「ブルガリアショタ少年 銃とナイフと任務付き」≪第一部≫  あの日、あたしはうちの前で雨宿りする少年と出会った。  初めは偶然と思いつきだった。でも、そこから全てが始まった。   ノヴとの出会いが、あたしの日常を鮮やかに塗り替えていったのだ。  あの日、突然の雨に降られた僕は、雨宿りをすることにした。  そこが彼女の家だった。彼女は初対面の僕を家に上げてくれた。  亜季さんとの出会いが、僕の世界を根底から覆してしまったのだ。  ブルガリアショタ少年、銃とナイフと任務付き。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第1話「出会い」・亜季編 「ああ、降ってきちゃったよ…」 学校の帰りに夕立に降られ、あたしは大慌てでアパートに駆け込んだ。ところが… (あれ、うちの前に子供が居る。金髪…碧眼? 外国人ってこと? …にしても…キレーな子…  ってイヤイヤ、そんな場合じゃないな) 「あの~ええっと、キャン、アイ、ヘルプユー?(これでいいよね?)」 「あの…お構いなく…雨が上がれば出て行きますから」 「(ありゃ日本語だ。じゃ遠慮なく)お構いなくって言われてもね、子供が一人で居たら気になるよ。  ここ、あたしんちなんだけど、中で休んでいったら? しばらく止まなそうだし…」 「え…でも…」 「ああもう、子供が遠慮なんかしなくていいの!」 ちょっと無理やりだったけど、あたしはその子を引っ張り込んだ。    ◇ 第1話「出会い」・ノヴ編 どうしよう。まさかこんな強引だとは思わなかった。必要以上の係わり合いは持ちたくないんだけど。 「あの、本当に、僕は大丈夫ですから。ちょっと休んだら、すぐに出ていきます」 「そう? それより、キミはどこに住んでるの? 遅くなったし送ったげる」 「いえ、僕は今日、日本に着いたばかりですから…」 「えっ、じゃ、今日泊まるとことか決まってるの? てかご家族は?」 「一人で来ました。宿はまだ取っていません」 「ふ~、しょうがないな…じゃあ今夜はうちに泊まんなよ。キミ一人くらいどーってことないし」 「え?! でも、初めて会う人間を…怖いとは思わないんですか?」 「子供を一人泊めるくらいで? まあ最近物騒だけど…でも、行く当ての無い子供を一人で放り出す方が  気分悪い。いーから泊まってきなさい」 「あ…あの…有難うございます」 「もう、そんな気にすんなー!」 信じられない…こんなお人よしが…現実に居るなんて…でも…このあったかさは…なんだろう?    ◇ 第1話「出会い」・幕間 「よーしノヴくん。キミに日本のお風呂を教えてあげよう」 「はぁ…あの、よろしくお願いします…」 「じゃまず服を脱いでー」 「ちょ、あの、自分で出来ますから!」 「脱いだー? じゃ、あたしも入るよー」 「え、ちょっ、待っ」 「うん? どうしたいノヴくん? ハハ、照れてるの、もしかして? ハハ、このおませさんめー」 (ウウ…まるっきり子供扱い…。もうちょっと気遣ってくれても…!) 「じゃ、まず湯船に入る前に体を流してー。それからお湯に漬かるんだよー。ハーイ肩まで漬かってー」 「あ…あのなんで、こんな格好なんですか…?」 「膝の上でゴメンね。湯船狭いから…。あ、そうだ、ほら、寒かったでしょ。こうしてギューって」 「わ、わ…(せ、背中!背中に…!あ、当たっ、柔ら…!)…ウ~ン……」 「あ、まさか、のぼせちゃった!? ゴメ~ン!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第2話「幸福な朝食」・亜季編 コポコポ…トントントン…ジャー… (うん…なんの音…ん、いー匂いだー…ハレ?) いつもと違う! あたしは飛び起きた。