『初詣・三が日』    <一日編> ①午前0時過ぎ 3人「明けましておめでとうございます」  亜「じゃあ、初詣行こうか、メイジちゃん」  メ「ハイッ。こんな真夜中に出かけるというのもワクワクしますね」  と「この日だけは、子どもが真夜中に出歩いてもいいんだよなぁ」  メ「あっ、除夜の鐘」  亜「新年を迎えたなぁ」 ②道すがら  メ「あれ、なんだか道の様子が変ですね」  と「交通規制してるからな」  メ「なんでですか?」  と「駅から神社の間を車が通れなくして、自由に歩けるようにするんだよ。三日の夕方まで」  亜「それに規制されたとこに屋台が出るんだよ。お参りしたら見に行こっか」  メ「うわぁ、楽しみです!」 ③神社  メ「ここって夏にお祭りに来たところですよね。その時よりも人が多そうです」  と「おいおい、神門のところで規制されてるぞ」  亜「ええっ、いままでそんなことあったっけ?」  メ「後ろもすっごく並んでますよ」  と「本当にここ、いつもの神社なのかな?」 ④お参り  と「いやあ、なんとかできたな」  亜「メイジちゃん、お参りできた?」  メ「はい。二礼二拍手一礼、覚えてきましたから」  と「じゃあ、裏のほう回ってくか」  メ「裏?」  亜「お参りするところはまだあるんだよ。縁結びで有名なところの末社もあるしね」  メ「……ちょっと興味ありますね」 ⑤お稲荷さん  メ「裏に回ってきましたけど、ここは?」  と「お稲荷さん。病気平癒で有名なんだ」  亜「あら珍しい。どっちかと言うと、こっちが並んでることが多いよね」  と「まあ、空いてるならそれでいいし」  亜「お参りしたら、こっちだよ」  メ「中に入っていくんですね」  と「この回廊の奥にも、お参りするところがあるからな」  メ「まだあるんですか?」  亜「ほら、これ見て」  メ「わぁ、大きな樹ですねぇ……」  亜「この神社のご神木」  と「クスノキだ」  メ「なんだか不思議です」 ⑥帰路  メ「それにしても賑やかですね。夏に盆踊りをした広場にもお店がいっぱいです」  と「おれらが子どもの頃は、もっと賑わっていたんだけどな」  亜「ちょっと寂しいね」  メ「そうなんですか? でも、今だってすごく楽しいです」  と「そうだな。よし、駅のほうまで行ってみるか」  メ「ハイ!」  亜「おっ、駅のほうから来る人もあるね」  メ「夜なのに、たくさんの人が歩いていますね」  と「でも、昼間はもっと増えるんじゃないかな。いま準備中の露店も開くし」  亜「それに商店街のお店の中にも、開けるところあるよね」  メ「じゃあ、お昼にまた来たいです」  と「そうしようか」  亜「あたしも行くよ」  メ「楽しみです!」    <二日編> ⑦昼間  メ「お昼になっても人がたくさんですね」  と「神社も夜と変わらなかったな」  亜「それどころか、お稲荷さんのほうもめちゃくちゃ並んでたしね」  と「まあ、今回のメインは商店街のほうだから」  メ「商店街の真ん中の道路を自由に歩けるんですね。少し不思議な感じがします」  亜「一年に一回、この三日間だけね」  と「ここが一年で一番盛り上がる三日だよな」  亜「じゃあ、見に行こうか」  メ「ハイ!」 ⑧参道  メ「うわぁ、いつもは車が通るところに、いろいろお店が出ています」  と「昔はもっとぎっしり並んでたんだけどなあ……」  亜「年々寂れていってるし、よそで事故があったのも関係してるかもね」  メ「でも結構人が来てますよ」  と「いや、これ珍しいよ、本当に。なんで今年はこんなに人が多いんだろう?」  亜「まあまあ、それよりいつものとこ行こうよ」  メ「いつものところ?」  と「あそこの和菓子屋さん。店の前に売場出してるけど、湯気が立ってるだろ?」  亜「あそこでお饅頭蒸かして配っているんだよ」  メ「お饅頭……」  と「蒸したては美味いぞぉ」  メ「行きます! 行きます!」 ⑨食べ歩き  メ「はふはふ、熱い、です」  亜「けど、これが、ふう」  と「美味い。常温でも十分いけるんだけどな」  メ「甘くて美味しいです」  亜「熱々の餡がとろっとした感じなのがまた」  と「カットしてあるけど、タダだから文句は言えないな」  メ「うーん、どんどんお腹が空いてきましたよ」  亜「お正月だし、もうちょっといいよね」  と「まあな。