「ん…くふ……ぁ…」  狭い浴室に、メイジの甘ったるい声が反響する。  俺は彼女の膝の上に乗せ、背後から抱きしめるようにしてその股間の怒張を扱き上げていた。 「うっ…あ…トシアキぃ…っ!」  俺の手が動くたび、メイジの細い肩がビクビクと震える。    メイジがやってきて数日。  毎日こうして、彼女の性欲を解消してあげるのが半ば日課となっていた。  もっとも、まだ「本番」までは行ってない。  まず、犯罪になることもそうだったが……  俺はともかくとして、やはり女の子。  何よりも、彼女がもう少し成長した後、本当に好きな相手ができた時のために……という考えがあった。  それに、このまま彼女の処女を奪ってしまうのも、保護者の立場としてどうかと思った。  だから今はこうして彼女の欲求を解消してあげてはいるが、俺自身の欲求は自分で処理している。  それが酷く傲慢で偽善的な行為だという事は、自分でも理解しているつもりだ。  流れに任せて彼女を抱く事も、欲望のままに犯すことも、不可能ではないだろう。  ただ「それだけはやっちゃいけない」と俺のちっぽけな理性と倫理観が喚きたてた。  それはきっと、「即レイプ」だの「わぁい」だの言っているネット上の俺と現実の俺を隔てる、最後の砦…なのかもしれない。 「そういえば……こっちは触った事なかったよね…?」  メイジにそう囁きながら、俺は片方の手を彼女の陽物から離し、下へと滑らせる。  その行く先を察したのか、メイジの小さな身体が小さく跳ねた。 「あ…っ、トシアキ……そこは…ぁ!」  俺の指が触れた瞬間、そこは、くちゅ…と卑猥な音を立てる。  メイジの、女の子の部分。  性感は連動しているのか、そこは既に熱く蕩けていた。  入れるつもりはない。二本の指で軽くなぞる様に刺激してやる。 「ふ、ぅ…あ、ひぅ…! ふあぁ!」  男性器を愛撫していた時の呻くようなものに加え、甲高い悲鳴のような嬌声が混じる。  まるで感電したようにメイジの身体が何度も跳ね、彼女の肩に乗せていた俺の頭にそのしなやかな腕が絡みつく。  その反応が新鮮で、可愛くて――  軽く、意地悪してみたくなる。 「ねぇメイジ……こっちの…女の子の方では『しない』の…?」  メイジの耳朶を鼻先でくすぐりながら、訊ねる。 「うぁ…! あ…そっち、は…っ! 自分では…んぅっ! 気持ち良く…ならなく…てぇ…っ!」  敏感な部分を同時に弄われ、快楽に翻弄されながら、途切れ途切れにメイジが答える。  きっと、男女の性感の違いなのだろう。  メイジは、男性器のダイレクトかつ一気に盛り上がる快感の方がお好みのようだ。 「……今は? やっぱり、気持ち良くない?」  俺はさらに意地悪く、ねちっこくメイジに問いかける。  自分の事ながら、よくもまぁこんな台詞が出るものだ。  …もしかすると、俺は実地には強いのかも…などと思ってしまう。 「いっ…! いい、です…! どっちも、うあぁ! もう、わから…あ、ふ、くぅぅ!」  メイジの声はさらに高く掠れ始め、背中を大きく仰け反らせるようにして小刻みに震え始める。  女性器に這わせた指に絡みつく粘液も、白濁して粘度が増してきていた。  どうやら、絶頂が近いらしい。 「ふふ……いいよ、イって…」  俺のその言葉を引き金にしたかのように、メイジの肢体が大きく跳ね上がり―― 「ひぐっ! うぁ! は、ぁ! あああああぁぁ――!!」  一際長い絶叫を放ち、彼女の欲望の滾りが俺の手の中で炸裂した―― 「ふぅ……」  一足先に風呂場を後にした俺は窓を開け、ベランダに片腕を出して風呂上りの一服と洒落込んでいた。  灰皿もベランダに置き、煙は外へ吹き出す。  喫煙者とは因果なものだ。  部屋の物に臭いがついたり、壁紙がヤニで汚れる事を気にしながらも、吸う事をやめられない。  吸いたい、と思うようになったのは、いつからだっただろう。  思えば、俺が煙草を吸うようになったのは、メイジの父――俺が「おじさん」と呼んでいた、あの人の影響だったように思う。  血縁関係は良く憶えていない。  ただ、本家にかなり近い人で父と親交が厚く、よく遊びに来ていたことは憶えている。  父よりも十歳ほど年下で、俺にとっては歳の離れた兄のような人。  80年代、レプリカブームの真っ只中、スズキのRG250γを駆って峠を攻めまくってた、いわゆる「峠小僧」  家の前に停めたバイクを前に、ハイライトを美味そうに吸いながらバイクについてよく語ってくれたその姿は、俺の「カッコイイ大人像」だった。  時にはバイクのタンデムシートに乗せてもらい、風を切って走るその快感を体験したりもした。  多忙で家を空けがちだった父よりも接する機会が多く、父親以上に気心の知れた存在。  俺が煙草を吸うようになったのも、普通二輪免許を取ったのも、あの人の影響によるところが大きい。  