―――――目を覚ますと、外はもう明るくなっていた。時計を見れば午前5時、日が上った直後というところか。 身体を起こす。布団が体の上を滑り落ち、一糸纏わぬ自分の体が現れる。あれ、なんで私は裸なんだ? そこまで考えて、脳裏にフラッシュバックする昨日最後に見た映像。風呂・メイジ・そして…… 「あ……」 ぼ、と瞬時に顔が赤くなる。それこそ小さい頃に親父のを見た事くらいはあるが、あんな臨戦体勢に入ったモノを見るのは初めてだ。 確か、風呂場にあったメイジの衣服は全て女物だった。着替えを含む生活必需品を買った時、メイジが選んでいたものも。 女装趣味……? あんなモノがある以上それが一番ありそうな線だろうが、記憶の片隅に残るメイジの裸には、男性器の他にあるべき男の象徴…… 袋が無かった気がする。どういうことだろう……? と考えをめぐらせていると、部屋のドアが開く。 一瞬どきりとしたが、入ってきたのが2m近い巨躯の白髪の人物……叔母さんであることに、我知らず安堵の溜息を漏らす。 「アキちゃん、だいじょぶ? 頭とか、痛くない?」 心配そうに眉根を寄せる叔母さん。風呂に入っている時に気を失ったのだから、風呂の縁にでも頭を打ってはいないかといわれて気がついたが、 特にそういうものは無いようだ。恐らく、メイジが倒れないように支えてくれたのだろう。あるいは、メイジにもたれかかるようにして気を失ったのかもしれない。 「特にそういうのはないみたい。でもまあ、後で病院に行ってみる。その方が、叔母さんも安心できるでしょ?」 「うん……そういえば、メイジは?」 「疲れもあるんだと思うけど、今は私の部屋で寝てる。ベッドは今日の昼届くから、今は寝るところ無いし……ほんとに、大丈夫?」 まだ心配そうな叔母さんを見て苦笑し、先ほどまで疑問に思っていた事をぶつけてみる。 「ところで、叔母さん……メイジのことなんだけど」 その問いに、叔母さんがぴくりと反応する。どうやら、何かしらの事情を知っているらしい。 「……アレの……おちんちんのこと、だよね」 いつも明るくストレートに物を言う叔母さんには珍しく、言いよどんでいる。まあ、事情が事情だ。 頷くと、少し思案した後に口を開いた。 「言うのは良いけど……アキちゃん。メイジちゃんを、嫌わないでくれる?」 「絶対に、とは言えないけど……メイジにも事情があるんだろうし、それにそもそも発端は私のせいだし」 その答えに叔母さんはまたも考え込み、少しの後、私に今に出てくるように促した。 着替え、居間のテーブルを挟んで、叔母さんと向かい合う。 叔母さんはいつになく神妙な表情だ。正座をして、真っ直ぐにこちらを見据えている。 「アキちゃんは、メイジちゃんは男だと思う? 女の子だと思う?」 そんな事を聞いてきた。 「女の子、じゃないのかな。袋の方が無かった気がするし……」 「うん、それでいいの。一応、メイジちゃんは女の子。染色体だか遺伝子だかが普通とはちょっとちがくて、あんな体になっちゃってるけど……」 成程、半陰陽、俗に言うふたなりと言うやつか…… 人間社会と言うものは、往々にして普通と違うもの、大勢の多数派と異なるものに関しては意外に非情だ。 そんな社会でメイジのような体の少女が普通の生活を送るというのは、中々に難しいものがあるのだろう。 そんな事を考える私の様子を伺いながら、叔母さんは話を続ける。 「あの子は今まで、たくさん辛い目に合ってきてるから……せめて、私達くらいは力になってあげたいの。  あの子には、私みたいになってほしくは無いから……」 言いながら、叔母さんが辛そうに俯く。そういえば、叔母さんもアルビノという身体のせいでここで暮らし始めた当初は色々あったらしい。 同じような境遇だからこそ、引き取ろうという気になったのかな…… 「……別にさ、メイジの性別がどうだとか、ふたなりだからこうだとか、そんな事で今更ぐだぐだ言う気は無いよ。