女装ノヴ君 :::その1::: 「メイジー、女医先生が明日春物の服を買いに行くから一緒に行かないか?って電話ー。」 昨晩のこと、珍しく女医先生から電話があった。 としあきはその「一緒に」の中に自分が含まれていないことにしょんぼりしながらも電話をメイジに代わる。 メイジは嬉しそうな声で承諾の返事をし、ファッションか何かの話で盛り上がっていた。 「ノヴも一緒にいくー?」 電話口を押さえ、台所で夕飯の洗い物を片付けているノヴに声をかける。 「僕は遠慮するよ。メイ、先生によろしく伝えといて。」 振り返らず答える。 家事は当番制にしてあったのだが、生真面目なノヴにはメイジやとしあきの適当すぎるやり方は見ていられないらしく いつのまにかノヴが全般を一人で取り仕切るようになっていた。 「ノヴ行かないって。先生ふられちゃったね。」 ケラケラと笑いながらメイジ。その後もしばらく電話が続いていた。 後ろから聞こえるメイジの黄色い声に小さくため息をつくと、としあきは再びPCの前に戻った。 ………………………… 雀の鳴き声。カーテンの隙間から漏れる光。そして 「としあきぃい!私の鞄に触らないでっていつも言ってるじゃない!!」 まどろみも吹き飛ばすほどの、メイジの大きく甲高い声。 そういえば数日前にちょっと悪戯したっけなぁ…。まだ回転の鈍い頭で思い出す。 いつの間にか無くなっていた欧州の新聞紙に包まれた何か。 への字型をした一つは、後にノブが現れたときに包みが開けられたのでそれが「本物」の銃であることがわかったが 別の、複数の四角形に包まれた物は結局わからずじまいだ。 「メイジ…先生との約束の時間は大丈夫なのか…?」 布団から腕を伸ばし、枕元の目覚まし時計を掴む。針は10時と15分。 「10時半に先生んちだけど隣じゃん。だからまだいいの。」 ウサギのぬいぐるみを抱えたメイジが口を尖らせながらベッドに登り、布団の上からとしあきを跨る。 「先生がね、今回は女同士で楽しもう、だって。だから今日はとしあきとノヴはお留守番。」 「…ノヴ君は?」 メイジはぬいぐるみの腕を使ってドアの向こうを指差す。 「お風呂掃除。でも、そろそろとしあきが起きる頃だからお昼ご飯の支度するって言ってたよ。」 ぬいぐるみでとしあきの頭を軽く叩き、そのまま手足を広げた形で頭の上に乗せる。 「そうか…俺まだ寝るから、出かける前にノヴ君に「飯はいい」って伝えといて…。」 「ダーメ。もうすぐお昼なんだから、起きて自分で言いなさい。」 としあきの上に乗ったままのメイジがゆさゆさと体を揺らす。 バランスよく頭の上に乗っていたぬいぐるみがその振動で転げ落ちる。 「わかった…起きるよ。もう起きるから…上に乗ったまま動かないでくれ。」 布団越しにメイジのソレが前後に動くの感覚が伝わり、としあきが折れる。 「よし、わかればよろしい……よっと。」 すると今度はメイジがとしあきの頭の上に覆いかぶさるように体を前に倒すと、枕元の目覚まし時計に手を伸ばす。 背中には相変わらずソレが、そして頭にメイジの柔らかく小さな胸が全体重をかけて押し付けられる。 としあきは不覚にも下半身が反応してしまった。 「それじゃ私そろそろ出かけてくるね。帰ったら勝手に鞄触った罰だから忘れちゃダメだよ。」 ベッドから飛び降りると、 ちゅっ。 メイジの唇が頬に触れる。 そして小さく笑い「行ってきます」と手を振り部屋を出て行った。 背や頭、頬にメイジの感触を思い返しながら、としあきは尻をさすり小さくため息をついた。 ………………………… ガーガーと耳に響く音でとしあきは再び目を覚ます。 「としあきさーん、そろそろお昼ですよ。いい加減起きてください。」 ゆっくりと目を開く。 これはノヴが掃除機をかけている音か……眠い目をこすりながら状況を把握する。 ノヴが少し前屈みになりながら掃除機のノズルを前後に動かす。 