『エイプリル、出撃』 1.  人工の光が無い夜の山は、まるで墨で塗りつぶした様に見える。  そんな真っ暗闇の山中に延びた、人気の無い道路で何かが行われている。  路傍の木立ちと闇の間に潜む様に大型トラックが停車し、そこから大きな機械が降ろされているのだ。  指示を出しているのは『組織』の抱える12人のエージェントが一人、工学者エイプリル。  機械に乗っているのは彼女が開発したアンドロイド少女にして、エージェントの一人でもあるジュライ。  しばらくしてついに機械が荷台から降ろされ、それを確認したエイプリルもまた機械に乗り込んだ。  座席に着いたエイプリルはおもむろに眼鏡をコンタクトレンズに替える。  それから電源を入れ、計器類のチェックを始めた。 エ「燃料、バッテリー、弾薬……と。よ―し、いよいよ実戦投入だな。ジュライ、二人につけた偵察ロボットからの映像は?」 ジ「受信しまシタ。モニターに出しマス」 エ「う~ん、まだ苦戦しているな…。二人とも、待ってろよ。今行くからな。ジュライ、準備はいいか!?」 ジ「プラグを接続しまシタ。起動、いつデモいけマス」 エ「よし! 機体制御AI『ジュリィ』起動!」 ジ「『ジュリィ』の起動ヲ確認。接続を開始しマス。………。接続完了しまシタ。コレより本機は、ワタクシを介してノ操縦モ可能デス」 エ「うむ、では行こう。これが『夢』への第一歩だ!!」 2.  山間に建つ平べったい箱のような灰白色の建物。  夜も更け、灯りは落とされ中は真っ暗なのに、時折眩い光りが閃いている。  銃撃戦が行われているのだ。  実はこの建物は化学工場で、中では『組織』に敵対する組織がドラッグの製造を行っているのだ。  その薬は敵対組織の大きな資金源であり、弱体化の為にはここを潰すことが必要と『組織』は判断。  そこで工場を破壊する任務を与えられた二人のエージェント、メイジとノヴが潜入を決行する。  しかし想定外の敵戦力に二人は苦戦を強いられ、とうとう追い込まれてしまったのであった。 ノ「参ったな、まさかこんなに敵が居るなんて…」 メ「情報が間違っていたのね…。一体どうすれば…」 ノ「とりあえず配電盤を破壊したから、今のうちに闇に紛れて…」  と、その時だった。  ズゥゥゥン……ズゥゥン……  突然どこからか地響きが聞こえ出す。 メ「な、なんの音?」 ノ「ま、まさか!?」  ……ズゥン……ズン…ズン…ズン、ズン、ズン、ズン、ズン!  ズガァァァァン!!  壁を突き破って二人の前に現れたのは、月明かりに浮かび上がった未知の機体。 エ「ハァッハッハッハッハッ、待たせたな!」 メ「この声……やっぱり!」 メ&ノ「エイプリル姉さん!」 3.  機体の大きさはトラックの2トン車ほど。  だがそれは二人の目には不思議に大きく映った。  何故ならあまりに異様なモノが付いていたからだ。  その機体には車輪もキャタピラも付いていなかった。  ボディから飛び出した、甲殻類を思わせる巨大な脚が4本、地を踏みしめていた。 メ「な、なにこれ?」 ノ「えぇっと、映画か何か?」 エ「馬鹿、見て分からんか!? 多脚戦車、その名も『洲帝不破乃夫(ステファノフ)・壱號』だ!!  ちなみに名前は祖国の英雄、琴欧洲のミドルネームから頂戴した」 ノ「またトンデモ兵器を…」 メ「才能は凄いのに…」  さて場面は替わって、こちらは『洲帝不破乃夫・壱號』コクピット内。  モニターに映った二人の表情、マイクが拾った二人のやりとりにエイプリルは不満げだ。 エ「クッ、なんだ二人とも白けた顔して。子供のクセに夢の無い…『多脚』は人類の浪漫だろぉが!!」 ジ「博士、敵ガ動き始めマシタ。ドウしまスカ?」 