以外は伝説のポケモンを間近で見たことが無く、実質はじめて見た言葉を操る(もちろんテレパシーではあるが)伝ポケはこのシェイミが最初であった。
 そう言った意味では伝説のポケモンに対する理想や予想といったものにあまりに盛大に裏切られたアサは内心ショックを受ける。同じことがスイクンでも待ち受けていることも知らずに……

「まぁ……とりあえず唐突に仕事の話をされても困るだろ? だから、その前にお菓子でも食おうじゃないか……つまらないものだが……」
アサは明朝に買ったレンジャーユニオン名物『紅茶ショートブレッド』の箱を開ける。バターをこれでもかというくらいふんだんに使った生地に、上質なダージリンの香りが混ざりあい、甘く濃厚で香ばしい香りが一気に広がる。

「わぉ……これはルックスデリシャスなスイーツデシュね……ミーもイートしていいデシュか?」

「もちろん。そのために持ってきたんだからな」
やたらとうざったいしゃべり方のシェイミに、さっきまで直方体であった箱を完全に平面に畳んで皿と為し、それを差し出す。アサとフィリアとエスペシャリーだけでなく、ヴォルク、アラレ、シモ、トロの四人ともボールから出して、皆で一斉にそのショートブレッドをつまむ。

――さて、なんとか食いつかせることが出来た……とりあえずはこのまま機嫌を損ねないようにしながら仕事の話へと持って行って……


「ハムハムハムハムハムハムハムハム……うう〜ん、デリシャスでしゅね……」
16個あるから一人頭2個……のはずなのだが、アラレは半分食べたところで菓子を置く。やはりユキメノコの胴体は空洞だというだけあって胃袋が小さいのだろう。そしてヴォルクが3,5個……アラレの残した半分と一個余計に食べたのだ。

――この火炎ザルめ。だがそれより問題なのは……
そして……

「公公公公公公公公公公公公公公公公……きゅうぅ〜ん、テイスティ〜でしゅね〜〜」
&ruby(くだん){件の};ルルー……こいつ一匹でが8個を平らげている。遠慮がないと言うほか無い。3犬クラスの巨体でもあるまいし、あの小さな体のどこへ入っていくのだろう?

598 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/03(金) 12:32:20 ID:uPETiv2s0
「はぅ……センクスでしゅ♪ ただ、贅沢をいえばもうちょっと食べたいでしゅね……」
そう言ってルルーがジロリと睨んだのはトロの首に生えている果物だ。

「なんだかこの子……生意気ですね」
――フィリアがそういう。全くだ……

「トロ、一個分けてやってもいいか?」

「グワァッ」
アサの呼び掛けに応じたトロはアサに首を差し出す。アサはトロの首に生えたバナナに酷似した果実を一つもぎ取り、皮を剥いてルルーに差し出す。

「ふわぁ♪ 至れり尽くせり……トゥルーリィにセンクスでしゅ♪」
ルルーがその果実を齧ることで、甘味の中にほんのわずかばかり、酸味が含まれたかぐわしい香りが鼻を心地よく刺激する。
 小さな口で自分の体高と同じくらいの大きさがあるトロバナナを夢中でほおばるその姿は愛嬌にあふれているが、反面その胃袋は神秘にあふれている。

――解剖させろまでとは言わないものの、医者や研究者でない自分が是非バリウムを飲ませてレントゲン写真を撮りたい衝動が浮かんでくる神秘性だ。その神秘性こそ、シェイミが幻のポケモンたる所以……ではないよな……きっと。

「もっと無いでしゅか?」
やがて果実も食べ終えたルルーは、この期に及んで御代わりを要求する。

――仕方ない……切り札使うか。巨体なポケモン用の由緒正しいポロックを……

 アサは大きくため息をつきながら渋々ウエストポーチに手を伸ばす。ポーチからポロックケースを取り出し、『カビゴン用』と書かれた赤紫色のポロックを手のひらに載せて差し出した。
 ルルーが小さな舌でそのひとかけらを掬い取る際、湿った舌がチロリと手の平に触れる。アサは少し手を洗うのがもったいなくなりそうな気分がして、アサは手の平の湿った部分を一舐めしてわずかな唾液を拭い取った。

「ふあぁ……今もらったポロックはずいぶんとストロングでしゅね。一口でストマックがフルフィルでしゅ」
アサの切り札によって膨れ上がった真っ白なお腹を仰向けにして晒している。要は男女の別なしにあられもない姿ということだ。

「っと」
それでも、何かを思い出したように寝返りを打って向き直る。

「危うくフォアゲットするところでした。ミーにリクエストがあるのでしたね?」
あまりの可愛さに和みに入ってしまい、アサまで危うく目的を忘れるところであった。

「あ、そうそう……実はな……」
アサは工場で事故が起こり、その敷地の汚染された土をどうにかしてほしいという旨をルルーに伝える。


「ふむ……いいでしゅよ。ここまでよくしてもらった感謝の印も兼ねて、そのファクトリーとやらまでトゥギャザーするでしゅ♪」
事は思いのほか簡単に進んでしまった。普通の業者に頼めば何百万掛けても完全は望めない仕事を、高級なショートブレッド(と言っても2000円くらい)で済ませてしまったのはもうけものと言えるだろう。

「ただ、スイーツだけじゃプライスとしてはアンバランスでしゅね〜〜。これは何かアナザーが欲しいでしゅねぇ?」

599 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/03(金) 12:38:26 ID:uPETiv2s0
――は!! 足元見られた……こいつ……見かけによらずしたたかだ……

「と、唐突に何をしろと……」
もともと笑顔を作るのが苦手なアサはひきつった顔をしてシェイミに尋ねる。

「ミーに、ユーがセンクスしたパーソンのエピソードを、道中聞かせるでしゅ」

「な、なんだ……そんなことでいいのか……」

「とりあえず仕事する前にエピソード5つ分でしゅね♪ ジョブが終わったら30くらい……」

「…………多い」
というアサのぼやきに、

「ですね……」
と、フィリアが相槌を打つ。

「別に一人で語れとは言っていないでしゅよ。なんならパーティにヘルプしてもらってもかまわないでしゅ♪」

「あ、それなら私も協力すれば」
フィリアは助け船を出してくれる。確証はないが、ウールはかわいいポケモンが好きだから断りはしないだろう。

「わ、分かった……条件を飲むよ」
こうして、緩いのだか厳しいのだかわからない条件でアサはシェイミの力を借りられることになった。

――ま、とりあえずミッションクリアの報告といたしますか。

「ルルー、ちょっと待ってて」
アサは無線のスイッチをオンにする。

「唐突に失礼、こちらアサ。オペ子……聞こえてる?」

『オペ子って……私は男ですが……』

「ああ、レビンかぁ? こっちはミッションクリアだ。ウールの方の首尾はどうなっている?」

『分かりましたアサさん、ミッションクリアお疲れ様です。
 それで、ウールさんですが……先ほどミッションクリアを為されましたが、どうやらスイクンを相手にした時、毒に侵されたようです。
 現在ミルタンク牧場で癒しの鈴を聞きながら休んでいると、パートナーのアルバさんから連絡を受けました。
 スイクンの方は現在こちらに向かう姿が衛星で確認されています。現在、事故現場まであと17kmといったところでしょうか?』

「なるほど……よくわかった。それじゃあ、俺たちも今すぐ工場の方へ向かう。シェイミを歓迎する準備をしておけよな」

『弁当ぐらいしか出せませんが……では、御帰還お待ちしております』

「実際、弁当があればとっても喜ぶと思うぜ? それじゃ……通信を終了します」
アサは無線を切った。

「それじゃ……ルルー。行こうか」

「レッツゴーでしゅ♪」

600 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/03(金) 12:46:10 ID:uPETiv2s0
アサの、無線でのやり取りから十数分後……
テミズ川の上流から、水上を風切り走る影があった。他の誰でもないトキシンだ。
トキシンの足が触れた部分から波紋が広がり、その部分から水は透明な輝きを取り戻していく。広い範囲を補うために、ジグザグに進みながら対岸につくと堤防を蹴りあげ再び対岸へ斜めに向かう……トキシンは、汚染を感じた工場付近から、これを繰り返していた。

トキシンが姿を現すたびに歓声が上がり、『すげ〜〜』や『初めて見た』などの驚きの声のほか、『頑張れ〜〜』や『ありがとな〜』などの声もちらほらと聞こえ、トキシンはそういった声援を力と為して、ウールとの戦いでダメージや疲れの残る体に鞭を打つ。

波紋が川を割るように水を浄化して、見る見るうちに毒が分解され、無害な物質へと変わっていく。あの工場の化学物質が、炭素と水素と酸素、そして少量の塩素のみで構成されていたのが幸いだった。
 塩素は単体でも毒であるものの、気泡となり空気に散って少量ゆえにプール程度の匂いだけ残してシェイミの力を借りるまでもなく空気に混ざり掻き消えていく。これが、ヒ素のような単体でも毒性が強くその場に残る毒であればそうはいかなかったろう。

――ふう……広い川ですね……終着点はいずこでしょうか? わたくしとて浄化する範囲が広いと疲れるのですけどねぇ。

ようやく人が途絶えた汚染の終着地点が見える、トキシンはそれを救いの手を差し伸べられたかのように小躍りして最後の一歩を踏む。
 最後の一歩を踏んだトキシンは、大きく飛び上がると巨大な水しぶきを上げながら水上を滑り、勢いを失って体が沈むを重力と浮力の釣り合いに任せる。

「スイクン……本物だ」
とある一人の一般人男性がそう言ってトキシンの元へ近寄ってくる。見てみれば、離れて見ていた数人の者も、駆け寄ってくる。中にはウールと似た服を着た、同じ組織と思われる者も混ざっている。

――まったく……伝説のポケモンになるのは楽ではない……力を悪用される気苦労……こうしてファンの相手もせねばならぬとは……

「もし、そこの男性さん……わたくしは疲れておりますゆえ、今は暫し休みをくれませぬか?」

「ええ……ゆっくりおやすみください」
男は水中で手を動かす。

「この中で……」
男が手に持っていた球体から出たどす黒い膜がトキシンを包みこんだ。

「流石だレンジャー……あのスイクンをこうも早く連れてきてくれるとはな……」

ニヤリと笑い男は呟く。レンジャーたちが大声で警告する声を無視しソーナンスを出して『影ふみ』の特性により足止めする。
 続いてフワンテとフライゴンを出して自身は空へと逃げ、フワンテは捨て石として大爆発をレンジャーたちに見舞う。



――――
やはり、家で更新できないというのはつらい物がありますね……

あと、いい忘れていましたが麒麟児様お疲れです。更新遅くっても気にしていないですよ。

601 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 09:05:46 ID:tygvzF5o0
>>596-600
ちょwwカビゴン用ポロックwwどんな腹してんだルルーww

602 :リング@漆黒の双頭:2008/10/06(月) 16:13:13 ID:wkKbIqB60
カビゴン用ポロックはAG時代の『バナナナマケロ園のカビゴン』のお話で登場したポロックです。
サイズは普通のポロックなのだが一口でカビゴンを満足させるという謎のポロックですが、オーキド博士が“作り方を教えた”だけで園長がカビゴンを養っていけたことから察するにアサ君でも作れると考えました。
 どんな腹をしているかについてはまぁ……ウリムーやゴンベも同じ問題を抱えていますのでスルーの方向で。

-----------
「う〜ん……潮風が気持ちいいね〜〜。まるで僕も風になったかのように洋上をビュンビュン飛んで、翔け抜ける大空より、眼下に見下ろす俯瞰(ふかん)には霞に混ざり合う水平線と空の境界。
 目の奥を焼く強烈な歓迎は太陽光を反射して眩しく照らし返す水鏡の海原。ああ、絶景かな・絶景かな♪ 

 空に浮かぶ雲を掴むがごとく、白く柔らかな羽毛は触れ合う肌をやさしく包み、羽毛を掻き分けたるその先には保温性の高い羽毛が抱きしめて放さない母なる体の温かみ。
 羽ばたくごとに感じられる筋肉の躍動は揺り篭の様に、羽ばたくごとに風切る音は子守唄のように眠りを誘う。ああ、極楽かな・極楽かな♪」
少年がそこまで実況したところで下から低い声が聞こえる

「レアス殿。相も変わらず口が元気なことですな……」
レアスと呼ばれた少年が現在背中に乗っているルギアと呼ばれる種族の女性は首を精一杯曲げて、目もレアスのほうへ精一杯向けて話しかける。

「だって、アージェったら話しかけてもあんまり答えてくれないんだもの。独り言に走るしかないじゃん」
レアス口をすぼめて不平をもらす。

「私は貴方と違って飛んでいるので、いちいち答えていては息が切れるのですよ。貴方も……下に行って泳いできたらその辛さが分かるのではないですか?」
アージェと呼ばれたルギアの女性は下を泳ぐカイオーガに目を向ける。

「そうだね〜〜。そろそろ肌も乾いてきちゃったし……泳いじゃおっかな?」
言い終わる前にレアスは飛び降りていた。

「全く……元気なのは口だけでは無いようですね」
大きく上がる水しぶきを立て、流体中を高速で進むときに発生する渦によって纏わり付く泡を感じながら、泳ぐカイオーガの隣へ並ぶ。

「よう、レアス。鬱陶しがられて落とされちゃったかぁ?」
海を泳いでいたカイオーガが威勢の良い声で話しかけてきた。

「違うよ、僕が泳ぎたくなっただけだよ。とにかく、しばらくご一緒しようね♪ アサン」
アサンと呼ばれたカイオーガの男性は、背中にある鼻から大きく潮を吹くと、自信たっぷりに言い放つ。

「素直にアージェに乗っていた方が良かったんじゃないの? お前俺のスピードに付いてこられるのかよ?」

「もっちろん♪」
競争するように泳ぐ二人。微笑ましいやり取りをしながら三人は目的地へと向かっていった。


603 :リング@漆黒の双頭:2008/10/06(月) 16:15:01 ID:wkKbIqB60
夏真っ盛りの1月下旬の晴天の昼下がり。澄み渡る空気は空に浮かぶ太陽の恵みを遮ることなく送り届け、道行くものの背中を膨大な質量を持つかのごとく地面に押し付ける。恐らく、今は滝に打たれた方が体が軽く感じられるだろうといえるほどに。
 その灼熱地獄の気温を涼しい潮風がひと時の爽快を運び、その風に運ばれて漂う磯の香りが鼻に心地よい。
 その暑さにうな垂れる者たちがいる中、草花は対照的に周囲に活力を振りまくように鮮やかに咲き誇る。

ここは海沿いの町、『トレジャータウン』。ヴェノムと言う名のダークライの工作により、二度に渡って危機に陥った世界を救う鍵となった探検隊、『ディスカバー』の所属するギルド。通称『プクリンのギルド』がある街である。
 その英雄が居を構える場所は凶暴ポケモンのサメハダーに似た形に削り取られていることから、サメハダ岩と呼ばれている崖っぷちだ。

この季節、陸上にいて元気がでるのは草タイプや炎タイプばかりであが、サメハダ岩の英雄とも呼ばれる『ディスカバー』は、炎タイプ以外でも活力全開の声が響いている。


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「アグニ、魚取ってきたよ♪」

「シデン……大量だね……って言うか多過ぎ。こんなに多くちゃ腐る前に半分も食べきれないでしょ!」
シデンと呼ばれた赤いほっぺ、黄色い体毛、ギザギザ尻尾の……種族は言うまでもなくピカチュウの女性だ。

「あはは……電気で魚取ったら思ったより多くの魚が浮かんできちゃって……それは良いんだけど、もうちょっと体温下げること出来ないの? 外の3倍暑いんだけど……」
夏の昼下がりだからという理由もあるが……それを見積もっても有り余る暑さの原因は相手にある。シデンの話相手であるアグニは……炎タイプなのだ。尻には眠る時以外消えない炎が燃え盛っているこちらの男性、種族はヒコザルである。

「ゴ、ゴメン。オイラがいるだけでどうしようもなく熱くなっちゃって……僕としてはこれでも快適なんだけどね。で、その大量の魚どうするの?」

「塩をまぶして天日干しにしようよ。冬の間の保存食にさ。それは自分がやっておくから、アグニはちゃっちゃとお魚焼いちゃってよ。弱火でじっくりね♪」

「はいはいっと♪ その前に……お帰りの……」

「チューを忘れていたね?」
幾多の困難を退けたこの二人は、今や新婚"馬鹿"夫婦という言葉がふさわしい関係となっている。
 この状態の二人は仕事中は研ぎ澄まされた感覚も、殺気や敵意とは違う日常的な気配においては他人よりはるかに鈍い。
 結構な音量で話される外の気配に気が付くことが無いのは英雄の貫禄か、招かれざる訪問者の存在は二人の意識の外である。

「ふう、二人は留守か。しょうがないな。とにかく、書き置きでも……」
 サメハダ岩の口にあたる部分は美しい朝日が眺められる展望台のようになっている。その口に当たる部分から不意(本当は不意でもなんでもなく、ずっと前から入り口の前で声をかけていたが)に招かれざる訪問者が顔を出す。
 件の(くだん)プクリンのギルドの副長であるチャットことペラップが二人の恥ずかしい生活風景を不意に覗いてしまった。
 驚いたシデンは思わずアグニの唇に見事な頭突きを加えてしまい、アグニは痛みで口を押さえて苦しみ、チャットは呆然としながら落ちていった……

604 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/06(月) 16:18:10 ID:wkKbIqB60
「とにかく、二人とも大変なんだよ! まさか書き置き残そうとしたらこんなイイ場面に出くわすだなんて……」
海に落ちて行ったものの、水面に着水する直前に体勢を立て直したチャットは二人の家に上がり込んでペラペラと喋り始める。

「どうしたのさチャットォ? 大変なことって、まさかこれからとある探検隊に攻撃されるとかぁ?」
シデンは頬からパチパチと音を立てて青白い電光を放つ。表情こそ笑顔だが殺気は十分だ。

「オイラ魚は大好きだけど……久しぶりに焼き鳥が食べたいなぁ……どうぉチャット。チャットもそう思うでしょ?」
こちらも顔には笑顔を浮かべ、拳には炎をともしながら、穏やかでは無いことを言っている。

「待ってくれ! ワタシャわざと覗いたわけじゃないんだから。ああ、それより大変なんだ。マナフィが……レアスが帰ってきたんだ!」
慌てふためきながら、弁解しながら、飛びまわりながら……いそがしい事だ。とにかくそんな風に二人にとっての朗報を伝えるチャット。

「本当に!?」
シデンとアグニが同時に、チャットに掴みかかるようにして聞く。それも、帯電したままの皮膚とまだ熱の残る手で……それが招く結果は当然のこと、

「アンギャ〜〜!!」
こういう事だ。チャットの断末魔(ハイパーボイス)は大海原に元気よく響き渡ったという……ちなみに二人の行動はわざとだ。


「とにかく! レアスはまだギルドにいるんだ。お前らに迎えに来て欲しいからって、ワタシ直々の案内を断ってまで……まったく、傲慢な子だよ。ともかく、早く行ってやりなさい」

「へぇ……ルギアとカイオーガがお供だなんて、レアスも大物だね」

「あ、ああ。みんな無茶苦茶驚いちゃってな……誰とは言わないけど、とあるビッパなんて思わずサインをねだっちゃって……ああ、いいから早く行きなさい!」

「そうだよシデン! 早く早く」
すでに入り口の階段で待ち構えているアグニの元にシデンは駆け寄っていった。

「クスッ……ビッパなんてトラスティしかいないじゃん。相変わらずミーハーなんだから……」


--------------------------------------------------------------------------------

二人はギルドまでの道のりを急いでいた。

「レアス〜〜!」
ギルドにたどり着いたら、地下二階まで梯子を使わずに飛び降り、廊下を抜けて右手にある食堂へと向かう。胸の高鳴りはここまで走ってきたという『運動』によるものだけでは無い事は確かだ。
 走り続けるアグニから生じた熱気に、すれ違うものたちの顔をしかめさせながら抜けた廊下のその先に、思い焦がれた小さな影が見える。
 件(くだん)のレアスとは、『ヴェノム事変』の以前『閉ざされた海域』にて拾った卵を育てようと試みたが、陸上で成長することが出来ない彼の身を案じるために、泣く泣く北半球の極地に住むトドゼルガの元探検隊、アーノルドの元へ預けられていた子供である。
 種族はマナフィと呼ばれる希少なポケモン。青い全身、2本の触角、胸のボタンの様な模様、目の上の丸い模様が特徴の可愛らしい子だ。

「シデ〜〜ン、アグニ〜〜」
レアスは、シデンに体当たり攻撃と見まがうばかりの激しい抱擁を浴びせる。その勢いによって二人は床に倒れて転がるが、背中の痛みも気にする様子も無く仰向けになったまま両腕で持ち上げる。

「ホントにレアスだ……あの時の君だよね?」
大きく真ん丸な目に、かすかな涙を浮かべ。二人は頬をすりあう

「うん……僕、海で大きくなったよ。全部アグニとシデンのおかげだよ。二人がいなかったら……僕死んでたから」

「ああ、私達の事……名前までちゃんと覚えていてくれたのね? レアスってばずいぶん重くなっっちゃって。ずいぶん成長してくれたみたいで……ほんとに、自分は嬉しいよ」
抱き上げられているレアスが引っ手繰る様にさらわれる。さらっていったのはアグニの腕だ。

「ずるいよシデン。オイラにも抱かせてよ……うわぁ、ホントに重くなったね。」
アグニは抱きかかえたレアスの触角をワシャわしゃと弄りながら、その重みに確かな成長を感じる。

「僕は一日たりとも忘れたことはなかったよ……ただの一日も……」

「オイラ達も……同じ」
その言葉と共に、アグニは抱き締める力を強くする。レアスは照れ臭そうな顔をして、二人と目を合わせ、

「ただいま」
とささやく。

605 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/06(月) 16:19:16 ID:wkKbIqB60

「「おかえり、レアス」」
レアスがただいまと言うと、二人も息を合わせてお帰りという。レアスを抱いているアグニをシデンがさらに抱き、三人の影が一つになると、三人は申し合わせるでもなくぴたりと静かになり、密室でこもった熱の暑さが気になり始めるまでそのままだった。

「ちょっと……この部屋ものすごく暑くない?」

「はは……きっとオイラのせいだよ。このまま居るとみんなに迷惑がかかるし……でようか?」
照れくさそうに頭を伏せながらアグニは皆に諭す。

「そうしよっか♪」
レアスは笑顔で賛成した。


三人はギルドを出て、歩いて自分達の家へと向かう。その道中、シデンとアグニは世界を救ったことを……レアスは北の海からここへ来るまでの道のりの事を話す。そうこうしているうちにたどり着いたサメハダ岩。レアスはそこを感慨深そうに眺め、つぶやく。

「わぁ……ここ、覚えてるよ。僕、ここで生まれたんだよね?」
正面と左右に広がる広い海を眺めて眼を瞑り、言葉をまともに喋ることが出来なかった頃に思いをはせる。右手に生い茂る木が風に揺られて心地よい音を出している。

「そうだよ……オイラ達ここで初めて出会ったんだよ」
アグニはレアスの頭をポンと叩き、言葉を続ける。

「それにしても……よく覚えているね?」

「僕達はマナフィは、生まれた場所を記憶する能力があるんだって。海で成長したら生まれた場所に戻ってくる。アーノルドさんがそう言っていたよ」

「へぇ……マナフィってすごいんだね」
シデンがかけ値なしの素直な気持ちでレアスに感心する。

「僕の場合はここが故郷だから……だから僕はここに戻ってきたんだ」
そういうとレアスは景色を見るのを止めて二人の方へ振り返り、まっすぐに視線を合わせる

「でもね、故郷に戻ってからの事は僕が決めるものなんだ。
 だから……僕、いろいろ考えたんだけど……僕、シデンとアグニに恩返しがしたいの。シデン達は世界中を旅して回っているでしょ? だから、それに少しでも役立てたらな〜〜って……。
 だから、その……僕も『ディスカバー』に入れてもらえないかな? アーノルドさんの下(もと)でばっちり修行したから」

「いいよ、もう少し大きくなったらね」
冗談と捉えたシデンは軽く安請け合いするが……

「僕は真剣なの!」
レアスは強い意志を秘めた目でにらみ返す。その眼差しは質量でも含んでいるのではないかと思うほどに重く突き刺さる。
 二人はその眼力とでもいうべきモノを『子供の出すものだとはとてもじゃないが思えない』と不覚にも感心する。思わずアグニは気押されそうになりつつも、

「でも、また昔みたいな事になったら……」
と、反論する……同様に心配そうな面持ちをするシデンに、レアスは必死で説得を試みる。

「大丈夫! 僕は大きくなったから……もうそう簡単には病気になったりしないよ。だから……ダメ…かな……?」
不安そうに見つめるその視線にアグニは耐えることが出来ず、シデンに助け舟を求める。

「わかった……分かったけど。オイラ達が行くところは普通の探検家じゃ1階層目の階段すら踏めないような、本当に危険なところなんだ。だから、まだ連れて行く事は出来ない……だよね、シデン?」
シデンはこくりと頷く。

「じゃあ、僕が強ければいい訳だね? それなら楽勝だよ。僕は向こうでは1番強かったんだよ」
レアスは自信満々にそういうが、とても信じられる話ではないと、シデンが反論を始める。

606 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/06(月) 16:20:15 ID:wkKbIqB60
「そう簡単なものじゃないわよ? 自分だって、小さいころからすっごく鍛えてきたんだから」
シデンは同意を求めるようにアグニの方を向いて、そう言った。もちろん、アグニの答えは

「そうだよ。強くなるって口で言うほど簡単じゃないんだから」
アグニはここで一拍間をおいた。

「でも……やって見よっか? 父さんと母さんが……どれだけ強いか。戦えば分かるでしょ? ハンデをつけても勝てなければ諦められるよね?」
レアスの顔がパァッと明るくなる。

「やってくれるの? よ〜し、僕がんばっちゃうぞ!」
レアスは腕を十字に組んでストレッチのような動作を取ってやる気をアピールする。

「ちょっと、アグニ……こんな子供相手に?」
シデンの心配はもっともだ。相性の関係があるとはいえ、こんな子供相手に本気で相手をしては大怪我は免れない。

「大丈夫だって。本気でやる代わりにちゃんとハンデはつけるよ」

「むぅ、アグニィ。僕を甘く見ないでよぉ……本当に強いんだぞ」
レアスは不満そうに口をすぼめてそう言うが、シデンはそれに対し……

「貴方の体の事を思って気遣っているのよ。その気遣いをを無駄にしちゃダメ」
と諭す。

「む〜〜……分かったよ」
レアスも渋々ながら納得したようだ。

「さ、どこからでもかかってきてよ。僕は炎タイプ以外の攻撃は使わないから」
腰をかがめて臨戦態勢に入ったアグニは、レアスの攻撃を促す。

「むぅ、子供だと思って馬鹿にしてぇ! 絶対本気を出させてやるんだから!」
レアスが最初に放ったのはバブル光線。高速で撃ち出した泡が物体に当たると強くはじける。恐ろしいのはダメージそのものよりも纏わりつくことで機動力を奪う事が出来る点だ。

――が、避ければ何の事はない。でも、避けられるの……? 
 そんな考えが、生きた伝説となっているアグニの脳裏に一瞬よぎる。それだけその弾速は速く、弾数は多い。
 アグニは伏せる。攻撃のほぼ全てをそれで避け、避けきれないものは炎で相殺する。何とか炎が壁になって攻撃は防げた。だが、背にしていた立木の葉がえぐれ、アグニの腕よりふた回りは太い枝が折れている。
 ものすごい威力だと、ぞっとせざるを得ない。

607 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/06(月) 16:21:45 ID:wkKbIqB60
 アグニは這いつくばった姿勢から前転して、腕の力で跳躍。空中から火の粉を放って攻撃する。宣言通り技では本気を出すが、炎タイプ以外の攻撃はしないという約束は貫くつもりのようだ。
 レアスはアクアリングを纏い、その火の粉のほぼ全てを無効化、自らの傷を癒す準備を完全に整える。

「強……」
アグニはその強さに面くらいながらも、動きは止めない。接近し、炎を纏った手足で殴る蹴るを繰り返す。逆立ちからの蹴りや腕による跳躍からの空中さっぽうなどを織り交ぜ、レアスに対し確実にダメージを与えていく。
 攻撃の合間に出来る一瞬の隙に、レアスが片腕でかばいつつカウンターで水の波導を叩き込む。アグニも片腕で何とか顔面だけは庇いきった。

「ウワァァァァ……」
だが、水の波導はただの攻撃ではなく心を狂わす毒牙だ。その追加効果で見事に錯乱したアグニ。後ろへ振り返り逃げ出して、ゴツンという鈍い音とともに立木に顔面をぶつけると、うつ伏せに倒れた。それを見たシデンは……

「気をつけてレアス!」
と叫ぶ。

「心配には及ばないよシデン!」
レアスは一気に勝負をかける。全身に覇気の波導を練り、その一撃に全ての力を込める必殺の光線を放つ。

「最高の技だよ!」
 だが、アグニは錯乱する振りをして、その実全く錯乱などしていない。うつ伏せの状態から破壊光線を腕で跳躍して避ける。レアスの一撃により、地面が大きく抉れアグニが頭をぶつけた木は根元からほっくり返され横たわる。
 アグニはぞっとするよりも先にそのままレアスへ地面をしっかり爪で噛んで高速で接近、技の反動で攻撃も防御も満足にできないレアスの胸に炎の下段突きを見舞う。
 レアスは両腕で受け止めるも、押し負けて大きくガードを崩される。そこをさらに炎を纏った引っ掻きで畳み掛けられ、数メートルの距離を吹き飛ばされた。

「眼を見れば混乱しているかどうかはわかる。だからオイラは眼を見せないように行動していたのさ。気がつかなかった?」
アグニはまだ戦いは終わっていない、とでも言いたげに構えは解かない。

「いたたたた〜〜〜」
レアスは涙をうっすら浮かべた目で、アグニをきつく睨み返す。

「もう、僕だって容赦しないから!」
レアスは溶け出すように体中から粘液をだす。これにより、物理的な衝撃は滑って受け流すことが可能になり必然的に接近戦での戦闘はレアスが有利に運べるようになる。

「レアス……君って本当に1歳?」
シデンがその強さや戦略性に舌を巻く。この子がまだ1歳の自分が孵化させた子供だというのはいささか信じがたい。

――放っておけばアクアリングで回復するし……即効で決めなきゃいずれオイラが押し切られる……

「シャァァァ!」
アグニが咆哮する。足爪で地面を噛み、急速に間合いを詰め粘液を十分に分泌しきる前に攻撃に入る。
 ニンゲンのソレとは違い、物を掴むことができる足でレアスの触角を掴み取る。そのまま足をふりあげてレアスを吊るし、そのままぶらさがるレアスに至近距離で火炎放射を見舞う。
 レアスが反撃のために渦潮を放たんとする直前、アグニはレアスを火炎車の要領で回転して地面に叩きつける。

「ぎゃん!」
叩きつけられたレアスが叫び声を上げた。ようやっと動かなくなり、アクアリングも消えている。

――どうやら勝ったようだけど……オイラこんな恐ろしい子供初めてだよ……
痛みに呻くレアスを腕に抱き、アグニはシデンが手招きするサメハダ岩へと入っていった。

608 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/06(月) 16:23:35 ID:wkKbIqB60
最初のほうトリップ付け忘れていましたね……まあ、一応本物ということで。
ウェルトジェレンクの常連さんのレアスは腹黒くなっていますが、こういう純粋なマナフィのほうが一般的なイメージには近いのでしょうなぁ。

609 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 22:52:19 ID:DMYGbsDE0
>>605-608
腹黒いレアスも純粋なレアスどっちもいいと思う俺がいる。

610 :&fervor ◆eFERVOR/J. :2008/10/07(火) 23:27:44 ID:7NKxAGMU0
>>605-608
無垢ですね…。現在のレアスを見てると、むしろこっちのほうに違和感を感じざるを得ません。
子供のころはやっぱり誰でも清純なんですね。それにしても、この頃から既に強いとは…。

611 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/10(金) 18:18:12 ID:+fnMLOCk0
>>609
私もどちらのマナフィも好きですが、やっぱり腹黒いほうが好きです。どうして腹黒くなったかはこれから明かされますので、どうか最後まで付き合ってください。

>>610
展開を考えている私としてはすごく自然なきがするので、皆に自然な感じだと思ってもらえるようにしたいものです。
ちなみに、ポケダンではクレセリアが47レベルで仲間になり、マナフィが海から帰ってきたときは40レベルで帰ってくるのです。
主人公は大体50レベルの後半ですから、かなり強いと思います。

それでは、お楽しみください。前回↓
ttp://aoba.sakura.ne.jp/~esa/test/read.cgi/novel/1204646781/596

ボールの中にいきなりとじこめられたトキシンは、薄れ行く自我を何とか取り戻そうとするものいの、数秒しないうちにその自我は畳まれる。

スイクンを勝手に捕まえた男は当然の事だが追われている。
 追われる理由は『第一級トレーナ免許を持ち、IPMO(国際ポケモン管理機構)の許可を受けたライセンス付きの特定鳥獣専用収容器具(レジェンドボール)を持たなければゲットしてはいけないスイクンを無断でゲットしたから』というきちんと法に基づいた根拠にしたがってだ。

 すぐにつかまるなどと甘く見ていたレンジャーが大半であったが、追いかけっこの様子はあまりに一方的な展開だった。空中でヤミカラスを繰り出しては、黒い眼差しをしてフワンテに自爆させる。これを繰り返すだけで、追いかけてきたレンジャーが全て落とされる。
 むろんのことトキシンを攫っていった男は、法律で持ち運びを許容されるポケモンは特別な理由がない限り6体までなどという決まりを守るつもりはないようだ。


ダイチはキャプチャして一時避難させていたポケモンたちをあらかたリリースしたあと、綺麗になった川でポケモンたちと戯れていた。

「ほら、アルカナム。この水きれいになったから飲めるよ。とてもまろやかな軟水でおいしいじゃないか……これはスイクン様々だね」

「ブルル……ダイチ様。私は鋼タイプゆえ硬水の方が好きなのですが」

「シィィ……」
ダイチがおいしいと進めた水は、彼の手持ちである鋼タイプには軒並み不評のようで、トウロウもアルカナムもあまり飲もうとはしない。

「君たちはミネラルたっぷりの水じゃないとだめなのかい? 寂しいことだね。まぁ、いいか……とにかくトウロウは抱きつかないでくれるかな? 水中でハッサムにしがみつかれたら沈んじゃうよ」

「シィ!」
断固として離さないようだ。ポケモンに一途になられても困るというのに……。これい以上しがみつかれて、心中でもされたら死ぬほど困る……いや、死ぬのでダイチは引き上げようとしたが、その途端にボイスメールの着信音が鳴り響く。

「なんだろうね……」
ダイチは右手首を口に近づけ、スタイラーの音声認証を行う。

「ボイスメール1 スタート」

『……緊急事態です。汚染物質の流入により汚染された帝水川の浄化に当たっていたスイクンが何者かによって連れ去られました。
 真っ先に追おうとしたレンジャーをソーナンスで足止めし、フワンテに自爆攻撃をさせて逃走。
 そのうえ、ヤミカラスを足止めに使い、空中で同様の戦法をとっております。ボールの所持数は大量であり、見当がつきません。

 空を飛んでいる間は衛星による追跡が可能ですが、市街地に逃げ込まれて人ごみに紛れこまれれば追跡は不可能となります。そのため、現在動けるレンジャーの皆さんには、至急目視での追跡をお願いします。
 また、随時情報を伝えるために、以後ことが済むまで無線機能を常にオンの状態にしておき、ターゲットの現在位置を常に把握するために地図を表示しておいてください』

「目視での追跡か……無茶言うね。しょうがない……トウロウ、アルカナム……ボールの中に入っててくれ」

「ブルル……わかりました」
「シィィィ!」
ダイチは2匹をしまうとすぐさまエアームドの鎧鳥(ガイチョウ)をボールから繰り出して乗り込む。

612 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/10(金) 18:19:57 ID:+fnMLOCk0
「頼むぞ、ガイチョウ」

「キュゥイイィィン!」

「マップ オープン。スケール・ミドル」
ダイチ地図を開いて、衛星で補足しているというターゲットの位置を確認する。

「川の下流から西北西へ向かって猛スピードで移動中……まったく、何でこんなミッションやることに……」
ダイチはガイチョウの首に掛けてあったゴーグルを装着して、ガイチョウのスピードを上げさせる。

――僕たちにとって幸いなのは、限界速度が桁外れに速いカイリューのようなポケモンを相手が所有していたとしても、乗っている人間の限界速度というものは、日々訓練を積んでいるレンジャーのほうがずっと上……ということだね。
 地図を見る限りじゃ彼もそれなりにやる方だけど……まだまだ甘いよ?

