今日は厄日だ。それだけは間違いない。 昨日の飲み会で飲み過ぎて二日酔いになるわ、寝坊して講義に遅刻しそうになるわ、 必死に時間に間に合わせた講義は休講だわといった具合だ。 そして極めつけは戸締まりを忘れた俺の部屋に泥棒が一人。 「あ、おかえりなさい。お邪魔してます」 10歳前後の少女に見える泥棒がぺこりと頭を下げる。 ふわりと揺れるブロンドの髪に余計に非現実的な感覚が強くなる。 「そんなところで立ち話もなんですし、座ったらどうですか?」 え?俺お客様?つーかなんで泥棒がそんなに堂々としてるの?混乱して何も言えないでいる俺。 そんな状態を察して苛立ったのか、少女の口から大声が飛んだ。 「だから私が今から説明してあげるから、そこに座りなさいって言ってるんですっ!」 「いっ、イエッサー!」 思わず敬礼してしまった……。口調の割に短気だなコイツ。 既に通報する気も消え失せ、少女に促されるがままにテーブルを挟んで座る。 少女は「よし」と満足そうに頷くと、長い話を始めた。 ―――1時間後。 「はぁ、それでブルガリアの方からやってきたメイジさんは、縁もゆかりも金もない俺に養って欲しいと」 「はい。としあきは理解が早くて助かります。私としては是非受け入れていただきたいのですが」 俺の精一杯の皮肉を華麗にスルーした謎の金髪少女ことメイジは、そう言ってにっこりと微笑んだ。 笑顔の可愛さに追い出す決意が少し揺らいだのは秘密だ。 両親やら警察やら大使館やらの話は全て却下された。どうしても俺の側がいいらしい。 「でも、何で俺なんだよ。そこのところぐらいは聞かせてくれ」 「んー、一目惚れとでもいいますか……。部屋の鍵も開いてましたし」 話にならねぇ。なんかもうどうでもよくなってきた。 今日のところは泊めて、明日の朝にでも出て行ってもらうか……。 そう簡単に考えて俺はごろりと畳の上に横になりながらメイジに言葉を伝える。 「わかった。今日は泊まっていくといい。そこのベッドを好きに使ってくれ」 「いえ、その前に食事をしたいのですが。外食かとしあきが作るかしてくれないと……」 うわぁ、そうきますか。どっくーんときたよー。 「だーーーっ!!わかったよコンチクショー!今すぐ作るから首を洗って待ってやがれぃ!」 「はいっ。としあきの手料理、楽しみにしてますよ」 ああ、本当にチクショーだ。あんな嬉しそうに言われたら気合い入れて作るしかねーじゃんかよ。 やっぱり今日は厄日だ。 でも、メイジと会う前の嫌な出来事は全部どこかに吹き飛んでいて……そんなに悪い気分でもなかった。 後にして思えば、この時既にメイジのペースに巻き込まれていたということなんだろう。 それが俺達の1日目だった。 既にあれから3日……。 メイジは未だに俺の部屋を占領している。だってしょうがないじゃないか。 縛られて何度も辱めを受けたらさすがの俺も屈服するって。あ、でも徐々にそれが快感に―― 「ありもしない出来事を日記に書いて何をしてるんですか……」 「俺流のストレス解消法だと思ってくれ。というか覗くなメイジ」 平静を装って日記をしまう。いかんいかん、迂闊にうろたえて弱味だと思われても面倒だ。 まぁ追い出せない本当の理由は俺が出ていけと言い出せないだけなんだが。 いざメイジの顔を見るとつい、なぁ……。 「それにしても随分と倒錯した趣味ですね。お天道様の下を堂々と歩いてられるのが不思議なくらいですよ?」 コイツは人の気も知らないで好き放題言うね。本当に子供なのか? 「冗談に決まってるだろ。大体子供に何ができるってんだ?」 「子供とは限らないし、できないこともないんですけどね……」 ぼそりと呟いたメイジが妖しく微笑む。 性的!恐ろしいほどに性的! 思わずそんな感想を抱いてしまうような表情に思わず呑まれてしまう。 「いや、あの……メイジ…さん?」 「としあきにだけ、教えてあげますね。私の秘密……」 緩慢な動きで着衣を脱いでいくメイジ。 俺はその光景に完全に頭をやられてしまって、ただ見入ることしかできないでいた。 そして、最後の一枚をメイジが脱いだ時、俺はようやく彼女の言う『秘密』に気付いた。 「………実は男?」 「違いますよ。両方あるんです。ふたなりって言うんですか?」 そう。彼女の股間には男性器と女性器が同時に存在していた。きっちりムケてる竿の後ろに慎ましやかなすじがある。 うっわー、初めて見た。うっわー。 「女の子の大事な部分をそんなに凝視しない!デリカシーがないですよ」 「うっあっ……ご、ごめん」 俺は怒られてようやく状況に気付き、慌てて背を向ける。 メイジの方もさすがに恥ずかしかったのか、後ろを向いて服を着ていた。 そして先程までの雰囲気とは全く違う、真剣で、それでいて少し沈んだ声が背中越しに聞こえてきた。 「やっぱり、気持ち悪いですか?普通じゃないって思いますか?」 「ん……まぁ、普通ではないよな……」 「そうですよね。こんなの嫌ですよね……」 「でもさ、俺は気持ち悪いだとか嫌だなんて思わねーぞ。正直驚いたけど、メイジの身体見て、綺麗だなって思ったんだ」 俺の偽らざる本音だった。それを証明するために、着替え終わったメイジを後ろから抱きしめる。 こうすることで俺の気持ちが伝わると信じて。 「だから自信を持てよ。人と違っても、メイジは十分に可愛い」 「ふふ……としあきはロリコンの変態さんなんですね。でも、ありがとう」 少し震えたメイジの声を聞きながら、俺は自分の中で追い出すという選択肢が消滅しつつあるのを感じていた。