メイジおいしいクリ(ry 「おー、ここが会場かぁ。広いなぁ……」 としあきはあたりをきょろきょろ見ながら歩く。 パーティー会場だというのに、彼のほかにはメイド風の給仕(正しいメイドの姿といえるが)が料理を並べたりしているだけで、なんとなく寒々しい。 「なんか広くておちつかねーな」 ひとりごちて、苦笑した。 一人暮らしでちょっと広いかな?位に思っていたアパートも、メイジが来てからはちょっと手狭に感じていた。 それもまた、彼にとっては楽しかったが。 そもそもの発端である、差出人不明の招待状が届いたのはとしあきにだけで、メイジには来ていなかった。 としあきは「メイジが一緒じゃないなら自分も行かない」、なんて子供じみた理由ですっぽかそうとしていたが、 メイジの猛烈なプッシュでしょうがなく参加することにした。 彼は知り合いがいたら適当に挨拶して早々に帰ればいいや、と思っていた。 入り口から見て奥の方がステージになっており、「100回突破記念&クリスマス会」と書かれたボードが下がっている。 どうやらそれがこのパーティーの趣旨らしい。 何の100回突破なのか、としあきにはわからなかったが。 一人でぼけーっとたたずんでいると、他の参加者がやってきたようだ。 ボブショートで眼鏡をかけた女性と、その後ろに少しよれたスーツを着た男性とその隣に少々派手なドレスの金髪の女性。 自分よりも少し年上だろうか、とぼんやり眺めていると、ボブショートの女性が話しかけてきた。 「キミも招待されたんだ?」 近くで見るとなかなか美人なのでちょっとどきっとするとしあき。 「あー、はい。ホントはツレと一緒に来たかったんですけど、なんか招待されたの俺だけみたいで」 「そっか。実は私も同じなんだ。その子が行って来いってしつこいから来たんだけど」 「あはは、それウチも一緒です。なんか差出人が書いてない招待状が来て」 「ホント、誰なんだろね?あ、他の人も着いたみたい」 見れば、ぞろぞろとたくさんの人々が入ってくる。 「あれ……?あ、ちょっとゴメン、挨拶してくるね」 「あ、はい、お構いなく」 としあきは間の抜けた返事を返しながら、名前聞きそびれたなぁ、と思った。 「亜希、久しぶりだなァ」 大柄な老人が亜希に話しかける。 「じっちゃん。久しぶり。生きてたんだ」 傍から見れば一見ドライな挨拶に聞こえるが、亜希の祖父(の弟)はその仕事柄いつ死んでもおかしくは無く、親戚一同そういう認識でいるのである。 「敏坊も大きくなった」 「よしてくれ。っつーか前会ったのは去年だろーが。いい加減この歳で成長はしねぇよ」 口調は荒っぽいが敏明も満更ではないのは声色で丸分かりである。 「え、敏明……先輩。この人って」 「ああ。じっちゃんだ」 「うわわ、目の前に伝説がいる……すご」 ティファニーは目に見えて興奮している。 敏明にはその理由が分からない。 「伝説?このフーテンが?」 「まあ、先輩が知らないのも無理は無いかな。ICPOでビッグファザーを知らない人は居ないわ。といっても開示されている情報はICPOでの活動履歴とコードネームだけだけど」 じゃあ何で顔知ってるんだ、と敏明が突っ込まなかったのは、ティファニーのミーハーっぽいところを知っているからだった。 実は敏明にも見に覚えがあったりする。 ふとしたきっかけで発見した、自分についてのさまざまなデータがびっしり書き込まれた手帳を見たとき、戦慄し、見なかったことにしたのもいい思い出……なわけがない。 思い出して少し苦い顔をしている敏明をよそに、ティファニーはなおも熱弁をふるう。 「とにかくすごいの。たった一人でいくつもの犯罪組織を壊滅に追いやったのよ!?伝説以外の何者でもないわ」 その割になんだかんだで年一回は必ず顔をあわせているのだが、なんていうのも敏明は黙っていた。 