「見えた!」
そうは思ってみたものの、戦況は決して良くないようだ。何人ものレンジャーが追ってはいるが、攻撃の射程内に入ったと思えばヤミカラスとフワンテがセットで繰り出されて、黒いまなざしとの併用で落とされている。
 途中から飛行に参加した元気いっぱいのポケモンたちが勇ましく近づこうとしても、それは2匹のセットにあしらわれる。

「気をつけなければ僕も二の舞い三の舞ということかい? それにしても……これで、無線通信によれば奴が繰り出したポケモンは18匹目か。敵さんはどれだけ法律を馬鹿にすれば満足するんだろうね」
 今回のターゲットは、ダイチに対してもご多分に漏れずヤミカラスとフワンテをを繰り出してきた。

「ふん、そんなの……足止めにもなりはしないさ。ガイチョウ、フラッシュ!」
閃光を放たれ、網膜を焼かれたヤミカラスは黒い眼差しでにらみ続ける目を閉じてしまい、その隙を突いてダイチは突き進んでヤミカラスの横を通り過ぎる。

「成功だね。オペレーター……聞こえているかい? ヤミカラスはもともと闇に生きるポケモンだ。瞳孔が他のポケモンに比べて広く開くし、目の感度も高いから、黒い眼差しはフラッシュで無効化できる。それに、これならフワンテもおまけで視力を封じられる。
 対策法として全隊員に無線で知らせてくれないかな?」

『ダイチ隊員。情報に感謝します。早速全隊員に伝えておきますね』
そのまま、追い続けるダイチに対し、敵はジバコイルを繰り出す。

「な……ジバコイルかい? 欲しい……じゃなくて確かにその手があったね。オペレーター! こちらダイチ。敵はジバコイルを繰り出した」

――浮遊している……地面タイプは無理……いや、そもそも攻撃手段が……空中でもう一匹繰り出せばさすがのガイチョウも重みに耐えきれないね……いや、小柄なクッチーならいける。そしたら放つべき技は……アイアンヘッド?
 いや無理。えっと……そうだ

613 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/10(金) 18:21:28 ID:+fnMLOCk0
「クッチー、悪の波導! ガイチョウ、エアスラッシュ」
クッチーは繰り出されて早々、角が変形してできた大顎から悪の波導を打ち出し、ガイチョウもダイチを乗せたままエアスラッシュを放つ。
 ひるむ効果のある技を二つ同時に受けたジバコイルは、ダイチのもくろみどおりに近づく勢いを止めた。その隙に特性『磁力』の効果により何もせずとも近づいていくジバコイルとダイチの距離をわずかながらに遠ざけることに成功する。
 ダイチはそこでウエストポーチからハイパーボールを取り出し、ジバコイルに向かい投擲(とうてき)する。

国のライセンスを受けたボールでなければ例え他人のポケモンだろうと普通にスナッチ出来、そうでなくとも当たれば吐き出されるまでにタイムラグがある。要はその隙に逃げようという算段だ。
 案の定ボールに当てられたジバコイルは閉じ込められ、数瞬もがいた後にボールから吐き出される。

「捕まえるにはもう少し体力を削る必要があったみたいだけど……もう追いつけないからいいよね?」
 すでにダイチたちは磁力の射程圏外に出ており、ジバコイルの貧弱な飛行能力ではとても追いつけそうに無い。明確な形でのダイチの勝利だった。
 
「ガイチョウ。一気に追い詰めるよ。スピードをもう少し上げて頼む」
一気に距離を詰めていくと、敵は破れかぶれになったのか大量のポケモンを一気に繰り出した。

「無駄だよ。ガイチョウ、フラッシュだ」
中にはドンカラスとフワライドも混じっているが、どんな強者でも鍛えられないモノはある。それに網膜が含まれている以上、まぶたを閉じても眩しいフラッシュの前に敵はないのだ。防ぐ手段は手で顔面を覆うか目を背けるしかない。

 フワライドの一部は残ったが、ガイチョウが少し風を起こしてやれば何処へともなく飛んでいく。障壁は全て払いのけた。
肉薄した敵に対し、ダイチはクッチーを仕向ける。身軽なクチートがフライゴンの背中に飛び乗る。
 今回のミッションのターゲットである主人を落とさないようにするため強引に振り払ったり出来ないのをいいことに、クッチーは目のカバーをアイアンヘッドで叩き壊してフライゴンを落とした。
 大きな砂埃を上げながら滑り込むように不時着したフライゴンの横、ボールを取り出す手を完全に封じるように腕を大顎で挟みこんでいるクチートと人間の姿が見て取れた。クッチーには甘噛みのつもりだろうが、それでもターゲットはかなり痛そうにうめいている。
 それでも必死の思いで代えの飛行要因と思われるボーマンダと、ビジャスボールの力で支配されたスイクン、つまりはトキシンを繰り出すと最後の望みをかけて命令を下す。

「その銀髪を人質にしろ! レンジャーのやつらは手を出せなくなるはずだ」

614 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/10(金) 18:28:13 ID:+fnMLOCk0
ダイチの元へボーマンダとトキシンが迫る。ボーマンダの竜の息吹をスライディングで避け、足元にもぐりこんですべての手持ちを繰り出す。重厚な鋼タイプがルカリオやハッサムなどずらりと7匹並び、トキシンとボーマンダに立ち向かう。
 ボーマンダはエンペルトの冷凍ビームとメタグロス冷凍パンチによりあっけなく倒れた。
 トキシンは残った5人に袋叩きにされる。多人数を攻撃できる技として、トキシンが選択した吹雪は、ヒードランであるコタツの前には意味をなさない。
 彼女から放たれたソーラービームにより、ウールとの戦いで疲れやダメージの残っていた肉体はあっけなく倒れ付してしまった。

自分の育てたポケモンたちの実力に満足しながらダイチはスタイラーに口を当てる。

「キャプチャ・オン」
 音声認証による起動とともにキャプチャスタイラーが青いラインを描いてボーマンダを囲む。弱ったボーマンダはものの3秒立たずにキャプチャを完了させられた。

「ボーマンダ・ジャム」
 キャプチャされたボーマンダはスタイラーに内蔵された収納装置に詰め込まれ、ターゲットが持っていたビシャスボールの呪縛から開放される。

「スイクン・ジャム」
スイクンも同様の操作を行い、ビシャスボールの呪縛から開放した。
ダイチは腰から取り出したミニチェアのような手錠を手の中で多数のボールをそうするように使用可能なサイズまで巨大化させる。最早抵抗する手段を全て失ったターゲットに対し、ゆっくりと歩み寄る。

「君は……ポケモンを道具のように扱って、ポケモンを侮辱した。ポケモンレンジャーの前でそういうことをするとどうなるか……できれば拳の赴くままに教えてあげたかったところだよ」
引きちぎれそうな強烈な握力でターゲットの耳をつねりながら、ダイチはドスの聞いた声で一言脅す。ソシテ手錠を後ろ手にかけると、こう宣言した。

「16時7分……『特定野生超獣の取引及び占有における国際条約』及び、『超獣の携帯・保護・保管における機器の規格及び所持に関する遵守事項』及び、『超獣の愛護及び管理に関する法律』及び、
 『傷害』、『公務執行妨害』、『器物損壊』の罪などに対する現行犯逮捕を……レンジャー権限により行います。
 貴方はこれから自分に都合の悪い事実を黙秘する権利、弁護士を雇う権利……」


 現行犯逮捕の手続きを終えて、ダイチはふっとため息を吐いた。周りにはダイチがターゲットを捕まえる様を見ていたものから賞賛の声が上げられ、今回のミッションで彼はヒーローとなっていた。

「ああ、オペレーター……聞こえているかい? もうとっくに伝っていると思うけど、ミッションクリアだよ。やっぱり、僕のトップレンジャーの肩書きに偽りは無いってね」
 ダイチは気分よく笑顔を浮かべて、スタイラーに語りかけた。

『お疲れ様です、ダイチ様。すでに護送車の方を手配は済んでおりますので、今日はゆっくりとお休みください』

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうかな」
ダイチはがんばってくれたポケモンたち一同に労い(ねぎら)の意をこめた高級なポフィンを振る舞い、大取物の締めとするのであった。

―――――――
それにしても、ボールを6匹までしか持てないのはやはり法律なんだろうか? 公式設定ではどうなんだろう。

615 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/11(土) 00:14:01 ID:6IB+oar60
>>611-614
クッチーのあま噛み…ターゲットも可愛そうに…

616 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/14(火) 12:23:15 ID:v0l2F+gk0
>>615
まあ、やったことがやったことですので。
しかし、それより可哀想なのはボールの力で操られていただけなのにカバーを叩き割られたフライゴンであったりします。


前回↓
>>603-608

------
「アイタタタタ……痛いよ〜〜」
無数の引っ掻き傷が付けられた胸に、消毒用の火の付くような強い酒をぶっ掛けられてレアスは声にならない声をあげる。

「強いね……レアス。もしかしてなんだけど、向こうで一番強かったって言うのは……同年代だけじゃなくってアーノルドさんとかも含めて?」
アグニはアザになった部分を氷で冷やしながら聞く。

「そうだよ。僕ってばあっちでジュゴンとトドゼルガのハーレムの頂点に君臨しちゃったんだから。僕がその気なら、今頃あちらに50の妻がいたはずなんだよ〜〜♪」
アグニは水の波導を食らったときに口の中を切っていたため、それをゆすぐ為に口に含んでいた海水をシデンに向かって盛大にぶちまけた。

「ア、アグニィ……」
シデンはその海水をぬぐって恨めしそうに睨み付ける。

「ご、ごめん……」

「あはははは……きゃ、言っちゃった♪ あそこはこの街みたいに大きくないし、強い人たちはみんなギルドのある隣町へ行っちゃうから……もう探検隊を引退したアーノルドさんが最強って言う寂れた村だったもので……」
二人は絶句する……なんて奴を海から拾って来てしまったんだと。もちろん、いい意味でだが……とんでもない奴であることに間違いはない。

「やっぱり一対一(サシ)だと普通のやり方じゃあアグニには勝てないかぁ。出し惜しみせずにあの技使うべきだったかなぁ?」
まだ隠し玉あったかと思うと二人は『自分達が苦労して修行した歳月はなんだったのか』と思うしか出来ず、言葉の代わりにため息でそれを吐き出した。

「へ、へぇ〜〜どんな技が使えるの?」
どんな恐ろしい技なのかと思いながら、ひきつった笑顔でシデンは尋ねる。

「こんなの♪」
レアスは祈るようなしぐさをして、触角から淡い光を放つ。その光がフワフワと自分の方へ寄ってきて触れたその刹那、シデンの風景が一変する。
というか、まずは体中が痛い。胸を見てみると、傷を負っているその青白い体は紛れも無くレアスのモノ。前を見ればそこには自分が笑っている。

「さて、もう分かったでしょ?」
目の前にいるピカチュウがそう喋った。と思うと、景色は元に戻る。

「心を入れ替える技、ハートスワップ。こいつを使って入れ替わった体を自傷したり、えっと……」
レアスは北の海から持ってかえってきたと思われる荷物をガサゴソと探り、ひとつの銀色に輝く物体を取り出した。
 二人はそれに見覚えがあった。それは保安官たちが犯罪者を拘束するときに使う手錠である。

「これを使えば勝てたかもしれないってワケ。こんな風に……」
レアスはアグニに向かって手錠をフワリと投げ、瞬間ハートスワップをしてアグニの体で受け取り、アグニの体で手錠を嵌め、元に戻る。

「破壊光線♪」
元に戻った体でそういって、反動も受けないくらいに威力を弱めた破壊光線を放つ。

「あいた!」
腕をいつもどおりに使えずバランスを崩したアグニは避ける間もなく破壊光線に当たる。今回は『あいた!』で済む威力ではあるが……本気のときの威力は肌が粟立つ様なものだから油断は出来ない。

617 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/14(火) 12:24:09 ID:v0l2F+gk0
「わ〜〜い、これならやっぱり勝てるぞ♪ もし僕が仲間になった暁にはアグニたちでも勝てない敵が現れたら僕に任せてね」
レアスが笑う。つくづく敵に回したくない子供である。

「オイラが戦ってみて分かったけど……レアスってチャットよりもずっと強いね……その年齢では無茶苦茶な強さだよ」
レアスは痛みを忘れたかのように目を輝かせる。

「本当? じゃあ……」
レアスの期待に満ちたまなざしは、純粋な子供ゆえの抗いがたさを含んでいる。下手に断って幻滅した顔はまともに見られそうに無い。

「オイラはいいと思うよ。シデンは?」

「う〜ん……チャットより強いって言うのならば……無茶しないって約束するのならば、自分もいいと思うよ。レアスは無茶しないって約束できるかい?」

「出来る! 絶対に出来る! だから、僕を仲間にしてよ。お願い」
手を合わせて懇願するレアスに対し、二人は微笑みかけてその手を握る。

「歓迎するよ。レアス」
「歓迎するわ。レアス」

「やったぁ!」
狂喜乱舞したいところだったが、レアスは飛び上がってみたところで胸に刻まれた怪我を思い出して、その痛みに顔をしかめる。

「ホラホラ、まだ手当ては終わっていないんだからジッとしてる」
シデンはクスクスと笑いながら、オレンの実で作った軟膏をレアスの胸に塗っていく。

「でね、オイラが戦った時の率直な感想を言うよ。確かに強いとは思うけどまだまだ経験不足。
確かに1対1で、破壊光線みたいな大技を使う時に『絶対当たる』って言う確信を持って使うのはちゃんとした基本が出来ている証拠だね。
 でも、今回は絶対に勝てると確信を持つべき時期が甘かったね。そう言った事は経験に頼るしかないけど……君ならすぐに覚えられると思うよ」
治療を続けるレアスに対するアグニのアドバイスがはじまる。

「いやぁ、でも……木にぶつかったときアレだけ大きな音がしたかもう交わせないよねって……僕は思ったんだけど……アグニって丈夫だよね」
レアスの問いかけにしかし、アグニは微笑んだ。

「今回、アグニは頭をぶつけた振りをして、木の幹を殴っていただけよ。だから自分は貴方に向けて『気をつけて!』って叫んだの。アグニは貴方の観察力を試したのよ……今回は貴方の負けみたいね」

「そういうこと」
この会話で、レアスは二人の絆の強さを知る。長く一緒に暮らしてきたとは言え、相手のやりたいことをぴたりと言い当てるなど中々できることではない。

「やっぱり凄いや……僕の暮らしていた世界ってとっても狭かったって良く分かるよ」
レアスの言葉に二人は顔を見合わせて笑う。

「大丈夫。これから絶対に広くなるよ」
こうして、レアスの探検隊生活は始まりを告げる。

618 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/14(火) 12:26:03 ID:v0l2F+gk0
次の日……
「親方、失礼します!」
プクリンのギルド地下2階に親方の私室がある。その扉の先に大きな机。机に付属のイスに座っているのが、このギルドの創設者にして大陸中の探検隊としては間違いなく5本指に入る方、ソレイス=プクリンである。

密閉された部屋の中に満ちるメロメロボディ特有のその匂いは女性の意識を問答無用で侵す。それは伝説のポケモンですら例外では無いらしく、そのせいかシデン曰く『この親方の部屋に入るときは鼻で息をしないように注意している』らしい。

「おやぁレアス君じゃないか? チャットが言っていたけど、レアス君もずいぶん逞しくなったものだね〜〜。
 前にここで暮らしていたときはまともに話をする時間も無かったけど、今日から君も友達だね〜〜」
間の抜けた声色と表情で、しかし何処か攻め込む隙が全く無いと感じさせる威厳を感じさせるたたずまいをした彼がレアスのことをじっくりと観察する。

「相変わらずだね、親方。今日はレアスのギルドメンバー登録に来ました。チームは自分たちのチームに編入する形になるからチーム名は『ディスカバー』でお願いね」
シデンがそう告げると……

「うん、分かった♪ それじゃあ……」
そういって、親方は机をゴソゴソと探り始め一枚の羊皮紙を取り出す。

「これに必要事項を記入してね。あ、文字は読めるかな?」
そんな質問に対し、レアスは触角を立てて

「もちろん!」
と、自信たっぷりに返事をするが……数秒後には……

「…………読めない……ちょっと、虫メガネはないの?」
この契約書は周囲を独特の模様で囲む枠が描かれており、その内側には文字がびっしりと書かれている。その文字は虫眼鏡無しには読めないほどに文字が小さいのだ。
 かつてはこれにシデン達も煮え湯を飲まされたことがある。その煮え湯を飲まされた内容と言うのが……

「……………えっと、仲介料が9割ィ!! 9%の間違いじゃなくって!?」
驚愕する……当然だろう。仲介料を9割むしり取られるなどと誰が考えようものか。

「そのかわり、家賃は探検隊ランクに応じて、毎月1万ポケ〜10万まで工面してくれるし、ガルーラ倉庫との系火薬で倉庫の使用料もタダ。
 ギルド内の食堂もメンバーなら無料で使用できるよ。それに探検中の食費や準備材料も探検隊ランクと購入品目によっては全額経費で落とせるし……まあ、それでもマイナスが多すぎる気もするけど……諦めよう?
 経費で落とせるって言うのを知ったのはレアスが帰ってくるちょっと前まで知らなかったけどね……」
そういってアグニがレアスをたしなめる。

「それってこの……ゴミ粒みたいに小さい文字で書かれたこれのこと?」
レアスは契約書の端っこにある、枠の模様の一部と勘違いしてしまいそうなほどに、さらに小さい文字を指差した。

「うん……それ」

「横暴にして悪辣(あくらつ)だぁ……はぁ……でも仕方ないや。僕も探検隊をやりたいし……」
文句を言うその言葉とは裏腹に、アグニやシデンと同じ土俵に立ちたい一心できっちりサインはする。

「よ〜し、決まりだね? 登録登録……」
親方の手が常識的に考えるとあり得ないとすら思える速度で動いて、紙に文字が音速で刻まれていく。手の動きは神懸っている速さなのに、その文字はやたらと達筆で読みやすい。

「みんな登録……たぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
掛け声とともにスタンプを押す。周囲が平然としている中、レアスだけは驚いて触覚を逆立てる。

「契約完了だね♪ これで君も今日からギルドメンバーだよ。バッジは明後日までに取り寄せるから……とりあえずは記念にこれをあげるよ」
渡されたのは、地図と丈夫そうな革製のバッグ。

「くれるの?」
嬉しそうな顔で親方を見つめながら、レアスが尋ねる。

「うん、それは探検隊をやる上で必ず必要なものだよ」

「自分達が使っていたバッグはもうボロボロだから新しいのに買い替えたけど……今でも家に取っておいてあるんだ。記念の品だから、大事にするんだよ?」

「これからギルドの繁栄と君の成長のために頑張・ろ〜う!」
親方は右手をあげて力強く鼓舞する。

「がんばろ〜う!」
続いてレアスも真似をした。

619 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/14(火) 12:33:46 ID:v0l2F+gk0
「さて、探検隊としての登録も済んで町も案内し終わったね。これからするべきことといえばやっぱり……」
シデンがそこまで言ったところでレアスがさえぎる。

「お祝いパーティー?」

「オイラもそう思ったよ。でも、その前にオイラ達の他にもう一人『ディスカバー』のメンバーがいるから、そっちにご挨拶だよ」

「種族は? 名前は? 男? 女? どんな方?」
レアスはシデンの肩をつかんで、揺さぶりながらの怒涛の質問攻めをする。シデンが答える。

「質問の順番に『クレセリア』 『ニュクス』 『女性』だよ。自分よりもよっぽど美人な方で、とっても優しいし、医者としての腕も一流だよ。だからって惚れちゃダメだよ?」

「オイラはシデンのほうがずっと好きだけどね〜〜」
この二人と肩を並べられるくらいの実力者。期待に胸を膨らませてレアスは彼女が住んでいるという家へ向かう。


「貴方が以前よりお二人が話していたレアスさんですね。ニュクス=クレセリアといいます。今日からよろしくお願いしますね」
女性でありながら少々低めで凛々しい声。三日月のような曲線を体の到る所にに纏うその女性の種族はクレセリアというらしい。

「君が……ニュクス?」

「ええ、そうです。もっと美人な方を想像していましたか?」
ニュクスは微笑んでだした答えに、レアスは首を横に振る。

「いや、その逆。想像以上って言うのかな……あ、僕はレアス。レアス=マナフィって言うんだ。よろしくね、ニュクス」
レアスは握手を望むように手を差し出すと、ニュクスも美しい紫色の半透明のヴェールで体と繋がれた紫苑色の手を差し出す。

「ええ、これからの探検隊生活、がんばりましょうね。レアスさん」
やさしく微笑んでニュクスは手を離した。

「うん、二人とも仲良くなれそうだね。これから長い付き合いになるだろうし、こうでなくっちゃ」
二人を見てシデンが嬉しそうに言う。

「ところで、話は変わりますがレアスさんはこちらの方はご存知でしょうか?」
ニュクスが差し出した紙には、白髪で首周りが赤く全身は真っ黒のポケモンだった。

「知らない……なにこれ?」
レアスの質問には不機嫌そうな面持ちを呈するアグニが答える。

「こいつはエレオスって言うダークライで、こいつのせいでオイラ他達どれだけ酷い目にあったことか……シデンは消えかけるし、コリンやシャロットは完全に消滅しちゃうし、パルキアに襲われるし……本当にろくでもない奴さ。こんな奴……」
罵詈雑言の類が無限に出てきそうな予感がするアグニの口を止めたのは、

「アグニ!」
ドスの利いた声でそう一喝したシデンであった。

「ご、ごめんシデン」
アグニを戒めたシデンは説明を引き継いで答える、

「でね、そんな人なんだけど、今は記憶を失ってさまよっている可能性があるし、もしかしたら分かり合えるかもしれないでしょ?
 一応ソリッドって言うパルキアから彼が逃走した時間の前後で空間に穴が開いていた場所のリストをもらったんだけど、その場所のどこにもいなくって……それで、万が一の可能性にかけてレアスに聞いた……そうよね、ニュクス?」

「はい……もしかしたら何処かで死んでいるのかもしれませんが、それでも生死の確認だけはしておくべきと……いえ、貴方の新しい門出を開くべきときに、こんな湿っぽい話はいけませんね」
謝るニュクスに対し、レアスは笑顔を作って、

「いや、問題ないよ」
と言う。レアスはもともとそんなことを気にするようなタチではない。

「そうですか……では、この話はここまでにして、今からパーティのための食材の買出しへ行きましょう。今日は楽しみましょうね?」
微笑むニュクスに、三人は歓喜した。今日は楽しいパーティになりそうだ。


レアスはその日パーティを一通り楽しみ、その二日後には初仕事を体験した。しかし、結局その後もニュクスが探しているらしいダークライは見つからないままに月日は流れた。

そんなある日のこと。

620 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/14(火) 12:37:26 ID:v0l2F+gk0
「さて……アグニ。今日は昨日の続きをしようよ」

「今日もなのぉ? まぁ、最近はレアスのせいで満足に出来なかったとは言え、毎日だなんて……好きだねぇ」
二人は夜伽を行う相談をしている。レアスは洪水に苦しむ集落が決壊した堤防を復活させるまで雨を降らせないようにしておいてくれということで、グラードンを連れて来てくれなどと言う難易度が桁外れな仕事を受け持ってしまっている。
 必然的に地面タイプの多い『巨大砂漠』と言う名のダンジョンを行くことになり、相性の悪いアグニとシデンはお休みだ。その仕事には少なく見積もっても2週間以上かかる(はずだ)から、まだ一週間しか経っていないこの時点では二人は安心しきっている。

「それじゃあ、いつやる?」

「い・ま・か・ら……」「たっだいま〜♪」
シデンはアグニを抱き寄せて、帰ってきたレアスを見て思わず電気ショックを発してアグニを痺れさせる。

「アバババババババババババババシ……ヒイィィコォォォ〜〜〜……」
急所に当たった。アグニは倒れた。

「あれ? 二人とも何やって……あ、僕の弟か妹を作っ……いや、なんでもない……僕ちょっと泳いでくるね♪ あははは……」
レアスが去っていったサメハダ岩に残されたアグニの全身は、恥ずかしさからか燃え上がり、シデンは思わず虚空に向かってボルテッカーを繰り出したとか。


「いやぁ……い、意外と早く帰ってこれたね。自分たちには真似できないや」

「ホント……どうやってあんなに早く……オイラ驚いちゃった」
気まずい雰囲気の中、今回の仕事についての報告会が始まる。

「いや、ね……僕は思ったのさ。洪水を発生させないためには日照りの特性が必ずしも必要なのだろうか……と。
 もちろんのこと、カバルドン程度の力では100匹集まっても大雨を断続的に砂嵐に変えるには力不足だ。けれど、この世界には偏西風というものがあるでしょ?
 西から東へ常に風が吹いているわけだから、カイオーガが大雨を降らして西の空気をカラッカラに乾燥させればその東の地域には雨なんて降るはずも無いというわけ。カイオーガのアサンとルギアのアージェさんは僕の親友だから快く引き入れてくれたんだ♪
 僕って頭いいでしょ〜〜?」

「うん……頭良いね……本当に」
「うん……そうだね……はぁ」

「イヤイヤ二人とも……覗かれた事なんて気にしないでよ。僕だってああやって生まれてきたわけだし、恥ずかしいことじゃないってば。生きていれば誰でも通る道だし……ね?」
数秒だが、数十秒と見紛うほどに長く気まずい沈黙が流れた。

621 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/14(火) 12:39:47 ID:v0l2F+gk0
「いや、本当にごめん……あ、そうだ。仕事の時、アージェとアサンからいいところを教えてもらったんだ。『海のリゾート』って所なんだけど、いいところだよ。
 さっきの散歩で下見してきたんだけどいいところだよ。色とりどりのグミの木がそこらじゅうに繁茂しているんだよ。
 昼は青く美しい海と強い日差し。海から吹く涼しい潮風と磯の香りを肌に感じながら恋しい人と好きな色のグミを食べ、
 夜は波音(なみね)を聞きながら、陸から吹く風を背中に感じて星々を眺め、水平線が分からないほど真っ黒な夜空と混ざり合う真っ黒な海を眺めながら好きな色のグミを食べると……ね? 気分転換にさ」
 レアスの話を聞いた二人は顔を見合わせその心情を察しあう。目だけの会話だったが、すぐに二人は互いの意を察する。

「わかった。ニュクスも誘ってディスカバー全員で行こう」

「まだ2月の暑い盛りだし、海に行くのもちょうどいいわね」
 シデンたちが笑顔になったのをみて、機嫌が直ったと思い込んだレアスはホッと胸をなでおろす。

「よし、それじゃあさっきの事は自分の電気で忘れてもらえば良しとしますかね」
そういってシデンがアグニへ目配せをすると……

「はい、レアス。痛いけどがまんしてねぇ〜〜」
アグニがレアスを押さえつける。

「え、ちょ……何をするつもり?」
口調は穏やかだが、押さえつける腕にはものすごい力がこもっている。

「さてと……『ガガ〜〜ン、エレキブルウゥ』っと……」
「アッ〜〜!!」
シデンの強烈なアンペアを誇る十万ボルトにより、痺れて動けなくなったレアスは『生きる伝説』の探検隊の怖さを、この時初めて知ったのだ。

「グスンッ……」


レアスが海のリゾートを発見してから数日のことだ。三人の暮らすサメハダ岩のもとに、一通の巨大サイズな手紙が音も無く置かれていた。
「アグニ……これって差出人が……」

「『ソリッド』……ってあの『白くてデカイ、自称空間の神』だよね? どうぉ? なんて書いてあるの」

「え、パルキアから手紙? 僕にも見せてよ〜〜」
封を切って空けた手紙に刻まれていたのは……


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ポケダン時・闇をプレイしたことがない人への捕捉説明。
ポケダンではラスボスを倒す→クレセリアが仲間になる→マナフィが帰ってくる→マナフィが海のリゾートを発見する→パルキアを仲間にすることで今までできなかった進化することが可能になり、ダークライを仲間にできるようになる。といった順番で進んでいきます。

 つまり、マナフィが帰ってくるちょっと前まで、アイテム代を経費で落とせることを知らなかったということは、ニュクスが……

ゲームの設定に一味加えるこういった妄想が大好きなんです。

622 :absl ◆6TCS8LwKXY :2008/10/18(土) 12:20:48 ID:QO0uBiJo0
あっという間に放課後。
ナギにキヅナと帰るから今日は別に帰ろうと言おうと思ったけど
どうやらナギも用事あるようでナギから断ってきた。
キヅナと帰るって言ったらどんな反応してたのかな・・・。
「お、来たな!」
「うん。じゃあ帰ろうか。」
「おう!」
そういって学校から出た。
「でもどうしたの?僕と帰りたいって・・・家別方向じゃなかったっけ?」
そう、キヅナの家は僕の家とは逆方向。
一緒に帰れるはずが・・・
「いや、ちょっとな。二人きりで話したいことがあって。」
話したいこと・・・?
なんだろ。
「お前さ・・・ナギのことどう思ってる?」
「・・・へ?どういうこと?」
「好きなのか?好きじゃないのか?ってことだよ。」
「好きだよ?だから友達なんじゃない。」
「そうじゃなくて・・・女として好きなのかってことだよ!」
・・・え、えええええええええ!!!
い、いきなり何言ってるんですかこの人・・・
「い、いきなりどうしたの?」
「だってお前ら全然進歩ないじゃんか・・・だからこの際聞いてみようと思ってさ」
そ、そんなこと言われても・・・なぁ・・・
「正直にいってみろって。な?」
「う、うーん・・・」
これははっきり言うべきなのだろうか。
キヅナなら言ってもいいような気もするし・・・言おう。
「す、好きだよ。」


書くたびにお久しぶりな気がします
最近資格の試験やらなんやらで精神的に追い詰められていたもので・・・
少し落ち着いたので投稿しました
誤字脱字ありましたら報告お願いします

623 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:32:40 ID:rvZhMVBc0
absl様。展開にわくわくさせてもらいます。これからどうなることやら……また、暇を見つけて投稿してくださいね

前回のあらすじ。この世界にアサが飛ばされて二日目の夜。キールに強引に自警団へ連れて行かれたアサは、パトロールをやらされたのだが、結局全く活躍できずに。
パトロールを終えて家に帰るのであった。
>>576-577

――――――

「さ〜て、今日はもう寝ますか? 明日から仕事だからね」
草のベッドの上、すっかり深夜となったこの時間帯のため、キールは眠そうに横たわる。

「俺は仕事を何すればいいのか分からんのだが……というか、先ず読み書きを教えてくれ」
愚痴をこぼすようにそう言われたキールは気分を害する様子も無くアサの方を向いて答える。

「ああ、そういえば文字の読み書きできないんだっけ? そうだな〜……だったら明日教えてあげてもいいよ。
 じゃあ仕事は……賭場の用心棒なんてどう? それなら仕事中に教えられると思うし」

