メイジは、何時もより1時間も早く目を覚ましていた。 窓の外が何時もと違う色である事に気づき、目覚まし時計を確認する。 まだ5時30分だ。 「ん…」 なんでこんな時間に目が覚めてしまったのだろう。 いつもなら6時30分キッカリに目が覚めるのに… 「あっ…」 そうだ、今日は私の誕生日だった。 急いで窓に付いた露を払い、外の景色を確認する。 木々の隙間から微かに朝焼け色の空が見える。 確かに「今日と言う日」は来たのだ。 部屋のドアを開け、二階から下の階を覗き込む。 一階から朝食を作る音がする。 「ナンシー!ナンシー!」 大きな足音を立てながら、メイジは階段を駆け下りた。 「あら、早いのねメイジちゃん」 シチューを作っていたナンシーは、 ガス台から振り向きながら、ボサボサ頭のメイジに声を掛けた。 ナンシーは何時も早起きだ。何時も5時には朝食の支度を始めている。 本人が言うに、年寄りはどうしても朝が早くなってしまうのだそうだ。 「今日が来たのよ、ナンシー」 目を輝かせながらメイジが言う。 「ええ、そうね。今日は大切なメイジちゃんの誕生日ね」 ナンシーも忘れていないようだ。嬉しい。 「手伝うわ、ナンシー」 壁に掛けてある自分用のエプロンを付けながら、メイジは言う。 生地の端にあしらったピンクのフリルが可愛いエプロンだ。 これも、お料理が楽しくなるからとナンシーが縫い付けてくれたものだった。 「それじゃ、メイジちゃんにはニンジンの皮を剥いて貰おうかしら」 「うん!」 今日も楽しい一日になるような気がして、メイジの心はゴム鞠の様に弾んだ。 ------------------------------------------------------------------------------- メイジの手伝いもあって、朝食は何時もより30分も早く完成した。 「ありがとうメイジちゃん。お陰でいつもより全然早く出来たわ」 調理器具を洗いながら、ナンシーがお礼を言う。 「いいのよ、ナンシー」 メイジはお皿をテキパキと並べている。 「それより、朝ごはんを作るのは大変ね。お水は冷たいし、 何より一人で作る朝ごはんほど寂しい物は無いと思うわ」 確かに、今日の朝食の支度はメイジのお陰でとても楽しかったと、ナンシーは感じていた。 口が動くと手が止まってしまうメイジ。じゃがいもを何度も落としてしまうメイジ。 隠し味と称して、しきりにキャンディーを入れようとするメイジ。 どのメイジも、ナンシーを大いに楽しませた。 「私、今度から早起きして、毎朝ナンシーを手伝うことにしたわ」 ******************************************************* 突然の申し出に、ナンシーは少し驚いてしまった。 「あら、メイジちゃん。早起きするのは大変よ。 メイジちゃんはお昼ご飯も、晩ご飯も手伝ってくれるし、朝まで頑張ることないわ」 「いいの。二人で作るお料理は一人よりきっと楽しいし、もっとナンシーに お料理を教えてもらいたいもの」 遠慮するナンシーに、なおも食い下がるメイジ。 言い出したら聞かない。メイジの熱心な性格を知っていたナンシーは、 メイジの熱意に負け 「それなら、今度とっておきのお料理を教えてあげるわね」 と、少しおどけて杓子を振ってみせた。 「うん!」 何時も通りの元気な返事。 早くも、明日の朝食が楽しみになってしまうナンシーだった。 ------------------------------------------------------------