メイジおいしい牛乳EX~はじめてのおるすばん編~ 珍しく、目覚ましよりも先に目が覚めた。 体がこわばって、体を起こすとあちこちが痛かった。 ベッドから落ちたかと思い、筋を伸ばしがてらに辺りを見回す。 と、ベッドの上のタオルケットが膨らんでいる。 ああ、そういえば同居人が出来たんだっけ。 メイジ。ブルガリアから来た可愛い女の子。 ちょっと変わった体質?だけど、素直そうないい子、だと思う。 寝顔も愛らしい。 「じゅるり」 おっと、イカンイカン。 さて、出社するにはまだ早い時間だ。 優雅に朝食といこうではないか。 二人分作んなきゃね。 と言っても、ウチの朝食はトーストと目玉焼きだけどね。 「そういえばヨーグルト、あったっけ」 味の好みが分からないからとりあえず砂糖とジャムと一緒に出しておこう。 後ろの方でごそごそと聞こえる。 起きてきたみたい。 「おはよう、メイジ。今出来るからそこ座ってて」 「あ、はい」 見ると、目をこすってあくびなんかしてる。 彼女は、私がてきぱきと朝食を並べる様をぼけーっと見ていたけど、急に耳まで真っ赤になった。 ボン!とか音がしそうな勢いで。 「昨晩は良く眠れた?」 「は、はいぃ、す、スミマセンでしたっ」 正座してカチコチに固まっている。 「どうして謝るの?」 「私っ、あ、あんなにはしたなく・・・それに、気絶しちゃったみたいで、ベッドに運んでもらって」 「なんだ、そんなこと?だったら気にしないでよ、ね?だって」 彼女の柔らかな金色の髪を手で。 やっぱり、ちゃんと手入れしてあげればこんなにも綺麗に輝いてくれる。 「メイジってば、こんなに可愛いんだから」 私の顔を見つめるメイジは、今にも泣きそうだ。 「ほら、冷めちゃうから、ご飯食べよ?」 涙ぐんだ声で返事する彼女。 ったく、あのジジイどういう育て方してんだ!? まあ、私も人の事言えない気がするけど。 私がテレビを見ながらもそもそとパンを齧っていると、 「すいません、お塩、ありますか?」 と聞いてくる。そういえば食卓に置いておくのを忘れてた。 「ん?目玉焼き、塩気足らなかった?」 メイジは、そうではなくて、と前置きして 「ヨーグルトにですね」 mjk!? いやしかしブルガリアやトルコなんかじゃ料理にヨーグルトは日常茶飯事だぜ! 珍しくないのかもしれない。 「ん、今取ってくるね」 メイジは、持ってきた塩と、すでに置いてあった胡椒を手に取るとヨーグルトに振りかけ始めた。 もっとも、幼いころプチ○ノンで育ち、近年は某アロエヨーグルトにはまり、会社で同僚に「あげなーい」なんてやった私にはちょっと、想像がつかない。 食器の後片付けをして、お化粧してもまだ余裕がある。 「ねえメイジ。一人でお留守番することになるけど、大丈夫?」 「大丈夫です。ずっと一人でしたから」 さびしげに言うメイジ。 「あのクソジジイ、いっぺんシメる」 割と本気だ。あのフーテン、いっぺんビシッと言ってやらないといかん。 「あ、ジジは悪くないんです。ジジは私を引き取ってくださいました。それに」 私を、真摯に見つめる瞳は、10歳とは思えないほど大人びている。 「亜希さんのこと、教えてくださいました」 なんでも、じっちゃんは事あるごとに、亜希は、亜希は、と言っていたらしい。 かなり美化されているようで私は、ちょっと恥ずかしい。 それから、メイジは少しだけ、自分のことを話してくれた。 ずっと一人でいたメイジを、じっちゃんが引き取ってくれた事、それからずっと、男手一つで育ててくれたこと。 ふと、幼いころ、じっちゃんが両親の代わりにあちこち連れて行ってくれたことを思い出した。 面倒見が良くて、今でも大好きである。 生活ぶりに若干問題があるが。 「そか、じゃあ安心だ。暇だったら適当にゲームとかやってていいからね。パソコンの使い方は帰ってきてから教えてあげるから」 はい、はい、と素直に聞くメイジは本当に可愛い。 いちいち反抗的な弟とは比べ物にならない。 「あ、冷蔵庫の中身は勝手に飲んだり食べたりしていいけど、そばにある棚のビンのは飲んじゃダメだからね」 「はい、亜希さんも気をつけてくださいね」 「うん、ありがと。それじゃ、行ってきまーす」 「いってらっしゃい」 うん、見送ってくれる人がいるって、いいかも。 わが愛車、G-STRIDERをガレージから出していると、上の方から声が聞こえる。 「亜希さーん!いってらっしゃーい!!」 ちょっと恥ずかしいけど、嬉しくもある。 「いってきまーす!」 エンジンをスタートさせ、私は会社へ向かった。 都内のとあるゲーム制作会社、そこが私の職場である。 女性ならではのセンスとコンセプトを売りにするわが社は、当然のごとく社員の7割以上が女性である。 残りの3割の男性は虐げられ、地下で仕事をする奴隷社員である・・・ なんてことはなく、購買層を広げるマーケティングを担っていたり、チーフプログラマやらシステムデザイナーやら割と重要なポストに就いている。 私は、といえばチーフグラフィッカー、グラフィッカーの親玉である。 