夕焼け色に染まった町を、三人は並んで歩いていた。 メイジと、メイジの父、そして家政婦のナンシーである。 三人は、それぞれ持てるだけの買い物袋を抱えていて、 メイジももちろん荷物持ちを手伝っていた。 これから町外れにある家へ帰るところだ。 「メイジ、交換しようか?」 先ほどからメイジを気にかけていた父は尋ねた。 メイジは、一袋しか持てない代わりにと一番大きな袋を抱えている。 「へいきー」 紙袋をぐらぐらさせながら、メイジは答える。 いつ決壊してもおかしくない状況にも、メイジの決意は微動だにしない。 「メイジちゃんの大好きな物が入ってるんだもんね」 と、ナンシーが弁護をする。 「うんっ」 と、返事だけは元気なメイジ。 そういえば、確かにさっき バラの砂糖漬けと、キャンディーの瓶をあの中に入れていたな。 「じゃあメイジ、重くなったら言うんだよ?」 「うんっ」 返事だけは何時も元気なメイジだった。 そろそろ町並みの風景ともお別れな頃、ふとメイジの足が止まった。 「どうしたの?メイジ」 父はメイジの元へ歩み寄る。メイジは一枚のポスターに目を奪われていた。 歌劇、シェイクスピア、ロミオとジュリエット? そうか、なるほど。 「この前読み終わったもんね」 「…うん」 メイジはポスターから目を離さないまま答えた。 彼女はつい先日まで、熱心にこの本を読んでいた。 一行読み終わるごとに感想を言いに来る程の熱中っぷりだった。 「見に行こうか?」 と父は尋ねる。 「うーん、でも、高いんでしょ?」 メイジはお金を気にしているようだ。 確かに、有名な劇団の公演らしく、なかなかいい値段だ。 「確かに、ちょっとだけ高めだね」 「なら、いーや」 とは言いつつも、相変わらずポスターに釘付けなメイジ。 公演日時は… 丁度メイジの誕生日だった。 (プレゼントは別に一つじゃなくてもいいもんな…) 父はそう思い、公演場所と日時、時間を心に刻んだ。 「メイジ、そろそろ行くよ」 「うんっ」 放って置けば何時までも眺めていそうなメイジに声を掛け、 父はまた歩き出した。 メイジも、もう少しポスターを眺めた後、小走りで父の元へ急いだ。 そして父とナンシーの間に割って入ると 二人の顔を嬉しそうに確かめ 「何時かパパとナンシーを王様とお姫様にしてあげるね」 と言った。