『蝕よ再び』(第3章「牙の再起」) (1/6) みんなからプレゼントを貰った翌日、私はそれを掛けてサラと食堂に向かった。 普通に歩けるというのがこんなにもありがたいとは知らなかった。 「あ、メイアおはよう」 「似合うよー」 みんなの笑顔がよく分かる。 見えるということは素晴らしいものだとつくづく思った。 「待て!」 なんだ? 突然呼び止められた。 振り返るとこの館を警備する私兵達がいて、彼らは素早く私を取り囲んだ。 武器は手にしてないが、何か起こればすぐに抜ける体勢をしている。 食堂の雰囲気が不穏になる。 私兵の隊長が私の前に立つと、厳しい口調で私に言った。 「眼鏡を外し、捨てろ」 **************** (2/6) その言葉にみんなが声を上げだす。 「なんで!?」 「眼鏡ぐらいいいだろ!」 「メイアは目が悪いんだから!」 「黙れ!!」 隊長が怒鳴り、食堂が静まり返る。 私はなるべく穏やかに尋ねてみた。 「なぜこれを捨てる必要があるんだ?」 答えは無かった。 いきなり左右にいた兵士から腕を掴まれた。 前に立った兵士の手が伸び、眼鏡を奪おうとするのが分かった瞬間もう私の身体は動いていた。 自由になる足で前の兵士の顎を蹴り上げ、左右の兵士の足の甲を踏みつけた。 掴まれていた腕を振りほどくと相手の腰から警棒を奪い、兵士達を殴り倒していった。 激しい警報が館に響き渡った。 これは…もうどうしようもないな。 **************** (3/6) 「メ、メイア…」 サラもみんなも呆然としている。 みんな良い仲間達だったが、これでお別れだ。 私は覚悟を決めた。 「みんな、巻き込んですまない。私は戦う。そしてここを出る」 「な、何を言って…? 無理よ、この娼館はマフィアのもので…」 「知ってるさ。私も〈組織〉のメンバーだったからな」 私は床に屈み、倒れている兵士から拳銃と弾倉を奪った。 そして次々に倒れている兵士達にとどめを刺した。 銃声が食堂に響き渡り、みんな一斉に恐れ慄いていた。 だがそれでもサラは私の前に立ち続けていた。 **************** (4/6) 「サラ。君には本当に世話になった」 「メ、メイア、怖いことはやめて…。こんなの変だよ、メイアはこんな人じゃ…」 「違う。これが本当の私だ。私にはやらねばならないことがある。その時が来たんだ」 「無理だよ! 相手はマフィアなんだって!」 私はサラの震える身体を抱きしめた。 「ありがとう。君は優しいな、サラ。だけど、私はやるしかないんだ」 「メイア…」 「いいか、ここは戦場になる。私はここを潰す。警備が薄くなった時を狙ってみんな逃げろ。 後で誰かに聞かれても『何が起きたか分からない。とにかく避難した』とだけ言うんだ。いいな!!」 そう言って私は走り出した。 ここを潰し、脱出する。 みんなを逃す。 私1人では同時にはやれない。 頼む、みんな上手く逃げてくれ…。 **************** (5/6) 倒した相手から武器を奪いつつ、兵士達を片付けていく。 視力はみんなから貰った眼鏡のおかげで問題ないが、これまでずっとよく見えなかったため館の構造を完全に把握できていない。 マシなのは所詮娼館の警備員であるため、練度も装備もあまりレベルが高くないことだ。 問題は娼婦として働かされていた1年近くのブランクだ。 周囲の目を盗んでトレーニングは続けていたが、実戦には不足だろう。 戦いながら勘を取り戻すしかないな。 しかしのんびりはできない。 もしここの責任者がこの状況を隠そうとしなければ〈組織〉に連絡を取る。 そうなるともっと練度の高い援軍が来るだろう。 その前に全て終わらせなければならない。 私は残弾を確認し、銃を握り直した。 **************** (6/6) その頃、娼館の責任者は部下に怒鳴り続けていた。 「殺せ! 構わん! 上に連絡して助けを呼べ!」 「しかし、娼婦が暴れたぐらいで…」 「やれ! 重大なミスだがやむを得ん! それぐらいしないと止められん!」 「ボス! 連絡が取れないチームが増えてます!」 「監視カメラも壊されていってます!」 「ぐぬう…。誰だ!? 誰が眼鏡など持ち込んだんだ!? 眼鏡さえ…眼鏡さえ壊すことができれば…」 その時側近が恐る恐る言った。 「ボス、何故そんなに眼鏡に拘るんですか?」 「お前は奴の正体を知らんからそんなことが言えるんだ! 奴をこの館に幽閉できるのは、奴が目を悪くしたからだ!」 そしてドスッと椅子に座り込み、頭を抱えて呟いた。 「奴が視力を取り戻せば…奇形女(フリークス)が本物の化物(フリークス)に戻っちまう…」 そう言いながら、彼は横目でチラリと壁に掛かった額縁を見た。 (第3章終わり)