私が、高校を卒業してすぐ引っ越したのは、家族から離れたかったからだ。 自分と家族が同じ空気を吸っているのは、自分にとって我慢ならなかった。 不誠実だと思ったのだ。 私は家族を愛していないし、両親には育ててもらった感謝こそすれども、生んでくでとは頼んでない。 むしろ、何で私みたいな出来損ないを作ったのだろうか。 降ろせば良かったのだと、本気で思っている。 だからと云って、そんな良く判らん恨みで親を殺す気になどならん。 子供は、3歳までに、全ての親孝行をするそうだ、子供が可愛いからだろう。 愛情はもう返した、自分は、愛を来れ以上返せそうにないので、大学を卒業したらしっかり働いて、 親に耳をそろえて銭を返すつもりであった。 銭が、私にとってぎりぎり残っている良心だった。 偉そうな事考えながらも、こうやって一人暮らしできるのは、親が学費を払ってくれているからだ。 何とも、不誠実で自分が腹立たしいが、私は学生を続けたかった。 自分には、異性とのろくな出会いが無かったからだ。 自分は、女性を愛するなんて出来ないと思い込んでいが、諦めるにはまだ速いとも考えていたのだ。 矛盾しているようだが、私も一応無駄に立派な男なのだ、下のナニが一応付いている。 排泄以外に使わない、徐々に性欲も死んできた。 本当にただの竿なら、いっそどれほど楽だっただろうか。 慣れた手つきで、煙草に火を付ける。 本を読んでいる途中で、不誠実と云う言葉を見つけてしまい、つい思考が逸れた。 何となく思い立った考えに、自分で意味無く苛付きながら、小声で悪態を口ずさむ。 どこの外国で米な、タフガイマッチョ映画から飛び出てきたのか知らんが、 私は割りとファックと悪態をつく癖がある、多分ウィリスの所為だと思う、 ウィリスがそんな事云ってた具体的な記憶は無いのだが。 窓から、空を見上げると綺麗な満月が映っていた。 単純に綺麗だと思う日もあれば、嘘臭く映る日もあるが、今夜は何か違った。 今までの人生何度か紅い月を見た事があったが、今夜は特別異様な色をしていた。 一つ、鼻で嗤ってから、部屋に転がしてある一升瓶を引っつかみ、煽った。 煙草を吹かし、一人で演劇をしているみたいな動きをしていた。 人が見ると不快だろうからやらないが、格好つけるのが好きだった。 恐らく自分嫌いの裏返しなのでは無いかと、月に向かって乾杯している。 そんな自分に、人並みの倖せや、人並みの愛が芽生えるとは思えない。 基本的に性根は腐り、義理が無ければ引きこもっていただろうから。 暗い部屋で、感覚が研ぎ澄まされていたのか、ふと、外に人が居る気配を感じた。 時計を見てみると、日付が変わって間も無い。 非常識な隣人だなと、普段3時に寝る男が自分を棚に上げて一人ごちる。 すると、コンコンとドアを叩く音がした。 残念ながら間違いなくうちの家である。 正直、物凄く面倒なので、無視した。 数泊おいて、またコンコンと音がする、少し音が強くなった。 ドアをノックする奴は、もう眠ってしまっているだと、考えているのだろうか。 チャイムを押す事を選択しない、ケータイに電話をかけてくる事も選択しないなら。 恐らく知らない人間だろう、むしろ、なぜチャイムを使用しないのか問いかけたい。 明らかに強くなったノック音に、しぶしぶ立ち上がる。 「どちらさまですか?」 流石に怖かったので、ドアは開かず、声だけで起きていたのだと伝える。 相手は迷っているのか察せ無いが、直ぐには答えない、細い声で一言ぽつりと呟く 「親戚」 親戚ってなんやねん、親戚です、くらい云え、って云うか誰やねん。 そんな考えがぐるぐる巡ったが、選択肢は帰す事だけだった。 親戚付き合いを疎かにした覚えはないが、しっかりやらかしら記憶も無い。 いくらなんでも、親戚が自分を頼ってくるとは思えない。 「親戚なんぞ居らん! 去ね!」 何故かしら異様に腹がたったので、口調はどんどん荒くなっていく。 新手のセールスか詐欺程度にしか考えていなかった。 「貴方は知らないかも知れないけど、私は貴方の親戚………貴方しか頼る人が居なくて………」 此処で、頼られているのが判った。 面倒だ、そんな考えしかよぎらないが、あまり無碍に扱ってやるのは可愛そうだった。 声をよく聞くと、女性と云うより女の子と云った方が正しい、 子供の声だった。 