任務を最悪の形で成功させた私だが、パパにはあまり怒られなかった。 むしろ、笑われた。 メイの持って往ったMOを土産に持っていった。 パパらしからぬ程、私の話を鵜呑みにした。 パパは私を信じていると云った。 何一つ信じられなくなった、私は本物しか知らない。 痛い頭を抱えながら本部に設けられえた自室のベットへ躰を放り投げる。 躯を改造されている私は、回復力が凡人より高い。 凡人より高いだけで、殆ど価値が見出せないが、2週間で傷は完治していた。 本部に戻ってきた私は、失敗し尽した前の任務を思い出していた。 メイの為に戦った、顔も覚えていない男の為に戦った。 記憶が雑になり、勝手に埋めたい思い出に成り始めていた。 自分が屈折しているのは判っているが、冷静に自分の世界を見つめているつもりであった。 何も無いのが自然で、気づいたら人殺してて、自室に帰ってきたら少し呆ける。 馬鹿や死ねば良い人間は、世界に溢れるほど涌いて出てくるので、 一つ一つ細々潰していくだけ。 自暴自棄に成らない程度に、諦めてばかりだった。 胸に宿った熱い想いは、思い出そうとしても思い出せない。 日本の土は、麻薬作用でもあるのだろうか。 状況に酔いに酔っていた事実だけを覚えている。 兄弟や姉妹に対して愛情は持っているが、日本の地でメイや、メイの恋人に対して宿った想いは、よく判らない。 姉妹愛だけで、あそこまでやってのけたのだろうか。 わざと失敗するのが目的にしか思えない。 其れほど腹立たしく、不愉快極まりない戦闘だった。 あんなに怪我したり泣き言云ったりする何て、自分がやったとは信じられない。 地面にしみこむ赤は、ワインだったのかしら。 私は一つ決意し、立ち上がる。 金に無頓着な私は、口座に放り込めるだけ放り込んでいる。 組織とは別に、私は様々な個人、団体、其の道の人間を知っていた。 不自然な日本での結果を悟られ、盗聴されてるかもしれないと、隠し扉に入った電話を持って、外へ出た。 「やぁJuly、久しぶりだな」 「一つ、頼みたい事があるの、報酬は言い値で取引してあげるわ………」 「お前さんから頼み事何て初めてだな。良いだろう、何度も世話になったしな、で、何の仕事だい?」 パパに休暇を要請しよう。 衝心旅行がしたかったのだ。 私は男に話を続けた、何の拒否も無く、男は承諾していく。 「――なるほど、判った。で、名は?」 コートから煙草を取り出し、紫煙を流す。 今日は腹立たしいほど良い天気だった。 普段あまり吸わない煙草を、日本では頻繁に口にしていた。 煙草は遠い異国を思い出した。 「メイジ………」 必死で探り当ててから、死んだ筈の少女の名を口にした。 ------------------------------------------------------------------------ あれから一ヶ月。 冬休みに入り、メイジとの時間が増えたので、ずっと構っていた。 メイジは空元気を続けていたが、最近になってようやく落ち着きだした。 怪我の痛みもだいぶ抜けた様だったが、怪我の傷跡は決して見せてはくれなかった。 気を使っている以外にも何か理由がある雰囲気だった。 ぎくしゃくした日常は円滑になりつつあったが、 何か一つ切欠が欲しいと感じていた。 病院に搬送したアリスは、治療処置が終わると消え去っていたのだ。 まるで、全て嘘だったように。 日本で死んで居ないだろうが、 作戦が成功したとの報告さえ無かった。 出来るだけ考えないようにしてるが、アリスが向こうで殺されてしまっているのではないか。 電話の一つ、メールの一つも無いのは何故だろうか。 彼女の反応が一つあれば、無理に取り繕った平穏が一気に回復する筈だ。 