状況は2話の散歩から帰宅後です。 「としあき、それは何ですか?」 「何って、ただのメガネだろ」 俺はレポートを進める手を止めずにそっけなく答えた。 「そうじゃなくて、普段着けてないのに何故ってことです」 メイジが少し不機嫌な口調になって言う。意地悪だったかな。 「悪い悪い、ちゃんと答えるよ。このメガネはお守りみたいな物なんだ」 「お守り…ですか?」 「ああ、受験の時はずっとこれをかけて勉強してたんだ。度は入ってないけどな」 メガネを外し、メイジの目の前に置く。メイジはそれをじっと見つめている。 「としあきの思い出の品なんですね。ふぅん……」 メイジの目がすっと細くなり意味ありげに微笑みを浮かべる。 ああ、あの目こそはメイジさん必勝の構え、無明逆おねだりのお姿……orz 「としあき、これ、もらってもいいですよね?」 やっぱり。しかも既に彼女の中では所有が決定しているらしい。 俺は無駄だと知りつつも抵抗を試みるが―― 「だーめ。提出期限とのシビアな戦いの最中に大事なお守りを渡せるかっての」 「これがあればもっととしあきのことを手伝えるんですけどねぇ……」 「メガネで手伝うってどんな理屈だ、どんな」 「ふふっ、冴えない大学生のレポートを手伝うのにも色々と準備がいるものなんですよ」 メイジはそう言うが早いか素早くメガネを奪って洗面所へと逃走してしまった。 そして洗面所からひょいと顔だけ出すと、 「覗いたらパソコンの電源引っこ抜きますから。大人しく待ってるんですよ?」 とだけ言って引っ込む。俺の抵抗は木っ端微塵に粉砕されたようだ。 とびきり優秀な助手は言い過ぎたかなぁ。……続きやろ。 「としあき君、ちゃんとやってますか?」 メイジの声が背後に聞こえる。どうやら準備とやらが終わったらしい。 やれやれと思いながら振り向いてみると、そこにいたのはメイジではなく『委員長』だった。 どこから入手したのかセーラー服の上下に委員長の腕章。 そして俺のメガネがメイジの印象を全く違うものに変えてしまっていた。 「お、お前、その格好は……」 「ほらほら、私を眺めてる暇があったら手を動かす!それが終わらないと私も帰れないんですからね?」 そういう設定ですか委員長。 しかし見るなとは殺生な。俺をメガネっ子好きと知っての所業か!? そんな俺の心中を察したのか、メイジが背後から俺の耳元に顔を近付けてそっと囁く。 「頑張って全部終わらせたらじっくり見ていいですから……。ね?と・し・あ・き・君」 瞬間、背筋がぞくりと震えた。 メイジさんそれ委員長じゃないよ。エロ家庭教師とかその辺だよ。ああでもそれはそれで俺の 性癖直撃ってどういうことですか。脳が沸騰する言葉が出てこないエロイエロイエロイ……。 「ズルしないでちゃんとやるんですよ?私がずっと見張ってますからね」 「はうぁっ!?」 『委員長』の雰囲気に戻ったメイジの言葉で意識が無理矢理現実に引き戻される。 あ、危ねぇ。後一歩で性犯罪者になるところだった。神聖な委員長にそれはいけない。 こうなったらとっとと終わらせて委員長とキャッキャウフフだ! 「ぬおおぉぉぉっ!やってやるぅぅぅっ!!」 「少し…やりすぎましたか……」 こうして、メイジの微妙な視線を背に受けつつ、俺の不純で熱い戦いが幕を開けたのだった。 ――時は流れて数時間後。 「っしゃ終わったぁぁああぁっ!」 既に日は落ち、夕飯の時刻もとっくに過ぎてはいたが、レポートは異例の速度で完成を迎えた。 本来なら徹夜を覚悟していたのだが。これが委員長効果ってやつか……。 とにかくこれで我慢の時は終わりだ。お楽しみの始まりだぜ! 「委員長!終わったぞ委員……ん?」 「ん……すぅ……すぅ………」 至福の時への期待を込めて振り向いた俺の目に映った物は、テーブルに突っ伏して寝息を立てる メイジさん(着替え済み)の姿だった。 「そんな殺生なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」 その日、夢を打ち砕かれた男の断末魔が街中に響き渡ったという……。 おまけ 「なぁメイジ。そもそもなんで俺の性癖をピンポイントで知ってたんだ?」 「としあき、あなたが私に気を使ってベッドを使わせてくれるのはとても嬉しいんですけど、  ああいったエロ本の類は事前にベッドの下から片付けておいた方がいいですよ」 「……あ」