1.『としあきとメイジのハロウィン』 メイジと二人で夕飯の買い物に出た。 この時期なので、ハロウィンのカボチャがスーパーの店先に飾られている。 足を止め、じっとカボチャを見つめるメイジ。 へぇ、こういうことに興味を持つのか、子供らしくていいじゃないか。 「カボチャ買って、作ってみるか。仮装もやるなら手伝うよ」 「…これ、的に良さそう」 メイジは一言そう言うと、さっさとその場を離れ、店内へとスタスタ歩いていく。 急いでカゴを取り、その後を追って入店する。 何となく振り返って、カボチャの後頭部辺りを見た。 的に良さそう、か。夏にもスイカに同じことを言ってたなぁ。 そんなことを思い出し、そっとため息をついた。 メイジの姿は見えなくなってしまったが、行き先は分かってる。 今日は何パック買わされるんだろう?もう店員に顔を覚えられているみたいだ。 ヨーグルトなんていくら食べてもいいから、銃とかは忘れてほしいなぁ。 そんなことを思いつつ、メイジを追って乳製品売り場へと向かった。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 2.『としあきとノヴのメイドさん』 「えっと、どうかな?」 「ワォ!思った通り、よく似合ってるよ」 まさか着てくれるなんて。頼んでみるものである。 コスプレ用の衣装だが、メイド服のノヴが目の前に。 ノヴはオシャレで可愛いもの好きだ。 服はいつも女の子らしいコーデでばっちり決めて、スカートから伸びる生足にはドキリとさせられる。 以前本当は女の子なのかと、思い切って聞いたことがある。 「ボクは男の子だよ?えっ、この服?可愛いから着てるの。ボク、可愛いものが大好きなんだ」 そこで今日、軽蔑覚悟でお願いしたところ、なんとOKしてくれたのである。 「エヘヘ、実はちょっと興味があったんだ。としあきさんはメイドさん好きなの?」 「まあね!ただどっちかと言えば、ノヴ君だから着て欲しいって気持ちの方が強いかも」 「そうなんだ…。じゃ、ボクも一度着てみたかったから、今日はお礼にメイドさんしてあげる」 「マジで!?やったー!!」 「でも…ボク、男の子だよ?それでも…いいの?」 そんなの、答えは決まってるじゃないか。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 3.『としあきとWメイジの過去』 白いメイジと褐色のメイジ。今日も二人の髪をといてやる。 あんまり見事な金髪で、ある時ついうっかり「といてやろうか」と言ったら、以来ずっとやらされる羽目になったのだ。 (しかし、コレはなんなんだろう?傷跡みたいだけど) 何故か二人の頭の、それもほとんど同じ場所に傷跡と思しきものがある。 どうしようかと迷っていたが、健康の問題があったら困るので、思い切って聞いてみた。 「傷跡…。ああ、何年か前に手術を受けたことがあった」 「手術!?」 「あー、それアタシもー」 「二人とも!?もしかして病気だったとか?今は大丈夫なの?」 「それは問題ない」 「うん。全然へーきだよ」 「そ、そう…。それならいいんだけど…」 「でもあれ以来だと思う。わたし達の感覚が繋がったのは」 「あ~、そー言えばそっかなー」 そ、そんな、まさか…。え、マジかよ…? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 4.『メイジとめぐみの出会い』 厄介なところに出喰わした。 中年男が、自分と同じ年頃の女児に狂ったようにのしかかっている。 女児の方がこちらを見た。釣られて男の方も。 男が立ち上がり、こちらに向かってきた。 やれやれ、速やかに立ち去るべきだった。判断が鈍っているのは平和ボケか? 約10分後…。 「スゴイね!あなた強いんだ!」 男を片付けた後、逃げた先にあった公園で興奮しながら話しかけられる。 「…大したことない。それよりあの男は何者?」 「あいつはロリコンの変態よ。この前わたしに痴漢したから、(千枚通しを取り出し)チンコに針刺してやったの」 「危険なことをする。そういう時は通報すべきでは」 「それじゃ気が済まないもの。あ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。わたしの名前は雪印めぐみ。あなたは?」 「…双葉メイジ」 「そう。じゃあメイジさん、友達になりましょ。あなたはクラスの連中とは違うみたいだし、あなたみたいに強い人と一緒なら、変態野郎も怖くないし」 友達にされてしまった。やれやれ、気まぐれに一人で外出など、するものではなかったか? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 5.『メイジとあろえの出会い』 雪印めぐみと知り合って以来、毎日わたし達は会っていた。 今日も二人で過ごしているが、彼女には他に友人はいないのか? 「そうね、はっきり言ってクラスメートとは反りが合わないわ。だからメイジさんと友達になれて嬉しい」 そんなことを話しながら夕暮れの町を歩いていた。 大きな公園の前を通りかかった時、偶然そこから出て来た者と鉢合わせした。 「え…〈委員長〉?」 めぐみが呆気に取られた表情で呟いた。 