『メイジと来訪者』 「……?」 「どうしたの、姉さん?」 「いや、何でもない…」 ノヴにはそう答えたが、実際には気になることがあった。 一体いつからだろう、不意に感覚に違和感を覚えることが度々あった。 今もまさにそうだった。 そういう状況でもないのに、突然鼓動が早くなったように感じた。 だが脈拍を数えるとごく普通のままだ。 この感覚は…高揚感? あるいは期待感? 一体何にというのだろう、そんな気分にさせるものなど無いというのに。 気にしても仕方がない、といつもの様に考える。 だがその一方で、このおかしな感覚が最近強くなってきたようにも感じるのだ…。 **************** 最後にあの〈おかしな感覚〉を感じてから数日後。 「なっ、なんだ…!?」 これまで感じたことがないレベルの、強烈な感覚だった。 恐らく数日前の時と同じ高揚感と思うが、体が熱を帯びたように感じる。 脈拍は変わらないが、心臓の音が聞こえてきそうな程の強い鼓動も感じた。 一体なんだというんだ!? 「姉さん! どうしたの!?」 思わず声を上げてしまったため、ノヴが驚いている。 「いや…なんでも…」 なんでもない、そう言いかけた時。 ドアチャイムの音が鳴り響いた。 **************** 「なんでもない…代わりに出てくれ」 そう言ってノヴを応対に向かわせた。 私は胸を押さえ、呼吸を整える。 「ね~ね~、ここにメイがいるんでしょ~?」 インターホンから聞こえてきた声は、語尾を伸ばした、やや舌足らずで幼なげな話し方だった。 誰かは分からないが、子供なのは間違いない。 だが何故〈メイ〉と呼んだのだ。 私が捨てたその名を、どうして知っている? そのことに気付いているノヴも表情が硬い。 「んー…もしかして、アタシのこと疑ってる~? 違うよ~、アタシも逃げてきたの~。ね~ね~入れてよ~」 ノヴがこちらを見たので、私は目配せをした。 あまり騒がれるのはまずい。 ここは一旦入れるしかないが、私達はそっと銃を握っていた。 **************** これは…一体どういうことだ? 私達はじっと来訪者を見つめる。 「や~、ホントにそっくりなんだね」 そっくりと彼女は言ったが、確かにその通りだった。 ウェーブ掛かった金髪と赤い瞳、違うのは褐色の肌くらい。 「姉さんそっくり…」 隣でノヴが呟いた。 それ程までに、この来訪者は私と似ていた。 「お前は…何者だ。名は?」 「ブラック・メイ」 **************** ブラック・メイ…黒い私ということか。 確かにその通りかもしれないが、納得する気にはなれない。 「ね~ね~、そんなに緊張しないでよー。アタシに敵意が無いことくらい、〈伝わってる〉でしょー」 「伝わっている…? 何のことだ?」 「あれー分かんないー? たまに今の自分とは違う感覚や感情になる時があるでしょ~?」 「な…何を…」 「あれってさー、アタシとメイの感覚が〈繋がってる〉んだってー」 「つ…繋がってる…?」 ノヴが困惑している。 私も同じことを言いたかった。 だが、この感覚は…謎の来訪者に警戒しろと必死に考えているのに、緊張感のない気分が同時に湧き上がる。 もしやこれが…この気分がブラック・メイの感覚なのか…? まさか、本当に〈繋がっている〉とでもいうのか! (続く)