「見る?」  メイジは抑揚のない声でトシアキに問うと、スカートの裾を摘み上げた。 「……見ない」 「少し悩んだ」 「……悩んでない」  嘘だった。  悩みはしたが、人として正常な反応と対応だったはずである。 「トシアキのエッチ」  言葉と共に無表情なジト眼の視線が胸に刺さる。 「う、うるさい! 気にならない方がどうかしてる!」 「変態」 「自分から見せようとする方がよほど変態だろうが! それに俺はちゃんと断った!」 「騒ぐと近所迷惑」 (このガキャ……) *******************************************************************  子供相手に何をと思う反面、年齢に不相応で静かな佇まいが何故か癇に障る。  トシアキが徐々に込み上げてくる怒りを必死に抑えようとしていると、メイジは突然、 鈍い音と共に机に額を打ち付けた。 「メイジ?」  呼び掛けるがメイジは微動だにしない。  不安になり、隣へ移動して確認すると、微かな寝息を立てていた。 (びっくりさせんなよ……)  安堵に思わず溜息が漏れる。  長旅で疲れていたのだろう。  メイジを布団に運ぶため、背と膝裏に手を差し込んで抱え上げた。  腕に掛かる負荷は想像以上に小さいものだった。  余りの軽さに先に消えた不安が蘇る。  このまま腕の中で消えてしまいそうな気さえした。 *******************************************************************  振動を与えぬように気を配りながら布団に寝かせ、毛布を掛けてやる。  完全に寝入っているようで、起きる気配は微塵も感じられなかった。  この少女――のように見える子供――の身に何があったのか。  クローンの出来損ない。  メイジは自分のことをそう言ったが、その言葉はトシアキの理解の範疇を超えていた。  メイジの身体と合わせて考えれば、想像できなくはない。  ただ、言葉の意味以上に、何故自分がこのような状況に置かれているのかが理解できなかった。  これからどうすればいいのだろうか。  いくら考えても答えは出るはずもなかった。  机上に目を遣れば、四畳半の和室に不似合いな非日常が変わらずに転がっている。  何となく、メイジの額に掛かる髪を掻き揚げてやると、不意に唇が動いた。  寝言を言ったらしい。  しかし、トシアキの耳にその言葉は届かなかった。