ただ……」 「ただ?」 「心配なのはメイジだよ。事情を知ってる叔母さんならともかく、事情を知らなかった私に見られたって事は、結構堪えると思う。  その辺りは一度話し合う必要はあるよね」 「…………そだね」 こうは言ったものの、内心結構動揺していたりする。そもそもそういう人物に会うこと自体が初めてだし、 あんな事があった後どんな顔して会えば良いのかなんて全然分からない。 こんな時ばかりは自分がただの少女である事が恨めしい。真面目な話、私みたいなのが声をかけたとしても薄っぺらい慰めにしかならないのではないだろうか? 「アキちゃん、悩んでる?」 「……うん」 多分、メイジは私を避けるだろう。謝ろうにも、何か伝えようにも、彼女が心に抱える闇を、私は知らない。 そんな風に陰鬱になっていく思考をとめたのは、叔母さんの一言だった。 「多分、かける言葉が見当たらない、ってところかな。でもさ、アキちゃん。言葉なんて、いらないと思う」 「……え?」 何を言っているんだろう、と思った。よく分からない事を言い出すのは、いつもの事だから。 「言葉なんてかけなくて良い。謝罪の言葉なんて考えなくて良い。ただ側にいて、頭でも撫でて上げればそれで良いんだよ」 「叔母さん……」 本当にそんな事で良いんだろうか。言葉にしなければ、伝わらない事も多いのに。 「言葉にしなきゃ、伝わらない事もある。大体はそうだけど、言葉にしちゃ、伝わらない事もあるよ。言葉にしない方が、よく伝わる事が。  だからアキちゃん、これからはできるだけメイジちゃんについててくれない? 一緒に居てあげて、ここに居てもいいんだよって、教えてあげて。。  それは多分、メイジちゃんのことを良く知らない、アキちゃんにしかできないことだから」 「…………」 この人は、時折こういうことを言う。そしてそれは概ね、私の胸を突く言葉であったりするのだ。 「……分かった、そうしてみる。けど、叔母さんはどうするの?」 「んー、そだね、お散歩してくるー。今ならあんまり日差しもきつくないから」 そういって、ささっと白・白・白(一部黒)の完全防備に日傘といういつものスタイルに着替える叔母さん。 そうやら、最初からそのつもりだったようだ。 「それじゃ、行ってらっしゃい。朝ごはんまでには戻ってきてね」 「ん、おっけー」 ばたん、と居間のドアが閉まり、私一人が残される。 さて、メイジのところにいって寝なおすか……メイジが起きる前に起きられるかな。…………まあ、なるようになるか。 そんな事を考えながら、私も居間を後にする。 叔母さんの部屋に入ると、床に敷かれた布団の中でメイジが眠っていた。叔母さん用の布団と言うこともあり、かなり大きい。 なんだかんだで気を張っていたのだろう、メイジの眠りは深いようで、近づいたくらいでは覚める事は無いようだ。 その時、脚に何かが当たり、軽く蹴飛ばしてしまう。目を向けるとそれはメイジのトラベルバッグで、 口が開いていたのか蹴飛ばしてしまった拍子に中身が零れてしまっていた。いけない、戻さなければ。 「眠いとこれだからな……中身、壊れたりしてないかな」 言いながら、こぼれた中身を拾い上げる。1つは油紙に包まれたL字の物体。何やらずしりと重く、手に触れる感触からは何となく嫌な予感がする。 落ちた時にめくれたのか、油紙の隙間からは何か黒色の金属が見える。なんだろう、これは。だめだ、見るな。本能が警鐘を鳴らすが、 私は何かに突き動かされるように油紙をめくっていく。そして、包装を解かれたそれは……銃、だった。 洋画などでよく見る自動拳銃と呼ばれる類のそれは、そういうものに関しては疎い私にすら感じ取れる異様な存在感を発していた。 「なんだ、これ……モデルガン、だよね。こんなもの、持ち込めるわけ無いし……」 力なく笑いながら、自分にそう言い聞かせる。