ジュリィ、ジュン編 ご主人様を店まで追いかけてきた借金取りを銃剣でミンチにしたらバイト先をクビになった。 「しかたないわ。何故ならそれは、メイドのつとめだからなのですっ」 ジュリィは拳を握って声を大に、メイドの道の険しさを自己確認する。 冬のビル風が一迅吹き付け、しかしフレンチメイドは邪道と断ずるスカート丈ロングの、 もちろんモノトーンのエプロンドレスは少しも寒さを寄せ付けない。 街角にメイド服。 しかし、メイドたちがティッシュをせっせと配る街角では問題にならない。電気街なのだ。 問題があるとすれば、ジュリィがフランス系の見事なブロンドと豊満な肢体である事と、 「こんなところにも……いけませんいけません」 ジュリィは電柱に張ってあった張り紙を剥がして街頭の燃えるゴミに放り込む。 『全国指名手配 殺人、殺人未遂、障害、暴行、その他容疑……』 皺になってしまった張り紙には、そんな文字と、面接顔写真、満面の笑顔のジュリィ。 「とにかく、はぐれメイドはメイドの恥。待っていて下さいませ、まだ観ぬご主人様。  ジュリィは今参りますの!」 ジュリィは、冬の曇り空を希望に満ちた瞳で見上げ、電気街の路地に消えた。 --- 「では、本日のお話し合いはこれで。失礼します」 三ツ星ホテルのロビーで、セプトは灰色がかった黒髪を揺らし、革の装丁の本を手に立ち上がる。 「……なぁ、お嬢さん」 髪をポマードで撫で付けた、いかにもかたぎには見えない男――いや、れっきとした極道なのだが、 あつらえのスーツを着こなす敏道は、怜悧な視線をセプトの灰色の眼にあわせた。 「あンた最近、負けたって顔、してるよな」 セプトの無表情が、かすかに動くのを敏道は見逃さない。「私個人の問題です。貴方には……」 「立ち入るつもりはねぇよ。体を冷やさねぇように気ィつけて帰ンな」「……失礼します」 セプトが去り、敏道は「アキツ」 へい、と隣の席の眼鏡の男が応じた。 「やれ」 「判りました」アキツが一言、懐からマイクを取り出し一言呟く。 表の通りで車が何かと衝突する音がした。 「確保したとの事です」と、アキツがリムレスの眼鏡をかすかに摘む。 「いい眼をしてたんだがな……あの嬢ちゃん」敏道は酷くつまらなそうに吐き捨てる。 ---