――仕事中にそんなことしていいのかな……? というか、所長は皿洗いからはじめてみろって……

「仕事中にそんなことしていいのかどうかはともかくとして……分かった。それで行こう」

「大丈夫、問題ないよ。、普通に仕事をやっていても、やつらの方から賭けを持ちかけてくるくらいだから……角が感じる限りでは僕を騙そうとしていたみたいだから、やらなかったけど……」

「ふ〜ん……とりあえず、そうと決まれば早く寝ようぜ。明日も早いんだし……賭場なんて早くないかな?」

「うん、遅くっても問題ないよ。でも眠いから……お休み」

「ああ、お休み」
二人が寝静まると、部屋に聞こえるのは穏やかな寝息だけとなる。


朝が来る……濃密な一日の翌日は目覚めが気持ちよかった。思えばこの世界で起床するのは3回目なワケだが、もっと長く居たような気もしないでもない。キールにいろいろなところを強引につれまわされた結果だろう。
 自分を物かなんかと勘違いしているんじゃないかと、アサも少し不満な気持ちにもなるが、速くこの世界になれさせようとしていると考えればありがたいとも思えてくる。

結局は気持ちの持ちようであり、キールの真意が分からない以上、アサは後者であると信じることにした。
 キールはすやすやと寝ているので、アサは起こさぬように外へ出て顔を洗いに行く。一日二食のこの世界では一回の食事の量も多めだ。

さて、今日の昼はどうするのかというと……勉強に付き合ってくれるそうだ。まことに不思議な話ではあるが、話す言葉は分かるから、後は頑張って文字や単語のつづりを覚えていけばいい。

「なんてゆうか……流石ユンゲラーって言うの? 物覚えが良いや……普通はこれを全部覚えるのには子供だったら数日かかると思うし、大人が短くなるとして異常な気がするのさ。まだ30分で完璧なのさ」
この世界で使われている、楔形文字にも似た足型文字の種類は42種類の記号があり、発音はそれに3倍する数が用意されている。
 キールの言う『これ』とは42種類の文字の形と書き順。そして一文字での発音を覚えることであり、まだまだ文字による会話を行うには全く不十分だ。
 ただ、ケーシィ系統の優れた記憶力はこういうことにこそフルに発揮されてくれる。すぐに覚えられるのは自分自身ありがたいと実感できる。

624 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:34:10 ID:rvZhMVBc0
 出来れば仕事が始まるまでに覚えたかったが……もちろん、いくら頭の良いユンゲラーといえどそれは無理だ。勉強している内に恥ずかしがりやな太陽が地平線を過ぎようとして……なかなか過ぎないのが高緯度地方の夏である。
 ともかく、日は沈まないうちだが、アサとキールは賭場が行われるという酒場に向かう。

――それにしても……ダンジョンに関わる仕事は探検隊連盟の認可を受けていなければいけないというのは理由として分かるが、こちらの方がよっぽど危険なのでは無いかと思う。

アサがそう思う理由は。『こういった場所に殴りこみに来るものなど、よっぽどの手練(てだれ)しか居ない』ということだからである。当然、元からこの店に滞在する用心棒も……

「なんだぁ? 弱いぞ……」
強いかどうかと聞かれれば、彼女には弱かったようだ。

長い鼻を持ち、高下駄のような足をして、手はうちわ状の葉っぱがついている。全身は草タイプらしく木の色をしていて、髪の毛は白髪である。そんな相手の種族はダーテング。
彼は、自身のうちわ状の右手に悪の波導を纏って"突き"を放つ。体を横に捻って、右に避ける。

「おっと」
危なげなく避けた相手の攻撃の後にできる隙に、ここぞとばかりに悪の波導を金縛りにする術をかける。

――次は草の波導だろうか?
 案の定、草の波導での攻撃。型はさっきと同じで波導だけ変えた物のようだ。アサはワンパターンにならぬよう、今度は自分から見て左側に避け、右腕で相手の右腕を掴み取る。
 先ほどまでの突きのベクトルに逆らわぬよう、アサから見て押すような方向に腕を引っ張る。
 激しくつんのめったその隙に、左腕で長い鼻を掴み取る。鼻を掴み取られれば力が抜けるのは、進化前であるコノハナの頃からの弱点だ。
 その状態から手に渾身の力を練りこんだ闘気の波導きを纏い始める。放つ前にダメージを食らってしまえばせっかく集めた闘気が散ってしまうが、悪の波導を封じた今防ぐ手段は存在しない。
 練った闘気が最高潮に達したその時、相手の右手を掴んでいた自分の右手を離すと同時に腹に正拳を叩き込む。

「ぐわぅ……」
物理攻撃の弱い種族柄、相手に油断もあったのかどうかは知らない。意外と知らないのだ……サイコパワーがないと体を動かすことすら出来ない、体を動かすときでさえサイコパワーを使うユンゲラーという種族の真の力を。
 瞑想により、自身の集中力を高めて大きくなるのは特殊攻撃力だけでないということを。
 その際、隙は無尽蔵に大きくなるが、時間に比例するように威力も無尽蔵に大きくすることが出来る。だから相手は一撃で倒れたのだ。

「ふう……弱いとはいえ、やっぱりそこら辺のチンピラとは桁違いね」

アサたちのほかにも用心棒は6人ほど居るのだが……模擬戦のような物をやってみた結果、アサはそのうち二人しか抜けなかった。

――ん、十分だろうか?
 弱いと思ったのは一番の下っ端ということで、二人目で苦戦、三人目はもう無理だと判断してキールが止めたのだ。キールは残った強い人を四人抜き。依頼人であるマスター『二人ともずっとここで働いてくれないか?』と持ちかけられたほどだ。

625 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:40:35 ID:rvZhMVBc0
 キール曰く、アサの完成された体捌きには圧倒的な基礎体力差をものともしない強さがあるから、1年後には全員に勝てているかもしれない……とのことだ。本当にどんな修行を積んだのかと、記憶喪失になった自分へ聞きたい気分だ。

 今回アサたちは助っ人として、一時的に用心棒として入っただけである。ずっとこの職に根を張るとなれば……今回助っ人を雇わなければならない理由、今回の場合は常任の者が大怪我を負ったこと(らしい)の二の舞も覚悟しなければならない。
 何でも、そいつは賭場荒らしにやられたのだとか……全体的には勝ったらしいが、へまをやったそいつはしばらく(傷の具合から残り1週間ほど)仕事は出来ないらしく、それでアサたちに仕事を頼んだ言うのが今回の仕事である。

酒場で行われるこの賭博は悪党たちの巣窟ともなってはいるが、かといって集まっているだけで取り締まるには、根拠となる法には触れるものがないために、いかがわしい仕事を禁じるというギルドの方針を作ってレイザー所長も許可を出している。
 無論の事、勝ちに勝った客に刺客として送り込むなどという行為をやらせる用な事は助っ人にさせる様な事はしない。まぁ、それが露見すればカマのギルドからは永久追放だけでなく、レイザー所長がその無尽蔵な強さを武器に保安隊へとそいつを引きずっていくからだ。
 もちろんバレなければよいのだが、そのペナルティがある以上ギルドを辞めてからこちらにはいった方が得策である。

そんな事情で二人は酒場へと入り、当初の予定通り仕事をする。
酒場の内部は、石畳になっており、右奥の方にカウンター席。左手前からそこまでの道のりには、床に固定されたテーブルと、簡素なイスがある。それぞれのテーブルの上にはランプがつるされ、ディーラーとの勝負もあれば、客同士での勝負も行われている。

 どちらと勝負するかは自分しだいだが……ディーラーとの勝負は確立の関係で2〜3%は酒場側の儲けとなる。客同士の場合、イカサマによるばかし合いで、気が休まらない。そんな酒場だからこそ、小競り合いもあり、その仲裁は用心棒の役目だ。

 だが、用心棒の仕事がそれだけなら6人も必要になるはずもない。用心棒が必要なのは、賭場荒らしによる物だが、そんなことが毎日起こる酒場などないだろう。
 そういう風に、用心棒が必要ないときは酒場の中で勉強というわけだ……が。

626 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:41:31 ID:rvZhMVBc0
「よう、姉ちゃん。用心棒の癖に勉強だなんてみみっちいことやっていないで俺たちと勝負しないか?」
と、こういうふうに話しかけてこられるのは勉強していようと黙していようと防ぐのは不可能であるようだ。

「唐突にそんな事言われても、俺は金持ってないんだわ」
そう断っても結局勉強は妨害される。依頼人の客に手をだすわけにはいけないという弱みがある以上、相手をしなければ結局勉強に集中できない。

「分かったよ……この仕事の給料1800ポケだったな? キール……貸してくれ」

「ねぇ、アサ……昨日注意したと思うけど、きっとカモネギられるのさ? 僕の角はそういう気で満ちていることが手にとるように感じているのさ……」

「問題ない……賭けの最低金額は?」

「初回は200ポケだ。後は好きにしてもらっていいぜ」
キールの言い分を無視してアサは話を進める。

「ああ、アサァァ……そんな自信満々な感情出してても騙されるのが落ちなのさ……」
酷く悲しそうなキールの声にアサは振り返ってウインクで返す。正直、ユンゲラーのウインクは気持ち悪いが、まぁそんな事は問題ではない。

「大丈夫……150ポケあれば一日ぎりぎり暮らせるだろ?」
アサの感情と目は、『勝算ならある』と言っているようだった。
アサが承諾したゲームは『殻ゲーム』と呼ばれるものだ。胡桃の殻などに豆を入れて、三つをかき回し『さあどれに入っている?』という簡単なゲームである。

 無論イカサマなどし放題だ。具体的には、ゲーム始まってから、空の中に豆を入れかき回すまでの間に、机と殻の間に空間を作りうま〜く抜き取るということで結構熟練した腕が必要なのだが、
 この賭けを持ちかけた男は紫の体毛に二本の長く器用な尻尾を持ったポケモン、エテボースだ。マメをばれない様に抜き取ることなど造作もないことだろう。
 そして、抜き取られたからをめくったカモに対し、手元に手繰り寄せた殻へ豆を忍び込ませて言うのだ。『あら、こちらを選べば当たりだったのに……お嬢ちゃん残念!』と……。アサはもちろん同じ&(わだち){轍};を踏むつもりは無いが。

 アサはエスパータイプ言うということもあってそれなりにイカサマ出来ないようにはされている。
 アサは唐突に首飾りを付けられて何かと思えば、念の波導を感知して色を変える不思議な鉱石で出来ているのだとか。なるほど、これを使えばミラクルアイも未来予知も出来ないというわけだ。
 だが、そんな事は関係ない。こういうのは何を選んでも当たらないと言うのが相場で決まっている以上……だ。

627 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:42:38 ID:rvZhMVBc0
「そんじゃ、目は潤ってるな? 瞬きするなよ、してもらった方がこちらとしてはありがたいがな」
腕より器用だといわれる二本の尻尾でかき回す。そのスピードは速い……けど、スピードなんて関係ない。尻尾が混ぜ終えた……

「さてと……一つしかめくれないって言うのは寂しいな? 二つめくって、そのどちらにも豆が入っていなかったら俺の勝ちでいいかな?」
これが必勝法。相手はまずいという顔をする。

「え、いや……」

「じゃあ、最初の一つ目で当たっていなかったら、お金はあげるから残りの二つも俺にめくらせてくれるとか……いいな?」
用心棒が笑顔によって脅しをかける。結局最初に出した条件である『二つめくって、そのどちらにも豆が入っていなかったら俺の勝ち』を呑んで貰うことになった。
 どこの殻にも豆は入っては居ないのだから正解しないわけがない。アサは目を瞑っていても勝利できる勝負に自信満々で殻を開ける。

案の定……勝利だ。アサは生活費の『切り詰めて暮らして1日分』を手に入れた。

「じゃ、いいよね? 俺は勉強したいからさ……」
キールとともに机へ向かう。用心棒に喧嘩を売るなど出来やしないので、黙るしかない。
意外にも勉強ははかどるものだ……このような騒がしい場所だから、すぐ近くでも大声を張り上げねばならないが。

 勉強中は近づかないでくれという気持ちだったが、女性が用心棒などやっていると、物好きというのは居るものでユンゲラーの雌であるアサに相手を(何の相手かは言いたくないが少なくとも賭けでは無い)したいという者もいる。うざったいが少し嬉しい。
 ただ……キールのが誘いを受けることが多いというのが女として屈辱に思えてならない。

――くそ……俺よりキールのほうが男性にとって魅力的かよ

628 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:44:15 ID:rvZhMVBc0
何事もないまま数日が過ぎた。というか、何事もなさ過ぎる。前述したように小競り合いの仲裁もアサたちの仕事なのだが、全部キールが止めてしまう。
 流石は感情ポケモンといったところであろう、争いが起こりそうになるとその場所に静々と歩いていって、にこりと微笑む。抑止力としては申し分ない。

 抑止力になるのは小競り合いだけでなく賭場荒らしに対してもだ。賭場荒らしは早々来るものでは無い。そのため、給料の一週間1800ポケというのはかなり低く見積もられた額なのだが、その代わり……一度でも賭場荒らしが来さえすれば、給金は倍なんてものでは無い。
 一枚あれば一ヶ月の間、余裕を持って暮らせる金貨を2枚もらえる。

「じゃぁ、これを読んでみるのさ。子供向けの絵本だから勉強には最適なのさ」
暇な時間が多いために勉強の方もかなり進んでいる。

「えっと……
【アグニは叫びました。
「オイラのカケラかえしてよぉ……だいじな、だいじなものなんだ」
しかし、イジワルなドガースは返そうとはしてくれません。
「へへ、くちだけじゃつたわんねえなぁ。だいじならじぶんでとりかえしにきてみたらどうだ?」
イジワルなのズバットも、アグニにこういいます。
「ケケケ、できるならなぁ」

・】
ふう、これで良いのかい?」

「ふふ、完璧じゃないの。この分ならば、大人用の新聞だって読めちゃうね。やってみる?」

 勉強をしていて気がついたことがある。文字の発音が分かり、それを自分で呟いたとして、意味が急に頭に浮かんでくることがないというところだ。相手が言葉音を発して初めて意味が分かる……不思議な感覚である。
 つまりどんなに難しい文でもキールが読んでくれれば分かるのだが、アサ自身が読むととたんに意味が分からない。
 それをキールに話すと、これまた『そういうことだったの』と何の事は無く返される。恐らく勉強中にその感情を角により感じ取っていたものと思われる。
 とはいえ、一度読んでもらえば意味が分かる。キールは何も知らない自分に対して親切に何でも教えてくれる(性的な意味でなく)から、読んでくれることを快く承諾してくれる。

「【その際、分かったのが押し込み強盗にて捕まった者が盗賊のリーダーを勤めていたことである。刑期を終える前に、その街道に盗賊がいることで得する"何者"かが彼を釈放させたと見られている。これを受けて保安隊は

・】
と、言うわけなのさ。酷い話だね……民のことをなんだと思っているのやら。でさ、この話には続きがあるんだけどさ。
 その前に、入店したときから殺気立っている連中……あ、多分僕しか気がついていないけど、ちょっと問いただしてくるね。多分……仕事が始まるからスプーン……磨いておいて」
キールが角を弄っている。むずがゆいのかは知らないが違和感があるのだろう。

629 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:48:31 ID:rvZhMVBc0
「そうだ、その前に……」
キールがアサに抱きつく。ユンゲラーの大きな尻尾が立ち上がり、威嚇するかのように毛先が広がり、アサの体は硬直した。

「おま、唐突に何を……」

「明るい感情思いっきり頂戴よ……僕のサイコパワーの源を……」
キールはアサに抱きつきつつも、角はやはり気になるのか左手で弄りっぱなしだ。

「ふふ……良かった、照れはあるようだけど喜んでくれているみたいだね。僕も元気いっぱいになれるのさ」
これだから恐ろしい。どれだけ感情を隠そうと心を閉ざしても、ヘルガーの鼻のように鋭敏な角は誤魔化せないと言う恐ろしさだ。

「くそ……お前相手だと否定できない。卑怯者め……その角は反則だ」
自分でもサイコパワーの源が流れ出ているのがわかってしまうから始末が悪い。

「アサ……女の子らしい反応でいいと思うよ」
キールのことを、親切とか卑怯者とかいろいろな評価を下しながら、アサは殺気を秘めている客を問い詰めにいくキールを見守るしかなかった。

「ねぇ、お客さん。儲かってますか?」
用心棒が話しかけてくる。その行為の気持ち悪さはいかがなものか? 自分に卑しいことがあると、家を訪ねるものが全て警察の類(たぐい)なのでは無いかという疑惑……
 それで本当にそう言った類の格好したものものが話しかけてくるなど、想像もしたくない気味の悪さに違いない。

ご多分に漏れず、敵もキールに対し何か気味の悪いものを感じたのだろう。キールに突然襲い掛かる。
 襲い掛かったポケモンの種族は、エネコロロ。美しい見た目であり、男性のそいつは女性が嗅ぐと不覚にもクラクラしてしまう匂いが漂っている。戦闘中にそんな状態になっては致命的であり、異性は近づいてはいけない種族の代表だ。
 と、ここまで言ってなんなのだが、紹介する意味もなかったくらいにあっさりとやられてしまった。キールのサイコキネシスは反則的なまでの強さを誇っている。
 さて、それで今のところどのような配置になっているかというと、
 この酒場を取り仕切り、金庫を預かっているマスターを守るのがレディアンとルンパッパの二人。
 店を見回るのがアサとキール。
最後に入り口を預かるのがダーテングとゴルダックの二人

630 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:51:58 ID:rvZhMVBc0
――こんな少人数で大丈夫なのだろうか?
 というのは杞憂だった。キールがエネコロロを倒すと、堰を切ったようにイスに座っていた敵たちが立ち上がり始めた。客は伏せているように用心棒のリーダー格のレディアン指示して、客は伏せる。
 アサは中身の入った酒瓶を念力で操って草タイプであるウツボットに攻撃する。キールの二番煎じになるが……燃やした。のた打ち回りながらウツボットは倒れる。
 アサが安心したのもつかの間、後ろから襲い掛かられる。

――フローゼルだ……
 アサは伏せてから足に体当たりをして転ばせると、

――草結び……は石畳だから使えない。
 そんな一瞬の迷いの刹那に新手が迫る。シザリガーだ。

――なんだか最近見たな。いや、そんな事はどうでもいい。挟み撃ちだ……同士討ちを恐れてくれればいいが……
 シザリガーはエスパータイプに効果抜群なシザークロスで下半身を。そして、フローゼルのほうは噛み付いて上半身を狙っているようだ。囲まれてはかなわないと、軽く伏せながら横に走って逃げ、足元にスプーンをばら撒く。

「ふふふ……」
そして意味深に笑う。実はこの行動に何の意味もないが、敵の動きが一瞬止まってくれれば。それで御の字だ。エスパータイプの十八番である『念力を未来に送り込む攻撃』を発動する暇があればいい。
 何もなかったことに気がついたのか、敵は攻撃を再開した。
 避ける、避ける、避ける。雑魚ならともかく手練二人に囲まれて反撃のタイミングを見出せるほどアサは強くない。
 そのうち、奴らの攻撃は、未来に贈った念力により一瞬中断させられる。隙が出来たフローゼルをサイコキネシスで手繰り寄せシザリガーにぶち当てる。振り払われたフローゼルを空中で手繰り寄せ、またぶつける。
 念の波導に依るダメージは悪タイプであるシザリガーには与えられない以上、ダメージはフローゼルがぶつかる衝撃に依るモノのみである。フローゼルはもうボロボロになり、サイコキネシスを自分の波導で振り払う気力すら残っていないようだ。
 ならば……とアサは手元まで手繰り寄せて盾にする。相手が出方をうかがっている隙に、この酒場の用心棒の検定試験のような模擬戦でやったときと同じように闘気を練り……フローゼルごと、渾身の力でぶん殴った。
 フローゼルはもちろん昏倒。シザリガーは虫の息だ。そこを、味方のルンパッパがすかさず攻撃して、倒す。

――さて、まだ立っている敵さんは……いない。キールが超速で倒しているいるようで、その数8人……まだ3人しか倒していない自分とは比べ物にならないな。
 アサは他の者たちも大丈夫かとあたりを見回してみる。マスターと金庫を守っていたルンパッパとレディアンは無事。しかし……

――もうすぐ怪我した奴らが戻ってくるかと思えば、今度は入り口を守っていた二人が怪我しているって言うね……唐突に就職してくれとか言われそうで嫌だなぁ……

二人は就職の誘いがあったとしても、もちろん断るつもりだ。



631 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/19(日) 22:53:02 ID:rvZhMVBc0
え〜と……今回はこれで終わりです。なんだか最近このスレが寂しいですが、皆さん頑張って盛り上げていきましょう。

632 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 14:36:01 ID:X+E3DYgQ0
>>623-631
乙です。たしかに盛り上げていきたいですね。

633 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:21:29 ID:Txs76Pz+0
KEEP OUT
この先には、「意味不」、なおかつ「日本語でおk」な内容の小説が投下されています。
残念ですが、チラシの裏には行きません。
お金では買えない活気があry

余計に寂しくなったらごめんなさい。

―――――――――――――――――――

 僕は絶句した。元々、話す事は苦手だけど、こんなに緊張したのは久しぶりだった。
 最近はご主人と一緒に家の中で過ごすことが多く、外にも出ず、ご主人以外の他人と話していなかったというのも、大きな要因なのかも知れない。ともかく、同居することになったルカリオに対してどう接していいのか分からなかった。
 それだけではない。目の前にいるルカリオは、とても魅力的なのだ。
 彼女が女の仔として、かわいいだとか、きれいだとか、そういうことじゃない。人やポケモンを迷わしてしまうような、不思議な力を持っていたように思う。
 僕は出会った初日だというのに、そんなことを感じ取ってしまった。
  
 バラ色をした目は、空っぽで……。空っぽのはずなのに、見えないほど奥には小さな炎が宿っているように見える。それは希望に満ち溢れ新しい生活に期待しているようなものではなく、風が吹けばさっと消えてしまいそうなほど、弱い炎だった。何かに諦観しているようだった。
 彼女を見つめていると照れているのかうつむき、ガラス細工のように透けた頬はほんのりと紅色に染まる。
 
 僕は、何か悪いことをしたように思えてきて、ルカリオの隣にいるご主人の顔色を伺った。
 悪いことをしたはずなのに、ご主人は微笑んでいた。
 胸が締め付けられるように痛くなって、なんだか不思議な気持ちになった。そっぽを向かれるようなことをしたのに、ご主人にも非難されず、むしろ楽しまれている様子。ともかく、僕も訳が分からなくなって顔を背けた。
 会話できるような状態じゃなかった。そんな余裕もなかった。

 ただ、この悪い場の雰囲気をご主人が何とかしてくれるだろうという期待だけを持って、ルカリオに話しかけてみた。
 いや、そんなことは口実で、僕はルカリオに興味を持っていた。
「ルカリオのこと、なんて呼べばいいかな? 名前とかさ……。僕はウインディだから、ウインでいいよ。ご主人だってそう呼んでるし……」
 その言葉を聞いて、ルカリオは顔を上げる。まだ頬は紅色で、無理に僕を見ているような気がした。
 バラ色の目が悲鳴を上げてるように見えた。

「ウインディがウインなら、私はルカリかな? それとも、ルカ? どっちにしても私は貴方のこと、ウインディって呼ぶけどね。今日、会ったばっかりで馴れ馴れしくするのは、ちょっと……」

 ウインディって呼ばれるのも、ルカリオって呼ぶのも他人行儀で嫌だった。同じ家で暮らすから、仲良くしたいとも思っていたし。
 だけど、ルカリオが僕のことをウインディって呼ぶのなら、僕も彼女に合わせたほうがいいと思う。嫌だけど、きられるのはもっと嫌だから。
 仕方は無い。頭の中では分かっていても、心が傷ついた。
 
 それから、僕はルカリオに話掛けるのをやめた。何か苦しいものが喉元に詰まっていた。
 
 訪れたのは沈黙だった。
 とても長くて、間の悪い、しーんとした時間。
 僕も、ルカリオも、ご主人でさえも凍り付いてしまい、表情ひとつ変えない……。変えられない。
 僕は人形になって、ルカリオはガラス細工のように濁りのない青色で、ご主人は会話の出来ない二人に呆れているようだった。
 目がご主人とルカリオの間をなんども行き来して、終いには何を見たいのか、ここで何をしてたのか、これから何をするのか、さっぱり分からなくなってしまった。混乱していた。
 そうしているうちに、身体が熱くなってくる。
 特に顔が一番熱い。
 とても奇妙だった。三人の息遣いが聞こえるくらい静かな中で、何もかもが冷たい中で、僕は紅潮しているようだった。
 ゆっくりと自分の中で恥ずかしさだけが成長していく。
 自信がなくなって、だんだんと嫌になってくる。
 ついには、この場から逃げ出したくなってくる。まるでルカリオに一目惚れでもしたのかと感じてしまうくらい。
 そう思うと、もっと熱くなる。

 悪循環が続く。

 しだいに、自分の顔を見られたくなくなった。自分は今どんな顔をして、ルカリオを見ているのだろう。
 真っ赤にして、不安でいっぱいになって……。
 僕はうつむき、心だけで逃げだした――

634 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:23:33 ID:Txs76Pz+0
「二人とも、仲が良いのは結構だけど、そろそろお部屋に移ってくれないかな? 私は眠くて、眠くて……」
 ご主人は大きなあくびをする。時計を見るともう、11時を回っていた。全く実感がないのだけど、集中すると時間が早く感じてしまうのは僕だけじゃないはず。
 
 とにかく、あくびをしながらご主人は、僕とルカリオの寝る部屋について話していた。
 僕の部屋か、ご主人の部屋か。選択肢はその二つ。二択ならすぐに決まりそうな気もするけど、なかなか上手く行かない。ご主人は、僕とルカリオが同じ部屋で寝てほしいみたいだ。
 そっちのほうが、早く仲良くなれるし、話しやすくなるだろう、と……。

 だけど僕は嫌だった。少しの間だけ一緒にいるのは良いけど、ずっとは嫌だった。息の抜ける時間が無くなってしまう。この短期間でさえ、緊張でおかしくなったのにずっと一緒なんて考えられなかった。
 でも、本当は一緒でもよかった。ただ、不安だった。嫌われはしないか、自分の形を保てれるのか、不安だった。
 だから、僕は何度も、ご主人とルカリオが一緒の部屋を使ってほしいと言い続けた……。

 言い続けたけど、結局、ルカリオと同じ部屋を使うことになった。
 本当は嫌だった。
 嫌だったけど、不意に目が合うと。ルカリオは僕以上に不安そうだった。
 バラ色の目は霜が降りているようで、今にも枯れてしまいそうだった。ガラスのように透けた肌には色がない。本当に透明になっていて……、見ているこっちが心配してしまうほど。
 今にも泣き出しそうなくらいの彼女を見てしまえば、「同じ部屋なんか嫌だ」とは言い続けられない。

 僕はずっとこの家にいるけれど、ルカリオにとっては見ず知らずの場所なんだから、ポケモンの友達を作ったほうが良い……ってご主人は思ってたのかも知れない。そんな当たり前のことに、ようやく気付くことが出来た。
 だけど気付くのが少し遅かった。

僕の部屋は狭い。何せ僕は人間じゃない。ポケモンだから、粗末な屋根裏部屋を使わせてもらっている。昔はご主人と一緒に寝ていたのに、いつからか別々の部屋で寝るようになり、今ではそれが当たり前になっていた。
 ポケモンと人間。種が違っても男女ということなのだろうか? でもそれなら、種の同じ僕とルカリオはなぜ同じ部屋なのか気になった。
 やっぱりご主人が僕しかポケモンを持っていないからかも知れない。だから、仕方なく……。それも少しおかしい気がするけど。

 部屋はとても狭くて、二人で使うには不自由だった。僕の部屋からは星が見えた。だから、僕はいつも星を眺める。 
 でも、今日はルカリオを眺めていた。
 見れば見るほど、吸い込まれていきそうで……。
 真っ暗な部屋に差し込んだ月明りが、透明な身体を鮮やかにさせる。
 会話はなかった。話しかけようとするたびに、言葉が喉と口の間でせき止められ、胃のほうへと逆流してしまう。
 僕とルカリオは律儀にも座っていた。
 本当にこの場所で眠れるのかという不安が頭をよぎる。布団はひとつしかないから、必然的に風邪を引く。
 そんなことより、女の仔と一緒に寝ること自体ありえない。僕だって男なのだから……。
 僕は首を何度も降った。

 首を振るたびにルカリオのほうに目が向いてしまい、複雑な気持ちになる。なんで、僕はここまで掻き乱されてるのだろう。
 やっぱり、ルカリオに惚れてしまったのか。だから、こんな気分になるのだろうか。

「布団、ひとつしかないけど……。どうしようか?」
 何を聞いてるんだろう。僕が部屋の隅で寝て、ルカリオが布団で眠ればすべて解決するのに、分かりきっていることなのに。
 そして、話してからとても後悔した。これでは、僕が誘ってるみたいじゃないか。
 だけど、言葉を取り消すなんてことは出来なくて……。僕は唖然としてしまう。

 ゆっくりと流れる時間に逆らうことも出来ず、水晶玉のように透き通った身体は全く動かない。
 
 ――空気が悪い。
 
 それからしばらく、話掛けれなかった。きっと僕は意識していた、と思う。しすぎなのかも知れない。
 きっと、ルカリオだって一緒に寝たいなんて思ってないだろう。さっきの口ぶりからすると、まず間違いはない。いや、そういう問題じゃない。同じ部屋に、年頃の男女が、二人っきりで居ること自体間違ってる。しかも夜が更けた頃、普段ならとっくに寝ている時間。
 悪いことばかりだ。
 ともかく、逃げよう。
 ルカリオから……。この部屋から逃げて楽になろう。


635 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:24:56 ID:Txs76Pz+0
思い立ったら早かった。無言になる前の言葉に少しだけ、付け加えればいい。
 僕はなにも考えなかった。
「僕は少し外に行くから、ルカリオはその布団で寝ると良いよ」
「そう、散歩なら付き合おうか?」
 
 予想外な一言。ルカリオは僕を逃がしてはくれないらしい。いや、そんなつもりはないのかも知れないけど、現に逃げれなくなっている。僕は答えに迷う。素直に一人になりたいというのか、それとも我慢して一緒に散歩でもするのか……。
 月は雲に隠れてしまったのか、部屋の中が真っ暗になる。その中でルカリオの息遣いが聞こえると、僕の心臓は激しくリズムを刻みはじめる。そうすると、しだいに呼吸が苦しくなって、頭が茹だってしまいそうになる。いや、茹だってしまった。
 冷静な自分と、恐怖に駆られた自分と、汚れた自分がせめぎ合っていた。

「いや、一人のほうがいいかな。それにルカリオだってさっき言ったでしょ? 初めて会ったのに、馴れ馴れしくしたくないって……」
 もう、彼女の表情は読み取れない。バラのような瞳も、透き通ったからだも、何もかもが暗がりの中に吸い込まれていて、僕自身も消えてしまいそうなほど。
 彼女は黙っていた。
 自然に会話が途切れた。
 僕は最低だ。さっきルカリオに言われて傷ついたはずなのに、嫌だったはずなのに。
 なのに、同じ言葉を掛けている。使っている。傷つけている。

「そう。ごめんね、私なんか、来ちゃってさ……。邪魔しないから、行ってくるといいよ」

 ここには、居られない……。そう思って部屋を出た。
 中と外では雰囲気が全く違い、束の間の安堵を得た。しかし、この散歩の口実が使えるのも今日までかな。毎日、外で時間を潰していたら身が持たない……。そう考えると、寝る場所の確保は死活問題だった。

 落胆のようなものを引きつれ、僕は玄関へと向かう。
 途中でご主人とすれ違ったが、お互い無言だった。
 でも、こうなっても仕方ないじゃないか。一緒に寝る相手が女の仔じゃ、こうするしかない。
 ドアを開けると、冷たい空気が一気に流れ込む。月ですら雲に隠れてしまっていて、外は薄暗かった。だけど、僕は迷わない。行く場所はさっき決めた。ここは田舎だから、行く場所なんて多くない。
 
 そう、ここは田舎だった。深夜まで灯りの付いているビル街も、コンビニの前で座り込んでいる目障りな学生もない。あるのは、草原と森と、でっかい運河に、小さな民家だけ。とても静かなところだけど、悪くはない。
 夏になれば、木の香りが風とともに流れてきて、冬になれば、波の音が遠くから聞こえてくる。住んでる人はみんな優しくて、ポケモンだからという理由で差別したりしない。確かに、何もない所かも知らないけれど、都会にはない何かがある。だから田舎でも悪くはない。
 
 僕の行く場所は、いつも海辺だった。コンクリートで固められ、自然なままの海とは言えないけれど、僕にとっては十分だった。
 行ったり来たりする水の音さえ聞けれたら、それで満足だった。

 見上げるとさっきの雲は消え、満天の星空。都会では絶対に見られない、田舎だけの宝物があった。潮騒を聞きながら、夜空の宝石を見つめる。何もかもを忘れさしてくれる、とても貴重な時間だ。特に今は、何もかもを忘れてしまいたいから、本当にありがたい。
 嫌なことなんかすぐに消えてなくなってしまいそうだ。だけど、今日は簡単には消えてくれないようだ。
 頭の中では、まだルカリオの事が気になっている。気になっているのは嫌っているからか、それとも意識しているからか……。 
 ともかく、女の仔と同じ部屋で寝るのは何より嫌だった。
 いや、女の仔が嫌って言う訳じゃない。別にどうでもいい相手なら、何も思わない。元はそういう生活をしていたのだから。
 でも、ルカリオは別だ。
 彼女と居たくないんだ。
 彼女といると……一緒だと……焼けた鉄を踏みそうになるんだ。