そうだ、多分コレは精巧に作られたモデルガンなんだろう。 メイジにそういう趣味があるとは思わなかったが、随分と本物志向なんだな…… ごまかしにすらなっていないのは自分でも理解できる。しかし、仮に本物だとして、どうしてメイジがそれを持っている? 秘密結社の暗殺者……いまどきのライトノベルにでもあるような設定だ。そんなもの、現実にあるわけが無い。 必死にそう言い聞かせ、震える手で包装を元に戻していく。バッグに戻す時、中にマガジンのようなものが見えた気もしたが、 マガジンのあるモデルガンなんてザラだ。たいして気にすることでもない。 他に何か落ちていないかと思って見回すと、小さなビニール袋が数個落ちているのが見えた。掌に乗る程度のもので、中には何か白い粉が入っている。 さっき見た銃との組み合わせでさらに嫌な想像が脳裏を駆けるが、黙殺する。胃薬とかの類だろう、多分。いや、そうに違いない。 ビニールの子袋もバッグに入れて部屋の隅に退ける。なんだか、ただ落ちたものを拾うだけなのに激しく疲労した気がする。 深く溜息をつき、メイジを起こさないよう気をつけながらその隣にもぐりこむ。その直後、メイジが寝返りを打ってこちらを向いた。 人形のように整った顔立ち、ゆるくウェーブのかかった金色の髪。よく子供の寝顔が天使だと言うが、メイジの寝顔は本当に天使のように見えた。 何とはなしに手を伸ばして、頬に触れてみる。手入れには気を使っているのか、本当にすべすべで柔らかい。 そして、叔母さんが言っていた事を思い返す。―――たくさん辛い目に合ってきてるから……せめて、私達くらいは力になってあげたいの。――― あれはメイジが半陰陽であるからだと思っていたが、どうやらそれだけではないようだ。 それにしても、叔母さんは本当に何者なんだろう。多分、メイジが世話になっていたというのだから何かしらで関わってはいたんだろう。 そして、私の父さんも……いや、やめよう。多分、気にしてもろくなことは無いだろうし、そもそも気にしたところで問題が解決できるわけもない。 今大事なのは、メイジの居場所を作ってやる事だ。するべきことも、できることも、私にはそのくらいだろう。 メイジを軽く抱いて身体を寄せ、眠りにつく。目を覚ますまで、メイジが眠っている事を祈りながら。 目を覚ますと、横にはまだメイジがいた。私より先に目覚めていたらしく、こちらをじぃ、と見つめている。 「あ……おはようございます」 「おはよう、メイジ。寝顔、見られちゃったかな」 そういって苦笑すると、「私も見られちゃいましたし、おあいこですね」、とメイジも苦笑する。 ひとしきり笑いあうと、寝転がったままメイジの頭に手をやり、手櫛で髪を梳いてやる。 さらさらした感触が気持ちよくいつまでもこうしていたい気もするが、適当なところでやめてメイジと視線を合わせる。 「ねえ、メイジ?」 「は、はい?」 若干緊張した面持ちで、メイジ。 「昨日はごめんね。いきなり入ってきて、あんなことになって」 「あ、いえ、あれは、その……」 顔を赤くして縮こまるメイジの頭を撫でてやりながら、言葉を続ける。 「まあ、持って生まれたものはどうしようもないし、周りと違うっていうのはそれだけで引け目を感じる事だと思う。  でも、少なくともおばさんは気にしないし、私もそうできるように努力するよ。だから……まずは仲良くなろう。  事情を詳しく話してくれるのは、それからでいいからさ」 最後に軽く抱き寄せると、応える様にメイジもぎゅ、としがみ付いてくる。 あやすように頭を撫でてやろうとしたときに、ふと視線を感じてドアの方に顔を向けてみる。 「…………取り込み中?」 叔母さんだった。思わず固まってしまう私とメイジ。 「お、叔母さん……いつから、見てた?」 「んと……寝顔どうこうってあたりかな」 「……見てたんなら言ってほしかったよ」 顔が赤くなっているのが鏡を見ずとも分かる。