「ブルガリアからの危機(仮名・改)」 「そ、そんな事いわれても・・・」 男はうだつの挙がらない声を上げた。 「う~ん、それでは漫画家(プロ)である意味がないと思うがね? 描写がかけないとか、自分に画力が無くても仕事である以上、 期限までに納得いかなくても出してもらわんといかんのだがね・・・」 オールバックの30代ぐらいの男はうだつのあがらなそうな男にダメだししている。 どうやら漫画の【編集者】らしい。 「それはわかってますけど・・・」 「正直、どこかの誰かさんみたいに下書きでもいいから出して欲しいね もっとも人気が下がるのは承知だが・・・ 君は月刊ペースに入ってもらってもいいと思うがね?」 編集者の言葉に若い漫画家は終始絶句している。 私の仕事は若い漫画家をアシストすることだが 今の連中はやりたいことを素直にやらない風がある。 私は自分の実力で漫画家や作家になれないと諦めた。 負け犬だ。 しかし、自分の事は棚に上げて人をとやかく言うのが 私にとっての「いい仕事」だと思うがね・・・。 ”素直にやらない”というのは連中 「上手く行くか分からない」 「出来ないかも」と次の言葉には言い訳が入る。 私は30まで作家を目指してペンをとった。 画力やネタの問題ではないらしい。それは私にも分からない。 漫画をどうすれば上手く描けるか分からない私がとやかく言うのは 連中を後を押しするだけで、「力になる」ワケじゃない。 だから一辺倒に編集の意見を聴く作家は・・・どうとも言えん。 マンションに帰る途中で何人かの人と会う。 これを観察するのが大切だ。どんな人がどんな風に感じているのか 世間に疎いようではやっていけない。 それに時折珍しい人間を見つけることもある。 これがインスピレーションとして働くのだ。 スーツにデッキシューズとリュックの中年おっさん。 援交○学生や変な人間は幾らでも居る。 事実は小説より奇なりというが奇怪であれば面白いワケもなく 私に言わせればいじめや家庭を題材とした小説ほどつまらないものは無い どんなにエゴイズムで奇怪な内容も、ニュースで安売りされた 既成概念の代物でしかないと思うがね。 「なんじゃこりゃ!」 それが読者の楽しみなのだ。 しかし、ありきたりを期待する人もいるわけで・・・ それでも私は「なんじゃこりゃ!」を探している。 「ありがとうございましたー!」 どこかでそれが売って”いなければ”漫画や小説は刺激的だ。 あらゆる刺激。今ではそれが大衆紙で手に入る。 そうでなくともそれらは幾らでも手に入る。 そして手段を私は手に入れた。 盗撮・盗聴。 期待通りのつまらない情報でも不特定多数の誰かではなく 鼻持ちなら無い近所のクソガキやご婦人ならば刺激的だ。 フィクションでいかに傑作でもこれに勝るものは無い。 しかし風呂上りやクソガキの薬物パーティーなんかに インスピレーションは得られない。 出入りの多いこのマンションで長年はっているのは それを期待してるのか? 最近、隣の学生(?)らしい青年の家に若い外国人の女の子が出入りしている。 いわゆる「ひきこもり」だった彼の部屋など監視する 趣味は無かったが、彼に女性と交際する甲斐性があったとは・・・ これは犯罪かなにかと思うがね・・・。 問題は彼の周辺の事情を探ること 新たしい部屋に仕掛けるのはかなり困難だ。 「う~ん、どうしたもんかね・・・。」 金髪で小柄な彼女を見つけて私は話しかけることにした。 「君は新しく越してきた子?」 まずは隣に”ひきこもりの男の子”がいると知らないフリをした。 ここで「君とあの男の子はどういう関係?」と聞けば気まずいだろう。 「・・・。」 それでも若い女の子のことだ。当然無視した。 30いってるおっさんに話しかけられて素直に答えるはず無いよな。 そこで方法を変えることとした。まずは強行に侵入を試みる。 今までの手順だと留守を狙うのだがね・・・ 今回、部屋には24時間態勢で警備員がいる。 何より問題の少女・・・。彼女は巡回するように定期的に 部屋を出てはまた戻ってくる。買い物も兼ねているらしいがね。 だが、この周辺には私のカメラがある。 彼女が明らかに尾行を気にしている風があるとみた。 痴漢に狙われていて、友達の部屋に? それにしても男友達の部屋を? これじゃ「痴漢男」まるでだと思うがね。 「今日も今日とて野良稼ぎ~そこへ・・・」 「動くな。」 私が夜道を歩いていると後ろから若い女性の声が・・・。 「組織の追手か!」 「う~ん、暴力団やヤクザとは無関係だよ。 人違いだと思うがね?」 ヤクザの奥さんか愛人?