不幸ではないだろう、倖せなのかもしれないが、兎に角落ち着きが足りないのだ。 気を抜くと変な空気に場を支配される。 メイジは気を抜くと何かに怯えている。 メイジを抱きしめて過ごす時間が多くなっていた。 土曜の午後、水で溶いた薄い緊張感を抜けきれず過ごしていた。 昼食を終え片付けをしている最中、ドアが叩かれた。 来客は大抵一度連絡を入れてくる、連絡は入ってない。 誰か知らないが、私は手をタオルで拭きドアへ近づいていくと、メイジに制される。 「………駄目、私が出る」 深い声で、メイジが実に大きな背中で進んでいく。 手には、銃を握って。 緊張感は必要なのかもしれないが、空気に圧迫されて死にそうになる。 脱獄者の気持ちがよく判った。 私達は罪を犯したのかもしれない、此の程度の緊張感罰の一端にもならないのだろうか。 「どちら様?」 メイジが小さく告げると、聞き覚えの無い、厭に明るい声が聞こえてきた。 「いいからさっさと開けて~!」 テンションが高すぎて始め判らなかった、実は聞き覚えのある声だった。 メイジと二人で暫し見つめあい、二人して大慌てでドアを開ける。 「メイジぃ~としあきぃ~」 長い髪が舞い上がり、アリスが突進してきた。 「アリスっ」 「お姉ちゃんっ」 暫く三人で抱擁し合うと、挨拶も程ほどに我が家みたいな勢いでアリスが部屋に入ってきた。 我が家に2日居ない程度の滞在時間だったにも関わらず、勝手にソファを陣取った。 相変わらずのようで微笑ましく、また笑顔の来客にメイジと私は久々に心からほっとした。 茶を出すと、以後の経緯をかいつまんでに話し出した。 一ヶ月、自分の嘘がばれてないか組織を探っていたそうだ。 探っている自分がおかしな行動は取れないと、何の連絡もしなかったらしい。 現状、メイは本当に死んだ事になっているそうだ。 メイジは安堵を仕草で示したりしなかった。 黙って、淡々と聞いていたが、私は安心した。 一年も経てば過去になる、作戦を勝手に考え勝手に行動したのはアリスだ、 私は割り切れなかったが、納得は出来た。 幼いメイジは割り切れもせず、納得も出来ないかもしれないが、いつか過去になる。 私が、できるだけ彼女を倖せに浸してやれば良いのだ。 メイジの傷を癒すのは、あの日愚かにも無傷で生還してしまった私の仕事。 アリスの来日理由は傷心旅行らしい。 傷心なる言葉にメイジは悲しそうな顔をしたが、アリスが微笑みながら唯の気疲れだと言ってのけた。 もしばれたら殺される、そんな緊張感の中組織と立ち回っていたので、精神が疲れたらしい。 同じ夜を過ごした彼女もまた、同じ気持ちで一ヶ月過ごしたのだと知ると、 三人の中に、また連帯感が生まれ、面白くも無いのに三人で笑いあった。 メイジの笑顔を見て、安心ばかりが募った。 感謝を述べようと、アリスを見るといそいそと服を脱いでいた。 彼女は部屋では全裸で過ごすのだろうか、成る程我が家と思って貰えると私も嬉しい。 「いやいやいやいや、ちゃうわ! 待て待て!」 アリスは、おかしな生き物を見た小動物の目をしていた。 生まれて初めて人間のカメラを見た時の、狸の顔だ。 「は? 何が?」 「何がやのぉて、何で服脱ぐねん」 「したいから」 さらっと云ってのけた此の阿呆は、恥じらいも無く服を脱いでいく。 安心感を覚えたのは、相変わらずの格好で黒いコートだったが銃を帯びていなかった事だ。 彼女は大きな手荷物と共に来たから、銃は鞄に入っているのかもしれない。 直ぐに臨戦態勢にならなくて良いほど、今は安全な世界なのだと教えてくれた。 でもな、反論はするぞ、俺だって人間だ。 「脱ぐな脱ぐな! こんな日の高いうちからやるか! どあほ!」 「意味判んない………私の命令がきけないの?」 