小岩井いちごには秘密がある YouTuberこいっちーとしてマニアックな人気を集めていることだ この事は兄まきばとの秘密で両親も友達も知らない 休み時間いちごは動画の計画をまとめるためノートとペンを持って校舎裏にやってきた (あ、誰かいる…) いつもいちごしかいない場所に他の子がいた (江崎ぐりこさんだ…) 日焼けしたボーイッシュな女子が地面に体を丸めてスヤスヤと眠っている 「お、起きて。風邪ひいちゃうよ?」 「ふぁ~~」 いちごに起こされたぐりこがあくびをする **************** 「大丈夫なの?」 「休み時間終わったのか?」 「まだだけど…」 「そうなのか?」 またぐりこは地面に体を丸める 「冷たくないの?」 「日が温かいぞ」 「そうなんだ…」 猫の日向ぼっこのようなぐりこにいちごは戸惑う 「なんだ、もう誰かいるの」 突然声がしていちごは振り返った **************** 背後にいたのは長い髪の左目に眼帯をした女子だった 「高梨さん…?なんでここに?」 「来たら悪い?」 「そうじゃないけど…占いは?」 高梨ばにらは占いが特技だ だから休み時間は占って欲しい子に囲まれている 「そういう気分じゃない時もあんの」 そう言うとばにらは二人から少し離れた場所に座った 運動神経が良くて猫みたいな江崎ぐりこ クールで大人っぽい高梨ばにら 二人の同級生の間でいちごは居心地が悪かった **************** 学校が終わりいちごは一人で校門を出た ほぼぼっちのいちごの友達は隣のクラスの双葉メイジだけだ だがメイジには同じクラスの友達がいる メイジがその子達といるといちごは緊張して話し掛けられなくなる 学校から少し離れた所の人通りの少ない場所に来た 「こいっちーちゃん!」 「えっ!?」 突然呼ばれたいちごは思わず振り返った **************** 振り返ったいちごの視線の先にいたのは知らない男だった 「やっぱりそうだったんだ」 男のニチャアと音がしそうな笑い方にいちごは怖くなる 「ひ、人違いです!」 必死に叫んだいちごは走り出す 自宅まで走り続け部屋に駆け込むと窓からそっと外を覗いた あの男はいないようだ (あの人…私のことをこいっちーって呼んだ…なんで?バレたの?それからどうするつもりだったんだろう?) いちごはすっかり混乱していた どうしたらいいか分からなくなり家族に相談することも出来なかった **************** 翌日いちごはビクビクしながら登校した あの男とは出会わなかった だが下校の時は分からないのでいちごは気が重い 「ハァ…」 思わずため息をついたいちごの前にばにらが立った 「あ、高梨さん…」 「休み時間、昨日の校舎裏に来て。絶対だからね」 ばにらの雰囲気に圧倒されたいちごは黙ってうなずいた **************** 休み時間になったのでいちごは校舎裏に向かった 「来たね」 ばにらは既に来ていた 「あ、江崎さんも?」 ぐりこもいた 「いや、この子は日向ぼっこしてるだけだから気にしないで」 そう言うとばにらはいちごと向き合った 「ストレートに聞くけど、怖いことがあったんでしょ?」 「そ、そんなこと…」 「誤魔化さないで。あたしには見えるんだから。何があったの?話してくれたらあたしも協力する」 いちごは迷った 相談したかったが説明をしてYouTubeのことまで話していいのか迷った 「ご、ごめんなさい!」 結局話せずにいちごは校舎裏から逃げてしまった **************** 学校が終わるといちごは急いで教室を出た 気まずいのでばにらに声を掛けられたくなかったからだ そして昨日男と会った場所に来た (今日はいないよね…) 「こいっちーちゃん」 「ヒッ!?」 背後から肩を掴まれた ゆっくり振り返るとあの男がニチャアと笑っていた いちごは脚が震え今度は走れなかった **************** その頃いちごを心配したばにらが走っていた 隣にはぐりこもついてきていた 「なんでアンタまで?いつもなら男子と遊んでるじゃない」 「いちご、今日変だった!ぐりこ、いちご気になる!」 「そう。じゃ手伝って。小岩井を見つけるよ」 「おー!」 二人は人通りのない道路まで来た その視線の先に男に背を押され車に乗ろうとするいちごがいた 「待って!」   ばにらが叫ぶと男はいちごを車に押し込み慌てて発車した 「んにゃ!」 ぐりこがばにらを置いて全速力で走ったが車には追い付けない いちごを乗せた車は走り去ってしまった **************** 二人は車を見失ってしまった 大きな交差点で車がどっちに行ったか分からない 「どこ行ったー?」 