そこは一面燃えるような赤で埋め尽くされていた。 いや、燃えるような、ではない。 放たれた火は既に古城の半分以上を焼き、逃げ惑う人すら、無慈悲に焼き払おうとその手を休めることは無かった。 既に自分の部屋は跡形も無いだろう。 燃える絨毯から逃げるように、自分は母様と廊下を走っていた。 「母様……」 「大丈夫。きっと大丈夫。」 「私は戦えます。」 「だめよ   。みな、貴方の為に戦っている。貴方はここを生きて帰らないと。」 「大丈夫。    助かるから。」 嗚呼、お母様。今なんと申し上げました。 それは全く根拠の無いこと。 だからあの時、いや、何でそんなことを知りえるだろう。 これから起こりえることなんて。 だってそのとき、自分はその言葉を信じたではないか。 ああ、だからきっとコレは。 過ぎたことなんだろう。 程なくして母は死んだ。 私をかばって死んだ。 赤い絨毯にそれより紅い血をこぼし。 私は逃げて、鞄と人形と黒い引き金を。 「………………!!っはぁ!!」 そこで私は悪夢から覚めた。 辺りは暗く、室内は狭く、それが今厄介になっている利明のアパートなのだと言うことを教えてくれた。 あの焔の渦巻く音はしない。 深夜の静寂が耳に痛いほど煩いだけだ。 「……ガラでもないなぁ。」 本当に久しぶりに見た悪夢に、のどは渇きに乾いていた。 カルキ臭い水道の水は避けようと。 確か、利明が飲むといっていたペットボトルが有った筈だ。 するり、と、衣擦れの音を立てながらベットから出て、ひんやりとしたフローリングに足を下ろし、部屋を後に すると、そのままキッチンに繋がっている。 壁一枚隔てた隣の部屋は光が無い。 いつもは早朝まで起きているのだが、好都合だった。 冷蔵庫を開けてペットボトルを拝借し、序に冷えたお菓子を2、3、見繕う。 (本当にここに来て夜が騒がしくなったなぁ それは単純に夢をみたり、隣の住人に安眠妨害されたりするようになったからだろう。 それまで夜は寝るだけ。 寝ても襲撃に備えて薄く目を開けるような睡眠だった。 民間人の宿舎に寄生することで逆に敵の襲撃が防がれているからこんなにも熟睡できるのだろうか。    赤い炎。 思い出して怖気が走った。 夢がこんなにも不快だっただろうか。 思わす自分の体を引き寄せて、震えに耐えた。 もう過ぎたことだ。今更思い出して怯える事は………ない。 (大丈夫。もう過ぎたこと。過ぎたことなんだから。 でもそれは違うのは自分がよく知っているだろう。 あの時は過ぎ去ってもまた次がある。 いつかあの夢の炎は私のすぐ背中まで迫ってきて、母様のように真っ紅な、私の真っ紅いな。 「メ~イ~ジっ。」 「ふぁああ!」 「ぉふぅぅぅぅぅうう!!」 と、そこまで近づかれるまで気付かなかった。 不覚にも、急に声をかけられて私は情けない声を上げてしまう。 そこには当たり前のように利明が立っていて、おもわず銃口を向けた自分が滑稽なほどだった。 「ばっばば!下げろ下げろ!!」 利明は慌てて両手を上げる。 わたしも危うく引きそうになった引き金から指を外し、照準を外した。 お互い、安堵の溜息をつき、 「おどかさないでよ。おばか。」 「こっちの台詞だわ!夜中にこそこそしてると思ったら。人の買い置き手をつけやがって。」 「良いじゃない。半分はあるわよ?それに利明なんかいつもコソコソ自分の部屋で抜いてるくせに。」 「ちょwwwwおまww」 「うっさい。壺に帰れ。」 「orz」 そういうと利明は効果音が付きそうなくらい肩を落とし嘆いた。 何で置物といわれると気を落とすのか、そもそも壺に帰るって、壺から生まれて出てきたのだろうか。 わたしはとしあきを無視すると自室のドアの前まで行きノブに手をかける。 そこで利明の視線を感じた。 「なによ」 「いや、相変わらずだなと。」 相変わらず。少し、いや、信じられないほどドキッとした。 何が相変わらずなのか。利明はそんな自分でも気付けないような何かを知っているのか。 深く、何よりも深く見透かされたようなその錯覚に知らず顔も紅潮しているのが判る。 意味は無い。