シャツの前ボタンを肌蹴させ、黒いレースの下着晒しながら、アリスは相変わらず無茶句茶だ。 メイジは私の反応が見たいのか、見つめてくる。 是非目を見てくれ、下半身ばっかり見るなあほメイジ。 「きけるか! うちに来て今までの事情説明して。  さぁ楽しく世間話でもってとこで、脱ぐ奴があるかい!?」 一応真実の言葉だ、メイジ下半身ばかり睨まないでくれ。 僕だって男の子なんだYO。 「としあき? やっぱりアリスが良いの? 私は子供だから………駄目?」 媚びた声は嫌いだったが、メイジの声は媚ではなく、可愛らしかった。 私の腰に手を廻し、自分の物だと主張した。 やはり、自分はメイジの所有物。 残りの人生、ずっとメイジの所有物で良かった。 「メイジが焼餅焼いてるみたいだから、とっとと乳仕舞え、アリス」 顎を撫でてやると、気持ちよさそうな目をしてメイジが小さく鳴いた。 倖せだと感じたが、アリスを見るとあきれ返った目をしていた。 「はんっ、わざわざブルガリアから遥遥来た私を無碍に扱うだなんて、酷いわね、二人とも」 大げさな仕草で、アリスは泣き出した。 泪が出ていないので、鳴きだしたが正しいかもしれない。 「二人とも冷たいなぁ~、私二人の為に凄く頑張ったのになぁ~、今の二人があるのは誰のおかげなのかなぁ~」 罪を全部背負うとアリスは意気込んでいたが、責任を背負う意味でもあった。 ふざけた声色だったが、メイジと二人で気まずい空気を感じた。 何から何まで世話して貰った恩人を、無碍には扱えない。 冗談全快の泣き声で、テーブルに突っ伏してまさにおいおい泣き続けた。 相変わらず、芝居が臭い。 メイジと顔を見合わせてから、二人でアリスを抱きしめた。 「ありがとう、お姉ちゃん」 「ありがとうアリス、お帰り」 アリスは芝居を止め、突っ伏したまま少し震えていた。 彼女は人殺しかもしれないが、私達にとっては家族の一員だった。 抱きしめ続けると、嗚咽を漏らして泣き始めた。 今度は本当に泣いていた。 「本部に帰ったら、今まで何をしてたのか………殆ど記憶が無くなってた………  私は、それほど自分の変化に耐えられなくって、蓋してたんだと思う………」 アリスの告白を、二人で黙って聞いていた。 「凄く悲しくなって堪らなくなった、  メイジの顔は覚えてたんだけど、としあきの顔を、全く覚えてなかったの………」 私は衝撃の事実を告げられた訳でもなかった。 メイジの方が人間らしくて異常だと感じていた程だ。 組織としか名称されない組織が何をしているのか、ただのマフィアなのか、よく知らないが、 殺人鬼を生産する場所で育って、普通の精神状態が保てる何て信じて無かったからだ。 彼女ならば、私の顔何て覚えてない、そんな可能性を知らない訳じゃない。 世界は不公平で、一部分だけがとてもどす黒く、甘くないのだ。 「物心付いてから、泪流すなんて………あの夜と、今日で二回目………」 心底壊れ切った彼女をメイジと二人で強く抱きしめると、子供みたいな泣き声でアリスは暫く泣いた。 泣いた回数を覚えている人間は、悲しい生き物だろう。 私も、泣いた回数を覚えていたからだ。 そんなに長い時間でもなく、アリスは躯を起こしてから、恥かしそうに顔を拭った。 「まぁ良いわ、私、休暇に来たの………」 さっきまでの良い雰囲気を台無しにして、アリスが股間に触れてきたのでちょっと腹が立った。 「えぇいっ、やめんか此の色魔!」 私が逃げ出すと、メイジはアリスをきつく抱きしめた。 背骨を叩き折ってやろうと殺気がひしひし伝わってくる。 「メ、イ、ジ~? 此の私に向かって随分乱暴ね、後悔するわよ?」 「私だって………としあきに手ぇ出したら、後悔させてやる………」 熱い目で見詰め合う二人に、背筋が凍る恐怖を味わった。 