ブルふた 元気なメイジ版 後編 昼。 お腹が空いたので、都詩子はメイジと出かけることにした。 行き先は双葉スーパー。 マンションの近くにあり、割と品揃えも良いので、 彼女はそこを利用している。 「とっしー。何買うの?」 メイジは都詩子を見上げて尋ねた。風が強いせいか長い金髪が揺れていた。 「メイジちゃんのために、ちょっとね」 「ふぅん。あたしのためなんだ。……でも、答えになってないよ?」 疑わしい目で都詩子を見つめたが、 彼女は自分の唇に指を当てて「秘密」とだけ答える。 揺れない黒髪とその様子は、双葉の管理人さんを思わせた。 長い下り坂を終えると、目的のスーパーが見えてきた。 早速店内に入り、食品売り場をショッピングカートを押して見回る。 メイジは、常時買い物カゴに目を光らせていたが、 入るのは日本のポピュラーな食品ばかりで、 一向に怪しそうな物は入らない。 そして、寿司がカゴの中に放り込まれた瞬間、 メイジは彼女の考えを理解した。 「何だ。日本の食べ物を教えてくれるってことね!  私も、SUSHIぐらいは知ってるよ!!」 「そっか。でも、日本の食べ物って色々あるから楽しみにしててね」 「おっけー! ところで、私も何か買って良いかな?」 「もちろん。何が食べたいの?」 「そんなの決まってるじゃん!」 メイジは、ヨーグルトの棚を探すために走り出した。 ようやく都詩子が見つけた時、 メイジは、ヨーグルト相手に睨めっこしていた。 棚の端から端の商品を手に取って、説明欄をじっくり眺めている。 「ふぅ。本当にヨーグルトが好きなんだね」 「だって、ヨーグルトはあたしの生命線だしっ!」 ニッコリと笑うメイジを見て、都詩子も頬を緩ませたが、 「でも、お店の中で走っちゃ駄目よ」と叱った。 双葉スーパーはそれほど広くなかったが、 それでも、ヨーグルトの品揃えはなかなかだった。 定番の名の知れているヨーグルトもあれば、 果実入りヨーグルトやフレークやマシュマロ付きヨーグルト等の 風変わりなものもある。 「これだけ沢山あると、一日で食べるのは無理ね!」 「……全種類食べるつもりだったの?」 少し呆れた様子の都詩子を尻目に、 メイジは、どのヨーグルトを食べようかと商品同士を見比べていた。 しばらく悩んだ後、 定番のヨーグルトを数種類カゴに入れて、二人はレジへと向かった。 帰り道。都詩子は聞いた。 「どうして、普通のヨーグルトにしたの?」 「迷った時は、塩かパチパチにするのがベストなのよ」 「そうなんだ」 都詩子は不思議そうな顔をした。 彼女には、ヨーグルトの中でパチパチとはじける音は連想出来たが、 塩入りヨーグルトの味は連想できなかった。 「ヨーグルトに塩って美味しいのかな? 私には分からないなあ」 「食べてみれば分かると思うよ!  私にとっては、とっしーが教えてくれるって言う"日本料理"だって  美味しいか分からない」 「……そうだね。メイジちゃんの言う通り」 「でしょ! じゃ、先に行くからねー」 メイジは機嫌よくスキップしながら、家へと向かった。 彼女の方が荷物が軽いとは言え、 明らかに都詩子より体力があって元気だった。 大学生とは言え、引き篭もり気味で運動していない都詩子にとって 長い坂道を荷物持ちで上るのは苦労だ。 こうして、シャツの背中が汗でベトベトになった頃。 都詩子は、やっとマンションに辿り着いた。 メイジは、元気にベランダから手を振っている。 「とっしー! 早くー!!」 そんなメイジの姿を見て、 「毎日こんな日々が続くのかな……」と都詩子は思った。