『としあきとメイジとの出会い2』 困ったな…。 メイジが広げた荷物を前に、俺は途方に暮れていた。 銃だのナイフだの、危ないものだらけだ。 「なあ…これ全部、本物なのか?」 「…すまない。違法なのは知っているが、手放す訳にもいかない…」 なんだよそれ…。 だがあの克明さんの娘を名乗るくらいだ、面倒くさいのも当然か。 どうするか決まるまでうちにいていいと言った手前、今更追い出す訳にもいかない。 とにかくなんとかバレないようにして、今は同居の準備だ。 「あのさ、ちょっと気になったんだけど、もしかして着替えはそれで全部?」 俺は広げた荷物の中にある衣服を指して聞いた。 「そうだ」 いくらなんでも少な過ぎやしないか? あと他にも必要なものが…。 「よしメイジ、疲れてるかもしれないけど、ちょっと買い物行こう。そんで帰りに飯食おう」 **************** 駅前の大型スーパーまで歩きながら、俺はメイジに話しかける。 「そういえばまだ聞いてなかったけど、メイジはどこから来たの?」 「ブルガリアだ」 「へえ…ヨーグルトのか」 「克明も同じことを言っていた」 「あ、そうなんだ…」 そんなことを喋っているうちに目的の店に着いた。 きちんとした服は今度改めて買いに行くとして、まずは下着やパジャマといった着替えを揃える。 食器はどうするかな…歯ブラシなんかは買っといたほうがいいかな。 とりあえず最低限必要なものを買うと、時刻はそろそろ夕飯時になっていた。 「じゃ帰りはどっか寄って夕飯にしよう。食べられないものとかある?」 「ない」 そうか…ならメイジの服のこともあるし、〈あそこ〉にするか。 「メイジ、俺の行きつけにしようと思うんだけど、いいか?」 「構わない」 **************** メイジを連れてやって来たのは、近所の定食屋〈としの家〉。 安くて美味い、子供の頃から世話になっている店だ。 「こんばんはー、亜希いる?」 「あ、としあきいらっしゃい!えっ、その子は…?」 「ああ、ちょっと色々あって、親戚の子を預かることになったんだ」 「へー!としあきって外国に親戚がいたの?知らなかったよ」 「ん、まあ色々あって…。あ、そうだメイジ、紹介するよ。俺の幼馴染の十師亜希」 「わたしは双葉メイジ。よろしく」 「へー日本語出来るんだ!わたしは亜希、よろしくね」 「あのな亜希、今日は飯食うだけじゃなくて、ちょっと頼みがあって来たんだ」 「え、何々?」 「実はメイジは急に来ることになってさ、あまり荷物を持って来れなかったんだ。今度着替えの服買ってやりたいんだけど、女の子の服なんてよく分からないから、買い物手伝ってもらえないかな」 「なるほどね。オッケー、そういうことなら手伝ったげる」 「サンキュー、助かる」 「じゃ今度休みの時にね。注文何にするー?」 **************** 亜希のおじさんとおばさんにも挨拶し、俺達は席に着いた。 メイジにメニューが分かるか聞いてみると、よく分からないから決めて欲しいと言われた。 少し考えて、メイジには唐揚げ定食、俺は鯖の味噌煮定食を頼んだ。 スプーンとフォークがついてきたが、意外にもメイジは結構上手に箸を使った。 克明さんに教わったのかもしれないが、食べている時にあの人の話をしたくなかったので聞かなかった。 メイジの食べ方はちゃんとしていたが、とても静かだった。 黙々と箸を口に運んでいる。 美味いのか、不味いのか…。 「ええと、どうかなメイジ。美味しい?」 「とても」 静かだが力の篭った声で、ものすごくハッキリ答えた。 多分、嘘ではない…と思う。 メニューが分からないと言っていたし、日本の食べ物のことも教えてやらないとなあ。 そんなことを考えながら最後のお冷を流し込む。 既にメイジの皿は空っぽになっていた。 **************** 店を出た時にはもう外は真っ暗だった。 「なんかアレだなー、今夜はもう風呂入ってさっさと寝たい気分だなー」 思わず呟いてから、メイジに聞いてみる。 「メイジは日本の風呂は知ってる?」 「克明から聞いたことはある。熱い湯に浸かるのだろう」 「そうそう。疲れた時には最高だぜー。メイジも楽しみにしておけよ」 「そうか…。ところで聞きたいのだが、さっきの唐揚げ、あれはチキン?」 「そうだよ。鳥の唐揚げだね」 「そうか…」 急にどした?あ、もしかして…。 「気に入った?なら今度ウチでも作るか」 「作れるのか!?」 「おじさんみたいには無理だけどな」 これからどうなるかはまるで予想が出来ないが、こんなこと喋っているのも悪くないかもしれない。 この時はそんな気がした。