なにが起こっているの? …あ…ノヴ!? …なんで… 「あ、亜季さん、お早うございます。…あの、冷蔵庫の中、勝手に使わせてもらいました」 「も――、そんな気ぃ使わなくていいのにぃ」 「あ、あの、冷めないうちにどうぞ」 「うん、それじゃ…いただきまーす…ん! これはなかなかいけますよ! …んー、しかし悪いねぇ…」 「いえ、いいんです。ほんの気持ちですから」 う~む、しかし本当にいける。うむ、おまけに眼前には見目麗しき美少年。食も進む。 ああ、いいなぁ~毎日こんな朝食だったら、月曜日も怖くない! …ん。そうだ、そうですよ! 「ね、ノヴくん。まだ泊まるとこ決まってないんだよね? だったら、うちに来たらいいよ!!」    ◇ 第2話「幸福な朝食」・ノヴ編 「ええ!?」 な…なにを言い出すんだこの人は! お人よしにも程がある。第一、僕には必要以上に人と係われない 理由がある。……もっとも、それは絶対に言えないのだけど…。 「ね、ダメかな? …それとも、どこか行かなくちゃいけなかったりするのかな?」 「そ…そんな、ことは…ない、ですけど…」 「じゃあいいじゃない! ホテルに泊まったってお金掛かっちゃう。あたしはなにも問題無いし!」 「…あ…あの…その…」 …結局、僕は亜季さんの勢いに負けてしまった。うなずいてしまったのだ…。 「わぁ、嬉しいなぁ! おかげでノヴくんの作ってくれたご飯もとーっても美味しいよ!」 う~ん、まぁ亜季さんが喜んでるし、これで良いの、かな? …なんで僕、こんな風に思えるんだろう?    ◇ 第2話「幸福な朝食」・幕間 「ノヴくんが来てくれるなんてとっても嬉しいよ。ところでいつまで日本に居る予定なの?」 「それが…正直、わかりません」 「そうなの? ひょっとしたら、長くなる?」 「かも…しれません…」 「う~ん、そっかぁ…。…そうだ! だったら今度の日曜、一緒に買い物行こ!」 「え? 買い物…ですか…?」 「うん! キミのお箸とお茶碗、揃えに行こう!」 「僕の…」 「うん! あたしが選んであげるよ!」 「あ…有難うございます……」 「いいってことよ~。 (フ…そしてついでに、かぁわいーいエプロンをノヴくんに…。クックックッ…我ながら名案だ…)」 「あ…あの、亜季さん…?」    ◇ 第2話「幸福な朝食」・番外編 「ほらほら、これなんかスッゴク可愛い! どう? どう?」 「あ、あの亜季さん? 今日はお箸とお茶碗買いに来たんじゃ…」 「うん、確かに両方とも買ったね。でも買い物はまだ終わってないんだなぁ」 「はぁ…。それでなぜエプロンを?」 「だってさ、家事当番も決めたんだし、これぐらい贈らせてよ」 「それは良いんですけど、これ、女物じゃ…」 「まぁまぁ細かいことは言いっこなし。男女差別はイカンよ? おっ、これなんてどう?」 結局、僕はそのエプロンをつけて家事をすると、約束させられてしまいました。 胸から膝下まで覆う真っ白なロングエプロン。肩紐、胸元、裾と見事なフリルがあしらわれ、 亜季さんは「これで衣装を揃えたら、立派なメイドさんになれるね」と凄く良い笑顔をしています。 メイドさんは考えものですが、折角贈ってくれたのだから、せめて家事の時くらいしてみようかな? と思いました。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第3話「それぞれの朝」・亜季編 「亜季さん。朝食の用意が出来ました」 「あぁ今日はノヴくんの当番かぁ。いやぁキミのおかげで、すっかり楽させてもらってるねぇ」 「僕はいいんですけど、亜季さんもあまり手抜きしないで下さい。昨日だって…ハァ」 「いやぁゴメンねぇ。