メイジも食べ過ぎない範囲でいいぞ」  メ「やったぁ! えぇっと、たこ焼きに唐揚げに……迷います」  亜「慌てなくてもいいよ」  と「本当にあんまり食べ過ぎるなよ」 ⑩お土産  メ「そういえば、神社のほうにもお店が出てましたねぇ。そっちも見に行きたいです」  と「ああ、いいよ」  メ「そうだ。神社の近くの道路沿いに行列ができていましたが、あれは何のお店ですか?」  と「あー、あれか……」  メ「何ですか?」  亜「としあき、並んできてよ」  と「やっぱりそう来るか」  亜「だって美味しいんだもん」  メ「だから何を売ってるんですか!?」  と「ベビーカステラだよ。同じ店はほかにも出てるけど、あそこのが一番評判がいいんだよ」  亜「お願いします! お土産にぜひ」  メ「わたしも食べてみたいです!」  と「あ――、わかったよ、並ぶ並ぶ」 2人「やった――!」    <三日編> ⑪夕方  と「今年も三が日が終わるなぁ」  メ「でもなんでまたお参りに行くんですか? もう夕方ですよ」  と「おれはこの日のこの時間に行くのが好きなんだよ」  メ「ふーん……。やっぱり、だいぶ人は少なくなっていますね」  と「そうだな。でも、おかげでゆっくり参拝できるからな」  メ「おみくじやお守りの売場も閉めだしてますね」  と「ああ、商店街の交通規制も今日の5時までだからな」  メ「じゃあ、そろそろですね」  と「それじゃあ、そっちも見に行くか」  メ「え?」 ⑫祭りのあと  メ「ああ、屋台が片付け始めてますね」  と「実はおれ、この雰囲気が好きなんだよ」  メ「どうして?」  と「屋台が出てる間はさ、見慣れた風景がちょっと違って見えるんだ。それが片付けが始ま   って、みんな帰りだして、どんどんいつもの風景に戻っていくわけだ」  メ「ふん、ふん」  と「で、そうすると、ああ、またいつも通りになるんだなって思って、それで正月も終わる   んだなって思って。その終わっていく感じ、戻っていく感じが、何故か妙に好きなんだよ」  メ「そうなんですか? わたしは寂しい感じのほうがします」  と「それはおれも思うけどね。だけど、その寂しさも含めて祭りなんじゃないかなって思う   んだよな」  メ「お祭りですか」  と「そう、終わるから祭りなんじゃないかな」  メ「でも、また来年ありますよね」  と「ああ、それも祭りだろうな」  メ「来年はどんなお正月でしょうね」  と「さあねぇ。良い正月だといいんだけど」  メ「そうですね」  と「そろそろ暗くなってくるから帰るか」  メ「ええ。……としあき」  と「うん?」  メ「今年が良い一年になるといいですね」                                     (了) ------------------------------------------------------------------------------------    あとがき  276回目スレに、三回に分けて投下したお話を一つにまとめました。  以前にも書いていた、としあき・メイジ・亜希の三人があちこち遊びに行くSSです。今回 は新年ということで初詣に行きました。  登場する神社や店は実在するものです。そういうことから固有名詞は一切省いていますが、 以前に書いた『海に会う』『夏越祭』『冬の灯り』を見ていただければ、どこの話かはすぐ 分かると思います。 (ちなみに③の「夏にお祭りに来た~~」や、⑥の「夏に盆踊りをした~~」は、『夏越祭』 の内容です)  少し注意が必要なことを書いておくと、⑩のベビーカステラの店は、屋台ではなく“店舗” です。場所は出口の赤い鳥居を出てすぐを左折、そのまま交通規制をしている通りまで進ん だ角地です。  ちなみに店舗なので正月以外でも買えます。普段のほうが空いていていいかもしれません。 火・水と、20・21日が定休日なので気を付けてください。営業時間は10時から19時です。  あと食べ物以外にも、くじ引きとか射的といった遊びの店も出ています。「射的でガチに なるメイジ」とか、「スマートボールに興じるメイジ」といったエピソードも書こうかと思 ったのですが、少し長すぎるかと思ってカットしました。  ほかにも「行列ができる豚まんの店」などネタはまだあるのですが、書きだすと長くなる ので、そろそろこの辺で。  最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。                                    プレあき