《1年目のプレゼント》  私の名は二葉寿昭。かれこれ15年ほど、小さな探偵事務所を構えている。 四十路前の独身、嫁も子も無い、と言いたいところだが、訳あって子は居る。 「ただいまー!」 「ああ、おかえりなさい、メイジ」 彼女がその訳あってここに居る子供、メイジである。生まれはブルガリア。 一年前、突然、私の前に現れ、自ら「養ってください」と申し込んできたのだ。 「アイス、アイス~~♪」 「こらメイジ、先に手を洗いなさい!それにお菓子ばっかり食べない」 「ハ~イ・・・」    こうしていると一見普通の子供だが、この平穏な暮らしを得るまでの道のりは平坦では無かった。  ふたなりと呼ばれる肉体を持つこと、組織の一員として育てられたこと、組織からの追っ手が掛けられていたこと・・・・・・。 幾つもの厄介な問題を抱えて彼女は日本にやって来た。  彼女の肉体や、身の上に由来する様々な問題や事件は、大学以来の友人月無君や、その後も何かと世話に(メイジの体のことも含め)なる 津田医院の登紀子先生の協力を得て、どうにか解決することが出来た。  それから半年、メイジは日本にも慣れ、毎日平和な日々を送っている。  そして明日、メイジが私の元に来てちょうど一年。月無君や登紀子先生も呼んで、私達はささやかなお祝いをすることにしたのだが、 私達はそこであるプレゼントを贈ることになった。  そのプレゼントの為に、私達はつい一月ほど前まで、密かに奔走していたのだ。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------  翌日。 「やあ、お邪魔するがね。メイジ君、元気にしてたかね?」 「こんにちは。お招き頂いてありがとう。メイジちゃんは元気そうね」 「こんにちは!」 「いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ」 登紀子先生とメイジが話し始めたの見て、月無君が私にこっそり話しかける。 「寿昭君、『あれ』はいつ届くのかね?」 「もうそろそろかな?パーティーが始まる前には届くよう手配してある」 「じゃあ、プレゼントはその時にかね」   それから程なくして『あれ』が届けられた。パーティーの準備を三人に任せ、私はそれを設置してもらう。設置が終わった頃には 準備はすっかり出来ており、私達はメイジにプレゼントを贈ることにした。 「さあメイジ、これは今日から君の物だよ」 「机ですか?・・・なんでまた?」 そう、『あれ』とは子供用の勉強机。そして更に、 「これもそうだよ」 「これは・・・・・・、ランドセル・・・っていうんですよね・・・?」 「そうだよメイジ。メイジはこれから小学校に行けるんだ」 「ええっ?でもわたしはもう、組織で中学校卒業程度の教育を受けています。いまさら子供と一緒だなんて」 「メイジ、学校はね、勉強の為だけに行くんじゃないよ。もちろん勉強も大事だけど、それ以外にも大切なことがたくさんあるんだ。 僕はメイジにそれを学んで欲しい」 「メイジちゃん。学校にはあなたのお友達がみんな通ってきているのよ。今は夏休みでいつでも会えるけど、前までは学校の 終わった夕方からしか、お友達と会えなかったでしょう?寿昭さんはそれを知って、なんとかして、メイジちゃんをお友達と 一緒の学校に行かせてあげたいと考えたの」  そうなのだ。私はメイジに他の子供と同じ日々を過ごさせてやりたかった。本当は四月から行かせてやりたかったのだが、ふたなりと 聞いて、学校側が難色を示したのだ。登紀子先生に診断書を出してもらったり、月無君に交渉を助けてもらったり、粘り強く話し合いを 重ね、どうにか転入が認められたのが約一月前。もうすぐ夏休みだったので、二学期からの転入になった。 「メイジ君。寿昭君はこの為に多くの時間と労力を費やしてきた。彼は真剣に君のことを案じているのだがね。それを、汲んでやって もらえないかね?」 「う、うーん・・・・・」  メイジはまだ何か考えているようだ。  だが私はなんとしてもこの贈り物をしたかった。