でもさ、徹夜でレポート書いてたんだよ? その点は考慮してよね」 「前々からやっておかないのがいけないと思います」 「おお、美味しそうだねぇ、いっただきま~す」 「ハァァ…」 ついお小言は無視してしまったが、これでも彼には感謝しているつもりだ。 一人暮らしを寂しいと思ったことはない。ただ、なんとなく日々が味気ないだけだった。 そんな毎日が、彼が来て以来、どこかしら楽しみに思えるのだ。 「ホラ~早く食べよ。冷めちゃうよお?」 「はい…いただきます」    ◇ 第3話「それぞれの朝」・ノヴ編 「じゃ、いってきま~す! お留守番よろしくね~」 「いってらっしゃい。……ふぅっ、亜季さん行ったな…。さてと…」 亜季さんのスクーターの排気音が聞こえなくなるのを待って、僕は行動を起こす。 愛銃のジェリコ941を右のヒップホルスターに。これには.40S&W弾が13発込められている。 更にダガー(F・S)のエッジを改め、ホルスターの前に取り付けたシースに差し、コートを羽織る。 これで出掛ける準備は整った。日本で銃撃戦は起きないと思うが、この任務は相手が相手だ。 何しろ、No.11の僕が、No.5の姉さんを連れ戻さなくてはならないのだから…。 「姉さん…何処に居るんだろう」 「ハァァァァ………」 …結局、この日も姉さんに繋がる有力な情報は得られず、僕はため息と共に家路に就く。 「しまった! 今日は夕飯の買い物もしなくっちゃ! あぁ、スーパー、なんか残ってるかなぁ?」    ◇ 第3話「それぞれの朝」・幕間 PM9:00 都内某所 「お兄さん! どう!? イイ娘いるよ!」 「うるせ! こっちは仕事中だっつうの。…あ、ちょっと兄貴、待って下さいよォ…」 「お前が遅ぇだけだ…」 「ス、スンマセン…。あ、あの、でも、ホントに居るんスかねぇ…『金髪のガキ』…」 「知らん! …だがな、得体の知れねぇ奴が、勝手にヤク捌いてンのは確かなんだ、見過ごせるか」 「そ…そっスね。…ウシ、気合入れて探してきまっす!」 同刻 亜季の部屋 「エ~なんと言いますか…一日学校で講義受け、更にバイトでへとへとになって帰ってきたら…」 「す、すみません! 本当に、すみません!!」 「フフ…。じょ~だんよ。たまにはこんな時もあるよね。ノヴくんが用意してくれたんなら、  出来合いのお惣菜でもきっと美味しいよ」 「亜季さん…」 「さ、食べよ! あたしもうお腹ペコペコなんだよぉ~」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第4話「街の風景」・亜季編 「うーん、こうして昼日中からぶらぶら街をそぞろ歩きってのも、たまにはいいわねぇ」 たまたま休講が出て、午後の時間がすっぽり空いてしまったあたしは、街をぶらっと歩くことにした。 飛んで帰ってノヴと遊ぶのもいいかと思ったのだが、その前にちょっと歩くのも悪くないと思ったから。 「はぁ~、良いお天気だ。ううん一人でぶらぶら歩きも良いけど…やっぱノヴも居て欲しいなぁ…おっ」 あたしの前をお姉ちゃんと弟と思しき二人が通って行く。お姉ちゃんの方はあたしと同じか少し下? 弟の方は小学校の低学年くらい? まだまだ甘えてくれるのか、手をつないで、それはそれは嬉しそう。 「よし。決めた! 今度の休みはノヴと街歩きだ。もちろん手をつないで! うん、決まりだ決まりだ」 また良いことを思いついて、あたしは足取りも軽くなる。スキップでも踏みたくなるがそれは自重。 でも、ノヴとだったらいくらでも踏みたくなるなぁ。そうだ。ノヴにお菓子でも買って帰ろう! お日様も明るくて、そろそろ冬も本番だけど、あたしはぽかぽかあったかい。    ◇ 第4話「街の風景」・ノヴ編 亜季さんを見送り、今日も僕は街へ出る。任務の為に。 