『としあきとメイジとの出会い1』 「うーん、これではまだちょっと厳しいと思うのですがね」 「…そうですか」 「いや、そう暗くならんでほしいのですがね?うーん、良い感じなのですがね、あともう一押し、何かこう…もうちょっとパンチが効いてるといいのですがね」 「一押し…パンチ…」 結局、担当編集の月無さんとの打ち合わせはそれで終わってしまった。 漫画家に憧れ、二年前どうにかプロデビュー。 しかし初連載は見事にコケ、その後はまだ何も描けていない。 今は知り合いのとこでアシスタントをしたり、雑誌のカットを描いたりしつつ、月無さんにネームを見せる日々だ。 ため息をつきつつ、仕事場兼我が家の古マンションに戻る。 「ただいまー」 一人暮らしだがなんとなく挨拶はしてしまう。 あえて言うなら、去年亡くなった母の位牌への挨拶だ。 それを済ますと肩に掛けていた鞄を放り出し、万年床に倒れ込む。 目を閉じて、月無さんに言われたことを思い返す。 またダメだったか……。 **************** 突然玄関で鳴ったチャイムに驚き、跳ね起きた。 寝ぼけ眼を擦りつつ、急いで玄関に向かう。 ドアを開けた。 「…あなたが、としあき?」 「へっ?」 目の前に立っていたのは一人の女の子だった。 どう見ても日本人ではない。 緩やかにウェーブの掛かった長い金髪と、燃えるような真っ赤な瞳。 じっとこちらの顔を見つめてくるが、目力が凄くて圧倒されそうだ。 年齢は恐らく小学生くらいか? 「あなたは、双葉としあき?」 「えっ?ああ、そうだけど」 「よかった。では、まず中に入れて欲しい」 「ちょっと待って。君は誰?何の用があって来たの?」 「わたしの名は双葉メイジ。克明の……娘と思って欲しい」 **************** 待て…この子は今なんてった?〈克明〉だって? 「どうした?顔色が良くない」 「いや、何でもないよ…。まあ立ち話もなんだから、とりあえず上がって」 俺はこの、メイジと名乗った子供を家に上げた。 「ごめんな、大したものがなくて」 お茶っ葉が切れていたので、仕方なくペットボトルのお茶をコップに注いで出す。 「構わない。十分」 「うーんと、それで克明さんの娘が、どうしてうちに来たのかな?」 「わたしを養って欲しい」 「へっ!!?…ちょっと、何を言ってるか分かんないんだけど」 「わたしは10歳。一人で生きるのは難しい。だから克明はわたしを娘にすると言った」 「イヤイヤイヤ、それならさ、克明さんと暮らせばいいんじゃないの?」 「克明は死んだ」 「ハァッ!?」 「だから、わたしは一人でここに来た。ここが克明の家だから」 **************** 「…違う。悪いけど、ここは克明さんの家じゃない」 「何故だ?あなたは双葉としあき、双葉克明の息子。そう聞いている」 「違う。俺に父親はいない。克明さんは……知ってはいるけど、遠い遠い親戚だよ」 「嘘だ。わたしは克明から、自分の家族だという写真をもらった。五年前のものだが、その顔は同じ」 「悪いけど、本当に違うんだ。どうしようもないよ」 「何故否定する?そうだ、明美とも話したい、彼女はどこに」 「母さんは死んだ!お前が気安く呼ぶな!!」 「なっ!?」 「あっ…ご、ごめん、怒鳴ったりして…」 「すまない。事情を知らなかった」 「とにかく、克明さんは父親じゃなく遠い親戚だよ。母さんが倒れた時、見舞いどころか葬式にも来なかったくらい遠くのね」 「分かった。ならやむを得ない」 メイジは立ち上がった。 「うん?どうしたの?」 「迷惑を掛けた。もうここには来ない」 **************** 「ちょちょちょ、待って待って!どこへ行くんだよ!?」 「これから考える」 「そんな!」 いくら何でもそりゃまずいだろう。 確かさっき10歳だと言っていた。 そんな子供を放り出すのはあまりにも…。 「ああもう、分かった!とりあえずここに泊まっていって!」 「しかし」 「いいから!君が克明さんの娘とか、そういうのはどうでもいい。君のこれからは俺も考える。その間ここにいていいから」 「…そういうことなら」 「うん。とりあえず、今日はゆっくり休みなよ」 「ありがとう。やはり克明の息子だ」 「…違うって言ってるのになぁ」 まあそれもどうでもいいか。 これからのことを考えないとな。 **************** 「えーっと、それじゃまずは部屋を決めて、荷物を置いてもらって…あとは食器かなぁ」 メイジの荷物はトラベルバッグひとつのようだが、他にも色々と括り付けられている。 さっき家に上げた時持ってあげたのだが、かなりの重さだ。 これをメイジは一人で引っ張ってきたのかと思うと、確かに不憫な子だと思えてきた。 「としあき、武器弾薬の保管庫はどこに?」 「ああ、保管庫ね、保管……え?」 待て、今なんてった? 「えっと……何の保管庫がいるんだっけ?」 「武器弾薬。これは保管庫が必要」 そう言うとメイジは荷物を広げ出した。 長い包みは、ストックを切り落とし、銃身も短くしたポンプアクションのショットガン。 小型のピストルや、ナイフなども数種類ずつある。 いくつかの紙箱は弾だろう、ネットで似たようなのを見たことがある。 「保管庫はどこに?」 え~?どうしよう…。