「風邪引きさんへ」  10月3日、深夜24時。 「ゴホゴホ」  咳こむ声が聞こえる。としあきは先週から風邪を引いているのだ。二人の同居人が心配そうにその姿を見つめている。 「としあき、大丈夫なの?」 「もう寝てください。更新なんて後からでも出来るじゃないですか」 「やぁ心配してくれるのは有難いけどね…中々そうもいかなくて…それより二人共、子供がこんな遅くまで起きてちゃ駄目だよ」  結局、としあきは更新作業を終えてしまった。それを見ていた二人、メイジとノヴは顔を見合わせ、どうしたものかと思案顔だ。 としあきは「保管庫」なるものの管理人をしており、週に2、3回はこうして更新を行う為にパソコンに向かっている。 病気の時くらい休んでも良いのでは、と二人は思っているのだが、当のとしあきは 「あ~イラスト保存してない~」  と、保存し損ねたイラストのことで頭が一杯のようだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「どうしたらいいのかしらね?」 「もう、こうなったら他の人の手を借りようよ」  ようやくとしあきが寝てくれたので、二人はいかにとしあきを休ませるかの相談を始めた。 「・・・に説得・・・」 「・・・まず病院へ・・・」 「・・・さんにも・・・」 「・・・・・・・・・」  小一時間ほど話し合い、ついに話がまとまったようだ。 「よし。これでいこう!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  そして翌日。遅くに帰宅したとしあきは、思いがけない出迎えを受けることになった。 「もう、としあき!あなたねぇ、大人のくせに、子供に心配かけちゃダメでしょ?」 「あ、亜季?!なんでお前来てんの?」 「えっ?二人に頼まれたから。それよりこれから病院だから食事は帰ってからね(1)」 「えっ?病院?」 「やあ、としあき君!これから病院だがね!なに、私が車を出そうじゃないかね!」 「な、あんたまで!?」 「ふむ、ご挨拶だがね、美少女と美少年に揃ってお願いされて、聞かない訳にはいかないものだがね?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  編集者の車に乗せられ(押し込まれ?)、としあきは病院へ。向かった先はとしあきと馴染みの深い女医の医院。 おかげで時間外にも関わらず、着くなりすんなりと診察室へ通された。 「うん、どうやら、ただの風邪みたいね。良かった。じゃ、お薬出しておきますから」 「すみません。ただの風邪で・・・」 「何言ってるの。先週からなんでしょう?一週間も続くようだったら来てもらった方が良いのよ。(2)  大体、風邪で来院してもらうって言うのは、他のもっと重い病気じゃないってことを確かめる為よ?(3)  病院で病気が治る訳じゃないんだから」 「そ・・・そうですか・・・」 「ええ。だから、来院を勧めてくれたメイジちゃんとノヴくんに感謝しなさい」 「ハイ・・・・・・」 「ほらほら、先生にも、もっと感謝すべきじゃないのかね?」 「わかってるよ・・・。先生、有難うございます」 「いえいえ、お大事にね。二人と、それに亜季さんにもよろしく」 「では、帰るとするかね。家で三人が、おいしい食事を用意して、待ってくれているがね」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ただいま」 「ただいま帰ったのだがね」 「お帰りなさーい(×3)」 「としあき、どうでしたか?」 「うん、ただの風邪だって。ゴメンね、心配かけて」 「じゃあ食事にしましょう。僕たちで色々作ったんですよ」  台所から、美味しそうな匂いが流れてくる。  今夜の献立は野菜たっぷりのポトフ(4)に、同じく野菜たっぷりのかぼちゃのスープ(5)。そしてサラダ。 とにかく野菜たっぷりで、これならビタミンも十分に摂れそうだ。 「いただきまーす。・・・おお、うまい。・・・なんか悪いな・・・何から何まで・・・」 「何を言うんですか。僕たち、いつもとしあきさんのお世話になってるんですから、こんな時ぐらい・・・」 「そうです。早く元気になって下さい」 「う~ん、麗しいわねぇ。じゃ、わたしはこれで帰るけど、大丈夫?」 「わたしも失礼するがね。何かあったら連絡してくれたら良いがね」 「本当に今日は有難う」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  そうこうしつつ、三人の心づくしの料理を平らげたとしあき。すっかりご満悦の様子だ。  と、そこへノヴが台所から現れた。手にはお盆が。どうやらデザートらしい。  お盆に載せられているのは、濃い黄色が目にも鮮やかな黄桃。