『夏越祭』    ○初日       <1> と「メイジ、『茅の輪くぐり』行ってみる?」 メ「何ですか、それは?」 と「うーん、早い話がお祭り」 メ「行きたい!」 と「じゃ、用意して」 メ「はーい」       <2> と「おお、結構な人出だな」 メ「着物の人もいますね」 と「浴衣だよ」 メ「ちょっと……着てみたい……かも」 と「え、えっと、じゃあ……今度、探してみる?」 メ「え、もう間に合いませんよ」 と「まあ、まだこの夏に着る機会はあると思うけど」 メ「ホントですか!? じゃあ、探しましょう! 約束ですからね」       <3> と「ああ、着いた着いた。これだよ」 メ「この輪がそうですか?」 と「そう、これが『茅の輪』で、この輪を通り抜けるのが『茅の輪くぐり』」 メ「そうすると、どういうことがあるんですか?」 と「病気を避けるとか、長生きできるとか、そんな感じ」 メ「じゃあ、早速」 と「あ、くぐり方があるからね。唱え詞を唱えながら、左回り、右回り、もう一度左から回  って通り抜け」 メ「唱え詞を唱えながら、左、右、左……」 と「出来た?」 メ「出来ました!」 と「じゃあ、本殿のほうもお参りしたら、夜店とか見に行こうか」 メ「はい!」       <4> メ「こっちはとても賑やかですね」 と「広場で音楽とかダンスとかやるんだな」 メ「楽しそうですね」 と「あと盆踊りもやるんだよなぁ」 メ「わぁ、日本の夏ですねぇ」 と「うん? 興味ある?」 メ「ちょっと。あ、でも、浴衣がいいな……」 と「いや、でも、明日もやるよ、これ」 メ「じゃあ、じゃあ、浴衣着て来れますか?」 と「明日急いで用意したら……」 メ「しましょう! それに約束したし!」 と「わ、わかった。じゃ、朝イチで」 メ「やったあ! 明日も晴れるといいですね」    ○二日目       <1> 亜「どうしたの、急に呼び出したりして?」 と「ああ、亜希、実はかくかくしかじかで……」 亜「はぁはぁ、メイジちゃんの浴衣の着付けをしてほしい、と」 と「お願いします!」 亜「4時から商店街で無料着付けコーナー出るよ」 と「……そうなの?」 亜「うん。だからね、安心していいよ、メイジちゃん」 メ「よかったぁ」 亜「よーし、じゃあ、あたしも用意するか」 メ「えっ、亜希さんも?」 亜「うん。一緒に着ようよ」 メ「はい!」       <2> 亜「ほらほら、としあき、メイジちゃん見てあげて」 メ「どう、ですか?」 亜「柄は水玉に金魚さん。和風だね。髪もアップにしてバッチリです」 メ「亜希さんも素敵です」 亜「ふふっ、ありがと。藍地に白で朝顔、落ち着いた感じにしてみました」 メ「大人っぽいです」 亜「髪は上げてもよかったんだけど、あえてそのまま。黒髪ボブを生かしてみようかと」 メ「いいなー」 亜「ちょっととしあき、なんか言ったらどう? そんなだからモテないんだよ」 と「え、あ、ハイ、2人ともすごく似合ってると思います」 亜「もう、気が利かないんだから」       <3> 亜「盆踊りの前に、茅の輪のとこのあんどん見て行こっか」 と「いいよ」 メ「あ、そういえばたくさん掛かっていました」 亜「ほらほら、今頃なら明かりが点いているよ」 メ「うわぁ、綺麗ですねぇ。それに一つひとつ絵が描いてありますが、これは誰が?」 と「あー、この辺の小学校で描いて奉納するんだよ」 メ「小学校で?」 と「そうだよ」 メ「ふぅーん……」 亜「あ、あのさ、そろそろ始まるんじゃない!?」 と「あ、ああ、そうだな、行こうか!」       <4> と「おーおー、楽しそうに踊ってんなぁ」 亜「……なんて言うかさ、つい忘れちゃうんだよなぁ」 と「何が?」 亜「メイジちゃんのこと」 と「悪い。おれが考えなしだった」 亜「ううん、あたしもそこまで考えてなかったよ」 と「やっぱり、普通じゃない状況なんだよな」 亜「そうだね。……あたしに何が出来るかは分かんないけどさ、相談くらいは乗るからさ」 と「……ありがとな」 メ「何してるんですか――? 一緒にやりましょうよ――」 亜「うん、いま行く――。ほら、としあきも」 と「え、おれも? あ、引っ張んなって」       <5> メ「ああ、楽しかった!」 と「そういや、おれ、盆踊り初めてだった」 亜「来てよかったねー。風も涼しいし、今年は天気に恵まれたよ」 と「確かに風がいいな……あッ」 亜「何? 上? ああ、いいお月様だー」 メ「うわぁ、本当ですねぇ」 亜「満月?」 と「いや、ちょっとまだ欠けてるような」 メ「でもすごく綺麗」 亜「うん」 と「来て、よかったな」 メ「また、来たいな」 と「来年も来よう」 亜「あたしもね」 メ「約束です」                                     (了) ----------------------------------------------------------------------------------    あとがき  再開8回目スレ(2016/07/15)に投下した「初日」に、「二日目」を合わせてアップしたの がこのSSです。  元々は「初日」を投下した翌日に、同じスレに「二日目」を投下する予定だったのですが、 その前にスレが消えてしまったのでこういう形になりました。  ここでネタにしたお祭りは、毎年7月の17日、18日に行われるもので、日程がスレと重な ったことで投下を思いつきました。「二日目」に亜希が登場するのはこれも思いつきで、以 前に書いた「海に会う」というSSとつなげたためです。  そういうわけでこのSSは地元ネタシリーズの第二弾です。15日のスレ内容から、女医や編 集者も出そうかなとも考えたのですが、土地の風物などをメイジに説明するという内容は、 彼女も入れて3人くらいが適当かと判断し、今回はなしとしました。  ちなみに、「二日目」を書くにあたり、実際に踊ってきました。としあきの台詞「初めて だった」は自分のことでもあります。やってみたら、結構楽しかったです。天気も良く、月 が綺麗でした。このシリーズはまた書きたいです。  それではこの辺で。  最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。                                    プレあき ※追記(170805)  この祭りは茅の輪くぐりだけでなく、人形(ひとがた)を神社に納めてお祓いをするという  ことも行います。話の中に書くのを忘れていたので、ここに書いておきます。  それからもう一つ書いておけばよかったと思うのは、茅の輪は香りがよいことです。  草の匂いなので好き嫌いはあると思いますが、個人的には割と好きです。