そのくらい顔が熱くなっているのを感じながら、布団を頭から被る。 少なくとも、今は叔母さんに顔を見られたくは無い。 「ねー、アキちゃんアキちゃん」 無視。 「アキちゃんってばー」 無視。顔なんか出せるもんか。 「じゃー、そのまま聞いてー」 何だろう、朝ごはんを要求しているのではないようだが…… 「メイジちゃん、オちてる」 おちてる? オチテル、落ちてる……あ。 はっとして胸元に目を落とすと、私の胸に顔を埋める形でメイジを強く抱きしめている事に気がついた。 なんだか、動きも緩慢になってきている気がする。 「め、メイジ!」 「お、お花、畑、が……」 慌てて布団を跳ね除け、メイジの様子を伺う。意識が遠のいているのか虚ろな視線で宙を眺めてはいるが、それ以外は特に問題は無いようだ。 しかし、どことなく幸せそうな表情なのは何故だろう? 「やー、おっぱいで窒息だなんてマンガみたいな事が目の前で起こるなんておもわなかったねー」 「いや、それは、その……」 メイジを離し、布団に横たえる。ゴメンメイジ、マジでゴメン。 「ところでアキちゃん、おなかすいたー。ごはーん」 「……はいはい。じゃ、メイジは頼むよ?」 「ん」 ふう、と溜息を一つつき、部屋を出る。部屋を出る直前、メイジのほうに振り返って、呟く。 「どうなるかなんて分からないけど……退屈だけはしそうにないよ。これからが楽しみ、かな」 メイジに呟きが聞こえているかどうかは分からなかったけど、寝かされているメイジの頬が少しだけ、緩んだ気がした。 そして、正午。私はメイジと一緒にある場所へと向かっていた。昨夜風呂場で気絶したとあって、叔母さんが「とりあえず病院!」と強く主張したためだ。 あの人は少し心配性すぎるところが玉に傷だよなぁ、と思いつつ、横に並んでついて来ているメイジを見る。 さっきうっかり落としてしまったが、なんともないようだ。まあ、そのせいもあってメイジもついてくることになったのである。 「締め落とした私が言うのもなんだけど、大丈夫?」 「まあ、なんとか……あの、ところで」 「ん?」 メイジは後ろを指差す。10mくらい離れた電柱の影に、傘をかぶった2mほどの白い人影がいるのだ。 当人は隠れているつもりらしいが、その巨体を隠せるほど電柱は太くは無い。 「ああ、アレは突っ込み待ちだから声かけちゃだめだよメイジ。あの人、その気になれば私なんかに気付かせもしないくらいのことは出来るんだから」 「えーと……」 苦笑を浮かべるメイジ。人影は明らかにショックを受けた様子で少しの間しょぼくれていたが、へこたれては居ないようで再び立ち上がった。 「むしろほっといた方が面白いし」 「いいのかなぁ……?」 いいんだ。甘やかすと付け上がるから。 「しかしあれだよね……何処も悪くないのに病院行くってのもおかしな話だよね。叔母さんには行くって言ったけどさ」 「それはそうですけど……」 後に聞こえるように、わざと声を大にして話す。案の定、人影はぴくりと反応してこちらに耳を澄ましているようだ。 ふふん、と悪戯っぽく笑い、メイジに目配せ。メイジは一瞬逡巡した後、おずおずと頷く。 「どっか、ファミレスとかにでも行こうか。叔母さんが常連の店がこの先にあるんだよ。叔母さんにはナイショで2人で食べに行こう?」 「そ、そうなんですか? 是非とも行って見たいです! でも、良いんですか? アキオさんも呼んだほうが……」 ちらちらと後を見ながら、苦笑しつつメイジ。人影はぱたぱたと落ち着かない様子で、こちらに出てきて混ざりたいのを 必死に我慢しているように見える。ちょっと面白いのでもう少しいじめてみよう。 「いいのいいの。ここにいない人に気を使ったってしょうがないし。美味しいの、2人でいっぱい食べようか。叔母さんにはナイショで」 人影はぷるぷると震えながら何やら屈み込んだ。