「ふう……」 私、十師亜季は、その日何度目になるかわからないため息をついた。 今日、家に新たな同居人が来る、らしい。 らしいというのは、その報を受けたのが同居人である叔母からの情報であるからだ。 母さんが死んでから早3年、母の妹に当たる叔母とともに暮らすようになって、やはり3年。 父はまだ存命ではあるが、頻繁に海外出張に行っている為(そういえば私は父の職業が何であるのかも知らない) 半年に1度会えれば良い方だ。もっとも、自分の女房の死に目にも帰ってこない親に会いたいかといえば、NOではあるが。 今日やってくる同居人にしても、その父の差し金らしいというのだから、余計気が重くなる。 正直人付き合いは苦手なほうだし、自分の娘放って他の所の娘を寄越すくらいなら自分が帰って来いと思ったりもした。 しかし他に行く当てがないとまで言われれば無碍に反対することもできないし、 一度会ったことのあるらしい叔母さんは乗り気なのでここに住む方向で決定したそうだ。 そもそも、家事や家計は担当しているが私は住ませてもらっている立場なのだから家主の決定に逆らうほどの力はないのだけれど。 時刻は昼、叔母からの情報によればそろそろ着く頃合らしい。はぁ、とまた一つため息が出る。 いっそ飛行機が故障していて到着がもっと遅れればいいのに、と不謹慎な思考がよぎった直後、見透かしたようにチャイムがなる。 インターホンを見ると、モニターに映し出されているのは年の頃10~12歳くらいだろうか? そのくらいの女の子。 ウェーブがかったブロンドが目を引く。なるほど、案の定日本人ではなかったか。 いっそ居留守を決め込んでやろうかとも思ったが、モニターに映る少女の眉が悲しげにひそめられたのを見て、ちくりと胸が痛んだ。 その痛みを無視できるほど私も鉄面皮ではないので、渋々玄関の戸を開けに行く。ドアを開けると、先程モニターで見たとおりの少女がそこにいた。 「……初めまして?」 とりあえず、機先を制しておくことにする。できる限り自然に挨拶したつもりだったが、 生来の目つきの悪さもあったせいか多少威圧的になってしまったらしい。びくり、と少女の肩が竦められる。 ああもう、何やってるんだ私は。 「とりあえず中入って。話は聞いてる」 「あ……は、はい」 ドアを大きく開け、中に案内する。すれ違うときにふわ、と花の香りがしたが、その下にもう1つ違う香りが漂っていたような気がした。 なんだろう……? 花火のような匂いだったような気もしたが、少なくとも私の記憶には同じ匂いはない。 「なるほど、概ね経緯は分かったけど……大変だね」 「いえ、このくらいは……」 ごく普通のマンションの一室で、私たちはテーブル越しに向かい合っていた。 彼女の名はメイジ。私の死んだ母の方の遠縁で、身寄りを亡くし、かねてより親交のあった父や叔母さんを頼って日本まで来たらしい。 あの父は言わずもがな、叔母さんも少し前までは世界中を飛び回っていたと聞くし、何処で会っていても不思議ではない。 こうしてみると、私の家族ながら実に素性の知れない面々だ。 「……ええと」 「あ、ごめん。それで……何だっけ」 「それで、アキオさんは……まだ、お仕事なんですか?」 メイジの声に意識を思考の世界より引き戻す。アキオというのは、つまるところこの部屋の家主、私の叔母さんだ。 不安げに周囲を見回すメイジ。無理もない、知人を頼って家に着てみれば出迎えたのは目つきの悪い見知らぬ子供――― ―――もっとも、メイジよりは年上だが―――なのだから。不安になる気持ちも分からなくはない。 「ああ、大丈夫。この家にいるよ。もっとも、仕事が休みなのか仕事をしていないのかは良く分からないけれど」 え? と首をかしげたメイジを見て、思わず苦笑する。そこに、廊下からのっそりと巨大な人影が居間へと入ってくる。 