背骨を折られているのは私なのかもしれなかった。 メイジを跳ね除けると、アリスは私に抱きつき頭の痛い単語を続ける。 「もう、恩知らずの馬鹿メイジはほっといて、としあき~遊んで~  休暇は一ヶ月貰ったから、毎日としあきの精液だけ飲んで過ごす~其れでカロリー摂取する~」 媚びた女の声は嫌いだった。 一ヶ月も搾取され続けたら本当に死んでしまう。 断固として上半身はお断りしたかったが、別人格の下は大いに盛り上がっている。 下半身が愚かなので、承諾したら壊死する。 壊死の前に、多分メイジに絞め殺される。 「あほ女め! 田舎へ帰れ!」 アリスが眼前めい一杯近づいてくると、顎に噛み付かれた。 噛み付いてから勢いよく離れると、メイジを睨みつけた。 大きな鞄から封筒を取り出し、メイジの顔に投げつけた。 可愛いメイジの顔に当たったので、取り合えずアリスを絞め殺そうとチョークをかけると、 メイジが封筒の中身を確認した。 「………読めないよ」 どうも読めない言語で書かれたみたいだった。 アリスが泡を吹いて動かなくなったので、明日生塵に混ぜて捨てる方法を模索しながら書類を受け取る。 驚く事実が書かれていて、彼女の優しさに眩暈がした。 ふざけているようで、メイジをとても愛しているのだろう。 感謝の意を述べるため、生塵ではなくリサイクル塵として捨ててやろうと思った。 「ははっお前のこう云うとこ好きだよ、アリス」 「お褒めに預かり、光栄ね………」 メイジは仲間外れにされてきょとんとしているが、 書類は、戸籍だったのだ。 以前見た説教ではなく、抜けているメイジを馬鹿にした声でアリスはメイジの額を指で突いた。 「あんた、どうせ密入国でしょ、馬鹿だからビザも持ってないだろうし、  そもそも此の国で永住するつもりだったら、無くてはならない物でしょ?」 言葉で察したのか、メイジは震えてから、 泣きながらアリスに突進した。 「ありがとう、ありがとうお姉ちゃんっ」 何時か見た、妹想いの姉の姿を見た。 しかも今度はシャツが肌蹴ているだけなので、人としても見た目が良い。 後ろから見てる私からは、普通に仲の良い姉妹だった。 メイジを軽く抱きかかえながら、アリスは鞄を再度漁った。 「宿泊代よ、としあき」 無道さに投げつけられたのは札束だった。 一体何処のスイートに泊まるつもりだったのか、恐ろしい量だった。 軽くパニックになりながら、受け取れないと押し返したが、断固としてアリスは受け取らなかった。 「あんたもあんたよ、子供一人養うのに幾らかかると思ってんの?  こんな特殊な状況じゃ親も頼れないでしょう? 私お金に興味ないし、あげるわよ、メイジに」 今日何度目かになる感謝を述べてから、私は受け取る事にした。 当たり前だが、メイジの為だけに使うと心に決めた、人として普通の人生。 なんでもない事実を実行するにも、やはり先立つものが無くては成らないのだ。 元々返し切れなかったのに、さらに返し切れない恩を、受け取ってしまった。 何故、こんな優しい女が人殺しなのか、理解に苦しんで、居もしない神を呪った。 メイジはまるで泣き止まない。 躯中の体液を皆流してしまいそう。 感謝を返せない悔しさなのか、優しさに感動したのか、多分思いつく感情全部で延々泣いていた。 時折ありがとうと漏らしていた。 アリスを見て気づいたのだが、顔が深紅だった。 膝も震えていた。 必死でふざけたり格好つけたりしていたが、実のところかなり恥かしかったのだろう。 自分の優しさが恥かしい。 私はメイジごとアリスを後ろから抱きしめた。 小さく、案外華奢な躯は、驚くほど大きな責任を背負いながらも、力強く立っていた。 