メイジおいしい牛乳インターミッション1~遊園地編~ 昨日猛威を振るった嵐は今朝には過ぎ去り、澱みがちだった空気を一掃していった。 気持ちいい秋晴れだ。 そんなわけで今日はメイジを約束していた遊園地へ連れて行こうと思う。 すでに持っていくものの準備はOK。 残すところはメイジの支度だけだった。 「メイジ!支度できた?」 「うん!」 メイジはシンプルなニットのセーターにジーンズ姿。 実を言うと前日に、 "動きやすい格好のほうが楽しい" といい含めておいたのだった。 かわいい服も良いけど、いろいろ気にしながらだと存分には楽しめないし。 「よっし、免許も持ったしお弁当も持ったし、行こうか!」 「うん!」 メイジに今日のために新調したヘルメットを渡す。 今まで使ってた予備のヘルメットにはインカムがない。 2ケツの醍醐味はおはなしでしょー、ってことで買ったのだ。 「ん・・・ちょっと大きい・・・」 「まーね。メイジは成長期だから、すぐぴったりになるよ」 「うん!」 G-striderのタンデムにメイジを乗せ、キーを差し込む。 各部センサが連動、自己診断結果がメインモニタに表示される。 オールグリーンだ。 トラックボールを操作し、OKボタンをクリック。 次にナビゲーションシステムに目的地を入力する。 「闘狂デスティニーランド、と」 ふざけた名前だが、新聞勧誘のおっちゃんがくれたチケットが、 このアミューズメントパークの物だったのだ。 貰った時には浦安の"東京ディズげふんげふんランド"だと思っていたのだけれど違ったらしい。 しかも調べてみるとウチのゲーム会社がメインで出資してるところで、隣の課が作った体感ゲームが大量にあるようだ。 名前からしてお子様の情操教育に悪影響を及ぼしそうだよなぁ・・・ 「あれ?東京でぃずnうわっ」 「シーッ、大人の事情でその名を口にした者には死が訪れるのよ!」 だいぶ誇張だけどね。 「ごめんなさい・・・」 「わかればよろしい、なんてね」 気を取り直し、エンジンを始動させる。 低いエグゾースト音がガレージに響く。 フフフ・・・私の愛馬は凶暴です。 「行くよー!しっかりつかまって」 「うん!」 いつもは混んでる交差点もするりと抜け、スムーズに高速に乗った。 「うん、好調好調!これなら一時間くらいで着くよ」 「私、楽しみ!どんなところかな?」 「実を言うと、私も初めて行く所なんだ。楽しみだね」 「うん!」 バイクは湾岸線をひた走る。 「あー!あの観覧車テレビで見た!あのビルも!わぁあ!すごーい!!」 お台場の景色を見て喜ぶメイジ。 それだけでもお出かけの甲斐はあったという物だ。 ふふん♪ 思わず鼻歌も漏れる。 気付くと、メイジもそれにあわせてハミングしていた。 「あれ、良く覚えてるね。ウチであんまりCDかけないのに」 「ふふっ、耳が良いからかな?でも、この歌大好きだよ」 「気が合うねぇ。今度一緒に酒でも飲まないかい?」 「あははっ」 東京ディげふんげふんランドの入り口はスルーして、次の出口で高速を降りる。 「こ、これは・・・」 駐車場から出た私たちを待っていたのは、ある種、異様な光景だった。 城門を象ったゲートの上にはでかでかと「闘狂デスティニーランド」と書かれており、壮大なBGMが妙な雰囲気を盛り上げている。 ・・・何故にイトケン風味? 隣のメイジは、「わぁー、すごいねー!」などと、はしゃいでいる。 私は選択を間違っただろうか。 今のところ大間違いな気がする。 メイジが急かすので(当たり前だね)、チケットカウンターで1日フリーパスを買い、ゲートをくぐる。 ・・・中は案外まともだ。 目の前には高い塔を備えた城、遠くのほうには岩山が見え、その周りをジェットコースターが走っている。 えーと、デジャヴかな? 左前方で女子校生の一団がなにやら、きゃいきゃいやっている。 見ると、赤い短パンを履いた黒塗りのマッチョを取り囲んで写真を撮っている。 頭には二つの丸、顔は一応とがっている。 白い手袋に、黄色いシューズ。 「やぁ!僕リッキー!!