いかん、やりすぎたか―――と思った瞬間、視界から人影が消えた。 あれ? どこに、と首を巡らせるより先に、メイジが横で叫んだ。 「アキさん、上です!」 反射的に上を見上げた私の目に映ったのは――――――2m近い白づくめの巨体だった。 スローモーションのようにゆっくりと降下してくるそれを見つめながら私の脳裏をよぎったのは、 ―――ああ、猫が道に飛び出して車に轢かれるときに動かないのは思わず思考が停止しちゃうからなんだろうな――― という、どこか他人事な独り言だった。 「えと、その……ごめんね?」 たまりかねた叔母さんの体当たり(というか、フライングボディプレス)を受けてから少しして、私達はファミレスにいた。 「まあ、私達もちょっと悪乗りしちゃいましたし……」 「だね。まあ、おあいこと言うことで」 パフェをぱくつきながら、私達も謝る。叔母さんはリアクションが面白いからついからかいたくなるけど、 反撃が2m近い巨体から繰り出されるから本人にしては軽くぽかすかやってるつもりでもこっちにとってはかなりのダメージを受けるばあいがあるために からかう場合は覚悟しなければいけない。それを失念するとは、私もまだまだのようだ。何に対してまだまだなのかは自分でもよく分からないが。 ちらりと横のメイジを見る。クリームいっぱいのパフェをにこにこ顔で頬張っていて、見ているだけでこちらも微笑ましくなってくる。 やはり、子供は笑っているのが一番だな…… 「……? アキさん、私の顔に何かついてますか?」 「うん、クリームがついてる」 慌ててほっぺたを拭うメイジに、私も叔母さんも思わず笑みがこぼれる。と、不意に、叔母さんの視線が厳しくなる。 何処を見ているのかと視線を追うと、窓の外の方を見ているようだ。 (何見てるんだろう……) その視線の先には人混みがあるだけだったが、その中に1つだけ、異質な影があることに気付いた。 行き交う人の中、1人だけ立ち止まってこちらを見ているのだ。よく見れば、その外見も周囲とは違う事がわかる。 年はメイジと同じくらいだろうか? ショートの金髪に、碧眼。性別は判然としないが……男の子だろうか? どこかメイジを連想させる彼(?)は、私達の視線に気付いたのかにこりと微笑むと人混みに紛れ、見えなくなった。 「ねえ、叔母さん……」 声をかけようとして、叔母さんが首を横に振るのを見てやめる。メイジを見ると、パフェに夢中で叔母さんの様子の変化には気付いていないようだ。 彼(?)は、メイジの『昔』に関連する人物なのだろうか。私は、朝メイジのバッグの中身を見てしまったときから心の隅に渦巻いていたなにかが、 少しづつ大きくなっていく気がしてならなかった。何か、とても嫌な予感がする――― そして、その日の夜。 「アキちゃん、ちょっとおさんぽいってくるねー」 「うん、気をつけてね叔母さん。鍵はどうしようか?」 風呂から上がると、丁度叔母さんが夜の散歩に出るところだった。 叔母さんは日光の下では余り満足に出歩けない身体なので(その割には結構ぽんぽん外出している気がするが)、 時折こうして夜中になってから外に出ることがある。 「締めちゃってて良いよ。ちょっと遅くなるかもだし」 いつもの白尽くめのスタイルで玄関に立つおばさん。いつもより動きが重そうな印象を受けるのは気のせいだろうか? 「そっか。車とかには気をつけてね?」 「うん。だいじょぶだいじょぶー。んじゃ、いってきまーす」 「あ、叔母さ―――」 私が言いかけた所で、玄関のドアが閉まる。昼に感じた嫌な予感が、未だに消えてくれないのだ。 追いかけて呼び戻すべきだろうか? そう思ったが、時間も時間なので素直に帰りを待つ事にした。 おばさんは足が速いので、下手に追いかけても見失う可能性が高いからだ。 「大丈夫……だよね?」 その問いに答えてくれるものはおらず、心配だけが心につのっていった……