現に、俺の吸っている銘柄もあのとき「おじさん」が吸っていたハイライトだったりする。  そして、その「おじさん」との突然の別れ。  十年ほど前、ある日を境にぱったりと来なくなった。  後から聞いた話では、恋人が出来たが周囲の猛反対を受け、駆け落ち同然に家を飛び出したらしい。  そんなところまで、男らしかった。  そして数年前、俺の大学入学と同時に届いた突然のエアメール。  中身は、おじさんからのお祝いの言葉。そして近況報告。  そこで初めて、おじさんがブルガリアに渡っていたことを知った。  その事は誰にも話さず、俺は必死で返事を書いたことを憶えている。  そう考えると、親戚一同と絶縁状態にあったおじさんの遺児であるメイジがここに来たことも頷ける。  そのおじさんも、もう居ない。 「ふぅ……」  再び、煙を吐き出す。  その紫煙の中に、在りし日のおじさんの笑顔が見えた気がした。 「トシアキ……?」  感傷に浸るあまり、背後の気配に気がつくのが遅れた。  慌てて煙草を灰皿でもみ消して振り向くと、真新しいネグリジェを纏ったメイジがこちらを見つめていた。  湿り気の残る長い金髪にバスタオルを当てながら、その赤い双眸がじっと俺を見据える。 「あ…ごめん、メイジ。煙草……嫌いだった?」  本当は、メイジが出てくる前に消して軽く芳香剤でも振っておくつもりだった。  このくらいの子供で、しかも女の子とくれば、煙草の匂いを嫌う子が大多数だろう。  だが―― 「いえ……ただ、この匂い、懐かしくて……」  メイジの答えは、少し予想外だった。 「今のトシアキ、『おとうさん』の匂いがします…」  …なるほど。  どうやら、おじさんは向こうでも煙草を吸い続けていたらしい。  だから、メイジにとってはこの匂いが「おとうさん」の匂いなのだろう。 「でも…『おとうさん』とは、その…できません……」  そう呟き、内腿をモジモジと擦り合わせるメイジ。  どうやら、彼女は寝る前にもう一度「する」つもりだったようだ。 「はは…それじゃあ、俺、もう一回お風呂入ってこようか?」 「あっ、いえ、その…」  笑いながら腰を上げた俺を、メイジが制する。  彼女はそのままゆっくりと俺に歩み寄り、抱きつくようにして俺の胸に顔を埋めた。 「今夜は…『おとうさん』と一緒に寝たい、です……」  俺を見上げたメイジの瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。  さらに数日後。  その日、マンションの駐車場に入ってきた一台のトランスポーターを、俺とメイジは見守っていた。  届け物、と聞いて出てきてみればコレだ。  一体、何が送られてきたというのだろう。  やがて、後部ドアが開けられ、荷降ろし用のリフトの上に「それ」は顔を出した。 「あれは……!」  俺の隣で絶句するメイジ。  俺も同じ気分だった。  コンテナの中から現れたのは、一台のスポーツバイクだった。  漆黒の体躯の中で、一際目を引くアンダーカウルの「Ninja」の文字。  そしてさらに、テールカウルには「ZX-11」の文字が見て取れる。  ZX-11。  カワサキZZR1100の北米モデル。  水冷四気筒DOHC1052ccのエンジンは147馬力を叩き出し、さらに高速域ではラムエアシステムによって実質150馬力以上を発揮するモンスターマシン。  そのツアラー然とした見た目とは裏腹に最高速度は290km/hに達し、1990年の発売と同時に市販二輪車としては世界最速の座に躍り出たという。  その後、ホンダのCBR1100XXや、スズキのGSX1300ハヤブサの登場で後継機に跡目を譲ることとなったものの、今なお名車の呼び声の高い一台だ。  ラムエアシステムの吸気口が二つあるところを見ると、モデルチェンジ後のD型だろう。  しかし、そんな化物バイクが何故ここに。 「おとうさんの…バイクです」  バイクを眺めながら、メイジが呆然と呟く。 「え…っ、おじさんの…?」  どうやら、現地の人が送ってくれたおじさんの遺品らしい。  一緒に渡された大きな箱の中には、各種書類と一緒にある物が入っていた。  まだ真新しい、ドラえもんの顔がペイントされたフルフェイスメット、いわゆる「ドラヘル」……  ご丁寧に、メイジ用らしく同じデザインのキッズ用メットも入っていた。  バイク乗りとしてのおじさんは、向こうでも健在だった、ということか。  わざわざ北米向けのフルパワーモデルを選んでいる辺り、その酔狂ぶりが窺える。  そして、どうやら俺はその後継者となるらしい。 「ふ…ふふふ……そうか…」 「……トシアキ?」  俺は漆黒のモンスターマシンを前に、かつてない高揚感を抑えきれずにいた――    …そして数分後。  漆黒のモンスターマシンを前に、大型二輪免許を持っていないことを思い出して両膝をつく俺の姿があった――