(甲高い声で)」 あああ、頭痛が・・・何考えてんだウチの会社!? ふと見回すと、赤いベストを来たやたらと大きいリアル造形の熊(でも黄色い)がキムチの壷を抱えて、 「やあ、ぼく、釜山」 やら、 特攻服を着たガチョウ(?)が 「グァー、グァー、グァグァグァグアー!(訳:やあ、オレ、ロナルドってんだ夜露死苦な!)」 と鳴いている・・・不良の方ですか。 私が打ちひしがれていると、メイジが私の視界に割り込み、「どしたの?早く何か乗ろうよ♪」と、催促する。 場所はどうあれ、思い出になるんだから、楽しくしないと! 私はすこし、立ち直った。 はっちゃけた、というかアッパー過ぎるキャラクターとは裏腹に、アトラクションは結構手堅い作りになっている。 げふんげふんランドのパクリに見える部分もその実まったく違っていて、そのギャップが受けているのかもしれない。 ひとしきりメジャーなアトラクションをこなした所で昼食にちょうどいい時間になった。 お昼にはパレードがあるようで、中央通りがにわかに混み始める。 首尾よく確保したテーブルにお弁当を広げて、二人でつまみながらパレードを待った。 「どんなかな?どんなかな?」 メイジは非常にわくわくしている様子だけど、私は少し、頭を抱えたい気分だったのは言うまでもない。 やがて、軽快な音楽とともにパレードがやってくる。 華やかで、楽しげだ。げふんげふんランドに引けを取らない、と思う。 山車の上でリッキーが「フロントダブルバイセップスー!(甲高い声で)」とポーズをとったり、釜山がもたもたキムチ食べたり、 ロナルドグース(特攻服のガチョウね)がウンコ座りしてヤニ吸ったりしてるのを除けば、ね。 うんざりしながらふと、メイジを見ると目をキラキラさせてパレードに見入っていた。 美的センスが歪まないと良いけど・・・ううむ。 昼食も終わり、再びアトラクション巡りを始める。 午後は、他とはまた違った雰囲気のエリア、トゥモr・・・もとい、フューチャータウンに行くことにした。 そこは、一言で言えばゲーセンである。 遊園地にゲーセンとは、本末転倒というか、なんというか。まあ、げふんげふんランドにもあるくらいだから普通なんだろうけど・・・ 少し見て回って、ラインナップの異常さに気付く。 全部が全部、ウチの製品なのだ。 コレが、「出資者は無理難題をおっしゃる」のいい例か。 「メイジー、なんかやりたいのある?」 脱衣マージャン(何であるんだ)を指差すので軽く後頭部をひっぱたく。 「10歳の女の子がやりたがるもんじゃないでしょ!めっ!!」 「むー。じゃあ、アレ」 メイジが適当に指差した先にはこのエリア一番の売り、大型体感ゲーム「電子妖精サイフェリオン」がある。 ここのマニアックなラインナップに忘れていたが、このエリアに来た大目的はこのサイフェリオンだ。 「お。アレやっちゃう?」 「うん」 「電子妖精サイフェリオン」のすごいところは、そのリアルさにある。 プレイヤーが入り、ゲームキャラを操作する筐体も本格的だが、何よりゲーム世界を演算する中央システムが化け物である。 地球シミュレータ程ではないにしろ、高性能なスパコンを2台並列化して処理している。 大量のデータを高速演算するアルゴリズムがまたすごいのだが、それはここでは割愛しよう。 また、プレイヤーの気分を盛り上げる小道具も凝っている。 戦歴や機体のセッティングを記録するプレイヤーカードや、HUDにもなるバイザー付きのヘルメット、各部を保護する専用ジャケットなどなど。 全国展開の予定もあるらしく、注目の的、期待の星なのだ。 カウンターでエントリーを済ませ、コックピットに座る。 ルールはチーム戦、私とメイジはアルファチーム所属だ。 プレイヤーカードを挿入すると、機体のセットアップ画面が表示される。 私が選んだのは、高機動型の機体、フェイだ。 武装は、腕部内臓のバルカンと、ビームブレード、各種トラップを持てるだけ。 実を言うと社内総出のバグ取りでプレイ経験があったりする。 メイジは何を選んだかな? 