エ「フン、決まってる。この場に居る全員に、コイツの威力と人類の浪漫を知らしめてやれ。  行くぞ『洲帝不破乃夫・壱號』、これがお前の初陣だ!!」 4.  エ「ジュライ! 操縦は私がやる。ついでに運動性能のデータを採るから、攻撃はお前がやってくれ!」 ジ「了解しましタ」  ズン! ズン! ズン! ズン!  鋼の脚が地を踏み、揺るがせ、多脚戦車『洲帝不破乃夫・壱號』は前進を開始する。  恐慌から立ち直った敵たちは必死に銃弾を浴びせるが、ピストルやサブマシンガンでは話にならない。  跳弾が虚しく火花と金属音を散らせ、射手達は絶望に顔色を変える。 ジ「博士、攻撃手段ハどうしますカ?」 エ「う~ん、張り切って出てきたのはいいんだが……。この程度の相手ならあんまり火力は要らないだろうしなぁ……。  ま、機関銃足元にでも撃ち込んでやれ。威嚇射撃で十分だろ」 ジ「了解しマシタ」  轟音を吐き散らして火を噴く銃口。  風を切り、音速の壁をぶち抜く銃弾。  床を、壁を砕き、穿ち、逃げ惑う者を追い散らす。 エ「フ、最早誰にも私達を止めることは出来ない。見たか、これが人類の浪漫、多脚戦車の実力だ!  う~ん……しかしこの振動はやっぱり堪えるなぁ。サスペンションや足回りを改良しないと…。  まぁでも今のところ不満なのはそれくらいだな。良好良好。なかなかのモンだ」  圧倒的戦力と性能に満足し、得意満面の笑みを浮かべるエイプリル。  しかしその時だ。  アラームが鳴り響き、ジュライが鋭い声を上げたのは。 ジ「博士!!」 エ「な、なんだ!?」  ズドォォン!!  コクピット内にも響く爆発音と、一瞬車体が傾ぐ程の衝撃に振動。  電気系統を損傷したか、照明も落ちてしまった。 5. エ「え、え!? なんだ、どうした!?」 ジ「RPG-7デス! 『高速モード』デ退避!」  『ジュリィ』がオートで退避を決定し、多脚戦車はその姿を変える。  4本の脚が畳み込まれ、機体が伏せる。  脚部に仕込まれた車輪が飛び出して接地し、機体を支えていた足先が折り込まれる。  今や4本足の多脚戦車は4輪の戦車へと変形を遂げていた。  …だが、その動きはあまりに緩慢だった。  戦車より脆弱だが、すばしっこい人間がその隙を逃す筈も無く…  ズドォォン!!  『人類の浪漫』は再びロケット弾の直撃を喰らってしまった。 エ「イッタァ!! 頭打った!」 ジ「発煙弾発射! 高速蛇行デ後退!」 エ「うわっ、あっ、あっあっ、アッ――!!?」  スモークで姿を隠し、4輪になった『洲帝不破乃夫・壱號』は車体を軋ませ一気に後退。  施設内のコーナーを回って停車。  車体を壁の陰にすっかり隠し、カメラのみを出して相手の様子を伺う。  さすがに最初の威嚇射撃が功を奏したか、敵も積極的に追撃を仕掛ける様子は無さそうだ。 ジ「博士、大丈夫ですカ?」 エ「ま、まぁな。それにしても……クソッ、対戦車兵器を持っていたなんて! ぬかった!!」 ジ「博士、一ツ、オ聞きしたいノですガ、何故『多脚』ニ拘るノですカ?  今回のケースナラ、最初カラ『高速モード』デ突入すれバ良かったト思うノですガ」 エ「馬鹿っ、衝撃でメモリーが飛んだのか!? 人類の浪漫だと言っただろうが!!」 ジ「しカし、『人類の浪漫』トハ難解でス。もット分かリ易ク説明して下サイ」 エ「フン、それはなぁ……」  グッと睨みつけつけるようにジュライを見つめ、大きく息を吸い、キッパリとエイプリルは言い放った。 エ「カッコイイからだ!! 以上! ジュライ、損傷は!?」 6. ジ「損傷ハ軽微、爆発反応装甲が有効デス。電気系統モ復旧しまシタ。駆動系、全ク問題有りマセン」 エ「よ―し、まだまだイケるぞ、このままじゃ済まさん! 