「ノブは苦労人で使用人(聖なる夜に)」 ――ピンポーン いつも通りだが、呼び鈴を鳴らしても出る気配はない。 しかし、TVの音がかすかに聞こえ、在宅の可能性を示していた。 こちらもいつも通りに、合い鍵を使う。 「お邪魔します」 挨拶に返事がないのは寂しいものだ。 「頼まれてたケーキも買ってきましたよ。冷蔵庫に入れておきますね」 がらんどうな冷蔵庫に食材を詰め込む。買い物行ってないのかな。 頼られるのは嬉しいが、少しは自立というものを考えて欲しかった。 「ノブゥぅぅ」 メイジが半泣きで出てくる。 泣くほどひもじいなら、買出しに行けばいいのに。 「どじあぎがぁぁ」 としあき?放っておけばいいだろ。 *** どうもメイジの様子からは、そうも言ってられない状況のようだ。 袖を引っ張られ仕方なく様子を窺う。としあきはベッドで寝込んでいた。 また何か拾い食いでもしたのだろうか。 それとも、妙なオナニーでもしてヤバい菌でも貰ったのか。 「あ゛ー、悪りぃ、来てたのか。ちょっとノドやられちまって」 どうやら風邪のようだ。鼻水と咳が止まらないようだ。 これは献立の変更を考えねば。 「メイジが昨日から何も食ってないんだ。何かすぐに出してやってくれないか」 驚いた。自分より先にメイジの心配をするとは……。 「わかりました。あなたには何か消化にいいものを作りますね」 パパッと調理する。  メイジはすでにヨーグルトを2個ほど空けていた。 今日は、ずいぶんと質素なクリスマスになりそうだ。 「いいんです。としあきが治ってくれれば……それでいいんです」 自分に言い聞かせているメイジに、言いようのない感慨を覚えた。 *** 睡眠不足もあったんだろう。食事を終えたメイジは完全に夢の国だ。布団を持ってきて敷いてやる。 としあきのほうも食べ終わったようだし、食器を片付けてお暇しよう。 「うまかったよ、ありがとうな」 普段言われない礼を真正面から言われ少し照れてしまう。 デザートのりんごヨーグルトも完食で、これだけ食べられれば治りも早いだろう。 「ちょっと、頼んでいいか?クロゼットにカバーのかかったハンガーがあるんだが……」 としあきのスーツがかかっているはずのハンガー。しかし、中から出てきたのは女の子用のコートだ。 ごほごほと咳き込みながら体を起こす。 「メイジが寝たら、ソレを枕元にでも置いといてくれないか」 ここでイヤだと言うような神経は持ち合わせていない。 「それから……」 手渡された包みにはキーケースが。 「趣味に合うかわからないけど、キーホルダーって歳でもないだろ」 メリークリスマス。帰り道、街の灯りが滲んで見えた。