彼女の肩には一体何個の魂が圧し掛かっているのだろう。 「お前は強い女だな、アリス………」 「強い? 都合の良いの間違いじゃない?」 憎まれ口を叩きながらも、耳まで真っ赤だ。 褒められるのにも愛されるのにも、慣れていないのかよく判らない。 私に彼女は理解し切れない。 ぶつける方法が判らないから、私は躯で訴えた。 千の言葉より、一つの暴力で何とかなる。 千の慰めより、一つの抱擁で何とかなるものだ。 メイジの頭を撫でるアリスは、とても儚かった。 「安心して、メイジ、罪なんて生きていれば色々背負うのよ。貴方のは少し重いかもしれないけど、  いつか忘れられる日が来るわ、忘れて良いのよ、だって私の罪なんだもの、勝手に背負わないで?」 メイジは返事もおぼつか無い程号泣し出した。 今度はメイジが泣き止むまで、随分時間を費やした。 恥かしさも失せたのか、アリスは離れたメイジの頭を一度撫でて、躯を伸ばした。 「さぁて、此処に来た目的は休暇なのよ、楽しむわよ~」 私は何でもしてやるつもりだった。 滞在する間、どんな命令も聞いてやるつもりだ。 一生かかっても返し切れないだろうが、是非一つでも恩を返したかったのだ。 「あぁ、何でも云う事聞いてやるよ………」 「うん、お姉ちゃん、何か云ってみて?」 二人の言葉に耳を貸さずに、アリスはシャツを脱いだ。 「いやいやいやいや、あのな? 良い雰囲気なんやから、もっとこうあれや、何かあらへんのか?」 「何かって?」 「今ぱっと思いついただけやけど、例えば俺の手料理が食べたいっとか云えば、話が綺麗に締まるやん?  其処んとこもっと考えよぉや、大人やろ? 大人の事情とかあるやん?」 アリスは私を無視してブラのホックを外し、ズボンのファスナーを下ろした。 何でも命令は聞く、例え魂が下半身から抜けるほど攻められようが納得する。 しかし色々タイミングがあるんじゃないだろうか。 かけがえの無い何かが、崩れていく気がしてならない。 「別にお腹空いてないし、としあき料理上手いわけでもないじゃない」 「確かに下手でもないが………上手くはないな………」 「お姉ちゃん、駄目………としあきは私の物………」 アリスが尻を浮かせ、ズボンに手をかけたがメイジに制された。 「お姉ちゃん大好きっ、お姉ちゃんありがとうっ、でもとしあきに手ぇ出すのは駄目!  としあきは私のっ! 主食なの~!」 今物凄く自然に人権侵害されたので、何処に訴えれば勝てるのか考えた。 子作り弁護士、座布団運びの山田だろうか、違う、あっちは子沢山なだけだ、脱税した方だ。 食べ物扱いされたんですけど、如何したら良いですかって聞きたい。 孕ませろって答えが返って着そうだ。 「ふんっ小心者で馬鹿ね、自信があるなら勝ち取って見なさいよ?  其れに~メイジは小心者で馬鹿だから、一ヶ月喪に服してたんでしょ? ご無沙汰なんじゃなぁい?」 小心者か、馬鹿か、勝ち取れか、ご無沙汰か。 どの単語か察せ無いが、メイジは反応を示した。 ご無沙汰と勝ち取れは厭だ。 多分、死んでしまう。 私の恐怖が伝わったのか、アリスはニヤリと笑い、先にメイジに矛先を向けた。 「ほらぁ、メイジもしたいでしょ? メイジだもんね~エッチだもんね~、やらしい娘だもんね~。  としあきの泣き顔とか、痛がってるとことか、苦しがってるとことか、よがってるとことか、見たくなぁい?」 うんっ! 凄く見たくない! ものっそい見たくない! 此の馬鹿女はやはり明日不燃塵で捨てるべきだ。 しまったそもそも明日は塵の日じゃない。 メイジは顔を紅くして全く動かなくなった。 上半身裸のアリスに迫られながら、下を撫でられ耳を舐められ卑猥な鳴き声をあげている。 「一緒にとしあき苛めましょ? 