「…早退はやっぱり仮病ね。〈狼少女〉」 委員長、と呼ばれた彼女がめぐみに向けるのは、皮肉な口調と蔑んだ目だ。 そっと横目で盗み見れば、めぐみは下唇を噛んでいる。 めぐみに友人がいない理由が何となく察せられた。 「もうすぐ日が暮れる。さっさと帰るのよ、問題児」 「ちょっと何よ!…待ちなさい、いつかその優等生の仮面をひっぺがしてやるんだから!」 喚くめぐみを歯牙にも掛けず、〈委員長〉は去っていく。 それより…彼女が肩に担いだあの「長い袋」は何だろう? **************** 興奮するめぐみをなだめ、わたしは聞いた。 「めぐみ、あの子は知り合い?」 「あいつは森永あろえ。嫌だけどクラスメートよ。クラスの連中は大体気に入らないけど、あいつは別格ね」 「そうなのか?」 「ええ、鬱陶しいくらい真面目で、先生方の覚えめでたい優等生。でも、そんなの絶対嘘!わたしには分かる、あいつ何か隠してるわ」 今、めぐみは「隠している」と言ったが、わたしも先程の彼女には妙な雰囲気を感じた。 止せという声と、確かめろという声が同時に脳内で発生する。 結局わたしはあろえが出て来た公園に入っていった。 道は一本なので迷うことなく突き進む。 見えた。この先の地面に何かある。 わたしの歩みは慎重になる。付いて来ためぐみもわたしの背後で歩調を揃える。 やはり。 「エッ!?何、これ…この人、どうしたの?まさか…」 「確かめねば分からない。だが…」 わたし達の前に、スーツ姿の男が俯せに倒れていた。 **************** わたしは近づいて男の体を調べてみた。 これは…恐らく死んでいると判断していい。 男の後頭部、ちょうど延髄の部分に深そうな傷口があった。 十中八九、即死だっただろう。 「ね、ねえ、その人、死んでるの?」 めぐみの声が震えている。 痴漢の性器を突き刺す程気が強いめぐみがだ。無理もない、と思う。 だが、森永あろえは?ここまでは一本道だ。彼女はこの死体を見ていないのか? わたしは彼女が持っていた「長い袋」を思い出した。 あの中身は?思いつきだが、この国では伝統的な刀剣が今も作られているという。 背後から、あるいはすれ違いざま後頭部を刺し貫く。 あの長さなら身長差も問題ないだろう。 わたしはめぐみの両肩を掴んで言い聞かす。 「巻き込まれる危険がある。この件は黙っていること」 青ざめためぐみは無言で頷いていた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 6.『としあきとメイジの相談』 「へえ、◯◯公園で殺人事件があったんだって」 「そーなのー?んー、アタシ達も気を付けた方がいいかな~?」 ノヴとブラックが、テレビで夜のニュースを見ながら喋っている。 しかしその輪からメイジは外れている。一人で何やら考え込んでいるようだ。どうしたんだろう? 風呂から上がったブラックは髪を乾かすと早々に布団に潜り込み、ノヴが入浴中の時を狙って話しかけた。 「なあ、メイジ、今日はどうしたんだ?何かあったのか?」 「…別に」 「そうは見えないけどな。悩みがあるなら話してくれよ。話せる範囲でいいからさ」 「…それなら」 俺は風呂上がりのメイジの髪をときながら、所々を伏せた彼女の話に耳を傾けた。 「そうか…友達がトラブルに巻き込まれそうか…」 「対処を要する」 「う~ん、難しいな…。メイジが止めてあげればいいけど、無理ならその子の親にも連絡するとか…」 「なるほど…。検討する。助言ありがとう」 …こんなのでアドバイスになるのかな?養うって…簡単とは思わなかったけど、やっぱり大変だ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 7.『としあきと三人のクリスマス』 そうか、今月はクリスマスがあるんだったなぁ。 去年までは自分には関係ない話だったけど、今年はそういう訳にはいかないぞ。 「なあ、みんなはサンタクロースにどんなプレゼントをお願いするんだ?」 俺の質問に三人が顔を見合わせた。これはどういう反応だ? 「…プレゼント、としあきが?」 うん?メイジ、その聞き方はおかしくない? 「そーなの!?今年はくれる人いないねーって話してたんだ!」 ブラック、何の話をしてる? 「うん、だから今年は無しかもねって」 ノヴ、ってか君らサンタの話はしないのか? 「……みんな、サンタクロースは来ないと思ってるのか?」 「来ない」 「としあき、知らないのー?サンタクロースは良い子のトコに来るんだよ~」 「〈組織〉の良い子は、外の良い子とは違うから」 ………待ってくれ。 **************** 俺は三人の話を聞き、密かに決意した。 「みんな、今年のクリスマスはサンタクロースが来てくれるぞ」 三人とも怪訝な顔をしてる。 「何故?」 「来ないよ~」 「うん」 「いや、来る。三人が良い子にしてたら、きっと来てくれる」 三人とも黙り込む。 やがてメイジが口を開いた。 「先程もノヴが言った。わたし達は〈こちら側〉の良い子ではない」 「今からなればいい。そしたらサンタクロースも見てるから」 「…分かった。努力する」 「えっと、としあきに期待していいの?」 「じゃあクリスマス、楽しみにしているね」 そう。