目を引くのは白髪に色の薄い肌、そして、なにより天井に届かんばかりの2m近い長身に、それに不釣合いなほど純粋な輝きを秘めた真紅のまなざし。 どう見ても日本人に見えないこのアルビノの人物こそこの家の主にして私の叔母、アキオこと双葉秋緒43歳。 寝ぼけ眼で辺りを見回し、あくびを一つ。 「おはよぅ、アキちゃん。ごはんまだー?」 実年齢より若く見えるこの叔母、ただ立っているだけで威圧感のある容姿とは裏腹に、言動は年齢不相応なほどに幼い。 「おはよう叔母さん、もう昼だけど。昼ごはんなら今作るよ。メイジも食べる?」 「あ、私は大じょ……」 くきゅるるるぅ……とかわいらしい腹の虫が鳴る。 その横で可愛げなどかけらもない肉食獣のうなり声のような腹の虫が鳴るが、無視。 「…………あぅ」 「……OK、皆まで言わずとも分かった。何か宗教上の理由とかで食べれないものはある? 後アレルギーとかそういうの」 「そういうのはないです。でも、ナットウとかいうやつはちょっと苦手です……」 「りょーかい」 くす、と小さく笑いながら背を向け、台所へと向かう。 その背後で「あ、メイジちゃんだー!」「うわアキオさん飛びつくのはーっ!?(数秒後何やら2mほどの物体が倒れこんだような轟音)」 というやりとりがあったような気もするが脳内からは締め出しておく。 いただきます、と3人で手を合わせ、昼食。 メニューは米が余っていたので炒飯にした。箸が使えなくとも食べられそうなもの、ということでもあるが。 「どう? 質より量で作ったから味の保証はあんまりないんだけど」 「…………」 しん、と場が静まる。隣でわいわい言いながら私やメイジの倍以上の量をかっ込んでいた叔母さんの手も止まり、微妙に不気味な空気が流れる。 あれ、言うほど悪くはないと思うがなにか味付けを間違えただろうか。それとも、やっぱり何か食べれないものが混じっていたんだろうか。 暫しの沈黙を破ったのは、メイジだった。ぽろ、とうつむいた顔から雫が落ちる。――――――涙だ。 やばい、何か知らないがやばい。動悸が激しくなり、じわり、と妙な汗がにじむ。 「おいしい……です」 「……へ?」 我ながら、間抜けな声が出たものだと思う。 ぽろぽろと泣きながら、一口一口、噛み締めるように食べていくメイジ。 言うほど悪くないとは思うが、こんなものどこにでもある家庭の料理であると思うのだが――――まあ、余計なことは考えるまい。 いらぬ詮索はかえって傷つけることになりかねない。そんなのは嫌だ。そう割り切って、私は新たに言葉を紡いだ。 「……まあ、美味しいと思ってくれたならそれで良いけど。その代わり、残さないでね」 おどけた調子で言うと、うつむいたままのメイジの顔が、少しだけほころんだ気がした。 「―――――っ」 ……いかん、不覚にもぐらっと来た。というかぐらっと来るな私。相手は女の子だし私のそのケはないぞ。……多分。 「フラグ、立った?」 んふー、と猫のように笑う叔母に内心でなんのだ、と突っ込みつつ、とりあえず話題を変えることにする。 「さて、それじゃあ……改めて自己紹介と行こう。叔母さんは……まあ、メイジちゃんも知り合いのようだから要らないね」 自己紹介する気まんまんだったのか、だうー、と妙な声を上げながら目に見えてしょぼくれる叔母を意図的に無視し、メイジを見据える。 さっきみたいに威圧的になってないよな? と気をつけつつ、軽く微笑んでみた。 「十師亜季、15歳。彼氏いない暦は年齢とイコール。この家の影の主兼財布の紐管理人。今後ともよろしく」 と言って、こちらを向いたメイジが首をかしげているのに気付く。 比喩がわかんなかったかな、と思い、補足する。 「まあ、家事全般と家計を担当してる、って所。自慢じゃないけどね」 ああ、と合点がいったように手を合わせるメイジ。 そして、メイジは少し思案した後、口を開く。 「ええと……メイジ、メイジ・ブルガリス、です。