大丈夫、としあきはメイジを愛してるから……浮気はしない。  メイジは私に世話になったでしょ? 此れくらい譲歩してもばちは当たらないから………」 「あっお姉ちゃん………ちょ………」 メイジは逃げ腰だが、座ってる位置は変わっていない。 何でも命令を聞く意思を表した手前逃げられないのだろうか、もしくは性欲に支配され始めているのか、恐らく両者だろう。 責め苦にあうのは決まって男なのだ、男って馬鹿ねぇ。 男は狼なのよ~気をつけなさい~、腹を割かれて中に石を~違う途中から赤頭巾になってる。 もだえるメイジとアリスの肌を見て、バットは素振りを終え万全の体制だが、駄目である。 バッターボックスに勃ったやいなや、いや立ったやいなや。 飛んでくるのはストライク等ではない。 凄まじい速さのナックルが頭を狙ってくるのだ、まさに夜の変化球、まだ昼だが。 当たり所が悪ければ即死レベルの剛速球が二つも狙っているのだ。 いやぁぁ、誰かっ誰か心のエアーサロンパス持ってきてぇ! 二人に冷たくて白いのかけてあげてぇぇぇ ついでにうちのバットのグリップにもかけて! 冷静になれ!マイポケットモンスター! 「としあきも………きっと脱がせば大人しくなるよ、としあきと二人してメイジを苛めてあげる。  きもち~よ? 私が居ないと二人で攻めて貰えないでしょ? ほらぁメイジから頼めばとしあきも大人しくなるよ   ほんとはとしあきもメイジで遊びたいだから………」 「………うんっ、私往くよっ、お姉ちゃん!」 「往け~としあき押し倒せ~」 アリスが悪戯を命令するガキ大将の笑みで、満開笑いながら死刑宣告をした。 子供は常に残酷な生き物なのだろう、殺人鬼の目を装備しながらも、笑みは天使だった。 逆にメイジは今までストレスも溜まっていたのか、かなり暴走状態だった。 「ははは、落ち着け、まぢで! あっ、脱がすな!  判ったっ、判ったから頼む、気遣ってくれ! 俺の人権を尊重してくれ! 優しくしてくれ!」 クリスマスプレゼントの包装紙を顎で食い千切るみたく、二人係で私の衣類をひっぺがしていく。 中に入っているのはそんなに良いものじゃない、サンタさんは良い子にしかプレゼントくれないんだ。 「とっしあきぃ………勝手にあがらせてもろたで………」 上半身担当のアリスは手早くシャツを脱がし。 下半身担当のメイジは私の抵抗で手こずっていると、友人が入ってきた、無断で。 美少女二人に押し倒される私は、彼の目に如何映っていただろう。 部屋にいる4名が、固まっていた。 「………としあき、俺、お前に貸しあったよな」 あの夜、私は彼の登場によりアリスを失わずに済んだ。 彼には多大な恩があったが、何故今言い出すのだろうか。 「あぁ………そ………だな」 「よし、混ぜて!」 「帰れぇ!!! 死ねぇ!!!」 でっとえんど ------------------------------------------------------------------------ 偉そうに、薄情に、不愉快な月明かりの中。 男は、酒を煽っている。 体質なのか、元々人間じゃないのか、顔色は一つも変わってない。 風の音が、歌に聞こえてきた。 どうしてか、どうしても、顔が思い出せない。 随分飲んでいるようで、ブランデーの瓶が一つ空になっていた。 本音が、聞けるだろうか。 真実が聞けるだろうか。 こいつ、本当に生きているのだろうか。 「ねぇ、後悔してる?」 「………何を?」 初めて彼を見た感想は、気持ち悪いだった。 此の国の地には、麻薬作用でもあろうのだろうか。 ぬくぬくした平和な国で、如何してあんな生き物が生まれるのか。 彼が冗談を愛しているのを知っていた。 