俺がサンタだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 8.『メイジとめぐみの招待』 ◯◯公園の事件から数日後。 わたしは今日もいつもの街角に、めぐみとの待ち合わせ場所に立つ。 今日は彼女が遅い。珍しいことだ。しかし、そういう日もあるだろう。 その時、わたしは自分に向けられた視線に気付いた。 髪の長い、眼鏡を掛けた成人女性。半信半疑といった表情でこちらを見ている。 接近してきた。何者だ?目的は? 「あの~、双葉メイジさん、ですか?」 「…ええ」 「えー、わたし、近賀芹といいます。雪印めぐみの、身内の者です」 「めぐみの?」 「はい。あの子、今日学校を休んだんですけど、元気になったから友達と会いたいと言って…」 「それで、あなたが?」 「ええ、あっ、ちょっと待ってね」 そう言うと、近賀芹はスマホで電話を掛け、それをわたしに手渡した。 「メイジさん?わたし、めぐみ。ねえ、今からウチに来ない?」 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 9.『メイジとめぐみの家』 「メイジさんいらっしゃい!来てくれて嬉しいわ」 近賀芹なる人物の案内で、わたしは雪印めぐみの自宅に招かれ、彼女の部屋に通された。 「めぐみ、あの人は?」 「親戚のお姉さん。ウチ、両親とも仕事で家を空けてるのよ。だから住み込みで来てもらっているの」 両親不在。すると、としあきの助言はあの女性を対象に。 「では体調は?」 「ああ、仮病」 そうか。しかし何故? 「うーん…ホラ、◯◯公園の…」 「アレは忘れること」 「そうだけど…。でも、あの時の森永あろえ…変だと思わなかった?」 鋭い。だが、危険でもある。 「同じクラスだから顔を合わすけど、どんな顔してればいいか、分かんなくなっちゃって。正直疲れてきてね」 その時だった。玄関でチャイムが鳴った。少しして足音が近付き、ドアがノックされた。 「めぐみ、なんかまたお友達が来てくれたよ。えっと、森永あろえさんだって」 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 10.『メイジとあろえの訪問』 めぐみは突然現れた森永あろえをじっと見つめる。隣でわたしもだ。 「はい、これが授業のプリント。お家への連絡は、さっきあのお姉さんに渡したから。…顔色は良さそうね。明日は登校出来そう?」 淡々と話し続けるあろえに、めぐみが言った。 「何の用があって来たの?」 「見ての通りよ。先生から配布物を届けるついでに、様子を見てくるよう頼まれたのよ」 「なるほど、さすが〈委員長〉」 そこから会話が進まない。三人とも仕方なく、芹が用意した飲み物に口をつける。 突然めぐみがあろえを睨んだ。 「◯◯公園で殺人事件があったの覚えてる?」 待て。めぐみ、何を言い出す!? 「ああ、ニュースで見たわね。それが何か?」 「アレ、わたし達があの公園で偶然出会った日のことよ」 「そうだった?」 「そうよ。実はわたし達、あなたと別れた直後、あの公園で死体を見たの」 「ふぅん」 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 11.『メイジと二人の会話』 「分かる?直後って、つまりあなたが公園から出てきてすぐのことよ。あなたはあそこで何も見なかったの?」 「見てないわ」 「嘘ね」 「…根拠は?」 「喋るタイミングとか、まあ色々よ。〈狼少女〉を舐めないで頂戴」 「…仮にわたしがその死体を見ていたとして、それが何だと言うの?」 「だっておかしいじゃない!なんで死体見て平然としてるのよ。不自然だわ。まさかと思うけど、あなた…」 「めぐみ、もういい」 わたしはやっと発言出来た。彼女を止めなければ。 あろえがため息をつく。 「まさか、そんなことを吹聴するつもり?ますます〈狼少女〉扱いよ?」 そう言って彼女は冷ややかな表情を浮かべる。 まずい、だが止める間も無く、めぐみが立ち上がった。 殴るのか?飛び出しためぐみだが、興奮のせいか、あろえのランドセルに足を引っ掛け蹴飛ばしてしまう。 きちんと閉まってなかったのだろうか、ランドセルの蓋が開いた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 12.『メイジとあろえの本』 蓋の開いたランドセルが床を滑り、中身がこぼれる。 その中に一冊の重厚そうな本が床に落ちた。 ハッとした表情であろえの目が本を追う。 釣られてめぐみもわたしもその本を見た。 表紙が開き、そこから、黒っぽいものがはみ出していた。 なんだ?…まさか、拳銃!!? 「えっ、何それ…」 めぐみが惚けた声で呟く。 あろえは脱兎の如く飛び出し、ソレを掴んだ。 キッとこちらを睨み、右手に握った銃を突きつける。 条件反射のようなものだった。 わたしの右手もまた、コートの下からコルト・ガバメントを抜き出し、構えていた。 あろえの表情から、彼女が追い詰められているのがはっきりと分かる。 銃を抜いたのはまずかったか? そう思った瞬間、めぐみが動いた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 13.