「メイジ、手伝ってくれるって言うのは嬉しいけど、なんだその格好」 としあきがそう声をかけると、メイジは、何を言ってるんですか?とでも言いたげな少し蔑んだような目線で言った。 「料理するための準備デスヨ」 「…なんで、裸エプロン…」 メイジは脱いだ衣服を丁寧に畳み、下着まで外した体に荒いさらしのエプロンをつける。 「料理の時はエプロンをする、ジョーシキ」 「いや、だから…なんで素肌に…あ!雄三が言ったのか!?」 ますます蔑むような目線。 「違いマス、としあきの持ってる本に書いてアッタ」 「え?」 「エプロンときたら裸ッ!!って」 と言いながら、髪をまとめてポニーテールにするメイジ。 「えーと…いや、料理の時は…危ないと思うよ…裸は」 「でも本に書いてアッタのにー」 「あれ…料理の本じゃないじゃん…」 (イラストまとめ2の上から四段目、左端も) ----------------------------------------------------------- 「トシアキ、これに決めました」 「お、決まった?処で君、お米食べれ…っ!?て、そんなに食べるのか…?」 両手一杯にカップのヨーグルトをもって来て、小さいカゴにどちゃどちゃと入れた。 「待て待て、そんなに食えるのか?」 「全部一人で食べないです、トシアキの分もあるです」 それにしても多いんじゃないか、と思ったが、店員さんが見ている…。ココでうるさく言うと男が廃る…ような気 がする。たぶん。 「俺の分もか、ありがとよ」 ふふふ、と嬉しそうに笑ってから彼女は俺の横に立ってメニューを眺める。 「コレはナンですか?」 「それはカツ丼」 「カツドン?…こっちは?」 「それはカレーライス」 細くて白い指で、メニューの写真に触れながら、一つ一つ、こちらに聞いてくる。 首を傾げ長い金髪を揺らす、その仕草が可愛らしい。 ---------------------------------------------------------------- 「彼…ライス?…日本人は変なモノを食べます…」 「いや、待て待て、何を想像した」 俺は眉根を寄せて唸る少女に思わず突っ込みを入れた。 「あ、トシアキ、パスタがあります。私コレにします」 俺の突っ込みは超スルーして、彼女はOLさんがランチにでも食いそうな、小ぶりなカルボナーラを指差すと貼られた写真 をグッ!と押した。そしてしゃがみ込んで、メニューの張られた台の下の方を覗き込む。 …何してるんだろう? 「トシアキ、コレ、壊れてる…」 しゃがみ込んだまま、残念と不思議が半分づつ混ざった顔で俺を見上げてきた。 「壊れてるって…?」 俺はカゴを床におくと、目線を合わせるようにしゃがみ込んでついで台の下を覗き込んだ。 「下からパスタが出てきません…」 覗き込んでいる俺の後ろから、残念そうに彼女が言った。 「…道で見た機械はボタンを押したら下から出て来てたのに…」 -------------------------------------------------------------- そう言えばくる途中、自販機をきらきらした目で見てたな…。 しょうがないなぁ。俺は苦笑して、彼女の頭をちょいと撫でた。 不思議そうに、撫でられた所為でふわふわと浮いた金髪を両手で抑える。 「残念だけど、これは自販機に似てるが自販機じゃない」 「ジハンキ?道の機械はジハンキというのですか?」 「そう、アレは店員さんの代わりに機械が自動で物を売ってくれる」 俺は、彼女の両脇に手を差し込んで、自分が立ち上がると同時に彼女を立たせた。 「けど、この店…コンビニには店員さんが居るだろ?だから…その写真の横の…札をあのお姉さんに渡しなさい」 そう言ってレジに入った店員さんを指差す。 「…これ?」 メニューの下にある札をとって、不思議そうに差し出す。 「俺じゃなくって、店員のお姉さんにな」 ------------------------------------------------------------- 「ハイ、判りました、トシアキ」 トトッとレジ台に近付くと、札を持って期待に満ちた目で店員さんを見る少女。 札を受け取ってそれとなくこちらを窺った店員さんにうなづいてから、俺は床に置いたカゴをレジ台に乗せた。 「これもお願いします、あ、それとこれも!」 思い出したように、メニューからカレーの札を取って店員さんに渡す。 あ、しまった。とっさに取ったからまたカレーだ…、まぁ良いか。