私はドアをゆっくり開けた。 月明かりに照らされていた少女は、如何見ても十歳程度。 何より、とても美しい娘だった。 薄い金髪にウェーブのかかった髪、染めているのではなく地毛だろう。 服装のセンスも悪くない、何より、紅い月の様な目が暗闇で瞬いていた。 じとっり湿った紅い目で見つめられると、此の侭攫ってしまおうかと決定した。 「まぁ入れよ………」 ソファを進め、水を一杯出してやると、少女は一気に飲み干した。 自分が飲み終えたコップを、見ていたが、やがて堰を切った様に話始めた。 「私は、貴方の親戚、貴方を頼って此処まで来た、詳しくは此れを読んで」 小さな少女が、小さな胸に溜め込んでいた言葉は凄い少なかったが、威力は大きかった。 手渡された紙を見ると、アルファベットが文字が並んでいたので、早々に諦めた。 「よく判らない、読めない」 ブルガリアに住んでいた親戚夫婦が急死した事実。 この子には他に身寄りがない事実を、抑揚の無い声で淡々と私に告げた。 私は煙草に火と付けると、一息吸い込んで、紫煙を吐いた。 色々頭に巡っていた、どうして解消なしの大学生に頼ってきたのか。 親戚の名前もろくに覚えていないが、私を一々選ばなければならなかった理由。 何より、心が少し弾んだ。 彼女を恋愛対称だとか、性欲処理の対称だとか、そんな生臭い思いは無かった。 唯々、云いたくない事実が彼女に眠っているのが判ったので、 何も聞かず、此処に置く事に決めた。 簡単に決めた訳じゃない、何より、明日になったら両親あたりから此の娘の詳細を問いただすつもりだった。 問題は、こんな小さな少女を出て行けと、夜の街に放置するわけにはいかなかったが、 はっきりさせたいところだけは、はっきりとさせないと、隣で眠ったりは出来ない。 倖い明日は休日なので、不審な動きは出来ないよう監視はするつもりだ。 「判った、今は何も聞かない事にするよ、こんな小さな女の子を放り出すわけにもいかないしね」 少女は少しほっとした顔をした。 「でも、流石に行き成り全部信じるわけにはいかない、荷物の確認ぐらいはさせて貰う」 少女は、臆する様子も見せず、大きなトラベルバッグをあけさせて貰うと。 色々素敵な物が入っていた、映画で見た麻薬っぽい物と、映画で見たコルトガバメントっぽい物と、 映画で見た兎っぽい物だった、いや、兎は見た事無かった。 私は吸い込んだ煙が変なところに入って、かなり咽てから、銃を手に取って見る。 重さは十分だ、趣味で持っている模型とは違う。 私は慣れた手つきでマガジンを外すと、中にはプラスチック弾と云う生易しい物は入っていなかった。 確実に人を殺せる狂気が、鈍く光っていた。 私は昔から、自分の人生の全てが嘘臭かったから、気にしなかった。 むしろ、面白いと感じた。 もともと銃は欲しかった、脳内に熱くて濃厚な物が回っていく。 少女は、よくよく見ると、少し震えていた。 追い出される恐怖なのだろうか、私の顔が怖かったのだろうか。 だんだん何もかもが如何でも良くなってくる、何より少女はとても美しかった。 私を殺すだけの凶器は、十分だった。 「はっははは! いいね此れ、頂戴?」 少女は、小さく良いと呟いた。 私はコルトガバメントを手に入れた、とか変なRPGみたいな台詞がよぎった。 「冗談だよ、さて」 他人に見られたら、腹が立つであろう、劇場でやる動きで私は少女を覗き込む。 「面白いから、君、此処に住みな?」 「………ありがとう」 彼女の笑みは、とても可愛かった。 「ねぇ、名前なんて云うの? 私はとしあき」 「………メ………イ」 「そうかメイちゃんか」 「あ………ちが………」 メイと名乗った少女は小さく否定を表した。 出会ったばかりの自分には、まだ判らなかったが、メイジが生まれた日はあの日だったんじゃないだろうか。 「メイじゃない?」 「うん………メイ………?」 彼女は俯いてしまったので、私は適当な事を口にする。 メイと云われて、もう一字付け足して頭から絞れる言葉と云えば。 明治ブルガリアヨーグルトと云う、間抜けなものだった。 ブルガイアから来たらしいので、明治がよぎった。 残念ながら、自分がブルガリアついて知ってるのは、琴欧州とヨーグルト程度だったのだ。 