歳は10歳で……ブルガリア出身、ですね。アキオさんには小さい頃にお世話になったことがあります」 「そういえば、昔会った事があるんだっけ。あと、ウチのクソ親父とも」 「初めて会ったのは5年くらい前かなー、私がまだ仕事してた頃。やー、おっきくなったよね。ふわふわのすべすべでおにんぎょさんみたい」 いつの間に復活したのか、叔母さんがテーブルに顎を乗せてにへー、と笑う。 確かにメイジは整った顔立ちで髪もさらさらで、あと5年もしたら絶世の美女になるんじゃないだろうか? と思う。 私だって磨けば光る……いやいや。10歳の女の子に対抗意識を燃やすな、私。 「アキちゃんだって可愛いよー? おっぱいぼーん、だし、肌もきれーだし、やーらかそーでおいしそーだよね」 「お、叔母さん!」 つん、と不意打ちで胸をつつかれ、反射的に後ずさる。 この人はこう言った事を不意にやってくるから油断がならない……まったく。 「ちょっと気にしてるんだから、これでも……肩凝るし、走ると痛いし、男共はじろじろ見るし……ほら、メイジだってリアクションに困ってるじゃないか」 見れば、メイジは視線をそらしてもじもじと身じろぎしていた。そらしながらもちらちらとこっちを見ていたりするので、微妙に気恥ずかしい。 「ま、まあ、こんな感じかな。後はおいおい、ってことで」 ゴホン、と咳払い。それでメイジも我に返ったのか、びくん、と大きく反応してからこっちを向いた。 「さて、昼飯も食べたことだし、歓迎会って意味でもどっか行こうか?」 「あ、じゃあゲーセンいこーゲーセン! こないだ新台入ったんだよー!」 猛然と食いついてくる叔母さん。あんた本当に40代か。 「まあ、今から遊園地、って時間でもないしちょうど良いかな。メイジもそこで良い?」 「あ、はい」 にこっと微笑むメイジ。……いかん、この笑顔は兵器だ。 赤くなっているであろう顔を体ごと背けて隠し、自分の部屋へ荷物を取りに行く。 そこで、ふと、部屋の隅にあったトラベルバッグが目に入る。メイジが持ってきたバッグだ。 それを目にして、少しだけ思案する。 「メイジ、そういえば着替えとかって持って着てるの?」 その問いに、メイジは首を縦に振る。なら大丈夫かと思った直後、 叔母さんの「ブルガリアでは首の縦振りが否定で肯定が横振りなんだよー」という捕捉が入った。成程。着の身着のまま来た、と言うことか…… それにしても、こういうのもカルチャーギャップと言うのだろうか? まあ、瑣末な問題だが。 「ならいっそメイジの生活必需品一式も買っておこう。叔母さん、荷物持ちお願い。代わりにゲーセンの軍資金は無制限にするから」 がっし、と力強くガッツポーズを取る叔母さんを視界の端に捕らえつつ、私は自分の部屋へと向かった。 そして、少し後―――私達は町の中に居た。 昼過ぎの繁華街とあってか人は多く、人波にまぎれるような……ことはなかった。 まず叔母さん。2m近い長身というだけで人より頭1つも2つも大きく、 アルビノであるために紫外線対策の日傘に襟を立てて口元まで隠した白いコート、白いズボンに白い帽子etc……という白づくめ。 極めつけにサングラスをかけており、その周囲だけ何かバリアーでも張っているように人が避けて通っている。 そのことを全く気にした様子も無くずんずんと歩を進めているのは肝が太いというか無神経と言うか…… そしてメイジ。故郷ブルガリアではそう目立つことも無いとは思うが、ここは日本だ。金髪と言うだけでかなり目立つ。 しかもすこぶる付きの美少女と言うこともあり、周囲からの注目を浴びて気恥ずかしそうにしている。 まあ、そのお陰で込み合う時間帯でもさほど苦労せず目的地までつけたのだから良しとしよう。 ゲームセンターのドアを開くと、様々なゲームの音が入り混じった独特の音がまず耳に入ってくる。 