好きだし。 「はい、ありがとうございます。少々お時間頂きますがよろしいでしょうか?」 にこやかな笑顔と共に言われて、思わずにやけながら答える。 「おおおおねがいします」 どもっちまった、俺マジへんな奴じゃん…。 「トシアキ、これ…あけても良いですか?」 店員さんからレジを通した食玩を受け取った彼女は、興奮気味に尋ねてきた。 「ちょいまて、そう言うのは店の外に出てからあけるもんだ」 「は、ハイ…」 俺が制止すると、少しの躊躇のあと、彼女はそのおもちゃの小さな箱をギュッと胸元で抱きしめた。 ---------------------------------------------------------------- 数分後。 俺と少女はコンビニの斜め向かいにあるコインランドリーに居た。他に客は居ない。 洗い物を突っ込まれた洗濯機が、ゴウンゴウンと、低い音を立てている。 待合用の長机に買ってきたモノを並べると、俺たちはかなり遅い夕食…いや、早めの朝食というべきか、を取り始 めた。 カルボナーラのソースをほっぺたにまで飛ばしながら、プラスチックのフォークを振るう彼女は随分と幼く見える。 「美味いか?」 俺がそう聞くと、ちゅるんとパスタをすすり上げて、大きく頷いた。 「美味しいです…」 手前のカレーをかき混ぜながら、しみじみ…と言うに相応しく語る彼女の声に耳を傾ける。 「ここは…この…国、は、すごい所です。夜でもとても明るいし、ほんのちょっと待つだけで、 こんな温かくて美味しいものが食べられる。…すごいです」 --------------------------------------------------------- 彼女は、机の上に置かれた小さなくまのぬいぐるみをそっと手に取る。椅子に座って一番最初にあけた食玩のおまけだ。 嬉しそうに、くまの頭を指先でなでる。手のうちにおさまるような簡単な縫製の小さなぬいぐるみだが、その仕草がとても嬉しそうで、 俺まで嬉しくなった。 頬についたソースを親指で拭ってやると、彼女は微笑んで言った。 「トシアキの処に来れてよかった…あ、ありがとう」 「いや…あぁ、うん」 歯切れが悪くなった。締まらない男だな、俺。 俺の答えに気を良くしたのか悪くなったのかは判らないが、暫く無言のまま懸命にパスタを頬張っていた。 俺がかき込むようにカレーを食い終わると同時に、彼女は小さなプラスチックのスプーンを一つ、俺に差し出した。 ---------------------------------------------------------------- 正直起き抜けにカレーというのは些か胃に重かったわけで、もう一杯一杯ですと思っては居たのだが、嬉しそうにス プーンとヨーグルトを差し出す無邪気な仕草に負けて、一番小さいヨーグルトを手にとった。 「あ、あのさぁ」 俺が声をかけると、不思議そうに顔を上げる。あぁ、今度はほっぺにヨーグルトついてんぞ。 「替えのパンツを買ったので、あとではいて下さい。今洗ってるので」 「判った、トシアキ」 「うん」 会話が途切れたところで丁度洗濯機が止まったので、乾燥機のほうへと移す為に席を立つ。今時洗濯機と乾燥機が別々 って言うのもアレだが、料金は安いので重宝している。 ガコッと、開けたら先客の衣類が入ったままだった。 「やべ」 ネットに入ったブラがすこし見えて、口笛を吹きながら俺はその隣の乾燥機を使う事にした。 ---------------------------------------------------------------------------------- ---------------------------------------------------------------------------------- 赤茶けたポサポサのショートカットにカラフルな色のみつあみ。 まんまると開かれた紫色の瞳。 「…フタバ…トシアキ…さん?ですか」 「えーと、君が、ブルガリスさん…?」 「ハイ…め、メイジ・ブルガリスです…よろしくお願いします!」 頭に乗ったワッカ状の帽子?飾り?をずり落としそうになりながら少女は頭を下げた。 10歳を過ぎたくらいにしか見えないので最初こそ面食らったが、トシアキはドアを大きく開いて彼女を迎え入れた。 「あ、靴はそこで脱いでね。荷物はそれだけ?」 「いえ、後で、もう少し届く、と思います…」 少女は靴を脱ぎながら帽子?