『蝕よ再び』(終章「蘇る牙」) (1/3) 私は燃える館に背を向けて歩き出した。 館で入手したいくらかの現金と食料を担ぎ、毛布を適当に切り裂いて作ったポンチョを纏う。 そして取り返した愛銃と愛刀も身に着けている。 右腿のホルスターには愛銃、カスタム.44オートマグ〈Sköll〉。 左腰の前側にスペアマガジン、後ろ側に愛刀、カスタムコンバットナイフ〈Hati〉。 北欧神話に伝わる双子の兄弟狼、スコルとハティ。 スコルが太陽を、ハティが月を追いかけ捕えることで日食と月食が生じるのだという。 〈蝕の牙(エクリプス・ファング)〉のコードネームにちなんで名付けられた、私の2本の牙。 現役時代に使っていた道具はほとんど処分したが、この2つがあれば十分だ。 **************** (2/3) 娼館を壊滅させ、サラを看取った後、念の為娼館にあった様々な記録を消した。 みんなには上手く逃げてくれることを祈るが、どれほど上手くいくか…。 サラをきちんと弔ってあげたかったが、援軍が到着する前に逃げる必要があった。 胸が張り裂けそうだったが、彼女の髪を少し切り取った後、館に火を着けた。 遺体を動かす余裕も葬る時間もなかったし、必要以上に現場の物を動かすのは避けたい。 今まで数え切れない暗殺や工作をしてきたのに、同じようなことをしてこれほど辛いのは初めてだった。 それでも耐えて全てやり終えて、私は森の奥に向かって歩き出す。 娼館から持ち出した食料で何日かは持つ。 とにかく今は少しでもここから離れ、装備などを整えたい。 私の戦いはこれからなのだから。 **************** (3/3) しばらく森を進み、山を登り始める。 視界が開けた場所に来たので館の方を振り返ってみた。 館は完全に炎に包まれていて、近くの町から消防車が集まってきている。 だが火災現場から少し離れた場所に、複数の車が並んでいるのも見える。 援軍か。やはり来たな。 現金や食料などと一緒に予備の銃や弾もいくらか持ち出している。 現役時代と違いオートマグの弾は入手しにくいから、信頼できる新しい銃と弾は絶対に必要だ。 それに体力や、戦いの勘も取り戻さないとまずい。 敵は強大な〈組織〉だ。 今の私の力や装備では勝つのは無理だ。 しかしどれ程敵が強大でも私は恐れない。 私は私に宣言する。 「私は蝕(エクリプス)。メイア・ジ・エクリプス。太陽と月を喰らう怪物、蝕の牙(エクリプス・ファング)だ。神をも恐れぬ怪物に、恐れるものなどあるものか」 あの子が〈組織〉の実験で産まされた子供であっても、間違いなく愛する我が子なのだ。 待っていて、私の娘。 いつかきっと、この手であなたを再び抱きしめる。 (終わり) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ずっと前にメイジママの絵を描いてからずっと書いてみたかった過去の物語です。 メイアはメイジより前に序列五位のエージェントであった先代のNo.5。 〈組織〉に遺伝子を弄られ、ふたなりとして産まれた。 任務中に目を負傷し、視力が悪くなったため引退。 引退後、〈組織〉の実験でメイジを産む。 遺伝子が普通の人と違うため、メイジを産んだのは人工授精。 ふたなりだったメイジも〈組織〉の実験に使われることを恐れて、赤ん坊のメイジを連れて逃亡。 しかし捕らえられ、メイジは〈組織〉に奪われ、メイアは変態相手の娼館に幽閉される。 ざっくりこういう流れでこの物語に繋がります。 現役時代の姿なんか描いてみたいんですが、記念スレには間に合わないのでこれから完成させたいです。 この物語は以前思いつきの人と名乗って書いていたメイジの物語と繋げたいと思っています。 しかしメイジの物語をどうするのか決めてないので、どう繋がるのかまだ分かりません。 それでもメイアとメイジをまた書けたらいいなと思っているので、これからもスレが続いて欲しいですね。 20周年おめでとうございます。