もしかしたら、世界が冗談だけで彩られていると感じているのかもしれない。 色んな人間を私は殺してきたが、彼の底が見えない。 「お前が何を云いたいのか知らないが、全部答えてやろう。  メイジを愛してる、アリスも愛してる、私は私を愛していない。   メイジを引き取った後悔は無い、むしろ倖せだと思ってる。お前を抱いた事も、とても倖せだと思っている」 饒舌に、彼は私の背中を舐めるように捲くし立てた。 「私が後悔している事は、後にも先にも生まれてきたって事実だけだ………」 目が鈍色に光った。 知り合いの目に似ていた、もっとも身近な人間の目に似ていた。 鏡を覗いた先にある真実に似ていた。 彼はとても残酷な目をしていた。 「あの夜の………事だけど」 「私が………初めて人を夜か?」 間違いであった欲しがったが、彼は悪びれも無く、詰まらない事実だと声色で伝えてくる。 私が殺した人数は、27人。 私が組織を裏切る事実は予想されていた。 諜報員の人間は、的確に殺されていた。 あれで一応プロなのだ、不意を付かれたと云え、生半可な攻撃を食らっても、ちゃんと反撃出来る。 仕方ないと甘えられるのは、始めの二回だけだ、力み過ぎたと云い訳出来たのは、其れだけだった。 最期30人目は、彼が戦闘不能にしたらしかったので、私が止めを刺しに往った。 撃たれた奴は、殺されていた。 肩、首、頭周辺に執拗に弾丸を打ち込まれていた。 明らかに、殺し過ぎの上、最期に腹を踏み込まれていた。 快楽殺人鬼でもなく、私怨で殺人を行った経験も無い私は、あんな死体を作った事が無い。 頭がいかれた人間が行う行為であった。 量で云えば、彼など比べ物にならないほど殺してきた私なのに、胸に熱い鉛が入り、溶けた。 「私を撃とうとしたばかりか、  可愛いメイジを傷つけた………万死に値する、本来なら拷問してやりたかった程だ」 腹立たしかったから、やってのけたのだと、掃除みたいなニュアンスしか伝わってこない。 五月蝿い虫を殺した、散らかっていたから片付けた。 「大丈夫、私はいかれているのかもしれないが、自分が愛した人間を悲しませたりはしない」 まるで母親みたいな顔で、彼は私の頭を撫でた。 「私には何も無かった、心も躯も魂も、多分偽者だ。  本物を届けてくれた天使がメイジ。真実をくれたのがお前なんだろ、多分」 殺人をしても、何一つ失っていないおかしな男は。 自分自身さえ信じていないらしい。 身の毛がよだつ優しい笑みで、私を見つめている。 「毎夜犯し抜かれるのはたまらんが、お前は休暇に来たんだろ?  寝ろよ、今日が終わっても明日があるさ、明日もきっと楽しい、そうだろ?」 手を離し紫煙を出してから月を眺めている彼が、私に染み渡る。 「私は、お前らを裏切ったりしないよ」 三度目の泪を堪えながら、 愛してしまいそうになった彼に、少し速い別れを告げた。 「二度と此処へは来ない………手土産は最期の駄賃よ、私が出来る精一杯の誠意………。  組織に帰れば、私は明日をも知れぬ命、帰った初日に死ぬかもしれないわね、だから速めに忘れてちょうだい」 本心だった。 自分に愛情は要らなかった、必要なのは人殺しだけだった。 愛を知ったところで、何も出来ないならば、何も知らない方が良い、速めに忘れた方が良い。 相変わらず、彼は私に優しくしてくれず。 私にだけ、きつく当たる。 「それは無理な相談やな………」 グラスに残った酒を一気に飲み干すと、私の視界一杯に彼が広がる。 顎に噛み付かれた。 「アリス、愛してるよ。メイジと同じくらい」 「………メイジが逃げて来た、本当の理由、知りたい?」 「愛してるよ」 としあきは、私の言葉を無視した。 知りたくないとの意思表現だろう、知りたく無いではなく、きっと如何でも良いだけ。 