を取る。そこだけ染めているのかと思ったみつあみは、帽子の飾りだったようでワッ カの端で揺れている。 黒いフード付きのコートを脱ぐと、鮮やかな糸で織られた不思議な光沢の民族衣装のような服を着ていた。 ********************************************************************** 海外赴任中の両親から、「親戚の子を預かるからちゃんと面倒見てやって」などという荒唐無稽な電話が掛かってきたのは数日前 。元々無理と無茶と無謀が幸せな結婚をした結果のような両親だが、いくらなんでも高校生の息子の処に親戚とはいえ初対面の少女を預 けるとは何事か…と思わなくもないが、外国とかぜってーヤだし!と意地をはりまくって1人日本に残った身の上だ。 トシアキは、もし俺が間違いを起こしたらあいつらの所為だ、と思いつつ渋々と承諾した。 彼女をリビングに通してソファに腰掛けるようにすすめる。冷蔵庫の中から、学校帰りに買ってきたケーキを出す。 「コーヒー飲む?ってもインスタントだけど」 「あ、はい。ありがとうございます」 大人しい雰囲気の少女だ。年齢のわりに少しおどおどしすぎかもしれない。親戚っていっても初対面だし他人も同然 だからしょうがないのだろうか、とトシアキは思いながら、コーヒーとケーキを盆に載せて彼女の元まで運ぶ。 ****************************************************************** 「遠くから大変だったでしょ」 ブルガリアだかなんだか、確かヨーロッパ?いや中東だったっけ?地理が知りたいならググればよくね?とか思っているト シアキにしてみたら、なんかそこら辺という認識しかないくらい遠方から一人旅してきたであろう少女は、コーヒ ーを一口のむと、ホッと一息ついた。 「あぁ、砂糖、いる?ミルクも」 「あ、はい。ありがとうございます」 「うちの親父もお袋もいないのに、ゴメンね。不都合も多いかもしれないけど、問題があったらいくらでも言って下さい。 遠慮とかいらないから、俺の事兄貴だとでもおもってさ」 トシアキがそう言いながら砂糖入れを渡すと、メイジは嬉しそうに山盛り3倍の砂糖を入れた。 「…お兄さん…ステキ、嬉しいです」 「それ食べたら、部屋に案内するよ。俺が片したからイマイチだけど、荷物とか好きに入れていいからさ」 *********************************************************************** 「じゃぁ、この部屋使って…」 「ハイ、今日はありがとうございました」 そういうと、メイジは深々と頭を下げた。 「明日からよろしくお願いします」 「ハイ、よろしくお願いします」 礼をうけてトシアキが返すと、メイジは微笑みながらゆっくりとドアを閉めた。 「…あ」 キッチンに下げただけの皿とカップを洗ってしまおうと、トントンと階下へと降りながらトシアキは思い出した。 「いつまでいるのか聞いてねぇや…まぁいいか、明日で」 ここ1年ほどの自炊ですっかり身についた家事能力で、てきぱきとキッチンを片付けながら、まず親に連絡して聞いてみようと思い直す。 来たばかりの彼女に、さっそく帰る日のことを聞くのも、邪魔者扱いしているようではないか。 両親に連絡するのも面倒だが仕方ない。 それにしても、と思い直す。 突如異国の美少女が一人暮らしの家に転がり込むというのは、まるでラノベか少年漫画。 「…漫画みてぇじゃん、俺…ウヒ」 思わず顔がにやける、しかも変な笑い声まででる。 どうしょうもない男ではあるが弐場駿明一応このシリーズの主人公である。多分。 ************************************************ 朝、目が覚めると天井にレースが見えた。 トシアキは、寝起きの働かない頭で、夢を見ているんだと思った。いい匂いがする。 「む、この部屋はここで終わりか?狭すぎではないのか」 「しょうがありませんわ、姫様」 「狭すぎるっ!狭すぎるぞっ!!」 誰かが何かを叫んでいる…。コレは夢…コレは夢だ…。 「む、なんか踏んだぞ」 「あぁ、姫様、それは駿明様ですわ」 「なんだ、下郎か。わらわの足は汚れてはおらんだろうな」 「ご無事のようですわ、姫様」 「おぉ、なにやら柔らかくて踏み心地が良いぞ、イチ」 ぷにゅぷみゅぷにゅみゅ。 