やはり裏の人間と接触して…ちょうどそんなことを考えつつ、繁華街を裏道に入ったその時だった! 「この野郎――!!」 しがみついてくる腕をなんとか躱してサイドに回り、左手で相手の腕を押さえつつ、ナイフを抜く。 右手のナイフを喉元に押し付けて仰け反らせ、膝裏を蹴り込んで崩す。倒しながらコントロールし、 うつ伏せにして押さえ込む。急いで周囲を警戒すると、更にもう一人の男が現れた。 「ふん。やるな…」 「あ、兄貴ぃ」 (この人…かなり…) 押さえ込まれた手下(?)には目もくれず、問答無用で第二の男が襲い掛かってきた。手には匕首。 踏み込みの鋭さ、速さ。迷いの無さといい、匕首捌きといい、一級だ! まずい! しかし何故……。    ◇ 第4話「街の風景」・幕間 一台のスクーターが夕闇の中を疾駆する。法定速度、一時停止も無視して壮絶な勢いで突っ走る。 運転するのは亜季。夕方帰ってきたノヴを見た結果だ。 「ほ、ほほほほほほ、ほっぺから、ち、血があああぁぁ!?!!??」 「あ、もう止まってます。それに皮一枚ってとこですから」 「びょ、病院! 病院行くよ! 今すぐ!!」 時を同じく、先ほどの繁華街。 「違うって…なんで兄貴は、あのガキが『金髪のガキ』じゃねぇって分かるんスか?」 「フゥッ…いいか。俺達が捜している奴は、今まで手がかり一つ残しちゃいねえ。つまり自分がやってる  ことがヤバイことだって分かってて、かつ用心深いってことだ。そんな奴なら誰かに襲われることにも  備えているハズ。だがアイツはあの時一瞬、戸惑いの色を浮かべた…。つまり、そういうこった」  「…………あッ。なぁるほどォ! さっすがは兄貴、鋭い!」 (だが…あの一瞬…瞬き一つ程の間に、アイツは冷静さを取り戻した…。相当な奴だな…) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第5話「七志野医院」・亜季編 なんてこと! ノヴの可愛い、綺麗な顔に傷!? 冗談じゃない! 跡が残ったりしたらどうする!? あたしはスクーターをブッ飛ばし、子供の頃からお世話になってる医院にノヴを運んだ。 なんかパトカーが騒いでたけど、気にせず突っ走った。 「先生! 傷は、傷はどの程度なんですか!? まさか縫うとか縫うとか、跡が残るとか!?」 「亜季さん、落ち着いて。そんな深い傷じゃありません。せいぜい皮一枚といったところですよ。  跡なんて残らないくらいの、放っておいたって綺麗に治るくらいのものですから」 「ほ、本当に? 本当にですか!?」 「ええ。ですから安心して下さい」 「良かった~~。ノヴくん、良かったね。大したことないって」 「ところで亜季さん。ノヴくんは初診だし、今後のことも考えてちょっと問診をしておきたいんです。  少し、時間が掛かるので、待合室で待っててもらえますか?」 「え? ええ? なんで追い出すんですか? 別に、一緒に居たって…」 「はっきり言って、あなたが居ると騒がしいんです。さあさ、行った行った。病院内ではお静かに!」 「そ、そんなぁ~。とっしーせんせ~い…」    ◇ 第5話「七志野医院」・ノヴ編 「さて、と…」 亜季さんを追い出し、こちらに向き直った先生は先ほどまでとは全く違う雰囲気を醸し出していた。 それまでは、ほんわかとした穏やかな感じだったのに、今は冷徹な、鋭い眼光を放っている。 まるで、組織の人間を見ている様だ……。 「ノヴくん。単刀直入に聞くわ。あなたはプロね? そしてその傷はヤクザとやり合った結果。違う?」 「な、なにを言うんですか…」 「その頬の傷。とても見事な切り口だわ。もっともそのお陰で綺麗にくっ付くでしょうけどね…。  まあそれはさておき、それだけの腕を持つヤクザと言えば、わたしの知る限り一人だけ…。  