いわゆるアドベンチャーゲーム流行の昨今、ぐりぐり動くドットキャラを描くことが少なくなったのが残念でならない。 まあ、描いてる最中は地獄なんだけども。 現在進行中のお仕事は、人気アニメ「麻法少女とりっぷ☆めいじちゃん」のタイアップのゲーム。 何気にメイジと同じ名前なのは偶然だ。とりあえずタイトルは頭から切り捨てる。 絵だけを見ていれば可愛い・・・んだろうか。 時々魔法少女風の女の子がタバコ片手に白目剥いてる原画が回ってくるけど。 内容に関しては関知するところではない。 ・・・ちょくちょくシナリオ校正が私のところに回ってくる辺り誰か確信犯でやってる気がする。 まあ、進行が遅れてるところの支援なんてざらだけどね。 さて、今日からは待ってる人がいるし、さっさとノルマを片付けてしまおう。 基本的には、上がってきたCGの品質管理が仕事だけど、その他、背景作成、影指定などグラフィック全般を扱う。 特にこういったゲームはCGが命。 良くも悪くもシナリオよりも宣伝材料としての力が大きい。 そういう意味でも妥協は許されないのだ。 さて、午前の仕事も終わり、昼休み。 「亜希さん、お昼どこにしましょうか?いつものカフェですかね」 大体いつも同じフロアの社員数人で食べに行くのが常だ。 「あ、うん、ちょっと電話するから先に行ってて」 実を言うと、仕事の最中もメイジが気がかりでならなかった。 「お?先輩、男の方ですかぁ~?」 「む?それは聞き捨てなりませんなぁ。どんな人なんです?」 携帯を耳に当てつつ、手で違うというジェスチャーをする。 「ちょっと親戚の子預かってて」 あ、つながった。 「もしもし、亜希です」 私の後ろではキャー!ショタっ子!?なんて聞こえるが無視。 「あ、亜希さん。お仕事終わったんですか?」 元気そうな声が聞こえ、ほっとする。 「今お昼休みなんだけど。メイジ、お昼食べた?」 「まだです。ところで後ろが騒がしいみたいですが」 そう、まだ同僚がきゃあきゃあ言っているのだ。 「ああ、気にしないで。それより、ちゃんと食べるのよ?」 「はい、分かりました。亜希さん、お仕事頑張ってくださいね」 じーん。ええ子や・・・ 「うん、ありがと、メイジ。じゃ、切るね」 はーい、と言う声を聞いて、通話終了。 「先輩先輩、メイジくんってどんな子なんですか!?」 何故ショタと断定するのか。 「あー、今度課長に許可取ったらつれてくるから。それより早く行かないといい席なくなるよ?」 あわてて駆け出す同僚たち。 まったく・・・ 午後はメイジの話題で持ち切りだった。 とりっぷ☆めいじちゃんをなぞって、 めいじ受け×ダメ絶対マン(ライバルキャラ)攻めで本描こうぜ とか聞こえてきて、少し頭が痛くなったのは言うまでもない。 まあ、それを除けば概ね業務はスムーズに終わり、私は定時で帰ることが出来たのだった。 さて、帰宅前に買い物をしていこう。 夕飯は何がいいかしら・・・こういうときはリクエストを聞くのがいい。 「もしもしメイジ?」 「あ、亜希さん。お仕事お疲れ様です」 ううむ。耳に心地良い。 「亜希さん?今のじゅるりってなんですか?」 「ああ、ごめんごめん。夕飯何がいいかな?って」 イカンイカン。 「そうですね・・・和食が食べたいです」 「和食、ね。分かった。じゃあ、お買い物してから帰るね」 「はぁい。お腹ぺこぺこですから、早く帰ってきてくださいね」 うん、ちょっと打ち解けてきたかも。 さて、和食か・・・じゃあ、シンプルで行こうか。 「というわけで肉じゃがでーす」 肉じゃがを選んだ理由は、 ・ジャガイモはブルガリアでもポピュラーな素材である。 ・分かりやすい味付け。 ・ブルガリアには煮物という料理がない。 などなど。 まあ、割とすぐ出来るしね。 「ああ、この食べ物、お昼にテレビで見ました。肉とジャガイモでニクジャガなんですね」 「お、よく勉強してるじゃない。ささ、冷めないうちに召し上がれ」 手を合わせていただきます。 「あ、そういえば、神様に感謝したりしないの?」 「元居た場所はキリスト教でしたけど、ジジはシントウ?でしたから特には。」 「そっか。ん?じゃあ、お箸使えるの?」 「はい。まあ、ジジはあまり和食は作ってくださいませんでしたが」 お箸を使ってジャガイモをつまみ、口に運ぶ。実に器用だ。 ご飯粒が付いた口元が妙に艶かしく見えてドキッとした。 「ほ、ほら、ご飯付いてる」 指でつまんで唇へ。 ふにっとした感触にちょっとした感動を覚えた。 やーらけー!! 「あ、ありがとうございます」 やばい。私、溺れかけてるかもしれない。 でも、ぐっと、こらえる。 このまま襲い掛かったら昨日の二の舞だ。 食べ終わった後、食器を洗っている間にお風呂に入るように言う。 一緒には入らないと言うと、何故かメイジはちょっと残念そうだったが。 私が風呂から出て、歯磨きを終えベッドへ行くと、彼女は起きて待っていた。 「あ、亜希さん・・・一緒に、その」 むう。どうやら私は逃れられないらしい。