誰かが俺の、俺のチンポを踏んでいる…踏んで… 「ふ、ふまないで…いや…ふって何事かー!?」 驚いて飛び起きると、目の前にはでかい何か…白い壁のようなモノが立ち塞がっていた。 *************************************************** 「ノぁぁー!!!(ココんところ4倍角)なんじゃコリャー!」 トシアキの心の底からの絶叫は、可憐な声にかき消された。 「黙れ下郎、わらわの耳を汚す気か」 さっきまでトシアキの上にいた何かが、さっと身を翻して壁の上に立った。 それは…確かに昨日の少女であった。 が、何処となくおどおどしたような表情は消え、輝くような傲慢不遜な笑みがその顔には浮かんでいた。 「…メイジ…さん?」 「テイッ!」 吃驚しながらトシアキが聞くと、彼女は手に持っていた扇をトシアキの額目掛けて打ちつけた。 「貴様にその名を呼ぶ権利を与えた覚えはない。ブルガリス様と呼べ…!」 「な…ッ!?」 「わらわこそは、大銀河帝国ブルガリス皇家第一皇位継承者メイジ=ブルガリス・ブルガリスなるぞ!!」 偉そうに笑う少女の側には、キワドイ格好の金髪美女が1人。 美女は空いてしまった少女の手に恭しくもすかさず新しい扇を差し出す。 「ごもっともでございます」 「え?お、いや?なんじゃコリャぁぁー!!」 ****************************************************** ジーパン刑事並みの絶叫をしながら、うろたえるトシアキ。 「それにしても、下賎の輩は早起きだと聞くが、トシアキはそうでもないのぅ。下賎以下か」 さらっとさり気無い口調でえらい酷い事を言っている。 「まぁよい。ここは手狭すぎる。部屋を用意せい。一番小さなベッドすら入らぬではないか」 「コレ、ベッドかよっ!?」 言われてよくよく見返せば、なるほど。2メートルくらいの壁の上部はレースに包まれた寝具っぽいものが見えるし、 はるか頭上の天井だと思った所は、天蓋の様で、所謂お姫様ベッドを想像できる。…2メートル? 「ギャ!屋根が無くなってるッ!!」 ちなみに言えば、トシアキの部屋の廊下側の壁と昨日メイジを案内した向かいの部屋の壁もなくなっていた。 「いちいち煩い、狭い方が悪いのだ」 ぷぃと横を向くと、少女…ブルガリスはレースをふんだんに使った七色に輝く生地で出来たネグリジェ?のまま、 壁の端に腰掛けた。 そのネグリジェはよく見ると、首元がリボンで止められているだけのワンピースで下半身が丸だし。有体に言えばチンコ丸だし。 ******************************************************** 「む、なんであるか。はっきりと申せ」 思わぬ光景に目を白黒させるトシアキに、少しだけ眉根を寄せると、ブルガリスは言った。 「銀河帝国ってなんだよ!うちの天井と壁どうするんだよ!て言うかベッドでけぇよ!俺んちはどうせせまいよって言うか、チンコついてるってどういうことだよぉー!!!!」 一気にまくし立てると肩でぜいぜいと息をしながら、一息入れる。 何より最後の言葉が今のトシアキの残念を表していた。 弐場駿明、16歳。チンコ見て「わぁい」とか言えないお年頃。 ちなみに彼女居ない歴=年齢である。 「女の子だと思ったのに!女の子だと思ったのにぃ!」 地団太を踏みながら続けるトシアキを見て、ブルガリスは呆れながらも再び立ち上がった。 「ほれ、よう見やれ」 ブルガリスがネグリジェの裾を掴んだまま大開脚。 何故か入ってくる朝陽に照らされて、その幼い身体が七色に煌めく。 チンコの後ろには、ささやかなスリットが見える…いわゆる所の女体の神秘。 弐場駿明、高2。喜び勇んで 「むしろご褒美です」 とかまだまだ言えないお年頃。 もちろん童貞。起き抜けに3度目の絶叫である。 「なんじゃソリャぁぁぁー!!!」 ************************************************* 「姫様、お戯れはそのあたりでよろしいかと」 今まで佇むだけであった美女が、横から声をかけた。 「イチか…戯れてなどおらぬ、この下郎に銀河の至宝と言われるわらわの完璧の美を見せているだけだ」 「お言葉ですが姫様。皇帝陛下とのお約束をお忘れではございませんか?」 「む、そうであった。トシアキの言う事は聞かねばな」 「な、なんなんだよ、一体…。銀河帝国って…ふたなり宇宙人って…?」 