でもそれでも、はぐらかさずにはいられない。 「なん、のこと。」 上ずったのが判った。夜でも赤面してるのがばれるだろうか。 あぁ、何でこんなに焦っているのか。 心理戦に持ち込まれても、どんな辱めの言葉を浴びせ掛けられても、こんなに動揺を隠せなかったことは無い。 (落ち着いて!落ち着け双葉メイジ!! それは誰かから貰った借り物の名前だったが、それを意識してしまえば一層、動揺を抑えられなかったろう。 まるで未体験の緊張に体を強張らせながら私は念仏のように自分の名前を呟き続けた。 わずかに開いた間がこちらの緊張を悟らせたことを物語っていた。 利明は呆れながらも言葉を選ぶように、また少し間を開ける。 粘つく空気。 次の一言は、どれほど自分に牙を突き立てるだろう。 そして利明はおもむろに指を立て、虚空に突き出し、 「そこ。少しは隠せば。」 私を、いや、私自身ではなく少し下。人差し指はそこを向いた。 そこには私のもう一つの分身が。 目覚めだからだろう。 雄々しく剃り立ったそれはショーツからはみ出し、その鎌首を大きく持ち上げていた。 「・・………………………」 「……………………」 「…………………………」 「・・…………………」 「・・……………こん、ときに、デリカシー無ぁ、しッュ!!」 「っゴ!!!!!!」 私はグリップで利明を殴るとペットボトルの中身を一気にあおる。 一気に空にしたボトルを利明に放り投げると、自分が何をそんな緊張していたのか、馬鹿らしくなってしまった。 そのまま、ドアノブ手をかけようとして。 「…………利明。」 わたしは気絶したままの隣人に声をかける。 無論応えは無い。 それでもわたしは自嘲するかのように唇を崩し、話を続ける。 「有難う。怖いの消えちゃった。」 もう赤い炎はそこには無かった。 くだらないやり取りの間に、きっと利明が持っていってしまったのだろうと思った。 :act1 朝七時。 まだ鳥のさえずりしか聞こえない時間、自分は日課通りの朝食を作っていた。 すんだ空気。雲ひとつ無い空。 久しぶり秋雨明けで傍目でも判る位、今日の自分の気分はいい物だった。 若干体調不良だが………習慣になるともうこれほどのものは無い。 仮に一日板間に突っ伏して気絶しようとも朝には気付いて寝違えた首のままポテトと卵を焼ける 辺り、もう私生活は改善されたと誉めて良いと思う。 それも、ここに転がり込んできた遠い遠い血縁のお姫様のせいなのだが。 双葉メイジ。仮名。 本名を、俺も本人も忘れるようなその娘は、遥か昔に没したブルガリアの王族出身の純潔貴族の出だ。 その王族が内乱で消滅したのは自分がまだ厨房そのくらいのときの話だったと思う。 そのまま、家臣が内乱を収め今もなお代理として国政を行っているのはまだ記憶に新しく、代理なの はまだメイジが生きているのが内外に知れ渡っていて、メイジの持つと言われている王位継承の なんかがいまだその手に渡って無いのが原因になっている。 忠臣である家臣は王族の復興を願い未だ代理を務めているのが表向きだ。 が、当の王位継承者曰く、自分が表舞台に立てないのはその家臣が内乱の首謀者である証拠を探しているからだと。 そして実際、メイジがここに着てからもその首と王位継承の証を求めて何人もの刺客が送られてきているのは自分も目にしたことだ。 (まあ、とうのご本人は肝が据わってるけどな。その刺客送ってくる組織の一員になって情報収集とかやってたんだから。 それがバレてここに転がり込んできたのがつい最近だ。 収穫が合ったらしいから危険に身を晒しただけの価値はあったのだろう。 それで何で家に転がり込んできたかは今もって不明だが。 本当は迷惑な話だ。 それでも、まだ十歳そこいらの幼女を外には放れない。 何より僅かだが組織からここに来るまでのその間……彼女に同じ思いをさせるのは、なおの事気が引けた。 昨夜はそのお姫様が起きたのに気付いてそのまま一悶着起こし、自分はそのまま床板オールナイトすごしたわけだが。 あの後何があったのか、ケツに空のボトルが捻じ込まれていた辺り考えるのも恐ろしい事体だったのだろう。 