『メイジとブラック・メイ』 私とブラック・メイは感覚が繋がっている──。 あまりに信じ難い。 つい「嘘だろう」と言いたくなったが、その言葉は呑み込む。 「ふ~ん」 ブラック・メイが私の顔をじっと見る。 「驚いてるねー。それに不信感も伝わってくるよー」 ニヤニヤしながら言うブラック・メイに、カッとなりかけた。 いけない、冷静にならねば。 「わわわ~そんな怒らないでって~。ごめんねー、ちょっと調子乗ったー」 「…それも伝わってきたのか?」 「うん」 「信じられない。それくらい推測出来そうなものだ」 私にはそうとしか考えられない。 **************** 「う~ん…どーしよーかな~」 そう呟いてブラック・メイは腕組みをした。 何を考え込んでいる? 疑問に思う一方で、私は訳の分からない嫌悪感を覚えていた。 これは私自身の感情なのか、それともブラック・メイの感情なのか…。 「も~、しょうがないなぁ…」 そう言うと、ブラック・メイは私とノヴに背を向けた。 何をする気だ? 訝しんだその直後だった。 「!!!?」 私は思わず漏れそうになった声を必死に噛み殺す。 だが、声は抑えたが手は抑えられなかった。 私の右手は反射的に左の掌を押さえていた。 **************** 私は左の掌を観察する。 何もない。 特に異常は見当たらないし、感じない。 だがあの時、この掌に走ったのは紛れもなく〈痛み〉だった。 「姉さん、どうしたの…? なんだか凄い表情だよ?」 ノヴが心配そうに私の顔を覗き込む。 しかし、私にはそれに答える余裕はなかった。 ノヴの体を押し除け、ブラック・メイに駆け寄る。 「見せろ!」 思わず叫びつつ、彼女の肩に手を掛け強引に前を向かせた。 「なっ…!?」 私は言葉を失った。 **************** 「ねえ、どうしたの…ええっ!?」 様子を見に来たノヴも驚いている。 だが驚きは、多分私の方が大きいだろう。 あの時、突然感じた左手の痛み。 まさかと思って見てみれば、やはりそのまさかだった。 ブラック・メイはナイフで自分の掌を切っていた。 「手当てを!」 ノヴが叫んだのが聞こえる。 私は黙って彼女の掌に血が溜まるのを見ている。 「ねえ、メイ~」 話しかけられ、私はハッとして彼女の顔に視線を向ける。 「感覚が繋がってるってことは~、痛みも繋がってるって訳ー。これで信じてくれたよねー?」 そう言うと、ブラック・メイはにっこりと笑った。 (続く)