『メイジと三人の交戦』 なんてことを! めぐみの右手に、千枚通しが握られているのが見えた。 撃つべきか!?だが次の瞬間、めぐみの体がぴたりと止まった。 あろえの左手に握られたナイフの刃が、めぐみの喉元に当てられている。 速い。銃よりも速い動きだ。 やはり彼女は刃物の方が得意なのだろうか?あるいは実は左利きなのかもしれない…。 「森永あろえ、武器を下ろせ。わたしも下ろす」 我ながら間抜けなセリフだ。 あろえは無言だが、冷静さを失っているのが分かる。 めぐみは蒼白。しかし振り上げた凶器を手放していない。 これは…動けない。 あろえを撃つのは簡単だが、望ましくない。 めぐみが傷つくのも避けたい。 あろえも殺しは避けたいはず。 するとこの状況は…。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 14.『メイジと三人の膠着』 多分、あろえよりわたしが撃つのが速い。 だが、それよりも速く彼女のナイフがめぐみの喉を裂くだろう。 めぐみが動けば、あろえに隙が生じる可能性はある。 しかし、喉にナイフを当てられてそんなことは出来ない。 あろえは自分からは動けないだろう。 二対一だ。 めぐみを殺すのは簡単だが、その瞬間わたしに撃たれる。 後はめぐみを盾にすることだが、わたしに狙われ、めぐみも武器を持つ状況で上手くやれるか? 結局、わたし達は誰も自分から動くことが出来ないのだ。 完全なる膠着状態。 誰も言葉を発しない。 指先一つ動かせない。 このまま永遠に時が過ぎるのではないかと思えた時、不意に沈黙が破られた。 「めぐみ、バタバタと何してるの?病み上がりなんだから、大人しくしてなさい」 芹がドアを開ける前に、わたし達は慌てて武器を隠した。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 15.『メイジと三人の休戦』 芹が部屋から去り、わたし達は床にへたり込んだ。 「うわぁ、危なかったー」 めぐみは座ったまま後退りして、あろえと距離を取る。 「ああああ、どうしよう、どうしよ~~」 あろえは呟きながら頭を抱えている。よく見れば涙目? 「あろえ、わたしは銃を収めた。あなたも」 彼女は頷くと、あの本に銃を収め、床に散らばったものと一緒にランドセルに入れた。 とりあえず、武器を向け合う状況は脱した。 問題はここからだ。 「あろえ、わたしはあなたの秘密を知った。けど、あなたもわたしの秘密を知った」 「…さっきの銃のこと?」 「そう。わたしは平穏を望む。互いに秘密を守ろう」 「それは…でも…」 チラリとめぐみを見た。 なるほど、そちらもあるか。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 16.『メイジと三人の協定』 「めぐみ、あなたは秘密を守れるか?」 「もちろん」 めぐみが答えると、すかさずあろえが反論する。 「嘘!あなたの言葉は信用出来ない!この嘘つき!」 「うわー嫌われてるなー」 「めぐみ、これは大事なこと」 何とかあろえにめぐみを信用してもらわねばならない。 めぐみは少し考え、わたしに言った。 「うーんと、秘密がバレると、メイジさんもマズイことになるのよね」 「そう。そして、あろえはわたしの秘密を握った。彼女がそれを公にすれば、わたしは終わる」 「なら、わたしも秘密を守るしかないじゃない。だってメイジさんは大事な友達だもの。失くしたくない」 そう言うと、めぐみはあろえを見つめる。 「つまり、わたしにも秘密を守る理由はあるってこと」 あろえは考え込む。わたしは言った。 「あろえ、それにめぐみ。これは協定。わたし達は互いに秘密を守る」 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 17.『メイジとトリオの結成』 「分かった。わたし達は秘密を守る」 ついにあろえは頷いた。 やれやれ、これでひとまず安心か? 「ねえ、あろえさん、それならあなたもわたし達の友達にならない?」 「ハァ!?」 あろえが目を丸くする。わたしも困惑した。めぐみは何を言い出すのだ? 「あら、わたしは結構本気よ。優等生面はムカつくけど、その下の本当の顔には興味が湧くわ」 「あ、あなた、オカシイわ。そんなこと言って、脅迫でもするつもり?狙いは何よ!?」 「良い子ちゃんは嘘臭くて嫌い。でも、その逆なら友達になれそうだから」 「わ、わたしは嫌よ!」 「まあまあ、そう言わずに。ゆっくり仲良くなりましょ。これから学校でもよろしくね❤︎」 「イ、イヤーー!」 何故、こんな展開に? 「じゃあ、これからわたし達はトリオねー」 やれやれ、今度はトリオか…。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 18.『メイジとあろえとの家路』 成り行きからトリオになったわたしとあろえは、めぐみ宅を後にした。 さて、別れるまでの時間をどう過ごすか。 「ねえ、双葉さん…だっけ?」 向こうから話しかけてきた。どんな話だろう? 「雪印さんとはどこで知り合ったの?学校は違うよね」 「ああ、それは…」 この期に及んで隠すこともあるまい。