それにしても・・・。 「・・・ガッ!」 後ろから殴られて私は気を失った。 「としあき、この男は昼間私に私に話しかけてきました。」 「それだけで組織の追手というのはね・・・。」 メイジが気絶させて法則しているのは隣のおっさん。30ぐらいらしいけど。 運んでこれないので最寄のもの影に放置して メイジは俺に「下へこい」といきなり言い出して着いてくれば・・・。 「とにかく怪しい人じゃ・・・。」 「盗聴器とカメラです。」 メイジは男の服から取り出したそれらを突きつけた。 「鍵を開けました。男の部屋に端末もありました、としあき。」 「これは・・・。」 それは確かに盗聴器・・・らしいものだった。 「確かか?」 「としあきは見たことないですね。そうです。これはそうです。」 使い慣れない日本語を話すメイジをよそに俺はオッサンの身なりを 調べて身分を調べてみた。 「このオッサンは俺より昔からマンションに住んでるよ。」 「この男、定職で無いですか?この歳で職安ですか?」 「いいや、【編集者】だがね?」 男は目を覚ましていたらしいが目隠しをしているので 俺たちの顔は分からないでいる。 「【編集者】?」 「マンガの編集者だ。」 「貴方、こいつはどうしますか?」 メイジが俺に指示を仰いだ。そうは言っても・・・。 まさか口封じってワケには、それでも波を立てれば組織が・・・ 「う~ん、私は放してもらえないかね?」 「黙れ。」 メイジがオッサンの下っ腹を蹴り上げる。 「メイジ!」 「貴方、私達の名前、この男に聞かれる。それ良くないです。」 「な・・・名前だけじゃ通報は無理だと思うがね?」 「そうだぞ。メイジ。」 結局おれの説得でメイジは事なきを得た。 しかしこの時、理解するべきは・・・ ピンポーン♪ 「はぁーい。」 呼び鈴で呼び出された俺を待っていたのは明らかに昨夜の男。 流石に俺も驚いて用意を始めた。 「待ってくださいねー。」 この日のためにメイジは色々用意している。 まず小型カメラ。そして刑事ドラマで「パッ」と眠らすヤツだ。 確か紫外線に当たると有毒ガスが出るとかで普段は 俺のパソコンの裏においてある。 「はいはい~。」 ドアを開けて待っていたのは昨日の男。 「なんですか?新聞なら要りませんが?」 「双葉としあき君だね?」 ゴクリ。ここで組織の人間じゃなくても通報されれば 警察が出てきてメイジも最後だ。 「私は月無(つきなし)と言う者だがね。入れてくれるかね?」 「セールスですか?」 「編集者だがね?」 タオルを構えるが、ここでどうする? クロロなんとかで眠らせてからどうする? 「安心してくれ、通報はしていないよ。」 月無というこの男。マンガ編集者でネタを得るために しきりに盗撮や盗聴をしているのだという。 信じられないが彼の話を信じるよりない。 「そこでギブ&テイクだがね。この部屋に盗聴器を・・・。」 「なんでです!いやですよ!」 「では彼女と君は何者だね?」 月無はそういって迫る。 「それは・・・彼女が特別、体に事情があって・・・ 家にいられないんです。」 「この部屋は病院かね?」 「そうですよ。」 いきなりの女性の声。桜井先生だ。 「私は医者です。」 「医者?免許はあるかね?」 「どうぞ。」 いきなりの女医の登場に編集者は臆せず詰問する。 「・・・泌尿器、肛門科?」 「列記とした外科医業ですよ。」 桜井先生が不満そうに視線を走らせる。 ひきこもりの俺に社会人と戦う語力は無い。だから先生の応援を頼んだ。 「う~ん。本物の医者かね・・・。 しかし入院もさせず、こんな最寄とはいえ普通の部屋で?」 月無の疑問は正論だった。 「私の病院は父からもらったものです。入院できる施設はないので・・・」 「では病院を紹介してあげれば・・・良いと思うがね?」 月無はなんとか「メイジは不特定多数の他人に知られたくない体の病気がある」と いっておけばどうやら納得してくれた。 「う~ん、そうだったのですか。二人は親戚だったのですね。」 「・・・。」 月無は何故か桜井先生の前で昨夜の話をしなかった。 「としあき?」 風呂上りのメイジがキョトンとした俺に話しかける。 「ああ、今日な。桜井先生に来てもらって、この部屋に昨日の夜の・・・!」 「あの男、来たのですか!」 メイジがいきなり豹変した。 「ああ、う、うん。」 「探せ!盗聴器!」 メイジは乱暴に俺を突き飛ばすと部屋中を駆け回った。 2時間後、部屋からは”電池の無い盗聴器”が見つかった。 わざとだろうか?組織の人間でない以上、処分は出来ない。 【編集者】月無・・・。得体の知れない男の登場である。