そ~云えば昔明治ブルガリアヨーグルト、ソフトキャンディ! と異様にテンションの高いCMがあったとか思い出していた。 当時子供だった私はネタとして乱用してたなと、思い出に浸ったりしてみる、昔から馬鹿ながきであった。 「じゃ、メイジ?」 「っ! うん、私、メイジ」 紅の目が爛々と光った。 私は如何してか物凄く嬉しく、少しだけ浮かれた。 メイジの名が偶々当たったのではなく、少女は名前を今貰ったのだ、そんな気がした。 メイジと名乗る少女は何か嘘臭かったが、一応信じる事にした、名称が無いと、呼ぶ時不便だったからだ。 「そうっメイジ、可愛い名前だ」 目だけしか感情を表さないメイジの頬を軽くつねってやる。 始めて見た紅い二つの月を覗き込む。 「笑うともっと可愛いよ思うよ?」 メイジは目を見開かせると、満面の笑みを浮かべた。 目の前一杯に広がる笑みに、おぼれそうになりながら、私は何時の間にか何も見えなくなった。 メイジに唇を奪われ、私の目がめい一杯開いてしまう。 不意に押されたので、私は倒れこみ、メイジに押し倒される形になってしまう。 月光を背後に、鍛え抜かれた娼婦の笑みを浮かべながら、メイジは私に囁く。 「としあき、ありがとう、としあき、でも私、何も返せないから………」 私は面食らってしまい、何もできず、唯々メイジを見上げる。 「家賃の代わりに、食事の代わりに、暇つぶしに、気まぐれに、私を何時でも、好きにして良い………」 メイジはゆったりとした動きで、私の首を軟く絞めた。 私なんかよりずっと年上に見える笑みを浮かべ続け。 やはり、ろくでもないものを我が家に招き入れたのだと再確認した私は。 メイジの頬を優しく撫でてやる。 「気にしないで………良いけど?」 声をかけるとメイジの躰が震える。 「としあきの声………やらしぃ………」 全く噛み合ってない上に、厭な評価を受けたが、メイジがそう云うならどうでも良い。 魔物を引き当てた、自分が兎に角面白くて面白くて仕方なかった。 ふと、メイジの洒落たスカートの、下腹部の、変なもりあがりが気になった。 指でつついてやると、メイジが艶かしい声を上げた。 「あんっ、もうするの? いいよ………としあきがしたいならぁ、男の子でも女の子でもすぐなってあげる………」 メイジの言葉をあまり本気にはしてなかった。 どんな環境で育ったのか知らんが、色の使い方を知ってるのだと、そんな考えしか出来ない浅はかな己を呪った。 異様に気になったので、ゆっくりとメイジがスカートをまくって行くと、小さな下着から男性器がいきり立っていた。 メイジは下着を下ろしていく。 男のそれとは違い、白い肌の延長として伸びていた。 私は跳ね上がり、メイジを逆に押し倒す。 心の中では、判りやすい感情がめくるめくフェスティバルを打ち鳴らす。 ――騙された! 男なのか! でもかなりぐっとくる、主に俺のナニが! メイジの男性器を覗き込むと、隠れるように小さな女性器も垣間見えた。 「………何、此れ?」 「い、云えないよ………」 私は、3年分ほど歳を取った気になったが、あまり気にしない。 むしろ、流石の私も思考が働いてくれない。 思考が働いてくれないわりに、いらん事ばかりがめくるめく。 「じゃぁ………此れは?」 「………としあき、意地悪、あんまり恥かしい事、云わせないでぇ?」 甘えた声を出し続けるメイジを気にかけず、質問を続ける。 「メイジの口から云って、此れは何ですか?」 「………お、おまんこと、ちんぽ」 自分でも不思議なのだが、緊急時になるほど冷静になっていく我が腐れ脳。 ちんこかまんこか知らないが、バリバリ外人やのに、いらん言葉ばっかり覚えとんな。 日本語の何を勉強してん、みたく、つっこむ事しか思いつかない。 私は6年分位歳を取って、白髪になっていたかもしれない。 「そっかぁ………」 「どっち、食べる?」 冷静な自分は、しょうみどっちもOKだったので、訓練された豚加減を、存分に発揮する気になっていたが押し留めた。 何か脳内の記憶で、ジョーカーは使いところさえあれば、良くないカードでは無く最強のカードである。 そんな台詞がよぎったが、此れは果たして何のゲームのジョーカーだろうか。 是非、やばい代物では無い事を願いたかったが、もうどう考えても駄目そうだった。 2へ