わたしは簡単にだが、めぐみを救ったことから説明した。 「じゃあなんで、そんな厄介そうな子と付き合ってるの?」 …言われてみれば。何故だ? 「分からない。ただ、約束した」 「約束って?」 「明日も会うと」 「そう……もしかしたら、わたしもそうなのかもしれないわ」 それからわたし達はずっと、静かに歩き続けた…。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 19.『メイジとトリオの待ち合わせ』 めぐみ宅での出来事から一夜明け、今日は初めて三人で待ち合わせをする。 いつもの場所に今日はめぐみだけでなく、あろえもいた。 めぐみは今まで以上にニコニコしている。 あろえは落ち着かない様子なのが一目で分かる。 考えてみれば、実に対照的な二人だ。 〈委員長〉と〈狼少女〉。〈優等生〉と〈問題児〉。 髪型も二つに結ぶのは同じだが、あろえは地味な三つ編み、めぐみは目立つツインテール。 それでいて二人とも凶器を隠し持っているのだ。 もっとも、それはわたしも同じだが。 「待たせた」 「大丈夫、わたし達も今来たとこ。あろえさんが抵抗するからさぁ」 「だって、街にまで出て来るなんて思わなかったし…」 「そんなの気になる?真面目は変わんないのね」 「めぐみ、わたしは移動していい」 わたしがそう言うと、めぐみは考え込んだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 20.『メイジと二人の来訪』 「うーん、じゃあねえ、昨日はわたしのトコだったし、今度はあなた達どっちかの家に行くのはどう?」 これがめぐみの案だった。 わたしとあろえは顔を見合わせた。 あろえは抵抗がありそうな様子が窺える。 わたしとしても考えるところだ。 見られて困るものは隠してあるが、問題は〈あの二人〉だ。 この二人のことはまだきちんと話してはいない。 余計な真似はしないだろうか? 秘密を共有するこの二人なら、今さら構わないかもしれない。 しかし、秘密に関わる人間が増えるのはどうか。 だがその一方で、移動を言い出したのはわたしだ。 考えた末に、結局…。 「へえ、ここがメイジさんの家なのね」 「本当に良かった?やっぱりウチでもいいんだけど」 わたしは…この国に来て甘くなったか? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 21.『メイジと〈二人〉と〈二人〉の出会い』 「ただいま。ブラック、ノヴ、いる?」 「いるよー。どしたのー?」 「おかえり。今日は早いね」 「双葉さん?この子達は…」 「え~ッ、メイジさん、兄弟いたの!?」 まず予想通りの反応か。だが問題はここからだ…。 「紹介する。褐色の方はブラック・メイジ。わたしの…妹のようなもの。 それから、ショートヘアの方がノヴ。わたしの…弟のようなもの」 「ちょっ、ちょっと待って、メイジさん」 「うん、わたしも聞きたいんだけど」 やはり。二人ともまずこちらに反応したか。 「「弟なの?」」 予想通りの質問。二人の声が綺麗に揃った。 「ノヴ、説明」 「アハハ。スカートだけど、ボクは男の子だよ。この服はカワイイから着ているの。ボクはカワイイものが好きなんだ」 **************** ノヴの説明に、二人は呆気に取られている。 「男子なんだ…」 「えーと、男の娘?女装少年?」 あろえとめぐみがそれぞれ口にする。 「ねーねー、この子達は?メイとどーゆー関係?」 尋ねたのはブラックだ。 いかにも興味津々という表情。 「彼女らはわたしの友人だ」 わたしはブラックとノヴに、二人を紹介した。 「友達出来たの!?いいなー」 「姉さん、いつの間に?」 ブラックとノヴは羨望の眼差しをわたしに向ける。 「大丈夫、これからはあなた達も友達よ!ねっ、あろえさん!」 めぐみの言葉に、あろえはややぎこちなく頷く。 ブラックとノヴが歓声を上げた。 **************** どうやら会話は弾むようだ。 めぐみはノヴとファッションの話題で盛り上がっている。 ブラックはあろえにじゃれついている。 それぞれ話し相手が出来たようで、ここまでは順調か? 「ねーねー、あろえー、なんか固いよー。アタシと話すのイヤなの~?」 「そ、そんなことないけど…」 「それともアタシのこと、警戒してる~?」 ブラック、余計なことは言わないで欲しい。 「警戒って何それ。あ、もしかしてブラックさんもメイジさんみたいに…」 めぐみ、それは聞くな。 「みたいにって…それどういう意味?」 ノヴ、反応する必要は無い。 「え?あなた達もメイジさんみたいに強いのかなって」 「…姉さん、どういうこと?」 緊張が走ったのが、目に見えた気がした。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 22.『メイジと五人の秘密』 力を示すこと。 それは平穏に生きようとするわたし達にとってのタブー。 ブラックとノヴの雰囲気が変わった。 あろえの表情が険しくなり、めぐみは失言に気付く。 「ね、ねえ、他のお話ししよっか…」 めぐみの言葉が虚しく響く。 しかしその時、あろえが言った。 「双葉さん。