小岩井いちごはぼっちである いじめられてはいないが親しい友達はいない いつも当たり障りのない会話しかしたことがない 今週も必要最低限の言葉しか出さずに週末になった (やっと一週間終わった…) 小学校から帰宅した小岩井いちごはベッドに倒れ込む (今日も誰とも喋れなかったな…) 学校では嫌なことはないが楽しいこともない でも家に帰れば違う はずだった 去年までは (にーに…にーにに会いたいよぉ) 今年になって大好きな兄が家を出て一人暮らしを始めた 彼女は毎日寂しく過ごしている **************** 「いってきます」 「いってらっしゃい。気をつけてね」 「うん」 週末いちごは一人で電車に乗って出かけていた 目的地は隣の市に住んでいる兄が暮らすアパートだ 今日は朝から夕方までずっと一緒に過ごす予定になっている 駅からアパートまでの道はすっかり慣れた すぐに到着してチャイムを鳴らす バタバタと足音がしてすぐにドアが開いた 「いちご!もう来たのか」 「うん!来たよ、にーに!」 「ごめんな連絡はもらってたのに迎えに行けなくて」 「大丈夫だよぉ」 「まあとにかく入って」 「お邪魔しまーす」 **************** 部屋に入るとすぐにいちごは兄まきばに飛び付く 「にーに!にーに!会いたかった!」 「俺もだよいちご!」 「ぎゅーってして!ぎゅーってして!」 二人はしばらくじっと抱き合う 「満足…」 「そうか?」 「うん!一週間分のにーに成分取れた!」 「俺もだ」 いちごは学校では絶対にしない笑顔をまきばに見せる まきばはそんないちごの頭を撫でながら言った 「じゃ今週もやるか」 「うん!!」 元気よくうなづくといちごは服を脱ぎ始めた **************** 下着姿になったいちごは兄の部屋に置いてある衣装ケースを開けて服を取り出す ケースの中身は学校や家では絶対着ないギャル系ばかりだ 上にタンクトップを着ると下は脚がほとんど見えるくらいのショートパンツを履く 地味なソックスも変えてビッグシルエットパーカーを着た さらに髪をアイロンでふんわりにしてメイクまですれば完全に別人だ 見た目は完全に陰キャから陽キャに変身している 「着替え終わった?」 「うん!にーには?」 「いつでも行けるぞ。充電もバッチリだ」 「それじゃ行こっか!」 靴も厚底スニーカーに変えるといちごとまきばは手を繋いで出かけていった **************** 二人が出かけたのはいちごが前から気に入っていたラーメン屋だ そこから少し離れた場所でまきばはスマホを取り出した 「じゃ、まずは最初の挨拶から」 「うん!」 まきばが構えたスマホの前でいちごは一度深呼吸をした 「どうも~、現役JS麺系YouTuber、こいっちーです!みなさーん、ラーメン好きですかー?」 普段の気弱そうな話し方とは全然違う口調でポーズもノリノリで決める もう何度か動画は出しているので挨拶には慣れてきている 「今回はですねー、ずっと好きだったお店を紹介する動画を撮りに来ましたー」 店に向かって歩きながら説明するいちごをまきばが撮影する 「こんにちはー、今日はよろしくお願いしまーす」 ランチタイムのピークを過ぎた時間帯なのですぐに席に座れた 事前にまきばが撮影許可などの交渉を済ませているので撮影はスムーズに進む しばらくするといちごの前にラーメンが置かれた **************** 「うわー!おいしそー!」 麺が伸びないうちに素早くまきばがラーメン全体を撮影する 「それでは早速いただきまーす!」 髪の毛をポニーテールにまとめたいちごはラーメンを食べ始める スープと麺と具を一通り味わうとそれぞれの魅力や特徴をリスナーに向けて語る 普段は必要最低限の言葉しか出さないがここでは違う 大好きなラーメンについてなら何時間でも話せるのがいちごだ ただし食べている途中なので麺が伸びないようにかなりセーブして語ることに気をつける 最大の注意はキモい早口にならないようにすることだ ラーメンの魅力を語り終えたら後は完食するまでを撮る 夢中で食べるいちごの額に汗が浮かんできた 「ちょっと暑くなってきちゃったかな…ごめんねー、ちょっと脱がせてもらいまーす」 汗ばんできたいちごはビッグパーカーを脱いだ その下はタンクトップなので当然肌が見える **************** ここからまきばは注意深く撮影を進める ぶっちゃけた話こいっちーのリスナーの大半がこれを期待して見ているのだ いちごもこのことは分かってやっているがまきばは愛する妹をロリコンの目に晒したくない けれどもいちごがYouTubeを始めたのは兄とラーメン屋に行くお金を少しでも助けたいと思ったからだ このサービスシーンがあると明らかにスパチャが増えていちごは喜ぶ 妹の気持ちは尊重したいし内気な妹が初めて自分から積極的に何かに挑戦しようとしている 兄としてその願いを叶えてやることは全てに優先する 少しでもスパチャが増えるように同時に映ってはいけない部分を映さないように慎重に撮影を続ける ロリコンリスナーのこともあるがBANされては何の意味もなくなってしまう いちごが本来の自分とは真逆のキャラを演じるのに必死ならまきばもカメラマンとして必死だ **************** 「ありがとうございました!」 撮影を終えた二人は店を出た 「ねえねえ、これからどうする?まだ時間あるよね?」 いちごはまきばの手を握りながら言った 「どこか遊びに行くか」 「うん!」 いちごとまきばは手を繋いで歩き出す いちごを家に帰すまで時間はまだ残っている 今日撮った動画は今夜アップする予定だが編集するのはいちごを帰した後でも出来る それまでは二人の時間を楽しもうとまきばは思う 「ねえ、にーに」 「なんだ?」 「いつもありがとう!大好きだよ」 「俺もだよ、いちご」 ここからは二人きりの時間だ **************** それから月曜日になった 今日もいちごはぼっちである 誰かといることがないのでいちごはラーメンについて書き込んだノートを持って教室を出た どこか静かな場所で一人でノートを書こうと思ったからだ ドン! 「きゃっ!」 「わっ!」 ラーメンのことを考えていたいちごは誰かとぶつかって尻餅をついた 「ごめんなさい。大丈夫?」 顔を上げたいちごの前にいたのは金髪の少女だった (あ、隣のクラスの子だ…) 彼女はいちごが落としたノートを拾い上げた 「ノート落としたよ。中は汚れてなさそ…えっこれって…」 (ダメ!見ないで!) **************** 「…すごい!何これ何これ!」 クールそうな雰囲気の金髪少女がラーメンノートを見て興奮しだした 「あなたラーメンに詳しいの!?ラーメン好きなの!?」 「う、うん…」 「そうなんだ!私もラーメン大好き!おいしいよね!」 「あ、あなたも…?」 「うん!日本に来てハマったの!ねえ、よかったら友達になって!」 「え、ええっ!?わ、私と…?」 「決まってるじゃない!だって他にラーメンについて話せる子がいないんだもん!」 「わ、私でいいなら…いい…よ…」 「嬉しい!私は双葉メイジ!あなたの名前は?」 「小岩井いちご…」 「いちご!これからよろしくね!」 「こ、こちらこそ…!」 終わり ------------------------------------------------------------------------------------------------ いらないかと思ったけど軽く設定を書いておきます 小岩井いちご 表の顔はぼっちのラーメンマニア 裏の顔はギャル系ファッションとメイクで変装し現役JS麺系YouTuberこいっちーとして活動中 重度のブラコン いつも兄にラーメン屋に連れていってもらっていたのでラーメン代を自分で払えるようになるためYouTubeを始める 小岩井まきば いちごの兄 大学生か社会人かは決めていないが成人している 重度のシスコン こいっちーの撮影や交渉などを担当 何か新しいキャラを作りたいと思ったのでいちごをYouTuberにしたがYouTuberになった理由をお金にしてしまったのでまきばは18歳以上にするしかなかった **************** >何か新しいキャラを作りたいと思ったのでいちごをYouTuberにしたがYouTuberになった理由をお金にしてしまったのでまきばは18歳以上にするしかなかった 言葉足らずだったかもしれない まきばが18歳以上で成人になってないと駄目っていうのはいちごだとスパチャを受け取れないからです まきばがチャンネルを作ってそれにいちごが出ている動画をアップしてスパチャはまきばが受け取っているってことです