act2 その後、私は軽く入浴を済ませ、自室から恋人──ガバメントを持ち出すと机の上で解体した。 久しぶりに愛銃を露にし、一個一個を無くさないように並べる。 最近は派手な銃撃戦が無かったから相手をしてあげていなかったけど……それはミス だったらしく、中を見て利明との生活にかまけていたのを反省した。 その気丈さとは裏腹に中はだいぶ摩損や汚れが目立つ。 まだ致命傷になるような傷は見当たらないものの、これでジャムの一つも起こさなかった のだからこの子は強い娘だ。 先ずは銃身。 ブラシを入れるとすぐにヘッドが黒くなるので入念に掃除してあげる。 後ろからは、フライパンの小気味いい音。 気が付いたばっかりなのに、利明は手早く支度済ませて既に一品作り終える様子だ。 何となく羨ましい。 少し女の子らしく料理とかが出来ると自慢になると思うのだが、利明の方が上手くて、 つい彼のお世話になってしまう。 (一回はいい所を見せたいんだけどなぁ それも、どれだけ先に成る事かわからない。 ただいつかそうしようとぼんやり決めてスライドにペーパーを滑らす。 「こら。食卓で作業するなって。」 「利明には言われたくないですけどね。」 「置く場所ないの。」 そう言うと利明はテーブルのスミの方にお皿を置く。 鷹の爪の乗ったパスタは鼻をくすぐるいい香りを放っている。 フォークを拝借すると絡めとって一口拝借する。 うん。美味しい。 「……判ってはいたけど、食べるんだ。」 「私はまだ成長途中なんです。栄養は必要です。  利明も熟れたタユンタユンのお乳の方が夢が広がるでしょう。」 「即、今のまま希望。」 「黙れ。このロリコンめが。」 「ベアード様!!orz」 良く判らない人だ。 私は大きい方がパイズリとか出来て男の人にはいい思うのだが。 ニ、三口貰ったところで、銃身の中を覗く……と、そこに特徴的な変形がある。 すぐに修正できるものだ。 ただこの変形には心当たりがあった。 (やっぱり無茶してるかなぁ 「利明。頼みがあるんですが。」 「なんだい。おかわり?」 「それも頼みますが、他に頼みたいことがあります。」 「食うんかい。」 そういうと利明は席を立ちまたコンロの前へと歩いていく。 「それはおかわりの後でいいよね?」 「はい。お願いします。」 利明は話がわかっていいと思った。 act3 「買い物?」 「はい。ちょっと都心まで付き合って欲しいんです。駄目ですか?」 「構わないよ?そりゃ。」 メイジの言った頼みというのは自分の買い物に付き合って欲しいとのことだった。 べつにかしこまるような内容でもないだろうと思う。 メイジは僕が申し出を承諾すると何故か安心したような顔で溜息をついた。 「良かった。正直、補給もままならなくて自分の恋人に大分つらい思いをさせてちゃって……  いい加減、ちゃんとした物を使ってあげたかったんですけど。」 「?………補給?恋人?って……」 言い方になんとなく含がある。 ここにきてメイジに彼氏彼女の事情が有るわけない。 恋人は間違いなくメイジの所有するガバメントであってそれの補充といえば消耗品である。 と、そこまでの考に至った所で急に僕の前頭葉が警鐘をならす。 だから判リきった事なのに、思わずそれを聞かずには居られなくなる。 「………弾丸、の、買出し?」 「他にも幾つか。クリーニング材とかもそうですが。  まだこの子には現役で居てもらつもりだから、ちゃんと正規の弾丸が欲しいんです。」 「あの……日本ではお手軽お気軽に銃弾兵器るいは買えたりしない筈です……ですよ?」 「心配には及びません。ちゃんと扱っているお店が有りますのでそこで買えます。」 どういう伝手なのか。 否、そんな事はどうでもいい。 ついさっき内容も聞かずに頷いが為に、自分の頭上に暗雲が立ち込め始めている。 既に額に脂汗をかき始めているのにまるで追い討ちのようにメイジが一言を続ける。 「それに利明だってガンパウダーから自作されたリロードなんかに命を預けたくは無いでしょ?  コレは私だけじゃなくて利明の………」 「ストップ。ガンパウダーとかリロードとはどういうことだ?」 聞き慣れない単語に思わず話にの腰を折った。 メイジは僕の問いが不思議だったのか小首をかしげると、2・3拍間を置いて思い出したように 頷いてみせる。 「言ってませんでしたね。今使っている弾丸は自作です。  ガンパウダーとは、ようは火薬の事です。  一応ダブルベースくらいの──ニトロセルロースとニトログリセリンを主成分とした  火薬なら作れなくは無いので。」 「に・・……………………ニト…………ロ!!!!!」 「リロードはリロード弾で、ようは薬莢だけ回収して弾丸を詰めなおしたものの事です。」 「むぁてぇえぇぇぇぇええ!!リロードとかどうでも良い!!ニトロってなんだ!ニトロって!!」 「むぅ。どうでも良いって言うのは心外です。