『としあきと女医への相談事』 「久しぶりね。元気にしてた?」 「ええ、まあ…」 やっぱり緊張するな…。 目の前の人は、子供の頃は〈少し年上の近所のお姉さん〉だったが、今は立派な〈医者〉である。 それに今日は大事な相談がある。 「えっと、どこから説明しようかな」 「ゆっくりでいいから、順番に話してみてよ」 「それなら…」 俺は最初にメイジがうちに来たことから話し始めた。 ところが。 「ええっ!? じゃ、としあき君、今子育てしてるの!?」 最初から滅茶苦茶驚かれてしまった。 まあ分かるけど、このペースで相談したいことまで話せるかな…? **************** それからしばらく説明を続けた。 何度も驚かれたが、俺はどうにかブラックが来たことまでを話し終えた。 正直これだけで少し疲れた。 「フーン…子供が3人も…。いきなり大変なことになったのね。大丈夫?」 「まあ今のところは…。良くはないと思うんですけど、みんなしっかりしてるから、そこは助かってるかなって」 「いくらしっかりしてるからって、あんまりそれに甘えちゃ駄目よ」 「ア、ハイ…」 だよなぁ…耳が痛い。 そんなことを思っていると、先生から切り出されてしまった。 「それで相談事って何? 先に言っておくけど、私も独身だから、子育てについての質問はあんまり自信ないわよ。 あと預かって欲しいなんていうのも、ちょっと難しいかな。一人暮らしだし」 「いや、そういうことじゃないんです…」 **************** 「メイジとブラックに、もし何かあったら、先生に診て欲しいんですよ」 「えっ? そんなこと? 診てあげるわよ、当然じゃない。医者なんだから」 「いや、ただ診るというだけじゃないんです。そこであの子らについて知ったこと、絶対に秘密にして欲しいんです」 「ええ? 何それ…」 先生は呆れたような表情を浮かべる。 まずかったかな…とちょっと顔色を窺う。 「あのね、医者には守秘義務ってものがあるの。患者の秘密を守るのは当たり前のことよ」 「ああっ、そうですよねっ!」 「それともとしあき君は、私を信用出来ないってこと?」 あ、まずい、ちょっと不機嫌な感じだ。 「違うんです、ただ、あの子ら本当にすごく珍しい特徴があって、もし体を見せたがらなかったらどうしようって…」 「あ、なるほど…そういうことか」 **************** 先生は「ウンウン」と頷いている。 まだ具体的なことは話していないが、事情があることは理解してくれたようだ。 「なるほどね…体に特徴が。それがどういうものなのかは…」 「あの、2人にはまだ何も言ってなくて…無断で話すのはちょっと…」 「そうね。とにかく事情があるのは分かったわ。それについては聞かない」 「すみません」 よかった…大丈夫と思っていたが、それでも不安はあったのだ。 これでひとまず話はついた、そう思って安心したのだが、今度は先生の表情が硬い。 どうしたんだろう…。 「ところでとしあき君、これは失礼な質問だと思うんだけど…」 「な、何ですか…?」 「その3人のお子さん達は、おじさんが引き取った子達…でいいんだよね?」 **************** 「そう聞いてますけど…」 それがどうかしたんだろうか? 「怒らないでね? はっきり聞くけど、その子達おじさんがよそで作った子じゃないんだよね??」 「…多分、そうだと思います。似ている感じはしないし…」 「そう…ならいいんだ。だって勝手にフラフラ出ていって、よそで子供作ってたなんて、おばさんが気の毒だもん」 あ、そうだよな…。 「ですよね。ったく、克明さんには参りますよ。冒険心だかなんだか知らないけど、フラッと放浪してそのまま死んで…。全く迷惑な話です!」 「そうね。でも、これもはっきり言うけど、としあき君だって結構おじさんに似てると思う」 「ええっ!? そんなことないですよ!」 「ううん。だって、漫画家なんて職業、普通は相当な冒険よ? そう思わない?」 ショックだった。 そういえば、以前メイジも俺が克明さんに似ていると言ったが…つまり、そうなのか…? (終わり)