キョロキョロするぐりこを見てばにらは少し考えた 「やるしかないか…」 先生にバレないように服の下に掛けていたペンダントを取り出した 紐の金具を外すとペンダントが振り子に変わる それからばにらは左目の眼帯をずらした 彼女の左目に奇妙な世界が映し出された **************** 高梨ばにらには秘密がある 彼女の左目は人の思念を色や模様として映し出す 普段は眼帯でセーブしているが外すとその能力が全開になる ばにらの右手に持った振り子が揺れ出す 全開の左目で見た大量の思念から行き先に繋がるものをダウジングで探し出す 「こっちだ!行くよ江崎」 「おー!」 左目とダウジングを頼りにばにらはいちごを追った **************** 必死に追跡を続けた二人はとあるマンションに辿り着いた ばにらのダウジングはここにいちごがいると振り子が反応している 「ここかー?」 「多分ね」 しかし問題があった 「マズイな。ここオートロックだ」 ここの住人が出入りするのを待つか けど待っている間に手遅れになるかもしれない 「入らないのかー?」 ぐりこが不思議そうな顔で言った **************** 呑気なぐりこの声にばにらはついカッとなる 「入れないんだって!ドアが開かないんだから!」 「でも入れるぞ」 「どうやって!?」 ぐりこはマンションの壁に向かって走り出した ジャンプすると壁の僅かな段差などに手足を掛けロッククライミングのように登ってしまった 二階の廊下に立つとぐりこは下にいるばにらに手を振った 「来ないのかー?」 「あたしには無理だ!…でもアンタが入れたからいいのか」 ばにらはぐりこに頼む 「いい!?そこから一階に降りて、中から玄関を開けて!」 **************** 下で二人が騒いでいる頃いちごはマンションの一室に連れ込まれていた 「驚いたなーまさか普段のこいっちーちゃんがこんな姿だったなんて」 男はニタニタ笑いながらいちごを見つめる 「わ、私はこいっちーって人じゃ…」 「だったらなんでバラすよって言ったらついて来たの?」 「そ、それは…」 「嘘が下手だね。俺には分かったよ、いつも君の動画見てるから」 「あ、そうなんですか?」 「うん。その口元のほくろを見た時ピンと来たんだ」 この時やっといちごは状況を理解できた こんなことでバレてしまうとは思ってなかった 「あの…お願いします、こいっちーの正体は秘密にして下さい」 「子供の癖にエロい動画で男に貢がせた金で食うラーメンは旨いか?」 「え……?」 **************** 「良くないよなぁ!!?」 ダン!と男が床を踏み鳴らす ビクッ!といちごが震える 「ったくさぁ!あんな男を釣るような真似していいと思ってんのか!?」 突然キレ出した男にいちごは怯える 「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」 「ごめんで済んだら警察いらねえだろ!」 「うぅ…ど、どうしたら…」 突然男は優しい声になる 「こいっちーちゃん、俺は本気で君が好きなんだよ。もうあんなことして欲しくないんだ。だからずっとここにいてよ。もうあんなことさせない。二人で幸せになろう」 そう言って男がいちごを抱き寄せた時 カリカリカリカリ 玄関のドアを引っ掻く音がした **************** 突然の物音に男はチッ!と舌打ちして玄関に向かう 「誰だ?」 ドアを半開きにすると叫び声がした 「いちごー!いちごー!いるんだろー?臭いで分かるぞー!」 「な、なんだコイツ!?」 男はうっかりドアにチェーンを掛け忘れていた そのためぐりこにあっさり部屋に入られてしまう 「いちごいたー!」 廊下からばにらが叫ぶ 「何してんの!早く出ろ!」 咄嗟に男はばにらを部屋に連れ込みドアに鍵を掛けた **************** 男は抵抗するばにらの体を持ち上げた いちごがいる部屋に戻るとばにらを床に放り出す 「なんなんだよコイツらは…」 いちごも状況が理解できない 「二人ともなんで…」 「ぐりこはいちごが気になったからだぞー」 「あたしもだよ。アンタが何かを怖がってるのは分かってたからね」 その言葉にいちごは二人を巻き込んでしまったのに気付いた ある覚悟をして男の前に座って土下座した **************** いちごは男に頼み込む 「私はずっとここにいます!だから二人を帰してあげて下さい!お願いします!」 その言葉にばにらが呆れて叫ぶ 「バカ!犯罪者が目撃者帰す訳ないでしょ!」 「で、でも…わ、私のせいで…」 「そんなんで責任取れるか!三人でここを出るんだよ!」 男は黙ってばにらに近付くと バシィ! 平手打ちをした **************** 叩かれた勢いでばにらは床に倒れた 「高梨さん!やめて!やめて下さい!」 いちごがばにらの体に被さり庇おうとする 「うるせえええ!お前らは黙って俺の言うことを聞けええ!」 バシィ!! 今度はいちごが叩かれて倒れ込んだ 興奮した男はハァ!ハァ!ハァ!と荒い息をして倒れた二人を見下ろす 男はその時ぐりこに背中を向けていた そのため男はぐりこの様子に気付かなかった **************** 江崎ぐりこには秘密がある 彼女は元野生児だ 幼い頃外国で事故に遭いジャングルで獣に育てられた過去がある 幸い保護され今は小学校に通えるぐらいになったが今でも彼女には野生の本能が残っている 「グルル…」 その本能が男を敵と認識した ガリィ! 