「何故私は――ここにいるのだろうな?」 アッシュグレイの髪の男が苦悩に満ちた表情で、隣にいる秘書らしき女性に問いかける。 「残念ながら私には禅問答に回答する機能はありません」 秘書は毛筋ほども表情を変えずに言った。 男が眉間の皺を増やす。 「それは喜ばしいな。時に――アリサ――君は、そのような性格だったか?」 「クリスマスですので少々浮かれているのです」 とても軽口を言っているような顔に見えない。 「そうか――まあ、そんな日があってもいい。にしても――」 「差出人不明の招待状が届いたからです。普段ならば無視するところですが」 首領は話の腰を折られ、ほんの少しだけむっとするがとりあえず続ける。 無礼講、そう思うことにした。 「確かに――我々を潰そうという者はいくらでもある」 大柄の老人を囲んで騒いでいる一団を見やり言う。 「故に問うているのだ――何故ここにいるのか、と」 「何らかの強制力が働いている可能性があると思われます」 「強制力――?」 あながち、冗談に聞こえないから厄介である。 「神の見えざる手、というヤツでしょうか」 「――ふむ」 なにしろ敵同士が一堂に会しているのだ。 無論、関係のないものも少なからずいるようだが。 「おー、ずいぶん広いな。だいぶ集まってるし」 こういったパーティー自体あまりこないとしあきにとってさまざまな物が珍しく感じる。 「……メイと来れりゃ良かったんだけどな」 例によって例の如く、差出人不明の招待状はとしあきにだけ届き、メイは留守番である。 すでに参加者は知り合い同士で固まっているようで、としあきは自分と同じように一人でいる人を無意識の内に探していた。 見つけると同時に、その顔が凍りつく。 (どう見てもオレそっくりなんですが……!) 生き別れの双子がいるという話は聞いたことがないし、モノマネされるような有名人ではない。 とすれば。 (どどどどっぺるげんがー!?) うわわわわ、と慌てふためくとしあきをよそに、会場には開始を告げるアナウンスが流れる。 『本日は、ようこそお越しくださいました。まずは主催者から皆様への挨拶です』 『どうも、いつでも軽くスルー、忘却です。まずはブルふたスレ100回突破おめでとうございます』 会場内が軽くざわつく。 ざわめきの内訳は、 忘却って誰? ブルふたスレって何? である。 『それらの疑問はおいおいお答えします。まあ、帰る前に……いえ、それでは皆様お楽しみください』 とりあえずパーティーが始まり、おのおの楽しむことにした。 こういうときに細かいことを気にすると損である。 あぶれたもの同士が引き合うのは必然ともいえる。 「おーい、君もこっち来て色々食べたら?楽しまないと損よ?」 ボブショートの美女に話しかけられ、としあきはどぎまぎする。 (こんな人知り合いに居たっけ?) 「あれ?なんかちょっと雰囲気変わった?」 「いや、変わってないと思いますけど?」 美女は首をかしげる。 その仕草もなかなかかわいらしい。 「んー?まあいっか。ほら、せっかく……あれ?」 彼女の視線の先には……ドッペルゲンガー。 「君、名前は?」 「としあきです」 あら偶然、などとつぶやきつつ、彼女は少し思案したあと、何を思ったかドッペルゲンガーに向かって呼びかける。 「おーい、としあきー!」 するとドッペルゲンガーがあれ?という顔をしてこちらに振り向いた。 そしてとしあきと目が合う。 「ほら、おいでー」 かくて二人のとしあきは相見えたのだった。 「いや、不思議だなぁ。鏡見てるような、違うような」 「ああ。なんかすげー変だ」 周りから見ても十分に変である。 「大学生の時の敏明先輩にも似てますね」 「あ?あー、オレってあんなんだったのか?」 「大体あってる。