余りの急展開にくらくらする頭をおさえながら、それでもトシアキは事態を把握しようと努める。 「地球人は未開の原人ゆえいまだ1個体に1性なのだな。面倒な」 「はぁ!?普通どっちかだろ!?」 「何を言うか」 立ち上がったトシアキの額を足の指でぺちぺちと叩くブルガリス。 「我が大銀河帝国の中心にある貴きブルガリス人は皆、両性を併せ持つ完璧な生命なるぞ。未開の猿のような出来そこないとは違うのじゃ、 ほーっほっほっほー!」 「猿って…くそ…さ、猿じゃないもん」 ************************************************** 「昨日はあんなに可愛かったのに…おとなしくって、あぁこんな妹がいたら良いなぁって感じだったのに…」 続くブルガリスの高笑いに、思わず昨日の状況を思い出してホロリと来るトシアキ。 確かに、昨夜家にやってきたばかりの少女とは、あまりに違いすぎるこのふたなり。もとい皇女殿下。 姿かたちはまさに同一のはずが、表情一つ仕草一つでここまで変わるのかと思うと、恐ろしい。 「メイジちゃん…あぁ、メイジちゃん…」 メソメソメソ。とうとう、トシアキは体育座りでぐずり始めた。 「猫かぶりにもほどがある…むしろあれは影武者か、そうか?そうだろう!?」 ぐずりながらの熟考の結果、チキチキチーンとはじき出された答え。 全然違う→つまり別人→実は影武者?→むしろあっちがお姫さまっぽくね?→つまりメイジちゃんが皇女殿下!! 「俺のメイジちゃんを返せー!!!!」 「訳の判らぬ事を申すなーっ!!!!」 トシアキは掴みかからんばかりの勢いで、ベッドの上に飛び上がる。あ、掴みかかった。 ************************************************** 「うっせー黙れふたなり!下半身丸出しで偉そうにしてんじゃねー!  メイジちゃんを隠してるんだろう!そうだろう!あんな大人しい子が偉そうなお前の猫かぶりのはずがない!出せー!戻せー!」 「訳の判らぬ事を申すなと言うておる!何も隠してなどおらぬ!」 「そうですわ、トシアキ様」 イチと呼ばれた美女が、トシアキに声をかける。 彼女がトシアキの肩にそっと触れると、その瞬間にはポーンと投げとばされていた。 「助かった。しかしも少しはようせい」 ブルガリスは少し咳き込みながら、イチを見て言った。 トシアキはというと、スプリングの利いた雲の様に柔軟なベッドの上をコロコロと転がっている。 そして呆然としながら、微笑むイチを見た。 自分を投げ飛ばしたのが、その華奢な美女の仕業だとは思えなかったからである。 「メイジ様というのはブルガリス姫の御幼名にございます」 「ようみょー?」 「そしてもう1人の姫様にございますわ」 「余計な事を…」 ブルガリスは俯きがちにポツリと呟いた。 *************************************************************** 「もう1人のって…?それも宇宙人の特性とかそういう設定?」 「設定とはなんじゃ設定とは!別になんとでもないわ!」 噛み付くように言い切ったブルガリスを制して、イチは続ける。 「姫様、トシアキ様にはこれから御世話になるのですから、知っておいて頂かなければなりませぬ。イチがお側に付けない時もありましょう」 「む…しかし…」 「何も恥かしがるような事ではないですわ、姫様」 イチはブルガリスの燃えるように赤く輝く髪をなでると、ベッドの上を滑るように優雅にトシアキへと近付いた。 再びそっと手を伸ばすと、空気をかき混ぜるように優しくふんわりと、トシアキの身体を起こした。 「大事ありませんか、トシアキ様」 「あ、平気、です…」 大人の魅力満載の美女に触れられて思わずトシアキは真っ赤になった。 トシアキはロリ気味ではあるが、年上の魅力も抗い難い所である。 イチは、長く輝く黄金色の髪を1本の緩やかなみつあみに纏め後ろに流していた。 その頭上には昨日ブルガリス…メイジが付けていたような輪の飾りが乗って居る。 ワッカとかみつあみとかって、宇宙人のお約束の格好なのかな?とトシアキは考える。 *************************************************************** しかし、衣服はというと、幾重にも重ねるように隠すように羽織っていた昨日のメイジと違い、豊満な胸を申し訳程度 に先だけ隠し、意匠を凝らした太い帯に七色に輝く前垂れと、ひざまでのブーツという、何処のスペオペから出てきたんだ! という格好である。 