第一助太刀に来てこのザマじゃあ、格好悪すぎる!」 ジ「次ハどうしますカ?」 エ「うん、その前にメイジとノヴは? 今どこに居る?」 ジ「4分22秒前ニ撤退していマス。現在は此処カラ直線距離ニして約287mの地点ニ居マス」 エ「そうか。では二人の任務を我々が引き継ぐ」 ジ「ト言いマスト?」 エ「要するにこの工場を破壊すればいい訳だろう? ジュライ、主砲用意! 突っ込むぞ!」  タイヤを鳴らせて、戦車は壁の陰から飛び出した。  機関銃で敵を散り散りにし、目標に向かって駆け出していく。  敵も必死に追いかけてくるが、高速で蛇行することで相手に狙いを付けさせない。  そうして距離を取ったところで砲塔を回転させ背後に向ける。 エ「ジュライ! まずは後ろのあの設備を撃て!」  命令を受け、すぐさま砲撃がなされる。  砲弾が直撃した機械が木っ端微塵に吹き飛んだ。  爆風と炎が戦車と敵の間を遮る。 エ「いまだ、ジュライ! この隙にまわりの機械全部吹っ飛ばせ!」  今度は前後左右、あらゆる方向に砲撃を叩き込んでいく。  人工知能による正確な砲撃は、狙い過たず目標に吸い込まれていった。  ただの機械が成形炸薬弾の直撃に耐えられる筈も無い。  撃ち込まれた瞬間に真っ赤な炎に包まれ、爆風で部品が千切れ飛ぶ。  そのまま撃ち続けながら、戦車は奥へ奥へと突き進む。  機械は順番に砲弾を喰らって、一つも漏らさずに破壊されていく。  繰り返される砲撃の果てに目標は、ついに無残に焼け爛れるばかりの鉄くずと成り果てた。 エ「フッ、任務完了!!」 7. エ「ハァッハッハッハッハ!! やった、やったぞ、初陣は大勝利だ!」  呵呵大笑するエイプリル。  だがそこにジュライの冷静な声が飛ぶ。 ジ「博士、音響並びに振動センサーに反応デス。敵ガ追いツイて来たモノト思われマス」 エ「なに!? まだ追ってくるのか!? しつこすぎるぞ!」 ジ「どうしますカ?」 エ「クソッ、来るならもっとゆっくり来い! えぇい、急げジュライ! この方向に主砲撃て! 外に通じる穴を開けろ!!」 ジ「了解しまシタ。主砲発射!」  エイプリルが指示した方向に、『ジュリィ』による正確な砲撃が加えられていく。  一発、二発と打ち込まれる度に壁に大穴が開いていく。  その様子をモニターで確認しつつも、音響、振動センサーのデータから目が離せないエイプリル。  砲撃は『ジュリィ』に任せ、自身は操縦桿をしっかと握っている。  だが力いっぱい握り締めるあまり腕も肩もブルブル振るえ、指の関節など色が変わってしまっている程だ。  ツ…  冷や汗が一滴、頬を伝って顎から落ちる。  三発、四発…。  残弾数2! エ「まだか…まだか…早く…早く…!」  更に五発目! エ「開いた! 全速前進!!」 8.  床に散らばる瓦礫を蹴飛ばし走り去る戦車。  ワラワラと現れ、背後から銃撃を加える追っ手たち。  そして恐れていたあの武器が。 ジ「博士! 敵ハRPG-7ヲ持っテいマス!」 エ「フン、やっぱり来たか! ジュライ、奴らの背後に主砲撃て!」  敵にではなく、敵の背後を目掛け最後の一発が放たれる。  それこそがエイプリルの計画だった。  何故背後を狙って撃ったのか?  そこにあったのは薬品のタンクだった。  それも火気厳禁の。  ドゴォォォォォォン…!!  工場を揺るがす爆風と爆音。  砲撃で薬品に引火し、タンクが裂け、凄まじい勢いで炎が噴き出す。  チラッとモニターで見えた敵たちは大慌てで散らばっていた。  RPG-7も放り出されていた。 エ「やったぁぁ!! ん? お、お、おおおおお!!?」  