「ようこそ、マスター・アキ。チュートリアルを行いますか?」 私の知る限りでもいくつか仕様変更した部分が見受けられるので一応、チュートリアルはやっておこう。 rア Yes. 「わかりました。それでは、チュートリアルを開始します。まずは移動全般からです」 こういうゲームは割と直感的にプレイできるように作られてはいるんだけど、こういうチュートリアルがあると親切に感じる。 一通りの操作をおさらいした後、5分ほどのフリーバトルの時間がある。 これで初心者も多少は慣れることができる。 と、思ったのだけれども。 スタート地点に待ち構えていたプレイヤーに即座に撃墜される。 そこへ、チームメイトから通信が入る。 『運が悪かったですね。あいつら初心者潰しで有名なんですよ』 うわ、ダサッ。 本人は悪役のつもりなんだろうけど・・・せいぜい小物にしか見えないっての。 『あーん!むかつく!!』 どうやらメイジも撃墜されたみたい。 うーん。全国展開した後もきっと、こういう初心者潰しをするプレイヤーは後を絶たないんだろうけど、やっぱり良くないよね。 うん。そうと決まれば。 フリータイムのうちに、通信を入れておく。 「君たちー?賭けしない?私たちが勝ったら、君たちには金輪際初心者つぶしを止めてもらう」 すると、折り返し通信が入る。 『ああ?じゃあさ、俺たちが勝ったらどうするワケ?』 「うーん、そうねぇ・・・おねえさんがいいことしてあげる」 『ひゅーぅ』 「へへへ、マジかよ」 『落ち着けお前ら。んなうまい話あるかよ?』 『さっきの見たろ?らくしょーらくしょー』 「だよな。いいぜねーちゃん!受けてたつ!!」 『あーあ、止めときゃいいのに。しーらね』 結論から言うと、勝った。 要約すればこうだ。 初心者となめてかかってきた二機を各個撃破。 残りの一機をハイパーモードで片付け、敵拠点を潰して終了。 途中、メイジが誤射で僚機を撃墜する一幕もあったが、おおむね圧勝である。 機体を着地させると、ゲーム終了のアナウンスが流れた。 モニターに各個の戦跡が表示された後、コックピットのシェルが開き、こもった熱気が開放される。 うむ。年柄にもなく熱中してしまった。 シートから降り、コックピットの外に出ると、メイジが待っていた。 その後ろには眼鏡をかけた小柄な少年が居る。 「やったねー!お姉ちゃん!!」 「すごいです!あいつ等に勝つなんて!!」 賞賛されて悪い気分はしない。 「っきしょー!!」 反対側のブースから、少年が3人降りてくる。 見たところ、中学生くらい? 負けてたら犯罪者になるところだったかも。 「すげーじゃないっすかお姉さん。いや、お姉さまと呼ばせてください」 一人はいかにも軽薄。 「・・・・」 もう一人はそっぽ向いてる。気が強そうだ。 「ったく・・・」 残りの一人は、二人を困った顔で見ている。 「・・・私達の勝ちね。じゃあ、約束したんだから、これからは初心者をいじめるのは止めなさい。わかった?」 「ええ、もちろんですよお姉さま」 「はい、すみませんでした。ほら、お前もなんか言え」 「べっ、別にアンタに言われて止めるんじゃないんだからな!?ほら、そろそろ初心者狩るのも飽きてきたところだったし」 やっぱりツンデレか。 その後、打ち解けた6人で遊びまわった。 ・・・引率の先生の気分だったけど。 日が暮れ、少年4人とはいつかまた会う約束をして別れた。 「メイジ。楽しかった?」 「うん。すっごく楽しかったよ!お姉ちゃんは?」 「もちろん。すっごく楽しかった」 「えへへ。ホントはちょっと不安だったの。ちゃんと、楽しめるか。楽しいとか、そういうの、わからないかもしれないって」 胸が、ちくりと痛い。 メイジはこういう娯楽とは無縁の世界で、ずっと生きてきたんだ。 その宿縁はきっと、まだ断ち切れていない。 「でも、ね。やっぱり、亜希さん・・・お姉ちゃんと一緒だと、ちゃんと、楽しかった。うまく、言えないけど」 「メイジ・・・大好きだよ」 やさしく、抱きしめる。 汗の臭いと、かすかなシャンプーの香りがした。