【ブルガリアからの危機】 「これまでのあらすじ 謎に包まれたクローヴィス家。 その末席にあたる二人の少年少女、 双葉メイジと双葉としあき。 メイジは元々男だったが、外見のみを 整形されて女の子の姿にされた。 クローヴィスとのつながりを絶たれた二人には 頼れるものなく、残された二人の手段は クローヴィスの用意した麻薬25kg。 しかし、としあきを嫌うメイジはとしあきに 猛烈に反発していたのだった。」 「いい加減、オレを避けるのやめろよ。」 としあきは自分の家なのに メイジに一方的に蹂躙されていた。 「としあき、お前のゲーム全部売れ!」 「な・・・なんでだよ!」 「ちょっと考えりゃわかるだろ? 私らは干物寸前なんだよ。」 「まだ預金が・・・」 「100万もあるか?」 メイジはとしあきを冷たい目で眺める。 二人の間には蜃気楼のような壁がある。 としあきには全く現状が理解できていない。 「ゲームなんか売らなくても 麻薬を売ればいいじゃないか?」 「内臓でも売ってろ。」 メイジは呆れてゲームをひっぱりだす。 大人しいとしあきは次々とゲームを持ち出されて その間、売られる算段するのを眺めるしかなった。 「なあ・・・メイジ。」 「なんだよ。」 「・・・思い出とかある?」 「イタリアの?」 メイジはとしあきの意外な質問に首をかしげた。 「このゲームはな。限定版なんだ。 これもこれもオレの思い出・・・」 としあきの横っ腹をメイジが蹴飛ばした。 「もう死ね。」 メイジは手当たり次第にとしあきの持ち物を 売り払った。 それこそ身元不明の体を使って 暴力、脅迫を使って盗み、たかり。 メイジはとしあきに無い全てを備えていた。 数日のうちにとしあきは干からびていった。 「メイジ・・・金貸してくれよ・・・」 「100万預金があるんだろ? 麻薬でも売ってくれば?」 メイジは時折、姿に似つかわしい女言葉と 艶めいた表情をした。 これはメイジの10数年の処世術なのだろう。 嫌悪と蔑視の表情が詰る笑顔に。 「オレのゲームの金だって・・・」 「自分で売れば?」 「・・・もうないって・・・」 「欲張りなヤツだな。 まだ・・・あるんだろ?」 メイジは何度もとしあきの持ち物をかっさらった。 卒業アルバムの中身、財布や衣類、 売れるものや利用できるものは全て使った。 麻薬にしてもちらつかせるだけで 実際売ったのは殆ど無い。 「・・・拳銃はどうしたんだ?」 「ぬいぐるみのなかだ。」 としあきは不思議に思っていた。 幾らなんでも麻薬と拳銃をどうやって持ってきたのか。 「なあ、どうやってそんなもの持ってきたんだ?」 「・・・さあな。」 メイジは冷たくとしあきをあしらった。 かれこれ3週間、としあきはゴキブリ同然に メイジの残した分や、隙を見てお菓子を食べていた。 最初は抵抗する体力もあったが 掠め取ろうとすればメイジにけ蹴りたぐられた。 18歳のとしあきが12歳のメイジに家庭内暴力か ストレス、この日本で餓死しようとしていた。 コンビニでは賞味期限の切れた食べ物は捨てる。 しかし、5月5日の賞味期限も24時を過ぎただけなら まだ数分前は賞味期限内だ。つまり、十分食べられる。 としあきは深夜帯にコンビニに出かけていった。 「スレで立ててもいいな。 コンビニにいってくるぞ・・・ってか・・・」 のんきで馬鹿なとしあきにも陰鬱な影が差した。 考えれば今までメイジがしてきたことを 逆算してとしあきが味わっているんだろう。 メイジの荷物は拳銃に麻薬、そしてぬいぐるみ。 としあきの手には何も無い。 何もなくなってしまった。 ゲームや無為なスレの知識。 数万重ねたスレで得たものは友達でも何も無い。 億単位ビットと電気代の請求書。 インターネットの窓は閉じて 今や部屋の暴君メイジとの窓だけが最後の扉になった。 「友達・・・知り合い。」 としあきは最後の記憶のパズルを引きずり出した。 「メイジ・・・さん・・・!」 「なんだ。としあき。」 メイジは掃除している最中だった。 暴君だのととしあきはいうが世間の常識からして メイジは当然のことをしている。 生計のために余分なものを売る。 盗みやたかりがそうとは言わないが止む得ないことだ。 「拳銃を貸してくれ!」 「馬鹿言え。」 「なんでだよ。」 としあきはメイジに迫った。 幾らなんでも18と12歳の二人だ。 冷静になればここで組み臥してしまうことも簡単だった。 「なんで?これは必要だからだよ。 私らの生活は私の盗みで立ってるんだ。」 「たまに減ってる麻薬はどうしてる!?」 「・・・中学生に売ってるんだよ。」 嘘だ。としあきはそう思った。 「お前は12歳だぞ。麻薬が捌けるわけない。」 「あ?」 「なんに使ってるんだ・・・?」 「知らねーよ。」 悪魔と天使をかけたような少女の姿をした少年は 悪態をついて容易くとしあきを退けた。 中学の悪ガキにもビビるとしあきだ。当然といえる。 「お前、鈍臭いし頭悪いし、 実家の仕送りなしじゃ何も出来ねーな。」 「・・・お、お前。援交してるんだろ・・・!」 としあきは踏みとどまる勇気を見せた。