引火による爆発は予想外の凄まじさで、その爆風に煽られバランスを崩した戦車は壁と接触。  自らの勢いと風の勢いによってグルグルとスピンを始め、外では無く、別の部屋に飛び込んでしまった。  そこで今度は柱にぶつかり、壁にぶつかり、衝突を繰り返した果てに壁にめり込んでようやく止まることが出来たのだった。 9. エ「ぐ……こ、こんなこともあろうかと、エアバッグを付けておいて良かった…」 ジ「博士、シッカリして下サイ。爆発ト火災ニより一部デ崩落ガ始マッてイマス。早ク外ニ出なくテハなりマセン」 エ「お、おお、そうか。では急いで…ウン? お? い、いかん!! 動けん!!」 ジ「博士! 急いで下サイ! この部屋モ崩れ始めマシタ!」 エ「ク、クソォッ!! 負けるかぁ!! 出力全開!!」  キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル!!  白煙を上げて車輪が空転する。  その間にもガラガラと瓦礫や鉄骨が降り始めた。  このままでは生き埋めになってしまう。  また可燃物に引火したか、どこからか爆発音も聞こえてくる。  数十秒間が何時間にも感じられる苦闘。  その末に。  やっとのことで壁から脱出に成功。  解き放たれた戦車は猛然と駆け出す。  先ほど開けた、外へと通じる唯一の脱出口目指し。  しかし崩落のスピードは思った以上に速い。  このままでは脱出口に到達する前に埋まってしまう。 エ「まだだァ! こんなこともあろうかと!! 『洲帝不破乃夫(ステファノフ)・壱號』、最速モォォォォド!!!!」 10.  夜空を焦がす炎と煙。  化学工場はとうとう爆発炎上し、木っ端微塵になってしまった。  それを遠く離れた道端で見つめる少年と少女。 ノ「あ~あ、派手にやっちゃったね…」 メ「いつものことじゃない、エイプリル姉さんのすることよ…」 ノ「そうだね…。じゃあ、そろそろ帰ろっか。姉さんはどうする?」 メ「放っといていいと思うわ。多分、ジュライも居ることだから」 ノ「じゃ、帰ろう」 メ「そうしましょう」  少年と少女が帰り始めた頃、そこから工場を挟んで向こう側。  煤けた、デコボコの機体が大型トラックの荷台に積み込まれていた。  どうにか脱出に成功した『洲帝不破乃夫・壱號』である。  『最速モード』……装甲を一切脱ぎ捨てることで辛うじて生還出来たのだ。  そのかわり、落ちてきた瓦礫や、諦めの悪い敵に撃ち込まれた銃弾で表面は穴ボコだらけだ。  それも装甲を纏わないから仕方のないことなのだが。 エ「うん…コンタクトがゴロゴロする…。駄目だ、眼鏡に戻そう」 ジ「博士、やハりコンタクトハ不合理かト思いマス」 エ「う、言うな、ジュライ。これは私の儀式なんだ、出撃前のな…。こればっかりは理屈じゃないんだよ」 ジ「ワタクシにハ理解出来まセン。不可解デス」 エ「これは理解出来なくていいよ…。それよりメイジとノヴは?」 ジ「モウ帰途ニ就いていマス」 エ「そうか、じゃ、私達も勝手に帰ろう。ふぁ~あ、今夜はもう寝たいよ…。ジュライ、帰りの運転はお前に任せる、頼んだ。  あ、そうだジュライ、偵察ロボットの回収もよろしく―…」 11.  それから一夜明け。  世間では爆発事故で大騒ぎになっているが、『組織』に捜査は及んでいない。  それはそうだろう。  『4本脚で歩く戦車』『タイヤが出て走り回る』などと言われて誰が信じるものか。  そのうえ運良く工場が全焼し、監視カメラの記録も全て焼失してしまっている。  唯一の証拠は脱ぎ捨てた装甲だが、それも『多脚戦車』の存在を信じないが為に見過ごされてしまった。  そのため結果的にとは言え、今日も『組織』の平穏は保たれている。  