11.45mmの円柱ケースに鉛を詰めてちゃんと  ソフトポイントに………」 「君の技術の前に、君はたかだか木材一枚隔てた隣でダイナマイトの中身を精製していたのか!!」 「そうですよ?まだ30発ほど有って勿体無いですが、作る手間や安全性を考えると正規品を買った  方が安全ですよ?」 背筋が凍るなんてモノではない。 もしも仮にメイジが取り扱いを間違ってしまえば恐らくこの一部屋だけの被害ではないだろう。 仮にもメイジが万が一なんて事を起こすとも思えないが、それ以外にもいくつも要因はあるだろう。 某シティーハンターで出てきたやつなんか、コンクリートに垂らしただけで発煙するような物だったジャマイカ。 もう既に選択肢は無い。 多分このまま買い物に行かないと隣のお部屋で素敵な化学実験が続けられることになる筈だ。 「………行こうね。久しぶりだし。」 「はい!利明は話がわかってくれる人で嬉しいです。」 泣きそうだった。 act3 食事が終わると利明は食器を桶につけてすぐに身支度に入っっていた。 少し動くには休憩が欲しかったので、私は広げた恋人をしばらくクリーニングし、稼動に 支障が無いか、手動で動作させてみる。 ……特に問題は無い。 ノイズ音も無いし、稼動に不安も無い。 後は実射テストだけだけどコレばっかりは容易には出来ない。 安全そうな銃撃戦で試し打ちするしかないけど、命が掛かる以上あんまり試みたくない手段だ。 今はここまでだろう。 私も身支度を整えるために自室にもどった。 ドアを閉めて一呼吸。 まだカーテンを締め切っているので自室は暗い。 私はテーブル脇に歩み寄ると吊るしたホルスターとマガジンを手に取る。 今日一日でガバメントは使いたくないけど、万が一には備える。 マガジンを装填すると初弾をチャンバーに送る。 サムセーフティをかけてホルスターにしまい、私はかけておいた洋服に手をかける。 我ながら地味な服だ。 着馴染んだ服には既にきな臭い匂いが染み付いていている。 警察犬にでも嗅ぎ付けられそうな服だがコレの方が落ち着いてしまうのは末期の証拠なんだろうか。 Yシャツに腕を通しホルスターを付ける。 コートを羽織って、それを隠した。 荷物は決まって鞄の中にある。 「いこっか。」 私は身支度を終えると部屋の外に出た。 私が出ると利明の後姿が有った。 お皿の水気を切って、トレイの上に置くとエプロンで手のひらを拭う。 私に気付いているのか、後ろに振り向くとすぐ私と視線を合わせた。 と、何故か利明が驚いた顔をした後すぐに目を半目に、訝しそうに私を見る。 「どうかしたの?なにか変?」 「そいつ連れて行くのか?」 そう言って指す利明の指の先。 そこには私の首からぶら下がるウサギの姿がある。 ピンクの抱き締めれるほどの大きさのウサギの人形。 唯一残ったお母様の形見の人形は、組織に入ってから手を加えられ、今では自立して私のサポートをしてくれる。 私が出かけるという事はこの子も出かけるということ。 私もウサギも当然の問いに小首をかしげる。 その姿に呆れたのか利明は肩を落として溜息をついた。 「当たり前よ?このこは私の大切な子だもの。  いつでも一緒よ?」 「オナホを日中堂々と持ち歩くのはどうかと思う。」 その言葉に傷ついたのか、ウサギは大げさに仰け反るジェスチャーをするとクタりと俯いてしまう。 私はそっとウサギを抱きよせ、慰めてあげる。 「ウサギはオナホじゃないわ。私の下僕です。」 私は間髪入れず利明の言葉を訂正する。 それでもウサギは利明の言葉に傷ついたのか、ピクリと痙攣すると、不安そうな瞳で私の方を振り向いてくる。 その姿が可哀想に見えた。 私は諭すようにウサギの頭を撫でてあげる。 「………お前もも報われないね。」 利明の言葉に、ウサギはまたも俯いてしまうのだった。 act4 「利明。鍵を貸してください。エンジンをかけます。」 「判った。ほい。」 「ありがとう。………中々掛かりませんよ?」 「しばらく動かしてないからな。」 「あ、掛かった。」 「どう?」 「大丈夫です。機嫌を直してくれたみたいですよ?」 「それは良かったね。……しかしメイジもバイク好きだな。」 「ちゃんと格好良いバイクじゃないと好きになってあげませんよ?  利明はバイクのセンスだけは良いですから。」 「だけは余計だって……と、はい。被って。」 「ん。……ウサギ。あたらない?」 「(こくこく)」 「あぁ、まったく普通のショッピングなら気が楽なのに……」 と、そこで利明はメイジが無言で空を見ているのに気付き、自分も空を仰いだ。 そこには秋晴れのすんだ空がある。 利明もメイジも久しぶりに眺める青い空だった。 「……ねえ利明。空って綺麗ね。」 それは少女の本当に心から思った一言だと利明は思った。 「……そうだな。気付かないもんだけどな。」 それは青年の何気無い一言なんだと、メイジは思った。   「いこっか?」   「うん。」 二人は久しぶりに青空を噛み締めると、エンジンを唸らせ、街えと風を切りかけていった。