 だけど、ルカリオにとってはどうなのだろう。一人だと気が楽でいいのだろうか。いや、そんなはずはない。初めて来た場所に一人でいても不安なだけだろう。
 じゃあ、なんで僕は外なんかに来たんだろう。 
 なぜルカリオから逃げ出してしまったのだろう。一緒に居たほうが嫌われずに済んだのかもしれない。でも、一緒に居たら絶対に……。
 それでも、逃げるんじゃなかった。もっと、ルカリオのこと、考えるべきだった。


636 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:35:57 ID:Txs76Pz+0
 波の音が聞こえる。世界の果てから来た塩水が、ゆっくりとコンクリートブロックに当たって砕ける音。
 ときには大きな波が来て、僕の身体は水滴で濡れる。なにもかもが冷えているから、ほんの少しの水でも痛いほど。遠くのほうでは海鳥たちが鳴いている。早い朝食の準備でもしてるらしい。
 僕は重たい身体を起こす。同時に、頭に鈍痛が走る。目の前はまだ暗くて、地平線の向こうでさえ太陽の気配を感じることは出来なかった。よく寝ていた。おかげで身体が硬直してしまうくらい冷えている。足元がふらつく。熱はない見たいだけど、寒さにやられてるみたいだ。

 ともかく、あと少しだけ時間を潰さないといけないだろう。まだ日が昇っていないのだから、ルカリオが起きているわけもない。彼女が寝ていたら、今日の野宿は意味がない。何をするか分からない。
 かと言って、時間を潰す場所も、寒さから逃げられる場所もない。つまり、寒いのは我慢するしかないということだ。だけど、このままだと身体が冷えすぎてはいけない。実際、もう我慢できないほどに身体は冷えているのだから……。
 厳しいところだった。このまま家に帰ってしまえば努力の意味がなく、家に帰らなければ風邪を引く。
 頭の中では解決していた。
 ――家に帰ってしまえばいい。帰ってご主人の部屋にいるか……、自分の部屋にさえ戻らなければいい。
 だけど、それをするとルカリオはどう思うか。簡単だ、自分が嫌われていると思うに違いない。そうすると、家に居れなくなってしまう。きっと彼女は出て行くだろう。あの目を見れば分かる。
 期待なんか微塵もない、枯れてしまったバラのような……、まるで世界を知り尽くしていて、自分の存在は要らないんだと言わんばかりの冷たくて、…………でも誰かに好かれたいという目。現実では誰も自分のことを見てくれず、助けてくれず、嘲笑うのだと知っているような目。
 僕が逃げれば彼女の居場所がなくなってしまう。
 それまで考えてしまうと、今日みたいに野宿が日課だということにしないといけない。そのためには、ご主人と口裏を合わせる必要があるし、ルカリオに知られてしまえば意味がない。
 正直が一番良いとも思うけど、普通に話すことが出来るならここに来て、海なんか見ていなくてもよかった。 
 結局、僕は逃げているだけだった。逃げて、逃げて、見たくないものには目をつぶっている。
 責め立てる自分の隣に、逃げようとしている自分が座っていた。昨日までの自分のことしか考えていない自分が居た。

 ――このままだったら、昨日と何も変わらない。もう、逃げないって決めたじゃないか。ルカリオのことを考えるって決めたじゃないか……。 
 不意に涙がこぼれてきた。苦しくてじゃない。自分が情けなくて、涙が出た。
 家に帰ろう。逃げるためじゃなくて、ルカリオと向き合うために……、帰ろう。

637 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:38:54 ID:Txs76Pz+0
家の中は真っ暗だった。こんな朝早くからご主人が起きているはずない。まだ太陽すら目を覚ましていないのだから、当たり前だ。
 僕はそっと部屋に向かった。誰も起こさないように歩く。小さい間隔で。まるで水の上に波紋を残ず歩こうとしているみたいに……。
 部屋にたどり着くまでが一苦労だった。短い距離のはずなのに、とても長い時間だったように感じる。
 ドアをそっと開ける。
 ルカリオは布団の上に座り、窓の外を眺めていた。彼女は、まだ起きていた。月は窓の外から居なくなり、部屋を照らすものは何も無い。この場で何が起こっても、僕とルカリオだけしか分からない。
 みぞおち辺りがきゅうと締め付けるように痛む。だけどもう逃げない。逃げてはいけない。少なくとも、そんな気がした。これ以上逃げると、取り返しがつかないことが分かっていた。

 逃げないと決めていても、何を話すか考えていなかった。結局、何も無かったように振舞うのか、それとも素直に謝るのか……。
 どっちにするか決めていないことよりも、言葉が出てこなくて困る。
 胃が締め付けられる。頭がぼんやりとしてきて、なにもかもどうでも良くなってくる。なかなか出てこない言葉の代わりと言わんばかりに吐き気がこみ上げてくる。
 それを必死に抑えようとすると、自分は何を苦しんでいるのだろうと思ってしまう。
 
 ――逃げてしまえば楽なのに……。

 僕は口を開く。開いてみても、吐き気と不安で声が出ない。喉まで上ってきているというのに、あと一歩のところで、逆流してしまう。喉を過ぎてくるわずかな言葉は、まるで助けてほしいといわんばかりに、声にはならない音に変わる。
 頬に一筋の冷たいものが流れたけど、それが汗なのか涙なのか確認する余裕は全くない。目の中に映るルカリオの姿はしだいに歪み、水の中にいるような錯覚に落ちる。頭の中で太鼓が響いていて、音と一緒に痛みが走った。
 僕はここで何をしているのだろう。
 何をしたいのだろう。
 ルカリオと仲良くする?  
 それなら、なんで言葉が出ない。ルカリオと仲良くしたいというのなら、素直に謝ればいい。
 謝ろうとしていても、言葉が出ない……。それを理由に逃げている。
 また逃げている。仲良くしたいというのなら、謝るのが一番じゃないか。一緒に居たくなかったとはっきり言えばいいじゃないか。理由まで含めて……。なにもかも話してしまえばいい。
 それを渋るということは、仲良くしたくないということだ。
 
 結局僕は他人によく見られたいだけなんだ。それだけで悩んだり、逃げたりしてるんだ……。いい子で居たいから、自分に嘘をついてルカリオから逃げているんだ。
 本当に最低だ。
 僕の前足は急激に脱力し、視界が下に落ちる。小さな水粒が床を湿らせていた。
 
「やっと帰ってきたんだ、おかえり」
 唐突だった。僕が話しかける前に、ルカリオから話掛けてきた。
 瞬間に、今まで考えてきたことのすべてが白紙に戻る。

638 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:40:45 ID:Txs76Pz+0
「ただいま。今までずっと起きてたの?」
「うん。……ほら、星が見えるでしょ?」
 ルカリオは窓の外に見える小さな星を指し示す。眠気なんか全く感じさせないような、子供のような明るい声。だけど、それは無理をしているようにも聞こえる。
 昨日の冷めた感じから、なぜこんなにも人懐っこくなったのだろう。なぜ、元気になったのだろう。
「きれいじゃない? 私、星なんか見たことなかったんだぁ。前に住んでたところは、いつも電気が明るくて見えなかったの。でも、ここってすごく田舎でしょ?
 だから、なんか感動しちゃって……。本当は一緒に散歩したかったんだけどね、やっぱり初対面の癖に馴れ馴れしいのは駄目かなぁって思って、さ。」
 心臓が強く脈打ち、なにかが崩れていく。それは、今まで迷っていたことで、一人よがりのような感じの……。なにか分からないけれど、ふっ切れた。
 なんてくだらない事を迷っていたのか。答えなんて簡単じゃないか。

 ――だから、もう逃げたくない。

「なんか、さっきはごめん」
 言葉は短かった。だけど、その一言のために震えていた。なぜか身体が震えていて、なぜかすごく胸が痛くて。
 ルカリオに嫌われるのが怖かった。
 だから震えているのかもしれない。
 今なら分かる。頬を濡らしていた液体は、汗じゃなく涙だったんだ、と。

「別に気にしてないよ。私も子供みたいだったからさ。だから、泣くのは止めにしようよ」
 ルカリオは僕に近づく。なんだか情けない。ただ謝りたかっただけなのに涙が止まらない。必死に目をつむり、流れ出てくる水分を止めようとしてみるが、湧き出てくるものは一向にとまる気配を見せない。
 恥ずかしい。僕は男なのに、泣いているから……。
 ルカリオが目の前に居たから、僕は固まってしまった。固まって声を殺し、涙をこぼしていた。
 口元に力が入り、不協和音と同時に、口の中で痛みが生まれる。涙に濡れた目では、彼女の中で咲くバラを直視できなくて自然に顔をそらしてしまう。こんな泣き顔なんか見られたくなかった。
 ルカリオはすぐ側に座り込み、僕の顔を覗きこむ。蛇に睨まれた蛙のような気持ちだった。

「ウインディってさ、泣き虫なの?」
 何も答えなかった。そんなこと考えたこともなかったし、泣き虫なのかどうかも分からないから答えられなかった。ただ、馬鹿にされたような気がして、逃げたくなった。僕は落ちてしまいそうな涙を隠そうとして、目を閉ざす。

 ――だけど、逃げてしまいたい

 目元に何かを感じる。温かくて、柔らかい感触。それはとても優しくて、あふれ出そうな涙を拭ってくれた。それが何かなんとなく分かっていた。目を開いたら、思った通り、ルカリオの指だった。
 とても落ち着いた。知らない間に心臓は元にもどり、詰まったような感じも消えていた。涙すら止まっていた。
「ルカリオってさ、なんか優しいよね」
 勝手に口が動いていた。嫌われるだとか、逃げたいだとか、全く思わなかった。ただ、もっと話しがしたくなった。
「私が優しい? そんなわけないでしょ? さっきも泣かせちゃったし。私って、いつもこうなんだよね。治したいって思うんだけど、気付いたら相手が泣いてるの。きっと嫌な奴なんだと思うよ。だから優しくなんかない」
 そう断言するルカリオは普通の女の仔だった。自分という存在がとても小さく見えて、意味のないものだと信じてる……。僕と同じ普通のポケモンだった。
 
「でも、涙をふいてくれでしょ? すごく嬉しかったよ。さっきは酷いこと言ったのに、こうやって普通に話もしてくれるし。きっと、優しくないって感じるのは自分のことが良く見えてないだけだと思うんだ。ルカリオは本当に優しいよ」

 さっきまで泣いていたのに、笑顔になっていた。喉に詰まっていた何かは消えてしまったようだ。

「そんなことない。私はただ、ウインディと仲良くならないとここで暮らしにくいから話してるだけ。そうやって汚い動機で話してる。だから、私なんか優しくない」
  
 僕もルカリオも元を正せば同じだった。ただ、嫌われたくないから逃げていたのと、住みにくくなるから妥協するだけの違いしかない。 
 さっきまで考えていたのは何だったんだろう。くだらない妄想だったみたいだ。僕も彼女も同類のような気がする。だから、今なら何でも出来るような気がする。

639 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:41:34 ID:Txs76Pz+0
「好き。ルカリオのそういう所、好き」
「色目使って利用しようとしてる所が?」
 
 僕もルカリオも単刀直入だった。すごく距離が縮まったように感じた。
 言われたことは傷つくけど、それが妙に嬉しかった。
 ご主人の前では見せなくて、僕にだけ見せてくれる彼女の姿が嬉しかったのかも知れない。

「違うよ。思ったことを素直に言える所が、好き」
「そう。でも、私は別に好きなんかじゃない」

 ルカリオはそっぽを向いて、後ろから見ただけでも分かるくらいに耳の先を赤らめ、床を眺めていた。
 また、心臓が動き出す。忘れていた気持ちがまた、込み上げてきたかのように……。いや、これはきっと、本当にルカリオのことが好きだから起こった動悸だろう。
 だけど僕は、少しばかり冷静だった。恥ずかしいとは思っていても、逃げたいとは思わなかった。
 逃げたいどころか、ずっと一緒に居たいと思った。

「さっきさ、一緒に散歩がしたいって言ってたでしょ? あれも、僕を利用しようとして嘘ついたの?」
「いや、それは……。すごく星がきれいだったから……」
 
 僕の心臓はずっと高鳴ったままだった。
 あと一歩だ。もう言葉は喉から出かけている。だけど、その一言がまた詰まってしまった。
 自分は何をしている。なんでルカリオの横顔に見とれている。
 さっきまでは、普通に話せたじゃないか……。
 
 一瞬、ルカリオが僕を見た。
 目と目が合った。
 昨日、寝る部屋を決めたときのように……。
 でも、その目は昨日のように泣きそうなものではなかった。
 
 ――安心した。

「今日の夜は、一緒に散歩しようよ。星がきれいに見える場所、知ってるんだ」

 会話はそこで途切れてしまった。
 そして、沈黙が訪れる。
 だけど、これは不快なものではなくて、とても心地の良いものだった。

 窓から見た外は少しずつ明るさを増して、暗闇だった部屋にわずかな光を送り込む。
 もうすぐ日の出なのだろう。ドードリオが、大きな声で朝の訪れを知らせている。それは今の僕らにはあまり聞こえないけれど、気持ちのいい、朝の匂いが部屋に充満していた。
 僕もルカリオも同じなんだ、と分かった気がするから……。

fin

640 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 00:50:24 ID:Txs76Pz+0
あばばばば。

見直ししたけど、訂正箇所が……。

 窓から見た外は少しずつ明るさを増して、暗闇だった部屋にわずかな光を送り込む。
 もうすぐ日の出なのだろう。ドードリオが、大きな声で朝の訪れを知らせている。それは今の僕らにはあまり聞こえないけれど、気持ちのいい、朝の匂いが部屋に充満していた

 「今日の夜は、一緒に散歩しようよ。星がきれいに見える場所、知ってるんだ」
 
 会話はそこで途切れてしまった。
 そして、沈黙が訪れる。
 だけど、これは不快なものではなくて、とても心地の良いものだった。
 僕もルカリオも同じなんだ、と分かった気がするから……。
 
 ですね。なんか台無しですね。寂しい感じにしてしまってスミマセンでした。


641 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:16:47 ID:DIM8vY4w0
柘榴石様、乙です。エロ無しが残念ですが、暗い感じで突き進みつつ光明を見出す感じが貴方らしくて良かった気がします。

前回
>>611-614

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そのころウールは……

「くそ……ベロベルト・ベロベルト・ベロベルト……前を向けばベロベルト、右を向いてもベロベルト、左を向いてもベロベルト、後ろを振り返ってもベロベルト、
 見上げてみてもベロベルト、見下ろす俯瞰にベロベルト、目を閉じてもベロベルト、無線通信はアルベルト男爵……一体なんなのよぉ!?」
ベロベルトの大発生とその暴走の報を受け、その鎮圧に向かったウールは、あまりの物量に対して動揺を隠せずにいた。無限とも思えるベロベルトに囲まれた彼女は、顔中を嘗め回され、その顔は唾液でぬめっている。

「ひっ……レジギガス……なんこんなところに!?」
ベロベルトに囲まれ身動きが取れない彼女を襲ったのは、レジギガスであった。彼女はレジギガスの足に踏み潰される。なんとか抜け出そうともがくも全く抜けられる気配が無い。
 巨大な体躯に詰め込まれた質量はウールの筋力をあざ笑うがごとく、一寸の距離さえ動く気配を見せようとしない。

「く……苦しい……誰か助けて……」


と言う夢を見ていた。ウールがそのような夢を見るのはわワケがある。
 原因は言うまでも無くスタンだ。

「ガァウゥ♪」
スタンはウールが眠っているのをいいことに、眠る彼女の上にのしかかり、思う存分顔を舐めている。ミルタンクの癒しの鈴による解毒が完了すると同時に、彼のこの行為は始まったのだ。
 そんなウールの顔は夢の状況に負けないほどに唾液でぬめっている。その唾液の量に比例するくらい幸福そうな顔をしているスタンだが、その後のウールによる暴行も至福に比例してエスカレートすることだろう。
 その傍らで、アルバは窓越しに太陽を見ていた。

【「ああ、オペレーター……聞こえているかい? もうとっくに伝っていると思うけど、ミッションクリアだよ。』】

「クワッ! アカシックレコードの導きは……我らに微笑んだか……もう安心だな」
彼は近況を知るのにちょうどいいツールである無線機は使わずに、ネイティオが進化と同時に手にする未来を見通す目で以ってトキシンを攫った者の顛末を見ていた。
 それが良い結果である事は、彼の目で知ることが出来た。その未来を確認すると、アルバはトキシンが無事であることを安心するが、同時に未来を見ている間、ウールの事を放ってしまったことを少々後悔する。
 彼はすぐ近くで起こる未来の映像をアカシックレコードより受け取った。

642 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:19:09 ID:DIM8vY4w0
【『道理で嫌な夢を見るわけね……ダークライに喧嘩売られてるわけじゃなくて安心したわ……
 さて、安心したことだし、いい夢を見せてくれた御礼でもしなければいけないわね? この、大馬鹿者が!』

『ギャウ!』
 夢から醒めたウールはスタンの耳を引っつかんで転がし、ベッドから落とす。

『睡眠中の乙女の体にのしかかって、その顔を舐めまわすとはどういう了見だ、この淫キュバスめが!?』

『ギャウ! ギャワゥ! ギャ!』
ベッドから落ちたスタンの鬣を(タテガミ)踏みつけて顔を動かせないように固定して何度も顎を蹴るウールと、蹴られるたびに痛そうに呻くスタン。

『肉片になるまで蹴り飛ばした貴様の体を、雌レントラーの胎内に突っ込んで、胎児から人生やり直させたろうかコラァ!?』
ウールはベッドの脇に立てかけられていた櫂を媒介にしてウッドハンマーを叩き込む。

『ギャァン!』

『それとも肉片を畑にばら撒いて、野菜として人生やり直させたろかコラァ! そうすれば私を舐めるこの悪い舌も、少しは肥やしになってみんなの腹を満たすことに役立つでしょうねぇ……
 兎・に・か・く! 貴様は餓鬼道へ堕ちて食法(じきほう)餓鬼にでもなっていろ。せいりゃぁ!!』

『ガウゥ〜〜〜!!』
レントラー相手に『腕ひしぎ十字固め』を決めるウールの掛け声と、叫ぶスタンの声は牧場に響き渡った。】
アルバがその大きな双眸に捉えた未来はそんな内容だった。

「トゥー………トゥー…………………クワ〜〜ッ!! アカシックレコードの導きによれば……あの場に私は居ない。レコードの導きに従えば……この場を去るが正解か……」
アルバはそう遠くない未来の風景にわずかな身震いを覚えると、とばっちりを喰らわないように忍び足で外へ出る。そこで再び黄昏る太陽を、今度は窓を挟まずに眺め始めた。

――ふう、今日も夕陽が美しいものだな……

『道理で嫌な夢を見るわけね……ダークラ…』
美しい夕日を見ている時に、不意に遠くから聞こえた声に肌をあわ立てそうになったアルバは、耳を塞いで無視を決め込んだ。

――うむ、夕陽が綺麗だ……

643 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:20:07 ID:DIM8vY4w0
そのころ、アサ達もダイチがターゲットの逮捕に成功した報を受ける。安心できたがために、のびのびとトロに乗りながら、ルルーと一緒に感謝したエピソードについて話をしている。

「その地方に住むポケモンでしたら、生息地にパソコンを通じて送られて野性に戻してもらえます。ですけど私達ケーシィの系統はこのリテン地方には野生に存在しない種なんですよ。
 ですから、保健所に捕まればもうお終い……ガス室で殺処分という……運命をたどるはずでした。ですけど、アサさんはまだ言葉も分からない私の手をとって……生きる道を与えてくれたんです。
 狭いガラス張りの牢獄で、短い人生を終えるところで助けてもらった……命の恩人なんです。だから私、アサさんのために精一杯尽くすんです」

「おや、ミスターアサはミズフィリア命の恩人なのでしゅか? それはそれは、絆もストロングになる訳でしゅね〜」
ルルーの冷やかしにフィリアは動じることなく、

「そういうことなんですよ。死ぬまで尽くしますよ、アサさん♪」
こんな調子でフィリアはアサを抱き寄せる。フィリアは賢いのだが、何処かで頭のねじが抜けている

「ははは……いくら人目がないからって照れるだろ? もうちょっと自重してくれよフィリア……」
少し顔を赤らめるアサはまんざらでもなさそうな苦笑いをするのであった。

644 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:23:05 ID:DIM8vY4w0
それから約3時間後……6時56分、レンジャーユニオン会議室にて。

今回の事件に関する通達だとかで、アサを含むレンジャー達は、『7時ちょうどにテレビ入力切替を行い、通達を見ろ』とのお達しが下る。
アサ達トップレンジャー3人とその手持ちのポケモン達はテレビでその通達を見るためにカフェテリアに集まって雑談に盛り上がっている。
 今朝は自分の部屋で見ることが出来たように、レンジャーユニオン内の据え置きテレビならどこでも見ることが出来るのだ。

このカフェテリアでは、ほぼ全種のポケモンを出すことがが許容されているだけに(※第1話1節参照)人気も高い。

「はぁ……それにしてもこの子ため息が出るほど可愛いわ。家に持って帰りたいわね……」
ルルーは汚染された土壌の浄化を一通り行うと、作業に疲れてしまったのか眠りに入ってしまった。それで、アサが抱きかかえていたところをウールが攫っていったのだ。
 ルルーの顔の横についた可愛らしい花弁は睡眠時の危険度を減らすべく、さらに擬態の性能を高められるようにわき腹の部分などにもその数を増やしている。
 スタンに対する酷い扱いのせいで忘れてしまうが、ウールはポケモン大好きクラブの係長だったりする。今日のウールはスタイラーの機能で写真を無尽蔵に撮り、その写真を大好きクラブのページにアップロードすると息巻いていた。
もちろん、ウール以外の者も、その可愛らしさゆえに写真を撮っている。ちなみにアサもその中に含まれている。

 ウールの様子は以上の通り。以下は馬鹿二人の様子だ。そのうち一人は毒好き紳士なスイクンことトキシンで、もう一人は鋼タイプマニアのダイチだ。
 ルルーと同じく彼のに向けられる写真のシャッター音はそこらじゅうから聞こえる。

「ええい、むしろカフェテリアから出て行ってください!」
そこにいたるまでがどんな話だったかは知らないがトキシンの張り上げた言葉に当然ダイチは怒る。

「な、なんだって言うんだい? 僕は君の恩人なのだよ。さっきお礼を言ったかと思えばそれは無いんじゃないのかい?」

「鋼タイプマニアなど認めません。断じて認めません。毒タイプの怨敵……断じて認めません」

「にゃにおう? 鋼タイプの輝き、重量感、そしてこの冷たい感触……ああ、トウロウ、君は素敵だよ」
ダイチは腕に抱きついている。ハッサムの首を撫でる。

「シィィ♪」
トウロウは首を撫でられて嬉しそうに鳴き声を挙げた

「その全てが素晴らしいじゃないか!」
「いいえ、違います。毒こそ最も素晴らしい攻撃です。弱き者が身を守る自衛の手段として有効にして汎用性が高い。そんな崇高なる手段を封じる鬼畜なタイプこそ鋼タイプなのです。鋼タイプはみんな鬼畜です」
「何をふざけたことを、毒なんて甚振る(いたぶ)拷問のためのものじゃないか、どっちが鬼畜だって話だね。なぁトライデント。ポッタイシ時代は苦労したよな?」
といって、ダイチはエンペルトの顔を覗き込む

「ムゥ……」
トライデントは状況を良くのみこめていないようだが、とりあえず頷いた。

「なんと! そのようなことを言うものがいるとはまことに悲しいことです。良いでしょう、この私が(わたくし)毒の魅力というものを存分に……」
「なんだと? ならば僕も鋼の魅力を存分に……」
どうやら、トキシンとダイチは水と油のようだ。

「そうだな……魅力を語るのにもってこいなポケモン川柳で勝負だ!」
「望むところです!」
そして良く分からないところで息の合う変わり者だ。喧嘩するほど仲が良いとはよく言うものである。

「では、先ずは僕から! 『数学で 勝るもの無し メタグロス』」
「やりますね……『ドンファンも 2秒で倒す ゴースかな』」

――…………アホかこいつら? というか、2秒間も毒を吸い込み続けるドンファンなんていないはずだけど……

645 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:26:30 ID:DIM8vY4w0
そして最後に、アサとアルバとフィリアの様子だ。

「と、とにかくアルバ……今日は一体何があったんだ? スタンの傷がいつもより酷いみたいだが……唐突にあんな傷だらけで返されたら気になっちゃうぜ?」
アサは手元に返ってきたスタンを目にして、真っ先に事情を聞けそうなアルバを捕まえて問いただしている。

「トゥー…トゥー…ウールが眠っている隙に、上からのしかかって顔を好き放題舐めてきたから、メガトンキック8回にウッドハンマー2回。腕ひしぎ十字固めに、破壊光線を一発叩き込まれていた……」

「えっと……これでメガトンキックが少なくとも792回にウッドハンマーが56回、関節技41回……今回が初めての破壊光線ですか……スタンさんも懲りませんねぇ」
このようにフィリアは余計なことまで記憶する。趣味なのだろうか?

「トキシンにやられた傷はせいぜい胸とわき腹……わが主のつけた傷の方がよっぽど大きくて酷い。主の非礼……私から詫びよう」
アルバは大きく頭を下げる。フィリアやアルカナム同様、こういあったアルバの礼儀正しいところをアサは気に入っている。

「いや、スタンがやった事は悪いことだし、躾だと思えば文句は無い。けど、破壊光線って……本当にあいつ多彩だなぁ」

アサとウールはレンジャースクール時代からの腐れ縁であり、そのころからウールの戦闘時の挙動が人間離れしていたが、二十歳を過ぎてからは人間離れもどんどん激しくなっていく。今回の破壊光線もその例だ。

「俺も……何か強力な技使ってみたいなぁ。スイクンにも勝っちまうし……俺には真似出来ない」
しっかり遅れを感じてわざとらしいくらいに肩を落とすアサに対し、フィリアは肩をたたいて励ます体勢に入る。その足はフィリアを見下ろす身長のアサに合わせて宙に少し浮かんでいる。

「いいじゃないですか、アサさん。貴方を情けないなんていう人はどこにも居ませんよ。
 それに、真似出来ない事なら……ここまで貴方と仲の良いポケモンはウールさんには居ないってことで」
肩に当てられたフィリアの手にアサは自分の手を重ね合わせる。

「ありがと……でも、それだとアルバがウールの仲が良くないみたいに聞こえるぞ?」
そう言ってアサはアルバの方を見るも、その表情から感情は読み取れない。

「否定は出来ない……私は感情をさらけ出すのが苦手で、主の前でもフィリアのように積極的になることが出来ないからな。
だがアサ、お前は不思議と話しやすくて良い……これはわが主ウールよりも優れた能力であることは確かだ……」

「ですよ。シェイミにお菓子一つで仕事させちゃう事だってウールさんでは真似できないんじゃないでしょうか?」

「なんだ、お前ら同意見か? な〜んかそういわれると元気でちゃうね。頑張ってウールを超えてみたいって思えるよ。ありがとな」
二人に微笑んだアサは満足したようにため息をつく。

646 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:34:28 ID:DIM8vY4w0
「それでアルバ……"あの事"はウールに言ったのか?」

「いや、まだだ……とりあえず秘密にしている。だが、当日は休みもとらなければならないし……早く言わねばと思っているのだが」

「じゃあ言った方がいいんじゃないか?」
アサの言葉に、アルバは気まずそうな顔をする。

「一緒に言ってくれ……」
――大切なつぼを割った小学生か……
などと思いながらも、アサは笑顔でそれを承諾する。

「ん、わかったよ。おっとそれよりそろそろ7時だ。支部長は時間きっちりにテレビに出るから、後20秒黙ってような?」

「了解です」
「了解した……」
と、アサが言った後フィリアはスイッチを念力で3回押し、テレビの入力切替を3に合わせる。
 27秒後にローズ支部長が映る。かなり時間通りといえばとおりである。
 音質が悪く、何の音も立てていない状態のはずだが、ジーーーッという音が鳴り響いている。

「さて、今日皆に話す事は……例の工場の爆破テロについてです。
 今回、その事故処理にご助力いただいたスイクン……トキシンさんがあわやという所で攫われそうになった事は皆さんご存知のことでしょう。
 今回はすんでの所で、抑止できました……が、トキシンさんの話によれば、すでにエンテイ・ライコウが恐らくは同じ組織の手に渡っている模様であります。
 爆破により汚染を図ったのも、レンジャーの探査能力を利用するためと見られています。

 こういった例は……フィオレ地方で行われたマナフィの卵奪還のミッションの途中の強奪事件などにも見られるよう、2度ある事は3度あるとは言いますし、今後も再発の可能性は否めません。
 それをどう防ぐか……の問題は、今後練るとして、今回の事件はどういった組織が起こしたのか? 何を目的としているのか? 戦力はどれほどか? ……ですね?

そんなわけで、今日の4時7分にダイチさんが逮捕した者からの尋問の結果なのですが『戦力は知らない』そうです。……無責任ですね。
 『目的は言えない』そうです。……生意気ですね。『ボスは女性で名前はコードネーム:"プログレス"』だそうです……『進化』という意味ですね。
 で、あいつの名前はコードネーム『シャドウ』。本名は『影山 博』……だからシャドウなんですね。まあ、こんな事はどうでも良いこと。
 犯人に拷問でも行えれば楽なんですが、それはこの国の法が許しませんし、教えて構わない情報だけしか彼に与えられていないようです。
 司法取引とかもこの国では出来ませんし……どちらにせよ大切なポケモン達ををあんな扱いする奴を取引で罪を軽減するなんて耐えられませんがね……愚痴になりました、すみません。

そんなわけで、全く情報もなく相手の動きも分からない故に、レンジャーの一般隊員の方ではしばらくこれからの行動に今までとの相違はありません。
 ですので明日からも、今までどおり行動してもらいます……が、近く戦いがあるかもしれないということを肝に銘じて置くようにお願いいたします。
 オペレーターやメカニックは、ネットを介したポケモンの転送に不審な道具の反応がないかを調査していただきます。あれは無認可ボールですから……流石にパソコンを介して転送という事は無いとは思われますが、念のため……これについては後日より詳しい指示をいたします。

そして、これは全隊員への命令……というよりお願いです。今回の事件……決して甘く見ないでください。どんな組織かは知りませんが……ポケモンを道具として扱う者を許しておくわけにはいきません。
 そんなわけで警察、IPMO(国際ポケモン管理機構)、などの協力者と共に全隊員一丸となってこの件に対処いたしましょう」
テレビへの接続が切れ、画面は黒く染まり黙す。フィリアはテレビのスイッチを押し、7時から始まるバラエティ番組に切り替える。

647 :リング@憧れの職業? ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/22(水) 18:36:42 ID:DIM8vY4w0
「……ふう。ボクが頑張っても、分かった事は僅かな上にほとんど意味がない情報……全く、報われないね」
ダイチがぼやく。次に口を開いたのはトキシンだった。

「さて、と……私、(わたくし)このまま野生に戻るのは少し恐怖がありましてね……ここ、レンジャーユニオンにいることが世界一安全だとは思いますので、出来ることならここに居付きたい」

――なるほど、仲が悪いように見えてトキシンはツンデレか……
アサはそう思ってにやりと笑う。

「そこで相談なのですが……ウールさん、ダイチさん。私はあなた方、どちらかについて行きたい。
私を……仲間に加えてはもらえないでしょうか?」

ウールとダイチが顔を見合わせる。ダイチはフッと笑い、
「僕はパスとするね。毒タイプ好きを仲間にするのは趣味に合わないし、伝ポケなら僕にはコタツがいるからね。だからウール……君に譲るよ」
トキシンは酷く残念そうな顔をしていた気がする。だが、それも数瞬のことですぐに端正な顔を取り戻す。

「では、ウールさんはよろしいですね?」

「……ん……貴方、本当に野生に戻らなくていいのかしら?」
ウールはここで慎重な選択を選ぶ。こういった例など、彼女も初めてであるせいか戸惑いは隠せない。

「少なくとも、この件が片付くまでは。私が信頼を置けるものの下で安心して暮らしたいものでして……私を戦力として利用することも出来ますし、悪い話では無いと思いますが、どうでしょう?」
十秒ほど、沈黙が流れた。先ずこのようなお話はカフェテリアでするようなものでは無いと思うのだが。

「うん、確かに悪い話じゃないわね。だけど、私なら守れるって言う保障は無いわよ。いいかしら?」

「よろしくお願いいたします」
トキシンは前足を折り曲げて深く頭を下げる仰々しい礼をすると、感無量な口調でそう言った。

「こちらもね……それじゃあ改めて自己紹介するわ私の字(あざな)はもう聞いたと思うけど、本名は『相沢(あいざわ)潤(じゅん)』って言うの。
潤って文字がうるおいって言う意味なのと、電気を発するのがメリープやモココに似ているからってウールになったのよ。私の墓に刻む名前だから、心のどこかに覚えておいてね」
トキシンが前足を差し出すと、ウールは眠っているルルーをアルバに預け、トキシンと硬い握手を交わす。

「さて、とりあえず、これから人目に触れたくないときはに入ってもらえるかしら?」
ウールは自分のスタイラーを指差す。

「私はまだ特定鳥獣専用収容器具(レジェンドボール)を持っていないからIPMOに申請して、レジェンドボールが届くまでの間はとりあえず……ね」

「分かりました、この私、(わたくし)貴方のために尽くさせていただきます」
再びの仰々しい礼の後、カフェテリア全体を見回した。

「それでは、レンジャーの皆さん一同、私をよろしくお願いします」
カフェテリアの中でウールとトキシンに対する賞賛の歓声が上がる。携帯のカメラなどから焚かれるフラッシュなどもあいまって、ルルーが起きてしまった。
気持ちよく眠っていたところを起こされたルルーは、いつの間にか傷だらけのスタンの頭に置かれている。

「トゥー……トゥー……すまんなスタン。アカシックレコードの導きなのだ……」
アルバがスタンに対して気味の悪い弁解を行う。

「なんだかずいぶんとノイジーでしゅね……ミーのスリープを邪魔するパーソンはお仕置きでしゅ!」
聞くからに不機嫌そうな声と、見るからに不機嫌そうな表情でそう言ったとき周囲は大体の状況を理解する。

「ガウゥ?」

ルルーのシードフレア
スタンの特防はガクッと下がった

草の波導が爆風となってスタンに襲い掛かる。わけも分からないうちにスタンはアルバの不幸を押し付けられるのであった。

「ガウゥゥゥゥ……(俺は何もしてないのにぃ……)」
フィリアの同時通訳には、多くの人が小さく笑いを誘われる。こうして、大事に混乱を極めた一日も、終わりは平和に過ぎていった。

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さて、今回はこんなところで終わりです。次回からはしばらく平和なお話に切り替えたいと思います。

648 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/26(日) 23:20:30 ID:9Zj/jKCA0
前回

>>616-621

しかし、本当に過疎ってるなぁ……


――――
「え、パルキアから手紙? 僕にも見せてよ〜〜」
レアスに急かされ封を切って空けた手紙に刻まれていたのは……

「えっと……読むよ。
【この間は事件の黒幕である黒いのの討伐に関して世話になったな。俺の方もようやく空間のゆがみを直す作業が終わった。
 ところで、お前らは空間のゆがみのせいで進化したくとも出来ないできないはずだろう? 俺はお前らにせめてものお礼としてそのゆがみを直してやろうと思う。
 これでお前らも進化することができるようになるはずだ。こんなこと、そこいらのセレビィやトキの奴にもできるかと思っているかも知れんが、空間に関しては超一流の俺が直々にやってやろう。ありがたく思え!
他にも心ばかりの御礼をするつもりだから、シデン、茶色いの、ニュクス。全員で来い、いいな?

