■ メイジさんのとある一日 3 ■  ◇ブリーフィング?◇  大変ゆゆしき事態なのです。ユカリさんが、最近ユキさんのお家に来てくれません。  ユカリさんはもうメイジさんに飽き飽きなのでしょうか? ユキさんに聞いてみました。  「ユカリは生徒会OBだからね。お節介だから手伝ってるんだよ。   メイジ、ユカリに会いたいの? メイジは学校には入れないから無理だよーん」  と言われました。よくわかりません。ユキさんは、メイジさんにお尻を向けて雑誌を読み始めました。  かまってくれない時の雰囲気なのです…。  冷蔵庫をあさっていたリョウコさんに聞いてみます。  「あぁ、文化祭の準備だろ? 終わったらすぐに来るって。だってユカリだぜ?」  とか言いながら、歯を使ってバナナを卑猥にもアレの形に加工して、ユキさんに見せて喜んでいます。  ぬぬっ。倦怠期なのです。とうとう恐れていた倦怠期になってしまったのです。  ユキさんが、リョウコさんの力作を横取りして、ふぇらふぇらして遊んでいます。  まったく駄目な人たちです。きっと親友よりも、オトコが欲しい花盛りなのです。  メイジさんはなさけない気持ちでいっぱいです。  メイジさんの友情の炎は、まだアツアツに燃え上がっています。だって親友なのですよ?  ブンカサイの日、ユカリさんは必ずお家にやってくるそうですが、  メイジさんは待ちきれません。そのブンカサイとやらに奇襲してやるです。  ◇ミッション?◇  おおっ。これが三人が通っているガッコウなのですか。スゴイ人だかりです。  メイジさんは、先月からユキさんのウチの正式な養子になったのです。  もし見つかっても、ユキさんユキさんの一点張りで押し通す計画なのです。  シンガクコーのはずなのに、随分と凝っています。催し物と勉学の両立ですか。素晴らしいです。  とりあえず正面突破をはかります…。と、素通りで良いんですか?  警備がザルなのです。平和ボケしているのですよ。好都合にも程があるんです。  ふふっ。待っていてくださいユカリさん。メイジさん無しでは生きていけない体にしてやるです。  ちなみに意味はわかりません。この前リョウコさんが言ってたのを真似しました。  屋台が軒を連ねています。お祭りムードなのです。  おいしそうな臭いが、カオスなぐらいにメイジさんのお鼻を刺激してやみません。  ついつい足を止めてしまうのです…。  お好み焼きを焼いています…。ねじりはちまきをしたガクセーが、汗をかきながら頑張ってます。  うはっ、卵をのせました。あれ嫌いじゃないです。ええ、好きともいうようですが、否定しません。  注文したお客さんも、ニーチャンの手際の良さに釘付けになっています…。  だっ、駄目です、このままでは誘惑されてしまいます…。メイジさんは目をそらすことにしました。  あっ、あれあれ! あれも知っています。焼きそばです、お値段二百円ですかそうですか…。  メイジさん一日分のお小遣いに匹敵するのです。逆をいえば一日分でしかないのです。  一日分、いちにちぶん…。う~ん。ぉおっ、じゅうじゅうとこれまたイイ音がしています。  豚肉のお焦げの臭いがメイジさんの食欲を…。  ううっ、メイジさんは攪乱などにはひっかかりません。  未熟な己を律して、なんとかふりきることに成功します…。正面玄関に足を踏み入れると、  一階にあるガッコウのマップを凝視して、「生徒会室」という文字列を探しました。  どうやら三階にメイジさんのターゲットが潜んでいるようです。  生徒会室のプレートを目視で確認しました。あそこにユカリさんがいるはずです。  現状把握を行うために、廊下の天井に昇って内部を視認します。小窓からモロみえなのです…。  むむっ。ユカリさんは一人っきりじゃありません。なんだか小娘と話をしています。  「ゆかり先輩、今日はゆっくり見て回ったらどうですか?   あと、後片付けは私たちだけで大丈夫ですから、気にしないでくださいよ」  「んー。もう少しここに居るよ」  「受験を控える身なのに、手伝ってもらった上に後始末まで押しつける訳にはいきませんよー。   すこし気分転換しに、私と一緒に回ってみませんか?」  なにやら親しげです。仲良しさんです。ユカリさんがメイジさんの知らない顔をしています。  大人っぽいです。なんかお家にいるときとは雰囲気が全然違うのです。凄く落ち着いてます。  それにメガネっ子です。お家では、ユカリさんはメガネをかけたことはありません。  メガネっ子は、メイジさんの中ではリョウコさんだけなのです…。  チョンマゲヘアーの娘っ子が、子猫のような表情でユカリさんに話しかけています。  「先輩なんか飲みます? お茶? それとも紅茶ですか?」  「ううん、あたしがやるから、座ってて」  マゲっ子がそそっかしい感じでパタパタと椅子に座りました。