そいつ、最近も来て言ってたわ。何者かがシマを荒らしている。正体は不明だけど、僅かな目撃談から  ソイツは『金髪のガキ』と呼ばれている…」 「それが、なんだって言うんですか?」 「あなたはただの子供じゃない。隙の無い身ごなしや目の動きでそれが分かった。それでこれはわたしの  勘だけど、あなたはその、『金髪のガキ』となにか関係がある……。違うかしら?」    ◇ 第5話「七志野医院」・幕間 PM9:00 亜季の部屋 「ね、ノヴくん。先生になに聞かれたの? まさか変なことされてないよね? ちょっと様子へんだよ」 「いえ。大したことは聞かれてません。…ホントに、なんでもありませんから」 PM10:00 事務所内 「クソォッ!! またか! やっぱり、今まで通りなのか!?」 「ハ…ハイッ! やっぱりイッちまってます。もう廃人寸前らしいっスよ。……あ、兄貴、やっぱ、ヤク  かなんかっスかね?」 「知らん!! くそぉ…『金髪のガキ』…これで、もう三人も若ぇのがヤラれた…。もう許せん…!」 同刻 どこかの部屋 「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」 「どうしたの、メイジ? 普段ならもっとじゃない?」 「五月蝿い! なんでもありません! (なんで、この男は…! さっきの小うるさい奴は三十分足らずで堕とせたのに…! なんで…!?)」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第6話「すれ違い」・亜季編 「ノヴくん、今日も出掛けるの…? 戸締りと火元、気をつけてね…。じゃ、いってきます…」 あの日から、ノヴとの間には微妙な空気が流れている…。 ノヴが怪我をして帰ってきたあの日。淑恵先生のとこから帰ったあと、ノヴの様子が変わってから…。 あの日以来、ノヴはあまり笑わなくなった。 いつも何か考え事をしている様で、思い詰めている様にさえ見える。 そして、あたしは気が付いた。あたしは、ノヴのことを何も知らない……。 確か、ブルガリアから来たって言っていたけど、なんの為に日本に来たとか、そういったこと全部……。 短い間だけど、ずっと一緒に過ごしてきたのに…! あたしは、ノヴのこと、ちゃんと見ていなかったってこと? 「話そう…。ちゃんと。正面から。ノヴ自身のこと、これからのこと…。きちんと話すんだ」    ◇ 第6話「すれ違い」・ノヴ編 「亜季さん…元気無さそうだったな…」 亜季さんの事を気に掛けながらも、僕の足は止まることなく歩み続ける。 あの女医に教わった住所を目指して。彼女の手紙を携えて。 あの日、彼女は僕に告げた。自分が橋渡しをするから、ヤクザ達に手を貸して欲しいと…。 半信半疑と言えば確かにそうだった。だが、未だなんの情報も無い以上、乗るしかなかった。 なのに…。これから、ヤクザの事務所を訪れようというのに、思うのは亜季さんのことばかり。 彼女、僕のことを気にしていた…。それを思うと胸が痛む。こんなこと、初めてだ…。 どうしたんだろう、僕は…? 今まで、感情を抑える訓練も十分積んできたこの僕が…。 様々な任務をこなしてきた中で、多くの人を騙し、欺き、討ち取ってきたこの僕が…。 「話したい…全てを…。じゃないと、一緒に居られないよ…! あれ? 僕は、何を考えて…」    ◇ 第6話「すれ違い」・幕間 AM8:00 七志野医院 「ノヴくん…。身勝手言ってゴメンね…。この街の治安は、この街の人間が守るべきなのに…」 PM12:30 学内 「ノヴ、いつ帰ってくるかな…? 話すんだ。絶対、ちゃんと話すんだ」 PM2:00 事務所 「な、なに!? それ、マジか? こりゃ兄貴に知らせねぇと!」 