『蝕よ再び』(第2章「牙の熱涙」) (1/6) 「大丈夫メイア? あたし、やり過ぎてなかった?」 「大丈夫だ。気にするな」 やっとショーから解放された私は、深夜のシャワールームで助手に身体を洗ってもらっていた。 何人もの男に犯され、どれほどの精液が湯と流れていってるのだろう。 裸眼ではろくに見えない私には分からない。 「大変だよね。あんな何人も相手させられて。ピル飲んでても不安にならない?」 「そうだな。だが気にしても仕方ないさ」 少し嘘をついた。私にはピルなど支給されない。 だが妊娠することはないだろう。 私の身体は〈組織〉によって遺伝子操作(イジ)られている。 普通の人間が相手なら妊娠することもさせることも出来まい。 「よし、綺麗になったよ。部屋に戻ろ」 「ありがとう。いつもすまない」 「気にしないで。これもあたしの仕事だから」 **************** (2/6) 助手に手を引かれ私は部屋に戻った。 「おかえりー」 「今日も大変だったねー」 部屋にはすでに仕事を終えた者達が戻っていた。 どうやらもうみんな集まっているようだな。 「ねえねえ、お疲れのところ悪いんだけど…」 「今夜も…イイ?」 「構わないさ。私はここでみんなに助けてもらって生きている。お返しはさせてもらうよ」 集まったみんなが歓声を上げる。 正直疲れてはいるが、みんなに言った言葉にも嘘はない。 **************** (3/6) 「あッあッ、ンッ、アアッ!!」 部屋に喘ぎ声が響く。 娼婦でも男娼でも私は順番に抱いていく。 「ハァ…ハァ…。やっぱり…あんな客よりずっとイイよ…」 「あ、あの、次は私とお願い!」 最初はある娼婦の好奇心からの頼みだった。 仕方なく彼女を抱いてやると何故か分からないが驚くほど喜ばれた。 だんだん噂が広がり、娼婦だけでなく男娼まで抱くようになった。 この男根がこれほど喜ばれるとは想像もしなかった。 だが、こんなことでも恩返しになるならやろうじゃないか。 **************** (4/6) 全員を抱き終えた私は床に座り込んだ。 やはり少しキツい人数だったか。 今夜はもうさっさと眠った方がいいかもしれない。 そんなこと思っていると、助手に声を掛けられた。 「ねえ、今日はみんなからお礼があるんだ」 「お礼?」 訝しんでいる私の顔を助手の両手が包み込んだ。 「こ、これは!!?」 ぼやけていた視界が突然鮮明になった。 「どうかな? 前に話してくれた度数で頼んだんだけど」 眼鏡…? まさか!? **************** (5/6) 「ど、どうやってこれを…」 1人の娼婦が手を挙げて言った。 「私の客が眼医者なんよ。頼み込んで作ってもらって、こっそり持ってきてもらったワケ」 さらに他の者達からも次々と声が上がる。 「代金はみんなのカンパだよ」 「僕も出しました!」 「ねえねえ、ちゃんと見える!?」 「ありがとう、みんな…。初めて、みんなの顔が見えた」 歓声が上がり、様々な言葉が聞こえてきた。 「喜んでもらえて良かったわー」 「メイアさんにはいつも世話になってるもんな」 「うん! 辛いことあってもメイアとヤったら忘れられるんだ」 「メイアさんがいてくれるから耐えられるの」 「いつもありがとう!」 **************** (6/6) 私の人生にこんなことが起こるなんて信じられなかった。 仕事を褒められ、褒美を与えられたことならある。 だけどこんな言葉を貰ったことはない。 私は初めて味わう感覚に戸惑っていた。 何なのだろう、頬が熱い。 まるで熱いシャワーを浴びているようだ。 何が起きているんだ? 「メイア」 この声は助手か? 私は声の方を振り向いた。 「ああ…。君は、そんな顔をしていたんだな、サラ」 「よかった。見えるんだね。泣かないでメイア」 「…君こそ泣いているじゃないか」 私達は初めて笑い合ったと思う。 (第2章終わり)