飛び掛かったぐりこの爪が男の顔を切り裂いた 「ギャー!!」 男が悲鳴を上げ顔を押さえて床を転がる あっという間に床に血が広がる **************** ぐりこは倒れた男に飛びかかりさらに噛みついた ばにらが急いで立ち上がりぐりこを男から離そうとしがみつく 「やめろ!もういい!充分だ!」 そしていちごにも叫ぶ 「小岩井!手伝え!こいつを止めるんだ!こいつ殺しかねないぞ!」 慌てていちごもぐりこにしがみつく 「やめて!やめて!もうやめて!」 それから二人はなんとかぐりこを落ち着かせると三人で男の部屋から逃げ出した **************** 三人はしばらく必死で走り男のマンションから離れようとした 走り疲れても歩き続けいつもの通学路まで戻ってきた 「あ、あの、二人ともありがとう…」 いちごが礼を言った 「気を付けなよ、ああいうのは。今度からは素直に相談しな」 ばにらは疲れた顔で言う 二人には秘密だが左目の能力やダウジングでずっと集中していたのでクタクタだ 「ぐりこはもう帰るぞ。お腹すいたからな」 そう言うとぐりこはもう帰り出していた 背中を向けたぐりこにいちごが叫んだ 「ま、また明日!」 「おー」 ぐりこは手を振って帰っていった **************** 「それじゃあたしも帰るけど、一人で大丈夫?」 「う、うん…」 「じゃあね。また明日」 「また明日!」 ばにらも帰っていっていちごは一人になった 本当は一人は怖いがばにらの疲れた顔を見てると一緒に帰って欲しいと言えなかった いちごは周囲を警戒しながら歩き出した (そうだ。この先に大きな公園があったよね。ちょっと遠回りになるけど人通りが多い所を歩こう) いちごはルートを変えることにした **************** (賑やかだな…) ほぼぼっちのいちごはこの公園に来たことがほとんど無い でも今は人が多いことに緊張感より安心感がある 「あれ?いちごじゃない。今帰りなの?」 「メ、メイジさん!?」 偶然いちごは唯一の友達双葉メイジと出会った 「メイジさん!一緒に帰ってお願い!」 一人で心細かったいちごはメイジに抱きついた **************** 「へえ…そんなことがあったんだ」 一緒に帰りながらいちごは今日あったことを話していた メイジだけでなく一緒にいた彼女の友達二人もいたが気にする余裕は無かった とにかくたくさんの人数といたかった 「ここがいちごの家?」 「うん」 「いちご、もう心配しなくていいからね」 「え?」 「じゃ、また明日!」 「ま、また明日…」 **************** 翌日の学校では休み時間にまたいちご達は校舎裏に集まっていた 三日目だと互いに距離が近い ぐりこはいちごの膝枕で日向ぼっこをしている 「昨日はちゃんと寝れた?」 ばにらがいちごに聞く 「あんまり…」 「そう…まあ仕方ないな。親にはちゃんと言った?」 「う…まだ…」 「心配させたくないとか言ってる場合じゃないのは分かってるでしょ?」 「うん…」 「昨日は何とかなったけど大人に言うのが一番なんだからね、早く親に言うんだよ?」 「うん…」 そんなことを話しているうちに休み時間の終わりが近付いた **************** 教室に戻る途中いちご達三人はメイジ達三人と出会った 「あ、いちご!探したんだからね」 「ごめんなさい。何かあったの?」 「昨日のことは解決したから。もう安心して」 「え?それってどういう…」 「細かい事はどうでもいい。とにかくあの男はもう二度といちごの前には現れない。絶対にね」 「そうなの…?」 「うん。あ、もう時間無いから教室戻るね。今度いちごの友達も紹介してね」 そう言ってメイジ達は自分の教室に戻っていった **************** 「メイジさんはああ言ってたけど…本当に大丈夫なのかな?」 いちごの呟きにばにらが答えた 「多分だけど…大丈夫だと思う」 「そうなの?なんで?」 「説明しにくいけど、あたしには分かったの」 理由は左目の能力だがそれは言えなかった 「それよりもう教室戻ろ。時間無いし」 そう言うとばにらとぐりこが歩き出す 「あっ待って!さっきメイジさんが言ってた私の友達って…二人のことなのかな!?」 「…何言ってんの?あたしら以外いないでしょ」 「いちごもばにらもぐりこの友達だぞー」 「そっか…友達なんだ」 いちごはやっと笑顔になった ------------------------------------------------------------------------------------------------ 記念スレに出すためにいちご達のトリオを書きました 書きまくってたら長くなり過ぎたけどいいかな? 18周年おめでとう メイジちょっとしか出なかったけど