いわゆる「桃缶」である。新しく用意してくれたのであろうか、 精緻なカットが施された、美しいガラス皿に盛り付けられている。  甘味を思わせるシロップがツヤツヤと光り、皿の輝きと相まって全てがガラス細工のようだ。お盆も上等なのだろう、重厚な塗りが持つ 深い照りのある色が、自身に載せられた輝きを十二分に引き立てていた。 「うわっ桃缶だ。いいなぁやっぱり・・・。でも、このお皿とかお盆はどうしたの?ウチのじゃないよね?」 「はい、亜季さんや編集者さんが貸してくれたんです」 「うわぁ、綺麗~。二人とも良い人ですね」 「うん。本当にみんな良い人ばっかりだよ」 「さっ、としあきさん、冷たいうちに食べて下さい。メイジも」 「いただきまーす!(×3)」  よく冷えた、柔らかい果肉に歯を立てる。途端に、グシュリと果汁とシロップが溢れ出し、口中を満たしていく。 濃厚なのに優しい甘さが、ひんやりと口の内側を撫ぜていった。  果肉は微かに繊維質を感じさせながらあくまで柔らかく、歯と舌に従いスルスルとほどけていく。とろとろになった甘味の塊が、 滑らかに舌から喉へと滑り落ちていった。 「おいし~い!」 「すごく・・・おいしいです・・・」 「うーん。久しぶりだけど、やっぱりおいしい」 ・・・・・・・・・・・・・・・  カチャカチャ・・・  向こうから、ノヴが皿を洗う音が聞こえてくる。そろそろ、ウトウトとしてきたとしあきの耳に遠く響く。傍らにはメイジ。 「伝染るから」と言ったのだが、としあきが眠りに就くまでと言い張って、こうして座っているのだ。 「としあき、早く良くなって下さいね。やっぱりヨーグルトですよ。風邪予防に効果があるそうです」 「そうらしいね。でも、風邪薬もらったから・・・」 「ええ。一緒に取ると高血圧を起こすそうですね・・・」 「うん。良くなったら食べることにする・・・」 「ええ。毎日、わたしとヨーグルトを食べましょう。・・・・・・としあき?」  スースーと安らかな寝息を立てて、としあきは眠っている。その様子を伺っていたメイジは、やがて、静かに身を起こした。 よく寝ている。しばし寝顔を見つめていたメイジは、髪が顔に掛からないよう押さえながら、そっと顔を近づける。 としあきの頬に優しくキスをし、足音を忍ばせ、寝室から出ていった。台所に行き、ノヴの傍らに立つ。 「ノヴ、手伝いますよ」 「としあきさん、寝た?」 「ええ。ぐっすりと」  そんなやりとりを聞きながら、としあきはもう一度、目を開けた。 「メイジ、ノヴ、それにみんな・・・有難う」  そして、今度こそ、深い眠りに落ちていった。         (終) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  すいません。本当はもっと短い話にするつもりだったんですけど、やたら長くなってしまいました。 風邪引きに長文はきついだろう、と自分でも思ったんですけどね。 ひとまず、お大事に。以下は参考にしたサイトです。 (1):http://www.cocokarada.jp/knowhow/before/nagare/index.html(ここのStep.3) (2):http://www.selfdoctor.net/q_and_a/2000_11/kaze2/24.html    http://national.jp/kenko/oshiete/0601/oshiete07_1.html (3):http://www5a.biglobe.ne.jp/~imagawa/essei02/essei02-14.htm(ここの太字部分) (4):http://oshiete1.goo.ne.jp/qa1861972.html(ポトフはNo.6です) (5):http://www.k-salad.com/food/feature/016_2.shtml(スープのレシピは最後に) その他:http://takeda-kenko.jp/kirakira/vol19/kaze07.html     http://www2.plala.or.jp/kenkoukanri/kenkoutop9.html     http://www.k-salad.com/food/feature/016_2.shtml     http://oshiete1.goo.ne.jp/qa2026237.html  なんだかお節介なおばちゃんみたいかもしれませんが、参考になれば。  にんにく焼きという意見がありますが、生はダメ(酵素が胃腸に悪いのだとか)という意見もどこかで見ました。  色々言われてて、正直、よく分からないです。無責任ですが、やはり医者に聞くのがいいかと思います。 それではお大事に。しっかり養生して下さい。