このプレゼントを喜んで欲しかった。私はメイジの前にしゃがみ、同じ目の高さで 彼女に話し掛ける。 「メイジ、君は、今まで、とても辛い生き方を強いられてきたね。確かに、その為に君は年齢より大人になってしまったところがある。 だけどね、メイジ。それは、とても悲しいことだと、僕は思う。  子供が年より大人だなんて、それは、子供でいることを許されなかったということだ。不幸といえば子供にとって此れほど不幸なこと は無いよ。  メイジ、組織のことはもう何も心配は要らない。体のことを気にしているなら、それも心配ないよ!登紀子先生が助けてくれるから。 もう昔のことなんか忘れていいんだ!君は子供なんだよ!子供らしく暮らすのが一番幸せなんだよ!  だからもう無理しなくていい、学校に行って、いっぱい友達を作るんだ!何も苦しまなくていい!先生だけじゃない、僕も力になる。 月無君もそうだ。君は、もう、何も心配しなくていいんだよ!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウッ」 「・・・・・・・ウッ・・・・・・・・・ウッ・・・ウッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウッ・・・アァーーーー、アーーーーーー」 「アァーアッアッアッアァー・・・・・」 「うッ・・・うれ・・・・嬉し、・・・・・うれ・・・し・・・い・・です・・・・」  私は思わずメイジを抱きしめる。 「メイジ、泣かなくていい、泣かなくていいから・・・・泣かなくてもいいんだよ・・・・・・・・・・」 「ありがとう・・・トシアキさん!ありがとう!! 先生も、月無さんも! ありがとう!ありがとうございます!!とっても・・・・とっても 嬉しいです! ありがとう!」 「いいのよメイジちゃん。メイジちゃんに喜んでもらえたらそれで・・・・・・・」 「よし!メイジ君が喜んでくれたところで、一周年記念パーティーと行こうじゃないかね!!」   -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------  そしてパーティーから一夜明けた昼下がり。 「メイジちゃーん」 「メイジ、お友達が呼んでいるよ」 「ハーイ! いってきまーす!!」 「いってらっしゃい。車に気をつけるんだよ」 「ハーイ」 「あのね!聞いてください!あのね、あのね、わたし学校に行けるんです!」 「エッ本当!? 二学期から? 同じクラスになれたらいいね!」 「ハイッ」 パタパタパタパタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 話し声と足音が聞こえなくなるまで見送り、私はデスクに戻った。 「さて、と」 今日はまだ依頼人は来ない。しかし探偵仕事の第一は待つことだ。 私は今日も事務所に一人座っている。                  《1年目のプレゼント》(了) (あとがき) 初めは投下するつもりが、直前になって修正を加えたら改行がめんどくさくなり、保管庫にアップすることに としあきがもっと年齢を重ねた大人で、なおかつ組織ネタで、ラストに無事平穏な暮らしを手に入れられたら、 という想定の後日談ストーリーになりました なにせ生まれて初めて書いた小説、拙いのは許してください あと長すぎたかな?もっと詰められたら良かったかなあ、と それにこのとしあき、四十路前にしては青臭過ぎるかな 嫌いではないけど 少々解説を 女医の名前は、dat→t・da→t・田→津田、「としこ?あきこ?普通か。ならくっつけて『ときこ』→『登紀子』、決定」 というわけで「津田登紀子」になりました あと白状すると、ラスト二行はダシェル・ハメット著「私立探偵ラッシュ」という作品から少し借りました 今まで小説は読んでも、書こうとは思わなかった自分がこうして書き上げてしまったのは ひとえにメイジというキャラクターの魅力としか言えないかと また何か書いてみたいです それではまた 一周年おめでとうメイジ。ずっと続いて欲しいよ本当に。