全く鬼畜め。(注釈:すべて利明の誇張表現です それでもちゃんとメイジと自分の分の朝食を作る辺り、自分の人間性も捨てたもんじゃないと思う。 大体の調理が終わって後は皿に盛り付けるだけの所にきて、コレも習慣か、メイジの部屋の扉がゆっくりと開くのが見えた。        「      おはよう利明    。」 「………おはようメイジ。」 どうしてこう、無防備だろうか。   惑う事なきそこにいたのはブルガリア王族の麗しき姫の姿だった。 本当に羞恥を感じないのか、そんなことを歯牙にもかけず、メイジは下着一枚の姿で自室から姿を表した。 肌は白く陶磁のよう。金の糸髪は逆光で透けて見えた。 ただ、そこに似つかわしくないのは、女性もののショーツでは隠し切れない、もう一つのメイジ自身の姿だ。 メイジの体は半陰陽だ。 今メイジの股座は見て感嘆するほど雄々しく反り返っている。 朝立ち……だろう。彼女には男性のそれらがある。 それは組織の高尚な趣味の結果らしく最初聞いたときは本当に良い趣味したやつらだと思った。 ただ、  メイジのそれは、  余りに、 悪癖と言うには、 些か、 綺麗だった が。 自分はその姿に見惚れた。間違いなく。 が、すぐに頭を切り替えると昨夜ののことを反芻し、呆れた風に肩を落とした。 「だからお嬢様そこは是非少しでも隠してください。で、序に着替えろ。」 「なん……朝から煩いぞ?いつもの事じゃない。」 「昨日はやたら怒ったじゃないか。」 そう言うとメイジは「あ~っ」と唸って頭をボリボリと掻きあらぬ方を向く。 自分は悪態をつきながらテーブルに料理と二人分のオレンジジュースを置き、パックをそのまま口に運ぶ。 「いくら気にとめないからって少しは気を使えって。このブルふた幼女。躾がなってないなんて冗談にもならないぞ?」 「いいじゃない。珍しいもの見れて目の保養になるでしょ?男性として、夢のシュチュエーションでしょ?」 「人としては実にキワどいシュチュエーションだ。」 「黙れ、ロリコン。」 「おまwwwwそれw禁句wwwwww」 メイジは反抗するとそのままボゥっと中に視線を泳がせ、自分に視線を合わせると玩具を見つけたようにニィッと笑う。 よくない笑いだ。 溢れ出る恐怖に背筋を凍らせると悟ったようにメイジは詰めより、おもむろに自分の逸物をがっしりと鷲掴みにする。 「いいじゃない。利明。こうやって世の好事家が喜びそうな現実が手の届きそうな位置にあるんだよ?」 すちゃ……と、  いや、そんな音いたいけな少年の妄想なんだということは良く判ってます。 でも聞こえるんですマリア様。見ていますか? こうメイジたんが一度一度、自分の小さな手を上下させる度に、         スチャ。           スチャ。             スチャ。 ってぇぇぇぇぇぇぇぇえええええeeeeeeeeEEEEEEEE。。。。。。。。。。。 「おおおおおおおお前くくくくくくく来るなぁぁぁあ嗚呼…………!!」 ああ、クロックタワーなんて目じゃないよ?サイレンてそれ何てエロゲ? 今正にこの世のものとは思えない抗いようのない恐怖と絶望と桃色の何かに!!  双葉利明、 絶体絶命!! 気付かないうちに自分は壁際まで追いやられていて、そこにはもう息遣いまで聞き取れるほどの位置に密着していた。 「どう?利明?弄ってたらこんな先走っちゃって。酷い匂いでしょう?」 そういうメイジのそれはもう形容したら検閲はいってしまいそうなほど※※だった。 こんな距離でそんな匂いなんて、それに反して鼻腔には※※※な匂※が、いや、※※※筈は、※※、※※※※は!!!!!! 「とぉ、しぃ、あ、きぃぃぃぃぃぃいいいいい!!」 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」 それは朝には刺激的な有無を言わせないディープスロートだったと思う。 気が付いたときにはメイジどころか自分の分の朝食も無く、満足そうなメイジがヨーグルトを待っていた。 曰く、 「入れただけで気絶したからまた後でね。」 との事だった。