PM3:00 事務所の前 「ここだ。さて、と…。上手く話をつけられるかな?」 PM8:00 どこかの部屋 「フフ、上手くいくかしら? それよりそろそろアイツ帰ってくるかな? アイツの甲斐性無しの所為で  クスリを捌かなくちゃならなくなったんだもの…。せめて夜の相手くらいしてもらわないとね…フフ」    ◇ 第6話「すれ違い」・番外編 PM1:00。 高速道路を走る一台のクルマ。相当なスピードを出しているのだが、驚くことに、ハンドルを握るのも、 助手席で腐っているのも制服姿の若い婦警だ。 「ちくしょう…。クレイジーだな、全く!」 「フフ。ご機嫌斜めですね♪」 「当たり前だ! アタシらのこの街に、今なにが起きてると思う!?」 「フフ…。私だって気にならない訳じゃないですよ? でも、文句を言っても始まりません♪ だから、  こうして気晴らしに出たんです♪」 「! ハァッ…」 毒気を抜かれたか助手席の女は黙り込み、車内に沈黙が流れる。 それを破ったのは運転席の女だった。 「ハァ…でも確かに困りましたね。この街の麻薬の流通量…。最近、明らかに増加しています」 「だろ!? 麻取もそうだが、組織犯罪対策の連中も頭抱えてるらしいゼ。なんでも組を通さず捌くヤツ  が居て、その筋の連中が殺気立ってんだとサ」 「ええ。私も聞きました。確か、『金髪のガキ』とか呼ばれてるんですよね?」 「ああ。信じられねぇけどな…。だけど実際、未成年者にもクスリを使うヤツが増えて来た…。チィッ、  クレイジーなことになって来たゼ…。なぁ。これはアタシら少年係としても見過ごせねぇだろ?」 「フフ…きっとそう来ると思ってましたよ? フフッ。これはもう私達の出番ですね♪」 「そうだな。この街の治安はアタシらが守るんだ」 「フフ。じゃ、景気付けにちょっと、トばしましょうか♪」 車体を軋ませ、クルマは加速する。走り屋気取りの小じゃれたクルマまでもが道を譲る勢いだ。 警官が運転しているとは思えないエキゾーストノート。うららかな昼下がりを打ち砕く。 その轟音は、まるで二人の昂ぶる想いを代弁する咆哮だった。 (第一部・完) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ノ「さて、今までほぼ毎回投下されてきた『ブルショタ』ですが、ちょっと一息入れたいとのことで第一部・完となりました」 亜「なんか打ち切りっぽいですけど、ペースを落とすだけで、必ず完成させると言っています」 ノ「まあ、そもそもスレ立てを続ける以上、逃げ場はありませんけどね」 亜「全くね。あ、ところでノヴくん、他にもなにかことづかってたんじゃなかった?」 ノ「そうでした。第3話・ノヴ編中の『ダガー(F・S)』という言葉についてです。どうしても説明したかったけれど、字数がいっぱい   になったんだとか。このナイフについては第二部中で改めて触れるそうですが、ここで先に簡単にやっておきたいんだそうです」    亜「フ~ン。なんかグダグダっぽいね~」 ノ「まあそう言わずに…(苦笑)。このF・Sというのはフェアバーン・サイクスの頭文字で、ウィリアム・エワート・フェアバーンと、   エリック・アンソニー・サイクスの二人が開発した戦闘用ナイフのことだと説明したかったんですね。まあ知ってる人も居るでしょう   けれど…」 亜「あ~、フェアバーン・サイクス。…確かに長いね」 ノ「この二人はCQBやCQCとの関連で知ってる人も居るかもしれません。併せて調べてみるのもおもしろいかもしれませんね」 亜「へ~そうなんだ…。あれ? なんか時間押してるっぽいよ」 ノ「じゃあそろそろこの辺で…」 亜「それではみなさん、第二部で再びお会いしましょう」 ノ&亜「お楽しみに!!」 (終)