ただ、『組織』は平穏なのだが――…… エ「あ~~、あ~~、やぁってられ~~ん……」  エイプリルはすっかり不貞腐れていた。  メイジとノヴを救出したことは認められたが、あんまり派手にやり過ぎたために減俸を喰らった。  更に消費した燃料、弾薬の補給、失った装甲の新造、本体そのものの補修と出費も見込まれる。  おまけに… エ「ハァァ、この間『資料』を買いすぎたんだよなぁ…。もうちょっと控えとけば…」  この買い物も響いて、とうとう研究資金がすっかり底を突いてしまったのだ。  そもそも『多脚戦車』の研究は、『組織』に命じられて行っている訳ではない。  エイプリルが『組織』での仕事の合間を縫って、個人的に行っているのだ。  つまりこの研究には全く援助は無く、彼女は私費を投じているのである。  ゆえに資金が無くなるというのは、およそ彼女にとって最悪の事態なのだ。  腐るのも無理は無い。  そんな訳で昨夜のデータを整理する気も起きず、ゴロゴロしながらボヤいているのであった。  そうしているところへ、ジュライが何やら荷物を持ってやって来た。 ジ「博士、先日購入されタ商品が届きまシタ」 エ「お、届いたか。ふぅ…しょうがないな、しばらくはこの『資料』で憂さ晴らしか」  カッターを取って箱を開けると、中からワンサカと出てくるDVDだのプラモデルだの。  DVDは映画の他には日本のアニメや特撮がほとんどで、もちろんどれも内容は戦車やメカが登場する話だ。  プラモデルも実在、架空を問わずに戦車がほとんどで、たまにロボットなどが混ざっている。  エイプリルは中身を見た途端にニカッと相好を崩し、まるで幼児の様な笑顔を浮かべた。  心底待ちかねていたのだろう、声もウキウキと弾みだしていた。 エ「どーしよっかなぁ~~? DVD観よっかなぁ? 先にプラモ作ろっかなぁ?」 ノ「ご機嫌ですね」 メ「これが…『オタク』ですか?」 エ「なぁっ!! なんだ二人とも! コ、コラ、ジュライ、勝手に入れるな!」 ジ「申し訳ありマセン。命令ヲ受けていまセンでシタ」 エ「うぅ~~~~ッ」 12. エ「で!? 二人とも、何の用で来たんだ!?」  顔を真っ赤にしていつもの様に振舞おうとしているのだが、先ほどの姿を見られている所為か今ひとつ決まらない。  メイジとノヴもいつものポーズの裏側の、素顔のエイプリルを知ってクスクス笑いを止めようとしない。  ジュライ一人が常と変わらぬ表情で、静かにエイプリルの傍らに控えていた。 メ「知らなかったな、姉さんにこんな趣味があったなんて」 ノ「意外だったけど、でもなんか納得出来ますね」 エ「五月蝿い! 用件を言え、用件を!」 ノ「お礼ですよ」 エ「へ?」 メ「助けてもらったんですから当然です」 メ&ノ「昨夜はどうもありがとうございました」 エ「ちょっ、いや、別に私は…。あ~アレだ、ホラ、テスト、実戦でテストするいい機会だと思ったんだ、それだけだって!」 メ「へぇ、意外。姉さんって照れ屋さん」 ノ「照れなくてもいいのにね」 エ「だ、誰が照れてなど…! あ、おい、ジュライ、来客じゃないか、お茶でも淹れろ」 ジ「了解しマシタ」  ジュライの淹れた紅茶が運ばれてくる。  ほっこりと甘い香りが流れてきた。  その頃にはエイプリルも落ち着いていたし、メイジとノヴも笑うのを止めていた。  喉を潤すと気持ちも楽になる。  なんとなく打ち解けてきた二人は昨夜の疑問を尋ねてみた。 13. ノ「ひとつ訊いていいですか? なんで姉さんがああいうのを作るのか分からないんです。どうしてですか?」 エ「ほぉ…よくぞ訊いてくれた。それはな、私の『夢』だ」 メ「あの…『多脚戦車』っていうのが?」 