胸元から、脇腹の流線、前垂れの下に消えていく七色のヒモパンのエッジの利いたラインと眺めてしまい、前垂れの下を想 像してげんなりする。そうか、そうだよな、同じ宇宙人だもんな…生えてるのか、この人も…! トシアキは、近所にレテの大河があるのなら、今さっき聞いたブルガリス人皆ふたなりの記憶の処だけ切り取って流してしまいたい。 と、かなり本気で思った。 「トシアキ様、先に申し上げますと、姫様に悪気はございません。トシアキ様に害を成そうという気も毛頭ございません」 「は、はぁ。そうですか」 すでに害されている気がする…と、何処かに行ってしまった屋根に思い馳せながら頷く。 「もちろん、メイジ様も同じです」 「あの…その、それ。メイジ様って言うのは…あれとは違う…んだよね?」 恐る恐るといった風に、トシアキはブルガリスを指差した。 ***************************************************************** 「アレとは何じゃー!!」 と、指されたことが不快だったのか、扇を振り回しているブルガリス。 「違い…ますが、同じ方でもあります。我ら大銀河帝国ブルガリス皇家の皇女殿下はブルガリス様ただお1人。メイ ジ様は、そんなブルガリス様の別の人格…と捕らえて頂けば良いでしょうか…」 「に、2重人格って事!?」 「有体に申し上げますと…そのようなモノです」 その時、トシアキのなんか入っちゃいけない妄想スイッチが入った。 「そうか、皇女としての重圧、恥の繋がらない兄弟との後継者争いに、フタナリの身体!色々なモノが君にプレッ シャーを与えていたんだね!その所為でとうとう2重人格に…!可哀想に、可哀想に!」 自分の妄想に次々と心のつぼを押されて弐場駿明16才、朝っぱらから男泣きである。 「いえ、としあき様違います」 「え?」 「そもそも姫様はただ1人のお世継ぎであらせられますし、皇族としてのお勤めも自ら嬉々としてなされております。 大変お世継ぎに相応しいお方です」 「それに、ブルガリス人は全てふたなりであると言っておろう」 ******************************************************* 「そうだった…」 思わず、両手両膝をついて大変ガックリしましたのポーズを取るトシアキ。 「じゃぁ、なんで…」 「…アレルギー、の様なモノでしょうか。もしくは性質の悪い酔っ払い…?」 「えぇい、イチ!それではわらわが阿呆のようではないか!」 ガックリポーズのトシアキの横に座るイチの頭を、扇でぽくぽく叩くブルガリス。 「ブルガリス様は、あるモノに大変弱い性質でして。それを摂取しますと大変大人しいメイジ様の人格が表に出ておいでになります」 「それって何?」 「えーい!それ以上は言わぬで良い!こやつの目を見よ、どう考えてもよからぬ考えをもっている!」 当然の様に聞くトシアキを見ながら、半ば恐慌気味にイチに訴えるブルガリス。 「それは食品の一種なのですが大変な珍味でございます故、常人の食卓にはあまり上る事が無いでしょう」 「なんだぁ…まぁ、何とか星のほにゃららとか言われても手に入らないんだけどさ…」 「ふふふ、当り前である。皇女であるわらわとて、しょっちゅう食べるものではない。ましてや貴様のような下賎に…」 勝ち誇ったようににやり笑いを浮かべるブルガリス。 ********************************************************* 「あ、でも地球のヨーグルトが大変よく似たモノなんですよ、成分も」 イチの爆弾発言が、さらりと優雅に投下された。 「ヨッシャー!」 叫ぶなり駆け出すトシアキ。ベッドの端から飛び降りると転がるように階下へと降りていく、目指すはキッチン、 冷蔵庫! 「あー!!」 同じくらい叫んだブルガリスは、昨日珍味によく似た地球の名品として出されたヨーグルトに酔っ払い、早々から皇 女としての醜態をさらしたと思っていたのである、これ以上の恥の上塗りは万死に値する。主にトシアキの。 焼き切るか叩き潰すか、と考えながら全速力で階下へと向かう。イチの制止する声は聞かない。 ダイニングキッチンへと飛び込んで、冷蔵庫に向うトシアキの背中に叫ぶた。 「トシアキーっ!!!」 トシアキは冷蔵庫から出したばっかりの、特用500グラムヨーグルトを両手に1パックづつ(先日特売だった) 持ちながら振り返る。 