嬉しそうです。でもそわそわしてます。  ユカリさんが小さなコップを手に取って、紅茶を炒れ始めました。ポットからお湯を注いでいます。  コップは二つです。ううん? 二つということは…。  ああっ、あの小娘ときたら! 私のユカリさんを勝手にこき使っているのです! 許せません!  ユカリさんはメイジさんの女なのです。髪の毛一本、笑顔一ピコグラムとて譲るわけにはいきませんよっ!  メイジさんの大切な人を顎で使った上に指図するなどと!  小娘。それ相応の報いをくれてやるです。死して屍拾う者なしです。泣いて謝っても許してあげません。  地獄の責め苦を受けるがよいです。ヒーヒー言わせてやるです。ジェノサイドしてあげちゃうのです。  んんっ?「きゃーきゃー」「やいのやいの」さっきから後ろが騒がしいのです。  静かにしてくださいよう。バレてしまうのです。  「あーっ、アレ見てよアレ」  「ちょっ、あんな所に登って…。しかも、かぼちゃぱんつ豪快に丸見えじゃない」  っく、ジョシコーセーに見破られてしまったようです。まさか看破されるとは。  メイジさんの擬態もまだまだのようなのです。気配は完全に殺していた筈なのですが。  捕まると怒られてしまうかも知れないので、逃亡の一手に限ります。  そのまま、開いている窓に身を躍らせるメイジさんなのです。  「えっ、ここ二階…」  地面に着地して顔を上げると、ジョシコーセーたちが窓から身を乗り出して、こっちを見ているのです。  いい人っぽいです。心配そうな顔をしています。  「ねーーーっ。だいじょうぶなのーー?」  『ダイジョーブーぅ』  とりあえず両手を振って無事をアピールしておきます。  人を呼ばれたりしたら、任務遂行の妨げになるおそれがあります。  ジョシコーセーが二階できゃいきゃい騒いでいますが、身を隠すように人混みに紛れます。  ふう。これで一難去りました。しかし早くユカリさんを奪い返さなければ…。  再び生徒会室に向かおうかと考えましたが、今すぐ戻ったところでチョンマゲ娘が邪魔なのです。  少し時間をおこうと思いました。メイジさんは屋台をぬうように歩いて、時間をつぶすことにします。  「焼き鳥ー、焼き鳥おいしいよー。今ならタイムサービスで正肉半額だよー」  「タコ焼きいかがーっ。たまにタコがふたつ入ってるかもよー。無いときは許してー」  ううぅ、良いにおいです。たいそうよろしいにおいです。真っ直ぐ歩くことが難しいです。  ついジグザク歩行を敢行してしまいます。軒並み気になるのです。見るだけです、見るだけ…。  わっ、おなかがぐーっと鳴ってしまったのです。恥辱の極み!  羞恥でお顔が真っ赤なのです。ここに居てはいけません。メイジさんの品格が下落傾向にあるのです。  とりあえず、あそこのベンチにおすましして座ることにします。  「わわっ、外人! 外人の子供! 顔チッコーイ。カワイー」  「迷子? もし暇ならお姉ちゃんが案内したげよっか?」  ? 座るが早いか、ジョシコーセーが集団でなにか話しかけてきました。  何を言っているのかよくわかりませんが、どうやら好意的なようです。  「ねーねーコレ食べる?」  「羊羹は無理なんじゃあ…」  「クッキーはどうだろう?」  「うん、きっとダイジョブなんじゃない?」  ?? なにやら空腹のメイジさんに向けてお菓子を差し出しています。  ジョシコーセー・ストリート・チルドレンなのでしょうか?  勝手に車の窓を拭いたり靴を磨いたりして小銭を稼ぐような。  お金はそんなに持ってきてません、他をあたって欲しいのですが…。  「目ん玉くりんくりんしてるー」  「おほっ、たまんねーっ。コレあたしの子供ーっ」  「クッキー見るけど食べないね。チョコあげてみよう」  ??? いたる所から手が伸びてきました。メイジさんを幻惑する、ほのかな甘味のにおい。  そっとしておいて欲しいのです。お代金払えませんよう。  メイジさんはまたもや逃げることにしました。  「ぉわ、飛んだ…。つーか頭の上飛び越されちゃった」  「ねぇ、ギフトだよギフトーっ。プレゼントー」  ジョシコーセーのバイタリティは侮れません。追っかけてくる子もいます。  とにかく、とにかく振り切らねば。メイジさんは外壁を跳躍していったん校舎の外に出ます。  …ほとぼりが冷めるのを待ってから、メイジさんは目をつけていた焼きそば屋に向かいました。  二百円を差し出すと「毎度!」という威勢の良い声と共に、焼きそばが手渡されます。  夢にまで見た逸品がメイジさんのものになっちゃいました。  誰にも邪魔されないように、近くにあった木に登って堪能することにします。  手にしたそれは、意外にも陳腐なものでしかありませんでした。  不揃いに刻まれたキャベツ。不格好に切り分けられた豚肉。まばらな味付け。  どれもこれも手作り感が漂います。