スーパーのたまごコーナーで、6個パックと10個パックを前に苦悩するとしあき。 卵はあれば便利だけれど傷みやすいので、タイムサービスで安くても10個は多い… 「としあき、これ茶色と白で味チガウ?」 ばら売りの卵を突付きながらメイジが聞いた。 「…そんな事無いと思うけど…どうなんだろう」 夕飯に卵焼き作って、明日の朝に俺2個メイジ1個で、3個食って…夜に味噌汁に入れて…、 「6個で足りるかな…」 そう言いながらとしあきは6個パックをかごに入れる。 「後は朝飯の牛乳な」 「オイシイの牛乳?」 「うん」 「ヨーグルトは!?ヨーグルトも買っていい!?」 「あぁ、うん」 「明○ブルガリアオイシイヨーグルト♪」 「お前それ好きだな。でもオイシイは付かないぞ」 ********************************************************** 「家のヨーグルトも美味しかったですけど、このヨーグルトも大好きです!」 そう言いながら、500gの青と白のパッケージをよいしょと両手に1つづつ取る。 「待て待て待て、2つもいるか?いらないだろ」 「だって1つじゃ足りないですよ!」 「えーい、1日どんだけ食うつもりだ。ヨーグルトばっかりに金かける訳にゃいかんだろ…」 と、さっさと1つを棚に戻しながらとしあきが文句を言う。 メイジは不満そうに口を尖らせたが、としあきの言葉を聞いてしょんぼりと肩を落とした。 「我慢します、1日500gでいいです、としあきは貧乏なのでしょうがないです」 それでも1日1箱食うんだ!と思いながら、としあきはやれやれと、隣の棚から牛乳をとってかごに入れる。 「こういう、小さいのじゃいけないのか?」 としあきはカラフルなパッケージのフルーツ入りヨーグルトを手にとりながら言う。 「それは量が少ないからダメです!メイジはフルーツごときじゃ騙されませんよ!」 フルーツ入りヨーグルトに何か恨みでもあるんだろうか…苦笑しながらとしあきはヨーグルトを棚に戻した。 ******************************************************************* 毎日毎日スーパーに来ている気がする。 と、としあきは自動ドアの前に立って、何とはなしに考える。 以前は1日2食、いいレベルの食事でコンビニ弁当というありさまだったが、最近はしっかりと3 食自炊している。 1人暮らしだと自炊の方が高くつくことも多かったが、 今はメイジと2人分、適度に節約しながら用意出来る様になった。 「としあき、カゴ」 としあきのシャツの裾を掴んで、メイジが入り口のカゴの山を指す。 カゴを掴みながらとしあきは、入り口の野菜コーナーを見た。夏場はやはり葉物が高い。 「やっぱ高いなぁ」 「…としあきは、ヨーグルト1日に2つ買えないくらい貧乏だから」 「うん。…っていうか、まだ昨日の事、根に持ってるのか」 「根にもってないです。事実です」 目線を逸らしながらメイジが言った。 ******************************************************************* 「今日は、何にするかな」 「雄三さんに聞くべきでしたね」 「ゆうぞうって誰…?」 「としあきが毎日見てるテレビの人です」 「ってグッチかよ!」 「あっ」 メイジがとしあきのシャツの裾を強く引っ張る。 としあきが乞われてそちらを見ると、小さい子供が泣きながら母親を探していた。 「としあき…」 メイジに向かって判ったと言うように頷いて、としあきは子供に近付いた。 「どうした~?ママ探してるのか」 「うん、ママぁ」 ぐずる子供の手を取って、としあきは周りを見渡す。 「大丈夫だよ。ママすぐ見つかるから」 メイジはそう言うと、いつもとしあきがしてくれるように子供の頭をゆっくりと撫でた。 ********************************************************************* としあきが、店員に声を掛けて迷子の事を話すと、すぐに店内放送が流れる。 いくらも立たないうちに、慌てふためいた若い女性がやってきた。それ見て、子供はそれまで握っていたメイジの手を振 りきるように離して、女性に駆け寄る。 メイジは、空っぽになった自分の手を一瞬すごく残念そうに眺めた。 泣きながら抱きつく子供を、しっかりと抱き上げながら母親は何度もとしあきとメイジに礼を言い頭を下げた。ちょっと目を離した隙に、 どこかに走り出してしまい、丁度探していたところだったらしい。 「ばいば~い、お姉ちゃん」 手を振って母親と一緒に帰っていく子供を見ながら、メイジは嬉しそうに笑う。 「お姉ちゃんだって、わたしの事」 「そりゃ、よかったな」 そう言って、としあきはメイジの頭を撫でた。 「今日はメイジの食べたいものを作ってやろう」 「じゃぁ、ヨーグルト!」 「待て、それ夕飯じゃねーだろう」 と、としあきは思わず今まで撫でていた手で、メイジの頭に突っ込みを入れた。 ----------------------------------------------------- 「メイジがうちに来てからもうひと月かぁ」 としあきはそう言いながら、パソコンディスクの前で伸びをした。 床にしゃがみ込んで、テレビを見ながらチラシの裏に落書きをしていたメイジが、その背中を見る。 「もうそんな経った?」 「そんな経った。そうだなぁ」 肩をゴキゴキならしながら、としあきは椅子をぐるりと回すと、床に座るメイジを見た。 「何か食べたいものあるか?メイジ」 メイジはしばらく神妙な顔で悩んだあと、テレビのリモコンを手に取った。 「雄三さんにお伺いを立てます」 「今日はグッチじゃないよ、和食の先生」 そうとしあきが言うと、メイジは衝撃を受けたように眉根を寄せて吐き捨てるように呟いた。 「この肝心な時に…ッ!雄三はメイジを裏切った!」 リモコンをテレビに向けたまま文句を言うメイジを見ながら、としあきは大笑いした。 ----------------------------------------------------- 「メイジ、手伝ってくれるって言うのは嬉しいけど、なんだその格好」 としあきがそう声をかけると、メイジは、何を言ってるんですか?とでも言いたげな少し蔑んだような目線で言った。 「料理するための準備デスヨ」 「…なんで、裸エプロン…」 メイジは脱いだ衣服を丁寧に畳み、下着まで外した体に荒いさらしのエプロンをつける。 「料理の時はエプロンをする、ジョーシキ」 「いや、だから…なんで素肌に…あ!雄三が言ったのか!?」 ますます蔑むような目線。 「違いマス、としあきの持ってる本に書いてアッタ」 「え?」 「エプロンときたら裸ッ!!って」 と言いながら、髪をまとめてポニーテールにするメイジ。 「えーと…いや、料理の時は…危ないと思うよ…裸は」 「でも本に書いてアッタのにー」 「あれ…料理の本じゃないじゃん…」 (イラストまとめ2の上から四段目、左端も)