ブルふた 元気なメイジ版 冬の朝。 双葉都詩子は、大学ではなく、布団の中で夢の講義を受けていた。 そんな彼女の講義を邪魔したのは、ノックの音。 最初は無視していたが、いい加減うるさかったので、起きることにした。 「気持ちの良い朝だったのに……」と 頭の中で愚痴りながら、インターホンの受話器を取る。 「……イタズラはダメよ」 受話器から聞こえてきたのは、女の子の声だった。 「イタズラじゃないよ! あたしのこと聞いてない?」 都詩子はしばらく考えた後、 "ブルガリアにいる親戚の娘を預かって欲しい" と言う父の電話を思い出した。 「あなた、もしかしてメイジちゃん?」 「そうそう! 何よ。知ってるじゃない」 慌ててキーロックを外すと、少し苛立った様子の少女が立っていた。 長い金髪に赤い瞳。白いシャツの上に羽織った黒いコート。 よくあるトラベルバッグ。兎のぬいぐるみ。 彼女の姿は、都詩子にとって新鮮なものだった。 「少し寝ぼけてて……。ごめんなさいね」 「気にしないよ! なんたってあたしだし」 メイジの機嫌はすっかり治っている。 「それよりヨーグルトある?」 「……ちょっと待ってて。確か冷蔵庫に入ってたと思うから」 ヨーグルトをカップに入れて持って行くと、 メイジは既にベッドの端に座って待機していた。 楽しみらしく、ぬいぐるみを胸に抱き、足をバタバタさせている。 「日本のヨーグルトはどれだけブリガリーなんだろ!」 「本場には負けると思うよ……」 渡されると勢い良く食べ始めた。 そんな彼女を、都詩子は隣に座って見ていた。 「んー。悪くない! 中々!!」 「そう?」 「うん! 後はね……」 そう言うと、脇においてあったバッグを開ける。 おもちゃの拳銃と謎のビニール袋が目立ってはいたが、 他は一般旅行者と大して変わらない中身だ。 その中から袋を取り出すと、ヨーグルトに中身を振りかける。 「これを入れてみないとね!」 中身は砕けた飴だった。 ヨーグルトの底へと、オレンジ色の飴が沈んで行く。 「メイジちゃん。それは何?」 「パチパチだよっ!」 頭を傾げる都詩子。 「聞いた覚えが無いなぁ」 「えっ! 日本ってパチパチが無いの!?」 「もしかしたら、違う名前で売ってるかもしれないけど」 「売ってるって! パチパチが売ってない国なんてありえない」 パチパチの混じったヨーグルトを口の中へと入れると、 メイジは、満足そうな笑みを浮かべた。 「やっぱり、これが無いと駄目ね!」 「……そんなにおいしいの?」 「食べる?」 「うーん……」 「美味しいよ?」 「いや、でも、どうでしょうね」 優柔不断な都詩子に苛立ったのか、 ベッドに都詩子を押し倒して、口にスプーンを押し込んだ。 「メ、メイジちゃん!」 「食わず嫌いは駄目だって、ボスが行ってた!」 スプーンで突っつかれたせいか、都詩子は思わず口を開けてしまう。 体温計の様に口から飛び出すスプーンの柄。 「どう?」 「……悪くないかな」 「でしょ! だから大人しく口をあーんと開ければ良かったのにさ!!」 メイジは都詩子を抱きしめた。更に、首の後ろに手を回してより体を密着させた。 その瞬間、都詩子は違和感を感じた。 「そ、そうね……」 違和感を感じたせいで、そのことしか考えられなくなっていた。 「なら、もっと食べる?」 「も、もう十分かな」 「ふぅん」 都詩子の意識は、彼女のお腹の部分に集中されていた。 ちょうど、メイジの股間辺りである。 意を決して聞いてみるとにした。 「あのねメイジちゃん」 「何?」 「メイジちゃんって、男の子なの?」 「違うよ! ……もしかして、これも聞いてない?」 立ち上がって全部脱いでしまうメイジ。 彼女のスレンダーな体には、両性の物が付いていた。 「両方あるの!」 整列一番前の如く手を腰にやって笑った。自慢げそうだ。 が、対する都詩子は、非常識な事態に脳が追いついていない。 しばらくして、やっと口が開いた。 「いわゆる……ふたなりって言う奴なのかな?」 「そうね! あ、脱いだついでにシャワー借りても良い?」 シャワー室へと向かうメイジを見送った後、 急いで父の携帯に電話したが繋がらなかった。 続くかもしれない おまけ(トラベルバッグの中身について) 拳銃 おもちゃ。旅立つ際、友人に作ってもらったもの。木製。 麻薬 通称パチパチ。日本で言うドンパッチらしい。麻薬並みにハジけたお菓子    メイジパパ(通称ボス)の工場が作っていたが、パパ死亡につき他人に渡る。 ぬいぐるみ 兎のぬいぐるみ。良くあるぬいぐるみ。 と言う訳で、もちろん普通に入国しています。