妹さんや弟さんも、あなたと同じなんでしょ?だったら、わたし達が付き合う以上、二人にも話した方がいいんじゃない?」 「あろえ…けれど」 「わたしはいい。元はと言えば、わたしのミスから始まったようなものだもの」 「分かった。あろえがいいのなら」 「うん、わたしも構わない」 めぐみも言う。 話すしかないか。 わたしは覚悟を決めて口を開いた。 **************** 「ブラック、ノヴ。この二人と友人になりたいか?」 「そりゃあアタシも友達は欲しいけどー」 「ボクもね。でも事と次第によりけりだよ」 「分かった」 わたしは自分の銃を取り出した。 ブラックとノヴは驚きのあまり絶句する。 わたしは二人に言った。 「彼女らはこの銃のことを知っている。わたし達三人は、その上で友人になった」 続けてあろえとめぐみに言った。 「わたしはかつてこの銃で生きていた。この二人もだ。だが今は違う。この国で平穏に暮らしたい」 再びブラックとノヴを見た。 「わたしは彼女らと秘密を守る約束をした。二人は同じ約束を出来るか?」 「うーん、だけどさ~」 「その二人は信用出来るの?」 当然の疑問だ。 **************** 「待って。そこはわたしから説明する」 そう言うとあろえは、〈あの本〉を取り出した。 表紙をめくり、中から銃を取り出す。 ブラックとノヴが息を飲んだ。 「詳しいことは話せない。だけど、わたしにもこの銃がある。双葉さんも雪印さんもこのことは知っていて、お互いに秘密を守る約束をしているの」 そしてあろえはブラックとノヴをじっと見つめた。 「つまり、わたし達はお互いに秘密を握り合った〈運命共同体〉とも言える訳。それは信用の理由にならない?」 「う~ん、あろえは分かったー。じゃ、めぐみはどうなの~?」 ブラックは年齢よりも幼げだが、馬鹿ではない。 四人の視線がめぐみに集中した。 「あー、わたしかー…」 彼女は未だ手を汚していない人間だ。 故に彼女には明かすものが無い。 「わたしにあるのはコレくらいなのよねー」 そう言って彼女は千枚通しを取り出した。 **************** 「わたしは銃なんて持ってない。やったことと言えば、コレで痴漢のチンコ刺してやったくらい」 彼女の言葉にブラックもノヴも青ざめる。 想像してしまったか。 「バレたら困ることと言ったら、まずこれかな。今だから言うけど、やったのってメイジさんに助けてもらった時のヤツだけじゃないしね」 何?それは初耳だ。 「雪印さん!あなた何やってるの?」 あろえが慌てて口を挟む。 「刺すまでしたのは数人くらいよ。普通は通報程度だし。大体ね、ちょっと思わせぶりにしたくらいで」 「めぐみ、もういい」 「あらそう?わたしも秘密を話さなくてよかった?」 「充分」 実際充分だ。これ以上聞く気は起こらなかった。 「あとね、わたしのあだ名は〈狼少女〉。狼少女の言うことなんて、誰も信じないと思うんだけど」 ブラックとノヴも「もういい」という表情だ。 あろえは額に指を当てていた。 **************** 「ねー、結局みんなで秘密を守るなら、アタシもあろえやめぐみと友達になれるってことでいいのー?」 「そうだ」 「そっかー、じゃあアタシはいいよー。アタシも友達欲しいもん!」 ブラックは納得したようだ。ではノヴは? 「ちょっと考えたんだけど」 「なんだ?」 「〈秘密を共有する運命共同体〉なら、ボク達も何か明かした方がいいのかな?」 む…。それはそうかもしれない。 わたしは少し考え、二人に告げた。 「なら、今身につけている銃でいいから、二人に見せて欲しい」 「いいよー」 「姉さんがそう言うのなら」 そう言って、二人は自分の銃を取り出した。 あろえとめぐみの視線が集中する。 やれやれ、これでいよいよ後戻りは出来ないな…。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 23.『メイジと五人の銃談義』 「アタシはこんなのー」 ブラックが両手に拳銃を持ち、あろえとめぐみに見せる。 「グロックの…19かしら」 あろえは見分けがつくようだ。 「ウン。軽いしねー、両手で使うならコレが良かったのー」 「銃の種類はよく分かんないけど、二丁拳銃なのは分かったわ。じゃ、弟さんのは?」 めぐみが尋ねる。 「ボクのはコレ。ワルサーPPK」 「ふーん、ブラックさんのとは雰囲気が違うわね」 めぐみなりに違いが分かるようだ。 あろえが彼女に解説する。 「素材が違うのよ。このPPKは全部鉄で出来てるけど、ブラックさんのグロックはポリマー製なの」 「なるほど、金属とプラスチックの違いね。すると、グロックだっけ?の方が新しいのかしら?」 「その通りよ」 「じゃ、あろえさんのはどういう銃なの?」 **************** 「わたしのもポリマー製ね」 そう言いつつ、あろえは例の本から自分の銃を再度取り出す。 「ワルサーP99。商業的には上手く行かなかったそうだけど、わたしは気に入ってるわ」 その言葉にノヴが反応した。 「分かるなー。ボクも気に入ってるからなんだ」 「まあ、確かに護身用には良いわよね」 「うーん、って言うかね、ボクはカワイイものが好き。でも銃ってカワイクナイじゃない。