追伸:俺の住処への案内は、空の裂け目の中腹にある街『ラティスガーデン』の&&アズレ&&青白いのとクリスタルという名のラティアスに頼め。いいな?】

「………………相変わらずだね。でも、何故だか文字はすっごく上手い……てか、どうやって届けたんだろう? 空間転移するくらいなら直接迎えに来れば良いのに……」

「何でオイラは相変わらず『茶色いの』なのさ……それに青白いのって何さ? なんでわざわざ途中まで書いた名前を消すんだか。『アズレ』……なんなのさぁ!」

「ヴェノムのことも『黒いの』って呼んでたことだし、こりゃレアスを連れて行ったら『水色の』かな? 男に何かうらみでもあるのかしら?
 ていうか、ディアルガの事はちゃんと『トキ』って呼んでいるけど……あの人って女だったの? 声が低いから良く分かんなかったけど……謎だね」
二人のやり取りを見て、レアスは不思議そうに首をかしげる。

「これが……空間の神様? イメージと違うなぁ……」
レアスが首をかしげるのも当然だ。

このパルキア。シデンたちが空間をゆがめる存在だと言うことをダークライの見せた幻によって勘違いし、寝込みを襲って来たのだ。完全に存在を抹消するには地上でやるには被害が大きすぎると自分の住処までさらわれて、逃げ帰るのもえらく苦労した思い出がある。
 空間を守るという使命については強い責任感を持つものの、それ以外については直情的で、短絡的でおよそ神らしさの感じられない性格だ。
 そのほか、少々傲慢なところや無作法なところなどもあり、そちらについてはこの手紙からも十分に伝わってくる。
 少なくとも空間のために走り回っている姿は神らしいのかもしれないが、生憎その姿は誰の目にも移ることがない。ある意味では笑い話だというか、道化というべきか。
 そんな彼だからこそ……

「まぁ、神様だって普通のポケモンと変わらないって事よ」
シデンもこういった評価を下すのだ。

649 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/26(日) 23:22:46 ID:9Zj/jKCA0
「ふぇ……そうなんだぁ。ねぇ、僕は呼ばれてはいないみたいだけど、僕も行っていいかな?」

「オイラはいいと思うけど……シデンは?」

「自分も問題ないと思うよ。とりあえず、招待されている以上、ニュクスのほうにも連絡しておかなきゃ。さ〜て、どんなスカーフ付けていこうかな?」


--------------------------------------------------------------------------------

レンガに囲まれた広めの家。庭に植えられた野菜は、その残骸が地面に鋤き込まれ、すっかり命の輝きがなくなっている。その庭と同じくらいの広さを持つ住居には開け放たれたカーテンから陽光と風が飛び込んでいた。

「ふう、やっぱ家が広いけぇ……女の一人でも家に呼びたいもんじゃが、わしって誰か好きな人いたっけかのぉ? いまいちわからんや……わし、姉さんが理想の女性だったんじゃろうか?」
二人が去った家は急に広くなった。占領されていたベッドは一つ余る事になり、ソファーを暖めるものは彼一人しかいない。

「ご馳走様」
食料という恵みをくれた創造主アルセウスへの感謝の言葉。カチャリと食器を置きながら呟いた言葉に、声を続けるものはいない。

後片付けをしない姉の分だけ、食器を運ぶときの負荷も皿洗いの時間も減った。エレオスが手伝おうと声をかけることも無くなり寂しい日々はもう3週間を過ぎた。

「こがぁな生活にも、エエ加減慣れなきゃのう……」
別れがもたらしたマイナスには寂しさだけでなく戦力の低下というものが有った。しかし、心のどこかに姉への甘えがあった時に比べ、甘えを捨て去り、
 エレオスが叩き込んだ教えを反芻し続けたアズレウスは何処か、一人前の顔をしている。それこそ、以前の彼では逆立ちしても勝てないように強くなっている。

 そんな彼への訪問者は、よく分からない組み合わせであった。

「ごめんくださ〜い」
小さな男の子の声だ。
 
「もしや……ソリッドさまの言っとった三人かん?」
訪問者に粗相のないようにと、玄関に駆け込むと、そこにいたのは、三日月のように美しい体躯をしたクレセリアという種族の女性。赤いほっぺにギザギザ尻尾で黄色い体をした、ピカチュウとか言う種族の女性。そして茶色いの……あの尻が燃えている奴のことか。

「えっと、貴方が青白いの……もとい、アズレウスさんでよろしいのでしょうか」
ピカチュウの女性が訪ねる。

「ああ、わしがアズレウスじゃ。あんたらがニュクスさん、シデンさん、茶色いのじゃな? で、その青白い子供さんは……一体? あ、そうじゃ。証拠の真珠……もっとるか?」

「オイラ結局茶色いのかぁ……いつになったらちゃんとアグニって呼んで貰えるんだろ……あ、とりあえずはい、証拠の真珠だよ」
さっき小さな子供だと思っていた声の主は、どうやらこのアグニという者の声だ。
 アグニはトレジャーバッグの中身から、地味ではあるものの、いかにも丈夫そうな箱を取り出し、その戒めを解く。その中に内包されていた大粒の真珠は、陽光を受けてきらりと七色の光を跳ね返す。

「うん、確かに。それで、あんたぁアグニさんか。よろしくのぉ。そちらのお子さんたちは……」
アズレウスは真珠をアグニに返して今回のたびについてきたレアスのほうを見る。

「レアスだよ。よろしくね」
元気の良い、レアスの声が家の中に響いた。

「よろしくお願いします。アズレウスさん。ニュクスと申します」

「えっと、シデンといいます。よろしく」

「アグニさん、ニュクスさん、シデンさん、レアスさんですね。どうぞこちらへ」
全員の挨拶を終えると、アズレウスは全員を居間へと案内し、貯蔵してあった焼き菓子と入れたての紅茶を差し出す。

「ここに来た理由は分かっているけぇ。何でも、わしらが知らんうちに、地上世界では厄介なことがあったらしいのう。
 ソリッド様の手紙によればぁ、それの解決にあんたらが大いに助けになったとか。ソリッド様は今までたった一人で空間の修復作業を、やっとったようじゃが、もう大丈夫だそうじゃ。
 じゃから、ソリッド様はその御礼をしたい。その案内人にわしということじゃな?」

「うん。オイラ達、空間の歪みのせいで進化できなかったんだけど、ソリッドがそれを矯正してくれるって言うから」

「自分とアグニはもう楽しみで。アグニはようやくモウカザルになれるし、自分もライチュウになれるってね」

「ボクはついでに来ただけだけどね〜〜」
アグニやレアスとの会話に、久々に家族の雰囲気を感じたアズレウスは優しく微笑む。

650 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/26(日) 23:24:03 ID:9Zj/jKCA0
「ちょうど……姉さんが男と出て行って寂しかったところじゃ。クリス姉さんや、エレオス義兄さんの代わりに、今日はゆっくりして行っ……」
そこまで言ったところで、とてつもない思念が正面より発せられ、アズレウスは言葉を詰まらせた。

「今……エレオスと言いましたか? それは……えっと、こういう方ではありませんでしたか?」
とても女性が出す迫力とは思えない気迫にアズレウスは気圧される。もしかしたら姉さんよりも強いのではなかろうか?
 そんな彼女が差し出した紙に描かかれた絵はそれほど上手くなく、同種を2人並べられたらどちらを差すのか判らなくなりそうだが、描かれていたのは紛れも無いダークライそのものであった。

「黒・赤・白……まさにこいつじゃ……あれ、ニュクス? 聞いたことがあるぞ。確か……そう、エレオスの大切な女性じゃ」
ニュクスの表情が変わる。

「やっと見つけた……まさかこんなところにいたなんて」
ニュクスはエレオスの似顔絵を描いた紙の端を握り締めながら涙ぐむ。

「ソリッドから貰ったエレオスが逃走した時間の前後で空間に穴が開いていた場所のリスト……もしかして、この場所を入れていなかったんじゃ……自分であけた穴と勘違いしたとかで」

「ドジ……だね。オイラたち無駄足ばっか……」

「僕やっぱり幻滅しちゃうな~~」
小声でのソリッドの批判などアズレウスとニュクスの耳には入らずに二人の話は続く。

「……これ、ハンカチじゃ。あの、あんたたちゃぁエレオスたぁどういった関係か? エレオス義兄さん、記憶を失っててなんも覚えとらんかったけぇ、探してくれるような奴がおったことなんぞしらんのじゃ」
一体どこに持っていたのか不明なハンカチを手渡してアズレウスが訪ねる。

「妹です……エレオスの兄さんの」

「い・も・う・と……? 似てんけど……」

「それは……気にしないで下さい。今から関係について詳しく話します。

……数十年昔のことです。私たち二人は、憎しみや悲しみ、蔑みや侮蔑といった感情が渦巻く大陸の東側にて、負の感情を集め続けていました」

「負の感情、なんかそれ?」

「さっき言ったとおり憎しみや悲しみ、蔑みや侮蔑といった感情です。そして、集めた感情はこのように水晶に閉じ込めます」
ニュクスはバッグの中から紫色に透き通る美しい宝石を置く。ただ美しいだけでなく、何か内部に引き込まれるような、例えるならサマヨールの背中のような怪しい雰囲気を湛えている。

「綺麗……じゃが何処か禍々しいな宝石じゃのぉ。これが負の感情を集めた水晶かん?」

「はい、そうです。闇の結晶といいます。これは色が薄いので取り扱いに気をつける必要はございませんが、どす黒い色になったものは扱いを間違えると……私の兄、エレオスと同じように人格が変わります……
 いや、負の感情に支配されると言うべきでしょうか。強くて優しくて、誰よりも頼れるはずの兄さんが……血も涙も無く、自分に以外の者を全て見下すような暴君になった」

「『強くて優しくて誰よりも頼れる』ってそれ、まさにエレオス義兄さんじゃないか。それが……暴君? 想像でけん……」

「あなたが言う記憶を失った兄さんというのが、元の人格に近いのならばそれも無理は無いでしょう。
 しかし、例えばこちらにいるシデンとアグニを、悪夢を使って精神的に追い詰め殺そうと企みました。加えて、ソリッドに悪夢を応用した幻覚を見せ空間が歪んでいると勘違いさせました。
 その状態で空間を直そうとすることで本当に空間を歪ませ、さらにその原因を……この二人であると思い込ませた。もちろん幻覚を見せることで……
 その時、私が二人を倒さなければ……きっと世界は」

「ニュクス……『助けなければ』だよ……自分たちを倒してどうするのさ?」

「ぷふっ……」
ニュクスの間違いにレアスが遠慮がちに無く笑う。

「///
えっと……助けなければ、シデンさんとアグニさんは殺されていた。そして、世界は今のようなものでは決してありえないでしょうね……例えば、ソリッドも殺されるか、あるいは悪夢の世界に閉じ込められて、空間が際限なく歪んだ世界になるとか」
言い終えたニュクスは不安げにため息をつく。言葉には出さないが、一刻も早くエレオスに会いたい
気持ちが逸っているのが手にとるように分かる挙動をしている。

651 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/26(日) 23:25:24 ID:9Zj/jKCA0
「なるほど、エレオス義兄さんがソリッド様を困らせた張本人と……じゃが、そりゃぁどっちかゆぅたら本来の義兄さんじゃぁのぉて、優しゅうて頼りになるほうが本来の義兄さんっちゅうことじゃん?」

「はい。ですが、このまま兄さんの元の人格が保たれる保障はありません。ですので、連れ戻して悪の人格を押さえ込む必要があります」

「……そがぁなことが可能なんか?」

「ええ、時空を司る神と『それらが干渉できない場所』を統治する神の下位に位置する心を司る神……あなたも聞いたことあるでしょう? 『ユクシーのテレス』、『エムリットのアンナ』、『アグノムのアドルフ』
その三人と『夜を照らす月の力』、『眩(まばゆ)く耀き、悪しきを焼き尽くす炎の力』、『歪んだ波長を矯正する波導の力』。即ち、『私』と、『ヒードラン』と、『ルカリオ』の力を込めた宝玉があれば……可能です。

宝玉は揃っておりますし、心を司る神3人も知り合いですので、準備は万全です。ですから、後は手遅れになる前にエレオスの悪しき人格を……完全に消す。
 消さなければいけません。また、兄さんが敵となってしまう前に」
ニュクスの目の奥を射抜くように研ぎ澄まされた眼光と表情が、少なくとも嘘を言っていない事をアズレウスに感じ取らせることが出来た。

「分かったんじゃ。信じることにする。今回のソリッド様の住処への案内が終わったら……会いに行きよう」
少し残念そうな顔をしてニュクスは顔を伏せた。

「『案内が終わったら』ということはこの街にはもう……いないのですね」

「ああ、そのことかぁ。3週間ほど前のことなんじゃが……」


空の裂け目の中腹の街、ラティスガーデンにて
「よし、と。それじゃあいってくるけぇ」
二人がもつバッグの中には干し肉や干し葡萄といった携行用の日持ちの良い食料。この夏の時期、季節風の影響で雨が多くなるために雨避けの油紙などの日用品も詰め込まれている。そして貴金属や宝石などを満載したバッグを片手にクリスは言った。

「姉さん……本当に行くんか? 寂しくくなるのう……」
楽しそうなクリスをよそに、アズレウスは酷くさびそうな表情で声をかける。

「なぁに言っとるけぇ? あんたはわしがいないでも、料理も洗濯も一人でできるじゃろ?
いつまでもわしに頼っとらんで、一人暮らしぐらいしんさいな」
 この『空の裂け目』にソリッド、つまりパルキアがいると知ってから、エレオスは病的なまでにここを去るといって、頑として聞かなかった。
 引越し先は、この空の裂け目という平行世界の出口から真北にある『幸せ岬』という場所。美しい草花が生い茂り、訪れるものに対し色彩と香りによる熱烈な歓迎をするという、夢のような場所である。

 ハンターなどというおっかない職業をやっていて、化粧にも『面倒だから』と興味が無いそぶりを見せるが、お花は年大好きという乙女な一面のあるクリスには魅力的に映ったらしい。
 何より、晴れて大好きな男性であるエレオスと二人暮しができるとあって、彼女はこのたび根無し草な一面を見せるにいたったようだ。

「済まないな……こんな夜逃げまがいの旅立ちで」
謝る口調のエレオスも何処か寂しげだ。

「確かにそうじゃ……でも、わしらラティスガーデンの住人はずっと狭い世界で生きていたけぇ。広い世界を見てみたいと思うんは当然じゃし、何より……エレオス。わしはあんたについていくって決めたけぇの。
 アズレウスには確かに突然で悪いとは思っとるが、あんたなら一人でも生きていけるじゃろ?」
アズレウスは涙ぐみながら、コクリとうなずく。

「それは否定できん。じゃが、明日から家が広くなるのう……エレオスが着てから狭いと思っとったが……」
そこまで言ったところで、クリスは浮遊していた体を立たせて値に足をつけ、アズレウスも同じ体制をとるように促す。

652 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/10/26(日) 23:26:56 ID:9Zj/jKCA0
「大丈夫じゃ、あんたならきっとこの家を狭くできるけぇ。顔も性格も料理の腕も悪くない。それに何より……あんたはわしの弟じゃ。もう少し女性に積極的になれば女なんて星の数じゃ。
 それに……『空間とは全ての繋がり。そして心も空間也』じゃ。このソリッド様の見守る空間の下(もと)、わしらは繋がっておるんじゃ」
そういってアズレウスを抱きしめたクリスの体は、体温の低いドラゴンタイプにふさわしくない熱を伴っており、暖かく優しかった。
 アズレウスは、彼が久しく見ていなかった『お姉ちゃん』の顔をしたクリスの表情で見つめられている。

「うん……分かった。でも、いくら遅くなったってええ。たまには顔を見せてくれよな」
すでにアズレウスにとって生活の一部となっていたエレオス。姉はなおさらだ。その二人が一気にいなくなってしまうと思うと、彼の心の中には喪失感だけがむなしく満ちていた。だが、先ほどの姉からの包容は少なからず彼の心の隙間を埋めたようだ。

「顔を見せる……か。それは私が保証する。ソリッドの目を盗んでちゃんと顔を見せる。なんなら、お前が来ても良いのだぞ?」
エレオスは抱き合う二人に重なるように上から抱く。三人の影が一つになるとき、エレオスの影だけが異様に黒く目立っていた。

「それじゃ、本当にそろそろ行くわね……街のみんなには『駆け落ちとでも』いっといてな」

「うん、元気でなぁ。姉さん、エレオス。わしはいつだって歓迎するけぇ」

「アズレウス……次に遭うときはもっと強くなっていろ。それじゃあな」
三人は一様に手を振り、分かれを惜しんだ。


「っちゅうわけでいなくなってなぁ。すまんなぁ」

「いえ、いいのですよ。ふぅ……シデン、アグニ、レアス。ソリッドのお礼の件が片付いたら、私に付き合ってくれますか?」
ニュクスの問いにしかし、誰も首を横に振る者はおらず、全員が縦に首を振った。何も言わずとも、嬉しそうに微笑むニュクスは胸にこみ上げるものを抑えることが出来ず、潤んだ目に溜まる涙となってあふれ出した。


―――――
ちなみにニュクスの言い間違いは作者のミスによって生まれたもので、投稿前に気が付いたのですが直さなかったという代物だったりします。

653 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:26:11 ID:ueAFU+w+0
悪しき人格に支配される前のエレオス。記憶を失い、二人に拾われてからのエレオス。ニュクスとアズレウスがそれぞれ語り合う。
 その話を肴に三人は夕食を終え、それぞれの思惑を胸にベッドに付いた。ニュクスはエレオスが使っていたベッドを普通に、そのほかの三人はクリスタルが使っていたベッドを川の字に並んで眠ることになった。体のサイズが小さい者ならではの使い方である。

「さて、皆さんの協力もありまして、何とか私も兄さんを見つけることが出来そうです。シデンさん、アグニさん、レアスさんありがとうございます」

「いいのいいの。困ったときはお互い様じゃないか。それにオイラたちだってさ、あのスリープの件と同じように、仲が悪かった人と仲直りできたら嬉しいし」
アグニはぼうっと天井にぶら下がるランプを見る。

「それが、人によっては『甘い奴らだ』って思われる原因でもあるんだけどね……でも、なんといわれようと、自分は嬉しいよ。
 悪い人格にのっとられている間エレオスはずっと苦しんでいたんだと思う……開放された今、アズレススの話を利く限りでは、すっごく幸せそうだった。
それだけじゃない……それを話しているアズレウスも、聞いているニュクスも幸せそうな顔してた。まるで自分のことみたいにさ」
シデンはくすくすと笑い、虚空にそのときの二人の顔を思い浮かべる

「僕はエレオスって言うのがどんな人かは知らなかったけど、僕もなんだか会いたくなっちゃった。どんな人なんだろうね」
レアスが上半身を起こしてみると、ニュクスは嬉しそうな顔をしている。

「昔と同じなら……子供には優しいですよ。自分からは絶対に暴力を振るわないし、お菓子を分けるときは大きい方を分けてくれる。そんな人です」
さっきも同じ印象を受けた、『彼女がエレオスを語る顔』は、何処か誇らしげである。今まではアグニの愚痴を寂しげに聞くだけだったのだが、
 今は、彼の人柄を証明するアズレウスという証人と、もうすぐ現物を見せられるという期待が、エレオスのポジティブな側面を語る気にさせている。
 彼女が語る、負の感情に捕らわれる事故とやらからずっと、敵として
(たもと){袂};を分かち、憎みたくない相手を敵とみなさなければならなかった。
 この度エレオスが悪しき人格から開放されたというのは即ち、ニュクス重荷から開放されたということも意味している。それを切欠に3人はこの数時間の間に彼女が、美人になったと感じている。
 それが決して気のせいでは無いことは、全員が同じことを思っていたことから確信できることだ。

654 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:26:52 ID:ueAFU+w+0
やがて、明日に備え眠りに付く。その時ニュクスは夢を見る。
 二人が楽しく遊んだ夏の夜の夢だ。水を恐れて尻込みするニュクスの背中を押して泳がせたこと。
 優しかった兄の記憶だ。

不意に意識がはっきりとして目が醒める。やはり夜行性……夜に眠っても眠りは浅かった。
 夢の中、ニュクスにはまるで、シデンが常々言っていた『時空の叫び』をのようにその光景を何処か遠くで見ていたような感覚だった。

――ああ、私は……こんなにも兄さんが大好きだったんだなぁ。

「ふふ……今度こそ、兄妹として会えますね」
そっと呟くと、もう一度眠りに付くべく目を閉じる。そんなことをしても、今更とも思えるような思い出が、溢れ出して眠れない事は、初めから予想できていた。


「さぁ、本日は晴天なり! 絶好の『空間湾曲体質矯正日和』だね」

「あはは……そんな日和、オイラ達が世界で初めてって言うか、どんな日和さ……」
アグニは力なく笑う。

「いやいや、『空間の神への謁見日和』だよ〜〜」

「レアスまで……ええい、それならオイラだって『空の裂け目の登山日和』だ!」
ヤケになったような口調でアグニは高らかに宣言した。

「ニュクスさん。このひとらってっつもこがぁな感じなんか?」

「ええ、騒がしいでしょう? 体力は使いますが、意外と心は休まると思いますよ。見ているだけでも、一緒に騒ぎに加わっても……なんだか自然でいられますし」

「う〜ん……じゃあ、わしも『主の住処への案内日和』じゃのぉ」

「おやまぁ……ノリの良い事ですね」
ニュクスがクスクスと笑って空を見る。

――本当に気持ちのよい晴れですね。

「そういえばさ、"幸せ岬"って言うのはどんな場所なの? 名前からして、さぞかしいい所なんだろうね」
ダンジョンへ入るまでの道中、シデンがアズレウスに尋ねる。

「う〜ん、わしもエレオス義兄さんから聞きかじった程度しか知らんのじゃが……花が咲き乱れていて、ええ所らしいんじゃ」

「ふふ」
ニュクスが嬉しそうに微笑んだ。

「まだ、兄さんと仲がよかった頃、何度も行った事があります。そこは私が一番好きなところでしてね……記憶を失っても、頭の何処かで覚えていてくれたのでしょうか。
 そこには、感謝の気持ちを送るときに使う、グラシデアという名の花が自生していまして、シェイミという種名のポケモンが花を守り育ててくれているのです。
 愛した人を連れて行くのであれば最高の選択なんじゃないでしょうか?」
兄に会える。どんどん近づいているようで、実は生涯添い遂げる伴侶を見つけて遠ざかっていくエレオスを少し寂しく思う。ただ、幸福に暮らしているだろうことを思えばそれを帳消しにして有り余るほど、嬉しく思えた。
 
「いま、何しているんだろうね? 敵として出会ったけど……今度は友達になれるかな? オイラ達と同じ……愛せる心があって、愛せる人がいるんだから」
しみじみ語り、シデンを見る。

「今なら、お互いの気持ちだって分かるよ。だから、今度こそ仲良くなれるように頑張ろうね」
心のそこからの敵なんていない。そう、諭すように皆に笑いかけた。

655 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:28:38 ID:ueAFU+w+0
空の裂け目の中腹から、頂上へ。
 歩む足取りは全員が軽い。二人は進化が可能になることを、一人はこのあと待ち受けるであろう、兄との再会を、一人はただの好奇心を、一人は久々に感じた家族の温もりを原動力に。

「さ、ここじゃ」
もともと『空の裂け目』の名に恥じぬ高地を入り口となし、入り口までの道のりすら矮小と感じさせるだけの距離を、この平行世界で上ったはずだ。
蒼天に浮かぶ柔らかそうな綿雲が、霧として振舞うにも不自然さを感じぬだけは、登る足に負担をかけたつもりだ。
 そのつもりだが、たどり着いたパルキアの住処は予想を正反対の方向に届くまで裏切り、息苦しさも肌寒さも無く、太陽の加護を排他した重さを含む空気だった。
 初見のレアスはもちろんのこと、アズレウスを除くこの空気に慣れぬ者は、
 蒸された空気に構成されて形を成す異形なる黴(カビ)の類(たぐい)に占拠されたる入り口のかもし出す香りと雰囲気に、幾許(いくばく)かの吐き気を覚える。
 パルキアが水タイプである影響も少なからずあるのだろうが、何よりも途切れた空間。風通しの悪さが類(るい)を見ないことが、死臭にも似た空気の一助となっている事は、淀み切り、
時が止まった世界を髣髴させる一切の動きを止まった空気が、訪れる者の体感としてそれを証明している。

 その先にはアグニとシデン、二人が消滅させかけられた忌まわしい思い出の地が待ち構える。ディアルガのトキと違い、『神らしさ』や『厳かさ』とは無縁に生きるソリッドの、住処にして彼の処刑場。
 寝こみのところを攫われ、街では影響が大きすぎるからと禁じ手に近い空間消滅の技に二人が泡沫(うたかた)に消されようとした。その時逃げ惑い、崖から落ちた振りをし、その実崖の窪みに隠れて凌いだという嫌な思い出のある場所。
 そのときこそ、彼は恐怖の対象でしかなかったものの、今は命を狙う爪は持ち合わせていない。
 恐怖の追憶はため息とともに吐き出して、慣れた足(?)取りでソリッドの住処に入るアズレウスの後に続く。

そこに待ち構えていたポケモンは、強靭な四肢を持つ二足歩行型の体格。雄大で名高いカイリューやリザードンのように、雄雄しき翼を背負い、強靭な尾を腰に。
 二足歩行のポケモンが腕を保護するための篭手にも似た形をする腕に強靭な爪を供え、その腕の付け根たる肩には、椀(わん)を返した様な器官に、光を受けて七色の鈍い光を照り返す真珠色の珠。
 体中いたるところに纏う紫のラインは、空間の力を象徴する紫の光源。そこだけが明るく存在の自己主張をする。

656 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:29:46 ID:ueAFU+w+0
「グオオオォォォォォォッ!!」
歓迎の祝辞より先に、いきなりの咆哮。何を意図しているのかすら、全く以って悟らせないの行動は神の貫禄か。例によって4人が体を硬直させる中、アズレウスは慣れたものなのか平静を保っている。
 思えばこれと同じような現象をプクリンのギルドでも見たような気がする。いや、アズレウス以外の4人は全員見たことがある。
『たぁ〜〜〜〜〜〜!!』などと叫ぶプクリンとはパルキアも根っこは変わらないということか、それとも単にソレイスとソリッドが変人、奇人なだけかは定かでは無い。
 例えそれが、【『どちらかを仮説に仕立てろと』言われれば、全員が後者を選ぶ事が目に見えている】としても、だ。

「よく来たな。俺の招待したパーティにようこそだ。アズ……青白いのも苦労をかけたな」
最早、呆れを感じる感覚すら麻痺したアズレウスは、その失礼極まりない発言に怒りを覚えることなく、冷静な振舞いを見せる。
 対して、頭痛にも近い重さを頭に感じてうな垂れるのは、特に実感のこもっているアグニである。『またオイラも茶色いのと呼ばれるのか』と思うと、気の重さに比例して頭にかかる重力を、振り払うことも出来なくなる。

「さて、お前達はここで、空間を歪ませる存在から、真っ当に生を受け日々を暮らしたものと同じく進化を行える体になる訳だ。
 そもそも進化とは、体の内に宿る生命の波導が成長による増幅や石などによる付加。そして、光の泉に満ちた波導による相乗効果グダグダグダグダ……」
話は終わる雰囲気を見せず7分。まじめに聞いていたのはレアスとニュクスとアズレウスで、アグニとシデンは小声で別のことを話す始末である。

「……というわけだ。つまり、お前達の空間のゆがみを直すことは、トキやセレビィのように特別なポケモンに限らず、鍛錬を積めば誰にでも出来ることだ……それだけに、こんなことくらいしか出来ないのは少し心苦しいくらいだ。
 お前達を消そうとした非礼の詫び。そして、平和へ貢献したことに対するお礼にはまだまだ足りん。俺の巨体を持ってしても表現しきれぬ感謝がある」
以外にも律儀(りちぎ)な一面を見せるソリッドが、空間に穴を開けて穴の内部に手を突っ込む。取り出されたのは、美しい桜色の花弁を持った花。

「だから、持ってきた。"幸せ岬"にて、感謝の気持ちを表すときに贈る、グラシデアの花だ」
アズレウスが口に含んでいた唾液を思わず吹きだしてしまう。幸せ岬といえば、クリスとエレオスが引っ越した場所では無いか。
 いつ頃摘んできたのかは知らないが、数日前だとしたらエレオスやクリスタルと鉢合わせる可能性も考えられなくは無い。
 どうやらエレオスは、アグニやシデンの言う『空間に穴の開いた場所のリスト』や今回の件といい、運が悪いのだか良いのだか、いまいち判断しかねる星の下に生まれたようだ。

「ん、どうした青白いの?」
その様子に気が付いたソリッドが、アズレウスの挙動に疑問をぶつける。

「な、何でもありません」

「ちょ……待って。幸せ岬ってあれだよね? エレオスさんが引っ越した……」
シデンの小声での問いかけに、アズレウスは黙って頷いた。

「なんでもない? ……ならばいい。今日の朝一番に摘んできた、グラシデアの花……受け取れ、シデン・茶色いの・ニュクス……っておい、そこの空色のぉ!」
視線が射抜く先は、明らかにレアスの居る方向を指している。今の今までレアスに気が付かないのは鈍いというほかない。

「そう来たか……」
『水色の』と呼ばれると思った予想をくつがえされたアグニが呟く。

「お前は何者だぁ! 俺がお前を呼んだ覚えは無いぞぉ!」

「ボクはレアス。レアス=マナフィって言うんだ。よろしくね♪」
悪びれる様子も無いレアスはいつもの澄ました口調だ。

「何の目的でここに来た、空色の?」

「それは、ただの興味本位というか……邪魔だったら帰るよ……"白いの"さん」

657 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:30:15 ID:ueAFU+w+0
一瞬で空気が凍る。ソリッドの怒りに呼応するように、肩にはめ込まれた真珠色の珠が激しく光る。

「グオオオォォォォォォッ!! 客人の連れということで……丁重にもてなそうと思ったが……俺を愚弄するとはいい度胸だぁ!!」
咆哮が大地を揺るがし、閉鎖された天井からパラパラと土が落ちる。

「わひぃっ! レ、レアス。速く謝って! 土下座土下座、速く〜〜! 自分も謝るからさ」

「オ、オイラも謝るよ。え、えっとこの度はレアスが『ソリッド』って呼んでしまって、本当にごめんなさい、『白いの』。これから2度とこういうこと……」
「アグニ逆・逆!!」
「ああ!!」

「グオオオォォォォォォッ!! お前達の言い分は、良く分かった。お前達が俺をその名で呼ぶのならば、力の差を分かりやすく示してやろう。
 空間の修復に一睡もせずに飛び回っていたころとは違う!! 本調子の俺の力の前に……平伏せ!!」
不意に空間が歪む、穴が出現する。そうして出来た閉じた空間の内部にレアスとアグニが音も無く吸い込まれる。次いで、同様のものの大きなサイズがソリッドの眼前に出現し、徐々にその体を飲み込んでいく。

「うわっ、ちょ……助けて」
「あれ、これってどうすれば……」

「ソリッド様……落ち付いて……ダメだ、聞いてない」
残された三人は歪んだ空間に堕ちた二人に手をさしだすことも出来ず、空間は元通りになる。

「困ったことになりましたね……」
「う〜ん……二人なら大丈夫だって信じたいけど……ソリッドもまさか殺す事はしないよね?」
不安げなニュクスと何処か楽観的なシデンが、アズレウスには酷く対照的に映った

658 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:31:44 ID:ueAFU+w+0
――ここは……? 確か僕、自分の事を『空色の』って呼ばれることに腹を立てて、思わずソリッドのことを『白いの』って呼んで……そうだ。変な場所に飛ばされたんだ。