エ「いや、あれは一つの過程に過ぎない。私の『夢』はな、『万能戦車』を作ることだ」 メ&ノ「『万能戦車』!?」 エ「そうだ、世界中のあらゆる地形を踏破し、あらゆる気候、天候に耐え、どこまでもどこまでも突き進む!  各種センサーで死角を無くし! 高速移動で肉薄攻撃を跳ね除け! もちろん装甲も全面強化!  そんな『万能戦車』を作ることが私の『夢』なんだ!  『多脚戦車』の研究はその為だ!  あ、一応言っておくと、私はキャタピラもホイールも否定しないぞ。  いずれも人類の偉大な発明だと思っている。  ただ私の『夢』のためには、未開発技術である『脚』をなんとかせねばならないんだ。  ……まぁ、格好良いっていうのも大きいんだが……。  とにかく!  私はあくまで『万能戦車』を作りたいのであって、必ずしも『多脚』が好きだとか『合体』や『変形』が好きだとか……  そんなことでは断じてない!!」 ノ「ハ、ハァ…」 メ「で、この荷物はそのための?」 エ「む…こ、これは『資料』だ!」 ノ「でも随分ご機嫌でしたね?」 メ「姉さんって結構子供っぽい?」 エ「う、五月蝿い!! 『多脚』は人類の浪漫だ!! 『万能戦車』は私の夢だ!! 笑う奴、邪魔する奴は踏み潰してやるぅ!!」  ベッドに飛び込み、毛布を頭からすっぽり被って怨嗟の声を上げ出すエイプリル。  その声もだんだんシャックリ交じりの、グシグシとした鼻声に変わってしまった。  その突然の変貌とあまりの様相に、メイジもノヴもオロオロしてしまう。  あれこれ言葉を掛けてみるが、頑として受け付けない。  すっかり拗ねてしまった様だった。 ノ「も~、どうしたらいいんだ?」 メ「ちょっとジュライ、あなたも手伝ってよ」 ジ「了解しまシタ」  答えるや否やジュライはベッドにツカツカと歩み寄ると、  バサァッ  あっという間に毛布を剥ぎ取ってしまった。 エ「な、なんだよジュライ! わ、私より、あ、あの二人のゆーこと聞くのか!?」 ジ「博士、お二人カラのお誘いでス」 エ「へ? お誘い??」 ジ「ハイ。DVD鑑賞を是非ご一緒ニ、との事デス」 ノ「えっ?」 メ「ちょっ…」 エ「そ~かぁ~、二人とも私の夢に興味を持ったな? そ―か、そ―か、よし! 早速観よう! 一緒に観よう!  お姉ちゃんが君たちに夢と浪漫を教えてあげよう! あ、ジュライ、届いたDVD持って来てね」  ガバ! と二人を抱きとめ、そのままズルズルTVの前まで引っ張っていく。  『今泣いた烏がもう笑う』とでも言うべきか、それはそれは嬉しそうな表情だ。  先ほどまでぐずついていたことは、もう忘れてしまっているのだろう。  どうやら彼女は、好きなことに誘うと立ち直るらしい。  三人の後を、DVDを抱えたジュライが静かについて来ていた。 (終わり) <後書き> エイプリル姉さん(とジュライ)の話、ようやく書き上がりました。 話の内容というか筋書きはすぐに決まったんですが、舞台のイメージが二転三転し、結果何度も手が止まる事に。 工場のイメージを先に固めておいた方が良かったですね。これは反省点です。 エイプリルとジュライの話になるはずが、書き終えてみるとほとんど戦車の話になってますねぇ。 しかも改めて読み直すと、「多脚戦車」と言いながらずっと車輪で走り回ってる気がするし。 それと普通は車輪で走ってたら装甲車らしいですが、この点はもう目をつぶって下さい。 エイプリルとしては車輪とキャタピラを切り替えられる様にしたがっているようですが。 あとはっきり言って戦車については詳しくないです。 一応調べながら書いてはいますが、細かい部分は気づかずボロボロでしょう。 変なことがあったら教えて下さい。 では続けて設定解説を。 <設定まとめ>(注:あくまで脳内設定です) ○エイプリル(No.4 April)   工学者。20代前半のイメージ。二十歳を少し越したくらい。   飛び級で大学に入り、10代にして博士号を取得した天才少女。   多感な時期に学内で一人寂しくしていたところを、工学部のオタク学生からオタク文化の洗礼を受けた。   そして現在の様な趣味、言動、そして夢を抱くに至る。   「万能戦車の開発」という夢とその言動が原因で大学や企業にはおられず、余暇にその研究をしても良い、という条件で組織に   入る。   地はかなり子供っぽい。知能の発達に他の部分が追いつかなかったのだろうか?   隠れオタクで戦車が大好き。そして日本語が上手。もちろん日本のアニメや漫画を原語で楽しむため。   また日本語に堪能なせいで漢字でネーミングをしたがる。   ツンデレとか自分で言っておきながら、全然違うものになってしまった気がします。難しい。ツンデレってどんなの?   一応集合イラストのイメージで頭の中では動かしているのですが、全然違う人になったかも。   また「洲帝不破乃夫・壱號」を操縦したり、大型トラックを運転したり、実は運転技術はかなり高い。   好きこそ物の…ってやつですね。   マッド・サイエンティストにしようかな、と思いつつあんまりソレっぽくは出来てませんね。   上記の設定だと、幼さゆえに倫理感がおかしいマッド・サイエンティストになるのではないかと思います。   また明るめの話にしたかったのでボツにした案に、「その頭脳を欲した組織に嵌められ、エージェントにされた工学者」という   のがあります。良心の呵責に苦しみながらも命令に背けず研究をしている、という設定です。 ○ジュライ(No.7 July)   作中でもある様にエイプリルが生み出したアンドロイド少女。   暴走しがちなエイプリルのストッパーで時にお守り役。特に拗ねたエイプリルへの対応はかなり柔軟にこなす。   が、それでも人工知能の悲しさで、なんらかのアクションが無いと動いてくれないことも多々。   今回はあくまでエイプリルのサポート役に徹しているが、様々な武装が施され強力な戦闘力を有する。   武装については214回目スレで出された案によると   ・ロケットパンチ   ・目からビーム   ・おっぱいミサイル   ・耳がアンテナ状機具で、ビームを撃つ際には視覚センサーが起動する   ・腹からバルカン砲   だそうです。   個人的にはロケットパンチは拳が鎖やワイヤーで繋がった有線ロケットパンチを希望。   一方の手で敵を掴んで引き寄せ、もう一方で迎え撃つとか。   表向きは「ジュライ」だが、漢字ネーミング好きのエイプリルによって「寿雷」の名を与えられている。 ○洲帝不破乃夫・壱號(すてふぁのふ・いちごう)   エイプリルが開発した多脚戦車。   モデルは言わずと知れた「攻殻機動隊」に登場する「フチコマ」。   ただしカメラを出したり、音響や振動を検知出来たり、二人一組で搭乗する辺りは「ドミニオンC1」の「ボナパルト」を参考   にしています。サイズも同じくらいのイメージで。   あらゆる地形を踏破する、という目的のため戦闘力より機動力が重視されている(但し、装甲には力を入れている模様)。   脚に車輪を仕込み、そのためモードの切り替えに手間取ったのは、現在の彼女の技術力では車体に車輪を設けると全体が大型化   してしまうため、という設定です。   多分「弐號」では多少大きくなって、狭い道に入りづらくなるとしてもボディに設けることでしょう。   