けど、これは結構カワイイ感じでしょ?」 「えっ!?そういう理由!?それで大丈夫なの?」 「護身用だからいいの。実戦で使うのは〈別なの〉だしね。まあ、それは見せないけど」 「ならいいんだけど」 ノヴとあろえのやりとりを聞いていためぐみが言った。 「なんかいいな、共通の話題があって。ねえ、ピストルってどうやって手に入れるの?」 その発言にあろえが慌てる。 「何を言い出すの!?いい?銃はオモチャじゃないのよ、人を殺せる武器なんだから!」 「そういうところは本当に真面目なのね。やっぱり〈委員長〉だわ」 **************** 「茶化さないでくれる?銃は取り扱いに注意が必要なの。誰でも持てるものではないわ」 「それはそうだろうけど…。でも、この中で何かあった時戦えないのって、わたしだけよね?」 「何かって何よ?そもそも危険に近付こうとするのがおかしいの!」 「まあ、銃があっても使い方知らないし、わたしはわたしの武器を探そっかな」 「そういうことじゃなくて…もう、聞きなさい!」 二人のやり取りをノヴは愉快そうに眺めている。 ブラックがわたしのところに来た。 顔を近づけ、耳元で囁きかけてきた。 「メイ、嬉しそう」 「…何を言う?」 「トボけてもダメだよ~。アタシとメイは感覚が繋がってるんだから~」 そう言えばそうだった。面倒な話である。 「あ~っ、そこで何してるの!?コソコソしてないでこっちに来なさいよ!」 めぐみが言うと、ノヴとあろえもこっちを見る。 やれやれ。わたしはブラックに続いて三人のところに戻った。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 24.『メイジと三人の学校』 わたしとブラックが戻った後、会話の中であろえが尋ねてきた。 「ねえ、前から気になってたんだけど、あなた達三人はどこの学校に通っているの?」 わたし達は答える。 「まだ通ってない」 「なんかねー、アタシ達バラバラに来ちゃったから、手続きがまだ終わらないんだってー」 「一応転入する予定の学校は聞いてるんだけど…」 そう言ってノヴは校名を告げた。 「え、それってわたし達と同じ学校じゃない」 あろえだけでなく、聞いていためぐみも驚いている。 「そーなのー?じゃ、みんな同じクラスになれるといいねー」 ブラックは無邪気にそう言ったが、あろえは冷静だった。 「そうね…でも無理だと思うわ。三人も同じクラスに入れたら、偏ってしまうもの」 するとめぐみが口を開いた。 「なら、ここはわたしの出番ね。ま、見てなさい。きっと五人一緒にしてみせるから」 妙に自信満々だが、その根拠は何なのだ…? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 25.『としあきと三人の転入前夜』 やっと終わった。 今の俺はその思いでいっぱいだ。 きっとあの三人も喜ぶに違いない。 何せここ数日、急にせっつき出したからな。 「みんな、小学校に転入する日が決まったぞ!!」 俺の一声に三人の顔がパアッと明るくなる。 いつもはクールでほとんど表情の変わらないメイジも、この時ばかりは別だ。 と言っても、相変わらず見た目の変化自体は乏しい。 今の俺はその微妙な変化が判別出来るようになったってことだ。 「学校…か」 「同じクラスだといいな~」 「楽しみだね」 そうそう、子供はこうでなくちゃ。 聞けば、同じ学校にもう友達が出来たのだと言う。 三人にはここから普通の子供らしい生活をしてほしい、俺はただそう願った。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 26.『メイジと三人の転入』 教室がざわめいた。 それはそうだろう。どう見ても日本人しかいない中に、突如外国人が三人も加わるのだから。 担任の教師、五月芽衣子に促され、わたし達はそれぞれ自己紹介をする。 「双葉・ホワイト・メイジです」 「双葉・ブラック・メイジでーす!アタシはブラックって呼ばれてるよ~」 「双葉ノヴです。こんな格好だけど、男の子です。よろしくお願いします」 ざわめきは止まない。 だが仕方のないことだろうと思う。 としあきも言っていた。 肌の色以外は瓜二つの同姓同名に、スカートを履いた男子。 仮にわたし達が日本人でもきっと騒がれる。 「えっと、あなた達を助けてあげるよう頼んでる子がいてね…」 担任が言いかけた時だった。 「まさか本当に同じクラスになるなんてね。とりあえず、ようこそ。これからよろしく」 立ち上がって答えたのは、森永あろえだった。 **************** 「同じクラスなんてびっくりだよ~。でも嬉しい!」 ブラックは歓声を上げて、ぴょんぴょん跳ねている。 「あらあら、わたしもいるのよ。忘れないでね」 同じく立ち上がって発言したのは雪印めぐみだ。 この二人の発言に、クラスのざわめきの質が変わったのを感じた。 (え、〈委員長〉と転校生、知り合いなの?) (なんでそこに〈狼少女〉が加わるんだよ?) (あの五人が知り合い?どういう関係なのよ?) (〈委員長〉と〈狼少女〉と〈転校生〉…何の組み合わせ?) 担任も知らなかったようだ。きょろきょろとして、狼狽えを隠せない。 「えっ?えっ?