とてもじゃないけど良い仕事とは言えないと思うんです。  なのに、焼きそばはとってもおいしいのです。なぜだかわかりません。不思議なのです…。  メイジさんは、木の上で考え込んでしまいました。  ハッ。メイジさんはこんなことをしに来たんじゃありません。  焼きそばに満足してしまい、本来の目的を忘れてしまうとは! 不覚の極みなのです。  ユカリさんを振り向かせないといけないのでした。夜な夜なメイジさんの肉の虜にしなければ。   ちなみに意味はわかりません。このまえユキさんが力説していたのです。  メイジさんは、もう一度生徒会室に向かいました。  生徒会室の前は、先程とは違って人気があまりありません。チャンスなのでしょうか?  ウイスキー・ポイント(さっきの天井)から覗き込んで、中の様子をうかがうことにします。  生徒会室にはユカリさん一人しか見あたりません。  GO!GO!GO!の予感がします。今度こそメイジさんに溺れさせてやるです。  メイジさんは扉を開けて、中にはいることにしました。  ユカリさんは、部屋のソファーで横になっていました。  チョンマゲ娘がやってくれたのか、一枚の毛布がかけられています。   ユカリさんの規則正しい寝息が、メイジさんの耳に聞こえてきました。  疲れているのでしょうか、メイジさんがソファーに座っても全然起きる気配がありません。  メイジさんは、ユカリさんの毛布に潜り込みました。  ユカリさんのほのかな体温が、メイジさんにも伝わってきます…。  さっきメイジさんは、とっても悲しかったんです。  メイジさんは、自分の総てをユカリさんに見せています。身も心も丸裸です。無防備なのです。  それなのに、ユカリさんはメイジさんの知らない一面を持っているのです。そんなの不公平です…。  できるだけ体がくっつくように、メイジさんはユカリさんに体をすり寄せました。  ユカリさんの心臓の音が聞こえてきます。メイジさんは、なんだかとっても安らいだ気分になりました。  日陰のソファーはとてもいい気分でした。  時折、開いた窓から乾いた風が入ってきて、メイジさんの顔をくすぐっていきます。  ぐっすりと眠り込んだ二人が気がついたのは、夕刻も過ぎて日が沈んだ頃でした。  ◇褒賞?◇  メイジさんたちは、お家に帰ってきました。  久々にユカリさんがご来訪なのです。メイジさんはご機嫌なのです。  それなのに、玄関を開けると電気がついていませんでした。お部屋が真っ暗です。  ユキさんとリョウコさんはどこかに遊びに行ってしまったのでしょうか?  不安になったメイジさんは、急いで電気のスイッチに手を伸ばしました。  ぱあっとあたりが明るくなります。蛍光灯の光が、テーブルの上のおいしそうな料理を照らしました。  料理の真ん中には、ホールケーキが置いてありました。Happy birthday yukari と書かれています。  それと、箱が四つ置いてありました。どうして四つなのか解りません。二つでいいと思うんですけど…。  ユカリさんを驚かせるつもりだったのでしょうか?  それにしてもユキさんとリョウコさんは意地悪です。メイジさんに教えてくれてもいいようなものです。  ひとこと苦言を呈したい気分です。メイジさんだって、ユカリさんにプレゼントあげたいのです。  憤怒やるかたないのです。秘密主義反対なのです。  ユカリさんと一緒に、メイジさんはふたりを探します。  どこかに隠れてるんじゃないかと勘ぐったんですが、それは間違っていました。  二人は居間のソファーの上で、仲良く折り重なって眠っていました。  メイジさんたちがお寝坊して遅れたので、予想外に待たされたのでしょうか?  リョウコさんがおぱんつ剥き出しで寝ています。相変わらず破廉恥なお人です。   こちらに突き出ているリョウコさんのおしりには、「正」という文字が何個か書かれていました。  おまたには「↑IN」とも書かれています。どういうおまじないでしょう?  それとも、ユキさんのイタズラなのでしょうか。本当にそういうことが好きな人たちです。  ユカリさんはそれを見ると、くすくすと笑い出しました。  メイジさんもなんだか楽しくなってきて、ふたりを今すぐに起こすことにしました。  久しぶりに四人揃ったんです、この時間を無駄にするのはもったいないんです。  きっとふたりが起きれば、笑顔も楽しさも何倍にも増えるのです。  ◇記憶◇  ──かつて私は多くを殺しました。組織の為に、家族の為に、生きていく為に。  しかし、もう私はカゴの中の鳥ではありません。今までの飼い主を失ったためです。  ──いつの日か、私は全ての罰をこの身に受けるでしょう。惨めな死を迎える覚悟はできています。  でも、そのまえに恩返しがしたい。はやく自立した女性になりたいと考えています。  ──今は毎日がとっても楽しいです。