なお足先に車輪を付けるのは、高速を出した時にバランスを取るのが難しいという理由から却下されたという設定だったりします。   エイプリルにすれば技術を向上させてなんとか実現したい設計なのですが。   あと人工知能が攻撃を担当しているので砲塔は無人になっています。   これも漢字好きのエイプリルの趣味でこんな無茶な名を付けられる。   意味としては「欧州(洲)の帝王にして敗れざる男」ということらしいです。   正直これは自分でも悪ノリしたなぁ、と。読みづらかったらゴメンナサイ。   ちなみにやや明るめの、サンドブラウンもしくはグレーをベースにしたカラーリングをイメージしています。 ○ジュリィ   「洲帝不破乃夫・壱號」に搭載された人工知能の名称。   「歩行モード」での姿勢制御、エイプリルの目の届かないところのデータ収拾並びにその処理を行っている。   実質彼女が「洲帝不破乃夫・壱號」の意志であり、それ自身であると言える。   ただし、あらゆる機能を一身に負っているため、ジュライ(あるいはフチコマ)の様に人格を持たせる余裕は無かった。   そのためジュライがエイプリルとジュリィ間に立ち、両者を補佐することになった。   即ちジュリィが姿勢を制御しつつ、エイプリルの操縦に応えて機体を動かし、同時進行で周囲の様々なデータを収集し解析する。   そして必要に応じ、エイプリルに警告を発する、自動で退避行動に移るなどの処置を行う。   更にジュライがジュリィとリンクすることで情報を共有し、時に彼女自身が判断をして二人をサポートする。   このためジュリィからの報告は通常モニターでの表示やアラームなどで行われるが、多くの場合ジュライが替わって口頭で受け   答えすることになった。   これはつまり、ジュライへの命令が、実際はジュリィへの命令になるということである。   何故この様な形式になったかと言えば、エイプリルがいかに高い運転技術を持っていようと、今まで存在しなかった、マニュアル   が存在しない乗り物で戦う以上「いっぱいいっぱい」になることが予想され、またジュライがエイプリルの優秀な助手であること   を、エイプリル自身がよく理解しているためでもある。   そのうえ稼動年数の違いから、ジュリィはジュライほどの判断力を持っておらず、このことからもこの形式は都合が良いのである。   これらのことから三人の能力差を簡単に表すと   ・情報処理…ジュリィ>ジュライ>エイプリル   ・判断力…エイプリル>ジュライ>ジュリィ   となる。   つまり機能は優秀だが、取り扱いに難のあるジュリィを、先輩であるジュライがインタフェースになって補佐しているのである。   「洲帝不破乃夫・壱號」はエイプリル、ジュライ、ジュリィの三位一体で成り立っているのだと言えよう。   なお、彼女の名前の漢字表記は「樹莉惟」である。   本文以外で一番時間を食ったところです。でも本文以外で一番楽しかったところです。 ○偵察ロボット   いわゆる「無人偵察機」。エイプリルはこの種の機械をたくさん開発していて、いつも任務に出る仲間の後をつけさせている。   理由は仲間のピンチに颯爽と現れるため。 ○漢字ネーミング   どっかで見たことがある? いや、その、「かなあき設定」のジュリィを見た時にですね…。 <後書き2> この設定まとめも短くまとめられたら良かったのですが…。 あれこれ考えたらこんなになってしまいました。 本文も長めの上に後書きまで長くなってしまいましたが、読んでいただいて有難うございました。 思えばメイジやノヴ以外のエージェントが登場する話はこれが初めてです。 ダラダラ伸びてしまった文ですが、楽しんでいただければ幸いです。 プレゼントあき