この独特の空気には私も少なからずわくわくして来るが、子供2人(精神年齢が子供、も含む)にはこの空気は覿面だったようで、 そちらを見ずともそわそわしているのが分かる程だった。 「じゃあ、取り合えず3千円づつ。無制限とはいったけど、あんまり使いすぎないようにね、叔母さん」 「ん、そんじゃ、行って来る!」 言うが早いか、足早に両替機へと向かう。その様子を苦笑しつつ見送り、横に居るメイジにも同じ額を渡す。 「メイジはこういうところ初めて?」 「はい……ど、どれから遊んだものでしょうか」 緊張した面持ちで周囲を見回す。ああもう、可愛いなぁこの子は! 「それじゃ、一緒に回ろうか。取り合えず、あれから行ってみよう」 それからは、あっという間に時間が過ぎたような気がする。 轟音がしたのでそちらに顔を向けてみれば叔母さんがパンチングマシーンで記録を大幅に更新していたり、 得意なはずの格ゲーでメイジに1度も勝てなかったり、クイズゲーで何とか面目を保ってみたり。 一番驚いたのがガンシューティングだ。これも密かに自信があったのだが、メイジはその更に上を行った。 私のようにやりこんでいるならともかく、初見のはずのゲームで全く弾を外さないのだ。 メイジの意外な才能に驚きつつ、気がついてみればもう4時を回っていた。 このままだとメイジの生活必需品を買っている時間がなくなるな……そろそろ終わりにするか。 丁度叔母さんが近くに寄ってきたのでその旨を伝える。 「叔母さん、そろそろ買い物に行こう。メイジのとか、夕飯の材料とか買わなきゃ」 「ん、おっけおっけ。んじゃ、いこっか」 メイジの肩を叩いて終わりと言うことを伝え、私達はゲームセンターの外へ出た。 買い物が済んで外に出てみると、あたりはもう薄暗くなり始めていた。 ひんやりした風が気持ちいい。 「さて、それじゃあ帰ろう。今日はそれなりに豪勢だから、叔母さんも手伝ってよ?」 おー! と全身で喜びを表現する叔母さん。その隣で、メイジもにこにこと嬉しそうにしている。 叔母さん以外の人間と夕飯を食べるというのも、本当に久しぶりだ。腕が鳴るなぁ…… そして家まであと少し、と言う所で、メイジが話しかけてきた。 「あの……アキさん?」 「ん? どうかした?」 メイジは思案するように視線を落として、ぽつり、と呟くように語り始めた。 「今日のお昼の時……急に泣き出したりして、すいません。変な子だって、思いましたよね」 「ああ、あの時か。別に気にして無いよ。まあ、ちょっとは驚いたけどね」 ぽふ、とメイジの頭に手を置き、そのままぐりぐりと撫でる。 くすぐったそうに身を捩りながらも、メイジは更に言葉をつむぐ。 「ああいう普通の手料理ってあんまり食べた事なくて……暖かい感じが、その、たまらなくて」 そういうことか……10歳なのに、一体どんな生活をしてきたんだろう、この子は。 そういうセリフは、何年も食べていないような人間が言うものであって、たった10歳の女の子の口から出てくるような言葉ではない。 でも…… 「そっか……じゃ、暫くは泣きっぱなしだね。料理は得意だから、心の篭った料理をばんばん作っちゃうよ?」 「え……?」 メイジが驚いた顔でこちらを見る。 メイジの過去に何があろうが、そんな事はどうでもいい。他人の過去を詮索するのは好きじゃないし、 何よりもう過ぎ去った昔をほじくり返してどうなる。そんな事、私の知ったことじゃない。 大事なのは今だ。後ろを振り向いたままじゃあ、前には進めない。 「メイジの昔に何があったか、それは分かんない。メイジが言いたくなきゃ言わないで良いよ。けどね」 そこで、視線を横に向け、メイジと目を合わせる。 「メイジも今日からウチの子だから。昔を忘れろとはいわないけど、その事だけは覚えててほしいな」 「……はい」 「ん、よろしい」 くしゃくしゃと頭を撫でてやって、メイジの手を握る。