『としあきとノヴの出会い』 俺は困惑していた。 突然メイジが弟を連れてきたのだ。 そして、自分と同様ここに置いて欲しいと言う。 「えーと、〈ノヴ君〉、だっけ?」 「はい。突然のことで混乱しているかもしれませんが、ボクも克明さんにはお世話になりました」 「そ、そうなんだ…」 俺はメイジを見た。 「元々は2人で来る予定だったって、さっき言ってたけど…」 「そうだ。だが途中でトラブルがあった。それで私は1人で来た」 「あの、だったら最初にノヴ君のことも言ってくれたらよかったんだけど…」 「ノヴがここまで来れるかは不明だった。あの時点で不確かなことを言えなかった」 「そ、そう…」 **************** 参ったな…と正直思う。 メイジ1人でもこれから大変だぞ…と思っていたところに、更にもう1人増えるのだ。 おまけにもう一つ、戸惑ってしまうことがある。 「あの…ノヴ君、失礼かもしれないけど、もう一回聞かせてね。君は…メイジの〈弟〉なんだよね?」 「そうですよ。あ、もしかして、このカッコが気になるんですか?」 そう言うとノヴ君は、自分の着ている服の布地を軽く摘んでみせた。 そうなのだ。 〈弟〉というこの子が着ているものは…どう見ても〈女の子もの〉なのだ。 ブルガリアでは男の子もスカートを履く、なんてことはないはず。 女装少年? 男の娘? いやいや、そんなこと考えている場合か! どう訊いたらいいか悩んでいると、ノヴ君が答えてくれた。 「ボク、可愛いものが好きなんです。だから服も可愛いのを着てるんです」 **************** 可愛いもの好き…まあそれはいいけど、それで女の子の服を着るのか…。 ただ、似合うかどうかで言うと、正直似合ってると思う。 真っ直ぐな金髪に青い瞳という、絵に描いた様な金髪碧眼。 顔立ちは、はっきり言って整ってる。 髪型はショートボブ、そのためより中性的に見える。 左の前髪だけ垂らして、顔の半分が隠れているのも不思議な雰囲気がある。 これ下手したら女の子より可愛いんじゃないか、というのが正直な感想。 ちなみに、チラッと見えたのだが、別に隻眼とかオッドアイというのではなさそうだった。 さすがにそこまで設定が盛ってある訳ではないようだ。 まあ片目隠れの女装少年というだけでも、結構インパクトはあった。 …すぐ設定とか言い出す漫画脳はオフにしよう。 それに、気が重いがアレについて聞いておかなくちゃ…。 **************** これもどう切り出せばいいか悩んだが、思い切ってストレートに尋ねることにした。 「ノヴ君も銃を持ってるの?」 「えっ!?」 ノヴ君は目を丸くしている。 もしかして彼は違うのか? と思ったが、そんなことはなかった。 「姉さん、としあきさんは銃のこと知ってるの?」 「ああ。最初に話した。後で問題になるくらいなら、初めからから話しておいた方がいいと判断したから」 「そっか。だったらボクのも問題無いよね」 「簡単なものだが、保管庫も用意してくれた。ノヴが使うスペースも残っている」 「よかったぁ。どうしようかと思ってたんだ。としあきさん、ありがとう!」 ニッコリ笑う彼を前に、俺は「どういたしまして」と答えるのが精一杯だった。 **************** そうか~やっぱりな~、という気持ちが強い。 分かり切っていたことだが、この子らは相当な訳ありだ。 あのクソ親父…克明さんの話など聞く気が起きないのであえて聞かなかったが、そうも言ってられない。 きちんと事情を聞かないと。 しかし、考えてみれば俺もお人好しだ。 家を飛び出してそれっきり、しかももう死んでいるという父親が連れてきたような子らだ。 ここに住みたいと聞いた時は、ふざけるなとは思った。 その癖こんな小さな子供がどこに行くんだと思い、こうして家に置いている。 (そういえば克明さんは、なんでこの子らを自分の子にしようとしたんだ?) まあそれもあの子らに聞こう、それより今は。 「2人は久しぶりに会ったんだっけ。まあ、ゆっくりしててよ。これからよろしくね、ノヴ君」 (終)