両手を高く掲げて牽制。 **************************************************************** 「フフフフ…コレを喰らって大人しくメイジちゃんに変わるんだっ!」 「そ…そんなモノ…わらわには効かんぞ…」 僅かにふるえる声に、羞恥と恐怖が入り混じる。ブルガリスはざっと狭いダイニングを見回すと、ダイニングテー ブルのはじっこを掴み、軽々と持ち上げた。 「今なら、…焼き切るのも叩き潰すのも許してやろう。さぁ、それを捨てるのじゃ!!」 「やだね!おいでませメイジちゃん俺の元にっ!!」 それだけ言うと、テイヤ!と両手のヨーグルトをブルガリスめがけてぶちまけた!! 「ヨッシャ!さぁ、メイジちゃん帰ってお、ゴファッ!」 ゴシャァツ!! と、あまりしてはいけないような音を立てて、トシアキがシンクまで飛んだ。もちろん、ブルガリス怒りの一撃の結果である。 「まぁ、姫様。虫とは違うのですから殺してはいけませんよ」 「大事無い、手加減はした」 ブルガリスは肩で息をしながら、後ろに付いたイチに答える。 ******************************************************************* シンクまで飛んで、ついでに意識まで飛ばしたトシアキを窺った後、何事もなかったかのように、イチは自分の姫君を見た。 「あらあら、こんなに汚れてしまって…いけませんわね、姫様」 口にさえ入らなければどうと言う事は無い、酸味のある匂いは余り好きではないが、我慢できる。 「気持ち悪い、とって、イチ」 ブルガリスは顔を汚したヨーグルトが目に入らないように目を閉じると、イチに顔を向ける。 「はい、姫さま…」 そっとその顎を支えると、イチはゆっくりと舌で白濁を舐めとっていく。 この状況をトシアキが見れば、また入っちゃいけない妄想スイッチが入りそうな気はするが、今の彼はそろそろ魂まで飛ばしそうな有り様である。 「綺麗になましたよ、姫様」 あらかたを舐めとって、イチが微笑む。 眉根を寄せて首を振ると、ブルガリスは首元のリボンを解いた。 ネグリジェがするりと床に落ちる。 「やっぱ、湯を浴びる」 「えぇ、イチもその方が良いかと思います」 「先に言え」 ********************************************************************** 「浴場は、そちらをくぐって右手側にございますわ、姫様」 「また穴倉の様に狭いのであろうな…」 ブルガリスは半ば呆れ気味に呟くと、立ち止まった。 「イチ」 「なんでございましょう、姫様」 「部屋…と屋根…直しておいて」 「承知いたしました」 「後…ベッドは部屋のサイズにあわせたもので我慢する」 「御立派ですわ、姫様」 「たかが三巡りだもの、我慢できる」 「皇帝陛下もさぞかしお喜びになられるでしょう」 ブルガリスは振向いて少し微笑むと「そう?」と聞いた。 イチが頷き返すと、安心したかのように、悠々と浴室へと歩いて行った。 ※ 各自適当にエンディングっぽい曲を脳内再生してください。 ※ ------------------------------------------------------------------ ※ 次回予告! トシアキ「マジで死んだかと思った!」 ブルガリス「アレぐらいでは死なぬ」 トシアキ「他人事だとおもって」 ブルガリス「さーて次回の【ブリリアント☆銀河聖皇女ブルガリス様!】は…?」 トシアキ「え、そんなタイトルだったの?」 ブルガリス「『トシアキの憂鬱』『トシアキの災難』『トシアキの最後…!』の3本でお送り致す!」 トシアキ「ちょ、俺ばっか…!」 ブルガリス&トシアキ「「それでは来週も、召しませ!ドロリ濃厚ヨーグルトっ!」」 トシアキ「…三巡りって地球時間でどれくらい?」 ブルガリス「1クールじゃ」 トシアキ「1クールってドラマかよ!」 ブルガリス「本来ならばわらわの大活躍4クール1年どころか水戸黄門的ロングランも必須であるというのにだいたいあやつらは… (以下略 ------------------------------------------------------------------ ------------------------------------------------------------------