そうこうしている内に、マンションが見えて来た。 さて、今日はいつも以上に腕を振るうとしよう。 「ふう……こんなものかな」 洗い物を終えて、一息。今日は色々作った分皿も多くて一苦労だ。 今のほうに頭を向けると、叔母さんがゲームに熱中していた。が、メイジが見当たらない。 「あれ、叔母さん。メイジは?」 「よ、は……メイジちゃんならお風呂ー……っだー、やられた!」 風呂か……そういえば、今日はゲーセンで動いたから汗がちょっと気になるかもしれない。 「叔母さん、私もお風呂にはいって来るよ」 「んー」 最早上の空な叔母さんの生返事を背中で受け、お風呂場へと向かう。 脱衣所の籠には子供服……メイジの服が置いてあり、中にまだメイジが居ることを示していた。 「メイジは……まだ上がってないか。まあ、いいか。どうせ女同士だ、裸の付き合いでもして親交を深めるとしよう」 手早く服を脱ぎ、裸になる。ふと何気なしに洗面台の鏡を覗き込んだ時、脳裏に昼の叔母さんのセリフがリプレイされた。 『アキちゃんだって可愛いよー? おっぱいぼーん、だし、肌もきれーだし、やーらかそーでおいしそーだよね』 そうかな、と自問する。化粧なんて生まれてこの方したこと無いし、どちらかというと身だしなみにも無頓着な方だ。 死んだ母さん譲りの白い肌と長い黒髪にはそれなりに綺麗だな、とは思うが、よく分からない。 胸は……ない人間や男にとって見れば大きい方が魅力的と言う意見が大方のようだが、正直肩が凝るだけのデッドウェイトじゃ無いかと思う。 「まあ、見せたい相手もいないのに着飾ってもしょうがないしなぁ……まあ、いいか。メイジ、入るよ」 とりとめもない思考を振り払い、風呂場の戸を開ける。 「わ、あ、アキさんっ」 妙に慌てた様子で身体を隠すメイジ。年頃の女の子と言うのはそんなものなんだろうか? まあ、気持ちは分からなくは無いが。私もここに来たばかりの頃入浴中によく叔母さんに乱入されたっけな…… 「はは、ごめんごめん。メイジが入ってるってのは聞いてたんだけどね。どうせ女同士だし、いいでしょ?」 「いや、まあ、それは……」 鼻の下まで湯に沈み、ブクブクと泡を吹く。それを横目で見ながら蛇口を捻り、シャワーを浴びる。 「それにさ、『似たもの同士』としては、それなりに親睦も深めておきたくてね」 「え……?」 多分、今メイジはハトが豆鉄砲を食らったような顔をしているんだろう。身体についた汗や汚れなんかを落としながら、話を続ける。 「私の母さんも3年位前に死んでさ。親父がろくに家にも帰らない風来坊だから、叔母さんに引き取られたんだ。  だから、なんかほっとけなくってね。まあ、最初は親父の差し金だから、って感じで色々思うところがあったんだけど」 「…………」 粗方流れたのを確認して髪を頭の上でまとめ、浴槽にいるメイジの隣に身体を沈める。 「ま、今日一日顔つき合わせてみて、考えは変わったよ。この通り目つきも悪いし、ちょっと恐いかもしれないけどさ。  どうか、仲良くしてくれたら嬉しいかな」 「……はい」 俯いて、赤くなりつつも、そう呟くメイジ。 そんなメイジの愛らしさに思わず抱き寄せると、太腿になにやら硬いものが当たった。 「ぅあ……!」 同時に、メイジがなにやら上擦った声を上げる。 「……? メイジ、なんかあたるんだけ……っ!?」 視線をゆっくりと太腿に降ろす。急に抱き寄せたためにバランスが崩れ、私にしがみ付く形になったメイジの足の付け根、つまり股間が押し付けられている。 よくよく注視すると、そこにはソーセージのような、白いメイジの肌にくらべて若干黒ずんだ器官が存在していた。 それが男性器――ペニス、おちんちんともいう――であることに気付いたのと同時に、私の視界は暗転した。 この出会いが、私を非日常の世界へと引きずり込むことになるのだが……その時の私は、そのことをまだ知らない。