3人分薄汚れた手で、真っ赤な私の頬を撫でた。 私は、今夜を早く過去にするため、死体みたいな眠りに付いた。 物心ついて初めて、悪夢を見ずに、私は死体みたいな安らぎの中眠った。 ------------------------------------------------------------------------ 頑張って書いたので、房臭い後書きをお許し下さい……… ブルふたを書くにあたって。 私は現在某ラノベに嵌ってしまいまして、あほな文章が書きたいと云う衝動にかられました。 自分は厭にリアリズム追求する文章ばかり書いてきまして、自分の文章書くのに疲れ、息抜きで始めました。 人のキャラでの二次創作、皆さんが愛してらっしゃるキャラに痛い目合わすのは躊躇われましたので、 出来るだけ都合の良いオリキャラを精製したく、アリスを作りました。 罪をかぶらせるようの藁人形で、中身が薄いです。 わざわざジュライと言う名前を無視したのは、 私みたいなファッキンの設定なんか、犬に食わせて無視しろって意味です。 最終的な目的は、メイジに人殺しもさせず、倖せな余生を過ごさせる事。 後、如何してメイジがとしあきを頼ってきたのか、書いてみたかったからです。 本来マフィアから逃げ出した子供は、血も泪も泣く殺す文章ばかり書いてきましたので、 初体験のハッピーエンドでありました。 アリスはもう、最期の最期まで都合の良いキャラでしたが、 ラストに近づくにつれ、何だか全てが嘘臭く感じて途中結構悩んだりしてしまったのですが、 もともと生き抜きであった事を思い出し、良い意味で適当に書かせて頂きました。 ラストもかなり都合の良い話。 読み返すと誤字脱字変な表現の多い事多い事………。 第二部やら、新シリーズやら何も考えてません。 此れ上げ終わったら、SSやら絵を手土産に持っていかない限り、コテハンも使わないでしょう。 現在は文書書く事に飽きたので、暫く何もしないかと思われます。 以後は静かにROMりながら楽しませて頂きます、短い間でしたが楽しかったです。 ブルふたの更なる発展を祈り、此処にかえさせていただきます。 としあき 19歳 コンセプトは私の知人友人自分自身の悪いところだけを抽出したのび太って云うかカズフサ。 私がネタを仕込みやすいように、馬鹿な主人公を用意。 ネクロフィリアのペドフィリアの元ヤンのオタのゴス。 としあきの友 19歳 コンセプトは私の知人友人の悪いところだけを抽出したのび太って云うかヒデヒコ。 ネクロフィリア、ヤンキー、オタ、ゴス。 メイジ 10歳 可愛さを押し出したり、頑張って傷一つ付けずに護ろうとした結果、 ガラスケースに入ったお人形化、3話の時点で気付いたので頑張ってみたが、 結局若干空気に。 此処が大変心残りと云うか、全部書き直したい衝動に駆られた。 アリス 18歳 コンセプトは黒メイジ、悪い事する係り。 物語上都合の良い存在は、作者にとっても都合が良くて乱用し過ぎ、反省。 任務の回数が他のエージェントと比べ物にならないほど多いため、任務達成回数は最も高い。 戦闘力はあまり高くないので、死んでも良い使いっ走りとして最も酷使されている。 改造手術、(遺伝子改造?)に失敗し、骨折を3週間で直すほど高い回復力を持つが、日帰りの実戦では物凄く中途半端。 運動能力も鍛え抜かれた凡人。 殺人で一切感情が起伏しないので、キリングマシーンとして活用され、一番部下を与えられている。 内乱の粛清や小競り合いが主な仕事。超人でもないので部下を率いて行動する事が多い。 私的な部隊を所持しており、一番外とのチャンネルが多いので、知人も多い。 やたらと凶器を装備している、主力はSVインフィニティ。