それよりほら、なんか始まるみたいですよ」 ステージ上にぞろぞろと14~5人の少年少女が出てくる。 ……少年少女とは言えないサイズも2~3混ざっているが。 「あれ、メイジだ。」 「マジかマジか」 「メイジ?」 「そっくりさんが二人もいるな。っていうかおねーさんなんでメイジを知ってるんだ?」 「キミの知ってるメイジと私の知ってるメイジは違うんじゃない?」 「メイジ?」 「あー」 たまりかねて敏明が言う。 「お前らも亜希姉も落ち着け。それと分かりにくいから区別付くようにしてやる」 コースターの裏にマジックでA,Bと書き、それをそれぞれの胸に貼り付ける。 「お前がA、お前がB。亜希姉は……要らないか。文句は聞き入れんからな?」 壇上の少年少女のうち、三人が代表として前に出てきていた。 「ども、メイジαです」 「はい、同じくβです」 「みなみはるおでございます?誰ですかコレ」 両サイドのαβからツッコミが入る。 「っていうか良くあんなネタ知ってたな」 としあきB――メイの方――が言う。 「あー、ウチじゃしょっちゅうテレビ見てるしな」 「こっちと似たようなことしてるねぇ」 うんうん、とうなずくABと亜希。 「ベタなネタはこの辺で」 「えー、私達が日ごろお世話になっている方々へのお礼の気持ちをこめて、歌います」 SSで歌もない気がするが。 「聴いてください。きよしこの夜」 某少年合唱団も顔負けの清らかな歌声が会場に響き渡る。 「へぇ、なかなか……」 皆が聞き惚れる中、一人離れて老人――通称ビッグファザーはそれを眺めていた。 「マクシーム、聴いているか?お前の子供達は、闘いのための道具ではなかったぞ……」 その目には、涙が浮かんでいた。 「いやぁ、まさかメイ達も主催者側だったとはね」 「えへへ。びっくりさせたくって、内緒にしてたんです」 歌い終わり、少年少女はおのおの関係の深い人々と談笑を交わす。 「ジジ!」 メイジβがビッグファザーに駆け寄る。 「よぉー!メイジ!元気だったかー!!」 ビッグファザーがメイジの小さな体をひょいと抱えあげた。 「はい!亜希さんはとっても優しいですし日本のご飯はとってもおいしいです!!」 「うんうん。順調に育ってるなァ」 そう言いつつ、メイジの体を軽々とぶん回す様からは説得力を感じないのだが。 「で、主催者の、なんつったっけ?健忘症?出てこないのな」 誰がボケかっ。お前の設定に重度の水虫とか追加したろうか!? 「なんか言ったか?」 「いや?しかし、このメイジが2人いる謎を問い詰めようと思ったんだが」 コレはA。 「オレはいーや。あ、お前!」 Bが見つけたのはノブ。 「なんでしょう?」 「や、人違いかな?知ってるような気がして」 世の中忘れた方がいいこともあるのだが。 「いえ?ボクは、あなたを知りませんよ。新手のナンパですか?ツレの人怒っちゃいますよ」 「いや、そういうんじゃないんだが……まあいいか」 このいい加減さがとしあきである。 『主催者の忘却が何かしら口走りますが、皆様はお気に止めぬようお願いいたします』 「はい、忘却です。なんだかんだで今回もまた長いです。しかもオチがない。思いつきません。ゴメン。 いつも読んでくださっているとしあきの皆様、ありがとうございます。短くまとめるのが下手ですみません。 過去ログ見たら割と初期から居たりして。しかも最初は絵描きだったりして。 そんなわけで(どんなだ)まずは100回突破おめでとうございます。 これからも末永く楽しく続けられたらいいなぁ、と思いますです。 ひとまず番外はコレでおしまい。 次にお目にかかるのは亜希さん編か、あまずっぺーの(いい加減名前決めろ)、どっちかの続きです。 それではメリークリスマス(地獄で会おうぜ)!!」 「これで綺麗にまとめたつもりなんでしょうか?」 「メイジは時々辛辣だね……」