景色は先ほどと打って変わり……海。底も見えないほど青く深い海だった。
 『空間をゆがめて』というと歪めてしまうのは神の責務と対照的なことだあるはずだから語弊(ごへい)となるのかもしれない。
 しかし、そうとしか表現しようがない方法で、周りは海にされていた。ソリッドが『リコンストラクション』と自称する、パルキアの*3能力の一つだ。
 海はレアスのホームグラウンドであるが、ソリッドにとっても有利な場所。そして何より、アグニは全く力が出せない環境だ。アグニとレアスの内、まずは強い方をやってしまおうという算段らしい。

「立て……お前達が如何に身の程知らずか教えてやろう!! ブルアァ!!*4」
 怒りにまみれたソリッドの双眸は赤く殺気を滾(たぎ)らせ二人の度胸や、勇気といった気概を押しつぶす。
 普段のアグニなら『水中じゃ立てないでしょ!』と突っ込むところであろうが、海という環境とパルキアという種族の持つ重圧(プレッシャー)がそれすらも萎縮させる。

「レ、レアスゥゥ君のせいでこんなことに……」
すでに涙声なアグニ。

「アハハ……ゴメンゴメン」
対照的にレアスは全くプレッシャーを感じていないのか楽観している。

「ここからはまじめに言うけど……少し時間稼いで……僕のハートスワップで仕留めるから」
ただし、そのように感じさせたのは一瞬。戦闘にスイッチが切り替わると、途端に勇壮な戦士の顔をアグニの前に映した。

「グオオオォォォォォォッ!!」
ソリッドは空間すら揺るがすような猛烈な咆哮とともに、翼の羽ばたきと手足の掻きによって、水中であることを感じさせない猛烈な勢いでアグニに接近する。
 アグニとて、ヒコザルという種族柄、水は嫌いとは言え、尻の炎を消していれば泳ぐことだって可能だ。とは言え、体温の低下は激しく、長く浸かっていれば命に関わる。

 ソリッドがそれを見越し、アグニを最早力なきモノと思い、油断したのが運の尽きだ。
 アグニは、海というフィールドで水の波導の恩恵を無尽蔵に受けたソリッドの爪の一撃を……水中にもぐってから水面に飛び上がるという動作で以って交わす。
 しかしその際、不自由な動きや体温の低下による体の硬直。そう言ったものが重なり避けきることが出来ずに足を抉(えぐ)られる
 痛い。とても反撃に転じることが出来ない。塩水が傷にしみる。しかし、アグニにとってそれで良いとも感じる絶大な安心感。それを感じることが出来るのは一重に……レアスのお陰かも知れない。

「グオオオォォォォォォッ!!」
 次は、肩の球を光らせながら海の水そのものを武器となして、海が唸りを上げる。なんの捻りも無く、単純に恐ろしさを語る技『津波』と呼ばれるもの。激流に飲み込まれたアグニは為すすべなく沈み、深い水底にてもがく。
 アグニにとって息の出来ない恐怖の空間に引きずりこまれ、本能が上に上がるべきだと伝えるが、生憎ソリッドはそれを食いとめるべく上で待ち構えている。
 なさけない話、これでアグニはほぼ負けに等しい状態といえる。あとは、レアスに何とかしてもらわなければ溺れ死ぬ。それだけの存在に成り下がってしまったことにアグニは歯噛みする。

659 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:32:17 ID:ueAFU+w+0
当のレアスは、というと……言うと。ついに牙を剥いたようだ。精神状態によって大きく変わる自我の強さ。それが強靭であればあるほど困難だというハートスワップの威力が、やっとのことでパルキアの怒りを陵駕することが出来たようだ。

――ふう、これでオイラは痛くも苦しくもない……ってオイラがパルキア? やっ……
ソリッドの心はアグニの心と入れえ変えられる。つまり、アグニの体にはソリッドの心が入っているという訳だ。
心を入れ替えられ戸惑っている間にレアスは精神(なかみ)がアグニなパルキアの肩に最大威力かつゼロ距離で破壊光線を放つ。肩が砕けそうな痛みが……というか砕けた。

「ガギャギャァァァァァ!!」
精神(なかみ)がアグニなソリッドは、叫び声を張り上げる。
 精神(なかみ)がアグニに変わり、集中力が切れたこと。そして肩の宝玉が壊れたことも相まってか、その叫び声と同時に景色は海から、元のソリッドの住処に戻ってしまう。
 刹那、アグニの肩から痛みが消え、代わりに足の痛みが復活した。交換されていた心が戻ったことで、傷を一つも負っていないアグニの体に戻ったことで必然的に痛みが消える。
 ただ、ソリッドの心が入っている間に水を大量に飲んでしまったらしく、アグニは酷く咳き込みを覚えた。
 鼻と口から大量の水分を吐き出しているアグニを青と白の体躯を持つ者が優しく攫う。

「大丈夫か? 何があったかは知らんが酷い目にあったようじゃの」
空間が元に戻るのを確認したアズレウスが、アグニを安全なところへと退避させる。

 ソリッドのほうへ目を向ければ、潤いの力で破壊光線の反動すら高速でかき消したレアスはいまだ、パルキアとの戦いを続けている。今度はシデンをパートナーとして。
 肩を傷つけたこともあって、二人はソリッドを圧倒していた。シデンが電光石火の早業で股下にもぐりこみ雷を落とす。痺れている間にレアスは自身の身長の10数倍の高さまで飛び上がり、猛毒の液をソリッドの顔面に塗りつけ、相手を毒に犯す。

肩の負傷で明らかに動きが鈍りつつあるソリッドにとって、最後の毒液が気概を折りとる止めとなったようだ。腕に蓄えた力をふっと消し去り、尻餅をついて『くそ!』と、悪態をついた

660 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:32:42 ID:ueAFU+w+0
「まさか……負けるとはな。強いつもりで居たが、俺は弱いか……」
悔しげに呟き。地面を殴りつけるソリッド。少し地面が揺れて崖が崩れた。この住処は通風性だけでなく耐久性にも問題があるようだ……いい加減引っ越してくれないのか?

「いや、十分強いよ。少なくともここに居る誰よりも」
アグニの言葉にソリッドは力なく、自嘲気味に笑う。

「ハッハァ!! それは違うな。強いものが勝つのでは無い。勝ったものが強いのだ。なればこそ、勝ったお前達こそ強いのだ。お前が気にしているだろう二対一も卑怯では無い。
 それは味方を作る力だ。俺に……味方を作る力があれば強くもなれたろう、ともすればお前らに勝てただろう。しかしそれは言い訳でしかないのだ。
 それだけに……勝った事を評価しないわけには行かない。アグニ、レアス。お前達はこれから、俺のことを好きな名前で呼ぶがいい」
初めてソリッドが男の名をきちんと呼んだ。その奇跡に誰よりもアズレウスが目を見開き、アグニとレアスの二人を羨望の眼差しで見つめる。

「それと、青白いの!! 肩の傷が痛む。俺にオボンの実で作った軟膏をよこせ」
英雄を見る眼差しで二人を見ていたアズレウスは、急に現実に引き戻されて心が急速に醒める。

「あらら……結局わしはそのままなんじゃな」

「アズレウスさん……私は傷を癒すことになら長けています。ですからその役、私がやりますよ。さ、アグニさんも酷い傷ですし、一緒に治療して差し上げます。どうぞこちらへ」
ニュクスはついに神相手に勝利を収めたレアスという名の英雄を見てそっと微笑みを送る。

「わわわ……」
アズレウスがアグニの傷ついた足を気遣って、念力でニュクスとソリッドの元へ運ぶ。

「あ、ありがとう。アズレウス」

「いやいや、気にする事はなぁ。主の客人はわしの客人じゃけぇ」
ソリッドの意外な一面を垣間見れたアズレウス。ひょんなことから本気のパルキアと戦い勝利を勝ち取ったレアス。息子のような存在のレアスの成長を見ることが出来た二人。
そんなほほえましい光景を見ることが出来たニュクス。数人掛りであれ、神である自分を打ち破れる力を持つものと戦えたことに確かな満足を覚えたソリッド。表情に出す者も出さない者も、湿り気で重たい空気の中で心が軽かった。

661 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/04(火) 22:33:43 ID:ueAFU+w+0
今日のところはこれで終わりです。それにしても……過疎ってますね。

662 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/11/06(木) 12:46:02 ID:AoJsE8eY0
act42 窮地

「ふはははは! 儂の力を注ぎ込んだカシェルは例え戦闘能力に長けた者でもその強さの前にひれ伏すのだ!」
十字架の前に立つガノッサは狂気に顔を歪ませ、二匹の戦い合う様を見物していた。
しかしその背後ではーー

「もう少しでロープが解けそうでやんす…」
十字架の裏で物音も立てずに縄の結び目と格闘していたのはルシオであった。
ロキとカシェルの戦いに集中していたガノッサの視線を掻い潜ってユメルの捕らわれている十字架の背後まで回り込んだのだ。
「! 解けたでやんす!」
ユメルの身を拘束し、幾重にも固く結ばれていた縄が解けて地面に開(はだ)け落ちる。続けてルシオは彼女の猿轡を引きちぎるようにして外した。
その音を察知し、ガノッサはハッとして振り返った。
「貴様…儂の目を盗んで姑息な事を…」
「早く逃げるでやんす!」
ルシオは恐怖に竦んでいるユメルの手を取るとガノッサの横をすり抜け、崖の入り口へと逃亡を計る。

「逃がさん!」
逃げるルシオに向かってガノッサは両手から不可視の念力のようなものを放つ。

663 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/11/06(木) 12:49:06 ID:AoJsE8eY0
それを受けたルシオはその場に崩れ落ちるようにして倒れた。
「ルシオ……?」
ユメルは直ぐ様倒れた彼の側に座り込んで安否を確認する。
良かった……ルシオは昏睡状態に陥っているだけのようだ。恐らくガノッサが使ったのは“催眠術”だろう。
とりあえずは一安心するユメル。だがーー

「さあ、小娘よ。お前の龍の血を以て“古の災厄”を今一度此処に甦らせん!」
依然として不気味な笑みを浮かべたままのガノッサが右手に短刀を握りしめ、一歩一歩ゆっくりとユメルに近寄る。
ユメルは恐怖に慄(おのの)き、全身が硬直して立ち上がる事すら出来なかった。
身体が震え、冷や汗が滴り、涙で視界が霞む。脳が「早く逃げろ」と命令しているのに身体が言う事を聞かない。
“テレポート”を使おうにも今のような精神状態では心を研ぎ澄ます事も出来ない。
頼みの綱のロキは今もカシェルと激闘を繰り広げている。二匹は互角……いや、若干だがロキが押されているようにも見えた。
やはり私は此処でーー


664 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/11/06(木) 12:52:11 ID:AoJsE8eY0
「ユメル!」
再度鍔競り合いとなっていたロキはカシェルの剣を弾き反らし、ユメルの方へと首を向けて彼女の身を案じる。
「戦いの最中(さなか)によそ見をするな、と忠告したのは君じゃなかったのか!?」
ロキが視線を反らした隙を突き、カシェルは彼の鉄剣目がけて剣を下から振り上げる。

ギィンーーー 「……ッ!」
一瞬防御反応が遅れ、剣を握る手の握力が自然と弱まっていたロキの剣はカシェルの攻撃に耐えられずに彼の手を離れて宙を舞い、そのまま奈落の谷へと落ちていった。
「な…剣が……」
「…これで君の負けだ」
カシェルは勝ち誇った表情でロキに向かって闊歩し、剣を構える。
……何とかこの状況を打破出来ないだろうか? だがロキの背後は先程自身の剣が飲み込まれた底の見えぬ谷。落ちれば一溜まりも無い。
相手は剣四本、自分は丸腰…今のカシェルを相手に全ての攻撃をかわす事は不可能に近い。
「今度こそ絶体絶命、ってやつか…」
「ロキ、此処で劇終といこうじゃないかぁ!」


最近多忙なため出現頻度が低下していますorz
リング氏、度重なる更新乙です。三つの作品、何れも続編にwktkさせて頂きます。

665 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:26:10 ID:4tGFI98Q0
ロキピンチ!! どうやって切り抜けるのか? もしくはイーブイゴーストタイプに(蹴
イーブイで考えうる可能性といえば『取っておき』ですかね……当たってたらすみません。

期待の声援、ありがとうございます。

前回
>>641-647

―――――――
その夜のこと……

「ふふふ……それにしても、今回も新人隊員から『守秘義務のある捜査をあんなにおおっぴらに公開していいのか?』とツッコミがありましたねぇ。前回より少ないのが気になりますが……どう思いますかカピバラさん」
ローズ支部長が怪しく笑った。カピバラと呼ばれた国際警察の男も、小さく笑う。

「ツッコミがないほうが困りますってば」

「まぁ、その通りですね」
そういって、ローズ支部長は緑茶を一口飲む。

「で、レンジャーのほうで行われる本当の捜査の方はどういう方針で?」
カピバラがペンとメモを取り出す。

「……私たちは企業から調べます。今回使われたヤミカラス系統はこの地方にも当たり前に存在します……ですが、フワンテ系統はこの地方には野生に存在しないはず。
 そんなわけで、敵は何らかの大規模なポケモン育成施設を隠れ蓑に、繁殖させて……という考えです」

「アタリのつけている企業はあるのか?」

「ありません。ただ、有名どころで言えば、例えば……ポケモン用製薬会社や獣医大学……その他多種多様な実験用ポケモンの下請け会社『クリチャーサービス』。
育て屋チェーン企業の『ガルーラカンパニー』。ポケモンタレント派遣・要請マネージメント会社の『アカツキ興業』
そんなところでしょうか? ただ、私が知っている大きな会社を上げただけで、こんな私の意見などないに等しい。
 そんなわけで……それら大規模なポケモン育成施設のある企業、あと輸入業者などのリストを作り、それらの経営者・責任者・創始者・株主。
そこら辺から、怪しい奴を洗い出していく。前科のあるものが見つからなければ、実際に決済や収支から不審な点がないかどうか……今出せる指示はそれだけです」

「的確な指示だと思うぞ……。参考にさせてもらうよ」

「それは、光栄ですね」


大騒動の翌日……昨日に大活躍を果たしたトップレンジャーの3人は、ローズ支部長より2日間の休暇を貰い受けることが出来た。

「なぁウール……今日はポケモンセンターでIPMOへのレジェンドボールの申請と、大好きクラブへ行ってルルーの写真の自慢やトキシンのお披露目だったな?」
歯を磨いている途中のウールにアルバが話しかける。

「んぁ? ほうよ……ほれがどうひたの?」
口に歯磨き粉の混ざった唾液を大量に含みながら喋るもので、アルバは飛ばされる飛沫に顔をしかめる。

「今日は……その、アサたちの元に、『行けたら行く』と伝えておいたものでな。貴方から暇をもらえるのであれば……」
アルバが言い終わると、ウールは口に含んでいた歯磨き粉交じりの唾液を吐き出して口をゆすぐ。

「いいわよ、所で何をするつもりなのかしら?」
ウールが問うと、アルバは黙り込んでしまう。

「いいわ、貴方にも言いづらいことだってあるものね。行ってもいいわ、ただしアサに迷惑掛けないようにね」
ウールはすこし困り顔をするも、彼の事情も察して笑顔で送り出した。

666 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:28:15 ID:4tGFI98Q0
「おはよう……アサ」
レンジャーユニオンからそう遠くない位置にある人気(ひとけ)のない海岸。穴場かといえばそういうわけでもなく、ゴツゴツした岩が遊泳中に肌を切り裂くことがあるために、あまり好まれない。
 秋も深まる季節もあいまって人気だけは本当に少ない。こういった場所では秘密の行為というのはやり易いものだ。

秘密の行為とはもちろん性的なことではなく……

「フィリア、シャドーボール連続発射だ! 空中でかっこよく動き回ることも忘れずにな」
ポケモンコンテストの練習である。フィリアの手から漆黒の闇を映すシャドーボールの小型のものを上から下に放ち、虚空に消えていくものと地面に当たるものに分かれる。地面に当たった後に残る紫色の炎が美しく風にたなびいた。
つまり、ポケモンコンテストの練習だ。

「見事だな……」

「よう、アルバ。おはよう」
今日のアサの目の下にはクマが刻まれている。昨日、ルルーとか言う名のシェイミに感謝したことについての話を30要求されたというが、昨日夜通し聞かせていたとでも言うのだろうか? 言うのかもしれない。

「さっきテレパシーでフィリアに連絡したとおり、ウールから休みをもらってきた……」

「携帯買ってもらってくださいよ〜〜。距離が遠いとテレパシー大変なんですから。頭いたくなっちゃうでしょ?」

「携帯電話を買い与えられているポケモンなど……お前くらいだ。だが……そうだな、欲しいな」
アサはため息を吐きつつアルバの肩に後ろから手を置いた。

「お前は引っ込み思案すぎだ。フィリアみたいに欲しいって頼めば案外買ってくれると思うぞ?
 あいつ、ポケモンは顔を舐める奴以外本当に大好きだし……お前のおかげで仕事が出来るわけなんだからさ。誕生日プレゼントにねだってみたらどうだ?
 いや、今度の大会でいい成績を残せたらって言うのもいいかもな」

「考えてみる」

「考えで終わるなよ?」
アサはイジワルそうに言ってフッと笑う。

「まあいいか。そんなことより、二人揃ったことだ。ダブルパフォーマンスの練習始めようじゃないか。
 さぁ、着替えて」
着替えといっても濃紺のマントを羽織るだけのもの。たいした時間もかけずにそれは終わる。二人は立ち位置をあわせ、早々にいつでも演技を始められる体勢となった。

「よし、先ずは通しでやってみて、今日の課題を探るぞ。準備はいいなぁ?」

「はい!」
「問題ない……」

「じゃぁ、はじめっと」
その合図を皮切りに、音楽がステレオより鳴り響き二人は演技を始める。今回、二人が出る予定の大会は、正面の舞台に立って演技をするタイプであり、全方向から見られるものでは無い。
 そのため、海を架空の観客席に見立立てての演技をする。

667 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:29:08 ID:4tGFI98Q0
二人は地面を同時に指差すと、チャージ無しで放てる小さなシャドーボールを寸分たがわず同じ場所に叩きつける。
 紫の炎が上がり、第一印象で食いつかせるには十分なインパクトだ。息の会った二人の動きにはシンクロの影響の強さがうかがえる。

そこから先は今度は普通にダンスをする……といってもダンスとだけ聞いて想像するものなど星の数だろう。今回二人はフィリアがトリックルームで空間を歪め、アルバが最微弱の怪しい風で、全体を暗くする。
 まだ朝といえる時間帯の中ほとんどシルエットしか見えず、しかも背景はトリックルームのせいで怪しく揺らめいている。
 その中で、ゆらゆらとフィリアは手の先、アルバは翼の先を動かし、足は小刻みに地面を叩く。手の動きは忙しい、上下に揺れては左右に閉じたり開いたりを繰り返し、かと思えば片方は腰に手を当てもう片方を頭上でかがり火が燃えるように先端を動かす。

 時々くるりと体を回しては手を叩き合わせ、砂浜ゆえに聞こえないが足爪が地面を叩く音も本番では目立つものとなる。人間で言うフラメンコにも似たこの踊り。
 主役である、ポケモンを見せることを忘れず、それを引き立てる技、シャドーボールが人間の“それ”には無い方法でダンスを飾っている。

舞台装置として利用した怪しい風とトリックルームはもちろんのこと、ダンスの途中でチャージしたシャドーボールを手の中でずっと蓄えたままにしておき、炎のように揺れる手からいつの間にか本当に紫の炎が燈される。
 そのころには、怪しい風も威力を弱めて、暗くなった周りは明るく変わり二人の姿がありありと映し出される。
 二人がマントを翻しつつ交差すると、その瞬間に二人の位置を入れ替える。こちらはテレポートやトリックの応用だ。

 曲がクライマックスに入るとステップを踏むごとに足元から草結びの応用で草を生やす。最後のフィニッシュに向け、二人は徐々に距離を詰めると少し大きなステップを踏む。
 架空の観客席に見立てた海の奥側にある腕からチャージしたシャドーボールを放ち、爆風があがるとともに、立ち上る紫の爆煙をバックに膝立ちの姿勢で二人の手と翼を合わせる。そして、観客に見立てた海に挨拶をする。

拍手の数は一つだけだが、それこそ一番嬉しい者。アサからの拍手であった。

668 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:29:48 ID:4tGFI98Q0
「毎回毎回……お前ら本当にアドリブでやっているとは思えないな? 本当にシンクロの特性ってな羨ましいもんだ」
マントを翻してのテレポートや舞台の様子を変えたりなど、全体的な流れは毎回変えないようにいってあるが、踊り自体は毎回変わっている。
 それなのに、二人のダンスの息は不思議なほどに息が合っていて美しいのだ。二人自身の才能もさることながら、息の良さは高得点を狙えるとアサは踏んでいる。

「ありがとうございます」
拍手とほめ言葉を受け取ったフィリアは照れくさそうに、しかし素直なお礼を言う。

「お前の指導によって鍛えた基本があるからだ……」
アルバは謙遜する。自分の感情をさらけ出すのが苦手なのはどうやっても直りそうにない。

「二人とも。マントを翻したときに二人の位置を入れ替えるタイミングなんだが、もうちょっと練習した方がいいかもしれないな」

「はい!」
「了解した」
昨夜の話に出た*1アルバのウールに話していない"あの事"とは、このポケモンコンテスト・ダブルパフォーマンス部門に出場するということについてである。
 アサは『ウールなら許可するだろう』といっているがアルバはなかなか言えないでいた。それで、昨日の会話である。『一緒に言ってくれ』などと言うあたり、どうもウールに対しては臆病で引っ込み思案なようだ。スタンへの壮絶な虐待を間近で見ているからだろうか?


「『〜〜〜唐突にアルバも借りちまったことだし、そのお礼も兼ねて今日は俺が奢ってやるつもりだ。んじゃ、俺は自分の部屋で待ってるぜ。』さてと……メール送信っと」
ダンスの練習を終え、ウールを食事に誘う。といってもいつものユニオン内にあるカフェテリアなのだが。

20分後そのメールに返信が来る。その内容は『おごりだって言うなら甘えましょうかね。じゃあ、お腹すかせてかえってくるわ』

「『お腹すかせて』って……全く……ウールってば卑しいなぁ、おい?」
イジワルな口調をしてアサが、問う。

「結局、食べるものが質素だから高くはつかないだろうし、良いではないか」
アルバは軽く流して、ニヤリと笑い返した……かどうかは無表情な彼の表情からは察しにくい。

669 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:30:53 ID:4tGFI98Q0
その夜、寮内で休んでいたアサの元にウールが訪ね、二人はカフェテリアに向かう……前にスタンノウールに対する熱烈な歓迎が行われる。同時に、フィリアの通訳も始まった。

「ガアウゥグウゥ♪(会いたかった〜♪)」
ウールの肘と膝がスタンの顎を挟み込み、ガチンと歯が出したとは到底思えない大音量が鳴り響く。

「おお、"蹴り足挟み殺し"かぁ! いつ見てもかっこいいなぁ!」

「このままご先祖様にでも合わせてやろうかコラァ!! こっちは生ける屍だろうと、廃連虎(レントラー)だろうと、どんな状態にしてやってもいいんだぞコラァ」

「いや、それは俺が困る」
足で頭を踏みつけつつ、懐に仕込んでいたスルジン*2を取り出し、踏んでいた足を放すと同時に、柄の部分で後頭部を叩きつける。

そのまま片腕で首を絞めつつ、もう片方の腕ではコメカミを柄でゴリゴリする。

「このままぶん殴って奥歯ガタガタ言わせたろうかコラァ!」
十数秒続けてスタンの力が抜けてきた頃に、やっとのことでスタンは開放された。

「ガウゥゥゥ……(姉さんキツイっすよ)」

「知るか! 兎に角、貴様は黒縄地獄に堕ちろ!!」
スタンはとどめに、バット4本を叩き折る蹴りに、覇気の波導を付加した渾身の蹴りで攻撃される。

「はいはい……もうボールに入っていてくれスタン」
怪我が酷く、しばらく安静にする必要がありそうなスタンはこうしてボールにしまわれた。

「ウールさん……黒縄地獄は殺生と盗みを犯した者が堕ちる地獄ですよ……」
フィリアがまたどうでもいい突っ込みをすると、ウールはため息をついて、

「私勉強不足みたいね……」
と言うだけであった。一方アサにボールへ収納されたスタンはというと……

「ガァァウゥ♪(まだまだ♪)」
モンスターボールからは気合で勝手に出ることが出来る以上、ボールごときにスタンを留める事は出来ない。しかし、ボールに止められないのであれば、力ずくで止めればいいという考えはあまりにも短絡的で、しかし正論なのだ。

「唐突で悪いが、少しは自重しろ!」
「供養くらいならウチでやってあげてもいいわよ!」
ウールの蹴りは左頬に、アサの蹴りは左脇腹に綺麗に決まる。流石のスタンも、この一撃にて床に倒れ付した。

「さて、カフェテリア行きましょう♪」
そうして、何事もなかったように振舞うウールは、アルバにとって恐怖の対象である。


アサはオクラ、おひたし、新サンマ、白米、野菜たっぷりの豚汁、牛乳と、やたらとバランスがいい食事を選んで取っている。
 ウールの方はと言うと、ガンモドキの煮付け、白米、ハクサイの浅漬け、味噌汁、切干大根と、動物性タンパク質が一切無い。
 アサも彼女の部屋に何回か入ったことがあるが、そのときに食卓にコチュジャンやレモン汁が存在する以上*3、隠れて焼肉をやっているのは疑いようも無い。だが、こうやって一緒に食事をするときは少なくともエネコを被って(仏を被っていると言うべきか)いるのである。

トキシンを連れ回せるようになってからは、水を飲む前に必ず浄化してもらうなど、伝ポケに対して罰当たりとも思えるお願いをしている。
 ただ、態度を表に出さないだけか、それとも主従の関係が出来上がっているのかトキシンは嫌がるそぶりは微塵もない。
 アサ達が浄化する様子を凝視していると、『貴方たちもどうでしょうか?』と自分からもちかけてきた以上、浄化するのは癖か趣味なのかも知れない。
 アサはただの緑茶だったので断ったが、水を入れていたフィリアは『お願いします』と差し出した。トキシンが、指をコップの水面にチョンと触れると美しい波紋とともにコップの水が浄化される。
 見た目には正直違いが全く分からないので、フィリアのコップを奪い飲んでみると、今まで飲んだこともないほどに柔らかい水だった。いろんな料理に合いそうだ。

670 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:34:27 ID:4tGFI98Q0
「でさ、シェイミを抱いたって言ったらそりゃもう羨ましがられちゃって……証拠写真見せたらツキノ君にハリセンでぶったたかれたわよ。『俺にも回せって』さ……」
頂きますの合図で食べ始めると同時にウールは愉快そうに大好きクラブでの出来事を話し始める。その話も終わりに近づいてきた……のだろうか?

「またツキノか……? この前もトゲキッスを持っている奴にどついていなかったか?」

「その前はボスゴドラの人にも……」

「ふふ……あの子問題児だけどまだ9歳だから許される節があるのよね、困ったものよ。でね、トキシンをみんなにお披露目したらその日の内に情報が伝わったらしく、副会長が会いたがってるのよね……」

「カジヤさんのことか? やっぱりあれだけのポケモン持ってる人でも、スイクンは憧れなんだな」

「あの人も私もお互い忙しいから、いつ遭えるか分からないけどね……でもあの人の頼みなら聞いてあげたいし……それは考えたってどうにもならないことだし、どうでもいいことね。
 それよりアルバ。今日はどうしてアサと一緒にいたの?」

――来た……
アサ、フィリア、アルバの三人が息を呑んだ。最初に口を開いたのはアサであった。

「あ〜……そのことなんだがな。一ヶ月ほど前からアルバに深夜に抜け出してはコンテストの練習をさせていてな……」
 ウールは楽しそうな顔から一気に怪訝な顔をする。

「それ……どういうこと?」

「え〜っと……去年、まだモウカザルだったヴォルクとともにコンテストバトル部門に出場しただろ? でも結果は地区大会準決勝でリテン地方CBチャンピオンと当たってしまって……惨敗orzってことで。
 ヴォルクはその時、相手のマリルリにいいように振り回された……比喩的な意味じゃなくて"文字通り"振り回されたことですっかりコンテストが嫌いになっちまってな……リボンを手に入れるための選手が居ないんだわ。
 で、代わりをフィリアに決定したんだけど……一人じゃいまいちだから。二人で合わせてダブルパフォーマンスならどうかと思ってな。
 でも、息の合う奴が俺の手持ちにはいなかったから、お前がいない隙を見計らってアルバに話を持ちかけた……と。唐突で悪かった……すまん」
唖然。ウールは呆れた表情になる。

「アルバ……アサ……あんたらねぇ、そういう事はちゃんと私に言いなさいよ。練習やって次の日に疲れ残しちゃう事だってあるのよ?
 サプライズなんてしたって誰が喜ぶわけでもないんだから、事後承諾なんぞしないでよ……いいわね?」

「う、うむ……」
「すまん、ウール」
二人ともすっかり小さく縮こまってしまうが、ウールの表情は次第に悪くない方向へと移行する。

「まぁ、いいわ……仮にも私のポケモン勝手に使ったんだから、相当に自信があるということよね? 見せてもらうわよ。ポケモン大好き倶楽部の会員として、審査出してやるわよ。
 腑抜けた出来だったら、アルバの出場取り消させるからね。この食事の後……見せてもらってもいいかしら?」

「望むところ。なぁ……フィリア、アルバ」

「トゥー……トゥー……見えない」

「アルバ……恐いから見えないとか言うの止めて……」
苦笑いする、アサに対しアルバは。

「緊張すると、アカシックレコードが見えなくなるのだ……」
と力なく言った。たいしてフィリアは、アルバの肩に優しく手を置く。

「今から緊張していたら、本番では心臓が口から飛び出て死んじゃいますよ? ですから、自己暗示、自己暗示♪」
そういって優しく微笑むのであった。

671 :リング@憧れの職業 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/09(日) 21:37:04 ID:4tGFI98Q0
「すごいじゃないの!! まさか、アルバに見とれる日が来るだなんて思いもよらなかったわ。
ふふ……合格ってことにしましょうかね。やるからには優勝狙っていきなさいよ」
緊張したなどといっていたアルバも、演技が始まると腹をくくったように体の硬直が解け、のびのびとした演技で観客を圧倒している。
 今回の観客はウールやトキシンの他、手持ちのポケモンが全員加わり、なかなかの数となっている。
人間の言葉を喋られるものも、そうでないものも賞賛の声を送る。

「とはいえ、俺たちレベルはゴロゴロいるんだ。これからも努力しないと足元掬われるぞ」

「望むところですよ。一番になるにしても、圧勝じゃつまらないですし♪」
フィリアが嬉しそうにスプーンをくるくる回す。

「少し……自信が出た」
アルバの表情が少しだけ笑顔になった気がする。気のせいかもしれないが……

――この休日……矜持しておこう。今は仕事の事は忘れて。
昨日の不安を胸に抱きながら、アサは皆の前で練習を続ける。コンテストバトルの予選は、2ヵ月後だ。


そして、2ヵ月後。例のトキシンを狙った組織に対する捜査の方は特にこれといった報告は無い。その代わり、近頃は本当に平和で、こんなに給料をもらっていいのかと思うほどだ。12月の始めに付き、寒さは厳しい。
ポケモンたちもすっかりと毛が生え変わり、夏に比べて脂肪も少し蓄えられている。アサとしては、毛がふさふさで、いろんなところが柔らかくなることからこの季節は好きである。例えばスタンなど、冬と夏では見た目も手触りもかなり違うものだ。
 それゆえ、今日コンテストに臨む二人も分厚い羽毛と毛に覆われている。そんな二人を見て、アサは声を掛ける。

「二人とも……準備は万全だな?」

「ええ、お洒落も体調も」

「問題ない……」
アサの問いかけに対し、フィリア・アルバともに頼もしい返事を返す。

「期待しているわよ」
ウールもわざわざチケットを予約してこの予選大会の観戦に訪れた。期待するものもいることだし、練習の成果を……今見せるときだ。

―――――――
やっぱり平和な話のほうがずっと難しいなぁ……。
さて、そろそろTGSも更新しなきゃ……。

672 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/16(日) 08:57:36 ID:SOeWmn1c0
え〜〜……どうも、リングです。久しぶりにTGSを更新いたします。

前回
>>623-631


賭場荒らしの襲撃から数日後。アサは入隊試験を勿論突破した。
対戦相手があまりに手も足も出なくて可愛そうだったから、『再戦させて上げあたら?』とい思わず言ってしまったほどの圧勝振りは、あまり見れるものでは無い。

「さてと……今日はお前と一緒に仕事……出来るか?」
探検隊の基本的な装備の一つであるモモンスカーフ*1を首に巻いたアサは……お洒落の面では問題がある。可愛らしいポケモンになら似合う桃色のスカーフも雌のユンゲラーと合わせては台無しだ。

「う〜ん……今日はね、暗夜の森に住んでいるおじさんを訪ねるつもりなんだ」

「おじさん? お前の両親共々、お前と似ていたりするのか? 見た目とか強さとかどんな感じなんだ……」
 モモンスカーフを着けたアサは、鏡を見て重大なことに気が付く。『似合わない……』と。

「ん〜〜……父さんの見た目はなんというか、スカートの形が普通のサーナイトとは違うって感じかな? あと、胸の赤い奴の色も普通のサーナイトよりずっと濃い感じ」
 キールの話を半ば上の空で聞きつつ、今の装備をつけていると毒に掛からないというのは、シンクロの特性が発動しなくなるために、ある意味マイナスと取れなくもないことにアサは気がつく。

「それで母さんは……白い部分の肌触りが最高で、テレパシーがすっごく上手なんだよ。それに……かわいいから街の人気者って感じかな」
 アサはお洒落と、特性。その二つに問題があることが分かってか、アサはモモンスカーフをはずして防御スカーフに切り替える。

