耳朶を打つのは、シャワーの水音。  肌を滑り落ちてゆく熱い水流が、汚れを洗い流してゆく。  だが――  それだけでは落せない『汚れ』もある。  いくら洗い流しても、いくら擦っても、決して落ちることの無い『汚れ』――  下腹が、痛い。  今も、ズキズキと疼くように。  腿をつたう一条の朱が、もう戻れない事をまざまざと見せ付ける。  頬を流れ落ちる熱いものは、きっとシャワーの温水ではない。    こんなにも。  こんなにも辛い事だったなんて。  体と心にぽっかりと開いた穴に、喪失感と汚辱感が流れ込む。  別に、死守するほど大切にしていたわけじゃないのに。  浴室の中、『俺』は一人、処女喪失に咽び泣いていた―― 「あ…あの、ごめんなさい……」  明らかに歩き方がおかしい俺に向かって、メイジが頭を下げる。  窓の外は既に白み始め、雀の鳴き声が聞こえていた。  部屋には未だにむせ返るような情欲の残り香が充満している。 「はぁ……」  布団の上に残る体液と血の斑模様を見遣り、俺は嘆息した。  あれから数時間。  暴走したメイジは、とにかく俺をむしゃぶりつくした。  その股間のマグナムが治まるまで、何度も何度も。  正直、ネット上でいくら『わぁい』だの『うほっ』だの言ってても、それを実際に体験する羽目になるとは思わなかった。  しゃぶらされたり、突っ込まれたり。  ぶっかけられたり、中に出されたり。  ほんの数時間前まで、そんな事には縁が無いと思っていた。 「――ッッ!!」  メイジの向かい側にあぐらをかいて座ろうとして、尻から突き上げてきた激痛に小さく体が跳ねる。  ――こりゃ、完全に切れてるなぁ…  仕方なく正座で座りなおし、メイジの方を見る。 「あの…本当に、ごめんなさい!」  俺と視線がぶつかり、メイジはテーブルに頭をぶつけそうな勢いで再び頭を下げた。  そんなに謝られても、反応に困る。 「わ、私…溜めすぎちゃうと、その…抑えられなくなって、何もわからなくなって……」  訥々と、事情を話し始めるメイジ。 「えーっと、それじゃ寝る前に言ってた『言っておきたい事』っていうのは…」 「はい……」  メイジは、申し訳なさそうに頭を垂れた。  …たしかに、溜めすぎると大変な事になるのは俺だってそうだ。  ブルガリアからここまで、どれくらいかかったのだろう。  正規のルートでは入国していないから、一週間から二週間くらい、もしくはそれ以上かかっているかもしれない。  それに、そんな状況では気の休まる時など無かっただろう。  両方ついている…という事は、男と女、二人分の性欲があるという事だろうか。  とにかく、ここまで良く保ったものだ。  多分、安心して気を抜いた拍子に理性が決壊したのだろう。 「あのさ、メイジ……」  痛みに耐えながら絞り出した俺の声に、メイジの肩がビクリと震えた。  今にも泣きそうな顔で、俺の方を見上げるメイジ。  そんな顔をされると、怒るに怒れない。  …まぁ、怒るつもりはないけれど。 「……俺は、気にしてないよ?」 「え…っ?」  俺のその一言に、メイジはさも意外そうな声を上げた。 「出せなくて辛いのは俺も経験があるから良くわかるし……それに、一人だけでどうしようもなかったら誰かが助けてあげないと、ね?」  何か色々間違っている気がするが…気にしない事にした。 「で、でも私、トシアキのお尻を……!」  うん、掘られた。  確かに、掘られた。  思いっきり、掘られた。  だが、嘆いたところで俺の処女は返らない。 「いいんだって、野郎の処女なんて女の子のに比べたら安いもんさ」  全く気にしていない、といえば嘘になる。  だが、メイジのように可愛い子にされたと思えば幾分マシだ。  …切れ痔は勘弁して欲しいけど。 「だから……これからは我慢できなくなる前に言って欲しいな」 「えっ…それは、その……」  我ながら、どうかしていると思う。  だが、今回のようにレイプされるよりははるかにマシだ。 「これからは…俺がメイジの『処理』を手伝うよ」  軽く微笑んだ俺に、メイジは頬を染めてうつむいた。  遠くブルガリアからはるばるやってきた小さな同居人。  携えるはクスリと銃とぬいぐるみ。  そして、その身体に不釣合いなほどに大きなアレ。  彼女、メイジとの同棲生活が、今、幕を開ける――  …その前に、痔の薬を買ってこないと。