「・・・髪を纏めて上げて帽子を深く被れば・・・ほらメイ、似合うじゃないか。」 先ほどデパートで買い揃えた服に着替えさせ鏡の前に立たせる。メイジはくるくると動きながら鏡に映る姿を見つつ 「・・・男の子の格好で似合うって言われても・・・」 小さくこぼす。 「あ、そうか・・・ごめんな。つい・・・」 「ううん!としあきさんに言ってもらえてすごく嬉しいです!」 笑顔でこっちに振り返る。そして急に真面目な顔になり 「でも何で男の子の格好なんですか?」 「追われてるんでしょ?だったら少しでも見つからないような努力をしなくちゃ」 としあきの言葉にメイジは俯き、困った表情で見上げると 「・・・私・・・日本に逃げてくるとき、見つからないように女装して来たんです・・・けど・・・」 「えーーーーーーーーーー!?」 -----------------------------------------------------------------  このバイクでアクセル全開にしたのはいつ振りだろうか・・・ 背中に感じるメイジの小さな体を意識しながら、白みだした空の下をひたすらに駆け抜ける。 (どうしてこんなことに・・・)  突然燃え出したアパート。彼女が気づかなければ今頃二人とも巻き込まれていただろう。 怯えた声で「早く逃げなきゃ・・・」と繰り返すメイジを乗せ、としあきは愛車のエンジンをかけた。 「・・・としあきさん・・・あの・・・」 1時間も走らせ続けただろうか。急にメイジが口を開く。 「ん?大丈夫、まだ追われてはないみたいだよ」 「そうじゃなくて・・・あの、私・・・トイレに・・・」 そういえば先ほどからもじもじしていた。尻に感じる違和感に突然意識が集中してしまう。 「あ、・・・そうか、ごめん。次にコンビニがあったらそこで休憩しよう」 「なるべく早く・・・お願いします・・・」 メイジの腕にぎゅっと力がこめられる。違和感が更に頭から離れなくなった。 -------------------------------------------------------------- 「そういえば」 コンビニ前の車止めに腰を下ろして二人、たわいない会話を繰り返しながらおにぎりを口に運ぶ。 「メイの体って、トイレのときはどちら側なの?」 バイクに乗っている間、尻に感じていた違和感。何気ない気持ちで口に出してしまった。 メイジは急に真っ赤になり、そして俯いてしまった。 「・・・としあきさんの・・・エッチ・・・」 ぎりぎり聞こえるかどうかの小さい声で一言。 そして急に真面目な顔でとしあきを見上げると 「・・・一度しか言いませんからね。私のコレは・・・その、生殖機能だけで・・・それ以外は基本的に女の子のままなんです。 」 「そうなんだ。じゃぁそっちの機能はちゃんとついてるんだね」 口にしてからしまったと思ったがもう遅かった。メイジはまた真っ赤な顔で俯いてしまう。 「・・・試して・・・みます?」 「・・・・・・え?」 --------------------------------------------------------------- 「!・・・としあきさん、もう行きましょう!」 突然険しい表情になり、メイジは立ち上がるととしあきの手を引っ張った。 「行くったって、そもそも何処へ・・・俺のアパートはもう焼けちゃってるし・・・」 「何処へ、じゃなくて・・・とにかく今ここに居ちゃダメなんです。早くっ!」 涙目でぐいぐいと引っ張る。 何に追われてるのか、あのかばんの中身が何を意味するのか。何も分からないとしあきはただ困惑するばかり。 メイジに促されるまま、としあきは再びバイクのエンジンをかけた。 「そうそう、早く逃げなきゃ。逃げるものを追うから鬼ごっこは楽しいんだよ。」 走り去るバイク。その背中にしがみつく少女を見つめる少年の姿。 にやりと笑うと、ついさっきまで二人のいたコンビニへと歩き出した。 コンビニの全焼騒ぎは、その後としあきの耳に入ることはなかった。 ------------------------------------------------------------------- 「逃げても追われるってことは・・・発信機とかGPSとか・・・?」 赤信号でバイクを停める。必死の逃避行の最中のはずなのに、どうもルール違反は出来そうもないとしあき。 「発信機は国を出る前に見つけました。三つ。」 「三つも!?」 「でもあの人だけは、機械に頼らずに真っ直ぐ私を見つけてくるんです。」 「あの人?」 青信号に替わり、再びアクセルを開ける。 「私と同じだけど、私とは違う人。私の全てを知っていて・・・でも本当の私のことは何も知らない人。」 「えっと、なんか難しいね。でもなんか、愛し合う二人・・・みたいな感じ?」 言って奇妙な不快感を感じる。 「あの人が求めるのは私のこの体だけ・・・私の心なんて簡単に消されてしまうわ。」 ------------------------------------------------------------------