「へぇ……って事は両親ともにサーナイトかぁ。いいよな、サーナイトって皆にかわいいって言ってもらえて……ユンゲラーの雌な俺は問題外っと♪ そんでおじさんは?」

「ふふん♪ おじさんはそうだなぁ……なんていうのかな、青と白を基調とした色合いに胸の赤のアクセントが効いているって感じだね。サーナイトなら色違いなのさ」

「ほほう、珍しいなぁ」
何が凄いわけでもないのに、アサは感心したようにおどけてみせる

「ふふ、おじさんは珍しいよ。 あとは……風景を見せる術が得意って言うか。ほら、僕たちキルリアもサイコパワーを使うことで現実にはありえない風景を見せたり出来るけど、父さんの場合は、『流石僕たちとは違う!』って感じかな?」
 アサは防御スカーフをつけた自分の姿を見る。白黒のチェック模様のこのスカーフならば、似合わなくっても先ほどのものよりかは幾分かマシだと思いつつ、キールの話しに応答する。

「じゃ、家族揃ってサーナイト……お前はどっちに進化したいんだ?」

「どうだろうね……意外と分からないものさ。なんていうか見た目とかの面ではエルレイドになりたいし、なにより……この強すぎる角の力を抑えることが出来るならエルレイドになりたいのさ。
 エルレイドが礼儀正しい理由って知っている? 角で相手の感情を感じ取る力が弱くなるから、相手が何を考えているか分からなくなって、途端に不安になる。だからこそ、相手の機嫌を損ねないように……礼儀正しくせざるを得ないってことなのさ。
 でも僕の場合は、この角の呪縛から開放されるならってね……たまに思うのさ。
 親は……目覚め石を用意してくれている。だからどちらでも……今すぐに進化できないこともないのさ。けど悩んでる……」
 アサは防御スカーフを着用して鏡を見ていた目をキールのほうへ向ける。キールは自分の頭に根付く角を撫ぜていた。

「サーナイトになりたい理由は逆に、僕のこの角の力を生かすため。いうなればこの角は……重い荷物だから置いていきたい。しかし、人生という旅に持っていれば非常に役立つ道具……ってところでさ。
 どちらにしても、少なからず後悔がありそうな選択肢なのさ。エルレイドとサーナイト……いっそ僕が女の子だったら……悩まずに済んだのさ」

「はは……なら俺と性別交換してくれよ」
アサが軽い口調でいうと、キールは微笑み返す。

673 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/16(日) 08:59:35 ID:SOeWmn1c0
「出来たらいいよね……ふぅ。と、言うわけで今日は……というか4〜5日いなくなるけど仕事どうするのさ? 一人でやる?」

「ん……仕事の頼み方も覚えたし、文字も読めるようになったけれどさ……まだアレなんだよね。不安って言うか……」
アサは再び鏡の方へ向き直り、結び目によって微妙に変わるスカーフのしわを気にし始める。

「そうだなぁ……今日、シリアの自警団の方に顔出してみなよ。ギルドの探検隊に所属している人たちに事情を話してみれば協力してくれると思うのさ」
キールは座り込んだ。

「ふむ……そうなると何度か一緒にパトロールをしたエリンギ*2とかあたりか……」

「まあ、そういうことになるね……ん」
座り込んだままのキールは、水がめに入った水をPSIで手繰り寄せて口の中に放り込む。

「でも、ここは他の探検隊との交流も深めて見るのもいいんじゃない? 一人とばっか仲良くするよりみんなと仲良くなったほうがいいのさ」

「なるほど……エリンギさんは何回か一緒に自警の活動やったけど、やっぱりアレか。友達は多くても損はしないよな」
アサは櫛を取り出してヒゲの手入れを始める。

「うん、そういうことさ。それじゃ、今日の日中は適当に修行でもしながら休みなよ。昼までは僕が修行に手伝ってあげてもいいし。その後はお買い物に行くのも手だなのさ? 銀のスプーンを欲しがってるみたいだけど、食器ならいい店知ってるのさ」
キールは床に散らばった草のベッドのワラ屑を指でつまんで集め始める。目に付いても手の届かない場所にある物はフワリと浮かせて山を作っていく。

「確かに……あの賭場の用心棒のおかげで金はたんまりあるけど、う〜ん……どうかなぁ? 無駄遣いしないほうがよさそうな……」

「探検隊をやっていれば仕事にもよるけど、金なら嫌でも溜まっていくのさ。ま、僕みたいに人命救助なんてやってると絶対にたまらないと思うけど……それはそれ、金がなくなったら儲かる仕事をやればいいのさ」
アサは左側のヒゲの手入れを終えて、右側のヒゲへ櫛を差し込む。

「う〜〜ん……じゃあ、思い切って買っちゃうかな? その前の修行も頼むぜキール」

「よしきた、了解!!」
キールがトンッと地面を叩くと、ワラ屑が舞い上がりキールの手の平に集まる。投げるような動作で放ると、フワフワと外に運ばれ、風とともに飛んでいった。

「そうと決まれば、身だしなみ整えてもどうせ乱れる思うから、早速はじめようよ」
キールはいつも武器に使っているとがった骨の練習用である、とがっていない骨をガサゴソと捜す。だからそんな風に探すくらいならちゃんと片付けておいた方がいいと思うのだが……

「結局身だしなみは無駄かぁ……しゃあねぇ。ヒゲが乱れたとしても乙女の顔を傷つけないように頼むぜ」
アサは人差し指を上に動かし、下に動かすといった一連の動作で櫛を操りケースにしまう。

「乙女……だったら、もうちょっと女の子らしい口調をお願いするのさ」
苦笑いで、キールはその冗談を受け取った。

「ふ〜む……それは後催眠かなんかでどうにかできないわけ?」
アサは歩いて外へ出る。

「いや、そういうの好きじゃないから……」
続いて外に出たキールと一緒に、アサはともに歩き出した。

674 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/16(日) 09:00:04 ID:SOeWmn1c0
貯水池*3のほとりにて、息切れする女性と涼しい顔で微笑む男性の姿があった。無論、アサとキールである。

「やっぱりお前、俺をレディーだと思っていないな?」
アサの台詞が真実である事は、地面のところどころに開いた大穴、焼け焦げた草、砕けた大岩、巨大な水溜りなど、それらが全て如実に語ってくれている。
 大岩を操り、電気で草木を焼き尽くし、地面ごと抉り取ってブン投げ、水を操って水中に閉じ込める。そのどれもがアサの恐怖心をあおるのに十分すぎた。

「いやぁ……あはは。それは、敵にまわせば男も女も関係ないってことで……僕ってば君が強いものだからついつい大人気なくなっちゃった。でもさ、たまには本気の半分でいいから出してみたいじゃない?」
砕けていない大岩に座りながらキールが笑う。

――その本気の半分に……俺はヒイヒイいいながら逃げていたのか……こいつの強さは反則だそ……

「でも、楽しかったよ。有意義な修行だったのさ」

「どこの口がそういうんだ……お前の佃煮に出来そうなくらいの攻撃の手数に対して、俺が攻撃できたのは指で数えられるくらいじゃねぇか」

「それって64? それとも20? それとも6? どんな数え方?」

「64だ。指が6本で2の6乗が64。俺は30も攻撃してないんだよ。指が6本どころか5本で出たりるっつうの」
愚痴のようなアサの台詞にキールは口を押さえてくすくすと笑う。

「僕だけガンガン攻撃していたからねぇ。他の人と対決したらあくびが出ちゃうんじゃない?」

「違いねぇ」
事実、元から神懸っていた避ける技術はキールのおかげでさらに磨きを増している。

「探検隊は仕事の成功も大事だけど、生き残る事だって大事さ。君はそれが出来る……いいことじゃないのさ。さて、と」
大岩から立ち上がり、キールは傍らにおいてあったバッグを肩にかける。脚はアサのいる方向とは明後日の方向へ向けて、腰と顔と目を総動員してアサのほうを見る。

「じゃ、そろそろ行ってくるよ」

「ああ、おじさんとやらに俺のことをよろしくな。一応同居しているんだから」

「うん。そうさせてもらうよ……」
後ろ手に手を振ると、キールは駆け足で貯水池から街へ行く森の中の道のほうへ消えていった。

「父さん。あの子なら……手駒にピッタリだ」
キールが呟いたその言葉は、誰にも聞かれることはなかった。

675 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/16(日) 09:01:00 ID:SOeWmn1c0
その夜のこと……

「ふふん、なるほど。それで俺様たちと一緒に仕事をしたいってやつだな?」

「あら、分かっちゃった? まだキールがおじに会いに行くから不在としか言っていないんだが」
近くにいるだけで幸せな気分になってくる香りのする男。クラン自警団と探検隊を兼任している中では最も美青年な男、フリック=ミミロップ。
 メロメロボディが強力に女を惑わすがため、会話をしているアサはくらくらしない様に必死である。
「いやまぁ……ただの勘って奴だ。そう気にすることは無いと思うぜ」

「勘……か。まぁ良いや、頼みは聞いてもらえるのかな?」
その質問に、リムルはふふんと笑う。こちらはギャロップであるため、視線はかなり上を向けなければならない。

「貴女はキール君が目を掛けているし、仕事も一緒にしているような子なんでしょ? それに見合うだけの実力があるのなら……勿論歓迎するわ。見合うだけの実力があるならね。
 たとえ弱くてもいいのだけれど、危なくなったら逃げるとか、自分の身は自分で守れるわね?」
リムルがアサに詰め寄って、威圧的な口調で言う。それを手で静止するようにフリックが前に躍り出ると、軽い口調でリムルに諭す。

「まぁ、いいじゃないか? 口でウダウダ言うより実力を見るには戦うが一番って奴だ。今日は早めに切り上げてよ……模擬戦やろうじゃねぇか? どうだい」
アサは同意するという意思表示を頷きで行い、一拍置く。

「頼むよ」

「了解」
んじゃ、今日の見回りが終わったらやってやるぜ。


数時間後……

「さて、今日のところはこれくらいにしておくかな?」
この自警団の存在が一部には知れているらしく、自分たちが見回りしていることに気が付くと、そそくさと去っていくものがいる。一体何をしているのかと疑う間もない。

「ふう、なんだか今日も街の平和を守れたような気が、しないでもない感じもやぶさかでは無い方向ってやつだな」

「曖昧極まれりだな……まぁ、確かに役に立っているのか疑問だが……」
呆れた口調の突っ込みいれると、背後から巨大な影が微笑みかける。

「……いいんじゃないのかしら?」

「さて、と……アサ様。今日は模擬戦を頼むわけだが、俺様とリムルのどちらとも元気一杯だ。どちらと戦う?」

「えと……」
アサは木の枝を拾って手の上で高速回転させると。それを空へ投げた。地面に落ちて止まった木の枝は、フリックを指している。

「フリックで……いいかな?」

「運命任せって奴か? いいぜ、早速はじめようってなぁ……」
 三人は他の住人に迷惑の掛からないように、郊外へと場所を移し、それなりに開けた場所で、荷物を置く。

676 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/16(日) 09:02:23 ID:SOeWmn1c0
 フリックは耳の裏に仕込んでいた櫛で毛を繕い、ゆっくりと歩み出る。次いで、アサが歩み出て二人が対面して構えを取る。

「じゃ、始めるぜ……」
 フリックが先に動く。左に回りこむ。奥に意味を感じさせないこの行動に何のためにかと思う間もなく、アサの鼻に雌を惑わす香りが触れる。意識が別世界のほうへ一瞬飛ばされたと思った頃には、フリックのとび蹴りが胸に叩きつけられる。

「アサ様、らしくねぇな?」
澄ました顔でそう言ったフリックは、敵だと言うことも忘れてしまいそうなほどに魅力的で、よい香りを放っている。鼻腔に彼の香りがある間は、意識の半分が別の世界へと飛ばされる。匂いと言う武器を風向きに乗せて運ぶ。女殺しとはこのことだ。

「ち……俺が女だって事忘れてた。」

「おいおい、忘れんなよ……」
――格闘タイプの攻撃だからたいした被害を出さないように配慮していたのは確かだ……が、さっきの攻撃は手加減がなかった。さっきのが警告のつもりならば……ここから先は、本気で来たとしてもおかしくは無い。

「さって……」
フリックはそこらじゅうに生えている草を二塊引き抜いて、根っこに付いた土をバラバラと振り掛ける。

アサが腕をかざして防いだり避けたりしている間に、あらかた土が飛んでしまった草はそのまま投げつける。飛んでくる土の雨も、草も、悪の波導を纏っているがため念力では跳ね返せない上に、草に纏わせた波導が草自体の運動エネルギーとは無関係にダメージを与える。

 受け止めるのは簡単だが厄介な技だ。下手をすれば的確に狙ってくる目が潰される。
アサは避けつつもフリックをサイコキネシスでフリックを掬い上げようとするが、避けることに熱中するあまり集中力を欠いたり、無茶な体制で相手の正確な位置を把握できない状況では、
 素早いフリックはなかなか捉えられてくれないし、波導の力量差で強引に振り払われてしまう。ダメージは与えられても、オニスズメの涙である。
 対してアサは、避けている間にも的確に風下へ誘導されて、息切れで呼吸をせずにはいられない状況で鼻腔にフリックの香りが通り過ぎる。
 そうしてアサがクラリと来た時には重い石を拾って投げられる。もうこの流れは3回目だ。

――この男……キールより遥かに格下だけれど、強い。ならば、俺の一発技でどうだ?

「喰らえ」

「素直に喰らう奴がいるかってやつだ」
アサはスプーンを大量に上空へ投げつけ、念力で宙に浮かせながら、ぐにゃぐにゃと曲げて球体を形作り、そのスプーンでは実際は何もしない。代わりの草結びが、フリックの足を掬う。
 アサとスプーンの両方を観察していたフリックは、足元がお留守になっていてなすすべなく転び、仰向けの体勢になって草を切ろうと脚に力を込める。

――初めて使ったが……スプーン曲げはいける。このまま反撃に転じれば……
 フリックは草を切ることを一時的にあきらめて、起き上がった体勢のまま、口から放つ冷凍ビームで迎撃する。それを阻止するように、サイコキネシスで起き上がった体をさらに前へと折り曲げて軌道を変える。
 フリックは物を投げて遠距離攻撃が出来るが、下半身が動かない状況では投げても威力が低い。
 ならばと思い放った冷凍ビームで、フリックは自分の足を凍らしてしまい、さらに動きが不自由となる。それを見越したアサはここぞとばかりに顔面ほどの大きさはあろうかと言う岩をフリックに叩きつけた。
 もし、フリックが選んだ技がシャドーボールだったら実質意味がないところであったと思うと冷や汗が出る。

677 :リング@TGS ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/16(日) 09:04:15 ID:SOeWmn1c0
 しかし、その一撃で仕留められなかったのが痛かった。草は凍りつくことで簡単に千切れるようになり、今度はフリックが反撃に転ずる。一気に間合いを詰めると、手を伸ばして攻撃する。
 思わず防御をすると、手に持っていたスプーンが奪われ、代わりに握られていたのが、鉤が付いていて離れないくっ付き針であった。しかもどうやったのか両手に握られていてスプーンが握れない。
 アサはサイコパワーを増幅させる触媒のような役割だったスプーンを失い、急速に動きが悪くなる。攻めが一方的になり、攻撃が連続で当たるようになると、アサが降参の意思表示をするように手をかざす。

「負けだ……俺じゃ勝てないよ……って痛い!!」
アサは悔しくて地面を叩くと同時に握られたまま離れずに忘れられていた針の傷みに顔をしかめる。

「あらあら……フリック、くっ付き針をとってあげなきゃ」
その様子が面白かったのか、リムルはくすくすと笑う。

「あ〜〜……つい熱くなっちゃったってやつだが、正直なところお前に負けると思ったってやつだ……。俺様より遥かに年下に見えるが……たいしたやつだよ。正直なところお前が後一歳年上ならば俺様が負けていたよ」
フリックは満足そうに気持ち長めの瞬きをすると、アサの手の平についていたくっ付き針を取って血のにじんだ手の平を舐める。
アサはただでさえ接近されて頭がくらくらしているのに、この攻撃はいささか卑怯であると感じていた。

――そういう誘惑は止めてってば……
アサはいいかけてやめた。なんだか女として軽々誘惑されていることが気恥ずかしく感じられたから

――ていうか、フリックはどうしてくっ付き針がくっ付かないのだろう……
アサはそういう風に違うことを考えて、気分をごまかすことに決め込んだ。

「明日は……そうだな。キールの家に居候しているんだったら俺様たちが迎えに行ってやるよ。仕事中は俺様たちと同等の存在として扱うから、そのつもりでな。 それで構わないか?」
アサの疑問を置いてけぼりに、フリックがアサにスプーンを手渡しながら話を進める。

「ああ、構わない……っていうか破格の条件だな。そこまで俺を買ってくれるんなら……ありがたいよ」
アサは率直な気持ちを二人に伝え、照れたように頭をかくと何か言葉を求めるようにリムルを見る。

「うん、アサちゃんあれだけ戦えるなら、場所によっては一人でもいけるわよ。それだけ動ける子が入るのならば楽しみね」

「ありがと」
戦いを通じて互いの実力を認め合い、アサは臨時で二人のチームに入る。明日からしばらくの間、二人のお世話になることをに期待を覚えつつ、アサはその日の帰路についた。

―――――
どうでもよいことですが、スプーン曲げとかくっ付き針とか小説内で使ったのって私くらいしか居ないんじゃ?

678 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:25:01 ID:qf6l5mwg0
やっとこの小説の転換期に入れそうです。やはり二人揃わねば双頭になりませぬからね。
前回⇒>>648-661
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「うぅ……わしも空の裂け目から出ることになるとはのう……ちぃと緊張するのう」
いままで、空の裂け目でソリッドの下に守られていたアズレウスは幾許かの恐怖心を胸に、空の裂け目を抜けるダンジョンを歩いていた。

「だ〜いじょうぶだって。オイラもシデンも、み〜んな外で生きているんだから」
アグニが不安げなアズレウスに、アグニは笑いかけて背中を後押しする。

「誰だって最初は恐い……けれどね、恐怖に勝る"何かいい事"があると信じて、一歩踏み出そうよ……アズレウス」
明るく語りかけるシデンの口調に、アズレウスの緊張は僅かに和らいで見せた。レアスはここまでの道のりで疲れたのか、心が月の世界に行ってしまうほど寝心地がよさそうなニュクスの背中ですやすやと眠っており、背負っているニュクスは物思いにふけっている。

 恐らくエレオスのことを考えているのだろう。昔は兄妹愛を育んだ仲だったが、ふとしたこと道を違(たが)え殺し合いにまで発展した。
 今ここで再会出来たとして、一体何を話しかければいいのかと、考えれば尽きることは無いのだろう。記憶を失っているからこそ、一からやり直すことが出来るのかとも考えられる。
 実際に記憶を失って未来から現代の世界に流れ着いたシデンが、コリンという名のジュプトルのことを全く思い出すことが出来なかったように。
 しかしそれはあくまで楽観的な考えであり、可能性はゼロに等しい。証拠として、エレオスはニュクスの名前を覚えているらしいことも確認されている。もし出会ってしまえば、自分を避けられてしまいそうで恐かった。

「ニュクスさん……これまでがどれだけ大変じゃったか分からんけど、貴方とエレオス義兄さんならきっと仲直りできるよ。貴方も、義兄さんもぶち子供好きじゃったけぇ」
自分より不安そうにしているニュクスを見て、アズレウスは自分の方が冷静にならなければと思い直す。自分の恐怖など取るに足りはしないものだと、決め込んだ。

「優しかった頃と変わっていない……だとしても私は恐い」

「大丈夫だよニュクス。誰だってきっと分かり合えるんだから。自分達だって……エレオスと仲良くなりたい。その気持ちがお互いにあれば、きっと……」
シデンの励ましにアズレウスが続く。


679 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:25:41 ID:qf6l5mwg0
「もし貴方がダメならわしが間を取り持つんじゃ。ニュクスさん……わしゃぁ貴方が元客人じゃけぇとかもう関係は無いんじゃ。義兄さんにも、姉さんにも、貴方にも幸せになって欲しいのじゃ。じゃけぇ、支えてくれる味方がいる……恐がるより先に、皆を信用してつかぁさい」

「オイラ達、ニュクスとはもう友達でしょ? きっといけるってば」
アグニの声掛けにニュクスは天井を見上げた。

「ありがとうございます……ですが、少し考える時間をください。貴方たちの心遣いは本当に嬉しい……」
ニュクスは儚げな笑顔を浮かべる。

「嬉しいのですけど……今は何故か拒否してしまう。すみません……私は今、何が何だか分からないのです」
憂いを秘めた目を細めながら、ニュクスはため息をついた。皆の心遣いを受け取ったニュクスは本当に嬉しそうだったが、今は頭が回らない。


空の裂け目。空間を裂いて出来た虚空に浮かぶクレバスから出入りするその門の内は、殺風景な岸壁であった。そこを笑顔で通り抜けるアグニとシデン。早くアズレウスに美しい景色を見せたくてしかたがないようである。

「アズレウス。自分たちみたいに探検隊をやっているとね……美しい景色や美しい草花。見たことのない虫やポケモン、例えば君みたいなポケモンに出会える。そうやって出会えた見たことないモノが必ずしもいいモノだとは限らないけれど……どうぉ? この場所……」
アグニがアズレウスの手を引くと……広がる草花。ラティスガーデンでは地平線の先は虚無だった。空の裂け目の地面は、崖のように削り取られた空間が空に浮かんでいるような場所だったが、ここは地平線が地平線だった。初めて見たその光景に、アズレウスは目を見開く。

「ラティスガーデンとおんなじように草花は生えている……けれど、その地面の振る舞いはぜんぜん違う。どうぉ? オイラ達は逆に空の裂け目の景色で驚いたものなんだ」

「自分もね、ソリッドに追われたときは本当に恐かったけれど、空の裂け目の不思議な光景には息を飲んだわ。それと同じ……空に裂け目に見慣れたアズレウスには不思議な光景でしょ?」

「フォ……」
 そんなはずは無い。地平線が遠くにあるだけで"何処かで途切れるはずだ"と思ったアズレウスは、"崖となって終わる世界の果てを見よう"と目の瞬膜*1を閉じ、高速で遥か高くに浮かんで地上を見渡した。
 アズレウスを除く4人が豆粒より小さく見えるくらいに高く飛び上がり、地上を見下ろす。この場所は島であり、朝日の指す方向には海が広がっている……が、それしかわからない。世界の果ては見えなかった。

「すごい……普通のひとらぁこがぁな世界で生きとったんか。空間が守られとるソリッドのお膝元……あがぁに狭い世界じゃったんじゃのぉ」
目を輝かせてアズレウスは、独り言とは思えないほど大きな声を上げた。

680 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:26:53 ID:qf6l5mwg0
「わしは世界を知らな過ぎたんじゃ。姉さんより早い段階でここにこれたわしは幸せじゃな」
風景を存分に堪能したアズレウスは、重力に任せて地上に降りると、興奮した面持ちでシデンとアグニに話しかける。

「ふふ、そうでしょ? 自分たちもこれが楽しくって探検隊をやめられないんだ。今回は成り行きで付いてきてもらったけど、もしよかったらいつでも自分たちの街を訪ねてきてよ。歓迎するからさ」
こんなときでも新人の勧誘を忘れないシデンは、強か(したたか)な女性の見本のようである。

「考えてみるよ。あがぁなところでくすぶっとるより面白そうだ」
始めてみる光景に、心奪われながらアズレウスは応えた。

「やったぁ!! もし本当にそうなったら、オイラ感激しちゃうよ。ニュクスが入ったときも、レアス入ったときも、すっごく嬉しくって……アズレウスかぁ。君は強いよね……だからって訳じゃないけど皆が共感してくれるっていい事だなぁ。
 さっきのような感動が皆に伝わるってこと。それがオイラ達探検隊の2番目に嬉しいことだよ」

「探検隊……かぁ」
ニュクスに続き、考え事をするものが一人増えた。


先ほどに引き続き、ニュクスはレアスを背負い、アズレウスはシデンとアグニを背負って飛び、5人は海を高速で渡る。

「う〜ん……夕闇に暮れる西の空には、黄昏に染まりて果てる陸を望み。暗黒に身を窶(やつ)す東の空には次第に混ざり行く海と空の境界に、今まで姿を潜めていた星々が浮かび出でて、光の宴に興じる時間。
 月は新月、天よりの光明は指さず。故に、星の光を頼りにこの海越えて会いに行く旅路を行くは三日月の化身。闇夜に浮かぶ一粒の光明となりて、ああ、美しきかな美しきかな。その優しき光の衣に包まれ眠れば、月夜に浮かぶ夢も見れるって物だね。
 ああ、寝過ぎたかな寝過ぎたかな。僕は今日夜に眠れないかもしれない……」

「レアスさん……誰に言っとるんか?」
こういったレアスの変な癖に慣れている三人は特に突っ込む様子もないが、初めて見たレアスの謎の実況には誰もが疑問を持たざるを得ない。

「あはは……僕って気分がよくなるとその風景を実況したくなるんだ。それはもう、このニュクスの背中の寝心地のよさにすっごく上機嫌になってたいした風景でもないのに興奮しちゃった」

「私の背中……そんなに寝心地よいのでしょうか?」
ニュクスは首を限界まで曲げてヴェールの伸びる背中を見る。ふかふかの羽毛に頬擦りをしているレアスが見て取れた。

「もう、最高!! 今までピカチュウにヒコザルにトドゼルガにラプラスにルギアにカイオーガに色々乗ったけどニュクスが最高だよ」

「はぁ、それよいのですが頬擦りするのはやめてもらえないでしょうか?」
ニュクスは頬擦りされる感触に少し困ったものを覚えていた。ヴェールの周りがむず痒い。

「ふふ〜ん。だったら、アズレウスの背中にも乗ってみたいな〜♪」
ちらりと目配せをしたその視線は、狙い違わずアズレウスを捉える。

「わしじゃったら構わんよ。その代わり、シデンかアグニのどっちかにニュクスさんのほうへ移ってもらえるかん?」

「んじゃぁ、オイラが行くよ」
そういって飛び出したアグニは……空気抵抗で後に押し出され海に落ちた。

「あちゃ〜……一昨日もソリッドに沈められたって言うのに、レアスならともかくアグニは辛いよね……炎タイプだし」

「いいから助けて〜〜。オイラ水嫌いなんだからぁ」
アグニは尻尾の炎を消して立ち泳ぎをする。

「しょうがないですね」
クスリと微笑んだニュクスはアグニをヒョイとサイコキネシスで拾い上げる。特異な形の指を一本だけ立ててアグニをめがけて振るうと、水滴があらかた吹き飛んだ。

「器用じゃぁのぉ。わしも姉さんもあがぁに器用な真似は出来ないけぇ」
初めて見たサイコキネシスの技術にアズレウスは舌を巻く。

「練習に時間を費やしましたから」
言いながらアグニを背中に乗せて、レアスを同じ要領でサイコキネシスでアズレウスの背中に移し返す。

681 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:27:24 ID:qf6l5mwg0
「さて、これでよろしいですか、レアスさん?」
ニュクスがそう言って見ておれば、レアスはラティオスの羽毛を値踏みや堪能するように掻き回す。

「よろしいどころか、もう最高。ラティオスとルギアとクレセリア……どれも甲乙付けがたい一級品だね。ただし、ラティオスはちょっと体温が低いのが難点……と」

「レアス……まずはお礼を言わなきゃダメって自分は教えたはずだけど?」
シデンとレアスの間柄は実の親子では無いものの、シデンはいかにも母親らしい台詞でレアスに諭す。

「あ、そうだったね。ありがとうございます、ニュクス、アズレウス」

「ええ、どういたしまして」
「どういたしまして」
あわててお礼を言うレアスにニュクスは横目で、アズレウスは上目遣いでそれぞれ応えた。


それから一週間後……

太陽が東から顔を出し数時間

「幸せ岬のダンジョン地区をこえ……内部の居住区まで入り込めました……が、エレオスはどこにいるのでしょうか?」
美しい花畑と、そこで戯れるシデン、アグニ、、レアスをそっちのけで、ニュクスは辺りをきょろきょろと見回す。

「そりゃぁ姉さんが知っとるゆぅて思う……ちぃと探してみる」
目を見開いたアズレウスは双眸(そうぼう)に白い光を浮かべ、強烈な思念波を周囲に送る。

「強い……のに、この思念波は私では全然捉えられませんね。これは特定のものだけに呼びかける……」
同じエスパータイプとしてテレパシーに敏感なニュクスは、何とか捉えようと頑張るものの、それは無駄だった。

「そりゃそうじゃ。姉さんばっかしに伝わるような特別な思念だけぇのぉ。とくに今使っとるこりゃぁラティアスとラティオスが協力して出来る能力、今のこの映像をそのまま見せて、エレオス義兄さんに中継してもらうための夢映し*2って能力なんじゃ。
まさか、こがぁな形で使うことになるたぁね……ともかく、これを使やぁ義兄さんにもこの映像を送れるはずじゃ」

682 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:28:29 ID:qf6l5mwg0
アズレウス達5人の思惑など露知らず、エレオスとクリスタルの二人は仲むつまじい。

二人の新居は粗末なものだった。空の裂け目で使われていた通貨は勿論使えない。故に、ソリッドからもらった大粒の真珠を金(かね)の代わりに浪費して、もしくはここで使える金に代えて色々なものを手に入れた。

 これまで色々なことがあった。空き家を購入したり、挨拶に回ったり、唐突に訪れたソリッドから身を隠したり。その間の住民とのふれあいは。、エレオスがラティスガーデンに来たときと同じく、暖かく向かえいれてもらった。

 次第に生活も落ち着き、ここの暮らしにも慣れてきた今日この頃。クリスは花を刻んで料理していた。香り付け、色づけ、凍らせて粉にしたものを隠し味に……この幸せ岬では花が生活の一部どころか二〜三部くらいだがだが、その理由は作物にある。
 花の中には花弁だけでなく地下茎が食用になるものや、花から実がなるものなど様々な食材も美しい花を咲かせて景観に華を添えているものばかりだ。そう言った作物が愛されてきたからこそ、花が食事にも深く関わる文化が出来たのだ。

 そんな花が生い茂っているという事は食料が豊かということである。そのせいもあってか、ここの住人たちは心も豊かだ。
 花の色と香りが心を和ませるのに一役買っていたとしても、どこの馬の骨とも知れない二人を受け入れ、ホームパーティーなども幾度となく開いてもらった事は二人とも驚いた。
 暖かい歓迎も暖かい空気も、ここでの新生活はその全てが嬉しかった。唯一不満があるとすれば、夫であるエレオスが普段は不感症であると言う事だ。彼曰く、月食の日以外はどうにもならないらしい。

「今日の献立は芋虫とジャガイモをチーズとホワイトソースで包み込んでじっくり焼き上げたもんよ。
 ほいで、こちらの新作ジュースは……甘酸っぱいカムラの実をベースに、シェイミが暮らすこの地方ばっかしに生えるミクルの実を混ぜ込み、ノメルの実と合わせて甘さを感じさせつつ強いけどきつすぎない渋みを持たせた果実ジュースなん。
 それにビークインの甘い蜜を少量混ぜ込んだ自信作なんよ。さあ、召し上がれ♪」

「……いい具合に渋いな」
口に含んだ瞬間、好きな味とは言え顔をしかめたくなるような強烈な渋みだったが、ミクルの実の効果なのだろう、他の果実の酸味や苦味を甘みに変えてくれると言う嘘のような効果が舌で実感できる。その面白い感覚が癖になり、ついつい飲みすぎてしまった。

 ラティスガーデンに暮らしていた頃は料理の一切をアズレウスに任せていたことから、エレオスはクリスが料理を作るのは苦手なのかと思っていたが、クリスは意外にも味付けの天才で、特にジュースを作ることには目を見張るほどに長けている。

「ここに来て2週間半……ここの者たちは気のいいもの達ばかりだな。困っていたら助けてくれるし、歓迎パーティーに招待してくれたり……」

「物が豊かになりゃぁ心も豊かになるってことじゃない? 空の裂け目もかなり豊かな方じゃったけど……ここはそれ以上に豊かみたいのぉ。
 ふふ、ここに来てげにえかったの。わしらの住んどった町じゃぁ花を使った料理なんて考えもせんかったし……何よりほぼ常夏じゃけぇ、家の彩りも庭の彩りも絶対に困ったりせんし。ここなら一生住んでもいいかもしれん」

「満足してくれたようで何よりだ」
そう微笑んで、コップを傾けて僅かに残る液体を下の上で遊ばせてコップを置く。
――それにしてもこうして話しているうちに体が熱くなってきたのだが……まさかな

683 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:29:01 ID:qf6l5mwg0
「う〜ん……あんたの顔がちぃとあこぉなっとるようじゃが……早速効果は出たんかん?」

――当たりだったか……はぁ。
ため息は深く重く、エレオスの口から漏れた。

「まさかとは思うが、媚薬を盛ったわけではあるまいな?」

「そのまさかよ。グラシデアの花から作った甘い蜜に含まれとるグラシデアの花粉にゃぁ、フォルムチェンジに使うエネルギーを生み出すための力があるんよ。
 ただし、シェイミの体液と混ざらんとエネルギーは生まれんから、シェイミ以外はその力を利用でけんけど、シェイミ以外でもシェイミの生き血をコップ一杯に対し、一滴分入れりゃぁ他のポケモン十分な効果が出るんよのぉ。いやぁ……血を手に入れるんに苦労したわよ」

――ど、どうやって……?