…あなた達、お友達なの?そ、そう、それなら安心よね、ウン…」 兎にも角にも自己紹介は終わり、わたし達はそれぞれ指示された席に着いた。 場所は教室の最後尾。わたしを真ん中に、横に並んだ三人をあろえとめぐみが挟む格好だ。 わたし達を受け入れるため、この配置にしたのだろうか? だとすれば、担任がわたし達の関係を知らなかったのは不自然に思えるが…。 **************** 不審なものを感じつつ、放課後を迎えた。 としあきは色々聞かれるだろうなと言っていたが、思ったほどではなかった。 皆がどこか遠慮がちだった理由は、やはりあろえとめぐみとの関係だろう。 これからどうなるか分からないが、それでもここでやっていくしかない。 だが、その前に聞いておきたいことがあった。 「めぐみ、以前きっと同じクラスにすると言ったが、何をした?」 「ああ、それなら校長にお願いしてね」 「ちょっと待ちなさい、なんで校長先生が生徒の個人的なお願いを聞くのよ?」 あろえの指摘はもっともだ。 一体どういう訳だ?何か嫌な予感がするが…。 「それじゃあね、この間の続きでわたしの〈秘密〉を明かすけど、わたし、校長の弱み握ってるの」 「「「「ハァッ!!?」」」」 四人の声が揃った。わたしも思わず叫んでしまった。 弱み?何だそれは? ということはつまり、脅迫か!? **************** 「校長って、あのおヒゲの~?」 「うん。堂々として厳格そうな感じだったけど…」 ブラックとノヴが話すのを聞きながら、わたしも校長の顔を思い出す。 「一体どういうこと!?説明しなさい!」 眉を吊り上げ、あろえはめぐみを問いただす。 「あろえさんは気付いてないの?アイツ、ロリコンよ」 「「「「ハァッ!!?」」」」 またもや声が揃った。 どういうこと…いや、言葉通りか。しかし、本当なのか? 「アイツ、前々からずっと女子のことやらしい目で見てたのよ。目の前では絶対そんなトコ見せずに、遠くや物陰、死角になる場所からね」 …確かに視線を感じたことはあったが、それほど重く受け止めなかった。 やはり、わたしは甘くなっている。 ブラックとノヴも思い当たるのか、考え込んでいる。 そんなわたし達をよそに、あろえはめぐみに食い下がる。 「そ、そ、そんなの納得出来ないわ!証拠、そう証拠はあるの!?」 **************** 「うーん、見せてあげてもいいけど…あんまり気持ちの良いものじゃないわよ?」 めぐみはスマホを取り出し、動画を再生して見せた。 「「「「………」」」」 そこに映し出されていたのは、めぐみに抱きつく校長の姿だった。 荒い息遣いが微かに聞こえてくるのが妙に生々しい。 「めぐみ、この後どうなった!?」 思わずわたしは尋ねていた。 「別にどうも。適当な口実つけて、続きはまた今度って逃げたわよ」 「では、何もされてはいないと?」 「ああ安心して。されたのは抱きつかれるまでで、それ以上のことは許してないから」 ブラックとノヴは唖然としている。 あろえは耳まで真っ赤にして両手で顔を覆っている。 冷静なタイプのようだが、こういったことには免疫が無いようだ。 「それにしても、あんなホイホイ引っかかるなんて笑っちゃうわー」 そう言ってめぐみはケラケラと笑っていた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 27.『メイジとクインテットの結成』 ようやく平静を取り戻したあろえが、めぐみに尋ねた。 「じ、じゃあ、お願いっていうのは…」 「後日、動画のコピーをあげて以来、校長はわたしのお願いを聞いてくれるようになったの❤︎」 流石にここまで来れば、あろえも呆れ顔になる。 「あっ、でもこれでわたしも、大きな〈秘密〉を明かしたことにならない?やっぱりわたし達は〈運命共同体〉ね」 「わたしは巻き込まれただけよ!ああもう、あの時見られなければ…」 「でも~、めぐみが校長を動かせるって、アタシらには都合良いかも~」 「それはそうかもね、なんせボクらは〈特殊〉だもの」 めぐみ、あろえ、ブラック、ノヴ、それぞれの言葉を聞き、わたしは考える。 わたし達三人はノヴの言う通り特殊だが、あろえとめぐみの二人も特殊だ。 もしかすると、わたし達は良い出会いをしたのかもしれない。 「なら、わたし達は〈クインテット〉か…」 呟いたその言葉は、四人の耳にしっかり届いていたようだ。 四人がニッコリ笑ってわたしを見つめる。 やれやれ、わたしは何を言っているのだろう? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 後書き どうにかクインテットの結成までを書くことが出来ました。 思いつくままに書いてきたのですが、ひとまずこれでいわゆる第一部完とさせて下さい。 せっかく五人が揃ったので、この先を書いてみたい気持ちはあります。 具体的に何を書くかまだ決めてないのですが、思いついたら書いていきます。 それからメイジ達の担任と校長については、経済あきさんの設定をお借りしました。 性格までそのままではないのですが、五月先生は名前と容姿、校長は性癖を使わせていただきました。 それでは続きを投稿する時までとしあきに戻ります。 思いつきの人でした。