ベッドで横になっているとしあきの目線の先に、ちょうどノヴの尻がふりふりと動いていた。 短パンから伸びる、産毛すら生えていないのでは?と思えるほど綺麗な、スラっとした少年の脚。 自分にはそんな趣味はないはずだったんだがな……動くノヴの下半身を見ながら考える。 ノヴは可愛い。 メイジがとしあきの前に初めて現れたときも同じことを思った。 その後ノヴが訪れたとき、そのメイジすらも霞む可愛さにとしあきは閉口した。 しかもその子が少年だって?彼をみて初見で男の子だとわかる人間など数えるほどにもいないだろう。 3人で共同生活を始めて既にしばらく経つが、未だに二人の少女と一緒にいる感覚が抜けずにいる。 としあきがノヴを「ノヴ君」と呼ぶのは「自分にそんな趣味はない」と言い聞かせるための戒めだろうか。 「ノヴ君さ、スカートとか履いたら絶対似合うよな。」 ふと口に出る。 「きっとサイズも丁度だし、メイジの服着てみない?」 「だ…ダメですよ!そんなことばれたらメイに怒られちゃう…。」 困ったような表情で伸ばした両手を必死に振るノヴ。 「女の買い物は長いからまだまだ帰ってこないだろうし大丈夫だよ。」 としあきはベッドを降りノヴの頭を撫でると、ノヴがゆっくりととしあきを見上げた。 「ほら、先月あたりメイジが新しく買った白地のシャツと紺のミニスカなんてどう?」 メイジは天真爛漫で元気な子だが、自己中心的で我侭で時折捻くれたような物言いをする。 そんなメイジと相反し、ノヴは保守的で内に篭る性格だが思い遣りのある素直でいい子だ。 共に短い付き合いだがとしあきは充分わかっていた。 ノヴの両肩に手を置くと、真顔で目線を合わす。 「ね、ノヴ君のミニスカ姿見てみたいなぁ。」 困ったような表情のままとしあきを見上げ続けているノヴの目に、薄っすらと涙が浮かぶ。 …嫌だけど……嫌じゃない?としあきさんが見たがってるし…でもメイジが…。 頭が急速に回転する。頬を伝い落ちる涙が鮮明に感じ取れる。 返答に困ったまま固まったノヴにとしあきは優しく微笑むと 「ね?」 涙の伝った頬を撫でる。瞬時、ノヴの顔が真っ赤に染まった。 「うぅ……ちょっとだけなら……でも一瞬だけですからねっ。」 …着替えるくらいなら、本当にちょっとだけならいいよね?… ノヴはとしあきの手を払うと踵を返しメイジの部屋へと走っていった。 :::その2::: 相変わらず困ったような表情のまま、ノヴがドアから顔だけこちらに見せる。 「……スースーする…。」 ぼそりとノヴが洩らす。 「待ってたよ、ノヴ君。入って入って。」 手でおいでおいでする。その手の動きに誘われるかのようにノヴはゆっくりと部屋に踏み入れる。 「…としあきさん……どう…ですか?」 白地のシャツに濃い紺のミニスカート。胸元に淡い水色の短いタイをしめ、足には黒のハイソックス。 まさかここまで完璧に着こなせるとは…としあきの想像以上の姿だった。 としあきの舐めるような視線にノヴの頬がまた赤く染まる。 「おぉぉ、可愛い可愛い、充分似合ってるよ。やっぱりノヴ君素質あるわぁ。」 素質…としあきの言葉にノヴは変な気分だったが悪い気はしない、寧ろ少し嬉しさすら感じた。 開き直ったのか、スカートの裾を指先でつまんでみたり、くるりと回ってみたりする。 「それにしてもハイソ完備とは、ノヴ君も通だねぇ。」 「…そうですか?」 ノヴは足元を見下ろしながら片足を上げ、少し動いてずり落ちたハイソックスをぐっと膝近くまで引き上げる。 「…ぅわっ!」 そしてそのまま、バランスを崩したのか後ろへひっくり返ってしまった。 「いてて……。」 丁度としあきを正面にして尻餅をつくノヴ。スカートが捲れ上がり太ももが露わになる。 「ノヴ君、それ…。」 「え…?…あ!!」 としあきに指差され、急に両手でスカートを押さえ込み隠す。 「まさか下着までメイジのものに履き替えてきてるとは…ね。」 