「でもチェリムとかならともかく、フォルムチェンジが出来ないポケモンはそのエネルギーの行き場がなぁで。じゃけぇそのエネルギーは性の方へ……ってゆぅこと」
クリスが浮かべる満面の笑顔を、"憎いから殴りたい"気持ちと、"可愛いことや普段の彼女のことを思うと愛でたい"気持ちが相反する。結論としては何もしないことにする。

「ふう……以前も言った様に、月食が来なければ私にはいかなる媚薬も通用しないのだが……」
シュンと顔を下げ短い耳をたれ下げながら、クリスはため息をつく。

「ええ!? 何でよ? 今度なぁここの人のお墨付きな媚薬を混ぜ込んで、味を調節した自信作じゃったのに。途中で力尽きて眠らんようにカゴの実やヒメリの実まで混ぜた自信作じゃったのに……どうしてそう厄介な生態しとるんよ」
子供のような疑問をぶつけ、理不尽にもクリスは怒りを露にする。

「そもそも、そんな風にやたらめったら行為を行っていたら、ただでさえ寿命が長くて強力無比な力を持ったダークライが大繁殖したままいつまでも地上に居座ってこの地上がダークライだらけになるだろうに!
 それを防ぐためのこの生態だ!! 文句を言うな!! 大体……お前は何故にそうまでして私の体を求めるか? イランイラン*3の香りでも嗅ぎすぎて淫乱淫乱(いんらんいんらん)になったとでも言うのかお前は?」

「女が男を求めて何か悪いんか?」

「そうは言っていないだろうに!」
聞いているこっちが恥ずかしくなるような言動に、エレオスが薬の効果で赤黒い顔を、さらに赤らめて反論する。

「全く……月食はあと一月半で来るといっているだろうに……こらえ性の無いやつだ。というか、当日はお前が進める飲み物は絶対に飲まんからな! 何を飲ませられるか分かったものじゃない」

「なら食事に混ぜるか吹き矢に託すまでじゃ!」

「そういうことをする奴には、眠らせた挙句にこっちで勝手に処理するぞ?」
1〜2秒の間、何も言い返せなくなったクリスは一度深呼吸をして、纏う雰囲気を変え始める。なんだか、こうやって馬鹿なことを話しているうちにクリスの呼吸が深くなった気がする。

「ハァ…ハァ…ねぇねぇ……そがぁな寂し事ゆわんでわしを満足させてよぉ。ねぇったらぁ……」
クリスはエレオスの首に付いた赤い牙飾り掴みつつ、まるで駄々をこね地団駄を踏む子供のようにエレオスにおねだりを始める。

「甘えても無駄だ」
言われてからクリスは一度深呼吸して息を整える。

「わしと……し・な・い?」
今度は妖艶な雰囲気をまとい、潤んだ瞳で上目遣いをしつつ、赤い牙飾りに小さな吐息が触れるくらいの距離まで口を寄せる。

「誘惑しても無駄だ」
言われてからクリスは一度深呼吸して息を整える。

「それなら……雌の香りを存分に振りまいてメロメロにしちゃるわよ。ハァ…ハァ…室内じゃけぇ効くわよ!」
だんだん媚薬の効果が高まってきたせいか、息を荒げながらの台詞回しになってくる。媚薬と室内と言う好条件が揃っている。こういうときのメロメロ攻撃は非常に強力だ……が、

「だから無駄だと言っておろうに!! 私は月食がこない限り、女の誘惑に応じることなど断じてない」
何度言っても分からないクリスに対し、エレオスはとうとう声を荒げるにいたる。

「ハァ…ハァ…もういいよ。あんたが薬の効果が無いかどうかなんて気にせずあんたがやってくれんか」

684 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:29:34 ID:qf6l5mwg0
「それは以前も断ると言ったろ……あっ……」
エレオスが言うと同時に、クリスの頭を掴もうと伸ばした腕が、クリスに力強く掴まれる。

「観念してのぉ。単純な腕力じゃったらわしのほうが上なんだけぇね」
いままで何回か同じような攻撃を見て攻撃パターンを把握されているエレオスは、クリスに力が入らないよう上手くに掴まれて振り払えない。

「うっ……」
エレオスは捻り込むように腕をつかまれ、鈍い痛みに思わず苦悶の声が漏れた。

「あんたの神秘の守りすら破る究極の眠り攻撃も頭を掴む手が封じられりゃぁ形無しね」
掴んでいるうちにクリスは神秘の守りを完成させ淡い光に体が包まれる。これでは他の手段で眠らせることが出来ない。

「く……やられたか。ならば……」
ならば……と髪の毛を操ってクリスの首を絞めにかかる。

「させるか!」
とたん、握られた腕が折れそうなほどに下にねじ曲げられ、浮遊していた体を地面につけなければ腕の痛みに耐えることが出来なかった。

「ぐぅ……」
悪の波導を使えば簡単に屠(ほふ)りさることも出来ようが、エレオスもクリス相手にそうすることは流石に躊躇われた。しかし、この状況を抜け出すにはそれしかないのも事実だ。一体どうすれば……そう考えている最中であった。

「ハァ…ハァ…さぁ、覚悟してのぉ。あんたがその気になるまでわしの手で犯しちゃるけぇのう……んん?」
何かを感じて突如目を見開いたクリスは双眸(そうぼう)に白い光を浮かべ、強烈な思念波を受け取る。

「こりゃぁ……アズレウスの夢映し? 何でここにいるん……いや、とにかく夢を返さんにゃぁ……」
クリスはエレオスを掴んでいた手を離し、アズレウスのほうへ意識を集中する。


「おや……姉さんから夢映しが届いたわ……あれ?」
クリスからの夢映しを受け取ったアズレウスは突然息を荒げ、ニュクスのほうをくるりと向き直った。

「あの、アズレウスさん……なんでしょうか?」
眼を異様にぎらつかせたアズレウスは飢えたポケモンが食料を見るような目でニュクスを見る。

「ニュクスさん……わしと閨(ねや)*4の相手を……」
ニュクスの常に胸に添えられた手を奪うように取り、強く握る。呼吸が相手に伝わりそうなくらいグッと顔を近づけてアズレウスが迫ってくる様子に、ニュクスは怖気(おぞけ)と危機感から全身の羽毛をゾワリと逆立てる。

「近寄らないでください!」

ニュクスの冷凍ビーム
効果は抜群だ!!
「ギャァァァァァァ!!」
アズレウスは体表を凍りつかせながら浮遊していた体を地面に落とした。


「キャァァァァァァ!!」
クリスは何もされていないのに浮遊していた体を床の上に落とした。

「ど、どうした?」
エレオスが何事かと手を伸ばす。

「アバババゥゥゥ……」
クリスはガタガタと震えて歯をカチカチと鳴らしている。どうやらこの熱帯多雨な幸せ岬で吹雪にでも見舞われたように凍えているようだ。しかし、双眸の白い光が収まり夢映しを終えるとその震えは一気にナリを潜める。

「ハァ…ハァ…アズレウスに夢映ししたら媚薬の効果による体の疼きまで映してしもぉたみたいで、それでアズレウスはちこぉにおった女性に猛烈アタックをしたら……冷凍ビームを喰ろぉたみたい。
 その冷凍ビームの感覚がわしの方まで届いたんじゃ……」

「なんだか迷惑な能力だな……しかしアズレウスが暴走するとは、その媚薬は思ったより強力なのだな」

「ハァ……冷凍ビームのおかげで女性が誰じゃったんかやら、色々記憶が吹っ飛んだわ……」
エレオスは頭を押さえながらため息をついてうな垂れる。

「アズレウスは何をやっておるのやら……しかし、女性とは一体。もしかして、結婚の報告に訪ねてきたわけでは……いや、速過ぎるか」

「とにかく……時間を置いてわしからまた呼びかけることにするわ。それまでの間、エレオスが私の相手を頼むけぇの♪」

「だから断るといっておろうに!!」
エレオスはクリスの頭を掴んで眠らせた。

「時間を置いて……か」

685 :リング@漆黒の双頭 ◆2t6Ysu4cf6 :2008/11/19(水) 23:31:10 ID:qf6l5mwg0
※注釈
*1 角膜を保護するための第3の瞼。透明な膜となっており、いわば天然のゴーグルである
*2 見たものや考えたイメージを相手に映像として伝える能力。このお話では視覚に限らず聴覚、嗅覚、触角、味覚など、いろんな感覚が伝わる
*3 イランイランノキとその花および花から取れる精油の名称で、性欲促進作用がある
*4 夜眠るための部屋で特に夫婦や女性の部屋を言う。そこで相手をする事とは一つ

――――
レアスとエレオスの出会い……書くのに苦労しますが山場ですので頑張っていこうと思います。

686 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/25(火) 23:24:03 ID:v0AbRhRE0
エロ展開に入るまではこっちにUPさせていただきます。
1〜3までは官能小説\にあります。

―4―
幸い、傷の方も完治し、2匹はポケモンセンターを後にした。
ロビンは結局あれから眠ることができず、今朝は少しだけ寝不足だ。
ポケモンセンターの入り口にはマスターが待っていた。
主人の顔を見てほっとするのと同時に、ロビンは一瞬ドキリとした。
そんな彼の思いなど知るはずもなく、マスターはいつもの笑顔で2匹を出迎えた。
「2匹ともよく頑張ったな。ディックはボールに戻っていてくれ」
そういうとマスターはボールを取り出し、ディックをボールの中に戻した。
ロビンは未だマスターの顔を直視できずにいた。
あんなに情けない姿を見せたのは初めてだったので、恥ずかしいような、みっともないような気持でいっぱいだった。
マスターはロビンの腰のあたりをそっとなでると、優しい声で言った。
「悪かったのは俺の方さ。いつからか俺はお前を使えば絶対に勝てる、と思っていたから、戦況を見極めることができなくなっていたんだ。勝てない相手にもお前を使ってしまって、すまなかった・・・」
マスターの言葉に、ロビンは逆につらくなった。
『勝てない相手』とマスターは言った。
傍から見てわかるほどに2匹の力の差があった事はやはり悔しかった。
「それで、今日はお前に辛い事を言わなくちゃならない」
まさか・・・。
ロビンを再び最悪の気持ちが襲う。
まさか、マスターが俺様を手放す・・・?
「いやだ!!僕は・・・僕はまだ戦える!!だから・・・捨てないで・・・!!」
ロビンは周りの目を気にすることなく、マスターにすがりついた。涙が知らぬ間にあふれていた。
そんなロビンをマスターは優しく諭した。
「馬鹿だな・・・俺がお前を捨てるわけが無いだろ。初めから一緒だったじゃないか」
「マスター・・・」
すると、マスターは首を振る。
「それに、マスターなんて呼ぶのはやめろよ。前みたいに、『ウィル』って呼んでくれよ」
ウィルはロビンに優しく笑いかけた。
その表情は、昔から変わらない、温かいものだった。
しばらくロビンはウィルの傍らに寄り添って黙っていた。
主人の持ってきた「辛い事」に耐えられるだけの精神状態に持っていきたかった事もあるが、何より、マスターとこうしてゆっくり向き合うのは久しぶりだった。


687 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/25(火) 23:25:09 ID:v0AbRhRE0
ウィル・・・話してください」
大柄なリザードンは恐怖を押し殺し、主人に聞いた。
自分の身に何が起こっているのか、知らなければならない。
そんなパートナーの決意の表情を見て、ウィルは深く頷いた。
「いいか、まずはお前の身に起こった事を話そう」
ウィルはゆっくりと、確実に言葉を発した。
「レベル・・・という言葉は知っているよな?」
「はい、なんとなくに、ですが」
やはり出てきた『レベル』という単語。
もはやこれは想像の範疇だった。
あとはそれが自分にどう関係しているのか・・・
「俺達人間がポケモンの強さを段階的に理解するために用いるのが「レベル」というものなんだ。
技や戦闘経験、知識、体力などが向上するたびに、ポケモンの「レベル」は上がっていくと考えていい。
ポケモン自身でも何らかの実感はあるはずだ。今までにできなかった動きや読みができるようになったりな」
ロビンはウィルの言葉をじっくりと吟味しながら飲み込んでいった。


688 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/25(火) 23:25:27 ID:v0AbRhRE0
「じゃあウィル、僕は一体レベルで表すとどれくらいなんですか?」
ここで、気にせずにはいられない質問をロビンはぶつけた。
レベルは最高で100。
しかしその領域に達すには気が遠くなるほどの年月と修行が必要だ。
ポケモンリーグのチャンピオンですら100レベルのポケモンなど所有していない。
だとすると、自分は一体どの位置にいるのだろう・・・。
「ロビン、お前のレベルは50だった」
「50・・・」
頂点まであと半分・・・。
自分はまだ全てのポケモンの頂点には、当然ながら立っていないということだ。
なるほど、確かにこのように「レベル」で表してもらうと、自分の立ち位置が実感しやすい。
人間はやはり知能の高い生き物だ。
しかし、ロビンは先ほどの会話で何かひっかかるものを感じた。
もう一度マスターの言葉を思い出してみる・・・。
「50・・・だった、と言いましたよね。じゃあ今は何レベルなんですか?」
何気なく聞いたこの一言。
もちろん、ロビンはレベルが多少上がったのだろう、くらいにしか考えていなかった。
対照的に、ウィルの顔が一気に暗くなったのを見て、ロビンは体温が下がっていくのを感じた。
「辛い事、というのはね、実はその事なんだよ。ロビン・・・お前の今のレベルは・・・1なんだ」
全身から力が抜けていった。

689 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/26(水) 22:22:54 ID:t3scsDhk0
−5−

自分のレベルが1になった・・・?
という事は、生まれたての赤子同然の力しかもたないということなのか。
突然の宣告にただ黙って目を見開くことしかできなかったロビンに、ウィルは言葉を続けた。
「原因はわからない。一昨日のバトルまでは確かにお前のレベルは50だったんだ。
それが、リングマとの戦闘の時にはすでにレベル1になっていた・・・何か心当たりはないのか?」
一度停止してしまった思考を何とか元に戻そうとロビンは努力した。
しかし、それ以前に他の考えが次々に頭をよぎっては消える。
威厳は・・・?
努力は・・・?
これからの・・・未来は?
残念ながら、どの問いに対しても答えは浮かび上がってこなかった。
ただ一つ言えることは、「自分は今のチームで一番の役立たず」になったということだ。
「ウィル・・・これから僕は、どうすればいい・・・?」
ロビンは先ほどのウィルの質問には答えることはできず、目の前の絶望から目を逸らせなかった。
重く、つらい事実がその大きな体にのしかかった。

その夜、ロビンは週に1度のチーム会議に参加しなかった。
会議とは銘打っているが、実際はチーム内の親睦を深めるためのものだ。
当然、今夜の議題はロビンのことで持ち切りとなった。
「ロビンはやっぱり来なかったか」
一番最後にやってきたディックがあたりを見回しながら輪に加わった。
「そんなにショックだったわけ?あのリングマにやられたのが、さ」
ファンデが欠伸交じりに言った。
どうやら、チーム内でもまだロビンの置かれている状況を知らない者もいるらしい。
「あのね、ファンデ。実はロビンはレベルが1にまで下がっちゃったのよ」
アブソルのリンが遠慮がちに話す。
その言葉を聞いて、ファンデは欠伸を途中で止めた。
「何それ・・・それじゃあたしよりも、メイよりも弱くなっちゃったワケ?」
ちなみに、ファンデのレベルは40、バクフーンに進化したばかりのメイはレベル36だ。

690 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/26(水) 22:23:23 ID:t3scsDhk0
「そんなことって、あるんだ」
「無いわよ。だから驚いてるんじゃない」
リンはピシャリと言い放った。
何となくこの状況を楽しんでいるようにも見えないファンデの態度にリンはあきらかに苛立った様子だ。
「これからロビンさんとはどうやって接していけばいいのかなぁ・・・」
メイは悲しそうな表情で、足もとの草を見つめている。
「いくらマスターでも、レベル1のポケモンなんか連れて歩けねぇよなぁ」
「ちょっと、ディック!」
ディックの不謹慎な言葉に、リンは顔をしかめた。
しかしリンの方をちらりと見ただけで、ディックは構わず続ける。
「だってそうだろ?俺がつついただけのダメージでやられちまうかも知れねぇんだぜ?そんな奴をメンバーに入れるかよ」
「でも・・・また頑張れば元の強さに戻るかもしれないよ」
ロビンを慕っていたメイは、リンと同じくディックの言葉に不快感を感じた。
今まで苦楽を共にしてきた仲間を簡単に切り離すようなことはしたくなかった。
「あたしはディックに賛成だなー。ロビンって何か偉そうだったじゃない?
自分の事を『俺様』とか言っちゃってたし、マスターの事を一番知ってるっていう態度もちょっとねー」
そう言ってファンデはディックの横にちょこんと座ると、妖しい瞳でディックを流し見た。
「ハッ、ディックなんかに色目使っちゃって馬鹿みたい。とにかく私はロビンをチームから外すのには反対だよ」
明らかにチーム内の雰囲気が悪くなっていた。
チーム内の不穏な雰囲気をいつも抑えていたはずのロビンの姿は、今はない。
この状況に耐えられなくなったのはメイだった。
「ぼ・・・僕、ロビンを探してくる!!」
メイは夜の草むらを駆け抜けていった。
「あいつ、ロビンの事を随分尊敬してたからなぁ。一番ショックなのは、案外あいつかも知れねぇな・・・」
先ほどはキツイ言葉を述べたディックだったが、彼自身も内心では今回の事件に心を痛めていた。

691 :イノシア ◆rkAWlQPFjI :2008/11/27(木) 19:03:16 ID:fH8ANH1E0
>>689-690
ロビンのレベルが1ですか……(・ω・;)
あのリングマは一体何者。そしてどうやってレベル、つまるところ戦闘経験を無くしたのか、などなど。
伏線がいっぱいあって面白い作品ですね。またまた続きに期待。

692 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/28(金) 21:53:55 ID:it2Oe6vI0
≫イノシア様
伏線を張りすぎて収集がつかなくなるという痛い経験をしているので、気を付けます(汗
コメントありがとうございます。
やっぱりコメントを頂けるのはうれしいですね。

−6−

月のきれいな夜だった。
その淡い光は、湖畔に反射して砕け散っている。
そのうちの一つが湖のそばでじっ、と丸まっているロビンのほほを明るく照らした。
たった一瞬で、彼の人生は変わってしまった。
もしもいまこの場に誰かがいるとしたら、ロビンの事を慰めたり、励ましたりしてくれるだろう。
「くよくよするな」
「元気を出せよ」
そんなところだろう。
しかし、その程度の言葉、ひとに言われずとも自分で自分に言いかけることができる。
所詮他人事。いまのロビンの気持ちを理解できるポケモンなど、存在しないのだ。
その時、急にロビンは立ち上がった。
彼はもう一度あの時の状況を思い出してみようとした。
思い出すのだけで吐き気が襲ってきそうな記憶だが、その記憶の中に何かヒントがありそうな気がしていたのだ。
あの日、確かにロビンは様子がおかしかった。
そのひとつに、長い眠りについていたことが挙げられる。
彼はたとえ眠っていても、その間にも脳の一部を完全に眠らせることはなく、常に不測の事態に対応できるように神経を研ぎ澄ませている。
野生で過ごしていた期間はごくわずかだったが、特に彼はその神経に長けていた。
だから、バトルが始まってもまだ眠り続けているなどという事はあり得ない。
異変が起こったのはあの日の朝。
原因を探るならその前日・・・。
正確にはバトルが終了し、銭湯に行ってからリングマと対峙するまでの間。
その間にロビンの身に外的な要因が作用したと考えていい。
さらに、あのリングマの言葉。
「今までどのポケモンも最初の冷凍パンチで死んでいた・・・」というもの。
この言葉から、「ロビンの他にもレベルを1にされたポケモンがいる」ことが推察される。
しかし、そのほとんどがあのリングマによって殺されている可能性が高い。
さらに考えると、あの男も単独で行動しているとは考えにくい。
リングマが何らかの組織として動いているのならば、他にも同じように実行しているポケモンがいるだろう。
そうすると、自然にロビンのこれからの行動が絞れてくる。

693 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/28(金) 21:54:29 ID:it2Oe6vI0
ガサガサ、と草むらを掻き分ける音が聞こえ、ロビンは身構えた。
レベルが1になった今でも、その優れた神経は衰えていないようだ。
「誰だ・・・?」
草むらから姿を現したのは、いかにもガラの悪そうなバンギラスと、同じように嫌みな笑みを浮かべたニドキングだった。
しかし2匹はロビンの身構えた方向とは別のところから現れたので、彼は少し戸惑った。
「久しぶりだなぁ、リザードンさんよォ」
凄みのある声で、バンギラスはグフフ、と笑った。
「いつぞやのバンギラスか・・・」
確か、この男は以前メイを襲っていたところをロビンがコテンパンに伸した相手だ。
今日はお伴を連れているらしい。
「もう一匹そこの草むらに隠れているだろ。出てきな」
ロビンは初めに物音がした草むらの方を睨みつけた。
しかし、やはりそこからは何の反応もない。
「何ぶつぶつ言ってやがんだ。ボケちまったのか?」
またもいやらしい笑いを浮かべながら、2匹はロビンを見据えている。
「まあいい・・・今度は一体何の用だ。また俺様につぶされに来たのか?」
そこまで発言したところで、ロビンは全身の体温が一気に下がるのを感じた。
いつもの調子で強気な発言をしていたが、今の自分のレベルが1である事を思い出し、焦りが全身ににじみ出た。
以前のロビンならこんな相手に手こずるはずもないが、今の状態でバトルをすればあっという間にスクラップにされてしまう。
異変を感じ取られないように、ロビンは相手が諦めてくれるよう仕向ける他になかった。
「だから今度は仲間を連れてきたぜぇ・・・いくらお前さんでも2匹を相手にしちゃあ太刀打ちできんだろ?」
「馬鹿野郎が。この間はバクフーンを庇いながらお前を倒したんだぜ?そんな木偶の坊を連れてきたところで戦局は変わらん」
声がわずかに震えているのを自分でも自覚していたが、必死で演技を続けた。

694 :名無し ◆yYT/u4PSNE :2008/11/28(金) 21:57:21 ID:it2Oe6vI0
額を汗が流れおちる。
(頼む・・・今は引いてくれ・・・)
心の中で相手に懇願している自分がなんとも情けなかった。
しかしそんなロビンの言葉を受け入れるはずもなく、相手はロビンを倒す気でいる。
「たっぷりとこの前の仕返しをさせてもらうぜ」
そういったが早いか、ニドキングがロビンの横から重いパンチを繰り出してきた。
当然、レベル1のロビンにそれをかわす手段など無い。
ロビンはその攻撃をまともに受け、地面に打ちのめされた。
痛みに視界が歪む。
「ぐぁ・・・っ!」
ロビンは脇腹を押えながら、地面を這いまわった。
その様子をバンギラスは満足げに見下ろしている。
「おいおい、いくらなんでも大袈裟だろ。まさかお前、ほんとは物凄く弱いんじゃねぇのか?」
その言葉の半分も聞き終わる前に、ニドキングがロビンにのしかかってくる。
「がはっ!!」
(このままじゃ・・・マジに死んじまう・・・)
今にも飛びそうな意識の中で、ロビンは生まれて初めて恐怖を感じていた。

―――――
次回はエロの予定ですが、ちょっと迷ってます。


695 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/12/01(月) 13:53:57 ID:HYQzwqw60
>>692-694
僕もイノシア氏同様にロビン失調の原因が気になるところ。続きに期待です。

さてさて、狂気の魔の月(テスト地獄)も終わり、学校が秋休みに入ったのでようやく執筆再開。

act43 安堵と狂気

バツッーーー

(え……私、生きてる…?)
死を覚悟していたユメルは恐る恐る目を開け、自らの状況を確認する。
短刀の先端は彼女の左手の平に突き立てられていて、そこからユメルの血が滴り落ちていた。
「これで龍の血は手に入れた。“古の災厄”の力は我らヴァン族のものとなる!」
ガノッサは歓喜に浸るとユメルの血が付着したままの短刀を念力で浮上させ、それを崖下の氷山へと飛ばす。
短刀は氷山の中央に刺さり、除々に氷の中心部へと吸い込まれていった。

「…………」
自分の命はここで絶えるのだと思いこんでいたユメルは未だに状況が掴めず、左手の痛みも忘れてただ呆然としていた。
「私が生け贄…ではなかったの…?」
「そうだ、だがお前の命が目的ではない」
相変わらず不気味な笑みを浮かべたガノッサはゆっくりとユメルの方へ振り返る。

696 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/12/01(月) 13:57:46 ID:HYQzwqw60
「災厄の復活に必要なのは龍の血を持つ娘の生き血だ。それもごく少量。
 お前を殺してしまえば災厄に力を与える役割のある血液の生命エネルギーが失われ、更には血液自体が凝固してしまう。
 つまり儀式が成功するまでお前は生かしておかなければならない、という事だ…」
その時、氷山が突如として目映い光を放ち始める。
「フハハハハ! 儀式は成功した! これより蘇えりし災厄の力を以て世界を統一せん!」
ガノッサは両腕を目一杯広げて崖先に立ち、氷山の光をその身に受ける。

「ロキ、此処で劇終といこうじゃないかぁ!」
カシェルがロキに向かって刃を振り下ろそうとした瞬間、アメンティ山周辺の大地が地響きと共に大きく揺れ始めた。
ガノッサ以外のポケモンは皆バランスを崩して倒れ込み、ロキ、カシェルの二匹も体勢を低くして揺れに耐える。
「くっ…何が起きた……?」
「…どうやら儀式が成功したようだ。遂に“古の災厄”がガノッサ様の前にひれ伏すのか……」
「な…じゃあオレ達は間に合わなかったっつーのか!?」
慌てて周囲を見回すロキの目に崖先に立つガノッサとその付近で揺れに耐えているユメルとルシオが映る。

697 :麒麟児 ◆kirin17ELk :2008/12/01(月) 14:02:07 ID:HYQzwqw60
「なら…儀式が成功したって事はユメルは生きていない筈じゃーーーぐおぁ!」
不意にロキの身体が強い衝撃を伴って宙に吹き飛ばされる。崖の真下から間欠泉のような砂風が吹き出してきたのだ。
切り立った崖はその風圧に耐えきれずに崩壊し、崖の先端側にいたガノッサ、ユメル、ルシオ、カシェル、ロキを巻き込んで上空へと舞い上がっていく。
五匹は抵抗する間もなく、悲鳴を上げながら崖の岩と共に遙か彼方へと飛ばされていった。

崖下の氷山を中心に六角形の頂点の位置から吹き出した六つの砂風はしばらくして光、地震と共に治まる。
それと同時に長年その形を保ち続けていた氷山が崩れ落ち、周囲に轟音を響かせた。
崩落した氷塊の中心にいたのは封印の解かれし者。その影は何かを察知し、首を上空へと向ける。
そして背中の翼を大きく羽ばたかせるとアメンティ山の頂上を目指して飛び立ち、夜闇へ消えていった……

698 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/12/14(日) 19:27:20 ID:kVDUxQDg0
短編投下ー。長編書けよって声は聞こえません。……ゴメンナサイ
○この作品には一部残虐な表現が含まれています
○中二病臭い
○怖いの目指して派手に失敗
○そもそもポケモンである必要があるのか(ry

 コラッタの話

 おーい、ちょっと。聞いてくんねぇ? ……大丈夫か、だって? 何が?
 なんでもない? 気になるじゃん。ほんと? ……まあいいか。
 あのさ、今日さ、すっげえ怖い夢見たんだよ。マジで怖くて、話さねぇと落ち着けないよ。怖すぎて寒気すんだよー、ヘルプミー。付き合ってくれ。
 うう、さぶっ。はは、この部屋が寒いのかな、なんてな。毛布どこ? あ、ありがとう。
 で、聞いてくれる? おお、付き合ってくれるかありがとう。ちょっと長いけどいいか? うん、ありがとう。
 
 俺の身体はいつの間にか別人もとい別コラッタになっていてさ、人間の家に忍び込んでて、厨房で食糧を漁っている設定だった。
 色とりどりのきのみが並んでいて、俺はもう我を失うほどにがっついていたんだよな。時折その家の住人かなんかがやってきたんだが、体が小さかったんで誰にも気付かれなかった。
 無我夢中で食べてるとさ、急に部屋の温度が下がったんだよ。ひゅぅって。いきなりさ。
 でもさ、俺はちょうどチーゴのみを食ってたから、ほらチーゴの実ってやけどを治すきのみじゃん? だからそれのせいかなとか思ったんだって。マジ。
 でさ、じきに腹もいっぱいになって。もういいか、って思って、巣に帰ろうとしたんだよ。振り返ったんだよ。
 したらさ、何が居たと思う?

 何もいなかったんだよ。でも、何かがいたんだ。
 強いて言うなら気配かな。確実に”居る”んだ。でも”居ない”んだ。
 辺りを見ると誰も居なくて、いた筈の人間も居なくて、部屋も明かり消えてて、気味悪くなってさ。ネズミ失格だな、とか考えながら。ほら、沈む船からはネズミが逃げるって言うじゃん。ネズミより先に人間が先逃げるってどうよ、とかね。まあどうでもいいけど。
 とにかく。俺、電光石火で逃げようとした。
 動けねえんだよ。
 ガチガチに固まってんだよ。身体。全部。髭一本動かせねぇでやんの。
 もうね、心ん中で叫んだ。怖いってさ。
 でさガクガク震えてっとさ、目の前の気配が笑った。ニヤニヤし始めた。気味悪ぃの。っかしーよな。なんも居ねぇのに。
 野生の本能ってかな、危険だって体中の毛が騒いだ。で、俺叫びながら、恥ずかしいけど泣きながら、電光石火、ぶつけたんだ。
 勿論素通り。うん、素通り。ほんと。
 全身汗だくだったよ、もう。ああいないんだな、って振り向いた。

 チビりそうになった。……ごめん、見栄はった。チビッた。
 紫色の視界の中に、真っ赤に血走った目と、口があったんだ。そらチビるがな、ほんまにもう。……すまん、冗談だ。
 それさ、ただこっち見るだけなんだ。ニヤニヤニヤニヤ気味悪く。
 こっちチビって動けねぇ、相手ニヤニヤ見てくる。異質な光景だな。俺もそう思う。
 そのままじーっと見詰め合った。目を離せなかった。目ぇ離したらやべぇだろ。
 でさ、ずいぶん長いこと……いやもっと早いかな? そんくらいしてさ。相手が。ケヒッて。笑ったとも息を吐いたとも言えないが。
 うん、ケヒッ。
 ……おいおい、ホントかって? さっきから何度も言ってるじゃん。
「ケヒッ」
 ケヒッ
 って。
 で、ストップしてた思考能力がもどった。で、こいつが何かわかった。
 ゲンガーだよ。ゲンガー。あれ。ゴーストタイプの奴。あ、毒タイプでもあったか。
 そりゃノーマルタイプの技はゴーストタイプにゃきかねえよな、とか今なら納得できっけど、そん時は気が動転しててさ。なんでだよ、なんでだよ! って言いながら電光石火ぶつけようとしまくった。
 ああ、お察しのとおり。スルスル通り抜けてさ。
「利くわけねえよ」
 利くわけねえよ。
 ……なんだ、青い顔して。やだなあ、夢の話だって言ったじゃん。続けるぜ。
 でさ、ゲンガーはそんな俺を笑ったよ。嘲笑。
 その笑い声さ、頭ん中で響いて、とまらねえんだよ。最初はケケケケケ、てかんじ。後になると、
「げらげらげらげら」
 げらげらげらげら。……お前上手いじゃん。え? 違う? 俺じゃない? やめろよ脅かすなよ! ビビるじゃんまったく。アハハハハ!

699 :レキ ◆Hbrzy6fbcs :2008/12/14(日) 19:28:21 ID:kVDUxQDg0
 ハハハ……うん。で、頭ん中でげらげらが回って、しまいにゃ文字になって、ゲシュタルト崩壊。
 うわああああって、逃げた。夢の中だから身体は重かった。けど頑張って忍び込んでた厨房からリビングに逃げた。笑い声は追ってくる。
 リビングに着くとさ、やっぱ人間居ないの。気味悪い。
 もう怖くて、とっとと巣に行くかって。家を出ようとしたのな。出入り口の設定になってる、机の下にもぐりこもうとして、慌てて飛び退いた。
 手だよ、手。ゲンガーに似た紫色の、手がひとつ。手首から先だけでさ。
 ズズ……って動いた。こっちに来た。一歩後ずさりした。
 ズズ……って動いた。こっちに来た。もう一歩下がった。
 ズズ……って動いた。こっちに来た。俺は気付いたんだ。
「机の、下から、覗いて」
 机の、下から、覗いて。
「手は、もう一つ、増えて」
 手は、もう一つ、増えて。
「それが」
 それが
「ゴーストだと」
 ゴーストだと
「わかったとき」
 わかったとき
「お前は」
 おれは
「背後から忍び寄る」
 背後から忍び寄る
「ゴースの毒ガスで」
 ごーすのどくがすで
「死んでいた」


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 夢は現実となったようだ。
 僕の目の前で話していたコラッタは死んだ。ケタケタと笑うゴースの、インド象をも殺す毒ガスで。
 悶え、苦しみ、目玉は飛び出て、泡を噴いて、もがいて、力を失った。
 ああ、最初に君がこの部屋に来たとき、「君の肩にゲンガーが憑いている」と言うべきだったか。そして物陰に隠れたことを言うべきだったか。
 ああ、最初に君がこの部屋に来たとき、「壁にゴーストがめり込んでいる」と言うべきだったか。そして様子を伺っていることを言うべきだったか。
 ああ、最初に君がこの部屋に来たとき、「今、ここでゴースが浮いている」と言うべきだったか。そしてガスで包み込む隙を待っていたことを言うべきだったか。
 彼らが、君に合わせて代わる代わる言葉を発していたことを言うべきだったか。
 まるで操られているかのように、君の瞳の焦点が定まっていなかった事を言うべきだったか。

 もう、遅い。


「……ケヒッ」

 ゴース、ゴースト、ゲンガー。
 彼らは不気味な笑顔を張り付かせ、僕を見た。
 その目は赤かった。


 僕の目の前も赤く染まった。

----
投下終了です。

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