『メイジの再会』 「少し外を歩いてくる」 日曜日の午後、昼食を終えた私はとしあきにそう告げ、一人で出かける。 以前亜希が選んでくれたパーカーのフードを被り、髪は全部その中に収めた。 これで少しは目立たずに済むだろうという判断だ。 としあきと暮らし始めてから半月近くが過ぎた。 その間私はこの街の地図を覚えるため、機会を見つけてはこの長い散歩を行なっていた。 上手く逃げてきたと思ったが、楽観は出来ない。 何かあった時に備え、少なくとも道は熟知せねば。 歩きながら右肩のショルダーバッグを掛け直す。 中身は〈ウサ吉〉と名付けられた、ウサギのぬいぐるみだ。 胴体の中にはコルト・ガバメント。 護身具や小型のピストルもあるが、やはりこれでないと落ち着かない。 **************** 歩き始めてしばらくしてからだ。 不意に私は視線を感じた。 (尾行か…?) やはりこの時が来たか。 1ヶ月も持たなかったが、それは仕方ない。 私は素早くこれまで覚えた地図を頭の中に展開する。 そして迎え撃つのに適した場所をピックアップする。 人通りが少なく、行き止まりもない場所は…。 ちょうどいい路地があったのを思い出し、角を曲がって入っていく。 入ると同時に物陰に身を隠し、銃を取り出す。 そして身を隠したまま様子を窺う。 一体何者だ? **************** やがて人の気配が近づいてきた。 コルト・ガバメントにはサイレンサーを装着済みだ。 やり過ごすか、ここでカタをつけるか? (来た…何っ!?) 私は驚いたが、考えるより先に体が動く。 飛び出すと同時に銃を突きつける。 相手も動いていたが、抜いた銃は構える途中で止まり、銃口はまだ地面を向いている。 見慣れたステンレス製のワルサーPPKが銀色に光る。 「何故、私を狙った」 「久しぶり、姉さん」 私を追っていたのは、〈弟〉だった。 **************** 「とりあえず、銃を下ろしてよ」 弟は顔色を変えることなくにこやかに言う。 私は答えず、近づいて無言でPPKを取り上げる。 抵抗する素振りは一切ない。 「私を恨んでいるのか?」 「まあ、少しは」 仕方あるまい。 あの時、逃げる時にはぐれてしまい、それっきりだったのだから。 「でも、尾けたのはそういうことじゃないよ」 「そうなのか?」 「うん。ちょっと驚かそうと思ったのが半分、もう半分は平和ボケしてないか確認したかった」 「確認?」 **************** 確認とはどういうことか。 問う前に答えが返ってきた。 「だって、ボク達にはいつ追っ手が来るか分からないでしょ。協力して乗り越えなきゃ。でも、戦力にならなかったら困るからね」 なるほど、だが…。 「見損なうな。半月そこらで鈍るような私ではない」 実際道を覚えるのと同時に、可能な限りのトレーニングは続けてきたつもりだ。 弟はうなづいて言った。 「ウン。よく分かったよ。以前と変わらず、ボクより強い」 私はPPKを返し、コルト・ガバメントを納めた。 「じゃあ、姉さん、ボクを連れて行ってくれるよね?」 「ああ…。としあきに話してみよう」 さて、了承してくれるか。 (続く)