ノヴの赤らめた頬がさらに真っ赤になる。としあきはにやにやしながらベッドから立ち上がった。 「ほらノヴ君、立って。」 としあきは後ろからノヴの両脇を支え、抱え込むように立ち上がらせる。 「正直、まさかこんなに可愛く見えるなんて思わなかった。」 ノヴの耳元で囁きながら腰に両手を回す。ノヴの体が急に強張ったのが伝わってくる。 「俺、スイッチ入っちゃったかも。」 片手は腰に回したまま、もう片方の手でゆっくりと太ももを撫でる。 「としあきさん何を…。僕、男の子だよ?それでも……いいの…?」 困惑した表情のまま下から見上げるようにノヴが呟く。 「寧ろこの場合、それはご褒美かも?」 微笑みながらノヴの顔を覗き込む。 「ノヴ君、いい?」 「としあきさ……っむぅ…」 としあきは有無を言わさずノヴの唇を奪った。 :::その3::: 背を向けたままのノヴを抱えベッドに戻り膝の上に座らせると、再び唇を交わす。 「んむっ……はぁ……ぁ…」 唇に舌を這わせ、徐々に口内へ。ノヴは抵抗することなくとしあきの動きを受け入れる。 「…ノヴ君…舌、ちょうだい?」 一旦唇を離し、ノヴの後頭部を優しく撫でる。ノヴがおずおずと舌を見せる。 としあきはノヴの舌を咥えこみながら再び唇を合わせた。無意識に互いの舌を求め動かしだす。 シンと静まった部屋に淫らな音が広がっていく。 「…としあき…さん…。」 「ん?」 お互いの唾液でベタベタになった唇を離すと、としあきは頬を合わせる形でノヴの頭を抱え込む。 「ヒゲが…痛い…。」 「はははっ、そっか御免な。これもう三日くらい不精しちゃってるからなぁ。」 無駄毛一つないノヴの頬に無精髭の自分の頬を擦りあわす。 ……今はこんなに綺麗だけど、そのうちこの子にも生えてくるんだよなぁ…… 「ノヴ君は細身だけど締まってるし顔立ちもいいから、あと数年もしたらいい青年になりそうだよな。」 当たり前のことだ。メイジもノヴも歳月とともに大人になる。 そして、いつしか人生の伴侶を見つけ、自分のもとを去る日も来るかもしれない。 としあきの脳裏に不安がよぎる。無意識のうちにノヴを抱えている両腕に力が入る。 …あの容姿のメイジはどう成長するのだろう?…今自分の腕の中にいるノヴは? 向かい合って頬を合わせているためお互いに表情を見ることは出来ない。 「としあきさん…。」 ノヴの両腕がとしあきの背中に回り、力強く抱きつくと 「大丈夫です、僕たちはどんなことがあってもとしあきさんを置いていなくなったりしませんよ。」 耳元で小さく囁く。 「としあきさんは、あのメイが身を挺してまで守ろうとした人なんです。  まぁ、そのとき手を下そうとしてたのは僕なんですけど…。」 ゴニョゴニョと言葉が続く。 「僕もメイも日本に来てとしあきさんと出会えなければ…もしあの時僕の手がとしあきさんを捕らえてたら…  僕は組織の歯車のひとつとして今もなお動いてたでしょうし、メイも…。」 「うん…。」 ノヴがとしあきの前に現れた日。メイジがそれまで見せなかった険しい表情をした日。 そして、少し広い部屋に引っ越して3人での共同生活を始めた日。 としあきの脳裏にあの激動の一日が思い出される。 「僕はあの日心に決めたんです。一生この人についていこうって。この人の支えになれるようにって。」 ノヴの頭がとしあきの首筋にもたれかかる。 「としあきさんは確かに、いい加減なところがあるかもしれません。ですが…  僕にはわかります、僕らなんか到底及べないほどの、としあきさんの中にある大きな力が…。」 「そんな…。」 「ね…?だから…泣かないでください。」 「…泣いてなんか……。」 ノヴの手がとしあきの逆の頬を撫でる。 「…ノヴ君には何でも見透かされちゃうな…。」 頬を離し、また互いに見つめ合う。そして目を閉じると三度唇を合わせた。 その4に続く? …………………………